説明

送油装置および送油装置の送油管内の絶縁油を評価する絶縁油評価方法

【課題】送油経路内に残留する前回送油された絶縁油を検出して、送油経路で前回油が混入することを確実に防止することができる送油装置を提供する。
【解決手段】送油装置の絶縁油評価手段2は、スペクトル取得手段22で絶縁油データベース21から取得された前回油および今回油の赤外線吸収スペクトルを比較することにより、これらの間の相違点の中で特徴となる特徴点を決定する特徴点決定手段23と、赤外分光装置25により計測された貯留タンク14内の絶縁油の赤外線吸収スペクトルについて、前記特徴点を参照することで、前回油の残留を検出する残留検出手段24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成部品が収容される容器内に絶縁油が注入される電気機器に対して、送油管を介して、該容器内に絶縁油を注入し、または、該容器内から絶縁油を注出する送油装置および送油装置の送油管内の絶縁油を評価する絶縁油評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁油としての植物油を注入した電気機器としては、下記特許文献1に示すように、変圧器の内部に酸化防止剤を添加した植物油を注入した変圧器が知られている。かかる変圧器では、空気中の酸素が溶け込んだ水分が植物油に吸収されたとしても、酸化防止剤により植物油の酸化が抑制されるため、酸化による植物油の劣化を抑え、ひいては植物油の交換寿命を延長し得る。このように、電気機器に用いられる絶縁油は、その機器の性能を担保し、維持する上で重要な構成要素となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000−502493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、変圧器に絶縁油を注入し、または、変圧器から絶縁油を注出する送油装置は、前回使用した絶縁油が今回使用する絶縁油に混入することを防止すべく、植物油用の専用機とすることが望ましいが、専用機とするほどの使用頻度がない場合には、同一の送油装置が植物油のほか鉱油を注入しまたは注出する際にも用いられる。
【0005】
また、仮に、特定の送油装置を植物油用の専用機としていた場合でも誤って、鉱油の注入または注出に用いてしまうこともあり得る。
【0006】
このような場合には、今回使用する絶縁油で送油管を含む送油装置内の送油経路を十分に洗い流すことにより、送油経路内に残留する前回使用した絶縁油を除去する必要がある。
【0007】
しかしながら、送油経路内に残留する絶縁油は、外見上今回使用する油と区別が付かないため、必要以上に送油経路の洗い流しが行われたり、逆に、洗い流しが不十分で前回使用の絶縁油が残留しているにも拘らず次の使用が開始されてしまうという問題があった。
【0008】
以上の事情に鑑みて、本発明は、送油経路内に残留する前回送油された絶縁油を検出して、送油経路で前回油が混入することを確実に防止することができる送油装置および送油装置の送油管内の絶縁油を評価する絶縁油評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の送油装置は、構成部品が収容される容器内に絶縁油が注入される電気機器に対して、送油管を介して、該容器内に絶縁油を注入し、または、該容器内から絶縁油を注出する送油装置であって、
前回送油された絶縁油である前回油の赤外線吸収スペクトルを取得する第1スペクトル取得手段と、
前記前回油と異なる絶縁油であって今回送油される今回油の赤外線吸収スペクトルを取得する第2スペクトル取得手段と、
前記送油管から抽出された管内油の赤外線吸収スペクトルを計測するスペクトル計測手段と、
前記第1スペクトル取得手段で取得された前回油の赤外線吸収スペクトルと、前記第2スペクトル取得手段で取得された今回油の赤外線吸収スペクトルとを比較することにより、これらの間の相違点の中で特徴となる特徴点を決定する特徴点決定手段と、
前記スペクトル計測手段により計測された管内油の赤外線吸収スペクトルについて、前記特徴点決定手段により決定された特徴点を参照することで、該管内油に残留する前回油を検出する残留検出手段と
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明者は、外見上区別し難い複数の絶縁油が、赤外線吸収スペクトル上では、特徴的な相違点を有するとの知見を得た。かかる知見に基づいて、第1発明の送油装置は、前回油と、これと異なる今回油との赤外線吸収スペクトル上での相違点から特徴となる特徴点を決定し、かかる特徴点から送油管内に残留する前回油を検出する。これによれば、外見上区別が付き難い前回油と今回油を、赤外線吸収スペクトル上での特徴点に着目することで、簡易に前回油と今回油を峻別して残留する前回油を検出することができる。これにより、送油経路で前回油が混入することを確実に防止することができる。
【0011】
第2発明の送油装置は、第1発明において、
前記特徴点決定手段は、前記第1スペクトル取得手段で取得された前回油の赤外線吸収スペクトルと、前記第2スペクトル取得手段で取得された今回油の赤外線吸収スペクトルとの差を算出し、算出した差に基づいて前記特徴点を決定することを特徴とする。
【0012】
第2発明の送油装置によれば、前回油の赤外線吸収スペクトルと今回油の赤外線吸収スペクトルとの差を算出することで、これらの間の相違点を抽出することができる。ひいては、このようにして抽出された相違点から特徴点を決定することで、外見上区別が付き難い前回油と今回油とを峻別して残留する前回油を検出することができ、送油経路で前回油が混入することを確実に防止することができる。
【0013】
第3発明の送油装置は、第1または第2発明において、前記特徴点決定手段は、前記第1スペクトル取得手段で取得された前回油の赤外線吸収スペクトルのピーク値と、前記第2スペクトル取得手段で取得された今回油の赤外線吸収スペクトルのピーク値との相違点に基づいて前記特徴点を決定することを特徴とする。
【0014】
第3発明の送油装置によれば、前回油の赤外線吸収スペクトルと今回油の赤外線吸収スペクトルとのピーク値に着目することで、ピーク値の相違点を抽出することができる。ひいては、このようにして抽出された相違点から特徴点を決定することで、外見上区別が付き難い前回油と今回油とを峻別して残留する前回油を検出することができ、送油経路で前回油が混入することを確実に防止することができる。
【0015】
第4発明の送油装置は、第1〜第3発明のいずれかにおいて、
前記残油検出手段は、前記特徴点決定手段により決定された特徴点の出現度合いから、前回油の残留濃度を検出することを特徴とする。
【0016】
本発明者は、赤外線吸収スペクトル上での特徴点の出現度合いに着目することで、かかる出現度合いが、残留する前回油の濃度と相関性を有するとの知見を得た。かかる知見に基づいて、第4発明の送油装置は、赤外線吸収スペクトル上での特徴点の出現度合いと、残留する前回油の濃度との関係から、残留する前回油の濃度を検出する。これにより、外見上区別し難い前回油と今回油から残留する前回油を検出するのみならず、その濃度を検出ことができ、送油経路で前回油が混入することを確実に防止することができる。
【0017】
第5発明の絶縁油評価方法は、構成部品が収容される容器内に絶縁油が注入される電気機器に対して、該容器内に絶縁油を注入し、または、該容器内から絶縁油を注出する送油装置の送油管内の絶縁油を評価する絶縁油評価方法であって、
前記送油装置により前回送油された絶縁油である前回油の赤外線吸収スペクトルを取得する第1スペクトル取得工程と、
前記送油装置により今回送油される絶縁油であって前回油と異なる今回油の赤外線吸収スペクトルを取得する第2スペクトル取得工程と、
前記送油装置の送油管から抽出された管内油の赤外線吸収スペクトルを計測するスペクトル計測工程と、
前記第1スペクトル取得手段で取得された前回油の赤外線吸収スペクトルと、前記第2スペクトル取得手段で取得された今回油の赤外線吸収スペクトルとを比較することにより、これらの間の相違点の中で特徴となる特徴点を決定する特徴点決定工程と、
前記スペクトル計測手段により計測された管内油の赤外線吸収スペクトルについて、前記特徴点決定手段により決定された特徴点を参照することで、該管内油に残留する前回油を検出する残留検出工程と
を備えることを特徴とする。
【0018】
第5発明の絶縁油評価方法によれば、前回油と、これと異なる今回油との赤外線吸収スペクトル上での相違点から特徴となる特徴点を決定し、かかる特徴点から送油管内に残留する前回油を検出する。これによれば、外見上区別が付き難い前回油と今回油を、赤外線吸収スペクトル上での特徴点に着目することで、簡易に前回油と今回油を峻別して残留する前回油を検出することができる。これにより、送油経路で前回油が混入することを確実に防止することができる
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】送油装置の全体的な構成を示す構成図。
【図2】図1の特徴点決定手段の処理内容を示す説明図。
【図3】図1の残留検出手段の処理内容を示す説明図。
【図4】図1の残留検出手段の処理内容を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照して、本実施形態の送油装置について説明する。送油装置は、例えば変圧器100のタンク101(本発明の容器に相当する)へ絶縁油を注入する装置であって、絶縁油を送油する送油手段1と、送油手段により送油される絶縁油を管理・評価する絶縁油評価手段2とを備える。絶縁油としては、複数の種類の鉱油および植物油(例えは、菜種油等)が使用される。
【0021】
まず、送油手段1の構成について説明する。送油手段1は、新油タンク11と、脱気タンク12と、送油ポンプ13と、貯留タンク14と、真空ポンプ15とを備える。
【0022】
新油タンク11と脱気タンク12の間が配管16aにより接続され、脱気タンク12と貯留タンク14との間が送油ポンプ13を挟むように配管16bおよび配管16cにより接続されている。
【0023】
また、脱気タンク12の室内に連通する配管16dが真空ポンプ15の吸引部に繋がっている。さらに、配管16aにはバルブ17aが設けられ、配管16bにはバルブ17bが設けられ、配管16dには、バルブ17cおよび17dが設けられており、これらのバルブ17a〜17dにより各配管による管路を接続状態または遮断状態に変更可能となっている。
【0024】
新油タンク11は、変圧器100のタンク101へ注入する絶縁油(今回油)が収納される容器であって、その底部に配管16aの一端側が配置される。
【0025】
脱気タンク12は、新油タンク11から吸い上げられた絶縁油を一時的に貯留する密閉容器であって、バルブ17aおよびバルブ17bを遮断状態として、真空ポンプ15により脱気タンク12内を真空引きすることで絶縁油に溶け込んだ空気を除去する。
【0026】
送油ポンプ13は、液体を送り出すポンプであって、例えばキャンドモータポンプ等により構成される。
【0027】
貯留タンク14は、新油タンク11から脱気タンク12を経て配管16cの排出口へ至る送油経路を通過した絶縁油が貯留されるタンクである。また、貯留タンク14の絶縁油の赤外線吸収スペクトルが後述する赤外分光装置25により計測される。
【0028】
次に、絶縁油評価手段2の構成について説明する。絶縁油評価手段2は、絶縁油データベース21と、スペクトル取得手段22(本発明の第1スペクトル取得手段および第2スペクトル取得手段に相当する)と、特徴点決定手段23と、残留検出手段24と、赤外分光装置25(本発明のスペクトル計測手段に相当する)とを備える。また、絶縁評価手段2は、ユーザによる操作を許容するキーボードや図示しないマウス等の操作部26と、残残検出手段24による検出結果等が表示される表示部27とを備える。
【0029】
なお、スペクトル取得手段22による処理が本発明の第1スペクトル取得工程および第2スペクトル取得工程に相当し、特徴点決定手段23による処理が本発明の特徴点決定工程に相当し、残留検出手段24による処理が残留検出工程に相当し、赤外分光装置25による処理がスペクトル計測工程に相当する。
【0030】
絶縁油データベース21には、変圧器その他の電気機器の絶縁に利用される複数種類の絶縁油について、その赤外線吸収スペクトルの計測値が格納されている。ここで、絶縁油データベース21に格納される赤外線スペクトルの計測値には、透過率の測定データのほか、透過率を変換した吸光度が含まれる。
【0031】
スペクトル取得手段22は、前回送油手段1により送油された絶縁油(前回油)の赤外線スペクトルの計測値を絶縁油データベース21から読み出して取得すると共に、新油タンク11に収納され、これから変圧器100の容器101に送油される絶縁油(今回油)の赤外線スペクトルの計測値を絶縁油データベース21から読み出して取得する。
【0032】
なお、スペクトル取得手段22は、当該送油装置を用いて送油する複数の絶縁油の順序が決まっている場合には、その順序に従って、前回油および今回油の赤外線吸収スペクトの計測値を絶縁油データベース21から読み出してもよく、ユーザによる操作部26の操作により前回油と今回油が指定された場合には、その指定に従って前回油および今回油の赤外線吸収スペクトの計測値を絶縁油データベース21から読み出してもよい。
【0033】
特徴点決定手段23は、スペクトル取得手段22により取得された2つの赤外線吸収スペクトルの相違点の中で特徴となる特徴点を決定する。なお、特徴点の決定方法については、詳細を後述する。
【0034】
残留検出手段24は、後述する赤外分光装置25により計測された貯留タンク14の絶縁油の赤外線吸収スペクトルが、特徴点決定手段23により決定された特徴点を有するか否かに基づいて、新油タンク11から脱気タンク12を経て配管16cの排出口へ至る送油経路における前回油の残留を検出する。なお、前回油の残留の検出方法については、詳細を後述する。
【0035】
赤外分光装置25は、例えば、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT‐IR)により構成され、貯留タンク14の絶縁油の赤外線吸収スペクトルのほか、必要に応じて、変圧器100の排出口側から採取された絶縁油の赤外線吸収スペクトルが計測される。
【0036】
なお、赤外分光装置25は、分散型赤外分光光度計などのように、フーリエ変換型赤外分光光度計と同一又は類似の機能を有する他の測定装置でもよいが、高感度の分析が可能で、且つ数秒単位で分析でき、さらに波数精度及び波数再現性が良いことから、フーリエ変換型赤外分光光度計を用いることが好ましい。
【0037】
変圧器100は、タンク101内に、鉄心に一次、二次のコイルを巻装した変圧器本体(図示省略)を収容し、内部に絶縁油としての菜種油や鉱油を注入含浸した状態で上部隔壁により密封された構造となっている。
【0038】
また、変圧器100には、送油装置の配管16cが連結される注入配管102aと、タンク101内の絶縁油を排出する排出配管102bとを備え、注入配管102aには、配管16cを連結する連結バルブ103aが設けられ、排出配管102bには、バルブ103bが設けられている。
【0039】
なお、本実施形態において、絶縁油評価手段2は、マイクロコンピュータ等により構成され、絶縁油データベース21や各処理手段22〜24は、CPU、ROM、RAM等のハードウェアにより構成され、これらの各構成要素21〜24が共通のハードウェアによって構成されていてもよく、これらの各構成要素21〜24の一部又は全部が異なるハードウェアによって構成されていてもよい。例えば、絶縁油データベース21は、ネットワークを介してアクセス可能な外部サーバ等であってもよい。
【0040】
次に、図2を参照して、説明を後回しにした、特徴点決定手段23により、スペクトル取得手段22により取得された2つの赤外線吸収スペクトルの相違点の中で特徴となる特徴点を決定する処理について説明する。
【0041】
まず、スペクトル取得手段22により、今回油として、図2(a)に示す鉱油の赤外線吸収スペクトル(透過率)と、前回油として、図2(b)に示す植物油である菜種油の赤外線吸収スペクトル(透過率)とが取得された場合、特徴点決定手段23は、(1)今回油の赤外線吸収スペクトルの透過率のピーク値とその強度を特定すると共に、前回油の赤外線吸収スペクトルの透過率のピーク値とその強度を特定する。
【0042】
具体的に、図2(a)の今回油では、波数が、x[1/cm]、y[1/cm]、z[1/cm]の3つのピーク値(x>y>z)が特定される。図2(b)の前回油では、波数が概ね、a[1/cm]、b[1/cm]、c[1/cm]、d[1/cm]、e[1/cm]の5つのピーク値(a>b>c>d>e)が特定される。
【0043】
次に、特徴点決定手段23は、(2)今回油と前回油について特定したピーク値の波数での強度の差分をとり、その差分の絶対値が最大となるものを特徴点(波数)として決定する。
【0044】
具体的に、図2(a)および(b)では、波数が上記x,y,zおよびa,b,c,d,eについて、ピーク値の透過率強度の差分を算出し、その差分の絶対値が最大となる波数を特徴点とする。図2(a)および(b)では、波数xとaがほぼ同値であると共に、波数yとcがほぼ同値である。それぞれのピーク値の差分を算出すると、波数y(c)における差分の絶対値が最大となるため、この場合、波数y(c)を特徴点とされる。
【0045】
なお、補足すると、特徴点である波数y(c)[1/cm]は、前回油が存在する場合に特徴的となるピーク値であり、今回油にかかるピーク値が出現した場合には、前回油が残留していることを示す特徴点となっている。
【0046】
次に、図3および図4を参照して、説明を後回しにした、残油検出手段24により、前回油の残留を検出する方法について説明する。
【0047】
まず、前提として、特徴点となる波数のピーク値強度(高さ)と、前回油である菜種油の含有率(濃度)との関係について説明する。
【0048】
図3(a)は、図2(a)に示した赤外線吸収スペクトルの透過率を次式に基づいて吸光度に変換したスペクトルを示す。
【0049】
吸光度=−log(透過率/100)
赤外線吸収スペクトルの透過率を吸光度に変換するのは、特徴点のピーク値強度の出現程度を際立たせるためであり、前回油である菜種油が含まれない図3(a)の鉱油の赤外線吸収スペクトルでは、特徴点となる波数y(c)[1/cm]にはピーク値が全く出現していない。
【0050】
これに対して、図2(b)に示した前回油(菜種油)を0.119[g/100ml]を図3(a)の鉱油に含有させた場合には、図3(b)に示すように特徴点となる波数y(c)[1/cm]にピーク値が出現する。そして、前回油(菜種油)の含有率を、0.511[g/100ml]に高めると、図3(c)に示すように、そのピーク値が大きく出現する。さらに、前回油(菜種油)の含有率を、1.029[g/100ml]に高めると、図3(d)に示すように、そのピーク値がさらに大きく出現する。
【0051】
図4は、特徴点となる波数y(c)[1/cm]のピーク値強度(高さ)と、前回油である菜種油の含有率(濃度)との関係を示したものである。
【0052】
このように、特徴点となる波数のピーク値強度(高さ)と、前回油である菜種油の含有率(濃度)との間には正比例の関係があることから、残留検出手段24は、特徴点となる波数y(c)[1/cm]のピーク値強度(高さ)から、前回油の残留濃度を検出する。
【0053】
より具体的には、送油手段1により前回油の送油を行った後に、新油タンク11から一定量の絶縁油を、配管16aから脱気タンク12、配管16bおよび16cを循環させた後の絶縁油を貯留タンク14から採取し、採取した絶縁油を赤外分光装置25により計測した赤外線吸収スペクトルについて、残留検出手段24は、前回油の特徴点となる波数に、特徴的なピーク値の出現があり前回油の残留があるか否かを判定すると共に、ピーク値がある場合には、その出現強度(ピーク値高さ)から、今回油に含まれる前回油の残留濃度を算出する。そして、残留検出手段24による処理結果が適宜、表示部27に表示される。
【0054】
このように、本実施形態の送油装置によれば、外見上区別が付き難い前回油と今回油を、赤外線吸収スペクトル上での特徴点に着目することで、簡易に前回油と今回油を峻別して残留する前回油を検出することができる。
【0055】
そして、前回油の残留がないことを確認した上で、配管16cを連結バルブ103aを介して注入配管102aに接続して、今回油を、新油タンク11から変圧器100のタンク101に送油することで、送油経路で前回油が混入することを確実に防止することができる。
【0056】
尚、本実施形態では、送油装置により絶縁油を変圧器100のタンク101に送油する場合に絶縁油の評価を行ったが、これに限定されるものではなく、変圧器100の排出配管102bから採取した絶縁油について評価を行ってもよい。この場合、実際に注入した変圧器100のタンク101内の絶縁油をサンプルとして採取し、これを絶縁油評価手段2に評価することで、変圧器100のおける絶縁油の品質を担保することできる。
【0057】
また、本実施形態では、特徴点決定手段23は、(1)今回油の赤外線吸収スペクトルの透過率のピーク値とその強度を特定すると共に、前回油の赤外線吸収スペクトルの透過率のピーク値とその強度を特定し、(2)今回油と前回油について特定したピーク値の波数での強度の差分をとり、その差分の絶対値が最大となるものを特徴点(波数)として決定したが、特徴点の決定方法はこれに限定されるものでない。たとえば、前記(1)、(2)のいずれか一方または両方を実行することにより、特徴点の候補を表示部27に表示し、その中からユーザが操作部26により1つの特徴点を決定するようにしてもよい。
【0058】
さらに、本実施形態では、絶縁油データベース21から、前回油および今回油の赤外線吸収スペクトルを取得したが、送油手段1により送油する絶縁油を赤外分光装置25でその都度計測し、計測した値をメモリ等に保存して用いるようにしてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、送油手段1と絶縁油評価手段2との備える送油装置について説明したが、絶縁油評価手段2のみにより送油装置を構成し、これを既存の種々の送油手段1に適用するようにしてもよい。
【0060】
また、本実施形態において、絶縁油としての植物油を、菜種油として説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ベニバナ油、ホホバ油、レスケレラ油およびベロニア油等であってもよい。
【符号の説明】
【0061】

1…送油手段、2…絶縁油評価手段、11…新油タンク、12…脱気タンク、13…送油ポンプ、14…貯留タンク、15…真空ポンプ、16a〜16c…配管、17a〜17c…ダクト、21…絶縁油データベース、22…スペクトル取得手段(第1スペクトル取得手段、第2スペクトル取得手段)、23…特徴点決定手段、24…残留検出手段、25…赤外分光装置(スペクトル計測手段)、100…変圧器、101…タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成部品が収容される容器内に絶縁油が注入される電気機器に対して、送油管を介して、該容器内に絶縁油を注入し、または、該容器内から絶縁油を注出する送油装置であって、
前回送油された絶縁油である前回油の赤外線吸収スペクトルを取得する第1スペクトル取得手段と、
前記前回油と異なる絶縁油であって今回送油される今回油の赤外線吸収スペクトルを取得する第2スペクトル取得手段と、
前記送油管から抽出された管内油の赤外線吸収スペクトルを計測するスペクトル計測手段と、
前記第1スペクトル取得手段で取得された前回油の赤外線吸収スペクトルと、前記第2スペクトル取得手段で取得された今回油の赤外線吸収スペクトルとを比較することにより、これらの間の相違点の中で特徴となる特徴点を決定する特徴点決定手段と、
前記スペクトル計測手段により計測された管内油の赤外線吸収スペクトルについて、前記特徴点決定手段により決定された特徴点を参照することで、該管内油に残留する前回油を検出する残留検出手段と
を備えることを特徴とする送油装置。
【請求項2】
請求項1記載の送油装置において、
前記特徴点決定手段は、前記第1スペクトル取得手段で取得された前回油の赤外線吸収スペクトルと、前記第2スペクトル取得手段で取得された今回油の赤外線吸収スペクトルとの差を算出し、算出した差に基づいて前記特徴点を決定することを特徴とする送油装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の送油装置において、
前記特徴点決定手段は、前記第1スペクトル取得手段で取得された前回油の赤外線吸収スペクトルのピーク値と、前記第2スペクトル取得手段で取得された今回油の赤外線吸収スペクトルのピーク値との相違点に基づいて前記特徴点を決定することを特徴とする送油装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか1項記載の送油装置において、
前記残油検出手段は、前記特徴点決定手段により決定された特徴点の出現度合いから、前回油の残留濃度を検出することを特徴とする送油装置。
【請求項5】
構成部品が収容される容器内に絶縁油が注入される電気機器に対して、該容器内に絶縁油を注入し、または、該容器内から絶縁油を注出する送油装置の送油管内の絶縁油を評価する絶縁油評価方法であって、
前記送油装置により前回送油された絶縁油である前回油の赤外線吸収スペクトルを取得する第1スペクトル取得工程と、
前記送油装置により今回送油される絶縁油であって前回油と異なる今回油の赤外線吸収スペクトルを取得する第2スペクトル取得工程と、
前記送油装置の送油管から抽出された管内油の赤外線吸収スペクトルを計測するスペクトル計測工程と、
前記第1スペクトル取得手段で取得された前回油の赤外線吸収スペクトルと、前記第2スペクトル取得手段で取得された今回油の赤外線吸収スペクトルとを比較することにより、これらの間の相違点の中で特徴となる特徴点を決定する特徴点決定工程と、
前記スペクトル計測手段により計測された管内油の赤外線吸収スペクトルについて、前記特徴点決定手段により決定された特徴点を参照することで、該管内油に残留する前回油を検出する残留検出工程と
を備えることを特徴とする絶縁油評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−204635(P2012−204635A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68229(P2011−68229)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000242127)北芝電機株式会社 (53)