説明

送液装置

【課題】 電気浸透流ポンプの電極に発生する気泡を回収することが可能な、小型化に対応できる送液装置を提供する。
【解決手段】 絶縁基板12に形成された水溶液が流れる流路14の途中に、シリカを主成分とする多孔質体からなる電気浸透材21の上流側に第1電極26および下流側に第2電極27が対向するように設けられた電気浸透流ポンプ16が設けられているとともに、電気浸透流ポンプ16に隣接して、第1電極26および第2電極27が対向しておらず水溶液が満たされている空間25が設けられており、空間25の流路14の流れ方向に沿った内壁面29に、または内壁面29に近接した絶縁基板12内に、空間25内の水溶液を加熱するヒータ28が設けられている送液装置11である。第1および第2電極26,27に発生する気泡を水溶液の温度勾配によって空間25内に収集することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板に形成された流路内の液体を電気浸透流によって送液する送液装置であって、液体と、その液体に接する誘電体との間に生じる電気浸透流の現象を送液機構として利用した送液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学技術やバイオ技術の分野では、試薬に対する反応や試料の分析等を微小な領域で行なうための研究が行なわれており、MEMS(Micro Electro Mechanical System:微小電気機械システム)技術を用いて化学反応や生化学反応、試料の分析等のシステムを小型化したマイクロ化学システムが研究開発されている。
【0003】
マイクロ化学システムにおける反応や分析は、マイクロ流路,マイクロポンプおよびマイクロリアクタ等が形成されたマイクロ化学チップと呼ばれる1つのチップを用いて行なわれる。例えば、シリコン,ガラスまたは樹脂から成る1つの基体に、試料や試薬等の流体(水等の液体に溶質が混合したもの等)を供給するための供給口と、処理後の流体を導出するための採取口とを形成し、この供給口と採取口とを断面積が微小なマイクロ流路で接続し、マイクロ流路の適当な位置に送液のための送液装置を配置したマイクロ化学チップが提案されている(例えば、特許文献1,2を参照。)。
【0004】
送液装置として、従来は、特許文献1,2に提案されているような圧電型等の送液装置の機械的な往復運動を利用したものが主に採用されていたが、近年では、より精度よく反応や分析を行なうため、複数の物質を含む超微少量の流体を一定流量で、より精度よく送液することが必要となってきていることから、電気浸透流ポンプが注目されている。
【0005】
電気浸透流ポンプは、圧電型等の機械的な往復運動を利用した送液装置で必要とされる逆止弁を必要としないために、ポンプの構造が単純であり小型化が可能になるとともに、逆止弁が動作する際に生じる液体の脈動が発生しないため、安定した流量で送液することが可能になる。さらに、電気浸透流ポンプは、送液機構の役割を果たす電気浸透材の微小流路壁面と液体との界面で発生する電気二重層に外部電界が加わり、電気二重層の電荷が移動することによって送液することが可能になることから、液体と電気浸透材の多孔質体の微小流路壁面との摩擦によって生じる流速分布が発生しないために、超微少量の液体を一定流量で精度よく送液することが可能となる。
【0006】
しかしながら、電気浸透流ポンプにおいては、電極に対して液体中に浸漬した状態で電圧を印加するため、液体中の水分が電気分解によって正電極と負電極とにそれぞれ発生した酸素と水素とが気泡となり、その気泡が安定した送液を阻害するという問題があった。
【0007】
この問題に対して、例えば、気泡が混ざっている液体を誘導部材により流路の所定の箇所に収集し、液体透過膜と気体透過膜とを通過させることで気体と液体を分離して、液体のみを下流の流路に送液するという方法が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−214241号公報
【特許文献2】特開2002−233792号公報
【特許文献3】特開2008−223627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に開示されたような電気浸透流ポンプでは、ポンプ部に続く流路中に気泡の誘導部材を設置する必要があり、誘導部材の大きさの分だけポンプ部に続く流路が大きくなってしまうため、小型化に対応することが困難となるという課題があった。また、流路中に誘導部材を設置することで物理的に送液が阻害されてしまうこととなり、送液効率が悪くなるため、一定流量の送液が完了するのに時間がかかったり、また送液するために必要な電力が増加するために、分析コストが増加してしまったりするという問題点があった。
【0010】
本発明はこのような従来の技術における問題点を解決すべく案出されたものであり、その目的は、送液する液体中に混入した気泡を効率よく除去することができ、安定した送液を行なうことが可能な送液装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の送液装置は、絶縁基板に形成された水溶液が流れる流路の途中に、シリカを主成分とする多孔質体からなる電気浸透材の上流側に第1電極および下流側に第2電極が対向するように設けられた電気浸透流ポンプが設けられているとともに、該電気浸透流ポンプに隣接して、前記第1電極および前記第2電極が対向しておらず前記水溶液が満たされている空間が設けられており、該空間の前記流路の流れ方向に沿った内壁面に、または該内壁面に近接した前記絶縁基板内に、前記空間内の前記水溶液を加熱するヒータが設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の送液装置は、上記構成において、前記電気浸透材は、前記第1電極と前記第2電極とが対向する対向空間内に収まっていることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の送液装置は、上記構成において、前記ヒータは、前記内壁面のうち前記第1電極および前記第2電極の少なくとも一方に近い側に設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の送液装置は、上記構成において、前記空間は、前記水溶液を露出させる開口を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の送液装置によれば、電気浸透流ポンプに隣接して、第1電極および第2電極が対向しておらず水溶液が満たされている空間が設けられており、この空間の流路の流れ方向に沿った内壁面に、またはこの内壁面に近接した絶縁基板内に、空間内の水溶液を加熱するヒータが設けられている。このヒータによって空間中の水溶液を加熱することによって、空間内の水溶液の液温度が上昇し、この空間内の液温度と電気浸透流ポンプの第1電極および第2電極近傍の液温度との間で温度勾配が生じる。そして、液体の表面張力は温度が上昇すると低下するので、この温度勾配によって気液界面に表面張力勾配が生じるため、気液界面に沿って電気浸透流ポンプの第1電極および第2電極から隣接する空間内に向かって対流が生じ、この対流によって、電気浸透流ポンプの第1電極および第2電極で発生した気泡が隣接する空間内に収集されることとなるので、水溶液から気泡を分離して下流側の流路に送ることができ、電気浸透流ポンプよりも下流域の流路に気泡が送液されることを抑制することができる。電気浸透流ポンプの第1電極および第2電極で発生する気泡は極微小であるため、従来の技術におけるような誘導装置では効率よく収集することは困難であるが、本発明の液送装置によれば、水溶液中の気泡を容易に収集することが可能となる。
【0016】
また、本発明の送液装置によれば、流路中に従来の技術におけるような気泡の誘導部材を必要としないため、小型化に対応でき、かつ誘導装置によって物理的に送液が阻害されることがないため、良好な送液効率を維持することができることから、より低コストに対応した送液装置を提供することが可能となる。
【0017】
また、本発明の送液装置によれば、電気浸透材が、第1電極と第2電極とが対向する対向空間内に収まっているときには、第1電極と第2電極との対向空間内での電界密度が一定となることから、電界密度により水溶液の流速を変化させることなく一定とすることができるため、電気浸透流ポンプの第1電極および第2電極の表面に発生する気泡の発生頻度が一定になり、隣接する空間内で効率よく気泡を収集することが可能となる。
【0018】
また、本発明の送液装置によれば、ヒータが、空間の流路の流れ方向に沿った内壁面のうち第1電極および第2電極の少なくとも一方に近い側に設けられているときには、第1電極および第2電極で発生する気泡の量が異なる場合に、気泡が発生する量が多い方の電極に近い側にヒータを設けることで、気泡を効率よく収集することができるようになる。
【0019】
また、本発明の送液装置によれば、空間が、水溶液を露出させる開口を有するときには、この開口を通して空間内に収集した気泡を液体内から大気中に放出して除去することが可能となり、連続して安定に気泡を除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の送液装置の実施の形態の一例を示す平面図である。
【図2】(a)は本発明の送液装置の実施の形態の一例を表す平面図であり、(b)は(a)のI−I断面における断面構成を示す部分断面図である。
【図3】本発明の送液装置の製造方法の一例を模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の送液装置の実施の形態の例について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
ただし、以下で参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施の形態の一例における構成部材のうち、本発明を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。したがって、本発明の送液装置は、各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0023】
図1は、本発明の送液装置の実施の形態の一例である液送装置11の一例を示す平面図である。図2は、図1に示した電気浸透流ポンプ16を拡大して示すものであり、(a)は電気浸透流ポンプ16の平面図であり、(b)は図2(a)中のI−I断面図である。図1に示すように、本例の液送装置11は、絶縁基板12,供給部13,流路14,採取部15および電気浸透流ポンプ16(後述する第1電極26,第2電極27およびヒータ28等を備える。)を備えている。
【0024】
ここで、本例の液送装置11は、例えば、血液,唾液または尿等の体液中のウイルスまたは細菌等の生体材料の検査に用いることができる。また、本例の液送装置11は、例えば、細菌と薬液との反応実験、あるいは血液鑑定、あるいは遺伝子の薬液による分離抽出や分解、あるいは複数の薬液の混合等にも用いることができ、これら以外の用途に用いることもできる。
【0025】
絶縁基板12は、複数の絶縁層が積層されて構成されている。ここで、絶縁基板12は、セラミックス,シリコンまたはガラス等の絶縁性材料からなるが、中でもセラミックスからなるのが好ましい。絶縁基板12がセラミックスからなる場合には、水溶液中に含ませて流路14に送液する生体材料との適合性が良好になるとともに、耐薬品性等にも優れるからである。絶縁基板12に用いられるセラミックスは、例えば、酸化アルミニウム質焼結体,窒化アルミニウム質焼結体,ムライト質焼結体,炭化珪素質焼結体,窒化珪素質焼結体またはガラスセラミックス焼結体等である。
【0026】
なお、絶縁基板12は、必ずしも複数の絶縁層から構成されている必要はなく、1つの絶縁層から構成されていてもよい。ただし、絶縁基板12に後述する電気浸透流ポンプ16を設けるためには、製造容易性の観点から、絶縁基板12は複数の絶縁層から構成されているのが好ましい。
【0027】
流路14への水溶液の供給部13は、絶縁基板12に形成されており、水溶液を流路14に供給するための役割を担う部材である。本例においては、供給部13は、第1供給部13aと第2供給部13bとを含む。第1供給部13aおよび第2供給部13bは、水溶液を外部から流路14に供給できるように、絶縁基板12に表面から流路14までの貫通孔を形成することによって設けられる。
【0028】
流路14は、絶縁基板12に形成されており、供給部13から供給された水溶液が流れるための役割を担う部材である。本例においては、流路14は、絶縁基板12の表層のみならず、内層にも形成されている。
【0029】
合流部Cは、第1供給部13aから供給された水溶液と、第2供給部13bから供給された水溶液とが合流する箇所である。また、処理部Pは、合流部Cによって合流された水溶液を、例えば、図示しないヒータ等によって加熱処理する箇所である。すなわち、合流部Cによって合流された水溶液を加熱処理することによって、第1供給部13aから供給された水溶液と第2供給部13bから供給された水溶液との化学反応を促進することができる。
【0030】
採取部15は、絶縁基板12に形成されており、例えば、処理部Pによって処理された水溶液中の反応性物質を採取するための役割を担う部材である。本例においては、採取部15は、水溶液中の反応性物質を外部へ採り出すことができるように、絶縁基板12に流路14から表面に至る貫通孔を形成することによって実現される。
【0031】
電気浸透流ポンプ16は、絶縁基板12に供給部13から処理部Pへと水溶液を送液するための流路14に形成されており、電気浸透流ポンプ16に形成される第1電極26と第2電極27に、図示しない電源装置を用いて所定の電圧を印加することにより、電気浸透流ポンプ16に対して電圧を供給することができる。
【0032】
電気浸透流ポンプ16における第1電極26および第2電極27は、電気浸透流ポンプ16が形成された穴22の内壁面のうち、流路14の流れ方向に対して直交する壁面に互いに対向するように形成されている。
【0033】
空間25は、電気浸透流ポンプ16に隣接して、第1電極26および第2電極27が対向していないで形成されていて、かつ水溶液で満たされている。
【0034】
ヒータ28は、空間25の流路14の流れに方向に沿った内壁面29に、または流れ方向に沿った内壁面29に近接した絶縁基板12内に形成され、空間25内の水溶液を加熱する。
【0035】
空間25は、空間25内に満たされている水溶液に、ヒータ28によって収集された気泡(図示せず)を大気中に開放するために、大気中に露出する開口30を有することが好ましい。例えば、電気浸透流ポンプ16の部位に蓋体(図示せず)を設置する場合は、空間25までを全て覆うような蓋体を設置して、空間25上に位置する部位に開口30を設ける。
【0036】
ここで、ヒータ28を加熱することにより、空間25内の水溶液の液温度が上昇し、空間25内の液温度と電気浸透流ポンプ16の第1および第2電極26,27近傍の液温度との間で温度勾配が生じる。液体の表面張力は温度が上昇すると低下するので、この温度勾配によって気液界面に表面張力勾配が生じるため、気液界面に沿って電気浸透流ポンプ16の第1および第2電極26,27から空間25に向かって水溶液の対流が生じ、この対流によって電気浸透流ポンプ16の第1および第2電極26,27で発生した気泡が空間25に収集されることから、電気浸透流ポンプ16よりも下流域の流路14に気泡が送液されることを抑制することができる。電気浸透流ポンプ16の第1および第2電極26,27で発生する気泡は極微小であるため、従来の技術におけるような誘導部材を用いると効率よく収集することは困難であるが、本発明の液送装置によれば、水溶液中の極微小な気泡を容易に収集することが可能となる。また、従来の技術におけるような気泡の誘導部材を必要としないため、小型化に対応でき、かつ誘導部材によって送液が阻害されることがないため、良好な送液効率を維持することができることから、より低コストに対応した送液装置を作製することが可能となる。
【0037】
ヒータ28の加熱温度は、電気浸透流ポンプ16内から空間25内にかけて水溶液に表面張力勾配による対流が発生し、効率よく気泡を収集できる温度範囲に設定することが必要となる。例えば、水溶液として血液を送液する場合であれば、50〜80℃の範囲で設定することが好ましい。50℃より低い温度であれば、温度勾配を発生させることが困難であるため、効率よく気泡を空間25に誘導することが困難となる。他方、80℃より高い温度であれば、血液中の水分の沸騰により発生した気泡によって対流が阻害されたりする。
【0038】
空間25の体積は、電気浸透流ポンプ16および空間25が形成される穴22の全体積に対して10〜30%に設定することが好ましい。空間25の体積は、穴22に占める電気浸透材21の体積を変更することで可変させればよい。空間25の体積が10%より小さいと、気泡を収集する空間が狭く、効率よく気泡を収集することが困難となるので、好ましくない。また空間25の体積が30%より大きいと、電気浸透材21の体積が小さくなることとなり、電気浸透による送液効果が小さくなるため、好ましくない。
【0039】
また、電気浸透材21は、第1電極26と第2電極27とが対向する対向空間内に収まっていることが好ましい。これにより、第1電極26と第2電極27との対向空間内は電界密度が一定となることから、電界密度により水溶液の流速が変化することなく一定となるため、第1および第2電極26,27の表面に発生する気泡の発生頻度が一定になり、それら気泡を効率よく収集することが可能となる。
【0040】
電気浸透材21の材料は、ゼータ電位が高く、電気浸透現象における送液効率が高いシリカの多孔質体が好ましく、平均気孔径が20〜50μmであり、気孔の開口率が50%より大きいことが好ましい。気孔径が20μmより小さいか、または気孔の開口率が50%より小さいと、気孔内の圧力損失が高くなり、送液量が少なくなって送液効率が悪くなる傾向にある。また、気孔径が50μmより大きくなると、電気浸透現象の効果が小さくなり、送液効率が悪くなる傾向にある。
【0041】
なお、電気浸透材21の材料としては、シリカの他にも、アルミナ,ジルコニア,チタニア等が使用可能である。これらの材料は、他の金属材料あるいは有機材料等と比較すると、ゼータ電位が比較的高く、水溶液との界面に電気二重層を作りやすい材料であるためである。
【0042】
電気浸透材21の配置は、第1および第2電極26,27の表面で発生した気泡をヒータ28へと誘導するための経路を確保するために、電気浸透材21と第1および第2電極26,27との間に500〜2000μm程度の隙間を設けることが好ましい。電気浸透材21と第1および第2電極26,27との間の隙間が500μmより小さいと、気泡の経路を充分確保することができず、気孔を効率よく収集することが困難となるので好ましくない。他方、電気浸透材21と第1および第2電極26,27との間の隙間が2000μmより大きいと、第1および第2電極26,27間の電極間距離が大きくなることで、電界密度が小さくなるため、電気浸透現象の効果が小さくなって送液効率も悪くなる傾向にあるので好ましくない。
【0043】
また、ヒータ28は、内壁面21のうち第1電極26および第2電極27の少なくとも一方に近い側に、好ましくは下流側の電極に近い側に設けられているのがよい。この場合には、第1電極26と第2電極27とで発生する気泡の量が異なるため、気泡が発生する量が多い側の電極、通常は下流側の電極に近い側に設けることで、下流側の電極で発生する気泡をより効果的に収集し、電気浸透流ポンプ16よりも下流域の流路14に流れる気泡の発生を抑制することが可能となり、好ましい。
【0044】
次に、図3を用いて、本発明の液送装置の製造方法の実施の形態の例について、説明する。
【0045】
まず、原料粉末に適当な有機バインダおよび溶剤を混合し、必要に応じて可塑剤または分散剤などを添加してスラリーにし、これをドクターブレード法またはカレンダーロール法などによってシート状に形成することによって、セラミックグリーンシートを形成する。原料粉末としては、例えば、絶縁基板12が酸化アルミニウム質焼結体からなる場合であれば、酸化アルミニウム,酸化珪素,酸化マグネシウムおよび酸化カルシウム等を用いる。
【0046】
本例では、このようにして形成されるセラミックグリーンシートを多数積層することで絶縁基板12を形成する。セラミックグリーンシートの積層数や貫通孔を形成するセラミックグリーンシートの層数として、以下に説明する数は一例であり、送液する水溶液の量等に応じて適宜変えることができる。
【0047】
まず、図3(a)に示すように、セラミックグリーンシート31a〜31eに上流側流路となる貫通孔33aおよび下流側流路となる貫通孔34aを形成する。また、電気浸透材21が挿入され、空間25を形成するために必要な穴22となる貫通孔32を形成する。
【0048】
また、セラミックグリーンシート31b,31dに上流流路33aおよび下流流路34aよりも流路径が小さい流路23b,24bを形成するための上流側流路となる溝33bおよび下流側流路となる溝34bを形成する。上流側流路となる溝33bおよび下流側流路となる溝34bの数は、図3(a)に示す例においては上流域と下流域とで各々2箇所ずつ形成されているが、所望する流量に応じて、これら上流側流路となる溝33bおよび下流側流路となる溝34bの数は設定される。これらの貫通孔は金型による打ち抜き加工またはレーザ加工等の孔開け加工によって形成され、溝は金型を押し当ててセラミックグリーンシート31b,31dの表面をへこませる方法、あるいはレーザ加工によって形成される。上流流路33aおよび下流流路34aよりも流路径が小さい流路23b,24bが上流域と下流域とで各々2箇所ずつである場合は貫通孔としてもよいので、上流側流路となる貫通孔33aおよび下流側流路となる貫通孔34aと同時に形成してもよい。
【0049】
次に、セラミックグリーンシート31a〜31gを積層し、図3(b)に示すように、セラミックグリーンシートの積層体40を形成する。積層されたセラミックグリーンシートの積層体40に形成された穴22となる貫通孔32の内壁面のうち、流路に垂直な内壁面35に導電ペーストを端面印刷することで第1電極26となる端面電極36および第2電極27となる端面電極37を形成する。
【0050】
第1電極26となる端面電極36および第2電極27となる端面電極37は、金属粉末と有機バインダおよび溶剤とを混合することによって作製される導電性ペーストを貫通孔32の内壁面に所定のパターンで塗付することによって形成する。金属粉末の材料としては、タングステン,モリブデン,白金等が用いられるが、耐薬品性に優れてマイクロ化学チップに流通される水溶液の種類を制限しない白金が特に好ましい。
【0051】
次に、積層されたセラミックグリーンシートの積層体40に形成された貫通孔32の内壁面のうち、流れ方向に沿った、好適には流れ方向に平行な内壁面39に、ヒータ28となる端面電極38を形成する。ヒータ28となる端面電極38は、後述する電気浸透材21から遠い面に形成され、第1電極26となる端面電極36および第2電極27となる端面電極37のうち下流側に配置された方に近い側に形成される。ヒータ28となる端面電極38の印刷面積は、流れ方向に平行な内壁面39の全体の面積に対して50〜70%の範囲で形成することが好ましい。この面積が50%より小さいと、空間25に対する加熱領域が狭くなり、空間25内部の水溶液と第1および第2電極26,27のうち、上流側に近い側の電極近傍の水溶液との温度勾配を充分に生じさせることが困難となり、特に上流側に近い側の電極の表面で発生した気泡を収集することが困難となるので、好ましくない。他方、この面積が70%より大きいと、穴22内部の水溶液の全体が温められることとなり、空間25内部の水溶液と第1および第2電極26,27の電極近傍の水溶液との温度勾配を充分に生じさせることが困難となり、特に気泡の発生量の多い下流側の電極で発生する気泡を効率よく収集することが困難になるので、好ましくない。
【0052】
ヒータ28となる端面電極38は、金属粉末と有機バインダおよび溶剤とを混合することによって作製される導電性ペーストを穴22となる貫通孔32の内壁面に所定のパターンで塗付することによって形成する。この金属粉末の材料としては、種々の抵抗体材料を用いることができるが、比抵抗が高く、少ない電流でも発熱し易い酸化ルテニウムが特に望ましい。
【0053】
なお、ヒータ28を空間25の流路14の流れ方向に沿った内壁面39に近接した絶縁基板12内に設ける場合には、あらかじめセラミックグリーンシート31b〜31fの貫通孔32の近傍の所定の箇所にスクリーン印刷あるいはグラビア印刷等を用いて導電性ペーストでヒータ28となる表面電極のパターンを形成し、セラミックグリーンシート31a〜31gを積層することで、空間25の流路14の流れ方向に沿った内壁面39に近接した絶縁基体12内に所望するヒータ28を形成することが可能となる。ヒータ28となる表面電極のパターンは、セラミックグリーンシート31b〜31fに形成された貫通孔32の近傍のうち、積層後に空間25の近傍となる箇所に形成される。このとき、空間25の流れ方向の内壁面39となる部分の辺の長さに対して、表面電極のパターンが形成される領域の長さが50〜70%の範囲となるように形成されることが好ましい。
【0054】
次に、以上のようにして作製したセラミックグリーンシートの積層体40をセラミック材料に応じた温度で、例えば酸化アルミニウム質焼結体であれば約1600℃で焼結させる。焼結の際の雰囲気は、導電性ペーストの酸化を防止するために還元雰囲気であることが好ましい。
【0055】
次に、焼結した絶縁基板12の電気浸透流ポンプ16内部となる穴22に電気浸透材21を埋設する。電気浸透材21の寸法は、水溶液の流れ方向に対しては電気浸透材21と第1電極26となる端面電極36および第2電極27となる端面電極37との間に前述したように500〜2000μmの隙間ができるように設計し、設置する。また、電気浸透材21の穴22に占める体積によって空間25の体積が決定されるが、空間25の体積は穴22の全体積に対して10〜30%となるように電気浸透材21の寸法を設計し、設置する。
【0056】
次に、液送装置11に蓋体を使用する際は、電気浸透流ポンプ16および空間25の全体を覆うようにして、開口30としての貫通孔が形成された蓋体(図示せず)を絶縁基板12に被せる。蓋体の材料は、セラミック材料,シリコン,ガラスまたは樹脂にて形成されることが好ましい。なお、蓋体は必ずしも必要なものではないが、蓋体がある場合もない場合も、収集した気泡を逃がして水溶液から除去するために、空間25内の水溶液はヒータ28の近傍において大気中に露出していることが必要である。
【0057】
以上のようにして、図1に示す送液装置11内の電気浸透流ポンプ16を形成する。
【0058】
また、本例においては、電気浸透流ポンプ16は、マイクロ化学チップに用いられる例について説明したが、これに限定されない。すなわち、本発明の電気浸透流ポンプ16は、マイクロ化学チップ以外の、例えば燃料電池等において使用される液体の送液にも用いることができる。
【0059】
すなわち、本発明は上述した実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。つまり、本発明の要旨に加えて適宜偏向した技術手段を組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。例えば、上述した実施の形態の例では、電気浸透材21は絶縁基体12の表層から配置した構造を説明しているが、電気浸透材21を埋設するための空間を絶縁基体12の内部に設けて、絶縁基体12の内部に電気浸透流ポンプ16を配置することも可能である。電気浸透流ポンプ16を絶縁基体12の内層に設けることによって、試薬や送液する液の種類や量が増えて煩雑な流路構造が必要になった際に、内装流路の併設により、送液装置11を含むマイクロ化学チップ、もしくは燃料電池の大型化を抑制することが可能となる。
【0060】
また、上述した実施の形態の例では、焼成後に電気浸透流ポンプ16となるように形成された貫通孔32(穴22)に、電気浸透材21を配置する形態を採っているが、セラミックグリーンシート31a〜31eの貫通孔32に相当する箇所に、各々のセラミックグリーンシート31a〜31eの表面にレーザ光を用いて20〜50μmの微細流路を形成しておき、これらを積層することで多孔質構造体となるようにすることによって、絶縁基体12と電気浸透材21とが一体化した送液装置11を作製することが可能となる。この場合には、特に絶縁基体12の内部に電気浸透流ポンプ16を配置する場合に、電気浸透材21が送液する水溶液内にあることで加わる浮力によって空間25内を移動して、後続の流路14の孔を塞いでしまうようなことを防止することができる。
【実施例】
【0061】
本発明の送液装置の実施例について以下に説明する。
【0062】
まず、酸化アルミニウムに適当な有機バインダおよび溶剤を混合し、可塑剤であるジオクチルテレフタレートを添加してスラリーにし、これをドクターブレード法によってシート状に形成することによって、厚み130μmのセラミックグリーンシート31a〜31eを形成した。
【0063】
次に、セラミックグリーンシート31a〜31eに、上流側流路となる貫通孔33aと、下流側流路となる貫通孔34aとを、それぞれ流路幅が1000μmとなるように形成した。また、後述する電気浸透材21が挿入され、空間25を形成するために必要な穴22となる貫通孔32を、流れ方向に7mm、流れの幅方向に10mmの寸法となるように形成した。
【0064】
また、セラミックグリーンシート31bおよび31dに上流側流路23bおよび下流側流路24bを形成するための上流側流路となる貫通孔33bおよび下流側流路となる貫通孔34bを、それぞれ流路幅が200μmで流路長さが10mmとなるように、上流域と下流域とで各々2箇所ずつ形成した。これらの貫通孔は金型による打ち抜き加工にて形成した。
【0065】
次に、金属粉末の材料に白金粉末を使用し、バインダと溶剤とを添加して、攪拌機にて攪拌することで、第1および第2電極用の導体ペーストを作製した。
【0066】
次に、セラミックグリーンシート31a〜31gを積層し、セラミックグリーンシートの積層体40を形成した。積層に際しては、各々のセラミックグリーンシート31a〜31g間に密着液を塗付し、真空条件下で60トンの荷重を一括に加えることで積層を行なった。積層されたセラミックグリーンシートの積層体40に形成された穴22となる貫通孔32の内壁面のうち、流路の上流側および下流側に位置する内壁面35に第1および第2電極26,27用の導電性ペーストを端面印刷することで、第1電極26および第2電極27となる端面電極36,37を形成した。
【0067】
次に、積層されたセラミックグリーンシートの積層体40に形成された貫通孔32の内壁面のうち、空間25において流れ方向に沿って平行な内壁面となる内壁面39に、酸化ルテニウムと有機バインダおよび溶剤とを混合することによって作製した導電性ペーストを端面印刷することによって、ヒータ28となる端面電極38を形成した。このヒータ28となる端面電極38は、後述する電気浸透材21から2mm遠い内壁面39に形成し、第1電極26および第2電極27のうち、下流側の電極である第2電極27に近い側に形成した。その印刷領域の面積は、流れ方向に平行な内壁面39の全体の面積に対して60%の範囲で形成した。
【0068】
次に、このセラミックグリーンシートの積層体40を還元雰囲気下で約1600℃で焼成して焼結させた。
【0069】
次に、焼結した電気浸透流ポンプ16内部の穴22に、平均気孔径が35μmであり、気孔の開口率が70%であるシリカの多孔質体を材料とする電気浸透材21を埋設した。電気浸透材21は、流れ方向に対しては電気浸透材21と第1および第2電極26,27との間に1000μmの隙間ができるように設計し、設置した。また、空間25の体積が穴22の全体積に対して20%となるように設計し、設置した。
【0070】
以上のようにして作製された送液装置11について、電気浸透流ポンプ16を作動させて水溶液として血液を毎秒10μLの流量で5分間送液し、ヒータ28には外部印加装置を接続し、10ボルトの電圧を印加してヒータ28の温度を変化させたときの気泡の収集状態を確認して、気泡収集試験を行なった。このとき、ヒータ28の温度は、熱電対を直接ヒータ28の表面に接続して測定を行ない、40〜110℃の範囲内にて10℃間隔に設定してそれぞれ試験条件1〜8として、気泡収集試験を行なった。気泡の収集状態の確認方法は、流路14の終端に位置する採取部15の液面を光学顕微鏡にて200倍に拡大して観察して、採取部15における気泡の有無を確認した。その結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1において、採取部15において気泡がほとんど除去できたものの、送液効率を低下させない程度ではあるが気泡を確認できたものには表中の「気泡の有無」欄に「△」を記入し、採取部15において気泡を確認できなかったものには表中の「気泡の有無」欄に「○」を記入した。
【0073】
表1に示す結果から分かるように、試験条件1〜8のいずれの場合も良好な送液効率を維持できるように気泡を除去できた。なお、ヒータ28の温度が50℃より低い試験条件1では、送液効率を低下させない程度ではあるが採取部15に気泡が確認された。(表中の「気泡の有無」欄に「△」で示す)。また、ヒータ28の温度が80℃よりも高い試験条件6〜8でも、送液効率を大きく低下させない程度ではあるが採取部15に気泡が確認された。(表中の「気泡の有無」欄に「△」で示す)。そして、ヒータ28の温度が50〜80℃である試験条件2〜5では、採取部15に気泡が確認されず、気泡が良好に除去されていた(表中の「気泡の有無」欄に「○」で示す)。
【0074】
以上の結果から、本発明の送液装置は、電気浸透流ポンプにおける水溶液中の電極において発生する気泡を除去して水溶液を効率よく送液することが可能で、小型化に対応可能であり、マイクロ化学チップにおける送液装置として有用であることが確認された。
【符号の説明】
【0075】
11:液送装置
12:絶縁基板
13:供給部
14:流路
15:採取部
16:電気浸透流ポンプ
21:電気浸透材
22:穴
23a,23b:上流側流路
24a,24b:下流側流路
25:空間
26:第1電極
27:第2電極
28:ヒータ
29,39:内壁面
30:開口
31a〜31g:セラミックグリーンシート
32:穴となる貫通孔
33a,33b:上流側流路となる貫通孔
34a,34b:下流側流路となる貫通孔
35:流路に垂直な(上流側および下流側に位置する)内壁面
36:第1電極となる端面電極
37:第2電極となる端面電極
38:端面電極
40:セラミックグリーンシートの積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板に形成された水溶液が流れる流路の途中に、シリカを主成分とする多孔質体からなる電気浸透材の上流側に第1電極および下流側に第2電極が対向するように設けられた電気浸透流ポンプが設けられているとともに、該電気浸透流ポンプに隣接して、前記第1電極および前記第2電極が対向しておらず前記水溶液が満たされている空間が設けられており、該空間の前記流路の流れ方向に沿った内壁面に、または該内壁面に近接した前記絶縁基板内に、前記空間内の前記水溶液を加熱するヒータが設けられていることを特徴とする送液装置。
【請求項2】
前記電気浸透材は、前記第1電極と前記第2電極とが対向する対向空間内に収まっていることを特徴とする請求項1に記載の送液装置。
【請求項3】
前記ヒータは、前記内壁面のうち前記第1電極および前記第2電極の少なくとも一方に近い側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の送液装置。
【請求項4】
前記空間は、前記水溶液を露出させる開口を有することを特徴とする請求項1に記載の送液装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−69758(P2011−69758A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221925(P2009−221925)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】