説明

透明フィルム又はシート

【課題】透明性および低白化性に優れ、かつ打ち抜き加工性の良好な透明フィルム又はシートを提供すること。
【解決手段】ブチル(メタ)アクリレートおよび/またはブタジエン5〜40重量%、アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、フェニルメタクリレート、メチルメタアクリレート、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドから選ばれた少なくとも1種の単量体95〜60重量%からなる単量体混合物を重合して得られた共重合体であって、ガラス転移温度が40℃以上である透明フィルム又はシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明フィルム又はシートに関するものである。詳しくは、透明性および低白化性に優れ、かつ打ち抜き加工性の良好な透明フィルム又はシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下PETと略)は、透明性、強度に優れるため、ペットボトルや各種包装用材料あるいは偏光板や拡散板等の光学用部品として使用されている。
しかしながら、PETは透明性や強度に優れるものの、成形性や印刷特性あるいは接着性に劣る、更には耐熱性の不足により使用条件によっては容易に成形品が変形してしまうことや、成形サイクルが長いという欠点を有していることが知られている。
これらの問題点に対して、結晶化を促進させる結晶核剤を添加したり、他のポリエステル樹脂(例えばポリブチレンテレフタレートやポリカーボネート樹脂)やABS樹脂等とのアロイ化が提案されているが、光学特性の低下の問題があるため、十分な問題解決には至っていない。
また、PETは、打ち抜き加工性、あるいは低白化性の点から各種包装材料、工業用途製品に使用されているが、表面硬度や耐候性に劣るといった問題点が指摘されている。一方、他の透明性樹脂としてはポリメチルメタアクリレート樹脂やポリカーボネート樹脂、メチルメタアクリレート−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリスチレン等が知られているが、そのコストや打ち抜き加工性、あるいは折り曲げ白化性等の低白化性の点からPETに替る材料は無いのが現状である。
【特許文献1】特開2004−292547号公報
【特許文献2】特開2002−194167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、透明性および低白化性に優れ、かつ打ち抜き加工性の良好な透明フィルム又はシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らはかかる課題に鑑み鋭意検討を行った結果、特定のビニル系単量体混合物からなる共重合体を特定の範囲のガラス転移温度を持つような組成に調整することにより、透明性および低白化性に優れ、かつ打ち抜き加工性の良好な透明フィルム又はシートを得られることを見出し本発明に達したものである。
すなわち本発明は、ブチル(メタ)アクリレートおよび/またはブタジエン5〜40重量%、アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、フェニルメタクリレート、メチルメタアクリレート、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドから選ばれた少なくとも1種の単量体95〜60重量%からなる単量体混合物を重合して得られた共重合体であって、ガラス転移温度が40℃以上である透明フィルム又はシートを提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の透明フィルム又はシートは、低コストであり、透明性を有しながら、低白化性に優れ、かつ打ち抜き加工性に優れるものであり、各種包装用材料や各種工業用製品として有効に使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における透明フィルム又はシートは、ブチル(メタ)アクリレートおよび/またはブタジエン5〜40重量%、アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、フェニルメタクリレート、メチルメタアクリレート、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドから選ばれた少なくとも1種の単量体95〜60重量%からなる単量体混合物を重合して得られた共重合体であって、ガラス転移温度が40℃以上である。
ブチル(メタ)アクリレートおよび/またはブタジエンが5重量%未満(アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、フェニルメタクリレート、メチルメタアクリレート、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドから選ばれた少なくとも1種の単量体が95重量%を超える)では十分な打ち抜き強度が得られず、またブチル(メタ)アクリレートおよび/またはブタジエンが40重量%を超える(アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、フェニルメタクリレート、メチルメタアクリレート、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドから選ばれた少なくとも1種の単量体が60重量%未満)と最終製品に求められる剛性が不足する傾向にあるため好ましくない。
また、本発明における共重合体のガラス転移温度が40℃未満の場合、最終製品に必要とされる剛性が不足する傾向にある。好ましくは、最終製品の着色や成形性の点から45〜120℃である。
なお、ガラス転移温度については、上記にて使用する単量体の種類および使用比率により任意に調整することが可能である。また、ガラス転移温度ついては、セイコーインスツルメンツ社製 示差走査熱量計(DSC6200)を用い、窒素気流下で開始温度50℃、昇温速度2℃/分の条件により測定した。
【0007】
また、本発明においては、その目的を阻害しない範囲内で他のビニル系単量体を使用することも可能である。このような他のビニル系単量体としては、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート2−エチルエキシルアクリレート、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル、ジビニルベンゼン、N−ヘキシルマレイミド、無水マレイン酸、アクリル酸、メタアクリル酸等が例示される。
【0008】
本発明における上記共重合体の数平均ポリスチレン換算分子量は2万以上、分子量分布(Mw/Mn)は3.0未満であることが、成形性あるいは最終製品の強度の点から好ましい。これら数平均ポリスチレン換算分子量および分子量分布については、重合の際の反応温度や時間、開始剤等の重合時の添加剤の添加量等を変更することが可能である。なお、数平均ポリスチレン換算分子量および分子量分布は一般的なGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いて測定が可能である。
【0009】
本発明における共重合体は、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法によって製造することができるが、最終製品に要求される透明性の点で塊状重合法または溶液重合法が好ましく用いられる。
【0010】
本発明においては、共重合体中の200℃における揮発成分が多いと、フィルムあるいはシート加工時の目ヤニの原因ともなり、製品外観を損ねる不具合が発生しやすい。そのため揮発成分量は0.2重量%未満であることが好ましい。揮発成分量は、例えば重合終了時のストリッピング操作や、造粒の際に造粒機としてベント付造粒機を使用し、造粒温度や吐出量等の造粒条件を変更することにより調整することが可能である。
なお、揮発成分量は、セイコーインスツルメンツ社製 TG/DTA 6300を用い、窒素気流下において、測定開始温度50℃、昇温速度2℃/分の測定条件で昇温した際の200℃における重量減少率を測定することにより求めた。
【0011】
さらに、本発明においては、得られた透明フィルム又はシート1mあたり、直径100〜500μmの欠点(フィルム又はシート中に含有するポリマー凝集物等の異物)が10個未満であることが好ましい。この共重合体中の欠点の個数は、重合の際の反応温度や反応時間等の反応条件の調整、あるいは造粒や成形時に造粒機や成形機にフィルター(例えば金属メッシュや焼結フィルター)を取り付けることにより調整することが可能である。
【0012】
本発明においては目的に応じて、さらにTinuvin P、234、326、329、360(チバスペシャルティケミカルズ社製)等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、スミソーブ100、110、130(住友化学(株)製)等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、スミソーブ400(住友化学(株)製)等のベンゾエート系紫外線吸収剤、アデカスタブLA−77(旭電化工業(株)製)、Uvinul4050H、5050H(BASF社製)等のヒンダードアミン系光安定剤から選ばれた光安定剤を1種または2種以上添加することが可能である。
さらに目的に応じてシリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の無機微粒子や、メタクリル系樹脂、シリコン樹脂等からなる有機架橋微粒子、その他染顔料、滑剤、難燃剤、離型剤および酸化防止剤等を添加することも可能である。
【0013】
本発明におけるフィルムあるいはシート成形品は共重合体を直接に成型機に投入して作成、または必要であれば共重合体を通常の造粒機(例えばバンバリー、ロール、単軸押出機、2軸押出機等)を用いて溶融混練した後、インフレーション成形機、カレンダー成形機、シート押出し機、フィルム押出し機等の目的に応じた成形機を使用して作成することができる。また、多層成形機あるいはラミネート工法により他樹脂との多層フィルムあるいは多層シートとすることも可能である。
また、成形温度は160〜250℃であることが好ましい。成形温度が160℃未満では十分な溶融状態に無いため成形機に負担がかかりやすく、250℃を超えると変色や焼け異物混入による外観不良を引き起こす傾向にあるため好ましくない。
【0014】
本発明のシート・フィルム成形品の具体的用途としては、食品包装、シールラミネート等の包装用材、磁気テープやコンデンサ、拡散板や偏光板、マスキングフィルムや剥離紙等の各種工業用材が挙げられる。
【0015】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0016】
〔実施例〕
−共重合体−
共重合体1:公知の塊状重合法により、ブチルアクリレート35重量部、アクリロニトリル15重量部、スチレン50重量部、t−ドデシルメルカプタン0.03重量部、からなる単量体混合物の重合を行った。重合に続いて、反応槽から連続的に抜き出された重合液を脱揮発分装置に供給して未反応単量体や有機溶剤等の揮発性成分を分離した後、シリンダー温度200℃に設定した押出機を用いて樹脂のペレット化を行い、共重合体1を作成した。
得られた樹脂のガラス転移温度は47℃、数平均分子量は約6万、揮発分は0.19重量%であった。
【0017】
共重合体2:公知の乳化重合法により、ブタジエン25重量部、メチルメタアクリレート15重量部、スチレン60重量部、t−ドデシルメルカプタン0.1重量部からなる単量体混合物の重合を行った。得られたラテックスをストリッピング処理(60℃、−0.1Mpaの条件下で8時間)した後、硫酸マグネシウムを用いて塩析・脱水を行い、得られた共重合体パウダーをシリンダー温度180℃に設定したベント式40mm単軸押出機を用いてペレット化を行い、共重合体2を作成した。
得られた樹脂のガラス転移温度は63℃、数平均分子量は約4万、揮発分は0.16重量%であった。
【0018】
共重合体3:公知の乳化重合法により、ブチルアクリレート40重量部、アクリロニトリル10重量部、α−メチルスチレン50重量部、t−ドデシルメルカプタン0.1重量部からなる単量体混合物の重合を行った。得られたラテックスをストリッピング(60℃、−0.1Mpaの条件下で8時間)処理した後、硫酸マグネシウムを用いて塩析・脱水を行い、得られたP/Dをシリンダー温度180℃に設定したベント式40mm単軸押出機を用いてペレット化を行い、共重合体3を作成した。
得られた樹脂のガラス転移温度は71℃、数平均分子量は約4万、揮発分は0.17重量%であった。
【0019】
共重合体4:公知の乳化重合法により、ブチルアクリレート15重量部、アクリロニトリル15重量部、スチレン70重量部、t−ドデシルメルカプタン0.1重量部からなる単量体混合物の重合を行った。得られたラテックスをストリッピング処理(60℃、−0.1Mpaの条件下で8時間)した後、硫酸マグネシウムを用いて塩析・脱水を行い、得られたP/Dをシリンダー温度180℃に設定したベント式40mm単軸押出機を用いてペレット化を行い、共重合体4を作成した。
得られた樹脂のガラス転移温度は78℃、数平均分子量は約4万、揮発分は0.15重量%であった。
【0020】
共重合体5:公知の乳化重合法により、ブチルアクリレート35重量部、メチルメタアクリレート60重量部、スチレン5重量部、t−ドデシルメルカプタン0.3重量部からなる単量体混合物の重合を行った。得られたラテックスをストリッピング処理(60℃、−0.1Mpaの条件下で8時間)した後、硫酸マグネシウムを用いて塩析・脱水を行い、得られたP/Dをシリンダー温度180℃に設定したベント式40mm単軸押出機を用いてペレット化を行い、共重合体5を作成した。
得られた樹脂のガラス転移温度は46℃、数平均分子量は約3万、揮発分は0.16重量%であった。
【0021】
共重合体A−i:公知の乳化重合法により、アクリロニトリル20重量部、スチレン80重量部、t−ドデシルメルカプタン0.1重量部からなる単量体混合物の重合を行った。得られたラテックスをストリッピング処理(60℃、−0.1Mpaの条件下で8時間)した後、硫酸マグネシウムを用いて塩析・脱水を行い、得られたP/Dをシリンダー温度180℃に設定したベント式40mm単軸押出機を用いてペレット化を行い、共重合体A−iを作成した。
得られた樹脂のガラス転移温度は114℃、数平均分子量は約4万、揮発分は0.18重量%であった。
【0022】
共重合体A−ii:公知の乳化重合法によりスチレン25重量部、メチルメタアクリレート75重量部からなる単量体混合物の重合を行なった。得られたラテックスをストリッピング処理(60℃、−0.1Mpaの条件下で8時間)した後、硫酸マグネシウムを用いて塩析・脱水を行い、得られたP/Dをシリンダー温度180℃に設定したベント式40mm単軸押出機を用いてペレット化を行い、共重合体C−iを得た。
得られた樹脂のガラス転移温度は106℃、数平均分子量は約4万、揮発分は0.18重量%であった。
【0023】
共重合体A−iii:公知の塊状重合法により、ブチルアクリレート50重量部、アクリロニトリル15重量部、スチレン30重量部、t−ドデシルメルカプタン0.03重量部、からなる単量体混合物の重合を行った。重合に続いて、反応槽から連続的に抜き出された重合液を脱揮発分装置に供給して未反応単量体や有機溶剤等の揮発性成分を分離した後、シリンダー温度200℃に設定した押出機を用いて樹脂のペレット化を行い、共重合体A−1を作成した。
得られた樹脂のガラス転移温度は12℃、数平均分子量は約6万、揮発分は0.19重量%
【0024】
グラフト共重合体iv:公知の乳化重合法によりポリブタジエンラテックス100重量部(固形分50重量%)の存在下で、スチレン25重量部、メチルメタアクリレート75重量部からなる単量体混合物を重合を行なった。得られたラテックスをストリッピング処理した後(60℃、−0.1Mpaの条件下で8時間)、硫酸マグネシウムを用いて塩析・脱水を行い、得られたP/Dをシリンダー温度180℃に設定したベント式40mm単軸押出機を用いてペレット化を行い、グラフト重合体B−iを作成した。
得られた樹脂のガラス転移温度は106℃、数平均分子量は約4万、揮発分は0.1重量%であった。
【0025】
〔実施例1〜5、比較例1〜3〕
ペレットを80℃にて予備乾燥の後、長瀬産業製デナフィルターを装着したフィルム成形機(田辺プラスチック機械社製)を用いて、シリンダー設定温度200℃の条件で100μ厚みのフィルムを作成し、各種試験を行った。結果を表1に示す。なお、各種の試験条件は下記の通りである。
〔比較例4〕
長瀬産業製デナフィルターを使用しなかった以外は実施例1と同様の方法にてフィルムを作成し、各種試験を行った。
【0026】
透明性:ヘーズメーター(HM−150 村上色彩技術研究所)を用いて全光線透過率を測定した。単位:%
引張り強度:JIS K 7113に準じ、引張り強度を測定した。単位:MPa
引張り伸び率:JIS K 7113に準じ、引張り伸び率を測定した。単位:%
低白化性:JIS K 7113に準じ、引張り強度を測定した試料の白化の度合いを目視にて評価した。
○:白化なし
×:白化が認められる
加熱収縮率:作成したフィルムを50℃のオーブン内に30分放置した際の収縮率を測定した。
単位:%
欠点検査:表面欠陥検査装置(株アヤハエンジニアリング製 FITS−L)を用いて、直径100〜500μmの欠点数を測定した。
単位:個/1m

【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明にて得られたフィルム・シート成形品は、透明性および低白化性に優れ、かつ打ち抜き加工性の良好な透明フィルム又はシートとして、各種包装用あるいは工業用製品として特に有効に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチル(メタ)アクリレートおよび/またはブタジエン5〜40重量%、アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、フェニルメタクリレート、メチルメタアクリレート、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドから選ばれた少なくとも1種の単量体95〜60重量%からなる単量体混合物を重合して得られた共重合体であって、ガラス転移温度が40℃以上である透明フィルム又はシート。
【請求項2】
共重合体に含まれる200℃における揮発分が0.2重量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の透明フィルム又はシート。
【請求項3】
1mあたり、直径100〜500μmの欠点が10個未満である請求項1又は2何れかに記載の透明フィルム又はシート。

【公開番号】特開2009−126943(P2009−126943A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303293(P2007−303293)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】