説明

透明導電性ペースト組成物

【課題】基板上に印刷により塗布した際、良好な表面特性を有し、かつ良好な導電性と透明性を兼ね備えた透明導電膜を形成できる透明導電性ペースト組成物を提供する。
【解決手段】本発明の透明導電性ペースト組成物は、透明導電性粒子と、バインダ樹脂と、有機溶媒とを含む透明導電性ペースト組成物であって、上記有機溶媒は、テルペン系溶媒とケトン系溶媒とを含み、上記透明導電性ペースト組成物の固形分中において、上記透明導電性粒子の含有率が80〜99重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基板、ガラス基板、フィルム基板などの基板上に塗布することにより透明導電膜を形成可能な透明導電性ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透明導電膜や透明導電性インクの材料として、酸化スズ粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子(ATO)、スズ含有酸化インジウム粒子(ITO)、アルミニウム含有酸化亜鉛粒子(AZO)、ガリウム含有酸化亜鉛粒子(GZO)などが知られている。中でも、酸化インジウムにスズを含有させたスズ含有酸化インジウム粒子は、可視光に対する高い透光性と、高い導電性から、静電防止や電磁波遮蔽が要求されるオフィスオートメーション(OA)機器の陰極線管(CRT)のパネル表面や液晶ディスプレイ(LCD)の表面などに塗布して使用されている。さらに、スズ含有酸化インジウム粒子を含む塗布液(ペースト)を塗布して作製された透明導電膜は、タッチパネルなどの、より高い透光性と導電性が要求される分野への応用が期待されている。
【0003】
一方、従来から主に用いられている透明導電膜の成膜方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法などの物理的方法があるが、成膜する基板の大型化に伴い、製造装置が大掛かりとなり、コストが高くなってしまうという問題が生じていた。
【0004】
そこで、コストの面及び簡便であるという点から、塗布法による透明導電膜の成膜が検討されている。例えば、ITO微粒子を含有するシリカゾル液を用いて、ガラスなどの基板上にスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティングなどの方法で塗布・乾燥・焼成してITO透明導電膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
最近では、特に、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの塗布法により成膜する方法についての研究が盛んになってきている。それは、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの塗布法を用いた成膜方法を用いると、直接、基板上に透明導電膜をパターンニングでき、パターンニングのためのエッチング処理工程を省くことができるという利点があるためである。しかし、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの塗布法に用いる透明導電性インクについては、スクリーン版のメッシュ径やプリンタヘッドに対応した最適なインクの粘度や表面張力に調整されているとともに、透明導電性粒子の最適な分散粒径が確保されていることが要求される。このため、スクリーン印刷やインクジェット印刷に用いられる透明導電性インクの改良が種々行われている。
【0006】
例えば、特許文献2には、アセチルアセトンインジウム、有機錫化合物、セルロース誘導体、アルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノール、二塩基酸エステル及び/又は酢酸ベンジル、ジエチレングリコール誘導体を含む塗布液を調製し、アセチルアセトンインジウム、有機錫化合物及びセルロース誘導体の含有量を最適化することによって、インクジェットプリンタ用透明導電性インクに要求される透明導電性粒子の分散安定性、ノズル詰まり、塗布液の粘度などの問題を解決でき、インクジェット印刷に適した透明導電膜形成用塗布液が得られることが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、金属酸化物及び有機成分を含有する微粒子からなる平均粒子径が1〜100nmである金属酸化物超微粒子と、有機溶媒と、熱分解反応が吸熱反応である樹脂とを含有する透明導電膜形成用ペースト組成物を基板上に塗布し、得られた塗膜を焼成することによってクラックの発生が抑制された透明導電膜が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−312136号公報
【特許文献2】特開2006−28431号公報
【特許文献3】特開2007−193992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2及び特許文献3の透明導電性インクでは、インクの分散性を高めるために有機成分を含む透明導電性粒子を用いる必要があることや、有機成分を分解するための高い処理温度を必要とすることなどの問題があった。また、印刷時のメッシュやノズルでの目詰まり、印刷後の基板上での塗布膜の表面の平滑性やエッジ形状などの特性が必ずしも満足できるものではなく、より導電性が高く、良好な表面特性を有する透明導電膜の形成には、これらの特性のさらなる向上が必要となる。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するため、基板上に印刷により塗布した際、良好な表面特性を有し、かつ良好な導電性と透明性を兼ね備えた透明導電膜を形成できる透明導電性ペースト組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の透明導電性ペースト組成物は、透明導電性粒子と、バインダ樹脂と、有機溶媒とを含む透明導電性ペースト組成物であって、上記有機溶媒は、テルペン系溶媒とケトン系溶媒とを含み、上記透明導電性ペースト組成物の固形分中において、上記透明導電性粒子の含有率が80〜99重量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の透明導電性ペースト組成物は、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの塗布法によって良好な表面特性を有する透明導電膜を形成できる。また、本発明の透明導電性ペースト組成物を用いて形成した透明導電膜は、良好な導電性と透明性を兼ね備えているので、電子ペーパー、フラットパネルディスプレイ(FPD)、太陽電池などの透明電極に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、スクリーン印刷やインクジェット印刷用の透明導電性ペースト組成物に要求される粘度を満たしつつ、透明導電性粒子の良好な分散性を確保した透明導電性ペースト組成物を調製することによって、良好な表面特性を有し、かつ良好な導電性と透明性を兼ね備えている透明導電膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の透明導電性ペースト組成物は、透明導電性粒子と、バインダ樹脂と、有機溶媒とを含む。
【0015】
(有機溶媒)
上記有機溶媒は、テルペン系溶媒とケトン系溶媒とを含む。
【0016】
<テルペン系溶媒>
上記透明導電性ペースト組成物は、有機溶媒の一つとしてテルペン系溶媒を含むことにより、スクリーン印刷やインクジェット印刷による塗布に必要とされる粘度を有することができる。上記テルペン系溶媒としては、20℃において4.9mPa・S以上の粘度を有するものであればよく、特に限定されない。例えば、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテートなどを用いることができる。中でも、上記透明導電性ペースト組成物の粘度をスクリーン印刷やインクジェット印刷などの塗布法用に適合させるとともに透明導電性粒子の分散性を良好にするという観点から、ターピネオール、ジヒドロターピネオール及びジヒドロターピニルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0017】
上記有機溶媒におけるテルペン系溶媒の含有量は、5〜95重量%であることが好ましく、20〜95重量%であることがより好ましく、50〜95重量%であることが特に好ましい。上記有機溶媒における上記テルペン系溶媒の含有量が5重量%未満であると、上記透明導電性ペースト組成物の粘度が低下し、透明導電性粒子の分散性は向上するが、上記透明導電性ペースト組成物における他の有機溶媒成分、特にケトン系溶媒が、スクリーン版のメッシュやインクジェットプリンタのヘッドで揮発し、急激に粘性が高くなり、目詰まりが起きやすくなる。一方、上記有機溶媒における上記テルペン系溶媒の含有量が95重量%を超えると、上記透明導電性ペースト組成物の粘度が高くなってしまい、透明導電性粒子の分散性を確保することができず、上記透明導電性ペースト組成物を塗布して作製した透明導電膜は空隙が多くなり良質な表面特性が得られない恐れがある。また、有機溶媒におけるテルペン系溶媒の含有量が20〜95重量%の範囲では、透明導電性粒子の分散性がより向上したスクリーン印刷やインクジェット印刷により塗布した際良好な表面特性を有する透明導電膜を形成できる透明導電性ペースト組成物が得られ、好ましい。
【0018】
<ケトン系溶媒>
上記透明導電性ペースト組成物は、有機溶媒にテルペン系溶媒を含むとともに、ケトン系溶媒を含むことにより、スクリーン印刷やインクジェット印刷用の透明導電性ペースト組成物に要求される粘度を満たしつつ、透明導電性粒子の分散性を確保することができる。上記ケトン系溶媒としては、一般的にペースト組成物に用いるものであればよく、特に限定されない。例えば、アセトン、4−ヘプタノン、1−ヘキサノン、2−ヘキサノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、フェニルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトニルアセトン、イオノン、ジアセトニルアルコール、アセチルカービノール、アセトフェノン、メチルナフチルケトン、イソホロン、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどを用いることができる。中でも、少量で分散効果の向上と粘度調整が行いやすいという観点から、上記ケトン系溶媒は、20℃において2.6mPa・S以下の粘度を有するケトン系溶媒溶媒であることが好ましく、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びイソホロンからなる群から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0019】
上記有機溶媒におけるケトン系溶媒の含有量は、5〜90重量%であることが好ましく、5〜80重量%であることがより好ましい。上記有機溶媒におけるケトン系溶媒の含有量が5〜90重量%であれば、スクリーン印刷やインクジェット印刷による塗布に適した粘度を有し、透明導電性粒子の分散性が良い透明導電性ペースト組成物が得られる。
【0020】
上記有機溶媒は、スクリーン印刷やインクジェット印刷用の透明導電性ペースト組成物に要求される粘度を満たし、透明導電性粒子の分散性を確保できれば、上記テルペン系溶媒及びケトン系溶媒に加えて、他の有機溶媒を含んでもよく、有機溶媒全体に対して70重量%以下含むことが好ましい。他の有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの炭酸エステル系溶剤、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤などが挙げられる。
【0021】
(透明導電性粒子)
上記透明導電性粒子としては、透明性と導電性を兼ね備えた粒子であればよく、特に限定されず、例えば、導電性金属酸化物粒子や導電性窒化物粒子などを用いることができる。上記導電性金属酸化物粒子としては、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化カドミウムなどの金属酸化物粒子が挙げられる。また、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛及び酸化カドミウムからなる群から選ばれる1種類以上の金属酸化物を主成分として、さらにスズ、アンチモン、アルミニウム、ガリウムがドープされた導電性金属酸化物粒子、例えば、スズ含有酸化インジウム粒子(ITO)、アンチモン含有酸化スズ粒子(ATO)、アルミニウム含有酸化亜鉛粒子(AZO)、ガリウム含有酸化亜鉛粒子(GZO)、ITOをアルミニウム置換した導電性金属酸化物粒子などが挙げられる。ここで、主成分とは、導電性金属酸化物粒子において、結晶母体となる金属酸化物のことである。中でも、透明性、導電性及び化学特性に優れている点から、ITO粒子が特に好ましい。また、導電性の観点から、上記ITO粒子において、ITO全体に対してスズの添加量は酸化スズ換算で1〜20重量%が好ましい。ITOへのスズの添加により導電性が改善されるが、スズの添加量が1重量%より少ない場合は導電性の改善が乏しい傾向があり、20重量%を超えても導電性向上の効果は少ない傾向がある。また、上記透明導電性粒子は有機成分を含まない。
【0022】
上記透明導電性ペースト組成物の固形分中における上記透明導電性粒子の含有率は80〜99重量%であればよく、85〜95重量%であることが好ましく、85〜90重量%であることがより好ましい。上記透明導電性ペースト組成物の固形分中における上記透明導電性粒子の含有率が80重量%未満になると、透明導電性ペースト組成物を塗布して作製した透明導電膜において透明導電性粒子の接近、接触がバインダ樹脂により阻害される恐れがあり、良好な電気特性が得られにくい。一方、透明導電性ペースト組成物の固形分中における上記透明導電性粒子の含有率が99重量%を超えると、透明導電性ペースト組成物を塗布して作製した透明導電膜において良質な塗膜強度が得られない。本発明において、「透明導電性ペースト組成物の固形分」とは、有機溶媒を除く透明導電性粒子、バインダ樹脂及び分散剤などのその他の固形の組成をいう。
【0023】
上記透明導電性粒子の一次粒子径は5〜150nmであることが好ましい。一次粒子径が5nm未満であると、結晶性のよい粒子を得ることが難しい傾向があり、一方、150nmよりも一次粒子径が大きいと、透明性が低下してしまう傾向がある。本発明において、一次粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、粒界で区切られた個々の粒子の粒子径を観察・測定した後、少なくとも20個の粒子の粒子径を平均した平均粒子径をいう。
【0024】
(バインダ樹脂)
上記バインダ樹脂としては、特に限定されないが、ガラス転移温度が30〜120℃の樹脂を用いることが好ましい。上記バインダ樹脂として、ガラス転移温度が30〜120℃である樹脂を用いることにより、透明導電膜は適度な柔軟性を有することができる。上記バインダ樹脂としては、例えば、ガラス転移温度が30〜120℃である熱可塑性樹脂又はガラス転移温度が30〜120℃である放射線硬化性樹脂などを用いることができる。上記バインダ樹脂は、単独で用いてもよく、又は二種以上を組合せて用いてもよい。ここで、ガラス転移温度の測定は、いわゆる熱分析でDSC法を用いて日本工業規格(JIS)K7121に準拠して行うことができる。
【0025】
上記バインダ樹脂として、ガラス転移温度が30℃より小さいと室温においてバインダとしての効果が小さくなり、透明導電膜の塗膜強度が小さくなってしまう可能性がある。またガラス転移温度が120℃より大きいと、透明導電膜の形成後に行う乾燥工程において100℃程度の低温乾燥では、バインダ樹脂が溶融しにくく、塗膜中には空隙が残ってしまうため、良好な導電性が得られなくなる可能性がある。
【0026】
上記ガラス転移温度が30〜120℃である熱可塑性樹脂としては、例えばアクリル系樹脂又はポリエステル系樹脂を用いることができる。
【0027】
上記アクリル系樹脂としては、例えば、三菱レイヨン社製の“ダイヤナールBR−60”、“ダイヤナールBR−64”、“ダイヤナールBR−75”、“ダイヤナールBR−77”、“ダイヤナールBR−80”、“ダイヤナールBR−83”、“ダイヤナールBR−95”、“ダイヤナールBR−96”、“ダイヤナールBR−101”、“ダイヤナールBR−105”、“ダイヤナールBR−106”、“ダイヤナールBR−107”、“ダイヤナールBR−108”、“ダイヤナールBR−110”、“ダイヤナールBR−113”、“ダイヤナールBR−122”、“ダイヤナールBR−605”、“ダイヤナールMB−2539”、“ダイヤナールMB−2389”、“ダイヤナールMB−2487”、“ダイヤナールMB−2660”、“ダイヤナールMB−2952”、“ダイヤナールMB−3015”、“ダイヤナールMB−7033”などが挙げられる。
【0028】
上記ポリエステル系樹脂としては、例えば、東洋紡積社製の“バイロン200”、“バイロン220”、“バイロン226”、“バイロン240”、“バイロン245”、“バイロン270”、“バイロン280”、“バイロン290”、“バイロン296”、“バイロン660”、“バイロン885”、“バイロンGK110”、“バイロンGK250”、“バイロンGK360”、“バイロンGK640”、“バイロンGK880”などが挙げられる。
【0029】
上記ガラス転移温度が30〜120℃である放射線硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、アクリルオリゴマーなどが挙げられる。具体的には、イソボルニルアクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコ−ルジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートなどを用いることができる。ここで、放射線硬化性樹脂のガラス転移温度は、例えば、樹脂100重量部に対し紫外線重合開始剤、例えば2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンを5重量部添加し、紫外線を500mJ/cm2照射して得られた放射線硬化処理後の測定値を用いることが好ましい。
【0030】
また、上記ガラス転移温度が30〜120℃である樹脂として、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いてもよい。
【0031】
バインダ樹脂として放射線硬化性樹脂を用いた場合、紫外線、電子線、β線などの放射線により硬化処理を行ってもよい。これらのうち紫外線を用いることが簡便であり、この場合、さらに、紫外線重合開始剤を含んでもよい。紫外線重合開始剤としては、以下のものを用いることができる。例えば、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4−ジエチルチオキサントン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェン、ベンジル、2−クロロチオキサントン、ジイソプロピルチオザンソン、9,10−アントラキノン、ベンソイン、ベンソインメチルエーテル、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、4−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトンなどを用いることができる。上記紫外線重合開始剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0032】
上記紫外線重合開始剤は、放射線硬化性樹脂100重量部に対し、1〜20重量部の範囲で添加することが好ましい。1重量部より少ない場合、樹脂の硬化性が劣るためか、塗膜強度が劣る傾向にある。また、20重量部を超える場合、架橋が十分に発達しないためか、塗膜強度が劣る傾向にある。
【0033】
(分散剤)
上記透明導電性ペースト組成物には、透明導電性粒子の分散を改善させるため、分散剤を含めてもよい。
【0034】
上記分散剤としては、特に限定されないが、少なくともアニオン系官能基を含む分散剤を用いることが好ましく、アニオン系官能基を含むポリエステル系樹脂、アニオン系官能基を含むアクリル系樹脂を用いることがより好ましい。例えば、カルボン酸含有アクリル系樹脂、酸含有ポリエステル系樹脂、酸及び塩基含有ポリエステル系樹脂などを用いることができる。具体的には、三菱レイヨン社製の“ダイヤナールMR−2539”、“ダイヤナールMB−2389”、“ダイヤナールMB−2660”、“ダイヤナールMB−3015”、“ダイヤナールBR−60”、“ダイヤナールBR−64”、“ダイヤナールBR−77”、“ダイヤナールBR−84”、“ダイヤナールBR−83”、“ダイヤナールBR−106”、“ダイヤナールBR−113など、或いはアビシア社製の“ソルスパーズ3000”、“ソルスパーズ21000”、“ソルスパーズ26000”、“ソルスパーズ32000”、“ソルスパーズ36000”、“ソルスパーズ41000”、“ソルスパーズ43000”、“ソルスパーズ44000”、“ソルスパーズ45000”、“ソルスパーズ56000”などの市販のものを用いることができる。
【0035】
上記分散剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。上記分散剤の添加量は、透明導電性粒子と分散剤との合計重量に対し0.1〜20重量%が好ましい。0.1重量%より少ないと、分散効果が得られない傾向がある。また、20重量%を超えると、塗膜強度が劣る傾向がある。
【0036】
上記透明導電性ペースト組成物は、上記有機溶媒と、上記透明導電性粒子と、上記バインダ樹脂と、必要に応じて上記分散剤とを混合して、透明導電性粒子を有機溶媒中に分散させることにより作製できる。透明導電性粒子を有機溶媒中に分散させる方法は特に限定されず、例えば、ボールミル、サンドミル、ピコミル、ペイントコンディショナーなどのメディアを介在させた機械的分散処理を行ってもよく、また、超音波分散機、ホモジナイザー、ディスパー、ジェットミルなどを使用した分散処理を行ってもよい。
【0037】
また、上記透明導電性粒子の分散平均粒子径は、150nm以下であることが好ましい。分散平均粒子径が150nmを超えると、ヘイズが高くなり、透明性が低下する傾向があるからである。本発明では、分散平均粒子径とは、レーザードップラー方式の粒度分布計で測定したときの一次粒子及び二次粒子を含む分散粒子の平均粒子径をいうものとする。
【0038】
上記透明導電性ペースト組成物における固形分含有量は、1〜70重量%の範囲であることが好ましい。固形分含有量が1重量%未満であると、透明導電膜を形成したときに、充分な導電性が得られない傾向があり、また、70重量%を超えると、透明導電性ペースト組成物の粘度が高くなってしまい、スクリーン印刷などの塗布に適さないペーストとなってしまう恐れがある。
【0039】
上記透明導電性ペースト組成物を用いて透明導電膜を形成することができる。具体的には、上記透明導電性ペースト組成物を、基板上の一方の主面に塗布することにより透明導電膜を形成する。塗布方法は、例えば、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法、又はロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコートなどの塗工法などを用いることができる。特に、上記透明導電性ペースト組成物をスクリーン印刷により基板に塗布することにより、透明導電膜を形成することが好ましい。スクリーン印刷を用いることにより、直接、基板上に透明導電膜をパターンニングでき、パターンニングのためのエッチング処理工程を省くことができるからである。
【0040】
上記基板としては、透明性を有するものであればよく、特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド、芳香族ポリアミドなどの材料からなる、フィルム又はシートを用いることができる。基板の厚さは、通常3〜300μmである。また、基板は、ガラス板のような硬質の基板であってもよく、フレキシブルであってもよい。
【0041】
塗布された塗膜の乾燥は、常温常圧乾燥に限らず、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥など、基板に悪影響を与えない限り、加熱や減圧などの処理を行ってもよい。乾燥工程は、透明導電膜の透明性と平滑性に影響を与えるため、重要な工程であるが、溶媒によって乾燥挙動が異なるため、溶媒の種類によって、適宜、乾燥方法を決定することが好ましい。
【0042】
上記乾燥後の塗膜をさらに焼成することで高い導電性を付与できる。これは、焼成することによって導電性を阻害する有機物を除去でき、透明導電性粒子同士の接触抵抗が低くなるためであると考えられる。最終的には、前述の分散剤及び有機溶媒は除去する必要があり、そのためには、200℃以上、好ましくは300℃以上の温度で加熱処理をすることが望ましい。加熱方法は特に限定されず、高温槽や電気炉などを用いる従来の加熱方法でもよいが、基板が熱に弱い場合には、基板に熱が伝わらないように電磁波加熱やランプ加熱によって透明導電膜のみを加熱する方法を用いることが好ましい。
【0043】
また、高い導電性を付与するために、塗布後の塗膜をカレンダ処理してもよい。カレンダ処理を効率よく行うには、透明基板として樹脂フィルムを用い、カレンダロールを用いて処理することが好ましい。上記カレンダロールは、少なくとも金属ロールを1本含むことが好ましい。上記金属ロールとしては、ロール表面にクロムメッキなどの金属メッキを施したロールを用いればよい。また、ロール表面の粗度(Ry)が1.0μm以下のものを用いることが好ましい。ロール表面を研磨することなどにより、ロール表面の粗度(Ry)を1.0μm以下にすることができる。また、透明導電性ペースト組成物を塗布して形成した塗膜が金属ロールに接触するように原反ロールをセットして、カレンダ処理することが好ましい。カレンダ処理の温度、すなわちカレンダロールの温度は、基板の変形などを考慮して決めることが必要であるが、50〜200℃の範囲が好ましい。50℃より低いと、電気特性改善効果が乏しい傾向がある。200℃を超えると、基板が変形する恐れがある。また、カレンダ処理の線圧力は1000N/cm以上が好ましい。1000N/cmより低いと、電気特性改善の効果が乏しい傾向がある。
【0044】
上記方法によって形成された透明導電膜の最終的な厚さを50〜2000nmとすれば、良好な導電性と透明性を兼ね備え、かつ、良好な表面特性を有する透明導電膜を得ることができる。
【0045】
上記透明導電膜の表面抵抗は、10000Ω/スクエア以下であることが好ましい。上記表面抵抗は、透明導電膜の導電性を示すものであり、値が低いほど、導電性が高く、電気特性に優れる。ここで、表面抵抗とは、カレンダ処理直後のシート抵抗をいう。
【0046】
上記透明導電膜の入射角60度における光沢度は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。上記光沢度は、透明導電膜の表面特性を示す尺度のひとつであり、光沢度の値が高いほど、塗膜表面が平滑であり、表面特性が優れる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基いて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。特に指摘がない場合、下記において、「部」は「重量部」を意味する。
【0048】
(実施例1)
<透明導電性ペースト組成物の作製>
先ず、以下の組成の混合物を、分散メディアとして直径1.0mmのジルコニアビーズを用い、ペイントコンディショナーを用いて30分間分散処理した。
(1)ITO粒子(平均粒子径:30nm、酸化スズ含有率:10重量%) 97部
(2)アニオン性官能基含有分散剤(アビシア社製“ソルスパーズ32000”) 3部
(3)テルペン系溶媒(ターピネオール) 50部
(4)ケトン系溶媒(シクロヘキサノン) 5部
【0049】
次に、分散処理した上記の混合物に、以下の組成の混合物を添加してペイントコンディショナーを用いて30分間分散処理した。その後、フィルターを通してジルコニアビーズを取除いて、透明導電性ペースト組成物を得た。
(5)アクリル系樹脂(三菱レイヨン社製“ダイヤナールBR80”、熱可塑性樹脂、ガラス転移温度:105℃) 7.7部
(6)テルペン系溶媒(ターピネオール) 30部
(7)ケトン系溶媒(シクロヘキサノン) 3部
【0050】
<透明導電膜の作製>
透明導電性ペースト組成物をスクリーン版(日本特殊織物社製“120/300−34”)を用いてポリエステルフィルム(東レ社製“ルミラー”、厚み:100μm)上に正方形のパターン(縦100mm、横100mm)になるように印刷した後、乾燥して塗膜を得た。得られた塗膜にカレンダ処理を行った。具体的には、1対の金属ロール(表面ハードクロムメッキ、Ry:0.8μm)を有するロール処理機を用い、ロール温度110℃、線圧力5000N/cm、搬送速度5m/分の条件で行い、透明導電膜を得た。なお、塗膜厚みはカレンダ処理後に、1μmとなるように設定した。
【0051】
次に、下記表1に示した組成の透明導電性ペースト組成物を用いて、実施例1と同様にして、実施例2〜4及び比較例1〜3の透明導電膜を作成した。
【0052】
実施例1〜4及び比較例1〜3の透明導電膜の電気特性及び表面特性を下記のように測定し、その結果を下記表1に示した。
【0053】
(表面特性)
表面特性は、光沢度を測定することにより評価した。具体的には、光沢計(BYK Gardner製“micro TRI−gloss”)を用いて、入射角60度における光沢度を測定した。
【0054】
(電気特性)
透明導電膜から長さ75mm、幅75mmのサンプルを切り出し、抵抗率計(“ロウレスタAP−MCP−T400”)及び抵抗計(“ハイレスタHT−210”)を用いて、透明導電膜側の表面抵抗率を測定した。なお、いずれの抵抗計もダイアインスツルメンツ社製である。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から分かるように、透明導電性粒子と、バインダ樹脂と、有機溶媒としてのテルペン系溶媒及びケトン系溶媒とを含み、透明導電性ペースト組成物の固形分中において上記透明導電性粒子の含有率が80〜99重量%である透明導電性ペースト組成物を用いた実施例1〜4では、表面特性及び電気特性に優れる透明導電性膜が得られた。
【0057】
一方、透明導電性ペースト組成物の固形分中における上記透明導電性粒子の含有率が80重量%未満である透明導電性ペースト組成物を用いた比較例2では、透明導電性粒子の接近、接触がバインダ樹脂により阻害されるため、電気特性が劣っている。また、ケトン系溶媒を含んでいない透明導電性ペースト組成物を用いた比較例1又はケトン系溶媒の替わりにトルエンを含んでいる透明導電性ペースト組成物を用いた比較例3では、実施例1に比較して、透明導電粒子の分散性が低下し、表面特性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の透明導電性ペースト組成物を用いて形成した透明導電膜は、電子ペーパー、フラットパネルディスプレイ(FPD)、太陽電池などの透明電極に応用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電性粒子と、バインダ樹脂と、有機溶媒とを含む透明導電性ペースト組成物であって、
前記有機溶媒は、テルペン系溶媒とケトン系溶媒とを含み、
前記透明導電性ペースト組成物の固形分中において、前記透明導電性粒子の含有率が80〜99重量%であることを特徴とする透明導電性ペースト組成物。
【請求項2】
前記透明導電性粒子が、スズ含有酸化インジウム粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子、アルミニウム含有酸化亜鉛粒子、ガリウム含有酸化亜鉛粒子及びアルミニウム置換したスズ含有酸化インジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の透明導電性ペースト組成物。
【請求項3】
前記有機溶媒における前記テルペン系溶媒の含有量が20〜95重量%である請求項1又は2に記載の透明導電性ペースト組成物。
【請求項4】
前記テルペン系溶媒が、ターピネオール、ジヒドロターピネオール及びジヒドロターピニルアセテートからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電性ペースト組成物。
【請求項5】
前記ケトン系溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びイソホロンからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明導電性ペースト組成物。
【請求項6】
前記バインダ樹脂が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び放射線硬化性樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明導電性ペースト組成物。