説明

透明物質内に湾曲した切り込みを形成する装置および方法

【課題】切り込みの生成に必要な時間をできるだけ短くすること。
【解決手段】本発明は、透明物質(5)内、特に角膜内に集束させたレーザ光(3)を用いて、前記物質(5)内に光学的穿孔(8)を形成することで、湾曲した切り込み(9)を形成する方法に関する。焦点(7)を三次元的に変位させ、光学的穿孔(8)を並べることで、切り込み(9)を形成する。焦点(7)を変位可能なレンズ(6)によって第一の空間的方向(z)に変位させ、前記焦点(7)を切り込み(9)の輪郭(17)に従うように、残り二つの空間的方向(x,y)に対して誘導し、前記空間的方向(x,y)は第一の空間的方向(z)に対して直交している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明物質内、特に角膜内に集束させたレーザ光によって、前記物質内に光学的穿孔(optical breakthrough)を形成することで、湾曲した切り込みを形成する方法に関し、その焦点を三次元的に変位させ、一連の光学的穿孔によって切り込みを形成し、前記焦点の変位は第一の空間的方向において、他の二つの空間的方向より遅い最大速度で行われる。さらに、本発明は、透明物質内、特に角膜内に湾曲した切り込みを形成する装置に関し、前記装置は物質内にレーザ光を集束させ、そこに光学的穿孔を生成するレーザ光源を有し、その焦点を三次元的に変位させる走査ユニットと、走査ユニットを制御する制御ユニットとが設けられ、前記物質内に光学的穿孔を連続的に配置することで切り込みを生成し、前記走査ユニットは一つの空間的方向に焦点を変位させる調整可能な光学系を有する。
【背景技術】
【0002】
レーザ手術、特に眼科手術では、透明物質内に湾曲した切り込みを形成する。ここでは、組織内、つまり組織表面下に治療用レーザ光を集束させ、組織内に光学的穿孔を形成する。
【0003】
組織内では、レーザ光によって生じた複数のプロセスが時系列的に発生する。光の出力密度が所定の閾値を超えると、光学的穿孔が生じ、物質内にプラズマ気泡が発生する。光学的穿孔が形成された後、ガスの拡大によって前記プラズマ気泡は成長する。光学的穿孔が保持されない場合、プラズマ気泡内に生成されたガスは周囲の物質に吸収され、気泡は再び消失する。しかし、このプロセスは、気泡自体の形成より非常に長い時間がかかる。同様に、プラズマは物質構造内に配置されることが多いが、物質の境界でプラズマが発生すると、前記境界から物質が取り除かれる。この場合、これは光アブレーションと呼ばれる。プラズマ気泡と共に事前に接続されていた物質層が分離される場合は、光破壊と呼ぶ。簡略化のために、本明細書では、このようなプロセスを全て、光学的穿孔という用語でまとめる。つまり、前記用語は実際の光学的穿孔だけでなく、それにより物質内に生じる影響も含んでいる。
【0004】
高精度なレーザ手術のために、レーザビームの影響を極めて局所化し、隣接する組織への付随的な破壊をできるだけ避けることが不可欠である。従って、従来の技術では一般にパルス状のレーザ光を適用し、光学的穿孔の生成に必要なレーザ光の出力密度の閾値は、個々のパルス内だけで超えるようにしている。この点、米国特許第5,984,916号では、光学的穿孔(この場合は生成された相互作用)の空間的範囲がパルス幅に強く依存することが明示されている。従って、レーザビームの高い集束性と非常に短いパルスによって、非常に高い位置精度で物質内に光学的穿孔を配置することができる。
【0005】
パルスレーザ光の使用は近年、特に眼科の視覚障害のレーザ手術補正において実際に確立されるようになっている。眼の視覚障害の多くは、角膜およびレンズの屈折率特性によって網膜上に光学的集束が生じないことによる。
【0006】
上記の米国特許第5,984,916号、および米国特許第6,110,166号では、光学的穿孔の適切な生成によって切り込みを生成し、最終的に角膜の屈折率特性に選択的に影響を与える上記の方法が開示されている。多数の光学的穿孔をつなげて、角膜内でレンズ状の部分的塊を分離する。次いで、横方向に開いた切り込みを介して、残りの角膜組織から分離したレンズ状の部分的塊を角膜から取り除く。除去後、角膜の形状と屈折率特性とが修正され、視覚障害が適切に補正されるように、部分的塊の形状は選択される。ここで必要な切り込みは湾曲しており、焦点を三次元的に調整する必要がある。従って、レーザ光の二次元的偏向と組み合わせて、同時に第三の空間的方向で焦点を調整する。
【0007】
レーザ光の二次元的偏向と焦点調整はどちらも、切り込みを生成する際の精度に対して同等に決定的に重要である。同時に、実現可能な調整速度は、必要な切り込みを生成する際の速度に影響を与える。切り込みを素早く生成することは便宜上または時間節約上望ましい。加えて、眼科手術中に眼の運動が発生することは避けられないことを考えると、切り込みを素早く生成することは、その結果得られる光学的品質に寄与し、眼の運動を追跡する必要がなくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、この発明の目的は、切り込みの生成に必要な時間をできるだけ短くするように、上記の種類の方法および装置を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この目的は上記の種類の方法によって実現され、ここで焦点は他の二つの空間的方向に対して、切り込みの輪郭線に従うように誘導され、前記輪郭線は第一の空間的方向と実質的に平行な面内に配置される。
【0010】
この目的はさらに、上記の種類の装置によって実現され、ここで制御ユニットは切り込みの輪郭線上の残り二つの空間的方向内において焦点を誘導するように走査ユニットを制御し、前記輪郭線は第一の空間的方向と直交する面内に配置される。
【0011】
従って、この発明によれば、光学的穿孔を生成するために、形成される切り込みの輪郭線に基づいた経路を用いる。前記輪郭線は、最も遅い変位速度が与えられるシステムの空間的方向を指定する。これによって、長期間、この空間的方向内で焦点をほとんど変わらず保持でき、他の二つの空間的方向内のより速い変位速度を制限なく利用できる。その結果、切り込みを素早く生成できる。輪郭線は、第一の空間的方向と直交する面内で湾曲した切り込みを生成することで容易に得られる。輪郭線の面が第一の空間的方向と正確に直交していればいるほど、一つの輪郭線中で第一の空間的方向内の変位をより一定に保持できる。
【0012】
この目的のために、レーザ光は二つの空間的方向に対して変位される。前記方向は輪郭線の面と直交し、輪郭線の経路に従っている。一方、焦点は、所定の許容範囲内で各輪郭線に正確に従うことができる。この場合、焦点は、同心円状に密に配置した経路線を描き、焦点は各経路線に応じて第一の空間的方向内で別々に調整される。所定の許容範囲内の輪郭線に正確に従う密な経路線の代わりに、輪郭線を互いに連続的に接続することもできる。このようにする場合、焦点を輪郭線に沿って移動させ、個々の輪郭線は密な経路線としては形成されないが、隣接する輪郭線は滑らかな遷移によって互いに接続され、全体として焦点は単一の連続な経路線上を移動する。これは、閉じた経路線上に配置された一連の光学的穿孔を生成し、切り込み面を形成する。この輪郭線の一体的な連続構成は好ましくは、各残留部を除いて輪郭線に沿ってほぼ完全に焦点を移動させ、それから第一の空間的方向内で焦点を変位させることで、前記残留部で次の輪郭線に遷移させることで実現できる。この方式では、切り込みを生成するための光学的穿孔は、二つの輪郭線の間の前記遷移中も生成されるので、第一の空間的方向で遷移させる必要性をさらに低減するという利点がある。
【0013】
輪郭線の組は、形状、つまり切り込みの曲率に依存する。球状に湾曲した切り込みの場合、同心円の輪郭線が得られる。眼科の補正では多くの場合同様に、ある程度の乱視を補正しなければならないので、球状に湾曲した切り込みはむしろ特別な場合であり、一般に楕円面またはトーラスの面が提供される。このような楕円面に対して、輪郭線は(好ましくは同心円状の)楕円として形成される。楕円率は、好ましくは1.0〜1.1またはさらに1.0〜1.2である。
【0014】
このような形状の場合、輪郭線は焦点を誘導するためにも用いられ、偏向させた焦点が楕円状の螺旋、つまり湾曲した切り込みの周囲面に配置した螺旋に従うようにする。
楕円または楕円状の螺旋の楕円率は各々、角膜面の形状に依存し得る。楕円率は、楕円の長軸および短軸の比率であると理解される。
【0015】
非接触法の場合は自然面の形状を用いるが、コンタクトレンズを用いる場合、このようなコンタクトレンズの形状が主要な役割を果たす。コンタクトレンズを用いる方式では、コンタクトレンズを加圧して取り付ける際、形状が明確になるのでここでは望ましい。平面のコンタクトレンズは数学的な境界線の場合を表し、輪郭線走査の概念がここでは経路線の縮退をもたらすが、経路線はなお閉じているとみなすこともできる。応用の点でもより興味深い湾曲したコンタクトレンズの場合は、面形状、例えばコンタクトレンズの曲率に関する楕円率に依存する。曲率が単なる球状の場合の曲率であるときも、切り込み面の楕円形状をもたらすので、これが当てはまる。しかし、多くの場合、楕円率は処理フィールド全体では一定ではなく、半径方向依存性を示すことが多い。
【0016】
原理的に、楕円率eについては次式が成り立つ。
【0017】
【数1】

ここで、RとRは楕円の主軸方向での角膜面の曲率半径を示し、zは角膜の頂点から(輪郭線の)処理点までの距離である。この場合、zは処理フィールドの半径方向のパラメータ(光軸からの距離)の関数であるので、上記の楕円率の半径方向依存性については、e(z)=e(z(r))を選択することが望ましい。
【0018】
ここでは、さらに上記のように、多くの場合は楕円形状が提供されるので、上式は主に裸眼の場合に成り立つ。コンタクトレンズで加圧すると通常、計算に考慮すべき変形がもたらされる。裸眼系の極座標R、φ、αに加えて、コンタクトレンズ系(アポストロフィを付けた座標)では、角膜の外側の曲率半径RCVと、コンタクトレンズの曲率半径Rとが影響を与える。この接触圧の変換についての変換式の簡単かつ簡潔な表現は、以下のようである。
【0019】
【数2】

さらに修正して、上式に補正項をもたらすことももちろん可能であり、有用なこともある。しかし、ここで開示した実践的方法はこれだけで修正し、このようにして原則として適用し続ける。上記の関係は、楕円率の計算を含む経路線の容易な計算を可能にする。計算アルゴリズムにおいて特に重要はステップは、裸眼系とコンタクトレンズ系との間の上記の前方および後方変換である。
【0020】
人間の眼の曲率半径にほぼ対応する曲率半径を備えたコンタクトレンズの場合、経路線の楕円率は通常1.4未満である(長軸は短軸より10%長い)。−2dptおよび1dptの球面円柱補正の場合、楕円率は例えば光軸の近傍の中央フィールド領域ではわずか約1.03であり、光軸からの距離が外側の経路曲線まで増大すると約10%まで増大する。適用可能な実施形態の場合、楕円率または理想的な円経路の対応する修正の変動は視覚障害の補正に悪影響を与えず、従って一次近似で一定であると仮定できる。
【0021】
制御に用いられる輪郭線の間の距離は当然、湾曲した切り込み面を用いて、数学的断面によって輪郭線を生成する面の距離で与えられる。多数の光学的穿孔が連続的な切り込み面を生成し、輪郭線の最大の距離が制限値を超えないように注意すべきである。従って、便宜上、隣接する輪郭線の距離が制限値を超えないように、第一の空間的方向の輪郭線の距離を選択することが望ましい。この目的のために用いられる測定は、輪郭線投射画像の距離であっても、三次元空間内の距離であってもよい。眼科手術では、多くは十分な近似で光学的に補正するための湾曲した切り込みは、所定の制限内で球面形状または楕円形状に各々従うので、簡略化のために輪郭線の平均距離が一定で、特に閾値より小さくなるように、第一の空間的方向の距離を選択すれば十分であり、前記閾値はもちろん上記の制限値より小さい。楕円状の切り込み面の場合、隣接する輪郭線の距離は、光学的穿孔の配置が十分密になるように、輪郭線画像内の長軸の半分で評価するだけでよい。
【0022】
眼科手術では、角膜から塊を取り除くことで、より高次の収差の補正が必要になることもある。その結果、この目的で必要な切り込み面もより高次の曲率を有する。輪郭線を介してこれらの形状を直接描画することが望ましい場合、非常に複雑な輪郭線投射画像となることがあり、輪郭線を追跡する際、他の二つの空間的方向において複雑な素早い変位が必要になる。このような場合、輪郭線の決定において湾曲した切り込み面の高次の曲率を無視し、輪郭線に従って他の二つの空間的方向で焦点を変位させる際、高次の曲率の影響に従って第一の空間的方向で変位を修正することが望ましい。その結果、より高次の収差のない湾曲した切り込み面に対応する基本的な移動において、第一の方向、例えばz方向でより高次の収差の補正が調整される。
【0023】
生理学的な条件によって、視覚障害を補正するための多くの眼科的補正では、眼の光軸に対して円の境界領域に配置された塊を取り除くことが望ましい。これは、乱視の補正が必要な場合にも当てはまる。このような場合、楕円が所望の円領域を超えて広がる周辺領域でレーザ光を制御しながら(例えば、光学的スイッチまたは遮蔽体や、レーザ光源を操作することで)、そこでは光学的穿孔が生じないようにして、輪郭線によって楕円を検出することが望ましい。このように、楕円の周辺領域を遮蔽することで、(乱視用に)湾曲した切り込み面を円領域内でのみ生成することが保証される。
【0024】
本発明による装置では、焦点の変位は走査ユニットによって行い、前記走査ユニットは好ましくは調整可能な望遠鏡として設計したズーム対物レンズを有し、前記対物レンズが第一の空間的方向(通常はz方向)で変位させ、他の二つの空間方向(通常はxおよびy方向)では回転軸が交差する二つの傾斜ミラーを用いる。
【0025】
物質の表面、特に角膜の前面が所定の形状を有する場合、光学的手段によって湾曲した切り込みを製造することが望ましい。これは、焦点の誘導を容易にする。さらに、それによって複雑なビームの再調整が不要になることがあるので、処理する物質、特に角膜を空間的に固定することが望ましい。両方の観点から、物質表面に特定の形状を与えるコンタクトレンズを物質上に配置することが望ましい。それから、輪郭線を決定する際にこの形状を考慮する。これは、特に、コンタクトレンズで加圧されることで影響される上記の座標変換を制御部に入力する点で有効である。
【0026】
本発明による方法と装置の両方で、コンタクトレンズを用いることが望ましい。装置では、コンタクトレンズが物質表面に与える形状は、制御ユニットにおいて既知であるか、あるいは制御ユニットに適切に入力し、制御ユニットは物質の表面形状を用いて、輪郭線を選択する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】レーザ手術機器を用いたレーザ手術中の患者の斜視図。
【図2】図1の機器において、患者の眼上に光束を集束させている図。
【図3】図1の機器を用いたレーザ手術中に生成された切り込みを説明する概略図。
【図4】図1のレーザ手術機器の偏向装置を示す図。
【図5】図4の偏向ユニットの制御に用いられる典型的な輪郭線投射画像を示す図。
【図6】連続的な輪郭線の間の遷移を説明するために、図5と同様の輪郭線画像の詳細を示す図。
【図7】輪郭線の間のさらに可能な遷移を備えた図6と同様の図。
【図8】aは輪郭線画像の別の例を示す図、bは図4の偏向ユニットのための関連する制御関数を示す図。
【図9】視覚障害の補正用の眼科手術を実行する際の切り込み領域の平面図。
【図10】コンタクトレンズを用いた場合の図2と同様の図。
【図11】輪郭線の決定に関連したパラメータを示す図。
【図12】コンタクトレンズがある場合の図11のパラメータを示す図。
【図13】コンタクトレンズがない場合の図11のパラメータを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を、一例として図面を参照しながら、以下にさらに詳しく説明する。
図1は、患者の眼1を治療するためのレーザ手術機器を示しており、前記レーザ手術機器2は屈折率補正を行うのに役立つ。この目的のために、機器2は治療レーザビーム3を患者の眼1に出射し、患者の頭は頭保持部4に固定されている。レーザ手術機器2は、米国特許第6,110,166号で開示された方法を実行可能なパルスレーザビーム3を生成することができる。
【0029】
この目的のために、図2に概略的に示したように、レーザ手術機器2は光源Sを有し、光源Sの光は眼1の角膜5内で集束される。患者の眼1の視覚障害をレーザ手術機器2を用いて治療し、角膜5から物質を取り除き、角膜の屈折率特性を所望の量だけ変化させる。その際、上皮およびBowman膜の下であり、かつDecemet膜および内皮の上に配置された角膜間質から物質を取り除く、
物質の除去は対物望遠鏡6によって、角膜5内に位置する焦点7に高エネルギーのパルスレーザビーム3を集束させることで、角膜内の組織層を分離することにより行われる。パルスレーザ光3の各パルスは組織内に光学的穿孔を生成し、前記穿孔がプラズマ気泡8を生じさせる。その結果、組織層の分離は、レーザ光3の焦点7より広い領域をカバーする。レーザビーム3を適切に偏向させると、治療中に多くのプラズマ気泡8が連続的に配置される。それから、連続的に配置されたプラズマ気泡8が切り込み9を形成し、間質の部分的な塊T、つまり角膜5から取り除かれる物質を取り囲む。
【0030】
レーザ光3によって、レーザ手術機器2はメスのように動作し、角膜5の表面を損傷することなく、角膜5内の物質層を分離する。さらにプラズマ気泡8を生成することで、角膜5の表面に切り込みを誘導すると、切り込み9が分離した角膜5の物質は横方向に取り出され、除かれる。
【0031】
レーザ手術機器2による切り込み9の生成は、図3に概略的に示されている。切り込み9は、パルス集束レーザビーム3の焦点7の連続的な変位の結果として発生した一連のプラズマ気泡8によって形成される。
【0032】
一方、一実施形態による焦点の変位は、図4に概略的に示された偏向ユニット10によって行われ、偏向ユニット10は互いに直交する二つの軸に沿ってレーザビーム3を偏向し、前記レーザビーム3は入射主軸Hに沿って眼1に入射する。この目的のために、偏向ユニット10はラインミラー11および画像ミラー12を用いて、二つの空間的偏向軸が互いの背後に配置される。それから、主ビーム軸と偏向軸が交差している点が、偏向の各点となる。一方、望遠鏡6は、焦点を変位させるために適切に調整される。これによって、図4に概略的に示したx/y/z座標系の三つの直交する軸に沿って焦点7を変位できる。偏向ユニット10はx/y平面内で焦点を変位させ、ラインミラーがx方向での焦点の変位を可能にし、画像ミラーがy方向での焦点の調整を可能にする。それに対して、望遠鏡6は、焦点7のz座標に関して作用する。
【0033】
図3に示したように、切り込みが角膜面と同じ方向に湾曲している場合、画像フィールドの曲率が角膜の曲率と同様である光学系を用いて実現され、焦点7の誘導を考慮する必要はない。
【0034】
7〜10mmの間の角膜の曲率によって、部分的な塊Tも対応して湾曲する。従って、角膜の曲率は、画像フィールドの曲率の形態で有効になる。この曲率は、偏向ユニットの適切な制御によって考慮される。
【0035】
切り込み9を生成するために、その曲率から輪郭線投射画像16を決定する。画像16は一例として図5のx/y平面内で表されている。輪郭線画像16は複数の同心円状の輪郭線17からなる。輪郭線17は、切り込み面9においてz座標が同一の点を接続する。輪郭線投射画像16は、例えば湾曲した切り込み面9から、少なくとも近似的に一定のz座標を備えた点を取り出すことにより決定される。これは、各z座標でのx/y平面における湾曲した切り込み面9の数学的断面に対応する。図5の輪郭線画像16の各輪郭線17を生成するために、輪郭線画像16内の隣接する輪郭線17の間の距離が所定の制限値を超えないようにz座標は選択されている。この制限値は、連続的な切り込み面を実現するために許容可能な二つのプラズマ気泡8の間の許容可能な最大距離によって定義される。
【0036】
切り込み9を生成するために、輪郭線17に従って偏向ユニット10によって焦点7を変位させ、一方でズーム光学系6は各輪郭線17に対して焦点7の対応するz座標を調整する。焦点7が輪郭線17を通る際、望遠鏡6は固定されたままであり、望遠鏡6は隣接する輪郭線の間の遷移18の間にのみ調整される。この遷移18は図5の破線で示されている。
【0037】
図6は、輪郭線画像16の詳細を示している。輪郭線17は各々ほぼ完全な閉曲線として焦点7で追跡し、輪郭線17の始まりと終わりとの間の距離は制限値によって規定された二つのプラズマ気泡8の間の最大の距離を超えない。各輪郭線17の最後では(図6では、三本の輪郭線17.1、17.2および17.3が示されている)、望遠鏡6を調整することで次の各輪郭線への遷移18を行う。従って、輪郭線17.1と17.2の間には遷移18.1があり、輪郭線17.2と17.3の間には遷移18.2がある。これは、全ての輪郭線に対して継続する。このようにして選択した遷移によって、一方では二つのプラズマ気泡8の間の許容可能な最大の距離に対して制限値が超えず、他方では連続的な経路として輪郭線17を描くことが実現される。
【0038】
図6では、遷移18は湾曲した切り込み面9の最急降下線上に実質的に配置される。この点に関して、図7は異なる遷移18.1〜18.3を示しており、ここでは一つの輪郭線の終わりと隣接する輪郭線の始まりの間で滑らかな遷移が行われる。簡略化のために、図7では対応する輪郭線の継続が破線で示されているが、この継続は焦点7では追跡されない。図のように、次の輪郭線への滑らかな遷移は、ラインミラー11および画像ミラー12の適切な制御によって、輪郭線17の終わりで行われる。同時に、このようにして実現される遷移18.1、18.2および18.3の間には、望遠鏡6が調整される。
【0039】
図6の遷移では、隣接する輪郭線は反対方向に回転して追跡されるのに対して、この場合は輪郭線は単一方向の回転となり、螺旋と同様に連続的に配置される。しかし、本当の螺旋とは異なり、遷移18を除いては焦点7が輪郭線を追跡し、一つの輪郭線から次の輪郭線への変化は、360°回転で連続的にではなく、小さな回転角の範囲で行われる。
【0040】
図8aは輪郭線画像16の別の例を示しており、この例は同心円状の楕円輪郭線17から構成されている。この輪郭線画像の場合、各輪郭線17についてのラインミラー17および画像ミラー12の時間的制御が図8bに概略的に示されており、図8bではミラーは制御関数FyとFxで制御され、FyおよびFxは式sinφまたはA・sin(φ+α)およびcosφまたはR・cos(φ+α)を満たす(φは輪郭線の角度パラメータ、αはy軸に対する楕円の主軸上での角度位置のパラメータR、Aは楕円率に影響するパラメータであり、多くの場合はR=1である)。
【0041】
円状ではない輪郭線投射画像の場合、z方向で観察される切り込み面9は円状ではない領域を有し、眼科的条件では好ましくないので、一実施形態では、このような回転非対称な輪郭線画像の円領域の外側に配置される領域では、光学的穿孔、つまりプラズマ気泡8が物質5内に生成されないように光源Sを制御する。これは、図9では異なる斜線の領域で示されている。左上から右下に向かう斜線で示される円領域19では、光源Sはプラズマ気泡8を生成できる。しかし、輪郭線画像16が所望の円領域19を超えて突出している領域20では、光源Sは動作させないか、少なくともプラズマ気泡8が発生しないように動作させる。
【0042】
レーザ手術機器2およびそれによって実行される方法は、手術中に角膜の前面形状を不変なままにする概念と共にこれまで説明してきた。しかし、上記の内容は、角膜5にコンタクトレンズを配置する方式にも当てはまる。この方式で提示した構造は図10に概略的に示されており、図10は図2に実質的に対応し、図2と共に既に説明した要素についてはさらに詳しくは説明しない。しかし、図2と比べて、ここでの角膜5はその上に適合させたコンタクトレンズ21を有し、コンタクトレンズ21の内面22は角膜5の前面に対して所定のプロファイルを伝える。既に説明した方式と比べて、経路線、例えば輪郭線を決定する際、角膜5の曲率を自由に、つまり自然条件で考慮するだけでなく、コンタクトレンズ21の内面22によって与えられる形状も考慮しなければならない。
【0043】
コンタクトレンズ21がない場合、眼1の幾何学的条件は図11に示されているとおりである。眼の中心Zに対して、角膜5はほぼ球面に湾曲し、その位置は曲率半径RCVと光軸OA上の中心位置Zによって明確に決定される。従って、プラズマ気泡8を生成するために、レーザの焦点7が衝突する点の座標は、円筒座標(光軸OAからの半径r、頂点面からの距離zおよび角度φ)または極座標(眼の中心Zからの半径r、角度φおよびα)のいずれか一方で明確に示すことができる。両方の座標系において、焦点7を変位させる輪郭線または経路線を各々計算および指示でき、楕円の経路線は特に円筒座標により数学的に容易に記述される。
【0044】
コンタクトレンズ21を眼の上に配置する場合、コンタクトレンズ21の内面22が角膜を変形させない限り、図13に示した条件が提示される。コンタクトレンズはここでは球面に湾曲し、曲率半径Rは角膜の曲率半径RCVより大きい。コンタクトレンズ21を眼1の上に加圧すると、角膜5は球から楕円に変形し、図12に概略的に示した条件が生じる。従って、接触圧が眼の変形を引き起こし、少なくとも光軸OAの周りの領域で前記接触圧がない場合より、眼は、コンタクトレンズ21の内面22と極めて密に接触する。
【0045】
ここで幾何学的条件が変化しているので、焦点7の場所および経路線の数学的記述について、座標変換として加圧動作を理解でき、これは「接触圧変換」とも呼ばれる。コンタクトレンズも通常眼1を固定するために用いられるので、変換された座標は好ましくは球面に湾曲したコンタクトレンズの中心Mと便宜上関連し、つまり眼は機器2と固定的に接続される。ここでは、コンタクトレンズの二重関数(形状および空間的固定を与える)が有効になる。
【0046】
ここで、楕円の経路線が得られる。経路線の楕円率は、前記コンタクトレンズの形状に依存する。楕円率は、楕円の長軸と短軸の比率であると理解される。
平面のコンタクトレンズは数学的境界線の場合を表し、輪郭線走査の概念はここでは経路線の縮退をもたらすが、経路線は閉じているとみなすこともできる。応用の点ではより意味がある湾曲したコンタクトレンズの場合は、楕円率はコンタクトレンズの曲率に依存することとなる。さらに、多くの場合、楕円率は処理フィールド全体で一定ではないが半径方向依存性を示す。
【0047】
原理的に、楕円率については次式が成り立つ。
【0048】
【数3】

ここで、RとRは楕円の主軸方向の角膜面の曲率半径を表し、zは角膜の頂点から(輪郭線の)処理点までの距離である。所定の円筒座標系(z:角膜の頂点からの距離、r:光軸からの距離、φ)では、zは処理フィールドの半径方向のパラメータvの関数となるので、e(z)=e(z(r))によって楕円率の半径方向依存性を記述することが望ましい。
【0049】
上式は、主に裸眼の場合に成り立つ。コンタクトレンズによる加圧は通常、計算で考慮すべき変形をもたらす。角膜の外側の曲率半径RCVと、コンタクトレンズの曲率半径Rが影響を与える。変換の簡単かつ簡潔な表現は、以下のようである。
【0050】
【数4】

さらに修正して、上式に補正項をもたらすことももちろん可能であり、有用なこともある。しかし、上式はそこを修正するだけで、原則としてなお当てはまる。上記の関係は、楕円率の計算を含む経路線の計算を可能にする。計算アルゴリズムにおいて特に重要なステップは、裸眼系とコンタクトレンズ系の間の前方および後方変換である。
【0051】
人間の眼の曲率半径にほぼ対応する曲率半径を備えたコンタクトレンズの場合、経路線の楕円率は通常1.2未満である(長軸は短軸より10%長い)。−2dptおよび1dptの球面円柱補正の場合、楕円率は例えば光軸の近傍の中央フィールド領域ではわずか約1.03であり、光軸からの距離が外側の経路曲線まで増大すると約10%まで増大する。一実施形態では、楕円率、または理想的な円経路の対応する修正の変動は視覚障害の高次の補正に悪影響を与えず、従って一次近似で一定であると仮定できる。
【0052】
この発明による輪郭線の使用は、コンタクトレンズ(平面または湾曲)ありなしの両方の方式に適用できることを再び強調するが、コンタクトレンズを使用すると追跡する必要がなくなり、既存の面の形状について明確になる。
【0053】
コンタクトレンズを使用する場合、適切な方法および装置によって表面形状を決定でき、加圧動作によって規定される形状と同様の方法でも(同様に)考慮される。
ただし、コンタクトレンズ面の形状が球面では記述できないが、例えば放物面等の異なる空間領域関数に従う場合、上記の変換と同様に変換法則を与えることができ、前記法則は同一の物理概念に従う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜(5)内に切り込み(9)を形成するための装置であって、
角膜(5)内にレーザ光を集束して角膜(5)内に光学的穿孔(8)を生成するレーザ光源(S)と、
コンタクトレンズ(21)であって、該コンタクトレンス(21)を角膜(5)の表面に加圧することにより角膜(5)を所定の形状に変形させる前記コンタクトレンズ(21)と、
焦点を三次元的に変位する走査ユニット(6、10)と、
角膜(5)に一連の光学的穿孔(8)を生成することにより切り込み(9)が形成されるように前記走査ユニット(6、10)を制御する制御ユニット(2)とを備え、
前記走査ユニット(6、10)は、焦点を第1の空間方向に沿って変位させる調整可能な光学素子を含み、
前記制御ユニット(2)は、前記コンタクトレンズ(21)の影響による角膜(5)の変形に基づいて前記走査ユニット(6、10)を制御する、装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
前記制御ユニット(2)は、以下の式
【数1】

に従う座標変換による変形に基づいて前記走査ユニット(6、10)を制御し、
α、φ、Rは、角膜(5)の変形前の球面座標であり、α’、φ’、R’は、変形状態の角膜(5)に対する球面座標であり、RCVは、非変形状態の角膜(5)の表面の曲率半径であり、Rは、前記コンタクトレンズ(21)の曲率半径であることを特徴とする装置。
【請求項3】
角膜(5)内に切り込み(9)を形成するための方法であって、
コンタクトレンズ(21)を角膜(5)の表面に加圧することにより角膜(5)を所定の形状に変形させること、
角膜(5)内にレーザ光を集束して角膜(5)内に光学的穿孔(8)を生成すること、
角膜(5)に一連の光学的穿孔(8)を生成することにより切り込み(9)が形成されるように制御ユニット(2)を用いて走査ユニット(6、10)を制御して焦点を三次元的に変位させることを含み、
前記変位させることは、前記制御ユニット(2)が前記コンタクトレンズ(21)の影響による角膜(5)の変形に基づいて前記走査ユニット(6、10)を制御することを含む、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
前記制御ユニット(2)は、以下の式
【数2】

に従う座標変換による変形に基づいて前記走査ユニット(6、10)を制御し、
α、φ、Rは、角膜(5)の変形前の球面座標であり、α’、φ’、R’は、変形状態の角膜(5)に対する球面座標であり、RCVは、非変形状態の角膜(5)の表面の曲率半径であり、Rは、前記コンタクトレンズ(21)の曲率半径であることを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−24640(P2012−24640A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246661(P2011−246661)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【分割の表示】特願2006−520805(P2006−520805)の分割
【原出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(503078265)カール ツァイス メディテック アクチエンゲゼルシャフト (51)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss Meditec AG
【住所又は居所原語表記】Goeschwitzer Strasse 51−52, D−07745 Jena, Germany