説明

透析の必要性を予測するためのBNP型ペプチド類の使用

【課題】腎障害に罹患している患者において、透析の必要性を生じるリスク及び時期を診断予測するための、信頼性のある、かつ効率的な手段及び方法を提供する。
【解決手段】(a)患者由来のサンプルにおけるBNP型ペプチド又はその変異体のレベルを測定するステップ、(b)BNP型ペプチド又はその変異体の測定されたレベルを少なくとも一の参照レベルと比較することによってリスクを診断するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析の必要性を生じるリスクを、特に腎疾患に罹患した患者において、診断することに関する。より具体的には、本発明は、透析の必要性、及び/又は透析の必要性が生じるまでの時間を予測することに関する。したがって、本発明は、どの患者が緊密なモニタリングを必要とする及び/又は早期の積極的治療を開始することにより最も利益を受けるかというリスク分類も提供する。
【背景技術】
【0002】
近代医療の目的は、個別の、かつ個人に合わせた治療計画を提供することである。それらは、患者個人の必要性又はリスクを、例えば、特定の治療計画若しくはモニタリング計画を選択することによって、考慮した治療計画である。
【0003】
透析は、一種の腎置換療法であり、腎不全によって失われた腎機能の人工的代替を提供するために利用される。透析は、主に生命維持治療であって、通常、腎疾患を少しも治癒しない。透析は、突然腎機能を失った重症患者(急性腎不全)、又は透析の開始が尿毒症を治療する上で必要になる(腎不全末期、慢性腎疾患末期)までその腎機能が徐々に悪化していく(慢性腎不全、慢性腎疾患)極めて安定した患者に対して使用することができる。
【0004】
本明細書の内容において、腎機能が慢性的に低下ししていても、あるいは腎臓を1つだけしか有していない場合でさえも、生きていくことは十分可能なことに留意すべきである。機能している腎組織の量が大幅に低下したときだけ、慢性腎不全が発症する。このような腎機能の代償不全は、他の多くの器官の機能に影響を及ぼし、必然的に尿毒症による死をもたらし得る。重度の尿毒症を呈する急性若しくは慢性の非代償性患者では、腎置換療法(例えば、透析、若しくは腎移植)が直ちに適応とされる。しかしながら、腎機能の通常観察される慢性的悪化や進行性代償不全に対して、腎不全は唐突に起こり得るし、また腎不全は、感染、敗血症、又は様々な薬物療法の毒性副作用のため、なお安定した腎機能を有していると以前にみなされた患者でさえ予測することはできない。腎機能障害の度合いを評価するために確立された実験室値はある(下記参照)が、透析の必要性を生じるリスクで患者を同定するためのバイオマーカーのような簡便な診断手段及び方法が、強く望まれている。
【0005】
ほとんどの開業医は、クレアチニン、尿素、シスタチンC、及び電解質の血漿濃度を用いて腎機能を判定している。これらの基準は、患者が腎疾患に罹患しているかどうかを決めるのに適している。残念なことに、血中尿素窒素とクレアチニンは、総腎機能の60%が失われるまで正常範囲から逸脱しない。
【0006】
腎臓病患者では、糸状体濾過速度(glomerular filtration rate:GFR)に関する評価が、腎機能を評価するのに利用される。GFRは、尿クレアチニンレベルを血液検査結果と比較することで計算される。GFRは、腎臓状態のより正確な指標となる。GFRは、mL/min(1分あたりのミリリットル数)で表される。ほとんどの患者で、60mL/minを超えるGFRが適切である。しかし、もしGFRが以前の検査結果から大幅に減少している場合には、それは医学的介入を必要とする腎疾患の初期徴候の可能性がある。
【0007】
シスタチンC測定は、クレアチニンよりもGFRとより密接に相関している。血清シスタチンC参照値は、女性と比べて男性でかなり高い。さらに、血清シスタチンCは、60歳を超えると年齢と共に増加する。高齢者では、参照値において性別による差異はない。シスタチンCは、身体組成とは独立していると考えられていたが、しかし、除脂肪体重は、シスタチンCレベルに影響を及ぼし、またGFRのシスタチンCに基づく予測は、この変数を考慮すると改善される。
【0008】
一方、これらのマーカーは、今のところ腎機能の現在の状態を測定するのに使用されているが、これらだけでは、透析の必要性を生じるリスクを診断するには不十分である。
【0009】
Sanchezら(2004)は、肝移植を受けた患者における腎置換療法についての必要性の術前予測因子及び術中予測因子を調べた。彼らは、1.9mg/dLを超える手術前の血清クレアチニン、27 mg/dLを超える手術前の血中尿素窒素、3日を超える集中治療室滞在、かつ21を超える末期肝疾患モデル(Model for End-Stage Liver Disease)スコアが深刻であることを記載している(非特許文献1)。しかし、これらの指標の組合せは、肝移植レシピエントに対してのみ適用され、単純に一般化することはできない。
【0010】
MCP-1、ADMA、生検(例えば、ループス腎炎における慢性腎障害の形態学的測定)のようないくつかの推定マーカーが、透析の必要性の予測のために研究された。
【0011】
BNP型ペプチド類(例えば、脳ナトリウムペプチド(BNP)及び/又はそのN末端プロペプチド断片(NT-proBNP))、及びある種の疾患の診断用の分子マーカー又は生化学マーカーとしてのそれらの使用は、それ自体は公知である。特許文献1では、脳ナトリウムペプチド(BNP)を測定して心筋梗塞を診断することが示唆されている。特許文献2では、BNPを使用して、うっ血性心不全、心筋梗塞、ST上昇性心筋梗塞、若しくはST非上昇性急性冠症候群を呈する患者における短期の罹患率又は死亡率を予測することを示唆されている。血漿レベルのNT-proBNPは、慢性腎疾患の存在によっても影響されると疑われており、そのことがNT-proBNPが腎機能のマーカーとしては満足できるものではないかもしれないことを示唆した。
【0012】
したがって、現在のところ、透析の潜在的必要性を評価するためのごく限られた数の候補手段が、先行技術に記載されているだけである。
【特許文献1】WO02/089657
【特許文献2】WO02/083913
【非特許文献1】Sanchez EQ, Gonwa TA, Levy MF, Goldstein RMら (2004) Preoperative and perioperative predictors of the need for renal replacement therapy after orthotopic liver transplantation. Transplantation, vol. 78(7), pp. 1048-54
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
それ故、透析の必要性を生じるリスクの診断を改善し、かつ最先端技術の不便な点を克服する必要がまだある。特に、透析の必要性を生じるリスクを診断するための信頼性のある、かつ効率的な手段及び方法を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、慢性腎不全に罹患している患者において、透析の必要性を生じるリスク及び時期を診断し、予測する方法であって、以下のステップ:
a)患者由来のサンプルにおけるBNP型ペプチド又はその変異体のレベルを測定するステップ、
b)BNP型ペプチド又はその変異体の測定されたレベルを少なくとも1つの参照レベルと比較することによって、透析の必要性についてのリスクを診断し、予測するステップ
を含む前記方法によって達成される。
【0015】
本方法は、患者の体液又は組織サンプルを取得するステップを含んでいてもよい。前記レベルは、患者の体液又は組織サンプルで測定されることが好ましい。
【0016】
本発明は、透析の必要性を生じるリスクの診断を可能にする方法及び手段、特にマーカーを提供する。その結果、本発明はまた、透析の必要性及び/又は透析の必要性が生じるまでの時間を予測することを可能にする。より具体的には、本発明の無い用において、BNP型ペプチドの測定レベルが透析の必要性を生じるリスクを示し得ることが見出された。本明細書で提供する方法及び手段は、簡便、迅速、安価であり、かつ一般開業医のみならず、より専門的な医師、病院若しくは研究室による使用にも適している。本発明はまた、本発明によるマーカー、手段及び方法のいずれかの該当する使用を提供する。
【0017】
本発明の過程で、患者のBNP型ペプチドのレベルが透析の必要性を生じるリスクを示し得ることが明らかになった。さらに、BNP型ぺプチドのレベルから、透析の必要性を生じるのがかなり早いのかかなり後なのかの予測が可能になることが明らかになった。これらの知見は、BNP型ペプチドのレベルが、元来、心疾患の有無によって強く影響されると考えられており、それ故、BNP型ペプチドによって透析の必要性を生じるリスクの予測が可能になるとは考えられていなかったことから、かなり予想外であった。
【0018】
とりわけ、本発明はまた、特に、透析の必要性を生じるリスク(及び/又はその予測)の初期診断を可能にする。その結果、本発明によって、腎機能の代償不全のリスクが増加した患者を同定することも可能になる。したがって、これまで可能であった技術よりも早く、腎臓保護治療を調整し、最適化することが可能となる。よって、本発明は、透析の必要性のリスクが増加していると同定された患者において、早期に及び/又はより積極的に治療を開始することによって、より多くのネフロンを維持することを可能にし、また透析の必要性をできる限り遅延させることが可能となり得る。
【0019】
したがって、本発明はまた、適切な付随治療の準備をすること又は前記リスクに関してモニターすることを可能にする。その結果、本発明は、特に、どの患者がより緊密なモニタリングを必要とし及び/又は早期の積極的治療の開始によって最も利益を受けるかについての、リスク分類のための手段及び方法を提供する。
【0020】
既に述べたように、腎機能が低下していても、あるいは腎臓1つだけしか有しない場合でさえも、生存は十分に可能である。例えば、ヒトでは、生存に必要とされる分以上の腎組織が存在する。しかしながら、機能的な腎組織の量が大幅に減少した場合は、慢性腎不全が発症する可能性があり、腎機能障害が重篤な症状をもたらす可能性がある。このような場合には、腎置換治療(例えば、透析又は腎移植)が示唆される。
【0021】
本発明は、しばしば専門の装置を利用できなかったり、また腎機能障害を適切に診断し、かつ評価するための経験が不足したりする一般開業医や内科医に、特に有用である。しかし、本発明は、腎臓専門医及び/又は糖尿病専門医にもとりわけ役に立つ。他の例としては、腎臓病若しくは糖尿病外来診療所又は診療科が挙げられる。
【0022】
本発明は、あらゆる腎障害の関連において特に役に立つ。腎障害は、当業者には公知である。本発明によれば、用語「腎障害」とは、腎臓のあらゆる疾患、損傷、若しくは機能障害、又は腎臓に影響を及ぼす、より具体的には老廃物の除去及び/若しくは限外濾過に関する腎臓の能力に影響を及ぼすあらゆる疾患、損傷、若しくは機能障害に関するものと認められる。
【0023】
腎障害の例は、先天的障害及び後天的障害を含む。本発明は、特に、後天的腎障害に適用される。先天的腎障害の例は、先天性水腎症、先天性尿路閉塞、重複尿管、馬蹄腎、多発性嚢胞腎、腎形成不全、片側小腎臓を含む。後天的腎疾患の例は、糖尿病性若しくは鎮痛薬性腎症、糸球体腎炎、水腎症(尿流閉塞により引き起こされる一方又は両方の腎臓の腫脹)、間質性腎炎、腎結石、腎腫瘍(例えば、ウィルムス腫瘍及び腎細胞癌)、ループス腎炎、微少変化型疾患、ネフローゼ症候群(大量の血中タンパク質が尿中に入るほど糸球体が損傷を受けている。ネフローゼ症候群の他に頻繁に見られる特徴としては、膨張、低血清アルブミン、及び高コレステロールが挙げられる)、腎盂腎炎、腎不全(例えば、急性腎不全及び慢性腎不全)を含む。
【0024】
より具体的には、本発明を使用して、高血圧、慢性心不全、慢性虚血性心疾患などの心疾患合併症、又は既に上述した糖尿病に罹患している患者における上記リスクを診断することができる。
【0025】
腎障害は、公知で、かつ適切と思われる任意の方法によって診断することができる。特に、腎機能は、糸球体濾過速度(glomerular filtration rate:GFR)を用いて評価することができる。例えば、GFRは、Cockcroft-Gaultの式若しくはMDRDの式によって算出することができる(Levey 1999, Annals of Internal Medicine, 461-470)。GFRとは、腎糸球体毛細血管からボーマン嚢への単位時間当たりの濾過流量である。臨床的には、これは腎機能を測定するのによく利用される。GFRは、元々、血漿中へイヌリンを注入することで算出された(GFRは、決して測定することはできない。Cockcroft-Gaultの式若しくはMDRDの式のような式から導かれる全ての計算は、単に推定値を導き出しているに過ぎず、「真の」GFRではない)。イヌリンは、糸状体濾過後に腎臓により再吸収されないので、その排泄速度は、糸状体フィルターを通した水分及び溶質の濾過速度に正比例する。しかし、臨床業務においては、クレアチニンクリアランスがGFRを測定するのに使用されている。クレアチニンは、内在性分子であり、体内で合成され、糸状体により制限を受けることなく濾過される(しかし、ごくわずかな量は尿細管により分泌される)。それ故、クレアチニンクリアランス(CrCl)は、GFRに非常に近似する。GFRは、通常、1分あたりのミリリットル数(mL/min)で記録される。男性のGFRの正常範囲は、97〜137mL/min、女性のGFRの正常範囲は、88〜128mL/minである。
【0026】
もし、GFRが血液に関して尿毒症の毒素濃度の除去が可能な臨界閾値(通常、GFRでは、CrCl <10〜15mL/min、腎不全末期)を下回るほど減少した場合には、その後、(患者の臨床症状といった他の臨床環境にもよるが)腎置換治療が適応とされる。例えば、腎障害は、公知、かつ適切と思われる任意の手段によって診断され得る。特に、腎機能は、GFRを用いて評価することができる。腎障害の最初の手がかりの1つは、尿中にタンパク質が存在すること(ミクロアルブミン尿又はマクロアルブミン尿)である。これは、簡単な試験スティックで評価することができる。現在まで使用されている最も一般的な血液検査は、その精度に問題があることがわかってはいるものの、未だにクレアチニンである。
【0027】
もし、GFRが著しく低く下がった(腎不全末期)ならば、腎置換療法(例えば、透析若しくは腎移植)が適応とされる。
【0028】
好ましくは、10mL/min未満のGFRは、透析の必要性を示し、また6mL/min未満のGFRは、即座の透析の必要性を示す。透析は、好ましくは、患者が15 mL/min未満のGFRを示し、かつ以下の臨床症状:尿毒症、利尿薬耐性体液過負荷、血圧制御不良、又は栄養失調の証拠の症状若しくは徴候の、少なくとも1つを呈する場合にも適応とされる。
【0029】
「透析」は、当業者には公知である。具体的には、透析は、腎不全によって失われた腎機能に対する人工代替を提供するために使用される1種の腎置換療法である。透析は、主に生命維持的な治療であって、通常、いかなる腎疾患も治癒しない。透析は、突然腎機能を失った(急性腎不全)重症患者のため、又は腎機能を永続的に失っている(腎不全末期)非常に安定した患者のために使用することができる。健常時に腎臓は、老廃物(例えば、カリウム、酸、及び尿素)を血液から除去し、尿の形で過剰な体液をも除去する。透析治療は、これらの両方の機能をそっくり模倣することができる。したがって、本発明に係る用語「透析」とは、好ましくは老廃物除去、及び/又は限外濾過(体液除去)に関する。より具体的には、用語「透析」とは、老廃物除去、最も具体的には限外濾過と組み合わさった老廃物除去に関する。
【0030】
用語「透析の必要性」とは、当業者には公知である。具体的には、本発明によればこの用語は、あらゆるタイプの腎置換療法(例えば、透析、腎移植、及び腎組織移植を含む)の必要性に関するものと認められる。より具体的には、「透析の必要性」という用語は、(例えば、ドイツのFresenius Medical CareのONLINE HDFを用いる)透析に匹敵する老廃物除去及び限外濾過に効果があるあらゆるタイプの腎臓治療の必要性に関する。
【0031】
本発明は、所定の生化学マーカー又は分子マーカーを利用する。「生化学マーカー」及び「分子マーカー」という用語は、当業者には公知である。特に、生化学マーカー又は分子マーカーは、所定の症状、疾患又は合併症の有無の下で、異なった発現(すなわち、上方調整、又は下方調整)がなされる遺伝子発現産物である。通常、分子マーカーは、(mRNAのような)核酸として定義される。一方、生化学マーカーは、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドである。適切な生化学メーカー又は分子マーカーのレベルは、症状、疾患又は合併症の有無を示すことができ、それ故、それによる診断が可能となる。
【0032】
本発明は、特にBNP型ペプチドを生化学マーカーとして利用する。また、生化学マーカーとしてのBNP型ペプチドのあらゆる組み合わせの使用も、本発明の内容において考慮される。好都合なことに、本発明の基礎を成す研究で、BNP型ペプチド、特にNT-proBNPが、透析の必要性を生じるリスクに関して、正確で、効率的で、かつGFRに対して統計的に独立した予測因子であることが明らかにされた。
【0033】
BNP型ペプチドは、pre-proBNP、proBNP、NT-proBNP及びBNPを含む。
【0034】
プレ-プロペプチド(pre-proBNPの場合は134アミノ酸)は、短いシグナルペプチドを含む。このシグナルペプチドは、酵素的に切り除かれて、プロペプチド(proBNPの場合は108アミノ酸)が遊離する。プロペプチドは、さらにN末端プロペプチド(NT-プロペプチド、NT-proBNPの場合は76アミノ酸)と活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸)に切断される。
【0035】
本発明に係る好ましいBNP型ペプチドは、proBNP、NT-proBNP、BNP、及びそれらの変異体である。BNPは活性ホルモンであり、恐らくは不活性なNT-proBNPよりもインビボでは短い半減期を有する。
【0036】
事前分析は、中央研究室へのサンプル輸送がより容易となるNT-proBNPを用いれば、より頑健である(Mueller T, Gegenhuber A, Dieplinger B, Poelz W, Haltmayer M. Long-term stability of endogenous B-type natriuretic peptide (BNP) and amino terminal proBNP (NT-proBNP) in frozen plasma samples. Clin Chem Lab Med 2004; 42: 942-4.)。血液サンプルは、数日間は室温で保存することができ、又は回収時の損失なしに郵送若しくは輸送することができる。それに対し、室温又は4℃での48時間のBNPの保存は、少なくとも20%の濃度の損失をもたらす(Mueller T, Gegenhuber Aら, Clin Chem Lab Med 2004;42: 942-4, supra;Wu AH, Packer M, Smith A, Bijou R, Fink D, Mair J, Wallentin L, Johnston N, Feldcamp CS, Haverstick DM, Ahnadi CE, Grant A, Despres N, Bluestein B, Ghani F. Analytical and clinical evaluation of the Bayer ADVIA Centaur automated B-type natriuretic peptide assay in patients with heart failure: a multisite study. Clin Chem 2004; 50: 867-73.)。
【0037】
活性型又は不活性型のどちらかの測定が、目的のタイムコース及び利用可能な分析機器又は保存条件に応じて、有利となり得る。本発明に係る最も好ましいBNP型ペプチドは、NT-proBNP及びその変異体である。
【0038】
本明細書中で「変異体」とは、前記ペプチドと実質的に類似するペプチドに関する。「実質的に類似する」とは、当業者には十分に理解されている。特に、変異体は、ヒトの集団で最も一般的なペプチドアイソフォームのアミノ酸配列と比較してアミノ酸変化を示すアイソフォーム若しくはアレルであってもよい。好ましくは、このような実質的に類似するペプチドは、最も一般的なアイソフォームのペプチドに対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有する。実質的に類似するペプチドは、分解産物(例えば、タンパク質分解による分解産物)でもあり、それらは、診断手段によって又はそれぞれの全長ペプチドに対するリガンドによってなおも認識されるものである。また、「変異体」とは、スプライス変異体にも関する。
【0039】
「変異体」とは、グリコシル化されたペプチドのような翻訳後修飾されたペプチドにも関する。「変異体」は、例えば、標識の、特に放射性標識又は蛍光標識の、ペプチドへの共有結合若しくは非共有結合的付加によって、サンプルの回収後に修飾されたペプチドでもある。
【0040】
具体的な変異体の例、及びそれらを測定する方法は、公知である(例えば、Ala-Kopsala, M., Magga, J., Peuhkurinen, K. et al. (2004): Molecular heterogeneity has a major impact on the measurement of circulating N-terminal fragments of A-type and B-type natriuretic peptides. Clinical Chemistry, vol. 50(9), 1576-1588を参照されたい)
本発明の他の好ましい実施形態は、異なるマーカーを同時に又は非同時に組み合わせて測定することを含む。一例として、BNPち組み合わせたNT-proBNPの測定がある。
【0041】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、ヘモグロビン(Hb)の量が、患者のサンプルにおいて測定されることになる。Hbは、当業者に周知の様々な技術で測定することができる。Hb量の顕著な増加は、透析の必要性を生じるリスクの増加も示す。Hb量の顕著な減少は、リスクの減少を示す。本発明に従って使用される場合、Hbの増加した量は、好ましくは11g/dLよりも多い量、より好ましくは13〜15g/dLの間の量であり、一方、減少した量は、11g/dLよりも少ない量、より好ましくは10.5g/dLよりも少ない量である。
【0042】
さらにまた、本発明の好ましい方法において、過去の病歴が考慮されるであろう。具体的には、本発明の基礎となる研究で、過去の心血管疾患、及び、好ましくは心筋梗塞が、透析の必要性を生じるリスクの増加の指標となることが明らかとなった。
【0043】
さらに、クレアチニンクリアランスの少なくとも1mL/minの減少は、透析の必要性を生じるリスクの増加の追加指標となる。それ故、クレアチニンクリアランスは、本発明の方法の他の好ましい実施形態において、NT-proBNPに加えて測定され得る。より好ましくは、15〜25 mL/minのクレアチニンクリアランスが、リスクの増加を示す。
【0044】
本明細書で使用する場合「診断する」とは、リスク、すなわち、被験体が本明細書で述べたような透析の必要性を生じる可能性を評価することをいう。当業者には理解されるであろうが、そのような評価は、通常、診断されるべき被験体の100%について正確であることは意図していない。しかしながら、本用語は、統計的に有意な一部の被験体についてはその透析の必要性を生じると正しく診断されうることを必要とする。そのような一部が統計的に有意かどうかは、さらなる労力をかけること無しに、当業者により、様々な周知の統計的評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、マン-ホイットニー検定等を用いて、判定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見ることができる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは0.05、0.01、0.005又は0.0001である。本発明による想定確率は、当該診断が所与のコホート若しくは集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%について正確であることを可能とするのが好ましい。
【0045】
本発明に係る診断は、判定すること、モニタリングすること、確認、下位分類、及び関連する疾患、リスク若しくは必要性の予測を含む。判定することとは、疾患、リスク若しくは必要性を自覚することに関する。モニタリングすることとは、例えば、疾患若しくはリスクの進行、又は疾患若しくはリスクの進行に対する特定の治療の影響を分析するために、既に診断された疾患、リスク若しくは必要性の経過を追うことに関する。確認とは、他の指標若しくはマーカーを用いて既に行われた診断を強化すること又は立証することに関する。下位分類とは、診断された疾患、リスク若しくは必要性の様々な下位の分類に従って診断をさらに規定すること、例えば、その疾患の軽度型と重度型に従って規定することに関する。予測とは、疾患、リスク若しくは必要性を、他の徴候若しくはマーカーが明らかになるか又は顕著に変化する前に、予知することに関する。
【0046】
本明細書の他の箇所で説明しているように、本明細書の方法によって提供されるリスク分類は、好ましくは、将来の規定の時間枠(予測時間枠)に関することは、理解されるべきである。予測時間枠とは、被験体が予測された確率によって透析の必要性を生じることとなるまでの時間間隔である。予測時間枠は、本発明の方法による分析時に被験体に残されている全寿命でありうる。予測時間枠は、本発明の方法で分析されるべきサンプルが採取された後、数ヶ月から最大で2年までの間隔があることが好ましい。より好ましい時間枠は、本明細書中の他の箇所で詳しく開示されている。
【0047】
本発明で「患者」とは、健康な個体、一見健康な個体、又は、特に疾患に罹患している個体に関する。具体的には、患者は、腎障害(特に、慢性腎疾患(例えば、糖尿病性ネフロパシーに起因する))、より具体的には末期前腎機能不全、又は末期前腎不全を呈する。したがって、患者は、糖尿病に罹患していてもよい。さらにより具体的には、測定又は診断時に、患者は透析を必要としておらず、及び/又は透析が直ちに必要であるとも診断されていない。
【0048】
本発明に係る診断は、好ましくは診断手段の使用によって行われる。診断手段は、目的の物質の、具体的には目的のペプチド若しくはポリペプチドの、より具体的にはBNP型ペプチドの、レベル、量、又は濃度を測定できる任意の手段である。
【0049】
各ペプチドのレベルを測定するために使用できる方法及び診断手段は、当業者に公知である。これらの方法は、マイクロプレートELISAベース法、完全自動化された若しくはロボット化免疫アッセイ(これらは、例えば、ElecsysTM又はCobasTM アナライザーについて利用可能である)、CBA(酵素的コバルト結合アッセイ:enzymatic Cobalt Binding Assay、例えば、Roche-HitachiTM アナライザーが利用可能)、及びラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-HitachiTM アナライザー上で利用可能)を含む。測定用の方法及び手段も、Cardiac ReaderTM(Roche Diagnosticsから入手可能)のようなポイント・オブ・ケア装置も含む。
【0050】
ポイント・オブ・ケア装置は、一般に、患者のベッドサイドでの測定を可能にするだけでなく、外来検査や在宅医療も可能にする装置と解されている。一例は、Cardiac ReaderTM(Roche Diagnosticsから入手可能)と、例えば、NT-proBNPに対する試験紙(「Cardiac proBNP」としてRoche Diagnosticsから入手可能)との組み合わせである。このような検査は、目的のペプチド(例えば、BNP型ペプチド)に対して2種の(好ましくはモノクローナル)抗体を使用しうる。そのような抗体は、例えば、ElecsysTMアッセイ又はCobasTMアッセイで使用される抗体と同一であってよい。例えば、一次抗体はビオチンで標識されているが、二次抗体は金粒子で標識されている。その検査は、試験紙上に(例えば、試験紙のサンプルウェル内に)少量(例えば、150μL)の血液サンプルを添加することにより開始することができる。例えば、サンプルを適当なフリース(例えば、グラスファイバーフリース)を通して流せば、サンプル中の赤血球を、試験紙に添加する前又は後に残余血漿から分離することができる。前記分離手段(例えば、フリース)は、試験紙の一部であることが好ましい。その抗体(試験紙上に予め存在することが好ましい)は、残った血漿中に溶解される。抗体は、目的のペプチド又はポリペプチドに結合することができ、3分子サンドウィッチ複合体を形成することができる。(結合若しくは未結合の)抗体は、その試験紙中を通って検出ゾーン内に流れ込む。検出ゾーンは、結合複合体を検出するための手段を含んでいる(例えば、ストレプトアビジンを含んでいる)。この手段は、複合体を固定し、固定化された複合体を紫色のラインとして、金標識された抗体によって視覚化する。残った遊離の金標識された抗体は、その後、試験紙のさらに下方に移動し得ることが好ましく、そこで、それは、検出されるべきBNP型ペプチドのエピトープを含む合成ペプチド又はポリペプチドを含んだゾーン中で捕捉され、別個の紫色のラインとして視覚化される。このような第2ラインの存在は、それがサンプルの流動が正しく行われたこと及び抗体が完全であったことを示すことから、コントロールとして機能し得る。試験紙は、どの目的のペプチド若しくはポリペプチドが試験紙で検出され得るかを示す標識を含んでいてもよい。また、検出ゾーン中で検出可能な標識の量を光学的に測定するための装置によって読み取り可能なバーコード又は他のコードを含んでいてもよい。このようなバーコードは、どの目的のペプチド又はポリペプチドが試験紙で検出され得るかを示す情報を含んでいてもよい。バーコードはまた、試験紙についてのロット特異的な情報を含むこともできる。
【0051】
上記Cardiac Readerそれ自身は、試験紙の検出ゾーンを光学的に記録するカメラ(例えば、電荷結合素子カメラ:CCDカメラ)を含む。シグナルライン及びコントロールラインは、パターン認識アルゴリズムによって特定することができる。シグナルラインにおける標識の強度は、通常、目的のペプチド又はポリペプチドの量に比例する。光学的シグナルは、コードチップ中に保存することのできるロット特異的な検量線によって濃度に変換することができる。較正コードと検査ロットの一致は、試験紙上のバーコードによって確認することができる。
【0052】
さらに、当業者は、ペプチド又はポリペプチドのレベルを測定する様々な方法に精通している。用語「レベル」とは、患者における若しくは患者から得られたサンプル中のペプチド又はポリペプチドの量又は濃度に関する。
【0053】
本発明に関して用語「測定する」とは、目的の核酸、ペプチド、ポリペプチド若しくは他の物質の量又は濃度を、好ましくは半定量的に又は定量的に測定することに関する。測定は、直接的又は間接的に行うことができる。間接的測定は、細胞応答、結合したリガンド、標識、又は酵素的反応産物の測定を含む。測定は、インビトロで行われることが好ましい。
【0054】
本発明の内容において、量は、濃度にも関連する。既知サイズのサンプルにおける目的の物質の総量から、その物質の濃度を算出することができることは明らかであり、その逆もまたしかりである。
【0055】
測定は、当該分野で公知の任意の方法によって行うことができる。好ましい方法を、以下で説明する。
【0056】
好ましい実施形態で、目的のペプチド又はポリペプチドのレベル、特にBNP型ペプチドのレベルを測定する方法は、(a)前記ペプチド又はポリペプチドに細胞応答できる細胞を、前記ペプチド又はポリペプチドと適切な期間接触させるステップ、(b)その細胞応答を測定するステップを含む。
【0057】
他の好ましい実施形態で、目的のペプチド又はポリペプチドのレベル、特にBNP型ペプチドのレベルを測定する方法は、(a)ペプチド又はポリペプチドを適当な物質と適切な期間接触させるステップ、(b)産物の量を測定するステップを含む。
【0058】
他の好ましい実施形態で、目的のペプチド又はポリペプチドのレベル、特にBNP型ペプチドのレベルを測定する方法は、(a)ペプチド又はポリペプチドを特異的結合リガンドと接触させるステップ、(b)(場合により)非結合リガンドを除去するステップ、(c)結合したリガンドの量を測定するステップを含む。
【0059】
前記ペプチド又はポリペプチドは、サンプル中、特に体液又は組織サンプル中に含まれていることが好ましく、サンプル中のペプチド又はポリペプチドの量が測定される。
【0060】
ペプチド又はポリペプチド(タンパク質)を、組織、細胞、及び体液サンプル中で、すなわち、好ましくはインビトロで、測定することができる。前記目的のペプチド又はポリペプチドは、体液サンプル中で測定することが好ましい。
【0061】
本発明に関する組織サンプルとは、死亡した又は生きているヒト又は動物の体から得られるあらゆる種類の組織をいう。組織サンプルは、当業者に公知の任意の方法によって(例えば、生検や掻爬によって)得ることができる。
【0062】
本発明に関する「体液サンプル」とは、好ましくは、血液サンプル又はその誘導物に関する。より好ましくは、前記用語は、血漿又は血清に関する。体液サンプルは、公知、かつ適当と思われる任意の方法で採取することができる。
【0063】
細胞サンプルを採取する方法は、単一細胞又は小細胞群を直接調製すること、組織を解離すること(例えば、トリプシンを用いて)、及び体液から細胞を分離すること(例えば、濾過若しくは遠心によって)を含む。本発明に係る細胞とは、血小板及び他の非核細胞(例えば、赤血球)も含む。
【0064】
必要であれば、前記サンプルを、さらに処理することができる。特に、核酸、ペプチド又はポリペプチドは、当該分野で公知の方法によってサンプルから精製することができる
当該方法は、濾過、遠心又はクロロホルム/フェノール抽出のような抽出法を含む。
【0065】
細胞応答を測定するために、サンプル又は処理されたサンプルは、細胞培養物に添加されて、細胞内又は細胞外応答が測定される。細胞応答は、レポーター遺伝子の発現、又は物質(例えば、ペプチド、ポリペプチド、又は小分子)の分泌を含んでもよい。
【0066】
測定に関する他の好ましい方法は、目的のペプチド又はポリペプチドに特異的に結合するリガンドの量を測定することを含んでもよい。本発明によれば結合とは、共有及び非共有結合の両方を含む。
【0067】
本発明に関してリガンドは、目的のペプチド又はポリペプチドに結合するあらゆるペプチド、ポリペプチド、核酸、又は他の物質であってよい。ペプチド又はポリペプチドが、ヒト若しくは動物細胞から採取され、又は精製された場合、それらは、例えば、グリコシル化により、修飾されている可能性があるということは、よく知られている。本発明によれば適切なリガンドは、そのような部位を介して前記ペプチド又はポリペプチドと結合することもできる。
【0068】
好ましくはリガンドは、測定されるべきペプチド又はポリペプチドに特異的に結合すべきである。本発明で「特異的結合」とは、リガンドが、調査するサンプル中に存在する他のペプチド、ポリペプチド又は物質と実質的に結合(「交差反応」)しないことを意味する。好ましくは、特異的に結合したタンパク質又はアイソフォームは、関連する他のペプチド又はポリペプチドよりも少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高い、さらに一層好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合される。本明細書において、前記他の関連するペプチド又はポリペプチドは、他の構造的に関連するか又は相同なペプチド又はポリペプチドであってもよい。
【0069】
非特異的結合は、特に、調査されるペプチド又はポリペプチドが、例えば、ウェスタンブロットにおいてそのサイズによって、又はサンプル中の比較的多い存在量によって、なお識別可能で、かつ明白に測定できる場合には、許容することができる。
【0070】
リガンドの結合は、当該分野で公知の任意の方法によって測定することができる。本方法は、半定量的又は定量的であることが好ましい。適切な方法を以下で説明する。
【0071】
まず最初に、リガンドの結合は、直接的に、例えば、NMR又は表面プラズモン共鳴によって、測定することができる。
【0072】
第2に、リガンドがまた、目的のペプチド又はポリペプチドの酵素活性の基質として機能するのであれば、酵素反応産物を測定することもできる(例えば、プロテアーゼの量は、切断された基質の量を、例えばウェスタンブロットで、測定することによって測定できる)。
【0073】
酵素反応産物の測定に関して、基質の量は飽和していることが好ましい。基質はまた、検出可能な標識で反応前に標識されていてもよい。サンプルは、適切な期間、基質と接触させることが好ましい。適切な期間とは、検出可能となるのに必要な時間、好ましくは生成されるべき産物の量が測定可能となるのに必要な時間をいう。産物量を測定する代わりに、所定の(例えば、検出可能な)量の産物が現れるのに必要な時間を測定することができる。
【0074】
第3に、リガンドは、共有結合的に又は非共有結合的に、リガンドの検出及び測定を可能にする標識と結合させてもよい。
【0075】
標識は、直接的又は間接的方法で行うことができる。直接標識は、標識を直接的に(共有結合的に又は非共有結合的に)リガンドに結合させることを伴う。間接標識は、一次リガンドへの二次リガンドの(共有結合的又は非共有結合的)結合を伴う。二次リガンドは一次リガンドに特異的に結合すべきである。前記二次リガンドは、適当な標識と結合されていてもよく、及び/又は二次リガンドに結合する三次リガンドの標的(受容体)であってもよい。二次、三次、又はさらに高次のリガンドの使用は、シグナルを増大させるのによく用いられる。適切な二次又はより高次のリガンドは、抗体、二次抗体、及び周知のストレプトアビジン・ビオチンシステム(Vector Laboratories, Inc.)を含むことができる。
【0076】
リガンド又は基質はまた、当該分野で公知の一以上のタグにより「タグ付加された」ものであってもよい。このようなタグは、その後、より高次のリガンドの標的となり得る。適切なタグは、ビオチン、ジゴキシゲニン、Hisタグ、グルタチオンSトランスフェラーゼ、FLAG、GFP、mycタグ、インフルエンザAウイルス・ヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質等を含む。ペプチド又はポリペプチドの場合には、タグはN末端及び/又はC末端に存在することが好ましい。
【0077】
適切な標識とは、適当な検出方法によって検出可能なあらゆる標識をいう。代表的な標識は、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素的に活性のある標識、放射性標識、磁気標識(常磁性ビーズ及び超常磁性ビーズを含む「例えば、磁気ビーズ」)、及び蛍光標識を含む。
【0078】
酵素的に活性のある標識は、例えば、西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びそれらの誘導体を含む。検出用の適切な基質は、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(4-ニトロ・ブルー・テトラゾリウム・クロリド及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸、Roche Diagnosticsから既製のストック溶液として入手可能)、CDP-StarTM (Amersham Biosciences)、ECFTM (Amersham Biosciences)を含む。適切な酵素‐基質の組み合わせは、呈色反応産物、蛍光、又は化学発光をもたらし得る。これらは、当該分野で公知の方法によって(例えば、感光フィルム又は適当なカメラシステムを用いて)測定することができる。酵素反応を測定することに関しては、上記で規定した基準を同様に適用する。
【0079】
代表的な蛍光標識は、蛍光タンパク質(例えば、クラゲAequorea victoriaに由来する蛍光タンパク質(例えば、GFP、YFP、RFP、若しくはそれらの誘導体)又はウミシイタケRenilla reniformisに由来する蛍光タンパク質等)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、Alexa色素(例えば、Alexa 568)、及び量子ドットを含む。さらに、蛍光標識は、例えば、Molecular Probes (Oregon)から入手することができる。
【0080】
代表的な放射性標識は、35S、125I、32P、33P、3H等を含む。放射性標識は、公知、かつ適当な任意の方法(例えば、感光フィルムやホスフォイメージャー)によって検出することができる。
【0081】
本発明によれば適切な測定方法は、沈降(特に、免疫沈降)、電気化学発光(電気的に発生する化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay:酵素結合免疫測定法)、サンドウィッチ酵素免疫検査、電気化学発光サンドウィッチ免疫測定法(electrochemiluminescence sandwich immunoassays:ECLIA)、解離増強ランタニド蛍光免疫測定法(dissociation-enhanced lanthanide fluoro immuno assay:DELFIA)、シンチレーション近接測定法(scintillation proximity assay:SPA)、比濁法、ネフェロメトリー、ラテックス強化比濁法若しくはネフェロメトリー、固相免疫検査、及びSELDI-TOF、MALDI-TOF若しくはキャピラリー電気泳動−質量分析(CE-MS)のような質量分析法も含む。当該分野で公知のさらなる方法(例えば、ゲル電気泳動、2次元ゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウェスタンブロット等)を、単独で、又は上記のような標識化若しくは他の検出方法と組み合わせて使用することができる。
【0082】
好ましいリガンドは、抗体、核酸、ペプチド又はポリペプチド、及びアプタマー(例えば、核酸アプタマー又はペプチドアプタマー(例えば、Spiegelmers若しくはAnticalins))を含む。そのようなリガンドを取得する方法は、当該分野では周知である。例えば、適切な抗体若しくはアプタマーの同定及び製造は、民間業者によっても提供されている。当業者は、高い親和性及び特異性を有するそのようなリガンドの誘導体を開発する方法に精通している。例えば、ランダム変異を、核酸、ペプチド、又はポリペプチド内に導入することができる。これらの誘導体は、その後、当該分野で公知のスクリーニング方法(例えば、ファージディスプレイ法)によって、その結合をテストすることができる。
【0083】
本明細書で用いる場合「抗体」とは、ポリクローナル及びモノクローナル抗体の両方、並びにそれらの変異体又はFv、Fab及びF(ab)2断片のような抗原若しくはハプテンに結合可能な断片を含む。「抗体」とは、一本鎖抗体も含む。
【0084】
他の好ましい実施形態で、リガンド、好ましくは、核酸、ペプチド、ポリペプチド、又はアプタマーからなる群より選択されるリガンドは、アレイ上に存在する。
【0085】
前記アレイは、目的のペプチド、ポリペプチド、又は核酸に対するものでありうる少なくとも1つの付加的なリガンドを含んでいる。前記付加的なリガンドは、本発明の内容において特段目的でないペプチド、ポリペプチド、又は核酸に対するものであってよい。少なくとも3つの、好ましくは少なくとも5つの、より好ましくは少なくとも8つの本発明の内容において目的とするペプチド又はポリペプチドに対するリガンドが、アレイ上に含まれていることが好ましい。
【0086】
本発明によれば、「アレイ」とは、固相又はゲル様担体であってその上に少なくとも2つの化合物が、一次元、二次元、若しくは三次元配置で付着又は結合しているものをいう。このようなアレイ(「遺伝子チップ」、「タンパク質チップ」、抗体アレイ等を含む)は、一般に、当業者に知られており、通常、顕微鏡用スライドグラス上、特にポリカチオン、ニトロセルロース若しくはビオチンで被覆されたスライドのような被覆スライドガラス上、カバースリップ上、及び例えばニトロセルロース若しくはナイロンをベースとするメンブレンのようなメンブレン上に作製されている。
【0087】
アレイは、結合したリガンド、又はそれぞれが少なくとも一つのリガンドを発現している少なくとも2つの細胞を含んでいてもよい。
【0088】
他の好ましい実施形態で、リガンド、好ましくは核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体及びアプタマーからなる群より選択されるリガンドは、固体支持体、好ましくはアレイ上に存在する。本発明によれば、「アレイ」(「遺伝子チップ」、「タンパク質チップ」、抗体アレイ等を含む)とは、固相又はゲル様担体であってその上に少なくとも2つの化合物が、一次元、二次元、若しくは三次元配置で付着又は結合しているものをいう。BNP型ペプチドに対するリガンド若しくは結合物質を含む固体支持体又はアレイは、当該分野では周知であり、とりわけ、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラス及び/又はシリコンのチップ及び表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(Duracyte)、反応トレイのウェル及び壁面、プラスチックチューブ等を含む。前記リガンド又は物質は、多数の異なる担体と結合することができる。周知担体の例には、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然の及び改変されたセルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、及びマグネタイトが含まれる。担体の性質は、本発明の目的に応じて可溶性又は不溶性のいずれかでありうる。前記リガンド又は物質を取り付ける/固定化する適切な方法は周知であり、限定はしないが、イオン相互作用、疎水性相互作用、共有結合相互作用等を含む。
【0089】
本発明によるアレイとして「サスペンションアレイ」の使用も想定される(Nolan JP, Sklar LA. (2002). Suspension array technology: evolution of the flat-array paradigm. Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。該サスペンションアレイにおいて、担体(例えば、マイクロビーズ又はミクロスフェア)は、サスペンション(懸濁液)として存在する。本アレイは、異なるマイクロビーズ又はミクロスフェア(可能であれば標識されたもの)からなり、異なるリガンドを担持している。
【0090】
本発明は、さらに先に規定したようなアレイを作製する方法に関する。この方法では、少なくとも一つのリガンドが、他のリガンドに加えて、担体材料に結合されている。
【0091】
前記アレイの(例えば、固相化学及び光解離性保護基に基づく)作製方法は、一般的に知られている(米国特許第5,744,305号)。このようなアレイは、物質若しくは基質ライブラリーと接触させて、相互作用について(例えば、結合又は立体構造変化について)試験することもできる。したがって、上記で規定したようなペプチド又はポリペプチドを含むアレイは、前記ペプチド又はポリペプチドへの特異的結合リガンドを同定するのに用いることができる。
【0092】
それ故、本発明はまた、透析の必要性を生じるリスクを診断するための、患者のBNP型ペプチド、特にNT-proBNPのレベルを(好ましくはインビトロで)測定することのできる診断手段の使用に関する。
【0093】
本発明はまた、BNP型ペプチドを測定するための手段又は試薬を含むキットに関する。前記手段又は試薬は、当業者に公知の任意の適切な手段又は試薬とすることができる。前記手段又は試薬並びにそれらを使用するための方法の例は、本明細書中に記載されている。例えば、適切な試薬は、BNP型ペプチドと特異的に結合することのできるあらゆる種類のリガンド又は抗体であってもよい。本キットはまた、それぞれのバイオマーカーのレベルを測定する際に適当と思われる他のどんな構成物を含んでいてもよい。例えば、適当なバッファ、フィルタ等が該当する。
【0094】
場合により、キットは、さらに透析の必要性を生じる患者のリスクを診断することに関する任意の測定結果を解釈するためのユーザーマニュアルを含んでいてもよい。特に、前記マニュアルは、測定されたレベルがどの段階のリスクに対応するのかについての情報を含んでいてもよい。これについては、本明細書の他の箇所に詳しく概説している。さらに、前記ユーザーマニュアルは、各バイオマーカーのレベルを測定するためキットの構成物の正しい使用方法についての使用説明を与えることもできる。
【0095】
本発明はまた、透析の必要性を生じるリスクを診断するための前記キットの使用に関する。本発明はまた、透析の必要性を生じるリスクを診断するための本発明によるいずれかの方法における前記キットの使用に関する。
【0096】
さらに、本発明は、透析の必要性を生じるリスクを診断するのに適した装置であって、
a)患者由来のサンプル中のBNP型ペプチドの量を測定するための手段、及び
b)測定されたレベルを少なくとも1つの参照レベルと比較することによって前記リスクを診断するための手段
を含んでなる前記装置を包含する。
【0097】
本発明はまた、透析の必要性を生じるリスクを診断するための前記装置の使用に関する。
【0098】
本明細書で使用する場合、「装置」とは、透析の必要性を生じるリスクの診断を可能とするように、お互いに動作可能なように連結された少なくとも上記手段を含んだ手段のシステムに関連する。BNP型ペプチドのレベルを測定するための、及びリスクを診断するための好ましい手段は、本発明の方法に関連して本明細書の他の箇所に記載されている。その手段が動作様式でどのように接続されているかは、装置内に含まれる手段のタイプによるであろう。例えば、BNP型ペプチドのレベルを自動測定するための手段が使用される場合、前記自動操作手段によって得られたデータは、例えばリスクを診断するためのコンピュータプログラムによって処理することができる。このような場合、前記手段は単一装置に含まれることが好ましい。したがって、前記装置は、適用されたサンプル中のBNP型ペプチドレベル測定用の解析ユニット、及び診断のために結果として得られたデータを処理するコンピュータユニットを包含することができる。あるいは、試験紙のような手段がBNP型ペプチドのレベルを測定するのに使用される場合、診断用手段は、本明細書の他の箇所に記載されたように、測定されたレベルを参照レベルに割り当てるコントロール紙片若しく表を含むことができる。試験紙は、BNP型ペプチドと特異的に結合するリガンド又は試薬と結合していることが好ましい。試験紙又は装置は、前記リガンド又は試薬と結合するBNP型ペプチドの検出用の手段を含むことが好ましい。好ましい検出用手段は、上記本発明の方法に関する実施形態と関連して開示されている。その場合、前記手段は、システムのユーザが量の測定結果と、マニュアルで提供される指示及び解釈によるその診断値とを1つにまとめる点において、動作可能なように接続されている。本手段は、前記実施形態において別個の装置として示されてもよく、好ましくはキットとしてパッケージングされている。当業者は、どのようにその手段を結びつけるかさらに労せずにわかるであろう。好ましい装置は、専門臨床医の特殊な知識を必要とせずに使用できる装置である。例えば、単にサンプルを載せさえすればよい試験紙又は電気装置が挙げられる。結果は、診断パラメータの出力又は臨床医による解釈が必要な生データとして提供することができる。さらに好ましい装置は、解析ユニット/装置(例えば、バイオセンサー、アレイ、BNPを特異的に認識するリガンド又は試薬を結合した固体支持体、表面プラズモン共鳴装置、NMRスペクトロメータ、マススペクトロメータ等)又は本発明の方法に従って上記で言及した評価ユニット/装置を含む。
【0099】
本発明による方法は、BNP型ペプチドの測定されたレベルを少なくとも1つの参照レベルと(例えば、患者の様々なリスク段階と関連する既知レベルと)比較することによって、患者のリスクを診断するステップを含む。
【0100】
本発明によれば、「リスク」とは、特定の事故の確率、より具体的には透析の必要性が生じる確率に関する。例えば、リスクは、所定の事故が所定の患者に特定の時間枠内で少なくとも2%、5%、10%、15%又は20%の確率で起こるであろうことでありうる。本発明により言及される予測時間枠は、少なくとも1ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも15ヶ月、少なくとも18ヶ月、少なくとも21ヶ月、又は最大24ヶ月であることが好ましい。臨床研究は、前記リスクを示唆するデータを提供できる。上記から、前記リスクを診断することは、患者が透析の必要性を生じる範囲内での又は生じるときまでのタイムスパンを予測可能にすることも明らかである。一般に、リスクが高ければ高いほど、タイムスパンはより短くなる。また、患者が所定のタイムスパン内で透析の必要性を生じる確率を決定することも可能である。
【0101】
所定のリスクは、例えば、所定の事故に対する時間に関して適切なKaplan-Meierプロットから導くことができる。例えば、実施例3及びそこで述べた特定のリスクや危険比率を参照されたい。
【0102】
リスクは、絶対値で表すことができるが、例えば、特定の所与のリスクと比較して、あるいは臨床研究におけるコントロールグループに対して、腎不全の他の段階の患者に対して、又は同年齢の健常人と比較してさえも、増加したか又は非常に増加したリスクという意味で、しばしば相対用語(「相対リスク」)でそのリスクを表す方がより有用であるかもしれない。当業者は、前記相対用語に非常に精通している。例えば、透析の必要性を生じる平均所定リスクが、一般的集団に、腎疾患患者に、又は特定の腎疾患に罹患している患者に、存在する。しかしながら、それは、特定の患者の総リスクが「増加」するほど、それぞれの比較グループ(例えば、言及した一般的集団、腎疾患患者、又は特定の腎疾患に罹患している患者)と比較してその患者が透析の必要性を生じる追加的なリスクを有するかどうかを知ることに、より関連するかもしれない。都合の良いことに、本発明は、このような相対的リスクも診断することができる。
【0103】
相対リスクは、危険比率(hazard ratio)という言葉で表現することができる。「危険比率」は、当業者には公知である。当該用語は、二つのサブグループ間のリスクの関係(例えば、低レベルのBNP型ペプチドを有するグループ 対 高レベルのBNP型ペプチドを有するグループ間の危険比率)を表しうる。危険比率における相違は、(例えば、あるBNPレベルを有するリスクグループの)相互作用モデルから抽出されるべき相互作用として知られる。相互作用及び相互作用モデルという用語は、当業者には公知である。
【0104】
特に、本発明は、患者を透析の必要性を生じる特定のリスクで同定できる。例えば、前記リスクは、増加しているか、増加していないか、又は減少している可能性がある。当業者は、これらの用語の意味に精通している。例えば、特定の患者が平均的患者よりも高いリスクを持つ場合には、当業者は、普通、前記リスクが「増加した」と呼ぶ。「増加したリスク」とは、患者が透析の必要性を生じる可能性が高いこと、又は患者が平均レベルと同等の患者よりも早い時期に透析の必要性を生じるであろうこととして解されるのが好ましい。リスクが増加した患者は、透析の必要性の発生を考慮に入れたさらなる注意の下でモニタリングされなければならない。当業者は、治療に関する最終決定が主治医によって下されることを理解できる。主治医は、付加的な関連要素、例えば患者の年齢、腎障害の家族歴、患者が有する腎障害の性質又は原因、利用可能な治療法の選択肢、モニタリングする有用性を考慮するであろう。
【0105】
本発明の内容において、透析の必要性を生じるリスクの増加は、特に平均患者の、好ましくは同年齢で同性の平均患者の、より好ましくは同じ年齢、同じ性別、並びに同じ腎障害の性質又は原因の患者の、リスクと比較した時に、少なくとも1.5倍、2倍、3倍、3.5倍、又は4倍までのリスクの増加と関連する。
【0106】
当業者は、透析の必要性を生じるリスクの様々な段階と関連するBNP型ペプチドの既知レベルを決定することができる。
【0107】
本発明によれば、BNP型ペプチドの測定されたレベルが高ければ高いほど、透析の必要性を生じるリスクはより高くなる。
【0108】
リスクは、BNP型ペプチドの測定されたレベルを参照レベルと比較することによって決定することが好ましい。「参照レベル」と言う用語は、当業者には公知である。特に、参照レベルは、特定のリスクと関連づけることができ、あるいは様々なリスク段階間を区別することができる。当然ながら参照レベルは、診断の所望する感度又は特異性によって選択することもできる。高感度とは、特定の診断を有する全患者が高い割合で同定されること、及び/又は特定の診断を有する患者であってその診断された疾患、合併症若しくはリスクを有しないものと誤診される者がほとんどいないことを意味する。高い特異性とは、特定の診断を有するとして同定された患者が高い割合で、実際に診断された疾患、合併症又はリスクを有していることを意味する。特定の診断に関する所望の感度が高ければ高いほど、この診断の特異性は低くなり、またその逆もしかりである。したがって、参照レベルは、所望の感度及び特異性により当業者により選択されうる。
【0109】
本考察に照らせば、参照レベルはただ一つの値でなくともよく、一定範囲の値を含んでいてもよいことは明らかである。
【0110】
より具体的には、参照レベルは、(例えば、実施例で示したような臨床研究で)測定されたBNP型ペプチドのレベルから導き出すことができる。
【0111】
参照レベルの例は、以下に記載されている。すなわち、本発明の過程で、透析の必要性を生じる所定のリスク段階と関連するか、又はそれを識別することが見出されたNT-proBNPの血漿レベルが、記載されている。
【0112】
以下に記載されたレベルが患者のリスクの最初の分類としてのみ役に立つことは、明白である。例えば、リスクは、患者の一般的な身体的状態、及び透析の必要性を生じるリスクの疑いをかける原因となった根本的な疾患の性質にも依存し得る。
【0113】
本発明によれば、例えば、NT-proBNPの血漿レベルで500pg/mL未満、より具体的には400pg/mL未満、最も具体的には300 pg/mL未満に相当するレベルは、透析の必要性を生じるリスクの増加を伴わない。
【0114】
本発明によれば、例えば、NT-proBNPの血漿レベルで300pg/mL以上、より好ましくは400pg/mL以上、最も好ましくは500 pg/mLに相当するレベルは、透析の必要性を生じる増加したリスクと関連する。
【0115】
所定のレベルは、選択された感度及び特異性に応じて重なり合うことがあるのは明白である。したがって、本発明によれば、例えば、NT-proBNPの血漿レベルで300〜500pg/mL、より具体的には350〜450pg/mL、より具体的には380〜420 pg/mL、特に400pg/mLに相当するレベルが、透析の必要性を生じるリスクが増加しないことと増加したこととの間を識別できる。測定されたレベルが、この識別レベルよりも高い場合は、測定されたレベルは、透析の必要性を生じるリスクの増加を示す。そのような識別レベルは、「カットオフ値」又は「識別閾値」とも呼ばれる。このような「カットオフ値」又は「識別閾値」は、主治医に対して、定期治療を計画通り続行するか、むしろ透析の必要性を生じるリスクが増加したことを考慮した治療又はモニタリングを開始するかを教示することができる。
【0116】
一旦、患者のリスクが診断されると、その診断は、以下に記載したように以降の治療に影響を及ぼし得る。以下で述べるリスク段階は、特に、NT-proBNPの上記レベルに関連するリスク段階をいう。
【0117】
本発明による方法が、リスク増加がないことを示した場合には、治療を計画通り継続することができる。ESA療法は、NT-proBNPのレベルを大雑把な間隔(例えば、4週間毎、2ヶ月毎、又は3ヵ月毎)でさらにモニタリングすることを伴ってもよい。
【0118】
本発明による方法が、リスクの増加を示したのであれば、治療を状況に応じて適合させうる。治療は、本発明のBNP型ペプチドのレベルをさらに測定すること、及び、腎機能をより短い間隔(例えば、約1ヶ月毎、好ましくは約2週間毎又は約1週間毎)でモニターするといった、さらなる診断を伴うことが好ましい。したがって、本発明は、透析の必要性を生じるリスクがある患者を治療する、又はモニタリングする方法も提供する。
【0119】
本発明はまた、透析の必要性を生じるリスクをモニタリングすることに関する。さらに、本発明はまた、以前に診断されたリスクをさらにモニタリングすることに関する。
【0120】
「モニタリング」という用語は、当業者には公知であり、本明細書の他の箇所で定義されている。「より緊密なモニタリング」は、好ましくは平均的患者よりも短い間隔でモニタリングすることに関する。例えば、より緊密なモニタリングは、患者のリスクを一定間隔で(例えば、約12時間、1日、2日、3日、4日、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、又は1年の間隔で)診断することによって実行することができる。
【0121】
前記文中の「約」という用語は、当業者により理解される。したがって、実際の間隔は、適当な予定等を設定するといったような実施環境に応じて、意図した一定間隔を逸脱していてもよい。特に、間隔は、例えば、最大100%、好ましくは最大50%、より好ましくは最大25%、より好ましくは最大10%まで逸脱することができる。
【0122】
モニタリングは、ある治療が透析の必要性を生じるリスクを減らす点において、及び/又は透析の必要性を遅らせる点において、うまくいっているか否かを観察する上で付加的な利点を有している。
【0123】
言う間でもなく、本明細書に記載されたいずれの好ましい実施形態又は特徴も、モニタリングの態様に適用される。
【0124】
他の実施形態で、本発明は、透析の必要性を生じるリスクのより緊密なモニタリングを、特に腎障害に罹患している患者において決定するための方法であって、(a)BNP型ペプチドのレベルを、好ましくはインビトロで、測定するステップ、(b)BNP型ペプチドの測定されたレベルを、患者における様々なリスク段階に関連する既知のレベルと比較することによって、透析の必要性を生じる患者のリスクを診断するステップ、(c)より緊密なモニタリングの開始、又はより緊密なモニタリングの見合わせを勧告するステップ、を含む前記方法に関する。好ましくは、より緊密なモニタリングは、本方法が透析の必要性を生じる増加したリスクを示す場合に勧告される。本方法を、本明細書中に記載した本発明の全実施形態又は好ましい態様に適用できることは、明らかである。
【0125】
本明細書で提供されたあらゆる手段及び方法を、当業者が適当と見なした他の適当な手段及び方法とうまく組み合わせることができることは明らかである。例えば、本発明によるリスクの診断又はモニタリングを、糸球体濾過速度の測定と、又は糸球体濾過速度の変化を測定することと共に行うことができる。
【0126】
最後に、本発明はまた、本明細書に記載した装置の使用又は透析の必要性を生じるリスクを診断するためのBNP型ペプチド若しくはその変異体の使用を包含する。
【0127】
本明細書で引用した全文献は、参照によって、その全開示内容及び本明細書で具体的に言及した開示内容について本明細書中に援用される。
【実施例】
【0128】
以下の実施例は、本発明を例示するものであって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0129】
<実施例1>
NT-proBNPの測定
NT-proBNPは、Elecsys 2010での電気化学発光免疫アッセイ(Elecsys proBNPサンドウィッチ免疫アッセイ; Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)により測定する。本アッセイは、電気化学発光サンドウィッチ免疫アッセイ原理に従って機能する。最初のステップで、ビオチン標識したIgG(1〜21)捕捉抗体、ルテニウム標識したF(ab')2(39〜50)シグナル抗体、及び20μlのサンプルを37℃で9分間インキュベートする。その後、ストレプトアビジンでコートした磁気微粒子を加え、該混合液をさらに9分間インキュベートする。2回目のインキュベーションの後、反応混合液をそのシステムの測定セルに移し、そこでビーズが磁気的に電極表面上に捕捉される。結合していない標識は、測定セルをバッファで洗浄することにより除去される。
【0130】
最終ステップで、トリプロピルアミンを含むバッファの存在下で、電圧を電極に加えて、生じた電気化学発光シグナルを光電子増倍管で記録する。全試薬及びサンプルは、Elecsys(登録商標)機器により完全自動で操作される。結果は、二点較正により機器特異的に作成された検量曲線、及び試薬バーコードにより提供されるマスター曲線により求められる。検査は、製造メーカーの使用説明書に従って行われる。
【0131】
<実施例2>
サンプルの採取
BNP型ペプチド解析用血液を、5000 Uのアプロチニン(Trasylol, Beyer, Germany)を含むEDTAチューブ、及びリチウムヘパリンチューブ(臨床化学用)中に必要に応じてサンプリングする。血液及び尿サンプルを、直ちに3400rpm、4℃で10分間遠心する。上清を−80℃で解析まで保存する。
【0132】
<実施例3>
NT-proBNPは透析の必要性を示すマーカーである
CREATE試験は、解放され、無作為抽出された並列グループによる多施設試験であって、慢性腎性貧血を呈し、腎置換治療を受けていない患者における心血管系リスクの減少に対する、エポエチンベータを用いた早期貧血改善の効果を試験するために行った。本試験の主な目的は、心血管疾患罹患率に対する、13〜15g/dLの標的ヘモグロビン(Hb)レベルへの早期エポエチンベータ療法の効果を調べること、及びこれらの効果を10.5〜11.5 g/dLの標的Hbレベルを維持するためにエポエチンベータ療法で達成された効果と比べることであった。第1終点は、プロトコルで規定された全ての心血管事象の複合終点(最初の事象までの時間)とした。その事象は、すなわち、少なくとも24時間の入院若しくは入院の長期化につながる狭心症、急性心不全、致命的若しくは非致命的心筋梗塞、致命的若しくは非致命的脳梗塞、突然死、一過性脳虚血性発作(transient cerebral ischemic attack:TIA)、末梢血管障害(切断、壊死)、少なくとも24時間の入院若しくは入院の長期化につながる心不整脈である。特に、透析の必要性は、患者の第2終点として調べられた。
【0133】
NT-proBNPの二次的研究で、追加的な実験室測定値が、CREATE試験における患者の一部集団に関してベースラインで、また6、12、24、36及び48ヶ月目に取られた。得られた測定値は、NT-proBNP及び他のいくつかの実験室測定値である。
【0134】
NT-proBNPの二次的研究の患者を含む全ての研究コホートは、予め規定された第1研究終点と、透析までの時間を含む全ての第2研究終点に適した事象の発生のために続けられた。透析の必要性を含む各事象は全て、個々の独立した終点コミッティーか、Roche標準作業方法(standard operation procedures SOPs)に従う専門のRoche研究医療スタッフのいずれかによって、分類された。透析や腎移植のような腎置換療法を開始する必要性は、各患者についての症例報告書の具体的に計画されたページにまとめられ、評価された。それぞれのデータは、予め規定された統計学的解析計画に従って評価された。
【0135】
最初の予備的な解析で、CREATE試験集団の266人の患者のNT-proBNPレベルのベースラインは、2つの治療グループ(“高Hb”= Hb標的値13〜15g/dL及び“低Hb”= Hb標的値10.5〜11.5pg/dL)に分類された。さらに、グループは、全コホートのNT-proBNPレベル仮中央値(>400及び<400pg/mL)によって分けられた。研究の終点で規定される透析までの時間を、Kaplan Meierグラフ(例えば、この特定の事象を経験しなかった集団の割合)(図1)にプロットした。危険比率(すなわち、個々のリスクが増加するか、若しくは減少する係数)が算出され、p値<0.05を有意とした。透析の必要性が生じるまで時期に関するKaplan-Meierプロットを作成した(図1)。2つの治療グループの罹患率の概観(事象のタイミングは無視している)を、次の表1に示す。
【0136】
400pg/mLを超える値を示す患者を400pg/mLを下回る値を示す患者を比較すると、前者は、「高Hb」グループについてより高いリスク率を有する両方の治療戦略グループにおいて、透析の必要性を統計的に有意かつ非常に頻繁に生じた。
【表1】

【0137】
表2において、透析の必要性の発生に関するリスク要因を、様々なパラメータに関してp値と共に与えている。当該パラメータには、本明細書の上記研究の結果に基づいて決定されたNT-proBNPレベル、Hbレベル、及びクレアチニンクリアランスを含めた。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1は、終点「透析の必要性」に基づいて治療グループを比較したKaplan-Meierグラフを示している。A)グループ1(より早く透析に至る)の不利を示す、透析までの時間のKaplan-Meier曲線。B)高いベースラインNT-proBNPが「透析の必要性」の可能性をより高くすることを示す、NT-proBNPベースラインによる透析事象のKaplan-Meierプロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における透析の必要性を生じるリスクを診断する方法であって、以下のステップ:
a)患者由来のサンプルにおけるBNP型ペプチド又はその変異体のレベルを測定するステップ、
b)BNP型ペプチド又はその変異体の測定されたレベルを少なくとも1つの参照レベルと比較することによってリスクを診断するステップ
を含む前記方法。
【請求項2】
患者が腎疾患に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
BNP型ペプチドがBNP、proBNP、NT-proBNP、又はそれらの変異体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
BNP型ペプチドがNT-proBNP又はその変異体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
参照レベルが300〜500pg/mL、とりわけ350〜450pg/mLのNT-proBNPの血漿レベルに相当する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
参照レベルを上回る測定されたレベルはリスクが増加したことを示す、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
増加したリスクが、平均患者のリスク、好ましくは同じ年齢、性別及び腎機能障害を引き起こす腎疾患の平均患者のリスクと比較して少なくとも1.5倍、とりわけ2倍、さらにとりわけ3倍の増加と関連する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
BNP型ペプチドのレベルが、特異的結合リガンド、好ましくは抗体又はアプタマーを用いて測定される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
透析の必要性を生じるリスクを診断するための、BNP型ペプチドのレベル、特にNT-proBNPのレベルを測定することができる診断手段の使用。
【請求項10】
透析の必要性を生じるリスクを診断するための、BNP型ペプチド又はその変異体のレベル、特にNT-proBNP又はその変異体のレベルを測定することができる手段を含むキットの使用。
【請求項11】
患者における透析の必要性を生じるリスクを診断するための装置であって、
(a)患者由来のサンプルにおけるBNP型ペプチド又はその変異体のレベルを測定するための手段、及び
(b)測定されたレベルを少なくとも1つの参照レベルと比較することによって前記リスクを診断するための手段
を含んでなる前記装置。
【請求項12】
透析の必要性を生じるリスクのより緊密なモニタリングを決定するための方法であって、以下のステップ、
(a)好ましくはインビトロで、BNP型ペプチドのレベルを測定するステップ、
(b)BNP型ペプチドの測定されたレベルを、患者における様々なリスク段階と関連する既知のレベルと比較することによって、透析の必要性を生じる患者のリスクを診断するステップ、
(c)より緊密なモニタリングの開始、又はより緊密なモニタリングの見合わせを勧告するステップ
を含む前記方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−241705(P2008−241705A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−54640(P2008−54640)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】