説明

透析用カテーテル

【課題】先端同位型において順接続時及び逆接続時の再循環率が同等に低く、開存性が高い透析用カテーテルを提供すること。
【解決手段】この透析用カテーテル1は、管状本体11、その内側を仕切る隔壁13、傾斜部15a,15b、一対の側壁部21を備える。隔壁13の介在により、カテーテル先端12においてカテーテル長軸14の方向の等しい位置にて開口する複数のルーメン16a,16bが区画される。傾斜部15a,15bは、管状本体11から延びかつカテーテル長軸14の方向に対して傾斜して配置される帯状物である。傾斜部15a,15bの先端部がカテーテル先端付近にて隔壁13に固定されている。一対の側壁部21は、傾斜部15a,15bを挟んでその幅方向の両側に対向配置される。カテーテル1の先端部構造は、隔壁13を基準として対称な形状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のルーメンを有する透析用カテーテルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用カテーテルは、手術、処置、診断などの医療分野において、体腔からの液体の抜き取りと体腔への流体の導入とを同時に行うような用途に従来から利用されている。その具体例としては、血液透析分野において、人工腎臓装置で透析処理するために血液を血管から抜き取り、浄化された血液を再度血管内に導入する用途がある。また、このような用途で使用される透析用カテーテルには、管状本体の内側を隔壁で仕切って形成された2つのルーメンを備えているものがある。この透析用カテーテルでは、脱血用開口部を先端に有する脱血側ルーメンを介して血液が抜き取られると同時に、送血用開口部を先端に有する送血側ルーメンを介して浄化された血液が血管内に導入される。
【0003】
ところで、一般的に透析用カテーテルは、いずれもカテーテル先端付近に脱血用開口部及び送血用開口部を有している。本出願では、便宜上、それらの形成位置の違いにより先端同位型と先端段位型とに分類する。先端同位型の透析用カテーテルの場合、カテーテル長軸上の等しい位置に脱血用開口部及び送血用開口部が形成されている(例えば、特許文献1参照)。それゆえ、このタイプでは、カテーテル長軸方向から見たときに対称なカテーテル先端部構造とすることができる。これに対して、先端段位型の透析用カテーテルの場合、カテーテル長軸上の遠位側に送血用開口部が形成され、それよりも近位側に脱血用開口部が形成されている(例えば、特許文献2参照)。つまり、このタイプでは、脱血用開口部及び送血用開口部が互い違いの位置関係にあることから、カテーテル長軸方向から見たときに非対称なカテーテル先端部構造となる。従って、先端段位型の透析用カテーテルでは、逆接続時における血液の再循環率が先端同位型に比べて低くなり、比較的高い脱血効率を実現することができる。つまり、送血側ルーメンを出る、浄化された血液が脱血側ルーメンにそのまま戻る比率が低下し、血液透析処置の効率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007―524452号公報
【特許文献2】特開2001―104486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、透析用カテーテルの非透析時においてルーメン内に血液が滞留していると、血液が凝固しやすくなり、カテーテルが閉塞してしまう可能性がある。よって、血液の凝固を阻害するために、カテーテル内の血液をヘパリン加生理食塩水に置換すること(いわゆるヘパリンロックすること)が通常よく行われている。しかしながら、置換を行った状態で長期間留置したときには、血流の作用によりヘパリン加生理食塩水がルーメンから漏出して血液と置換してしまい、ルーメン内で血液が凝固する可能性が高くなってしまう。従って、血液が凝固しにくくて開存性が高い透析用カテーテルに対する要望が従来からあった。
【0006】
また、透析用カテーテルを血管内に留置してある程度長い期間使用した場合には、徐々に透析効率が低下することが知られている。それゆえこの場合には、これまで脱血側であったルーメンを送血側とし、送血側であったルーメンを脱血側として透析回路に接続する、いわゆる逆接続という対策が実施される。このような逆接続が可能である点に鑑みると、対称な形状を有する先端同位型の透析用カテーテルのほうが構造的に有利であると言える。ただし、先端同位型の透析用カテーテルは逆接続時に再循環率が高くなる傾向にあり、依然として改善の余地があった。さらに、先端同位型の透析用カテーテルは先端段位型に比較して脱血効率が低いため、できるだけ脱血効率を高くすることが望まれていた。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、先端同位型において順接続時及び逆接続時の再循環率が同等に低く、開存性が高い透析用カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段1〜5を以下に列挙する。
【0009】
[1]管状本体と、前記管状本体の内側を仕切る隔壁とを備え、前記隔壁の介在によって、カテーテル先端領域においてカテーテル長軸方向の等しい位置にて開口する複数のルーメンが区画されている透析用カテーテルであって、前記管状本体から延びかつ前記カテーテル長軸方向に対して傾斜して配置される帯状物であり、その先端部がカテーテル先端付近にて前記隔壁に固定されている傾斜部と、前記傾斜部を挟んでその幅方向の両側に対向配置された一対の側壁部とを備え、前記カテーテル先端領域の構造が前記隔壁を基準として対称な形状であることを特徴とする透析用カテーテル。
【0010】
従って、手段1に記載の発明によると、カテーテル先端付近において傾斜部の両側に一対の側壁部を対向配置したことにより、血液の流れが直線状に整えられる。よって、送血用開口部から出る浄化後の血液が脱血用開口部からそのまま引き込まれにくくなる。ゆえに、順接続時及び逆接続時を問わず血液の再循環率が低くなり、いずれの場合も比較的高い脱血効率を実現することができる。また、カテーテル先端付近に帯状物からなる傾斜部を配置した結果、カテーテル使用時において血液の流れをあまり妨げずに、カテーテル非使用時においてルーメン内の血液を血液凝固阻害剤で置換した場合の血液凝固阻害剤の漏出が抑制される。よって、血液が凝固しにくくなり、開存性が高い透析用カテーテルとすることができる。
【0011】
[2]前記傾斜部の内面側において前記隔壁との間には、空隙が設けられていることを特徴とする手段1に記載の透析用カテーテル。
【0012】
従って、手段2に記載の発明によると、傾斜部の内面側において隔壁との間に空隙を設けたことにより、その空隙に至った血液が傾斜部の内面に沿って流れる結果、カテーテル使用時における血液の流れをいっそう妨げにくくすることができる。
【0013】
[3]前記傾斜部の長さは、前記管状本体の直径以上の長さとなるように設定されていることを特徴とする手段1または2に記載の透析用カテーテル。
【0014】
従って、手段3に記載の発明によると、傾斜部の長さが比較的長めに設定されるため、開口部がカテーテル長軸方向に沿って長い形状になることから、開口部についてある程度大きな流路断面積を確保することができる。また、カテーテル長軸方向に対する傾斜部の傾斜角度が小さくなるため、カテーテル使用時における血液の流れをいっそう妨げにくくすることができる。
【0015】
[4]前記一対の側壁部は、前記傾斜部の側に湾曲し、かつ、先端が丸みを帯びて形成されていることを特徴とする手段1乃至3のいずれか1項に記載の透析用カテーテル。
【0016】
従って、手段4に記載の発明によると、傾斜部の側に湾曲するように一対の側壁部を形成したことで、血液が径方向に拡がらずに隔壁のある中心方向に集められ、血液の流れが効率よく直線状に整えられる。また、先端が丸みを帯びるように一対の側壁部を形成したことで、血液の流れが乱されにくくなるとともに、カテーテルを血管に直接挿入する手技においてはカテーテル挿入時の抵抗を低減することができる。
【0017】
[5]脱血側となる前記傾斜部は、前記カテーテル先端側に凹の湾曲状態となるように撓むことが可能であることを特徴とする手段1乃至4のいずれか1項に記載の透析用カテーテル。
【0018】
従って、手段5に記載の発明によると、脱血側となる傾斜部がカテーテル先端側に凹の湾曲状態となるように撓むことで、開口部の流路断面積が若干大きくなる。よって、脱血効率の向上を達成しやすくなる。
【発明の効果】
【0019】
従って、請求項1〜5に記載の発明によれば、先端同位型において順接続時及び逆接続時の再循環率が同等に低く、開存性が高い透析用カテーテルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態の透析用カテーテルを示す全体概略図。
【図2】第1実施形態の透析用カテーテルのカテーテル先端領域をカテーテル長軸方向から見たときの図。
【図3】図2のA−A線における概略断面図。
【図4】第1実施形態のカテーテル先端領域を示す斜視図。
【図5】順接続時におけるカテーテル先端領域の様子を示す断面図。
【図6】逆接続時におけるカテーテル先端領域の様子を示す断面図。
【図7】本発明を具体化した第2実施形態の透析用カテーテル先端領域を示す概略断面図。
【図8】本発明を具体化した第3実施形態の透析用カテーテル先端側部分を示す概略断面図。
【図9】本発明を具体化した第4実施形態の透析用カテーテルにおいて、(a)はカテーテル先端領域をカテーテル長軸方向から見たときの図、(b)は(a)のB−B線における概略断面図。
【図10】本発明を具体化した第5実施形態の透析用カテーテルのカテーテル先端領域をカテーテル長軸方向から見たときの図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[第1の実施形態]
【0022】
以下、本発明を具体化した第1の実施形態の透析用カテーテル1を図1〜図6に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1等に示されるように、本実施形態の透析用カテーテル1は、細長く形成された弾性可撓性の樹脂材料により構成された断面円形状の管状本体11を備えている。管状本体11の基端部には、2本の接続チューブ6a,6bを備えた接続部5が一体的に結合されている。これらの接続チューブ6a,6bは、管状本体11の各ルーメンに各々連通されている。各接続チューブ6a,6bの先端には、透析回路等が接続されるルアーアダプタ7a,7bが一体形成されている。なお、各接続チューブ6a,6bとルアーアダプタ7a,7bとを別体で構成し、それらを接着等により互いに固定してもよい。各接続チューブ6a,6bの開口部の外周面には、ねじ山8がそれぞれ形成されている。また、各接続チューブ6a,6bの途上には、流路を閉塞するためのクランプ9がそれぞれ設けられている。長期留置目的のカテーテルでは、管状本体11の基端部の近傍位置に、細菌の侵入を防ぐ目的で合成繊維製のカフ4が設けられていることが好ましい。
【0024】
図1〜図4に示されるように、透析用カテーテル1を構成する管状本体11は、カテーテル長軸14の方向に沿って延びる隔壁13を備えている。この隔壁13の介在により、管状本体11の内側が2つの領域に仕切られることで、断面半円形状の脱血側ルーメン16a及び送血側ルーメン16bがそれぞれ区画されている。本実施形態では、順接続時において、図2、図3等の上側に位置するものが脱血側ルーメン16a、下側に位置するものが送血側ルーメン16bとして使用される。脱血側ルーメン16a及び送血側ルーメン16bは、それぞれカテーテル先端付近に開口部17a,17bを有している。これらの開口部17a,17bは、カテーテル先端領域12においてカテーテル長軸14の方向の等しい位置にて開口している。それゆえ、この透析用カテーテル1は、本出願において先端同位型と呼ぶ構造を有している。また本実施形態では、カテーテル1の先端部構造が隔壁13を基準として対称な形状となっている。
【0025】
図2〜図4に示されるように、脱血側ルーメン16aの開口部17aには、その一部を塞ぐように傾斜部15aが配置されている。一方、送血側ルーメン16bの開口部17bにも、同様にその一部を塞ぐように傾斜部15bが配置されている。傾斜部15a,15bは、管状本体11から延びる帯状物であり、カテーテル長軸14の方向に対して傾斜して配置されている。傾斜部15a,15bの先端部は、カテーテル先端にて隔壁13に固定されている。なお、傾斜部15a,15bの内面側において隔壁13との間には、いずれも空隙18が設けられている。
【0026】
傾斜部15a,15bの長さL1は特に限定されないが、好ましくは管状本体11の直径D1以上の長さであることがよく、本実施形態でもそのように設定されている。このような寸法設定によると、傾斜部15a,15bの長さL1が比較的長めになるため、実質的に開口部17a,17bがカテーテル長軸14の方向に沿って長い形状になる。よって、これら開口部17a,17bについて、ある程度大きな流路断面積を確保することができる。また、カテーテル長軸14の方向に対する傾斜部15a,15bの傾斜角度が小さくなるため、カテーテル使用時において血液の流れを妨げにくくなる。
【0027】
また、傾斜部15a,15bのカテーテル長軸14の方向に対する傾斜角度については特に限定されないが、例えば15°以上45°以下であることがよく、さらには30°以上45°以下であることがよりよい。この傾斜角度が15°未満であると、傾斜部15a,15bが長くなりすぎてしまい、カテーテル先端領域12の構造が強度的に弱くなるおそれがある。逆にこの傾斜角度が45°超であると、開口部17a,17bの流路断面積を大きくすることが難しくなるばかりでなく、血液が流れるときの抵抗が増大して脱血効率の向上を阻害するおそれがある。
【0028】
図2〜図4に示されるように、この透析用カテーテル1は、カテーテル先端領域12において一対の側壁部21を備えている。一対の側壁部21は、傾斜部15a,15bを挟んでその幅方向の両側に対向配置されている。これらの側壁部21は傾斜部15a,15bの側に湾曲して形成されている。その結果、血液が径方向に拡がらずに隔壁13のある中心方向に集められ、血液の流れが効率よく直線状に整えられるようになっている。また、これらの側壁部21は、先端が丸みを帯びて形成された面取り部22を有している。その結果、血液の流れが乱されにくい形状となっている。また、カテーテルを血管に直接挿入する手技(即ち後述するイントロデューサーシースを用いない手技)においてはカテーテル挿入時の抵抗が低減されやすい形状となっている。
【0029】
本実施形態の透析用カテーテル1におけるカテーテル先端領域12の構造物は、例えば以下の手法により作製することができる。まず、中央が隔壁13によって仕切られたダブルルーメン構造の管状本体11を準備する。次いで、管状本体11のカテーテル先端となる側の上下2箇所に、カテーテル長軸14の方向に沿って延びる切れ目19を平行に形成する。そして、これらの切れ目19間にある帯状部分の先端部を隔壁13側に落とし込み、隔壁13に固定する。その結果、所望の傾斜部15a,15bが形成されると同時に、傾斜部15a,15bの両側に一対の側壁部21が形成される。傾斜部15a,15bの先端部は、例えば溶着や接着等により固定される。なお、本実施形態では、傾斜部15a,15bの先端部位置がカテーテル先端と面一の状態となっている。
【0030】
次に、本実施形態の透析用カテーテル1の使用方法について説明する。まず、常法に従って皮下トンネルを作製し、イントロデューサーシース(図示略)を血管内に挿入した後、この内腔に沿って透析用カテーテル1を挿入する。そのとき、透析用カテーテル1内の2つのルーメン16a,16bをヘパリン加生理食塩液で満たしておく。透析用カテーテル1が目的の位置に留置されたことを確認したら、イントロデューサーシースを取り除く。そして、常法により送血側のルーメン16b内の空気を抜去後、生理食塩液またはヘパリン加生理食塩液でフラッシュする。なお、脱血側のルーメン16aに対しても同様の操作を行う。
【0031】
そして、透析用カテーテル1の基端側を体外循環回路(即ち透析回路)に確実に接続し、体外循環を開始する。図5に示す順接続時において具体的には、接続チューブ6aのルアーアダプタ7aを透析回路の脱血側ポートに接続し、接続チューブ6bのルアーアダプタ7bを透析回路の送血側ポートに接続する。このような接続状態で各クランプ9をアンロックし、流路の閉塞を解除する。すると、脱血用の開口部17aを先端に有する脱血側のルーメン16aを介して、静脈中の血液が抜き取られる。これと同時に、送血用の開口部17bを先端に有する送血側のルーメン16bを介して、浄化された血液、即ち不純物等が除去された血液が血管内に導入される。この場合、図5に示されるように、脱血側のルーメン16aに位置する傾斜部15aは、流入する血流に押圧されることによって、カテーテル先端側に凹の湾曲状態となるように撓む。その結果、開口部17aの流路断面積が若干大きくなり、血液が流れる際の抵抗が小さくなり、脱血効率の向上を達成しやすくなる。また、送血側のルーメン16bに位置する傾斜部15bは、流出する血流に押圧されることによって、カテーテル先端側に凸の湾曲状態となるように撓む。
【0032】
送血側の開口部17bのある箇所においては、傾斜部15bの両側に一対の側壁部21を対向配置しているため、開口部17bから血液が吐出される際にその流れが直線状に整えられる。よって、送血用の開口部17bから出る、浄化された血液は、脱血用の開口部17aからそのまま引き込まれにくくなっている。
【0033】
体外循環が終了したら、脱血側のルーメン16a内を生理食塩液またはヘパリン加生理食塩液でフラッシュした後、ヘパリンロックする。なお、送血側のルーメン16bも同様の操作を行う。ここで、ヘパリンロックを行った状態で透析用カテーテル1を長期間留置しておくと、血流の作用によりヘパリン加生理食塩水がルーメン16a,16bから漏出して血液と置換してしまう可能性がある。その点、本実施形態では、各ルーメン16a,16bの開口部17a,17bにそれぞれ傾斜部15a,15bを配置している。そのため、カテーテル1から流れ出ようとするヘパリン加生理食塩水にとって、これら傾斜部15a,15bが流路上での障害物となる。ゆえに、ヘパリン加生理食塩水の漏出を抑制することができる。
【0034】
非使用状態にあった透析用カテーテル1について次回以降の体外循環を行うときには、あらかじめ各ルーメン16a,16b内を生理食塩液またはヘパリン加生理食塩液でフラッシュする。次いで、血流量を十分確保できることを確認する。十分な血流量が確保できず、透析効率の低下が懸念される場合には、カテーテル先端の留置位置を移動させ、適切な位置を選択する。あるいは、透析用カテーテル1を体外循環回路に対して逆接続し、体外循環を行う。つまり、図6に示されるように、これまで脱血側であったルーメン16aを送血側とし、送血側であったルーメン16bを脱血側として用いる。
【0035】
すると今度は、開口部17bを先端に有するルーメン16bを介して、静脈中の血液が抜き取られる。これと同時に、開口部17aを先端に有するルーメン16aを介して、浄化された血液が血管内に導入される。この場合、図6に示されるように、このとき脱血側となるルーメン16bに位置する傾斜部15bは、流入する血流に押圧されることによって、カテーテル先端側に凹の湾曲状態となるように撓む。その結果、開口部17bの流路断面積が若干大きくなり、血液が流れる際の抵抗が小さくなり、脱血効率の向上を達成しやすくなる。また、このとき送血側となるルーメン16aに位置する傾斜部15aは、流出する血流に押圧されることによって、カテーテル先端側に凸の湾曲状態となるように撓む。
【0036】
このとき送血側となる開口部17aのある箇所においては、傾斜部15aの両側に一対の側壁部21を対向配置しているため、開口部17aから血液が吐出される際にその流れが直線状に整えられる。よって、開口部17aから出る、浄化された血液についても、開口部17bからそのまま引き込まれにくくなっている。
【0037】
以上述べたように本実施形態によれば下記の作用効果を奏する。
【0038】
(1)本実施形態の透析用カテーテル1では、上述したように傾斜部15a,15bの両側に一対の側壁部21を対向配置したことで、血液の流れが直線状に整えられる。よって、順接続時には、送血用の開口部17aから出る、浄化された血液が脱血用の開口部17bからそのまま引き込まれにくくなる。また、逆接続時には、送血用となる開口部17bから出る、浄化された血液が脱血用となる開口部17aからそのまま引き込まれにくくなる。ゆえに、順接続時及び逆接続時を問わず血液の再循環率が低くなり、いずれの場合も比較的高い脱血効率を実現することができる。また、カテーテル先端付近に帯状物からなる傾斜部15a,15bを配置した結果、カテーテル使用時において血液の流れをあまり妨げずに、カテーテル非使用時において各ルーメン16a,16b内の血液をヘパリン加生理食塩液で置換した場合のヘパリン加生理食塩液の漏出を抑制することができる。よって、血液が凝固しにくくなり、血栓の形成を未然に防止することができる。以上説明したように、本実施形態によれば、先端同位型において順接続時及び逆接続時の再循環率が同等に低く、開存性が高い透析用カテーテル1を提供することができる。
【0039】
(2)本実施形態の透析用カテーテル1では、傾斜部15a,15bの内面側において隔壁13との間に空隙18を設けている。ゆえに、その空隙18に至った血液が傾斜部15a,15bの内面に沿って流れる結果、カテーテル使用時における血液の流れをいっそう妨げにくくすることができる。
【0040】
(3)本実施形態の透析用カテーテル1では、傾斜部15a,15bの長さL1を管状本体11の直径D1以上の長さとなるように設定することで、その長さL1を比較的長めにとることができる。このため、開口部17a,17bがカテーテル長軸14の方向に沿って長い形状になり、開口部17a,17bについてある程度大きな流路断面積を確保することができる。ゆえに、この構造によっても、ヘパリン加生理食塩液の漏出を確実に抑制することができるとともに、血液凝固を抑制することで開存性の向上を図ることができる。また、カテーテル長軸14の方向に対する傾斜部15a,15bの傾斜角度が小さくなるため、カテーテル使用時における血液の流れをいっそう妨げにくくすることができる。
【0041】
(4)本実施形態の透析用カテーテル1では、一対の側壁部21が傾斜部15a,15bの側に湾曲して形成され、かつ、先端が丸みを帯びるよう面取り部22が形成されている。このため、血液が径方向に拡がらずに隔壁13のある中心方向に集められ、血液の流れが効率よく直線状に整えられる。また、血液の流れが乱されにくくなるとともに、カテーテルを血管に直接挿入する手技においてはカテーテル挿入時の抵抗を低減することができる。
【0042】
(5)本実施形態の透析用カテーテル1では、そのとき脱血側となる傾斜部15a,15bが、カテーテル先端側に凹の湾曲状態となるように撓むことが可能である。このため、そのとき脱血側となる開口部17a,17bの流路断面積が若干大きくなり、脱血効率の向上を達成しやすくなる。
【0043】
[第2の実施形態]
【0044】
次に、本発明を具体化した第2の実施形態の透析用カテーテル31を図7に基づいて説明する。なお、ここでは第1の実施形態と相違する部分について述べ、共通する部分については共通の部材番号を付すのみとする。
【0045】
図7に示されるように、この透析用カテーテル31においては、隔壁13の先端に、カテーテル先端から突出する突出部32が設けられている。従って、この構成によれば、上記第1の実施形態と同等の効果を奏することができる。特に、血液の流れがいっそう効率よく直線状に整えられるため、逆接続時の再循環率を確実に低くすることができる。よって、開存性が高い透析用カテーテル31を提供することができる。
【0046】
[第3の実施形態]
【0047】
次に、本発明を具体化した第3の実施形態の透析用カテーテル41を図8に基づいて説明する。ここでも第1の実施形態と相違する部分について述べ、共通する部分については共通の部材番号を付すのみとする。
【0048】
図8に示されるように、この透析用カテーテル41においては、カテーテル先端と隔壁13の先端とが面一である反面、傾斜部15a,15bの先端の位置がこれらと面一ではなく若干基端側に位置している点で相違する。このような構成であっても、上記第1の実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0049】
[第4の実施形態]
【0050】
次に、本発明を具体化した第4の実施形態の透析用カテーテル51を図9に基づいて説明する。ここでも第1の実施形態と相違する部分について述べ、共通する部分については共通の部材番号を付すのみとする。
【0051】
図9に示されるように、この透析用カテーテル51は、隔壁13によって3つのルーメン16a,16b,16cが仕切られたトリプルルーメン構造を有している点で、上記第1の実施形態とは相違している。あらたに形成されたルーメン16cは断面円形状であって、管状本体11の中心部に位置している。なお、傾斜部15a,15bは、他の2つのルーメン16a,16bについては設けられているが、このルーメン16cについては特に設けられていない。また、この透析用カテーテル51でもカテーテル先端領域12の構造が隔壁13を基準として対称な形状となっているため、必要に応じて逆接続を行うことが可能である。そして、このような構成であっても、基本的には上記第1の実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0052】
[第5の実施形態]
【0053】
次に、本発明を具体化した第5の実施形態の透析用カテーテル61を図10に基づいて説明する。ここでも第1の実施形態と相違する部分について述べ、共通する部分については共通の部材番号を付すのみとする。
【0054】
図10に示されるように、この透析用カテーテル61もトリプルルーメン構造を有している点で、上記第1の実施形態とは相違している。あらたに形成されたルーメン16cは管状本体11の中心部に位置している。ただし、本実施形態では管状本体11内に2つの隔壁13が所定間隔を隔てて平行に設けられており、それらの間に断面略長方形状のルーメン16cが区画形成されている。なお、傾斜部15a,15bは、他の2つのルーメン16a,16bについては設けられているが、このルーメン16cについては特に設けられていない。また、この透析用カテーテル61でもカテーテル先端領域12の構造が隔壁13を基準として対称な形状となっているため、必要に応じて逆接続を行うことが可能である。そして、このような構成であっても、基本的には上記第1の実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0055】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
【0056】
・上記実施形態では、傾斜部15a,15bの左右両側に対向配置した一対の側壁部21が、ともに同じ大きさ及び形状を有していたが、これに限定されるわけではない。従って、カテーテル先端領域12の構造が隔壁13を基準として対称な形状を維持できるのであれば、側壁部21の大きさや形状を左右で異ならせることが許容される。
【0057】
・上記実施形態では、傾斜部15a,15bが血流によってカテーテル先端側に凹または凸の湾曲状態となるように撓むことが可能であったが、これに限定されず、特に撓みが生じない構成であってもよい。
【0058】
・上記実施形態では、管状本体11のカテーテル先端となる側に切れ目19を形成し、それらの間にある帯状部分の先端部を隔壁13側に落とし込んで固定することで、傾斜部15a,15bを形成した。つまり、管状本体11の一部を加工することで傾斜部15a,15bを形成したが、これに限定されることはない。例えば、管状本体11とは別体で形成した帯状物を用意し、これを溶着、接着等の手法により固定するといったことでもよい。また、一対の側壁部21についても同様で、管状本体11と別体で形成したものを接着等により固定するといった構造を採用することができる。
【0059】
なお、本発明の実施形態から把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0060】
(1)上記手段1乃至5のいずれか1項において、脱血側となる前記傾斜部は、前記カテーテル先端側に凹の湾曲状態となるように撓むことが可能であり、送血側となる前記傾斜部は、前記カテーテル先端側に凸の湾曲状態となるように撓むことが可能であること。
【0061】
(2)上記手段1乃至5のいずれか1項において、前記一対の傾斜部は、前記管状本体のカテーテル先端となる側に一対の切れ目を形成し、前記一対の切れ目間にある帯状部分の先端部を前記隔壁側に落とし込んで前記隔壁に固定することにより形成されたものであること。
【符号の説明】
【0062】
1,31,41,51,61…透析用カテーテル
11…管状本体
12…カテーテル先端領域
13…隔壁
14…カテーテル長軸
15a,15b…傾斜部
16a,16b,16c…ルーメン
18…空隙
21…側壁部
L1…傾斜部の長さ
D1…カテーテル本体の直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状本体と、前記管状本体の内側を仕切る隔壁とを備え、前記隔壁の介在によって、カテーテル先端領域においてカテーテル長軸方向の等しい位置にて開口する複数のルーメンが区画されている透析用カテーテルであって、
前記管状本体から延びかつ前記カテーテル長軸方向に対して傾斜して配置される帯状物であり、その先端部がカテーテル先端付近にて前記隔壁に固定されている傾斜部と、前記傾斜部を挟んでその幅方向の両側に対向配置された一対の側壁部とを備え、前記カテーテル先端領域の構造が前記隔壁を基準として対称な形状である
ことを特徴とする透析用カテーテル。
【請求項2】
前記傾斜部の内面側において前記隔壁との間には、空隙が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の透析用カテーテル。
【請求項3】
前記傾斜部の長さは、前記管状本体の直径以上の長さとなるように設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の透析用カテーテル。
【請求項4】
前記一対の側壁部は、前記傾斜部の側に湾曲し、かつ、先端が丸みを帯びて形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の透析用カテーテル。
【請求項5】
脱血側となる前記傾斜部は、前記カテーテル先端側に凹の湾曲状態となるように撓むことが可能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の透析用カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−245026(P2012−245026A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116546(P2011−116546)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000228888)日本コヴィディエン株式会社 (170)
【Fターム(参考)】