説明

透湿シートの製造方法

【課題】成形性が良好であり、いわゆる目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が抑制された透湿シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の透湿シートの製造方法は、ポリオレフイン系樹脂100重量部に対して無機充填剤100〜300重量部を含むポリオレフイン系樹脂組成物を、180〜220℃の成形温度下にTダイ法によってフィルム状に成膜し、次いで少なくとも一軸延伸することからなる。ポリオレフイン系樹脂組成物は、190℃におけるメルトフローレート(荷重21.18N)が6〜25g/10minであり、190℃におけるメルトフローレシオ(荷重98.07Nのメルトフローレートと荷重9.81Nのメルトフローレートとの比)が85以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液不透過性であるが水蒸気透過性のある透湿シートの製造方法に関し、更に詳しくは低温での成形性が良好で、いわゆる目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が抑制された透湿シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂からなる液不透過性で且つ水蒸気透過性の透湿シートが種々知られている(特許文献1参照)。この種の透湿シートは、フィラーを含む樹脂組成物を、Tダイ法やインフレーション法等の各種成形法によって溶融成膜し、少なくとも一軸延伸することで製造される。
【0003】
溶融成膜中には、樹脂組成物中の成分がダイリップに付着したり、押出機のシリンダー内、スクリュー、単管内等に樹脂組成物が滞留して、いわゆる目やに、焼けブツと呼ばれる物質や、樹脂のゲル化物など成形に支障をきたす物質が生じ、かかる物質が安定な成形を阻害する場合がある。かかる物質は、成膜温度が高いほどその発生が著しい。かかる物質の発生が頻発する場合には、成形を中断して押出機やダイの分解清掃が必要となり、これが生産性を低下させる原因となっていた。
【0004】
【特許文献1】特開2001−261868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、成形性が良好であり、いわゆる目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が抑制された透湿シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の流動特性を有する樹脂組成物を用い、通常の成形条件よりも低温で成形することにより前記目的が達成されることを知見した。
【0007】
本発明は前記知見に基づきなされたもので、ポリオレフイン系樹脂100重量部に対して無機充填剤100〜300重量部を含み、190℃におけるメルトフローレート(荷重21.18N)が6〜25g/10minであり、190℃におけるメルトフローレシオ(荷重98.07Nのメルトフローレートと荷重9.81Nのメルトフローレートとの比)が85以下であるポリオレフイン系樹脂組成物を、180〜220℃の成形温度下にTダイ法によってフィルム状に成膜し、次いで少なくとも一軸延伸する透湿シートの製造方法を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0008】
また本発明は、ポリオレフイン系樹脂100重量部に対して無機充填剤100〜300重量部およびポリエステル1〜30重量部を含むポリオレフイン系樹脂組成物からなり、少なくとも一軸延伸されており、全光線透過率が50%以上であり、透湿度が3600〜8400g/(m2・24h)であり、坪量が10〜50g/m2である透湿シートであって、
前記ポリオレフイン系樹脂組成物は、190℃におけるメルトフローレート(荷重21.18N)が6〜25g/10minであり、190℃におけるメルトフローレシオ(荷重98.07Nのメルトフローレートと荷重9.81Nのメルトフローレートとの比)が85以下であり、
前記ポリオレフイン系樹脂は、メルトフローレート1〜5g/10minで、密度0.920〜0.935g/cm3である線状低密度ポリエチレン80〜99重量%およびメルトフローレート6〜15g/10minで、密度0.910〜0.930g/cm3である分岐状低密度ポリエチレン1〜20重量%を含み、
前記ポリエステルは、多塩基酸と、多価アルコールと、炭素数14〜22の一塩基酸及び/又は炭素数12〜22の一価アルコールとのポリエステルである透湿シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
以上、詳述した通り、本発明の透湿シートの製造方法によれば、成形性が良好であり、いわゆる目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が抑制される。また本発明の製造方法により製造される透湿シートは、高い透湿度を維持しつつ高い透明性を有する。また高強度で柔軟である。従って、この透湿シートは、特に吸収性物品の裏面シートとして好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の透湿シートの製造方法においては、ポリオレフィン系樹脂及び無機充填剤を含むポリオレフィン系樹脂組成物を原料として用いる。本発明においては、このポリオレフィン系樹脂組成物として特定の流動特性を有するものを用いることが特徴の一つとなっている。具体的には、ポリオレフィン系樹脂組成物として、190℃におけるメルトフローレート(以下、MFRともいう)が特定の範囲内にあり、且つ190℃におけるメルトフローレシオ(以下、MRともいう)が特定の範囲内にあるものを用いている。従来、ポリオレフィン系樹脂それ自体のMFR等の見地から透湿シートの最適化を検討した例は数多いが、樹脂組成物のMFR等の見地からの検討はなされていなかった。特に樹脂組成物のMFR等と成形温度(とりわけTダイ法における成形温度)との関係は検討されていなかった。
【0011】
ポリオレフィン系樹脂組成物のMFRは、6〜25g/10minであり、好ましくは7〜20g/10min、更に好ましくは8〜18g/10minである。この範囲のMFRは、透湿シートの原料となるポリオレフィン系樹脂組成物の一般的なMFRよりも高いものである。このような高MFRのポリオレフィン系樹脂組成物を用い、後述する低成形温度でTダイ法によって成形を行うことで、成形中にいわゆる目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が抑制され、また成形性が良好になる。具体的にはポリオレフィン系樹脂組成物のMFRが6g/10min未満では流動性が悪く低温での成形が不可能であるため高温で成形する必要が生じ、目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が多くなってしまう。25g/10min超では溶融張力が低くなり、ドローレゾナンスが発生して高速での薄膜成形性が悪くなる。また、ダイス出口でのネックインが大きくなり、所望のシート幅が得られず生産性が悪くなってしまう。ポリオレフィン系樹脂組成物のMFRはASTM D−1238−57T(E)に規定される方法に従い、温度190℃、荷重21.18Nの条件下に測定される。
【0012】
本発明の方法で用いられるポリオレフィン系樹脂組成物においては、前述したMFRと同様に、MRも流動特性の指標となる重要な物性である。MRは、190℃における荷重98.07Nのメルトフローレートと、同温度における荷重9.81Nのメルトフローレートとの比で定義される。MRはポリオレフィン系樹脂組成物の剪断速度依存性の指標となるものである。具体的にはMRの値が1に近づくほど、ポリオレフィン系樹脂組成物の剪断応力が変化しても剪断速度の変化が小さいことを意味する。本発明者らの検討の結果、MRは特にTダイ法によって成形を行う場合に、成形性の指標となる要因であることが判明した。そして、本発明の方法においてはMRが85以下のポリオレフィン系樹脂組成物を用いることが必要である。MRが85超のポリオレフィン系樹脂組成物を用いると、押出機内、単管内、Tダイス内等での剪断速度の変化に対して、流動性の変化が大きくなる。その結果、樹脂の滞留による焼けブツの発生が多くなったり、幅方向の厚みムラが多く発生し、外観上見栄えの悪いシートとなってしまう。MRの好ましい範囲は10〜75、特に15〜70である。
【0013】
MRを算出するために用いられる190℃における荷重98.07N及び9.81Nのメルトフローレートの測定方法は、ASTM D−1238−57T(E)に規定される方法に準じる。MRを算出するために用いられる2つのメルトフローレートの荷重値をそれぞれ98.07N及び9.81Nとした理由は、一般的な押出機〜Tダイス内の剪断速度は、およそ、このメルトフロレートの荷重の範囲内に入ることによるものである。190℃における荷重98.07N及び9.81Nのメルトフローレートそれ自体の値は、荷重98.07Nの場合、60〜120g/10min、特に70〜110g/10minであることが好ましく、荷重9.81Nの場合、0.5〜5g/10min、特に1〜4.5g/10minであることが好ましい。それぞれの荷重におけるメルトフローレートの値がこの範囲内であれば、この剪断速度の範囲での樹脂の流動性の変化が小さく、成形性が良好となる。
【0014】
本発明の製造方法においては、ポリオレフィン系樹脂組成物として、前述したMFR及びMRを有するものを用いることが特徴の一つであり、更に別の特徴は、ポリオレフィン系樹脂として、特定の線状低密度ポリエチレン(以下、LLDPEともいう)と、特定の分岐状低密度ポリエチレン(以下、LDPEともいう)とを併用することである。かかるポリオレフィン系樹脂を用いて透湿シートを製造すると、成形中にいわゆる目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が一層抑制され、また成形性が一層良好になる。また得られる透湿シートが高強度で且つ柔軟となる。更に、意外にも、得られる透湿シートは透湿性が高くなり、しかも透明性も高くなることが本発明者らの検討によって判明した。
【0015】
LLDPEとしては、メルトフローレートが1〜5g/10min、好ましくは2〜5g/10min、更に好ましくは2.5〜4.5g/10minのものが用いられる。このMFRの範囲は、従来透湿シートの原料に用いられてきたポリオレフィン系樹脂のMFRよりも高いものである。このような高MFRのLLDPEを用いることによって、流動性が向上して成形性が良好となる。また、透湿性の高い透湿シートが得られる。詳細にはMFRが1g/10min未満では流動性が低く、シート成形が困難となってしまう。5g/10min超では延伸開孔時に孔が開きやすくなり、防漏性に問題が出るような穴開きが多発してしまう。LLDPEのMFRは、ポリオレフィン系樹脂組成物のMFRと同様に、ASTM D−1238−57T(E)に規定される方法に従い、温度190℃、荷重21.18Nの条件下に測定される。
【0016】
またLLDPEは、その密度が0.920〜0.935g/cm3、好ましくは0.920〜0.930g/cm3である。この範囲の密度を有するLLDPEを用いることで、透湿性が充分に高く、縦裂強度やCD破断強度等の強度が高く、柔軟性が高く、ホットメルト塗工に対する耐熱性が高く、外観上シートの延伸ムラも少ない透湿シートが得られる。詳細には密度が0.920g/cm3未満では透湿性が低くなり、耐熱性も低い透湿シートとなってしまう。0.935g/cm3超では柔軟性が低く、外観上シートの延伸ムラが多く、見栄えの悪い透湿シートとなってしまう。密度はJIS K 7112のD法(密度勾配管による測定法)に基づき測定される。
【0017】
LLDPEは、メタロセン触媒を用いて製造されたものであることが好ましい。これによって、成形性とシート物性、特に透湿性と強度と柔軟性のバランスした透湿シートが得られる。この場合LLDPEは、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体であることが好ましい。
【0018】
LLDPEとしては市販のものを用いることもできる。そのようなLLDPEとしては例えば宇部興産(株)製のUMERIT2540FやUMERIT2525F、日本ポリオレフィン(株)製のハーモレックスNC479AやNC564Aなどが挙げられる。
【0019】
本発明において用いられるポリオレフィン系樹脂のもう一方の成分であるLDPEとしては、MFRが6〜15g/10min、好ましくは7〜12g/10minのものが用いられる。このMFRの範囲は、従来透湿シートの原料に用いられてきたポリオレフィン系樹脂のMFRよりも高いものである。このような高MFRのLDPEを用いることによって、流動性が向上し成形性が良好となる。また、透湿性の高い透湿シートが得られる。詳細にはMFRが6g/10min未満では成形性が悪くなり、幅方向の厚みムラも多く、外観上見栄えの悪いシートとなり、更には、透湿性も低いものとなってしまう。15g/10min超では延伸開孔時に孔が開きやすくなり、防漏性に問題が出るような穴開きが多発してしまう。LDPEのMFRは、ポリオレフィン系樹脂組成物のMFRと同様に、ASTM D−1238−57T(E)に規定される方法に従い、温度190℃、荷重21.18Nの条件下に測定される。
【0020】
またLDPEは、その密度が0.910〜0.930g/cm3、好ましくは0.910〜0.925g/cm3、更に好ましくは0.915〜0.925g/cm3である。この範囲の密度を有するLDPEを用いることで、透湿性が充分に高く、縦裂強度やCD破断強度等の強度が高く、柔軟性が高く、ホットメルト塗工に対する耐熱性が高く、外観上シートの延伸ムラも少ない透湿シートが得られる。詳細には密度が0.910g/cm3未満では透湿性が低くなり、耐熱性も低い透湿シートとなってしまう。0.930g/cm3超では柔軟性が低く、外観上シートの延伸ムラが多く、見栄えの悪い透湿シートとなってしまう。
【0021】
LDPEとしては市販のものを用いることもできる。そのようなLDPEとしては例えば宇部興産(株)製のJ1019及び日本ポリオレフィン(株)製のJH606Nなどが挙げられる。
【0022】
本発明においては、LLDPEとLDPEとの配合比率も重要である。具体的には、ポリオレフィン系樹脂におけるLLDPEの配合量は80〜99重量%、好ましくは85〜99重量%、更に好ましくは85〜95重量%である。一方、ポリオレフィン系樹脂におけるLDPEの配合量は1〜20重量%、好ましくは1〜15重量%、更に好ましくは5〜15重量%である。各樹脂の配合量がこのような範囲内であることによって、シートの成形性が良好で、幅方向及び流れ方向の厚みムラが少なく、外観上見栄えの良好な透湿シートが得られる。また、透湿性と強度、柔軟性のバランスが優れた透湿シートが得られる。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂と共に用いられる無機充填剤は、本発明の透湿シートを多孔質にして透湿性を付与するために用いられるものである。無機充填剤としては例えば、炭酸カルシウム、石膏、タルク、クレー、カオリン、シリカ、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、燐酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、カーボンブラック、アルミニウム粉、鉄粉などの粉粒体が挙げられる。これらは一種又は二種以上を併用できる。得られる透湿シートの強度確保や製造時のシート破れの防止の点から、これらの無機充填剤はその平均粒径が0.3〜8μmで最大粒径が20μm以下であることが好ましく、平均粒径が0.5〜5μmで最大粒径が15μm以下であることが更に好ましい。
【0024】
前述した各種無機充填剤のうち、炭酸カルシウムや硫酸バリウムを用いることが好ましく、特に炭酸カルシウムを用いることが好ましい。炭酸カルシウムを用いる場合、その比表面積が16000〜24000cm2/g、特に18000〜22000cm2/gであるものを用いることが、透湿性が高く耐水性も高いシート、即ち、緻密な孔が多数開いていて液がにじみにくく、且つ十分な強度のシートが得られる点から好ましい。
【0025】
無機充填剤はポリオレフィン系樹脂100重量部に対して100〜300重量部、好ましくは100〜200重量部、更に好ましくは120〜200重量部用いられる。無機充填剤の量が100重量部未満であると得られるシートの透湿性が不十分となってしまう。300重量部超であるとシートの耐水性が低下し、液がにじみやすくなり、更には、強度が低下し、また、成形性も悪くなってしまう。
【0026】
本発明の方法で用いられるポリオレフィン系樹脂組成物においては、前述したポリオレフィン系樹脂及び無機充填剤に加えて、しなやかな風合い、鳴りの減少、滑り性を与え、延伸性を向上させるために、第三成分を添加することができる。上記第三成分としては、通常ゴムやプラスチックに混合される可塑剤や滑剤を使用することができ、例えば、脂肪酸と脂肪族アルコールからなるモノエステル、芳香族カルボン酸と脂肪族アルコールとからなるモノエステル又はポリエステル、脂肪族ポリカルボン酸とポリアルコールとからなるポリエステル、モノカルボン酸及び/又はポリカルボン酸とモノアルコール及び/又はポリアルコールとからなるポリエステル、アルコール及び/又はカルボン酸の一部を残したエステル又はポリエステル、脂肪族アミド、芳香族アミド、脂肪酸の金属石鹸、芳香族カルボン酸の金属石鹸、ブタジエンオリゴマー、ブテンオリゴマー、イソブチレンオリゴマー、イソプレンオリゴマー、石油樹脂、クマロン樹脂、ケトン樹脂、塩素化パラフィン、ヒマシ油、シリコーン油、流動パラフィン、ポリエチレンワックス等が挙げられる。その中でも特に、第三成分として特定のポリエステルを配合することが好ましい。このポリエステルは、多塩基酸と、多価アルコールと、炭素数14〜22の一塩基酸及び/又は炭素数12〜22の一価アルコールとのポリエステルである。このポリエステルを配合することで、ポリオレフィン系樹脂組成物の流動特性を一層所望のものとすることができる。その結果、成形中にいわゆる目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が一層抑制され、また成形性が一層良好になる。このポリエステルを構成する各成分の組み合わせは、ポリオレフィン系樹脂及び無機充填剤との親和性のバランスから、ポリエステル一定重量中のエステル基数及び炭化水素鎖の分岐度を考慮して選択される。
【0027】
前記ポリエステルにおける一塩基酸としては、炭素数14〜22の長鎖炭化水素のモノカルボン酸等が用いられる。多塩基酸としてはジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸等が用いられる。一価アルコールとしては炭素数12〜22の長鎖炭化水素のモノアルコール等が用いられる。多価アルコールとしてはジオール類、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、シュークローズ等が用いられる。一塩基酸の炭素数が12以下、又は一価アルコールの炭素数が10以下の場合、ポリオレフィン系樹脂及び無機充填剤への親和性のバランスがずれ、フィルム成形時にポリエステルが部分的に集中して延伸時にむらが生じたり、タテ裂け強度が低下することがある。
【0028】
前記ポリエステルは、多塩基酸と多価アルコールとを脱水縮合して得られるポリエステルであり、末端がカルボン酸の場合、その大部分がステアリルアルコール、オレイルアルコール、ゲルベアルコール等の長鎖炭化水素のモノアルコールでエステル化されていることが好ましい。末端がアルコールの場合、その大部分がステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の長鎖炭化水素のモノカルボン酸でエステル化された末端封鎖ポリエステルであることが好ましい。しかし、これらの場合でも全ての末端が封鎖されている必要はない。エステル構成成分として分岐の酸又はアルコールを含んだエステルは更に好ましい。
【0029】
好ましい具体的なポリエステルの例は、ジエチレングリコールとダイマー酸とのポリエステルの両末端のカルボン酸又はアルコールをステアリルアルコール又はステアリン酸で部分的に又は全部を封鎖したポリエステル、1,3−ブタンジオールとアジピン酸とのポリエステルの両末端をヒドロキシステアリン酸で封鎖したポリエステル、トリメチロールプロパン−アジピン酸−ステアリン酸からなるヘキサエステル、ペンタエリスリトール−アジピン酸−ステアリン酸からなるオクタエステル、ジペンタエリスリトール−アジピン酸−ステアリン酸からなるドデカエステル、前記ポリエステルの構成成分であるアジピン酸の代わりにダイマー酸又は水添ダイマー酸を用いたポリエステル、及びステアリン酸の代わりにイソステアリン酸を用いたポリエステル等である。
【0030】
前記ポリエステルは、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して1〜30重量部、特に5〜20重量部配合されることが、成形時における良好な流動性、しなやかな風合い、鳴りの減少、滑り性、延伸性の向上の点から好ましい。
【0031】
本発明の方法で用いられるポリオレフィン系樹脂組成物には、ポリオレフィン系樹脂組成物中での分散性を良くすることを目的として、ステアリン酸を配合することもできる。ステアリン酸は、無機充填剤100重量部に対して0.5〜3重量部、特に0.8〜2重量部配合されることが好ましい。
【0032】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂組成物には、前述した各成分に加えて、本発明の効果を妨げない範囲で可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを配合してもよい。
【0033】
本発明の方法は、前述したポリオレフィン系樹脂組成物を原料とし、これをTダイ法によってフィルム状に溶融成膜したのち少なくとも一軸延伸する工程を含む。詳細には、ポリオレフィン系樹脂組成物を構成する各成分を、ヘンシェルミキサやスーパーミキサを用いて予備混合した後、一軸又は二軸押出機で混練してペレット化する。次に、得られたペレットを用いTダイ型の成形機によって成膜しフィルムを得る。得られたフィルムを一軸又は二軸延伸して、樹脂と無機充填剤との界面剥離を生じさせ多孔質化する。延伸にはロール法やテンター法が用いられる。このようにして透湿シートが得られる。
【0034】
成形温度は、従来のポリオレフィン系透湿シートの成形温度よりも低い温度である180〜220℃にする。Tダイ法を用いたこの成形温度と前述したポリオレフィン系樹脂組成物とを組み合わせることによって、成形中にいわゆる目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が抑制され、また成形性が良好になる。同成形温度条件で前記ポリオレフィン系樹脂組成物を原料としてインフレーション成形を行っても、成形性は良好とはならない。成形温度は180〜210℃、特に190〜210℃であることが、成形に支障をきたす物質の発生が一層抑制され、また成形性が一層良好になる点から好ましい。成形温度は、Tダイにおける温度である。
【0035】
後述する望ましい全光線透過率及び透湿度を得るためには、延伸条件として、一軸方向に少なくとも1.2倍、特に1.5〜4倍、とりわけ1.5〜3.5倍延伸することが好ましい。
【0036】
このようにして得られた透湿シートは、前述したポリオレフィン系樹脂組成物を原料としていることから、その全光線透過率が好ましくは50%以上という高い値となる。このような高い全光線透過率を示すにもかかわらず、透湿シートはその透湿度が3600〜8400g/(m2・24h)という高い値となり、好ましくは4000〜8400g/(m2・24h)、更に好ましくは5000〜8400g/(m2・24h)となる。このように透湿シートは、従来同時に達成し得なかった高全光線透過率及び高透湿度を有するものである。本発明において全光線透過率は、JIS K 7105に準じ、(株)村上色彩技術研究所製のヘイズ・透過・反射率計HR−100を用いて測定される。透湿度はJIS Z 0208に準じ、温度30℃±0.5℃、湿度90±2%RHの環境下で測定される。
【0037】
透湿シートはその坪量が好ましくは10〜50g/m2である。後述するように、その一面に不織布などの繊維シートと貼り合わせた複合シートの形態においては、透湿シートの坪量は、更に好ましくは10〜35g/m2であり、一層好ましくは15〜30g/m2である。坪量がこの範囲内であれば、シート強度、耐水性、柔軟性及び透湿性のバランスが良好となる。
【0038】
このようにして得られた透湿シートは、例えば衛生材料、医療用材料、衣料用材料などとして用いられる。また、透湿シートは、その一面に不織布などの繊維シートと貼り合わせた複合シートの形態で前記の材料として用いることもできる。特に、透湿シートは、前述の通り高透湿度を有しているので、これをそのまま、或いは繊維シートと貼り合わせた複合シートとして、使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品の構成材料として用いると、着装内の湿度上昇を防止することができ、着用者の肌にかぶれが発生することを効果的に防止することができる。これらの吸収性物品は一般に液透過性の表面シート、液不透過性の裏面シートおよび両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を備えており、透湿シート又はこれを繊維シートと貼り合わせてなる複合シートは、前記裏面シートとして用いられる。
【実施例】
【0039】
以下の例中、特に断らない限り「部」は「重量部」を意味する。
【0040】
〔実施例1〜5並びに比較例1及び2〕
(1)ポリオレフィン系樹脂組成物の調製
以下の表1に示す材料を表2に示す組成で配合し、100リットルのヘンシェルミキサで予備混合し、次いで二軸押出機で溶融混練してペレット化した樹脂組成物を得た。二軸押出機は池貝製のPCM−45−33.5であり、スクリュー径は45mmであった。設定温度は160℃とし、スクリュー回転数は150rpm、押出量は25kg/hとした。
(2)透湿シートの成形
径50mmの単軸押出機(L/D=28)と、幅500mmのTダイス(ダイリップクリアランス1.5mm)とからなるTダイフィルム成形装置を用い、前記で得られたポリオレフィン系樹脂組成物を成形し、厚み35μm、幅400mmのフィルムを得た。Tダイスの設定温度は200℃とし、成形速度は10m/minとした。得られたフィルムを、ロール一軸延伸機を用いて縦方向に延伸し、透湿シートを得た。延伸倍率は表2に示す通りとした。予熱温度は80℃とし、延伸温度は50℃、アニール温度は80℃とした。またアニールでの戻し率は13%とした。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
〔性能評価〕
実施例及び比較例で得られた透湿シートについて、以下の方法で成形性(シート成形性及び厚みムラ)を評価した。また前述の方法で透湿度及び全光線透過率を測定した。更に、以下の方法で坪量、引裂強度及び破断強度を測定した。これらの結果を以下の表3に示す。
【0044】
〔シート成形性〕
成形中の状態を観察し以下の基準に従い評価した。
○:薄膜のシートを安定して成形できた。
△:成形がやや不安定であった。
×:薄膜のシートを安定して成形できなかった。
【0045】
〔厚みムラ〕
透湿シートの厚みムラを以下の基準に従い評価した。
◎:厚みムラがなく、外観も非常に良好であった。
○:厚みムラがほとんどなく、外観も良好であった。
△:厚みムラがあり、外観がやや悪かった。
×:厚みムラが大きく、外観が悪かった。
【0046】
〔坪量〕
透湿シートを10cm×10cmの大きさに切り取りその重量を測定し、1m2の面積に換算した。
【0047】
〔引裂強度〕
JIS K 7128−2エルメンドルフ引裂法に準じて機械方向(MD)の引裂強度を測定した。
【0048】
〔破断強度〕
JIS K 7127に準じて、機械方向(MD)及び幅方向(CD)の破断強度を測定した。
【0049】
【表3】

【0050】
表3に示す結果から明らかなように、実施例の透湿シートは、成形性が良好であり、また厚みムラも観察されないことが判る。更に、十分な引裂強度及び破断強度を保ちつつ、透湿度が4460g/(m2・24h)以上と極めて高く、しかも全光線透過率も51%以上と極めて高くなっていることが判る。これに対して比較例の透湿シートでは、成形が不安定であり、厚みムラの発生が大きいことが判る。また透湿度を高くしようとすると全光線透過率が低くなり、逆に全光線透過率を高くしようとすると透湿度が低くなってしまうことが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフイン系樹脂100重量部に対して無機充填剤100〜300重量部を含み、190℃におけるメルトフローレート(荷重21.18N)が6〜25g/10minであり、190℃におけるメルトフローレシオ(荷重98.07Nのメルトフローレートと荷重9.81Nのメルトフローレートとの比)が85以下であるポリオレフイン系樹脂組成物を、180〜220℃の成形温度下にTダイ法によってフィルム状に成膜し、次いで少なくとも一軸延伸する透湿シートの製造方法。
【請求項2】
前記ポリオレフイン系樹脂組成物が、前記ポリオレフイン系樹脂100重量部に対して、多塩基酸と、多価アルコールと、炭素数14〜22の一塩基酸及び/又は炭素数12〜22の一価アルコールとのポリエステル1〜30重量部を更に含む請求項1記載の透湿シートの製造方法。
【請求項3】
前記ポリオレフイン系樹脂が、メルトフローレート1〜5g/10minで、密度0.920〜0.935g/cm3である線状低密度ポリエチレン80〜99重量%およびメルトフローレート6〜15g/10minで、密度0.910〜0.930g/cm3である分岐状低密度ポリエチレン1〜20重量%を含む請求項1又は2記載の透湿シートの製造方法。
【請求項4】
ポリオレフイン系樹脂100重量部に対して無機充填剤100〜300重量部およびポリエステル1〜30重量部を含むポリオレフイン系樹脂組成物からなり、少なくとも一軸延伸されており、全光線透過率が50%以上であり、透湿度が3600〜8400g/(m2・24h)であり、坪量が10〜50g/m2である透湿シートであって、
前記ポリオレフイン系樹脂組成物は、190℃におけるメルトフローレート(荷重21.18N)が6〜25g/10minであり、190℃におけるメルトフローレシオ(荷重98.07Nのメルトフローレートと荷重9.81Nのメルトフローレートとの比)が85以下であり、
前記ポリオレフイン系樹脂は、メルトフローレート1〜5g/10minで、密度0.920〜0.935g/cm3である線状低密度ポリエチレン80〜99重量%およびメルトフローレート6〜15g/10minで、密度0.910〜0.930g/cm3である分岐状低密度ポリエチレン1〜20重量%を含み、
前記ポリエステルは、多塩基酸と、多価アルコールと、炭素数14〜22の一塩基酸及び/又は炭素数12〜22の一価アルコールとのポリエステルである透湿シート。
【請求項5】
前記線状低密度ポリエチレンがメタロセン触媒を用いて製造されたものである請求項4記載の透湿シート。
【請求項6】
前記無機充填剤が、比表面積16000〜24000cm2/gである炭酸カルシウムからなる請求項4又は5記載の透湿シート。
【請求項7】
請求項4記載の透湿シートの一面に繊維シートを貼り合わせてなる複合シート。
【請求項8】
液透過性の表面シート、液不透過性の裏面シートおよび両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を備えた吸収性物品において、前記裏面シートとして請求項4記載の透湿シート又は請求項7記載の複合シートを用いた吸収性物品。

【公開番号】特開2007−63570(P2007−63570A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333115(P2006−333115)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【分割の表示】特願2002−260493(P2002−260493)の分割
【原出願日】平成14年9月5日(2002.9.5)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】