説明

透過型砂防ダム

【課題】透過型砂防ダム本体の頂部に、下流側に向かって延びる庇を設けることによって、洪水時に透過型砂防ダム本体を乗り越えて落下する礫によって、透過型砂防ダム本体を構成する下流側支柱が損傷することを確実に防止することができる。
【解決手段】上流側に向かって傾斜した下流側支柱3を備えた透過型砂防ダム本体1と、透過型砂防ダム本体1の頂部に設けられた、下流側に向かって延びる庇9とを備え、庇9は、透過型砂防ダム本体1を乗り越えて落下する礫による下流側支柱3の損傷を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、透過型砂防ダム、特に、洪水時に透過型砂防ダム本体を乗り越えて落下する礫によって、透過型砂防ダム本体の下流側支柱が損傷することを確実に防止することができる庇を備えた透過型砂防ダムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
透過型砂防ダムは、大洪水時に上流側から流れてくる礫や流木等を阻止し、平常時および中小洪水時には土砂を下流側に流下させて、計画的にダムの空容量を確保し、且つ、自然の摂理に合致する等、土砂を流下させない不透過型ダムにはない種々の利点を有している。
【0003】
従来、透過型砂防ダムとしては、特許文献1(特開平7−82725号公報)に開示されるものがある。以下、この透過型砂防ダムを従来透過型砂防ダムといい、図面を参照しながら説明する。
【0004】
図5は、従来透過型砂防ダムを示す側面図である。
【0005】
図5に示すように、従来透過型砂防ダムは、何れも鋼管からなる支柱11と梁12とを立体的に組んでコンクリート基礎13上に構築したものであり、下流側支柱11Aの上部は、上流側に向かって傾斜している。
【0006】
【特許文献1】特開平7−82725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来透過型砂防ダムは、洪水時に透過型砂防ダムを乗り越えて落下する礫によって、上流側に向かって傾斜している下流側支柱11Aが損傷するといった問題があった。この問題は、透過型砂防ダムが大型化して、ダム高さが高くなった場合に、礫の落下エネルギーは、礫の落下高さに比例して増大するので顕著となる。下流側支柱11Aが損傷した場合には、ダム全体の強度が低下する恐れがあるので、損傷した支柱を新たな支柱と交換する必要があるが、河床の基礎コンクリートに埋め込まれて強固に構築されている支柱の交換は容易ではない。従って、場合によってはダム全体を再構築せざるを得なかった。
【0008】
従って、この発明の目的は、洪水時の礫の落下による下流側支柱の損傷を確実に防止することができる透過型砂防ダムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、上流側に向かって傾斜した下流側支柱を備えた透過型砂防ダム本体と、前記透過型砂防ダム本体の頂部に設けられた、下流側に向かって延びる庇とを備え、前記庇は、前記透過型砂防ダム本体を乗り越えて落下する礫による前記下流側支柱の損傷を防止することに特徴を有するものである。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記庇は、前記透過型砂防ダム本体に対して着脱自在に設けられていることに特徴を有するものである。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記庇は、下流側に向かって下方に傾斜していることに特徴を有するものである。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1から3の何れか1つに記載の発明において、前記庇は、前記下流側支柱の最下流端より下流側に突出していることに特徴を有するものである。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項1から4の何れか1つに記載の発明において、前記庇には、開口が形成され、前記開口の幅は、落下により前記下流側支柱を損傷させる礫の最小径未満であることに特徴を有するものである。
【0014】
請求項6記載の発明は、請求項1から5の何れか1つに記載の発明において、前記庇は、補強材により補強されていることに特徴を有するものである。
【0015】
請求項7記載の発明は、請求項1から6の何れか1つに記載の発明において、前記庇は、梁材を格子状に組んだものから構成されることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、以下のような効果がもたらされる。
【0017】
(1)透過型砂防ダム本体の頂部に、下流側に向かって延びる庇を設けることによって、洪水時に透過型砂防ダム本体を乗り越えて落下する礫によって、透過型砂防ダム本体を構成する下流側支柱が損傷することを確実に防止することができる。
【0018】
(2)庇を透過型砂防ダム本体に対して着脱自在に取り付けることによって、庇の交換が容易に行え、また、庇は、既存の透過型砂防ダム本体に対して容易に取り付けることができる。
【0019】
(3)庇を下流側に向かって下方に傾斜させることによって、庇上に礫を堆積させることなく、庇上の礫を自然落下させることができるので、ダムのメンテナンスが容易となる。
【0020】
(4)庇に形成される開口の幅を、落下により下流側支柱を損傷させる礫の最小径未満とすることによって、落下により下流側支柱に損傷を与えない礫を予め庇から落下させることができるので、ダムのメンテナンスが容易となる。
【0021】
(5)庇と下流側支柱との間に突っ張り棒状の補強材を設けることによって、庇の強度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、この発明の透過型砂防ダムの一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、この発明の透過型砂防ダムを示す側面図、図2は、この発明の透過型砂防ダムを示す平面図、図3は、補強材により補強された庇部分を示す側面図、図4は、下方に傾斜した庇部分を示す側面図である。
【0024】
図1および図2において、1は、透過型砂防ダム本体であり、上流側支柱2、下流側支柱3、上流側梁4、下流側梁5、側部梁6および中間支柱7をコンクリート基礎8上に櫓状に組んだものから構成されている。
【0025】
上流側支柱2は、下流側に向かって傾斜し、下流側支柱3は、上流側に向かって傾斜している。上流側梁4は、上流側支柱2間に水平に配され、下流側梁5は、下流側支柱3間に水平に配されている。側部梁6は、上流側支柱2と下流側支柱3との間に水平に配されている。中間支柱7は、コンクリート基礎8と上流側支柱2との間に傾斜して配されている。
【0026】
9は、透過型砂防ダム本体1の頂部に取り付けられた、下流側に向かって水平に延びる庇である。庇9の突出長さ(L)は、下流側支柱3の最下流端より下流側に突出する長さとなっている。このように、庇9を長くすることによって、土石流の流速が遅く、庇先端から自由落下によりほぼ垂直に礫が落下した場合であっても、下流側支柱3の損傷を防止することができる。
【0027】
庇9は、鋼管製の梁材9Bを格子状に組んだものから構成され、開口(S)の幅は、落下により下流側支柱3を損傷させる礫の最小径未満である。このようにすることによって、落下により下流側支柱3に損傷を与えない礫を予め庇9の開口(S)から自重により落下させることができるので、ダムのメンテナンスが容易となる。
【0028】
庇9は、梁材9A、9Bを格子状に組んだものから構成され、ダム本体1の上流側支柱2の上部に下流側に突出させて固定した梁材9Cにフランジ結合によりボルト等により着脱自在に固定されている。庇9を格子状に形成することによって、落下させる礫の大きさの調整が容易に行える。庇9を透過型砂防ダム本体1に対して着脱自在に取り付けることによって、庇9が損傷あるいは破壊された場合でも、その交換が容易に行える。しかも、交換作業は、ダム本体1の上部で行えるので、安全且つ容易に行える。
【0029】
これに対して、庇がない従来透過型砂防ダムの場合には、支柱を交換することになるが、上述のように、支柱は、河床の基礎コンクリートに埋め込まれて強固に構築されているので、その交換作業は容易ではない。なお、庇9を着脱自在にすることによって、庇9の交換により、ダムを構築する河川の土石流条件に応じて、庇9の格子間隔や庇9の長さを容易に変更することができる。
【0030】
なお、庇9の上に格子間隔より目の小さなエキスパンドメタルや格子金網等の礫落下補助部材を設けても良い。このような礫落下補助部材を設けることによって、庇9を交換することなく、庇9の格子間から落下させる礫の大きさを容易に調整することができる。
【0031】
また、庇9と下流側支柱3との間に、突っ張り棒状の補強材10を設けることによって、庇9の強度をさらに高めることができる。補強材10により庇9の強度を高めることによって、越流する礫の衝撃エネルギーや庇9上の礫による庇9の損傷や破壊を確実に防止することができる。
【0032】
また、図4に示すように、庇9を下流側に向かって下方に傾斜させることによって、庇9上に礫を堆積させることなく、庇9上の礫を自然落下させることができるので、礫の除去が不要となって、ダムのメンテナンスが容易となる。また、庇9を傾斜させると加速度がついて礫をより遠方に落下させることができるので、下流側支柱3の損傷をより確実に防止することができる。
【0033】
さらに、庇9は、土石流の流速が遅い場合や上流側支柱2で礫が堆積し、これが満杯になった場合等においても、礫の捕捉が可能となる。また、下流側に被害を与える礫を捕捉する機能を備えることもできる。この場合は、庇9の突出長さを長くするとより効果的である。
【0034】
庇9の梁材は、鋼管製以外にH形鋼、L形鋼などであっても良く、鋼製以外の材質であっても良い。
【0035】
以上は、この発明を逆V字状に組んだ透過型砂防ダムに適用したものであるが、図5に示すような形状の透過型砂防ダムに適用することも勿論可能である。
【0036】
以上のように、この発明によれば、透過型砂防ダム本体の頂部に、下流側に向かって延びる庇を設けることによって、洪水時に透過型砂防ダム本体を乗り越えて落下する礫によって、透過型砂防ダム本体を構成する下流側支柱が損傷することを確実に防止することができる。
【0037】
また、庇を透過型砂防ダム本体に対して着脱自在に取り付けることによって、庇の交換が容易に行える。
【0038】
しかも、庇を下流側に向かって下方に傾斜させることによって、庇上の礫を自然落下させることができるので、ダムのメンテナンスが容易となる。
【0039】
さらに、庇に形成される開口の幅を、落下により下流側支柱を損傷させる礫の最小径未満とすることによって、落下により下流側支柱に損傷を与えない礫を予め庇から落下させることができるので、ダムのメンテナンスが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の透過型砂防ダムを示す側面図である。
【図2】この発明の透過型砂防ダムを示す平面図である。
【図3】補強材により補強された庇部分を示す側面図である。
【図4】下方に傾斜した庇部分を示す側面図である。
【図5】従来透過型砂防ダムを示す側面図である。
【符号の説明】
【0041】
1:透過型砂防ダム本体
2:上流側支柱
3:下流側支柱
4:上流側梁
5:下流側梁
6:側部梁
7:中間支柱
8:コンクリート基礎
9:庇
9A:梁材
9B:梁材
9C:梁材
10:補強材
11:支柱
11A:下流側支柱
12:梁
13:コンクリート基礎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側に向かって傾斜した下流側支柱を備えた透過型砂防ダム本体と、前記透過型砂防ダム本体の頂部に設けられた、下流側に向かって延びる庇とを備え、前記庇は、前記透過型砂防ダム本体を乗り越えて落下する礫による前記下流側支柱の損傷を防止することを特徴とする透過型砂防ダム。
【請求項2】
前記庇は、前記透過型砂防ダム本体に対して着脱自在に設けられていることを特徴とする、請求項1記載の透過型砂防ダム。
【請求項3】
前記庇は、下流側に向かって下方に傾斜していることを特徴とする、請求項1または2記載の透過型砂防ダム。
【請求項4】
前記庇は、前記下流側支柱の最下流端より下流側に突出していることを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の透過型砂防ダム。
【請求項5】
前記庇には、開口が形成され、前記開口の幅は、落下により前記下流側支柱を損傷させる礫の最小径未満であることを特徴とする、請求項1から4の何れか1つに記載の透過型砂防ダム。
【請求項6】
前記庇は、補強材により補強されていることを特徴とする、請求項1から5の何れか1つに記載の透過型砂防ダム。
【請求項7】
前記庇は、梁材を格子状に組んだものから構成されることを特徴とする、請求項1から6の何れか1つに記載の透過型砂防ダム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−24364(P2009−24364A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187284(P2007−187284)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)