説明

透過型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡のデフォーカス量調整方法、プログラム及び情報記憶媒体

【課題】デフォーカス量を精度よく調整することが可能な、透過型電子顕微鏡、デフォーカス量調整方法、プログラム及び情報記憶媒体を提供すること。
【解決手段】透過電子顕微鏡像を取得する像取得部22と、電子線を傾斜させない状態で取得した第1の透過電子顕微鏡像に対してフーリエ変換を行ってフーリエ変換像を生成し、前記フーリエ変換像において高周波成分が多くなる方向を検出する方向検出部24と、試料に照射される電子線を、検出された方向に傾斜させるための制御信号を生成して偏向器制御装置5に出力する制御信号生成部26と、前記第1の透過電子顕微鏡像と、電子線を検出された方向に傾斜させた状態で取得した第2の透過電子顕微鏡像の相互相関をとって、前記第1及び第2の透過電子顕微鏡像間の位置ずれ量を求め、求めた位置ずれ量に基づきデフォーカス量を検出するデフォーカス量検出部28とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡のデフォーカス量調整方法、プログラム及び情報記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透過型電子顕微鏡において焦点合わせ(デフォーカス量の調整)を行う方法として、ビームチルト法又はイメージウォブラー法と呼ばれるものが知られている。ビームチルト法を用いる場合には、像の観察時に、電子線を傾斜しない状態と、電子線を一定量だけ所定の方向に傾斜させた状態を高速に切り替える。すると、正焦点でない場合には、観察される像は電子線の傾斜方向に沿って揺れているように見える。その揺れが小さくなる方向に手動で対物レンズの励磁電流を変化させることで、焦点合わせを行うことができる。また、自動的に焦点合わせを行う場合には、電子線傾斜前の画像Aと傾斜後の画像Bの相互相関をとって2画像間の位置ずれ量を求め、求めた位置ずれ量に基づき対物レンズの励磁電流を変化させて焦点合わせを行う(例えば、特許文献1参照)。この手法では、画像Aと画像Bの相互相関をとったときに得られる相互相関像における、像の中心位置からピーク位置までの距離を、画像A、B間の位置ずれ量としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−55143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、図5(A)に示すように、観察される画像内に一定方向に伸びる線分状のコントラスト(周囲の画素と比べて輝度の高い又は低い部分)がある場合、当該線分状のコントラストが伸びる方向と平行な方向に電子線を傾斜させると、図5(B)に示すような画像が得られ、図5(A)に示す画像と図5(B)に示す画像の相互相関をとったときに得られる相互相関像(図5(C)参照)において、像のピークが像の中心から見て放射方向に伸びることになる。すなわち、図5(D)に示すように、相互相関像の中心CPから電子線の傾斜方向Dにピークを検索すると、図5(E)に示すように、ラインプロファイルにおけるピークがブロードなものとなってしまい、ピーク位置の検出精度が悪くなる。
【0005】
従来のデフォーカス量の調整方法では、電子線の傾斜方向が固定値であったため、観察される画像内に、たまたま電子線の傾斜方向と平行な方向に伸びる線分状のコントラストが存在する場合に、2画像間の位置ずれ量を精度よく求めることができず、デフォーカス量の検出精度が悪くなってしまうことがあった。同様に、2画像を高速に切り替えて手動でデフォーカス量を調整する場合に、図5(B)に示すような電子線傾斜後の画像が、図5(A)に示すような傾斜前の画像を線分状のコントラストが延びる方向と平行な方向にずらしたような画像となってしまうことがあり、利用者にとって像の揺れ(見た目の位置ずれ量)が把握し難くなり、デフォーカス量を精度よく調整(検出)できないといった問題点があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、デフォーカス量を精度よく調整することが可能な、透過型電子顕微鏡、デフォーカス量調整方法、プログラム及び情報記憶媒体を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、
透過電子顕微鏡像を取得する像取得部と、
電子線を傾斜させない状態で取得した第1の透過電子顕微鏡像に対してフーリエ変換を行ってフーリエ変換像を生成し、前記フーリエ変換像において高周波成分が多くなる方向を検出する方向検出部と、
試料に照射される電子線を、検出された方向に傾斜させるための制御を行う制御部と、
前記第1の透過電子顕微鏡像と、電子線を検出された方向に傾斜させた状態で取得した第2の透過電子顕微鏡像の相互相関をとって、前記第1及び第2の透過電子顕微鏡像間の位置ずれ量を求め、求めた位置ずれ量に基づきデフォーカス量を検出するデフォーカス量検出部とを含む透過型電子顕微鏡に関する。
【0008】
また本発明は、透過型電子顕微鏡が備えるコンピュータを上記各部として機能させるためのプログラムに関する。また本発明は、コンピュータ読み取り可能な情報記憶媒体であって、透過型電子顕微鏡が備えるコンピュータを上記各部として機能させるためのプログラムを記憶した情報記憶媒体に関する。
【0009】
本発明によれば、観察される画像(透過電子顕微鏡像)に線分状のコントラストが存在する場合に、電子線の傾斜方向を、当該線分状のコントラストが伸びる方向と略垂直な方向とすることができ、第1及び第2の透過電子顕微鏡像間の位置ずれ量を精度よく求めて、デフォーカス量の検出精度を向上させることができる。
【0010】
(2)本発明に係る透過型電子顕微鏡、プログラム、情報記憶媒体では、
前記方向検出部が、
前記フーリエ変換像を中心から放射状に複数の領域に分割した場合に、前記複数の領域のうち高周波成分の比率が最も高い領域の方向を検出してもよい。
【0011】
(3)本発明は、
電子線を傾斜させない状態で第1の透過電子顕微鏡像を取得する第1の像取得工程と、
前記第1の透過電子顕微鏡像に対してフーリエ変換を行ってフーリエ変換像を生成し、前記フーリエ変換像において高周波成分が多くなる方向を検出する方向検出工程と、
試料に照射される電子線を、検出された方向に傾斜させるための制御を行う制御工程と、
電子線を検出された方向に傾斜させた状態で第2の透過電子顕微鏡像を取得する第2の像取得工程と、
前記第1及び第2の透過電子顕微鏡像に基づきデフォーカス量を調整するデフォーカス量調整工程とを含む、透過型電子顕微鏡のデフォーカス量調整方法に関する。
【0012】
本発明によれば、観察される画像(透過電子顕微鏡像)に線分状のコントラストが存在する場合に、電子線の傾斜方向を、当該線分状のコントラストが伸びる方向と略垂直な方向とすることができ、デフォーカス量を精度よく調整することができる。
【0013】
(4)本発明に係る透過型電子顕微鏡のデフォーカス量調整方法では、
前記方向検出工程において、
前記フーリエ変換像を中心から放射状に複数の領域に分割した場合に、前記複数の領域のうち高周波成分の比率が最も高い領域の方向を検出してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る透過型電子顕微鏡の構成の一例を示す図。
【図2】本実施形態の処理の流れについて説明するためのフローチャート図。
【図3】電子線の傾斜方向の決定について説明するための図。
【図4】TEM像の位置ずれ量の検出について説明するための図。
【図5】従来例について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0016】
1.構成
図1に、本実施形態に係る電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡)の構成の一例を示す。なお本実施形態の、電子顕微鏡は図1の構成要素(各部)の一部を省略した構成としてもよい。
【0017】
図1に示すように、電子顕微鏡100は、電子線源1と、照射レンズ系2と、偏向器4と、偏向器制御装置5と、試料Sを保持するステージ6と、対物レンズ8と、対物レンズ制御部9と、投影レンズ10と、検出器12と、鏡筒14と、処理部20と、操作部30と、表示部32と、記憶部34と、情報記憶媒体36とを含んでいる。
【0018】
電子線源1、照射レンズ系2と、偏向器4、ステージ6、対物レンズ8、投影レンズ10、検出器12は、鏡筒14の内部に収容されている。鏡筒14の内部は、排気装置(図示省略)によって減圧排気されている。
【0019】
電子線源1は、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する。電子線源1の例として、公知の電子銃を挙げることができる。
【0020】
照射レンズ系2は、電子線源1の後段に配置されている。照射レンズ系2は、複数の集束レンズ(図示省略)で構成されている。照射レンズ系2は、試料Sに照射される電子線(入射電子線)の量を調整する。
【0021】
偏向器4は、照射レンズ系2の後段に配置されている。偏向器4は、複数の偏向コイルを有する。偏向器制御装置5は、処理部20からの制御信号に基づき、偏向器4の該複数の偏向コイルに流れる電流量を制御する。偏向器4は、偏向器制御装置5で各偏向コイルに流れる電流を制御することにより入射電子線を二次元的に偏向させる。これにより、試料Sに対する入射電子線の入射角度(試料に照射される電子線の傾斜方向及び傾斜角度)を変えることができるため、透過波の光路および散乱波の光路を変えることができる。偏向器4により、入射電子線を対物レンズ8の光軸に一致させるための軸合わせを行うことができる。
【0022】
ステージ6は、試料Sを偏向器4の後段に位置させるように保持している。ステージ6は、ステージ制御装置(図示省略)により制御され、試料Sを水平方向や垂直方向に移動させ、また試料Sを回転、傾斜させる。
【0023】
対物レンズ8は、試料Sの後段に配置されている。対物レンズ8は、対物レンズ制御装置9により制御され、試料Sを透過した電子線を結像させる。対物レンズ制御装置9は、処理部20からの制御信号に基づき、対物レンズに供給する励磁電流を制御する。投影レンズ10は、対物レンズ8の後段に配置されている。投影レンズ10は、対物レンズ8によって結像された像をさらに拡大し、検出器12上に結像させる。
【0024】
検出器12は、投影レンズ10の後段に配置されている。検出器12は、投影レンズ10によって結像された透過電子顕微鏡像を検出する。検出器12の例として、二次元的に配置されたCCD(Charge Coupled Device)で形成された受光面を有するCCDカメラを挙げることができる。検出器12が検出した透過電子顕微鏡像の像情報は、処理部20に出力される。
【0025】
操作部20は、ユーザが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部20に出力する。操作部20の機能は、キーボード、マウス、タッチパネル型ディスプレイなどのハードウェアにより実現することができる。
【0026】
表示部32は、処理部20によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部32は、処理部20により生成された、透過電子顕微鏡像を表示する。
【0027】
記憶部34は、処理部20のワーク領域となるもので、その機能はRAMなどにより実現できる。情報記憶媒体36(コンピュータにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(CD、DVD)、光磁気ディスク(MO)、磁気ディスク、ハードディスク、或いはメモリ(ROM)などにより実現できる。処理部20は、情報記憶媒体36に格納されるプログラムに基づいて本実施形態の種々の処理を行う。情報記憶媒体36には、処理部20の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムを記憶することができる。
【0028】
処理部20は、偏向器制御装置5、対物レンズ制御装置9等を制御する処理や、透過電子顕微鏡像を取得する処理、電子線の傾斜方向を決定する処理、デフォーカス量を調節する処理などの処理を行う。処理部20の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部20は、像取得部22と、方向検出部24と、制御信号生成部26と、デフォーカス量検出部28とを含む。
【0029】
像取得部22は、検出器12から出力された像情報を取り込むことで透過電子顕微鏡像(TEM像)を取得する処理を行う。像取得部22は、電子線を傾斜させない状態で得られる第1の透過電子顕微鏡像と、電子線を方向検出部24で検出された方向に傾斜させた状態で得られる第2の透過電子顕微鏡像を取得する。
【0030】
方向検出部24は、電子線を傾斜させない状態で取得した第1の透過電子顕微鏡像に対してフーリエ変換を行ってフーリエ変換像を生成し、前記フーリエ変換像において高周波成分が多くなる方向を検出する。具体的には、方向検出部24は、前記フーリエ変換像を中心から放射状に複数の領域に分割した場合に、前記複数の領域のうち高周波成分の比率が最も高い領域の方向(高周波成分の比率が最も高い領域を通過する放射方向)を検出する。
【0031】
制御信号生成部26(本発明の制御部に対応)は、各種制御信号を生成して偏向器制御装置5、対物レンズ制御装置9、ステージ制御装置等に出力する。
【0032】
特に本実施形態の制御信号生成部26は、電子線を方向検出部24で検出された方向に傾斜させるための制御信号を生成して偏向器制御装置5に出力する。また、制御信号生成部26は、対物レンズ8の焦点位置を変化させるための制御信号を生成して対物レンズ制御装置9に出力する。
【0033】
デフォーカス量検出部28は、電子線を傾斜させない状態で取得した第1の透過電子顕微鏡像と、電子線を方向検出部24で検出された方向に傾斜させた状態で取得した第2の透過電子顕微鏡像の相互相関をとって、前記第1及び第2の透過電子顕微鏡像間の位置ずれ量を求め、求めた位置ずれ量に基づき現在のデフォーカス量(焦点ずれ量)を検出する。具体的には、デフォーカス量検出部28は、第1及び第2の透過電子顕微鏡像の相互相関像におけるピーク位置を検出し、検出したピーク位置と相関像の中心位置間の距離を位置ずれ量として検出する。
【0034】
制御信号生成部26は、デフォーカス量検出部28で検出された現在のデフォーカス量を、予め指定された目標デフォーカス量に補正するための制御信号を生成して対物レンズ制御装置9(又はステージ制御装置)に出力してもよい。
【0035】
また、処理部20は、電子線を傾斜させない状態で取得した第1の透過電子顕微鏡像と、電子線を方向検出部24で検出された方向に傾斜させた状態で取得した第2の透過電子顕微鏡像を高速に切り替えて表示部32に表示させ、操作部20からの操作情報に基づき、デフォーカス量を調整するための制御信号を生成して対物レンズ制御装置9(又はステージ制御装置)に出力する機能(イメージウォブラー機能)を更に備えてもよい。
【0036】
2.処理
次に、本実施形態の処理の一例について図2のフローチャートを用いて説明する。
【0037】
まず、像取得部22は、電子線を傾斜させない状態で第1のTEM像(第1の透過電子顕微鏡像)を取得する(ステップS10)。
【0038】
図3(A)は、取得した第1のTEM像の一例である。図3(A)に示すTEM像は、右上方向から左下方向に伸びる線分状のコントラスト(周囲の画素と比べて輝度の高い又は低い部分)を含んでいる。例えば、カーボン等の支持膜に試料を載せて観察を行う場合、試料の破壊を防ぐため、試料の位置とは異なる位置に観察範囲を移動させてデフォーカス量の調整(焦点合わせ)を行うことがある。このような場合、当該支持膜のメッシュや孔の縁の部分が、図3(A)に示すような線分状のコントラストとしてTEM像内に現れることがある。
【0039】
次に、方向検出部24は、取得した第1のTEM像に対してフーリエ変換を行ってフーリエ変換像を生成する(図2のステップS12)。図3(B)に、図3(A)に示す第1のTEM像をフーリエ変換したときに得られるフーリエ変換像を示す。
【0040】
次に、方向検出部26は、生成したフーリエ変換像において高周波成分の比率が最も高くなる方向αを検出する(図2のステップS14)。
【0041】
具体的には、図3(C)に示すように、フーリエ変換像を中心から放射線状に複数の領域に分割し、分割した領域毎に低周波成分と高周波成分の比率を求める。図3(C)に示す例では、16の領域に分割しているが、分割する領域の数は任意である。そして、フーリエ変換像の中心位置を中心とする放射方向のうち、高周波成分の比率が最も高い領域B又は領域B’を通過する放射方向を、方向αとして検出する。例えば、分割した領域毎に低周波成分の積算値と高周波成分の積算値を求め、求めた積算値の比をとることで高周波成分の比率を求めることができる。なお、低周波成分と高周波成分を分離するための閾値は任意の値とすることができる。
【0042】
図3(A)に示すような一定方向に伸びる線分状のコントラストを含む画像をフーリエ変換すると、図3(C)に示すフーリエ変換像では、当該線分のコントラストが伸びる方向と略平行な方向の領域A及び領域A’において高周波成分の比率が低くなり、当該線分が伸びる方向と略直交する方向の領域B、B’において高周波成分の比率が高くなる。そこで本実施形態では、フーリエ変換像において、高周波成分の比率が最も高くなる領域(図3(C)の領域B或いは領域B’)の方向を検出することで、線分状のコントラストが伸びる方向と略直交する方向を検出している。
【0043】
次に、制御信号生成部26(制御部)は、電子線を、ステップS14で検出した方向αに傾斜させるための制御信号を生成して、偏向器制御装置5に出力する(図2のステップS16)。なお、画像上の方向αと、偏向器を制御したときの電子線の傾斜方向との対応付けは、予めキャリブレーション(校正)されているものとする。
【0044】
次に、像取得部22は、電子線を方向αに傾斜させた状態で第2のTEM像(第2の透過電子顕微鏡像)を取得する(ステップS18)。図4(B)に、電子線の傾斜方向を方向αとした状態で取得した第2のTEM像を示す。図4(B)に示すTEM像は、線分状のコントラストが伸びる方向と略直交する方向αに電子線を傾斜させたことにより、図4(A)に示す電子線傾斜前の第1のTEM像を、線分状のコントラストが伸びる方向と略直交する方向にずらしたような画像となっている。
【0045】
次に、デフォーカス量検出部28は、ステップS10で取得した第1のTEM像と、ステップS18で取得した第2のTEM像の正規化相互相関関数を計算して、相互相関像を生成する(ステップS20)。図4(C)に、図4(A)に示す第1のTEM像と図4(B)に示す第2のTEM像の相互相関をとったときに得られる相互相関像を示す。図4(C)に示す相互相関像を見ると、像のピークが放射方向と略直交する方向に伸びていることがわかる。
【0046】
次に、デフォーカス量検出部28は、生成した相互相関像におけるピーク位置に基づき第1のTEM像と第2のTEM像の位置ずれ量δを検出する(図2のステップS22)。具体的には、図4(D)に示すように、相互相関像の中心位置CPから方向αに沿ってピーク(最も輝度の高い画素)を検索してピーク位置を検出し、検出したピーク位置と中心位置CP間の距離を位置ずれ量δとして検出する。
【0047】
ここで、図4(C)に示すように、相互相関像におけるピークの伸びる方向は、方向α(電子線の傾斜方向)と略直交する方向となるため、図4(D)に示すように相互相関像の中心CPから方向αにピークを検索すると、図4(E)に示すように、ラインプロファイルにおけるピークがシャープなものとなり、相互相関像におけるピーク位置を精度よく検出することができる。すなわち、線分状のコントラストが伸びる方向と略直交する方向αに電子線を傾斜させることにより、位置ずれ量δの検出精度を向上させることができる。
【0048】
次に、デフォーカス量検出部28は、検出したズレ量δに基づき現在のデフォーカス量(焦点ずれ量)を推定する(図2のステップS24)。なお、各観察倍率における画像上の位置ずれ量とデフォーカス量との対応付けは、予めキャリブレーションされているものとする。例えば、位置ずれ量とデフォーカス量の対応関係をテーブルデータとして記憶部34に記憶しておき、当該テーブルデータを参照して検出した位置ずれ量δに対応するデフォーカス量を決定してもよいし、検出した位置ずれ量δを、位置ずれ量とデフォーカス量の関係を表す一次関数に代入することでデフォーカス量を求めても良い。
【0049】
次に、制御信号生成部26(制御部)は、対物レンズの励磁電流値を調整することで検出された現在のデフォーカス量を予め指定された目標デフォーカス量に補正するための制御信号を生成して、生成した制御信号を対物レンズ制御装置9に出力する(ステップS26)。なお、対物レンズの励磁電流値とデフォーカス量との対応付けは、予めキャリブレーションされているものとする。
【0050】
また、ステップS26において、制御信号生成部26は、ステージ6の垂直方向(Z軸方向)の位置を調整することで現在のデフォーカス量を目標デフォーカス量に補正するための制御信号を生成して、生成した制御信号をステージ制御装置に出力するようにしてもよい。
【0051】
このように本実施形態では、ビームチルト法を用いてデフォーカス量の自動調整を行う場合に、TEM像をフーリエ変換して得られたフーリエ変換像において高周波成分の比率が最も高くなる方向αを検出し、検出された方向αに電子線を傾斜させるようにしている。このようにすると、TEM像に線分状のコントラストが存在する場合に、電子線の傾斜方向を、線分状のコントラストが伸びる方向と略垂直な方向とすることができ、電子線傾斜前のTEM像と電子線傾斜後のTEM像の位置ずれ量δ(相互相関像におけるピーク位置)を精度よく求めて、デフォーカス量の検出精度を向上させることができる。
【0052】
すなわち、本実施形態によれば、第1のTEM像を解析して最適な電子線の傾斜方向を決定することで、図5に示す従来例のように、固定値として設定された電子線の傾斜方向がたまたま線分状のコントラストが伸びる方向と平行な方向となってしまったために、位置ずれ量δを精度よく検出することができずデフォーカス量の検出精度が低下するといった事態を防止することができる。
【0053】
また本実施形態によれば、電子線を傾斜させない状態で取得したTEM像と、電子線を検出された方向αに傾斜させた状態で取得したTEM像を高速に切り替えて表示し、手動でデフォーカス量を調整する場合に、図4(B)に示すような電子線傾斜後のTEM像を、図4(A)に示すような傾斜前のTEM像を線分状のコントラストが延びる方向と略直交する方向にずらしたような画像とすることができ、利用者にとってTEM像の揺れ(見た目の位置ずれ量)が把握し易い方向にTEM像を揺らすことができる。すなわち、本実施形態によれば、利用者がデフォーカス量を精度良く調整することが可能なデフォーカス量調整方法を提供することができる。
【0054】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0055】
1 電子線源、2 照射レンズ系、4 偏向器、5 偏向器制御装置、6 ステージ、8 対物レンズ、9 対物レンズ制御装置、10 投影レンズ、12 検出器、14 鏡筒、20 処理部、22 像取得部、24 方向検出部、26 制御信号生成部、28 デフォーカス量検出部、30 操作部、32 表示部、34 記憶部、36 情報記憶媒体、100 透過型電子顕微鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過電子顕微鏡像を取得する像取得部と、
電子線を傾斜させない状態で取得した第1の透過電子顕微鏡像に対してフーリエ変換を行ってフーリエ変換像を生成し、前記フーリエ変換像において高周波成分が多くなる方向を検出する方向検出部と、
試料に照射される電子線を、検出された方向に傾斜させるための制御を行う制御部と、
前記第1の透過電子顕微鏡像と、電子線を検出された方向に傾斜させた状態で取得した第2の透過電子顕微鏡像の相互相関をとって、前記第1及び第2の透過電子顕微鏡像間の位置ずれ量を求め、求めた位置ずれ量に基づきデフォーカス量を検出するデフォーカス量検出部とを含む、透過型電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記方向検出部が、
前記フーリエ変換像を中心から放射状に複数の領域に分割した場合に、前記複数の領域のうち高周波成分の比率が最も高い領域の方向を検出する、透過型電子顕微鏡。
【請求項3】
電子線を傾斜させない状態で第1の透過電子顕微鏡像を取得する第1の像取得工程と、
前記第1の透過電子顕微鏡像に対してフーリエ変換を行ってフーリエ変換像を生成し、前記フーリエ変換像において高周波成分が多くなる方向を検出する方向検出工程と、
試料に照射される電子線を、検出された方向に傾斜させるための制御を行う制御工程と、
電子線を検出された方向に傾斜させた状態で第2の透過電子顕微鏡像を取得する第2の像取得工程と、
前記第1及び第2の透過電子顕微鏡像に基づきデフォーカス量を調整するデフォーカス量調整工程とを含む、透過型電子顕微鏡のデフォーカス量調整方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記方向検出工程において、
前記フーリエ変換像を中心から放射状に複数の領域に分割した場合に、前記複数の領域のうち高周波成分の比率が最も高い領域の方向を検出する、透過型電子顕微鏡のデフォーカス量調整方法。
【請求項5】
透過型電子顕微鏡が備えるコンピュータを、
透過電子顕微鏡像を取得する像取得部と、
電子線を傾斜させない状態で取得した第1の透過電子顕微鏡像に対してフーリエ変換を行ってフーリエ変換像を生成し、前記フーリエ変換像において高周波成分が多くなる方向を検出する方向検出部と、
試料に照射される電子線を、検出された方向に傾斜させるための制御を行う制御部と、
前記第1の透過電子顕微鏡像と、電子線を検出された方向に傾斜させた状態で取得した第2の透過電子顕微鏡像の相互相関をとって、前記第1及び第2の透過電子顕微鏡像間の位置ずれ量を求め、求めた位置ずれ量に基づきデフォーカス量を検出するデフォーカス量検出部として機能させるためのプログラム。
【請求項6】
コンピュータ読み取り可能な情報記憶媒体であって、請求項5に記載のプログラムを記憶した情報記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−16370(P2013−16370A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148887(P2011−148887)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】