説明

通信システムおよびその方法

【課題】複数の無線通信回線が空間を共有する通信システムにおいて、通信特性を向上させる。
【解決手段】送信側装置2から基地局6に対して、複数回、伝送信号が送信され、基地局6は、この伝送信号を受信して、FIRフィルタに用いられる重み付け係数Wkを更新するとともに、送信側装置2において伝送信号の生成に用いられるホッピングパターンPkを生成し、さらに、伝送信号に生じるピーク・平均値比(PAR)を抑制するように調整してホッピングパターンP’kとし、さらに量子化して送信側装置2に対して送信する。送信側装置2は、基地局6から受けたホッピングパターンP’kを、その後のスペクトラム拡散処理に用い、伝送信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数ホッピング(Frequency Hopping)を用いたスペクトラム拡散方式によりデータを伝送する通信システムおよびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、非特許文献1は、多数の通信装置の任意の2つが構成する複数のペアそれぞれにおいて、非同期DS−CDMA(Asynchronous Direct-Sequence Code Division Multiple Access)方式でデータが伝送されるように構成された通信システムを開示する。
また、非特許文献2は、受信側装置から送信側装置にホッピングパターンをフィードバックする通信方式を開示する。
また、非特許文献3は、ホッピングパターンPの初期値を開示する。
また、非特許文献4は、送信側装置が、受信側装置における伝送信号の受信品質が向上するように、受信側装置から送信側装置へフィードバックされた情報に基づいて、伝送信号の作成のためのパラメータを調節する方法を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Asynchronous Decentralized DS-CDMA Using Feedback-Control Spreading Sequences for Time-Dispersive Channels, (Kazuki CHIBA, Masanori HAMAMURA and Shin'ichi TACHIKAWA, IEICE TRANS COMMUN, VOL. E91-B, NO1. JANUARY 2008, PAPER, Special Section on Cognitive Radio and Spectrum Sharing Technology, The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers)
【非特許文献2】Interactive constructions of optimum signature sequence sets in synchronous CDMA systems, (S. Ulukus et. al., IEEE Trans. Inform., Theory, vol. 47, no. 5,pp. 1989-1998, July 2001)
【非特許文献3】Address assignment for a time-frequency-coded spread-spectrum system (G. Einarson, Bell Syst. Tech. J., vol. 59, no. 7, pp.1241-1255, Sep. 1980)
【非特許文献4】"Multitone-Hopping CDMA Using Feedback-Controlled Hopping Pattern for Decentralized Multiple Access, IEICE Trans. Fundamentals, vol. E91, No. 12, Dec. 2008"
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願にかかる通信システムおよびその方法の発明は、上記背景からなされたものであって、その1つの実施形態としての通信システムは、複数の送信側装置と、1つ以上の受信側装置とを含む通信システムであって、1つ以上の前記送信側装置と1つ以上の前記受信側装置との組み合わせにおいて、前記送信側装置は、所定の第1の数の第1の領域の成分と、所定の第2の数の第2の領域の成分とに対して定義される複数の第1の要素を含み、前記第1の領域の成分と、前記第2の領域の成分とに伝送データを拡散する拡散パターンに従って、前記伝送データを、所定の時間間隔ごとに、順次、前記第1の領域の成分と、前記第2の領域の成分とに拡散し、伝送信号として送信する信号送信部と、前記受信側装置から受信した前記拡散パターンにより、前記伝送データの拡散に用いられる拡散パターンを更新する更新部とを有し、前記受信側装置は、前記伝送信号を受信する受信部と、前記受信された伝送信号を、前記第1の数以上の数の前記第1の領域の成分と、前記第2の数より多い第4の数の前記第2の領域の成分とに対して定義される複数の第2の要素に、前記時間間隔ごとに、順次、展開する展開部と、前記展開の結果として得られた第2の要素に対して、前記第2の要素それぞれに対して定義される複数の第1の係数を用いた処理を、前記時間間隔ごとに、順次、行う処理部と、前記処理された第2の要素と、前記第1の係数とを用いて、新たな第1の係数を作成する作成部と、前記新たな第1の係数の内、前記拡散パターンに対応する第2の係数を選択する選択手段と、前記選択された第2の係数を調整して、新たな前記拡散パターンを作成するパターン作成部と、前記新たな拡散パターンを、前記送信側装置に対して送信するパターン送信部とを有する。
【0005】
[要約]
本願発明にかかる通信システムの1つの実施形態は、例えば、1つ以上の基地局(受信側装置)にアクセスする複数の通信装置(送信側装置)を含み、基地局それぞれと複数の通信装置それぞれとの間で、同時並行して、行列形式で表されるホッピングパターンに従って伝送データを拡散して得られた伝送信号の伝送が行われる。
上述のように、基地局と通信装置との間で伝送信号の伝送が同時並行的に行われ、同じ無線通信路が共有されるので、ある基地局と通信装置との間の無線通信路に、他の基地局と通信装置との間の伝送信号が重畳され、これらの間の伝送信号の伝送品質を低下させる。
【0006】
基地局(受信側装置)は、通信装置(送信側装置)からの伝送信号を受信し、受信した伝送信号を、周波数領域の成分と時間領域の成分とに行列形式に展開し、展開した行列形式の要素それぞれに、フィルタリングのための係数(第1の係数)を乗算し、行方向および列方向に加算してフィルタリング結果として出力する。
上記第1の係数は、第1の係数を要素とし、上記周波数ホッピングパターンよりも行方向および列方向またはこれらのいずれかの方向に大きい行列形式で表されうる。
基地局(受信側装置)は、第1の係数の行列を、上記フィルタリング結果を用いて、送信信号から復号した伝送データの品質が向上するように更新する。
【0007】
さらに、基地局(受信側装置)は、更新した第1の係数の行列から、ホッピングパターンに対応する第2の係数を取り出す。
この第2の係数は、通信装置(送信側装置)に対して送信され、新たなホッピングパターン(拡散パターン)として用いられ、基地局(受信側装置)と送信装置(送信側装置)との間の伝送品質を、次第に向上させる。
第2の係数からは、この第2の係数が、通信装置(送信側装置)において用いられたときに作成される伝送信号の電力のピーク値と平均値との比率(PAR;Peak-to-Average Ratio)が計算されうる。
【0008】
このPARの値が大きいときには、通信装置(送信側装置)における電力消費が大きくなり、また、基地局(受信側装置)と通信装置(送信側装置)との間の伝送品質が低下する。
このような不具合を防ぐために、基地局(受信側装置)は、PARの値を一定以下に抑えるように第2の係数に含まれる要素を調整し、新たなホッピングパターンとし、通信装置(送信側装置)に対して送信する。
通信装置(送信側装置)は、基地局(受信側装置)から新たなホッピングパターンを受信して、その後の伝送信号の作成に用いることにより、PARの値を一定以下に抑え、さらに、電力消費の低減および通信品質の向上を実現する。
【0009】
本願特許請求の範囲にかかる発明の技術的利点およびその他の技術的利点は、図面に示される実施形態の詳細な説明を読みことにより、当業者に明らかとされるであろう。
添付図面は、本願明細書に組み込まれて、その一部をなし、本願特許請求の範囲にかかる発明の実施形態を図示しており、その説明とともに、本発明の原理を説明する役割を果たす。
本願明細書中で参照される図面は、特に断らない限り、一定の縮尺で描かれているわけではないと解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本願特許請求の範囲にかかる発明の実施形態は、その構成および動作に関して、以下の説明を、図面とともに参照することにより、最もよく理解されるであろう。
【図1】本願第1の実施形態が適用される第1の通信システムを例示する図である。
【図2】図1に示した通信システムの受信側装置により受信される伝送信号s'k(t)をモデル化して示し、また、受信側装置から送信側装置にホッピングパターンがフィードバックされることを示す図である。
【図3】図1に示した送信側装置および受信側装置のハードウェア構成を例示する図である。
【図4】図1に示した送信側装置および受信側装置において実行される第1の送信処理プログラムの構成を示す図である。
【図5】送信側装置および受信側装置が用いるシンボル(symbol)およびチップ(chip)の構成を示す図である。
【図6】図1に示した送信側装置および受信側装置において実行される第1の受信処理プログラムの構成を示す図である。
【図7】図6に示した受信処理プログラムのフィルタ部の構成を示す図である。
【図8】図7に示した係数乗算部の構成を示す図である。
【図9】図1などに示した送信側装置と受信側装置との間のデータ伝送およびホッピングパターンPkのフィードバック(S10)を示す通信シーケンス図である。
【図10】通信システムの性能を評価するための無線伝送路のモデルを示す図である。
【図11】通信システムにおいて、アクティブな伝送信号sk(t)の数に対するビットエラーレート特性のグラフを示す図である。
【図12】K=32のときにEb/Noに対するビットエラーレート特性のグラフを示す図である。
【図13】初期ホッピングパターン、更新されたホッピングパターン、および、これらの電力スペクトラムをグラフ形式で示す図である。
【図14】本願第2の実施形態が適用される第2の通信システムの構成を例示する図である。
【図15】図14に示した送信側装置および基地局において実行される第2の送信処理プログラムの構成を示す図である。
【図16】図14に示した送信側装置および基地局において実行される第2の受信処理プログラムの構成を例示する図である。
【図17】図16に示したホッピングパターン作成部、PAR計算部およびPAR制御部の処理(S10)を示すフローチャートである。
【図18】図1,14に示した通信システムにおいて32個の無線通信回線を介して伝送信号が伝送されているときに(K=32)、定数ρの値を0.9とし、定数βを変化させて得られる最大のPARの平均値(Average Largest PAR)とPARの目標値PARlとの関係を示す図である。
【図19】図1,14に示した通信システムにおいて32個の無線通信回線を介して伝送信号が伝送されているときに(K=32)、定数βの値を0.3とし、定数ρを変化させて得られる最大のPARの平均値とPARの目標値PARlとの関係を示す図である。
【図20】(a)は、定数β=0.1,ρ=0.9のときに、図17に示した処理ループの実行回数と、最大のPARの平均値とPARの目標値PARlとの関係を示すヒストグラム図であり、(b)は、定数β=0.3,定数ρ=0.8のときに、図17に示した処理ループの実行回数と、最大のPARの平均値とPARの目標値PARlとの関係を示すヒストグラム図である。
【図21】(a)〜(e)は、目標値PARlを1dB〜無限大(PARに対する制御なし)と変化させたときのシグネチャ波形ck(t)の振幅を示す図である。
【図22】図1,図14に示した通信システムに、第2のFC/MH−CDMA方式を適用して得られる特性を示す図であり、(a)は、BER性能を示し、(b)は実際に伝送されている伝送信号の数とPARとの関係を示す。
【図23】図1,図5に示した通信システムに、第2のFC/MH−CDMA方式を適用したときに、トーンごとの実数部分および虚数部分それぞれの量子化ビットの数(q)を変更して得られる目標値PARlと最大PARの平均値との関係を示す図である。
【図24】図1,図5に示した通信システムに、第2のFC/MH−CDMA方式を適用し、トーンごとの実数部分および虚数部分それぞれの量子化ビットの数を6(q=6)としたときに得られる信号/ノイズ比(E0/N0)と最大PARの平均値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願特許請求の範囲にかかる発明の実施形態が、詳細に説明される。
本願特許請求の範囲にかかる発明の実施形態は、添付図面に例示されている。
本願特許請求の範囲にかかる発明は、実施形態に関連して説明されるが、この実施形態は、本願特許請求の範囲にかかる発明を、その開示内容に限定することを意図しないことが、当業者に理解されよう。
逆に、本願特許請求の範囲にかかる発明は、本願特許請求の範囲によって規定される明の精神、および、本願特許請求の範囲内に含まれ得る代替物、変更および均等物を包含することを意図している。
また、本願特許請求の範囲にかかる発明の説明は、本願特許請求の範囲にかかる発明を充分に理解可能なように、具体的に、また、詳細になされる。
しかしながら、当業者に明らかなように、本願特許請求の範囲にかかる発明は、これら具体的に、また、詳細に説明された事項の全てを用いなくては、実施され得ないということはない。
なお、既知の方法、手続き、コンポーネント、および回路は、本発明の態様を不必要に分かりにくくすることがないように、詳細には記載されていないことがある。
しかし、留意すべきであるが、これらおよび類似のすべての用語は適当な物理量に関連づけられるべきものであり、これらの量に付けられた単に便宜的なラベルである。
以下の議論から明らかなように、特に別段の断りがない限り、本発明全体を通じて、「拡散する」および「伝送する」等のような用語を含む記載は、コンピュータのハードウェア資源を具体的に利用することにより、あるいは、専用のハードウェアにより実現される作用およびプロセスを意味すると理解される。
【0012】
[第1の実施形態]
まず、本願第1の実施形態を説明する。
図1は、本願第1の実施形態が適用される第1の通信システム1を例示する図である。
図1に示すように、通信システム1は、例えば、1カ所に固定されて、半固定で、あるいは、移動して用いられるK(Kは2以上の整数)台の送信側装置(TX)2−1〜2−KおよびK台の受信側装置(RX)3−1〜3−Kから構成される。
以下、送信側装置2−1〜2−Kなど、複数ありうる構成部分のいずれかを特定せずに示すときには、単に送信側装置2などと略記することがある。
また、以下、各図において、実質的に同じ構成部分および処理には、同じ符号が付される。
【0013】
なお、送信側装置2と、受信側装置3とは、同じ構成をとりうるが、説明の具体化および明確化のために、以下、これらは区別される。
また、上述のように、通信システム1においては、1台の送信側装置2から複数の受信側装置3に対して伝送信号が送信されることも、複数の送信側装置2から1台の受信側装置3に対して伝送信号が送信されることも、複数の送信側装置2から複数の受信側装置3に対して伝送信号が送信されることもあり得る。
しかしながら、以下、説明の具体化および明確化のために、通信システム1において、1台の送信側装置2−k(K≧k≧1)と1台の受信側装置3−kとがペア(pair)を組み、このような複数のペアそれぞれに含まれる送信側装置2−kと受信側装置3−kとの間に閉じて、周波数ホッピングパターン(Frequency Hopping Pattern)に従ってスペクトラム拡散(spread spectrum)され、等価低域(low pass equivalent)表現された伝送信号sk(t)が伝送される場合が具体例とされる。
【0014】
図2は、図1に示した通信システム1の受信側装置3−kにより受信される伝送信号s'k(t)をモデル化して示し、また、受信側装置3−kから送信側装置2−kにホッピングパターンがフィードバックされることを示す図である。
通信システム1においては、送信側装置2−kと受信側装置3−kのペアの無線伝送路は、他のペアの無線伝送路と重複しうる。
このような場合、図2に示すように、受信側装置3−kは、同じペアに含まれる送信側装置2−kからの伝送信号sk(t)の他に、他のペアに含まれる送信側装置2−1〜2−(k−1),2−(k+1)〜2−Kからの伝送信号を含む伝送信号s'k(t)を受信することとなる。
【0015】
つまり、通信システム1においては、受信側装置3−kは、定常的に、他のペアに属する送信側装置2−k'それぞれからの妨害を受けてしまう。
通信システム1の受信側装置3−kは、このような状況においても、同じペア(pair)に属する送信側装置2−kからの伝送信号sk(t)を、より良好な特性で受信できるように、フィルタリング処理のために用いられる複素形式の重み付け係数(weight)wk,m,l(M≧m≧1,L+α≧l≧1,αは0以上の整数;lはチップの時間長Tcごとの処理を示す)を要素とする重み付け係数行列(weight matrix; Wk)を、順次、更新する。
さらに、受信側装置3−kは、更新した重み付け係数行列(Wk)の一部の要素を、ホッピングパターンPkとして、送信側装置2−kにフィードバック(feedback)し、送信側装置2−kにおいてスペクトラム拡散に用いられるホッピングパターンを更新させることにより、伝送信号sk(t)自体が、図2に示した無線伝送路を伝送するために適したパターン(pattern)でスペクトラム拡散されるようにする。
このように、受信側装置3から送信側装置2にホッピングパターンをフィードバックして、ホッピングパターンを最適化してCDMA方式により通信を行う方式を、以下、FC/MC−CDMA(Feedback Controlled multitone-hopping Code-Division Multiple Access)方式とも記す。
【0016】
[ハードウェア構成]
図3は、図1に示した送信側装置2および受信側装置3のハードウェア構成を例示する図である。
図3に示すように、送信側装置2および受信側装置3は、QPSK(quadrature phase-shift keying)方式のメッセージシンボル(伝送データ)bk(n;nはメッセージシンボルの順番を示す)を送信側装置2に対して出力し、あるいは、メッセージシンボルbk(n)を受信側装置3から入力されるコンピュータ(PC)あるいはLANなどのネットワーク(図示せず)に接続されて用いられる。
送信側装置2および受信側装置3は、インターフェース(interface)回路(IF)200、ディジタルシグナルプロセッサ(DSP)202、DSP202用のメモリ204、ディジタル/アナログ変換回路(D/A)206、高周波回路(RF)208、アンテナ210、アナログ/ディジタル変換回路(A/D)212、CPU214、CPU214用のメモリ216、および、送信側装置2または受信側装置3とユーザとのインターフェースのためのユーザインターフェースデバイス(user interface device; UI)218から構成される。
【0017】
送信側装置2および受信側装置3は、例えば、CDMA方式により音声およびデータの伝送が可能に構成された携帯電話機、あるいは、無線LAN装置であって、ソフトウェア的な信号処理、無線通信および情報処理が可能なコンピュータとしての構成部分を有する。
なお、以下、説明の具体化および明確化のために、送信側装置2および受信側装置3が、ソフトウェア(software)的な処理により信号処理および情報処理を行う場合を具体例とする。
しかしながら、送信側装置2および受信側装置3は、構成、用途および要求性能によっては、専用のハードウェア(embedded hardware)により信号処理および情報処理を行うように構成されうる。
また、送信側装置2および受信側装置3において、DSP202およびCPU214が必ずしも併用される必要はなく、その構成、用途および要求性能によっては、いずれか一方が用いられればよい。
【0018】
送信側装置2−kおよび受信側装置3−kにおいて、IF200は、コンピュータあるいはネットワークと送信側装置2および受信側装置3との間のメッセージシンボルbk(n)の入出力のための機能を提供する。
DSP202は、メモリ204に記憶された信号処理用のプログラムを実行し、IF200から入力されたメッセージシンボルbk(n)、あるいは、UI218のマイク(図示せず)から入力された音声から作成されたメッセージシンボルbk(n)を、スペクトラム拡散し、D/A206に対して出力する。
D/A206は、スペクトラム拡散されたディジタル形式のメッセージシンボルbk(n)を、アナログ形式のベースバンドあるいはDSP202またはCPU214が処理可能な周波数の中間周波数の伝送信号sk(t)に変換して、RF208に対して出力する。
RF208は、伝送信号sk(t)を、送信側装置2と受信側装置3との間の信号伝送のために用いられる周波数の伝送信号sk(t)に変換し、アンテナ210を介して無線伝送路に送出する。
また、RF208は、通信相手の送信側装置2または受信側装置3から伝送信号sk(t)を受信し、ベースバンドまたは中間周波数の伝送信号sk(t)に変換して、A/D212に対して出力する。
A/D212は、アナログ形式の伝送信号sk(t)をディジタル形式に変換し、DSP202に対して出力する。
【0019】
CPU214は、メモリ216に記憶されたプログラムを実行し、例えば、UI218に対するユーザの操作に応じて、送信側装置2および受信側装置3の動作を制御する。
また、CPU214は、DSP202において、受信された伝送信号sk(t)のフィルタリングに用いられる重み付け係数の設定および更新のための処理を行う。
また、CPU214は、UI218を制御して、ユーザに対する情報の提示などの処理を行う。
【0020】
[ソフトウェア構成]
図4は、図1に示した送信側装置2−kおよび受信側装置3−kにおいて実行される第1の送信処理プログラム20の構成を示す図である。
図5は、送信側装置2および受信側装置3が用いるシンボル(symbol)およびチップ(chip)の構成を示す図である。
図4に示すように、第1の送信処理プログラム22は、タイミング制御部220、第1および第2の乗算部222,226、遅延部224、第1のホッピングパターン(Pk)受信部240、第1のホッピングパターン設定部242および周波数シンセサイザ(frequency synthesizer; FS)部244から構成される。
第1の送信処理プログラム20は、例えば、記憶媒体あるいはネットワークを介して送信側装置2および受信側装置3に供給され、例えば、図3に示したDSP用のメモリ204にロードされ、あるいは、CPU用のメモリ216にロードされ、DSP202またはCPU214において実行されるITRONなどのOS上で、送信側装置2および受信側装置3のハードウェア資源を具体的に利用して実行される(以下の各プログラムについて同様)。
送信処理プログラム22は、これらの構成部分により、ネットワークなどから入力されるメッセージシンボルbk(n)を、ホッピングパターンに従って拡散し、伝送信号sk(t)を作成し、D/A206に対して出力する。
【0021】
送信側装置2−kにより実行される送信処理プログラム22において、タイミング制御部220は、図5に示すメッセージシンボルbk(n)およびチップに同期した処理を行うように、送信処理プログラム22の各構成部分の動作のタイミングを制御する。
遅延部224は、第1の乗算部222が出力した(n−1)番目のメッセージシンボルbk(n−1)の乗算結果dk(n−1)に対して、1メッセージシンボル分の遅延Tsを与える。
遅延部224は、第1の乗算部222に、n番目のメッセージシンボルbk(n)が入力されているときに、遅延した乗算結果を、第1の乗算部222に対して、遅延データdk(n−1)として出力する。
第1の乗算部222は、入力されたn番目のメッセージシンボルbk(n)と、遅延部224から入力される遅延データdk(n−1)とを乗算し、乗算結果dk(n)を、遅延部224および第2の乗算部226に対して出力する。
なお、通信システム1の性能評価として後に議論するように、フィルタ部4の重み付け係数の調整(トレーニング)を、送信側装置2とフィルタ部4とに予め記憶されている既知データ(パイロット)で行う場合には、ここで述べた遅延部224および第1の乗算部222による処理(差動符号化処理)は不要である。
この場合には、送信側装置2において、メッセージシンボルbk(n)そのものが、乗算結果dk(n)として乗算部226に対して出力される。
【0022】
第1のホッピングパターン受信部240は、受信側装置3から、アンテナ210、RF208、A/D212、および、送信側装置2−kにおいて実行される第1の受信処理プログラム30(図6〜図8を参照して後述)を介して、周波数ホッピング(FH)によるメッセージシンボルbk(n)の拡散処理に用いられるホッピングパターンPkを受信し、ホッピングパターン受信部240に対して出力する。
ホッピングパターンPkは、例えば、下式1に示すように、1チップあたりの符号長L(時間領域のL個の成分;Lは2以上の整数)個の成分を列成分とし、周波数シンセサイザ部244が作成するシグネチュア波形(signature wave)信号ck(t)に含まれる周波数領域のM(Mは2以上の整数)個の成分を行成分としたM×L行列の形式で表されうる。
【0023】
【数1】

【0024】
第1のホッピングパターン設定部242は、ホッピングパターン受信部240から入力された新たなホッピングパターンPkで、それまで使用していた古いホッピングパターンを置換し、ホッピングパターンの更新を行う。
また、ホッピングパターン設定部242は、更新されたホッピングパターンPkを、周波数シンセサイザ部244に対して出力する。
周波数シンセサイザ部244は、ホッピングパターン設定部242から入力されるホッピングパターンPkに従った周波数のシグネチュア波形信号ck(t)を発生し、第2の乗算部226に対して出力する。
【0025】
第2の乗算部226は、直交変調器として動作し、第1の乗算部222から入力された乗算結果bk(n)と、シグネチュア波形信号ck(t)とを複素乗算して拡散処理し、伝送信号sk(t)を示すディジタル形式のデータとして、D/A206(図3)に対して出力する。
伝送信号sk(t)を示すディジタル形式のデータは、D/A206によりアナログ形式の伝送信号sk(t)に変換され、RF208により、送信側装置2と受信側装置3との間の伝送に用いられる周波数に変換され、電力増幅されて、アンテナ210を介して、それぞれの通信相手に対して送信される。
【0026】
図6は、図1に示した送信側装置2−kおよび受信側装置3−kにおいて実行される第1の受信処理プログラム30の構成を示す図である。
図7は、図6に示した受信処理プログラム30のフィルタ部4の構成を示す図である。
図8は、図7に示した係数乗算部44の構成を示す図である。
図6に示すように、第1の受信処理プログラム30は、タイミング制御部300、フィルタ部4、復号処理部32および更新処理部34から構成される。
復号処理部32は、加算部(Σ)320、復調部322、遅延部324および乗算部326から構成される。
更新処理部34は、受信信号(received signal)行列(Rk(n))作成部340、重み付け係数(Wk)更新部342、第1のホッピングパターン(Pk)作成部344および第1のホッピングパターン送信部346から構成される。
【0027】
図7に示すように、図7に示したフィルタ部4は、ホッピングパターンPkの周波数領域の成分に対応するM個の関数発生部400−1〜400−M、乗算部402−1〜402−M、ローパスフィルタ(LPF)部404−1〜404−M、選択部406−1〜406−M,414、選択制御部408、係数設定部410、ホッピングパターンPkに対応するM×L個の要素を含むホッピングパターン対応部分422を含む重み付け部420、および、総和算出部(Σ)412を含み、FIRフィルタ(FIR filter)を構成する。
なお、以下、(1,1)など、記載の明確化のために、適宜、符号に( )を付加するので、図面と下記の記載との間で符号が異なることがある。
【0028】
重み付け部420は、M×(L+α)個の遅延部424−(1,1)〜424−(M,L),424−(1,L+1)〜424−(M,L+α)、M×(L+α)個の係数乗算部44−(1,1)〜44−(M,L),44−(1,L+1)〜44−(M,L+α)、および、M×(L+α−1)個の加算部428−(1,1)〜428−(M,L)〜428−(1,L+1)〜428−(M,L+α−1)から構成される。
ホッピングパターン対応部分422は、これらの重み付け部420の構成部分の内、それぞれM×L個の遅延部424−(1,1)〜424−(M,L)、係数乗算部426−(1,1)〜426−(M,L)、および、加算部428−(1,1)〜428−(M,L)に対応する。
なお、重み付け部420の各構成要素それぞれを、M×(L+α)この遅延部424、係数乗算部44またはM×(L+α−1)個の加算部を、(M+1)×(L+α)個または(M+1)×(L+α−1)個に増やしたり、重み付け部420の各構成要素をさらに増やしたりするように変形された受信処理プログラム30を含む通信システム1もまた、本願発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
【0029】
図8に示すように、図7に示した係数乗算部44−m,lは、レジスタ部440−m,l、乗算部442−m,lおよび係数保持部444−m,lから構成される。
なお、図7に示した遅延部424−m,1〜(m,L+α)と、レジスタ部440−m,1〜(m,L+α)とは、前段から受けた複素形式のデータを、Tcごとに後段にシフトするL+α段のシフトレジスタとしての機能を果たす。
受信側装置3−kで実行される受信処理プログラム30は、これらの構成部分により、送信側装置2−1〜2−Kから送られ、アンテナ210、RF208およびA/D212(図3)により受信され、ディジタル形式に変換された伝送信号s'k(t)から、メッセージシンボルb'k(n)を復号してネットワークなどに対して出力する。
また、受信処理プログラム30は、フィルタ部4において用いられ、M×(L+α)の行列形式で表される重み付け係数行列(Wk)を、送信側装置2−1〜2−Kからの伝送信号s'k(t)から、より良好な特性で、同じペアに含まれる送信側装置2−kにおけるメッセージシンボルbk(n)に対応するメッセージシンボルb'k(n)が復号できるように、所定の回数、繰り返し更新する。
【0030】
また、受信処理プログラム30は、更新した重み付け係数行列Wkの内、ホッピングパターン対応部分422に対応する要素を、ホッピングパターンPkの更新のために、図2に示したように、D/A206、RF208およびアンテナ(antenna)210を介して、送信側装置2−kに対して送信(フィードバック)する。
つまり、ホッピングパターンPkは、重み付け係数行列Wkの内の、早くフィルタ部4に入力された方から(第1〜第M行)×(第1〜第L列)の成分に乗算される数値w*k,m,lの共役複素数wk,m,lとして定義される(以下、記号に付された*は、記号が示す数値の複素共役を示す)。
但し、ホッピングパターンPkを、上記と時間軸方向に異なる重み付け係数行列Wkの成分に対応付けるように変形された受信処理プログラム30を含む通信システム1もまた、本願発明の技術的範囲に含まれる。
【0031】
図6〜図8に示すように、受信側装置3−kにおいて実行される受信処理プログラム30において、タイミング制御部300は、図5に示したメッセージシンボルbk(n)およびチップに同期した処理を行うように、受信処理プログラム30の各構成部分の動作のタイミングを制御する。
選択制御部408は、選択部406,414それぞれの選択のタイミングを制御する。
ディジタル形式のメッセージシンボルr(t)は、受信処理プログラム30のフィルタ部4の乗算部402−1〜402−Mに入力される。
関数発生部400−mそれぞれは、関数e-j2πξmtを発生し、乗算部402−mに対して出力する。
なお、関数e-j2πξmtにおいて、jは(−1)1/2であり、ξm(Hz)は、スペクトラム拡散された伝送信号における第m番目のトーン(tone)の周波数であり、例えば、ξm=(m−1)/Tc(Hz)である。
乗算部402−mそれぞれは、直交変調器として動作し、A/D212(図3)から入力された伝送信号r(t)と、関数発生部400−mから入力された関数e-j2πξmtとを複素乗算し、複素形式の乗算結果r(t)e-j2πξmtを、LPF404−mに対して出力する。
【0032】
LPF404−mそれぞれは、例えば、乗算部402−iから入力された乗算結果r(t)e-j2πξmtを、時刻nTs+(l−1)Tc+τk,k,1から時刻nTs+lTc+τk,k,1までの間の積分を行う積分器により実現される。
この場合には、LPF404−mそれぞれは、n番目のメッセージシンボルbk(n)の復号のために、l番目のチップのm番目のトーンの周波数成分rk,m,l(n)を通過させ、選択部406−mに対して出力する。
選択部406−mは、選択制御部408の制御に従って、LPF部404−mそれぞれにおける積分処理が完了したタイミング(t=Ts+lTc+τk,k,1)で、LPF404−mから入力された周波数成分rk,m,l(n)を選択し、遅延部424−m,1および受信信号行列作成部340に対して出力する。
【0033】
遅延部424−(m,L+α)は、選択部406−mそれぞれから、m番目のトーンの周波数成分rk,m,L+α(n)それぞれが入力されるときに、Tcの遅延を与えた(L+α−1)番目のチップの周波数成分rk,m,L+α(n)を、レジスタ440−m,L+αそれぞれに対して、連続的に出力して記憶させる。
なお、他の遅延部424も同様に、対応するレジスタ440に対して、連続的に周波数成分rk,m,lを出力する、このように、Tcの間、連続的にレジスタ440に値を出力すると、フィルタ部4の動作が安定する。
また、遅延部424−(m,L+α)それぞれは、Tcの周期で、順次、選択部406−mそれぞれから入力される周波数成分rk,m,L+α(n)に対して、Tcの遅延を与えて、次の段の遅延部424−(m,L+α−1)それぞれに対して出力する。
【0034】
遅延部424−(m,L+α−1)〜424−(m,2)それぞれは、前の段の遅延部424−(m,L+α)〜424−(m,3)それぞれから、(L+α−1)〜2番目の周波数成分rk,m,L+α-1(n)〜rk,m,2(n)それぞれが入力されるときに、Tcの遅延を与えたこれらの前の(L+α−2)〜1番目の周波数成分rk,m,L+α-2(n)〜rk,m,1(n)を、レジスタ440−m,lに対して出力して記憶させる。
また、遅延部424−(m,L+α−1)〜424−(m,2)それぞれは、Tcの周期で、順次、前の段の遅延部424−(m,L+α)〜424−(m,3)それぞれから入力される(L+α)〜3番目の周波数成分rk,m,L+α(n)〜rk,m,3(n)に対して、Tcの遅延を与えて、次の段の遅延部424−(m,L+α−2)〜424−(m,1)それぞれに対して出力する。
遅延部424−(m,1)それぞれは、前の段の遅延部424−(m,2)それぞれから、2番目の周波数成分rk,m,2(n)それぞれが入力されるときに、Tcの遅延を与えたこれらの前の1番目の周波数成分rk,m,1(n)を、レジスタ440−m,1それぞれに対して出力して記憶させる。
【0035】
レジスタ440−m,lそれぞれは、遅延部424−m,lから入力された周波数成分rk,m,l(n)を保持し、乗算部442−m,lそれぞれに対して出力する。
係数保持部444−m,lそれぞれは、重み付け係数更新部342(図6)により設定された重み付け係数行列(Wk)の要素m,l(重み付け係数wk,m,l)それぞれを保持して、乗算部442−m,lそれぞれに対して出力する。
【0036】
乗算部442−(m,L+α)それぞれは、レジスタ440−(m,L+α)から入力された周波数成分rk,m,L+α(n)それぞれと、重み付け係数wk,m,L+αと複素共役の数値w*k,m,L+αそれぞれとを複素乗算し、加算部428−(m,L+α−1)それぞれに対して、乗算結果として出力する。
乗算部442−(m,L+α−1)〜442−(m,1)それぞれは、周波数成分rk,m,L+α(n)〜rk,m,1(n)それぞれと、重み付け係数wk,m,L+α〜wk,m,2と複素共役の数値w*k,m,L+α〜w*k,m,1それぞれとを複素乗算し、加算部428−(m,L+α−1)〜424−(m,1)それぞれに対して、乗算結果として出力する。
【0037】
加算部428−(m,L+α−1)〜428−(m,2)は、乗算部442−(m,L+α−1)〜442−(m,2)それぞれから入力された乗算結果と、加算部428−(m,L+α)〜(m,3)それぞれから入力された加算結果とを複素加算し、加算結果として、加算部428−(m,L+α−2)〜428−(m,1)に対して出力する。
加算部428−(m,1)は、乗算部442−(m,1)から入力された乗算結果と、加算部428−(m,2)から入力された加算結果とを複素加算し、加算結果として総和算出部412に対して出力する。
総和算出部412は、加算部428−(m,1)から入力される加算結果の総和を算出し、選択部414に対して、複素形式のフィルタ出力データd'k(n)として出力する。
選択部414は、総和算出部412が算出したフィルタ出力データd'k(n)を選択し、復調部322(図6)に対して出力する。
【0038】
受信信号行列作成部340は、LPF404−mそれぞれが出力するn番目のシンボルを復号するための周波数成分の全て、つまり、rk,m,1(n)〜rk,m,L(n)と、rk,m,l(n+1)の一部(L>αの場合;周波数成分rk,m,1(n+1)〜rk,m,α(n+1)は、周波数成分rk,m,L+1(n)〜rk,m,L+α(n)とも記載される)とから、(L+α)×Mの受信信号行列Rk(n)を作成し、重み付け係数更新部342に対して出力する。
重み付け係数更新部342は、例えば、N−LMSアルゴリズム(normalized least mean square algorithm)により、受信信号行列作成部340から入力された受信信号行列Rk(n)を処理する。
重み付け係数更新部342は、この処理結果と、加算部320から入力される誤差データek(n)とを用いて、重み付け係数行列(Wk)行列に含まれる重み付け係数wk,m,lを最適化し、よりよい特性で送信側装置2−kから受信した伝送信号rk(t)から、メッセージシンボルbk(n)を復号できるようにする。
【0039】
第1のホッピングパターン作成部344は、重み付け係数更新部342が更新した重み付け係数wk,m,lの内、ホッピングパターン対応部分422に対応する部分を取り出して、重み付け係数wk,m,1〜wk,m,Lを含むホッピングパターンPkを作成し、ホッピングパターン送信部346に対して出力する。
第1のホッピングパターン送信部346は、ホッピングパターン作成部344から入力されたホッピングパターンPkを示すメッセージシンボルbk(n)を、受信側装置3−kにおいて実行される送信処理プログラム22(図4)に対して出力し、A/D212、RF208およびアンテナ210を介して、送信側装置2−kに対して送信させる。
【0040】
復調部322は、フィルタ部4からのフィルタ出力データd'k(n)に対してシグナム関数(sgn(x);符号関数とも呼ばれる(signum function))を用いた処理を行い、この処理結果として得られる複素形式の参照データ(reference data)d"kを、遅延部324および乗算部326に対して出力する。
なお、シグナム関数sgn(x)は、xが正(x>0)ならば+1を、xが負(x<0)ならば−1を、x=0のときには、0,+1または−1を適当に返す関数として定義される。
また、通常、ノイズによりx=0とはなり得ないので、x=0の場合にシグナム関数が返す値を定義する必要は、実質上ない。
遅延部324は、復調部322から出力された参照データd"k(n)を、Tsだけ遅延させ、乗算部326に対して出力する。
なお、通信システム1の性能評価として後に議論するように、フィルタ部4の重み付け係数の調整(トレーニング)を、送信側装置2とフィルタ部4とに予め記憶されている既知データ(パイロット)で行う場合には、ここで述べた復調部322および遅延部324による処理(差動復号処理)は不要である。
この場合には、受信側装置3においては、参照データd"k(n)が復調されたメッセージシンボルbk(n)とされる。
【0041】
乗算部326は、復調部322から入力された参照データd"k(n)と、遅延部324により遅延された参照データd"k(n−1)とを乗算し、メッセージシンボルbk(n)を復号して、受信側装置3−kに接続されたネットワークなどに対して出力する。
加算部320は、復調部322から出力された参照データd"k(n)から、処理結果データフィルタ部4から出力されたフィルタ出力データd'k(n)を減算し、誤差データek(n)を作成し、重み付け係数更新部342に対して出力する。
【0042】
[送信側装置2−kと受信側装置3−kとの間の通信処理]
以下、通信システム1(図1)において、ペアとしてメッセージシンボルbk(n)の伝送を行う送信側装置2−kと受信側装置3−kとの間の通信処理を説明する。
【0043】
[送信側装置2−k]
まず、送信側装置2−kにおける処理を説明する。
送信側装置2−kには、ネットワークなどから入力されたメッセージシンボルbk(n)が、送信処理プログラム22(図4)の乗算部222に対して入力される。
乗算部222および遅延部224は、入力されたメッセージシンボルbk(n)を処理し、差動符号化複素シンボルdk(n)を作成し、遅延部224に対して出力する。
差動符号化複素シンボルdk(n)は、n番目に入力されたメッセージシンボルbk(n)と、(n−1)番目に作成された差動符号化複素シンボルdk(n−1)(differentially encoded complex symbol)とにより、dk(n)=bk(n)dk(n−1)と定義される。
【0044】
一方、ホッピングパターン設定部242は、ホッピングパターンPkの初期値、あるいは、通信相手の受信側装置3−kにより更新され、ホッピングパターン受信部240によって受信されたホッピングパターンPkを、周波数シンセサイザ部244に対して設定する。
周波数シンセサイザ部244は、設定されたホッピングパターンPkに従って、下式2に定義されるシグニチャ波形信号ck(t)を作成し、乗算部226に対して出力する。
【0045】
【数2】

【0046】
式2においては、Tcは、図5に示したチップの時間長を示し、Tc>t>0であり、αk,l(t)は、l番目のチップ波形を定義し、下式3により定義される。
【0047】
【数3】

【0048】
式3における矩形関数g(t)(rectangular function)は、下式4により定義される。
【0049】
【数4】

【0050】
一方、送信側装置2−kにおいてメッセージシンボルbk(n)のスペクトラム拡散のために用いられる周波数ホッピングパターンPkは、既に述べたように、下式5に示すM×L行列として定義されうる。
なお、下式5において、Lは、図5に示した1つのメッセージシンボルに含まれるチップ数であり、Mは、周波数ホッピングに用いられるトーンの数である。
【0051】
【数5】

【0052】
乗算部226は、ホッピングパターン設定部242から入力されたシグニチャ波形信号ck(t)と、乗算部222から入力された差動符号化複素シンボルdk(n)とを乗算し、下式6により定義される伝送信号sk(t)を乗算結果として作成し、D/A206に対して出力する。
D/A206、RF208およびアンテナ210(図3)は、入力された伝送信号sk(t)を、通信相手の受信側装置3−kに対して送信する。
【0053】
【数6】

【0054】
なお、式6において、Tsは、図5に示したメッセージシンボルbk(n)の符号時間長であり、LTs=Tcである。
また、式6において、差動符号化複素シンボルdk(n)=bk(n)・dk(n−1)であって、nTs>t>(n−1)Tsの間に送信される差動符号化複素シンボルを示す。
また、メッセージシンボルbk(n)は、上述の通り、例えば、QPSK方式による変調を前提として作成される。
【0055】
[送信側装置2−k,受信側装置3−k間の伝送路]
次に、図1などに示した送信側装置2−kが受信する目的外信号を説明する。
通信システム1においては、各ペアにおいて、独立に伝送信号が伝送される。
このような場合においては、受信側装置3−kが受信する送信側装置2−1〜2−(k−1),2−(k+1)〜2−Kからの伝送信号は、図2に示した通りとなる。
つまり、受信側装置3−kは、通信相手の受信側装置3−kからの伝送信号の他に、他、他のペアの送信側装置2−k'からの不要信号と、ノイズとを受信してしまう。
【0056】
なお、図2においては、hk',k(t)は、送信側装置2−k'から受信側装置3−kまでの無線伝送路が、送信側装置2−k'から受信側装置3−kへの伝送信号に与える複素形式のインパルス応答関数を示し、下式7により定義される。
また、図2においては、AWGNは、受信側装置3−kがこれらの伝送信号とともに受信する加法性白色ガウス雑音(additive white Gaussian noise)を示す。
なお、式7においては、hk,k',iは、i番目の伝送路に定義される複素利得定数(complex gain constant)であり、τk',k,i(Tc>τk',k,i>0)は、i番目の伝送路に生じる遅延である。
また、式7において、Ik',kは、送信側装置2−kから受信側装置3−kへの無線伝送路に含まれるパスの数である。
【0057】
【数7】

【0058】
受信側装置3−kが受信する伝送信号rk(t)信号は、下式8−1,8−2により定式化される。
【0059】
【数8】

【0060】
[受信側装置3−k]
次に、受信側装置3−kにおける処理を説明する。
受信側装置3−kにおいて、RF208(図3)は、式8−1,8−2に示したような伝送信号rk(t)を、アンテナ210を介して受信し、DSP202などが処理可能なベースバンドあるいは中間処理周波数の伝送信号sk(t)に変換して、A/D212に対して出力する。
A/D212は、RF208から入力された伝送信号rk(t)を、ディジタル形式の伝送信号rk(t)に変換し、DSP202などに対して出力する。
受信側装置3−kのDSP202などにおいては、受信処理プログラム30(図6〜図8)が実行されている。
【0061】
受信処理プログラム30のフィルタ部4において、乗算部402−mは、入力された伝送信号rk(t)に対して、関数e-j2πξmtを乗算し、乗算結果r(t)e-j2πξmtを、LPF404−mに対して出力する。
LPF404−mそれぞれは、乗算結果r(t)e-j2πξmtを、下式9−1,9−2に示すように、nTs+(l−1)Tc+τk',k,1〜nTs+lTc+τk',k,1の間、順次、積分し、重み付け部420に対して出力する。
LPF404−mによる積分により、下式9−1,9−2に示すように、伝送信号rk(t)に含まれるm番目のトーンの成分それぞれが分離される。
【0062】
【数9】

【0063】
なお、既に述べたように、式9−1,9−2において、L+α≧l≧1であり、ξm(Hz)は、スペクトラム拡散された伝送信号における第m番目のトーンの周波数であり、ξm=(m−1)/Tc(Hz)である。
受信信号行列作成部340は、時間長t(nTs+(L+α)Tc+τk',k,1>t>nTs+τk',k,1)において得られた周波数成分rk,m,l(n),rk,m,l(n+1)から、下式10に定義される受信信号行列Rk(n)を作成する。
【0064】
【数10】

【0065】
一方、フィルタ部4から出力されるフィルタ出力データd'k(n)は、下式11により定義される。
なお、式11において、Hは、行列の複素共役および転置を示し、trは、行列のトレース(trace)を示す。
【0066】
【数11】

【0067】
復調部322は、フィルタ出力データd'k(n)に対して、下式12に示すように、シグナム関数を用いた処理を行い、参照データd"k(n)を作成する。
なお、式12において、sgnは、シグナム関数を示し、Re[x]は、複素数xの実数成分を示し、Im[x]は、複素数xの虚数成分を示す。
【0068】
【数12】

【0069】
乗算部326は、n番目の参照データd"k(n)と、(n−1)番目の参照データd"k(n)とを、下式13−1〜13−3に示すように複素乗算し、メッセージシンボルb'k(n)を得る。
【0070】
【数13】

【0071】
加算部320は、復調部322から出力された参照データd"k(n)から、フィルタ部4から出力されたフィルタ出力データd'k(n)を減算し、下式14により定義される誤差データek(n)を作成し、重み付け係数更新部342に対して出力する。
誤差データek(n)は、その作成方法から明らかなように、参照データd"k(n)とフィルタ出力データd'kとの誤差を示し、重み付け係数更新部342は、この誤差データek(n)の値が小さくなるように、つまり、参照データd"k(n)の値とフィルタ出力データd'kの値とが近づくように、重み付け係数を更新し、最適化する。
【0072】
【数14】

【0073】
重み付け係数更新部342は、式15により定義され、フィルタ部4によるn番目のメッセージシンボルbk(n)に対する処理のために用いられている重み付け係数行列Wk(n)を、下式16に示すように、受信信号行列Rk(n)と、誤差データek(n)とを用いて更新し、次の(n+1)番目以降のメッセージシンボルbkの処理において用いられる重み付け係数行列Wk(n+1)を作成し、フィルタ部4の係数設定部410およびホッピングパターン作成部344に対して出力する。
【0074】
【数15】

【0075】
【数16】

【0076】
なお、式15における‖Rk(n)‖Fは、下式17により定義される受信信号行列Rk(n)のフロベニウスノルム(Frobenius norm)を示す。
【0077】
【数17】

【0078】
係数設定部410は、重み付け係数更新部342により重み付け係数行列Wk(n+1)が更新されるたびに、例えば、フィルタ部4に入力されるメッセージシンボルの境界で、係数乗算部44−(m,l)の係数保持部444−m,lそれぞれに、新たな重み付け係数行列Wk(n+1)の要素m,l(重み付け係数wk,m,l(n))を設定する。
なお、重み付け係数行列Wkの初期値としては、例えば、下式18に定義される重み付け係数行列Wk(0)が用いられる。
なお、式18においては、Tは、行列の転置を示し、0α×MTは、α×Mサイズの零行列を示す。
【0079】
【数18】

【0080】
フィルタ部4は、以上説明されたように更新された重み付け係数行列Wk(n+1)を用いて、次の(n+1)番目の伝送信号rk(t)に対するフィルタリングを行い、復号処理部32は、フィルタ部4が出力するフィルタ出力データd'k(n+1)を処理して、送信側装置2−kにおいて実行される送信処理プログラム22が処理するメッセージシンボルbk(n)に対応するメッセージシンボルb'k(n)を復号する。
【0081】
[ホッピングパターンPkのフィードバック]
以下、受信側装置3−kから送信側装置2−kへのホッピングパターンPkのフィードバックの処理を説明する。
受信側装置3−k上で実行される受信処理プログラム30のホッピングパターン作成部344は、重み付け係数更新部342から入力された重み付け係数行列Wkのホッピングパターン対応部分422(図7)に対応する一部を、下式19−1,19−2に示すように取り出して、新たなホッピングパターンPk(λ)を作成し、ホッピングパターン送信部346に対して出力する。
なお、以下、本文中においては、ホッピングパターンPk(λ)を、その(λ)を除いて、ホッピングパターンPkとも記す。
【0082】
【数19】

【0083】
なお、式19−1,19−2には、時刻t=λTf+Δk+αTc+τk,k,1においてホッピングパターンPkが受信側装置3−kから送信側装置2−kにフィードバックされる場合が例示されている。
また、式19−1,19−2において、Nf≧λ≧1であり、Nfは、フィードバックの繰り返し回数であり、Tfは、フィードバックの時間間隔であり、Δk(Tf≧Δk≧0)は、フィートバックタイミングに対して予め決められたオフセット時間である。
なお、式19−1,19−2においては、受信側装置3−kから送信側装置2−kへの伝送遅延などは無視されている。
【0084】
また、式19−1,19−2において、下式20で示される記号は、下式21により定義される。
式21において、{q}は、q以下の最大の正の整数を示す。
【0085】
【数20】

【0086】
【数21】

【0087】
ホッピングパターン送信部346は、ホッピングパターン作成部344から入力された新たなホッピングパターンPkを、A/D212、RF208およびアンテナ210(図3)を介して、図2に示したように、送信側装置2−kに対して送信させる。
送信側装置2−kにおいて実行される送信処理プログラム22において、ホッピングパターン受信部240は、受信側装置3−kからホッピングパターンPkを受信し、ホッピングパターン設定部242に対して出力する。
【0088】
ホッピングパターン設定部242は、周波数シンセサイザ部244に対してホッピングパターンPkを設定し、このホッピングパターンPkに従ってシグネチュア波形信号ck(t)を作成させ、メッセージシンボルbk(n)のスペクトラム拡散を行わせる。
なお、周波数シンセサイザ部244に設定されるホッピングパターンPkの初期値Pk(0)は、以上説明したホッピングパターンPkの更新により、順次、最適化されるので、例えば、予め実験によって決められた値であっても、ランダムな値であってもよい。
【0089】
以上説明したように構成された通信システム1の送信側装置2−kおよび受信側装置3−kの間のデータ伝送においては、ISI(InterSymbol Interference)およびMAI(Multiple Access Interference)の最小化が達成される。
また、送信側装置2−kのホッピングパターンPkの更新により、参照データd"k(n)において、更新に伴ったMMSE(minimum mean-squared error)が達成される。
従って、以上説明したホッピングパターンPkの更新によれば、送信側装置2−kおよび受信側装置3−kの間で、極めて小さいビットエラーレート(BER; bit error rate)のデータ伝送が実現される。
【0090】
[送信側装置2−k,受信側装置3−kの全体的動作]
以下、第1の通信システム1における送信側装置2−kと受信側装置3−kとの間のデータ伝送およびホッピングパターンPkのフィードバックおよび更新の全体的な動作を説明する。
図9は、図1などに示した送信側装置2−kと受信側装置3−kとの間のデータ伝送およびホッピングパターンPkのフィードバック(S10)を示す通信シーケンス図である。
ステップ100−1(S100−1)に示すように、送信側装置2−kから受信側装置3−kに対して、複数回、伝送信号sk(t)が送信される。
ステップ102−1(S102−1)において、受信側装置3−kは、式19−1,19−2を参照して説明した時間間隔で、重み付け係数行列WkおよびホッピングパターンPkの更新を行う。
【0091】
ステップ104−1(S104−1)において、受信側装置3−kは、更新したホッピングパターンPkを、送信側装置2−kに対して送信し、フィードバックする。
ステップ106−1(S106−1)において、送信側装置2−kは、受信側装置3−kから受信したホッピングパターンPkにより、それ以前のホッピングパターンPkを更新し、それ以降のスペクトラム拡散処理に用いる。
以上のような処理が、送信側装置2−kと受信側装置3−kとの間で、例えば、Nf回、繰り返される。
【0092】
[変形例]
以下、通信システム1(図1など)の変形例を説明する。
送信側装置2−kと受信側装置3−kとの間で、Nf回のホッピングパターンPkのフィードバックおよび更新が行われる場合が例示されたが、例えば、このフィードバックおよび更新は、回数を制限せず、一定の時間間隔、あるいは、不定期に実行されてもよい。
また、図6に点線で示すように、受信処理プログラム30に、伝送信号rk(t)の信号強度、あるいは、SN(signal noise)比を測定する品質測定部360を追加し、更新処理部34が、送信信号の品質が、一定水準よりも低下したときに、ホッピングパターンPkのフィードバックおよび更新を行って、伝送信号の品質を向上させるように、受信処理プログラム30を構成してもよい。
【0093】
また、メッセージシンボルbk(n)が誤り検出符号を含むときに、図6に点線で示すように、受信処理プログラム30に、復号により得られたメッセージシンボルb'k(n)の誤り率を測定する誤り率測定部362を追加し、メッセージデータb'k(n)の誤り率が一定以上になったときに、更新処理部34が、ホッピングパターンPkのフィードバックおよび更新を行って、誤り率を低下させるように、受信処理プログラム30を構成してもよい。
また、以上、通信システム1において、送信側装置2および受信側装置3が、周波数ホッピングによりメッセージシンボルbk(n)のスペクトラム拡散を行う場合を具体例としたが、送信側装置2および受信側装置3が、例えば、2つの時間領域あるいは周波数成分を成分とするホッピングパターンを用い、このようなホッピングパターンの更新およびフィードバックを行うように変更することも可能である。
また、以上、通信システム1において、N−LMSアルゴリズムにより重み付け係数行列Wkが最適化され、ホッピングパターンPkが更新される場合を具体例としたが、更新のための最適化アルゴリズムは、通信システム1の構成、用途およびDSP202などの性能に応じて、適宜、別のアルゴリズムに変更することができる。
【実施例】
【0094】
以下、上述した本願にかかる通信システムの一実施例として、通信システム1により、どのように送信側装置2−kおよび受信側装置3−kの間の伝送特性が向上するかを、具体例を挙げて説明する。
まず、ホッピングパターンPkの初期値として、非特許文献3において提案された周波数ホッピングコード、および、長さLのM個のゴールド系列(M Gold sequence)を用いたL=7,M=8のホッピングパターンPk(0)を用いる。
このホッピングパターンPk(0)の周波数ホッピングコードykは、下式22−1,22−2により定義される。
【0095】
【数22】

【0096】
式22において、β=[β0,β1,β2,・・・,βL-1]であり、βは、GF(M=23)の初期要素であり、xk,γk∈GF(23)であり、lは、全ての要素が1の長さLの列ベクトルである。
また、式22において、下式23で示される記号および「・」は、それぞれGF(23)に対する加算と乗算とを示す。
【0097】
【数23】

【0098】
k番目の信号に対するxk,γkの値は、(k−1)=γk+xkのように求められる。
L×M行列Vkの(l,m)の要素vk,l,mは、下式24により定義される。
【0099】
【数24】

【0100】
ここで、それぞれM個のゴールド系列をその対角に含むM個の対角行列のセットZ0,Z1,・・・ZM-1が定義されると、初期ホッピングパターンPk(0)は、Pk(0)=Zxkkと定義される。
例えば、k=2のときには、y2,V2,Zxk=2,Pk(0)は、下式25〜27,28−1,28−2に示す通りとなる。
【0101】
【数25】

【0102】
【数26】

【0103】
【数27】

【0104】
【数28】

【0105】
図10は、通信システム1の性能を評価するための無線伝送路のモデルを示す図である。
また、通信システム1の性能を評価するために、図10に示したように、指数関数的な減衰特性を示す6パス(six path)モデルが前提とされた(全てのk,k'について、Ik',k=6)。
図10に示されるように、相対信号強度(relative intensities)|hk',k,i|は、20log10|hk',k,i+1|/|hk',k,i|=−3dBである(但し、i=1,2,・・・,Ik',k−1))。
【0106】
無線伝送路遅延(path delays)τk',k,iは、τk',k,i+1−τk',k,i=(L+1)Tc/16(≒Ts/16;L=7の場合)であり、全てのk',kについてのτk',k,1、および、全てのk',k,iについてのθk,k,i+1は、相互に統計的に独立であり、それぞれ[0,T)および[0,2π)の区間で一様に分布するランダムな値である(uniformly distributed random variables in the interval of [0,T) and [0,2π))。
なお、前提の単純化のために、以上説明したように、振幅減衰を、全てのk',kについて同じ−3dBとし、全てのk',k,iについてτk',k,1,θk,k,i+1を独立としたことにより、通信システム1における無線伝送路の条件は、非常に厳しくなる。
【0107】
通信システム1においては、送信側装置2から受信側装置3に対して、重み付け係数行列(Wk)の一部を、ホッピングパターンPkとしてフィードバックし、送信側装置2において、実際の無線伝送路の条件に対して適切なシグニチャ波形信号ck(t)が作成できるようになるまで、初期トレーニング期間(initial training period)が必要とされる。
通信システム1においては、初期トレーニング期間は、上述のように、t<(Nf+1)Tf+Δk+τk,k,1とされている。
【0108】
以下に示す通信システム1における定常期間の(steady)ビットエラーレート(BER)は、この初期トレーニング期間以降に得られ、定常期間(steady period)においては、受信側装置3−k側における重み付け係数行列Wkのみが行われ、送信側装置2−kに対するホッピングパターンPkのフィードバックは行われない。
また、重み付け係数行列Wkの更新に用いられる参照データd"kは、初期トレーニング期間において、d"k=dkとされ、このことは、送信側装置2に、初期トレーニング期間において用いられるパイロットデータシンボルが記憶され、記憶されたパイロットデータシンボルが、初期トレーニング期間において用いられることを意味する。
ビットエラーレート特性(BER performance)は、ランダムに選択された値τk',k,1,θk,k,i+1に少し依存するので、以下の図に示されたグラフの点は、5回のシミュレーションで得られた値の平均値を示す。
これら以外の前提は、これらの前提とともに、下表1に示されている。
【0109】
【表1】

【0110】
[シミュレーションによる性能評価結果]
以下、通信システム1の性能を計算機シミュレーションによって評価した結果を説明する。
計算機シミュレーションにより、通信システム1のビットエラーレート特性と、従来のゴールド系列(Gold sequence)によるDS−CDMAを採用し、マッチドフィルタ(matched filter)を用い、RAKE合成方法(RAKE combining method)を用い、または、用いない通信システムのビットエラーレート特性と、FCSS/CDMA方式を採用した通信システムのビットエラーレート特性とが比較された。
【0111】
図11は、通信システム1において、アクティブな伝送信号sk(t)の数に対するビットエラーレート特性のグラフを示す図である。
図12は、K=32のときにEb/Noに対するビットエラーレート特性のグラフを示す図である。
図13は、初期ホッピングパターン、更新されたホッピングパターン、および、これらの電力スペクトラム(power spectra)をグラフ形式で示す図である。
なお、図13においては、トーンレベルpk,l,mは、その絶対値|pk,l,m|により示されている。
【0112】
図11を参照すると分かるように、従来のDS−CDMAを採用した通信システムにおいては、アクティブな伝送信号sk(t)の数が多くなるにつれ、ビットエラーレートは、急速に増加する。
これに対して、α=7,Nf=10とした通信システム1において、アクティブな伝送信号sk(t)の数の増加に対して、最も緩やかにエラーレートが増加してゆく。
また、図12を参照すると分かるように、FCSS/DS−CDMA(α=31,Nf=10)を採用したシステムにおいてと比べて、通信システム1(α=7,Nf=10)においては、ビットエラーレートが10-3の場合に、3dBの利得が得られた。
また、図13(c)を参照すると分かるように、ホッピングパターンの初期値Pk(0)は、チップそれぞれにおいて1つのトーンを含むが、更新されたホッピングパターンにおいては、チップそれぞれにおいて、複数のトーンを含む。
【0113】
[第2の実施形態]
まず、本願第2の実施形態として示す第2のFC/MH−CDMA方式の説明に先立ち、その理解を助けるために、第1の実施形態として示した第1のFC/MH−CDMA方式において改良すべき点を説明する。
【0114】
[第2の通信システム5]
図14は、本願第2の実施形態が適用される第2の通信システム5の構成を例示する図である。
図14に示すように、第2の通信システム5は、複数の送信側装置2が、第1の通信システム1(図1)における受信側装置3に対応し、送信側装置2および受信側装置3と同様なハードウェア構成を有する1つ以上の基地局(BS;Base Station)6にアクセスし、伝送信号を伝送するように構成されている。
【0115】
以上説明した第1のFC/MH−CDMA方式においては、伝送信号と、妨害信号(ある送信側装置2と受信側装置3とのペアにおける他のペアからの目的外の伝送信号)およびノイズとの比(SINR;Signal-to-Interference plus Noise Ratio)および受信された伝送信号から復号されるデータにおけるビットエラー率(BER; Bit Error Ratio)が著しく改善された。
しかしながら、第1のFC/MH−CDMA方式においては、送信側装置2が送信する伝送信号におけるピーク電力と平均電力との比率(ピーク・平均値比;PAR(Peak-to-Average Ratio))は制御の対象とされていない。
このピーク・平均値比PARが大きいと、送信側装置2における電力消費が多くなる。
一方、無理にピーク・平均値比PARを小さくしてしまうと、一般に、図14に示した通信システム5におけるように、複数の送信側装置2が1つの通信システム5に対してアクセスするようなときには、ビットエラー、および、1つの通信システム5にアクセスしうる送信側装置2の数(ユーザ数; User Capacity)といったシステムとしての性能を制限する原因となりうる。
従って、FC/MH−CDMA方式においては、ビットエラー、および、送信側装置2の数に影響を与えないような伝送信号のピーク・平均値PARの制御が重要である。
【0116】
以下に説明する本願第2の実施形態(第2のFC/MH−CDMA方式)は、第1のFC/MH−CDMA方式を改良し、図14に示した第2の通信システム5において、送信側装置2と通信システム5(受信側装置3)との間で、第1のFC/MH−CDMA方式におけるホッピングパターンの漸進的な最適化と同様に、イタレイティブ(Iterative)なピーク・平均値比PARの制御を行えるように構成されている。
なお、以下に説明する本願第2の実施形態は、図14に示した第2の通信システム5に示した第1の通信システム1の他に、図1に示した第1の通信システム1にも適用されうることは言うまでもない。
【0117】
本願第2の実施形態(第2のFC/MH−CDMA方式)は、例えば、通信システム1,5において、送信側装置2が、第1の送信処理プログラム22(図4)を、図15を参照して後述する第2の送信処理プログラム40に置換して実行し、さらに、受信側装置3が、第1の受信処理プログラム30を、図16に示す第2の受信処理プログラム50に置換して実行し、あるいは、基地局6が受信処理プログラム50を実行することにより実現される。
なお、以下の説明においては、第2のFC/MH−CDMA方式が、第2の通信システム5に適用される場合が具体例とされる。
また、説明の重複を避けるために、第2の実施形態においては、第1の実施形態と第2の実施形態との差分が主に説明される。
【0118】
[第2の通信システム5内の送信側装置2および基地局6のプログラム]
図15は、図14に示した送信側装置2および基地局6において実行される第2の送信処理プログラム40の構成を示す図である。
図16は、図14に示した送信側装置2および基地局6において実行される第2の受信処理プログラム50の構成を例示する図である。
図15に示すように、第2の送信処理プログラム40は、第1の送信処理プログラム22(図4)のホッピングパターン受信部240およびホッピングパターン設定部242を、それぞれこれらと同様な動作を行う第2のホッピングパターン受信部400および第2のホッピングパターン設定部402に置換した構成を採る。
第1のホッピングパターン受信部240および第1のホッピングパターン設定部242と、第2のホッピングパターン受信部400および第2のホッピングパターン設定部402との違いは、第1のホッピングパターン受信部240および第1のホッピングパターン設定部242が、ピーク・平均値比PARを制御するための処理を受けていないホッピングパターンPk(上式5などを参照)取り扱い、第2のホッピングパターン受信部400および第2のホッピングパターン設定部402が、図16を参照して後述するピーク・平均値比PARを制御するための処理を受けたホッピングパターンP”kを取り扱うことである。
【0119】
図16に示すように、第2の受信処理プログラム50は、第1の受信処理プログラム30(図7)の第1のホッピングパターン作成部344および第1のホッピングパターン送信部346を、更新処理部52に置換した構成を採る。
つまり、第2の受信処理プログラム50においては、第1の受信処理プログラム30における第1のホッピングパターン作成部344および第1のホッピングパターン送信部346は、第2のホッピングパターン作成部520および第2のホッピングパターン送信部528に置換され、さらに、第2のホッピングパターン作成部520と第2のホッピングパターン送信部528との間に、ピーク・平均値比(PAR)計算部522、PAR制御部524および量子化部526が付加される。
なお、第1のホッピングパターン送信部346と、第2のホッピングパターン送信部528との差は、第1のホッピングパターン送信部346がピーク・平均値比(PAR)が制御されていないホッピングパターンPkを送信し、第2のホッピングパターン送信部528は、PARが制御されたホッピングパターンP”k(λ)を送信することである。
なお、第2の実施形態において、λは、図20を参照して後述するループ回数を示し、以下、ホッピングパターンP”k(λ)を、その(λ)を除いてホッピングパターンP”kとも記す。
【0120】
第2のホッピングパターン作成部520は、第1のホッピングパターン作成部344(図6)と同様に、予め決められたタイミングで、第1の受信処理プログラム30のフィルタ部4(図7)の重み付け係数行列Wkの内、ホッピングパターン対応部分422に対応する要素を取り出す。
あるいは、ホッピングパターン作成部520は、図16に点線を付して示すように、重み付け係数更新部342が重み付け係数wkを更新するたびに、更新された重み付け係数wkの内、ホッピングパターン対応部分422に対応する要素を取り出す。
ホッピングパターン作成部520は、上述のように取り出した重み付け係数wkの要素から、第1の受信処理プログラム30におけるホッピングパターン作成部344(図6)と同様に、フィルタ部4または重み付け係数更新部342から入力された重み付け係数行列Wkのホッピングパターン対応部分422(図7)に対応する一部を、上式19−1,19−2に示すように取り出して、新たなホッピングパターンPkを作成し、ホッピングパターン送信部346に対して出力する。
【0121】
PAR計算部522は、PAR制御部524から入力された重み付け係数wkの要素からPARξkを計算する。
ここで、下式29におけるシグニチャ波形信号ck(t)は、上式2により与えられ、上式2におけるl番目のチップ波形αk,l(t)は、重み付け係数wkの要素pkに対して上式3を適用することにより得られる。
つまり、PAR計算部522は、第1のFC/MH−CDMA方式におけるように、ホッピングパターン作成部520が取得した重み付け係数wkの要素から、PARの制御のための調整が行われずにホッピングパターンP’kが作成され、送信側装置2において用いられたときに、送信側装置2が送信する伝送信号に生じるPARξkを、式2,式3および下式29などに基づいて算出する。
【0122】
【数29】

【0123】
PAR制御部524は、PAR計算部522が算出したPARの値に基づいて、PAR計算部522から入力されたホッピングパターンPkを調整してホッピングパターンP’k(λ)を作成する(以下、ホッピングパターンP’k(λ)を、その(λ)を除いて、ホッピングパターンP’kとも記す)。
つまり、PAR制御部524は、ホッピングパターンP’kを用いた送信側装置2が作成した伝送信号のPARの値が、通信システム1,5(図1,図14)における伝送信号の伝送に悪影響を与えないように予め決められたPARの値より小さくなるように、あるいは、伝送信号の伝送に悪影響を与えない範囲で最少となるように、作成したホッピングパターンPkの要素の値を調整して、ホッピングパターンP’kとする。
【0124】
さらに具体的にPAR制御部524の処理を説明する。
ホッピングパターンPk(P’k)は、上述のように行列(式19−1,19−2)の形式で表される。
なお、単純なFH信号(周波数の異なるトーンが各チップに等しい振幅レベルでひとつだけ存在するようなFH信号)は、最善のPAR(=0dB)を与えるが、非同期伝送や、マルチパスが存在する無線伝送路を介した伝送信号の伝送には必ずしも向いておらず、MAIおよびISIの原因となってしまう。
【0125】
基地局6おけるホッピングパターンP’kの更新は、MAIおよびISIに強いホッピングパターンP’k(0)初期値とし、基地局6から送信側装置2へのλ回目のホッピングパターンP’kのフィードバックにおいて、直前のホッピングパターンP’k(λ−1)に近似し、直前のホッピングパターンP’k(λ−1)よりも小さなPARを与える次のホッピングパターンP’k(λ)を探すことにより行われる。
なお、基地局6が更新したホッピングパターンP’k(λ)は、送信側装置2において用いられると、PAR制御部524で制御される前のホッピングバターンPkよりも伝送信号に、より少ないPARを与えるが、そのMAIおよびISIを少し悪化させる可能性がある。
しかしながら、このような場合には、基地局6は、伝送信号のMAIおよびISIを改善するようにフィルタ部4の重み付け係数wkを調整するので、次のλ+1回目のフィードバックにより、送信側装置2が次のホッピングパターンP’k(λ+1)を用いて伝送信号を作成すると、そのMAIおよびISIが改善される。
【0126】
このように、ホッピングパターンの更新の繰り返しにより、徐々に、送信側装置2が作成する伝送信号におけるPARと、MAIおよびISIとを最適化するホッピングパターンP’kが、漸進的に得られることとなる。
なお、基地局6は、複数の送信側装置2との間で伝送信号を伝送するときには、複数の送信側装置2それぞれに対するホッピングパターンP’kを更新する。
また、複数の送信側装置2および受信側装置3それぞれのPAR制御部524が、独立してPARの制御を行うことにより、第2のFC/MH−CDMA方式は、第1の通信システム1(図1)にも、そのまま適用可能である。
【0127】
図17は、図16に示したホッピングパターン作成部520、PAR計算部522およびPAR制御部524の処理(S10)を示すフローチャートである。
図17に示すように、ステップ100(S100)において、第2の受信処理プログラム50は、正の実数の定数βおよび定数ρ(0<ρ<1)の初期値およびPARの目標値PARlを設定する。
定数β、ρの値は、PAR制御部524によるホッピングパターンPkを調整して、ホッピングパターンP’kを作成する過程におけるPARの値の変化の大きさに関係し、つまり、ホッピングパターンP’kの(l’、m’;1≦l’≦M,1≦m’≦M)番目の要素により増やされたPARの値を減らすための変化の大きさに関連する。
これら定数β、ρの初期値は、図18などを参照して後述するように、計算、シミュレーション、通信システム5のユーザの経験、あるいは、実験などにより求められる。
ステップ102(S102)において、ホッピングパターン作成部520は、入力された重み付け係数Wkから、下式30により表され、pklmを要素とするL×M形式の行列で表されるホッピングパターンPkを作成する。
【0128】
【数30】

【0129】
なお、上式30において、γは、PARが制御されたホッピングパターンP’k(量子化されたホッピングパターンP”k)が送信側装置2において用いられて作成された伝送信号に含まれるトーンの数を減らすために用いられる閾値であって、下式31により定義される。
【0130】
【数31】

【0131】
なお、上式31において、上記βは、上式31中のホッピングパターンPkの要素の二乗平均値(下式32を参照)に正規化される閾値である。
【0132】
【数32】

【0133】
ステップ104(S104)において、PAR計算部522は、ホッピングパターン作成部520が作成したホッピングパターンPk、または、ここまでの処理によりPAR制御部524により要素の値が調整されたホッピングパターンP’kから、PARξkを算出する。
ステップ106(S106)において、PAR制御部524は、S104の処理により算出されたPARξkの値が、S100において設定された目標値PARl以下か否かを判断する。
受信処理プログラム50は、PARξkの値が目標値PARl以下であるときにはS112の処理に進み、これ以外のときにはS108の処理に進む。
【0134】
ステップ108(S108)において、PAR制御部524は、ホッピングパターン作成部520から入力されたホッピングパターンPk、または、ここまでの処理によりPAR制御部524により要素の値が調整されたホッピングパターンP’kの全ての行それぞれに含まれる0以外の値の要素の数が1以下であるか否かを判断する。
つまり、PAR制御部524は、ホッピングパターンPkのl(1≦l≦L)番目の行に含まれる0以外の値をとる要素の数Nlが1以下であるか否かを、ホッピングパターンPkのL個の行全てについて判断する。
受信処理プログラム50は、ホッピングパターンPkの全ての行それぞれに含まれる0以外の値の要素の数が1以下であるときにはS112の処理に進み、これ以外のときにはS110の処理に進む。
【0135】
ステップ110(S110)において、PAR制御部524は、ホッピングパターンP’kにより得られる最大の振幅値の絶対値|c’k(t)|を与えるl’ (1≦l’≦L)番目のチップの番号(チップインデックスl’)を探して見つける。
また、PAR制御部524は、l’番目のチップにおけるm’ (1≦m’≦M)番目の要素トーンの絶対値|p’k,l,m|が最小であることを示すトーンの番号(トーンインデックスm’;なお、m’は、最大の振幅レベルを持つチップの番号が上述したl’であり、そのチップを構成する複数のトーンのうち、0以外でもっとも小さなトーンの番号を示す)を探して見つける。
さらに、PAR制御部524は、上述のように見つけたチップインデックスl’およびトーンインデックスm’により示される要素p’k,l',m'に、上記定数ρを乗算して、ρp’k,l',m'を新たなp k,l',m'としてS102の処理に戻る。
ステップ112(S112)において、PAR制御部524は、ここまでの処理により得られたホッピングパターンP’kを、PARが制御されたホッピングパターンP’kとする。
【0136】
図17に示したS10の処理の重要な部分をさらに説明する。
図17に示されたS10の処理において、S106の処理において、PARξkの値が、S100において設定された目標値PARl以下となったと判断されたということは、PAR制御の目的が達成されたことを意味するので、S10の処理が終了される。
また、S106の処理において、PARξkの値が、S100において設定された目標値PARl以下となったと判断されなかったときには、S108の処理において、L個のチップの全てが、0個または1個のトーンからなるか否かが判断される。
S108の処理において、L個のチップの全てが、0個または1個のトーンからなると判断されたときには、S10の処理が終了される。
反対に、S108の処理において、L個のチップのいずれかが、2個以上のトーンからなると判断されると、S110の処理が行われる。
【0137】
S110の処理においては、PARを大きくしている原因となっている最大の振幅レベルを持つチップが探され、そのチップの構成要素である複数のトーンのうち、最も小さなトーンの値がρ倍されて小さくされる。
このように、最も小さなトーンの値を小さくして行くことにより、そのチップに含まれるトーンの数は、基本的に、次第に1となる。
このように、最も値が小さいトーンを、さらに小さくすることにより、更新されたホッピングパターンP’kにおいて、伝送信号のMAIおよびISIを改善する大きな値のトーンを小さくする変更がなされず、しかも、更新により、直前のホッピングパターンP’kに近似した次のホッピングパターンP’kが得られることとなる。
【0138】
量子化部526(図16)は、PAR制御部524により生成され、PARについて制御されたホッピングパターンP’kを量子化し、量子化されたホッピングパターンP”kを、ホッピングパターン送信部528に対して出力する。
ホッピングパターン送信部528は、量子化されたホッピングパターンP”kを、送信側装置2と受信側装置3との間の無線通信回線を介して、受信側装置3にアクセスする送信側装置2それぞれに対して送信する。
【0139】
量子化部526による量子化処理をさらに説明する。
量子化部526による量子化処理は、図14に示した第2の通信システム5において、基地局6から各送信側装置2へ送信するホッピングパターンP”kのデータ量を減らすために行われる。
PAR制御部524が作成したホッピングパターンP’kの要素p’k,l,mの実数部分と虚数部分の絶対値の最大の値を最大値akmaxとすると、最大値akmaxは、下式33により与えられる。
【0140】
【数33】

【0141】
ホッピングパターンP”kの要素p”k,l,mは、最大値akmaxを用いて、下式34により与えられる。
なお、下式34において、[x]roundは、xの値を、xに最も近い整数値に丸めることを示し、(q+1)は、要素p”k,l,mの実数部分および虚数部分を表すために必要とされるビット数を示す。
【0142】
【数34】

【0143】
つまり、(2q+1)ビットのデータ量が、ホッピングパターンP”kに含まれる要素p”k,l,mそれぞれを基地局6から送信側装置2に伝送するために必要とされるので、1つのホッピングパターンP”k全部の伝送には、LM(2q+1)ビットのデータ量が必要とされる。
このようにホッピングパターンP”kを伝送するためには、量子化後の値が0を含む(例えば、実数値−0.23や+0.23という値が0に量子化される)ミッドトレッド(Midtead)型量子化と呼ばれ、第2の通信システム5におけるPARを減らすための処理に適している。
なお、ここの処理において、処理において、量子化後の値に0が含まれないタイプ(たとえば、実数値+0.23を+1に量子化し、−0.23を−1に量子化する)のミッドライズ(Midrise)型の量子化が用いられると、ミッドトレッド型の量子化が用いられた場合に比べて、PARの改善が遅くなる。
【0144】
[送信側装置2,基地局6全体的動作]
以下、第2の通信システム5における送信側装置2と基地局6との間のデータ伝送およびホッピングパターンP”kのフィードバックおよび更新の全体的な動作を説明する。
受信側装置3を基地局6と読み替えて、再び図9を参照する。
ステップ100−1(S100−1)に示すように、送信側装置2(図15)から基地局6に対して、複数回、伝送信号sk(t)が送信される。
ステップ102−1(S102−1)において、基地局6において、受信処理プログラム50のホッピングパターン作成部520(図16)は、ホッピングパターンPkを更新する。
【0145】
さらに、PAR計算部522およびPAR制御部524は、作成されたホッピングパターンPkに対して、図17を参照して説明したように、PARを制御するための調整を行い、送信側装置2におけるPARを制御するように調整されたホッピングパターンP’kを作成する。
量子化部526は、調整されたホッピングパターンP’kを量子化し、ホッピングパターンP”kとする。
【0146】
ステップ104−1(S104−1)において、基地局6のホッピングパターン送信部528は、ホッピングパターンP”kを、無線通信回線を介して送信側装置2に対して伝送し、フィードバックする。
ステップ106−1(S106−1)において、送信側装置2のホッピングパターン受信部400(図15)は、基地局6から伝送されてきたホッピングパターンP”kを受信し、PAR計算部522による量子化と逆の処理を行い、新たなホッピングパターンP’kとする。
ホッピングパターン設定部402は、新たなホッピングパターンP’kをフィルタ部4に設定して、それ以降のスペクトラム拡散処理に用いる。
以上のような処理が、送信側装置2と基地局6との間で、例えば、Nf回、繰り返される。
【0147】
[シミュレーションによる性能評価結果]
以下、通信システム1,5の性能を計算機シミュレーションによって評価した結果を説明する。
【0148】
[性能評価の前提]
まず、通信システム1,5の性能評価のための前提条件を説明する。
なお、以下の性能評価においては、以下に(1),(2)を付して示す場合が具体例とされている。
(1)第1の通信システム1がK組みの送信側装置2と受信側装置3とのペアを含み、あるいは、第2の通信システム5が、1台の基地局6とK台の送信側装置2とを含み;
(2)これらの間に、6つのパスからなるマルチパス無線通信回線が存在する(つまり、上式7において、Ik',k=6)。
【0149】
また、通信システム1,5においては、減衰特性は指数減衰特性であり、複素利得定数の絶対値|hk,i+1|の相対的な強度は、20log10|hk,i+1|/|hk,i|=−3dB(i=1,2,・・・,Ik−1)であり、無線通信回線の6つのパスの相対遅延τk,iは、τk,i+1−τk,i=(L+1)Tc/16(≒LTc/16;ただしL=7)である場合が具体例とされる。
また、通信システム1,5においては、全てのkおよびiに対してτk,l,θk,iは、統計的に互いに独立であり、[0,Ts)および(0,2π]のインターバルそれぞれに対して、一様にランダムな変数が与えられる場合が具体例とされる。
【0150】
ここで、第2のFC/MH−CDMA方式は、第1のFC/MH−CDMA方式と同様に、基地局6(受信側装置3)が送信側装置2にホッピングパターンP”kをフィードバックするためのトレーニング期間を必要とする。
以下、初期のトレーニング期間t<(Nf+1)Tf+Δk+τk,lであり、通信システム1,5において、BERは、初期のトレーニング期間tが経過した後の定常的な期間t(≧(Nf+1)Tf+Δk+τk,l)について評価される。
基地局6(受信側装置3)におけるPARの制御およびホッピングパターンP’kの作成およびその量子化は、基地局6(受信側装置3)が、ホッピングパターンP”kを送信側装置2に伝送する直前に行われる。
【0151】
定常的な期間においては、基地局6(受信側装置3)のフィルタ部4における重み付け係数Wkの更新のみが行われ、基地局6(受信側装置3)から送信側装置2に対するホッピングパターンP”kのフィードバックは行われない。
また、フィルタ部4の重み付け係数Wkの更新期間中は、この更新のために用いられるメッセージシンボルb'k(n)は、メッセージシンボルbk(n)に等しく(b'k(n)=bk(n))、このことは、基地局6(受信側装置3)側は、初期トレーニングに用いられるパイロットデータシンボルを予め知っていることを意味する。
BERとPARとは、τk,lk,lがランダムに選ばれたときには、互いに多少の関連があるので、以下に示す性能評価結果として、10回のシミュレーションの平均値が示されている。
これら以外の前提は、これらの前提とともに、下表2に示されている。
【0152】
【表2】

【0153】
[パラメータ]
次に、通信システム1,5の性能評価のためのパラメータを説明する。
第2のFC/MH−CDMA方式は、シグネチャ波形ck(t)のPARを効果的に制御できるように工夫されている。
図17を参照して説明したように、第2のFC/MH−CDMA方式においては、3つの設計上の定数β,ρ,PARlが適切に設定されなければならない。
図17に示した処理におけるループにおいて用いられるので、以下の性能評価においては、定常状態に至るまでの上記ループ処理の回数に基づき、これらの定数β,ρ,PARlの値が検討され、求められた。
【0154】
図18は、図1,14に示した通信システム1,5において32個の無線通信回線を介して伝送信号が伝送されているときに(K=32;以下の各図において同じ)、定数ρの値を0.9とし、定数βを変化させて得られる最大のPARの平均値(Average Largest PAR)とPARの目標値PARlとの関係を示す図である。
なお、図18において、最大のPARの平均値は、10回のシミュレーションにより得られたホッピングパターンP’k(λ=10)を用いたときの32個のシグネチャ波形ck(t)において発生するPARの最大値の平均値を示す。
図18を参照すると分かるように、定数ρ=0.9のときには、定数β≦0.3とすると、第2のFC/MH−CDMA方式においては、目標値PARl>1dBの範囲で、実際のPARの値と目標値PARlとが、良好な範囲で近似する。
【0155】
図19は、図1,14に示した通信システム1,5において32個の無線通信回線を介して伝送信号が伝送されているときに(K=32)、定数βの値を0.3とし、定数ρを変化させて得られる最大のPARの平均値とPARの目標値PARlとの関係を示す図である。
図19を参照すると分かるように、定数β=0.3のときには、定数ρ≧0.8とすると、第2のFC/MH−CDMA方式においては、目標値PARl>1dBの範囲で、実際のPARの値と目標値PARlとが、良好な範囲で近似する。
【0156】
図20(a)は、定数β=0.1,ρ=0.9のときに、図17に示した処理ループの実行回数と、最大のPARの平均値とPARの目標値PARlとの関係を示すヒストグラム図であり、(b)は、定数β=0.3,定数ρ=0.8のときに、図17に示した処理ループの実行回数と、最大のPARの平均値とPARの目標値PARlとの関係を示すヒストグラム図である。
図20(a),(b)を参照すると分かるように、第2のFC/MH−CDMA方式においては、定数β=0.1,定数ρ=0.9としたときでも、定数β=0.3,定数ρ=0.8としたときでも、目標値PARlに対する実際のPARの値は1dB以内とされうる。
また、図20(a),(b)を参照すると、定数β,ρを適切に選ぶことにより、第2のFC/MH−CDMA方式においては、PAR計算部522およびPAR制御部524(図16)における処理に要する演算量(図17に示したループの回数)を大幅に減らすことができる。
【0157】
仮に、最大のPARの平均値がPARの目標値PARlより小さいときには、定数βはより小さく、定数ρはより大きく選択されることができ、このような選択により、PAR計算部522およびPAR制御部524の処理における演算量を大幅に少なくすることができる。
以下の説明においては、目標値PARlとして広い範囲が選ばれうるので、定数βの値として0.3が、定数ρの値として0.8が選ばれる場合が具体例とされる。
【0158】
図21(a)〜(e)は、目標値PARlを1dB〜無限大(PARに対する制御なし)と変化させたときのシグネチャ波形ck(t)の振幅を示す図である。
シグネチャ波形ck(t)の二乗値|ck(t)2|は、図21(a)〜(e)に示すように、目標値PARlの値に大きく依存する。
【0159】
[BER性能]
図22は、図1,図14に示した通信システム1,5に、第2のFC/MH−CDMA方式を適用して得られる特性を示す図であり、(a)は、BER性能を示し、(b)は実際に伝送されている伝送信号の数とPARとの関係を示す。
第2のFC/MH−CDMA方式において、複数の目標値PARlを選択して伝送信号を伝送したときのBERは、図22(a)に示す通りとなる。
なお、図22(a)には、第2のFC/MH−CDMA方式との対比のために、マッチドフィルタ(MF;Matched Filter)を用い、ランダム系列を採用した従来のDS−CDMA方式であって、6フィンガ最大比合成(six-finger maximal ratio combining)のRAKE合成方式(RAKE Combining Method)を用いたときと用いないときに得られるBER性能も示されている。
【0160】
図22(a)を参照すると分かるように、Kの値が大きいとき、つまり、伝送されている伝送信号が多いときには、目標値PARl=1dB,3dBのときには、第2のFC/MH−CDMA方式において、少しだけBER性能が劣化する。
一方、目標値PARl=6dB,9dBとすると、第2のFC/MH−CDMA方式においては、BER性能がほぼ理想的となる。
また、図22(b)を参照すると分かるように、第2のFC/MH−CDMA方式においては、PARの制御は、伝送されている伝送信号の数(K)に関わらず良好に行われる。
【0161】
[量子化の効果]
図23は、図1,図5に示した通信システム1,5に、第2のFC/MH−CDMA方式を適用したときに、トーンごとの実数部分および虚数部分それぞれの量子化ビットの数(q)を変更して得られる目標値PARlと最大PARの平均値との関係を示す図である。
図23を参照すると分かるように、通信システム1,5のホッピングパターン送信部528に、上述のようにミッドトレッド型量子化方式を適用して、第2のFC/MH−CDMA方式を実現すると、q≧6とした場合に、量子化を行わない場合とほぼ等しい最良なPAR制御が実現される。
【0162】
図24は、図1,図5に示した通信システム1,5に、第2のFC/MH−CDMA方式を適用し、トーンごとの実数部分および虚数部分それぞれの量子化ビットの数を6(q=6)としたときに得られる信号/ノイズ比(E0/N0)と平均ビット誤り率との関係を示す図である。
図24に示すように、第2のFC/MH−CDMA方式においては、量子化ビットの数を6とした場合には、目標値PARl=1dB,3dBとすると、良好なBER性能が得られる。
【0163】
上記実施形態は、例示および説明のために提示されたものであって、本願特許請求の範囲にかかる発明の実施形態の全てを網羅していない。
また、上記実施形態は、本願特許請求の範囲にかかる発明の技術的範囲を、その開示内容に限定することを意図しておらず、その開示内容に照らして、様々に変更され、変形されうる。
また、上記実施形態は、本願特許請求の範囲にかかる発明の原理およびその実際的な応用を最もよく説明できるように選択され、記載されているので、当業者は、上記実施形態の開示内容に基づいて、本願特許請求の範囲にかかる発明およびその実施形態を、ありうべき全ての実際の用途に最適とするための種々の変更を加えて利用することができる。
また、本願特許請求の範囲にかかる発明の技術的範囲は、その記載および均等物によって画定されるように意図されている。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本願特許請求の範囲にかかる発明は、スペクトラム拡散によるデータ伝送のために利用可能である。
【符号の説明】
【0165】
1,5・・・通信システム,
2・・・送信側装置,
200・・・IF,
202・・・DSP,
204,216・・・メモリ,
206・・・D/A,
208・・・RF,
210・・・アンテナ,
212・・・A/D,
214・・・CPU,
218・・・UI,
22,40・・・送信処理プログラム,
220・・・タイミング制御部,
222,226・・・乗算部,
224・・・遅延部,
240・・・ホッピングパターン受信部,
242・・・ホッピングパターン設定部,
244・・・周波数シンセサイザ部,
400・・・ホッピングパターン受信部,
402・・・ホッピングパターン設定部,
3・・・受信側装置,
6・・・基地局,
30,50・・・受信処理プログラム,
300・・・タイミング制御部,
32・・・復号処理部,
320・・・加算部,
322・・・復調部,
324・・・遅延部,
326・・・乗算部,
34・・・更新処理部,
340・・・受信信号行列作成部,
342・・・重み付け係数更新部,
344・・・ホッピングパターン作成部,
346・・・ホッピングパターン送信部,
52・・・更新処理部,
520・・・ホッピングパターン作成部,
522・・・PAR計算部,
524・・・PAR制御部,
526・・・量子化部,
528・・・ホッピングパターン送信部,
4・・・フィルタ部,
400・・・関数発生部,
402・・・乗算部,
406,416・・・選択部,
404・・・LPF部,
408・・・選択制御部,
410・・・係数設定部,
412・・・総和算出部,
420・・・重み付け部,
422・・・ホッピングパターン対応部分,
424・・・遅延部,
428・・・加算部,
44・・・係数乗算部,
440・・・レジスタ,
442・・・乗算部,
444・・・係数保持部,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信側装置と、1つ以上の受信側装置とを含む通信システムであって、
1つ以上の前記送信側装置と1つ以上の前記受信側装置との組み合わせにおいて、
前記送信側装置は、
所定の第1の数の第1の領域の成分と、所定の第2の数の第2の領域の成分とに対して定義される複数の第1の要素を含み、前記第1の領域の成分と、前記第2の領域の成分とに伝送データを拡散する拡散パターンに従って、前記伝送データを、所定の時間間隔ごとに、順次、前記第1の領域の成分と、前記第2の領域の成分とに拡散し、伝送信号として送信する信号送信部と、
前記受信側装置から受信した前記拡散パターンにより、前記伝送データの拡散に用いられる拡散パターンを更新する更新部と
を有し、
前記受信側装置は、
前記伝送信号を受信する受信部と、
前記受信された伝送信号を、前記第1の数以上の第3の数の前記第1の領域の成分と、前記第2の数より多い第4の数の前記第2の領域の成分とに対して定義される複数の第2の要素に、前記時間間隔ごとに、順次、展開する展開部と、
前記展開の結果として得られた第2の要素に対して、前記第2の要素それぞれに対して定義される複数の第1の係数を用いた処理を、前記時間間隔ごとに、順次、行う処理部と、
前記処理された第2の要素と、前記第1の係数とを用いて、新たな第1の係数を作成する作成部と、
前記新たな第1の係数の内、前記拡散パターンに対応する第2の係数を選択する選択部と、
前記選択された第2の係数が、前記送信側装置において、前記拡散パターンとされたときに得られる伝送信号におけるピーク値と、この伝送信号の平均値との比率を示す値を算出する比率算出部と、
前記比率を示す値が、予め決められた条件を満たすとき、または、前記選択された第2の係数に含まれる全ての要素が予め決められた条件を満たすときに、前記選択された第2の係数を、前記新たな拡散パターンとして作成するパターン作成部と、
前記新たな拡散パターンを、前記送信側装置に対して送信するパターン送信部と
を有する
通信システム。
【請求項2】
前記1つ以上の前記送信側装置と1つ以上の前記受信側装置との組み合わせは、
複数の前記送信側装置と、
1つの前記受信側装置と
を含む
請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記受信側装置において、
前記作成部による新たな第1の係数の作成と
前記パターン作成部による前記新たな拡散パターンの作成と、
前記パターン送信部による前記新たな拡散パターンの送信と
は、繰り返し行われる
請求項1に記載の通信システム。
【請求項4】
前記受信側装置のパターン作成部は、
前記比率を示す値が、この比率に対して予め決められた値以下であるとき、または、
前記選択された第2の係数に含まれる全ての要素の値が、この要素に対して決められた値以下であるときに、
前記選択された第2の係数を、前記新たな拡散パターンとする
請求項1に記載の通信システム。
【請求項5】
前記受信側装置のパターン作成部は、
前記比率を示す値が、この比率に対して予め決められた値以下であるとき、または、
前記選択された第2の係数に含まれる全ての要素の値が、この要素に対して決められた値以下であるとき
以外は、
前記選択された第2の係数に含まれる要素の値を調節して前記新たな拡散パターンとし、
前記選択された第2の係数に含まれる要素の値の調節は、
前記比率算出部により、前記要素の値が調節された第2の係数から算出される前記比率を示す値が、この比率に対して決められた前記値以下になるように、または、
前記選択された第2の係数に含まれる全ての要素の値が、この要素に対して決められた値以下になるように
行われる
請求項4に記載の通信システム。
【請求項6】
前記第2の係数は、前記第1の領域と、前記第2の領域とから構成されるマトリクスとして表現され、
前記選択された第2の係数に含まれる要素の値の調節は、前記マトリクスにおいて、前記第1の領域または前記第2の領域それぞれに含まれる要素の内の最大の要素に対して、
前記比率算出部により、前記要素の値が調節された第2の係数から算出される前記比率を示す値が、この比率に対して決められた前記値以下になるように、または、
前記選択された第2の係数に含まれる全ての要素の値が、この要素に対して決められた値以下になるように
なるまで、0より大きく1より小さい定数を乗算することにより行われる
請求項5に記載の通信システム。
【請求項7】
前記受信側装置の展開部は、
前記時間間隔ごとに、順次、前記受信された伝送信号を、前記第1の領域の成分に対応する第3の要素に展開する第1の展開処理と、
前記時間間隔ごとに、順次、前記展開された第3の要素を、前記第2の領域の成分に対応する第2の要素に展開して、前記第2の要素に展開する第2の展開処理と
を行う
請求項6に記載の通信システム。
【請求項8】
前記第1の領域は、周波数領域であって、
前記受信側装置の展開部の第1の展開処理は、前記受信された伝送信号を、前記周波数領域の成分に分離して、前記第3の要素に展開する
請求項7に記載の通信システム。
【請求項9】
前記第2の領域は、時間領域であって、
前記受信側装置の展開部の第2の展開処理は、前記第3の要素を、前記時間間隔ごとに、前記時間間隔だけ、順次、遅延させて、前記第2の要素に展開する
請求項8に記載の通信システム。
【請求項10】
前記第1の係数および前記第2の要素は複素数であって、
前記受信側装置の処理部は、
前記時間間隔ごとに、順次、前記第2の要素それぞれに対して、前記第2の要素それぞれに対応する第1の係数の共役複素数を乗算する乗算処理と、
前記時間間隔ごとに、順次、前記第2の領域の成分に対応する前記乗算の結果の全てを加算する第1の加算処理と、
前記時間間隔ごとに、順次、前記第1の加算処理の結果の全てを加算する第2の加算処理と
により、
前記伝送信号をフィルタリングして処理結果とする
請求項7に記載の通信システム。
【請求項11】
前記第3の数は、前記第1の数と等しく、
前記受信側装置の選択部は、
前記第1の係数の内、前記第1の数の第1の領域の成分と、前記第2の数の第2の領域の成分とに対応する前記第1の係数を、前記第2の係数として選択して、前記拡散パターンとする
請求項12に記載の通信システム。
【請求項12】
前記第2の領域は、時間領域であって、
前記受信側装置の展開部の第2の展開処理は、前記第3の要素を、前記時間間隔ごとに、前記時間間隔だけ、順次、遅延させて、前記第2の要素に展開し、
前記受信側装置の選択部は、前記新たな第1の係数の内、最も先に遅延された方から前記第3の要素から、前記第2の数の前記第3の要素に乗算される第1の係数を、前記第2の係数として選択して、前記拡散パターンとする
請求項11に記載の通信システム。
【請求項13】
前記受信側装置の作成部は、
前記処理部の処理結果から判定された前記伝送データのシンボルと、前記第1の係数とを用いて、前記新たな第1の係数を作成する
請求項11に記載の通信システム。
【請求項14】
前記第1の領域は周波数領域であり、
前記第2の領域は時間領域であって、
前記受信側装置の作成部は、
前記処理部の処理結果から、複素形式の前記伝送データのシンボルを判定する
請求項13に記載の通信システム。
【請求項15】
前記受信側装置の作成部は、
前記判定された伝送データのシンボルから、前記処理部の処理結果を減算し、この減算結果と前記第1の係数とを、所定のアルゴリズムで処理して、前記拡散パターンを作成する
請求項14に記載の通信システム。
【請求項16】
前記作成部は、前記減算結果に基づいて、前記判定された伝送データのシンボルと、前記処理部による処理結果とが近づくように、前記新たな拡散パターンを作成する
請求項1に記載の通信システム。
【請求項17】
前記受信側装置の作成部による前記第1の係数の作成は、繰り返して行われ、
前記所定のアルゴリズムは、
前記拡散パターンの作成の周期において用いられた第1の係数を、周波数領域の成分と時間領域の成分とに対応付けて行列形式で表した第1の行列を作成する処理と、
前記第2の要素を、周波数領域の成分と時間領域の成分とに対応付けて行列形式で表した第2の行列を作成する処理と、
前記作成された第2の行列のノルムを算出する処理と、
前記減算結果と、前記第2の行列と、所定の係数との乗算結果を、前記ノルムの二乗値で除算する処理と、
前記拡散パターンの作成の周期において用いられていた第1の係数に、前記除算結果を加算して、新たな第1の係数を算出する処理と
により実現される
請求項16に記載の通信システム。
【請求項18】
1つ以上の前記送信側装置と1つ以上の前記受信側装置との組み合わせを1つ以上含む通信システムの前記受信側装置であって、前記送信側装置は、所定の第1の数の第1の領域の成分と、所定の第2の数の第2の領域の成分とに対して定義される複数の第1の要素を含み、前記第1の領域の成分と、前記第2の領域の成分とに伝送データを拡散する拡散パターンに従って、前記伝送データを、所定の時間間隔ごとに、順次、前記第1の領域の成分と、前記第2の領域の成分とに拡散し、伝送信号として送信し、前記受信側装置から受信した前記拡散パターンにより、前記伝送データの拡散に用いられる拡散パターンを更新し、
前記受信側装置は、
前記伝送信号を受信する受信部と、
前記受信された伝送信号を、前記第1の数以上の第3の数の前記第1の領域の成分と、前記第2の数より多い第4の数の前記第2の領域の成分とに対して定義される複数の第2の要素に、前記時間間隔ごとに、順次、展開する展開部と、
前記展開の結果として得られた第2の要素に対して、前記第2の要素それぞれに対して定義される複数の第1の係数を用いた処理を、前記時間間隔ごとに、順次、行う処理部と、
前記処理された第2の要素と、前記第1の係数とを用いて、新たな第1の係数を作成する作成部と、
前記新たな第1の係数の内、前記拡散パターンに対応する第2の係数を選択する選択手段と、
前記選択された第2の係数が、前記送信側装置において、前記拡散パターンとされたときに得られる伝送信号におけるピーク値と、この伝送信号の平均値との比率を示す値を算出する比率算出部と、
前記比率を示す値が、予め決められた条件を満たすとき、または、前記選択された第2の係数に含まれる全ての要素が予め決められた条件を満たすときに、前記選択された第2の係数を、前記新たな拡散パターンとして作成するパターン作成部と、
前記新たな拡散パターンを、前記送信側装置に対して送信するパターン送信部と
を有する受信側装置。
【請求項19】
1つ以上の前記送信側装置と1つ以上の前記受信側装置との組み合わせにおいて、前記送信側装置は、所定の第1の数の第1の領域の成分と、所定の第2の数の第2の領域の成分とに対して定義される複数の第1の要素を含み、前記第1の領域の成分と、前記第2の領域の成分とに伝送データを拡散する拡散パターンに従って、前記伝送データを、所定の時間間隔ごとに、順次、前記第1の領域の成分と、前記第2の領域の成分とに拡散し、伝送信号として送信し、前記受信側装置から受信した前記拡散パターンにより、前記伝送データの拡散に用いられる拡散パターンを更新する、 前記受信側装置において、
前記伝送信号を受信し、
前記受信された伝送信号を、前記第1の数以上の第3の数の前記第1の領域の成分と、前記第2の数より多い第4の数の前記第2の領域の成分とに対して定義される複数の第2の要素に、前記時間間隔ごとに、順次、展開し、
前記展開の結果として得られた第2の要素に対して、前記第2の要素それぞれに対して定義される複数の第1の係数を用いた処理を、前記時間間隔ごとに、順次、行い、
前記処理された第2の要素と、前記第1の係数とを用いて、新たな第1の係数を作成し、
前記新たな第1の係数の内、前記拡散パターンに対応する第2の係数を選択し、
前記選択された第2の係数が、前記送信側装置において、前記拡散パターンとされたときに得られる伝送信号におけるピーク値と、この伝送信号の平均値との比率を示す値を算出し、
前記比率を示す値が、予め決められた条件を満たすとき、または、前記選択された第2の係数に含まれる全ての要素が予め決められた条件を満たすときに、前記選択された第2の係数を、前記新たな拡散パターンとして作成し、
前記新たな拡散パターンを、前記送信側装置に対して送信する
通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−182060(P2011−182060A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42252(P2010−42252)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【特許番号】特許第4553409号(P4553409)
【特許公報発行日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】