説明

通気性のある上着

【課題】 通気性の高い大きな通気口を有するにも拘らず、通気口を覆う布がひらひらせず、構成もシンプルな、消防士などが使用する通気性のある上着を提供する。
【解決手段】 前身頃1又は後身頃2を上部片10、中間片20及び下部片30の3部片から構成し、上部片10と中間片20との間に上部通気口O1、中間片20と下部片30との間に下部通気口O3、中間片20と下部片30に斜めの側部通気口O2、O4を設けると共に、側部通気口O2及び側部通気口O4を形成する左右両側部材21,22,31,32の側端縁部21a,22a,31a,32aをメッシュ状の裏地24,34により相互に連結したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱気などを外部に放散し、雨水などが内部に浸入しにくい通気性のある上着に関する。
【背景技術】
【0002】
防水加工が施された生地を用いた上着は、例えば、レインウェア、各種スポーツウェア、モータバイク用の防寒着など、種々の分野で使用されているが、通気性に乏しく、内部の熱気や湿気が籠り、いわゆる「ムレ」が生じやすいことから、最近では、透湿性のある樹脂で防水加工が施された新素材が開発され、これを用いた上着が出現している。
【0003】
しかし、新素材の上着は、比較的軽度な運動あるいは作業時における「ムレ」は改善されたものの、作業あるいは使用状況如何では依然として通気性が不十分で、快適性に欠けることから、下記特許文献1及び2に開示されているような通気口を設けた上着が提案されている。
【0004】
特許文献1の上着では、前身頃及び後身頃の上下方向所定位置に横方向に伸延する通気口を開設すると共に、上段の布片の下部と下段の布片の上部とを重ねて通気口を覆い、外部から雨水等が浸入しないようにしている。
【0005】
特許文献2の上着では、前身頃に縦方向に伸延するスリットを、後身頃に縦方向に伸延する通気口を開設し、前方から流入した空気を後方に逃すと共に、前身頃のスリットには開口状態を調節する開閉部材を設け、換気量を調節できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−331516号公報
【特許文献2】特許第4181516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1の上着のように、通気口を上段の布片の下部と下段の布片の上部で覆い外部から雨水等が浸入しないようにしたものでは、通気性を高めるため大きな通気口にした場合、通気口を流れる空気流により覆い布がひらひらし、通気口が開いたときに外部から雨水などが浸入するおそれがある。
【0008】
また、特許文献2の上着のように、縦方向に伸延する通気口あるいはスリットを設けると、流れてきた雨水等が内部に浸入し易く、雨水浸入対策を講じる必要があり、構成が複雑になるおそれがあり、また、換気量を調節する開閉部材をスリットに前身頃に設けると、構成が複雑になるのみでなく、手を使い体の前で行う作業によっては開閉部材が邪魔になるおそれがある。
【0009】
特に、消防士などが着用する防火服(上着)は、火災などの災害から隊員の安全を確保するために、素材自体に高い耐熱性、耐水性が要求されるのみでなく、いかなる作業活動あるいは使用状況であっても作業活動などに邪魔なものは排除されるべきで、適切かつ迅速に活動できるものでなければならず、少なくとも前身頃側では、ひらひらするものがあってはならず、シンプルな構成が好ましく、後身頃側においては、外部からの雨水などの浸入が確実に防止できるものが好ましい。
【0010】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたもので、通気性の高い大きな通気口を有するにも拘らず、外部からの雨水などの浸入が確実に防止でき、通気口を覆う布もひらひらせず、シンプルな構成の通気性のある上着、特に、消防士などが着用する防火用上着を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明に係る通気性のある上着は、前身頃若しくは後身頃のいずれか一方若しくは両方を、上部片、下部片及び中間片の3部片から構成し、前記上部片の下端縁部が前記中間片の上端部を覆い、前記中間片の下端縁部が前記下部片の上端部を覆う二重構造となるように相互に縫合連結すると共に、前記上部片と前記中間片とを部分的に縫合することにより形成した連結部相互間、及び、前記中間片と前記下部片とを部分的に縫合することにより形成した連結部相互間に、横方向に伸延する上部通気口及び下部通気口を形成してなる防火服であって、前記中間片は、左右両側部材と、上端から下端に向かって次第に横幅が狭くなるように形成した中央部材の3部材から構成し、前記左右両側部材の側端縁部が前記中央部材の側端縁部により覆われる二重構造となるように相互に部分的に縫合連結すると共に、前記左右両側部材と前記中央部材とを部分的に縫合することにより形成した連結部相互間に、縦方向に傾斜して伸延する側部通気口を形成してなり、前記上部通気口、下部通気口及び側部通気口の少なくとも1つを通気性のある裏地により覆ったことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る通気性のある上着は、前身頃若しくは後身頃のいずれか一方若しくは両方を上部片、下部片及び中間片の3部片から構成し、各部片の連結部相互間に横方向に伸延する上部通気口及び下部通気口を形成し、また、前記中間片を左右両側部材と中央部材の3部材から構成し、前記左右両側部材と中央部材の連結部相互間に縦方向に傾斜して伸延する側部通気口を形成したので、背部などに上下のそれぞれ2箇所、中間部にも左右2箇所に大きな通気口を形成でき、極めて通気性の高い防火服となる。また、前記上部通気口、下部通気口及び側部通気口の少なくとも1つを通気性のある裏地により覆ったので、大きな通気口にも拘らず、通気口を覆う布がひらひらせず、通気口が開きにくく外部から雨水などの浸入を防止できる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前身頃を通気手段などのない、表面が平滑な生地により構成し、後身頃のみに通気口を設けたので、シンプルな構成となり、消防士などが着用しても、その作業性を阻害することがなく、実用的な防火服(上着)となる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記下部片を左右両側部材と中央部材の3部材から構成し、前記中央部材の左右両側に傾斜した側部通気口を形成すると共に、前記左右両側部材の内端部を裏地により相互に連結したので、通気口を覆う布がひらひらしないものとなり、前項の効果の加え、下部片にも左右2箇所に大きな通気口を形成でき、さらに通気性のある上着となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る上着の概略正面図である。
【図2】同上着の一部省略概略背面図である。
【図3】図2の3−3線に沿う概略断面図である。
【図4】図2の4−4線に沿う概略断面図である。
【図5】後身頃の内部を示す概略斜視図である。
【図6】袖の脇の下部分を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
本実施形態に係る通気性のある上着は、消防士が着用する防火服であり、図1〜3に示すように、前身頃1と後身頃2とを有し、後身頃2には通気口O(O1〜O4の総称)が設けられているが、前身頃1には通気口のような通気手段やあるいは他の手段などのない、表面が平滑な生地により構成されている。したがって、消防士が着用し、種々の活動を行う場合であっても、作業時には衣類の凹凸に邪魔されることなく自由に、適切にかつ迅速に各作業活動を行うことができる。なお、肩部には、救急時などに着用者を引き上げたり引き出したりする把手3が設けられている。
【0018】
ただし、消防士が着用する防火服以外のものは、前身頃1に通気口Oやポケットなどの凹凸部分を形成しても良いことは言うまでもない。ただし、手の動きなどの邪魔にならないようにすることが好ましい。
【0019】
本実施形態の後身頃2は、図2に示すように、上部片10、中間片20及び下部片30の3部片から構成されている。以下各構成部片につき説明する。
【0020】
まず、上部片10は、図2に示すように、襟4の下端から着丈Lの約1/3程度の長さであり、内面には、図4に示すように、略等間隔に配置された複数の丸棒11を布10で覆い、丸棒11相互間に空気通路12が生じるようにした当て部材13が設けられている。このようにすれば、空気通路12の存在により着用時に首周りから肩部に掛けての通気性が向上し、ムレ防止できる。
【0021】
上部片10の下端縁部10aには、中間片20の上端部20aが縫合連結されている。なお、図中における縫合連結されている部分、つまり、連結部R1は、隠れ線との相違を示すため、破線で囲む領域に破線の「×」印を付している。連結部R1は、図5に示すように、上部片10の下端縁部10aと中間片20の上端部20aに設けられた補強用の帯状部材21との合わせ縫合により形成されている。
【0022】
連結部R1は、上部片10の幅方向(横方向)全長にわたるものではなく、部分的に行われている。したがって、連結部R1相互間に大きな通気口Oが形成されることになる。また、連結部R1相互間の上部片10と中間片20が連結されず、単に重なっているのみで開放された部分であることから、この開放部分が、上部片10と中間片20との間に存在する上部通気口O1となる。ただし、上部通気口O1を通って内部に雨水等が浸入しないように、上部片10の下端縁部10aが中間片20の上端部20aを庇状に覆っており、上部片10と中間片20が二重構造となっている(図3参照)。なお、図5に示すように、後身頃2において、補強用の帯状部材21に多少余裕を持たせ、たるむように形成すれば、上部通気口O1の開口状態を良好なものにすることができ好ましい。
【0023】
中間片20は、図2に示すように、着丈Lの約1/3程度の長さであるが、台形状の左右両側部材21,22と、上端から下端に向かって次第に横幅W2が狭くなるように形成された逆台形状の中央部材23と、の3部材から構成されている。これら3部材は、上端部が上部片10の下端縁部10aと縫合されているが、左右両側部材21,22と中央部材23とは、図5に示すように、上下の端部において縫合連結され、これにより形成された上下の連結部R2間に傾斜した側部通気口O2が形成されている。これら側部通気口O2も、外部からの雨水等が浸入しないように左右両側部材21,22の側端縁部21a,22aを中央部材23の側端縁部23aが覆う二重構造となっている(図2参照)。
【0024】
特に、本実施形態では、左右両側部材21,22の側端縁部21a,22aは、通気性を有するメッシュ状の裏地24により相互に連結され、側部通気口O2が裏地24により覆われている。このように側部通気口O2が形成されている部分の左右両側部材21,22の側端縁部21a,22aを裏地24により覆うと、左右両側部材21,22が裏地24により移動が規制され、ひらひらすることが防止される。したがって、側部通気口O2が大きく開くこともなく、外部からの雨水などの浸入を防止できる。
【0025】
下部片30も、着丈のLの約1/3程度の長さとされている。この下部片30は、側部通気口などが設けられていない、単なる生地の状態であっても良いが、本実施形態では、上述の中間片20と同様に構成され、中間片20と下部片30との間には下部通気口O3が設けられ、台形状の左右両側部材31,32と逆台形状の中央部材33との間には側部通気口O4が設けられている。このようにすれば、さらに通気性が向上することになり、好ましい。
【0026】
つまり、本実施形態の下部片30は、上端部30aが中間片20の下端縁部20bと部分的に縫合されているが、台形状の左右両側部材31,32と、上端から下端に向かって次第に横幅W3が狭くなるように形成した逆台形状の中央部材33と、の3部材から構成されている。これら3部材は、上端部が中間片20の下端縁部20bと縫合されているが、左右両側部材31,32と中央部材33とは、図5に示すように、上下の端部において縫合連結され、これにより形成された上下の連結部R3間に傾斜した側部通気口O4が形成されている。これら側部通気口O4も、外部からの雨水等が浸入しないように左右両側部材31,32の側端縁部31a,32aを中央部材33の側端縁部33aが覆う二重構造となっている(図2参照)。
【0027】
この下部片30においても、左右両側部材31,32の側端縁部31a,32aは、通気性を有するメッシュ状の裏地34により相互に連結され、側部通気口O3が裏地34により覆われている。このように側部通気口O3が形成されている部分の左右両側部材31,32の側端縁部31a,32aを裏地34により覆うと、左右両側部材31,32が裏地34により移動が規制され、ひらひらすることが防止される。
【0028】
上記構成の防火服であっても、外部に露呈しない部位に関しては、さらに通気口を設けても良い。例えば、図6に示すように、脇腹部40から脇部分41を通って袖42の中間部分までスリット43を入れ、このスリット43をチャック44により開閉可能としても良い。なお、前身頃の合わせ面あるいは襟4は、チャック44またはベルクロファスナ45、あるいはチャック44とベルクロファスナ45の両者などの連結部材が設けられ、開閉可能とされている。
【0029】
このように構成された防火服の作用を説明する。
【0030】
防火服の着用時に、例えば、前面から雨水などが降りかかる場合には、前身頃1には通気口が設けられておらず、また凹凸部分もないため、雨水等は、防火服内に直接入り込むおそれはなく、表面を伝わって流れ落ちることになる。
【0031】
後方から雨水などが降りかかる場合も、後身頃2に設けられた上部通気口O1は、上部片10の下端縁部10aが中間片20の上端部20aを覆っているので、雨水等が直接入り込むおそれはない。表面を伝わって流れる雨水なども上部通気口O1に入り込むことはなく、上部片10の表面から中間片20の表面に流れ落ちる。これは、下部通気口O3においても同様である。
【0032】
特に、側部通気口O2においては、傾斜した状態に形成されているので、表面を伝わって流れ落ちる雨水などが、内部に入り込もうとしても重力により下方に導かれ、側部通気口O2内に入り込むおそれはなく、また、左右両側部材21,22の側端縁部21a,22aが中央部材23の側端縁部23aにより覆われているので、雨水等が直接入り込むおそれもない。
【0033】
また、中央部材23が、空気流によりひらひらしようとすれば、左右両側部材21,22の側端縁部21a,22aが裏地24により相互に連結されおり、側部通気口O2が大きく開口する自体が規制されるので、外部から雨水などの入り込みも防止される。これは、下部片30の側部通気口O4においても同様である。
【0034】
一方、内部で発生した熱気あるいは湿気は、上部通気口O1(2箇所)、及び下部通気口O3(2箇所)、側部通気口O2(2箇所)及びO4(2箇所)という、多数の通気口Oから外部に発散されることになり、内部に籠ることはない。特に、通気性を有するメッシュ状の裏地24,34が通気口O2、O4に設けられているので、換気能力は高く、熱気あるいは湿気の籠ることがなく、ムレが防止される。
【0035】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述した実施形態は、消防士用の防火服であるため、後身頃に通気口を設けたものであるが、防火服以外の上着に使用する場合には、通気口は前身頃に設けても良い。また、前記実施形態は、上部片、下部片及び中間片が、着丈の略1/3程度としたが、大きさは限定されるものではなく、どのような比率であっても良い。さらに、実施形態は、側部通気口を裏地により覆ったものであるが、本発明は、これのみに限定されるものではなく、上部通気口あるいは下部通気口であってもよく、通気口の少なくとも1つを通気性のある裏地により覆ったものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、消防士などが着用する実用的な防火服に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0037】
1‥前身頃、
2‥後身頃、
10…上部片、
10a…上部片の下端縁部、
20…中間片、
20a…中間片の上端部、
20b…中間片の下端縁部、
21,22…左右両側部材、
21a,22a…左右両側部材の側端縁部、
23…中央部材、
23a…中央部材の側端縁部、
24…裏地、
30…下部片、
30a…下部片の上端部、
31,32…左右両側部材、
31a,32a…左右両側部材の側端縁部、
33…中央部材、
33a…中央部材の側端縁部、
34…裏地、
O…通気口、
O1…上部通気口、
O2…側部通気口、
O3…下部通気口、
O4…側部通気口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃若しくは後身頃のいずれか一方若しくは両方を、上部片、下部片及び中間片の3部片から構成し、前記上部片の下端縁部が前記中間片の上端部を覆い、前記中間片の下端縁部が前記下部片の上端部を覆う二重構造となるように相互に縫合連結すると共に、前記上部片と前記中間片とを部分的に縫合することにより形成した連結部相互間、及び、前記中間片と前記下部片とを部分的に縫合することにより形成した連結部相互間に、横方向に伸延する上部通気口及び下部通気口を形成してなる上着であって、
前記中間片は、左右両側部材と、上端から下端に向かって次第に横幅が狭くなるように形成した中央部材の3部材から構成し、前記左右両側部材の側端縁部が前記中央部材の側端縁部により覆われる二重構造となるように相互に部分的に縫合連結すると共に、前記左右両側部材と前記中央部材とを部分的に縫合することにより形成した連結部相互間に、縦方向に傾斜して伸延する側部通気口を形成してなり、前記上部通気口、下部通気口及び側部通気口の少なくとも1つを通気性のある裏地により覆ったことを特徴とする通気性のある上着。
【請求項2】
前記前身頃は、凹凸のない平滑な生地により形成したことを特徴とする請求項1に記載の通気性のある上着。
【請求項3】
前記下部片は、左右両側部材と、上端から下端に向かって次第に横幅が狭くなるように形成した中央部材の3部材から構成し、前記左右両側部材の側端縁部が前記中央部材の側端縁部により覆われる二重構造となるように相互に部分的に連結すると共に、前記左右両側部材と前記中央部材との連結部相互間に傾斜した側部通気口を形成してなり、前記左右両側部材の内端部を裏地により相互に連結したことを特徴とする請求項1又は2に記載の通気性のある上着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−132113(P2012−132113A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283485(P2010−283485)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(599077409)日本特装株式会社 (7)
【Fターム(参考)】