説明

通気性シート及びそれを用いた発熱体構造物

【課題】使用中の温度上昇に伴って通気度が低下する通気性シートを提供する。また、発熱温度が所定の温度以上に上昇することを抑え、さらに、発熱期間中、発熱温度の変動が小さい発熱体構造物を提供する。
【解決手段】通気性シートは、通気性基材の表面に水溶性高分子の層を形成すること、又は、2枚の通気性基材の間に水溶性高分子を介在させる。水溶性高分子の層は、水溶性高分子からなる不織布、織布、多孔質フィルム、有孔性フィルム又は粉体もしくは粒体、あるいは水溶性高分子と熱融着性樹脂もしくはアクリル樹脂とを含む混合物の層である。また、発熱体構造物は、以上の通気性シートを通気量制御に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気性シート及び発熱体構造物に係り、特に、発熱体構造物その他、種々の用途に適用される通気性シートであって、温度により通気度が変化する通気性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明にかかる従来技術は、発熱体構造物及びその通気性フィルムを例としてあげ、以下に説明する。近年、肩こり、神経痛、筋肉痛等の治療あるいは薬剤の経皮吸収促進に、種々の発熱体構造物が広く用いられている。このような発熱体構造物は、図8に示すように、空気と接触して発熱する発熱剤を所定の通気量を有する通気性フィルムと非通気性フィルムとで挟み、さらにその外側に補強用の不織布で覆った構成とするのが一般的である。なお、周辺はヒートシール等の方法で封止される。また、これを皮膚等に貼り付けて使用する場合には、非通気性フィルム側に粘着剤層等が形成される。
【0003】
このような発熱体構造物は、その用途に応じて、所望の発熱特性(温度、時間等)が得られるように設計され、全体の構成及び個々の材質、厚さ、分量等が決められる。ここで、通気性フィルムは、発熱剤に供給する空気流量を制御し、発熱剤と空気との発熱反応を制御するために用いられる部材で、その通気量が大きすぎると、反応が急激に進み発熱温度が高くなりすぎてやけどの原因となり、逆に、通気量が小さいと、十分な発熱は生ぜず温熱効果は得られなくなる。この理由から、現在の発熱体構造物には、多くの場合、通気量制御性の高い多孔質フィルムが用いられている。また、多孔質フィルムを所定の通気量に設定することにより、発熱温度が発熱期間中変化せず、一定に保つことが可能な発熱体構造物も開示されている(特公平6−26555号公報)。このように、通気性フィルムは発熱特性に大きく影響し、発熱体構造物を設計する上で、最も重要な構成部材である。この多孔質フィルムは、例えば、特開昭54−43982号公報に記載されているように、所定の粒径の充填材をフィルム材料の樹脂に混合し、これを延伸して、場合によってはその後フィルム内の充填材を溶解除去して作製される。この際、多孔質フィルムの通気量は、充填材の粒径、添加量や延伸方法及び延伸率等によって定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−26555号公報
【特許文献2】特開昭54−43982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多孔質フィルムは、通気量の制御性が高いとはいえ、その通気度にかなりのバラツキがあるのが現状である。例えば、90cm幅のシートロールの場合、通気度3000秒/100cc(ガーレ法による測定)の多孔質フィルムであっても、2000秒/100ccから7000秒/100ccまで分布するのが一般的に許容されており、時には17500秒/100ccまで分布するものもある。従って、発熱温度の設計値に対応する通気性フィルムを選んだとしても、このバラツキによって発熱温度が設計値以上に高くなる場合があり、低温やけど等の問題を起こすことにもなる。そこで、現実には、安全性を重視する観点から、通気度バラツキの上限側(高通気度)を基準に設計したり、又は連続して使用する時間の制限等、使用条件に制限を加えて安全性を保っている。その結果、低温やけどの問題等は回避できるものの、温熱効果が十分に得られにくいという問題がある。一方、多孔質フィルムの通気度のバラツキ自体を抑えようとすると、フィルム製造コストが大きく跳ね上がり、実用的な発熱体構造物の生産は不可能という問題がある。
【0006】
また、温熱治療の分野においては、さらに進んだ温熱治療を行うために、連続して使用できる発熱体構造物、特に就寝時にも使用できる発熱体構造物が求められているが、現状の発熱体構造物では、このような要望に応えることは困難である。それは、発熱体構造物を、寝具と身体の間にはさまれた状況で使用すると、熱の逃げ場がなくなって蓄熱が起こるにもかかわらず、発熱反応が同じ速度で継続されるため、発熱温度が設計値を大きく越えて、低温やけどを起こす危険性が高くなるからである。
【0007】
かかる現状において、本発明は、発熱体構造物の通気性シートであって、通気度にバラツキがある多孔質フィルムを用いた場合であっても、発熱温度が所定の温度以上に上昇することを抑える通気性シートを提供することを目的とする。また、発熱期間中、発熱温度の変動を小さくすることが可能な通気性シートを提供することを目的とする。さらには、多孔質フィルムを用いることなしに、安価な通気性基材を用いても、以上の効果を発揮しうる通気性シートを提供することを目的とする。また、本発明の目的は、蓄熱が起きるような使用状況であっても、それに起因する発熱温度の上昇を抑え、しかも高い温熱効果を奏する発熱体構造物を提供することにある。さらに、本発明は、使用中の温度上昇に伴って通気度が低下する通気性シートを提供することを目的とし、発熱体構造物以外の用途(例えば、野菜等の鮮度保持フィルム、紙おむつ等)においても、それらの特性、使用性等を改善する通気性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来の問題点を解決し、上記目的を達成すべく完成した本発明の通気性シートは、通気性基材の表面に水溶性高分子を含む層を形成してなることを特徴とする。また、本発明の通気性シートは、2枚の通気性基材の間に水溶性高分子を介在させたことを特徴とする。かかる構成とすることにより、水分が水溶性高分子の層に供給されるのであればどのような系であっても、温度が上昇すると水溶性高分子がこの水分に溶解しはじめて、その溶液が通気性基材の通気孔を塞いで通気度を低下させることになる。即ち、温度により通気度を低下させることが可能となる。本発明の発熱体構造物は、上記本発明の通気性シートを用いたことを特徴とする。通気性シートの一部に水溶性高分子を設けることにより、通気性基材の通気量が、部分的又は全体として、所望の発熱温度に相当する通気量よりも大きい場合であっても、発熱剤部で蒸発しシート内で凝縮した水と水溶性高分子との作用により、通気性シートの通気量を上記通気量以下に減少させることができ、発熱体の発熱温度が所望の温度以上に上昇することを防止することが可能となる。さらには、発熱期間中、発熱温度の変動が小さく、安定した発熱特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、通気度にバラツキがある多孔質フィルムや、通気度が大きくそのままでは実用に供せない通気基材を用いた場合であっても、水溶性高分子を配することにより、発熱温度を所定の温度以下に制御するとともに、その温度を発熱期間中一定に保つことが可能となる。その結果、従来困難といわれた就寝時にも使用可能な発熱構造物が実現されるとともに、温熱治療を一層効果的に行うことが可能となる。さらには、安価な通気性基材を用いることができることから、発熱体構造物のコストダウンに大きく貢献する。さらに、本発明の通気性フィルムにより、周辺温度が上昇しても、野菜等の鮮度保持能力の低下を抑制する鮮度保持フィルムを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の通気性シート及び発熱体構造物の一構成例を示す模式図である。
【図2】実施例の発熱体構造物の構成を示す模式図である。
【図3】発熱体構成物の発熱特性を示すグラフである。
【図4】発熱体構成物の発熱特性を示すグラフである。
【図5】発熱体構成物の発熱特性を示すグラフである。
【図6】発熱体構成物の発熱特性を示すグラフである。
【図7】発熱体構成物の発熱特性を示すグラフである。
【図8】従来の発熱体構造物の一構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の通気性シート及び発熱体構造物その他の応用について、その実施の形態を以下に詳細に説明する。
(通気性シート)本発明の通気性シートは、図1(a)に示したように、2枚の通気性基材と、その間に形成された水溶性高分子とから構成される。あるいは、図1(b)に示すように、通気性基材の表面に水溶性高分子の層を形成したものである。ここで、通気性基材とは、気体を透過させるものであれば材質及び形態に特に制限はなく、例えば、種々の合成樹脂の多孔質フィルム、有孔フィルム、不織布等を用いることができる。また、図1(a)の場合、2枚の通気性基材は別個のものを用いても、同じものを用いても良い。水溶性高分子とは、水に溶解する高分子であり、水に対して種々の溶解度を有する高分子が、発熱体の設計発熱温度等に対応して適宜選択される。具体的には、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン等が好適に用いられ、PVAの場合、重合度が200〜3000程度のもの、PEGの場合、分子量が4000〜10000のものが好ましい。これらの水溶性高分子は、同じ分子量の単体であっても、種々の分子量の混合体であってもよく、さらには、水溶性高分子以外の物質との混合物であっても良く、上記設計発熱温度に応じて選択される。例えば、感温性ゲル(サーモゲル)を水溶性高分子に混合させてもよい。
【0012】
図1(a)に示す通気性シートは、2枚の通気性基材の間に水溶性高分子からなる不織布、織布、多孔質フィルム、有孔性フィルム、粉体(粒体)等を挟み、接着剤やヒートシール等公知の方法で、2枚の基材を固定して作製する。あるいは、水溶性高分子自体を熱溶融させ接着固定させても良い。また、従来の不織布と多孔質フィルムとからなる通気性シートの生産方法を応用することができる。例えば、水溶性高分子が熱溶融性である場合、水溶性高分子とSIS(スチレンイソプレン共重合体)のような熱溶融性樹脂等とを所定の割合に混合、溶融させ、メルトブロー方式又はパターン塗工により、通気性基材を貼り合わせて作製することができる。この場合は、混合比、塗工厚によってはシ−トの通気を遮断してしまう場合があるので、材料及びその混合比の適正化とともに、パターン塗工方法を用いるのが好ましい。また、水溶性高分子の水溶液にアクリル樹脂等を分散させたエマルジョンの塗工液を用いて通気性基材を貼り合わせ、その後乾燥させて作製することもできる。この場合は、乾燥後は被覆層に通気性があるため全面に塗布しても、特に問題はない。逆に、アクリル樹脂やウレタン樹脂を有機溶剤に溶かした溶液に水溶性高分子を分散させ、この塗工液で通気性基材を貼り合わせてもよい。
【0013】
図1(b)に示す構成の通気性シートは、通気性基材の表面に、図1(a)の場合と同様に、水溶性高分子を溶融させて塗工する方法、水溶液として塗工する方法、溶剤に分散させて塗工する方法等を用いることができる。いずれの場合も、水溶性高分子単体で用いても良いし、上記したようにSISやアクリル樹脂等の混合物であっても良い。また、粉体、フィルム、不織布等を適当な接着剤等で固定しても良い。
【0014】
(発熱体構造物)本発明の発熱体構造物は、本発明の通気性シートを用いたものであれば、従来の発熱体シート、使い捨てカイロ等の発熱体構造物に用いられるどのような構成の発熱体であっても良い。例えば、図1(c)に示すように、本発明の通気性シートと非通気性シートとの周辺を貼り合わせ、袋材とし、この中に発熱剤を封入し、非通気製シート側に粘着剤を形成し、皮膚や、衣類等に貼り付けて使用するものが挙げられる。通気性シートおよび非通気性シートの表面はさらに不織布で覆うような構成であっても良い。なお、図1(b)の構成の通気性シートを用いる場合は、水溶性高分子の層を発熱剤側に配置する。本発明で用いられる発熱剤としては、使い捨てカイロ、発熱シート等の発熱体構造物の用途に用いられる発熱剤であり、水分を含有するものであればどのような発熱剤を用いても良い。例えば、鉄粉等の金属粉と水との必須成分の他、活性炭や塩化ナトリウムの発熱助剤等を配合したものが好適に用いられる。
【0015】
発熱体構造物は、前述したように、少なくとも通気性基材と水溶性高分子とで構成した通気性シートを用いることにより、通気量が所望の発熱温度に適した値より大きい通気性基材を用いた場合であっても、発熱温度を所定の温度以上に上昇させないように制御することができる。また、用いる水溶性高分子の溶解度が大きくなるほど、発熱温度は低くなる傾向があることから、適正な高分子を選択することにより発熱温度を所望の値に調節することが可能となる。従って、通気量のバラツキがあっても、水溶性高分子を適正に選択することにより、同じ発熱温度を得ることができ、より安全で、かつ生じた熱を温熱治療により効果的に活用できる発熱体構造物を提供することが可能となる。さらには、蓄熱による低温やけどの問題から使用が制限されていた就寝時でも使用可能な発熱体構造物を実現することが可能となる。
【0016】
さらに、本発明の発熱体構造物は、発熱温度の時間変動が小さく、長時間にわたり発熱温度を一定に保つことができる。これは、従来温度を一定に維持するためには、ガーレ換算値で15000秒/100cc 程度の低い通気量の多孔質フィルムを用いる必要があったが、本発明により、安価な通気量の大きい多孔質フィルム及びその他の通気性基材を用いることができ、発熱体構造物の大幅なコストダウンを図ることができる。
【0017】
以上のように、本発明の通気性シ−トを用いることにより、発熱温度の上昇を抑えることができる理由及び一定した発熱温度が得られる理由については、現在のところ明らかではなく、今後の検討課題であるが、本発明者は次のように考えている。発熱体は、発熱剤と通気性シ−トを通って外部から供給される酸素との反応により発熱する。従って、単位時間あたりの発熱量(即ち、反応速度)は、酸素の供給速度、即ち通気性シートの通気度により定まり、通気量が大きいほど発熱量が大きくなり、その結果最高温度も上昇する。一方、発熱により、発熱剤に含まれる水は蒸発し、通気性シート周辺において凝縮と再蒸発を繰り返して外部に放出されると考えられる。ここで、本発明の発熱体では、水蒸気が外部に放出される経路に水溶性の高分子が設けられているため、水蒸気が凝縮すると、この凝縮水に高分子が溶解して再蒸発しにくくするととともに、この粘性の高い溶液が通気性シートの通気孔を塞ぎ、通気度を減少させるものと考えられる。そして、高分子の溶解度が大きいほど発熱温度が低くなるのは、高分子の凝縮水への溶解がより迅速に(低温で)起こり、短時間で上記現象が起こるためと考えられる。一方、温度が一定に保たれるのは、その温度で通気量が一定に保たれているためと考えられることから、例えば、通気孔を塞ぐ上記溶液が圧力調整バルブのような役割を果たしていると考えることができる。即ち、通常、発熱体内部は負圧状態にあり、溶液は表面張力でこの圧力差に抗して通気孔を塞いでいる。しかし、酸素が消費されて負圧の程度が大きくなると、溶液が内部に引き入れられて通気孔が開いて酸素が導入され、圧力差が小さくなると再び溶液が通気孔を塞ぐというメカニズムである。
【0018】
(その他の応用)以上は、発熱体構造物及びそれに用いる通気性シートについて述べてきたが、本発明の通気性シートは、水分が供給される系であれば、これに限らず種々の用途に応用することができる。即ち、所定温度で水溶性高分子が水に溶け始め、溶けた溶液が通気性シートの通気孔を塞ぐことを利用した種々の用途に適用される。
【0019】
一例として、野菜等の保存に用いる鮮度保持フィルムへの応用について説明する。野菜等は、鮮度保持フィルム(通気性フィルム)で作られた袋に入れられ、5〜10程度の温度で貯蔵される。このような低温環境で貯蔵することにより野菜の呼吸活動が抑えられ、鮮度をより長く保つことができる。しかし、運搬や販売の際には、温度が上昇するため、野菜の呼吸量及び水分の蒸発量は増加し、鮮度は急激に低下してしまう。一方、本発明の通気性シートを用いて野菜収納袋を作製した場合は、温度が上昇しても、野菜鮮度の低下を抑制することができる。これは、収納袋の材料として、通気性基材の表面もしくは2枚の通気性基材の間に水溶性高分子の層を設けた本発明の通気性シートを用いるため、周辺温度が上昇すると、水溶性高分子が野菜等から蒸発してシート表面に凝縮した水に溶解し始め、その溶液が通気孔を塞いで通気度を低下させる結果、野菜等の過度の呼吸及び水分の蒸散が抑えられるためと考えられる。この場合の水溶性高分子としては、発熱体構造物の場合とは異なり、低温で溶解する高分子が用いられる。例えば、温熱治療等に用いられる発熱体構造物の場合には、30程度で水に溶解し始める水溶性高分子が好適に用いられるが、野菜等の鮮度維持フィルムとしては、5〜10程度以上で溶解し始める水溶性高分子が好適に用いられる。
【0020】
本発明の通気性シートは、使い捨ての紙おむつにも好適に適用できる。紙おむつは、多量の水を吸収可能な吸水性ポリマーと通気性シートとからなり、排泄後も肌が濡れることはなく、また、通気性もあることから、排泄前後のいずれもむれや濡れによる不快感がなく、しかも後の処理が容易であることから、従来の布製おむつは完全に紙おしめに置き換えられつつある。その一方で、排泄前後の使用感に変化がないことから、乳幼児のおしめからパンツへの移行の遅れ及びその訓練が容易でないという問題点も指摘されている。本発明の通気性シートを用いることにより、乳幼児に排泄の意識、自立心を持たせるのに役立つ紙おむつを提供することができる。即ち、排泄後も水分は吸水性ポリマーに吸収されるため、後の処理は容易であるが、ある程度の違和感、むれの不快感が起こり、乳幼児にその違いを自覚させることができ、パンツへの移行を早めることができる。この場合は、排泄による水分が通気性シートの水溶性高分子を溶解させて通気孔を塞ぎ、それにより水蒸気の通気量を低下させるため、むれ等の不快感が残るためと考えられる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例をあげて本発明の通気性シート及び発熱体をより詳細に説明する。
(実施例1)図2(a)に示す構成の発熱体シートを以下の手順に従って作製した。まず、ポリプロピレン不織布(出光石油化学製EW2070)、ポリエチレン多孔質フィルム(トクヤマ製PL30;JIS P8117に基づく通気度3000秒/100cc)、ポリビニルアルコール(PVA)不織布(クラレ製クラロンK−II WN5)、及びポリエステル不織布でラミネートしたポリエチレン非通気フィルム(旭化成製E01040)をいずれも90mmx70mmの大きさに切断し、図に示す順に重ね合わせ、3辺の周辺を3mm幅で熱融着した。
【0022】
次に、鉄粉(パウダーテック製NRD−3K)58.65%(重量%、以下同じ)、吸水性高分子(三洋化成製ST−571)3.45%、NaCl3.45%、活性炭(キャスラー工業製FY−1)5.86%及び水28.59%からなる混合粉体15gを多孔質フィルムとポリエチレン非通気フィルムの間に入れ、3mm幅で熱融着して、本実施例の発熱体シートを作製した。一方、比較のため、PVA不織布を除いた以外は本実施例と同様にして発熱体を作製した(比較例1)。
なお、本実施例で用いたPVA不織布の通気度は、一応の目安としてガーレ法で測定したところ1秒/100cc以下であり、通気性シート全体の通気度に影響しないことを確認した。
【0023】
発熱体シート裏面(非通気フィルム側)の中央に熱電対(RKC製ST−50)を取り付け、これを厚さ1cmのポリウレタン板上に置き、発熱温度の変化を測定した。結果を図3に示す。図3から明らかなように、比較例1の発熱体は79まで温度が上昇するのに対し、本実施例の発熱体は、最高温度が70に抑えられ、しかもその温度が長時間安定して維持されることが分かった。このように比較例1と実施例1は、初期状態の通気度は同じであるにもかかわらず、水溶性高分子を介在させることにより、発熱の最高温度が抑えられることが分かった。なお、発熱が終了し、冷却した後、発熱体を分解し、通気性シートを観察したところ、水溶性高分子不織布は溶解しており、2枚の多孔質フィルムは接着されていることが分かった。
【0024】
(実施例2、3)実施例1のPVA不織布の代わりにPVA粒子を用いた以外は実施例1と同様にして発熱体シートを作製した。ここで、PVA粒子としては、重合度500のPVA(クラレ製クラレポバールPVA−205)及び重合度1700のPVA(クラレポバールPVA−217)を用い、それぞれ6gを多孔質フィルム間に詰めて、2種類の発熱体シートを作製した(実施例2及び3)。なお、粒子の粒径はいずれも16メッシュ以下である。実施例1と同様にして測定した発熱特性を図3に示す。実施例2,3の発熱体の最高温度は、それぞれ66及び74となり、実施例1の場合と同様に、通気性基材の通気度に相当する発熱温度よりも、大幅に低い温度に抑えられるとともに、長時間安定な発熱が得られることが分かる。
【0025】
また、重合度が小さいPVA粒子を用いた発熱体(実施例2)の方が、重合度の大きい場合(実施例3)に比べて、発熱最高温度は低くなることが分かった。これは、重合度、即ち分子量の小さい方が水に対する溶解度が大きく、より低い温度で溶解し、多孔質フィルムの通気孔を塞いで適正な通気量にしたためと考えられる。このことは、水に対する溶解度の異なる種々の水溶性高分子を選択すれば、発熱体の最高温度を制御することが可能なことを示している。冷却後、いずれの発熱体も、粒子が溶解して透明な皮膜状となり、外気側の多孔質フィルムに部分的に接合しているのが観察された。
【0026】
(実施例4)実施例2のPVA粒子の代わりに、粒子径180・壕ネ下のポリエチレングリコール(PEG)粒子(三洋化成製PEG−6000P)を用いて、実施例2と同様の発熱体を作製し、発熱特性を測定した。この結果も図3に示す。本実施例では、最高温度が55に抑えられ、しかも12時間にわたり、温度は一定の値に維持された。
【0027】
(実施例5)PVA不織布の代わりに、PVAフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして発熱体シートを作製し、その発熱特性を測定した。ここで、PVAフィルムは、次のようにして作製した。まず、PVA粒子(PVA−205)3gを温水に溶解させ、これを140mmx100mmの容器に移し、水分を蒸発させて作製した。得られたフィルムは、厚さ170・香A3.1gであり、これに1mm径の穿孔を5mmピッチので千鳥状(1cm内に8個)に形成した。このように作製したPVAフィルムの通気度は、1秒/100cc以下で、通気性シート全体の通気度には影響しないものであった。発熱特性は、図4に示したとおりであるが、水溶性高分子はフィルムであっても、最高温度を制御することが可能であることが分かる。
【0028】
(実施例6)本実施例では、図2(b)に示す構成の通気性シートを用い発熱体を作製した。通気性シートは、ポリプロピレン不織布(出光石油化学製EW2070)、水溶性高分子フィルム及び多孔質フィルム(PL30)から構成される。ここで、水溶性高分子フィルムは、PVA粒子(PVA−205)3gとPEG粒子(PEG−6000P)0.5gとを用い、実施例5と同様にしてフィルムを作製し、同様の穿孔を形成したものである。測定した発熱特性を図4に示す。本実施例の発熱体の最高温度は64に制限され、多孔質フィルム1枚の系でも、最高温度を制御することが可能であることが分かる。
【0029】
(実施例7−9)多孔質フィルムとして、通気度800sec/100ccのフィルム(トクヤマ製PN30)を用いた以外は、実施例1、2、4及び比較例1と同様にして、それぞれ実施例7、8、9及び比較例2の発熱体を作製し、それぞれの発熱特性を測定した。結果を図5に示す。図から明らかなように、通気度が極めて高い多孔質フィルムを用いた場合であっても、最高温度を下げる効果は確認され、種々の形態、溶解度の水溶性高分子を用いることにより、最高温度が制御されるとともに、種々の発熱特性が得られることが分かる。なお、図には示していないが、実施例9の発熱体は、40の温度で22時間、発熱を保持した。
【0030】
(実施例10)本実施例では、図2(c)に示すように、多孔質フィルムを用いずに、不織布のみを通気性基材として用い、通気性シートを構成し、発熱体を作製した。即ち、本実施例の通気性シートは、2枚のポリプロピレン不織布(EW2070)の間に、水溶性高分子粒子を介在させたものである。水溶性高分子としては、PVA粒子(PVA−205)3gとPEG粒子(PEG−6000P)3gとの混合粒子を用いた。また、比較のため、水溶性高分子粒子を除いた以外は本実施例と同様にして発熱体を作製した(比較例3)。なお、不織布の通気度測定をガーレ法により試みたが、通気度は大きすぎて測定できなかった。作製した発熱体の発熱特性を図6に示す。図から明らかなように、従来の発熱体では不可欠な多孔質フィルムを用いなくても、発熱温度の上昇を抑えることができ、しかも安定した温度を長時間維持できることから、本発明の通気性シート及び発熱体構造物の構成が、発熱特性の制御に極めて優れていることが分かる。冷却後、発熱体を破いて観察したところ、粒子は溶解し一体化して光沢のある板状となり、不織布に接合していることが分かった。
【0031】
(実施例11)レーヨン不織布(シンワ社製7140)の表面に加熱溶融した水溶性ホットメルト接着剤(日本エヌエヌシー社製9190−149C)を15g/mとなるようにスプレー塗工し、その上にポリエチレン多孔質フィルム(PL30)を重ねて、通気性フィルムを作製した(実施例11)。一方、比較のため、上記水溶性ホットメルト接着剤の代わりに非水溶性のポリオレフィン系ホットメルト接着剤(日本エヌエヌシー社製ME−6)を用い、これを15g/m、スプレー塗工し、同様にして通気性シートを作製した(比較例4)。このようにして作製した通気性シートの通気度は、いずれもほぼ9000秒/100ccであった。これらの通気性シートとポリエステル不織布でラミネートしたポリエチレン非通気フィルム(旭化成製E01040)とを用い、実施例1と同様にして発熱体シートを作製して発熱特性を測定した。結果を図7に示す。図7から明らかなように、熱溶融型の水溶性高分子を用いた場合も、上記実施例と同様に、優れた発熱特性を示すことが分かる。
【0032】
以上の実施例では、図2に示す構成の発熱体構造物について述べてきたが、本発明はどのような構成の構造物ものでもよい。また、非通気性フィルム側の不織布を省いても、粘着剤層を形成してもよいことは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体構造物の袋材であって、
(1)袋材は、通気性基材の表面に水溶性高分子の層を形成してなる通気性シート又は2枚の通気性基材の間に水溶性高分子の層を介在させたことを特徴とする通気性シートからなるものであること、及び
(2)この水溶性高分子の層は、水溶性高分子からなる不織布、織布、多孔質フィルム、有孔性フィルム又は粉体もしくは粒体、あるいは水溶性高分子と熱溶融性樹脂もしくはアクリル樹脂とを含む混合物の層であること、
を特徴とする、発熱体構造物の袋材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−45743(P2011−45743A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244694(P2010−244694)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【分割の表示】特願2000−304263(P2000−304263)の分割
【原出願日】平成12年10月4日(2000.10.4)
【出願人】(000112509)フェリック株式会社 (14)
【Fターム(参考)】