説明

通風路切替装置および車両用空調装置

【課題】シールリップ部102が自励振動することによって生じる異音を防止する。
【解決手段】風圧でシール面に押される側の先端シール部107とシール面103との間に微小な隙間が開いた状態にて隙間での洩れ風速を抑えるため、先端シール部107より所定距離離れた空気流れ下流側に、空気流れと直交する方向に延びた凸溝部105aを備えている。 これによれば、隙間部分での圧力損失が増加して隙間部分に流入する空気の流量、流速が減少する。
その結果、自励振動の発生要因となっていた先端シール部107近傍に発生する負圧を低減することができて自励振動が抑えられ、異音が発生するのを防止することができる。さらに、隙間発生時の圧力損失を増加させることにより、シール不完全でシール面103と先端シール部107との間に隙間が開いてしまった場合の風漏れ量を減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気が流れる通風路の切り替え開閉を行う通風路切替装置、およびそれを備えた車両用空調装置に関するものであり、特に弾性体からなるリップシール部を有するドアによる通風路切り替えに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用空調装置などに用いられる通風路切替装置において、空気流れを切り替えるドアとして、ゴムやエラストマ(高分子弾性体)などの弾性体からなるリップシール部をドア基板部の外周縁部に設け、このリップシール部を通風路側のシール面に弾性的に圧着させることにより、シール効果を得るようにしたものが知られている(例えば、下記の特許文献1、2など)。
【特許文献1】特開2004−74945号公報
【特許文献2】特開2000−135912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようなリップシールでは、締切り力が不足する場合、もしくはリップがシール面に押し当る間際やリップがシール面から離れる間際などにリップとシール面との間に微小な隙間ができる状態がある。図9は、異音の発生原因となる微小隙間時のリップ先端前後での圧力勾配を示す等圧線図である。
【0004】
図9中には、ケース2に形成されたシール面103と、リップシール部102として、シール面103に圧着してシールを成す先端シール部107と、この先端シール部107に弾性を持たせるため、図示しないドア基板部の外周縁部と先端シール部107との間を略薄板平板状につなぐ薄板平板部108とが示めされている。
【0005】
図9右側の圧力の高い領域(+P部)は、先端シール部107と薄板平板部108とがケース2との間をシールすることで、図9の左側領域(P≒0部)はほぼ大気圧となっている。しかしながら、図9に示すように、風圧によってシールされる側の先端シール部107がシール面103との間に微小な隙間を作った場合、流路が急縮小となるため洩れ風速が速くなり、先端シール部107近傍に大気圧より圧力が低くなる領域(−P部、シミュレーション結果では負圧のMax.=−992Pa)が発生する。
【0006】
そして、その負圧とリップの反力とのバランスによってリップ先端側に自励振動が発生し、リップで「ブー」という耳障りな異音が発生するという問題点がある。本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目して成されたものであり、その目的は、シールリップ部が自励振動することによって生じる異音を防止することのできる通風路切替装置および車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、通風路を形成して開口部(12、17)を有するケース(2)と、
ケース(2)内に配設され、開口部(12、17)を開閉して空気流れを切り替えるドア(13、19)とを備え、
ドア(13、19)は、剛性の高い材質からなるドア基板部(100)と、
ドア基板部(100)の外周縁部に固着された弾性体からなるリップシール部(102)とを有しており、
リップシール部(102)は、外周縁部から外方側へ連続して延びる略薄板平板状の薄板平板部(108)と、
薄板平板部(108)先端のシール周縁に連続して略円筒状に形成された先端シール部(107)とを有しており、
開口部(12、17)の周縁部に形成されたシール面(103、104)に先端シール部(107)が圧着することにより、開口部(12、17)を閉塞する通風路切替装置において、
風圧でシール面に押される側の先端シール部(107)とシール面(103)との間に微小な隙間が開いた状態にて隙間での洩れ風速を抑えるため、先端シール部(107)より所定距離離れた空気流れ下流側に、空気流れと直交する方向に延びた凸溝部(105a、108a)を備えていることを特徴としている。
【0008】
この請求項1に記載の発明によれば、シール面(103)の風流れ下流側に凸溝部(105a、108a)を追加することにより、隙間部分での圧力損失が増加して隙間部分に流入する空気の流量、流速が減少する。その結果、自励振動の発生要因となっていた先端シール部(107)近傍に発生する負圧を低減することができて自励振動が抑えられ、異音が発生するのを防止することができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の通風路切替装置において、凸溝部(105a)をシール面(103)側に備えていることを特徴としている。この請求項2に記載の発明によれば、凸溝部(105a)をケース(2)のシール面(103)側に形成すること容易に構成することができる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の通風路切替装置において、先端シール部(107)をシール面(103)に圧着する際に、凸溝部(105a)が先端シール部(107)の圧着を妨げないよう薄板平板部(108)に凸溝部(105a)に対応した逃がし溝部(108b)を備えていることを特徴としている。
【0011】
この請求項3に記載の発明によれば、薄板平板部(108)に凸溝部(105a)の逃がし溝部(108b)を設けることにより、ケース(2)に設置する凸溝部(105a)を先端シール部(107)に近づけることが可能となるうえ、ケース(2)に凸溝部(105a)を設置するだけの場合よりもさらに圧力損失を増加させることができる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1に記載の通風路切替装置において、凸溝部(108a)を前記リップシール部(102)側に備えていることを特徴としている。この請求項4に記載の発明によれば、凸溝部(108a)をドア(13、19)のリップシール部(102)側に形成すること容易に構成することができる。
【0013】
また、請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の通風路切替装置において、先端シール部(107)をシール面(103)に圧着する際に、凸溝部(108a)が先端シール部(107)の圧着を妨げないようシール面(103)に凸溝部(108a)に対応した逃がし溝部(105b)を備えていることを特徴としている。
【0014】
この請求項5に記載の発明によれば、シール面(103)に凸溝部(108a)の逃がし溝部(105b)を設けることにより、ドア(13、19)に設置する凸溝部(108a)を先端シール部(107)に近づけることが可能となるうえ、ドア(13、19)に凸溝部(108a)を設置するだけの場合よりもさらに圧力損失を増加させることができる。
【0015】
また、請求項6に記載の発明では、請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載の通風路切替装置において、凸溝部(105a、108a)をケース(2)、もしくはリップシール部(102)のいずれかに一体に形成していることを特徴としている。この請求項6に記載の発明によれば、ケース(2)のシール面(103)、もしくはドア(13、19)のリップシール部(102)と一緒に射出成形するなどで容易に形成することができる。
【0016】
また、請求項7に記載の発明では、請求項1に記載の通風路切替装置において、隙間を通り抜けた後の空間が急拡大するように、薄板平板部(108)の薄板平板面に対して先端シール部(107a)が隙間側に大きく突出した形状としていることを特徴としている。この請求項7に記載の発明によれば、微小隙間を通り過ぎた後の空間が急拡大となるため、隙間部分での圧力損失が増加して隙間部分に流入する空気の流量が減少する。その結果、自励振動の発生要因となっていた先端シール部(107)近傍に発生する負圧を低減することができて自励振動が抑えられ、異音が発生するのを防止することができる。
【0017】
また、請求項8に記載の発明では、請求項1ないし請求項7のうちいずれか1項に記載の通風路切替装置を、内外気切替手段、温度調節手段(7、22)、吹出モード切替手段(13、16、19)のいずれかに用いていることを特徴としている。この請求項8に記載の発明によれば、通風路切替部のシールリップ部が自励振動することによって生じる異音を防止することにより、耳障りな異音が発生することのない車両用空調装置とすることができる。
【0018】
なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について添付した図1ないし図4を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用空調装置の空調ユニット1の概略構成を示す縦断面図である。本実施形態の車両用空調装置は、いわゆるセミセンター置きレイアウトのものであって、車室内前方の図示しない計器盤内部のうち、車両左右方向の略中央部に空調ユニット1を配置している。
【0020】
図1中の矢印は、車両の上下、前後方向に対する空調ユニット1の搭載方向を示している。そして、この空調ユニット1に空調用空気を送風する図示しない送風機ユニットが、空調ユニット1の助手席側の側方にオフセットして配置されている。この送風機ユニットは、周知の如く車室内空気(内気)または車室外空気(外気)を切り替え導入する内外気切替箱と、この内外気切替箱から吸入した空気(内気または外気)を空調ユニット1に向けて送風する遠心式ファンと電動モータとからなる送風機とを備えている。
【0021】
空調ユニット1は、樹脂製の空調ケース(本発明で言うケース)2を有し、空調ケース2の最も車両前方側(エバポレータ3の前方位置)で、且つ、助手席側の側面部には、送風機ユニットからの送風空気が流入する空気流入口5が形成してある。この空気流入口5から流入する送風空気は、空調ケース2の内部でエバポレータ3とヒータコア4とを通過して、車両前方側から車両後方側へと向かって流れる空気通路を形成している。
【0022】
空調ケース2内の空気通路において、車両前方側にエバポレータ3が配置され、車両後方側にヒータコア4が配置されている。エバポレータ(冷媒蒸発器)3は周知の如く、冷凍サイクルの冷媒の蒸発潜熱を空調用空気から吸熱して空調用空気を冷却する冷却用熱交換器である。また、ヒータコア4は車両エンジンの冷却水(温水)を熱源流体として、空調用空気を加熱する加熱用熱交換器である。
【0023】
そして、ヒータコア4の上方部には冷風バイパス通路6が形成され、エバポレータ3の直ぐ下流側(車両後方側)には、板状のエアミックスドア7が回転軸7aを中心として回動可能に配置されている。このエアミックスドア7は、冷風バイパス通路6を通過する冷風とヒータコア4を通過して温風となる風との風量割合を調整して、車室内への吹き出し空気温度を所望温度に制御するもので、吹き出し空気の温度制御手段を構成している。
【0024】
また、ヒータコア4直後の部位には上方へ向かう温風通路10が形成され、この温風通路10からの温風と冷風バイパス通路6からの冷風とが空気混合部11にて混合される。空調ケース2の空気通路下流側には、複数の吹き出し開口部が形成されており、この吹き出し開口部のうちデフロスタ開口部(本発明で言う開口部)12は、空調ケース2の上面部において車両前後方向の略中央部位で、空調ケース2内部に開口している。
【0025】
そして、このデフロスタ開口部12からは、図示しないデフロスタダクトを介して車両前面窓ガラスの内面に向けて空調空気を吹き出すようになっている。デフロスタ開口部12は、回動軸13aを中心として回動可能な板状のデフロスタドア(本発明で言うドア、吹出モード切替手段)13により開閉される。
【0026】
次に、フェイス開口部15は、空調ケース2の上面部において、デフロスタ開口部12よりも車両後方側の部位に開口している。このフェイス開口部15からは、図示しないフェイスダクトを介して車室内の乗員頭胸部へ向けて主に冷風を吹き出すようになっている。フェイス開口部15は回動軸16aを中心として回動可能な板状のフェイスドア(本発明で言う吹出モード切替手段)16により開閉される。
【0027】
次に、フット開口部(本発明で言う開口部)17は、空調ケース2において、フェイス開口部15の下方側に開口しており、フット開口部17の下流側は空調ケース2の左右両側に開口したフロント側のフット吹き出し口18と、空調ケース2の車両後方側下方に開口したリヤ側のフット吹き出し口20とに連通している。
【0028】
フロント側のフット吹き出し口18からは、図示しないフロントフットダクトを介して前席乗員の足元部に向けて主に温風を吹き出すようになっており、リヤ側のフット吹き出し口20からは、図示しないリヤフットダクトを介して後席乗員の足元部に主に温風を吹き出すようになっている。フット開口部17は、回動軸19aを中心として回動可能な板状のフットドア(本発明で言うドア、吹出モード切替手段)19により開閉される。
【0029】
また、本実施形態では、ヒータコア4の直ぐ下流側(車両後方側)の空調ケース2内の仕切り壁14に、温風バイパス開口部21を設けている。この温風バイパス開口部21は、回動軸22aを中心として回動可能な板状の温風バイパスドア(本発明で言う温度制御手段)22によって開閉されようになっている。
【0030】
温風バイパスドア22は、空調ケース2の外側面に配置される図示しないリンク機構などで他のドアと連動するようになっている。そして、吹出モードがフット、もしくはフット、デフロスタモードで且つ、エアミックスドア7が冷風バイパス通路6を塞いで(図1に示す位置)送風空気の全てがヒータコア4を通過するマックスホット状態(最大暖房状態)の時に温風バイパスドア22が開き(図1中の破線位置)、温風バイパス開口部21から両方のフット吹き出し口18、20へ温風が流れて乗員の足元部に吹き出す温風量を増やすようになっている。
【0031】
本実施形態において、上述した吹出モード切替手段としてのドア13、16、19のうちデフロスタ部のドア13とフット部のドア19は、図2〜図4を用いて以下で説明するリップシールタイプのドアから構成されている。図2は、図1におけるドア13、19を例示する要部断面図であり、図3は、本発明を適用するドア13、19の全体形状を示す正面図である。
【0032】
ドア13、19は、長方形の平面形状を持つドア基板部100を有し、このドア基板部100は樹脂などの材料からなる剛性の高い部分(換言すると、非弾性体部分)を構成する。そして、本実施形態のドアはバタフライタイプであるため、ドア基板部100の短辺方向(図3参照)の中央部に回転軸101(上述した回動軸13a、19aに相当)を一体に成形している。
【0033】
図3に示すように、ドア基板部100の外周縁部にエラストマ(高分子弾性体)からなるリップシール部102を額縁状に一体に固着している。このリップシール部102は、ケース2のシール面103、104に圧着してシールを成すためにシール周縁に連続して略円筒状に形成された先端シール部107と、この先端シール部107に弾性を持たせるため、ドア基板部100の外周縁部と先端シール部107との間を略薄板平板状につなぐ薄板平板部108とを有している。
【0034】
ここで、ドア基板部100とリップシール部102との固着は、例えば次の如き一体成形で行うことができる。ドア基板部100を予め成形しておき、このドア基板部100を成形型内の所定部位に前もって挿入しておき、その後に、リップシール部102を形成するエラストマを溶融状態で成形型内に射出して成形することにより、ドア基板部100とリップシール部102とを一体に固着できる。
【0035】
なお、ドア13、19のドア基板部100を構成する樹脂材料としては、ポリプロピレン、ナイロン、ABSなどの樹脂が好適であり、ガラス繊維などのフィラーを混入して強度アップを図るようにしても良い。また、リップシール部102のエラストマの具体的材質としては、サーモプラスティクエラストマ(TPE)の一種であるオレフィン系エラストマが好適である。また、ケース2の樹脂材料としては、上記ドア基板部100と同種の樹脂を用いることができる。
【0036】
一方、ケース2の吹出開口部(本発明で言う開口部)12、17には、鋭角状に傾斜したシール面103、104を持つドア当接用リブ105、106を突出形成している。ここで、吹出開口部12、17の形状は、図3に示すドア13、19の長方形に対応した長方形になっている。そして、シール面103を持つドア当接用リブ105と、シール面104を持つドア当接用リブ106が、ドア13、19の回転軸101を境として、回転軸101の左右両側に区画して形成されている。
【0037】
図2は、バタフライタイプのドア13、19の開放状態を示しており、この開放状態から回転軸101に回転方向の操作力を加えて、ドア13、19を図2の反時計回り方向に所定角度回転させると、ドア13、19のリップシール部102の先端シール部107がケース2の吹出開口部12、17のドア当接用リブ105、106のシール面103、104に圧着する。
【0038】
ここで、リップシール部102の先端シール部107は、回転軸101と平行な長辺部分と、回転軸101と直交する短辺部分(側面部分)との双方において、ケース2のドア当接用リブ105、106に圧着する。これらにより、ドア基板部100の外周部分をケース2に対してシールすることができ、吹出開口部12、17を閉塞できる。なお、シール面103、104を傾斜させるのは、リップシール部102の接触部の面圧を高めてシール効果を高めるためである。
【0039】
そして図4は、本発明の第1実施形態におけるリップ圧接部(図1中IV部)の部分拡大図であり、微少隙間の状態を示している。本実施形態での要部として、図4に示すように、風圧でシール面に押される側の先端シール部107において、ドア13の全閉時にリップシール部102の弾性変形を妨げない範囲で、先端シール部107より所定距離離れた空気流れ下流側に、空気流れと直交する方向に延びた凸溝部105aをケース2に一体成形している。
【0040】
本実施形態で凸溝部105aは、略蒲鉾形状で空調ケース2のシール面103からリップシール部102側へ突出しており、少なくともドア13の回動先端側となるシール部(本実施形態ではドア13の長辺部)に沿って開口部12の幅方向に連続させて形成されている。なお、凸溝部105aは、回動先端側となるシール部だけではなく、そのシール部からドア13の側方シール部(本実施形態ではドア13の短辺部)まで沿って回り込むように連続させて形成しても良い。
【0041】
この凸溝部105aは、先端シール部107とシール面103との間に微小な隙間が開いたときに、その隙間での風速を抑えるためのものである。図4中に微小隙間時のリップ先端前後での圧力勾配を表す等圧線を示す。図4右側の圧力の高い領域(+P部)から、先端シール部107とシール面103、凸溝部105aと薄板平板部108との2箇所で微小隙間となる形状とすることで、図4の左側領域(P≒0部)はほぼ大気圧となっている。
【0042】
但し、図4に示すように、それらの微小隙間部では流路が急縮小となるため洩れ風速が速くなり負圧領域(−P部)がそれぞれ発生するが、シミュレーション結果では負圧のMax.=−307Paとなり、凸溝部105aの無い場合のMax.=−992Paと比べて負圧が低減していることが分かる。
【0043】
このように、凸溝部105aを設けることにより、隙間部分での圧力損失が増加して隙間部分に流入する空気の流量、流速が減少する。その結果、自励振動の発生要因となっていた先端シール部107近傍に発生する負圧を低減することができて自励振動が抑えられ、異音が発生するのを防止することができる。
【0044】
ドア13、19のドア基板部100の回転軸101は、その両端部でケース2の図示しない軸受孔に回動自在に支持されるとともに、回転軸101の一端部はケース2の外部へ突出し、図示しないドア駆動機構に連結される。このドア駆動機構は、周知の如く車両用空調装置の操作パネルに設けられた手動操作機構、あるいは、空調制御装置により制御されるモータなどを用いたアクチュエータ機構により構成される。
【0045】
次に、本実施形態での特徴と、その効果について述べる。まず、風圧でシール面に押される側の先端シール部107とシール面103との間に微小な隙間が開いた状態にて隙間での風速を抑えるため、先端シール部107より所定距離離れた空気流れ下流側に、空気流れと直交する方向に延びた凸溝部105aを備えている。
【0046】
これによれば、シール面103の風流れ下流側に凸溝部105aを追加することにより、隙間部分での圧力損失が増加して隙間部分に流入する空気の流量、流速が減少する。その結果、自励振動の発生要因となっていた先端シール部107近傍に発生する負圧を低減することができて自励振動が抑えられ、異音が発生するのを防止することができる。さらに、隙間発生時の圧力損失を増加させることにより、シール不完全でシール面103と先端シール部107との間に隙間が開いてしまった場合の風漏れ量を減少させることができる。
【0047】
また、凸溝部105aをシール面103側に備えている。これによれば、凸溝部105aをケース2のシール面103側に形成することで容易に構成することができる。また、凸溝部105aをケース2に一体に形成している。これによれば、ケース2のシール面103と一緒に射出成形するなどで容易に形成することができる。
【0048】
また、上記の通風路切替装置を、内外気切替手段、温度調節手段7、22、吹出モード切替手段13、16、19のいずれかに用いている。これによれば、通風路切替部のシールリップ部が自励振動することによって生じる異音を防止することにより、耳障りな異音が発生することのない車両用空調装置とすることができる。
【0049】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態におけるリップ圧接部の部分拡大図であり、(a)は微少隙間の状態、(b)は圧接状態を示す。なお、以降の各実施形態では、上述した第1実施形態と同様の構成要素については同じ符号を付して説明を省略し、上述した実施形態と異なる特徴部分について説明する。本実施形態では、先端シール部107をシール面103に圧着する際に、凸溝部105aが先端シール部107の圧着を妨げないよう薄板平板部108に凸溝部105aに対応した逃がし溝部108bを設けたものである。
【0050】
これによれば、薄板平板部108に凸溝部105aの逃がし溝部108bを設けることにより、ケース2に設置する凸溝部105aを先端シール部107に近づけることが可能となるうえ、ケース2に凸溝部105aを設置するだけの場合よりもさらに圧力損失を増加させることができる。なお、図5の例では、薄板平板部108において逃がし溝部108bの反対側が凸となっているが、逃がし溝部108bが薄板平板部108の板厚内で形成でき、エラストマの流動などに問題が無ければ平面であっても良い。
【0051】
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態におけるリップ圧接部の部分拡大図である。上述した各実施形態と異なる特徴部分について説明する。本実施形態では、凸溝部108aをリップシール部102側に備え、リップシール部102に一体に形成している。これによれば、凸溝部108aをドア13、19のリップシール部102側に形成すること容易に構成することができ、ドア13、19のリップシール部102と一緒に射出成形するなどで容易に形成することができる。
【0052】
また、先端シール部107をシール面103に圧着する際に、凸溝部108aが先端シール部107の圧着を妨げないようシール面103に凸溝部108aに対応した逃がし溝部105bを形成している。これによれば、シール面103に凸溝部108aの逃がし溝部105bを設けることにより、ドア13、19に設置する凸溝部108aを先端シール部107に近づけることが可能となるうえ、ドア13、19に凸溝部108aを設置するだけの場合よりもさらに圧力損失を増加させることができる。
【0053】
(第4実施形態)
図7は、本発明の第4実施形態におけるリップ圧接部の部分拡大図であり、微少隙間の状態を示す。上述した各実施形態と異なる特徴部分について説明する。本実施形態では、隙間を通り抜けた後の空間が急拡大するように、薄板平板部108の薄板平板面に対して先端シール部107aが隙間側に大きく突出した形状としている。
【0054】
図7中に微小隙間時のリップ先端前後での圧力勾配を表す等圧線を示す。図7右側の圧力の高い領域(+P部)から、先端シール部107aとシール面103とで微小隙間となることで、図7の左側領域(P≒0部)はほぼ大気圧となっている。但し、図7に示すように、この微小隙間部では流路が急縮小となるため洩れ風速が速くなり負圧領域(−P部)が発生するが、微小隙間を通り過ぎた後の空間が急拡大となるため、隙間部分での圧力損失が増加して隙間部分に流入する空気の流量が減少する。
【0055】
シミュレーション結果では負圧のMax.=−462Paとなり、図9の従来形状のMax.=−992Paと比べて負圧が低減していることが分かる。このように、自励振動の発生要因となっていた先端シール部107近傍に発生する負圧を低減することができて自励振動が抑えられ、異音が発生するのを防止することができる。なお図7は、先端シール部107aを隙間側にだけ突出させた形状となっているが、図4、図6に示す程度反隙間側に突出させた形状となっていても良い。
【0056】
(その他の実施形態)
図8は、他の実施形態におけるV字リップ102aの拡大断面図である。上述の実施形態では、1枚リップに本発明を適用しているが、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、図8に示すように、回動方向一方側でのリップシール部108cと他方側でのリップシール部108dとをそれぞれ有し、それら複数のリップシール部108c、108dをV字状に配置して一体に形成したV字リップ102aに適用しても良い。
【0057】
また、上述の実施形態では、バタフライドアに本発明を適用しているが、回転軸がドア基板部の一辺部に形成された片持ちの板ドア、回転軸に対してドア基板部が円弧上となったロータリドア、もしくは回動式ではなく摺動式のスライド式ドアなどのリップシール部に本発明を適用しても良い。要は、ドア基板部の外周縁部にリップシール部を形成したドア構造であれば本発明を適用可能であり、用途も車両用空調装置に限らず定置式の空調装置など、様々な用途の通風路切替装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の空調ユニット1の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図1におけるドア13、19を例示する要部断面図である。
【図3】本発明を適用するドア13、19の全体形状を示す正面図である。
【図4】本発明の第1実施形態におけるリップ圧接部の部分拡大図であり、微少隙間の状態を示す。
【図5】本発明の第2実施形態におけるリップ圧接部の部分拡大図であり、(a)は微少隙間の状態、(b)は圧接状態を示す。
【図6】本発明の第3実施形態におけるリップ圧接部の部分拡大図である。
【図7】本発明の第4実施形態におけるリップ圧接部の部分拡大図であり、微少隙間の状態を示す。
【図8】他の実施形態におけるV字リップ102aの拡大断面図である。
【図9】異音の発生原因となる微少隙間時のリップ先端前後での圧力勾配を示す等圧線図である。
【符号の説明】
【0059】
2…空調ケース(ケース)
7…エアミックスドア(温度調節手段)
12…デフロスタ開口部、吹出開口部(開口部)
13…デフロスタドア(ドア、吹出モード切替手段)
16…フェイスドア(吹出モード切替手段)
17…フット開口部、吹出開口部(開口部)
19…フットドア(ドア、吹出モード切替手段)
22…温風バイパスドア(温度調節手段)
100…ドア基板部
102…リップシール部
103、104…シール面
105a…凸溝部
105b…逃がし溝部
107、107a…先端シール部
108…薄板平板部
108a…凸溝部
108b…逃がし溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通風路を形成して開口部(12、17)を有するケース(2)と、
前記ケース(2)内に配設され、前記開口部(12、17)を開閉して空気流れを切り替えるドア(13、19)とを備え、
前記ドア(13、19)は、剛性の高い材質からなるドア基板部(100)と、
前記ドア基板部(100)の外周縁部に固着された弾性体からなるリップシール部(102)とを有しており、
前記リップシール部(102)は、前記外周縁部から外方側へ連続して延びる略薄板平板状の薄板平板部(108)と、
前記薄板平板部(108)先端のシール周縁に連続して略円筒状に形成された先端シール部(107)とを有しており、
前記開口部(12、17)の周縁部に形成されたシール面(103、104)に前記先端シール部(107)が圧着することにより、前記開口部(12、17)を閉塞する通風路切替装置において、
風圧でシール面に押される側の前記先端シール部(107)と前記シール面(103)との間に微小な隙間が開いた状態にて前記隙間での洩れ風速を抑えるため、前記先端シール部(107)より所定距離離れた空気流れ下流側に、前記空気流れと直交する方向に延びた凸溝部(105a、108a)を備えていることを特徴とする通風路切替装置。
【請求項2】
前記凸溝部(105a)を前記シール面(103)側に備えていることを特徴とする請求項1に記載の通風路切替装置。
【請求項3】
前記先端シール部(107)を前記シール面(103)に圧着する際に、前記凸溝部(105a)が前記先端シール部(107)の圧着を妨げないよう前記薄板平板部(108)に前記凸溝部(105a)に対応した逃がし溝部(108b)を備えていることを特徴とする請求項2に記載の通風路切替装置。
【請求項4】
前記凸溝部(108a)を前記リップシール部(102)側に備えていることを特徴とする請求項1に記載の通風路切替装置。
【請求項5】
前記先端シール部(107)を前記シール面(103)に圧着する際に、前記凸溝部(108a)が前記先端シール部(107)の圧着を妨げないよう前記シール面(103)に前記凸溝部(108a)に対応した逃がし溝部(105b)を備えていることを特徴とする請求項4に記載の通風路切替装置。
【請求項6】
前記凸溝部(105a、108a)を前記ケース(2)、もしくは前記リップシール部(102)のいずれかに一体に形成していることを特徴とする請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載の通風路切替装置。
【請求項7】
前記隙間を通り抜けた後の空間が急拡大するように、前記薄板平板部(108)の薄板平板面に対して前記先端シール部(107a)が前記隙間側に大きく突出した形状としていることを特徴とする請求項1に記載の通風路切替装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちいずれか1項に記載の通風路切替装置を、内外気切替手段、温度調節手段(7、22)、吹出モード切替手段(13、16、19)のいずれかに用いていることを特徴とする車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−105562(P2008−105562A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290375(P2006−290375)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】