説明

速度計測装置

【課題】ノイズの影響を受けない速度を計測する速度計測装置を提供する。
【解決手段】速度計測装置10は、直交する3軸方向の加速度成分を計測する加速度計11と、入力した加速度成分を合成して得られた加速度から重力加速度を減算した第1加速度を求める加速度算出部12と、第1加速度を補正して第2加速度を求める加速度補正部13と、第2加速度に基づいて第1速度を求める速度算出部14と、第1速度から、ドップラ周波数を用いて速度を計測する電波速度計により計測された第2速度を減算した速度差を求める速度減算部15と、この速度差を入力して加速度補正値及び速度補正値を求めるカルマンフィルタ16とを備え、加速度補正部13は、第1加速度に対して加速度補正値を補正した値を第2加速度として求め、速度算出部14は、第2加速度を時間積分して求めた速度に対して速度補正値を補正した値を第1速度として求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速度計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等の速度を計測する速度計測装置が用いられている。
【0003】
このような速度計測装置としては、例えば、地上に対し電波を送受信することで相対的移動により生じるドップラ効果を利用して、車両の速度を計測する電波速度計がある。
【0004】
電波速度計は、車両の速度を非接触に計測するので、車輪の空転又は滑り等の影響を受けずに車両の地上に対する速度を計測できる。
【0005】
しかし、電波速度計では、地上の凸凹等による反射波の変動が大きく、また、電波を送受信するアンテナ又は受信した電波信号を処理する回路が生ずるノイズ等の影響により、得られる速度の値にも大きなノイズが含まれる場合がある。
【0006】
また、電波速度計では、電波が地上の水たまり又は鉄板等の部分に投射された場合には、地上から反射した電波がアンテナの方向に戻らないことがあるので、速度を計測できない場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−138216号公報
【特許文献2】特開平6−27230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本明細書では、上述した問題点を解決し得る速度計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示する速度計測装置によれば、直交する3軸方向それぞれの加速度成分を計測する加速度計と、上記加速度計から入力した直交する3軸方向それぞれの上記加速度成分を合成して得られた加速度から、重力加速度を減算した第1加速度を求める加速度算出部と、上記第1加速度を補正して第2加速度を求める加速度補正部と、上記第2加速度に基づいて第1速度を求める速度算出部と、上記第1速度から、ドップラ周波数を用いて速度を計測する電波速度計により計測された第2速度を減算した速度差を求める速度減算部と、上記速度差を入力して、加速度補正値及び速度補正値を求めるカルマンフィルタと、を備え、上記加速度補正部は、上記第1加速度に対して、上記加速度補正値を補正した値を上記第2加速度として求め、上記速度算出部は、上記第2加速度を時間積分して求めた速度に対して、上記速度補正値を補正した値を上記第1速度として求める。
【発明の効果】
【0010】
上述した本明細書に開示する速度計測装置によれば、ノイズの影響を受けない速度を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本明細書に開示する速度計測装置の一実施形態を示す図である。
【図2】(A)は計測加速度と時間との関係を示しており、(B)は第1加速度と時間との関係を示しており、(C)は第1速度と時間との関係を示しており、(D)は信号強度と周波数との関係を示しており、(E)は第2速度と時間との関係を示す図である。
【図3】速度計測装置の一部を構成する計算部を示すブロック図である。
【図4】(A)は、第2速度に含まれるノイズ等を説明する図であり、(B)は、車両加速度に含まれるノイズ等を説明する図である。
【図5】カルマンフィルタを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本明細書で開示する速度計測装置の好ましい一実施形態を、図面を参照して説明する。但し、本発明の技術範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【0013】
図1は、本明細書に開示する速度計測装置の一実施形態を示す図である。
【0014】
本実施形態の速度計測装置10(以下、単に装置10ともいう)は、鉄道又は自動車等の車両に搭載されて、車両の地上に対する速度を計測する。具体的には、装置10は、加速度計11が計測した加速度成分A,A,Aと、同じく車両に搭載された電波速度計20から出力される第2速度Vとを用いて、車両の地上に対する速度である第1速度Vを計測する。
【0015】
装置10が搭載された車両は、車両の地上に対する速度を得ると共に、その速度を利用して車両の移動量を計算し、車両の移動距離及び位置を求めることができる。
【0016】
以下に、装置10の構成を詳細に説明する。
【0017】
装置10は、加速度計11と、加速度算出部12と、加速度補正部13と、速度算出部14と、速度減算部15と、速度減算部15が求めた速度差V−Vを入力して、加速度補正値ΔA及び速度補正値ΔVを求めるカルマンフィルタ16と、を備える。
【0018】
加速度計11は、車両の運動によって生じる直交する3軸方向それぞれの加速度成分A,A,Aを計測する。加速度計11は、X軸加速度計、Y軸加速度計及びZ軸加速度計を有する。X軸加速度計は、加速度成分Aを計測する。Y軸加速度計は、加速度成分Aを計測する。Z軸加速度計は、加速度成分Aを計測する。加速度計11は、直交する3軸方向の内の一の軸方向を、車両が直進する場合の進行方向と一致させて、車両に固定されることが好ましい。加速度計11は、直交する3軸方向それぞれの加速度成分A,A,Aを計測するので、車両への固定に取り付け誤差が生じたり、車両に傾いて固定されても、車両の加速度を正確に計測することができる。なお、加速度計11が計測した加速度成分A,A,Aには重力加速度gが含まれている。
【0019】
加速度計11としては、例えば、MEMS素子を用いたものを用いることが好ましい。このような加速度計は、通常、出力する値にバイアスを有する。詳しくは後述するが、本実施形態では、電波速度計20が計測した第2速度Vを用いて、加速度計11が生じ得るバイアスを補正する。
【0020】
加速度算出部12は、加速度計11から入力した直交する3軸方向それぞれの加速度成分A,A,Aを合成して計測加速度Aを求める。具体的には、加速度算出部12は、加速度成分A,A,Aの二乗和の平方根を計算して、計測加速度Aとする。
【0021】
図2(A)は、計測加速度と時間との関係を示している。
【0022】
図2(A)に示すように、加速度算出部12が求めた計測加速度Aには重力加速度gが含まれているので、計測加速度Aは、重力加速度gの値を基準にして車両の運動により生じた加速度変化を示す。
【0023】
そして、加速度算出部12は、計測加速度Aに対する重力加速度gの影響を補正するために、計測加速度Aの二乗から重力加速度gの二乗を減算した値の平行根を求めて、第1加速度Aとする。
【0024】
また、車両が前進している場合と後進している場合とでは、加速度の向きが反対となるので、加速度算出部12は、第1加速度Aの正負の極性を判定して付与する。
【0025】
具体的には、加速度算出部12は、車両が停止している時の加速度成分Axと重力加速度gとの比を引数とする逆正弦関数から得られる基準傾斜角(θ=sin−1(Ax/g)と、現在の加速度成分Axと重力加速度gとの比を引数とする逆正弦関数から得られる傾斜角(θr=sin−1(Ax/g)とを用いて、傾斜角差(θr−θ)を求める。そして、加速度算出部12は、この傾斜角差(θr−θ)に基づいて、第1加速度Aの正負の極性を判定し、判定した正負の極性を第1加速度Aに付与する。ここで、加速度成分Axは、車両が直進する場合の進行方向と一致する方向とする。基準傾斜角は、第1速度Aの絶対値が所定の閾値よりも小さい状態における傾斜角である。上述した方法は一例であり、他の方法を用いて、第1加速度Aの正負の極性を判定して付与しても良い。
【0026】
図2(B)は、第1加速度と時間との関係を示す。
【0027】
図2(B)に示すように、補正された第1加速度Aは、加速度ゼロの値を基準にして車両の運動により生じた加速度変化を示す。
【0028】
加速度補正部13は、加速度算出部12が求めた第1加速度Aを入力し、入力した第1加速度Aに対して、カルマンフィルタ16が求めた加速度補正値ΔAを補正した値を第2加速度Aとして求める。具体的には、加速度補正部13は、第1加速度Aから加速度補正値ΔAを減算した値を第2加速度Aとして求める。
【0029】
速度算出部14は、加速度補正部13が求めた第2加速度Aを入力し、入力した第2加速度Aを時間積分して計測速度Vを求める。そして、速度算出部14は、第2加速度を時間積分して求めた計測速度Vに対して、カルマンフィルタ16が求めた速度補正値ΔVを補正した値を第1速度Vとして求める。具体的には、速度算出部14は、計測速度Vから速度補正値ΔVを減算した値を、第1速度Vとして求める。
【0030】
図2(C)は第1速度と時間との関係を示す。
【0031】
図2(C)に示すように、第1速度Vは、加速度計11により計測された加速度成分を用いて求められるので、電波速度計20により計測される速度が有するようなノイズを含まない。
【0032】
速度減算部15は、速度算出部14が求めた第1速度Vから、ドップラ周波数を用いて速度を計測する電波速度計20により計測された第2速度Vを減算した速度差V−Vを求める。この速度差V−Vは、カルマンフィルタ16に入力される。
【0033】
速度差V−Vを用いるのは、主に加速度成分A,A,Aに含まれるバイアスの影響を補正するためである。加速度計11が出力した加速度成分A,A,Aにバイアスが含まれていると、速度算出部14は、バイアスを含む加速度成分A,A,Aを積分して第1速度Vを求めることになるので、第1速度Vにはバイアスに起因する誤差が含まれる。そこで、装置10では、電波速度計20により計測された第2速度Vを、第1速度Vから減算して、加速度成分A,A,Aに含まれるバイアスの影響を補正する。
【0034】
カルマンフィルタ16は、バイアスの影響が補正された速度差V−Vを用いて、速度差V−Vをゼロにするように加速度補正値ΔA及び速度補正値ΔVを求める。この際、カルマンフィルタ16は、第2速度Vに含まれる観測ノイズの影響、及び、加速度成分A,A,Aに含まれるシステムノイズの影響を取り除いて、加速度補正値ΔA及び速度補正値ΔVを求める。カルマンフィルタ16の動作の詳細については、後述する。
【0035】
また、装置10は、第1速度Vを入力し、第1速度Vが所定の閾値以下である場合には、速度切替え信号Sを出力する速度判断部17と、電波速度計20により計測された第2速度Vを入力し、速度判断部17が速度切替え信号Sを出力していない場合には、電波速度計20により計測された第2速度Vを速度減算部15に出力し、速度判断部17が速度切替え信号Sを出力している場合には、第2速度Vとしてゼロを速度減算部15に出力する速度切替え部18と、を備える。
【0036】
車両が停止している場合には、車両の運動により生じる加速度変化がないので、第2加速度Aはゼロとなる。一方、電波速度計20が出力する第2速度Vは、車両が停止していてもノイズ等の影響により値が変動する場合がある。そして、車両が停止していても、カルマンフィルタ15には、ノイズ等の影響により変動する速度差V−Vが入力されることになる。そこで、装置10では、速度判断部17が、第1速度Vが所定の閾値以下である場合には、車両が停止していると判断し、速度切替え部18が、第2速度Vとしてゼロを速度減算部15に出力する。そして、速度減算部15は、速度差V−Vとして、第1速度Vと同じ値をカルマンフィルタ15に出力することになる。
【0037】
一方、車両が停止していない場合には、即ち第1速度Vが所定の閾値よりも大きい場合には、速度切替え部18は、電波速度計20により計測された第2速度Vを速度減算部15に出力する。
【0038】
次に、電波速度計20について、以下に説明する。
【0039】
電波速度計20は、車両に搭載され、線路(レール軌道)又は道路に対し電波を送受信することで相対的移動により生じるドップラ効果を利用して車両の速度を計測する。本明細書では、電波が投射される地上は、線路(レール軌道)又は道路等を含む意味である。
【0040】
電波速度計20は、アンテナ21と、送受信部22と、周波数追跡部23と、周波数変換部24とを備える。
【0041】
アンテナ21は、車両に対して、車両が直進する場合の進行方向の前方向及び後ろ方向それぞれに向けて電波を投射するように搭載される。アンテナ21は、前方向及び後ろ方向それぞれに向けて電波を投射し、地上から反射した電波を受信する。本明細書では、アンテナ21から投射され且つ受信される電波には、ミリ波又はマイクロ波が含まれると共に、レーザ光のような周波数領域の電磁波も含まれる。
【0042】
送受信部22は、アンテナ21に送信用の電波信号を出力すると共に、電波を受信したアンテナ21が出力する電波信号を入力して増幅及び復調等の処理を行い、処理した電波信号を周波数追跡部23に出力する。
【0043】
周波数追跡部23は、送受信部22から入力した電波信号からドップラ周波数Fを求める。
【0044】
図2(D)は、受信した電波の信号強度と周波数との関係を示す。
【0045】
周波数追跡部23は、所定の周波数範囲の信号強度を走査し、信号強度のピークを示す周波数を検知して、ドップラ周波数Fを求める。
【0046】
周波数速度変換部24は、周波数追跡部23が求めたドップラ周波数Fを入力して、入力したドップラ周波数Fに基づいて第2速度Vを求める。
【0047】
図2(E)は、第2速度と時間との関係を示す図である。
【0048】
図2(E)に示す例では、ドップラ周波数Fを用いて求められた第2速度Vは、多くのノイズを有している。一方、第2速度Vは、加速度計11のようなバイアスを有さないので、第2速度Vは、図2(E)中の鎖線で示した真実の車両速度に対して、ノイズ等により上下に変動した値を示している。
【0049】
また、周波数追跡部23は、ドップラ周波数を求めるための電波信号が入力されない場合には、カルマンフィルタ16に対して加速度補正値ΔA及び速度補正値ΔVを求める処理を停止させる停止信号Sを出力する。電波速度計20では、電波が地上の水たまり又は鉄板等の部分に投射された場合には、地上から反射した電波がアンテナ21の方向に戻らないことがある。このような場合には、電波速度計20は速度を正しく計測できない。そこで、装置10では、ドップラ周波数を求めるための電波信号が入力されない場合には、カルマンフィルタ16の処理を停止する。そして、停止信号Sを入力したカルマンフィルタ16は、加速度補正値ΔA及び速度補正値ΔVを求める処理を停止し、加速度補正値ΔA及び速度補正値ΔVとして、それぞれ、ゼロを出力する。
【0050】
そして、加速度補正部13は、第1加速度Aと同じ値を第2加速度Aとして出力し、速度算出部14は、計測速度Vと同じ値を第1速度Vとして出力する。通常、ドップラ周波数を求めるための電波信号が入力されない期間は、数秒〜数10秒程度の時間であるので、このような期間であれば、補正が行われなくても、第1速度Vの誤差は小さいと考えられる。
【0051】
また、周波数追跡部23は、ドップラ周波数を求めるための電波信号が再び入力されると、停止信号Sの出力を停止する。そして、カルマンフィルタ16は、加速度補正値ΔA及び速度補正値ΔVを求める処理を再開する。
【0052】
なお、本明細書では、ドップラ周波数を求めるための電波信号が入力されない場合とは、電波信号が全く入力されない場合と、ドップラ周波数を求めるための十分なピーク強度を検出し得る電波信号が入力されない場合とを含む意味である。
【0053】
そして、装置10は、速度算出部14が求めた第1速度Vを入力して第1速度Vに対応するドップラ周波数F’を求め、求めたドップラ周波数F’を周波数追跡部23に出力する速度周波数変換部19を備える。
【0054】
ドップラ周波数を求めるための電波信号が入力されない状態の後に、再度、ドップラ周波数を求めるための電波信号が周波数追跡部23に入力された場合には、周波数追跡部23が所定の周波数範囲の信号強度を走査して、信号強度のピークを示す周波数を検知し、ドップラ周波数Fを求めることを再開するには所定の時間を必要とする。
【0055】
そこで、装置10では、速度周波数変換部19が、第1速度Vに対応するドップラ周波数F’を周波数追跡部23に出力する。そして、周波数追跡部23は、速度周波数変換部19から入力したドップラ周波数F’に基づいて走査する周波数範囲を特定し、電波信号からドップラ周波数を求めることを迅速に再開する。このようにして、周波数追跡部23が、ドップラ周波数Fを求めることを再開するのに要する時間が短縮される。
【0056】
周波数追跡部23がドップラ周波数Fの追跡を再開することにより、周波数速度変換部24から装置10への第2速度Vの出力が再開されて、カルマンフィルタ16が補正値を求めることを再開できる。そして、装置10は、補正された第1速度Vを求めることを再開する。このようにして、装置10では、ドップラ周波数を求めるための電波信号が入力されない状態の後に、カルマンフィルタ16が処理を停止している時間を短縮する。
【0057】
上述した電波速度計20としては、公知のものを用いることができる。
【0058】
また、装置10の加速度算出部12及び加速度補正部13及び速度算出部14及び速度減算部13及びカルマンフィルタ16及び速度判断部17及び速度切替え部18及び速度周波数変換部19は、図3に示す計算部30を用いて実現される。
【0059】
図3は、速度計測装置の一部を構成する計算部を示すブロック図である。
【0060】
計算部30は、所定のプログラムを実行する演算部31と、所定のプログラムを記憶し且つ演算部31に対するワークエリアを提供する記憶部32と、加速度計11から出力された加速度成分A,A,A及び電波速度計20から出力された第2速度Vを入力する入力部33と、第1速度Vを外部に出力し且つ速度周波数変換部19が求めたドップラ周波数F’を電波速度計20に出力する出力部34とを有する。
【0061】
計算部30としては、例えば、マイコン又はパーソナルコンピュータ等のコンピュータ又はステートマシン等を用いることができる。
【0062】
装置10の加速度算出部12及び加速度補正部13及び速度算出部14及び速度減算部13及びカルマンフィルタ16及び速度判断部17及び速度切替え部18及び速度周波数変換部19は、演算部31が、入力部33及び出力部34と協働して、記憶部32に記憶された所定のプログラムを実行することにより実現される。
【0063】
上述したように、カルマンフィルタ16は、第2速度Vに含まれる観測ノイズの影響、及び、加速度成分A,A,Aに含まれるシステムノイズの影響を取り除いて、加速度補正値ΔA及び速度補正値ΔVを求める。次に、カルマンフィルタ16の処理について、以下に説明する。
【0064】
図4(A)は、第2速度に含まれるノイズ等を説明する図である。
【0065】
電波速度計20が出力する第2速度Vは、車両速度を、ドップラ周波数を用いて計測したものであるが、この第2速度Vには、地上の凸凹等に起因した反射電波の変動、又は、アンテナ若しくは回路等が生ずるノイズ信号等が含まれている。第2速度Vが有するこれらのノイズは、補正値を推定する上での観測ノイズとなる。
【0066】
従って、第2速度Vは、図2(E)に示すように、図2(E)中の鎖線で示した真実の車両速度に対して、ノイズ等により上下に変動した値を示している。
【0067】
図4(B)は、車両加速度に含まれるノイズ等を説明する図である。
【0068】
加速度計11が計測した加速度成分A,A,Aには、バイアス、又は、MEMS素子又は回路等が生じるノイズ信号が含まれている。加速度成分A,A,Aが有するこれらのノイズは、補正値を推定する上でのシステムノイズとなる。
【0069】
カルマンフィルタ16は、観測ノイズ及びシステムノイズの影響を考慮して、補正値を推定する。また、カルマンフィルタ16は、第1速度Vと第2速度Vとの差を入力することにより、加速度計11のバイアスの影響を除いて、補正値を推定する。
【0070】
図5は、カルマンフィルタを説明する図である。
【0071】
図5に示すように、カルマンフィルタ16は、速度差Y(=V−V)を入力して、速度差Yをゼロにするように加速度補正値ΔA及び速度補正値ΔVを求める。K及びKは、カルマンゲインである。カルマンゲインKの引数としては、速度差Yを時間微分した値が用いられる。カルマンゲインKの因数は、速度差Yである。
【0072】
カルマンゲイK及びKは、図5中の式により求められる。ここで、Kは、K又はKを意味する。PK(−)は、事後推定共分散を示す行列であり、Hは、システム状態の変数と観測値との関係を示す行列であり、Rは、観測誤差の共分散を示す行列である。
【0073】
第1加速度の分散、第1速度の分散、第2速度の分散、観測ノイズの分散、及びシステムノイズの分散等は統計的に把握されており、カルマンフィルタ16の初期値として設定される。
【0074】
このようにして、観測値としての第2速度Vが計測される毎に、共分散の更新、カルマンゲインの計算、加速度補正値ΔA及び速度補正値ΔVの計算が繰り返される。そして、装置10は、加速度補正値ΔA及び速度補正値ΔVを用いて、第1速度Vを求める。
【0075】
上述した本実施形態の速度計測装置によれば、ノイズの影響を受けない車両の速度を得ることができる。また、本実施形態によれば、第1速度Vは、加速度計の計測値を用いて求められるので、第2速度Vのように車両の走行中に計測不能になることなく計測される。
【0076】
このように、装置10によれば、電波速度計により計測された第2速度を基準として、加速度計を用いて計測された速度を、カルマンフィルタを用いて補正することにより、電波速度計の欠点を補いつつ、電波速度計の長所を取り入れて、精度の高い速度を計測することができる。
【0077】
また、本実施形態によれば、慣性航法装置のように、ジャイロを用いた姿勢基準装置を含む大規模な装置構成、及び姿勢基準を定めるためのアライメント作業等を用いることなく、精度の高い速度を得ることができる。
【0078】
本発明では、上述した実施形態の速度計測装置は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。
【0079】
例えば、上述した実施形態では、速度計測装置と、電波速度計とは、独立した装置であったが、速度計測装置の中に電波速度計が含まれていても良い。
【0080】
また、電波速度計は、車両の進行方向に対して、前後及び左右の計4方向に電波を投射して、2つの速度成分を求めても良い。この場合には、第2速度は、例えば、2つの速度成分の二乗和の平方根として求めても良い。
【符号の説明】
【0081】
10 速度計測装置
11 加速度計
12 加速度算出部
13 加速度補正部
14 速度算出部
15 速度減算部
16 カルマンフィルタ
17 速度判断部
18 速度切替え部
19 速度周波数変換部
20 電波速度計
21 アンテナ
22 送受信部
23 周波数追跡部
24 周波数速度変換部
30 計算部
31 演算部
32 記憶部
33 入力部
34 出力部
第1速度
第2速度
第1加速度
第2加速度
ΔA 加速度補正値
ΔV 速度補正値
ドップラ周波数
速度切替え信号
停止信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交する3軸方向それぞれの加速度成分を計測する加速度計と、
前記加速度計から入力した直交する3軸方向それぞれの前記加速度成分を合成して得られた加速度から、重力加速度を減算した第1加速度を求める加速度算出部と、
前記第1加速度を補正して第2加速度を求める加速度補正部と、
前記第2加速度に基づいて第1速度を求める速度算出部と、
前記第1速度から、ドップラ周波数を用いて速度を計測する電波速度計により計測された第2速度を減算した速度差を求める速度減算部と、
前記速度差を入力して、加速度補正値及び速度補正値を求めるカルマンフィルタと、
を備え、
前記加速度補正部は、前記第1加速度に対して、前記加速度補正値を補正した値を前記第2加速度として求め、
前記速度算出部は、前記第2加速度を時間積分して求めた速度に対して、前記速度補正値を補正した値を前記第1速度として求める速度計測装置。
【請求項2】
前記第1速度を入力し、前記第1速度が所定の閾値以下である場合には、速度切替え信号を出力する速度判断部と、
電波速度計により計測された前記第2速度を入力し、前記速度判断部が前記速度切替え信号を出力していない場合には、前記第2速度を前記速度減算部に出力し、前記速度判断部が前記速度切替え信号を出力している場合には、前記第2速度としてゼロを前記速度減算部に出力する速度切替え部と、
を備える請求項1に記載の速度計測装置。
【請求項3】
前記第2速度を計測する電波速度計は、電波信号からドップラ周波数を求める周波数追跡部を有しており、
前記速度算出部が求めた前記第1速度を入力して、前記第1速度に対応するドップラ周波数を求め、求めたドップラ周波数を前記周波数追跡部に出力する速度周波数変換部を備える請求項1又は2に記載の速度計測装置。
【請求項4】
前記周波数追跡部は、ドップラ周波数を求めるための電波信号が入力されない状態の後に、再度、ドップラ周波数を求めるための電波信号が入力された場合には、前記速度周波数変換部から入力したドップラ周波数に基づいて走査する周波数範囲を特定し、電波信号からドップラ周波数を求める請求項3に記載の速度計測装置。
【請求項5】
前記周波数追跡部は、ドップラ周波数を求めるための電波信号が入力されない場合には、前記カルマンフィルタに対して前記加速度補正値及び前記速度補正値を求める処理を停止させる信号を出力する請求項3又は4に記載の速度計測装置。
【請求項6】
前記加速度算出部は、前記加速度計が計測した直交する3軸方向それぞれの前記加速度成分の二乗和の平行根である加速度を求めて、この加速度の二乗から重力加速度の二乗を減算した値の平行根を前記第1加速度として求め、
前記速度算出部は、前記第2加速度を時間積分して求めた速度に対して、前記速度補正値を減算した値を前記第1速度として求める請求項1〜5の何れか一項に記載の速度計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−220279(P2012−220279A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84606(P2011−84606)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000176730)三菱プレシジョン株式会社 (97)