説明

速硬コンクリートの製造方法

【課題】 充分な可使時間を確保でき、かつ短時間の強度発現に優れた速硬コンクリートを提供する。
【手段】 オキシカルボン酸またはその塩と炭酸リチウムよりなる凝結遅延剤をベースコンクリートの練混ぜ時または練混ぜ直後に添加し、この練混ぜたベースコンクリートにCaO・Al23結晶を主成分とする速硬材を施工時に添加することを特徴とする速硬コンクリートの製造方法であって、好ましくは、速硬材をスラリー状にし、または速硬材の粒子表層に予め水和反応相を形成した後にベースコンクリートに添加し、温度20〜30℃において、1〜3時間の可使時間を保ち、20N/mm2以上の材齢12時間強度を有するコンクリートを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタルやコンクリートに速硬材を混合して速硬コンクリートや速硬モルタルを製造する方法において、充分な可使時間を確保でき、かつ短時間の強度発現に優れた速硬コンクリートないし速硬モルタルを製造する方法に関する。より詳しくは、補修工事、緊急工事や一般工事の工期短縮、ならびに作業性改善による施工品質の向上を図るためなどに使用する速硬コンクリート等について、充分な可使時間を確保できるので施工が容易であると共に短時間の強度発現に優れた速硬コンクリート等の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートやモルタルのようなセメント組成物の硬化促進方法として、カルシウムアルミネート類を主成分とする混和材を添加し、速硬化を図る方法がある。また、このような速硬セメント組成物の可使時間を確保するために、オキシカルボン酸類を主成分とする遅延剤の使用が提案されている。例えば、特許文献1、2には急結成分のカルシウムアルミネートとして12CaO・7Al23(C127と略記する)が例示されており、凝結遅延剤として有機カルボン酸や炭酸カルシウムや水酸化カルシウムなどが例示されている。
【特許文献1】特公昭57−10058号公報
【特許文献2】特公昭62−33049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、カルシウムアルミネート類を主成分とする混和材を添加した場合、オキシカルボン酸類を主成分とする遅延剤を使用しても、数分〜30分程度の可使時間は確保できるが、1時間以上の長時間の可使時間確保は困難であった。可使時間確保のために、オキシカルボン酸類の量を増やすと、短時間強度が低下する。また、カルシウムアルミネート量を減らすと、可使時間確保は容易となるが、短時間強度が大幅に低下すると云う問題がある。
【0004】
本発明は、従来の速硬コンクリートにおける上記問題を解決したものであり、短時間強度を低下させることなく、長時間の可使時間確保を可能とした、速硬コンクリートの製造方法を提供する。なお、本発明において、説明の都合上、珪酸カルシウムを主成分とするセメントクリンカ粉砕物を含有するセメントを珪酸カルシウム系セメントと云い、この珪酸カルシウム系セメントを用いたモルタルまたはコンクリートを単にコンクリートと云う。また、凝結遅延剤および速硬材を添加するモルタルまたはコンクリートをベースコンクリートと云う。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の速硬コンクリートの製造方法に関する。
(1)オキシカルボン酸またはその塩と炭酸リチウムよりなる凝結遅延剤をベースコンクリートの練混ぜ時または練混ぜ直後に添加し、この練混ぜたベースコンクリートにCaO・Al23結晶を主成分とする速硬材を施工時に添加することを特徴とする速硬コンクリートの製造方法。
(2)CaO・Al23結晶を主成分とする粉末状速硬材をスラリー状にしてベースコンクリートに添加する上記(1)に記載の速硬コンクリートの製造方法。
(3)CaO・Al23結晶を主成分とする粉末状速硬材の粒子表層に予め水和反応相を形成した後にベースコンクリートに添加する上記(1)または(2)に記載する速硬コンクリートの製造方法。
(4)温度20〜30℃において、1〜3時間の可使時間を保ち、20N/mm2以上の材齢12時間強度を有するコンクリートを製造する上記(1)〜(3)の何れかに記載する速硬コンクリートの製造方法。
【0006】
〔具体的な説明〕
本発明は、オキシカルボン酸またはその塩と炭酸リチウムよりなる凝結遅延剤をベースコンクリートの練混ぜ時または練混ぜ直後に添加し、この練混ぜたベースコンクリートにCaO・Al23(CAと略記する)結晶を主成分とする速硬材を施工時に添加することを特徴とする速硬コンクリートの製造方法である。
【0007】
本発明において用いる凝結遅延剤はオキシカルボン酸類と炭酸リチウムを併用したものである。両者を併用することによって、珪酸カルシウム系セメントの凝結遅延効果に優れ、充分な可使時間の確保が容易であり、しかも比較的高い添加率で使用しても速硬コンクリートの短時間強度の発現を阻害せず、むしろ短時間強度を高める効果を有する。因みに、オキシカルボン酸類と従来の炭酸カルシウム等をそれぞれ単独に使用しても本発明と同等の効果は得られない。なお、本発明において可使時間とは、通常のコンリートポンプで圧送可能な時間をいう。
【0008】
上記凝結遅延剤をベースコンクリートの練混ぜ時または練混ぜ直後に添加する。この凝結遅延剤の作用によってベースコンクリート中の珪酸カルシウム系セメントの水和反応が遅延し、ベースコンクリートについて非常に長時間の可使時間を確保することができる。また、ベースコンクリートの練置き時間や運搬時間が変化しても、CA結晶を主成分とする速硬材を添加したときに、安定な可使時間、および安定な短時間強度を確保することができる。
【0009】
上記凝結遅延剤のオキシカルボン酸またはその塩としては、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、ヘプトン酸、またはこれらの塩等から選ばれる1種または2種以上を好適に使用することができる。凝結遅延剤の使用量は、ベースコンクリートの珪酸カルシウム系セメントに対して、オキシカルボン酸が0.5〜1.0wt%、炭酸リチウムが0.5〜2.0wt%になる量が適当である。
【0010】
上記凝結遅延剤において、オキシカルボン酸と併用するものは炭酸リチウムが好ましく、他の炭酸塩、例えば、炭酸ナトリウム等は充分な効果が得られない。
【0011】
上記凝結遅延剤を添加したベースコンクリートに速硬材を施工時に添加する。この速硬材はCA結晶を主成分としたものである。速硬材として、例えば、C127結晶、3CaO・Al23(C3Aと略記する)結晶、ガラス質のカルシウムアルミネートを主成分としたものが従来から知られているが、これらのカルシウムアルミネートは反応性が高く、充分な可使時間を確保するのが難しい。また、2CaO・Al23(CA2と略記する)結晶を主成分とした速硬材は、可使時間を確保するのは容易であるが、短時間強度を確保するのが難しい。
【0012】
速硬材の使用量は、珪酸カルシウム系セメント40〜90wt%に対して速硬材60〜10wt%が好ましく、セメント70〜90wt%に対して速硬材30〜10wt%がさらに好ましい。
【0013】
CA結晶を主成分とする上記速硬材は、練混ぜたベースコンクリートに施工時に添加して用いる。好ましくは、注水練混ぜによってベースコンクリート中の珪酸カルシウム系セメント粒子表面に少量の水和物被膜が形成された後に上記速硬材を添加するのが良い。概ね注水後10分以上経過すれば珪酸カルシウム系セメント粒子表面に水和物被膜が形成される。この水和物被膜の存在によって珪酸カルシウム系セメントとCAとの反応が一時的に遅延され、充分な可使時間を確保することができる。一方、珪酸カルシウム系セメントとCAとが反応した後は凝結反応が速やかに進行するので短時間でコンクリート強度が向上し、短時間強度の高い速硬コンクリートを得ることができる。
【0014】
上記速硬材は、粉末状態でベースコンクリートに添加しても良いが、粉末状の速硬材をスラリー状にし、または粉末状速硬材の粒子表層に予め水和反応相を形成した後に、ベースコンクリートに添加するのが好ましい。
【0015】
速硬材をスラリー状にしてベースコンクリートに添加することによって、CA結晶とベースコンクリート中の遅延剤成分や珪酸カルシウム系セメント粒子とが均一に混合し易くなり、可使時間の確保および短時間強度の発現が良好になる。CA結晶とベースコンクリート中の遅延剤成分と珪酸カルシウム系セメント粒子の混合が不均一であると、局所的に遅延剤の作用が薄れた場合に、そこから急激な水和促進が始まり、この部分に遅延剤が消費されて水中の遅延剤濃度が薄くなり、速硬コンクリート全体に水和促進が伝播し、充分な可使時間を確保するのが難しくなる。均一な混合がなされれば、この水和促進反応が生じ難くなるため、充分な可使時間を確保しやすくなる。
【0016】
速硬材に水を加えてスラリー状にする場合、粉末状速硬材100重量部に対する水の添加量は25〜60重量部が好ましい。水の添加量が60重量部を上回ると、速硬コンクリートの水量が増えて強度が低下する虞がある。また、水の添加量が25重量部未満では充分な流動性が得られず、またはスラリー状にならないので好ましくない。
【0017】
また、CA結晶を主成分とする粉末状速硬材の粒子表層に水和反応相(水和物被膜)を形成した後にベースコンクリートに添加すると、この水和物被膜の存在によって、CA結晶粒子と珪酸カルシウム系セメントとの反応が一時的に遅延され、より長い可使時間を得ることができる。一方、珪酸カルシウム系セメントとCAとが反応した後は凝結反応が速やかに進行するので短時間でコンクリート強度が向上し、短時間強度の高い速硬コンクリートを得ることができる。
【0018】
速硬材のCA結晶粒子表面に水和反応相を形成するには、粉末状速硬材100重量部に対して、0.2〜5.0重量部の水を添加するのが好ましく、0.5〜1.0重量部がより好ましい。水の添加量が0.2重量部未満では水和反応相が不充分であるため可使時間をより長める効果が充分でない虞があり、5.0重量部を上回るとCA結晶と水の水和反応率が高くなり過ぎて、未水和のCA結晶の量が減少し、短時間強度が低下する虞がある。CA結晶の大部分を水和反応物とすることは短時間強度を発現させるうえで好ましくなく、CA結晶粒子の表層だけを水和反応相で覆うことが好ましい。
【0019】
粉末状の速硬材に少量の水を添加して粒子表面に水和反応相を形成する際、慣用の粉体用ミキサー等を用いて速硬材を混合しながら水を添加し、24時間以上静置して、充分に水和反応を進行させるのが好ましい。なお、粉体用ミキサー等を用いて速硬材を充分に混合しないと、局所的にCA結晶粒子どうしが凝集し、ベースコンクリートとの混合性を阻害する虞があるので好ましくない。
【0020】
粉末状の速硬材に少量の水を添加してCA結晶粒子表面に水和物被膜を形成しておき、さらに施工時に、この速硬材に水を混合してスラリー状にしてベースコンクリートに添加するのが最も好ましい。水和物被膜の形成とスラリー化との両手段を併用することによってさらに長い可使時間を確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の速硬コンクリートの製造方法によれば、コンクリートの短時間強度を低下させることなく、従来以上の長い可使時間を確保することができる。例えば、外気温20℃〜30℃の夏季においても、1時間〜3時間の可使時間を確保することができ、材齢12時間で20N/mm2以上の短時間強度を安定的に確保することができる。なお、本発明において材齢とはベースコンクリートに速硬材を添加してからの時間をいい、強度とは特に断らない限り圧縮強度を意味する。
【0022】
本発明の製造方法は、ベースコンクリートに凝結遅延剤を添加し、施工時に速硬材を加えるので、例えば、予め生コン工場で製造したベースコンクリートを施工現場のミキサーに搬送し、これに速硬材を混合して使用することができ、ベースコンクリートの搬送時間を充分に確保することができる。また、ベースコンクリートに速硬材を混合した後に充分な可使時間を得ることができるので、ベースコンクリートと速硬材を充分に混合した後に施工することができ、また充分な施工時間を確保できるため、高品質の速硬コンクリートを得ることができる。
【0023】
本発明の製造方法において、上記作用効果を損なわない範囲で、石膏やアルカリ金属硫酸塩等の硫酸塩、膨脹材、収縮低減剤、防錆剤、防水材、各種の繊維、各種の減水剤などの混和材料を必要に応じてベースコンクリート、速硬材および/または速硬コンクリートに添加することができる。例えば、ベースコンクリート、速硬材、速硬コンクリートの何れかに石膏を添加することによって、可使時間に殆ど影響することなく、速硬コンクリートの材齢12時間強度が30N/mm2以上となるので好ましい。また、ベースコンクリート、速硬材、速硬コンクリートの何れかに、石膏とアルカリ金属硫酸塩を併用して添加することによって、可使時間に殆ど影響することなく、速硬コンクリートの材齢12時間強度が40N/mm2以上となるのでより好ましい。なお、スラリー状の速硬材に硫酸塩が含まれていると速硬材自体が硬化し易くなる虞があるので、石膏やアルカリ金属硫酸塩等の硫酸塩を添加する場合は、ベースコンクリートの練混ぜ時または練混ぜ直後に添加することが好ましい。石膏を添加する場合、CA結晶を主成分とする速硬材100重量部に対し、50〜150重量部が好ましい。また、アルカリ金属硫酸塩を添加する場合、CA結晶を主成分とする速硬材100重量部に対し、3〜15重量部が好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。各例において、ベースコンクリートは表1に示す材料を用い、表2に示す重量比で配合したものである。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
〔実施例および比較例〕
表2に示すベースコンクリートの練混ぜ時に、表3または表4に示す組成(表中の%は重量%を意味する)の凝結遅延剤を添加し、コンクリートミキサーによって練混ぜ、さらに練混ぜ15分経過後に、表3または表4に示す速硬材を添加してコンクリートミキサーで混合し、速硬材混合後の可使時間、6時間〜12時間の材齢強度を測定した。この結果を表3および表4に示した。また、使用した速硬材を表5に示した。なお、可使時間および材齢強度は以下の方法で測定した。
【0028】
〔可使時間〕
スクイズ式コンクリートポンプを用いて作製した速硬コンクリートを循環し、圧送時の圧力が用いたコンクリートポンプの最大理論吐出圧力の80%以上となった時点までの、速硬コンクリート作製からの時間を可使時間とした。試験温度は、試料No.6及びNo.7のみ30℃、その他は20℃とした。
〔圧縮強度〕
日本工業規格のJIS A 1108-1999「コンクリートの圧縮強度試験方法」に従い測定した。試料作製時の温度および養生温度は、試料No.6およびNo.7のみ30℃、その他は20℃とした。
【0029】
本実施例の試料(No.1〜No.7)は何れも可使時間が1時間以上であり、材齢12時間強度が30N/mm2以上であった。特に、ベースコンクリートに石膏とアルカリ金属硫酸塩を添加した試料No.2〜No.7の材齢12時間強度は40N/mm2以上であった。
一方、表3に示す比較試料No.11〜No.14は遅延剤の成分が本発明と異なり、また比較試料No.15〜No.17は速硬材の成分が本発明と異なるので、充分な可使時間と高い材齢12時間強度を両立できない。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシカルボン酸またはその塩と炭酸リチウムよりなる凝結遅延剤をベースコンクリートの練混ぜ時または練混ぜ直後に添加し、この練混ぜたベースコンクリートにCaO・Al23結晶を主成分とする速硬材を施工時に添加することを特徴とする速硬コンクリートの製造方法。
【請求項2】
CaO・Al23結晶を主成分とする粉末状速硬材をスラリー状にしてベースコンクリートに添加する請求項1に記載の速硬コンクリートの製造方法。
【請求項3】
CaO・Al23結晶を主成分とする粉末状速硬材の粒子表層に予め水和反応相を形成した後にベースコンクリートに添加する請求項1または2に記載する速硬コンクリートの製造方法。
【請求項4】
温度20〜30℃において、1〜3時間の可使時間を保ち、20N/mm2以上の材齢12時間強度を有するコンクリートを製造する請求項1〜3の何れかに記載する速硬コンクリートの製造方法。



【公開番号】特開2007−45654(P2007−45654A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230649(P2005−230649)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】