説明

連続細胞培養で対象となるポリペプチドまたはウイルスを生成する方法

灌流開放系およびケモスタット開放系のある利点を組み合わせて、哺乳動物細胞、例えば、遺伝子的に修飾された細胞の、特に無血清培地もしくは既知組成培地中での培養を改善するケモスタット様連続細胞培養系が本明細書に記載される。本明細書に記載される連続培養系は、哺乳動物細胞を細胞保持デバイスを備える連続細胞培養系で培養することを含み、この細胞培養系は約2d−1未満の希釈率(D)および約2×10細胞/mL未満の細胞密度を有する。連続細胞培養で対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを生成する方法は、細胞保持デバイスを備え、約2d−1未満の希釈率(D)および約2×10細胞/mL未満の細胞密度を有する連続細胞培養系中で対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを発現する哺乳動物細胞を培養することと、前記細胞培養系の培地から対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを回収することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年7月31日に出願され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許仮出願第61/230,313号の利益を主張し、当該出願に対し、我々は優先権を主張する。
【0002】
本発明は、哺乳動物細胞培養で、対象となるポリペプチドまたはウイルスを生成するための、連続細胞培養戦略に関する。本明細書に記載される連続細胞培養戦略は、ケモスタットおよび灌流培養技術の利点を組み合わせる。
【背景技術】
【0003】
対象となるポリペプチドまたはウイルスを生成する能力は、生命工学産業において、ますます重要になっている。過去20年にわたる生命工学における進歩によって、ワクチンおよび医薬品として可能性のある治療用途を有する多数のポリペプチドおよびウイルスへの関心がもたらされた。大量生産は、概して、例えば、細菌性、酵母、昆虫、哺乳動物、または他の細胞型内での、対象となるポリペプチドまたはウイルスの組換え生成が含まれる。哺乳動物培養での対象となるポリペプチドまたはウイルスの生成は、特に、例えば、ジスルフィド依存性の折り畳みおよびグリコシル化を介して、複雑なタンパク質構造を翻訳後にプロセシングする哺乳動物細胞の能力のために、細菌または他のより低い微生物宿主内での生成を越える利点を有する。
【0004】
哺乳動物細胞は、概して、培養の大部分を通じて懸濁液中で自由に増殖する足場非依存性細胞として、またはそれらの繁殖のために固体基質への付着を必要とする足場依存性細胞として(すなわち、単層型の細胞増殖)の2つの様式のうちの1つで、生体外で繁殖される。両方の種類の増殖に対応するためのマイクロキャリア系が開発されている。例えば、足場依存性細胞は、増殖培地中に懸濁させた小固体粒子を含むマイクロキャリア系で、ゆっくりとかき混ぜることにより繁殖させることができる。この系によって、マイクロキャリアが増殖培地中で懸濁されたまま、足場依存性細胞が懸濁粒子の表面に付着し、培養密度まで増殖することができる。代替として、マクロ多孔性マイクロキャリアを使用して、例えば、足場非依存性細胞のかかるマイクロキャリアの表面への非特異的付着によって、バイオリアクター内にそれらの細胞を含有してもよい。足場非依存性細胞または足場依存性細胞のうちのいずれかのマイクロキャリア浮遊培養が、細胞および細胞生成物の大量生産に最も広く使用される手段である。
【0005】
大規模浮遊培養は、開放系よりも作用および拡大がより分かりやすい閉鎖系で、例えば、回分もしくは流加回分閉鎖系として操作されてもよい。典型的には閉鎖系では、(通気により空気(例えば、酸素)が添加され、COが除去される場合はあるが)細胞、生成物、および/または老廃物は除去されない。回分増殖系で見られる典型的な増殖プロファイルは、遅滞期、その後の対数期、静止期、および衰退期を含む。かかる回分系では、栄養素が枯渇し、代謝物が蓄積するため、環境が絶え間なく変化している。流加回分系では、細胞、生成物、副生成物、および毒性代謝物を含む老廃物は除去されないが、増殖周期を引き伸ばすために、主要な栄養素が系に連続的に流加される。したがって、回分または流加回分系による対象となるポリペプチドまたはウイルスの生成は、細胞および毒性代謝物等の有害物質の蓄積により制限される。
【0006】
大規模浮遊培養は、開放系、例えば、灌流系またはケモスタット系で操作することもできる。灌流系では、細胞が種々の細胞保持デバイスを用いて保持される間、新鮮な培地が培養を通じて灌流される。細胞保持デバイスの種類としては、例えば、マイクロキャリア、微細格子スピンフィルター、中空糸、平板膜フィルター、沈降管、超音波細胞保持デバイス等が挙げられる。典型的には、灌流培養は、細胞密度を最大限に増加させるように設計され、細胞保持デバイスは、90%を超える細胞保持率を有するように設計および操作される。かかる培養は、典型的には2×10を超える細胞密度に達し、これは、約2.0d−1を超える希釈率で、細胞培養培地の流加を補充しなければならない場合がある。しかしながら、この系の定常状態は、バイオマスの増加を制御できないことに起因して、維持が難しく、一貫した生成条件を制御および/または達成するのは困難である。
【0007】
ケモスタット系は、培地の連続的な流入、ならびに細胞および生成物の流出を伴って操作される。ケモスタット系では、細胞保持デバイスがなく、そのためバイオリアクター内の細胞の濃度、およびバイオリアクターから収穫された上清中の細胞の濃度が、実質的に同一である。典型的には、培養培地が所定の一貫した速度でリアクターに供給され、培養の低希釈率(典型的には0.3d−1〜0.8d−1)を維持する。細胞の洗い流しを阻止するために、希釈率は、概して細胞の最大比増殖速度未満、および時にはそれと同等が選択される。細胞、細胞生成物、副生成物、老廃物等を含有する培養流体は、同じ速度、または実質的に同じ速度で除去される。ケモスタット系は、典型的に、培養物が希釈率と同等の比増殖速度で平衡化、すなわち、定常状態に達することができるため、高度の制御を提供する。この平衡が、細胞、代謝物、老廃物、発現された生成物(例えば、分泌タンパク質)等の濃度を決定する。ケモスタット系での比増殖速度は、典型的には、少なくとも1つの制限基質のために最大増殖速度より低い。しかしながら、一部の系、例えば、ケモスタット培養のタービドスタット系では、バイオマスを制御および調整することによって、最大比増殖速度で定常状態を維持することができる。好ましくは、かかるケモスタット培養は、バイオリアクター全体で均質な細胞の分布(例えば、単一細胞懸濁液)を含む。しかしながら灌流系と比較して、ケモスタット系は、典型的にはより低い細胞密度をもたらす。さらに、ケモスタット系固有の不利点には、細胞の供給が、バイオリアクター系内の細胞密度から独立して制御できないことがある。
【0008】
無血清培地および/または既知組成培地中で組換えタンパク質を生成するための懸濁細胞培養もまた、無血清培地および/または既知組成培地が、典型的には、血清を含有する培地で増殖する細胞と比較して、より遅い増殖速度を支持することで制限される。培養中の増殖速度の低下は、対象となるポリペプチドまたはウイルスの生成の低下を意味する。
【0009】
したがって、例えば、低費用で生成を増加させる需要を満たす、特に長時間持続可能な培養のための、対象となるポリペプチドまたはウイルスを持続的に生成することができる細胞培養系の開発の必要性が残る。本発明は、これ、および他の必要性を満たすことを対象とする、方法および組成物を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
哺乳動物細胞、特に足場非依存性細胞中で対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを生成するための連続細胞培養が、本明細書に開示される。本明細書に開示される連続細胞培養方法は、灌流開放系およびケモスタット開放系の利点を組み合わせて、特に無血清培地または既知組成培地中での細胞密度および細胞増殖の増加を可能にする。細胞密度および細胞増殖の増加は、プロセスパラメータに対するより多くの制御を可能にしつつ、対象となるタンパク質および/またはウイルスの収率の改善を提供する。
【0011】
したがって、本発明の一態様は、連続細胞培養で対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを生成するための方法に関し、本方法は、細胞保持デバイスを備え、約2d−1未満の希釈率および約2×10細胞/mL未満の細胞密度を有する連続細胞培養系において、ポリペプチドおよび/またはウイルスを発現する哺乳動物細胞を培養することと、前記細胞培養系から除去された培地から、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを回収することと、を含む。いくつかの実施形態において、前記細胞は、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを組換え発現するように、遺伝子的に修飾される。
【0012】
いくつかの実施形態において、細胞保持デバイスは、典型的な細胞保持デバイスより細胞を保持する能力が低くなるように選択される。いくつかの実施形態において、細胞保持デバイスは、約90%未満、約85%未満、約80%未満、または約75%未満の細胞保持率を生成する。いくつかの実施形態において、細胞保持デバイスは、マクロ多孔性マイクロキャリア、例えば、セルロース系粒子を含む。
【0013】
希釈率および細胞密度は、好ましくは、選択された値または範囲に維持される。いくつかの実施形態において、希釈率は、約1d−1未満、例えば、約0.1d−1〜約1.0d−1である。いくつかの実施形態において、細胞密度は、約1×10細胞/mL未満である。いくつかの実施形態において、前記細胞培養系の希釈率と比増殖速度との比率(D/μ)は、選択された値または範囲に維持される。いくつかの好ましい実施形態において、前記細胞培養系は、約1を超える、例えば、約1.2〜約5.0、または約1.8〜約3の希釈率と比増殖速度との比率を有する。いくつかの実施形態において、比増殖速度は、0.2d−1〜0.8d−1に維持される。
【0014】
本明細書に記載される連続細胞培養系のある実施形態の利点は、培養を長時間持続可能なことである。いくつかの実施形態において、例えば、前記希釈率および/または細胞密度は、細胞が本連続細胞培養系で培養される時間の少なくとも約80%維持される。いくつかの実施形態において、細胞は、前記細胞培養系で、20日超、好ましくは40日超、より好ましくは50日を超えて培養されて、例えば、可能性として低コストでの、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスの生成の増加を可能にする。
【0015】
本連続細胞培養系のある実施形態の別の利点は、典型的なケモスタット培養と比較してより高い細胞密度に起因する、容積生産性の増加である。例えば、特定の好ましい実施形態において、容積生産性は、70%、90%、またはそれ以上増加する。本連続細胞培養系のある実施形態のなお別の利点は、例えば、培養装置内での滞留時間の減少に起因する、回収されるタンパク質の比活性の改善であり、これは、タンパク質の安定性、構造、および/または機能に対して有益な効果を有することができる。
【0016】
本明細書に記載される連続細胞培養系のある実施形態の別の利点は、本系が、大量生産のための拡大を受け入れられることである。つまり、標準的なケモスタット培養系と比較して増加した細胞密度および/または細胞増殖を可能にすることにより、本明細書に開示される連続細胞培養系は、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスの商業規模の生成を提供する。例えば、いくつかの実施形態において、細胞は、少なくとも約250Lの培地、例えば、少なくとも約500L、または少なくとも約1,000Lの培地中で培養される。いくつかの好ましい実施形態において、細胞は、無血清培地および/または既知組成培地中で培養される。
【0017】
いくつかの実施形態において、本方法は、例えば、本明細書に記載される連続細胞培養系で対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを生成するために、細胞を適合させるための、前培養ステップをさらに含む。故に、いくつかの好ましい実施形態において、本方法は、例えば、培養物が適切な容積に到達するまで、培養ステップの前に、細胞を懸濁液中で前培養するステップをさらに含む。
【0018】
特定の実施形態において、対象となるポリペプチドは、トロンボスポンジン1モチーフ13を有するジスインテグリン様およびメタロペプチダーゼ(ADAMTS13)タンパク質である。いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞は、CHO細胞、例えば、ADAMTS13タンパク質を発現するように遺伝子的に修飾されたCHO細胞である。特定の実施形態において、連続細胞培養で対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを生成するための方法が提供され、本方法は、(a)90%未満の細胞保持率を有する細胞保持デバイスを備え、0.1d−1〜1.0d−1の希釈率(D)および1×10細胞/mL未満の細胞密度を有する連続細胞培養系において、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを発現する足場非依存性の哺乳動物細胞を培養することと、(b)前記細胞培養系から除去された培地から、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを回収することと、を含む。
【0019】
別の特定の実施形態において、連続細胞培養で対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを生成するための方法が提供され、本方法は、(a)90%未満の細胞保持率を有するマクロ多孔性マイクロキャリアの細胞保持デバイスを備え、0.1d−1〜1.0d−1の希釈率(D)および1×10細胞/mL未満の細胞密度を有する連続細胞培養系において、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを発現する足場非依存性細胞のCHO細胞を培養することと、(b)前記細胞培養系から除去された培地から、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを回収することと、を含む。
【0020】
なお別の特定の実施形態において、連続細胞培養でADAMTS13を生成するための方法が提供され、本方法は、(a)90%未満の細胞保持率を有するマクロ多孔性マイクロキャリアの細胞保持デバイスを備え、0.1d−1〜1.0d−1の希釈率(D)および1×10細胞/mL未満の細胞密度を有する連続細胞培養系において、組換えADAMTS13タンパク質を発現する足場非依存性細胞の哺乳動物細胞を培養することと、(b)前記細胞培養系から除去された培地からADAMTS13を回収することと、を含む。
【0021】
また別の特定の実施形態において、連続細胞培養で対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを生成するための方法が提供され、本方法は、(a)90%未満の細胞保持率を有する細胞保持デバイスを備え、0.1d−1〜1.0d−1の希釈率(D)、1×10細胞/mL未満の細胞密度、および1.2〜5の希釈率と比増殖速度との比率(D/μ)を有する連続細胞培養系において、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを発現する足場非依存性細胞の哺乳動物細胞を培養することと、(b)前記細胞培養系から除去された培地から、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを回収することと、を含み、さらに、前記細胞は、前記細胞培養系で50日間を超えて培養され、前記希釈率、細胞密度、および希釈率と比増殖速度との比率はそれぞれ、前記細胞が前記細胞培養系で培養される時間の少なくとも80%維持される。
【0022】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載される方法によって生成される対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを含む組成物、例えば、それに従って生成される組換えADAMTS13タンパク質を含む、組成物に関する。
【0023】
本発明のこれらおよび他の態様を、より詳細に以下に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書に記載される連続細胞培養系は、哺乳動物細胞の灌流培養およびケモスタット培養の双方の利点のいくつかを兼ね備える。上述のように、灌流培養系は、細胞が細胞保持デバイスを使用して保持される間、細胞培養を通じて灌流する新鮮な培地を用いて操作され、一方ケモスタット培養系は、細胞保持デバイスを伴わずに、培地の連続的な流入ならびに細胞および生成物の流出を用いて操作される。
【0025】
本明細書に使用される、「灌流」は、細胞集団を通るもしくはその上の、生理学的栄養溶液の定常速度での連続流を指す。灌流系は、概して培養装置内での細胞の保持を含むため、灌流培養は、特徴的に比較的高い細胞密度を有するが、培養条件を維持および制御することが困難である。加えて、細胞が高密度まで増殖し、その後培養装置内で保持されるため、増殖速度が典型的には時間とともに連続的に現象し、細胞増殖の遅い対数期、またはさらには静止期をもたらす。対照的に、本明細書に使用される「ケモスタット」は、例えば、ケモスタット系でのような細胞培養を通じて培地が引き抜かれる、細胞および他の生成物の連続的な流出と併用される、生理学的栄養溶液の連続的な流入を指す。しかしながら、細胞が連続的に除去されるため、ケモスタット系は、典型的にはより低細胞密度のみに対応する。
【0026】
本明細書に記載される連続的培養戦略は、概して、連続細胞培養系での生成期の間に対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを発現する、哺乳動物細胞、例えば、足場非依存性細胞の培養を含む。「足場非依存性細胞」は、繁殖中に固体基質へ付着または固定されるのとは対照的に、培養の大部分を通じて懸濁液中で自由に増殖する細胞を意味する。連続細胞培養系は、灌流系で使用されるものと類似した細胞保持デバイスを備えるであろうが、細胞のかなりの部分の連続的な除去を可能にし、そのため好ましくは、灌流培養においてよりも少ない割合の細胞が保持される。「細胞保持デバイス」は、細胞、特に足場非依存性細胞を、細胞培養中に特定の位置に保持することができる任意の構造を指す。非限定的な例としては、足場非依存性細胞をバイオリアクター内に保持することができるマイクロキャリア、微細格子スピンフィルター、中空糸、平板膜フィルター、沈降管、超音波細胞保持デバイス等が挙げられる。対象となるポリペプチドおよび/またはウイルス(例えば、組換えポリペプチドおよび/または組換えウイルス)は、細胞培養系、例えば、細胞培養系から除去された培地から回収することができる。
【0027】
本明細書に開示される、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルス(例えば、組換えポリペプチドおよび/または組換えウイルス)を生成するための方法は、ケモスタット様培養系を提供し、かつ細胞保持デバイスを使用する、細胞培養法を含む。本系は、細胞保持デバイスを備える連続細胞培養系で、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを発現する哺乳動物細胞の培養を含む。細胞保持デバイスの役割は、使用済みの培養培地を新鮮な培地で補充する間、生存細胞の一部分、好ましくはかなりの部分の培養からの除去を阻止することである。成功である細胞保持デバイスは、以下の要件のできるだけ多くを満たすべきである:(1)細胞増殖および生産性への最小限の細胞損傷また影響、(2)生存細胞のみの選択的保持(非生存細胞は毒性代謝物を培養環境に放出するため、好ましくは培養から除去される)、(3)長期間の育成において中断されない操作、(4)低エネルギー消費、(5)操作および維持の簡素さ、(6)大量生産装置用の拡大能力、(7)小型構造、ならびに(8)費用対効果。
【0028】
特に好ましい実施形態において、使用される細胞保持デバイスは、細胞の部分的保持を可能にする。細胞保持デバイスおよび/または方法は、当該技術分野においてよく知られている。多くは、従来の沈降、遠心分離、および/または濾過技術に基づく。細胞保持デバイスの非限定的な例としては、マイクロキャリア、微細格子スピンフィルター等のスピンフィルター、中空糸、平板膜フィルター、沈降管、超音波細胞保持デバイス、重力沈降器、遠心分離機、音響細胞フィルター、誘電泳動に基づく細胞分離器等が挙げられる(例えば、米国特許第5,019,512号、同第5,626,734号を参照されたく、当該特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0029】
本明細書に記載される培養系の一実施形態によれば、細胞保持デバイスとしてマイクロキャリアが使用されてもよい。マイクロキャリアは、細胞保持を補助するために、足場非依存性細胞を不動化することができる、低費用の拡張可能な表面として作用する。本明細書に使用される、「マイクロキャリア」は、好ましくは細胞への著しいせん断損傷を生じない撹拌速度での、浮遊培養で使用されるために十分小さな粒子を指す。マイクロキャリアは固体、多孔質であってもよく、あるいは多孔質コーティングを持つ固形の核心を有してもよい。マイクロキャリアは、例えば、セルロースまたはデキストラン系であってもよいが、これらに限定されず、それらの表面(多孔質担体の場合は外部および内部の表面)が正に荷電されてもよい。マイクロキャリアに関するさらなる詳細は、例えば、国際公開第02/29083号に見出すことができ、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0030】
一実施形態において、マイクロキャリアはマクロ多孔性マイクロキャリアである。本明細書に使用される、「マクロ多孔性マイクロキャリア」は、粒子、例えば、セルロース系粒子を指し、これは以下の特性を有する:(a)好ましくは細胞への著しいせん断損傷を生じない撹拌速度での浮遊培養での使用を可能にするために十分小さい、および(b)内部空間に移動することを可能にするために十分な大きさである孔および内部空間を有する。それらの表面(外部および内部)は、一実施形態において、正に荷電されてもよい。一実施形態において、担体は、(a)約150〜約350μmの全体的粒径を有し、(b)約15〜約40μmの平均細孔開口系を有する細孔を有し、(c)約0.8〜2.0meq/gの正電荷密度を有する。いくつかの実施形態において、正電荷は、DEAE(N,N,−ジエチルアミノエチル)基により提供される。有用なマクロ多孔性マイクロキャリアとしては、CYTOPORE 1(商標)およびCYTOPORE 2(商標)(GE Healthcare Life Sciences、Piscataway,NJ)が挙げられるが、これらに限定されない。特に有用なマクロ多孔性マイクロキャリアは、230μmの平均粒径、30μmの平均細孔寸法、および1.8meq/gの正電荷密度を有する、CYTOPORE 2(商標)担体である。
【0031】
いくつかの実施形態において、培養装置がかき混ぜられる。かき混ぜは、当該技術分野で知られる、振盪、撹拌、揺動、振動等を含んでもよい。好ましい実施形態において、かき混ぜは、バッフルを備えたRushton型インペラを用いて達成される。このバッフルは、約40W/mの比出力/容積入力に対応する、約140rpmにおいてであってもよい。いくつかの実施形態において、比出力/容積入力は、約40W/mより大きく、例えば、約50W/m、約60W/m、約70W/m、約80W/m、またはそれ以上である。使用される特定の細胞または培養物に従って、好適である他の速度が使用されてもよい。
【0032】
本明細書に記載されるようなマイクロキャリアの濃度は、例えば、希釈率および細胞密度を特定の範囲に維持することを補助するために、概して低い。一実施形態において、培養装置は、0.05〜1.0g/Lの範囲の最終マイクロキャリア濃度に相当するマイクロキャリアの量を含むことができる。一実施形態において、最終マイクロキャリア濃度は、約0.05〜0.1g/Lである。一実施形態において、最終マイクロキャリア濃度は、約0.1〜0.25g/Lである。別の実施形態において、最終マイクロキャリア濃度は、約0.25〜0.5g/Lである。別の実施形態において、最終マイクロキャリア濃度は、約0.5〜0.75g/Lである。別の実施形態において、最終マイクロキャリア濃度は、約0.75〜1.0g/Lである。別の実施形態において、例えば、細胞密度および希釈率を所定の範囲内に調整するために、担体濃度が連続培養中に増加または減少されてもよい。
【0033】
開示される連続細胞培養系は、好ましい希釈率(D)および好ましい細胞密度を有する。特に、希釈率および細胞密度は、所定の値に、または所定の範囲内に維持される。さらに、開示される連続細胞培養系は、プロセス時間全体にわたる最低比増殖速度、または比増殖速度の所定の範囲を有することができる。
【0034】
希釈率(D)は、培養物の容積で割った1日当たりに補充される培地の容積を指す。本明細書に記載される連続細胞培養系は、細胞保持を含むが、連続細胞培養系の希釈率は、概して灌流培養のものより低く、例えば、約2希釈容積/日(2d−1)未満である。一実施形態において、希釈率は、約0.2d−1超〜約2.0d−1未満に維持される。別の実施形態において、希釈率は、約2.0d−1未満、例えば、約1.8d−1未満、例えば、約1.5d−1未満、例えば、約1.2d−1未満等に維持される。別の実施形態において、希釈率は、約1.0d−1未満、例えば、約0.9d−1未満、例えば、約0.8d−1未満、例えば、約0.7d−1未満、例えば、約0.6d−1未満等に維持される。別の実施形態において、希釈率は、約0.2d−1超、例えば、約0.3d−1超、例えば、約0.4d−1超、例えば、約0.5d−1超等に維持される。
【0035】
加えて、本明細書に記載されるような連続細胞培養系では、細胞密度が、灌流培養系で維持されるものより低いが、ケモスタット系で達成される細胞密度より高い値で維持される。一実施形態において、細胞密度は、約2×10細胞/mL未満、例えば、約1.5×10細胞/mL未満、例えば、約1×10細胞/mL未満、例えば、約8×10細胞/mL未満、例えば、約6×10細胞/mL未満、例えば、約5×10細胞/mL未満である。別の実施形態において、細胞密度は、約1×10細胞/mL超、例えば、約1.5×10細胞/mL超、例えば、約2×10細胞/mL超、例えば、約3×10細胞/mL超、例えば、約4×10細胞/mL超等であってもよい。別の実施形態において、細胞密度は、約1.0×10細胞/mL〜約2×10細胞/mLに維持される。別の実施形態において、細胞密度は、約2×10細胞/mL〜約4×10細胞/mLに維持される。別の実施形態において、細胞密度は、約5×10細胞/mL〜約1×10細胞/mL、例えば、約6×10細胞/mL〜約8×10細胞/mLに維持される。別の実施形態において、細胞密度は、約1×10細胞/mL〜約2×10細胞/mLに維持される。
【0036】
当業者は、細胞密度を維持することができる機構には、細胞保持デバイスによって保持される細胞の割合、すなわち、細胞保持率の低下が関与することを認識するだろう。概して、灌流培養は、90%または95%より高い細胞保持率を有し、多くの場合100%に近い。開示される連続細胞培養系では、細胞保持率は90%未満である。一実施形態において、細胞保持は、約85%未満、例えば、約75%未満である。一実施形態において、細胞保持率は、約70%未満、例えば、約60%未満、例えば、約50%未満、例えば、約40%未満、例えば、約30%未満である。一実施形態において、細胞保持は、約30%〜約90%に維持される。別の実施形態において、細胞保持は、約30%〜約80%に維持される。別の実施形態において、細胞保持は、約30%〜約70%に維持される。別の実施形態において、細胞保持は、約40%〜約60%に維持される。別の実施形態において、細胞保持は、約40%〜約70%に維持される。別の実施形態において、細胞保持は、約50%〜約90%に維持される。別の実施形態において、細胞保持は、約60%〜約90%に維持される。別の実施形態において、細胞保持は、約70%〜約90%に維持される。別の実施形態において、細胞保持は、約80%〜約90%に維持される。
【0037】
本培養はまた、希釈率と比増殖速度との比率も特徴とする。比増殖速度(μ)は、(総細胞量に対する)1日当たりの細胞量当たりの細胞量の増加を指す:μ=(ln(X/Xt−1))/((t)−(t−1))であって、式中、Xは、時間(t)におけるバイオマス濃度であり、Xt−1は、前の時点のバイオマスである。概して、本明細書に記載される連続培養系の比増殖速度は、所定の範囲内で一定であるべきであり、好ましくは、増殖に関連するポリペプチドおよび/またはウイルスの最低の発現を保証するように、特定の最低レベルを有する。例えば、本明細書に記載される連続培養系の比増殖速度は、約0.1d−1〜約1.0d−1であってもよい。一実施形態において、本明細書に記載される連続培養系により維持される比増殖速度は、約0.1d−1超、例えば、約0.15d−1超、例えば、約0.2d−1超、例えば、約0.25d−1超、例えば、約0.3d−1超、例えば、約0.35d−1超等である。別の実施形態において、本明細書に記載される連続培養系により維持される比増殖速度は、約1.0d−1未満、例えば、約0.8d−1未満、例えば、約0.7d−1未満、例えば、約0.6d−1未満、例えば、約0.5d−1未満、例えば、約0.45d−1未満である。別の実施形態において、比増殖速度は、約0.1d−1〜約0.45d−1に維持されてもよい。一実施形態において、本明細書に記載される連続培養系により維持される比増殖速度は、約0.15d−1〜約0.3d−1である。一実施形態において、本明細書に記載される連続培養系により維持される比増殖速度は、約0.2d−1〜約0.25d−1である。
【0038】
上述のように、本明細書に開示される連続培養系は、約2×10細胞/mL未満の細胞密度を維持する。細胞密度を上述のように維持することができる機構は、特定の希釈率/比増殖速度比の維持を含む。ケモスタット培養は、約1のD/μ比である、比増殖速度とほぼ等しい希釈率を有する。灌流培養は、概してより高い絶対希釈率および非常に低い比増殖速度を有するため、D/μ比が1より著しく大きい。しかしながら、本明細書に開示される連続培養系では、好ましくは、比増殖速度よりわずかに高い希釈率が維持される。したがって、本明細書に開示される連続培養では、1より大きいD/μ比が維持される。特に好ましい実施形態において、希釈率は、比増殖速度を所定の範囲内に維持するように、保持デバイスの効率に従って計算され、設定される。一実施形態において、希釈率と比増殖速度との比率は、約1.0超、例えば、約1.2超、例えば、約1.5超、例えば、約2超、例えば、約2.5超である。別の実施形態において、希釈率と比増殖速度との比率は、約5未満、例えば、約4未満、例えば、約3未満である。一実施形態において、D/μ比は、約1.2〜約5である。別の実施形態において、希釈率と比増殖速度との比率は、約1.8〜約3である。別の実施形態において、希釈率と比増殖速度との比率は、約2.0〜約2.5である。
【0039】
本発明の方法は、適切な培養装置またはバイオリアクター内で行うことができる。バイオリアクターは、細胞、例えば、哺乳動物細胞を培養するのに有用である限り、いかなる大きさであってもよい。低細胞密度を有するプロセスは、概して拡大が容易であるため、本発明の方法は、大規模培養(すなわち、250Lを超える培養容積を持つ)に特に有利である可能性があり、最低限の培養条件の修正によって、小さな実験室規模の培養(例えば、10L)から生産規模の培養(例えば、250L以上)への拡大を特に受け入れやすい可能性がある。pH、pO、および温度を含むが、これらに限定されない、培養装置の内部条件が、典型的には、培養期間の間制御される。生成培養装置とは、対象となるポリペプチド、ウイルス、および/または任意の他の生成物の生成に使用される最終培養装置を指す。大量生産培養装置の容積は、概して約250リットルより大きく、約300、約500、約800、約1000、約2500、約5000、約8000、約10,000、約12,0000L以上、またはいかなる中間の容積であってもよい。好適な培養装置または生成培養装置は、本明細書で企図される培養条件下で、培地中に懸濁される細胞培養を保持するために好適ないかなる材料、ならびに哺乳動物細胞増殖および生存率を助長する材料からなって(すなわち、構築されて)もよい。好適な材料の例としては、ガラス、プラスチック、および/または金属が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、材料は、所望の生成物、例えば、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスの発現および/または安定性に干渉しないか、著しくは干渉しないか、または実質的に干渉しない。当業者は、本連続培養系の実践において使用するために好適な培養装置を認識しており、かつ選択することができるであろう。
【0040】
いくつかの実施形態において、本細胞培養プロセスは、1つ以上の種(繁殖)培養装置、その後生成培養装置を使用する等の、1つを超える異なる培養装置で操作される。いくつかの実施形態において、次いで、本プロセスは、約50Lの繁殖された種培養物(約1.0×10細胞/mLを有する)を、約150Lの培養培地を含有する250Lの培養装置に移すことを含む。概して、本明細書に記載される連続培養系は、生成培養装置にのみ適用される。例えば、種哺乳動物細胞を、まず、例えば、回分、流加回分、灌流、および/またはケモスタット系で、1つ以上の種培養装置内で繁殖することができる。この細胞を生成培養装置に移した後、細胞を、本明細書に記載される連続培養系に従って、例えば、約2d−1未満の希釈率、および約2×10細胞/mL未満の細胞密度を有する細胞培養系で、細胞保持デバイスを用いて培養することができる。
【0041】
代替として、細胞の生成培養装置への拡大と生成期とが、1つの物理的培養装置内で達成されてもよい。例えば、細胞を最終生成規模に拡大し、プロセスを生成条件に切り替えてすぐ、本明細書に記載される連続細胞培養系のための条件が使用されてもよい。
【0042】
予想外に、本発明の培養方法を使用して、例えば、ケモスタット系または灌流系のものと類似の期間の間、生成期に対応するように、細胞密度および希釈率を所定の範囲内に維持することができることが発見された。「所定の範囲」とは、対象範囲、例えば、本発明の実施形態に従う連続培養系の操作のための、本明細書に記載される範囲を意味する。例えば、いくつかの実施形態において、希釈率の対象範囲は0.2d−1〜2.0d−1であり、細胞密度は2×10細胞/mL未満である。別の実施形態において、希釈率は、2.0d−1未満、例えば、1.8d−1未満、例えば、1.5d−1未満、または例えば、1.2d−1未満に維持され、細胞密度は、1.5×10細胞/mL未満、例えば、1×10細胞/mL未満、または例えば、8×10細胞/mL未満である。いくつかの実施形態において、比増殖速度は0.1d−1〜1.0d−1であり、希釈率と比増殖速度との比率は1.2〜5である。いくつかの実施形態において、希釈率の対象範囲は0.5d−1〜1.0d−1であり、細胞密度は5×10細胞/mL未満である。いくつかの実施形態において、比増殖速度は0.15d−1〜0.3d−1であり、希釈率と比増殖速度との比率は1.8〜3である。いくつかの実施形態において、比増殖速度は0.2d−1〜0.25d−1であり、希釈率と比増殖速度との比率は2.0〜2.5である。特に好ましい実施形態において、細胞密度は5×10細胞/mL以下であり、希釈率は0.6d−1未満であり、比増殖速度は0.18〜0.27d−1である。別の特に好ましい実施形態において、細胞密度は5×10細胞/mL未満であり、希釈率は0.55〜0.6d−1であり、比増殖速度は0.16〜0.26d−1である。実施形態は、総連続培養時間および/または生成期時間の少なくとも約50%、例えば、少なくとも約60%、例えば、少なくとも約70%、例えば、少なくとも約80%、例えば、少なくとも約90%、例えば、少なくとも約95%、例えば、少なくとも約98%、希釈率、および/または細胞密度、および/または比増殖速度、および/または希釈率と比増殖速度との比率を、対象範囲(例えば、上記に記載のもの)内に維持することを含む。
【0043】
本明細書に記載される連続細胞培養系は、哺乳動物細胞からの対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスの持続的な生成を可能にすることができる。いくつかの実施形態において、これらの細胞は、約7日を超える総連続細胞培養時間、培養される。より好ましい実施形態において、細胞は、約9日間を超えて、約14日間を超えて、約21日間を超えて、約28日間を超えて、約35日間を超えて、約40日間を超えて、約45日間を超えて、または約50日間を超えて培養される。
【0044】
「細胞培養培地」および「培養培地」(または単に「培地」)という用語は、典型的には以下のカテゴリーのうちの1つ以上からの少なくとも1つの成分を提供する、真核細胞を増殖するために使用される栄養溶液を指す:(1)培地のオスモル濃度に寄与する塩類(例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等)、(2)通常グルコース等の炭水化物の形態の、エネルギー源、(3)全ての必須アミノ酸、および通常基本的な一連の20種のアミノ酸、(4)低濃度で必要とされるビタミンおよび/または他の有機化合物、ならびに(5)典型的には、通常ミクロモルの範囲の非常に低い濃度で必要とされる無機化合物として定義される、微量元素。栄養溶液は、任意に、以下のカテゴリーのいずれかからの成分のうちの1つ以上で補われてもよい:(a)動物血清、(b)ホルモンならびに例えば、インスリン、トランスフェリン、および上皮増殖因子等の他の増殖因子、ならびに(c)植物、酵母、および/または組織の加水分解物(そのタンパク質加水分解物を含む)。
【0045】
本連続培養系は、無血清培地、既知組成培地、または動物由来成分を欠く培地で、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを発現する哺乳動物細胞を育成する際に、特定の用途を見出す。既知組成培地は、全ての成分が既知の化学構造を有する培地である。既知組成培地は、商業的供給業者、例えば、Sigma、JRH Biosciences、Gibco、およびGeminiから入手可能である。本発明の他の実施形態において、培地は、1つ以上のアミノ酸を添加すること、またはペプトンもしくはタンパク質加水分解物(1つまたは複数の動物、酵母、もしくは植物源からの加水分解物を含む)を添加することに由来するアミノ酸を含むが、これらに限定されない、任意の源または当該技術分野において知られる方法に由来するアミノ酸を含有してもよい。
【0046】
本発明の条件下で細胞増殖および維持を支持する、いかなる細胞培養培地が使用されてもよい。典型的には、培地は、水、オスモル濃度調節剤、緩衝液、エネルギー源、アミノ酸、無機もしくは組換え鉄源、1つ以上の合成もしくは組換え増殖因子、ビタミン、および共同因子を含有する。好ましい実施形態において、培養培地は動物由来成分を欠く。本明細書に使用される、「動物由来」成分は、無傷の動物内で生成される任意の成分(例えば、血清から単離および精製されたタンパク質等)、または無傷の動物内で生成される成分を使用して生成される任意の成分(例えば、動物から単離および精製された酵素を使用して、植物源材料を加水分解することにより作製されたアミノ酸)である。対照的に、動物タンパク質の配列を有する(すなわち、動物にゲノム起源を有する)が、細胞培養で、無傷の動物内で生成された、または無傷の動物から単離および精製された成分を欠く培地を使用して、生体外(例えば、組換え酵母もしくは細菌性細胞内、または組換えまたは組換えでない、確立された連続真核細胞株内等)で生成されるタンパク質は、「動物由来」成分ではない。例えば、酵母もしくは細菌性細胞内で生成されたインスリン、または例えば、CHO、BHK、もしくはHEK細胞等の確立された哺乳動物細胞株内で生成されたインスリン、あるいはNamalwa細胞で生成されたインターフェロンは、「動物由来」成分を構成しない。したがって、動物由来成分を欠く細胞培養培地は、組換えにより生成された動物タンパク質を含有することのできるものであるが、しかしかかる培地は、例えば、動物血清、または動物血清から精製されたタンパク質もしくは他の生成物を含有しない。かかる培地は、例えば、植物由来の1つ以上の成分を含有する場合がある。
【0047】
本発明のさらに他の実施形態において、細胞増殖期の間に使用される培地は、濃縮培地、すなわち、増殖する培養物に通常必要であり、通常提供されるものより高濃度の栄養素を含有する培地を含有する。当業者は、どの細胞培地、播種培地等が、特定の細胞、例えば、動物細胞(例えば、CHO細胞)の培養に適しているかを認識するであろう。例えば、当業者は、特定の培養のために、グルコースおよびグルタミン、鉄、微量元素等の他の栄養素の量、ならびに例えば、気泡の量、オスモル濃度等の他の培養変数を好適に選択することができるであろう(例えば、Mather,J.P.,et al.(1999)“Culture media,animal cells,large scale production,”Encyclopedia of Bioprocess Technology:Fermentation,Biocatalysis,and Bioseparation,Vol.2:777−785(特に780〜783頁)、米国特許出願公開第2006/0121568号(特に段落[0144]〜[0185]および[0203]〜[0331])を参照されたく、これらはともに、ここで参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。本発明はまた、例えば、かかる培地の栄養素を濃縮した変形物、濃縮培地、既知組成培地、無血清培地、および本発明の種々の実施形態に従って別様に修正される培地を含む、かかる既知の培地の変形物も企図する。
【0048】
本連続培養系は、いかなる種類の足場非依存性の哺乳動物細胞にも限定されない。哺乳動物細胞は、対象となる組換えポリペプチド(および/または組換えウイルス)を発現する、遺伝子的に修飾された哺乳動物細胞、または対象となるポリペプチド(および/またはウイルス)を発現する、修飾されていない哺乳動物細胞であり得る。多くの哺乳動物細胞株が、ポリペプチドおよび/またはウイルスの組換え発現に好適な宿主細胞である。哺乳動物の宿主細胞株としては、例えば、COS、PER.C6、TM4、VERO、MDCK、BRL−3A、W138、Hep G2、MMT、MRC 5、FS4、CHO、293T、A431、3T3、CV−1、C3H10T1/2、Colo205、293、HeLa、L細胞、BHK、HL−60、FRhL−2、U937、HaK、Jurkat細胞、Rat2、BaF3、32D、FDCP−1、PC12、M1x、マウス骨髄腫(例えば、SP2/0およびNS0)、およびC2C12細胞、ならびに形質転換された霊長類細胞株、ハイブリドーマ、正常二倍体細胞、一次組織および一次外植片の生体外培養に由来する細胞株が挙げられる。開示される細胞培養法において、浮遊培養に適合させることができるいかなる哺乳動物細胞が使用されてもよい。非限定的な例としては、血清および好適な表面の存在下で育成される際には足場依存性であるが、浮遊培養での増殖に容易に適合される、CHO細胞が挙げられる(例えば、Rasmussen 1998,Cytotechnology 28:pp31−42、特に無血清CHO細胞株の培養に関する34〜37頁を参照されたい)。また、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを発現することができる(組換えによって生成されるかどうかに関わらず)、いかなる哺乳動物細胞が、開示される細胞培養法で使用されてもよい。一実施形態において、本明細書に開示される連続細胞培養法を使用して、足場依存性細胞株を、足場非依存性細胞株に適合させることができる。多数の細胞株が、米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(ATCC)等の商業的供給源から入手可能である。一実施形態において、本連続細胞培養系は、遺伝子的に修飾されたCHO細胞を培養するために使用される。
【0049】
本明細書に記載されるように、本連続細胞培養系は、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルス(例えば、組換えポリペプチドおよび/または組換えウイルス)の回収を可能にする。ポリペプチドおよび/またはウイルスは、典型的には、本系から除去された使用済みの培地から回収される。本発明の好ましい実施形態の利点には、バイオリアクター内のタンパク質および/またはウイルスの滞留時間の短縮が含まれ、これは、分解の影響を受けやすい生成物に特に有用である。しかしながら、本明細書に開示される連続細胞培養系は、そのような不安定なポリペプチドまたはウイルスに限定されず、対象となる他のポリペプチドまたはウイルスの回収に使用することができる。
【0050】
本発明は、内在性遺伝子からであるか、自然感染からであるか、あるいは対象となるタンパク質もしくはウイルスをコードする組換え遺伝子のかかる細胞への導入後であるかに関わらず、対象となる1つ以上のタンパク質および/またはウイルスを発現する、哺乳動物細胞の大規模連続培養を改善するための方法に関する。かかるタンパク質には、非限定的な例として、酵素、ホルモン、抗体、タンパク質受容体、融合タンパク質(例えば、可溶性受容体とIgGのFcドメインとの融合物)、ワクチン、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、血液因子タンパク質等が挙げられる。一実施形態において、対象となるタンパク質はADAMTS13である。別の実施形態において、対象となるタンパク質は、第VII因子または第VIII因子である。別の実施形態において、対象となるタンパク質は、アルファ1−プロテイナーゼ阻害剤である。
【0051】
また、本発明は、野生型であるか組換えであるかに関わらず、対象となる1つ以上のウイルス(ウイルス粒子およびウイルスベクターを含む)を発現する哺乳動物細胞の大規模連続培養を改善するための方法にも関する。かかる野生型または組換えウイルスのウイルス粒子および/またはウイルスベクターの非限定的な例としては、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、インフルエンザウイルス等が挙げられる。組換えウイルス、ウイルス粒子の生成、および組換えウイルスベクターの使用は、当該技術分野においてよく知られている。ウイルスの発現について、本発明による方法は、例えば、HEK293または他のヒトもしくは哺乳動物細胞株中の、例えば、ベロ細胞、またはレンチウイルス中での、例えば、A型肝炎およびTBE等の非溶解性ウイルスでの感染およびその発現に特に好適であるが、それらに限定されない。
【0052】
培地が一旦培養装置から除去されると、対象となるタンパク質および/またはウイルスを得るための1つ以上のプロセシングステップに供することができる。下流プロセシングステップとしては、前に培養から引き抜かれなかった細胞を除去するための遠心分離および/または濾過、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動手順(例えば、分取等電点電気泳動(IEF))、示差溶解度(differential solubility)(例えば、硫酸アンモニウム沈殿法)、抽出等が挙げられるが、これらに限定されない。概して、Scopes,Protein Purification,Springer−Verlag,New York,1982、およびProtein Purification,J.−C.Janson and Lars Ryden,editors,VCH Publishers,New York,1989を参照されたい。
【0053】
ある実施形態において、哺乳動物細胞は、前培養ステップ、例えば、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスの生成のために細胞を適合させる前培養ステップに供される。いくつかの実施形態において、適合は、例えば、培養物が、例えば、約5L、約8L、約10L、約12L、約15L、または約20L等の所望の最終作業容積に達するのを可能にする時間の間、懸濁液中で細胞を前培養することを含む。この時点で、培養を連続培地供給に切り替えて、本明細書に記載される連続細胞培養系に従って操作することができる。
【0054】
本明細書に開示される発明の例示的実施形態を、以下に提供する実施例の項でさらに考察する。しかしながら、本実施例、およびその特定の詳細は、決して本発明を制限することを意図していない。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
ケモスタット培養物を、表1.1に示されるように補われた既知組成BACD−A13培地(DMEM/F12濃縮配合)中で、ヒトADAMTS13を発現する組換えCHO細胞株を用いて調製した。
【0056】
【表1−1】

【0057】
ヒトADAMTS13を発現する組換えCHO細胞を、既知組成培地、すなわち、表1.2に示されるBCS培地に適合させた。
【0058】
【表1−2】

【0059】
Development Working Cell Bankを解凍し、細胞播種材料をBCS培地中で調製した。細胞を、Rushton型インペラを備える10Lの培養装置に移し、以下のようなインライン制御パラメータを用いて、BACD−A13培地中で、反復回分培養で育成した:pH7.10、温度36℃、および溶存酸素20%の空気飽和。
【0060】
2度の回分式の後、培養物は最終作業容積の10Lに達し、培養を4日目に連続培地供給に切り替え、18日目までケモスタット様式で操作した。
【0061】
この培養から、Rushton型インペラおよび細胞保持デバイスを備える第2の10Lの培養装置に、同じ細胞培養培地を使用してケモスタット様灌流で播種し、8日間反復回分培養で育成した。CYTOPORE 2(商標)マイクロキャリア(GE Healthcare)を添加し(0.25g/L)、この培養装置を、さらに、ケモスタット様式のもう一方の培養装置と並行して、連続的なケモスタット様灌流様式で操作した。培養装置を、約40W/mの比出力/容積入力に対応する140rpmで、バッフルを備えるRushton型インペラを用いて撹拌した。
【0062】
両方の培養装置を並行して24日間操作した。データは3週間隔および追加の3日間隔で計算した(表1.3.(ケモスタット)および表1.4(ケモスタット様灌流)。表1.3の4つの間隔(26〜32日目、33〜39日目、40〜46日目、および47〜49日目)からのデータを、表1.4に示される4つの間隔(9〜15日目、16〜22日目、23〜29日目、および30〜32日目)と直接比較した。
【0063】
培養装置から試料を取り、ELISAによりADAMTS13濃度、およびFRETS−73アッセイによりADAMTS13活性を分析した。細胞数は、Nucleocounter技術により決定した。灌流培養物について、総細胞数および上清中の細胞数を、相対的細胞保持を計算するために別個に測定した。希釈率を測定し、増殖速度および容積生産性を計算するために使用した。等式を以下に提供する。
【0064】
ケモスタット培養での増殖速度(μ)は、以下の等式を使用して計算した:
μ=D+ln(X/Xt−1)/(t−t−1)、式中、D=希釈率、X=時間tでの総細胞密度、および(t−t−1)=tとt−1との間の時間。
【0065】
ケモスタット様灌流培養の増殖速度(μ)は、以下の等式を使用して計算した:μ=ln(X/Xt−1)/(t−t−1)+D×(logmean XSN/logmean X)/(t−t−1)、式中、D=希釈率、X=時間tでの総細胞密度、(t−t−1)=tとt−1との間の時間logmean X=総細胞密度の対数平均=(X−Xt−1)/(ln(X)−ln(Xt−1))、およびlogmean XSN=上清細胞密度の対数平均。
【0066】
細胞保持率は、100×(1−XSN/X)[%]として計算した。
【0067】
【表1−3】

【0068】
【表1−4】

【0069】
回分培養での細胞の比増殖速度は、約0.42d−1であった、ケモスタット培養への切り替え後、約0.30d−1への比増殖速度の低下が観察され、これは、本既知組成培地中の増殖制限状態を示している。細胞密度は、1.8〜2×10細胞/mLの範囲で平衡化した。かかる連続培養条件下で、定常状態に達し(間隔12〜18で開始)、2500U/L/d超を達成することができる。
【0070】
上で述べたように、18日目に細胞保持デバイスを備える培養装置に播種後、細胞を、連続的なケモスタット様灌流様式でさらに育成した。細胞保持のために、ケモスタット様灌流培養中の細胞密度が増加した。しかしながら、比較的低い細胞保持率(平均72%、範囲60%〜84%)のために、細胞密度は1×10細胞/mL未満の比較的低いレベルに維持され(平均4.93×10細胞/mL)、最大希釈率は0.62d−1であった。
【0071】
また、この低い細胞保持率により、過剰な細胞密度に至ることなく、細胞が、0.18〜0.27d−1の連続的な比増殖速度を維持することも可能になった。これは、増殖に関連する様態で組換えタンパク質を発現する組換え細胞にとって、利点であると考えられる。比生産性の減少(例えば、1400mU/E06/dに対して974mU/E06/d)にも関わらず、容積生産性は、約2.8倍高い細胞密度のために2648U/L/dから4538U/L/dへと70%を超えて増加した。組換えタンパク質の比活性もまた、おそらく培養装置内での滞留時間の短縮により改善され(834U/mgに対して941U/mg)、それにより安定性、または発現した組換えADAMTS13の構造および機能への任意の他の有益な効果を改善する。
【0072】
(実施例2)
ケモスタット培養物を、表1.1に示されるように補われた既知組成BACD−A13培地(DMEM/F12濃縮配合)中で、ヒトADAMTS13を発現する組換えCHO細胞株を用いて調製した。
【0073】
ヒトADAMTS13を発現する組換えCHO細胞を、既知組成培地、すなわち表1.2に示されるBCS培地に適合させた。Development Working Cell Bankを解凍し、細胞播種材料をBCS培地中で調製した。細胞を、ブレードインペラを備える1.5Lの培養装置に移し、インライン制御されたpH7.1、温度36℃、および溶存酸素20%の空気飽和を用いて、BACD−A13培地中で、反復回分培養で育成した
【0074】
2度の回分式の後、培養物は最終作業容積の1.5Lに達し、培養を5日目に連続培地供給に切り替え、7日目までケモスタット様式で操作した。
【0075】
この培養から、ブレードインペラを備える細胞保持デバイスを備える第2の培養装置に、同じ細胞培養培地を使用して播種し、回分培養で1日育成した。CYTOPORE 2(商標)マイクロキャリア(GE Healthcare)を添加し(0.25g/L)、この培養装置を、さらに、ケモスタット様式のもう一方の培養装置と並行して、連続的なケモスタット様灌流様式で操作した。
【0076】
両方の培養装置を並行して28日間操作した。データを4週間隔(表2.1(ケモスタット)および2.2(ケモスタット様灌流様式))で計算した。
【0077】
培養装置から試料を取り、ELISAによりADAMTS13濃度、およびFRETS−73アッセイによりADAMTS13活性を分析した。細胞数は、Nucleocounter技術により決定した。ケモスタット様灌流培養について、総細胞数および上清中の細胞数を、相対的細胞保持を計算するために別個に測定した。希釈率を測定し、増殖速度および容積生産性を計算するために使用した。
【0078】
ケモスタット培養での増殖速度(μ)は、以下の等式を使用して計算した:
μ=D+ln(X/Xt−1)/(t−t−1)、式中、D=希釈率、X=時間tでの総細胞密度、および(t−t−1)=tとt−1との間の時間。
【0079】
ケモスタット様灌流培養での増殖速度(μ)は、以下の等式を使用して計算した:μ=ln(X/Xt−1)/(t−t−1)+D×(logmean XSN/logmean X)/(t−t−1)、式中、D=希釈率、X=時間tでの総細胞密度、(t−t−1)=tとt−1との間の時間、logmean X=総細胞密度の対数平均=(X−Xt−1)/(ln(X)−ln(Xt−1))、およびlogmean XSN=上清細胞密度の対数平均。
【0080】
細胞保持率は、100×(1−XSN/X)[%]として計算した。
【0081】
【表2−1】

【0082】
【表2−2】

【0083】
回分培養でADAMTS−13を発現する組換えCHO細胞の比増殖速度は、約0.51d−1であった。ケモスタット培養への切り替え後、0.30d−1未満への比増殖速度の低下が観察され、これは、この既知組成培地中の増殖制限状態を示している。細胞密度は、0.25〜0.27d−1の比増殖速度で0.8〜1.2×10細胞/mLの範囲で平衡化した。かかる連続培養条件下で、定常状態に達した(間隔16〜36で開始)。09〜36日目の4つの間隔全ての平均生産性は、920U/L/dであった。
【0084】
上述のように、7日目に細胞保持デバイスを備える培養装置に播種後、細胞を、連続的なケモスタット様様式でさらに育成した。表2.1の4つの間隔(9〜15日目、16〜22日目、23〜29日目、および30〜36日目)からのデータならびに9〜36日目の平均値を、表2.2の4つの間隔(2〜8日目、9〜15日目、16〜22日目、および23〜29日目)からのデータならびに2〜29日目の平均値と直接比較した。
【0085】
次いで、ケモスタット様灌流培養の長期安定性を示すために、ケモスタット様灌流培養を別の3つの間隔(30〜36日目、37〜43日目、および44〜49日目)で、(参照としてケモスタットなしで)操作した。7週間の連続培養の平均値を、表2.2に提供する(2〜49日目の平均)。
【0086】
細胞保持のために、灌流培養物中の細胞密度は増加した。しかしながら、比較的低い細胞保持率(02〜29日目の平均:61%、02〜49日目の平均:68%、範囲38%〜72%)のために、細胞密度は、5×10細胞/mL未満の比較的低いレベルに維持された(02〜49日目の平均=3.49×10細胞/mL)。約0.60d−1の最大希釈率には3番目の間隔で達し、その後実験の最後まで、0.55d−1〜0.60d−1で一定のままであった(02〜49日目の平均:0.55d−1)。
【0087】
また、この低細胞保持率により、過剰な細胞密度に至ることなく、細胞が、0.16〜0.26d−1の連続的な比増殖速度を維持することも可能になった(02〜49日目の平均:0.22d−1)。比生産性の減少(例えば、799mU/E06/dに対して595mU/E06/d)にも関わらず、容積生産性は、約2.8倍高い細胞密度のために920U/L/dから1807U/L/d(最初の4つの間隔の平均)へと90%を超えて増加した。ケモスタット様培養の生産性は、追加の3つの間隔について、1500〜1600U/L/dの範囲で比較的安定したままである。
【0088】
実施例1と同様、細胞保持率を低下させながら連続的浮遊培養を安定化させる本アプローチが、ある培養条件下(例えば、既知組成培地を使用する場合)での、深刻な増殖制限の不利点を補うことができることが示された。したがって、細胞保持の制御により、培養を、比較的中程度の細胞密度、および比較的低く一定な希釈率で維持することが可能になった。また、比較的低い細胞保持率のために、例えば、比増殖速度によって示されるように、本培養は、連続的浮遊培養の特性のより多くを保持した。
【0089】
本明細書において参照される全ての特許、特許公開、および他の刊行物は、各個々の刊行物、特許、または特許公開が、参照により組み込まれると具体的かつ個々に示されているのと同程度において、参照により本明細書に組み込まれる。
【0090】
前述の説明の閲覧により、当業者にはある修正および改善が思い浮かぶであろう。全てのかかる修正および改善が、簡潔さおよび読みやすさのために、本明細書では削除されていることを理解されたい。とはいえ、全てのかかる修正および改善が、本発明の範囲内であるとして企図され、正確に以下の特許請求の範囲の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続細胞培養で対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを生成するための方法であって、前記方法は、
(a)細胞保持デバイスを備え、2d−1未満の希釈率(D)および2×10細胞/mL未満の細胞密度を有する連続細胞培養系において、前記対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを発現する哺乳動物細胞を培養することと、
(b)前記細胞培養系から除去された培地から、前記対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを回収することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記細胞保持デバイスは、90%未満の細胞保持率を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記希釈率は、0.1d−1〜1.0d−1である、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞密度は、1×10細胞/mL未満である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞培養系は、1.2〜5の希釈率と比増殖速度との比率(D/μ)を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞培養系は、0.2d−1〜0.8d−1の比増殖速度を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞は、20日間を超えて前記細胞培養系で培養される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞は、40日間を超えて前記細胞培養系で培養される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞は、50日間を超えて前記細胞培養系で培養される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記希釈率および前記細胞密度は、前記細胞が前記細胞培養系で培養される時間の少なくとも80%維持される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞保持デバイスは、マクロ多孔性マイクロキャリアを備える、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞は、無血清培地中で培養される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞は、少なくとも250Lの培地中で培養される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞は、足場非依存性細胞である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記培養ステップの前に、懸濁液中で前記細胞を前培養することをさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞は、前記対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを発現するように、遺伝子的に修飾される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞は、CHO細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリペプチドは、トロンボスポンジン1モチーフ13を有するジスインテグリン様およびメタロペプチダーゼ(ADAMTS13)タンパク質である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法によって生成される、対象となるポリペプチドおよび/またはウイルスを含む、組成物。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法によって生成される組換えADAMTS13タンパク質を含む、組成物。

【公表番号】特表2013−500710(P2013−500710A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522190(P2012−522190)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061191
【国際公開番号】WO2011/012725
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【Fターム(参考)】