説明

連続鋳造のブレークアウト予知方法

【課題】ブレークアウトの発生を予知するに際し、誤検知の抑制と未検知の抑制の双方を両立して、ブレークアウトの検知精度を向上でき、更には連続鋳造設備の被害や鋳片の生産性の低下の防止を図ることが可能な連続鋳造のブレークアウト予知方法を提供する。
【解決手段】連続鋳造用鋳型10に埋設した温度検出端11により、連続鋳造用鋳型10の温度を予め設定した測温周期tmで測定し、測温結果から得られる連続鋳造用鋳型10の時系列の温度推移を用いてブレークアウトを予知する方法において、時系列の温度推移を、温度検出端11の測温結果から、0.2秒以上5秒以下の範囲内のサンプリング周期tsごとに抽出される複数の時系列サンプリング群の温度推移で構成し、しかも各時系列サンプリング群を、サンプリング周期ts内で測温周期tmの整数倍ごとにずらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造の際に発生するブレークアウトを事前に予知する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレークアウトとは、連続鋳造の際に、鋳片の凝固シェルが何らかの原因で破れ、その内部から溶鋼が漏れ出す現象をいう。
ブレークアウトが発生した場合、連続鋳造設備の鋳型やロール、更には鋳片の冷却用水スプレー装置に溶鋼が漏れ出し、これら装置の損傷に直結するため、ブレークアウトの発生を防止することが重要であった。また、ブレークアウトに至らないまでも、凝固シェルの亀裂から溶鋼が染み出す現象、いわゆるブリード疵が発生する場合もあり、このブリード疵もブレークアウトに直結するため、その発生防止が重要であった。なお、以下の記載においては、ブリード疵の発生も含めて、ブレークアウトと称する。
【0003】
上記したブレークアウトの発生防止には種々の対策があるが、特に、ブレークアウトの発生を予知すること(前駆現象段階で検知すること)が重要である。ブレークアウトの発生を高精度に予知できれば、その前駆現象段階で、鋳造速度の低下等の操業条件の変更を実施することができ、これにより、ブレークアウトの発生を未然に防止することが可能となるからである。
そこで、従来は、ブレークアウトの予知方法として、以下に示す種々の方法が開示されていた。
【0004】
例えば、特許文献1には、連続鋳造用鋳型の温度を測定し、単位時間あたりの温度変化量(ΔT/Δt)を算出して、その変化量がしきい値を超えた場合に、ブレークアウトが発生すると予知する方法が記載されている。また、過去のしきい値を複数回分用いて標準偏差を算出し、しきい値を更新することも記載されている。更には、0.5〜1秒の所定ピッチで取り込まれる温度データを用いて、上記した温度変化量を算出し、ブレークアウトの予知処理に用いることも記載されている。
【0005】
特許文献2にも、温度変化量(ΔT/Δt)を用いてブレークアウトを予知することが記載されている。具体的には、温度変化量がしきい値以上である場合、かつ連続鋳造用鋳型の引き抜き方向の上方部と下方部の所定位置でそれぞれ温度を測定し、2箇所の温度差がしきい値以上である場合に、ブレークアウトが発生すると予知している。更に、測温周期を数百m秒〜数秒とし、その周期で取り込まれる温度データを用いて、温度変化量を算出している。
【0006】
特許文献3には、連続鋳造用鋳型の温度測定結果の時系列温度データをパターン化し、測定した温度パターンと、過去に得られたブレークアウトの有無が既知である温度パターンとを比較して、ブレークアウトの有無を判定することが記載されている。また、ブレークアウトが発生する温度パターンは、学習機能を有する情報処理を適用して随時更新することが記載されている。更に、3秒ごとに求められる温度検出値の微分情報を、上記した判定に用いることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−180261号公報
【特許文献2】特開昭61−46362号公報
【特許文献3】特開平3−221252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の方法には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
特許文献1の方法は、本発明者らの知見によると、測定した温度データのばらつきを小さくし、ブレークアウトの誤検知を防止することには一定の効果があるが、ブレークアウトの未検知を招くため、その検知精度が不足している。なお、誤検知(過検知ともいう)とは、ブレークアウトが実際には発生しないのに、ブレークアウトが発生すると予知することをいい、未検知とは、ブレークアウトが実際には発生したのに、ブレークアウトの発生を予知できないことをいう(以下、同様)。
【0009】
また、特許文献2の方法も、温度変化量(ΔT/Δt)がしきい値以上である場合をブレークアウトが発生すると判断しており、特許文献1と同様、ブレークアウトの検知精度が不足している。
なお、本発明者らの知見では、測温周期が0.2秒未満の場合、測定温度の変動が大きくなる連続鋳造においては誤検知が多発する。また、0.2秒〜数秒の場合は、ブレークアウトの誤検知を防止するには一定の効果があるが、ブレークアウトの未検知が発生し、その検知精度が不足する。
【0010】
そして、特許文献3の方法は、温度検出値の微分情報の時系列温度データのパターンを用いていることから、温度変化量(ΔT/Δt)がしきい値を超えるか否かでブレークアウトを予知する特許文献1、2とは異なる。しかし、その予知材料として、温度変化量を用いる点では、特許文献1、2と同じである。
なお、本発明者らの知見では、特許文献3も特許文献1、2と同様に、温度変化量を用いており、その温度変化量の算出は3秒ごとであるため、ブレークアウトの誤検知は少ないが、ブレークアウトの未検知を招くため、その検知精度に改善の余地がある。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、ブレークアウトの発生を予知するに際し、誤検知の抑制と未検知の抑制の双方を両立して、ブレークアウトの検知精度を向上でき、更には連続鋳造設備の被害や鋳片の生産性の低下の防止を図ることが可能な連続鋳造のブレークアウト予知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的に沿う本発明に係る連続鋳造のブレークアウト予知方法は、連続鋳造用鋳型に埋設した温度検出端により、該連続鋳造用鋳型の温度を予め設定した測温周期tmで測定し、該測温結果から得られる前記連続鋳造用鋳型の時系列の温度推移を用いてブレークアウトを予知する方法において、
前記時系列の温度推移を、前記温度検出端の測温結果から、0.2秒以上5秒以下の範囲内のサンプリング周期tsごとに抽出される複数の時系列サンプリング群の温度推移で構成し、しかも該各時系列サンプリング群を、前記サンプリング周期ts内で前記測温周期tmの整数倍ごとにずらす。
【0013】
本発明に係る連続鋳造のブレークアウト予知方法において、前記各時系列サンプリング群の温度推移を用いて、前記ブレークアウトの発生を予知する温度上昇が発生したか否かの予備判定をそれぞれ行い、前記温度上昇が発生したと判定された前記予備判定の数が、予め規定した数以上であることを条件として、前記ブレークアウトが発生すると最終判定するのがよい。
【0014】
本発明に係る連続鋳造のブレークアウト予知方法において、前記サンプリング周期tsは、以下の関係を満足するように決定することができる。
1≦100×(60/Vc)/ts≦10
ここで、Vc:鋳造速度(600mm/分以上3000mm/分以下)、ts:サンプリング周期(秒)である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る連続鋳造のブレークアウト予知方法は、ブレークアウトの予知に用いる時系列の温度推移を、0.2秒以上5秒以下のサンプリング周期tsごとに抽出される複数の時系列サンプリング群の温度推移で構成し、各時系列サンプリング群を測温周期tmの整数倍ごとにずらすので、ブレークアウトの判定を、温度検出端により測定される温度推移の大半が重なる複数の時系列サンプリング群で行うことができる。
これにより、ブレークアウトの判定周期を短周期で実施できると共に、ブレークアウトの誤検知と未検知を抑制、更には防止して、ブレークアウトの検知精度を向上できる。
【0016】
特に、各時系列サンプリング群の温度推移で、ブレークアウト発生を予知する温度上昇が発生したか否かの予備判定をそれぞれ行い、これに基づいて、ブレークアウト発生の最終判定を行う場合、ブレークアウトの誤検知と未検知の発生回数を、従来よりも低減(例えば、1/5以下程度)できる。
これにより、ブレークアウトの誤検知による鋳片の生産性の低下を防止でき、また未検知によるブレークアウト発生に伴う設備被害の防止が図れ、その復旧のための休止時間による鋳片の生産性の低下も防止できる。
【0017】
また、サンプリング周期tsが、鋳造速度を考慮した関係式を満足するように決定する場合、ブレークアウトの誤検知と未検知の検知精度を、更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る連続鋳造のブレークアウト予知方法を適用する連続鋳造システムのシステム構成の説明図である。
【図2】同連続鋳造のブレークアウト予知方法の原理の説明図である。
【図3】従来例1に係る時系列の温度推移の説明図である。
【図4】従来例2に係る時系列の温度推移の説明図である。
【図5】(A)〜(C)は本発明の一実施の形態に係る連続鋳造のブレークアウト予知方法を適用した複数の時系列サンプリング群の温度推移を示す説明図である。
【図6】温度上昇データのサンプリング数が誤検知及び未検知の検知指数に及ぼす影響を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る連続鋳造のブレークアウト予知方法は、連続鋳造用鋳型(以下、単に鋳型ともいう)10に埋設した温度検出端11により、鋳型10の温度を予め設定した測温周期tmで測定し、測温結果から得られる鋳型10の時系列の温度推移を用いる方法であり、時系列の温度推移を、複数の時系列サンプリング群の温度推移で構成する方法である。以下、詳しく説明する。
【0020】
まず、溶鋼を、タンディッシュ(図示しない)から溶鋼供給ノズルを介して鋳型10内へ注入する。この鋳型10は、熱伝導率の高い銅製(銅又は銅合金)であり、常に水冷されているため、溶鋼は急冷されて凝固を開始する。
凝固を開始した鋳片12は、図1に示すように、鋳片支持ロール13により鋳型10の下部から連続的に引出されると共に、鋳造方向に沿って設けられた冷却用水スプレー装置(図示しない)により、更に冷却されて、完全に凝固する。
上記した連続鋳造を行うに際しては、ブレークアウト発生の予知判定を行うため、鋳型10内に設けられた複数の温度検出端11により、鋳型10の溶鋼接触面(鋳型内面)側の温度を測定している。なお、温度検出端11には、熱電対を使用できるが、これに限定されるものではなく、例えば、光ファイバーグレーティングセンサー等も使用できる。
【0021】
温度検出端11により検出された温度は、ブレークアウト判定システム14へ逐次送られる。この温度は、予め設定した測温周期tmで測定されており、この測温結果、即ち温度データが、ブレークアウト判定システム14へ入力され、図2に示す測温周期tmで温度推移が得られる。なお、温度データは、一定の測温周期tmで測定された結果であるが、測温周期tmが、例えば、±5%、更には±1%の範囲内で増減してもよい。
また、ブレークアウト判定システム14では、上記した温度推移を構成する温度データを用いて、ブレークアウト発生の予知判定を行う時系列の温度推移を、図2に示すように、複数(ここでは、3個)の時系列サンプリング群1〜3の温度推移により構成する。なお、複数の時系列サンプリング群は、複数の温度検出端11について、それぞれ求めることが好ましいが、1つの温度検出端11についてのみ、求めてもよい。
【0022】
各時系列サンプリング群の温度推移は、上記した測温周期tmで測定した温度データを、測温周期tmよりも長く、0.2秒以上5秒以下の範囲内のサンプリング周期tsごとに抽出した時系列サンプリング群の温度データで構成される。なお、サンプリング周期tsごとに抽出する温度データには、温度検出端11で検出されブレークアウト判定システム14へ入力された全ての温度データを使用できるが、その温度データの一部を、部分的に使用することもできる。
これにより、各時系列サンプリング群1〜3は、図2に示すように、時系列サンプリング群1を基準として、時系列サンプリング群2が測温周期tmの1倍、また、時系列サンプリング群3が測温周期tmの2倍、サンプリング周期ts内で、それぞれずれることになる。なお、測温周期tmの3倍ずらしたものは、時系列サンプリング群1に含まれる(元に戻る)。
【0023】
ここで、上記した温度の測定時刻を示すデータの抽出時期を関係式で示すと、以下のようになる。
測温周期tm(秒)で計測した温度の測定時刻を示すデータ{P、P、P、・・・}を、n個の時系列サンプリング群の温度推移を構成する温度の測定時刻を示すデータ、即ち{X1(1)、X1(2)、X1(3)、・・・}、{X2(1)、X2(2)、X2(3)、・・・}、・・・、{Xn(1)、Xn(2)、Xn(3)、・・・}に、わける。なお、上記したデータPは、測温時刻を示すデータであり、測定温度ではない。
このとき、n個の時系列サンプリング群の温度推移のうち、i番目の時系列サンプリング群の温度推移を構成する温度の測定時刻を示すデータXi(j)は、次の式で表される。
i(j)=Pn×j+i−n
ただし、j=1、2、・・・
また、各時系列サンプリング群における抽出間隔は、次の式で表される。
i(j+1)−Xi(j)=Pn×j+i−Pn×j+i−n=n×tm
【0024】
続いて、ブレークアウト発生の判定(予知)を行う時系列の温度推移を、複数の時系列サンプリング群の温度推移で構成した場合の効果について、図3〜図5を参照しながら説明する。なお、図3〜図5には、鋳型の温度推移を太線で示している。
ここで、図3は、測温周期tm(=サンプル周期ts)を3秒とした1つの時系列の温度推移で、ブレークアウト発生の判定を行った結果(従来例1)であり、図4は、測温周期tm(=サンプル周期ts)を1秒とした1つの時系列の温度推移で、ブレークアウト発生の判定を行った結果(従来例2)である。一方、図5(A)〜(C)は、時系列の温度推移を構成する時系列サンプリング群の温度推移1〜3で、ブレークアウト発生の予備判定を行った結果(実施例1)である。
また、ブレークアウト発生の判定は、ブレークアウトの発生を予知する温度上昇が発生したか否か、即ち温度変化率がしきい値を超えるか否かで行った。なお、ブレークアウトの発生を予知する温度上昇とは、温度上昇のみが発生する場合に限られず、温度が一旦降下した後に上昇した場合や、温度が上昇した後に降下した場合も含まれる。
【0025】
図3に示すように、従来例1の場合、時間領域R1〜R3のうち、実際にブレークアウト(BO)が発生した時間領域R1において、ブレークアウトの発生を予知できず、未検知となった。
次に、この未検知を防止するため、図4に示す従来例2のように、測温周期tmを1秒に短縮した。その結果、時間領域R1においては、ブレークアウト発生を検知できたが、実際にはブレークアウトが発生していない時間領域R2において、ブレークアウトの発生を予知し、誤検知した。
以上のことから、測温周期tmを短縮すると、ブレークアウトの未検知を抑制することはできるが、誤検知を招く場合があることがわかった。
【0026】
そこで、図5(A)〜(C)に示す実施例1のように、時系列の温度推移を、測温周期tmを1秒とした温度データから、3秒のサンプリング周期tsごとに抽出される3つの時系列サンプリング群の温度推移で構成して、ブレークアウト発生の判定を行った。
なお、図5(B)、(C)の各時系列サンプリング群は、図5(A)の時系列サンプリング群を、それぞれサンプリング周期ts内で、しかも測温周期tmの1倍(即ち1秒)、2倍(即ち2秒)ずらしたものである。ここで、サンプリング周期tsは3秒であるため、測温周期tmの3倍ずらしたものは、図5(A)の時系列サンプリング群に含まれる(元に戻る)。
【0027】
まず、各時系列サンプリング群の温度推移で行うブレークアウト発生の予備判定(予備検知)について説明する。
図5(A)では、時間領域R1〜R3のいずれについても、正常に検知できた。
また、図5(B)では、時間領域R1〜R3のうち、実際にブレークアウトが発生した時間領域R1において、ブレークアウト発生を予知できず未検知となったが、他の時間領域R2、R3については、正常に検知できた。
そして、図5(C)では、時間領域R1〜R3のうち、実際にブレークアウトが発生した時間領域R3において、ブレークアウト発生を遅れて検知したが、他の時間領域R1、R2については、正常に検知できた。
【0028】
このように、各時系列サンプリング群の温度推移で行うブレークアウトの予備判定では、正常検知と未検知(あるいは誤検知)が混在する。しかし、複数の予備判定のうち1つでもブレークアウトの発生を予知した場合に、最終判定でブレークアウト発生を検知したとすると、各時間領域R1〜R3の全てにおいて、正常に検知できたことになる。
以上のことから、ブレークアウト発生の判定に用いる時系列の温度推移を、複数の時系列サンプリング群の温度推移で構成することで、ブレークアウトの誤検知と未検知を抑制、更には防止して、ブレークアウトの検知精度を向上できる。
【0029】
なお、上記した方法では、複数の予備判定のうち1つでもブレークアウト発生を予知した場合に、ブレークアウトが発生すると最終判定したが、実態に則して、ブレークアウトが発生したと判定された予備判定の数が、予め規定した数以上であることを条件として、ブレークアウトが発生すると最終判定することもできる。例えば、複数個の予備判定の中で、ブレークアウト発生を予備検知した検知数の割合(例えば、好ましくは、20%以上、更には、30%以上、更に好ましくは、50%以上)で決定してもよい。
また、時系列の温度推移を、3個の時系列サンプリング群の温度推移で構成した場合について説明したが、2個以上であれば、ブレークアウト発生の検知精度に及ぼす効果を発現できる。なお、より多くの時系列サンプリング群の温度推移を使用することで、ブレークアウト発生の検知精度は向上するが、その効果は非常に小さい。従って、ブレークアウトの判定を行うブレークアウト判定システムの負荷及びコストを低減するためには、時系列サンプリング群の温度推移の数が10以下であることが望まれる。
【0030】
ここで、サンプリング周期tsを、前記した0.2秒以上5秒以下の範囲内に規定した理由について説明する。
図4の結果から、鋳型の温度は周期的に変化することがわかる。ここで、測温周期tmを、例えば、10ミリ秒とすると、更に短周期で鋳型の温度変化が激しくなり、これが誤検知を招く原因となる。一般の連続鋳造機では、鋳造速度が0.6m/分以上3.0m/分以下の範囲にあり、この範囲の鋳造速度で鋳片の移動距離を勘案すると、サンプリング周期tsは、0.2秒以上5秒以下に規定する必要がある。これは、サンプリング周期tsが0.2秒未満の場合、ブレークアウトの誤検知が増え、一方、5秒を超える場合、ブレークアウトの未検知が増えることに起因する。
このため、サンプリング周期tsを0.2秒以上5秒以下としたが、上限を4秒とすることが好ましく、下限を0.4秒、更には1秒とすることが好ましい。なお、測温周期tmは、サンプリング周期tsよりも短く、例えば、0.01秒以上2秒以下程度である。
【0031】
上記したブレークアウト発生の判定は、鋳片の凝固シェルがV字形状で破れることで、鋳型の表面温度が上昇するため、その温度上昇を温度検出端で測定し、その温度データを用いることで実施できる。しかし、鋳型内に埋設した温度検出端(例えば、熱電対)の温度検出範囲は、温度検出端11を中心として直径100mm程度であり、その温度検出範囲内で温度上昇を検出する必要がある。このため、温度のサンプリング周期tsが長い場合においては、温度上昇を検知することができず、ブレークアウトを見逃す(未検知)可能性がある。また、サンプリング周期が短い場合においては、温度上昇したデータを多数判定に用いるため、温度変化率(ΔT/Δt)が大きくなることや温度データの変動により、ブレークアウトが発生していない場合においても、ブレークアウト発生の判定(誤検知)を行う可能性がある。
従って、ブレークアウトの判定に用いる温度上昇時の温度データ数を、1点以上10点以下にすることで、ブレークアウトの未検知防止と過検知防止の両立を図る効果がある。
【0032】
ここで、温度上昇時の温度データ数を、1点以上10点以下に規定した理由について、図6を参照しながら説明する。
なお、図6は、温度上昇時の温度データ数(温度上昇データサンプリング数)が、誤検知及び未検知の検知指数に及ぼす影響を示す説明図である。この誤検知及び未検知の検知指数は、以下の式で求めた結果を、温度上昇時の温度データ数が「0」の従来例3を「1」として、指数化した値である。
(誤検知及び未検知の検知割合)=(C1+C2)/C3
ここで、C1はブレークアウトを誤検知した数であり、C2はブレークアウトの未検知の数であり、C3は鋳造したトン数である。
なお、温度上昇時の温度データが「0」の誤検知及び未検知の検知指数は、ブレークアウトの誤検知はなく、未検知の検知数のみを算出している。
【0033】
なお、図6に示す従来例3は、測温周期tmを1秒にし、サンプリング周期tsを1秒にして、1つの時系列の温度推移で、誤検知及び未検知の検知指数を求めた結果であり、一方、実施例2は、測温周期tmを0.2秒にし、サンプリング周期tsを1秒にして、5つの時系列サンプリング群の温度推移で、誤検知及び未検知の検知指数を求めた結果である。
また、鋳造を行う溶鋼には、鋳型の温度変動が激しい炭素(C)濃度が0.05〜0.20質量%の中炭素を使用し、鋳造速度を600〜1700mm/分とした。
【0034】
図6に示す従来例3から明らかなように、温度上昇時の温度データのサンプリング数が多くなると、溶鋼温度の変動により誤検知が発生した。また、温度上昇データのサンプリング数が少ない又は検出できない場合は、ブレークアウトの予知判定ができなかった。
一方、実施例2では、温度上昇時の温度データのサンプリング数を1〜10点(好ましくは、下限を2、上限を8)にすることで、誤検知と未検知の検知指数を、0.2以下まで低減できることがわかった。
なお、図6から明らかなように、サンプリング数が1未満の場合、サンプリング数を1〜10点とした場合と比較して未検知の数が増加し、検知精度が劣る。一方、サンプリング数が10を超える場合、温度変化率が大きくなるため誤検知の可能性があり、検知精度が劣ると共に、サンプリング数を増加させることによる検知指数の低減効果が小さく、ブレークアウト判定システムの機能向上による設備費の増加に繋がるため、得策ではない。
【0035】
そこで、サンプリング周期tsは、以下の関係を満足するように決定することが好ましい。
1≦100×(60/Vc)/ts≦10
ここで、Vc:鋳造速度(600mm/分以上3000mm/分以下)、ts:サンプリング周期(秒)である。
なお、上記した式の左辺の数値「1」と、右辺の数値「10」は、上記した温度上昇時の温度データの数(サンプリング数)である。また、中式の数値「100」は、温度検出端の温度検出範囲であり、数値「60」は、時間の「分」と「秒」との換算数値である。
そして、鋳造速度Vcについては、連続鋳造機の設備仕様に基づき、定常操業での最低鋳造速度以上、最大鋳造速度以下の範囲内で決定する。ここで、最大鋳造速度は、鋳造速度Vcの最大値である3000mm/分に一致、又はこれ未満であってもよく、一方、最低鋳造速度は、鋳造速度Vcの最小値である600mm/分に一致、又はこれを超える値であってもよい。
【0036】
また、発生するブレークアウトには、一般に、前記した鋳片の凝固シェルがV字形状に破れる拘束性ブレークアウトと、凝固シェルに異物が混入し、この混入部位の凝固シェルが薄肉化して凝固シェルが破断に至る異物混入ブレークアウトの二種類がある。
このいずれのブレークアウトも鋳型の温度変化が現れるが、拘束性ブレークアウトは温度変化する範囲が広範であるのに比べ、異物混入ブレークアウトは温度変化する範囲が狭いことが特徴である。
本実施の形態により、拘束性ブレークアウトと異物混入ブレークアウトの双方の予知精度を向上できるが、異物混入ブレークアウトの予知精度については、更に向上させることが望ましい。
【0037】
そこで、温度検出端の温度測定箇所の間隔を、20mm以上100mm以下の範囲内とすることで、異物混入ブレークアウトの未検知を抑制(発生率を5%程度低減)できる。
ここで、温度検出端の温度測定箇所の間隔が100mm超の場合、異物混入ブレークアウトによる温度変化部位を設置している温度検出端で検知できないが場合ある。一方、20mm未満の場合、異物混入ブレークアウトの温度変化部位を検知できるが、その検知精度は温度検出端の温度測定箇所の間隔が20mmの場合と同等であり、狭隘な場所(20mm未満という狭い場所)に設置することに応じた効果が得られない。
以上のことから、温度検出端の温度測定箇所の間隔を20mm以上100mm以下としたが、下限を30mm、更には40mm、上限を90mm、更には80mmとすることが好ましい。
【0038】
以上に示した方法により、ブレークアウト判定システム14でブレークアウト発生の判定を行い、ブレークアウトが発生すると判定されれば、ブレークアウト判定システム14からロール制御装置15へ判定信号を送信し、例えば、鋳造速度の低下等の操業条件の変更を実施する。これにより、ブレークアウトの発生を未然に防止することが可能になる。
なお、ブレークアウト判定システム14には、単位時間あたりの温度変化量(ΔT/Δt)を算出して、その変化量がしきい値を超えた場合に、ブレークアウトが発生する判定する演算手段(例えば、コンピュータ)を使用できるが、例えば、ニューラルネットワークを使用することもできる。このニューラルネットワークには、例えば、特開平3−221252号公報に記載の装置を使用できる。簡略して説明すると、ブレークアウトの徴候の発生を検出しようとするときには、ブレークアウトの徴候が発生したときにおける温度検出端の検出温度値の微分情報の時系列パターンのデータと、ブレークアウトの徴候が発生しなかったときにおける検出温度値の微分情報の時系列パターンのデータとを採取して、ブレークアウトの徴候の発生の有無情報と対応付ける。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、図1に示すように、鋳型10内に、その幅方向及び鋳造方向に間隔をあけて複数個の熱電対(温度検出端11)を埋め込み、その各熱電対の温度データを用いて、ブレークアウト判定システム14にて判定処置を行い、その判定信号に応じて、鋳片12の引抜き速度の制御を行った。
まず、炭素濃度が0.05〜0.20質量%の中炭素の溶鋼を、鋳造速度1500mm/分で鋳造し、ブレークアウト発生の予知判定を行う時系列の温度推移を、10個の時系列サンプリング群の温度推移で構成して、温度のサンプリング周期tsと測温周期tmを変更した場合の実機試験の結果を、表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
なお、表1中の誤検知及び未検知の検知指数は、前記した実施の形態に示した式で算出した。また、評価は、上記した検知指数が、0.2以下の場合を「○」、0.2超0.3以下の場合を「△」、0.3超の場合を「×」とした。
ここで、ブレークアウト発生の判定は、ブレークアウト判定システム14を構成するニューラルネットワークを用いた時間と温度変化率のパターンにて行い、各温度検出端11における10個の予備判定結果に対し、ブレークアウト発生の予備判定が3個以上行われた場合に、ブレークアウト発生ありの最終判定を行うこととした。
【0042】
表1から明らかなように、温度データのサンプリング周期tsを0.2秒以上5秒以下とすることで、誤検知と未検知の検知指数が0.3以下となり、従来と比較して高い検知精度が得られることを確認できた。
一方、温度データのサンプリング周期tsを0.2秒未満とした場合には、ブレークアウトの誤検知が多くなり、また5秒を超える場合には、ブレークアウトの未検知が多くなり、ともに検知指数が0.3を超え、検知精度が、従来と比較して同等か、劣ることが分かった。
更に、温度上昇時の温度データのサンプリング数(温度上昇データ数)が1〜10点になるように、サンプリング周期tsを決定した場合には、検知指数が0.2以下となり、より検知精度が向上することが分かった。
【0043】
次に、炭素濃度が0.05〜0.20質量%の中炭素の溶鋼を、鋳造速度1500mm/分で鋳造し、温度のサンプリング周期tsを3秒とし、時系列の温度推移を構成する時系列サンプリング群の温度推移の数と測温周期tmを変更した場合の実機試験の結果を、表2に示す。なお、表2中の誤検知及び未検知の検知指数と評価は、上記した表1と同じである。また、ブレークアウト発生の判定は、ブレークアウト判定システム14を構成するニューラルネットワークを用いた時間と温度変化率のパターンにて行い、各温度検出端11における各時系列サンプリング群の温度推移から得られる予備判定結果に対し、ブレークアウト発生の予備判定が1/3個以上行われた場合に、ブレークアウト発生ありの最終判定を行うこととした。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示すように、ブレークアウト発生の予知判定を行う時系列の温度推移を、複数の時系列サンプリング群の温度推移で構成することにより、検知指数を0.2以下まで、格段に向上できることが分かった(時系列サンプリング群の温度推移が1の場合は、検知指数が0.50)。
なお、時系列サンプリング群の温度推移の数を10を超えて増加させた場合、検知指数は低減するものの、その効果は非常に小さいことが分かった。従って、ブレークアウト発生の判定を行うコンピュータの負荷やコストの低減を図るには、温度推移の数は10以下であることが望まれる。
【0046】
以上のことから、本発明の連続鋳造のブレークアウト予知方法を使用することで、ブレークアウトの発生を予知するに際し、誤検知の抑制と未検知の抑制の双方を両立して、ブレークアウトの検知精度を向上でき、更には連続鋳造設備の被害や鋳片の生産性の低下の防止を図ることが可能であることを確認できた。
【0047】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の連続鋳造のブレークアウト予知方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、従来より保有しているブレークアウト予知システムの更新において、検知精度向上のため、また温度検出端のサンプリング周期やブレークアウトの判定期間を短期化するために、本発明の連続鋳造のブレークアウト予知方法(前記実施の形態で示した方法)を適用する場合(ブレークアウト予知システムの改造を行う場合)も、本発明の権利範囲に含まれる。これにより、例えば、従来から蓄積されてきたデータを使用することが可能となり、更新後の実操業への適用期間を短縮できる。
【符号の説明】
【0048】
10:連続鋳造用鋳型、11:温度検出端、12:鋳片、13:鋳片支持ロール、14:ブレークアウト判定システム、15:ロール制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造用鋳型に埋設した温度検出端により、該連続鋳造用鋳型の温度を予め設定した測温周期tmで測定し、該測温結果から得られる前記連続鋳造用鋳型の時系列の温度推移を用いてブレークアウトを予知する方法において、
前記時系列の温度推移を、前記温度検出端の測温結果から、0.2秒以上5秒以下の範囲内のサンプリング周期tsごとに抽出される複数の時系列サンプリング群の温度推移で構成し、しかも該各時系列サンプリング群を、前記サンプリング周期ts内で前記測温周期tmの整数倍ごとにずらすことを特徴とする連続鋳造のブレークアウト予知方法。
【請求項2】
請求項1記載の連続鋳造のブレークアウト予知方法において、前記各時系列サンプリング群の温度推移を用いて、前記ブレークアウトの発生を予知する温度上昇が発生したか否かの予備判定をそれぞれ行い、前記温度上昇が発生したと判定された前記予備判定の数が、予め規定した数以上であることを条件として、前記ブレークアウトが発生すると最終判定することを特徴とする連続鋳造のブレークアウト予知方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の連続鋳造のブレークアウト予知方法において、前記サンプリング周期tsは、以下の関係を満足するように決定することを特徴とする連続鋳造のブレークアウト予知方法。
1≦100×(60/Vc)/ts≦10
ここで、Vc:鋳造速度(600mm/分以上3000mm/分以下)、ts:サンプリング周期(秒)である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−143450(P2011−143450A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6089(P2010−6089)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】