説明

連続鋳造の鋳造作業訓練シミュレータ装置

【課題】溶湯の挙動又は溶湯供給装置周辺で発生する現象を視覚的に再現し、連続鋳造機の操作員の判断技能・制御技能向上を図る連続鋳造機の運転訓練シミュレータを提供する。
【解決手段】操作者の手動制御作業を教育訓練するシミュレータであって、鋳造速度入力装置と、ノズル開度手動入力装置と、溶鋼流出量を算出し、ノズル開度を計算して溶鋼流入量を算出し、溶鋼流出量および溶鋼流入量から溶鋼の湯面高さを計算するとともに、ノズル吐出口から流出する溶鋼付近で発生する火花、又は溶鋼スプラッシュの発生を算出する演算手段と、演算結果に基づいて、モールドパウダと鋳型との境界付近でモールドパウダから溶鋼が露出すること、又は炎の発生による発光や色変化を含み、訓練者から見た連続鋳造機の鋳型周辺の装置、鋳型内部の溶鋼、およびモールドパウダの変化をアニメーションで視覚的に認識できる表示装置と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼業の連続鋳造機の鋳型内における溶湯および当該鋳型周辺の設備において発生する現象を計算機を用いて仮想的に再現し、鋳込の手動操作を行う操作者の技能を訓練する連続鋳造の鋳造作業訓練シミュレータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業等における連続鋳造機では高温の溶鋼を取り扱うため、いったん自動制御系、給湯系、又は凝固した鋳片に異常が発生すると、高温の溶融金属が漏れ出し、機械や操作員に甚大な損傷を与える可能性がある。そして、このようなときには作業員による手動操作によりこのような不具合を抑えつつ、定常操業が行われるように対応する。連続鋳造設備について簡単に説明する。図8は運転中の連続鋳造の鋳型1を上方開口部から見た概略図である。鋳型1の内部の溶鋼表面2を湯面とよぶ。湯面高さは、通常上方に設置した湯面レベル計3により検出した高さが目標値に一致するように自動制御されている。鋳型1に注入する溶鋼流量はタンディッシュ4と浸漬ノズルとの結合部分5に設置した開口面積を変化することのできるノズル装置の開度により調節される。
【0003】
さらに詳しくは次の通りである。溶鋼湯面2上には粉末状のモールドパウダが乗せられており、溶鋼の熱で溶融する。溶融したモールドパウダは、鋳型の上下動(オシレーション)により鋼の凝固シェルと鋳型1との間に回り込み、凝固シェルと鋳型1との潤滑を促進する。
ここで、溶鋼上の未溶融又はスラグ状のモールドパウダと鋳型との境界からは、湯面2が下降するときに溶鋼の色や発する光、又は炎が見える場合がある。例えば湯面レベル計3が故障したときには、連続鋳造機の操作者がノズル開度を手動制御するが、その際に、鋳型1・湯面2間に生じるこのような発光現象等を手がかりとして湯面を把握して、ノズル開度を調整する。
【0004】
また、鋳造の開始時には通常、鋳型1の底部を塞ぐようにダミーバーとよばれる装置をストランド内に設置し、最初に注入した溶鋼が十分な強度にまで凝固してからダミーバーをピンチロールで引き抜いて鋳造を開始する。ノズルの吐出口から出る溶鋼の流れを吐出流とよぶ。吐出流は、正常の流量を確保できる場合の他、ノズル内の詰まりによりノズル開度に対する当該吐出流の流量が低下している場合、又はノズル耐火物の溶損変形により流量が増加している場合がある。
【0005】
鋳造開始時には吐出口を直接観察できるので、操作員は、吐出流の勢い又は流れの直径、溶鋼が空気に触れて発生する火花、およびダミーバー上面に溶鋼吐出流が衝突して跳ね上がるスプラッシュの勢いや量で、吐出流の流量を目視により把握できる。しかしながら、ノズルの開度指示値に対して溶鋼流量が極度に少なく、操業に支障をきたすと操作員が判断した場合には、ノズル詰まりや溶損を把握した上で、ノズルの耐火物やノズル内壁に付着した介在物に酸素ガスを吹き付けて溶解する作業が行われる。
【0006】
近年においては種々の自動化技術が発達し、これらの異常な状態を予測し、又は早期に検知する技術も開発されている。しかしながら、このような予測や検知によっても完全には異常の発生を無くすことはできず、また不具合時の影響も大きい。従って、人員による監視は依然として必要であり、鋳型周辺には操作員が待機して異常発生時には手動操作により対応する。上記例に対しては、例えば、連続鋳造機にノズル開度を開方向又は閉方向ボタンで指示する手動制御装置が設けられ、これを操作して手動でノズル開度を調整できる。また、鋳片引抜き速度を手動ダイヤル装置などで設定することも可能である。すなわち、これらの装置は溶鋼供給、鋳片引抜き、又は自動制御系に関する装置や鋳型内鋳片に異常が発生した場合に、鋳型からの溶湯のあふれ(オーバーフロー)や、溶鋼湯面が露出したままの鋳片が完全に鋳型から引き抜かれることがないように、鋳型への溶湯流入量や鋳片引抜き速度を操作員が手動制御することができるようにされている。
【0007】
一方、このような操作者の技能や知見は、日常の業務の中で多くの機器故障やトラブルを体験して身につけられるものであるが、最近では、機器故障の減少や自動化技術の発達により実機操業でトラブルを体験できる回数が減少している。定年退職者が増加する職場では操業異常の対処に不慣れな若手操作員の割合が増えることにより、このような操業異常への対処に問題を生じていた。また、このような操作員を教育訓練する際には、本来は実機を用いて行うことが最も好ましいが、生産効率を維持するため、頻繁には行うことができない。
【0008】
ところで、発電・化学プラントの産業分野では、プラントの運転作業等で実機では行い難い作業に対する操作員の訓練のために、訓練用シミュレータを用いることがある。これらの産業におけるシミュレータでは、プラント内の熱交換やタンクにおける物質収支をモデル化し、操作員の操作結果や異常に起因する外乱信号に対するプラントの応答を計算する。プラント応答の計算結果はDCS装置画面上のグラフや計器装置に表示され、操作員に実際の運転と同じ状況を体験させることができる。最近では、特許文献1に開示されているように、操作員の臨場感を増すためにバーチャルリアリティ技術により実物を3次元コンピュータグラフィックスで表示する技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−122520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような発電・化学プラントでは、制御対象物が流体ではあるが、通常は配管やタンク内に遮蔽されており、作業員がこれら流体の挙動を目視することはない。従ってバーチャルリアリティ技術や3次元コンピュータグラフィックスは制御対象物の挙動を表現するためには用いられていない。
【0011】
一方、鉄鋼業等における連続鋳造機では、操作員が鋳型の中の溶湯をその開口部から直接観察して、注入が正しく行われていることや、鋳型内における溶湯流れの異常、又は鋳型内での凝固異常の発生を監視している。また、溶湯注入開始時にはノズルの吐出口から飛び散る火花の飛び方で溶湯流入量がノズル開度に見合ったものかも経験的に判断する。従って、連続鋳造における運転訓練を目的としたシミュレータでは、操作員が通常の作業位置に立つ場合と同じように、操業状態の正常又は異常を反映した溶鋼に関する現象を表現することが重要である。すなわち、連続鋳造機の手動操作訓練シミュレータにおいては、発電・化学プラントのシミュレータにはない、独特の機能が必要であり、これは従来のプラント運転訓練シミュレータ技術では解決できない問題点である。
【0012】
そこで本発明は、連続鋳造機の鋳造作業訓練シミュレータにおいて、溶湯の挙動又は溶湯供給装置周辺で発生する現象を視覚的に再現し、連続鋳造機の操作員の判断技能・制御技能向上の課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、本発明について説明する。
請求項1に記載の発明は、製造設備における操作者の手動制御作業を教育訓練するためのシミュレータであって、鋳造速度を設定する手段である鋳造速度入力装置と、溶鋼流入量を調整するノズルの開度を入力指示する手段であるノズル開度手動入力装置と、鋳造速度入力装置およびノズル開度手動装置が接続され、鋳造速度入力装置からの信号に基づく溶鋼流出量を算出し、ノズル開度手動入力装置からの信号に基づくノズル開度を計算して溶鋼流入量を算出し、溶鋼流出量および溶鋼流入量から溶鋼の湯面高さを計算するとともに、湯面高さおよび溶鋼流入量の計算結果に基づいて、ノズル吐出口から流出する溶鋼付近で発生する火花、又は溶鋼スプラッシュの発生を算出する演算手段と、演算手段による演算結果に基づいて、鋳型内湯面が下降するときに湯面上のモールドパウダと鋳型との境界付近でモールドパウダから溶鋼が露出すること、又は炎が発生することにともなう発光や色変化を含み、訓練者の視点から見た連続鋳造機の鋳型周辺の装置、鋳型内部の溶鋼、およびモールドパウダの変化をリアルタイムアニメーションで視覚的に認識できる表示装置と、を備える連続鋳造機の鋳造作業訓練シミュレータ装置を提供することにより前記課題を解決する。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の鋳造作業訓練シミュレータ装置において、火花、又は溶鋼スプラッシュの軌跡および単位時間当たり発生個数を溶鋼流入量および湯面高さの計算結果に基づき、予め定めておいた数式又は数表に従って算出することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の鋳造作業訓練シミュレータ装置において、演算手段には湯面レベル表示器が接続され、該湯面レベル表示器は、演算手段による湯面高さの適切な演算結果が表示できるとともに、該適切な演算結果の代わりに、故障を想定したパラメータを与えて、適切な演算結果とは異なる値を表示できることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳造作業訓練シミュレータ装置において、表示装置は、演算手段に接続された投影型表示装置であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳造作業訓練シミュレータ装置において、表示装置は、演算手段に接続された又は一体に設けられたディスプレイ表示装置であることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳造作業訓練シミュレータ装置において、ノズル開度手動入力装置、鋳造速度入力装置、および表示装置が、演算手段と一体に設けられていることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の鋳造作業訓練シミュレータ装置の一体に設けられたノズル開度手動入力装置、鋳造速度入力装置、および表示装置は、訓練対象者が携帯でき、片手ないし両手でノズル開度手動入力装置の操作ができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、湯面レベル計の検知範囲外にある場合や、湯面レベル計交換中の場合に必要な手動制御操作技能の訓練が可能となる。また、ブレークアウトや自動制御系の操業異常が発生した場合の湯面時間変化の特徴を、経験の浅い操作員が操業に従事する前に事前に訓練で把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第一実施形態にかかるシミュレータの概略およびこれによる訓練の場面を表す模式図である。
【図2】シミュレータによるシミュレーションのフローを説明する図である。
【図3】演算装置において行われる演算のフローを説明する図である。
【図4】実際の鋳造装置におけるノズル開口面積の調整について説明する図である。
【図5】ノズル詰まりによる浸漬ノズル内径縮小モデルの概念図(図5(a))、及びノズル溶損によるスライドプレート開口径拡大モデルの概念図(図5(b))である。
【図6】タンディッシュ内溶鋼高さを説明する図である。
【図7】第二実施形態にかかるシミュレータにおける演算装置で行われる演算のフローを説明する図である。
【図8】連続鋳造機の鋳型周辺を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の上記した作用および利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0023】
図1は1つの実施形態にかかる連続鋳造の鋳造作業訓練シミュレータ装置10(以下、「シミュレータ10」と記載することがある。)により訓練者Aが訓練をしている一場面を表した図である。
図1からわかるように、シミュレータ10は、鋳造速度入力装置11、ノズル開度手動入力装置12、演算装置20、映像表示装置13、ノズル開度表示器14、および湯面レベル表示器15を備えている。
【0024】
鋳造速度入力装置11は、どのような鋳造速度でシミュレーションを行うかを設定する手段で、演算装置20による演算に反映される。従って、鋳造速度入力装置11は、演算装置20にこのような条件(情報)を入力することができればよく、特に限定されるものではないが、例えばキーボート等を挙げることができる。当該鋳造速度入力手段11は、信号入力装置等のインターフェイスを介して演算装置20に情報を伝達できる。
【0025】
ノズル開度手動入力装置12は、本実施形態では実際の操業で用いられるものと同じ型のノズル開度手動入力装置である操作ペンダントである。これにより実際に近い訓練をすることができる。すなわちノズル開度手動入力装置12は、図1からわかるように、ノズル開度を開方向に変更する指令(信号)を発生させる押しボタンスイッチ12aと、ノズル開度を閉方向に変更する指令(信号)を発生させる押しボタンスイッチ12bと、を備える。ノズル開度手動入力装置12は、押しボタンスイッチ12a、12bの押下状態による信号を信号入力装置等のインターフェイスを介して演算装置20に伝達できるように構成されている。
【0026】
演算手段として演算装置20は、上記鋳造速度入力装置11、およびノズル開度手動入力装置12からの入力情報に基づいて、シミュレーションに際して必要な演算処理をする手段である。これには例えば電子計算機を挙げることができる。具体的にどのような演算が行われるかについては後で詳しく説明する。
【0027】
映像表示装置13は、表示手段として演算装置20に接続され、該演算装置20による演算結果に基づいてその結果をアニメーション(映像)として出力する手段である。例えば図8に示したような運転中の連続鋳造の鋳型を上方開口部から見た図がアニメーション映像Sとして表示される。訓練者はこの映像を見てさらに適切な状態に近づけるために、ノズル開度手動入力装置12を操作する。これにより操作の訓練が進行する。
映像表示装置としては、本実施形態のように投影型の表示装置であるいわゆるプロジェクタの形態でもよいし、ディスプレイ装置であってもよい。また、当該表示装置は演算手段と一体に形成されていてもよい。
【0028】
ノズル開度表示器14、湯面レベル表示器15も、演算装置20に接続され、該演算装置20による演算結果に基づいて出力される値を表示する機器で、それぞれノズルの開度、および湯面のレベル(高さ)を表すものである。当該ノズルの開度および湯面レベルも訓練者が操作のために参照する値である。
【0029】
図2にシミュレータ10によるシミュレーションの流れ(S0)を表す図を示した。これによれば、初めに条件設定である鋳造速度の設定を行う(S1)。これは上記した鋳造速度入力装置11により行う。初期設定の後、当該初期設定に基づいて演算装置20により演算が行われ、映像表示装置13、ノズル開度表示器14、および湯面レベル表示器15による各種表示が行われる(S2)。
【0030】
次に訓練者は、S2で表示された表示に基づいて適切であると考える操作を行う(S3)。具体的にはノズル開度手動入力装置12の押しボタンスイッチ12a、12bを押す等する。これにより、操作情報が演算装置20に入力され、これに基づいて再び演算が行われる(S4)。そして当該演算の結果が順次表示される(S5)。
【0031】
訓練者はS5で表示された表示に基づいてさらに適切である操作を行ってS3〜S5が繰り返される。これによりリアルタイムにシミュレーション映像、各種値が表示され、訓練者は実際の装置に面しているように訓練を行うことができる。
【0032】
次に演算装置20でどのような演算が行われるかについて説明する。図3にフロー(S100)を示した。
【0033】
ノズル開度指令演算S101では、手動装置の操作情報であるノズル開度手動入力装置12の各押しボタン12a、12bの状態に基づき、一定速度でノズル開度を変更するという演算をし、その結果を処理周期ごとに逐次算出する。
ノズル開度応答演算S102では、ノズル開度指令演算S101で算出したノズル開度指令に、むだ時間遅れが作用するという演算と、この結果に対して1次遅れが作用した演算との結果を付加して処理周期ごとに逐次算出する。むだ時間遅れの遅れ時間および1次遅れの時定数は、実機を測定しておくこと等により予めパラメータとして与えておく。
【0034】
ノズル開口面積演算S103では、予め定めておいたノズル詰まり・溶損の程度をパラメータS104により与えて、実質的なノズルの開口面積を処理周期ごとに逐次算出する。実際の鋳造装置における当該ノズル開口面積の調整について図4に模式図を示した。ノズルの開口は図4にハッチングしてBで示した部分である。ここから溶湯が供給される。当該開口Bの面積は、もともとのノズル開口30をスライディングプレート31を移動させることにより調整できる。すなわち、スライディングプレート13は、板状(プレート)に孔32が設けられている。そして該プレートをアクチュエータ32により矢印Cの方向に移動させることによりノズル開口30と孔31との重なりの程度を調整して開口Bの面積を変更する。従って、実際の鋳造装置では手動操作手段の操作によりアクチュエータ32が操作される。一方シミュレータ10では、このような関係を予め定式化しておき、これに基づいてノズル開口面積を演算する。
【0035】
また、ノズル詰まり・溶損パラメータS104は、次のようなものである。ノズル詰まりパラメータが作用する場合、図5(a)のように、破線で示した本来のノズル内径形状K1に対して介在物K3が付着した後の実際のノズル内径形状K2を用いる。介在物K3の程度によりノズル内径形状K2の内径は正常時より均一に減少する。ここで、スライディングプレート31の孔32(図4参照)の開口径は正常時と同じものとして開口面積を算出する。
一方、ノズル溶損パラメータが作用する場合には、図5(b)のように、破線で示した本来のスライディングプレートの孔形状K4に対して溶損して広がった口径をK5を用いる。この場合、スライディングプレートの孔は均一に拡大する。ここで、ノズル内径は正常時と同じものとして開口面積を算出する。
【0036】
溶鋼流速演算S105では、図6に示すタンディッシュ40の底面開口部における溶鋼深さhにより定まる溶鋼の位置エネルギーと、底面開口部における溶鋼運動エネルギーとの間のエネルギー保存則による計算式に基づき、ノズル開口部における溶鋼の流速を処理周期ごとに逐次算出する。
【0037】
溶鋼流入量演算S106は、ノズル開口面積演算S103の演算結果に、溶鋼流速演算S105の演算結果を乗じた積に、流入量の乱れによる外乱溶鋼流入量を加えて溶鋼の流入量を処理周期ごとに逐次算出する。ここで外乱溶鋼流入量の流入量の乱れは、不規則に変動する溶鋼流入量に加わる外乱量とする。
【0038】
溶鋼流出量演算S107は、鋳型の開口面積に鋳造速度を乗じた積を鋳型からの溶鋼流出量として算出する。鋳造速度は上記した鋳造速度入力装置11により入力された値に基づく。当該溶鋼流出量演算S107では、溶鋼流出量異常演算S108の演算結果が考慮される。溶鋼流出量異常演算S108は、鋳型内凝固シェルが破断してできた開口部からの溶鋼流出量や、鋳込開始時のダミーバー引抜速度変動等による溶鋼引抜き外乱による溶鋼流出量を処理周期ごとに逐次算出して得られる値である。これらの外乱による溶鋼流出の原因となる異常現象については、予め定めた異常現象パラメータにより選択しておく。
【0039】
ここまで、溶鋼流入量および溶鋼流出量が演算できたことになる。そして湯面高さ演算S109は、当該溶鋼流入量と溶鋼流出量との鋳型内溶鋼流入出収支差を湯面高さの変動速度として算出し、この変動速度を処理周期ごとに逐次積分した値を湯面高さとして算出する。
【0040】
吐出流の演算S110では、溶鋼流入量演算S106で算出した溶鋼流入量に基づき、吐出口から流れる溶鋼吐出流の直径および湯面への落下点位置を算出する。本実施形態では、アニメーション画像表示間隔程度の短周期間に、吐出流の挙動を流体力学に基づき求めることは困難なため、溶鋼吐出流量と吐出流径の関係、および吐出流量と湯面高さと吐出流の湯面への落下点位置との関係を数表として記憶させ、補間処理にて任意の吐出流量および湯面高さ流量に対する吐出流径又は落下点位置を算出する。
【0041】
スプラッシュの発生演算S111は、吐出流量と、吐出口の高さと、ダミーバーヘッド最上端と、の間の距離に基づき、吐出流がダミーバーヘッドに衝突して跳ね返るスプラッシュの単位時間あたり発生量および跳ね返り高さの平均値を算出する。この演算は、溶鋼が鋳型内に溜まるにつれて発生量は減少し、跳ね返り高さも減少するようにモデル化されたモデルを用いて行われる。本実施形態においてスプラッシュの発生個数および跳ね返り高さの算出は鋳型周辺画像の算出周期ごとに行う。一つの計算周期内のスプラッシュの発生個数は、単位時間あたり発生量平均値と計算周期時間の積を平均値とする予め定めた確率分布に基づき乱数を発生させて決定する。同様にスプラッシュの跳ね返り高さは、跳ね返り高さ平均値を平均とする予め定めた確率分布に基づき乱数を発生させて決定する。
【0042】
火花発生量演算S112は、吐出流量、吐出口の高さ、開口面積、および湯面高さから算出した吐出口が湯面で隠れる部分の割合に基づき単位時間あたりの火花発生量の平均値を定める。そして、当該発生量平均値と計算周期の積を平均値とする予め定めた確率分布に基づき、不規則に火花発生個数を逐次算出する。
【0043】
映像化処理S113では、上記した湯面高さ演算S109、吐出流の演算S110、スプラッシュの発生演算S111、および火花発生量演算S112の演算結果に基づき、一定周期ごとに、アニメーション表示のための映像を生成する処理である。この映像はパラメータ等で与えた訓練者と鋳型との位置関係、および浸漬ノズルやタンディッシュや制御盤等鋳型周辺設備の幾何学的配置に基づいて訓練者の視点から鋳型を見た映像とする。ここでは、想定する操業状態により溶鋼湯面上にはモールドパウダなどが描画されてもよい。また、湯面高さが下降する場合には湯面と鋳型の境界が発光するように溶鋼の色や炎を表示してもよい。
【0044】
以上のようなフローS100により、各種必要な演算結果を得ることができる。そして、次にこれら値のうち必要なものが訓練者に提供される。具体的には、上記映像化処理により生成された映像が図1に示したような映像表示装置13を介して訓練者に提供される。また、ノズル開度指令演算S101の演算結果が、所定の関係式に基づいて信号としてノズル開度表示器14に表される。
また、湯面高さ演算S109の演算結果は、湯面位置高さを入力とする1次遅れ系の関係式に基づき、レベル測定値を出力として算出される。湯面レベル表示器の測定範囲や測定値原点は1次遅れ系の時定数などモデルパラメータは対象とする連続鋳造機のレベル表示器計に合わせて調整する。また、実際の操業で発生する湯面高さレベル計の故障を適切なパラメータを与えて模擬してもよい。これにより訓練者の習熟度に合わせたシミュレーションができる。本実施形態では湯面レベル表示器をモデル計算機に信号出力装置を介して接続し、湯面レベル計出力を逐次算出結果を表示する。
【0045】
上記したノズル開度表示器や、湯面レベル表示器は、教育訓練の意味から実機と同じものを設置することが望ましい。ただしこれに限定されるものではなく映像に含めて表示してもよい。
【0046】
図7に第二実施形態にかかるシミュレータにおける演算装置でどのような演算が行われるかについてフロー(S200)を示した。第二実施形態におけるシミュレータでは、以下で説明する部分以外は上記した第一実施形態のシミュレータ10と共通するので、ここでは当該異なる点についてのみ説明する。また、図7では図3と共通する部分についての符号も同じものを用いた。
【0047】
フローS200では、フローS100に加えて、ノズル開度の手動制御と湯面レベルをフィードバックする自動制御との切替え手段(自動制御演算S201)を備えている。これは、自動制御状態で異常現象が発生したときの対応作業や、鋳造の手動開始後に自動制御による定常鋳造状態の湯面レベル制御に切り替える作業の訓練を可能にするものである。図7において、自動制御演算S201は、湯面高さ演算S109の演算結果と、予め定めておいた目標湯面レベルに基づき、ノズル開度指令を逐次PID制御法等に基づき算出する。手動制御と自動制御の選択は押しボタンスイッチや切り替えスイッチにより操作員が選択できるようにする。
【0048】
以上説明した各実施形態のシミュレータでは、ノズル開度手動制御手段、鋳造速度制御手段、演算装置および表示装置を全て別体で設けたが、これらの一部、又は全部が一体に設けられていてもよい。また、このように一体にされたシミュレータは訓練対象者が携帯でき、片手ないし両手でノズル手動制御手段の操作ができるようにしてもよい。これにより利便性を向上させることができる。
【0049】
以上、現時点において実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更をともなう、連続鋳造の鋳造作業訓練シミュレータも本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0050】
10 鋳造作業訓練シミュレータ
11 鋳造速度入力装置
12 ノズル開度手動入力装置
13 映像表示装置(表示手段)
14 ノズル開度表示器
15 湯面レベル表示器
20 演算装置(演算手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造設備における操作者の手動制御作業を教育訓練するためのシミュレータであって、
鋳造速度を設定する手段である鋳造速度入力装置と、
溶鋼流入量を調整するノズルの開度を入力指示する手段であるノズル開度手動入力装置と、
前記鋳造速度入力装置および前記ノズル開度手動装置が接続され、前記鋳造速度入力装置からの信号に基づく溶鋼流出量を算出し、前記ノズル開度手動入力装置からの信号に基づくノズル開度を計算して溶鋼流入量を算出し、前記溶鋼流出量および前記溶鋼流入量から溶鋼の湯面高さを計算するとともに、前記湯面高さおよび前記溶鋼流入量の計算結果に基づいて、ノズル吐出口から流出する溶鋼付近で発生する火花、又は溶鋼スプラッシュの発生を算出する演算手段と、
前記演算手段による演算結果に基づいて、鋳型内湯面が下降するときに湯面上のモールドパウダと鋳型との境界付近で前記モールドパウダから溶鋼が露出すること、又は炎が発生することにともなう発光や色変化を含み、前記訓練者の視点から見た連続鋳造機の鋳型周辺の装置、前記鋳型内部の溶鋼、および前記モールドパウダの変化をリアルタイムアニメーションで視覚的に認識できる表示装置と、
を備える連続鋳造機の鋳造作業訓練シミュレータ装置。
【請求項2】
前記火花、又は前記溶鋼スプラッシュの軌跡および単位時間当たり発生個数を前記溶鋼流入量および前記湯面高さの計算結果に基づき、予め定めた数式又は数表に従って算出することを特徴とする請求項1に記載の鋳造作業訓練シミュレータ装置。
【請求項3】
前記演算手段には湯面レベル表示器が接続され、該湯面レベル表示器は、前記演算手段による湯面高さの適切な演算結果が表示できるとともに、該適切な演算結果の代わりに、故障を想定したパラメータを与えて、前記適切な演算結果とは異なる値を表示できることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳造作業訓練シミュレータ装置。
【請求項4】
前記表示装置は、前記演算手段に接続された投影型表示装置であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳造作業訓練シミュレータ装置。
【請求項5】
前記表示装置は、前記演算手段に接続された又は一体に設けられたディスプレイ表示装置であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳造作業訓練シミュレータ装置。
【請求項6】
前記ノズル開度手動入力装置、前記鋳造速度入力装置、および前記表示装置が、前記演算手段と一体に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項の鋳造作業訓練シミュレータ装置。
【請求項7】
請求項6に記載の鋳造作業訓練シミュレータ装置の前記一体に設けられた前記ノズル開度手動入力装置、前記鋳造速度入力装置、および前記表示装置は、訓練対象者が携帯でき、片手ないし両手で前記ノズル開度手動入力装置の操作ができることを特徴とする鋳造作業訓練シミュレータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−13627(P2011−13627A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159911(P2009−159911)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)