説明

連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法および亀裂発生検知装置

【課題】高温度になるタンディッシュ上ノズルの亀裂発生時のAE波検出を可能にすることにある。
【解決手段】連続鋳造設備のタンディッシュ底部に設けられ、筒状のポーラスな耐火レンガで形成されるとともに、外面に密接する金属製のカバーで少なくとも外周面を気密に覆われたタンディッシュ上ノズルの亀裂発生を検知するに際し、導振部材の一端部を前記カバーに接続するとともに、その導振部材の他端部をAEセンサに接続し、前記タンディッシュの昇熱時の前記AEセンサの出力信号の振幅変化を検出することを特徴とする連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造設備のタンディッシュ底部に設けられたタンディッシュ上ノズルの、タンディッシュ昇熱時の亀裂発生を検知する方法および装置に関し、特には、アコースティックエミッション(AE)センサを用いた亀裂発生検知方法および亀裂発生検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造設備は一般に、タンディッシュ底部に設けられたタンディッシュ上ノズルと、タンディッシュ上ノズルの下側に配置されたスライディングノズルと、スライディングノズルの下側に配置されて下方へモールド内まで延在する浸漬ノズルとを具えており、連続鋳造の際には、スライディングノズルが摺動して開口し、タンディッシュ内の溶鋼等の溶湯がそれらタンディッシュ上ノズルとスライディングノズルと浸漬ノズルとを通ってタンディッシュの下方のモールド内に供給される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このモールド内への溶鋼の供給の際には、微細化したアルゴンガスを溶鋼中に吹き込んで、モールド内の溶鋼中に浸漬した浸漬ノズルからその溶鋼中に供給し、その微細化したアルゴンガスで溶鋼中の微小介在物を捕捉して、微小介在物の浮上を促進させることが多い。このためタンディッシュ上ノズルは通常、ポーラス(多孔質)な耐火レンガで筒状に形成されており、そのポーラスな耐火レンガの内部を透過して微細化したアルゴンガスをノズル内壁面から噴出させて、ノズル内を流れる溶鋼中に流入させている。
【0004】
このタンディッシュ上ノズルを形成するポーラスな耐火レンガには亀裂が発生する場合があり、その場合にはアルゴンガスがその亀裂を通って、微細化せずにノズル内壁面から溶鋼中に流入するようになるので、溶鋼中の微小介在物の除去が不十分になり、清浄度の高い鋼材を製造することが困難になる可能性がある。
【0005】
そこで本願発明者がタンディッシュ上ノズルを形成する耐火レンガの亀裂発生の原因を探求するために、タンディッシュ上ノズルに供給しているアルゴンガスの、鋳造開始からの背圧の変化を観察したところ、図4に示すように、亀裂が発生していない正常なタンディッシュ上ノズル(図4(a)中曲線Aで示す)では背圧が一旦速やかに立ち上がった後ほぼ一定に維持されるのに対し、亀裂が発生していたタンディッシュ上ノズル(図4(b)中曲線Bで示す)では、亀裂からアルゴンガスが漏れるため背圧がゆっくりと立ち上がった後低下していった。
【0006】
すなわち、亀裂が発生していたタンディッシュ上ノズルでは鋳造開始タイミングから異常兆候を示していることから、タンディッシュ上ノズルの亀裂は鋳造開始前に既に発生していたことが判明した。このことから亀裂発生の原因は、タンディッシュ上ノズルを構成する耐火レンガの交換後におけるタンディッシュの予熱時の、上ノズルの昇熱中の急激な温度変化(昇熱速度の速過ぎ)によるものと推定される。
【0007】
ところで、このような高温度での物質の亀裂発生を検知する方法として従来、アコースティックエミッション(AE)センサを用いる方法が知られている(例えば特許文献2参照)。物質の表面や内部での亀裂の発生時あるいは亀裂の進展時には、そして亀裂発生前の転位段階でも、弾性エネルギーの解放によって超音波域の弾性波が放射され、一般に、この弾性波の放射現象をアコースティックエミッション(AE)と呼び、その弾性波をAE波と呼んでいる。このAE波は物質内部を伝播するので、物質表面に接続したピエゾ素子等からなるAEセンサで検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−208083号公報
【特許文献2】特開2008−215933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、一般にAEセンサの耐熱性は数百℃以上の高温度に耐える程は高くないので、数百℃以上の高温域においてAEセンサでAE波を物質表面から直接検出するのは困難であり、このため特許文献2記載の従来技術では、1000℃以上の高温域での熱サイクル試験の対象物に二本の白金線の一端部を接続し、それらの白金線の他端部にAEセンサをそれぞれ接続して、熱サイクル試験で試験対象物に発生したAE波を二本の白金線を介して検出するという方法を採用しているが、同様に高温度になるタンディッシュ上ノズルの亀裂発生時のAE波検出にこの方法を応用しようとしても、タンディッシュ上ノズルは耐火レンガで形成されているため、この特許文献2の記載のようにAE波を伝達させる介在物を接続するのは容易でないという問題があった。
【0010】
本発明は上述した事情に着目してなされたものであって、高温度になるタンディッシュ上ノズルの亀裂発生時のAE波検出を可能にする技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述した問題を解決するため、タンディッシュ上ノズルの機能とそれを実現するための実際の構造とに着眼して誠意研究を行い、本発明を完成させた。すなわち、タンディッシュ上ノズルは、溶湯をタンディッシュ内からモールドへ導く機能だけでなく、上述したように溶湯内に微細化したガスを流入させる機能も有している。このため、タンディッシュ上ノズルを形成する筒状のポーラスな耐火レンガは、その耐火レンガの外面に密接する金属(通常は薄鋼板)製のカバーでその耐火レンガの少なくとも外周面を気密に覆われており、そのカバーに設けられたガス通路に外部からガス配管が接続されて、溶湯内に流入させるガスを外部へ漏らさずにノズル内へ供給することを可能にしている。
【0012】
本発明はかかるタンディッシュ上ノズルの実際の構造に鑑みて前記課題を有利に解決するものであり、本発明の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法は、連続鋳造設備のタンディッシュ底部に設けられ、筒状のポーラスな耐火レンガで形成されるとともに、外面に密接する金属製のカバーで少なくとも外周面を気密に覆われたタンディッシュ上ノズルの亀裂の発生を検知するに際し、導振部材の一端部を前記カバーに接続するとともに、その導振部材の他端部をAEセンサに接続し、前記タンディッシュの昇熱時の前記AEセンサの出力信号の振幅変化を検出することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置は、連続鋳造設備のタンディッシュ底部に設けられ、筒状のポーラスな耐火レンガで形成されるとともに、外面に密接する金属製のカバーで少なくとも外周面を気密に覆われたタンディッシュ上ノズルの亀裂の発生を検知するに装置において、前記カバーに一端部が接続された導振部材と、前記導振部材の他端部が接続されたAEセンサと、前記タンディッシュの昇熱時の前記AEセンサの出力信号の振幅変化を検出する信号処理装置と、を具えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法によれば、連続鋳造設備のタンディッシュ底部に設けられるタンディッシュ上ノズルを構成する筒状のポーラスな耐火レンガの外面に密接してその耐火レンガの少なくとも外周面を気密に覆う金属製のカバーに導振部材の一端部を接続するとともに、その導振部材の他端部をAEセンサに接続して、AEセンサとタンディッシュ上ノズルとの間に導振部材を介在させることでAEセンサへの熱輻射および熱伝導を軽減しつつ、タンディッシュの昇熱時のAEセンサの出力信号の振幅変化を検出するので、高温度になるタンディッシュ上ノズルの亀裂発生時のAE波をAEセンサによって検出することができ、これにより、亀裂が発生したタンディッシュ上ノズルの使用を回避し得て、アルゴンガスがタンディッシュ上ノズルの亀裂を通って微細化せずにノズル内壁面から溶鋼中に流入し、溶鋼中の微小介在物の除去が不十分になって清浄度の高い鋼材の製造が困難になるのを防止することができる。
【0015】
また本発明の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置によれば、連続鋳造設備のタンディッシュ底部に設けられるタンディッシュ上ノズルを構成する筒状のポーラスな耐火レンガの外面に密接してその耐火レンガの少なくとも外周面を気密に覆う金属製のカバーに導振部材の一端部を接続するとともに、その導振部材の他端部をAEセンサに接続して、AEセンサとタンディッシュ上ノズルとの間に導振部材を介在させることでAEセンサへの熱輻射および熱伝導を軽減しつつ、タンディッシュの昇熱時のAEセンサの出力信号の振幅変化を信号処理装置で検出するので、高温度になるタンディッシュ上ノズルの亀裂発生時のAE波をAEセンサによって検出することができる。
【0016】
なお、本発明の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法および亀裂発生検知装置においては、各々棒状をなす複数本の前記導振部材を互いに離間させて、前記タンディッシュ上ノズルの周方向に等間隔に配置し、それらの導振部材の一端部をそれぞれ前記カバーに接続するとともに、それらの導振部材の他端部を複数の前記AEセンサにそれぞれ接続することが好ましい。このようにすれば、それら複数本の導振部材を介して複数のAEセンサでAE波を検出できるので、それら複数のAEセンサで検出したAE波の検出時間差とタンディッシュ上ノズルおよび導振部材内でのAE波の伝達速度とから亀裂の発生部位を推定できるとともに、それら複数のAEセンサで検出したAE波に実質上検出時間差がない場合にそのAE波をノイズとして処理することで検出精度を高めることができる。
【0017】
そして本発明の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法および亀裂発生検知装置においては、前記棒状をなす導振部材を少なくとも三本配置すると、より好ましい。導振部材を二本配置してそれぞれAEセンサを接続した場合には、その亀裂発生部位がノズルの何れの側であるかが判明せず、また亀裂発生部位が二本の導振部材から等距離の場合のAE波がノイズと区別できないという不都合があるが、導振部材を少なくとも三本配置してそれぞれにAEセンサを接続すれば、亀裂発生部位に応じた時間差をもってAE波がそれらのAEセンサに検出されるので、亀裂発生部位がノズルのどこにあるかが判明し、また亀裂発生によるAE波とノイズとの区別もできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法の一実施例を実施する、本発明の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置の一実施例の構成を連続鋳造設備の概略構成とともに示す略線図である。
【図2】(a),(b)は、上記実施例の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置のタンディッシュ上ノズルに対する導振ロッドおよびAEセンサの配置を具体的に示す縦断面図および下面図である。
【図3】(a),(b)は、二つのAEセンサで検出したAE波の状態をそれぞれ示す特性線図である。
【図4】(a),(b)は、亀裂が発生していないタンディッシュ上ノズルと亀裂が発生しているタンディッシュ上ノズルとのアルゴンガス背圧の経時変化状態をそれぞれ示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法の一実施例を実施する、本発明の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置の一実施例の構成を連続鋳造設備の概略構成とともに示す略線図であり、図2(a),(b)は、上記実施例の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置のタンディッシュ上ノズルに対する導振ロッドおよびAEセンサの配置を具体的に示す縦断面図および下面図である。図1中符号1はタンディッシュ、2はモールドを示し、この連続鋳造設備では、タンディッシュ1内に図示しない取鍋から供給された溶鋼等の溶湯MMがタンディッシュ1からモールド2内に流下してモールド2内で一次冷却されることにより、連続的な鋳片MPが形成され、この鋳片MPは、モールド2の下方に連続的に配設された左右で対をなす複数のロール3で形成される鋳片通路内を円弧状に案内されながら、スプレー4から噴き付けられる冷却水で二次冷却され、その後トーチカッター5で所定長さに切断される。
【0020】
ここで、タンディッシュ1は、タンディッシュ底部の耐火物内にそのタンディッシュ底部を貫通するように設けられたタンディッシュ上ノズル6と、そのタンディッシュ上ノズル6の下側に配置されたスライディングノズル7と、そのスライディングノズル7の下側に配置されて下方へモールド2内まで延在する浸漬ノズル8とを具えており、連続鋳造の際には、図1に示すように、スライディングノズル7のスライド板7aが油圧シリンダ7bで摺動されてスライディングノズル7が開口し、タンディッシュ1内の溶湯が同図中に矢印で示すようにそれらタンディッシュ上ノズル6とスライディングノズル7と浸漬ノズル8とを通ってモールド2内に供給される。
【0021】
ところで、このモールド2内への溶湯MMとしての溶鋼の供給の際には、タンディッシュ上ノズル6内を流れる溶鋼中に微細化したアルゴンガスAGを吹き込んで、浸漬ノズル8の、モールド2内の溶鋼中に浸漬した先端部8aから微細化したアルゴンガスAGを溶鋼中に供給し、そのアルゴンガスAGで溶鋼中の微小介在物を捕捉して、微小介在物の浮上を促進させる。このためタンディッシュ上ノズル6は、ポーラス(多孔質)な耐火レンガで形成されており、図1に示すように、そのポーラスな耐火レンガの内部を透過して微細化したアルゴンガスAGをノズル内壁面から噴出させて、ノズル6内を流れる溶湯MM中に流入させる。
【0022】
すなわちタンディッシュ上ノズル6は、図2に拡大して示すように、ポーラス(多孔質)な材質の耐火レンガにより、上部から下部へ向けて次第に拡径する外周面6aを持つとともに上下方向に貫通する中央通路6bを持つ円筒状に形成されており、タンディッシュ上ノズル6は、その中央通路6bの上下端開口部を除いて、外面全体を、金属製のカバーとしての薄鋼板製のカバー9によって気密に覆われている。
【0023】
この薄鋼板製のカバー9は、タンディッシュ上ノズル6の上面に密接するとともに中央通路6bの上端開口部に対応する中央孔を持つ平坦な上側環状部分9aと、タンディッシュ上ノズル6の外周面6aに密接する裁等円錐状部分9bと、タンディッシュ上ノズル6の中央部が突出した下面に密接するとともに中央通路6bの下端開口部に対応する中央孔を持つ皿状の下側環状部分9cと、上記の裁等円錐状部分9bに形成されたガス通路としての開口部9dとを有し、その開口部9dにはガス供給管10が接続されており、これにより、溶湯MM内に流入させるアルゴンガスAG等のガスを外部へ漏らさずにタンディッシュ上ノズル6内に透過させて中央通路6b内へ供給することを可能にしている。
【0024】
図1中符号11で示すこの実施例の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置は、かかるタンディッシュ上ノズル6の下面に密接する薄鋼板製のカバー9の下側環状部分9cに、その下側環状部分9cの周方向へ互いに実質的に180度離間してその下側環状部分9cの直径方向へ延在するように各々一端部12aを溶接接続された、導振部材としての各々同一材質の鋼製の実質的に等長で同一太さの二本の導振ロッド12と、各々例えばピエゾ素子を有する二個の通常のAEセンサ13とを具えており、これらの導振ロッド12は、タンディッシュ1の底面およびスライディングノズル7と接触しないように、スライディングノズル7の上端面に形成された溝内を通ってタンディッシュ1の側方まで延在し、導振ロッド12の他端部12bにはそれぞれ円板状のブラケット14が溶接接続され、二個のAEセンサ13はそれらのブラケット14に、AEセンサ13の受振板がブラケット14に密接するようにそれぞれ取り付けられている。
【0025】
二個のAEセンサ13の出力信号は、AEアンプ15に通されてそれぞれ信号レベルを増幅された後、A/Dコンバータ16によりアナログ−デジタル変換されて、信号処理装置としてのパーソナルコンピュータ17に入力される。そしてこの実施例の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置11を用いたこの実施例の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法では、パーソナルコンピュータ17は、あらかじめ与えられたプログラムに基づいて作動して、タンディッシュ1の底部への設置前のタンディッシュ上ノズル6の薄鋼板製のカバー9の裁等円錐状部分9bの所定部位に取り付けられた図示しないテストAE波発生器を作動させるとともに、そのテストAE波発生器が発生させたテストAE波を受信することで、あらかじめAE波の発生部位とAE波の発生から受信までの時間との関係ひいてはタンディッシュ上ノズル6および導振ロッド12内でのAE波伝達速度を調べて記憶しておく。なお、このテストAE波発生器は、タンディッシュ1の底部へのタンディッシュ上ノズル6の設置の際には薄鋼板製のカバー9の裁等円錐状部分9bから取り外される。
【0026】
さらにこの実施例の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法では、上記パーソナルコンピュータ17は、あらかじめ与えられたプログラムに基づいて作動して、二個のAEセンサ13からA/Dコンバータ16を介して受信するAE波の振幅に閾値を設けることで、タンディッシュ上ノズル6を構成する耐火レンガの亀裂発生により生ずるAE波とそれより低振幅のノイズとを識別してノイズを除去するとともに、二個のAEセンサ13からそれぞれ受信するAE波に時間差があるか否かを調べ、二個のAEセンサ13からの受信に実質上時間差がないAE波については、例え振幅が上記閾値を超えていても外部から二個のAEセンサ13に同時に入ったノイズ振動あるいはそれらのAEセンサ13からパーソナルコンピュータ17までの電気回路に同時に入ったノイズ信号の可能性が高いので除去する。
【0027】
かくして、この実施例の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法を実施するこの実施例の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置11によれば、連続鋳造設備のタンディッシュ1の底部に設けられるタンディッシュ上ノズル6を構成する筒状のポーラスな耐火レンガの外面に密接するとともにその中央通路6bの上下端開口部を除く外面全体を気密に覆う金属製のカバー9の一部である下側環状部分9cに導振ロッド12の一端部12aを溶接接続するとともに、その導振ロッド12の他端部12bをAEセンサ13に接続して、AEセンサ13とタンディッシュ上ノズル6との間に導振ロッド12を介在させることでAEセンサ13への熱輻射および熱伝導を軽減しつつ、タンディッシュ上ノズル6を構成する耐火レンガの交換後におけるタンディッシュ1の昇熱時のAEセンサ13の出力信号の振幅変化をパーソナルコンピュータ17で検出するので、高温度になるタンディッシュ上ノズル6の亀裂発生時のAE波をAEセンサ13によって検出することができ、ひいてはタンディッシュ上ノズル6の亀裂発生が検出された耐火レンガを速やかに交換し得て、タンディッシュ上ノズル6でのアルゴンガスの微細化により溶鋼中の微小介在物の除去を十分に行い、清浄度の高い鋼材を製造することできる。
【0028】
しかもこの実施例の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法および亀裂発生検知装置11によれば、二本の導振ロッド12を互いに離間させてタンディッシュ上ノズル6のカバー9の周方向に等間隔に配置し、それらの導振ロッド12の一端部12aをそれぞれカバー9に接続するとともに、それらの導振ロッド12の他端部12bを二個のAEセンサ13にそれぞれ接続することから、それら二本の導振ロッド12を介して二個のAEセンサ13でAE波を検出できるので、例えば図3(a),(b)に示すように、それら二個のAEセンサ13でそれぞれ検出したAE波のうち、あらかじめ設定した閾値SLを越える信号レベルのAE波に時間差Tがある場合に、その検出時間差Tと先にテストAE波発生器を用いて測定したタンディッシュ上ノズル6および導振ロッド12内でのAE波の伝達速度とから、タンディッシュ上ノズル6を構成する耐火レンガの亀裂の発生部位を推定でき、さらに、上記閾値SL以下のノイズを除去するとともに、それら二個のAEセンサ13で検出したAE波に実質上検出時間差がない場合にもそのAE波をノイズとして除去処理するので、耐火レンガの亀裂発生により生ずるAE波の検出精度を高めることができる。
【0029】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更しうるものであり、例えば、導振ロッド12を少なくとも三本配置してもよい。すなわち、上記実施例のように導振ロッド12を二本配置してそれぞれAEセンサを接続した場合には、その亀裂発生部位がノズルの何れの側であるかが判明せず、また亀裂発生部位が二本の導振ロッド12から等距離の場合のAE波がノイズと区別できないという不都合があるが、導振ロッド12を三本以上配置してそれぞれにAEセンサを接続すれば、亀裂発生部位に応じた時間差をもってAE波がそれらのAEセンサに検出されるので、亀裂発生部位がノズルのどこにあるかが判明し、また亀裂発生によるAE波とノイズとの区別もできる。
【0030】
また、この発明においては、導振ロッド12はカバー9の、タンディッシュ上ノズル6の下面に密接する下側環状部分9cに接続する代わりに、あるいはそれに加えて、タンディッシュ上ノズル6の外周面に密接する裁頭円錐状部分9bに接続して、タンディッシュ1の底部の耐火物内をタンディッシュ1外へ貫通させてもよい。そしてこの発明においては、導振部材として、導振ロッド12の代りに、あるいはそれに加えて、例えば細片状等の他の形状の鋼材あるいは例えばセラミックス等の他の材質のものを用いてもよく、また、タンディッシュ上ノズル6を覆う金属製のカバーは、薄鋼板製のカバー9でなく、他の材質のものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法および亀裂発生検知装置によれば、連続鋳造設備のタンディッシュ底部に設けられるタンディッシュ上ノズルを構成する筒状のポーラスな耐火レンガの外面に密接してその耐火レンガの少なくとも外周面を気密に覆う金属製のカバーに導振部材の一端部を接続するとともに、その導振部材の他端部をAEセンサに接続して、AEセンサとタンディッシュ上ノズルとの間に導振部材を介在させることでAEセンサへの熱輻射および熱伝導を軽減しつつ、タンディッシュの昇熱時のAEセンサの出力信号の振幅変化を検出するので、高温度になるタンディッシュ上ノズルの亀裂発生時のAE波をAEセンサによって検出することができ、これにより、亀裂が発生したタンディッシュ上ノズルの使用を回避し得て、アルゴンガスがタンディッシュ上ノズルの亀裂を通って微細化せずにノズル内壁面から溶鋼中に流入し、溶鋼中の微小介在物の除去が不十分になって清浄度の高い鋼材の製造が困難になるのを防止することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 タンディッシュ
2 モールド
3 ロール
4 スプレー
5 トーチカッター
6 タンディッシュ上ノズル
6a 外周面
6b 中央通路
7 スライディングノズル
7a スライド板
7b 油圧シリンダ
8 浸漬ノズル
8a 先端部
9 カバー
9a 上側環状部分
9b 裁頭円錐状部分
9c 下側環状部分
9d 開口部
10 ガス供給管
11 連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置
12 導振ロッド
12a 一端部
12b 他端部
13 AEセンサ
14 ブラケット
15 AEアンプ
16 A/Dコンバータ
17 パーソナルコンピュータ
AG アルゴンガス
MM 溶湯
MP 鋳片
SL 閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造設備のタンディッシュ底部に設けられ、筒状のポーラスな耐火レンガで形成されるとともに、外面に密接する金属製のカバーで少なくとも外周面を気密に覆われたタンディッシュ上ノズルの亀裂の発生を検知するに際し、
導振部材の一端部を前記カバーに接続するとともに、その導振部材の他端部をAEセンサに接続し、前記タンディッシュの昇熱時の前記AEセンサの出力信号の振幅変化を検出することを特徴とする連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法。
【請求項2】
各々棒状をなす複数本の前記導振部材を互いに離間させて、前記タンディッシュ上ノズルの周方向に等間隔に配置し、それらの導振部材の一端部をそれぞれ前記カバーに接続するとともに、それらの導振部材の他端部を複数の前記AEセンサにそれぞれ接続することを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法。
【請求項3】
前記棒状をなす導振部材を少なくとも三本配置することを特徴とする、請求項2に記載の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知方法。
【請求項4】
連続鋳造設備のタンディッシュ底部に設けられ、筒状のポーラスな耐火レンガで形成されるとともに、外面に密接する金属製のカバーで少なくとも外周面を気密に覆われたタンディッシュ上ノズルの亀裂の発生を検知するに装置において、
前記カバーに一端部が接続された導振部材と、
前記導振部材の他端部が接続されたAEセンサと、
前記タンディッシュの昇熱時の前記AEセンサの出力信号の振幅変化を検出する信号処理装置と、
を具えることを特徴とする連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置。
【請求項5】
各々棒状をなす複数本の前記導振部材が、互いに離間して、前記タンディッシュ上ノズルの周方向に等間隔に配置され、
それらの導振部材の一端部がそれぞれ前記カバーに接続されるとともに、それらの導振部材の他端部が複数の前記AEセンサにそれぞれ接続されることを特徴とする、請求項4に記載の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置。
【請求項6】
前記棒状をなす導振部材が少なくとも三本配置されることを特徴とする、請求項5に記載の連続鋳造設備のタンディッシュ上ノズルの亀裂発生検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−91177(P2012−91177A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238144(P2010−238144)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】