説明

連続電気めっき方法、めっき液の循環方法、および連続電気めっき装置

【課題】連続電気めっきラインにおいて、要求される電流密度が異なる品種をつくり分ける場合に、電流値の最大値を上げることなく、同一の電極によりこれを達成するための電極有効長の変更を行う際、該変更工程を容易かつ確実に行う手段を提供する。
【解決手段】竪型めっき槽7高さ方向に複数のオーバーフロー機構を設け、生産品種によってオーバーフロー位置を切り替えることで液面高さを変更し、有効電極長を変更する。オーバーフロー機構はオーバーフロー管8および樋10から成り、樋10に配管9を介して弁3が連結され、オーバーフローした液は弁3を介してめっき循環タンク5へと導かれ、ポンプ6によりめっき槽7へと循環させられる。この装置構造においてそれぞれの弁3の開閉を組み合わせることによりめっき液面高さ4が切り替わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的に電気めっきを行う連続電気めっき方法、めっき液の循環方法、および連続電気めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続電気めっき装置は、鋼帯等シート状の被めっき材に連続的に電気めっきを施す方法であり、陰極とした被めっき材をロールを介してめっき液中に連続的に通過させる。また、めっき液中には陽電極が設置されており、被めっき材と陽電極との間で電子の授受を行うことによりめっき液中のイオン化している金属を析出させる。
【0003】
連続電気めっき装置において、めっき液を溜めるめっき槽には大きく分けて横型、竪型があり、横型では被めっき材が水平方向に送られていくのに対して、竪型槽では図4のように垂直方向に被めっき材が送られる。空間をより有効に使えるため、特に陽電極を複数設置する必要がある場合は竪型槽が通常使用される。
【0004】
連続電気めっき装置では、一つの設備で多くの品種を作り分けることが通常で、使用用途に応じてめっき金属や単位面積あたりのめっき重量を変更する。
【0005】
単位面積当たりのめっき重量は、それぞれの陽電極に流す電流値I、被めっき材を送る速度S、陽電極が複数ある場合はその内通電させる電極数N、被めっき材の幅寸法Wに依存し、以下の関係がある
単位面積あたりのめっき重量 ∝ (I・N)/(S・W)
速度Sは生産量に直結するため、通常は電流値Iと陽電極数Nを生産品種によって変更しており、設備設計においても全生産品種に対応できるようなI,Nを設定している。
【0006】
一方、電気めっきにおいてめっき品質を決定する大きな要因として、電流密度Dnがあり、陽電極の長さLを用いて、
Dn = I/(L・W)
で表せる。よってI、Nに関してはこのDnがどの生産品種においても最適な範囲に収まるように設定される。
【0007】
ところが、生産品種によっては極端に高い電流密度が必要となる場合がある
この場合、電流密度をあげるためには電流値を上げることが考えられるが、整流器の容量を極端に大きくすることは現実的ではない。また、電流値を極端に高くするとめっき量が非常に大きくなるため、めっき量を小さくする場合には非常に速い速度Sが要求される。
【0008】
別の方法として、電極を短くすることで電流密度を上げる方法も考えられるが、短い電極では最適電流密度が低い品種には適さない。また、短い電極を追加で設けることも考えられるが、めっき槽および整流器などの増加は大幅な設備コスト高につながる。
【0009】
そこで、極端に高い電流密度が要求される品種を作る際には電極に絶縁体からなる遮蔽板により電極の一部を覆い、有効電極長を短くすることで電流密度を高くすることが行われている。
【0010】
しかし、生産品種の切替の度に遮蔽板を設置するのには大変な労力を要する
これを解決する手段としては、特許文献1のようにアクチュエータを用いて状況に応じて遮蔽板位置を連続的に変更する方法が考えられる。しかし、特に竪型槽においては内部の空間的な余裕が小さいため、複雑な機構となってしまう。
【0011】
一方、特許文献2のように電極に遮蔽板を設けるのではなく、竪型タンクにおいて液面を変えることで液中の電極長さを変更することで有効電極長を変更する方法が考えられる。しかし、特許文献2に例示される方法では液面高さを一定に保つのが難しく、また設備の増加につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実開昭61-198277号公報
【特許文献2】特開平4-180591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、設備として複雑な機構を設けず、かつ確実に有効電極長を変更することで、同一の電極で幅広い電流密度を実現することが可能な連続電気めっき方法、めっき液の循環方法、および連続電気めっき装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る連続電気めっき方法は、電気めっき装置の竪型めっき槽に配置した電極と被めっき材との間でめっき液を介し電子の授受を行い、該被めっき材に金属を連続的に析出させる電気めっき方法において、前記竪型めっき槽の高さ方向に竪型めっき槽内のめっき液をオーバーフローさせるオーバーフロー管を複数設置し、所要電極長に応じてオーバーフロー位置を設定して前記竪型めっき槽の液面レベルを段階的に変更することを特徴とする。
【0015】
通常、竪型のタンクには最上部に図3に示されるようなオーバーフロー機構が設けられており、また、そのオーバーフローした液を配管を通し、循環タンクに導き、それをポンプにより再び循環することによって液面位置が一定に保たれている。このオーバーフロー機構はめっき液を配管へと導くための傾斜がついたU字管8と樋10からなる構造となっている。このような構造にすることにより液面全体からのオーバーフローが可能となり、液溜りを防止できる。
【0016】
本発明に係るめっき槽は同様のオーバーフロー構造を槽高さ方向に複数設ける。例えば図1には3つオーバーフロー機構を設けた装置図を示す。最上部以外の樋には配管および弁3-a,bが取り付けられており、オーバーフローしためっき液は配管9を通り、めっき液循環タンク5に導かれた後循環ポンプ6により循環される。
【0017】
めっき液面の上昇下降は弁3-a,bの開閉の組み合わせにより行う。例えば弁3-a,bを共に閉状態にした際は、めっき液面は最上部のオーバーフロー位置4-aにて保たれる。また例えば弁3-aを開、弁3-bを閉とした場合はめっき液面はオーバーフロー位置4-bで保たれる。弁3-bを開とした場合はめっき液面は最下部のオーバーフロー位置4-cで保たれる。
【0018】
この際最上部以外の樋構造はそのオーバーフロー位置よりも上部にめっき液面が保たれるように配管9以外に液の逃げ道がないような構造にする必要がある。これは例えば図1に示すように上部の樋と一体にするような構造が考えられる。このような構造にすることで、弁を閉じた際にはめっき液面は上昇する。
【0019】
弁の開閉については電磁弁とすることで、生産品種に応じて自動的に液面位置を変更させることも可能である。めっき液循環タンク5についてはめっき槽内の液の増減に対して十分余裕のある容量とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の連続電気めっき装置によれば、最適な電流密度範囲が大きく異なる生産品種が同一電極で生産可能である。通常は最大の液面高さで操業を行い、極端に高い電流密度が要求される品種を生産する際には下部のバルブの弁を開き、液面を下げることで整流器の容量を上げることなく、電流密度を高くすることが可能である。
【0021】
また、電流値の最大値、液面高さの間隔を適切に設定すれば、液面高さを変えることで速度の変化に対応できる。すなわち、同様の単位面積当たりめっき量をつける際、速度が遅いときはめっき液面を下げた状態で操業を行い、速度が速くなった際には液面を一段階あげるといったことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るめっき装置を例示する図である。
【図2】めっき槽の断面を例示する図である。
【図3】オーバーフロー機構を例示する図である。
【図4】竪型めっき装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明による連続電気めっき装置の適応可能例および実施形態について説明する。但し、本発明の技術範囲は、以下に説明する実施形態によって何ら限定解釈されることはない。
【0024】
本実施形態の連続めっき設備は竪型めっき槽7の高さ方向にオーバーフロー機構が複数設置されている。オーバーフロー機構はU字管8と樋10からなり、ここでは高さ方向に3つ設置されているものとする。樋には配管を介してバルブ3-a,bが設置されており、オーバーフローしためっき液はバルブから配管9を通りめっき循環槽へと導かれ、ポンプ6によってめっき槽へと循環される。
【0025】
このとき、電流値の最大値が4000A、電極長が1500mmとする。このとき設置するオーバーフロー位置は液中の電極長が1500mm、1000mm、300mmとなるように設定する。
【0026】
液面が最大高さで電流密度13A/dm2付近が適切値であり、幅1000mmの品種を生産しているものとし、次生産品種が同幅で100A/dm2付近が最適とする。このとき1500mmの電極長では最大で26.7A/dm2しか達成できない。
【0027】
そこで生産品種の切替を行う際に、バルブ3-a,bを開き、液面を4-cまで下げ、有効電極長を300mmとする。この電極長では、133A/dm2の電流密度が達成できる。このように本発明により、同様の電極にて、低電流密度から高電流密度まで幅広い電流密度が達成可能である。
【0028】
また、電極長1000mmすなわち、バルブ3-aを開、バルブ3-bを閉とした際の電極長で電流密度の最適値が20A/dm2である品種を幅1000mm、速度200mpmで生産しているときに速度が上昇していったとする。速度が上昇することによって単位面積あたりのめっき量は減少するために、同様のめっき量を確保するためには、電流値を速度に比例して増加させる必要がある。このとき、電流密度の上限が25A/dm2であるとすると、250mpmが限界速度である。しかし、この際にバルブ3-aを閉じ、液面を最上面まで上昇させたとすると、電極長が1500mmまで増加することにより、400mpmまでの増速が可能である。このように、速度増加にともなう電流値の上昇に対して液面を上昇させることで電流密度を最適に保つこともできる。
【0029】
このように、最適に電流の最大値や生産品種を考慮し、オーバーフロー間隔を適切に設定することで同一の電極で最適電流密度の異なる品種を速度で生産することができ、また、速度の変化に対して電流密度を最適に保つことも可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 被めっき材
2 陽電極
3 弁
4 液面高さ
5 めっき循環タンク
6 ポンプ
7 めっき槽
8 オーバーフロー管
9 配管
10 樋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気めっき装置の竪型めっき槽に配置した電極と被めっき材との間でめっき液を介し電子の授受を行い、該被めっき材に金属を連続的に析出させる電気めっき方法において、前記竪型めっき槽の高さ方向に竪型めっき槽内のめっき液をオーバーフローさせるオーバーフロー管を複数設置し、所要電極長に応じてオーバーフロー位置を設定して前記竪型めっき槽の液面レベルを段階的に変更することを特徴とする連続電気めっき方法。
【請求項2】
電気めっき装置の竪型めっき槽内に電極を配置し、電極と被めっき材との間でめっき液を介して電子の授受を行い、該被めっき材に金属を連続的に析出させる電気めっき装置において、前記竪型めっき槽内にめっき液面のレベルを設定するオーバーフロー管を高さ方向に複数設け、かつ前述竪型めっき槽の被めっき材の幅方向に樋をオーバーフロー管に合わせて配置して前記オーバーフロー管に連結させ、該樋にめっき液を流出させる配管を介して弁を設け、めっき液をその弁から配管を介して循環タンクおよびポンプにより竪型めっき槽に循環させることを特徴とするめっき液の循環方法。
【請求項3】
電気めっき装置の竪型めっき槽内に電極を配置し、電極と被めっき材との間でめっき液を介して電子の授受を行い、該被めっき材に金属を連続的に析出させる電気めっき装置において、前記竪型めっき槽内にめっき液面のレベルを設定するオーバーフロー管を高さ方向に複数設け、かつ前述竪型めっき槽の被めっき材の幅方向に樋をオーバーフロー管に合わせて配置して前記オーバーフロー管に連結させ、該樋にめっき液を流出させる配管を介して弁を設け、めっき液をその弁から配管を介して循環タンクおよびポンプにより竪型めっき槽に循環させることを特徴とする連続電気めっき装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−195914(P2011−195914A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65326(P2010−65326)
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)