説明

進行波管

【課題】結合回路としてTMモードの導波管を使用するという簡易な構成により、遅延回路を省略することができて、有効帯域を極めて広くすることができると共に、大出力を容易に得ることが可能な進行波管を提供する。
【解決手段】電子ビームを発射する電子銃と、該電子銃から発射される電子ビームを加速する加速装置と、マイクロ波ないしミリ波等の電波が入力される電波入力装置と、増幅された電波を出力する電波出力装置と、電子銃から発射された電子ビームを捕捉する陽極と、を真空容器内に配置した進行波管において、電波入力装置と電波出力装置との間にTMモードに適合した導波管を配置してTMモードの電波を伝搬させ、該導波管中を電子ビームが走行可能としたことを特徴とする。前記電子ビームの速度は相対論的な速度領域であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上に設置されたり人工衛星に搭載されるマイクロ波中継用の電波増幅器等として使用される進行波管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の進行波管は、例えば図4に示すように、電子ビームを発射する電子銃102と、周期磁界発生装置からなる加速装置103と、増幅対象である高周波信号(電波)が入力される電波入力部104と、増幅された電波を出力する電波出力部105と、例えば多段コレクタ構造の陽極106と、スパイラルからなる遅延回路107等を有し、これらが真空容器内に配置されている。そして、電子銃102から発射された電子ビームは、電波入力部104から入力された電波と相互作用しながら遅延回路107のスパイラル内部を走行し、電子ビームとの相互作用により増幅された電波が電波出力部105から出力されるようになっている。なお、この種の進行波管に関する公報としては、例えば特許文献1が開示されている。
【特許文献1】特開2008−171676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような進行波管101においては、電波と電子ビームとを結合させるための遅延回路107としてスパイラルが用いられているため、遅延回路107の構造が簡単となり周波数帯域もある程度広くすることができるものの、電波の結合効率を高くすることができない。また、回路損失もあり、さらに大出力を求める場合に加速電圧を高くすると、高調波妨害が増し、また、スパイラルの熱容量が小さいことから、電子流入により加熱され易く大出力が困難となり易い。この大出力を得るために空洞結合型も考えられるが、この場合は周波数帯域が非常に狭くなってしまう。また、スパイラル構造では、TEモード円形導波管モードの混入妨害が起こり易い欠点を有している。
【0004】
また、適用される周波数(波長)の範囲が、工作上マイクロ波領域が最適であって、ミリ波増幅も可能であるが、高周波になるにつれて効率が低下する。この理由としては、電子ビームと電波との結合回路において、インピーダンスが低くなりがちで、利得を稼ぐために結合回路の長さを長くすると、周波数が高くなった場合に結合効率が悪化するためである。さらに、電子ビームと電波(回路波)との同期が必要であるため、電子ビームの加速電圧の制御が重要かつクリティカルである必要があり、制御構成が複雑化し易い。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、結合回路としてTMモードの導波管を使用するという簡易な構成により、遅延回路を省略することもでき、有効帯域を極めて広くすることができると共に、大出力を容易に得ることが可能な進行波管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、電子ビームを発射する電子銃と、該電子銃から発射される電子ビームを加速する加速装置と、マイクロ波ないしミリ波等の電波が入力される電波入力装置と、増幅された電波を出力する電波出力装置と、前記電子銃から発射された電子ビームを捕捉する陽極と、を真空容器内に配置した進行波管において、前記電波入力装置と電波出力装置との間にTMモードに適合した導波管を配置してTMモードの電波を伝搬させ、かつ該導波管中を前記電子ビームが走行可能としたことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記電子ビームの速度が、相対論的な速度領域であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、マイクロ波ないしミリ波等の電波が入力される電波入力装置と、増幅された電波を出力する電波出力装置との間に、その内部を電子ビームが走行するTMモードに適合した導波管が配置されているため、TMモードの導波管により、電波の縦波を強化して電子ビームの空間電荷波との結合を強化できて、有効帯域を極めて広くすることができると共に、大出力を容易に得ることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、電子ビームの速度が相対論的な速度領域であるため、電波と電子ビームの結合強度を一層強化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図3は、本発明に係る進行波管の一実施形態を示し、図1がそのブロック構成図、図2が導波管の斜視図、図3が特性を示すグラフである。
【0011】
図1に示すように、進行波管1は、電子ビームを発射する電子銃2と、この電子銃2から発射された電子ビームを所定の速度(例えば相対論的な速度領域)に加速する加速装置3と、外部から入力される電波と電子ビームとを結合させる電波入力装置4と、後述する導波管7により増幅された電波を外部に出力する電波出力装置5と、前記電子銃2から発射された電子ビームを捕捉する陽極6と、前記電波入力装置4と電波出力装置5との間に配置された導波管7等を有している。そして、これらが、真空容器8内に直線状に配置されることにより、電子銃2から発射された電子ビームが真空中で、加速装置3、TMモード電波入力装置4、導波管7、電波出力装置5部分を通過して陽極6に捕捉されるようになっている。
【0012】
前記導波管7は、図2に示すように、必要な増幅度によって定められる所定長さLのTMモードに適した金属製の方形導波管(角導波管)が使用され、その管内面は、銀メッキ等によってコーティングされている。この導波管7中を電波入力装置4から出力されるマイクロ波もしくはミリ波等の電波が走行するように構成されている。なお、導波管7の形態は、図示の導波管に限らず、TMモードであれば他の導波管構造を使用することも可能である。もちろん、発振防止等の目的で、増幅利得を調整するために、導波管7内に減衰器を付加しても差し支えないし、電子ビームを集束するために、導波管7の外周にコイル等の磁界装置を設けることも可能である。
【0013】
次に、このようなTMモードに適した導波管7を使用した進行波管1の動作(周波数特性の理論原理等)について説明する。先ず、本発明に係わる進行波管1の基本方程式は、x、y、z空間においてz方向に進行する状態を考えるため、この波をexpj(ωt−kz)で表現する。wとkとはそれぞれ角周波数、波数である。マクスウエルの式と、電子の運動方程式とは、TM11モードの場合、以下の数1で表され、電子ビームは方形導波管の中心軸上を進行する。
【0014】
【数1】

【0015】
ここで、数1のE、H、N、n、ε、μ、q、m、V、vは、それぞれ電界、磁界、電子濃度、電子濃度の小信号変動分、誘電率、透磁率、電子電荷、電子質量、電子速度、電子速度の小信号変動分である。添字は、x、y、z方向の成分を示す。さらに、境界条件として導波管(この例では断面が正方形の方形導波管であるので、導波管の遮断角周波数をω、固有値をK、光速をc、導波管断面の一辺の長さをaとして、
【数2】


となる。
【0016】
また、従来の進行波管よりも駆動電圧を高くとることが有利なので、この場合は特殊相対論領域となるから、数3に示すローレンツ変換を施す。ダッシュがついた量がローレンツ変換後の量である。
【数3】


なお、βは電子速度と光速の比、ωはプラズマ周波数である。
【0017】
以上の式を組み合わせた結果が次式の数4である。
【数4】

【0018】
この式から得られる結果の例を図3に示す。ここでは、β=0.6(加速電圧230kV)、ω/ω=100にとった場合を示す。この図3の表示は規格化されており、横軸はプラズマ周波数を単位とした周波数(ω’)、縦軸はプラズマ周波数を光速で除算した値を単位とする波数(k’)である。実線は、その実部であって破線は虚部である。原点から右に発する角型マーク付きの2本の実線は実根であり、分散によって生じた通常のプラズマ電子波が相対論効果を受けたものであって増幅には関係ない。
【0019】
また、合成遮断周波数(図では、横軸上でほぼ100の点)から右に発する2本の細い実線は遮断周波数以上の通過域の通常の波であって増幅に特別の効果ではない。問題のモードは、それ以外の原点と遮断周波数との間に存在する、太い曲線で表示される曲線群(同じ目盛に合わせてあるために、便宜上100倍にして示す)であり、これらは本来存在しないはずの領域に新しく出現したモードである。すなわち遮断周波数以下では、2個のモードが存在し、それは複素根を持つ。そして、複素数の実部(太線)と虚部(破線)の符号が同じ場合には増幅波となり、増幅波の存在を示している。この周波数帯域は、通常は遮断域であるが、電子ビームプラズマとの相互作用によって通過域に変じて、波数は複素数になるのである。この導波管は2つの根を持ち、一方は上記の増幅波であり、他方は減衰波となり走行中に減衰してゆくので、増幅波のみ残る。
【0020】
本発明の具体的数値は、非相対論的な電子ビームの場合、結果として従来の進行波管と定性的に類似であるが、それよりも数字が勝れている。これは、TMモードによる縦方向の強い結合によるものである。特に、新しい特徴を最も発揮できる相対論的な速度の計算例を示す。電子速度β=0.6(加速速度230kV)、ω/ω=100、電子ビーム電流=10mA、電子ビーム径=1mm、円形導波管の内径=2mmで、この場合、理論計算上の利得=480m−あるいは54dB/mである。
【0021】
また、増幅可能な周波数帯域は、低周波から遮断周波数まで広がっている。利得帯域幅積は、近似的には(遮断周波数)/2で、遮断周波数の1/2程度の数値が得られる。これらは、低い加速電圧における非相対論的領域おいても見られ、これはTMモードによる強い結合によって帯域が広がる性質による。特に、この特徴を表現するものは、高い相対論的加速電圧の場合であって、加速電圧を相対論的な速度となる高電圧まで増すことによって顕著になる。このような性質は、従来の進行波管には見られない勝れた特徴である。もし、電子ビーム電流等の各特性周波数をもっと大きくとれば、もっと良い結果となるか、またはさらに高周波数まで利得が得られることになる。これらの値は、従来の進行波管では全く比較にならないくらい勝れた超広帯域かつ高利得となる。
【0022】
さらに、増幅帯域は、低周波から遮断周波数まで広がっている。この意味は、増幅可能な周波数限界は、通常のようにプラズマ周波数で決まるのではなく、導波管の遮断周波数まで有効なことを示している。したがって、細い導波管を使用すれば、内部に細い電子ビームを走行させられる限り、その限界まで高い周波数の電波を増幅できるのである。これにより、従来適当とされなかったミリ波、サブミリ波帯域において強力な増幅器を出現できることになる。
【0023】
また、導波管は、遮断周波数近傍を除いて特段の周波数依存特性を持たないので、本発明によって広帯域特性が得られる。導波管中では、TMモードが動作するため、管軸方向の磁界にしたがって縦波の電波と空間電荷波との結合が促進される。そのため、従来の進行波管よりも容易に高い増幅が得られることになる。また、導波管は熱伝導率が大きく、さらに電子ビームの加速電圧を従来より高くできるので、結合効率や出力が大きくなる利点も得られる。さらに、加速電圧は、相対論的な高い速度まで理論的に計算した結果、従来よりも高い速度においてさらに高い利得が得られることになる。このような場合における進行波増幅現象を確認したことは、本発明の新規な特徴である。
【0024】
このように、上記実施形態の進行波管1においては、結合回路としてスパイラルや空洞結合器ではなく、TMモードの導波管7を使用しているため、従来の進行波管で使用されていたTEMモードではなく、周波数帯域が遅延回路と分布結合するので広帯域の進行波管1を得ることができる。また、周波数帯域がプラズマ周波数で制限されず、高周波限界が導波管7の遮断周波数で決まるため、周波数帯域を導波管7の遮断周波数まで伸ばすことができて、有効帯域を極めて広くすることができ、ミリ波からサブミリ波まで可能になると共に、従来のように電子ビームの速度と遅延回路波との整合を取る必要がないため、本来的に周波数帯域を広くすることができる。このような場合において、TMモード増幅現象を確認したことは、本発明の新規な特徴である。
【0025】
さらに、従来の進行波管より高い加速電圧を加えることができると共に、その際、起こりうる迷走電子によって従来型進行波管においては、スパイラルの加熱等が問題になることが多かったが、本発明における導波管7は熱容量を大きくできるため、進行波管1に大出力を容易に得ることができると共に、波長当たりの増幅度が大きいため、出力を増大させるためには導波管7の長さ長くすればよく、簡単に対応することが可能となる。また、結合装置として単純な構造の導波管7を使用しているため、遅延結合構造を簡易にして安価な進行波管1を得ることができる。
【0026】
なお、上記実施形態における、進行波管1のブロック図、導波管7の形態等は、一例であって、本発明に係わる各発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜に変更することが可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、真空容器内に電子ビームを走行させて、入力される電波を増幅させることが可能な各種形態の進行波管に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係わる進行波管の一実施形態を示すブロック構成図
【図2】同その導波管の斜視図
【図3】同進行波管の特性を示すグラフ
【図4】従来の進行波管のブロック構成図
【符号の説明】
【0029】
1・・・進行波管
2・・・電子銃
3・・・加速装置
4・・・電波入力装置
5・・・電波出力装置
6・・・陽極
7・・・導波管
8・・・真空容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発射する電子銃と、該電子銃から発射される電子ビームを加速する加速装置と、マイクロ波ないしミリ波等の電波が入力される電波入力装置と、増幅された電波を出力する電波出力装置と、前記電子銃から発射された電子ビームを捕捉する陽極と、を真空容器内に配置した進行波管において、
前記電波入力装置と電波出力装置との間にTMモードに適合した導波管を配置してTMモードの電波を伝搬させ、かつ該導波管中を前記電子ビームが走行可能としたことを特徴とする進行波管。
【請求項2】
前記電子ビームの速度が、相対論的な速度領域であることを特徴とする請求項1に記載の進行波管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−86847(P2010−86847A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256161(P2008−256161)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(599116845)