説明

遅速性脳室内送達

リソソーム蓄積症を含む、神経系の疾患は、血液脳関門のバイパスへの治療剤の脳室内送達を用いて治療を成功できる。同様に、診断剤および麻酔剤もこのようにして脳に送達できる。投与は最大の効果を得るために遅速性で行うことができる。このような投与は脳の末梢部へのより大きな浸透を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は脳への薬剤の送達に関する。特に、脳の診断、治療、および造影に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
リソソーム蓄積症(LSD)として知られる代謝性疾患の一群は40を超える遺伝性疾患を含み、それらの多くはさまざまなリソソーム加水分解酵素の遺伝子欠損を伴う。代表的なリソソーム蓄積症および関連する欠損酵素を表1に示す。
【表1】

【0003】
LSDの顕著な特徴は、周核体での多数の膨張したリソソームの形成をもたらす、リソソーム中の代謝産物の異常な蓄積である。LSDの治療のための主要な課題は(肝臓−特異的酵素病の治療とは対照的に)多様に分離した組織中でのリソソーム蓄積病変の逆行の必要性である。いくつかのLSDは、酵素補充療法(ERT)として知られる欠落した酵素の静脈内注入によって効果的に治療できる。例えば、1型ゴーシェ病患者は、内臓疾患を発症するのみで、組み換えグルコセレブロシダーゼ(セレザイム(登録商標)、ジェンザイム社)によるERTに良好に反応する。しかしながら、CNSに影響を及ぼす代謝性疾患(例えば2型または3型ゴーシェ病)の患者は、補充酵素が血液脳関門(BBB)によって脳への浸透を妨げられるため、静脈へのERTに効果的に反応しない。さらに、直接注射によって脳へ補充酵素を導入する試みは、脳内での高い局所濃度と限定された実質拡散速度における酵素の細胞毒性によって一部に限定されている(Partridge、 Peptide Drug Delivery to the Brain、 Raven Press、 1991)。
【0004】
UniprotKB/Swiss−Protにおける登録番号P17405の、クロモソーム11(11p15.4−p15.1)に位置するSMPD1遺伝子の欠損は、古典的幼児型ともいわれるA型ニーマン−ピック病(NPA)の原因となる。ニーマン−ピック病は、臨床的および遺伝的に異種性の劣性疾患である。それはリソソームへのスフィンゴミエリンおよび他の代謝関連脂質の蓄積を原因とし、若年期から開始する神経変性をもたらす。患者は黄色腫、色素沈着、肝脾腫大症、リンパ節症および知的障害を示し得る。ニーマン−ピック病はアシュケナージ系ユダヤ人系の人の間で、一般集団よりも高い頻度で発症する。NPAは幼児期に非常に早く発病し、急速に進行して三年で死に至るという特徴がある。酸性スフィンゴミエリナーゼ(aSM)はスフィンゴミエリンをセラミドに変換する。aSMはまた、1,2−ジアシルグリセロールホスホコリンおよび1,2−ジアシルグリセロールホスホグリセロールに関して、ホスホリパーゼC活性も有する。本酵素は、
スフィンゴミエリン+HO→N−アシルスフィンゴシン+コリンリン酸
という変換を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脳および内臓疾患病状を有するLSDを治療する方法についての当該技術分野における必要性が引き続き存在する。血液脳関門を容易に越えない診断および治療剤を脳の一部分にアクセスする方法についての当該技術分野における必要性が引き続き存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要約
本発明の一の実施形態により、患者の脳に薬剤を送達する方法が提供される。薬剤は、単回投与が2時間を超える時間を費やすような投与の速度で、脳の側脳室を経由して患者に投与される。
【0007】
本発明の他の一の実施形態により、患者の脳に薬剤を送達する方法が提供される。薬剤は、患者の脳脊髄液のターンオーバー時間の少なくとも50%の時間を費やすような投与の速度で、脳の側脳室を経由して患者に投与される。
【0008】
本発明のもう一つの実施形態により、患者の脳に薬剤を送達する方法が提供される。患者の脳脊髄液のターンオーバー時間が評価される。ターンオーバー時間に基づいた、脳の側脳室を経由する薬剤の送達速度および総送達時間が選択される。該総送達時間のための該選択された速度で薬剤を送達するためにポンプが設定される。
【0009】
本発明のさらにもう一つの実施形態により、患者の脳に薬剤を送達する方法が提供される。患者の脳脊髄液のターンオーバー時間が評価される。ターンオーバー時間に基づいた、脳の側脳室を経由して薬剤を送達するための、速度および総送達時間が選択される。該総送達時間のための該選択された速度で薬剤が患者に送達される。
【0010】
本発明の他の一の実施態様により、患者の脳に薬剤を送達する方法が提供される。
薬剤が、単回投与を、少なくとも患者の血清中に薬剤が検出されるまで継続するような投与の速度で、脳の側脳室を経由して患者に投与される。
【0011】
本発明の一の実施形態により、A、BまたはD型ニーマン−ピック病の患者が治療される。酸性スフィンゴミエリナーゼが脳室内送達によって患者の脳へ、該脳中のスフィンゴミエリンレベルを減少するために十分な量で投与される。
【0012】
本発明の他の一の態様は、A、BまたはD型ニーマン−ピック病の患者を治療するためのキットである。キットは酸性スフィンゴミエリナーゼ、および該酸性スフィンゴミエリナーゼを患者の脳室に送達するためのカテーテルを含む。
【0013】
本発明のさらにもう一つの態様は、A、BまたはD型ニーマン−ピック病の患者を治療するためのキットである。キットは酸性スフィンゴミエリナーゼおよび該酸性スフィンゴミエリナーゼを患者の脳室に送達するためのポンプを含む。
【0014】
本発明により、酵素の基質の蓄積をもたらす、酵素の欠損を原因とするリソソーム蓄積症に罹患している患者を治療できる。酵素は脳室内送達によって患者の脳に投与される。投与の速度は、単回投与が4時間を超える時間を費やすような投与の速度である。基質レベルは、それにより減少される。
【0015】
明細書に触れた当業者に明らかに理解されるであろうこれらのおよび他の実施形態は、薬剤を脳の到達が難しい部分に送達する方法という技術を提供する。
【0016】
図面の簡単な説明
図1は、スフィンゴミエリンから分析された脳の区分の略図を示す。S1は脳の前部およびS5は脳の後部である。
【0017】
図2は、rhASMの脳室内投与がASMKOマウス脳中のSPMレベルを減少することを示す。
【0018】
図3は、rhASMの脳室内投与がASMKOの肝臓、脾臓、肺中のSPMレベルを減少することを示す。
【0019】
図4は、脳室内注入後の脳内のhASM染色を示す
【0020】
図5は、6時間にわたるrhASMの脳室内注入がASMKOマウス脳中のSPMレベルを減少することを示す。
【0021】
図6は、6時間にわたるrhASMの脳室内注入がASMKOの肝臓、血清、および肺中のSPMレベルを減少することを示す。
【0022】
図7は、確認されたhASM変異体、およびそれらと疾患もしくは酵素活性との関係を示す。
【0023】
図8は、脳全体および脊髄に、脳脊髄液で覆われている脳室系を示す。
【0024】
発明の詳細な説明
発明者らは、ボーラス送達よりも遅い速度での患者への薬剤の脳室内送達が導入部位から脳の末梢部への薬剤の効果的な浸透を増大することを発見している。この方法で投与できる薬剤はいくらもあるが、特に診断剤、造影剤、麻酔剤、および治療剤を含む。この送達法は特に血液脳関門を越えることができない薬剤で有用である。
【0025】
出願人らは、脳室内ボーラス投与はあまり効果的でなく、一方、遅速性注入は非常に効果的であることを述べている。出願人らは、あらゆる特定の動作理論によって制約されることを望まないが、一方、遅速性注入が脳脊髄液(CSF)のターンオーバーによって効果的となると考えられている。文献中の評価および計算は多様であるが、一方、成人ヒト脳脊髄液は約4、5、6、7、または8時間以内にターンオーバーすると考えられている。ターンオーバー速度は個体の大きさおよび個体中の脳脊髄液の体積によって変化し得る。従って、例えば成人よりも少ない脳脊髄液を有する小児は、それゆえ、より短いターンオーバー時間を有する。本発明の遅速性注入は、CSFのターンオーバー時間とほぼ等しいか、またはそれを超える送達時間となるように定量化することができる。定量化は、固定された時間、例えば2、4、6、8、または10時間を超える時間にすることができ、または評価されるターンオーバー時間に対する割合、例えば50%、75%、100%、150%、200%、300%、または400%を超える時間に設定することができる。脳脊髄液は静脈血系に流入する。送達は、送達された薬剤が患者の血清中にて検出可能となるまでの時間、実施されることができる。一つにはまた、脊髄およびくも膜下腔のような他のCNS部位にて送達された薬剤を検出および/または計測することもできる。それらはまた、送達の終点としても使用できる。
【0026】
CSFは、成人においておよそ430から600ml/日または毎分およそ0.35から0.4の速度で分泌され、いかなる瞬間でも量は約80から150mlであり、全体の量は6から8時間ごとに置き換わる。幼児は毎分0.15mlで生成すると評価される。側脳室の脈絡叢が最大であり、CSFの大部分を生成する。液は、脳室間孔を経由して第3脳室に流れ、当該脳室の脈絡叢で形成された液により増大され、シルビウス中脳水道を経由して第4脳室に至る。CSFは第4脳室からマジャンディー孔、脊髄を囲むくも膜下腔に流れ;CSFは第4脳室からルシュカ孔、脳を囲むくも膜下腔に流れる。くも膜はくも膜下腔と並んでおり、くも膜絨毛は膜の一部である。くも膜絨毛はポンプのように動き、CFSを取り入れ、それを静脈循環に戻す。CSFはくも膜絨毛を経由して、血液中に再吸収される。
【0027】
本発明のボーラスよりも遅い送達はボーラスでは届かない脳の部分に薬剤を送達するという利点を有する。ボーラス送達された薬剤は導入部位に近接した上衣層中または柔組織中に蓄積する。対照的に、遅速性送達された薬剤は導入部位から柔組織の末端領域(脳の軸の前部から後部に渡る広範囲の送達;さらに、背部および腹部から上衣層への広範囲の送達)、第3脳室、シルビウス水道、第4脳室、ルシュカ孔、マジャンディー孔、脊髄、くも膜下腔、および血清に渡ることが発見されている。血清から、末梢器官へも到達できる。
【0028】
CSFはくも膜絨毛および頭蓋内血脈洞を経由して血管に流れ込み、それによって酵素を内臓へ送達する。ニーマン−ピック病の影響をしばしば受ける内臓は、肺、脾臓、腎臓、および肝臓である。遅速性脳室内注入は少なくともこれらの内臓において減少した基質の量を与える。
【0029】
脳、肺、脾臓、腎臓、および/または肝臓に蓄積した基質の減少は劇的である。10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%よりも大きい減少が得られる。得られる減少は患者−患者間、または同一患者の器官−器官間でさえも、均一である必要は無い。
【0030】
送達のための薬剤は、脳の治療および造影のために当該技術において周知なものならいずれも可能である。造影剤は放射性、X線非透過、蛍光性等が可能である。治療剤は神経系または他の脳疾患の治療のために有用であればいずれも可能である。麻酔薬は慢性または急性疼痛の治療のためのもの、例えば塩酸リドカインやモルヒネが可能である。治療剤の例は、リソソーム蓄積症において欠損する酵素を含む。他の使用可能な薬剤は、プラスミドおよびウイルスベクターのような核酸ベクター、siRNA、アンチセンスRNA等を含む。他の治療剤は、脳内のニューロンの興奮状態を増加または減少するものを含む。これらは、グルタミン酸、GABA、およびドーパミンのアゴニストまたはアンタゴニストを含む。特定の例は、サイクロセリン、カルボキシフェニルグリシン、グルタミン酸、ジゾシルピン、ケタミン、デキストロメトルファン、バクロフェン、ムシモール、ガバジン、サクロフェン、ハロペリドール、およびメタンスルホン酸を含む。追加の薬剤として使用できるものは、抗炎症剤、特にインドメタシンおよびシクロオキシゲナーゼ阻害剤のような非ステロイド性抗炎症剤である。
【0031】
核酸はいずれの所望のベクターでも送達できる。これらは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、およびプラスミドベクターを含む、ウイルス性または非ウイルス性ベクターを含む。典型的な型のウイルスは、HSV(単純ヘルペスウイルス)、AAV(アデノ随伴ウイルス)、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、BIV(ウシ免疫不全ウイルス)、およびMLV(マウス白血病ウイルス)を含む。核酸は、ウイルス粒子中、リポソーム中、ナノ粒子中、およびポリマー錯体を含む、十分に効果的な送達レベルを提供するいずれの所望の形式によって投与できる。
【0032】
アデノウイルスは古典的な遺伝学および分子生物学(Hurwitz,M.S.,Adenoviruses Virology,第3版、 Fieldsら,eds.,Raven Press,New York,1996;Hitt,M.M.ら,Adenovirus Vectors, TheDevelopment of Human Gene Therapy、 Friedman,T.ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York 1999)での研究によって十分に明らかにされている、エンベロープ無しの、36kbのゲノムをもつ核DNAウイルスである。ウイルス遺伝子は、ウイルスタンパクの2種の一時的なクラスの産生を参照すると、初期(E1−E4と称する)および後期(L1−L5と称する)転写単位に分類される。これらの事象を区別するものは、ウイルスDNA複製である。ヒトアデノウイルスは、赤血球の血球凝集、発癌性、DNAおよびたんぱく質アミノ酸組成および相同性、ならびに抗原的関連性を含む特性を基に、多くの血清型(約47、適宜番号付けがされ、6個のグループ:A、B、C、D、EおよびF、に分類される)に分けられる。
【0033】
組み換えアデノウイルスベクターは、分裂および非分裂細胞指向性、最小限の病原可能性、ベクターストック調製のための高い力価のレプリカーゼ能、ならびに大きなインサートの保有の可能性(Berkner, K.L., Curr. Top. Micro. Immunol. 158:39−66, 1992; Jolly, D., Cancer Gene Therapy 1:51−64 1994)を含む、遺伝子送達ビヒクルとしての利用のためのいくつかの利点を有する。偽アデノウイルスベクター(PAVs)および部分的に欠失したアデノウイルス性(「DeAd」と呼ばれる)のような、様々なアデノウイルス遺伝子配列の欠失をもつアデノウイルスベクターが、受容細胞への核酸の送達のための適切なビヒクルを与える、アデノウイルスの望ましい特性を活用するように設計されている。
【0034】
特に、「弱い(gutless)アデノウイルス」またはミニ−アデノウイルスベクターとしても知られている偽アデノウイルスベクター(PAV)は、ベクターゲノムの複製およびパッケージに必要とされる最小のシス作用性ヌクレオチド配列を含み、1個または複数の導入遺伝子を含むことのできるアデノウイルスのゲノムに由来するアデノウイルスベクターである(偽アデノウイルスベクター(PAV)およびPAVの産生方法を対象とし、出典明示により本明細書に組み込まれる米国特許第5,882,877号を参照。)。PAVは、遺伝子送達のための適切なビヒクルを与える、アデノウイルスの望ましい特性を活用するように設計されている。アデノウイルスベクターは一般的に、ウイルス成長に重要でない領域の欠失により最大8kbの大きさのインサートを保有可能であるが、最大保有能は、PAVを含む、大部分のウイルスコーディング配列の欠失を含有するアデノウイルスベクターの使用により達成することができる。Gregoryらの米国特許第5,882,877号;Kochanekら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:5731−5736,1996;Parksら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:13565−13570,1996;Lieberら,J.Virol.70:8944−8960,1996;Fisherら,Virology 217:11−22,1996;米国特許第5,670,488号;1996年10月24日公開のPCT公開番号 WO96/33280;1996年12月19日公開のPCT公開番号 WO96/40955;1997年7月19日公開のPCT公開番号 WO97/25446;1995年11月9日公開のPCT公開番号 WO95/29993;1997年1月3日公開のPCT公開番号 WO97/00326;Morralら,Hum.Gene Ther.10:2709−2716,1998を参照。
最大約36kbの外来核酸を収容できるこのようなPAVは、ベクターに対する宿主免疫応答の可能性または複製能のあるウイルスの産生を軽減する一方で、ベクターの保有能が最適化されるため有利である。PAVベクターは、複製起点を含む5’逆方向末端反復配列(ITR)および3’ITRヌクレオチド配列、およびPAVゲノムのパッケージに必要とされるシス作用性ヌクレオチド配列を含み、1以上の導入遺伝子を適切な調節エレメント、例えばプロモーター、エンハンサー等とともに収容することができる。
【0035】
他の、部分的に欠失したアデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要とされるアデノウイルス初期遺伝子の大部分がベクターから欠失しており、条件付プロモーター(Conditional promoters)の制御下で産生細胞の染色体内に位置するものである、一の部分的に欠失したアデノウイルス(「DeAd」と呼ばれる)ベクターを提供する。産生細胞中に存在する欠失可能なアデノウイルス遺伝子は、E1A/E1B、E2、E4(ORF6およびORF6/7のみが細胞中に存在する必要がある)、plXおよびplVa2を含んでもよい。E3もまたベクターから欠失されてよいが、それはベクター産生に必要ではないので、産生細胞から削除することもできる。
通常、主要後期プロモーター(MLP)の制御下にあるアデノウイルス後期遺伝子はベクター中に存在するが、MLPは条件付きプロモーターにより置換されてもよい。
【0036】
DeAdベクターおよび産生細胞株においての使用に好適な条件付プロモーターは、以下の特徴:細胞傷害性または細胞増殖抑制性アデノウイルス遺伝子が細胞に有害なレベルで発現されないような、非誘導状態における低い基礎的発現;ならびに十分な量のウイルス性たんぱく質がベクター複製およびアセンブリを支持するために産生されるような、誘導状態における高レベル発現:を有するものを含む。DeAdベクターおよび産生細胞株における使用に好適な好ましい条件付きプロモーターは、免疫抑制剤FK506およびラパマイシンに基づく二量体化(dimerizer)遺伝子制御系、エクジソン遺伝子制御系ならびにテトラサイクリン遺伝子制御系を含む。Abruzzeseら,Hum.GeneTher.1999 10:1499−507、本開示が出典明示により本明細書に組み込まれる、に記載されているGeneSwitch(登録商標)技法(Valentis,Inc.,Woodlands,TX)もまた本発明に有用となり得る。部分的に欠失したアデノウイルス発現系はさらにWO99/57296、本開示が出典明示により本明細書に組み込まれる、に記載されている。
【0037】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、4.6kbのゲノムサイズを有する一本鎖ヒトDNAパルボウイルスである。AAVゲノムは、2つの主要な遺伝子:repたんぱく質(Rep76,Rep68,Rep52、およびRep40)をコードするrep遺伝子、ならびにAAV複製、レスキュー(rescue)、転写および組込みをコードするcap遺伝子、ここで、capたんぱく質はAAVウイルス粒子を形成する:を含有する。
AAVの名前の由来は、AAVの増殖感染を可能にするのに、すなわち、宿主細胞においてそれ自身の複製を可能とするのに必須の遺伝子産物を供給するために、アデノウイルスまたは他のヘルパーウイルス(例えば、ヘルペスウイルス)に依存することによる。ヘルパーウイルスの不在において、AAVは、ヘルパーウイルス、通常アデノウイルスによる宿主細胞の重複感染によりそれがレスキューされるまで、プロウイルスとして宿主細胞の染色体に組み込まれる(Muzyczka,Curr.Top.Micro.Immunol.158:97−127,1992)。
【0038】
遺伝子導入ベクターとしてのAAVにおける興味は、その生態学でのいくつかの独自の特性の結果に起因する。AAVゲノムの両端は、ウイルス複製、レスキュー、パッケージングおよび組込みに必要とされるシス作用性ヌクレオチド配列を含む、逆方向末端反復配列(ITR)として知られているヌクレオチド配列である。トランス(trans)におけるrepたんぱく質により介在されるITRの組込み機能は、ヘルパーウイルスの不在において、AAVゲノムを、感染後に細胞の染色体に組み込むことを可能とする。本ウイルスのこの独自の性質は、それが興味のある遺伝子を含む組換えAAVの、細胞ゲノムへの組み込みを可能とすることから、遺伝子導入におけるAAVの使用に関連を有する。それゆえ、遺伝子導入の多数の目的に理想的な安定な遺伝子形質転換は、rAAVベクターの使用により達成され得る。さらに、AAVについての組込み部位は十分に確立されており、ヒトの19番染色体に局在している(Kotinら,Proc.Natl.Acad.Sci.87:2211−2215,1990)。組み込み部位のこの予測可能性は、AAV組み込みベクターの使用を制限でき、rAAVベクターの設計における遺伝子の除去が、rAAVベクターについて観察された改変された組込みパターンをもたらし得るものである、宿主遺伝子の活性化もしくは不活性化、またはコーディング配列の遮断を行い得るという、細胞ゲノムへのランダム挿入事象の危険を軽減する(Ponnazhaganら,Hum Gene Ther.8:275−284,1997)。
【0039】
遺伝子導入のためのAAVの使用には他の利点がある。AAVの宿主域は広い。さらに、レトロウイルスと異なり、AAVは静止細胞および分裂細胞の両方に感染できる。加えて、AAVはヒト疾患に関連しておらず、レトロウイルスに由来する遺伝子導入ベクターにより引き起こされる多数の問題を未然に防ぐ。
【0040】
組換えrAAVベクターの産生への標準的アプローチは、一連の細胞内事象:AAV ITR配列に隣接する興味のある導入遺伝子を含むrAAVベクターゲノムによる宿主細胞のトランスフェクション、トランスにおいて必要とされるAAV repおよびcapたんぱく質に関する遺伝子をコードするプラスミドによる宿主細胞のトランスフェクション、ならびにトランスにおいて必要とされる非AAVヘルパー機能を供給するための、ヘルパーウイルスによるトランスフェクションされた細胞の感染、の協調を必要としている(Muzyczka,N.,Curr.Top.Micro.Immunol.158:97−129,1992)。アデノウイルス(または他のヘルパーウイルス)たんぱく質はAAV rep遺伝子の転写を活性化し、rep蛋白質はそれからAAV cap遺伝子の転写を活性化する。capたんぱく質はそれからITR配列を利用して、rAAVゲノムをrAAVウイルス粒子中にパッケージ化する。それゆえ、パッケージ化の効率は、一部には、十分量の構造たんぱく質の入手可能性により、ならびにrAAVベクターゲノムにおいて必要とされる任意のシス作用性パッケージ配列の利便性により決定される。
【0041】
レトロウイルスベクターは遺伝子送達のための一般的手段である(Miller,Nature(1992)357:455−460)。広範な齧歯類、霊長類およびヒト体細胞中へ再配列していない単一コピーの遺伝子を送達するレトロウイルスベクターの能力により、細胞への遺伝子の導入に十分に適したレトロウイルスベクターが作製される。
【0042】
レトロウイルスは、ウイルスゲノムがRNAであるRNAウイルスである。宿主細胞がレトロウイルスに感染する場合、ゲノムRNAは、感染された細胞の染色体DNA中に非常に効果的に組み込まれるものであるDNA中間体に逆転写される。この組み込まれたDNA中間体をプロウイルスと言う。プロウイルスの転写および感染性ウイルスへのアセンブリは、適切なヘルパーウイルスの存在において、または汚染ヘルパーウイルスの同時産生を伴わずにキャプシド形成を可能とする適切な配列を含む細胞株において生じる。キャプシド形成に関する配列が適切なベクターとの共トランスフェクションによりもたらされるならば、ヘルパーウイルスは組換えレトロウイルスの産生に必要ではない。
【0043】
レトロウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、2つの長い末端反復(LTR)配列に隣接する3つの遺伝子:gag、polおよびenvを有する。gag遺伝子は内部構造(マトリックス、キャプシドおよびヌクレオキャプシド)たんぱく質をコードし;pol遺伝子はRNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)をコードし、env遺伝子はウイルス性エンベロープ糖たんぱく質をコードする。5’および3’LTRは、ビリオンRNAの転写およびポリアデニル化の促進に関与する。LTRは、ウイルス複製に必要な他の全てのシス作用性配列を含む。レンチウイルスは、(HIV−1,HIV−2および/またはSIV中に)vit、vpr、tat、rev、vpu、nefおよびvpxを含むさらなる遺伝子を有する。5’LTRに近接して、ゲノムの逆転写に必要な配列(tRNAプライマー結合部位)および粒子中へのウイルス性RNAの効果的なキャプシド形成に必要な配列(Psi部位)がある。キャプシド形成(または感染性ビリオンへのレトロウイルスRNAのパッケージ化)に必要な配列がウイルスゲノムから欠損しているならば、ゲノムRNAのキャプシド形成を阻害するシス欠損がもたらされる。しかしながら、得られた突然変異体は依然として全てのビリオンたんぱく質の合成を導きだすことができる。
【0044】
レンチウイルスは、共通のレトロウイルス遺伝子gag、polおよびenvに加えて調節または構造的機能をもつ他の遺伝子を含む複合レトロウイルスである。より高い複雑度が、潜在的な感染の経過において見られるように、レンチウイルスの生活環の調節を可能としている。典型的なレンチウイルスは、AIDSの病原体であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)である。インビボでは、HIVは、リンパ球およびマクロファージのような、めったに分裂しない最終分化細胞に感染できる。インビトロでは、HIVは、アフィジコリンまたはガンマ照射での処理により細胞周期を止めた単球由来マクロファージ(MDM)およびHeLa−Cd4またはTリンパ球様細胞の初代培養物に感染できる。細胞の感染は、標的細胞の核膜孔を介するHIVプレインテグレーション複合体の活発な核内輸送に依存する。これは、複合体中の複数の、部分的に重複している、分子決定因子と、標的細胞の核内輸送機構との相互作用により生じる。同定された決定因子は、gagマトリックス(MA)たんぱく質中の機能的核局所化シグナル(NLS)、核親和性ビリオン関連たんぱく質、vpr、およびgagMAたんぱく質中のC−末端ホスホチロシン残基を含む。遺伝子療法のためのレトロウイルスの使用は、例えば、米国特許第6,013,516号;および米国特許第5,994,136号に記載されており、本開示は出典明示により本明細書に組み込まれる。
【0045】
本発明者らは、酵素が欠損している患者へのリソソーム加水分解酵素の脳室内送達が、脳および罹患した内臓(非CNS)の両方の改善された代謝状態をもたらすことを発見した。このことはボーラス送達と比較して送達速度が遅い場合に特に当てはまる。A、B、またはD型ニーマン−ピック病の治療のための酵素として特に有用なものの一つはSEQ ID番号:1で示されるような酸性スフィンゴミエリナーゼ(aSM)である。
*1−46残基が分泌の際に開裂されるシグナル配列を構成する。
【0046】
特定のアミノ酸配列がSEQ ID番号:1に示されているが、活性を保有している人間集団における通常の変異体も同様に使用できる。典型的なこれら通常の変異体は、SEQ ID番号:1で示される配列から1または2残基だけが異なる。使用できる変異体は、SEQ ID番号:1と少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%一致するべきである。疾患または減少した活性を伴う変異体は使用すべきでない。典型的には、成熟形態の酵素が送達されるであろう。これは、SEQ ID番号:1に示されるような47残基から始まるであろう。疾患を伴う変異体は図7に示される。
【0047】
本発明に関するキットは個々の構成要素の集合である。それらは単一の容器にパッケージされていてもよいが、別々にサブパッケージされていてもよい。単一の容器であっても、各部分に分けることが可能である。典型的には取扱説明書一式がキットに添付され、リソソーム加水分解酵素のような診断、治療または麻酔剤の脳室内送達の説明を提供するであろう。取扱説明書は印刷形態、電子形態、説明ビデオまたはDVDとして、コンパクトディスク、フロッピーディスク、パッケージ中に提供されたアドレスのインターネット、またはこれらの手段の組み合わせであってもよい。希釈剤、緩衝剤、溶剤、テープ、ねじ、およびメンテナンスツールのような他の構成要素が、薬剤、1以上のカニューレもしくはカテーテル、および/または1のポンプに加えて提供できる。印刷物または他の説明用素材はCSF量、CSFのターンオーバー時間、患者の体重、患者の年齢、送達速度、送達時間、および/または他の条件と相関していてもよい。ポンプはCSF量および/またはターンオーバー時間および/または患者の年齢および/または患者の体重を基とした特定の送達速度に調整されていてもよい。
【0048】
本発明の方法によって治療される集団は、神経代謝性疾患、例えばLSD、表1に列記されたような疾患、特に、このような疾患がCNSおよび内臓に及んでいる状況を有している、または罹患する恐れのある患者を含むが、これに限定されない。具体的な実施形態において、疾患はA型ニーマン−ピック病である。もしこの疾患の遺伝的傾向が確定している場合は、治療を出生前に開始してもよい。治療されてもよい他の疾患または健康状態は、脳神経外科患者、脳卒中患者、ハンチントン病、癲癇、パーキンソン病、ルーゲーリック病、アルツハイマー病を含むが、これらに限定されない。
【0049】
リソソーム加水分解酵素のような薬剤は医薬組成物に組み込むことができる。組成物は診断、麻酔、またはリソソーム加水分解酵素活性のレベルが不足していることによって特徴付けられる症状の治療、例えば抑制、軽減、予防もしくは改善に有用となり得る。医薬組成物は、リソソーム加水分解酵素欠乏症に罹患している、または該欠乏症を発症するおそれのある被験者に投与できる。組成物は、医薬上許容される担体において、効果的な診断、麻酔、治療また予防のための量の薬剤を含むべきである。医薬担体は、患者にポリペプチドを送達することに適した、いずれの適合する非毒性の物質も可能である。蒸留水、アルコール、脂肪、ワックスが担体として使用されてもよい。医薬上許容されるアジュバント、緩衝化剤、および分散剤等もまた医薬組成物に組み込まれていてもよい。担体は脳室内注射または注入(静脈またはくも膜下腔もまた可能である)または他の方法による投与に適したいずれの形態の薬剤とも結合可能である。好適な担体は、例えば、生理食塩水、静菌水、クレモフォールEL(登録商標)(BASF,Parsippany,N.J.)もしくはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセリン溶液、水および油、石油、動物、植物、もしくは合成起源の油(落花生油、大豆油、鉱油、またはごま油)から作られたようなエマルジョンを含む。人工のCSFは担体として使用可能である。担体は殺菌され、パイロジェンのないものが好ましい。医薬組成物中の薬剤の濃度は非常に広範囲にわたって、すなわち、少なくとも約0.01重量%から、0.1重量%、約1重量%、20重量%程度またはそれ以上まで、変化させることができる。
【0050】
脳室内投与のため、組成物は殺菌されなければならず、流体であるべきである。それは、製造および保存状態下で安定でなければならず、細菌およびカビのような微生物の汚染活動への抵抗性を保持していなければならない。微生物の活動の予防はさまざまな抗菌および抗カビ剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、およびチメロサール等、によって達成することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば糖類、マンニトールやソルビトールのようなポリアルコール、塩化ナトリウムを含むことが好ましい。
【0051】
aSMであろうと他のリソソーム加水分解酵素であろうと、いずれの薬剤の投与量も、担当医が直ちに考慮できるような特定の薬剤もしくは酵素およびそれらの特定のインビボでの活性、投与経路、病状、年齢、患者の体重もしくは性別、患者のaSM薬剤もしくはビヒクル組成物に対する感受性、ならびに他の要因によって、個体ごとにいくらか変化してもよい。投与量は疾患または患者によって変化してもよいが、酵素は通常、月毎に患者50kg当り約0.1から約1000mg、好ましくは月ごとに患者50kg当り約1から約500mgの量で患者に投与される。
【0052】
遅速性注入の送達のための一つの方法はポンプの使用である。このようなポンプは、例えばAlzet(Cupertino,CA)またはMedtronic(Minneapolis,MN)から市販されている。ポンプは、埋め込み型でも外付けでもよい。酵素を投与するために有用な他の方法は、カニューレまたはカテーテルを使用することである。カニューレまたはカテーテルは時間を区切った反復投与に使用されてもよい。カニューレおよびカテーテルは定位固定的に挿入することができる。反復投与はリソソーム蓄積症の典型的な患者の治療に使用できることが予想される。カテーテルおよびポンプは単独または組み合わせで使用できる。カテーテルは当該技術分野で周知のように、外科的に挿入できる。ポンプは個体におけるCSF量に基づいた送達速度に適した設定としてもよい。
【0053】
上記の開示は本発明を全体的に記載する。本明細書で開示された全ての参考文献は、出典明示により参考として組み込まれる。より完全な理解は下記の具体的な実施例を参照することにより得られ、これらは説明の目的のみで本明細書に記載されるものであり、本発明の範囲を限定する意図ではない。
【実施例1】
【0054】
動物モデル
ASMKOマウスはAまたはB型ニーマン−ピック病の一般的に受け入れられているモデルである(Horinouchiら(1995)Nat. Genetics,10:288−293;Jinら(2002)J. Clin. Invest.,109:1183−1191;およびOtterbach(1995)Cell,81:1053−1061)。ニーマン−ピック病(NPD)はリソソーム蓄積症として分類され、酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM;スフィンゴミエリンコリンリン酸加水分解酵素、EC3.1.3.12)の遺伝子欠損により特徴付けられる遺伝性神経代謝性疾患である。機能的ASMたんぱく質の欠乏は、脳全域にわたる神経および神経膠のリソソーム中でのスフィンゴミエリン基質の蓄積をもたらす。このことが、A型NPDの顕著な特性および第一の細胞表現型である、周核体における多数の膨張したリソソームの形成をもたらす。膨張したリソソームの存在は、罹患した個体の幼児期における死をもたらす通常の細胞機能の喪失および進行性の神経変性過程と関連する(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Diseases,eds.Scriverら,McGraw−Hill,New York,2001,頁3589−3610)。第二の細胞表現型(例えば、追加の代謝異常)もまた、この疾患、リソソーム区画におけるコレステロールの顕著に高いレベルの蓄積、と関連する。スフィンゴミエリンは、ASMKOマウスおよびヒト患者のリソソームにおいて大量のコレステロールの補足をもたらすという、コレステロールに対する強い親和性を有する(Leventhal ら(2001)J. Biol. Chem.,276:44976−44983;Slotte(1997)Subcell. Biochem.,28:277−293;およびVianaら(1990)J. Med. Genet.,27:499−504.)。
【実施例2】
【0055】
「ASMKOマウスIIにおける、rhASM脳室内注入」
目的:rhASMの脳室内注入が、ASMKOマウスの脳における蓄積病状(すなわち、スフィンゴミエリンおよびコレステロールの蓄積)に対してどのような効果を有するかを決定すること。
【0056】
方法:12から13週齢の間、ASMKOマウスに留置誘導カニューレを定位固定的に挿入した。14週齢のマウスに、ポンプを接続した注入プローブ(誘導カニューレの内部に組み込む)を使用して、.250mgのhASM(n=5)を24時間にわたって(〜.01mg/h)、4日連続で(全量で1mgを投与した)注入した。凍結乾燥されたhASMを、注入するより前に人工脳脊髄液に溶解した。注入終了後3日でマウスを屠殺した。屠殺において、マウスにユータノールを過剰投与(>150mg/kg)し、その後PBSまたは4%パラホルムアルデヒドで灌流した。脳、肝臓、肺および脾臓を取り出し、スフィンゴミエリン(SPM)レベルを分析した。脳組織をSPM分析の前に5区分に分けた(S1=脳の前部、S5=脳の後部;図1参照)。
【表2】

【0057】
結果の概要:hASMの、.250mg/24時間、4日連続での(全量1mg)脳室内注入は、ASMKO脳の全域にわたってhASM染色と、フィリピン(すなわち、コレステロール蓄積)の除去をもたらした。生化学分析は、hASMの脳室内注入が脳の全域にわたってSPMレベルの広範な減少をもたらすことも示した。SPMレベルは野生型(WT)レベルの程度まで減少した。SPMの顕著な減少はまた、肝臓および脾臓においても得られた(肺においては、減少傾向は見られた)。
【実施例3】
【0058】
「ASMKOマウスIIIにおける、hASM脳室内送達」
目的:6時間の注入期間にわたって、最低の有効投与量を決定すること。
【0059】
方法:12から13週齢の間、ASMKOマウスに留置誘導カニューレを定位固定的に挿入した。14週齢のマウスに、6時間にわたって下記の投与量のうちの一つのhASM:10mg/kg(.250mg;n=12)、3mg/kg(.075mg;n=7)、1mg/kg(.025mg;n=7)、.3mg/kg(.0075mg;n=7)、またはaCSF(人工脳脊髄液;n=7)を注入した。各々の投与レベルから2匹のマウスを、6時間の注入の後すぐに4%パラホルムアルデヒドで灌流し、脳における酵素分布を評価した(血液もこれらから集められ、血清hASMレベルを測定した)。各々の群の残りのマウスを注入終了後1週間で屠殺した。これらのマウスからの脳、肝臓、および肺組織について、05−0208の研究の通りにSPMレベルを分析した。
【表3】

【0060】
結果の概要:6時間にわたる脳室内のhASMは、投与量に関わらず脳の全域にわたってSPMレベルの顕著な減少をもたらした。投与量が.025mgを超える処置を行ったマウスの脳SPMレベルはWTレベルまで減少した。内臓SPMレベルも濃度依存的に顕著に減少(ただしWTレベルまでではない)した。この知見の裏付けとして、hASMたんぱく質がhASMたんぱく質を注入したASMKOマウスの血清からも検出された。組織学的分析は、hASMたんぱく質が、hASMの脳室内投与の後に、脳(S1からS5まで)全域にわたって広く分布したことを示した。
【実施例4】
【0061】
「ASMKOマウスIVにおける、rhASM脳室内注入」
目的:(1)6時間のhASM(投与量=.250mg)の注入後、SPMが脳(および脊髄)内に再蓄積するまでにかかる時間;(2)脳室内hASM投与の反応において性差があるかどうか(過去の実験は肝臓における基質の蓄積において性差が存在することを立証するが、脳で生じるかどうかは不明である)、を決定すること。
【0062】
方法:12から13週齢の間、ASMKOマウスに留置誘導カニューレを定位固定的に挿入した。14週齢のマウスに、6時間にわたって.025mgのhASMを注入した。hASMの脳室内送達の後、注入終了後1週間(n=7オス、7メス)、または注入終了後2週間(n=7オス、7メス)または注入終了後3週間(n=7オス、7メス)のいずれかでマウスを屠殺した。屠殺において、脳、脊髄、肝臓および肺をSPM分析のために取り出した。
【表4】

【0063】
組織試料をSPM分析のために調製した。
【実施例5】
【0064】
「ASMKOマウスの認知機能へのrhASM脳室内注入の効果」
目的:rhASM脳室内投与がASMKOマウスで誘発された認知障害の症状を緩和するかどうかを決定すること。
【0065】
方法:9から10週齢の間、ASMKOマウスに留置誘導カニューレを定位固定的に挿入する。13週齢のマウスに、6時間にわたって.025mgのhASMを注入する。14および16週齢のマウスは、バーンズ迷路を使用した認知テストを被験する。
【実施例6】
【0066】
「脳室内注入後のASMKO CNS内のhASMたんぱく質分布」
目的:脳室内注入後のASMKOマウスの脳および脊髄内のhASMたんぱく質分布を(時間関数として)決定すること。
【0067】
方法:12から13週齢の間、ASMKOマウスに留置誘導カニューレを定位固定的に挿入する。14週齢のマウスに、6時間にわたって.025mgのhASMを注入する。注入処置に続き、1週間または2週間または3週間のいずれか経過後すぐに屠殺する。
【0068】
参考文献
引用された各々の参考文献の開示は出典明示により本明細書に組み込まれる。
1)Belichenko PV, Dickson PI, Passage M, Jungles S, Mobley WC, Kakkis ED. Penetration, diffusion, and uptake of recombinant human alpha−l−iduronidase after intraventricular injection into the rat brain. Mol Genet Metab. 2005;86(1−2):141−9。
2)Kakkis E, McEntee M, Vogler C, Le S, Levy B, Belichenko P, Mobley W, Dickson P, Hanson S, Passage M. Intrathecal enzyme replacement therapy reduces lysosomal storage in the brain and meninges of the canine model of MPS I. Mol Genet Metab. 2004;83(1−2):163−74。
3)Bembi B, Ciana G, Zanatta M,ら Cerebrospinal−fluid infusion of alglucerase in the treatment for acute neuronopathic Gaucher’s disease. Pediatr Res 1995;38:A425。
4)Lonser RR, Walbridge S, Murray GJ, Aizenberg MR, Vortmeyer AO, Aerts JM, Brady RO, Oldfield EH. Convection perfusion of glucocerebrosidase for neuronopathic Gaucher’s disease. Ann Neurol. 2005 Apr;57(4):542−8。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、スフィンゴミエリンから分析された脳の区分の略図を示す。S1は脳の前部およびS5は脳の後部である。
【図2】図2は、rhASMの脳室内投与がASMKOマウス脳中のSPMレベルを減少することを示す。
【図3】図3は、rhASMの脳室内投与がASMKOの肝臓、脾臓、肺中のSPMレベルを減少することを示す。
【図4】図4は、脳室内注入後の脳内のhASM染色を示す
【図5】図5は、6時間にわたるrhASMの脳室内注入がASMKOマウス脳中のSPMレベルを減少することを示す。
【図6】図6は、6時間にわたるrhASMの脳室内注入がASMKOの肝臓、血清、および肺中のSPMレベルを減少することを示す。
【図7】図7は、確認されたhASM変異体、およびそれらと疾患もしくは酵素活性との関係を示す。
【図8】図8は、脳全体および脊髄に、脳脊髄液で覆われている脳室系を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の脳に薬剤を送達する方法であって:単回投与が2時間を超える時間を費やすような投与の速度で、脳の側脳室を経由して患者へ薬剤を投与することを含む方法。
【請求項2】
患者の脳に薬剤を送達する方法であって:単回投与が、患者の脳脊髄液のターンオーバー時間の少なくとも50%の時間を費やすような投与の速度で、脳の側脳室を経由して患者へ薬剤を投与することを含む方法。
【請求項3】
患者の脳に薬剤を送達する方法であって:患者の脳脊髄液のターンオーバー時間を評価し;ターンオーバー時間に基づいた脳の側脳室を経由する薬剤の速度および総送達時間を選択し;該総送達時間のための該選択された速度での薬剤の送達のためにポンプを設定することを含む方法。
【請求項4】
患者の脳に薬剤を送達する方法であって:患者の脳脊髄液のターンオーバー時間を評価し;ターンオーバー時間に基づいた脳の側脳室を経由する薬剤の速度および総送達時間を選択し;該総送達時間のための該選択された速度で患者に薬剤を送達することを含む方法。
【請求項5】
患者の脳に薬剤を送達する方法であって:単回投与を、少なくとも患者の血清中に薬剤が検出されるまで継続するような投与の速度で、脳の側脳室を経由して患者へ薬剤を投与することを含む方法。
【請求項6】
速度が、評価されるターンオーバー時間の50%以上の時間で薬剤の単回投与で送達するものである、請求項3の方法。
【請求項7】
速度が、評価されるターンオーバー時間の50%以上の時間で薬剤の単回投与で送達するものである、請求項4の方法。
【請求項8】
速度が、評価されるターンオーバー時間の100%以上の時間で薬剤の単回投与で送達するものである、請求項3の方法。
【請求項9】
速度が、評価されるターンオーバー時間の100%以上の時間で薬剤の単回投与で送達するものである、請求項4の方法。
【請求項10】
速度が、評価されるターンオーバー時間の150%以上の時間で薬剤の単回投与で送達するものである、請求項3の方法。
【請求項11】
速度が、評価されるターンオーバー時間の150%以上の時間で薬剤の単回投与で送達するものである、請求項4の方法。
【請求項12】
投与が、ターンオーバー時間の少なくとも100%の時間を費やすものである、請求項2の方法。
【請求項13】
投与が、ターンオーバー時間の少なくとも150%の時間を費やすものである、請求項2の方法。
【請求項14】
投与が、ターンオーバー時間の少なくとも200%の時間を費やすものである、請求項2の方法。
【請求項15】
投与が、ターンオーバー時間の少なくとも250%の時間を費やすものである、請求項2の方法。
【請求項16】
薬剤が第3脳室にアクセスするものである、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項17】
薬剤がシルビウス水道にアクセスするものである、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項18】
薬剤が第4脳室にアクセスするものである、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項19】
薬剤がルシュカ孔にアクセスするものである、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項20】
薬剤がマジャンディー孔にアクセスするものである、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項21】
薬剤が脊髄にアクセスするものである、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項22】
薬剤がくも膜下腔にアクセスするものである、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項23】
薬剤が血清にアクセスするものである、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項24】
薬剤が造影剤である、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項25】
薬剤が治療剤である、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項26】
薬剤が麻酔剤である、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項27】
薬剤が酵素である、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項28】
薬剤がリソソーム蓄積症において欠損する酵素である、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項29】
薬剤がX線を通さない造影剤である、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項30】
薬剤が蛍光性の造影剤である、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項31】
薬剤が放射性の造影剤である、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項32】
薬剤がスフィンゴミエリナーゼである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項33】
患者がB型ニーマン・ピック病に罹患しているものである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項34】
薬剤がアルファ−L−イズロニダーゼである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項35】
患者がフルラー症候群に罹患しているものである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項36】
患者がゴーシェ病に罹患しているものである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項37】
薬剤がグルコセレブロシダーゼである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項38】
患者がファブリー病に罹患しているものである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項39】
薬剤がアルファ−ガラクトシダーゼAである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項40】
患者がポンペ病に罹患しているものである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項41】
薬剤が酸性マルターゼである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項42】
患者がテイ−サックス病に罹患しているものである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項43】
薬剤がヘキソサミニダーゼである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項44】
患者がII型糖原病に罹患しているものである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項45】
薬剤がアルファ−グルコシダーゼである、請求項1、2、3、4、または5の方法。
【請求項46】
速度が、単回投与が4時間を超える時間を費やすような投与となるものである、請求項1の方法。
【請求項47】
速度が、単回投与が6時間を超える時間を費やすような投与となるものである、請求項1の方法。
【請求項48】
速度が、単回投与が8時間を超える時間を費やすような投与となるものである、請求項1の方法。
【請求項49】
速度が、単回投与が10時間を超える時間を費やすような投与となるものである、請求項1の方法。
【請求項50】
薬剤がカテーテルを使用して送達される、請求項1、2、4、または5の方法。
【請求項51】
薬剤がポンプを使用して送達される、請求項1、2、4、または5の方法。
【請求項52】
薬剤が埋め込み可能なポンプを使用して送達される、請求項1、2、4、または5の方法。
【請求項53】
選択された速度で薬剤を排出するようにポンプを操作する工程をさらに含む請求項3の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−526066(P2009−526066A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554340(P2008−554340)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/003382
【国際公開番号】WO2007/095056
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(500579888)ジェンザイム・コーポレーション (34)
【Fターム(参考)】