説明

運動解析システム、運動解析プログラム、および、運動解析プログラムを記録した記録媒体

【課題】インパクト前は打撃用具の運動を高精度に解析するとともにインパクト直後も解析を継続可能な打撃用具の運動解析システム、運動解析プログラム、および、運動解析プログラムを記録した記録媒体を提供すること。
【解決手段】運動解析システム1は、打撃用具に取り付けられる第1のセンサー10と、打撃用具の動きに連動し、ユーザーの部位に取り付けられる第2のセンサー12と、インパクト判定部24と、運動解析情報算出部26とを含む。インパクト判定部24は、打撃用具の打撃のインパクトのタイミングを判定する。運動解析情報算出部26は、インパクトの前は、第1のセンサー10の検出信号を用いて第1の運動解析情報を算出し、インパクトの後は、第2のセンサー12の検出信号を用いて第2の運動解析情報を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打撃用具の運動解析システム、運動解析プログラム、運動解析プログラムを記録した記録媒体等に関する。
【背景技術】
【0002】
テニス、野球、ゴルフなどの打撃系のスポーツでは、打撃用具のスイング時の姿勢、位置、速度などの情報を解析し、解析結果から改善点を明らかにすることで競技力の向上につなげることができると考えられている。
【0003】
運動解析システムとしては、マークがつけられた被測定物を赤外線カメラ等で連続撮影し、撮影された連続画像を用いてマークの移動軌跡を算出することで、被測定物の運動を解析するものが実用化されている。しかしながら、このような運動解析システムでは、画像を撮影するためのカメラが必要であるためシステムが大がかりなものになってしまい、取り扱いにくいという問題がある。
【0004】
これに対して、近年、被測定物に小型のジャイロセンサーや加速度センサーを取り付け、これらのセンサーの出力データから被測定物の運動を解析する手法が提案されている。例えば、特許文献1では、ゴルフクラブのヘッド部とグリップ部にともにジャイロセンサーと加速度センサーを内蔵し、これらのセンサーからゴルフクラブのスイング時の挙動情報を得てゴルフクラブのスイングに関する評価情報を生成するスイング評価支援装置が提案されている。このスイング評価支援装置は、センサーをゴルフクラブに内蔵しているので、ゴルフクラブの動きを正確に解析することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−73210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、センサーを打撃用具に直接取り付けた場合、センサーのダイナミックレンジが小さいと、打撃による強い衝撃(インパクト)を受けた際にセンサーの出力データが飽和するなどして正しく解析できないおそれがある。ダイナミックレンジの高いセンサーを用いることでインパクトによる影響を低減することができるが、分解能が低下するため解析精度が低下してしまう。また、振動型のセンサーを打撃用具に直接取り付けた場合、強いインパクトによってセンサーが共振し、インパクト直後から暫くは解析不能になる場合もある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、インパクト前は打撃用具の運動を高精度に解析するとともにインパクト直後も解析を継続可能な打撃用具の運動解析システム、運動解析プログラム、および、運動解析プログラムを記録した記録媒体を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、打撃用具に取り付けられる第1のセンサーと、前記打撃用具の動きに連動し、ユーザーの部位に取り付けられる第2のセンサーと、前記打撃用具の打撃のインパクトのタイミングを判定するインパクト判定部と、前記インパクトの前は、前記第1のセンサーの検出信号を用いて第1の運動解析情報を算出し、前記インパクトの後は、前記第2のセンサーの検出信号を用いて第2の運動解析情報を算出する運動解析情報算出部と、を含む、運動解析システムである。
【0009】
インパクト判定部は、第1のセンサーの検出信号及び第2のセンサーの検出信号の少なくとも一方に基づいて、打撃用具のインパクトのタイミングを判定するようにしてもよい。
【0010】
本発明の運動解析システムによれば、インパクト前は打撃用具に取り付けられる第1のセンサーの検出信号に基づいて第1の運動解析情報を算出することで、打撃用具の運動を高精度に解析することができる。また、インパクトの後は、打撃用具に直接ではなく打撃用具の動きに連動する部位に取り付けられる第2のセンサーの検出信号に基づいて第2の運動解析情報を算出することで、インパクトの後に第1のセンサーの検出信号に異常が発生しても解析を継続することができる。
【0011】
(2)この運動解析システムにおいて、前記第1のセンサーは、前記打撃用具の角速度を検出し、前記第2のセンサーは、前記打撃用具の動きに連動する部位の角速度を検出するようにしてもよい。
【0012】
(3)この運動解析システムにおいて、前記第1のセンサーは、前記打撃用具の加速度を検出し、前記第2のセンサーは、前記打撃用具の動きに連動する部位の加速度を検出するようにしてもよい。
【0013】
(4)この運動解析システムは、前記インパクトの後の前記第1のセンサーの検出信号の振幅及び周期の少なくとも一方に基づいて、特定時間を決定する特定時間決定部を含み、少なくとも前記特定時間の間は、前記第2のセンサーの検出信号を用いて前記第2の運動解析情報を算出するようにしてもよい。
【0014】
このようにすれば、インパクトの後の特定時間を、第1のセンサーの検出信号における振動の振幅及び周期に応じて変更することができる。
【0015】
(5)この運動解析システムにおいて、前記特定時間決定部は、前記インパクトの後の前記第1のセンサーの検出信号が飽和している時間を前記特定時間の少なくとも一部とするようにしてもよい。
【0016】
このようにすれば、インパクトの後、第1のセンサーの検出信号が飽和している時間は、第2のセンサーの検出信号に基づいて第2の運動解析情報を算出することで打撃用具の運動解析を継続することができる。
【0017】
(6)本発明は、打撃用具の打撃のインパクトのタイミングを判定するインパクト判定部と、前記インパクトの前は、前記打撃用具に取り付けられる第1のセンサーの検出信号を用いて第1の運動解析情報を算出し、前記インパクトの後は、前記打撃用具の動きに連動しユーザーの部位に取り付けられる第2のセンサーの検出信号を用いて第2の運動解析情報を算出する運動解析情報算出部としてコンピューターを機能させる、運動解析プログラムである。
【0018】
(7)本発明は、運動解析プログラムを記録した、コンピューター読み取り可能な記録媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の運動解析システムの構成を示す図。
【図2】運動解析システムの具体的な構成例を示す図。
【図3】運動解析システムの具体的な他の構成例を示す図。
【図4】6軸センサーモジュールの取り付け位置の一例を示す図。
【図5】打撃用具の運動解析の全体処理の具体例を示すフローチャート図。
【図6】運動解析情報算出処理の具体例を示すフローチャート図。
【図7】打撃用具に取り付けられた振動型ジャイロセンサーの出力データの波形図。
【図8】運動解析情報算出処理の変形例を示すフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0021】
1.運動解析システムの構成
図1は、本実施形態の運動解析システムの構成を示す図である。本実施形態の運動解析システム1は、第1のセンサー10、第2のセンサー12、処理部20、操作部30、表示部40、ROM50、RAM60、不揮発性メモリー70、記録媒体80を含んで構成されている。
【0022】
第1のセンサー10は、不図示の打撃用具に取り付けられ、打撃用具のスイングなどの運動に応じた動きを検出し、検出データを出力する。
【0023】
第2のセンサー12は、打撃用具の動きに連動する部位に取り付けられ、当該部位の動きを検出し、検出データを出力する。打撃用具の動きに連動する部位とは、例えば、ユーザーの手などの部位、手袋、腕時計などである。特に、第2のセンサー12は、ユーザーの手首よりも先端側において打撃用具を握る側と反対側(手の甲、指の背、爪など)に取り付けるようにしてもよい。
【0024】
第1のセンサー10が打撃用具の角速度を検出し、第2のセンサー12が打撃用具の動きに連動する部位の角速度を検出するようにしてもよい。また、第1のセンサー10が打撃用具の加速度を検出し、第2のセンサー12が打撃用具の動きに連動する部位の加速度を検出するようにしてもよい。あるいは、第1のセンサー10が打撃用具の角速度と加速度を検出し、第2のセンサー12が打撃用具の動きに連動する部位の角速度と加速度を検出するようにしてもよい。
【0025】
また、第1のセンサー10と第2のセンサー12は、3軸以上の角速度や3軸以上の加速度を検出するようにしてもよい。
【0026】
操作部30は、ユーザーからの操作データを取得し、処理部20に送る処理を行う。操作部30は、例えば、タッチパネル型ディスプレイ、ボタン、キー、マイクなどである。
【0027】
表示部40は、処理部20の処理結果を文字やグラフ、その他の画像として表示するものである。表示部40は、例えば、CRT、LCD、タッチパネル型ディスプレイ、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などである。なお、1つのタッチパネル型ディスプレイで操作部30と表示部40の機能を実現するようにしてもよい。
【0028】
ROM50は、処理部20が各種の計算処理や制御処理を行うための基本プログラムや基本プログラムで用いるデータ等を記憶している。
【0029】
RAM60は、処理部20の作業領域として用いられ、ROM50や記録媒体80から読み出されたプログラムやデータ、操作部30から入力されたデータ、処理部20が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する記憶部である。
【0030】
不揮発性メモリー70は、処理部20の処理により生成されたデータのうち、長期的な保存が必要なデータを記録する記録部である。
【0031】
記録媒体80は、コンピューター読み取り可能な記録媒体であり、各種のアプリケーション機能を実現するためのアプリケーションプログラムやデータを記憶している。記録媒体80は、例えば、光ディスク(CD、DVD)、光磁気ディスク(MO)、磁気ディスク、ハードディスク、磁気テープ、メモリー(ROM、フラッシュメモリーなど)により実現することができる。
【0032】
処理部20は、ROM50に記憶されている基本プログラムや記録媒体80に記憶されているアプリケーションプログラムに従って、各種の処理(第1のセンサー10の検出データと第2のセンサー12の検出データの取得処理、各種の計算処理、各種の制御処理等)を行う。処理部20は、マイクロプロセッサーなどで実現することができる。
【0033】
特に、本実施形態では、処理部20は、以下に説明するデータ取得部22、インパクト判定部24、運動解析情報算出部26、特定時間決定部28を含み、打撃用具の運動を解析する処理を行う。
【0034】
本実施形態では、処理部20が記録媒体80に記憶されている運動解析プログラムを実行することで、データ取得部22、インパクト判定部24、運動解析情報算出部26、特定時間決定部28として機能する。すなわち、記録媒体80には、コンピューターを上記の各部として機能させるための運動解析プログラムが記憶されている。あるいは、運動解析システム1に通信部を追加し、通信部を介して有線又は無線の通信ネットワークを介してサーバーから運動解析プログラムを受信し、受信した運動解析プログラムをRAM60や記録媒体80に記憶して当該運動解析プログラムを実行するようにしてもよい。ただし、データ取得部22、インパクト判定部24、運動解析情報算出部26、特定時間決定部28の全部又は一部をハードウェア(専用回路)で実現してもよい。
【0035】
データ取得部22は、第1のセンサー10の検出データと第2のセンサー12の検出データを、所定の期間、連続して取得する処理を行う。取得したデータは、例えばRAM60に記憶される。
【0036】
インパクト判定部24は、データ取得部22が取得した検出データ(第1のセンサー10の検出データ及び第2のセンサー12の検出データの少なくとも一方)に基づいて、打撃用具の打撃のインパクトのタイミングを判定する処理を行う。
【0037】
運動解析情報算出部26は、インパクトの前は、第1のセンサー10の検出データを用いて第1の運動解析情報を算出し、インパクトの後は、第2のセンサー12の検出データを用いて第2の運動解析情報を算出する処理を行う。
【0038】
本実施形態の運動解析情報算出部26は、姿勢算出部262と位置速度算出部264を含む。姿勢算出部262は、インパクトの前は、第1のセンサー10による角速度の検出データを用いて姿勢を算出し、インパクト後は、第2のセンサー12による角速度の検出データを用いて姿勢を算出する処理を行う。また、位置速度算出部264は、第1のセンサー10による加速度の検出データに基づいて打撃用具の位置や速度を算出する処理を行う。
【0039】
特定時間決定部28は、インパクトの後の第1のセンサー10の検出データにおける振動の振幅及び周期の少なくとも一方に基づいて、特定時間を決定する処理を行う。
【0040】
ただし、特定時間決定部28を設けずに、あらかじめ決められた所定時間を特定時間としてもよい。
【0041】
運動解析情報算出部26は、少なくとも特定時間の間は、第2のセンサー12の検出信号を用いて第2の運動解析情報を算出するようにしてもよい。
【0042】
なお、本実施形態の処理部20は、これらの一部の構成(要素)を省略したり、新たな構成(要素)を追加した構成としてもよい。
【0043】
この処理部20、操作部30、表示部40、ROM50、RAM60、不揮発性メモリー70、記録媒体80の全部又は一部の機能は、パーソナルコンピューター(PC)、あるいはスマートフォンなどの携帯機器などで実現することができる。
【0044】
この運動解析システム1は、第1のセンサー10及び第2のセンサー12と処理部20を物理的に分離した分離型として構成し、第1のセンサー10及び第2のセンサー12と処理部20とのデータ通信を無線又は有線で行うようにしてもよい。あるいは、運動解析システム1は、角速度センサー10と処理部20を1つの筐体の中に設けた一体型として構成してもよい。
【0045】
図2(A)及び図2(B)は、運動解析システム1の具体的な構成例を示す図である。図2(A)及び図2(B)において、図1と同じ構成には同じ符号を付しており、その説明を省略する。
【0046】
図2(A)及び図2(B)の構成例では、6軸センサーモジュール110とデータ送信ユニット200がケーブルで接続され、データ送信ユニット200とパーソナルコンピューター(PC)100の間のデータ通信は無線で行われる。6軸センサーモジュール110は、不図示の3軸加速度センサーと3軸角速度センサーを含み、これらのセンサーが検出した3軸分の加速度データと3軸分の角速度データは、データ送信ユニット200において、データ処理部210で送信フォーマットへの変換等のデータ処理が行われた後、送信部220を介してパーソナルコンピューター(PC)100に時分割で無線送信される。
【0047】
また、センサーユニット300は、不図示の3軸加速度センサーと3軸角速度センサーを含む6軸センサーモジュール112を内蔵し、これらのセンサーが検出した3軸分の加速度データと3軸分の角速度データは、データ処理部310で送信フォーマットへの変換等のデータ処理が行われた後、送信部320を介してパーソナルコンピューター(PC)100に時分割で無線送信される。
【0048】
これらの無線送信されたデータは、パーソナルコンピューター(PC)100の受信部90で受信され、処理部(CPU)20を介してRAM60に記憶される。
【0049】
6軸センサーモジュール110は、打撃用具に取り付けられ、図1の第1のセンサー10として機能する。センサーユニット300は、打撃用具に連動する部位、例えばユーザーの手の甲などに取り付けられ、図1の第2のセンサー12として機能する。また、データ送信ユニット200は、例えば、ユーザーの腕などに取り付けられる。
【0050】
図3(A)及び図3(B)は、運動解析システム1の具体的な他の構成例を示す図である。図3(A)及び図3(B)において、図1と同じ構成には同じ符号を付しており、その説明を省略する。
【0051】
図3(A)及び図3(B)の構成例では、6軸センサーモジュール110及び6軸センサーモジュール112とデータ送信ユニット200がケーブルで接続され、データ送信ユニット200とパーソナルコンピューター(PC)100の間のデータ通信は無線で行われる。6軸センサーモジュール110と6軸センサーモジュール112は、ともに、不図示の3軸加速度センサーと3軸角速度センサーを含み、これらのセンサーが検出した3軸分の加速度データと3軸分の角速度データは、データ送信ユニット200において、データ処理部210で送信フォーマットへの変換等のデータ処理が行われた後、送信部220を介してパーソナルコンピューター(PC)100に時分割で無線送信される。
【0052】
これらの無線送信されたデータは、パーソナルコンピューター(PC)100の受信部90で受信され、処理部(CPU)20を介してRAM60に記憶される。
【0053】
6軸センサーモジュール110は、打撃用具に取り付けられ、図1の第1のセンサー10として機能する。6軸センサーモジュール112は、打撃用具に連動する部位に取り付けられ、図1の第2のセンサー12として機能する。また、データ送信ユニット200は、例えば、ユーザーの腕などに取り付けられる。
【0054】
図4は、運動解析システム1の一例であるゴルフクラブのスイング動作を解析する運動解析システム(ゴルフスイング解析システム)を図3(A)及び図3(B)のように構成した場合の6軸センサーモジュール110と6軸センサーモジュール112の取り付け位置の一例を示す図である。図4に示すように、6軸センサーモジュール110を、例えば、ゴルフクラブのシャフトのグリップに近い位置に取り付け、6軸センサーモジュール112を、例えば、グローブを介してユーザーの手の甲に取り付けてもよい。
【0055】
ユーザーが打撃用具を握ると、ユーザーの手の甲の姿勢及び位置と打撃用具の姿勢及び位置の相対的な関係はほぼ変わらないため、手の甲の姿勢変化及び位置変化は、打撃用具の姿勢変化及び位置変化とほぼ同じと考えてよい。さらに、6軸センサーモジュール112をユーザーの手の平ではなく手の甲に取り付けることで、インパクトにより6軸センサーモジュール112が受ける衝撃を和らげることができる。従って、インパクトの後の特定時間は、6軸センサーモジュール112の検出データに基づいて手の甲の運動解析情報(第2の運動解析情報の一例)を算出することで、インパクトの後も解析を継続することができる。
【0056】
一方、インパクト前はゴルフクラブに直接取り付けられた6軸センサーモジュール110の検出データに基づいてゴルフクラブの運動解析情報(第1の運動解析情報)を算出することで、ゴルフクラブの運動を高精度に解析することができる。
【0057】
なお、図示しないが、ゴルフスイング解析システムを図2(A)及び図2(B)のように構成した場合も、6軸センサーモジュール110を、例えば、ゴルフクラブのシャフトのグリップに近い位置に取り付け、センサーユニット300を、例えば、グローブを介してユーザーの手の甲に取り付ければよい。
【0058】
2.運動解析システムの処理
2−1.運動解析の全体処理
図5は、運動解析システム1の処理部20による打撃用具の運動解析の全体処理の具体例を示すフローチャート図である。本フローチャートでは、第1のセンサー10は打撃用具に取り付けられ、第2のセンサー12はユーザーの手に取り付けられているものとしている。また、第1のセンサー10と第2のセンサー12は、それぞれ、3軸加速度と3軸角速度を検出するものとする。
【0059】
図5に示すように、本実施形態の処理部20は、まず、データ取得部22として機能し、第1のセンサー10と第2のセンサー12から打撃用具の運動に対応する一連の検出データ(3軸加速度データ及び3軸角速度データ)を順次取得してRAM60に記憶する(S10、データ取得ステップ)。データ取得部22が第1のセンサー10と第2のセンサー12からデータを取得する期間(データ取得期間)は、何らかの方法で設定する。例えば、ユーザーあるいは補助者が、スイング開始前に操作部30を操作することでデータ取得期間の開始タイミングを指示し、スイング終了後に操作部30を操作することでデータ取得期間の終了タイミングを指示するようにしてもよい。また、例えば、ユーザーあるいは補助者が、スイング開始前に操作部30を操作することでデータ取得期間の開始タイミングを指示し、所定時間経過後に自動的にデータ取得期間を終了するようにしてもよい。
【0060】
次に、処理部20は、時刻tを0に初期化し(S12)、時刻t=0における第1のセンサー10の検出データ(3軸加速度データ及び3軸角速度データ)と第2のセンサー12の検出データ(3軸加速度データ及び3軸角速度データ)をRAM60から読み出す(S14)。
【0061】
次に、処理部20は、姿勢算出部262及び位置速度算出部264として機能し、時刻t=0における手と打撃用具の初期姿勢と初期位置を算出する(S16、初期状態算出ステップ)。具体的には、時刻t=0において第1のセンサー10と第2のセンサーが静止しているものとして、処理部20(姿勢算出部262)は、時刻t=0において第1のセンサー10が検出した3軸加速度データから重力加速度の方向を特定することで打撃用具の初期姿勢を算出することができる。同様に、処理部20(姿勢算出部262)は、時刻t=0において第2のセンサー12が検出した3軸加速度データから重力加速度の方向を特定することで手の初期姿勢を算出することができる。また、処理部20(位置速度算出部264)は、時刻t=0における手と打撃用具の位置を手と打撃用具の初期位置とする。
【0062】
次に、処理部20は、時刻tをΔt(Δtは、S10における検出データの取得間隔)だけ増やし(S18)、時刻tにおける第1のセンサー10の検出データと第2のセンサー12の検出データをRAM60から読み出す(S20)。
【0063】
次に、処理部20は、インパクト判定部24及び運動解析情報算出部26として機能し、時刻tにおける手と打撃用具の運動解析情報を算出する(S22、運動解析情報算出ステップ)。手と打撃用具の運動解析情報は、例えば、手と打撃用具の姿勢、位置、速度などの情報である。この運動解析情報算出ステップの詳細な処理の具体例については後述する。
【0064】
S10でRAM60に記憶した検出データのうち未処理の検出データがあれば(S24のY)、tをΔtだけ増やして(S18)S20〜S22の処理を行い、未処理のデータがなくなれば(S24のN)、処理部20は、打撃用具の運動解析情報を表示部40に表示し(S26)、処理を終了する。
【0065】
なお、図5のフローチャートの各ステップを適宜入れ替えてもよい。
【0066】
2−2.運動解析情報算出処理
図6は、処理部20による運動解析情報算出処理の具体例を示すフローチャート図である。
【0067】
図6に示すように、処理部20は、まず、姿勢算出部262として機能し、第2のセンサー12の角速度データからユーザーの手の姿勢を算出する(S100)。
【0068】
次に、処理部20は、インパクトからの経過時間が0であれば(S110のY)、インパクト判定部24として機能し、第1のセンサー10の検出データ(角速度データと加速度データのいずれか一方あるいは両方)に基づいてインパクトか否かを判定する(S130)。処理部20(インパクト判定部24)は、例えば、打撃用具の運動方向の加速度が最大となるタイミングをインパクトのタイミングとして検出してもよいし、打撃用具の運動の回転軸の角速度が最大となるタイミングをインパクトのタイミングとして検出してもよい。
【0069】
処理部20は、インパクトであれば(S132のY)、インパクトからの経過時間のカウントを開始し(S134)、インパクトでなければ(S132のN)、姿勢算出部262として機能し、第1のセンサー10の角速度データから打撃用具の姿勢を算出する(S162)。
【0070】
また、処理部20は、インパクトからの経過時間が0でなければ(S110のN)、インパクトからの経過時間を更新する(S120)。
【0071】
そして、処理部20は、姿勢算出部262として機能し、インパクトからの経過時間が特定時間以内であれば(S140のY)、打撃用具の姿勢変化をユーザーの手の姿勢変化と同じとみなし、第2のセンサー12の角速度データから手の姿勢を算出し、打撃用具の姿勢とする(S150)。
【0072】
一方、インパクトからの経過時間が特定時間を超えれば(S140のN)、処理部20(姿勢算出部262)は、インパクトからの経過時間を0にリセットし(S160)、第1のセンサー10の角速度データから打撃用具の姿勢を算出する(S162)。
【0073】
次に、処理部20は、位置速度算出部264として機能し、第1のセンサー10の加速度データから打撃用具の位置と速度を算出する(S170)。例えば、処理部20(位置速度算出部264)は、ステップS150又はS162で算出した手又は打撃用具の姿勢から重力加速度の方向を算出し、第1のセンサー10の加速度データから重力加速度をキャンセルして積分することで打撃用具の速度を算出し、当該速度をさらに積分することで打撃用具の位置を算出することができる。
【0074】
最後に、処理部20は、位置速度算出部264として機能し、第2のセンサー12の加速度データから手の位置と速度を算出し(S172)、処理を終了する。例えば、処理部20(位置速度算出部264)は、ステップS100で算出した手の姿勢から重力加速度の方向を算出し、第2のセンサー12の加速度データから重力加速度をキャンセルして積分することで手の速度を算出し、当該速度をさらに積分することで手の位置を算出することができる。
【0075】
なお、図6のフローチャートの各ステップを適宜入れ替えてもよい。
【0076】
ところで、第1のセンサー10が振動型のジャイロセンサーであれば、インパクトにより第1のセンサー10が共振することで、図7に示すように、特定の軸の角速度データに関してインパクトの後に共振周期で振動する波形が得られる場合がある。図7は、ゴルフクラブのグリップに取り付けた6軸センサーモジュール110のX軸回りの角速度、Y軸回りの角速度、Z軸回りの角速度のデータを示しており、ここではY軸回りの角速度データにおいてスイング時の回転が強く現れており、角速度のピーク値がインパクトの瞬間であることを示している。図7の例では、Y軸角速度データにおいてインパクトの直後から所定周期Tの振動が発生している。この振動に起因し、Y軸角速度データにおいて本来インパクト後にあるべき山がない。これに対して、ユーザーの手の甲に取り付けた第2のセンサー12は第1のセンサー10よりも共振しにくいと考えられる。なお、Y軸回りの角速度データにおいて、インパクトの後に角速度の出力がマイナス側になっているが、これはインパクト時の衝撃でクラブが反対側に反ったためである。
【0077】
そこで、この山が発生すべき期間を含む所定時間を特定時間とし、特定時間中は第2のセンサー12の角速度データから手の姿勢を算出することで、インパクト後の打撃用具の姿勢を解析することが可能になる。あるいは、処理部20が特定時間決定部28として機能し、第1のセンサー10による角速度データの振動の振幅及び周期に基づいて、特定時間を決定してもよい。例えば、図7の例では、Y軸角速度データにおける周期Tの振動の振幅Wが所定の閾値以下である時間を特定時間として決定すればよい。
【0078】
以上に説明したように、本実施形態の運動解析システムによれば、打撃用具のインパクト前は打撃用具に取り付けられる第1のセンサー10の検出データに基づいて打撃用具の運動解析情報を算出することで、打撃用具の運動を高精度に解析することができる。また、インパクトの後の特定時間は、打撃用具に直接ではなく打撃用具の動きに連動する部位に取り付けられる第2のセンサー12の検出データに基づいて当該部位の運動解析情報を算出することで、インパクトの後に第1のセンサー10の検出データに異常が発生しても打撃用具の運動解析を継続することができる。
【0079】
3.変形例
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0080】
例えば、打撃用具のインパクトが大きすぎると打撃用具に取り付けた第1のセンサー10の加速度データが飽和することが考えられるが、ユーザーの手で衝撃が緩和されるので、ユーザーの手の甲に取り付けた第2のセンサー12の加速度データは飽和しにくい。
【0081】
そこで、第1のセンサー10の加速度データが飽和している時間を特定時間とし、図1の位置速度算出部264を、インパクトの前は、第1のセンサー10による加速度の検出データに基づいて打撃用具の位置及び速度の少なくとも一方を算出し、インパクト後の特定時間は、第2のセンサー12による加速度の検出データに基づいてユーザーの手の位置及び速度の少なくとも一方を算出するように変形してもよい。このようにすれば、インパクト後の打撃用具の位置と速度を解析することが可能になる。
【0082】
図8は、この変形例における処理部20による運動解析情報算出処理を示すフローチャート図である。図8において、図6と同じステップには同じ符号を付している。
【0083】
本変形例では、図8に示すように、処理部20は、まず、第2のセンサー12の角速度データからユーザーの手の姿勢を算出する(S100)。
【0084】
次に、処理部20は、第2のセンサー12の加速度データからユーザーの手の位置と速度を算出する(S102)。
【0085】
次に、処理部20は、インパクトからの経過時間が0であれば(S110のY)、第1のセンサー10の検出データ(角速度データと加速度データのいずれか一方あるいは両方)に基づいてインパクトか否かを判定する(S130)。
【0086】
処理部20は、インパクトであれば(S132のY)、インパクトからの経過時間のカウントを開始し(S134)、インパクトでなければ(S132のN)、第1のセンサー10の角速度データから打撃用具の姿勢を算出し(S162)、第1のセンサー10の加速度データから打撃用具の位置と速度を算出する(S164)。
【0087】
また、処理部20は、インパクトからの経過時間が0でなければ(S110のN)、インパクトからの経過時間を更新する(S120)。
【0088】
そして、処理部20は、インパクトからの経過時間が特定時間以内であれば(S140のY)、打撃用具の姿勢変化をユーザーの手の姿勢変化と同じとみなし、第2のセンサー12の角速度データから手の姿勢を算出し、打撃用具の姿勢とする(S150)。ここで、処理部20が特定時間決定部28として機能し、インパクトの後の第1のセンサー10の検出データが飽和している時間が特定時間の少なくとも一部となるように特定時間を決定する。
【0089】
続いて、処理部20は、打撃用具の位置変化及び速度変化をユーザーの手の位置変化及び速度変化と同じとみなし、第2のセンサー12の加速度データから打撃用具の位置と速度を算出し(S152)、処理を終了する。
【0090】
一方、インパクトからの経過時間が特定時間を超えれば(S140のN)、処理部20は、インパクトからの経過時間を0にリセットし(S160)、第1のセンサー10の角速度データから打撃用具の姿勢を算出する(S162)。
【0091】
続いて、処理部20は、第1のセンサー10の加速度データから打撃用具の位置と速度を算出し(S164)、処理を終了する。
【0092】
なお、図8のフローチャートの各ステップを適宜入れ替えてもよい。
【0093】
本実施形態では、ゴルフクラブの運動解析を行う運動解析システムを例に挙げて説明したが、本発明の運動解析システムは、テニスラケットや野球のバットなどの様々な打撃用具の運動解析に適用することができる。
【0094】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0095】
1 運動解析システム、10 第1のセンサー、12 第2のセンサー、20 処理部、22 データ取得部、24 インパクト判定部、26 運動解析情報算出部、28 特定時間決定部、30 操作部、40 表示部、50 ROM、60 RAM、70 不揮発性メモリー、80 記録媒体、90 受信部、100 パーソナルコンピューター(PC)、110 6軸センサーモジュール、112 6軸センサーモジュール、200 データ送信ユニット、210 データ処理部、220 送信部、262 姿勢算出部、264 位置速度算出部、300 センサーユニット、310 データ処理部、320 送信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打撃用具に取り付けられる第1のセンサーと、
前記打撃用具の動きに連動し、ユーザーの部位に取り付けられる第2のセンサーと、
前記打撃用具の打撃のインパクトのタイミングを判定するインパクト判定部と、
前記インパクトの前は、前記第1のセンサーの検出信号を用いて第1の運動解析情報を算出し、前記インパクトの後は、前記第2のセンサーの検出信号を用いて第2の運動解析情報を算出する運動解析情報算出部と、を含む、運動解析システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1のセンサーは、前記打撃用具の角速度を検出し、
前記第2のセンサーは、前記打撃用具の動きに連動する部位の角速度を検出する、運動解析システム。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記第1のセンサーは、前記打撃用具の加速度を検出し、
前記第2のセンサーは、前記打撃用具の動きに連動する部位の加速度を検出する、運動解析システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項において、
前記インパクトの後の前記第1のセンサーの検出信号の振幅及び周期の少なくとも一方に基づいて、特定時間を決定する特定時間決定部を含み、
前記運動解析情報算出部は、
少なくとも前記特定時間の間は、前記第2のセンサーの検出信号を用いて前記第2の運動解析情報を算出する、運動解析システム。
【請求項5】
請求項4において、
前記特定時間決定部は、
前記インパクトの後の前記第1のセンサーの検出信号が飽和している時間を前記特定時間の少なくとも一部とする、運動解析システム。
【請求項6】
打撃用具の打撃のインパクトのタイミングを判定するインパクト判定部と、
前記インパクトの前は、前記打撃用具に取り付けられる第1のセンサーの検出信号を用いて第1の運動解析情報を算出し、前記インパクトの後は、前記打撃用具の動きに連動しユーザーの部位に取り付けられる第2のセンサーの検出信号を用いて第2の運動解析情報を算出する運動解析情報算出部としてコンピューターを機能させる、運動解析プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の運動解析プログラムを記録した、コンピューター読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−9917(P2013−9917A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145966(P2011−145966)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)