説明

運動評価装置およびプログラム

【課題】スポーツの運動フォームの訓練を行う者にその上達の程度を客観的に把握させるような仕組みを提供する。
【解決手段】音響処理部14と音発生部15は、被験者の運動フォームのリズムを示す第1から第3の案内音をスピーカ16から発音させる。加速度センサ11は、それらの案内音に合わせて被験者が運動を行う間の加速度を検出する。そして、ADC17、遅延部18、フィルタ20による信号処理を経て、その加速度のサンプルが評価部22へ供給される。評価部22は、加速度の時間波形の特徴点のサンプルの取得時刻と、ボールの打撃の瞬間のサンプルの取得時刻との間の時間間隔を求め、この時間間隔と理想値パラメータが示す模範の時間間隔とのずれ量を、評価結果として提示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニスのスイングや水泳などの運動の評価に好適な運動評価装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツの訓練の多くの時間は、その基本となる運動フォームの習得に費やされている。特許文献1および2には、性別や年齢を問わず広く普及しているスポーツの一つであるゴルフのスイングの習得を支援する仕組みの開示がある。
特許文献1に開示されたゴルフ練習装置は、競技者がアドレスをとるスイング台の4隅にロードセルを設け、競技者がスイングを行う間の荷重中心の移動速度をそれらのロードセルが検出する荷重を基に割り出す。そして、荷重中心の移動速度が設定値以下になった時に、クラブがトップオブスイングの位置に至ったことを示す音を出力する。特許文献2に開示されたゴルフスイング矯正装置は、競技者の両足の、かかと側、親指側、小指側にかかる体重をセンサにより検知する。そして、競技者がスイングの準備姿勢であるアドレスをとったことをその足の親指のセンサにより検知すると、スイングに適したリズム音を発音する。
【特許文献1】特開平04−307076号公報
【特許文献2】特開平09−083917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、スポーツの訓練の効率性を高めるためには、訓練を行う競技者にその技量の上達の程度を理解させることが極めて重要であるとされている。しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された装置は、運動フォームの最適な開始タイミングを音により案内するものにすぎない。よって、競技者は、その案内音に合わせて行った運動フォームがどの程度良好であるのかを知ることができず、効率的な訓練を行うことができないという問題があった。
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、スポーツの運動フォームの訓練を行う者にその上達の程度を客観的に把握させ得るような仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の好適な態様である運動評価装置は、一連の案内音を時間間隔をあけて順に発音する発音手段と、被験者の力の作用を受ける部位の運動状態を示す物理量を検出する検出手段と、前記検出手段が検出した物理量の変化を示す時間波形の特徴点を抽出し、その特徴点を評価する評価手段とを備える。
この態様では、一連の案内音を発音するとともに、被験者の力の作用を受ける部位の運動状態を示す物理量の時間波形から特徴点を抽出し、抽出した特徴点を評価する。よって、一連の案内音のリズムに合わせて行われる被験者の運動を正確に評価することができる。被験者は、この運動評価装置により提示される評価を確認することにより、自らの運動フォームがどの程度まで上達しているのかを把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
(発明の実施の形態)
以下、図面を参照し、この発明の実施形態を説明する。
本実施形態にかかる運動評価装置は、テニスのスイングの運動フォームを評価するものである。テニスのスイングは、ラケットを引くテイクバック運動と、引いたラケットを自らの懐へのボールの到達に合わせて振り抜くフォワードスイング運動とからなる連続運動である。本実施形態にかかる運動評価装置は、運動フォームの評価を受ける者(以下、「被験者」と呼ぶ)がスイングのリズムを取りやすくするための第1〜第3の案内音を発音し、それらの一連の案内音に合わせて被験者がスイングを行う間の腰の加速度の時間波形から抽出した特徴点を基に、その運動フォームを評価する。本実施形態において、「特徴点」は、加速度の時間波形において運動者の運動状態の変化が顕著に現れる点を意味し、加速度の波形における極大値や極小値が該当する。
【0006】
図1は、本実施形態にかかる運動評価装置10の構成を示す図である。図1に示すように、この運動評価装置10は、加速度センサ11、主制御部12、パラメータ記憶用メモリ13、音響処理部14、音発生部15、スピーカ16、ADC(Analog Digital Converter)17、遅延部18、運動開始判定部19、フィルタ20、サンプル用メモリ21、および評価部22を有する。これらのうち加速度センサ11を除く各部は、被験者の掌に収まるサイズの筺体に内蔵され、例えば、被験者の衣服のポケット等に収容される。また、加速度センサ11は、被験者がスイングを行う間に加速される部位の1つである腰に装着され、ケーブルにより筺体の内部のADC17と接続される。
【0007】
加速度センサ11は、一軸の加速度センサである。この加速度センサ11は、第1の向きに加わる加速度を、その大きさに応じたレベルの正のアナログ信号として出力し、第1の向きとの逆の第2の向きに加わる加速度を、その大きさに応じたレベルの負のアナログ信号として出力する。本実施形態において、加速度センサ11は、被験者がフォワードスイング運動をしているときの腰の移動の向きが第1の向きとなるように、被験者の腰に固定される。
主制御部12は、筺体に内蔵された各部の動作を制御する装置である。
パラメータ記憶用メモリ13は、案内音パラメータ、時間差パラメータ、評価音声パラメータ、および評価基準値パラメータの4種のパラメータを記憶する。主制御部12は、これらの4種のパラメータのうち案内音パラメータと評価音声パラメータを音響処理部14に設定し、時間差パラメータを遅延部18と評価部22に設定し、評価基準値パラメータを評価部22に設定する。
【0008】
案内音パラメータは、被験者に運動のタイミングを示唆する案内音に関するパラメータであって、第1、第2、第3の時間的に独立した案内音の各々の音色と、それらの各案内音の発音の時間間隔とを示すパラメータである。これらの3つの案内音で構成される一連の案内音のうち第3の案内音は、ボールの打撃のタイミングを指示する案内音である。第1〜第3の各案内音の音色は、被験者によるリズミカルな運動を引き出すものであることが望ましい。例えば、打撃のタイミングを指示する第3の案内音の音色を「チャ」というような軽快な感じを与える音色にし、その前の第1の案内音と第2の案内音の音色を「ズン」というような重厚な感じを与える音色にして、「ズン・ズン・チャ」という一連の案内音を発音する。被験者は、「ズン・ズン」という第1、第2の案内音を聞きながら、テイクバック運動からフォワードスイング運動へと移り、第3の案内音「チャ」のタイミングにおいて、ボールを打撃することを促される。
【0009】
時間差パラメータは、第1〜第3の案内音に合わせた被験者のスイングによりボールが打撃されるタイミングと第3の案内音が発音されるタイミングとの時間差を示すパラメータである。この時間差パラメータは、以下に示す初期設定作業を通じて各被験者ごとに取得される。
初期設定作業においては、案内音パラメータが示す時間間隔をあけてそのパラメータが示す3つの案内音を順に発音し、第3の案内音の発音に合わせてボールを打撃する、という条件の下で、本装置10を使う被験者に試し打ちを行わせる。そして、その試し打ちのスイングの間の被験者の身体の各部位やラケットの位置を光学測定機器などにより測定する。このとき、被験者の近くに位置させた練習相手から、その懐のあたりへボールをトスしてもらうようにするとよい。当然ながら、各被験者のリズム感には個人差があり、第3の案内音の発音に合わせるつもりで行ったスイングの打撃のタイミングがその発音より早くなってしまうようなリズム感を持つ被験者もあれば、遅れてしまうようなリズム感を持つ被験者もある。
試し打ちをが終わると、その間に測定しておいた測定値を基に、第3の案内音を発音した時刻と被験者がボールを実際に打撃した時刻の時間差を割り出し、その時間差を該当の被験者の時間差パラメータとしてパラメータ記憶用メモリ13に記憶する。ここで、試し打ちにおける打撃の時刻が第3の案内音の発音の時刻より早すぎた被験者の時間差パラメータの符号は負にし、遅すぎた被験者の時間差パラメータの符号は正にする。
【0010】
評価音声パラメータは、被験者に運動フォームの評価結果の内容を報知する評価音声に関するパラメータであって、被験者の運動フォームの評価結果が不良であったとき、良好であったとき、極めて良好であった時にそれぞれ出力する評価音声、具体的には、「Practice More」、「Good」、「Excellent」の評価音声を示すパラメータである。
【0011】
評価基準値パラメータは、スイングを始めてからラケットがボールを打撃するまでの間の腰の加速度の時間波形における特徴点の発生時刻に関するパラメータであって、打撃の瞬間に最も近い極大値と極小値の各々とその打撃の瞬間との間の模範の時間間隔(「模範時間間隔」という)を示すパラメータである。この評価基準値パラメータは、プロテニスプレーヤらに模範のスイングを行わせて得た加速度の時間波形の実測値から取得するとよい。また、この評価基準値パラメータは、模範のスイングの加速度の時間波形の理論値(計算値)から取得してもよい。
ここで、プロテニスプレーヤなどの上級者のスイングにおける腰の加速度の時間波形には、図2に示すように、打撃の瞬間よりも所定時間D1だけ前に極大値P1が出現し、打撃の瞬間よりも所定時間D2だけ前に極小値P2が出現する、という共通した特徴がある。これは、身体の力をボールの打撃力へと効率よく変換するための合理的な腰の加速のさせ方があり、上級者はいずれも、そのような腰の加速のさせ方を身につけているためである。
【0012】
図1において、音響処理部14は、案内音パラメータが示す第1〜第3の案内音の音波形のオーディオ信号を出力する第1の役割と、評価音声パラメータが示す評価音声の音波形のオーディオ信号を出力する第2の役割とを果たす。
第1の役割において、音響処理部14は、案内音の発音の指示が主制御部12から下されると、まず、第1の案内音を発音し、第1の案内音を発音してから時間間隔t1をあけて第2の案内音を発音し、第2の案内音を発音してから時間間隔t2をあけて第3の案内音を発音し、第3の案内音を発音してから時間間隔t3をあけて第1の案内音の発音に戻る、というサイクルを繰り返す。この時間間隔t1,t2,t3は、案内音パラメータにより示されるものであり、クロックのカウント数を基に特定するとよい。
第2の役割において、音響処理部14は、「Practice More」、「Good」、「Excellent」のいずれかの評価音声の発音の指示が主制御部12から下されると、その指示にかかる評価音声のオーディオ信号を出力する。
音発生部15は、音響処理部14から出力されるオーディオ信号が示す音をスピーカ16から放音させる。
【0013】
ADC17は、加速度センサ11から出力されたアナログ信号を所定の周期のサンプリングクロックφによりサンプリングし、そのサンプルを示すデジタル信号を出力する。
遅延部18は、主制御部12によって自らに設定された時間差パラメータの符号が負である場合に、ADC17から出力される加速度のサンプルのデジタル信号を、その時間差パラメータが示す時間差の分だけ遅延させた上で、出力する。
運動開始判定部19は、被験者によるスイングの開始を判定する役割を果たす。この役割において、運動開始判定部19は、被験者がスイングを始める際の腰の加速度の立ち上がりに相当する閾値thを判定に用いる。具体的には、運動開始判定部19は、遅延部18から加速度のサンプルが出力されるたびに、そのサンプルとそれに先行する複数のサンプルの加速度の移動平均を求め、求めた移動平均と閾値thを比較する。そして、移動平均が閾値thを上回ると、以後に遅延部18から出力される加速度のサンプルを自らを介してフィルタ20へ出力する。
【0014】
フィルタ20は、運動開始判定部19から出力される加速度のサンプルから、ノイズに相当する成分と重力加速度に相当する成分とを除去して出力する。
サンプル用メモリ21は、スイングが始まってから終わるまでの時間T相当の加速度のサンプル列を書き込み得るだけの記憶アドレスを有するメモリである。このメモリ21には、フィルタ20から出力されるサンプルがその出力の順に書き込まれる。
【0015】
評価部22は、打撃の瞬間の加速度のサンプル(「基準サンプル」という)が取得された時刻と、特徴点である極大値と極小値の加速度のサンプル(「被評価サンプル」という)が取得された時刻の各々との間の時間間隔(「被評価時間間隔」という)を求め、この被評価時間間隔と評価基準値パラメータが示す模範時間間隔とのずれ量を示す信号を出力する役割を果たす。以降の説明では、図2のD1に相当する被評価時間間隔を「被評価時間間隔D1’」と記し、D1に相当する模範時間間隔を「模範時間間隔D1’’」と記す。また、図2のD2に相当する被評価時間間隔を「被評価時間間隔D2’」と記し、D2に相当する模範時間間隔を「模範時間間隔D2’’」と記す。
この役割において、評価部22は、音響処理部14におけるオーディオ信号の出力サイクルと同期をとりつつ第3の案内音の発音を待ち、第3の案内音が発音されると、サンプル用メモリ21から基準サンプルを探索した後、サンプル用メモリ21におけるその基準サンプルの前のサンプル列を1つずつ遡りながら走査し、極大値と極小値の各々に対応する2つの被評価サンプルを探索する。そして、評価部22は、基準サンプルと被評価サンプルの各々との間のサンプル書き込み数に所定の演算を施すことによって被評価時間間隔D1’およびD2’を割り出し、これらの被評価時間間隔D1’およびD2’と模範時間間隔D1’’およびD2’’との間のずれ量の総計(|D1’−D1’’|+|D2’−D2’’|)をずれ量信号として主制御部12へ出力する。
【0016】
ここで、被評価時間間隔D1’およびD2’を割り出す際の起算点となる基準サンプルの探索は、たとえば、以下のルールa.およびb.に従って行うとよい。
a.主制御部12によって評価部22に設定された時間差パラメータの符号が正である場合、打撃の瞬間が第3の案内音の発音より遅くなってしまうようなリズム感を持つ被験者が本装置10を使っている。よって、第3の案内音の発音と同時に書き込まれたものよりもその時間差パラメータが示す時間差相当だけ後に書き込まれたサンプルを基準サンプルとする。
b.主制御部12によって評価部22に設定された時間差パラメータの符号が負である場合、打撃の瞬間が第3の案内音の発音より早くなってしまうようなリズム感を持つ被験者が本装置10を使っている。ただし、この場合は、時間差パラメータが示す時間差の分だけ遅延部18によりサンプル列が遅延されるため、その遅延を経たサンプル列のうちの打撃の瞬間の加速度のサンプルがサンプル用メモリ21へ書き込まれる時刻と第3の案内音が発音される時刻の間に大きな時間差はない。よって、第3の案内音の発音とほぼ同時に書き込まれたサンプルを基準サンプルとする。
【0017】
主制御部12は、時間差パラメータを遅延部18と評価部22へ設定する第1の制御、案内音パラメータが示す第1〜第3の案内音のオーディオ信号を音響処理部14に発生させる第2の制御、および、それらの案内音に合わせたスイングの評価結果であるずれ量を評価部22から受け取り、そのずれ量に応じた評価音声のオーディオ信号を音響処理部14に発生させる第3の制御を行う。
【0018】
以上説明した各構成要素のうち、音響処理部14、音発生部15、スピーカ16は、「一連の案内音を時間間隔をあけて順に発音する発音手段」を構成し、加速度センサ11は、「被験者の力の作用を受ける部位の運動状態を示す物理量を検出する検出手段」を構成し、評価部22は、「検出した物理量の変化を示す時間波形の特徴点を抽出し、その特徴点を評価する評価手段」を構成する。
【0019】
次に、本実施形態の動作を説明する。
図3は、本実施形態の動作を示すフローチャートである。図3に示す一連の処理は、時間差パラメータの遅延部18および評価部22への設定と評価基準値パラメータの評価部22への設定とを済ませた運動評価装置10の加速度センサ11を被験者の腰に装着させ、図示しない操作子により評価の開始が指示されると、実行される。
【0020】
評価の開始が指示されると、主制御部12は、案内音の発音を開始させる(S100)。具体的には、音響処理部14に対して案内音の発音の指示を下す。この指示を受けた音響処理部14は、第1〜第3の案内音のオーディオ信号をそのパラメータが示す時間間隔をあけて音発生部15へ出力するサイクルを繰り返す。被験者は、スピーカ16から繰り返し発音される第1〜第3の案内音を数サイクル分聴くことにより、そのリズムを把握し、適当なサイクルの第1〜第3の案内音の発音に合わせてスイングを行う。
【0021】
運動開始判定部19は、スイングが開始されたと判定すると(S110:Yes)、加速度のサンプル列を出力する(S120)。それらのサンプル列は、フィルタ20により、ノイズや重力加速度に相当する成分を除去された後(S130)、評価部22による特徴点のサンプルの抽出に供される(S140)。さらに、評価部22は、その特徴点のサンプルの取得時刻と打撃の瞬間の加速度のサンプルの取得時刻の間の時間間隔である被評価時間間隔D1’およびD2’を求め、被評価時間間隔D1’およびD2’と評価基準値パラメータが示す模範時間間隔D1’’およびD2’’との間のずれ量の総計(|D1’−D1’’|+|D2’−D2’’|)をずれ量信号として主制御部12へ出力する(S150)。そして、ずれ量を取得した主制御部12は、そのずれ量の大きさに応じた評価音声を発音させる(S160)。具体的には、主制御部12は、ずれ量が第1の閾値よりも小さい場合、「Excellent」の評価音声を発音させる。また、そのずれ量が第1の閾値より大きいものの第2の閾値より小さい場合、「Good」の評価音声を発音させ、第2の閾値より大きい場合、「Practice More」の評価音声を発音させる。
ステップS160にて評価音声を出力すると、サンプル用メモリ21のサンプルを消去してからステップS110に戻り、次のスイングの開始を待つ。図3に示す一連の処理は、操作子により評価の終了が指示されると、終了となる。
【0022】
以上説明した本実施形態では、第1〜第3の案内音のリズムに合わせて被験者にスイングを行わせてその腰の加速度をサンプリングし、そのスイングの間のサンプル列から特徴点を抽出する。そして、その特徴点の加速度のサンプルの取得時刻と打撃の瞬間の加速度のサンプルの取得時刻との時間間隔である被評価時間間隔D1’およびD2’を求め、その被評価時間間隔D1’およびD2’と評価基準値パラメータが示す模範時間間隔D1’’およびD2’’との間のずれ量の総計(|D1’−D1’’|+|D2’−D2’’|)に応じた評価結果を出力する。これにより、被験者の運動フォームの上達の程度を示す信頼性の高い評価結果を提示することができる。
また、本実施形態では、初期設定作業を通じて取得された被験者ごとの時間差パラメータが運動評価装置10の遅延部18と評価部22へ設定される。そして、時間差パラメータの符号が負である場合、ADC17から出力される加速度のサンプルをその時間差パラメータが示す時間差の分だけ遅延させた上で、サンプル用メモリ21に書き込む。一方、時間差パラメータの符号が正である場合、そのような遅延を行なわず、第3の案内音の発音時刻よりもその時間差パラメータが示す時間差相当だけ後にサンプル用メモリ21に書き込まれたサンプルを基準サンプルとし、被評価時間間隔D1’およびD2’を求める。つまり、本実施形態においては、時間差パラメータが示す時間差に相当する分だけ第3の案内音の発音時刻を遅らせまたは遡らせ、第3の案内音の発音時刻を遅らせた時刻または遡らせた時刻と特徴点の加速度のサンプルを取得した時刻との間の時間間隔を被評価時間間隔D1’およびD2’とする。よって、被評価時間間隔D1’およびD2’を特定するまでに要する処理が簡素化され、被験者がスイングを行ってからその運動フォームの評価結果を提示するまでに要する時間を短くすることができる。
さらに、本実施形態では、第1〜第3の一連の案内音を教示するので、複数の被験者の運動が一定となり、個人差が最小化され、運動評価の精度が向上する。また、被験者の側も、第1〜第3の一連の案内音の支援により、評価される運動を一定のタイミングで反復して実行できるので、スイングを複数回行う場合における運動フォームのバラツキが少なくなる。
【0023】
(他の実施形態)
本願発明は、種々の変形実施が可能である。
(1)上記実施形態において、第1〜第3の案内音の音色(周波数特性、倍音構造など)だけでなく、ピッチ、音量(立ち上がり、立ち下り特性を含む)、または、それらの組み合わせを変えてもよい。
(2)上記実施形態において、案内音パラメータに従って出力される一連の案内音は、3つである必要はなく、評価を行うスポーツの運動フォームの特性に応じて、2つや4つ以上にしてもよい。
(3)上記実施形態では、第1〜第3の案内音は、案内音パラメータの通りに発音された。これに対し、第1の案内音を発音してから第2の案内音を発音するまでに加速度センサ11が検出した加速度のサンプルの評価結果が良好でないときは、第3の案内音のピッチを下げることにより被験者に不快な印象を与え、第1の案内音と第2の案内音の間に行うべき運動(例えば、テイクバック運動)の運動フォームの評価がよくなかったことを知らせるようにしてもよい。また、第1の案内音を発音してから第2の案内音を発音するまでに加速度センサ11が検出した加速度のサンプルの評価結果が良好でないときは、音響処理部14が発生する第3の案内音のオーディオ信号をローパスフィルタで濾波した上で音発生部15へ供給し、その第3の案内音の音色を不快な印象を与えるものへ変化させてもよい。これらの変形例は、決まり切った音色の案内音では飽き足らない中上級者向けの訓練ツールとして好適である。
【0024】
(4)上記実施形態では、連続して発音される3つの案内音のうち第3の案内音の発音時を加速度のサンプル列における時間軸の基準として、打撃の瞬間のサンプルを特定した。しかし、第1の案内音や第2の案内音の発音時を加速度のサンプル列における時間軸の基準としてもよい。
(5)上記実施形態において、被評価時間間隔D1’およびD2’と模範時間間隔D1’’およびD2’’との間のずれ量の総計(|D1’−D1’’|+|D2’−D2’’|)に加えて、被評価サンプルが示す特徴点の加速度の大きさと、評価基準値パラメータとして予め準備したその模範の加速度の大きさとのずれ量を求めてもよい。また、求めたずれ量を閾値と比較して、その結果に応じた評価音声を発音させてもよい(図3のS160)。
(6)上記実施形態において、理想値パラメータを予め準備することなく、被評価サンプルの取得時刻と基準サンプルの取得時刻との間の時間間隔が短いほど良好な評価結果を出力するようにしたり、その時間間隔が長いほど良好な評価結果を出力するようにしてもよい。
【0025】
(7)上記実施形態では、被験者の運動フォームの評価結果を3段階で評価し、その評価結果に応じて、「Excellent」、「Good」、または「Practice More」のいずれかの評価音声を出力した。しかし、評価結果を2通りとし、運動フォームが不良である場合は、「ブブー」といった不良を示唆する音を、良好である場合は「ピンポン」といった良好を示唆する音をそれぞれ出力するようにしてもよい。また、「ステップが弱い」などのように、評価結果を基に特定した運動フォームの欠点の具体的な内容を示す音声を出力してもよい。
(8)上記実施形態では、被験者の腰に加速度センサ11を装着した。しかし、被験者の力の作用を受ける他の部位、例えば、被験者の身体の腰以外の部位や道具に加速度センサ11を装着し、その部位に加わる加速度のサンプルを運動フォームの評価に用いてもよい。
(9)上記実施形態において、速度センサ、歪センサ、圧力センサ、地磁気センサ、傾斜センサ、筋肉の緊張度を検出するセンサ等々、公知の種々の動作検出センサを加速度センサ11の代わりに被験者の身体や道具の部位に搭載し、それらの部位の運動状態を示す物理量を検出し、その物理量のサンプルを運動フォームの評価に用いてもよい。
【0026】
(10)上記実施形態において、運動開始判定部19は、サンプルの加速度の移動平均が閾値thを超えた場合に、運動が始まったと判断した。しかし、加速度の極大値が閾値thを超えた場合に、運動が始まったと判断してもよい。また、運動が始まってから終わるまでの時間Tよりも十分に小さな時間tが経過するたびに、その時間tの間の複数の極値の時間間隔を求め、求めた時間間隔が予め設定された動作モデルのパターンに合致した場合に、運動が始まったと判断してもよい。
(11)上記実施形態において、複数の被験者の各々に固有の時間差パラメータをパラメータ記憶用メモリ13に記憶し、装置10を使う被験者が自らの時間差パラメータを都度選択できるようにしてもよい。また、案内音の個数、音色、発音間隔などを各種のスポーツの運動フォームに応じて変えた複数の案内音パラメータをパラメータ記憶用メモリ13に記憶し、評価を行う運動フォームの種別に応じてそれらの中から選択できるようにしてもよい。
(12)上記実施形態において、被験者に試し打ちを行わせてその被験者の時間差パラメータの取得を行うことなく、第3の案内音の発音と同時にサンプル用メモリに22に書き込まれた加速度のサンプルをそのまま基準サンプルとし、被評価サンプルの取得時刻との時間間隔を求めてもよい。
【0027】
(13)上記実施形態では、テニスのスイングの運動フォームの評価に本願発明を適用した。しかし、本願発明により評価を行い得る運動フォームはこれに限らない。本願発明の適用により訓練の効率化が期待される運動フォームとしては、以下のものがある。
a.水泳の運動フォーム
水泳の運動フォームは、手足により水を後方へ掻く掻き運動と掻いた手足を元に戻す復帰運動とを有し、掻き運動の運動フォームはできるだけ大きな推進力を稼げるものであることが望ましく、復帰運動の運動フォームは掻き運動で得た推進力の損失をできるだけ少なくするものであることが望ましいとされている。このような性質を有する運動フォームの評価は、例えば、以下のような構成により実現できる。まず、掻き運動と復帰運動の各々の開始のタイミングを案内する第1の案内音と第2の案内音を時間間隔をあけて繰り返し出力し、額に水圧センサを装着させた被験者を泳がせる。そして、その泳ぎの間に水圧センサが検出した圧力値を基に被験者の加速度の変化を示す時間波形を取得する。さらに、掻き運動から復帰運動に至る各ストロークの加速度の時間波形から特徴点を抽出し、それらの特徴点の加速度を検出した時刻と案内音を発音した時刻の間の時間間隔と、予め準備した模範の時間間隔とのずれ量を評価音として出力する。評価音は、ずれ量が閾値を超えた時に、ローパスフィルタによりこもった音色に変えるなどし、運動フォームの良否を示すものにするとなおよい。また、水圧センサの値から、被験者の速度を割り出し、その速度に応じて、次に発音する案内音の音量やピッチを変えるようにしてもよい。
b.ゴルフスイングの運動フォーム
ゴルフのドライバースイングの運動フォームは、クラブヘッドがボールをインパクトする瞬間のそのヘッドの速度が大きいものであるほど望ましいとされている。このような性質を有する運動フォームの評価は、例えば、以下のような構成により実現できる。まず、バックスイングの開始のタイミングを案内する第1の案内音、それに後続するダウンスイングの開始のタイミングを案内する第2の案内音、およびボールを打撃するタイミングを案内する第3の案内音を時間間隔をあけて出力し、クラブヘッドに風圧センサが装着されたクラブを把持した被験者にドライバースイングをさせる。そして、風圧センサが検出した圧力値を基にクラブヘッドの速度の変化を示す時間波形を取得する。さらに、その時間波形の特徴点である極大値の速度を検出した時、つまり、クラブヘッドのスピードが最大化した時に、そのことを示す第4の案内音を出力する。被験者は、第3の案内音と第4の案内音の発音の時間差を基に、ボールをインパクトする瞬間でクラブヘッドのスピードを最大化できているかを把握することができる。
c.ウォーキングの運動フォーム
ウォーキングの運動フォームは、正しい姿勢を維持したまま歩を進めることが望ましいとされている。このような性質を有する運動フォームの評価は、例えば、以下のような構成により実現できる。まず、被験者の膝、腰、腕などの各部位に位置センサを装着し、右足を前に進める運動の開始のタイミングを案内する第1の案内音と、左足を前に進める運動の開始のタイミングを案内する第2の案内音を時間間隔をあけて繰り返し出力し、被験者にウォーキングを行わせる。そして、そのウォーキングの間に位置センサが検出した位置を基に、被験者の姿勢、体幹の傾き、上下動などの変化を示す時間波形を取得する。そして、その時間波形から特徴点を抽出し、抽出した特徴点と予め準備した模範の特徴点のずれ量を評価音として出力する。評価音は、ずれ量が閾値を超えた時に、ピッチをゆらし、被験者に不快な印象を与えるようなものにするとよい。
また、以上説明した、水泳、ゴルフのスイング、ウォーキングなどの運動を被験者が複数回にわたって繰り返し行い、繰り返される運動の各々を評価するようにしてもよい。この態様によると、それらの運動のフォームの矯正を短時間で完成させることができる。
【0028】
(14)上記実施形態では、被験者の試し打ちを行わせて得た時間差パラメータの符号が
負である場合は、遅延部18が、ADC17から出力される加速度のサンプルのデジタル信号をその時間差パラメータが示す時間差の分だけ遅延させた上で出力する一方、時間差パラメータの符号が正である場合は、評価部22が、第3の案内音の発音時よりもその時間差パラメータが示す時間差の分だけ後にサンプル用メモリ21に書き込まれたサンプルを基準サンプルとした。しかし、遅延部18による遅延量の調整のみによって、被験者のリズム感と第1〜第3の案内音のリズムの差を埋め合わせるようにしてもよい。この変形例は、例えば、以下の構成により実現し得る。まず、被験者の試し打ちにより得た時間差パラメータの符号が正である場合は、遅延部18の遅延量をその絶対値の分だけ規定値dよりも小さくし、時間差パラメータの符号が負である場合は、遅延部18の遅延量をその絶対値の分だけ規定値dよりも大きくする。一方で、評価部22は、時間差パラメータが正であると負であるとに関わらず、第3の案内音の発音時よりも規定値d相当だけ後にサンプル用メモリ21へ書き込まれた加速度のサンプルを、基準サンプルとして特定する。
【0029】
(15)上記実施形態において、被評価時間間隔D1’およびD2’と模範時間間隔D1’’およびD2’’との間のずれ量の総計(|D1’−D1’’|+|D2’−D2’’|)を算出する際、それらのずれ量の一方または両方に個別の重み付け係数を乗算してから総計を求めてもよい。この重み付け係数は、評価する運動の内容や評価の目的に応じて適宜設定するとよい。
(16)上記実施形態においては、加速度の波形における極大値と極小値を特徴点とし、この極大値と極小値のサンプルの取得時刻と打撃の瞬間の加速度のサンプルの取得時刻との間の時間間隔である被評価時間間隔D1’およびD2’を求めた。しかし、極大値や極小値だけでなく、加速度の波形が上に凸の波形から下に凸の波形に切り換わる停留点、下に凸の波形から上に凸の波形に切り換わる停留点、その他の変曲点などを特徴点とし、それらに該当するサンプルの取得時刻と打撃の瞬間のサンプルの取得時刻との間の時間間隔を基に評価を行ってもよい。加速度の波形が上に凸の波形から下に凸の波形に切り換わる停留点、下に凸の波形から上に凸の波形に切り換わる停留点、およびその他の変曲点は、加速度の1階微分値やさらに高次の微分値を用いることによって検出することが可能である。また、加速度の波形の積分値(波形の面積)を特徴点として抽出してもよい。
(17)上記第実施形態にかかる運動評価装置10の各部と同じ機能をコンピュータに実現させるプログラムを、WWW(World Wide Web )上のサーバ装置から、パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Data Assistance)、携帯電話端末へダウンロードさせてもよい。この場合、それらの端末に標準装備されているセンサ、音源、スピーカなどを、ダウンロードしたプログラムによって制御し、上記運動評価装置10と同様の作用を実現することが可能である。また、そのようなプログラムを記憶媒体に記憶させた上で配布するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施形態である運動評価装置の構成を示すブロック図である。
【図2】フォワードスイング運動の間の腰の加速度の時間波形を示す図である 。
【図3】同実施形態の処理の内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0031】
10…運動評価装置、11…加速度センサ、12…主制御部、13…パラメータ記憶用メモリ、14…音響処理部、15…音発生部、16…スピーカ、17…ADC、18…遅延部、19…運動開始判定部、20…フィルタ、21…サンプル用メモリ、22…評価部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連の案内音を時間間隔をあけて順に発音する発音手段と、
被験者の力の作用を受ける部位の運動状態を示す物理量を検出する検出手段と、
前記検出手段が検出した物理量の変化を示す時間波形の特徴点を抽出し、その特徴点を評価する評価手段と
を備えることを特徴とする運動評価装置。
【請求項2】
前記発音手段は、
前記評価手段による評価の結果を示す音をさらに発音する
ことを特徴とする請求項1に記載の運動評価装置。
【請求項3】
前記評価手段は、
前記一連の案内音のうちの1つを前記発音手段が発音した発音時刻と前記特徴点の物理量を前記検出手段が検出した時刻との間の時間間隔を求め、この時間間隔と評価の基準とする時間間隔とのずれ量を求める
ことを特徴とする請求項1または2に記載の運動評価装置。
【請求項4】
前記評価手段は、
前記一連の案内音のうちの1つを前記発音手段が発音した発音時刻を、当該一連の案内音のリズムと前記被験者の運動のリズムの差に相当する分だけ遅らせまたは遡らせ、当該発音時刻を遅らせた時刻または遡らせた時刻と前記特徴点の物理量を前記検出手段が検出した時刻との間の時間間隔を求め、この時間間隔と評価の基準とする時間間隔とのずれ量を求める
ことを特徴とする請求項1または2に記載の運動評価装置。
【請求項5】
前記評価手段が求めたずれ量に応じて、その後に前記発音手段が発音する案内音のピッチ、音色、音量、または、それらの組み合わせを変化させる案内音変化制御手段
をさらに備えることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の運動評価装置。
【請求項6】
前記検出手段が物理量を検出するたびに、物理量の移動平均が所定条件を満たすか否かを判定する判定手段
をさらに備え、
前記評価手段は、
前記物理量の移動平均が所定条件を満たすと前記判定手段が判定したとき、以後に前記検出手段が検出した物理量の変化を示す時間波形から特徴点を抽出する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の運動評価装置。
【請求項7】
コンピュータに
一連の案内音を時間間隔をあけて順に発音する発音機能と、
被験者の力の作用を受ける部位の運動状態を示す物理量を検出する検出機能と、
前記検出機能により検出した物理量の変化を示す時間波形の特徴点を抽出し、その特徴点を評価する評価機能と
を実現させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−247529(P2009−247529A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98031(P2008−98031)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)