説明

運転状態監視装置および運転状態監視方法

【課題】物質収支や熱収支を容易に把握することができる運転状態監視装置を提供する。
【解決手段】流入量取得手段11は、プラント設備の所定領域に流入する物質量または熱量を取得する。流出量取得手段12は、前記所定領域から流出する物質量または熱量を取得する。算出手段13は、前記流入量取得手段11で取得された物質量と前記流出量取得手段12で取得された物質量とのバランス、または前記流入量取得手段11で取得された熱量と前記流出量取得手段12で取得された熱量とのバランスを算出する。表示手段14は、前記算出手段13により算出された前記バランスを表示画面上にグラフィック表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの運転状態を、表示画面を介して監視するための運転状態監視装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントの運転監視を行う操作監視装置の表示画面には、一般に、(1)プロセスフロー、(2)流量、温度などの計測ポイント(タグ名)とその現在値、(3)ポンプ稼働状況、(4)異常値警報(アラーム)、などの多くのプラントの情報や運転情報が表示される。
【0003】
運転員は表示された個々のデータや、データとは別に表示されるトレンドグラフの動き、アラームが表示された異常タグと異常値などの個々の変数の状態や動きからプラントの状態を把握し、状況に応じた判断とそれに基づく操作を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3848920号公報
【非特許文献】
【0005】
特許文献1には、プラントに含まれる装置・機器やプロセスの運転状態を表示し、これによりプラントを制御・監視するプラント制御監視装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラントの規模が大きい場合には、操作監視装置ではプラント設備の全体を一つの表示画面に表示することができず、プロセスフローに沿ってプラント設備を分割表示している。しかし、プロセスフローに従った分割画面では、ある装置に入るフィード流量や、その装置から系外に排出される流量を計測するすべてのタグがその装置と同一画面に表示されるとは限らない。このため、分割画面上でその装置についての物質収支を把握できないという問題が生じる。また、物質収支を把握するために必要なパラメータのすべてが同一画面に表示されていたとしても、表示画面上から物質収支を把握することは困難である。さらに、装置内への物質蓄積異常は、例えば液面異常のようなアラームで運転員に警告されるが、この液面を計測する液面計の故障などがある場合には、物質収支の異常を把握できなくなるおそれがある。また、同様の理由から、ある装置や系に対する熱収支についても、従来の操作監視装置では把握が困難である。
【0007】
本発明の目的は、物質収支や熱収支を容易に把握することができる運転状態監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の運転状態監視装置は、プラントの運転状態を、表示画面を介して監視するための運転状態監視装置において、プラント設備の所定領域に流入する物質量または熱量を取得する流入量取得手段と、前記所定領域から流出する物質量または熱量を取得する流出量取得手段と、前記流入量取得手段で取得された物質量と前記流出量取得手段で取得された物質量とのバランス、または前記流入量取得手段で取得された熱量と前記流出量取得手段で取得された熱量とのバランスを算出する算出手段と、前記算出手段により算出された前記バランスを表示画面上にグラフィック表示する表示手段と、を備えることを特徴とする。
この運転状態監視装置によれば、流入量取得手段で取得された物質量と流出量取得手段で取得された物質量とのバランス、または流入量取得手段で取得された熱量と流出量取得手段で取得された熱量とのバランスを算出し、表示画面上にグラフィック表示するので、物質収支や熱収支を容易に把握することができる。
【0009】
前記算出手段は、前記流入量取得手段で取得された物質量と前記流出量取得手段で取得された物質量との差分の積算値、または前記流入量取得手段で取得された熱量と前記流出量取得手段で取得された熱量との差分の積算値を前記バランスとして算出してもよい。
【0010】
前記積算値の現在値がゼロとなるように前記算出手段をリセットする指示を受け付けるリセット受付手段を備えてもよい。
【0011】
前記算出手段は前記バランスを継続的に算出し、前記表示手段は前記算出手段により算出される前記バランスのトレンドをグラフィック表示してもよい。
【0012】
前記表示手段は、前記プラント設備のうち、前記バランスが前記表示画面上に表示される対象となる領域の構成を、前記バランスと並べて、または前記バランと重ね合わせて前記表示画面上にグラフィック表示してもよい。
【0013】
前記バランスが前記表示画面上に表示される対象となる領域の指示を、前記表示画面上に表示される前記プラント設備のグラフィック表示に対する操作を介して受け付ける領域受付手段を備えてもよい。
【0014】
本発明の運転状態監視方法は、プラントの運転状態を、表示画面を用いて監視するための運転状態監視方法において、プラント設備の所定領域に流入する物質量または熱量を取得する流入量取得ステップと、前記所定領域から流出する物質量または熱量を取得する流出量取得ステップと、前記流入量取得ステップで取得された物質量と前記流出量取得ステップで取得された物質量とのバランス、または前記流入量取得ステップで取得された熱量と前記流出量取得ステップで取得された熱量とのバランスを算出する算出ステップと、前記算出ステップにより算出された前記バランスをグラフィック表示する表示ステップと、をコンピュータが実行することを特徴とする。
この運転状態監視方法によれば、流入量取得ステップで取得された物質量と流出量取得ステップで取得された物質量とのバランス、または流入量取得ステップで取得された熱量と流出量取得ステップで取得された熱量とのバランスを算出し、グラフィック表示するので、物質収支や熱収支を容易に把握することができる。
【0015】
前記算出ステップでは、前記流入量取得ステップで取得された物質量と前記流出量取得ステップで取得された物質量との差分の積算値、または前記流入量取得ステップで取得された熱量と前記流出量取得ステップで取得された熱量との差分の積算値を前記バランスとして算出してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の運転状態監視装置によれば、流入量取得手段で取得された物質量と流出量取得手段で取得された物質量とのバランス、または流入量取得手段で取得された熱量と流出量取得手段で取得された熱量とのバランスを算出し、表示画面上にグラフィック表示するので、物質収支や熱収支を容易に把握することができる。
【0017】
本発明の運転状態監視方法によれば、流入量取得ステップで取得された物質量と流出量取得ステップで取得された物質量とのバランス、または流入量取得ステップで取得された熱量と流出量取得ステップで取得された熱量とのバランスを算出し、グラフィック表示するので、物質収支や熱収支を容易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1の運転状態監視装置の構成を示すブロック図。
【図2】プラント設備の一部の構成(プロセスフロー)例を示す図。
【図3】プラント設備の一部分を表示画面にグラフィック表示する例を示す図。
【図4】物質収支の算出および表示にかかる操作監視装置の動作を示すフローチャート。
【図5】グラフィック表示を示す図であり、(a)は、領域52および領域53に表示されるグラフィック表示を例示する図、(b)は、リセットボタンが操作された場合のトレンドグラフの表示状態を示す図。
【図6】プラント設備の一部の構成(プロセスフロー)例を示す図。
【図7】グラフィック表示を示す図であり、(a)は、領域52および領域53に表示されるグラフィック表示を例示する図、(b)は、リセットボタンが操作された場合のトレンドグラフの表示状態を示す図。
【図8】物質収支を示す別のグラフィック表示の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による運転状態監視装置の実施形態について説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、実施例1の運転状態監視装置の構成を示すブロック図である。本実施例の運転状態監視装置は、プラントの運転を表示画面を介して監視するための操作監視装置の一部として構成される。
【0021】
図1に示すように、操作監視装置10は、プラント2に設けられたプラント設備の所定領域に流入する物質量または熱量を取得する流入量取得手段11と、上記所定領域から流出する物質量または熱量を取得する流出量取得手段12と、流入量取得手段11で取得された物質量と流出量取得手段12で取得された物質量とのバランス、または流入量取得手段11で取得された熱量と流出量取得手段12で取得された熱量とのバランスを算出する算出手段13と、算出手段13により算出されたバランスを表示画面15上にグラフィック表示する表示手段14と、ユーザの操作を受け付ける操作受付部16と、を構成する。
【0022】
図2は、プラント2(図1)に設けられたプラント設備の一部の構成(プロセスフロー)例を、表示画面15上でのグラフィック表示の形態で示す図である。
【0023】
図2に示す例では、装置21に着目した場合、装置21に対し、「Feed1」、「Feed2」として示す2種類のフィードが供給され、装置21から「Prod.1」、「Prod.2」として示す2種類の製品が生産されるプロセスが表されている。「Feed1」の流量は流量計22により、「Feed2」の流量は流量計23により、「Prod.1」の流量は流量計24により、「Prod.2」の流量は流量計25により、それぞれ計測される。なお、各流量計に表示された数値、例えば流量計22における「150」、流量計23における「145」等は、各流量計で計測される流量を示している。また、流量計を含む各計測器に表示された記号、例えば流量計22における「FC1」、流量計23における「FC2」等は、各計測器のタグ名を示している。
【0024】
次に、本実施例の運転状態監視装置の動作について説明する。
【0025】
図3は、図2に示すプラント設備の一部分を表示画面15にグラフィック表示する例を示している。操作監視装置10には、プラント2に設けられたプラント設備の情報である設備データ18(図1)が格納されており、この設備データ18に基づいて、プラント設備の状態(プロセスフロー)が表示手段14により表示される。ユーザは、操作受付部16または表示画面15を介する指示により、表示画面15に表示されるプラント設備の領域を自由に設定することができる。操作受付部16または表示画面15に対するユーザの指示が受け付けられると、表示手段14はその指示に従って設備データ18を検索し、指示された領域のプラント設備が読み込まれて表示画面15にグラフィック表示される。また、その領域内にあるセンサで計測されるプロセス値(例えば、流量計22,23,24,25の流量)は適宜、流入量取得手段11、流出量取得手段12および算出手段13を介して表示手段14に読み込まれ、表示画面15に表示される。
【0026】
なお、図3では、図2に示すプラント設備と表示画面15における表示領域との対応関係を示すために、表示画面15の外側まで連続的にプラント設備のグラフィック表示を描画している。
【0027】
図2および図3に示すように、表示画面15(図3)には、図2に示すプラント設備のうち、装置21を含む一部の領域がグラフィック表示されている。
【0028】
装置21についての物質収支を知りたい場合、ユーザは操作受付部16や表示画面15上への操作を介して、表示画面15上に表示された装置21を指定することで、算出手段13にその範囲での物質収支を算出させ、算出結果を表示画面15に表示させることができる。例えば、図3では、装置21を囲む表示51により装置21(図2)が指定されていることが示されている。この場合、表示画面15の領域52には、装置21における物質収支がグラフにより表示される。また、表示画面15の領域53には、物質収支に関する指標値の履歴(時間変化)がトレンドグラフにより表示される。さらに、領域54には、領域53に示される指標値の1つである積算値をリセットするためのリセットボタンが表示される。積算値については後述する。
【0029】
物質収支の算出範囲は、単独の装置に限らず、複数の装置や設備を伴う広い範囲として指定することもできる。この場合、例えば、表示51をその範囲まで広げる操作により、広い範囲を指定できるようにしてもよい。なお、表示画面15に表示されるプラント設備が設定された際に、その領域内で中心的な装置を、自動的に物質収支の算出範囲として設定するようにしてもよい。
【0030】
図4は、物質収支の算出および表示にかかる操作監視装置10の動作を示すフローチャートである。
【0031】
図4のステップS1では、算出手段13は、物質収支の算出範囲が指定されるのを待って、ステップS2へ進む。
【0032】
ステップS2では、算出手段13は設備データ18にアクセスし、物質収支の算出に必要な情報を取得する。この情報には、指定された算出範囲について物質収支を計算するのに必要な情報が含まれる。例えば、装置21が指定された場合、「Feed1」、「Feed2」、「Prod.1」、「Prod.2」の流量を用いた計算式や、これらの流量が流量計22,23,24,25の流量として得られる旨の情報が含まれる。
【0033】
次に、ステップS3では、物質収支の算出範囲が変更されたか否か判断し、判断が肯定されればステップS2へ戻り、算出手段13は、変更された算出範囲についての物質収支の算出に必要な情報を取得する。一方、ステップS3の判断が否定されればステップS5へ進む。
【0034】
ステップS5では、算出手段13は、ステップS2で取得された情報に基づき、流入量取得手段11および流出量取得手段12を介して物質収支の計算に使用するための最新のプロセス値を取得する。例えば、装置21が指定されている場合、流入量取得手段11を介して流量計22,23の流量が、流出量取得手段12を介して流量計24,25の流量を介して、それぞれ取得される。
【0035】
次に、ステップS6では、算出手段13は、ステップS2で取得された情報およびステップS5で取得されたプロセス値に基づき、物質収支を算出するための演算を実行する。ここでは、指定された物質収支の算出範囲に対する物質の流入量の合計、この算出範囲からの物質の流出量の合計、上記流入量の合計と上記流出量の合計との差分、この差分の積算値(時間積分値)などが算出される。
【0036】
次に、ステップS7では、ステップS6における算出結果を表示手段14により表示画面15にグラフィック表示する。
【0037】
図5(a)は、ステップS7において表示画面15の領域52および領域53に表示されるグラフィック表示を例示する図である。
【0038】
図5(a)に示すように、例えば、物質収支の算出範囲として装置21が指定されている場合、表示画面15の領域52内の左側の領域52Aには、物質の流入量である流量計22の流量(150kl/h)を示すバー52aと、流量計23の流量(145kl/h)を示すバー52bと、が積み上げられてこれらの流入量の合算(295kl/h)を示すバーとして表示される。一方、表示画面15の領域52内の右側の領域52Bには、物質の流出量である流量計24の流量(68kl/h)を示すバー52cと、流量計25の流量(213kl/h)を示すバー52dと、が積み上げられてこれらの流出量の合算(281kl/h)を示すバーとして表示される。
【0039】
このように、装置21への流入量の合算と装置21からの流出量の合算とが左右に並んで表示されるため、流入量と流出量とのバランス、アンバランスが一目瞭然であり、物質収支の正常、異常を容易に認識できる。例えば、図5(a)の例では、流入量の合算を示す領域52Aのバーが、流出量の合算を示す領域52Bのバーよりもやや上回っているため、装置21では、流入量が流出量よりもやや大きいことが把握できる。
【0040】
また、図5(a)に示すように、例えば、物質収支の算出範囲として装置21が指定されている場合、表示画面15の領域53には、上記流入量の合算と上記流出量の合算との差分、(例えば、「上記流入量の合算」−「上記流出量の合算」)の時間変化を、横軸を時刻とするトレンドグラフ53aとして示している。また、上記流入量の合算と上記流出量の合算との差分の積算値(時間積分値)の時間変化をトレンドグラフ53bとして示している。これらのトレンドグラフには、過去の時刻T1から現在時刻Tまでの変化が示されている。
【0041】
このように、流入量の合算と流出量の合算との差分、およびこの差分の積算値がトレンドグラフとして表示されるため、流入量と流出量とのバランス、アンバランスの変化を一目で確認することができる。とくに流入量の合算と流出量の合算との差分の積算値は、一定時間内における物質収支を的確に示す指標となるため、積算値の変化を容易に把握可能とするトレンドグラフの表示は極めて有用である。例えば、積算値を監視することで、長時間にわたって少しずつ装置に蓄積された物質が溢れ出す危険等を検知できる。また、計器の異常などを容易に把握することもできる。
【0042】
また、積算値を表示する期間、すなわち、図5(a)における時刻T1から現在時刻Tまでの時間を自由に設定可能とすることにより、様々な視点で物質収支を監視することが可能となる。
【0043】
次に、図4のステップS8では、表示画面15の領域54に表示されたリセットボタンに対する操作があったか否か判断し、判断が肯定されればステップS6へ戻り、判断が否定されればステップS3へ戻る。
【0044】
ステップS8の判断が肯定された場合、ステップS6では、トレンドグラフ53bとして示される上記積算値の現在値をゼロにリセットする。
【0045】
図5(b)は、図5(a)に示す状態で、リセットボタンが操作された場合のトレンドグラフ53bの表示状態を示す図である。
【0046】
領域54に表示されたリセットボタンが操作されると、ステップS6において、算出手段13は上記積算値の現在値がゼロとなるように、上記積算値をシフトする。これにより、図5(a)および図5(b)に示すように、表示手段14により表示されるトレンドグラフ53bの全体が上下方向に平行移動し(ステップS7)、現在時刻Tの値がゼロを示す表示状態となる(図5(b))。積算値には計器誤差も蓄積されるため、誤差によって積算値が表示範囲を超える可能性もあるため、本実施例では、リセットボタンの操作により容易に積算値の表示範囲を適正化できるようにしている。また、リセットボタンの操作により、リセット時点からの積算値の変化を正確に把握することができる。
【0047】
流入量の合算と流出量の合算との差分、またはこの差分の積算値が一定値を超えた場合にアラームを発生させるようにすることで、監視業務の負担を軽減できる。例えば、装置21における流入量と流出量との差分、またはこの差分の積算値が大きくなった場合には、物質収支の算出範囲での物質の保持量が変化しているはずであるが、アラーム発生時に液面計26(図2)の計測値が合理的な動きをしていない場合には、いずれかの計器の異常と推定できる。このように、流入量と流出量のバランスを監視することにより、プラントにおける異常の検知能力を高めることができる。
【0048】
なお、上記実施例では、流入量と流出量とのバランス、アンバランスをバーグラフで表示しているが、一定時間における流入量の積算値(時間積分値)と、流出量の積算値(時間積分値)と、を示すバーを並べて表示してもよい。流入量および流出量の瞬時値のバランス状態よりも、一定時間にわたる流入量および流出量の積算値のバランス状態の方が重要な情報となる場合には、積算値のバランスをバーグラフにより表示することが望ましい。もちろん、流入量と流出量とのバランス状態について、瞬時値および積算値の両者を表示してもよい。
【0049】
また、上記実施例では、物質収支を示すグラフィック表示を、対応するプラント設備の領域の構成のグラフィック表示と並べて表示した例を示しているが、物質収支を示すグラフィック表示と、対応するプラント設備の領域の構成のグラフィック表示とを重ね合わせて表示してもよい。
【0050】
以上のように、本実施例では、視認性の高いグラフィック表示により物質収支を表示画面に常駐させることで、運転員は物質収支のバランスの崩れを容易に認識することが可能となり、例えば液面計に不具合が生じた場合などでも異常を迅速に検知できる。さらに液面計の異常だけでなく、例えば配管の途中からの漏洩のようなプロセス異常も容易に検知でき、運転員の監視負担の軽減とより一層の安全運転に資することができる。
【実施例2】
【0051】
実施例2の運転状態監視装置は、熱収支のバランスをグラフィック表示する例を示すものである。本実施例の運転状態監視装置は、プラントの運転を表示画面を介して監視するための操作監視装置の一部として構成される。
【0052】
熱収支の場合には、物質収支とは異なり装置からの放熱で系外に逃げる熱があり、例えば装置が反応器の場合は反応熱になったりしてバランスを取ることが難しい。さらに、装置自体が熱容量を持っており、温度が変化するのに時間遅れを伴い、系がダイナミックに変化している時はバランスが合わない。これらの不確定要因はあるが、物質収支と同様に熱収支をグラフィック表示することで監視のために有用な種々の情報を得ることができる。
【0053】
以下、実施例2の運転状態監視装置について、図1、図3、図6〜図7を参照しつつ、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0054】
図6は、プラント2(図1)に設けられたプラント設備の一部の構成(プロセスフロー)例を、表示画面15上でのグラフィック表示の形態で示す図である。このようなグラフィック表示は実施例1と同様、表示手段14により表示画面15上に表示される。
【0055】
図6に示す例では、図6に示される系26の熱収支に着目した場合、系26への入熱は、リボイラー26aで与えられる外部加熱量Q1と、「Feed」として示すフィードのもつエンタルピーとを加えたものとなる。一方、蒸留塔26からの出熱は、塔頂クーラー26bで取り除かれる熱Q2と、「Prod.11」、「Prod.12」、「Prod.13」として示す3種類の製品が系26から持ち去るエンタルピーとを加えたものになる。
【0056】
図7(a)は、系26の熱収支を示すグラフィック表示を例示する図である。このようなグラフィック表示は実施例1と同様、表示手段14により表示画面15上に表示される。
【0057】
図7(a)に示すグラフィック表示に必要な計算のうち、系26への入熱の計算は流入量取得手段11および算出手段13で、系26からの出熱の計算は流出量取得手段12および算出手段13で、それぞれ計算される。エンタルピーの出入りの計算に必要なパラメータとして、プラント2の計器から得られる計測値(温度、圧力、流量)が用いられる。
【0058】
図7(a)に示す例では、表示画面15の領域52(図3)内の左側の領域52Aには、リボイラー26aで与えられる外部加熱量Q1を示すバー52eと、「Feed」として示すフィードのもつエンタルピーを示すバー52fと、が積み上げられてこれらの合算、すなわち系26への入熱量を示すバーとして表示される。一方、表示画面15の領域52内の右側の領域52Bには、塔頂クーラー26bで取り除かれる熱Q2を示すバー52gと、「Prod.11」、「Prod.12」および「Prod.13」として示す3種類の製品が系26から持ち去るエンタルピーを示すバー52h、バー52iおよびバー52jと、が積み上げられてこれらの合算、すなわち系26からの出熱量を示すバーとして表示される。
【0059】
このように、系26への入熱量の合算と系26からの出熱量の合算とが左右に並んで表示されるため、入熱量と出熱量とのバランス、アンバランスが一目瞭然であり、熱収支の正常、異常を容易に認識できる。例えば、図7(a)の例では、入熱量の合算を示す領域52Aのバーが、出熱量の合算を示す領域52Bのバーよりもやや上回っているため、系26では、入熱量が出熱量よりもやや大きいことが把握できる。すなわち、領域52Aのバーの上端と領域52Bのバーの上端との間の段差が、直接、最終的な熱収支を示している。
【0060】
また、図7(a)に示すように、表示画面15の領域53(図3)には、系26における入熱量と出熱量との差分の時間変化を、横軸を時刻とするトレンドグラフ53cとして示している。また、この差分の積算値(時間積分値)の時間変化をトレンドグラフ53dとして示している。これらのトレンドグラフには、過去の時刻T1から現在時刻Tまでの変化が示されている。
【0061】
このように、入熱量と出熱量との差分、およびこの差分の積算値がトレンドグラフとして表示されるため、入熱量と出熱量とのバランス、アンバランスの変化を一目で確認することができる。とくに入熱量と出熱量との差分の積算値は、一定時間内における熱収支を的確に示す指標となるため、積算値の変化を容易に把握可能とするトレンドグラフの表示は極めて有用である。例えば、通常、系内に加えられた過剰な熱は系内温度の上昇や圧力の上昇として検知されるが、これらの計器の不具合があると、系にダメージをもたらす可能性がある。物質収支の監視と同様に、熱収支の監視は計器のバックアップ、プロセス異常の早期発見などに資することができる。さらに熱収支の解析により、省エネルギーの機会を見出すことができる。
【0062】
また、積算値を表示する期間、すなわち、図7(a)における時刻T1から現在時刻Tまでの時間を自由に設定可能とすることにより、様々な視点で熱収支を監視することが可能となる。
【0063】
また、入熱量と出熱量との差分、またはこの差分の積算値が一定値を超えた場合にアラームを発生させるようにすることで、監視業務の負担を軽減できる。
【0064】
実施例1と同様、本実施例においても、入熱量と出熱量との差分の積算値の表示をリセットすることができる。
【0065】
図7(b)は、図7(a)に示す状態で、領域54(図3)のリセットボタンが操作された場合のトレンドグラフ53dの表示状態を示す図である。
【0066】
領域54に表示されたリセットボタンが操作されると、算出手段13は上記積算値の現在値がゼロとなるように、上記積算値をシフトする。これにより、図7(a)および図7(b)に示すように、表示手段14により表示されるトレンドグラフ53dの全体が上下方向に平行移動し、現在時刻Tの値がゼロを示す表示状態となる(図7(b))。積算値には計器誤差も蓄積され、誤差によって積算値が表示範囲を超える可能性もあるが、リセットボタンの操作により容易に積算値の表示範囲を適正化できる。また、リセットボタンの操作により、その後の積算値の絶対値の変化を正確に把握することができる。
【0067】
なお、上記実施例では、入熱量と出熱量とのバランス、アンバランスをバーグラフで表示しているが、一定時間における入熱量の積算値(時間積分値)と、出熱量の積算値(時間積分値)と、を示すバーを並べて表示してもよい。とくに熱収支については、入熱量および出熱量の瞬時値のバランス状態よりも、一定時間にわたる入熱量および出熱量の積算値のバランス状態の方が重要な情報となる場合が多いと考えられ、この場合には積算値のバランスをバーグラフにより表示することが望ましい。もちろん、入熱量と出熱量とのバランス状態について、瞬時値および積算値の両者を表示してもよい。
【0068】
また、上記実施例では、熱収支を示すグラフィック表示を、対応するプラント設備の領域の構成のグラフィック表示と並べて表示した例を示しているが、熱収支を示すグラフィック表示と、対応するプラント設備の領域の構成のグラフィック表示とを重ね合わせて表示してもよい。
【0069】
以上のように、本実施例では、視認性の高いグラフィック表示により熱収支を表示画面に常駐させることで、運転員は熱収支のバランスの崩れを容易に認識することが可能となる。
【0070】
上記の各実施例では、物質収支または熱収支のバランスを左右に並べたバーグラフにより表現した例を示しているが、物質収支または熱収支のバランスを示すグラフィック表示の形態は任意である。
【0071】
図8は、物質収支を示す別のグラフィック表示の例を示す図である。
【0072】
図8の例では、表示部分の下半分の領域55Aに物質収支の瞬時値を、上半分の領域55Bに物質収支の差分を、それぞれ示している。図8の例では、領域55Aにおいて表示の中央部分から左側に伸びるバー55aが物質の流入量を、表示の中央部分から右側に伸びるバー55bが物質の流出量を、それぞれ示している。また、領域55Bに表示されたバー55cが流入量と流出量の差分を示しており、差分の正負に応じて、バー55cが伸びる方向を左右に振り分けることで、バランス状態を瞬時に把握できる。図8に示す状態では、バー55cが表示の中央部分から左側に伸びていることから、流入量が流出量を上回っていることが明確に認識できる。なお、一定時間の流入量、流出量、あるいはそれらの差分の積算値について、同様の表示形態をとることもできる。また、熱収支について同様の表示形態をとることもできる。
【0073】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、プラントの運転状態を、表示画面を介して監視するための運転状態監視装置等に対し、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
11 流入量取得手段
12 流出量取得手段
13 算出手段
14 表示手段
15 表示画面(リセット受付手段)
16 操作受付部(リセット受付手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの運転状態を、表示画面を介して監視するための運転状態監視装置において、
プラント設備の所定領域に流入する物質量または熱量を取得する流入量取得手段と、
前記所定領域から流出する物質量または熱量を取得する流出量取得手段と、
前記流入量取得手段で取得された物質量と前記流出量取得手段で取得された物質量とのバランス、または前記流入量取得手段で取得された熱量と前記流出量取得手段で取得された熱量とのバランスを算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された前記バランスを表示画面上にグラフィック表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする運転状態監視装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記流入量取得手段で取得された物質量と前記流出量取得手段で取得された物質量との差分の積算値、または前記流入量取得手段で取得された熱量と前記流出量取得手段で取得された熱量との差分の積算値を前記バランスとして算出することを特徴とする請求項1に記載の運転状態監視装置。
【請求項3】
前記積算値の現在値がゼロとなるように前記算出手段をリセットする指示を受け付けるリセット受付手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の運転状態監視装置。
【請求項4】
前記算出手段は前記バランスを継続的に算出し、前記表示手段は前記算出手段により算出される前記バランスのトレンドをグラフィック表示することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の運転状態監視装置。
【請求項5】
前記表示手段は、前記プラント設備のうち、前記バランスが前記表示画面上に表示される対象となる領域の構成を、前記バランスと並べて、または前記バランと重ね合わせて前記表示画面上にグラフィック表示することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の運転状態監視装置。
【請求項6】
前記バランスが前記表示画面上に表示される対象となる領域の指示を、前記表示画面上に表示される前記プラント設備のグラフィック表示に対する操作を介して受け付ける領域受付手段を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の運転状態監視装置。
【請求項7】
プラントの運転状態を、表示画面を用いて監視するための運転状態監視方法において、
プラント設備の所定領域に流入する物質量または熱量を取得する流入量取得ステップと、
前記所定領域から流出する物質量または熱量を取得する流出量取得ステップと、
前記流入量取得ステップで取得された物質量と前記流出量取得ステップで取得された物質量とのバランス、または前記流入量取得ステップで取得された熱量と前記流出量取得ステップで取得された熱量とのバランスを算出する算出ステップと、
前記算出ステップにより算出された前記バランスをグラフィック表示する表示ステップと、
をコンピュータが実行することを特徴とする運転状態監視方法。
【請求項8】
前記算出ステップでは、前記流入量取得ステップで取得された物質量と前記流出量取得ステップで取得された物質量との差分の積算値、または前記流入量取得ステップで取得された熱量と前記流出量取得ステップで取得された熱量との差分の積算値を前記バランスとして算出することを特徴とする請求項7に記載の運転状態監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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