説明

過冷却試験装置及び過冷却試験方法

【課題】供試体に含まれた液体が過冷却される状態を作り出すとともに、その液体が過冷却状態から固体に相変化して急激に体積膨張する状況を再現可能な過冷却試験装置及び過冷却試験方法を提供する。
【解決手段】この過冷却試験装置は、供試体Wを収容可能な試験槽2と、試験槽2内に収容された供試体Wに含まれる液体を過冷却状態にさせることが可能な冷却パターンで試験槽2内を冷却する冷却部6と、試験槽2内に収容された供試体Wに含まれる過冷却状態の液体の固体への相変化を発生させるための相変化発生装置11とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過冷却試験装置及び過冷却試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体がその液体の凝固点以下の温度になっても固体に相変化していない過冷却状態を作り出す過冷却装置が知られており、そのような過冷却装置の一例が下記特許文献1に開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示された過冷却装置は、パック内に封入された液体を過冷却状態にするための装置であり、処理槽内を冷却するための各種冷却パターンが予め記憶されたデータベースと、処理槽内に入れるパックの条件(処理槽に入れる前のパックの温度、処理槽に入れるパックの個数及びパックを処理槽に入れておく時間)に応じて前記データベースに記憶された冷却パターンからパック内の液体を過冷却状態にするのに最適なものを選択する演算部とを備えている。そして、この過冷却装置では、演算部によって選択された冷却パターンに従って冷却器が処理槽内の温度を低下させていくことによって、パック内の液体を過冷却状態にできるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−9739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、各種電子部品を収容した機器が寒冷な条件下で使用される場合に、電子部品の損傷が発生するという問題が生じている。その損傷の原因の1つとして、過冷却された水分が機器内で固体に相変化して体積膨張することが考えられる。しかし、上記特許文献1に開示された過冷却装置のように、パック内に封入された液体を過冷却状態にする技術は提案されているものの、過冷却状態の液体の固体への相変化による電子部品等の供試体の損傷を再現させるような装置や試験方法はない。
【0006】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、供試体に含まれた液体が過冷却される状態を作り出すとともに、その液体が過冷却状態から固体に相変化して急激に体積膨張する状況を再現可能な過冷却試験装置及び過冷却試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の過冷却試験装置は、供試体を収容可能な試験槽と、前記試験槽内に収容された供試体に含まれる液体を過冷却状態にさせることが可能な冷却パターンで前記試験槽内を冷却する冷却部と、前記試験槽内に収容された供試体に含まれる過冷却状態の液体の固体への相変化を発生させるための相変化発生装置とを備えている。
【0008】
この過冷却試験装置では、冷却部により所定の冷却パターンで試験槽内を冷却してその試験槽内に収容された供試体に含まれる液体を過冷却状態にすることができるとともに、その過冷却状態になった供試体中の液体を相変化発生装置により固体に相変化させることができる。従って、この過冷却試験装置では、供試体に含まれた液体が過冷却される状態を作り出すとともに、その液体が過冷却状態から固体に相変化して急激に体積膨張する状況を再現することができる。
【0009】
上記過冷却試験装置において、前記相変化発生装置は、前記試験槽内に収容された供試体に含まれる過冷却状態の液体が固体に相変化する程度の揺れをその供試体に付与し得る付与装置からなっていてもよい。
【0010】
このように構成すれば、付与装置から供試体に付与する揺れによって供試体中の過冷却状態の液体を急激に固体に相変化させることができる。このため、この構成では、供試体に揺れが付与されることによってその供試体中の過冷却状態の液体が固体に相変化して急激に体積膨張する状況を再現することができる。
【0011】
上記過冷却試験装置において、前記付与装置は、前記供試体に付与する揺れの強さが可変であることが好ましい。
【0012】
このように構成すれば、付与装置が供試体に付与する揺れの強さを調節して、供試体に含まれる過冷却状態の液体の相変化が発生する状態と発生しない状態とを作り出すことができる。これにより、供試体の構成が種々異なる場合に、その供試体の構成に応じて、どの程度の揺れを供試体に付与すればその供試体に含まれる過冷却状態の液体の固体への相変化が生じるかを確認することができる。また、供試体の構成に応じて付与装置から供試体に付与する揺れの強さを調節することができるので、供試体中の過冷却状態の液体の固体への相変化を確実に発生させることができるようになる。
【0013】
上記相変化発生装置が付与装置からなっている構成において、前記付与装置は、前記供試体に打撃を加えることによってその供試体に揺れを付与し得る打撃装置であり、この打撃装置は、前記供試体のうち打撃を加える部分を変更可能に構成されていることが好ましい。
【0014】
このように構成すれば、打撃装置から供試体に加える打撃によって供試体中の過冷却状態の液体を急激に固体に相変化させることができる。このため、この構成では、供試体に打撃のような形態の揺れが付与されることによってその供試体中の過冷却状態の液体が固体に相変化して急激に体積膨張する状況を再現することができる。さらに、この構成では、打撃装置が供試体のうち打撃を加える部分を変更可能であるため、供試体の構成に応じて供試体中の過冷却状態の液体が固体に相変化するような部分を選択して打撃を加えることができる。これにより、打撃を加える部分によっては過冷却状態の液体の固体への相変化が発生しないような構成の供試体であっても、供試体中の過冷却状態の液体を確実に固体に相変化させることができる。また、この構成では、供試体のうち打撃を加える部分を選択できるため、供試体のうちどの部分に打撃が加えられるとその供試体中の過冷却状態の液体が固体に相変化するかを調べることができる。
【0015】
上記過冷却試験装置において、前記相変化発生装置は、前記試験槽内に収容された供試体に含まれる過冷却状態の液体が固体へ相変化し始めるようにその供試体を局部的に冷却し得る局部冷却装置からなっていてもよい。
【0016】
このように構成すれば、局部冷却装置により供試体を局部的に冷却することによって供試体中の過冷却状態の液体を固体に相変化させることができる。このため、この構成では、供試体が局部的に冷却されることによってその供試体中の過冷却状態の液体が固体に相変化して急激に体積膨張する状況を再現することができる。
【0017】
この場合において、前記局部冷却装置は、前記供試体のうち局部的に冷却する部分を変更可能に構成されていることが好ましい。
【0018】
この構成では、局部冷却装置が供試体のうち局部的に冷却する部分を変更可能であるため、供試体の構成に応じて供試体中の過冷却状態の液体が固体に相変化するような部分を選択して局部的に冷却することができる。これにより、局部的に冷却される部分によっては過冷却状態の液体の固体への相変化が発生しないような構成の供試体であっても、供試体中の過冷却状態の液体を確実に固体に相変化させることができる。また、この構成では、供試体のうち局部的に冷却される部分を選択できるため、供試体のうちどの部分を局部的に冷却するとその供試体中の過冷却状態の液体が固体に相変化するかを調べることができる。
【0019】
上記過冷却試験装置において、前記試験槽内の冷却に伴って経時変化する前記供試体の温度を検出するための供試体温度検出部を備えることが好ましい。
【0020】
一般的に、過冷却状態の液体が固体に相変化する際には急激な温度の上昇が生じることが知られており、この場合には過冷却状態の液体を含む供試体の温度も急激に上昇する。このため、この構成のように供試体温度検出部により供試体の温度の経時変化を検出しておけば、付与装置により供試体に揺れを付与する前にその供試体に含まれる液体が固体に相変化した場合にそのことを発見することができる。従って、この構成では、供試体に含まれる過冷却状態の液体の意図しない固体への相変化を発見して、そのような意図しない相変化が生じた供試体を試験対象から外したり、試験そのものを中止したりすることができ、試験の信頼性を高めることができる。また、供試体温度検出部により供試体の温度を検出しておくことによって、その検出データから供試体に含まれる液体が過冷却状態になるまで冷却されたかを判断することができる。さらに、供試体温度検出部による検出データに基づいて、供試体に含まれる液体が過冷却状態になった後、付与装置から供試体に揺れが付与された際に上記した温度の急激な上昇が生じたかを確認することができ、供試体に含まれる過冷却状態の液体の固体への急激な相変化が発生したかを確認することができる。
【0021】
この場合において、前記供試体温度検出部は、前記供試体全体の温度分布を検出する全体温度検出器を含んでいてもよい。
【0022】
この構成では、全体温度検出器によって、供試体に含まれる過冷却状態の液体が固体に相変化したときに供試体全体の温度分布がどのように変化するかを調べることができる。
【0023】
上記供試体温度検出部を備える構成において、その供試体温度検出部によって検出される前記供試体の温度が、その供試体に含まれる液体が過冷却状態となる所定の温度範囲に達してからその温度範囲内で少なくとも1時間以上保持されるように前記冷却部の冷却能力を制御し、その後、前記相変化発生装置による前記供試体中の過冷却状態の液体の固体への相変化を可能にする制御部を備えることが好ましい。
【0024】
このように制御部が冷却部の冷却能力を制御して、供試体の温度をその供試体に含まれる液体が過冷却状態となる温度範囲内で少なくとも1時間以上保持させれば、過冷却状態となった液体の分子を落ち着かせることができる。その結果、供試体に含まれる液体を安定した過冷却状態にすることができ、付与装置によって付与される揺れのみの要因により過冷却状態の液体が固体へ相変化する状況を作り出すことができる。
【0025】
上記過冷却試験装置において、前記冷却部による前記試験槽内の冷却に先立って、前記試験槽内に収容された前記供試体が吸湿するようにその試験槽内の加湿を行う加湿部を備えることが好ましい。
【0026】
このように冷却部による冷却に先立って加湿部により試験槽内の供試体に吸湿させることができれば、供試体への吸湿と、その供試体の冷却と、過冷却状態になった供試体中の液体の固体への急激な相変化とを含む一連の過程を試験槽内で全て行うことができる。このため、供試体に吸湿させるための加湿部を備えておらず、別工程で供試体に吸湿させてからその供試体を試験槽内に搬入して冷却及び前記相変化の各工程を行う必要がある試験装置に比べて、試験工程を簡略化することができる。
【0027】
また、この発明の過冷却試験方法は、供試体に含まれる液体を過冷却状態にさせることが可能な冷却パターンでその供試体を冷却する冷却工程と、前記冷却工程の後、前記供試体に含まれる過冷却状態の液体を固体へ相変化させる相変化工程と、前記相変化工程における前記供試体の温度を測定してその温度のデータを出力する出力工程とを備えている。
【0028】
この過冷却試験方法では、冷却工程において所定の冷却パターンで供試体を冷却してその供試体に含まれる液体を過冷却状態にすることができるとともに、その過冷却状態になった供試体中の液体を相変化工程において固体に相変化させることができる。従って、この過冷却試験装置では、供試体に含まれた液体が過冷却される状態を作り出すとともに、その液体が過冷却状態から固体に相変化して急激に体積膨張する状況を再現することができる。また、一般的に、過冷却状態の液体が固体に相変化する際には急激な温度の上昇が生じるため、それに伴って過冷却状態の液体を含む供試体の温度も急激に上昇する。この過冷却試験方法では、出力工程において、相変化工程における供試体の温度のデータが出力されるので、その温度のデータに基づいて、相変化工程中に供試体に前記急激な温度の上昇が発生したかを確認することができ、それによって、供試体中の過冷却状態の液体の固体への相変化が発生したかを確認することができる。
【0029】
上記過冷却試験方法において、前記冷却工程に先立って、前記供試体に吸湿させる吸湿工程を備え、前記冷却工程では、前記吸湿工程で吸湿されることによって前記供試体に含まれる液体を過冷却状態にすることが好ましい。
【0030】
このように構成すれば、吸湿工程において供試体に吸湿させた液体を過冷却状態にするとともに、その液体を過冷却状態から固体に相変化させることができる。
【0031】
この場合において、前記吸湿工程に先立って、前記供試体の乾燥を行う乾燥工程をさらに備えることが好ましい。
【0032】
このように構成すれば、乾燥工程において供試体を乾燥させて、その後の吸湿工程において供試体への吸湿量の制御を良好に行わせることができる。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、供試体に含まれた液体が過冷却される状態を作り出すとともに、その液体が過冷却状態から固体に相変化して急激に体積膨張する状況を再現可能な過冷却試験装置及び過冷却試験方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態による過冷却試験装置の構成を示す図である。
【図2】過冷却状態の水に振動を付与することによってその水が固体へ急激に相変化するときの温度変化を測定した結果を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態による過冷却試験装置を部分的に示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態の変形例による過冷却試験装置の相変化発生装置の構成を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態の変形例による過冷却試験装置の相変化発生装置の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0036】
(第1実施形態)
まず、図1を参照して、本発明の第1実施形態による過冷却試験装置の構成について説明する。
【0037】
この第1実施形態による過冷却試験装置は、供試体Wに含まれた水が過冷却される状態を作り出すとともに、その過冷却状態の水が液体から固体へ急激に相変化して体積膨張する状況を再現するためのものである。
【0038】
この過冷却試験装置は、試験槽2と、加湿部4と、冷却部6と、加熱部8と、送風部10と、相変化発生装置11と、空間温度検出部12と、湿度検出部14と、供試体温度検出部16と、制御部18と、記憶部20と、表示装置22とを備えている。
【0039】
試験槽2は、その内部の空間を密閉可能に構成された箱状に形成されており、当該試験槽2の内部には、試験空間2aと空調空間2bとが設けられている。この試験空間2aと空調空間2bとは仕切壁2cによって仕切られている。仕切壁2cの上側には上側連通部2dが設けられているとともに、仕切壁2cの下側には下側連通部2eが設けられており、これら両連通部2d,2eを通じて試験空間2aと空調空間2bとが連通している。
【0040】
試験空間2aは、供試体Wを収容可能な空間であり、この試験空間2aにおいて後述する供試体Wの乾燥、加湿、冷却及び振動付与等の各工程が行われる。
【0041】
空調空間2bは、試験空間2aの温湿度を調整するために設けられており、この空調空間2bに加湿部4、冷却部6、加熱部8及び送風部10が設置されている。
【0042】
加湿部4は、空調空間2bの下部に設けられており、空調空間2bの空気を加湿する。この加湿部4は、加湿水収容部24と、供給配管26と、ヒータ28とを有する。
【0043】
加湿水収容部24は、加湿水を溜める部分であり、試験槽2内の床面のうち空調空間2bを形成する部分に設けられた凹部からなる。
【0044】
供給配管26は、その一端が図略の加湿水供給源に繋がっているとともに他端が加湿水収容部24に繋がっており、この供給配管26を通じて加湿水供給源から加湿水収容部24に加湿水が供給される。
【0045】
ヒータ28は、その一部が加湿水収容部24内に設けられている。このヒータ28は、加湿水収容部24内に溜められた加湿水を加熱して蒸発させることにより、空調空間2bの空気を加湿する。このヒータ28の加熱能力は可変となっており、このヒータ28の加熱能力が調節されて加湿水の蒸発量が調節されることにより加湿の度合いが調節されるようになっている。
【0046】
冷却部6は、空調空間2bの空気を冷却して間接的に試験空間2aを冷却するものであり、例えば蒸気圧縮式の冷凍機によって構成されている。この冷却部6は、空調空間2bにおいて加湿部4の上側に設けられている。この冷却部6は、後述するように試験空間2aに収容された供試体Wに含まれる水を過冷却状態にすることが可能な冷却パターンで試験空間2aを冷却する。
【0047】
加熱部8は、空調空間2bの空気を加熱して間接的に試験空間2aを加熱するものである。この加熱部8は、空調空間2bにおいて冷却部6の上側に設けられている。この加熱部8の加熱能力は、可変となっている。
【0048】
送風部10は、空調空間2bにおいて加熱部8の上側に設けられており、上側連通部2dに面する位置に配置されている。この送風部10は、空気を送風するファンからなり、試験空間2aと空調空間2bとの間で空気を循環させる。送風部10によって送風された空気は、空調空間2bから上側連通部2dを通じて試験空間2aへ流れ、それに伴って、試験空間2aの空気は、下側連通部2eを通じて空調空間2bに流れ込む。このようにして、加湿部4、冷却部6及び加熱部8によって温湿度が調節された空気が空調空間2bと試験空間2aとの間で循環し、試験空間2aの温湿度が所定の温湿度に調整されるようになっている。そして、この送風部10は、送風量が可変となっている。すなわち、この送風部10は、ファンの回転数が可変となっており、このファンの回転数が調節されることにより送風量が調節される。
【0049】
相変化発生装置11は、試験空間2aに収容された供試体Wに含まれる過冷却状態の水の固体への相変化を発生させるための装置である。この第1実施形態では、この相変化発生装置11は、試験空間2aに収容された供試体Wに含まれる過冷却状態の水が固体に相変化する程度の揺れを供試体Wに付与し得る付与装置11aからなる。
【0050】
具体的には、この付与装置11aは、供試体Wに所定の強さの振動を与えることによりその供試体Wに含まれる過冷却状態の水を固体に相変化させる。この付与装置11aは、供試体Wに付与する振動の強さが可変となっている。なお、振動の強さの概念には、振動の振幅、振動の周波数、振動によって与えられる加速度が含まれる。この付与装置11aは、付与装置本体11bと、載置部11cとを備えている。
【0051】
付与装置本体11bは、試験槽2の外部であって試験空間2aの下方の位置に設けられている。この付与装置本体11bは、振動発生部11dを内蔵しており、この振動発生部11dが発する振動の強さが可変となっている。この第1実施形態の過冷却試験装置は、図略の振動設定部を備えており、使用者がこの振動設定部により供試体Wに付与したい振動の強さの値を設定できるようになっている。振動発生部11dは、この設定値に応じた強さの振動を発生させる。なお、前記振動設定部は、振動の強さを任意の値に設定可能なもの、または、振動の強さを段階的に設定可能なものであってもよい。また、前記振動設定部は、振動の強さの値を直接入力して設定するようなものや、予め設定された複数の設定値から供試体Wに付与したい振動の強さを選択可能なものであってもよい。
【0052】
載置部11cは、付与装置本体11bから上方に延び、試験槽2の底壁部を貫通して試験空間2aに延びる延設部11eと、その延設部11eの上端に繋がるとともに試験空間2aにおいて水平に配設された載置台11fとによって構成されている。供試体Wは、試験空間2aにおいて載置台11f上に載置される。付与装置本体11bの振動発生部11dから発せられた振動が延設部11eに伝えられて載置部11c全体が振動し、それによって載置台11f上の供試体Wに振動が付与されるようになっている。なお、載置台11fには、供試体Wを固定するための固定具が設けられていてもよい。
【0053】
空間温度検出部12は、試験空間2aに設けられており、当該試験空間2aの温度を検出するものである。この空間温度検出部12によって検出された試験空間2aの温度のデータは、制御部18に入力されるようになっている。
【0054】
湿度検出部14は、試験空間2aに設けられており、当該試験空間2aの湿度を検出するものである。この湿度検出部14によって検出された試験空間2aの湿度のデータは、制御部18に入力されるようになっている。
【0055】
供試体温度検出部16は、試験槽2内の試験空間2aに収容された供試体Wの温度を検出する。具体的には、この供試体温度検出部16は、試験槽2内の加熱及び冷却に伴って経時変化する供試体Wの温度を連続して検出するものであり、供試体内温度検出器16aと、全体温度検出器16bとによって構成されている。
【0056】
供試体内温度検出器16aは、例えば熱電対からなり、供試体Wの内部のうち水が溜まる箇所に取り付けられてその箇所の温度変化を検出するものである。従って、この供試体内温度検出器16aによって検出される温度は、供試体W内の水の温度に相当する。この供試体内温度検出器16aによって検出された温度データは、制御部18に入力されるようになっている。
【0057】
全体温度検出器16bは、供試体W全体の温度分布を検出するものであり、非接触で供試体W全体の温度分布を検出するサーモビューワからなる。この全体温度検出器16bは、試験空間2aにおいて付与装置11aの載置台11fの上方に離間して配設されており、載置台11f上に載置された供試体Wの全体を撮像できるように配置されている。この全体温度検出器16bによって検出された供試体Wの温度分布のデータは、制御部18に入力されるようになっている。
【0058】
制御部18は、加湿部4の加湿能力と、冷却部6の冷却能力と、加熱部8の加熱能力と、送風部10の送風量と、付与装置11aによる供試体Wへの振動の付与動作とをそれぞれ制御するものである。
【0059】
具体的には、制御部18は、湿度検出部14によって検出される試験空間2aの湿度のデータに基づいて、試験空間2aの湿度が予め設定された湿度になるように加湿部4の加湿能力を制御する。また、制御部18は、供試体内温度検出器16aによって検出される供試体Wの温度のデータと、空間温度検出部12によって検出される試験空間2aの温度のデータとに基づいて冷却部6の冷却能力を制御する。詳細には、制御部18は、試験空間2aに収容された供試体Wに含まれる水を過冷却状態にさせることが可能な冷却パターンで試験空間2aが冷却されるように冷却部6の冷却能力を制御する。また、制御部18は、空間温度検出部12によって検出される試験空間2aの温度のデータに基づいて、試験空間2aの温度が予め設定された温度になるように加熱部8の加熱能力を制御する。また、制御部18は、供試体Wに含まれる水が過冷却状態となってその状態が保持されている所定のタイミングで付与装置11aを稼働させ、供試体Wに振動を付与させる。
【0060】
また、制御部18は、図略の演算部を備えており、この演算部は、全体温度検出器16bによって検出された供試体W全体の温度分布のデータの補正を行なう。具体的には、サーモビューワにより供試体Wの温度を検出する場合、供試体Wの材質によって反射率が異なることに起因してその検出温度に誤差が生じる。そこで、使用者は、図略の設定部により供試体Wの材質を選択し、演算部は、その選択された材質に応じた補正計算を行なって全体温度検出器16bによる検出温度を実際の供試体Wの温度に等しい温度に補正する。
【0061】
記憶部20は、供試体内温度検出器16aによる検出温度のデータ及び全体温度検出器16bによって検出された供試体W全体の温度のデータが記憶される部分である。なお、この記憶部20には、全体温度検出器16bの検出温度のデータを制御部18の演算部が補正した後のデータが記憶される。
【0062】
表示装置22は、空間温度検出部12によって検出される試験空間2aの温度、湿度検出部14によって検出される試験空間2aの湿度、供試体内温度検出器16aの検出温度及び全体温度検出器16bの検出温度等の各種データを表示するものである。また、この表示装置22は、後述するように付与装置11aによって供試体Wに振動が付与される前に、供試体内温度検出器16aの検出温度、すなわち供試体W内の水の温度が、水の固体への相変化に起因して急激に上昇した場合や、その他のデータにエラーが生じた場合等に警告メッセージを表示する機能も備えている。
【0063】
次に、この第1実施形態の過冷却試験装置による過冷却試験方法について説明する。
【0064】
この試験では、供試体Wを試験空間2aにおいて載置台11f上に載置し、その供試体Wの内部の水が溜まると予測される箇所に供試体内温度検出器16aを取り付けた後、試験槽2内を密閉して試験を開始する。
【0065】
試験開始後、まず、供試体Wを乾燥させるための乾燥工程が行われる。この際、制御部18は、加熱部8を稼働させるとともに、空間温度検出部12によって検出される試験空間2aの温度のデータに基づいて、試験空間2aの温度が予め設定された温度となるように加熱部8の加熱能力を制御する。さらに、制御部18は、送風部10を駆動させて、加熱部8によって加熱された空気を空調空間2bと試験空間2aとの間で循環させる。このようにして、試験空間2aを所定の高温状態(例えば、120℃)とする。なお、この際、制御部18は、加湿部4のヒータ28及び冷却部6を稼働させないとともに、加湿水供給源から加湿水収容部24への加湿水の供給を停止させて加湿水収容部24内に加湿水が溜まっていない状態にする。これにより、試験空間2aは、高温で乾燥した状態となり、この状態が所定時間維持されることによって、試験空間2aに収容された供試体Wが乾燥状態となる。この時、冷却部6を稼働させて除湿を行ってもよい。
【0066】
次に、供試体Wに吸湿させるための吸湿工程が行われる。この際、制御部18は、空間温度検出部12によって検出される試験空間2aの温度のデータに基づいて加熱部8の加熱能力を制御することにより試験空間2aを所定の高温条件(例えば、85℃)に設定する。同時に、制御部18は、加湿水供給源から加湿水収容部24へ加湿水を供給させるとともに、湿度検出部14によって検出される試験空間2aの湿度のデータに基づいてヒータ28の加熱能力を制御することにより加湿部4の加湿能力を調節する。これにより、試験空間2aを所定の高湿条件(例えば、湿度85%)に設定する。そして、この際、制御部18は、送風部10の送風量を低下させる。これにより、試験空間2aにおいて供試体W内に空気が入っていきやすくなり、供試体Wへの吸湿が促進される。なお、予備実験により供試体Wが吸湿する水の量と吸湿時間との関係を前もって調べておき、その関係に基づいて、使用者が供試体Wに吸湿させたい水の量に応じた吸湿時間を図略の設定部により設定する。制御部18は、その設定された吸湿時間だけ上記のような吸湿工程を行うように加熱部8、加湿部4及び送風部10の制御を行う。
【0067】
次に、供試体Wを冷却する冷却工程が行われる。この冷却工程では、前記吸湿工程で吸湿されることによって供試体Wに含まれた水を過冷却状態にする。具体的には、制御部18は、加熱部8の稼働を停止させるとともに、冷却部6を稼働させる。そして、制御部18は、供試体内温度検出器16aの検出温度のデータに基づいて冷却部6の冷却能力を制御することにより、供試体Wに含まれる水を過冷却状態にすることが可能な冷却パターン(降温パターン)で試験空間2aを冷却し、それによって、供試体Wが、その内部の水が過冷却状態となることが可能な冷却パターンで冷却される。すなわち、供試体Wに含まれる水を過冷却状態にすることが可能な温度低下曲線が実験的に得られた上で記憶部20に予め記憶されており、制御部18は、その温度低下曲線に供試体内温度検出器16aの検出温度が沿うように冷却部6の冷却能力を制御して試験空間2aの温度を低下させていく。この温度低下曲線は、例えば、供試体W内の水を85℃から−6℃まで1時間程度かけてゆっくりと冷却させるようなものである。この冷却工程中における供試体内温度検出器16aの検出温度のデータ及び全体温度検出器16bによって検出される供試体W全体の温度分布のデータ(前記演算部によって補正された後のデータ)は、記憶部20に記憶されるとともに、表示装置22に表示される。これにより、使用者は、この冷却工程における供試体W内の水の温度の経時変化及び供試体W全体の温度分布の経時変化を確認することが可能となっている。
【0068】
そして、制御部18は、供試体内温度検出器16aの検出温度(供試体W内の水の温度)が−6℃±3℃の温度範囲に達してからその温度範囲内で1時間保持されるように冷却部6の冷却能力を制御する。−6℃±3℃の温度範囲は、一般的に純水が過冷却状態となると考えられる温度範囲であり、この温度範囲に供試体W内の水の温度が達することによりその供試体W内の水が過冷却状態になったと考えられる。そして、供試体W内の水の温度がこの温度範囲内で1時間保持されることによって、過冷却状態になった供試体W内の水の分子が安定化され、その供試体W内の水が安定した過冷却状態となる。
【0069】
次に、供試体Wに含まれる過冷却状態の水を固体へ相変化させる相変化工程が行われる。具体的には、制御部18は、供試体内温度検出器16aの検出温度が−6℃±3℃の温度範囲に達してから1時間経過後、付与装置11aを駆動させて供試体Wに所定の強さの振動を付与させる。この付与装置11aから供試体Wに付与される振動の強さは、使用者が予備試験により供試体W内の過冷却状態の水が確実に相変化を生じる振動の強さを調べて予め前記振動設定部によって設定した強さとなる。このような振動が供試体Wに付与されることにより、供試体W内の過冷却状態の水が固体に相変化し、それによってその水が急激に体積膨張する。
【0070】
また、前記相変化工程における供試体Wの温度を測定してその温度のデータを出力する出力工程が相変化工程と並行して行われる。すなわち、相変化工程中も供試体内温度検出器16a及び全体温度検出器16bにより供試体Wの温度が継続して測定されており、この測定された温度のデータは、記憶部20に記憶されるとともに、表示装置22に出力されて表示される。
【0071】
供試体W内の過冷却状態の水の固体への相変化が発生すると、その水の温度が急激に上昇する。この現象は、図2に示す簡易に行った実験の結果からも判る。この実験では、ペットボトルに水道水を入れ、その水の温度を−3℃付近に保持して過冷却状態にした後、振動を付与して相変化を生じさせ、その際の水の温度の経時変化を測定した。この図2に示すように、ペットボトルに振動を付与した直後に水の温度が約3℃上昇しており、この温度の上昇速度は、約180℃/分となっている。このような急激な水の温度の上昇は、試験槽2内において過冷却状態の水の固体への相変化以外の要因で生じることはあり得ないため、振動の付与によって明らかに過冷却状態の水の固体への相変化が生じたことが判る。
【0072】
従って、使用者は、供試体内温度検出器16aによって測定されるとともに、表示装置22に出力されて表示される供試体W内の水の温度の変化に基づいて、供試体Wに振動が付与されることにより供試体W内の過冷却状態の水の固体への相変化が生じたかを確認できるようになっている。また、このような供試体W内の水の相変化に伴う急激な温度上昇により供試体W自体の温度も急上昇する。この際の供試体W全体の温度分布の変化が、全体温度検出器16bによる測定結果に現れるため、その測定結果のデータを確認することにより、供試体W全体の温度分布の変化の挙動が確認できる。
【0073】
なお、制御部18は、付与装置11aによる供試体Wへの振動の付与の前に供試体内温度検出器16aの検出温度が上記したように急激に上昇した場合には、表示装置22に警告メッセージを表示させる。
【0074】
以上のようにして、この第1実施形態の過冷却試験装置において供試体Wに含まれる水を過冷却状態にするとともに、その過冷却状態の水を固体に相変化させて体積膨張させる状況を再現する過冷却試験が行われる。
【0075】
以上説明したように、この第1実施形態では、冷却工程において冷却部6により所定の冷却パターンで試験空間2aを冷却してその試験空間2aに収容された供試体Wに含まれる水を過冷却状態にすることができるとともに、その過冷却状態になった供試体W内の水を相変化工程において付与装置11aから付与する振動により急激に固体に相変化させることができる。従って、この第1実施形態では、供試体Wに含まれた水が過冷却される状態を作り出すとともに、その水が過冷却状態から固体に相変化して急激に体積膨張する状況を再現することができる。
【0076】
また、第1実施形態では、付与装置11aは、供試体Wに付与する振動の強さが可変となっているため、当該付与装置11aが供試体Wに付与する振動の強さを調節して、供試体Wに含まれる過冷却状態の水の相変化が発生する状態と発生しない状態とを作り出すことができる。これにより、供試体Wの構成が種々異なる場合に、その供試体Wの構成に応じて、どの程度の振動を供試体Wに付与すればその供試体Wに含まれる過冷却状態の水の相変化が生じるかを確認することができる。また、第1実施形態では、供試体Wの構成に応じて付与装置11aから供試体Wに付与する振動の強さを調節することができるので、供試体Wに含まれる過冷却状態の水の固体への相変化を確実に発生させることができるようになる。
【0077】
また、供試体Wに含まれる過冷却状態の水が固体に相変化する際には急激な温度の上昇を伴うので、この第1実施形態では、試験空間2aに設けられた供試体温度検出部16(供試体内温度検出器16a,全体温度検出器16b)による検出結果から、供試体Wに振動を付与する前にその供試体Wに含まれる水が固体に相変化した場合にそのことを発見することができる。従って、第1実施形態では、供試体Wに含まれる過冷却状態の水の意図しない固体への相変化を発見して、そのような意図しない相変化が生じた供試体Wを試験対象から外したり、試験そのものを中止したりすることができ、試験の信頼性を高めることができる。
【0078】
また、第1実施形態では、供試体内温度検出器16aから出力される検出温度のデータから供試体Wに含まれる水が過冷却状態になるまで冷却されたかを判断することができる。さらに、第1実施形態では、供試体内温度検出器16aから出力される検出温度のデータに基づいて、供試体Wに含まれる水が過冷却状態になった後、付与装置11aから供試体Wに振動が付与された際に温度の急激な上昇が生じたかを確認することができ、供試体Wに含まれた過冷却状態の水の固体への急激な相変化が発生したかを確認することができる。これにより、供試体Wに含まれる水が過冷却状態とならずに氷となった場合に、その供試体Wを発見して試験対象から外すことが可能となる。
【0079】
また、第1実施形態では、供試体温度検出部16が、供試体W全体の温度分布を検出する全体温度検出器16b(サーモビューワ)を含むので、この全体温度検出器16bによる検出結果のデータから供試体Wに含まれた過冷却状態の水が固体に相変化したときに供試体W全体の温度分布がどのように変化するかを調べることができる。
【0080】
また、第1実施形態では、制御部18が、供試体内温度検出器16aの検出温度が−6℃±3℃の範囲内で1時間保持されるように冷却部6の冷却能力を制御し、その後、付与装置11aによる供試体Wへの振動の付与を可能にするため、過冷却状態となった水の分子を落ち着かせて安定した過冷却状態にした後、供試体Wに振動を付与してその供試体W内の水を固体に相変化させることができる。このため、付与装置11aによって付与される振動のみの要因により、供試体W内の過冷却状態の水が固体へ相変化する状況を作り出すことができる。
【0081】
また、第1実施形態では、冷却部6による冷却工程に先立って、加湿部4が試験空間2aを加湿してその試験空間2aに収容された供試体Wに吸湿させる吸湿工程が行われるため、この供試体Wへの吸湿と、供試体Wの冷却と、過冷却状態になった供試体W内の水の固体への急激な相変化とを含む一連の過程を試験槽2内で全て行うことができる。このため、供試体Wに吸湿させるための加湿部4を備えておらず、別工程で供試体Wに吸湿させてからその供試体Wを試験槽内に搬入して冷却及び前記相変化の各工程を行う必要がある試験装置に比べて、試験工程を簡略化することができる。
【0082】
また、第1実施形態では、前記吸湿工程に先立って、供試体Wを乾燥させる乾燥工程が行われるため、この乾燥工程において供試体Wを乾燥させて、その後の吸湿工程において供試体Wへの吸湿量の制御を良好に行わせることができる。
【0083】
(第2実施形態)
次に、図3を参照して、本発明の第2実施形態による過冷却試験装置の構成について説明する。
【0084】
この第2実施形態による過冷却試験装置は、上記第1実施形態と異なり、相変化発生装置11が供試体Wを局部的に冷却し得る局部冷却装置11hからなる。
【0085】
具体的には、この局部冷却装置11hは、試験空間2aに収容された供試体Wに含まれる過冷却状態の水が固体へ相変化し始めるように供試体Wを局部的に冷却可能となっている。この局部冷却装置11hは、供給源11iと、導入管11jと、流量調整弁11kとを備えている。
【0086】
供給源11iは、試験槽2の外部に設けられており、冷却ガスを所定の圧力で供給するものである。冷却ガスとしてはLN(液体窒素)やLCO(液化炭酸ガス)等が用いられる。
【0087】
導入管11jは、供給源11iから供給される冷却ガスを試験槽2内の試験空間2aに導入して供試体Wに局部的に吹き付けるために用いられるものである。この第2実施形態では、局部冷却装置11hにより冷却ガスを供試体Wに局部的に吹き付けることによって供試体Wを局部的に冷却できるようになっている。導入管11jは、その基端部が供給源11iに接続されているとともに、試験槽2の側壁2hに形成された貫通孔2iを通って試験槽2内の試験空間2aに延びている。この導入管11jの先端部近傍の部分は、その先端に設けられた冷却ガスの吐出口11mが載置台11f上の供試体Wに向かうようにその部分よりも基端側の部分に対して下方に曲げられている。
【0088】
そして、導入管11jのうち試験槽2の側壁2hから試験空間2aに突出する部分の長さは、調節可能となっている。すなわち、導入管11jのうち試験槽2の外部に位置する部分を側壁2hに対して試験槽2の内側へ押し込むことによって、導入管11jのうち側壁2hから試験空間2aに突出する部分の長さを増大させることができる一方、導入管11jのうち試験槽2の外部に位置する部分を側壁2hに対して試験槽2の外側へ引っ張ることによって、導入管11jのうち側壁2hから試験空間2aに突出する部分の長さを減少させることができる。これにより、導入管11jの先端の吐出口11mの水平方向における位置が変更可能となっている。また、導入管11jは、銅管等の変形可能な管材によって形成されている。このため、導入管11jのうち側壁2hから試験空間2aに突出する部分を変形させることができ、それによっても、導入管11jの吐出口11mの位置を変更できるようになっている。このような構成により、この局部冷却装置11hでは、使用者が導入管11jのうち側壁2hから試験空間2aに突出する部分の長さを調節したり、その部分を変形させたりすることによって、供試体Wのうち導入管11jの吐出口11mから冷却ガスを吹き付けられる部分、すなわち供試体Wのうち局部的に冷却される部分を選択可能となっている。
【0089】
流量調整弁11kは、試験槽2の外部において導入管11jに設けられている。この流量調整弁11kは、供給源11iから供給されて導入管11jを通って流れる冷却ガスの流量を調節するためのものである。この流量調整弁11kにより、供試体Wに対する冷却ガスの吹き付け量を調節できるようになっている。この冷却ガスの吹き付け量を調節することによって、供試体Wを局部的に冷却する冷却能力(冷却の度合い)を調節できるようになっている。すなわち、流量調整弁11kにより導入管11jを流れる冷却ガスの流量を増やして供試体Wに対する冷却ガスの吹き付け量を増やした場合には、供試体Wの局部的な冷却が強くなる一方、流量調整弁11kにより導入管11jを流れる冷却ガスの流量を減らして供試体Wに対する冷却ガスの吹き付け量を減らした場合には、供試体Wの局部的な冷却が弱くなる。
【0090】
この第2実施形態の過冷却試験装置による過冷却試験方法では、相変化工程において、試験空間2aに収容されている供試体Wを局部冷却装置11hにより局部的に冷却することによって、準安定状態になっている供試体W中の過冷却状態の水のうち前記局部的に冷却された部分で氷結が発生する。そして、その氷結が発生した部分から連鎖的に氷結が広がっていって供試体W中の過冷却状態の水全体が固体に相変化する。
【0091】
この第2実施形態による過冷却試験装置及び過冷却試験方法の上記以外の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0092】
以上説明したように、この第2実施形態では、相変化発生装置11が、試験空間2aに収容された供試体Wに含まれる過冷却状態の液体が固体へ相変化し始めるようにその供試体Wを局部的に冷却し得る局部冷却装置11hからなっているため、局部冷却装置11hにより供試体Wを局部的に冷却することによって供試体W中の過冷却状態の液体を固体に相変化させることができる。このため、この第2実施形態では、供試体Wが局部的に冷却されることによってその供試体W中の過冷却状態の水が固体に相変化して急激に体積膨張する状況を再現することができる。
【0093】
また、第2実施形態では、局部冷却装置11hが、供試体Wのうち局部的に冷却される部分を変更可能に構成されているため、供試体Wの構成に応じて供試体W中の過冷却状態の水が固体に相変化し始めるような部分を選択してその部分を局部的に冷却することができる。これにより、局部的に冷却される部分によっては過冷却状態の水の固体への相変化が発生しないような構成の供試体であっても、供試体W中の過冷却状態の水を確実に固体に相変化させることができる。また、この構成では、供試体Wのうち局部的に冷却される部分を変更できるため、供試体Wのうちどの部分を局部的に冷却するとその供試体W中の過冷却状態の水が固体に相変化するかを調べることができる。
【0094】
この第2実施形態の上記以外の効果は、上記第1実施形態による効果と同様である。
【0095】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0096】
例えば、上記第1実施形態では、供試体内温度検出器16aの検出温度に基づいて冷却部6による試験空間2aの冷却パターンを調整する例を示したが、全体温度検出器16bの検出温度に基づいて冷却部6の冷却能力を制御し、試験空間2aの冷却パターンを調整してもよい。具体的には、使用者が供試体W全体から所定箇所を指定することにより、全体温度検出器16bの検出温度のデータのうちその指定された箇所の温度のデータに基づいて、制御部18が冷却部6の制御を行うようにしてもよい。この場合、使用者が予備実験により供試体Wのうち水が溜まる箇所を調べてから、その箇所を指定すれば、全体温度検出器16bの検出温度のデータに基づいて冷却部6を制御する場合でも、供試体W内の水の温度とほぼ等しい温度に基づいて試験空間2aの冷却パターンを調整できるようになる。なお、この場合には、供試体内温度検出器16aを省略してもよい。
【0097】
また、供試体Wの温度を検出するために、供試体内温度検出器16aの代わりに、供試体Wのうち水が溜まる箇所以外の箇所に取り付けた温度検出器を用いてもよい。この場合には、予備実験を行って温度検出器を取り付ける箇所の温度と供試体Wのうち水が溜まる箇所の温度との相関関係を前もって調べておき、その相関関係に基づいて温度検出器の検出温度を補正することにより供試体W内の水が溜まる箇所の温度を求めることが望ましい。
【0098】
また、供試体内温度検出器16aのみを設けて全体温度検出器16bを省略してもよい。
【0099】
また、供試体内温度検出器16a及び全体温度検出器16bの両方を省略してもよい。この場合には、予備試験を行って空間温度検出部12による検出温度と供試体W内の水の温度との相関関係を測定しておき、制御部18がその相関関係と空間温度検出部12の検出温度とに基づいて、冷却部6の冷却能力を制御し、供試体W内の水が過冷却状態になるような冷却パターンで試験空間2aを冷却させてもよい。
【0100】
また、上記第1実施形態において、付与装置11aは、載置台11f上に載置された供試体Wの重量を測定するための重量測定機能を有していてもよい。そして、この場合には、吸湿工程において、供試体Wの重量の増加分、すなわち供試体Wの吸湿量を求めて、その重量の増加が使用者によって設定された重量の増加分(吸湿量)に達したときに吸湿工程を終了させるようにすればよい。
【0101】
また、上記第1実施形態において、付与装置11aの載置台11f上に載置された供試体Wに、過冷却試験装置の本体の各駆動部の振動が伝わるのを防ぐような防振構造を過冷却試験装置に設けてもよい。例えば、過冷却試験装置のうち付与装置11aが取り付けられる架台と、各駆動部が設置される本体部とを分離させてそれらの間に緩衝材等の振動の伝達を防ぐような材料を設けてもよい。このようにすれば、供試体W中の過冷却状態の水が過冷却試験装置の各駆動部の駆動時に発生する振動により意図せず固体へ相変化するのを防ぐことができる。
【0102】
また、供試体Wに含まれた過冷却状態の水を相変化させるためにその供試体Wに付与する揺れは、揺れが繰り返すような振動に限定されない。
【0103】
例えば、付与装置は、1回だけ供試体Wを揺らすような衝撃を供試体Wに付与するものであってもよい。この場合も、付与装置が供試体Wに付与する衝撃の強さ、すなわち衝撃の揺れ幅や、衝撃によって供試体Wに与えられる加速度等を調節できるようになっていてもよい。
【0104】
また、図4に示す上記第1実施形態の変形例のように、相変化発生装置11を構成する付与装置11aは、供試体Wに打撃を加えることによってその供試体Wに揺れを付与し得る打撃装置11pであってもよい。そして、この場合、この打撃装置11pは、供試体Wのうち打撃を加える部分を変更可能に構成されていることが好ましい。
【0105】
具体的には、この打撃装置11pは、複数のハンマ部11qと、複数のエアシリンダ11rと、図略のエア回路と、支持部11sとを有する。
【0106】
各ハンマ部11qは、対応するエアシリンダ11rのロッド部11tの先端に取り付けられている。各エアシリンダ11rは、支持部11sによって載置台11f上で支持されている。各エアシリンダ11rは、その軸方向が載置台11fの上面に対して垂直となるとともに、ロッド部11tが下側に配置される姿勢で支持部11sによって支持されている。そして、各エアシリンダ11rがロッド部11tを下方へ進出させることによって、ハンマ部11qが載置台11f上の供試体Wに打撃を加えるようになっている。
【0107】
各エアシリンダ11rには、図略のエア回路が接続されている。前記制御部18は、このエア回路を制御してそのエア回路から各エアシリンダ11rへのエアの供給及びその供給するエアの圧力を制御する。このような制御部18によるエア回路の制御によって、複数のエアシリンダ11rのうちエアを供給するエアシリンダ11rを変更可能となっている。エアシリンダ11rは、エアが供給されることで駆動するので、エアを供給するエアシリンダ11rを変更することによって、供試体Wのうちエアが供給されたエアシリンダ11rに取り付けられたハンマ部11qによって打撃が加えられる。これにより、供試体Wのうち打撃を加える部分が変更可能となっている。また、制御部18は、エア回路からエアシリンダ11rに供給されるエアの圧力を制御することによって、ロッド部11t及びハンマ部11qの下方への移動速度を制御し、それによって供試体Wに加える打撃の強さ、換言すれば供試体Wに付与する揺れの強さを変更できるようになっている。また、制御部18は、複数のエアシリンダ11rを任意の順番で駆動させて、その各エアシリンダ11rに対応する供試体Wの各部分に任意の順番で打撃を加えさせる。
【0108】
この変形例の構成によれば、打撃装置11pから供試体Wに加える打撃によって供試体W中の過冷却状態の水を急激に固体に相変化させることができる。このため、この構成では、供試体Wに打撃のような形態の揺れが付与されることによってその供試体W中の過冷却状態の水が固体に相変化して急激に体積膨張する状況を再現することができる。
【0109】
さらに、この変形例では、打撃装置11pが供試体Wに打撃を加える部分を変更可能であるため、供試体Wの構成に応じて供試体W中の過冷却状態の水が固体に相変化するような部分を選択して打撃を加えることができる。これにより、打撃を加える部分によっては過冷却状態の水の固体への相変化が発生しないような構成の供試体Wであっても、供試体W中の過冷却状態の水を確実に固体に相変化させることができる。
【0110】
また、この変形例では、供試体Wのうち打撃を加える部分を選択できるため、供試体Wのうちどの部分に打撃が加えられるとその供試体W中の過冷却状態の水が固体に相変化するかを調べることができる。
【0111】
また、図5に示す上記第2実施形態の変形例のように、相変化発生装置11を構成する局部冷却装置11vは、複数のペルチェ素子11xのブロックの集合体からなっていてもよい。具体的には、この変形例では、供試体Wが載置される載置台11fが局部冷却装置11vとなっている。この局部冷却装置11vは、複数の矩形状のブロックに区画されており、その各ブロックがそれぞれペルチェ素子11xからなっている。供試体Wは、各ペルチェ素子11xによって局部的に冷却される。そして、前記制御部18は、各ペルチェ素子11xのうち稼働させるペルチェ素子11xを変更可能となっている。稼働されるペルチェ素子11xが変更されるのに応じて、供試体Wのうち局部的に冷却される部分が変更される。使用者は、供試体Wのうち局部的に冷却される部分、換言すれば、複数のペルチェ素子11xのうちどのペルチェ素子11xで供試体Wの冷却を行うかを選択して図略の設定部によって設定する。制御部18は、その設定されたペルチェ素子11xを稼働させ、それによって、供試体Wのうち使用者が選択した部分が局部的に冷却されるようになっている。また、制御部18は、使用者により図略の設定部で設定された設定値に基づいて各ペルチェ素子11xの冷却能力を個別に制御する。これにより、供試体Wを局部的に冷却する強さを調節できるようになっている。
【0112】
また、上記第2実施形態において、供給源11iの代わりに、供試体Wを局部的に冷却するための冷気を供給する専用の冷却器や空調機を用いてもよい。
【0113】
また、相変化発生装置11を構成する局部冷却装置は、冷却したプローブを供試体Wの任意の部分に押し当ててその部分を局部的に冷却し得るような装置であってもよい。この場合の局部冷却装置は、供試体Wのうち冷却したプローブを押し当てる部分を変更可能に構成されていることが好ましい。
【0114】
また、相変化発生装置11を構成する局部冷却装置は、ドライアイスの粉を供試体Wの任意の部分に落としてその部分を局部的に冷却し得るような装置であってもよい。この場合の局部冷却装置は、供試体Wのうちドライアイスの粉を落とす部分を変更可能に構成されていることが好ましい。
【0115】
また、供試体Wは、試験空間2aに複数設置してもよい。
【0116】
また、試験槽2内において、試験空間2aと空調空間2bとは、仕切壁2cによって仕切られずに一体に構成されていてもよい。
【0117】
また、試験槽のうち試験空間が設けられた部分と空調空間が設けられた部分とが別体に構成されているとともに、その試験空間と空調空間とがダクトで接続されており、試験空間と空調空間との間でダクトを通じて空気が流通可能となっていてもよい。
【0118】
また、乾燥工程及び吸湿工程を過冷却試験装置とは別の装置で行ってもよい。
【0119】
また、供試体Wに含まれた水が過冷却状態となる温度は、供試体Wの熱容量や水の組成、その水中の不純物の混入度等、様々な要因によって変化するため、必ずしも、制御部18が、供試体内温度検出器16aの検出温度が上記した−6℃±3℃の温度範囲に達するように冷却部6による試験空間2aの冷却パターンを制御しなくてもよい。すなわち、供試体Wに含まれた水が過冷却状態になる適切な温度範囲を予備実験によって確認してから、その確認した温度範囲に供試体W内の水の温度が達するように冷却部6による試験空間2aの冷却パターンを調節すればよい。
【0120】
また、供試体W内の水が過冷却状態となる温度範囲に達してからその温度範囲内に保持して付与装置11aにより供試体Wに振動を付与するまでの時間は、1時間に限定されず、1時間より短くても、また、長くてもよい。
【0121】
また、供試体W全体の温度分布を検出する全体温度検出器16bは、サーモビューワ以外の検出器からなっていてもよい。
【0122】
また、サーモビューワからなる全体温度検出器16bを試験槽2の外部に設けるとともに、試験槽2の一部にその試験槽2内から外部へ赤外線を透過させる赤外線透過部を設け、その赤外線透過部を通じて試験槽2の外部の全体温度検出器16bにより試験槽2内の供試体Wの全体温度を検出するようにしてもよい。
【0123】
また、加湿部4、冷却部6、加熱部8及び送風部10の配置箇所は、上記実施形態で示した箇所に限らない。
【0124】
また、供試体Wの乾燥工程において試験空間2aを乾燥状態にするために用いる除湿機を処理槽2に別途設けてもよい。
【符号の説明】
【0125】
2 試験槽
4 加湿部
6 冷却部
11 相変化発生装置
11a 付与装置
11p 打撃装置
11h、11v 局部冷却装置
16 供試体温度検出部
16b 全体温度検出器
18 制御部
W 供試体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体を収容可能な試験槽と、
前記試験槽内に収容された供試体に含まれる液体を過冷却状態にさせることが可能な冷却パターンで前記試験槽内を冷却する冷却部と、
前記試験槽内に収容された供試体に含まれる過冷却状態の液体の固体への相変化を発生させるための相変化発生装置とを備えた、過冷却試験装置。
【請求項2】
前記相変化発生装置は、前記試験槽内に収容された供試体に含まれる過冷却状態の液体が固体に相変化する程度の揺れをその供試体に付与し得る付与装置からなる、請求項1に記載の過冷却試験装置。
【請求項3】
前記付与装置は、前記供試体に付与する揺れの強さが可変である、請求項2に記載の過冷却試験装置。
【請求項4】
前記付与装置は、前記供試体に打撃を加えることによってその供試体に揺れを付与し得る打撃装置であり、この打撃装置は、前記供試体のうち打撃を加える部分を変更可能に構成されている、請求項2又は3に記載の過冷却試験装置。
【請求項5】
前記相変化発生装置は、前記試験槽内に収容された供試体に含まれる過冷却状態の液体が固体へ相変化し始めるようにその供試体を局部的に冷却し得る局部冷却装置からなる、請求項1に記載の過冷却試験装置。
【請求項6】
前記局部冷却装置は、前記供試体のうち局部的に冷却する部分を変更可能に構成されている、請求項5に記載の過冷却試験装置。
【請求項7】
前記試験槽内の冷却に伴って経時変化する前記供試体の温度を検出するための供試体温度検出部を備える、請求項1〜6のいずれか1項に記載の過冷却試験装置。
【請求項8】
前記供試体温度検出部は、前記供試体全体の温度分布を検出する全体温度検出器を含む、請求項7に記載の過冷却試験装置。
【請求項9】
前記供試体温度検出部によって検出される前記供試体の温度が、その供試体に含まれる液体が過冷却状態となる所定の温度範囲に達してからその温度範囲内で少なくとも1時間以上保持されるように前記冷却部の冷却能力を制御し、その後、前記相変化発生装置による前記供試体中の過冷却状態の液体の固体への相変化を可能にする制御部を備える、請求項7又は8に記載の過冷却試験装置。
【請求項10】
前記冷却部による前記試験槽内の冷却に先立って、前記試験槽内に収容された前記供試体が吸湿するようにその試験槽内の加湿を行う加湿部を備える、請求項1〜9のいずれか1項に記載の過冷却試験装置。
【請求項11】
供試体に含まれる液体を過冷却状態にさせることが可能な冷却パターンでその供試体を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程の後、前記供試体に含まれる過冷却状態の液体を固体へ相変化させる相変化工程と、
前記相変化工程における前記供試体の温度を測定してその温度のデータを出力する出力工程とを備えた、過冷却試験方法。
【請求項12】
前記冷却工程に先立って、前記供試体に吸湿させる吸湿工程を備え、
前記冷却工程では、前記吸湿工程で吸湿されることによって前記供試体に含まれる液体を過冷却状態にする、請求項11に記載の過冷却試験方法。
【請求項13】
前記吸湿工程に先立って、前記供試体の乾燥を行う乾燥工程をさらに備える、請求項12に記載の過冷却試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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