説明

過渡安定度限界値算出方法、過渡安定度限界値算出装置、及びプログラム

【解決手段】電力系統が故障する前の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数の過渡安定度限界値を算出する過渡安定度限界値算出方法であって、目的関数


を、多次元状態変数xが、電力系統が故障した後に回復可能となる時間と電力系統が故障した後に回復不可能となる時間との臨界となる臨界故障除去時間を定数として含み、且つ、多次元状態変数xから多次元状態変数xm+1に至る軌跡が、電力系統方程式に基づく所定の関数の支配的不安定平衡点である特異点を通過する、という条件の下で最小化し、目的関数を最小化する多次元状態変数xに基づいて、助変数の過渡安定度限界値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過渡安定度限界値算出方法、過渡安定度限界値算出装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電機と負荷とが送電線で接続された電力系統において一部の送電線に地絡等の故障が発生した場合、同故障の除去に費やせる時間には、電力系統の回復可能及び回復不可能を分ける臨界値(臨界故障除去時間)が存在する(例えば、特許文献1参照)。例えば、図7に例示される点PAで故障が発生した後、故障軌跡10上の点PBで臨界故障除去時間以内に故障を除去した場合、発電機の位相角δ及び角周波数ωは軌跡20を経由して点PAに収束するが(回復可能)、故障軌跡10上の点PDで臨界故障除去時間を超えて故障を除去した場合、発電機の位相角δ及び角周波数ωは軌跡40上で発散する(回復不可能)。尚、同図は、制動無しの一機無限大母線系統の非線形現象をδ-ω位相平面における軌跡で表わした模式図である。同図では、(点PB及び点PDの間の)点PCで故障を除去するタイミングが臨界故障除去時間を与え、この点PCを始点とする臨界軌跡30の終点PEが、支配的不安定平衡点(即ち、特異点)に相当する。
【0003】
ところで、図7に例示される臨界軌跡30は、点PAにおける故障発生前の発電機と負荷との間の運用状態に応じて、δ-ω位相平面上で変位する。尚、運用状態とは、例えば発電機から負荷に供給される有効電力等である。故障除去時間が一定の下で、有効電力が小さいほど、臨界軌跡30は、回復可能を示す軌跡20側に変位する一方、有効電力が大きいほど、臨界軌跡30は、回復不可能を示す軌跡40側に変位する。ここで、実際の電力系統は、故障が発生すると、保護リレーが動作して同故障が除去されるようになっている。つまり、故障の発生後に一定の時間で保護リレーが動作して同故障が除去される電力系統の場合、系統運用者にとっては、この一定の故障除去時間の下で電力系統の回復可能及び回復不可能を分ける有効電力の限界値(過渡安定度限界値)が重要となる。
【0004】
このような故障前の有効電力の過渡安定度限界値を求めるための処理手順の一例を、図8を参照しつつ説明する。尚、同図は、電力系統運用のための情報処理装置が有効電力の過渡安定度限界値を求める手順の一例を示すフローチャートである。
【0005】
先ず、情報処理装置は、臨界故障除去時間を例えば保護リレーの動作時間等を表わすτに固定するとともに(S900)、有効電力を或る値に設定し(S901)、電力系統の状態を示すベクトルxを変数とする同系統の故障前及び故障中の状態を表わす関数gと、このxを変数とする電力系統の故障除去後の状態を表わす関数fとを特定し(S902)、関数g(x)及び関数f(x)に基づく電力系統方程式から、xを変数とする目的関数を生成する(S903)。尚、この目的関数とは、これを最小化するxが、前述した電力系統方程式の解となるような周知の関数一般を意味する。また、前述したτ及び有効電力は、前述した関数g(x)に含まれる。
【0006】
次に、情報処理装置は、目的関数を最小化するベクトルxを求め(S904)、このxの軌跡が臨界軌跡30(図7)であるか否か(即ち、ステップS901で設定された有効電力が過渡安定度限界値か否か)を判別する(S905)。有効電力が過渡安定度限界値でないと判別した場合(S905:NO)、情報処理装置は、ステップS901において有効電力を別の値に設定して、ステップS902以後の処理を再度実行する。一方、有効電力が過渡安定度限界値であると判別した場合(S905:YES)、情報処理装置は、処理を終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−53836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した過渡安定度限界値算出方法は、有効電力を設定し直しては、電力系統方程式を解き、その解に基づいて有効電力が過渡安定度限界値を示すか否かを判別するという試行錯誤による方法である。このため、有効電力が過渡安定度限界値に収束するまで電力系統方程式を解く(つまり、例えば前述した目的関数を最小化する)計算を繰り返さなければならず、よって計算効率が悪い。
【0009】
尚、以上は、故障発生前の発電機から負荷へ供給される有効電力に限らず、広く、故障発生前の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数の過渡安定度限界値の算出に関する問題である。
【0010】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電力系統が故障する前の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数の過渡安定度限界値を効率良く算出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための発明は、電力系統が故障する前の、前記電力系統内の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数の過渡安定度限界値を算出する過渡安定度限界値算出方法であって、前記助変数の関数である多次元状態変数xと、前記多次元状態変数xを始点とする軌跡の終点を示す多次元状態変数xm+1(mは整数)と、前記多次元状態変数xとxm+1との間で離散化される複数の多次元状態変数x(1≦k≦m:kは整数)と、前記多次元状態変数x乃至xm+1の中で相互に隣接する多次元状態変数x及びxk+1の間のユークリッド距離εと、

として定義される電力系統方程式と、を用いて

として定義される誤差ベクトルを用いて

として定義される目的関数を、前記多次元状態変数xが、前記電力系統が故障した後に回復可能となる時間と前記電力系統が故障した後に回復不可能となる時間との臨界となる臨界故障除去時間を定数として含み、且つ、前記多次元状態変数xから前記多次元状態変数xm+1に至る前記軌跡が、前記電力系統方程式に基づく所定の関数の支配的不安定平衡点である特異点を通過する、という条件の下で最小化し、前記目的関数を最小化する前記多次元状態変数xに基づいて、前記助変数の過渡安定度限界値を算出することを特徴とする過渡安定度限界値算出方法である。
【0012】
この過渡安定度限界値算出方法によれば、電力系統内の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数の過渡安定度限界値を、前述した多次元状態変数x及びxm+1に係る条件の下で前述した目的関数を最小化する多次元状態変数xから求めることができる。つまり、実質的な計算は、目的関数を最小化し、同目的関数を最小とする多次元状態変数xから過渡安定度限界値を与える助変数を算出する、という2段階で済むため、例えば助変数が過渡安定度限界値となるまでこれを設定し直しては電力系統方程式を繰り返し解く試行錯誤による方法と比べて、計算効率が良い。
【0013】
また、かかる過渡安定度限界値算出方法において、前記多次元状態変数xは、前記助変数のr次式(r≧1:rは整数)を含み、前記電力系統の臨界状態における故障除去時の状態を示す変数ベクトルである、ことが好ましい。
【0014】
また、かかる過渡安定度限界値算出方法において、前記特異点は、前記電力系統に連係される発電機i(1≦i≦n)の同期化力係数行列Kに基づく特異点である、こととしてもよい。
【0015】
また、かかる過渡安定度限界値算出方法において、前記同期化力係数行列Kは、前記発電機iの加速電力Paと位相角δを用いて、

但し、

として定義されるn次元正方行列である、ことが好ましい。
【0016】
また、かかる過渡安定度限界値算出方法において、前記同期化力係数行列Kは、前記発電機iの加速トルクTaと位相角δを用いて、

但し、

として定義されるn次元正方行列である、ことが好ましい。
【0017】
また、かかる過渡安定度限界値算出方法において、前記特異点は、前記同期化力係数行列Kが非正則行列である第1の条件と、前記同期化力係数行列Kとの乗算結果をゼロとするn次元固有ベクトルvの方向が、角周波数ωを配列したn次元ベクトルωの方向に一致する第2の条件と、の両条件が成立する特異点である、ことが好ましい。
【0018】
また、かかる過渡安定度限界値算出方法において、前記特異点は、前記第1の条件として、前記同期化力係数行列Kと前記n次元固有ベクトルvの大きさを表すスカラーqを用いて、

が成立し、
前記第2の条件として、スカラー係数ksを用いて、

が成立する特異点である、ことが好ましい。
【0019】
また、かかる過渡安定度限界値算出方法において、前記多次元状態変数xm+1は、前記特異点を示す変数ベクトルであり、前記第1及び第2の条件に基づいて

として定義される誤差ベクトルμm+1と、正の対角要素を有する正方の対角行列Wと、を用いて

として定義される二乗誤差関数を用いて

として定義される関数を最小化する前記多次元状態変数xを算出する、ことが好ましい。
【0020】
また、前記課題を解決するための発明は、電力系統が故障する前の、前記電力系統内の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数の過渡安定度限界値を算出する過渡安定度限界値算出装置であって、前記助変数の関数である多次元状態変数xと、前記多次元状態変数xを始点とする軌跡の終点を示す多次元状態変数xm+1(mは整数)と、前記多次元状態変数xとxm+1との間で離散化される複数の多次元状態変数x(1≦k≦m:kは整数)と、前記多次元状態変数x乃至xm+1の中で相互に隣接する多次元状態変数x及びxk+1の間のユークリッド距離εと、

として定義される電力系統方程式と、を用いて

として定義される誤差ベクトルを用いて

として定義される目的関数を、前記多次元状態変数xが、前記電力系統が故障した後に回復可能となる時間と前記電力系統が故障した後に回復不可能となる時間との臨界となる臨界故障除去時間を定数として含み、且つ、前記多次元状態変数xから前記多次元状態変数xm+1に至る前記軌跡が、前記電力系統方程式に基づく所定の関数の特異点を通過する、という条件の下で最小化する第1の情報処理部と、前記目的関数を最小化する前記多次元状態変数xに基づいて、前記助変数の過渡安定度限界値を算出する第2の情報処理部と、を備えたことを特徴とする過渡安定度限界値算出装置である。
【0021】
また、前記課題を解決するための発明は、電力系統が故障する前の、前記電力系統内の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数の過渡安定度限界値を算出する情報処理装置に、前記助変数の関数である多次元状態変数xと、前記多次元状態変数xを始点とする軌跡の終点を示す多次元状態変数xm+1(mは整数)と、前記多次元状態変数xとxm+1との間で離散化される複数の多次元状態変数x(1≦k≦m:kは整数)と、前記多次元状態変数x乃至xm+1の中で相互に隣接する多次元状態変数x及びxk+1の間のユークリッド距離εと、

として定義される電力系統方程式と、を用いて

として定義される誤差ベクトルを用いて

として定義される目的関数を、前記多次元状態変数xが、前記電力系統が故障した後に回復可能となる時間と前記電力系統が故障した後に回復不可能となる時間との臨界となる臨界故障除去時間を定数として含み、且つ、前記多次元状態変数xから前記多次元状態変数xm+1に至る前記軌跡が、前記電力系統方程式に基づく所定の関数の特異点を通過する、という条件の下で最小化する第1の手順と、前記目的関数を最小化する前記多次元状態変数xに基づいて、前記助変数の過渡安定度限界値を算出する第2の手順と、を実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0022】
電力系統が故障する前の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数の過渡安定度限界値を効率良く算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態の電力系統における複数の有効電力(即ち、複数の助変数λ)に対応する複数の非線形現象の一例を発電機のδ-ω位相平面上の複数の軌跡でそれぞれ表わした模式図である。
【図2】本実施の形態の助変数λが過渡安定度限界値となる電力系統の状態を示す離散化された多次元状態変数の一例を表示する模式図である。
【図3】本実施の形態の一機無限大母線系統のモデルを示す概念図である。
【図4】本実施の形態の故障前の一機無限大母線系統の電力相差角曲線の一例を示すグラフである。
【図5】本実施の形態の助変数λの過渡安定度限界値を求める手順の一例を示すフローチャートである。
【図6】本実施の形態の過渡安定度限界値算出装置の構成例を示すブロック図である。
【図7】制動無しの一機無限大母線系統の非線形現象をδ-ω位相平面における軌跡で表わした模式図である。
【図8】電力系統運用のための情報処理装置が有効電力の過渡安定度限界値を求める手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
===過渡安定度限界値算出方法===
図1乃至図5を参照しつつ、本実施の形態の過渡安定度限界値算出方法について説明する。尚、図1は、電力系統1における複数の有効電力(即ち、複数の助変数λ)に対応する複数の非線形現象の一例を発電機2のδ-ω位相平面上の複数の軌跡でそれぞれ表わした模式図である。図2は、助変数λが過渡安定度限界値となる電力系統1の状態を示す離散化された多次元状態変数x乃至xm+1の一例を表示する模式図である。図3は、一機無限大母線系統のモデルを示す概念図である。図4は、故障前の一機無限大母線系統の電力相差角曲線の一例を示すグラフである。図5は、助変数λの過渡安定度限界値を求める手順の一例を示すフローチャートである。
【0025】
以下、本実施の形態の電力系統方程式については、図3に例示される一機無限大母線系統の電力系統1に基づいて説明する。この電力系統方程式を複数の発電機が連係した系統に適用する場合には、例えば後述する多次元状態変数xのベクトルの次元を発電機の数だけ増やすこと等によって、同方程式を容易に拡張できる。
【0026】
但し、所定の制約条件の下での電力系統方程式の解法については、一機無限大母線系統の場合と、複数の発電機が連係した系統の場合とでは、後述する特異点Sの取り扱いが異なるため、これら2つの場合に分けて説明する。
【0027】
<<<一機無限大母線系統>>>
<電力系統方程式>
図3に例示される電力系統1は一機無限大母線系統であり、発電機2側の母線201と、負荷4側の母線401とが2本の送電線301、302(「送電線3」と総称する)によって接続されている。この電力系統1の離散的な時刻tにおける状態を表わす多次元状態変数x(0≦k≦m+1、但しk、mは整数)は、以下の「式1」で表わされるベクトルである。

ここで、δは、発電機2の時刻tにおける位相角を表わし、ωは、発電機2の時刻tにおける角周波数を表わす。これらδ及びωの座標は、慣性中心座標系又はそれ以外の座標系の何れでもよい。xsysは、電力系統1の時刻tにおけるその他の多次元状態変数、例えば不図示のSVC(Static Var Compensator)やSVG(Static Var Generator)等の制御器の多次元状態変数を表わす。
【0028】
尚、電力系統1が、AVR(Automatic Voltage Regulator)、ガバナ(Governor)、PSS(Power System Stabilizer)等(何れも不図示)を備えている場合、時刻tにおける多次元状態変数xは、以下の「式2」で表わされるベクトルとなる。

ここで、EはAVRのモデルの状態変数、Pmはガバナのモデルの状態変数であり、双方ともに時刻tにおける状態を表わしている。例えばEはAVRに関して採用するモデルの次数(次元)のベクトルであり、一次元のAVRモデルを使用する場合は、Eはスカラー変数(1次元)となる。Pmは、同様にガバナモデルに相当する状態変数である。
【0029】
電力系統1に発生した故障を除去した後の同系統1の多次元状態変数xの電力系統方程式は、故障除去後の非線形関数fに基づく以下の「式3」の運動方程式となる。尚、この故障とは、例えば送電線3の一部(例えば送電線301)の地絡等である。

【0030】
また、電力系統1における故障前の多次元状態変数xpreから、故障除去時を示す時刻tにおける電力系統1の多次元状態変数xまで、を表わす故障中の電力系統方程式を周知の過渡安定度シミュレーションによって解くことができる。例えば「式4」に示すように、多次元状態変数xを、電力系統1の故障前の発電機2と負荷4との間の運用状態を特定するスカラー値の助変数λの多項式で展開できる。

ここで、「式4」の左辺のXLPは、後述する臨界故障除去時間τを定数として含み、助変数λの関数である故障前の多次元状態変数xpre(λ)を初期値とする関数を表わしている。また、「式4」の右辺のa、a、a、aは、それぞれ、助変数λの0次項、1次項、2次項、3次項の係数を表わしている。
【0031】
尚、助変数λを、特に、発電機2から負荷4に供給される有効電力Pに対応するスカラー値とした場合、助変数λと多次元状態変数xとが、確かに、前述した「式4」で表わされる相関を有することを説明する。例えば、故障前の電力系統1の運用状態は、同状態の初期量を表わすPと、同状態の変化量を表わすPとを用いて、助変数λによって「式5」のように表現できる。

【0032】
一方、有効電力Pと、発電機2及び負荷4の相差角δ’(即ち、発電機2の位相角と負荷4の位相角との差分)とは、一般に、図4における電力相差角曲線に示される相関を有する。この相差角曲線において、有効電力Pは、「式5」で表わされる助変数λの関数(P(λ))であり、発電機2及び負荷4の相差角δ’は、発電機2の位相角δ及び(同位相角δの時間微分である)角周波数ωと相関を有する。尚、図4に例示されるように、電力相差角曲線は、有効電力Pの最大値PMAXを与える相差角δ’を中心として対称である。つまり、例えば有効電力がP”からP’(<P”)に下がると、電力系統1の安定平衡点は、相差角がδ”からδ’(<δ”)へと減少する方向に変位する一方、電力系統1の不安定平衡点は、相差角がδ”からδ’(>δ”)へと増大する方向に変位する。
【0033】
以上から、発電機2の位相角δは、助変数λと、図4の相差角曲線で示される相関を有する。即ち、故障前の発電機2の位相角δ及び角周波数ωにより構成される多次元状態変数xpreは、確かに、助変数λの関数(xpre(λ))であると言える。従って、この多次元状態変数xpre(λ)を初期値とする関数XLPで表わされる多次元状態変数xと、助変数λとは、前述した「式4」で表わされる相関を有する。
【0034】
<方程式の一般形>
前述した「式3」の電力系統方程式は、より一般的な表現として、多次元状態変数xの多次元従属変数yを用いて、微分方程式である「式6」及び代数方程式である「式7」により表わされる。

ここで、「式6」は、時刻tにおける多次元状態変数xを構成する位相角δ及び角周波数ωの動揺を表わし、「式7」は、例えば、電力系統1の母線201、401の電流、電圧、有効電力、無効電力等に関する条件を与えたり、電力系統1の構成機器等の特性に関する条件を与えたりする。
【0035】
(解析関数による表現)
「式7」に基づいて多次元従属変数yを多次元状態変数xの解析的な関数pで表わすことができる場合、「式6」の右辺は「式8」のように変形できる。つまり、電力系統方程式の一般形を表わす「式6」及び「式7」は、前述した「式3」に帰着される。

【0036】
(数値関数による表現)
一方、多次元従属変数yを多次元状態変数xの解析的な関数で表わすことができない場合、「式7」に基づいて多次元状態変数xと多次元従属変数yとの関係を数値的に求め、求めたx及びyを「式6」に適用して、(dx/dt)を意味する「式6」の左辺を数値的に求めることができる。また、前述した「式3」における故障除去後の非線形関数fを線形化して、解析を行なうことができる。この場合、ヤコビ行列(線形化システム行列)Aは、関数fに係る「式9」又は関数h及びsに係る「式10」のように定義される。

【0037】
<電力系統方程式の解法>
本実施の形態の過渡安定度限界値算出方法は、電力系統1の故障除去後の臨界軌跡33(図1参照)を、前述した「式3」の電力系統方程式の解である多次元状態変数xとして求め、得られた臨界軌跡33の始点における多次元状態変数xから、例えば前述した「式4」を用いて、電力系統1の故障前の発電機2と負荷4との間の運用状態を特定する助変数λの過渡安定度限界値を算出するものである。尚、「式4」は、以下の「式11」で表わされる「臨界軌跡33の終点における多次元状態変数xm+1が「式3」に基づく所定の関数の特異点Sを示す変数ベクトルである」とともに、臨界軌跡33を求める際の制約条件とされる。
【0038】

助変数λの過度安定度限界値を求めるにあたって、図1を参照することによって、この過渡安定度限界値を与える助変数λと、多次元状態変数xの軌跡との関係の概略を把握できる。
【0039】
助変数λが過渡安定度限界値未満である場合、点PA1で故障が発生してから時間τ経過後に故障軌跡11上の点PB1で故障を除去すると、発電機2の位相角δ及び角周波数ωは軌跡21を経由して点PA1に収束する(回復可能)。点PA2の故障から同一時間τ経過後に故障軌跡12上の点PB2で故障を除去し、発電機2の位相角δ及び角周波数ωが軌跡22を経由して点PA2に収束する(回復可能)ことも同様である。ただし、上記は説明を煩雑化しないための例題であり、厳密には故障前と故障後では通常は開閉器(不図示)の開閉状態が異なるため、同じ運転状態(安定平衡点)とはならない。一般には、故障前の運転点(故障前安定平衡点)とは少しずれた運転点(故障後安定平衡点)に収束する。
【0040】
助変数λが過渡安定度限界値を超えている場合、点PA4で故障が発生してから同一時間τ経過後に故障軌跡14上の点PD4で故障を除去しても、発電機2の位相角δ及び角周波数ωは軌跡44上で発散する(回復不可能)。点PA5の故障から同一時間τ経過後に故障軌跡15上の点PD5で故障を除去し、発電機2の位相角δ及び角周波数ωが軌跡45上で発散する(回復不可能)ことも同様である。
【0041】
尚、図1において、助変数λはそれぞれ異なるが故障除去時間τは同一(τ)である前述した故障除去点PB1、点PB2、点PC3、点PD4、及び点PD5をつなぐ点線LPが、前述した「式4」で表わされる多次元状態変数x(=XLP(τ;(xpre(λ))))を与える。
【0042】
ここで、助変数λが過渡安定度限界値である場合、点PA3から故障軌跡13上において前述と同一のタイミング(時間τ)で故障を除去した場合、点PC3を始点とする臨界軌跡33の終点PE3が、支配的不安定平衡点に相当する。
【0043】
以下、前述した「式3」の具体的な解法について説明する。この「式3」の非線形方程式に台形公式の近似を適用することによって、以下の「式12」が成立する。

【0044】
図2において臨界軌跡33として例示されるように、同臨界軌跡33の始点PC3に対応するxは、助変数λの限界値を与える故障除去時の多次元状態変数のベクトルであり、同臨界軌跡33の終点PE3に対応するxm+1は、支配的不安定平衡状態に対応する多次元状態変数のベクトルである。但し、「式12」を充足する多次元状態変数xが支配的不安定平衡点である終点PE3に近づくにつれて、右辺の時間差分(tk+1−t)は無限に大きくなるため、本実施の形態では、以下の「式13」によって、図2に例示される隣接する2つの多次元状態変数xk+1、x間のユークリッド距離εを定義する。

【0045】
このようなユークリッド距離εを用いることによって、「式12」は、「式14」に変換される。尚、このユークリッド距離εは、支配的不安定平衡点PE3に近づいても無限大になることなく常に一定である。

【0046】
「式14」の右辺の0はゼロベクトルを表わしており、「式14」は(m+1)個の多次元連立方程式を意味している。つまり、「式14」の多元連立方程式の解を求めることは、無限大の時間を直接取り扱うことなく、等間隔の点を示す多次元状態変数xを求めることと等価となる。尚、この「式14」に示される(m+1)個の多元連立方程式の右辺は全て0(スカラー値)となることが理想的であるが、実際には、前述した台形公式の近似に起因した数値誤差が生じてくる。そこで、「式14」の多元連立方程式の解を求めるために、先ず「式15」に示すように、「式14」の左辺を誤差ベクトルμと定義した上で、次に「式16」に示すように、誤差ベクトルμの大きさ(ノルム)の総和を目的関数Oとして定義する。

ここで、(式16)におけるμk’は、誤差ベクトルμを転置したベクトルを意味する。
【0047】
「式14」の多元連立方程式の解を求める問題を、「式16」で定義された目的関数Oを最小化させる多次元状態変数x(0≦k≦m+1)、ユークリッド距離ε、限界値を与える助変数λを求める最適化問題として「式17」により定式化した。尚、臨界故障除去時間τは、例えば電力系統1の保護リレーの動作時間等によって与えられる定数τとして多次元状態変数xに含まれるとともに、この多次元状態変数xは、例えば前述した「式4」で表わされる助変数λの関数である。以上から、「式18」及び「式19」の制約条件の下で「式17」によって最適化されるのは、変数x乃至xm+1及びεと、助変数λとである。

ここで、「式18」は前述した「式4」と略同一であり、「式19」は前述した「式11」と同一であるが、「式17」の制約条件を表わす式として改めてここに記載した。
【0048】
尚、「式18」は予め周知の如何なる方法で求めてもよい。例えば、前述した「式4」と同様な「式20」のように多次元状態変数x(=XLP(τ;xpre(λ)))を助変数λのr次式(rは1以上の整数)で近似し、以下の手順1及び2に従って、周知の過渡安定度シミュレーションを実施して各項の係数を予め求めることができる。
【0049】

【0050】
(手順1)或る異なる2つの助変数λ及びλ(λ<λ)から「式20」を用いて2つの多次元状態変数x_1及びx_2を求め、これら2つの多次元状態変数x_1及びx_2を始点として周知の過渡安定度シミュレーションを実施して、電力系統1の安定度を判別する。このようなシミュレーションを、例えば助変数λで電力系統1が安定であり且つ助変数λで電力系統1が不安定であるような助変数λ及びλが得られるまで繰り返す。
(手順2)係数a乃至aを決定するための周知の過渡安定度シミュレーションを、「式20」の次元rに応じた回数だけ実施する。但し、rが2以下の場合には、前述した手順1のみから、係数が求められる。
【0051】
<<<複数の発電機が連係した系統>>>
<電力系統方程式>
前述したように、例えば多次元状態変数x(0≦k≦m+1、但しk、mは整数)のベクトルの次元を発電機の数だけ増やすこと等によって、電力系統方程式を、一機無限大母線系統から、複数(例えばn台、但しnは2以上の整数)の発電機が連係した系統(不図示)まで、容易に拡張できる。
【0052】
<電力系統方程式の解法>
複数の発電機が連係している系統の場合、前述した「式19」でSとして与えられる特異点は、以下述べる複数の発電機の同期化力から導かれる。
【0053】
前述した「式3」で表わされる電力系統方程式のうち、時刻tにおける発電機i(不図示)の位相角δ及び角周波数ωを用いた動揺方程式は、以下の「式21」又は「式22」の何れかで表わされる(1≦i≦n、但しi、nは整数)。

ここで、Mは発電機iの慣性定数を表わし、Pa及びTaは、時刻tにおける発電機iの加速電力及び加速トルクをそれぞれ表わす。
【0054】
尚、複数の発電機が連係した系統における多次元状態変数x乃至xm+1は、前述した「式3」及び「式19」の多次元状態変数x乃至xm+1とはベクトルの次元が異なるが、その数式は、形式上、同一に取り扱える。
【0055】
発電機iの同期化力は、時刻tにおける位相角δiに対する加速電力Paの微分係数dPa/dtで定義されるか、又は、時刻tにおける位相角δに対する加速トルクTaの微分係数dTa/dtで定義される。そして、これらの微分係数を要素とするn次元正方行列である同期化力係数行列K(「式23」)に基づいて、特異点Sが具体的に求められる。

【0056】
但し、「式23」の右辺における第1行及び第2乃至第(n−1)列の要素群L1、第n行及び第2乃至第(n−1)列の要素群L2、第2乃至第(n−1)行及び第1列の要素群M1、第2乃至第(n−1)行及び第n列の要素群M2、第2乃至第(n−1)行及び第2乃至第(n−1)列の要素群O1は、以下の「式24」に示す通りである。尚、Pa及びδ(1≦i≦n、1≦j≦n、但しi、j、nは整数)は、それぞれ、発電機iの加速電力及び発電機jの位相角である。

或いは、Sとして与えられる特異点は、「式25」で表わされる複数の発電機の同期化力係数行列Kに基づいて求められる。

【0057】
但し、「式25」の右辺における第1行及び第2乃至第(n−1)列の要素群L3、第n行及び第2乃至第(n−1)列の要素群L4、第2乃至第(n−1)行及び第1列の要素群M3、第2乃至第(n−1)行及び第n列の要素群M4、第2乃至第(n−1)行及び第2乃至第(n−1)列の要素群O2は、以下の「式26」に示す通りである。尚、Ta及びδ(1≦i≦n、1≦j≦n、但しi、j、nは整数)は、それぞれ、発電機iの加速トルク及び発電機jの位相角である。

【0058】
以上の「式23」又は「式25」で与えられる同期化力係数行列Kに基づく特異点Sは、同行列Kが非正則(特異)行列である第1条件と、同行列Kのゼロ固有値に相当する(即ち、Kとの乗算結果をゼロとする)n次元固有ベクトルvの方向が発電機iの角周波数ωを配列したn次元ベクトルωの方向に一致する第2条件とがともに成立する特異点である。
【0059】
前述した第1条件が成立する必要十分条件は、以下の「式27」又は「式28」が成立することである。

ここで、「式27」又は「式28」が成立することは、同期化力係数行列Kのゼロ固有値に相当する(即ち、Kとの乗算結果をゼロとする)n次元固有ベクトルvを用いた以下の「式29」及び「式30」が成立することと等価である。

ここで、n次元固有ベクトルvは、「式29」で定められるように、その方向のみが意味を持ち、その大きさは任意である。よって、「式30」で定められるように、n次元固有ベクトルvの大きさを、スカラーq(例えば1)によって表わしている。
【0060】
前述した第2条件が成立する必要十分条件は、スカラー係数ksを用いて、以下の「式31」が成立することである。或いは、この「式31」を、慣性中心ωを考慮して変形し、「式32」としてもよい。

【0061】
以上から、特異点Sの条件は、前述した「式29」、「式30」、及び「式31」(又は「式32」)の全てが成立することである。ここで、未知数は、n次元固有ベクトルv、n次元ベクトルω、及びスカラー係数ksである。
【0062】
臨界軌跡の終点における多次元状態変数xm+1の誤差ベクトルμm+1を、形式上、以下の「33」のように書き直し、同誤差ベクトルμm+1の各成分を、前述した「式29」の右辺、「式30」の右辺、及び「式31」の右辺とすれば、前述した「式29」、「式30」、及び「式31」は、「式34」、「式35」、及び「式36」を成分とする「式33」の誤差ベクトルμm+1が0ベクトルであることと等価となる。

また、「式33」の二乗誤差関数を前述した「式16」に加算して、以下の「式37」を定義する。
【0063】

【0064】
ここで、Wは、対角要素が正である正方の対角行列である(例えば単位行列)。尚、「式37」の第1項の多次元状態変数x乃至xm+1は、前述した「式16」の多次元状態変数x乃至xm+1とはベクトルの次元が異なるが、その数式は、形式上、同一に取り扱える。
【0065】
「式33」の誤差ベクトルμm+1が0ベクトルであるという特異点に係る条件の下で、「式16」で定義される目的関数Oを最小化することは、新たに「式37」で定義される目的関数Eを最小化することと等価である。つまり、「式39」の制約条件の下で「式38」によって最適化されるのは、x乃至xm+1、ε、λ、v、ksである。

【0066】
尚、「式38」の最適化問題では、特異点Sの条件として、前述した「式29」、「式30」、及び「式31」を全て用いて、臨界軌跡の終点の多次元状態変数xm+1の誤差ベクトルμm+1を、「式33」、「式34」、「式35」、及び「式36」により定義したが、これに限定されるものではない。例えば、誤差ベクトルμm+1は、前述した「式29」、「式30」、及び「式31」からn次元固有ベクトルv及びスカラー係数ksを消去して得られる、特異点Sの等価条件を用いても定義できる。

【0067】
ここで、前述した「式31」におけるベクトルωは、ベクトル(dδ/dt)に置き換えられている。
【0068】
これら「式40」及び「式41」と、前述した「式39」との制約条件の下で、以下の「式42」

を通じて、x乃至xm+1、ε、λを最適化してもよい。尚、この「式42」では、最適化の対象であるn次元固有ベクトルv及びスカラー係数ksが消去されているという点で、前述した「式38」と異なる。
【0069】
<<<助変数λの過渡安定度限界値を求めるための処理手順>>>
図5を参照しつつ、発電機と負荷との間の運用状態を特定する(例えば有効電力等を表わす)助変数λの過渡安定度限界値を求めるための処理手順の一例を説明する。
【0070】
先ず、後述する情報処理装置100は、臨界故障除去時間を例えば保護リレーの動作時間等を表わすτに固定するとともに(S100)、電力系統の多次元状態変数x(即ち、x乃至xm+1)と、電力系統の故障除去後の状態を表わす多次元状態変数xの関数fとを特定し(S101)、関数f(x)に基づく電力系統方程式から、目的関数O(x)又はE(x)を生成する(102)。
【0071】
次に、情報処理装置100は、目的関数O(x)又はE(x)を最小化する多次元状態変数x、ユークリッド距離ε、n次元固有ベクトルv、スカラー係数ksを求め(S103)、求めた多次元状態変数xのうちのxから、過渡安定度限界値を与える助変数λを求める(S104)。尚、多次元状態変数xを例えば助変数λのr次式(rは1以上の整数)の関数で近似した場合の各項の係数は、前述したように、周知の過渡安定度シミュレーションによって予め求められている。
【0072】
この過渡安定度限界値算出方法によれば、電力系統内の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数λの過渡安定度限界値を、多次元状態変数x(x及びxm+1)に係る条件の下で目的関数O(x)又はE(x)を最小化するxから求めることができる。つまり、実質的な計算は、目的関数を最小化し(前述したステップS103)、同目的関数を最小とするxから過渡安定度限界値を与える助変数λを算出する(前述したステップS104)、という2段階で済むため、例えば助変数λが過渡安定度限界値となるまでこれを設定し直しては電力系統方程式を繰り返し解く試行錯誤による方法と比べて、計算効率が良い。
【0073】
尚、前述した実施の形態では、臨界軌跡(多次元状態変数xから多次元状態変数xm+1に至る軌跡)の終点が特異点Sであるという制約条件が課されていたが、これに限定されるものではない。例えば、この臨界軌跡が特異点Sを通過する、という制約条件が課されてもよい。
【0074】
===過渡安定度限界値算出装置===
図6を参照しつつ、本実施の形態の情報処理装置(過渡安定度限界値算出装置)100の構成例について説明する。同図は、情報処理装置100の構成例を示すブロック図である。
【0075】
情報処理装置100は、CPU101と、表示装置102と、入力装置103と、メモリ104と、記憶装置105とを備えており、例えば電力系統の系統運用者によって使用される。
【0076】
CPU101は、発電機と負荷との間の運用状態を特定する(例えば有効電力等を表わす)助変数λの過渡安定度限界値を求めるための処理手順である前述したステップS100乃至S104(図5)を実行する。特に、臨界軌跡の始点を示す多次元状態変数xが臨界故障除去時間を定数τとして含み、且つ、臨界軌跡の終点(多次元状態変数xm+1)が特異点Sであるという制約条件の下で目的関数O(x)又はE(x)最小化するという、前述したステップS103(図5)のCPU101の機能が、第1の情報処理部に対応する。また、目的関数O(x)又はE(x)を最小化する多次元状態変数xに基づいて、助変数λの過渡安定度限界値を算出するという、前述したステップS104(図5)のCPU101の機能が、第2の情報処理部に対応する。
【0077】
表示装置102は、例えば電力系統の系統図や過渡安定度限界値等を系統運用者に閲覧可能に表示する液晶ディスプレイである。
【0078】
入力装置103は、例えば臨界故障除去時間τ等の情報を系統運用者が入力するためのキーボードやマウス等である。
【0079】
メモリ104は、例えば前述したCPU101の処理に使用されるデータ等を記憶する。
【0080】
記憶装置105は、例えば、CPU101に対し、助変数λの過渡安定度限界値を求めるための処理手順である前述したステップS100乃至S104(図5)を実行させるためのプログラム等を記憶する光ディスク(例えばDVDやCD等)又は磁気ディスク(例えばMOやフロッピーディスク等)である。特に、プログラムにおいて、臨界軌跡の始点を示す多次元状態変数xが臨界故障除去時間を定数τとして含み、且つ、臨界軌跡の終点(多次元状態変数xm+1)が特異点Sであるという制約条件の下で目的関数O(x)又はE(x)最小化するという前述したステップS103(図5)が、第1の手順に対応する。また、プログラムにおいて、目的関数O(x)又はE(x)を最小化する多次元状態変数xに基づいて、助変数λの過渡安定度限界値を算出するという前述したステップS104(図5)が、第2の手順に対応する。
【0081】
尚、前述した実施の形態では、臨界軌跡(多次元状態変数xから多次元状態変数xm+1に至る軌跡)の終点が特異点Sであるという制約条件が課されていたが、これに限定されるものではない。例えば、この臨界軌跡が特異点Sを通過する、という制約条件が課されてもよい。
【0082】
===その他の実施の形態===
前述した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更、改良されるとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0083】
例えば、前述した「式3」の電力系統方程式の代わりに、同方程式のより一般的な表現として述べた、微分方程式である前述した「式6」と、代数方程式である前述した「式7」とを用いてもよい。
【0084】
この場合、前述した「式7」を制約条件とする。即ち、以下の「式44」で定義される誤差ベクトルμADDの二乗誤差関数を表わす「式43」を、前述した目的関数E(x)に追加するとともに、y(0≦k≦m+1)を最小化の際の未知数に追加する。

【符号の説明】
【0085】
1 電力系統
2 発電機
3 送電線
4 負荷
10、11、12、13、14、15 故障軌跡
20、21、22、40、44、45 軌跡
30、33 臨界軌跡
100 情報処理装置
101 CPU
102 表示装置
103 入力装置
104 メモリ
105 記憶装置
201、401 母線
301、302 送電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統が故障する前の、前記電力系統内の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数の過渡安定度限界値を算出する過渡安定度限界値算出方法であって、
前記助変数の関数である多次元状態変数xと、
前記多次元状態変数xを始点とする軌跡の終点を示す多次元状態変数xm+1(mは整数)と、
前記多次元状態変数xとxm+1との間で離散化される複数の多次元状態変数x(1≦k≦m:kは整数)と、
前記多次元状態変数x乃至xm+1の中で相互に隣接する多次元状態変数x及びxk+1の間のユークリッド距離εと、

として定義される電力系統方程式と、を用いて

として定義される誤差ベクトルを用いて

として定義される目的関数を、前記多次元状態変数xが、前記電力系統が故障した後に回復可能となる時間と前記電力系統が故障した後に回復不可能となる時間との臨界となる臨界故障除去時間を定数として含み、且つ、前記多次元状態変数xから前記多次元状態変数xm+1に至る前記軌跡が、前記電力系統方程式に基づく所定の関数の支配的不安定平衡点である特異点を通過する、という条件の下で最小化し、
前記目的関数を最小化する前記多次元状態変数xに基づいて、前記助変数の過渡安定度限界値を算出する
ことを特徴とする過渡安定度限界値算出方法。
【請求項2】
前記多次元状態変数xは、前記助変数のr次式(r≧1:rは整数)を含み、前記電力系統の臨界状態における故障除去時の状態を示す変数ベクトルである、ことを特徴とする請求項1に記載の過渡安定度限界値算出方法。
【請求項3】
前記特異点は、前記電力系統に連係される発電機i(1≦i≦n)の同期化力係数行列Kに基づく特異点である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の過渡安定度限界値算出方法。
【請求項4】
前記同期化力係数行列Kは、
前記発電機iの加速電力Paと位相角δを用いて、

但し、

として定義されるn次元正方行列である、ことを特徴とする請求項3に記載の過渡安定度限界値算出方法。
【請求項5】
前記同期化力係数行列Kは、
前記発電機iの加速トルクTaと位相角δを用いて、

但し、

として定義されるn次元正方行列である、ことを特徴とする請求項3に記載の過渡安定度限界値算出方法。
【請求項6】
前記特異点は、
前記同期化力係数行列Kが非正則行列である第1の条件と、
前記同期化力係数行列Kとの乗算結果をゼロとするn次元固有ベクトルvの方向が、角周波数ωを配列したn次元ベクトルωの方向に一致する第2の条件と、
の両条件が成立する特異点である、ことを特徴とする請求項4又は5に記載の過渡安定度限界値算出方法。
【請求項7】
前記特異点は、
前記第1の条件として、前記同期化力係数行列Kと前記n次元固有ベクトルvの大きさを表すスカラーqを用いて、

が成立し、
前記第2の条件として、スカラー係数ksを用いて、

が成立する特異点である、ことを特徴とする請求項6に記載の過渡安定度限界値算出方法。
【請求項8】
前記多次元状態変数xm+1は、前記特異点を示す変数ベクトルであり、
前記第1及び第2の条件に基づいて

として定義される誤差ベクトルμm+1と、正の対角要素を有する正方の対角行列Wと、を用いて

として定義される二乗誤差関数を用いて

として定義される関数を最小化する前記多次元状態変数xを算出する、ことを特徴とする請求項7に記載の過渡安定度限界値算出方法。
【請求項9】
電力系統が故障する前の、前記電力系統内の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数の過渡安定度限界値を算出する過渡安定度限界値算出装置であって、
前記助変数の関数である多次元状態変数xと、
前記多次元状態変数xを始点とする軌跡の終点を示す多次元状態変数xm+1(mは整数)と、
前記多次元状態変数xとxm+1との間で離散化される複数の多次元状態変数x(1≦k≦m:kは整数)と、
前記多次元状態変数x乃至xm+1の中で相互に隣接する多次元状態変数x及びxk+1の間のユークリッド距離εと、

として定義される電力系統方程式と、を用いて

として定義される誤差ベクトルを用いて

として定義される目的関数を、前記多次元状態変数xが、前記電力系統が故障した後に回復可能となる時間と前記電力系統が故障した後に回復不可能となる時間との臨界となる臨界故障除去時間を定数として含み、且つ、前記多次元状態変数xから前記多次元状態変数xm+1に至る前記軌跡が、前記電力系統方程式に基づく所定の関数の特異点を通過する、という条件の下で最小化する第1の情報処理部と、
前記目的関数を最小化する前記多次元状態変数xに基づいて、前記助変数の過渡安定度限界値を算出する第2の情報処理部と、
を備えたことを特徴とする過渡安定度限界値算出装置。
【請求項10】
電力系統が故障する前の、前記電力系統内の発電機と負荷との間の運用状態を特定する助変数の過渡安定度限界値を算出する情報処理装置に、
前記助変数の関数である多次元状態変数xと、
前記多次元状態変数xを始点とする軌跡の終点を示す多次元状態変数xm+1(mは整数)と、
前記多次元状態変数xとxm+1との間で離散化される複数の多次元状態変数x(1≦k≦m:kは整数)と、
前記多次元状態変数x乃至xm+1の中で相互に隣接する多次元状態変数x及びxk+1の間のユークリッド距離εと、

として定義される電力系統方程式と、を用いて

として定義される誤差ベクトルを用いて

として定義される目的関数を、前記多次元状態変数xが、前記電力系統が故障した後に回復可能となる時間と前記電力系統が故障した後に回復不可能となる時間との臨界となる臨界故障除去時間を定数として含み、且つ、前記多次元状態変数xから前記多次元状態変数xm+1に至る前記軌跡が、前記電力系統方程式に基づく所定の関数の特異点を通過する、という条件の下で最小化する第1の手順と、
前記目的関数を最小化する前記多次元状態変数xに基づいて、前記助変数の過渡安定度限界値を算出する第2の手順と、
を実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−50165(P2011−50165A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196040(P2009−196040)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【特許番号】特許第4543192号(P4543192)
【特許公報発行日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】