説明

過酸化ジアルキル類からのジアルキルエーテル類の除去

ジアルキルエーテル及び過酸化ジアルキルを含む混合物中のジアルキルエーテルの濃度を低減する方法であって、該混合物を強酸で処理することを含む方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明者等は、「過酸化ジアルキル類からのジアルキルエーテル類の除去」という発明の名称で、2003年7月30日付で出願された米国仮出願番号第60/490,906号に基づいて、米国特許法120条の利益を請求する。
本発明は、過酸化ジアルキル類中の不純物の低減に関する。特に、本発明は、過酸化ジアルキル類中のジアルキルエーテル類の濃度を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチル−t−ブチルエーテル(MTBE)は、過酸化ジ−t−ブチル(DTBP)の製造中に形成される副生成物である。MTBEは、人間の健康に対する脅威であると疑われている。DTBPが、飲料水を輸送するために使用され得る架橋ポリエチレン(PE)管に使用される場合、MTBEは、管中の不要な汚染物になる。MTBEは、管から浸出して水を悪臭あるものにし、人間の健康に有害なものである可能性がある。飲料水の汚染物リストの告知(1998年3月2日の63FR10273〜10287)参照。
【0003】
MTBEがDTBPの分解生成物の1つとして形成されると述べている二つの文献は、Batt,L.et al.,J.Chemical Physics,36:895−901(1962)、及びValkovskii,D.G.et al.,Izv.Akad.Nauk SSSR,Ser.Khim.,7:1319−27(1963)、(C.A.,59:68797)である。
【0004】
2件の特許は、DTBPの精製に関する一般的方法を報告している。
【0005】
即ち、米国特許第4,900,850号は、t−ブチルアルコールの生成物を蒸留して、実質的に全ての過酸化ジ−t−ブチルを過酸化ジ−t−ブチル/t−ブチルアルコールの共沸混合物と他の汚染物質として含む塔頂留分を得ることによって、t−ブチルアルコールと過酸化ジ−t−ブチルを含有する生成物から、t−ブチルアルコール/過酸化ジ−t−ブチルの共沸混合物を回収することができる、ということを開示している。過酸化ジ−t−ブチルは、水による抽出(例えば、向流水抽出塔における)による留分から回収することができ、所望の純度の過酸化ジ−t−ブチル生成物を与えることも開示されている。
【0006】
米国特許第5,453,548号は、t−ブタノールからイソブチレンと水への脱水段階を含む、t−ブタノールから過酸化ジ−t−ブチルを分離する方法を開示している。
【0007】
以下の3文献は、DTBPの濃硫酸による処理が過酸化物の著しい分解を惹起したことを示唆している。
【0008】
米国特許第3,917,709号は、高濃度の酸触媒の存在下で、第三級脂肪族ヒドロ過酸化物と過酸化物が、実質的に定量収率で、ケトン及びアルコールの混合物に転化されることを開示している。対応する第二級脂肪族ヒドロ過酸化物は、アルコール、ケトン及びアルデヒドの生成物の混合物を、使用する酸触媒の濃度に依存して種々の割合で生成する。
【0009】
Milas,N.et al.,J.Am.Chem.Soc.68:205−208(1946)は、DTBPを濃硫酸に溶解した場合、高分子状炭化水素が溶液から徐々に分離したことを報告している。
【0010】
Solyanikov,V.M.,et al.,Izk.Akad.Nauk SSSR、Ser.Khim.6:1400−2(1976)、(C.A.85:123082)は、DTBPが、塩酸、過塩素酸及び硫酸により分解されたことを報告している。この酸触媒による分解は、Me3+及びMe3COOHを与えるといわれている。Me3+の脱プロトン化はイソブテンを生じ、Me3COOHのホモリシスはフリーラジカルを生ずる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、過酸化物を強酸で処理することによって、過酸化ジアルキル類からジアルキルエーテル類を除去する方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
特に、本発明は、ジアルキルエーテル及び過酸化ジアルキルを含む混合物中のジアルキルエーテルの濃度を低減する方法であって、該混合物を強酸で処理することを含む方法を対象とする。
【0013】
高度に好ましい実施態様に於いて、本発明は、メチル−t−ブチルエーテル及び過酸化ジ−t−ブチルを含む混合物中の該エーテルの濃度を低減する方法であって、該混合物を室温で約10%から約50%の範囲の酸強度を有する硫酸で処理することを含む方法を目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上述の様に、本発明は、過酸化物を強酸で処理することによって、過酸化ジアルキル類からジアルキルエーテル類を除去する方法を目的とする。
【0015】
強酸は鉱酸であることが好ましい。通常の鉱酸、例えば、硫酸、過塩素酸、塩酸、硝酸等のいずれも、本発明の実施に於いて使用することができる。最も好ましい鉱酸は硫酸である。
【0016】
本発明の方法によって除去されるジアルキルエーテル類のアルキル基は、互いに同一であっても異なっていてもよく、好ましくは低級アルキル基、例えば1〜5個の炭素原子を有するものである。その様なアルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、1−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチル、3−メチルブチル、2−メチルブチル及び2,2−ジメチルプロピルが挙げられる。好ましくは、ジアルキルエーテルの2個のアルキル基は互いに異なる。最も好ましくは、ジアルキルエーテルはメチル−t−ブチルエーテルである。
【0017】
同様に、本発明の方法によって精製される過酸化ジアルキル類のアルキル基は、互いに同一であっても異なっていてもよく、上記で特定されたものと同様に、好ましくは低級アルキル基、例えば1〜5個の炭素原子を有するものである。過酸化ジアルキルの2個のアルキル基は、同一であることが好ましい。更に好ましくは、過酸化ジアルキルは過酸化ジ−t−ブチルである。
【0018】
本発明の実施において、強酸と精製される過酸化ジアルキルの重量比は、約10:1から約1:10の範囲でよい。好ましくは、その比は、約2:1から約1:2の範囲である。約1:1の比が最も好ましい。
【0019】
強酸は、高濃度のもの又は希薄なものでもよい。好ましい実施態様では、酸濃度は、約10%から約65%の範囲でよい。より好ましい濃度範囲は、約10%から約50%である。強酸として硫酸が使用される場合は、最も好ましい濃度は約50%である。
【0020】
本発明の精製反応が行なわれる反応条件、即ち、温度及び圧力、は決定的ではないが、それらは比較的穏和であることが好ましい。より好ましくは、反応は周囲条件、即ち、室温及び大気圧下で行なわれる。
【0021】
従って、DTBPが周囲温度で数時間、等重量の10%〜50%硫酸で処理された場合、MTBE濃度は、酸の強度に依存して最初のレベルの72ppmから1ppm未満に低下した。これらの結果は下記実施例に示される。この実験を50℃で繰り返した場合、多分より高い温度に於けるDTBPの少量の分解のために、残存MTBEのレベルは、周囲温度で見られるレベルより実際に高かった。
【0022】
本発明の利点及び重要な特徴は、以下の実施例からより明白になろう。
【実施例】
【0023】
実施例1
72ppmのメチル−t−ブチルエーテルを含む300グラムのDTBPをフラスコに入れ、300グラムの35%硫酸と共に2時間、室温で攪拌した。攪拌時間の終了後、混合物を放置して分離させ、水相を廃棄した。有機相を等容量の水で3回洗浄し、残存する酸を除去した。ガスクロマトグラフィーによる分析は、5.5ppmのMTBE含量を示した。ガスクロマトグラフィーの分析は、HP−1ジメチルポリシロキサンカラム(長さ:30m、内径:0.53mm、膜厚:3.0ミクロン)を用いた、ヒューレット・パッカード5890G.C.を使用して行った。注入装置の温度は120℃であった。温度のプログラムは、40℃で5分間、その後80℃迄10℃/分で上昇させ、そして6分間保持した。2−ブタノールを内部標準として使用した。実験の結果を表1に示す。
【0024】
実施例2
酸として、実施例1で使用した35%硫酸の代わりに10%硫酸を使用した以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0025】
実施例3
酸として、実施例1で使用した35%硫酸の代わりに50%硫酸を使用した以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例4
38ppmのメチル−t−ブチルエーテルを含む50グラムのDTBPをフラスコに入れ、50グラムの35%過塩素酸と共に室温で2時間攪拌した。攪拌時間の終了後、混合物を上記実施例1に記載した様に処理した。ガスクロマトグラフィーによる分析は、11ppmのMTBEが存在することを示した。
【0028】
実施例5
攪拌時間を3時間とした以外は実施例4を繰り返した。回収したDTBPの分析は、7ppmのMTBEが存在することを示した。
【0029】
本発明の根底にある原理から逸脱することなく行なうことができる多くの変更及び改良を考慮して、本発明に与えられる保護の範囲を理解するために、添付の特許請求の範囲を参照する必要がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアルキルエーテル及び過酸化ジアルキルを含む混合物中のジアルキルエーテルの濃度を低減する方法であって、
該混合物を強酸で処理する工程を含む方法。
【請求項2】
強酸が鉱酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
鉱酸が、硫酸、過塩素酸、塩酸及び硝酸からなるグループから選ばれる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
鉱酸が硫酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
硫酸の酸強度が約10%から約50%の範囲にある、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
強酸と精製された過酸化ジアルキルとの重量比が約10:1から約1:10の範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
処理工程が約50℃以下で行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
処理が室温で行なわれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ジアルキルエーテルの2個のアルキル基が1〜5個の炭素原子を有するものから独立に選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
過酸化ジアルキルの2個のアルキル基が1〜5個の炭素原子を有するものから独立に選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ジアルキルエーテルがメチル−t−ブチルエーテルであり、過酸化ジアルキルが過酸化ジ−t−ブチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
メチル−t−ブチルエーテル及び過酸化ジ−t−ブチルを含む混合物中のメチル−t−ブチルエーテルの濃度を低減する方法であって、
該混合物を室温で約10%から約50%の範囲の酸強度を有する硫酸で処理することを含む方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法によって精製される過酸化ジアルキル。
【請求項14】
請求項12に記載の方法によって精製される過酸化ジ−t−ブチル。
【請求項15】
請求項13に記載の過酸化ジアルキルを含む製品。
【請求項16】
該製品が、飲料水を輸送するために使用される架橋ポリエチレン管である、請求項15に記載の製品。
【請求項17】
請求項14に記載の過酸化ジ−t−ブチルを含む製品。
【請求項18】
該製品が、飲料水を輸送するために使用される架橋ポリエチレン管である、請求項17に記載の製品。

【公表番号】特表2007−500188(P2007−500188A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521859(P2006−521859)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/021824
【国際公開番号】WO2005/012240
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(505365356)ケムチュア コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】