説明

過酸化水素の製造法

【課題】 本発明は、化学工業における酸化工程での酸化剤として、織物および製紙工業における漂白剤として、および環境分野で殺菌剤として、広く用いられている極めて有用な化合物である過酸化水素をアルコールと分子状酸素との酸化反応を用いても、安全性に優れ、効率よく製造する方法を提供するものである。
【解決手段】 アルコールと分子状酸素との酸化反応により過酸化水素を製造するに際し、パラジウム化合物、含窒素芳香族化合物及びカルボン酸アミドからなるパラジウム錯体触媒を用いることを特徴とする過酸化水素の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な過酸化水素の製造法に関するものであり、さらに詳細には、アルコールと分子状酸素との酸化反応により、安全かつ生産効率よく過酸化水素を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、工業的な過酸化水素の製造方法として、アントラキノン誘導体を媒体とするアントラキノン法が知られている。該方法は、分子状酸素によるアントラキノン誘導体の自動酸化工程と、分子状水素を用いた還元工程からなる、酸化還元サイクルにより過酸化水素を製造する方法である。しかし、該方法は、高価な化合物であるアントラキノン誘導体の劣化による損失を避けられない、還元用触媒が劣化する、等の製造コストに関する課題を有する。
【0003】
該課題を解決する方法として、アントラキノン誘導体を用いず、分子状酸素と分子状水素から直接過酸化水素を製造する直接法が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2、非特許文献1等参照。)。しかし、直接法では、高圧の酸素、水素混合ガスを用いることが必要であり、安全性の課題の他、副反応による原料の損失、爆発範囲を避ける為に水素ガス濃度を上げることができない、等の生産性に課題を有しており、未だ工業化には到っていないのが現状である。
【0004】
さらに、安全性、生産性の課題を解決する方法として、下記一般式(1)に示される、第二級アルコールと分子状酸素との酸化反応により過酸化水素を製造する方法が提案されている(例えば特許文献3、特許文献4、非特許文献2等参照。)。
【0005】
【化1】

【0006】
該方法においては、副生するケトンを回収し分子状水素により還元することで、原料の第二級アルコールへ戻すことができる。そして、酸化/還元される第二級アルコールは、アントラキノン誘導体に比べて安価かつ入手が容易な化合物であり、アントラキノン法に比べて過酸化水素の製造コストを抑えることが期待される上に、分子状酸素と分子状水素は、別々の反応器で使用するため、酸素ガス濃度及び水素ガス濃度を上げても爆発範囲を避けることができ、直接法と比較しても高い安全性と生産性が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平01−023401号公報(特許請求の範囲参照)
【特許文献2】特開平07−017702号公報(特許請求の範囲参照)
【特許文献3】米国特許第2871103号公報(特許請求の範囲参照)
【特許文献4】ヨーロッパ特許第853064号公報(特許請求の範囲参照)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Applied Catalysis A:General,2008年,350巻,133〜149頁。
【0009】
【非特許文献2】Journal of Organic Chemistry,1999年,64巻,6750〜6755頁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に提案の方法においては、分子状酸素による第二級アルコールの酸化が自動酸化であり、十分な反応性を得る為には、反応温度を120〜200℃という高温とすることが必要となることから、過酸化水素の分解、大きなエネルギー原単位等の課題があった。
【0011】
非特許文献2に提案の方法においては、酢酸パラジウムとピリジンからなる錯体を触媒として用いることにより、反応温度80℃という比較的低い温度で第二級アルコールと分子状酸素との酸化反応が進行することが記載されているが、該方法においては、反応中にパラジウム錯体触媒が還元、析出してしまい、反応活性が低下するという課題があった。
【0012】
さらに、特許文献4に提案の方法においては、パラジウム錯体触媒を構成する配位子として、二座配位子を用いることによりパラジウム錯体触媒の還元、析出を防止する方法が提案されているが、該方法においては、パラジウム錯体触媒の回転数を高めるためにはパーフルオロオクタン酸等の強酸の添加を行うことが必要となり、該強酸の使用のために耐腐食性の素材の反応容器等を用いる必要があり、設備費が高額となるという課題がある。
【0013】
そこで。本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、アルコールと分子状酸素との酸化反応により過酸化水素を製造するに際し、安全性、生産性に優れる新規な過酸化水素の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のパラジウム錯体触媒を用いる新規な過酸化水素の製造法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、アルコールと分子状酸素との酸化反応により過酸化水素を製造するに際し、パラジウム化合物、含窒素芳香族化合物及びカルボン酸アミドからなるパラジウム錯体触媒を用いることを特徴とする過酸化水素の製造法に関するものである。
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の過酸化水素の製造法は、パラジウム化合物、含窒素芳香族化合物及びカルボン酸アミドからなるパラジウム錯体触媒を用い、アルコールと分子状酸素との酸化反応により過酸化水素を製造するものである。
【0018】
本発明で用いられるパラジウム錯体触媒は、パラジウム化合物、含窒素芳香族化合物及びカルボン酸アミドからなるものである。
【0019】
ここで、パラジウム化合物としては、パラジウム化合物の範疇に属するものであれば如何なるものも用いることができ、例えば塩化パラジウム、臭化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム等の無機パラジウム化合物;酢酸パラジウム、テトラアンミンジクロロパラジウム、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム等の有機パラジウム化合物、等を挙げることができ、これらパラジウム化合物は、単独又は二種以上の混合物として用いてもよい。そして、特に溶媒への溶解性に優れ、過酸化水素製造時の反応性に優れるパラジウム錯体触媒が得られることから、有機パラジウム化合物であることが好ましく、さらに酢酸パラジウムであることが好ましい。
【0020】
含窒素芳香族化合物は、パラジウム錯体触媒において配位子として機能するものであり、パラジウム錯体触媒が該含窒素芳香族化合物を用いないものである場合、過酸化水素の生産性に劣る製造法となる。そして、該含窒素芳香族化合物としては、含窒素芳香族化合物に属する限りにおいて如何なる制限を受けるものではなく、例えばピリジン、2−メチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、3−フェニルピリジン、キノリン、4−メチルキノリン、イソキノリン、1−メチルイソキノリン等の単座の含窒素芳香族化合物;2,2’−ビピリジン、2,2’−ビキノリン、2,2’−ビ−4−レピジン、1,10−フェナントロリン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンビススルホン酸ナトリウム等の二座の含窒素芳香族化合物;2,2’:6’,2’’−ターピリジン等の三座の含窒素芳香族化合物、等が挙げられ、これら含窒素芳香族化合物は、単独又は二種以上の混合物として用いてもよい。そして、特に触媒活性に優れるパラジウム錯体触媒となることから、二座及び/又は三座の含窒素芳香族化合物が好ましく、さらに2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンであることが好ましい。なお、単座の含窒素芳香族化合物とは、分子内に配位性の原子を一つ有する含窒素芳香族化合物であり、二座の含窒素芳香族化合物とは、分子内に配位性の原子を二つ有する含窒素芳香族化合物であり、三座の含窒素芳香族化合物とは、分子内に配位性の原子を三つ有する含窒素芳香族化合物である。
【0021】
カルボン酸アミドとしては、カルボン酸アミドの範疇に属するものであれば如何なる制限を受けるものではなく、その中でも触媒活性に優れるパラジウム錯体触媒となることから下記一般式(2)で表されるカルボン酸アミドであることが好ましく、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジプロピルアセトアミド、N,N−ジブチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N,2−トリメチルプロピオンアミド、N,N−ジエチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、等が挙げられ、これらカルボン酸アミドは、単独又は二種以上の混合物として用いてもよい。そして、特に触媒活性の高いパラジウム錯体触媒となることからN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジブチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミドが好ましく、さらにN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドであることが好ましい。ここで、パラジウム錯体触媒が、該カルボン酸アミドを用いないものである場合、過酸化水素の生産性に劣る製造法となる。
【0022】
【化2】

(2)
(ここで、R〜Rは、同一又は異なっていてもよい、炭素数1〜4のアルキル基を表す。なお、R〜Rのうち、任意の二以上のものは互いに結合し環を形成していてもよい。)
本発明に用いられるパラジウム錯体触媒を調整する際の該パラジウム化合物、該含窒素芳香族化合物、該カルボン酸アミドの割合は、過酸化水素の製造が可能である限り如何なる制限を受けるものでなく、その中でも効率的な過酸化水素の製造が可能となることから、該パラジウム化合物1モルに対し、該窒素芳香族化合物1〜40モル、該カルボン酸アミド100〜100000モルであることが好ましく、特に該パラジウム化合物1モルに対し、該窒素芳香族化合物1〜6モル、該カルボン酸アミド100〜10000モルであることが好ましい。なお、該窒素芳香族化合物に関しては、単座の含窒素芳香族化合物である場合、パラジウム化合物1モルに対し、該単座の含窒素芳香族化合物2〜40モルであることが好ましく、特に2〜6モルであることが好ましい。また、二座又は三座の含窒素芳香族化合物である場合、パラジウム化合物1モルに対し、該二座又は三座の含窒素芳香族化合物1〜20モルであることが好ましく、特に1〜3モルであることが好ましい。
【0023】
また、本発明で用いられるパラジウム錯体触媒は、いかなる方法で調製されても差し支えなく、例えば溶媒の存在下、該パラジウム化合物、該含窒素芳香族化合物及び該カルボン酸アミドを混合することによって調製することができる。その際の溶媒としては、アルコール類以外の溶媒であることが好ましく、例えば、上記のカルボン酸アミドを溶媒として用いることも可能である。また、例えばクロロホルム、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のカルボン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオンニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;水、等を挙げることができ、これらの溶媒は、単独又は二種以上の混合物として用いることができる。
【0024】
また、該パラジウム錯体触媒を調製する際の温度としては、特に制限されず、例えば−20〜80℃をあげることができ、特に煩雑な操作を伴わないことから室温またはその付近であることが好ましい。その際の圧力としては、特に制限されず、操作が容易で、特に煩雑な操作を伴わないことから大気圧またはその付近であることが好ましい。さらに雰囲気としては、例えば大気;窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、等のいずれの雰囲気下であってもよい。
【0025】
本発明の過酸化水素の製造法におけるパラジウム錯体触媒の使用量としては、過酸化水素の製造が可能である限りにおいて如何なる量で用いてもよく、その中でも特に過酸化水素の製造が効率よく進行することから、反応液の全液量に対し、パラジウム錯体触媒中のパラジウムがモル濃度で0.01〜100mmol/l、さらに0.1〜50mmol/lであることが好ましい。
【0026】
本発明の過酸化水素の製造法に用いられるアルコールとしては、特に制限はなく、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−トリデカノール、1−ペンタデカノール等の第一級アルコール;2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−ヘプタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−オクタノール、2−ノナノール、3−ノナノール、4−ノナノール、5−ノナノール、2−デカノール、3−デカノール、4−デカノール、5−デカノール、2−トリデカノール、3−トリデカノール、4−トリデカノール、5−トリデカノール、6−トリデカノール、7−トリデカノール、2−ペンタデカノール、3−ペンタデカノール、4−ペンタデカノール、5−ペンタデカノール、6−ペンタデカノール、7−ペンタデカノール、8−ペンタデカノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロノナノール、シクロデカノール、ジシクロヘキサノール、1−フェニルエタノール、1−フェニルプロパノール、1−フェニルブタノール、1−フェニルペンタノール、1−フェニルヘキサノール、1−フェニルヘプタノール、1−フェニルオクタノール、1−フェニルノナノール、1−フェニルデカノール等の第二級アルコール、等をあげることができ、これらアルコールを単独又は二種以上の混合物として用いることができる。そして、この中でも、特に効率良く過酸化水素を製造する方法となることから、第二級アルコールであることが好ましく、さらに2−プロパノール、2−ブタノール、3−ペンタノールであることが好ましい。
【0027】
本発明の過酸化水素の製造法に用いられる分子状酸素としては、通常の分子状の酸素として知られているものでよく、該分子状酸素の酸素源としては、純酸素は無論のこと、空気、不活性ガス等により希釈された酸素であってもよい。該分子状酸素の供給量としては、反応方法や反応条件により適宜選択することが可能であり、その中でも。生産性及び分子状酸素の転化率の向上した製造法となることから、分子状酸素分圧が0.02〜10MPaであることが好ましく、さらに0.1〜1.5MPaであることが好ましい。
【0028】
本発明の過酸化水素の製造法を液相にて行う際の溶媒としては、制限はなく、上記のアルコール又は上記のカルボン酸アミドを溶媒として用いることも可能である。さらに、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のカルボン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオンニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;水、等を溶媒として用いることも可能である。そして、その中でも、生産性に優れた製造法となることから、上記のアルコール又は上記のカルボン酸アミドであることが好ましい。
【0029】
本発明の過酸化水素の製造法を行う際の反応温度に制限はなく、その中でも、生成する過酸化水素が分解することなく過酸化水素を安定に製造することが可能となることから、20〜100℃であることが好ましく、特に40〜90℃であることが好ましい。また、製造の際の反応圧力は、反応方法や反応条件により適宜選択することが可能であり、例えば0.1〜15MPaであり、製造の容易さから0.1〜1.5MPaであることが好ましい。
【0030】
本発明の過酸化水素の製造法においては、パラジウム錯体触媒の存在下、アルコールと分子状酸素との酸化反応が可能であれば如何なる反応方法を用いることも可能であり、例えば、アルコール、分子状酸素およびパラジウム錯体触媒を一度に反応装置に仕込む回分式;パラジウム錯体触媒の存在する反応装置にアルコール及び分子状酸素を連続的に供給する半回分式;パラジウム錯体触媒の存在する反応装置にアルコール及び酸素を連続的に供給するとともに、未反応ガス及び反応液を連続的に抜き出す固定床又は懸濁床の連続式、等のいずれの方法を用いてもよい。
【0031】
本発明の過酸化水素の製造法においては、アルコール由来のカルボニル化合物が副生物として発生するが、該カルボニル化合物は、水素化することにより容易に原料であるアルコールに戻し、再生利用することができる。従って、実質的にアルコール由来の副生成物は発生しない。
【0032】
本発明の過酸化水素の製造法においては、生成した過酸化水素を反応混合物から純水抽出する工程、蒸留回収する工程等の分離・回収工程等の付随工程を設けることも可能である。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、アルコールと分子状酸素との酸化反応により過酸化水素を製造するに際し、パラジウム化合物、含窒素芳香族化合物及びカルボン酸アミドからなるパラジウム錯体触媒を用いることにより、パラジウム錯体触媒の安定性が高く、しかも、強酸を用いずに高い反応性を達成することで、安全性、、経済性に優れる過酸化水素の製造法を提供するものである。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0035】
(反応評価)
反応評価は、200mlのステンレス製オートクレーブ(耐圧硝子工業社製、(商品名)TPR−1型)を用いて行った。反応液中の有機化合物の分析は、ガスクロマトグラフィにより行い、過酸化水素の定量は酸化還元滴定により行った。ガスクロマトグラフ(島津製作所製、(商品名)GC−14A)は、キャピラリーカラム(GLサイエンス社製、(商品名)TC−FFAP、60m×0.25mm(内径)、膜厚0.25μm)を使用し、水素炎イオン化検出器(FID)を用い反応生成物を定量した。
【0036】
過酸化水素の酸化還元滴定は、以下の手順でおこなった。
【0037】
反応液約1gを秤取し、酢酸(和光純薬、特級)15ml、クロロホルム(和光純薬、特級)5ml、飽和ヨウ化カリウム(和光純薬)水溶液1mlを加え攪拌して冷暗所で10分間静置した後、純水50ml、飽和でんぷん水溶液1mlを加えたものを0.01mol/lチオ硫酸ナトリウム水溶液(和光純薬、滴定用)を用いて滴定した。
【0038】
実施例1
パラジウム化合物として酢酸パラジウム(II)(和光純薬)11.2mg、含窒素芳香族化合物として2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(東京化成)36.0mg(パラジウム1モルに対し、2モルに相当。)、カルボン酸アミドとしてN,N−ジエチルアセトアミド(東京化成)5.0ml(パラジウム1モルに対し、790モルに相当。)を混合し、一晩攪拌して、パラジウム錯体触媒を調製した。
【0039】
得られたパラジウム錯体触媒を、200mlのオートクレーブに入れ、さらに2−プロパノール(和光純薬、特級)80ml(61g)を入れた。次に、オートクレーブを窒素で置換した後、酸素0.4MPa、窒素0.2MPaを加え、反応温度80℃で90分間撹拌し、反応を行い、過酸化水素の製造を行った。
【0040】
反応結果を表1に示す。生成量、生成効率はともに高く過酸化水素生産性に優れるものであった。
【0041】
実施例2
N,N−ジエチルアセトアミド5.0ml(パラジウム1モルに対し、790モルに相当。)の代わりに、N,N−ジメチルアセトアミド(東京化成)5.0ml(パラジウム1モルに対し、1100モルに相当。)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により過酸化水素の製造を行った。
【0042】
反応結果を表1に示す。生成量、生成効率はともに高く過酸化水素生産性に優れるものであった。
【0043】
比較例1
N,N−ジエチルアセトアミド5.0mlの代わりに、クロロベンゼン(和光純薬、特級)5.0mlを用いた以外は、実施例1と同様の方法により過酸化水素の製造を行った。
【0044】
反応結果を表1に示す。過酸化水素の生成効率は低いものであった。
【0045】
比較例2
2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンを加えなかったこと以外は、実施例1と同様と同様の方法により過酸化水素の製造を行った。
【0046】
反応結果を表1に示す。過酸化水素の生成量、生成効率はともに非常に低いものであった。
【0047】
実施例3
N,N−ジエチルアセトアミド5.0ml(パラジウム1モルに対し、790モルに相当。)の代わりに、N,N−ジメチルプロピオンアミド(東京化成)5.0ml(パラジウム1モルに対し、920モルに相当。)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により過酸化水素の製造を行った。
【0048】
反応結果を表1に示す。生成量、生成効率はともに高く過酸化水素生産性に優れるものであった。
【0049】
実施例4
N,N−ジエチルアセトアミド5.0ml(パラジウム1モルに対し、790モルに相当。)の代わりに、N,N−ジブチルアセトアミド(アルファ・ランカスター)5.0ml(パラジウム1モルに対し、510モルに相当。)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により過酸化水素の製造を行った。
【0050】
反応結果を表1に示す。生成量、生成効率はともに高く過酸化水素生産性に優れるものであった。
【0051】
実施例5
酢酸パラジウム(II)11.2mg、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン36.0mg(パラジウム1モルに対し、2モルに相当。)、クロロベンゼン5.0mlを混合し、一晩攪拌して、パラジウム錯体を調製した。このパラジウム錯体を、200mlのオートクレーブに入れ、さらに2−プロパノール80ml(61g)、N,N−ジメチルアセトアミド500μl(パラジウム1モルに対し、110モルに相当。)を入れ、パラジウム錯体触媒を調整した。
【0052】
次に、オートクレーブを窒素で置換した後、酸素0.4MPa、窒素0.2MPaを加え、反応温度80℃で90分間撹拌し、反応を行い、過酸化水素の製造を行った。
【0053】
反応結果を表1に示す。生成量、生成効率はともに高く過酸化水素生産性に優れるものであった。
【0054】
実施例6
酢酸パラジウム(II)11.2mg、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン36.0mg(パラジウム1モルに対し、2モルに相当。)、N,N−ジメチルアセトアミド5.0ml(パラジウム1モルに対し、1100モルに相当。)を混合し、一晩攪拌して、パラジウム錯体触媒を調製した。このパラジウム錯体触媒を、200mlのオートクレーブに入れ、さらに2−プロパノール40ml(30g)、N,N−ジメチルアセトアミド40ml(パラジウム1モルに対し、8600モルに相当。)を入れた。
【0055】
次に、オートクレーブを窒素で置換した後、酸素0.4MPa、窒素0.2MPaを加え、反応温度80℃で90分間撹拌し、反応を行い、過酸化水素の製造を行った。
【0056】
反応結果を表1に示す。生成量、生成効率はともに高く過酸化水素生産性に優れるものであった。
【0057】
実施例7
N,N−ジメチルアセトアミド45.0ml(パラジウム1モルに対し、9700モルに相当。)の代わりに、N−メチルピロリドン45.0ml(和光純薬、特級)(パラジウム1モルに対し、9400モルに相当。)を用いた以外は、実施例6と同様の方法により過酸化水素の製造を行った。
【0058】
反応結果を表1に示す。生成量、生成効率はともに高く過酸化水素生産性に優れるものであった。
【0059】
実施例8
2−プロパノール80mlの代わりに、3−ペンタノール(関東化学)80mlを用いたい以外は、実施例1と同様の方法により過酸化水素の製造を行った。
【0060】
反応結果を表1に示す。生成量、生成効率はともに高く過酸化水素生産性に優れるものであった。
【0061】
実施例9
2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン36.0mg(パラジウム1モルに対し、2モルに相当。)の代わりに、ピリジン(和光純薬、特級)15.8mg(パラジウム1モルに対し、4モルに相当。)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により過酸化水素の製造を行った。
【0062】
反応結果を表1に示す。生成量、生成効率はともに高く過酸化水素生産性に優れるものであった。
【0063】
実施例10
2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン36.0mg(パラジウム1モルに対し、2モルに相当。)の代わりに、2,2’:6’,2’’−ターピリジン(アルドリッチ)23.3mg(パラジウム1モルに対し、2モルに相当。)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により過酸化水素の製造を行った。
【0064】
反応結果を表1に示す。生成量、生成効率はともに高く過酸化水素生産性に優れるものであった。
【0065】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、化学工業における酸化工程での酸化剤として、織物および製紙工業における漂白剤として、および環境分野で殺菌剤として、広く用いられている極めて有用な化合物である過酸化水素を安全性に優れ、効率よく製造するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールと分子状酸素との酸化反応により過酸化水素を製造するに際し、パラジウム化合物、含窒素芳香族化合物及びカルボン酸アミドからなるパラジウム錯体触媒を用いることを特徴とする過酸化水素の製造法。
【請求項2】
パラジウム錯体触媒が、パラジウム化合物1モルに対し、含窒素芳香族化合物1〜40モル及びカルボン酸アミド100〜100000モルからなるパラジウム錯体触媒であることを特徴とする請求項1に記載の過酸化水素の製造法。
【請求項3】
カルボン酸アミドが、下記一般式(1)で示されるカルボン酸アミドであることを特徴とする請求項1又は2に記載の過酸化水素の製造法。
【化1】

(1)
(ここで、R〜Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、炭素数1〜4のアルキル基を表す。なお、R〜Rのうち、任意の二以上のものは互いに結合し環を形成していてもよい。)
【請求項4】
パラジウム化合物が酢酸パラジウムであり、含窒素芳香族化合物が2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、ピリジン又は2,2’:6’,2’’−ターピリジンであり、カルボン酸アミドがN,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジブチルアセトアミド又はN−メチルピロリドンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の過酸化水素の製造法。
【請求項5】
アルコールが、第二級アルコールであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の過酸化水素の製造法。
【請求項6】
パラジウム濃度0.1〜50mmol/lで酸化反応を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の過酸化水素の製造法。
【請求項7】
パラジウム化合物、含窒素芳香族化合物及びカルボン酸アミドからなることを特徴とする過酸化水素製造用パラジウム錯体触媒。
【請求項8】
パラジウム化合物1モルに対し、含窒素芳香族化合物1〜40モル及びカルボン酸アミド100〜100000モルからなることを特徴とする請求項7に記載の過酸化水素製造用パラジウム錯体触媒。
【請求項9】
カルボン酸アミドが、下記一般式(2)で示されるカルボン酸アミドであることを特徴とする請求項7又は8に記載の過酸化水素製造用パラジウム錯体触媒。
【化2】

(2)
(ここで、R〜Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、炭素数1〜4のアルキル基を表す。なお、R〜Rのうち、任意の二以上のものは互いに結合し環を形成していてもよい。)
【請求項10】
パラジウム化合物が酢酸パラジウムであり、含窒素芳香族化合物が2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、ピリジン又は2,2’:6’,2’’−ターピリジンであり、カルボン酸アミドがN,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジブチルアセトアミド又はN−メチルピロリドンであることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の過酸化水素製造用パラジウム錯体触媒。

【公開番号】特開2012−66978(P2012−66978A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214836(P2010−214836)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】