説明

過酸化物含有水の処理方法及び処理装置

【課題】過酸化物分解材を充填してなる第1反応槽内を、被処理水が上向きに流通した後、過酸化物分解材を充填してなる第2反応槽内を下向きに流通する処理装置において、第1反応槽内で発生した気泡を効果的に系外に逃がすことができるようにする。
【解決手段】第1反応槽の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部とすることにより、第1反応槽内で発生した気泡を効果的に系外に逃がすことができるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化物を含有する水(以下、「過酸化物含有水」とも称する)の処理方法並びに処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素に代表される過酸化物は、洗浄効果、殺菌効果などに優れるばかりか、無害な酸素と水に分解する環境負荷の低い薬品であるため、例えば紙パルプや繊維の漂白剤、化学工業における酸化剤、半導体製造工場での洗浄剤、食品工場での殺菌剤など広く利用されている。
例えば、半導体を製造する工場においては、シリコンウェハーの研磨やエッチング処理に過酸化水素を含む処理液が使用されている。食品工場等においては、テトラパックやPET容器等に各種飲料を無菌充填する際に、過酸化水素やその他過酸化物を含有する水を殺菌剤として用いて容器やキャップの殺菌が行われている。
【0003】
このような過酸化物は、それ自体がCOD源となるため、使用後の過酸化物含有水は直接公共用水域に排出することができず、また、排水処理設備へ排出する場合も活性汚泥等の生物処理性能に影響を与えるため、排出する際には過酸化物の分解処理が必要とされている。
【0004】
過酸化物含有水の分解処理方法としては、1)ヒドラジンや重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を添加する方法、2)活性炭に接触させる方法、3)カタラーゼなどの酵素に接触させる方法、4)白金、パラジウム、マンガン等の金属触媒を利用して分解する方法、5)光触媒を利用して分解する方法などが知られている。
【0005】
具体的には、過酸化物含有水を活性炭に接触させる方法に関して、例えば特許文献1(特開昭63−39695号公報)には、過酸化水素含有水に鉄塩を添加し、pH2〜3.5に調整して活性炭と接触させる処理方法が提案されている。
特許文献2(実公平2−43515号公報)には、pH10以上に調整した過酸化水素を含む水溶液を固定粒状活性炭充填層の上面に直接散布して、活性炭層によって接触分解する過酸化水素の除去装置が開示されている。
特許文献3(実用新案登録第2560167号公報)には、処理水槽に貯留された過酸化水素を含んだ廃液が循環管路系を通って粒状活性炭フィルターへ循環・通水して過酸化水素を分解処理する過酸化水素水の分解装置が開示されている。
【0006】
特許文献4(特開平8−39078号公報)には、アルカリ性化合物を活性炭塔に通水した後、過酸化水素含有廃水を通水することで、過酸化水素を効率的に分解する方法が開示されている。
特許文献5(特開2000−135492号公報)には、原水を循環水で希釈・混合してから流動床式活性炭塔に供給するとともに、その流動床式活性炭塔内の上向流速度を40m/h以上、過酸化水素負荷を50kgH22/m3活性炭・h以下にする方法が開示されている。
【0007】
過酸化水素酵素に接触させる方法に関しては、例えば特許文献6(特開平6−170355号公報)において、過酸化水素を含む半導体製造排水をpH8〜11にpH調整した後、カタラーゼと接触させて過酸化水素を分解する過酸化水素を含む半導体製造排水の処理方法が開示されている。
【0008】
金属触媒を利用して分解する方法に関しては、例えば特許文献7(特開平11−290870号公報)には、触媒成分としてマンガン化合物を活性成分とする過酸化水素分解触媒を用い、この過酸化水素分解触媒を充填した過酸化水素分解塔に、廃水を通すことにより、過酸化水素濃度の低下した一次処理水を得、続いて、活性炭を充填した塔に上記一次処理水を通して過酸化水素を更に低下させた二次処理水を得、次いでこの二次処理水をアンモニア濃縮精製塔に通水してアンモニアを濃縮回収するという処理方法が開示されている。
特許文献8(特開2010−240557号公報)には、被処理水を過酸化水素分解触媒と接触させて、該被処理水中の過酸化水素を酸素と水とに分解して処理水を得る過酸化水素水処理装置において、該被処理水の導入口と処理水の排出口を有し、内部に過酸化水素分解触媒が充填された過酸化水素分解反応器と、該過酸化水素分解反応器の流出水が導入される気液分離器とを有し、該気液分離器は、上部に排気配管が接続され、下部に排水配管が接続された筒状容器よりなり、該筒状容器の側部に、前記流出水が導入されることを特徴とする過酸化水素水処理装置が開示されている。
【0009】
光触媒を利用する方法に関しては、例えば特許文献9(特開平10−151451号)には、過酸化水素含有廃水に酸化チタン(TiO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO2)、酸化カドミウム(CdS)及び酸化亜鉛(ZnO)といった光触媒を添加し、紫外線を照射することにより過酸化水素を分解する方法が開示されている。
【0010】
ところで、上記の如く過酸化物が分解されると、この分解反応に伴って酸素ガスが発生することになるが、この酸素ガスの気泡が系内に留まっていると、触媒などと過酸化水素との接触を阻害して分解効率を低下させることになるため、分解時に生じた酸素ガスの気泡を系外に逃がすことが必要であった。
【0011】
そこで従来、上記課題を解決する方法として、例えば特許文献10(特公平1−203094号公報)では、通水方式として上向流を用い、かつ活性炭層を流動させることにより、活性炭層での酸素ガスの溜りを防止する方法が提案されている。
また、特許文献11(特公平6−61541号公報)には、原水pHを10以上に調整した上で、活性炭触媒の上部から下向流で通液することにより、触媒上部でほとんどの過酸化水素が分解されるため、結果として触媒内部でのガス発生を抑制できる旨が記載されている。
【0012】
特許文献12(特開2003−190972号公報)には、過酸化水素の分解よって発生した酸素ガスの気泡が触媒と過酸化水素との接触を阻害するのを防止する方法として、過酸化水素含有排水を上向流にて処理する反応塔において、反応塔内で触媒を上下方向に複数層に分割して配置するとともに、酸素ガスの排出管を反応塔内に設置することにより、下方の触媒層で発生した酸素ガスの気泡を上方の触媒層に接触させることなく反応塔外に排出する方法が開示されている。
特許文献13(特開2006−000827号公報)には、過酸化水素含有排水と触媒とを接触させて排水中の過酸化水素を分解する際に、触媒として均一粒径の球状活性炭を使用することにより、触媒層での酸素ガスの溜りを防止する方法が開示されている。
さらにまた、特許文献14(特開2007−185587号公報)では、過酸化水素分解触媒を充填したカラムに過酸化水素含有水を好ましくは下向流通水した後、カラム流出水を直接膜脱気装置等の溶存酸素除去装置に通水して過酸化水素の分解で生成した酸素を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭63−39695号公報
【特許文献2】実公平2−43515号公報
【特許文献3】実用新案登録第2560167号公報
【特許文献4】特開平8−39078号公報
【特許文献5】特開2000−135492号公報
【特許文献6】特開平6−170355号公報
【特許文献7】特開平11−290870号公報
【特許文献8】特開2010−240557号公報
【特許文献9】特開平10−151451号
【特許文献10】特公平1−203094号公報
【特許文献11】特公平6−61541号公報
【特許文献12】特開2003−190972号公報
【特許文献13】特開2006−000827号公報
【特許文献14】特開2007−185587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者は、例えば図7に示すように、過酸化物分解材51が内部に充填された第1反応槽52と、過酸化物分解材51が内部に充填された第2反応槽53と、第1反応槽52及び第2反応槽53の上端開口部を連通する連通開放部54とを備えた処理装置50を想到すると共に、第1反応槽52の底部から上部に向かって過酸化物含有水(被処理水)を上向きに流通させた後、連通開放部54を介して第2反応槽53の上端開口部から底部に向かって被処理水を下向きに流通させることによって、過酸化物を分解する方法を想到した。
【0015】
このような過酸化物含有水の処理方法によれば、第1反応槽52内において過酸化水素の分解によって発生した酸素の気泡は、上向き流によって第1反応槽52の上端開口部まで上昇し、連通開放部54内において当該気泡の大部分を系外に逃がすことができると予想していた。
ところが、実際に上記のような処理装置を試作して処理を実施してみたところ、第1反応槽52内で発生した酸素の気泡は、上向き流によって展開された過酸化物分解材と共に第2反応槽53に溢流し、第2反応槽の内部に気泡が入り込み、思ったほど分解効率を高めることができないことが判明した。
【0016】
そこで本発明は、過酸化物分解材を充填してなる第1反応槽内を、被処理水が上向きに流通した後、過酸化物分解材を充填してなる第2反応槽内を下向きに流通する過酸化物含有水の処理方法及び処理装置において、上向き通水反応槽である第1反応槽内で発生した気泡を効果的に系外に逃がして、下向き通水反応槽である第2反応槽に流通させないようにして、過酸化物の分解効率をより一層高めることができる、新たな過酸化物含有水の処理方法及び装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、過酸化物分解材が内部に充填され、被処理水としての過酸化物含有水が上向きに流通する第1反応槽と、過酸化物分解材が内部に充填され、過酸化物含有水が下向きに流通する第2反応槽と、第1反応槽及び第2反応槽の上部を連通する連通開放部とを備え、第1反応槽内を上向きに流通した過酸化物含有水は連通開放部を介して第2反応槽内に流入する構成を備えた過酸化物含有水の処理装置において、
第1反応槽の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部としてなる構成を備えた過酸化物含有水の処理装置を提案する。
【0018】
本発明はまた、過酸化物分解材が内部に充填された第1反応槽内に、被処理水としての過酸化物含有水を上向きに通水し、第1反応槽の上端部から流出した過酸化物含有水を、連通開放部を介して、過酸化物分解材が内部に充填された第2反応槽内に流入させ、該第2反応槽では、過酸化物含有水を下向きに通水することによって、過酸化物含有水中の過酸化物を分解する過酸化物含有水の処理方法であって、
第1反応槽の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部とすることを特徴とする過酸化物含有水の処理方法を提案する。
【発明の効果】
【0019】
このような過酸化物含有水の処理装置及び処理方法によれば、第1反応槽内では、上向き流によって過酸化物分解材が展開および流動した状態となるため、過酸化物の分解によって発生する酸素の気泡が効果的に上部に排出され、過酸化物分解材と被処理水との接触を促進し、過酸化物を効率良く分解させることができる。第1反応槽通水後の被処理水中の過酸化物濃度は非常に低くなるため、第2反応槽内での気泡の発生量は、第1反応槽と比べて明らかに少なくなる。そのため、第2反応槽内は以下の理由により下向き流とするのが良い。
下向き流によって過酸化物分解材は緻密に充填されるため、緻密に充填された過酸化物分解材からなる固定床と被処理水とが密に接触することになり、第1反応槽内で分解されなかった僅かに残留する過酸化物をより完全に分解させることができる。
このように過酸化物の分解効率を高めることができるため、より高濃度の過酸化物を含む廃水の処理が可能となると共に、使用する過酸化物分解材の使用量を減らすことができる。
【0020】
さらに、第1反応槽の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部とすることにより、該開拡開口部内に流入した被処理水の上向きの流速は低下するため、上向き流によって一部浮上する過酸化水素分解材は開拡開口部内で沈降するようになる一方、第1反応槽内で発生した酸素の気泡は、上向き流に伴って浮上し、開拡開口部内では水の流れが上方に向かって広がるため、水面から系外に逃げ易くなり、第1反応槽内で発生した酸素の気泡を系外に効果的に排出することができる。これにより、上向き通水反応槽である第1反応槽内で発生した酸素の気泡を第2反応槽に流入させないようにすることができるため、下向き通水反応槽である第2反応槽内での過酸化物の分解効率をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る過酸化物含有水の処理装置の一例を概略的に示した断面図である。
【図2】図1に示した処理装置を用いて過酸化物含有水の処理を実施した際の一例を概略的に示した断面図である。
【図3】同じく図1に示した処理装置を用いて過酸化物含有水の処理を実施した際の一例として、図2とは通水方向を切り替えた場合の一例を概略的に示した断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る過酸化物含有水の処理装置の一例を概略的に示した斜視図である。
【図5】図4に示した処理装置を用いて過酸化物含有水の処理を実施した際の一例を概略的に示した断面図である。
【図6】同じく図4に示した処理装置を用いて過酸化物含有水の処理を実施した際の一例として、図5とは通水方向を切り替えた場合の一例を概略的に示した断面図である。
【図7】本発明を想到する際に基礎となった過酸化物含有水の処理装置、すなわち発明が解決しようとする課題の欄で説明した処理装置の一例を概略的に示した断面図である。
【図8】図1に示した処理装置の変形例において、過酸化物含有水の処理を実施した際の一例を概略的に示した断面図である。
【図9】図8に示した処理装置を用いて過酸化物含有水の処理を実施した際の一例として、図8とは通水方向を切り替えた場合の一例を概略的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明を実施するための形態例について説明するが、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0023】
<第1の実施形態>
第1の実施形態に係る過酸化物含有水の処理装置1は、例えば図1−3に示すように、縦置きした有底の外筒2内に縦方向に仕切板3を立設し、この仕切板3によって外筒2内を第1通水路4と第2通水路5とに区画すると共に、外筒2内部における仕切板3の上方の空間部を、第1通水路4と第2通水路5の上端開口部を連通する連通開放部6とされている。そして、第1通水路4の内部に過酸化物分解材8を充填して第1反応槽10とする一方、第2通水路5の内部に過酸化物分解材8を充填して第2反応槽11とされ、第1反応槽10の底部及び第2反応槽11の底部にそれぞれ管12,13が接続されている。
【0024】
ここで、上記仕切板3は、その上部が、ワイパー状に回動可能な開閉部3Aとして形成されており、例えば図1中に実線で示すように開閉部3Aを斜めに傾斜させることで、第1反応槽10の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部15とすることも可能であるし、逆に、図1中に点線で示すように開閉部3Aを斜めに傾斜させて、第2反応槽10の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部16とすることも可能である。
この際、図8及び図9に示すように、回動可能な開閉部3Aの先端部分をメッシュ状の網板3Bとして形成し、微細な活性炭の流出をより一層抑制できるようにすることもできる。
但し、第1反応槽10の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部15とする方法、並びに、第2反応槽10の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部16とする方法は、このような方法に限定されるものではなく任意である。
【0025】
また、上記連通開放部6は、配管ではなく、非密閉状態の空間部であればよい。すなわち、該空間部に放出されたガスを系外に逃がすことができるように、上方開口されていてもよいし、また、ガス排出管が連通されていてもよい。
【0026】
このような処理装置1においては、被処理水としての過酸化物含有水(「被処理水」と称する)を、管12を通じて第1反応槽10の底部に連続的に供給すると、被処理水は、第1反応槽10内を上向きに流通し、第1反応槽10の上端開口部から流出して連通開放部6内に流入し、次いでこの連通開放部6を介して第2反応槽11内に流入し、第2反応槽11内では、上部から底部に向かって下向きに流通し、その後、管13を通じて処理水として排出することができる。
【0027】
このように処理すれば、第1反応槽10内では、上向き流によって過酸化物分解材が展開および流動した状態となるため、過酸化物分解材と被処理水との接触を促進し、過酸化物を効率良く分解させることができる。
第1反応槽通水後の被処理水中の過酸化物濃度は非常に低くなるため、第2反応槽11内での気泡の発生量は、第1反応槽と比べて明らかに少なくなる。そのため、第2反応槽内は以下の理由により下向き流とするのが良い。下向き流によって過酸化物分解材は緻密に充填されるため、緻密に充填された過酸化物分解材からなる固定床と被処理水とが密に接触するため、第1反応槽10内で分解されなかった僅かに残留する過酸化物をより完全に分解させることができる。
【0028】
ここで、このように第1反応槽10内に上向き流で通水する場合には、上述したように、図1中に実線で示すように開閉部3Aを斜めに傾斜させて、第1反応槽10の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部15とすることが重要である(図2参照)。このようにすれば、第1反応槽10内を上向きに流通してきた被処理水は、開拡開口部15内に流入するとその流速が低下するため、上向き流に伴って浮上した一部の過酸化物分解材はここで沈降するようになる。その一方、第1反応槽10内で発生した酸素の気泡は、上向き流に伴って浮上し、開拡開口部15内では水の流れが上方に向かって広がるようになるため、気泡が水面から一段と逃げ易くなり、第1反応槽10内で発生した酸素の気泡を系外に効果的に排出させることができる。
これにより、第1反応槽10内で発生した酸素の気泡を第2反応槽11に流入させないようにすることができるため、第2反応槽11内での過酸化物の分解効率をより一層高めることができる。
【0029】
なお、第1反応槽10及び第1反応槽11内の過酸化物分解材8の充填量は任意であるが、第1反応槽10内を上向きに被処理水を通水する場合には、第1反応槽10の充填量は、過酸化物分解材8の上面が開拡開口部15の下端部よりも低い位置になるようにするのが好ましい。このようにすることで、第1反応槽10内において開拡開口部15の下方部では、上向き流によって過酸化物分解材が展開して流動する層を形成することができ、その上方の開拡開口部15内では、上向き流によって一部の浮上した過酸化物分解材が沈降する層を形成することができる。このような点は、次に説明するように通水方向を切り替えた場合も同様である。
【0030】
処理装置1は、図3に示すように、第1反応槽10内及び第2反応槽11内での通水方向を切り替えることができる。例えば、被処理水としての過酸化物含有水(「被処理水」と称する)を、管13を通じて第2反応槽11の底部に連続的に供給することで、第2反応槽11内では被処理水が上向きに流通し、連通開放部6を介して第1反応槽10内に流入し、第1反応槽10内を下向きに流通するように切り替えることができる。
但し、このように切り替える場合は、例えば図1中に点線で示すように、第2反応槽11の上端開口部が、上方に向かって広がるように仕切板3を設定し、第2反応槽11の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部16とするのが好ましい。切り替える前と同様に、第2反応槽11内で発生した酸素の気泡を系外に効果的に排出させることができる。
【0031】
第1反応槽10及び第2反応槽11での通水方向を切り替えることにより、被処理水中に存在する殺菌剤由来やその他の残留有機物による生菌及びスライムの発生を防ぐことができる。すなわち、第1反応槽10内の通水方法を上向き流とし、第2反応槽11内の通水方法を下向き流として、第1反応槽10から第2反応槽11へ被処理水を流通させると、第1反応槽10において、被処理水中の多くの過酸化物が分解されるため、第2反応槽11内では、殺菌力を有する過酸化物の濃度が少なくなり、長時間運転を継続するうちに、被処理水に含まれる残留有機物によって生菌やスライムが発生することになる。そこで、通水方向を切り替えて、第2反応槽11内の通水方法を上向き流とし、第1反応槽10内の通水方法を下向き流として、第2反応槽11から第1反応槽10へ被処理水を通水させるようにすれば、第2反応槽11に流入する被処理水は過酸化物濃度が高くなるため、過酸化物の殺菌力により生菌やスライムの発生を防止することができる。
但し、このように第1反応槽10及び第2反応槽11での通水方向を切り替える場合には、第1反応槽10及び第2反応槽11の流量が略同じになるように、それぞれの容量を設計するのが好ましい。
【0032】
なお、いずれの通水方向の場合にも、連通開放部6内において、第1反応槽10及び第2反応槽11の上方に、被処理水の溢流からなる溢流層17をある程度の高さをもって形成できるように、被処理水を流通させるのが好ましい。具体的には、例えば第1反応槽10内を上向きに被処理水を通水する場合には、図2及び図3に示すように、第1反応槽10の上部の開拡開口部15を介して連通開放部6内に流入した溢流によって、ある程度の高さの溢流層17が形成されるようにするのが好ましい。
このように溢流層17を形成すれば、溢流層17では被処理水の流れが乱れて乱流状態となるため、流動撹拌されて気泡の排出をより一層促すことができる。
【0033】
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係る過酸化物含有水の処理装置21は、例えば図4−6に示すように、縦置きした有底の外筒22と、該外筒22よりも上端部の高さが低い有底の内筒23を、該外筒内に同心状に配設し、内筒23内部に過酸化物分解材28を充填して第1反応槽30とする一方、外筒22と内筒23の間にも過酸化物分解材28を充填して第2反応槽31とし、外筒22内における内筒23の上方空間部を、第1反応槽30及び第2反応槽31の上端開口部を連通する連通開放部26とし、第1反応槽30の底部及び第2反応槽の底部にはそれぞれ管32,33が接続されている。
【0034】
また、上方に向かって開拡し、その下端開口部を内筒23の上端開口部に連結し得る上向拡開筒部24と、上方に向かって窄まっており、その下端開口部を内筒23の上端開口部に連結し得る上向窄まり筒部25とを、それぞれ交互に内筒23の上端開口部に連結することができるように構成されており、例えばワイヤなどで昇降可能に吊下してなる上向拡開筒部24を降下させて内筒23の上端開口部に連結すれば、第1反応槽30の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部35とすることができる一方、例えば前記上向拡開筒部24に替えて、ワイヤなどで昇降可能に吊下してなる上向窄まり筒部25を下降させて内筒23の上端開口部に連結すれば、第2反応槽31の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部36とすることができる。
但し、第1反応槽30の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部35とする方法、並びに、第2反応槽31の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部36とする方法は、このような方法に限定されるものではなく任意である。
【0035】
また、上記連通開放部26は、配管ではなく、非密閉状態の空間部であればよい。すなわち、該空間部に放出されたガスを系外に逃がすことができるように、上方開口されていてもよいし、また、ガス排出管が連通されていてもよい。
【0036】
このような処理装置21において、被処理水としての過酸化物含有水(「被処理水」と称する)を、管32を通じて第1反応槽30の底部に連続的に供給すれば、被処理水は、第1反応槽30内を上向きに流通し、第1反応槽30の上端開口部から流出して連通開放部26内に流入し、この連通開放部26を介して第2反応槽31内に流入し、第2反応槽31内では、上部から底部に向かって下向きに流通し、その後、管33を通じて処理水として排出させることができる。
【0037】
このように処理すれば、第1反応槽30内では、上向き流によって過酸化物分解材が展開および流動した状態となるため、過酸化物分解材と被処理水との接触を促進し、過酸化物を効率良く分解させることができる。
第1反応槽通水後の被処理水中の過酸化物濃度は非常に低くなるため、第2反応槽31内での気泡の発生量は、第1反応槽と比べて明らかに少なくなる。そのため、第2反応槽内は以下の理由により下向き流とするのが良い。下向き流によって過酸化物分解材は緻密に充填されるため、緻密に充填された過酸化物分解材からなる固定床と被処理水とが密に接触するため、第1反応槽30内で分解されなかった僅かに残留する過酸化物をより完全に分解させることができる。
【0038】
ここで、第1反応槽30内に上向き流で通水する場合には、例えば図5に示すように、上向拡開筒部24を内筒23の上端開口部に連結することにより、第1反応槽30の上部を開拡開口部35とすることが重要である。このようにすれば、
第1反応槽30内を上向きに流通してきた被処理水は、開拡開口部35内に流入するとその流速が低下するため、上向き流に伴って浮上した一部の過酸化物分解材はここで沈降するようになる。その一方、第1反応槽30内で発生した酸素の気泡は、上向き流に伴って浮上し、開拡開口部35内では水の流れが上方に向かって広がるため、気泡が水面から逃げ易くなり、第1反応槽30内で発生した酸素の気泡を系外に効果的に排出させることができる。
これにより、第1反応槽30内で発生した酸素の気泡を第2反応槽31に流入させないようにすることができるため、第2反応槽31内での過酸化物の分解効率をより一層高めることができる。
【0039】
なお、第1反応槽30及び第1反応槽31内の過酸化物分解材28の充填量は任意であるが、第1反応槽30内を上向きに被処理水を通水する場合には、第1反応槽30の充填量は、過酸化物分解材28の上面が開拡開口部35の下端部よりも低い位置になるようにするのが好ましい。このようにすることで、第1反応槽30内において開拡開口部35の下方部では、上向き流によって過酸化物分解材が浮遊して流動する層を形成することができ、その上方の開拡開口部35内では、上向き流によって浮上した過酸化物分解材が沈降する層を形成することができる。
このような点は、次に説明するように通水方向を切り替えても同様である。
【0040】
処理装置21は、第1反応槽30内及び第2反応槽31内での通水方向を切り替えることができる。例えば、図6に示すように、被処理水としての過酸化物含有水(「被処理水」と称する)を、管33を通じて第2反応槽21の底部に連続的に供給することで、第2反応槽31内では被処理水が上向きに流通し、連通開放部26を介して第1反応槽30内に流入し、第1反応槽30内を下向きに流通するようにさせることができる。
但し、この場合は、上向窄まり筒部25を内筒23の上端開口部に連結することにより、第2反応槽31の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部36とするのが好ましい。このようにすることで、前述のように、第2反応槽31内で発生した酸素の気泡を系外に効果的に排出させることができる。
【0041】
このように第1反応槽30及び第2反応槽31での通水方向を切り替えることにより、処理装置1同様に残留有機物による生菌及びスライムの発生を防ぐことができる。
但し、このように第1反応槽30及び第2反応槽31での通水方向を切り替える場合には、第1反応槽30及び第2反応槽31の流量が略同じになるように、それぞれの容量を設計するのが好ましい。
【0042】
なお、いずれの通水方向の場合にも、連通開放部26内において、第1反応槽30及び第2反応槽31の上方に、被処理水の溢流からなる溢流層37をある程度の高さをもって形成できるように、被処理水を流通させるのが好ましい点も、処理装置1と同様である。
【0043】
<被処理水>
上記第1の実施形態及び上記第2の実施形態に係る処理装置及び処理方法において、被処理水としての過酸化物含有水は、過酸化物を含む水であればよく、過酸化物を複数種類でも他の成分を含んでいてもよい。また、過酸化物濃度を特に制限するものではない。
【0044】
<過酸化物分解材>
上記第1の実施形態及び上記第2の実施形態に係る処理装置及び処理方法において、過酸化物分解材8及び28としては、過酸化物を分解することができる固形状物質であれば適宜用いることができる。
具体的には、例えば鉄化合物、活性炭、或いは、白金、パラジウム、マンガン等の金属触媒、或いは、触媒活性成分を不活性担体に担持してなる担持触媒、具体的には例えば白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム,ルテニウムなどの貴金属元素、或いは、コバルト、マンガン、鉄、銅、ニッケルなどの卑金属元素を、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカーアルミナ、ジルコニア、酸化鉄、セリア、炭化ケイ素などの不活性担体に担持してなる担持触媒を挙げることができる。
【0045】
<処理水>
上記第1の実施形態及び上記第2の実施形態に係る処理装置及び処理方法で処理された処理水は、必要に応じて、イオン交換樹脂と接触させたり、逆浸透膜処理に供したりして、該処理水中の残留物質をさらに除去するのが好ましい。
【0046】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を下記実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。
【0048】
(実施例1)
図5に示した処理装置21を用いて、被処理水としての過酸化物含有水(過酸化水素:500mg/L、過酢酸:120mg/L、pH値:3)を、管32を通じて第1反応槽30の底部に連続的に供給し、第1反応槽30内を上向きに流通させ、連通開放部26を介して第2反応槽31内に流入させ、第2反応槽31内では、上部から底部に向かって下向きに流通させた後、管33を通じて処理水として排出させる処理を行った。この際、被処理水の通水速度を、空間速度(線速度):15hr-1(15m/hr)とし、溢流層37の高さ、すなわち上向拡開筒部24の上端部から水面までの高さを200mmとした。
また、処理装置21は、第1反応槽30:容量10L、高さ1300mm、内径100mm、第2反応槽31:容量10L、高さ1300mm、内径150mm、反応槽の総高さ2000mm、上向拡開筒部24:上端開口径130mm、過酸化物分解材:活性炭(水ing社製「エハ゛タ゛イヤ:LG-10S」(破砕炭)、各層の充填量8Lとした。
【0049】
(比較例1)
図7に示した処理装置50、すなわち、実施例1で用いた処理装置21において、上向拡開筒部24を設けない処理装置を用いて、実施例1と同様の被処理水を、実施例1と同様の条件で処理を行った。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1では、通水開始から少なくとも18時間までは、被処理水中の過酸化水素および過酢酸は、表1に示すように定量下限値である0.1mg/L未満まで良好に処理された。
これに対し、比較例1では、通水開始から6時間後には、過酸化水素および過酢酸が検出され、18時間後には明らかに処理不良が発生した。このときの第2反応槽には活性炭層内部に気泡の蓄積が認められ、第1反応槽からの気泡の持込みが確認された。
【0052】
(実施例2)
実施例1で使用した処理装置21を用いて、実施例1と同様の被処理水を、実施例1と同様の条件で処理を行い(図5参照)、処理水中の生菌数を調べた。その後、通水方向を切り替えて処理を行い(図6参照)、処理水中の生菌数を調べた。切り替えた後の通水速度及び溢流層37の高さは切り替え前と同様とした。
【0053】
【表2】

【0054】
この結果、最初の通水方向(第1反応槽→第2反応槽)の処理では、通水24時間後には生菌の増加が見られ、72時間後には180CFU/mLに達した。
その後、通水方向を切り替えて処理を行った結果、切り替えて1時間後には3CFU/mL、すなわち通水初期の値まで生菌数が低下した。
このように通水方向を切り替えることにより、第2反応槽を流通する被処理水中の過酸化物濃度が切り替え前に比べて高くなるため、過酸化物の殺菌力によって生菌数を低下させることができたものと考えることができる。
【符号の説明】
【0055】
1:処理装置、2:外筒、3:仕切板、4:第1通水路、5:第2通水路、
6:連通開放部、8:過酸化物分解材、10:第1反応槽、11:第2反応槽、
12,13:管、15:開拡開口部、16:開拡開口部、17:溢流層
21:処理装置、22:外筒、23:内筒、
24:上向拡開筒部、25:上向窄まり筒部、26:連通開放部、
28:過酸化物分解材、30:第1反応槽、31:第2反応槽、32,33:管
35:開拡開口部、36:開拡開口部、37:溢流層
50:処理装置、51:過酸化物分解材、52:第1反応槽、53:第2反応槽
54:連通開放部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化物分解材が内部に充填され、被処理水としての過酸化物含有水が上向きに流通する第1反応槽と、過酸化物分解材が内部に充填され、過酸化物含有水が下向きに流通する第2反応槽と、第1反応槽及び第2反応槽の上部を連通する連通開放部とを備え、第1反応槽内を上向きに流通した過酸化物含有水は連通開放部を介して第2反応槽内に流入する構成を備えた過酸化物含有水の処理装置において、
第1反応槽の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部としてなる構成を備えた過酸化物含有水の処理装置。
【請求項2】
第1反応槽、第2反応槽及び連通開放部における通水方向を切り替え可能であり、
過酸化物含有水が第2反応槽内を上向きに流通し、連通開放部を介して、第1反応槽内を下向きに流通する場合には、
第1反応槽の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部とする代わりに、第2反応槽の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部とすることができる構成を備えた請求項1記載の過酸化物含有水の処理装置。
【請求項3】
過酸化物分解材が内部に充填された第1反応槽内に、被処理水としての過酸化物含有水を上向きに通水し、第1反応槽の上端部から流出した過酸化物含有水を、連通開放部を介して、過酸化物分解材が内部に充填された第2反応槽内に流入させ、該第2反応槽では、過酸化物含有水を下向きに通水することによって、過酸化物含有水中の過酸化物を分解する過酸化物含有水の処理方法であって、
第1反応槽の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部とすることを特徴とする過酸化物含有水の処理方法。
【請求項4】
第1反応槽、第2反応槽及び連通開放部における通水方向を交互に切り替えると共に、第2反応槽内に過酸化物含有水を上向きに通水し、連通開放部を介して、第1反応槽内を下向きに通水する場合には、
第1反応槽の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部とする代わりに、第2反応槽の上部を、上方に向かって広がった開拡開口部とすることを特徴とする請求項3に記載の過酸化物含有水の処理方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−245486(P2012−245486A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120751(P2011−120751)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(591030651)水ing株式会社 (94)
【Fターム(参考)】