説明

遡上魚の採捕方法、採捕装置及び採捕システム

【課題】 水域における遡上魚の採捕に適する採捕方法、採捕装置及び採捕システムを提供すること。
【解決手段】 遡上魚の採捕方法は、遡上魚が生息する水域の水面上に遡上魚が遡上可能の角度をなす傾斜板(7)を配置し、傾斜板上を流下する、遡上魚の遡上を誘う水流を生じさせ、傾斜板を遡上した遡上魚を採捕可能領域に落下させることを含む。採捕装置(1)は、使用時に遡上魚が生息する水域の水面上に設置可能、かつ、増水によって第1の方向に溢流が可能な水槽(3)と、水槽に水を導入して増水させるための水導入手段(5)と、第1の方向に溢流した水を流下させるための傾斜板(7)とを含めて構成してあり、傾斜板が、使用時に、流下した水によって遡上魚を遡上させ、かつ、遡上させた遡上魚を当該水槽内に落下可能に構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アユ、サケ・マス類のような遡上魚を採捕するための方法、採捕装置及び採捕システムに関する。
【背景技術】
【0002】
遡上魚、例えばアユの稚魚は4〜5月に河川を上流に向けて遡り、中・上流域に達した後は7〜9月までそこを生活の場として成魚に成長する。
【0003】
ところで、アユの稚魚は例えば河川に構築されたダム、堤、堰堤等からなる構造物によって遡上を阻害されると、行き場を失い、そこで死に絶える。そこで、遡上を阻害されたアユの稚魚を上流へ人為的に移すことが考えられる。
【0004】
このためには、アユの稚魚を採捕しなければならない。採捕は、アユの稚魚が流速を選択して遡上するという習性を利用して、すなわち河川の任意の箇所に該河川の流れより速い流れを人為的に作り、そこにアユの稚魚を誘導し、捕獲することが考えられる。
【0005】
後記特許文献1には、魚の遡上を誘う水流を発生させ、該水流を遡上した魚をその上流の所定の場所に帰着させることが記載されている。しかし、これは魚が遡上する様子を鑑賞することができるようにした水槽装置に適用されたものであり、河川のような水域におけるアユの稚魚のような遡上魚の採捕には適用することができない。
【特許文献1】特開平6−335338号公報(段落番号0008、0022、図1〜3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、水域における遡上魚の採捕に適する採捕方法、採捕装置及び採捕システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1に記載の発明の特徴)
請求項1に記載の発明は、遡上魚の採捕方法に係り、遡上魚が生息する水域の水面上に遡上魚が遡上可能の角度をなす傾斜板を配置し、当該傾斜板上を流下する、遡上魚の遡上を誘う水流を生じさせ、当該傾斜板を遡上した遡上魚を採捕可能領域に落下させることを含むことを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、遡上魚が生息する水域、例えば河川、水路、湖沼、養殖池等の水域の水面上に傾斜板を配置し、該傾斜板を流下する、遡上魚の遡上を誘う水流を生じさせると、該水流を察知した遡上魚がこれを遡上する。遡上した遡上魚は、網や生け簀のような採捕可能領域に落下させることにより容易に採捕することができ、採捕した遡上魚は、例えば活魚運搬車でさらに上流の水域に運搬し、そこに放流することができる。
【0009】
(請求項2に記載の発明の特徴)
請求項2に記載の発明は、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記水流を生じさせることに先立ち又はその後に、前記傾斜板の近傍の水面に呼び水を散水することを含むことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、呼び水を散水することにより前記傾斜板の近傍に気泡と水の衝突音とを発生させることができる。前記気泡および音はこれらの発生源への遡上魚の注意を促し、該発生源の周りに遡上魚を集める作用をなす。これにより、より多くの遡上魚が前記傾斜板を遡上するように仕向け、より多くの遡上魚を採捕することができる。
【0011】
(請求項3に記載の発明の特徴)
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明の構成を備えた上で、前記傾斜板上の水流の速度が前記水域の流速(≧0)より速いことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、前記水流が前記水域の流速より速い速度を有することから、遡上魚は、流れの上流方向に向かって泳ごうとする習性である正の走流性のために、前記水域の流れからより流れの速い前記傾斜板上の水流に乗り移ろうとする。
【0013】
(請求項4に記載の発明の特徴)
請求項4に記載の発明は、遡上魚の採捕装置に係り、使用時に遡上魚が生息する水域の水面上に設置可能、かつ、増水によって第1の方向に溢流が可能な水槽と、当該水槽に水を導入して増水させるための水導入手段と、当該第1の方向に溢流した水を流下させるための傾斜板と、を含めて構成してあり、当該傾斜板が、使用時に、流下した水によって遡上魚を遡上させ、かつ、遡上させた遡上魚を当該水槽内に落下可能に構成してあることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、採捕装置の水槽を水面上に設置し、水中ポンプのような水導入手段による前記水槽への水の導入及び水量の増大により、前記水槽からの溢流を生じさせることができる。溢流した水は傾斜板上を流下する。流下した水(水流)は前記傾斜板上への遡上魚の遡上を誘い、遡上した遡上魚は前記水槽に落下させ、これを採捕することができる。
【0015】
(請求項5に記載の発明の特徴)
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明の構成に加えて、使用時に前記傾斜板の近傍の水面上に呼び水を散水するための散水手段を含むことを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、散水手段による呼び水の散水により、気泡と水の衝突音とを発生させ、前記傾斜板の周囲の遡上魚に注意を向けさせ、遡上魚を前記傾斜板の周りに誘い出すことができる。これにより遡上魚が前記水流を遡上するように仕向けることができ、その結果、より多くの遡上魚を採捕することができる。
【0017】
(請求項6に記載の発明の特徴)
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に係る発明の構成に加えて、前記水槽が前記第1の方向とは異なる第2の方向にも溢流可能に構成してあり、当該水槽に、落下した遡上魚を受け止めるための受け部材と、当該受け部材が受け止めた遡上魚を第2の方向への溢流によって当該水槽外へ搬出するための搬出手段とが設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、前記傾斜板上を遡上し、前記水槽内に落下する遡上魚を受け部材に受け止め、受け止めた遡上魚を、前記第1の方向とは異なる第2の方向に溢流した水を搬送媒体として、搬出手段により前記水槽外へ搬出することができる。
【0019】
(請求項7に記載の発明の特徴)
請求項7に記載の発明は、請求項4乃至6のいずれか1項に記載の発明の構成を備えた上で、前記水槽が前記第1の方向に開放、かつ、使用時に前記水面に略平行な下端面を有する凹部又は開口部を備え、前記傾斜板が、前記凹部又は開口部の下端面に連なる上面と、当該上面に互いに間隔をおいて略平行に配置され前記傾斜板の傾斜方向に伸びる一対の側壁とを有することを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、前記水槽内に増水された水の溢流を、前記第1の方向へ開放する凹部又は開口部を通して行うことができる。溢流は、水面にほぼ平行な下端面を経てこれに連なる前記傾斜板の上面を流れることから、これらの面上をこれらの面から離れずに流れる。また、傾斜板の傾斜方向に伸びる互いに平行な一対の側壁により前記傾斜板上の水流を進行が真直ぐな直流とすることができる。このような水流は、遡上魚が前記傾斜板上を真直ぐに遡上するように誘導する。
【0021】
(請求項8に記載の発明の特徴)
請求項8に記載の発明は、遡上魚採捕装置に係り、階段状に配置された請求項4に記載の複数の採捕装置と、当該採捕装置を階段状に保持するための保持手段とを備え、各採捕装置が前記水導入手段を備える代わりに最上段の採捕装置のみが水導入手段を備えることを特徴とする。
【0022】
請求項8に記載された発明によれば、多段式の採捕装置は、最下段の採捕装置の水槽が水域の水面上に位置し、最上段の採捕装置が陸上に位置するように配置することができる。水導入手段を介して最上段の採捕装置の水槽に水を導入し、これを溢れさせると、溢れた水が傾斜板を介して下段の各採捕装置の水槽に流下し、最後に最下段の採捕装置の傾斜板から前記水域に水が流下する。このことから、前記水域の遡上魚を、最下段の採捕装置の傾斜板からその水槽へと遡上させ、さらに上段の傾斜板及び水槽を経て、最上段の水槽まで遡上させることができる。これにより、低い水面位置の遡上魚をから高い陸上位置で採捕することができる。
【0023】
(請求項9に記載の発明の特徴)
請求項9に記載の発明は、遡上魚の採捕システムに係り、遡上魚が生息する水域と水面を共通にする遡上魚導入水域と、当該遡上魚導入水域の水面上に設置された請求項4乃至7のいずれか1項に記載の採捕装置とを含むことを特徴とする。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、遡上魚が生息する水域から遡上魚導入水域に遡上魚を取り込み、遡上魚導入水路内の採捕装置により遡上魚を採捕することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、河川のような水域におけるアユの稚魚のような遡上魚の採捕を容易に、また、効果的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(採捕装置の実施の形態)
図1〜図3を参照すると、本発明の一実施形態に係る採捕装置全体が符号1で示されている。採捕装置1は、遡上魚(例えばアユ、サケ・マス類等)fを採捕するため、遡上魚fが生息する河川、水路、湖沼のような水域の水面2上に設置されている。
【0027】
採捕装置1は、水槽3と、水槽3に水を導入するための水導入手段5と、水槽3に取り付けられた傾斜板7とを備える。
【0028】
水槽3は上方に向けて開放する箱状体からなり、採捕装置1の使用時、水面2上に設置され、水導入手段5によりその内部に水が導入される。水槽3の水面2上への設置は、例えば水槽3を例えば橋の上からロープ9で吊り下げることにより行うことができる。
【0029】
水槽3は、水槽3内に導入された水の量が増大(増水)するとき、水槽3から2つの方向(第1の方向及び第2の方向)へ水を溢流させるための2つの凹部11,13を有する。両凹部11,13はそれぞれ水槽3の上面14に開放し、かつ水槽3の互いに相対する2つの側壁15,16に開口している。両凹部11,13はそれぞれ矩形状を呈し、水槽3の上面14に平行な下端面17,18を有する。水槽3は、両凹部11,13の両下端面17,18が水面2と略平行になるように、水面2上に設置される。このように設置することにより、各凹部11,13からの溢流についてその水深(厚み)をほぼ均一なものとすることができる。また、水槽3内の増水はその水面に乱れが生じないように行うことが望ましい。これにより、傾斜板7を流れる後記水流w1を乱れの少ない均一な流れ又は層流状のものとすることができる。層流状の水流は遡上魚の遡上の際の遊泳をしやすくする。
【0030】
各凹部11,13に代えて、これを例えば矩形の開口部とすることができる。さらに、凹部11,13は、これらを互いに相対するように配置する図示の例に代えて、例えば90度の角度的間隔を置いて互いに隣り合うように配置することができる。
【0031】
水槽3に水を導入するための水導入手段5は、水中ポンプ21とこれに接続された導管22とからなり、水中ポンプ21は導管22を介して水槽3に接続されている。水中ポンプ21を作動させることにより、前記水域から水を汲み上げ、導管22を介して水槽3内に水を導入し、水槽3内を増水させることができる。水導入手段5は、図示の例に代えて、例えば水上に設置可能であるポンプと導管との組み合わせ(図示せず)からなるものとし、これを用いて、前記水域から汲み上げた水を水槽3内にその開放上面から導入することができる。
【0032】
傾斜板7は、凹部11から伸びるように、水槽3の側壁15に取り付けられている。より詳細には、傾斜板7は、その上面23が凹部11の下端面17に連なるように又は連続するように配置され、凹部11から下方に傾斜している。このことから、凹部11を経た溢流は傾斜板7の上面23上をこれに沿って流れる。
【0033】
傾斜板7上を流下し、水面2に到達する水(水流)w1の流速は、前記水域の流速(≧0)より速いものに設定される。これにより、前記水域に、流速のより速い人工的な水流w1が生じる。前記水域を遊泳中の遡上魚fは、流速の速い水流に出会うとこれに抗して泳ごうとする習性を有する。このため、遡上魚fは水流w1に遡上を誘われ、傾斜板7上を遡上する。傾斜板7上を遡上した遡上魚fは遡上の勢いによって凹部11を経た後、水槽3内に落下する。
【0034】
ところで、傾斜板7の傾斜角度、すなわち水槽3を水面2上に設置したときにおける傾斜板7の下面24と水面2とのなす角度αは、遡上魚fが傾斜板7を遡上可能である大きさ、好ましくは45〜60度に設定される。これは、階段式魚道における隔壁上端部の傾斜角度が45〜60度のとき、アユの遡上率が高いという実験結果に基づく。図示の採捕装置1は、特にアユの採捕のため、傾斜板7の傾斜角度αが45度に設定されており、50〜100cm/sの水流w1の速度が得られる。また、傾斜板7の板面における傾斜方向長さ(傾斜面長さ)及びこれに直交する幅方向長さがそれぞれ25cm及び30cmに設定されている。傾斜角度α、前記傾斜面長さ及び前記幅方向長さは、遡上魚fの種類、大きさ等に応じて、適宜決定される。
【0035】
また、傾斜板7上を流下する水流w1の水深は、前記遡上魚がアユの場合、約2cmとすることができる。これは、体長が15〜16cmのアユの体高にあった、アユの遊泳に支障のない水深である。水深を深くすると、水流wの流速が増すためにアユが遡上できないおそれが生じる。水流w1の水深は、遡上魚fの遊泳に必要な深さであり、遡上魚fの種類に応じて定められる。
【0036】
なお、傾斜板7を凹部11から伸びるように配置する図1に示す例に代えて、図1に仮想線で示すように、傾斜板7を凹部11の下方位置から伸びるように配置することも可能である。ただし、この例の場合には、凹部11の下端面17と傾斜板7の上面23とが連なっていないことから、凹部11を経た溢流は傾斜板7の上面23に落下する。遡上魚fは、上面23上に落下する水流に向けて飛び跳ね行動をとるところ、飛び跳ね先が水流方向とは限らないため、遡上魚fの採捕率すなわち水槽3内への落下率は、図示の例に比べて、低い。
【0037】
図1〜図3に示す傾斜板7は2つの側壁25を有する。両側壁25,25は傾斜板7の上面23に互いに間隔をおいて平行に配置され、傾斜板7の上端から下端までその傾斜方向へ伸びる。両側壁25,25は、傾斜板7の上面23を流下する水w1が両側壁25,25に沿って真直ぐに流れるようにする。すなわち、直流にする作用をなす。直流はその流れに沿って遡上魚fを真直ぐに遡上させるため、好ましい。また、両側壁25,25は、傾斜板7上を遡上中の遡上魚fがその飛び跳ねにより傾斜板7から落下しないような高さ寸法に設定することが望ましい。
【0038】
図1〜図3に示す例では、さらに、傾斜板7を遡上し、凹部11を経て水槽3内に落下した遡上魚fを受け止めるための受け部材27と、受け部材27が受け止めた遡上魚を前記第2の方向への溢流w2によって水槽3外へ搬出するための搬出手段29とが設けられている。
【0039】
図1及び図2に示す受け部材27は2つの網板31,33からなる。網板31は、水槽3の相対する両側壁の一方の側壁15に支持され、凹部11の下端面17から側壁16に向けて上方に傾斜するように伸び、先端が下方に折り曲げられている。また、網板33は、水槽3の両側壁15,16以外の他の両側壁37,39に支持され(ただし、図の煩雑を回避するため、支持部材は図示していない。)、側壁15から側壁16に向けて僅かに下方に傾斜するように配置されている。網板33はその一部において網板31と上下に重なり合い、他の一部が凹部13を経て水槽3の外部の搬出手段29上に伸びている。
【0040】
このことから、傾斜板7を遡上し、凹部11を経て水槽3内に到達した遡上魚fは網板31上に落下する。このとき、遡上魚fはその遡上運動の余勢のために網板31上を滑り上がりかつ減速され、次いで他の網板33上に落下する。網板33上に落下した遡上魚fは網板33をその傾斜方向に向けて滑り落ちる。網板33は、網板31の先端部をその下方で円弧状に取り巻く2つの間隔を置かれた折り曲げ縁部35を有する。両折り曲げ縁部35は、網板31から網板33に滑り落ちた遡上魚fの網板33からの滑り落ちを防止し、また網板33の前記他の一部である先端部に向けて遡上魚fを案内する作用をなす。
【0041】
図1及び図2に示す搬出手段29は樋からなる。前記樋は水槽3の側壁16に凹部13と連通するように取り付けられ、下方に向けて傾斜している。前記樋は、凹部13から溢れ出る水(溢流)w2を受け入れ、その流動を許す。前記樋を流れる水(溢流)w2により、網板33から前記樋内に落下する遡上魚fが前記樋内をその長手方向に運搬される。
【0042】
前記樋内を運搬された遡上魚fは、例えば生け簀38に流し込まれる。図示の生け簀38は、採捕装置1が設置された水域中に張られた網40と、網40の口の周囲に取り付けられ網40の口を水面2に広げる浮き輪41とからなる。
【0043】
なお、受け部材27と搬出手段29とはその設置を省略することが可能である。省略するときは、水槽3を、傾斜板7を遡上して凹部11から水槽3内に落下する遡上魚の生け簀として利用することができる。
【0044】
採捕装置1は、さらに散水手段43を有するものとすることができる。散水手段43は例えばポンプ(図示せず)と、該ポンプに接続された導管45とからなる。導管45は、採捕装置1の使用時、その開放端が水面2に相対し、かつ、採捕装置1の傾斜板7の近傍に位置するように配置される。導管45は例えば前記水域に存する橋のような任意の構造物等に支持させることができる。
【0045】
散水手段43の前記ポンプを作動させ、導管45の開放端から水を噴出することにより、傾斜板7又は水流w1の近傍の水面2に多数の気泡を発生させ、また水の衝突音を発生させることができる。これらの気泡及び衝突音はこれらの発生源に遡上魚fを誘き寄せる作用をなし、前記発生源に近づいた遡上魚にその近傍に水流w1が存在することを察知させることができる。なお、導管45からの水の噴出開始時期は、水流w1の発生の前後を問わない。前記水の噴出は、水流w1の発生の間行う。
【0046】
図1〜図3に示す採捕装置1を使用した、私有地内の放水路におけるアユの採捕実験を行った。その実験により得られた結果を以下に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
表1及び表2に示す実験は、それぞれ、採捕尾数の測定を長時間続けることが困難であるため、時間をおいて、10分間ずつ行った。これらの実験結果から、放水路内を遊泳するアユが本発明に係る採捕装置の傾斜板上を遡上し、その水槽内に至るまで移動することが証明された。
【0050】
(複数の採捕装置の使用例)
採捕装置1は、図4に示すように、その複数個を並列に配置しての使用が可能である。この使用例においては、各採捕装置1により採捕され、その搬出手段29によって搬出された遡上魚fを受け取り、受け取った遡上魚fを例えば生け簀(図示せず)に搬出するための共通の第2の搬出手段47が設けられている。
【0051】
第2の搬出手段47は例えば樋からなる。前記樋には各採捕装置1の搬出手段29から水が供給され、遡上魚fは前記樋を流れる水により前記生け簀へと運ばれる。
【0052】
(採捕方法の実施形態)
次に、本発明に係る遡上魚の採捕方法について、採捕装置1を用いて実施する場合の実施の形態を説明する。
【0053】
実施に当たり、遡上魚fが生息する水域の水面2上に採捕装置1をその水槽3が水平になるように設置する。前記水域が河川や水路のように0を超える流速を有する場合には、傾斜板7の上面23を前記水域の下流に向ける。また、湖沼や池のように流速がほとんど無いか又は無い、流速が0の水域のときは、傾斜板7の向きを考慮する必要はない。水面2上に採捕装置1が設置されるとき、傾斜板7は遡上魚が遡上可能の角度で配置される。
【0054】
次に、水導入手段5を作動させて、水槽3に水を導入し、水槽3内を増水する。これにより、水槽3を溢れ出た水を傾斜板7上に流し、水流w1を生じさせる。水流w1の流下速度は、前記水域における流速を超える速度に設定される。遡上魚は流速のより速い流れに沿って遡上するという習性を有するため、前記水域における流速を超える流速の水流w1は傾斜板7上における遡上魚の遡上を誘う。
【0055】
ところで、水流w1から離れた場所で遊泳する遡上魚を水流w1に引きつけるため、水流w1を発生させている間、傾斜板7の近傍に散水することが望ましい。これによれば、散水によって傾斜板7の近傍すなわち水流w1の近傍に気泡と水音を発生し、これらの近傍に遡上魚を誘き寄せ、水流w1に沿っての遡上を促すことができる。
【0056】
また、傾斜板7を下る水流w1は、傾斜板7上から水面2へジャンプすることなしに到達することが望ましい。ジャンプ水流は該水流への遡上魚の飛び跳ね行動を促すところ、その飛び跳ね先が定まらない。このため、傾斜板7に沿っての遡上魚の遡上率が低下する。このことから、採捕装置1を水面2上に設置するとき、傾斜板7の先端部(下端部)が水没するようにする。これにより、水面2の多少の上下動があっても傾斜板7の下端部が水面2から離れず、傾斜板7の下端部と水面2との間に空間ができることによる前記ジャンプ水流の発生を防止することができる。
【0057】
前記水域中に生成された傾斜板7上の水流w1を遡上した遡上魚fは、採捕可能領域である水槽3内に落下させる。落下した遡上魚fは、前記したように、採捕装置1の受け部材27に受け止め、搬出手段29を介して生け簀38に搬出することができる。
【0058】
(他の例の採捕装置)
図5に示すように、採捕装置51は、階段状に配置された複数の採捕装置53と、これらの採捕装置53を階段状に保持するための保持手段55とを備える。
【0059】
各段の採捕装置53は水槽57と傾斜板7とからなり、最上段の採捕装置53のみがさらに水導入手段59を有する。
【0060】
水槽57は、これが凹部13を有しない点を除き、図1〜図3に示す水槽3と同一である。また、傾斜板7は図1〜3に示す傾斜板と同一である。また、水導入手段59は、導管61とこれに接続されたポンプ(図示せず)とからなり、このポンプの作動により、例えば遡上魚が生息する水域から汲み上げた水を、導管61を介して、最上段の水槽57に導き入れることができる。最上段の水槽57に導入された水は、該水槽から凹部11を経て傾斜板7上に溢流する。溢流した前記水は下段の水槽57に貯まり、その傾斜板7を介してさらに下段の水槽57に移動する。このようにして、水は最下段の水槽57まで流れ、さらにその傾斜板7を流れて前記水域に至る。
【0061】
図示の保持手段55は形鋼からなる。この形鋼は、複数の水槽57のそれぞれの側面に複数組のボルト、ナット(図示せず)を介して固定されており、これにより、複数の水槽57が段をなすように保持されている。
【0062】
多段の採捕装置51は、例えば、その最下段の水槽57が前記水域の水面上に位置し、かつ、他の水槽57が陸上に位置するように設置することができる。これによれば、前記水域に生息する遡上魚が最下段の採捕装置53の傾斜板7を遡上するとその水槽57に落下し、該水槽内の水中に至る。遡上魚はさらに上段の採捕装置について順次に傾斜板7の遡上及び水槽57への落下を繰り返して、最上段の採捕装置53の水槽57に至る。このようにして、遡上魚を陸上で採捕することができる。
【0063】
(採捕システムの実施の形態)
図6に本発明の実施態様に係る遡上魚の採捕システム62が示されている。採捕システム62は、遡上魚導入水域63と、該水域に設置された図1〜図3に示す採捕装置1とを含む。
【0064】
遡上魚導入水域63は、遡上魚fが生息する河川のような水域65の水面67と共通する水面69を有する。このため、水域65に生息する遡上魚fは遡上魚導入水域63への移動が可能であり、これによって遡上魚fの遡上魚導入水域63への取り込みが可能である。遡上魚導入水域63に取り込まれた遡上魚fは、遡上魚導入水域63に採捕装置1により形成された流れの速い水流に誘導されてこれを遡上し、採捕される。採捕された遡上魚fは、前記したと同様、採捕装置1の受け部材27及び搬出手段29を経て、遡上魚導入水域63内に設置された生け簀38に運ばれる。
【0065】
なお、採捕システム62における採捕装置1は、さらに、図1に示す散水手段43を有するものあるいは有しないものとすることができる。また、採捕装置1は、受け部材27及び搬出手段29を有しないものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】手前に表れる立面を省略して示す、遡上魚の採捕装置の概略的な正面図である。
【図2】採捕装置の概略的な平面図である。
【図3】採捕装置の概略的な左側面図である。
【図4】並列に配置された複数の採捕装置の概略的な平面図である。
【図5】他の例の採捕装置の斜視図である。
【図6】採捕システムの概略的な平面図である。
【符号の説明】
【0067】
1,51,53 採捕装置
2 水面
3,57 水槽
5,59 水導入手段
7 傾斜板
11,13 凹部
15,16,37,39 側壁
17,18 下端面
21 水中ポンプ
22,45,61 導管
23 上面
24 下面
25 側壁
27 受け部材
29 搬出手段
31,33 網板
38 生け簀
43 散水手段
47 第2の搬出手段
55 保持手段
62 採捕システム
63 遡上魚導入水域
65 水域
f 遡上魚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遡上魚が生息する水域の水面上に遡上魚が遡上可能の角度をなす傾斜板を配置すること、
当該傾斜板を流下する、遡上魚の遡上を誘う水流を生じさせること、
当該傾斜板を遡上した遡上魚を採捕可能領域に落下させることを含む
ことを特徴とする、遡上魚の採捕方法。
【請求項2】
前記水流を生じさせることに先立ち又はその後に、前記傾斜板の近傍の水面に呼び水を散水することを含む
ことを特徴とする、請求項1に記載の採捕方法。
【請求項3】
前記傾斜板を流下する水流は前記水域の流速(≧0)より速い速度を有する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の採捕方法。
【請求項4】
使用時に水面上に設置可能、かつ、増水によって第1の方向に溢流が可能な水槽と、
当該水槽に水を導入して増水させるための水導入手段と、
当該第1の方向に溢流した水を流下させるための傾斜板と、を含めて構成してあり、
当該傾斜板が、使用時に、流下した水によって遡上魚を遡上させ、かつ、遡上させた遡上魚を当該水槽内に落下可能に構成してある
ことを特徴とする、遡上魚の採捕装置。
【請求項5】
さらに、使用時に前記傾斜板の近傍の水面上に呼び水を散水するための散水手段を含む
ことを特徴とする、請求項4に記載の採捕装置。
【請求項6】
前記水槽は前記第1の方向とは異なる第2の方向にも溢流可能に構成してあり、
当該水槽には、落下した遡上魚を受け止めるための受け部材と、当該受け部材が受け止めた遡上魚を第2の方向への溢流によって当該水槽外へ搬出するための搬出手段と、が設けられている
ことを特徴とする、請求項4又は5に記載の採捕装置。
【請求項7】
前記水槽は、前記第1の方向に開放、かつ、使用時に前記水面に略平行な下端面を有する凹部又は開口を備え、
前記傾斜板は、前記凹部又は開口の下端面に連なる上面と、当該上面に互いに間隔をおいて略平行に配置され前記傾斜板の傾斜方向に伸びる一対の側壁と、を有する
ことを特徴とする、請求項4乃至6のいずれか1項に記載の採捕装置。
【請求項8】
階段状に配置された請求項4に記載の複数の採捕装置と、当該採捕装置を階段状に保持するための保持手段と、を備え、各採捕装置が前記水導入手段を備える代わりに最上段の採捕装置のみが水導入手段を備える
ことを特徴とする、遡上魚の採捕装置。
【請求項9】
遡上魚が生息する水域と水面を共通にする遡上魚導入水域と、
当該遡上魚導入水域の水面上に設置された請求項4乃至7のいずれか1項に記載の採捕装置と、を含む
ことを特徴とする、遡上魚の採捕システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−154483(P2008−154483A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344944(P2006−344944)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(501461874)株式会社日本作品研究所 (2)
【Fターム(参考)】