説明

適応変調を用いたパケット伝送方法

【目的】無線通信において、MIMOシステムにより高速大容量通信および送受信構造が簡略化を行うことを目的とする。
【構成】MIMOシステムにおけるデータ伝送方式として、MIMO固有モードシステムにおいて、適応変調アルゴリズムを提案することで伝送速度の増加を行い、誤り訂正符号を使用せずにLLRパケット合成を用いることで送受信構成の簡略化を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル無線通信方式におけるデータ伝送方式に関するものである。特に、マルチ入力マルチ出力(multiple-input multiple-output, MIMO、以下MIMOと称す)システムにおいて伝送速度を向上させる誤り制御方式を実現させる方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
第1の従来技術を図1に示す。従来からあるデータ伝送における誤り制御方式のうち、自動再送要求(automatic repeat request, ARQ、以下ARQと称す)は双方向通信を用いた方式であり、送受信機の双方が通信路情報(channel statement information, CSI)を共有することができる。このことを利用し、図1のように通信路について特異値分解を行い送受信機で処理を行うことによって、M×Nの行列で考えられた通信路をmin(M,N)本のシングル入力シングル出力(single-input single-output, SISO)システムとして扱うことができる。分解されたSISO通信路に対して送信機は通信路利得を知ることができるため、あらかじめ利得の大きい通信路には大きい送信電力を与え、利得の小さい通信路には小さい電力又は電力を配分しないことで、通信路容量を拡大することが可能となる。
【0003】
第2の従来技術としてデータ伝送方式における誤り制御方式がある。従来からあるデータ伝送方式にはARQ方式のほかに前方誤り訂正(forward error correction, FEC)方式があり、またARQ方式に誤り訂正符号やパケット合成を用いたハイブリッドARQ方式(hybrid ARQ, HARQ、以下HARQと称す)方式がある。パケット合成とは、従来のARQ方式では誤りのある受信パケットを破棄し再送要求を行っていたが、誤りのある受信パケットを破棄せず再送され受信したパケットと合成を行うことで、誤り訂正能力を増加させる手法である。
【0004】
HARQ方式にはType-1及びType-2 HARQ方式がある。Type-1 HARQ方式では誤り訂正及び誤り検出符号を用いて伝送フレームを構成している。またType-2 HARQ方式は1回目の送信では誤り検出符号又は冗長の非常に小さい誤り訂正符号を用いて伝送フレームを構成し、再送時には誤り訂正能力の大きい誤り訂正符号を用いてフレームの構成を行う方式である。一般に、HARQ方式ではより劣悪な伝送路である場合により強力な誤り訂正符号を必要とし、また再送回数による可変な誤り訂正符号を用いるため送受信機構造が複雑になるという欠点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術において、一般にMIMOシステムでは受信機のみがCSIを知ることができるため、送信側では各送信アンテナに等電力に電力を配分していた。しかし、固有モード伝送では送信機側は分離された各チャネルのSNRを知ることができるため、従来どおりの
等電力配分を行うと、効率の悪い通信路が存在しうるという欠点がある。
【0006】
また、HARQ方式について誤り訂正符号を用いることで送受信機構造が複雑になる欠点がある。さらに固有モード伝送においては分離されたチャネルについて受信機も独立となるため、分離された各チャネルについて伝送効率を改善するために、どのように変調方式の切り替えを行うかという問題がある。
【0007】
本発明は、MIMO固有モード伝送システムにおいて通信路容量が最大となるよう送信電力を配分し、誤り訂正符号を用いずに伝送効率を向上させるデータ伝送方式を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明における第1の発明は、MIMO固有モード伝送システムにおいて、注水定理に基づき各固有モードチャネルへ送信電力の最適配分を行い、LLRパケット合成を用いたHARQ方式を用いるデータ伝送方式において、送信側で変調方式を可変とする適応変調を採用することを特徴としている。
【0009】
また本発明における第2の発明は、第1の発明に加えて、各固有モードチャネルでSNRに応じて64QAM変調、16QAM変調又はQPSK変調を用いて伝送することを特徴としている。
【0010】
また本発明における第3の発明は、第2の発明に加えて、送受信アンテナが4×4本のMIMO固有モード伝送システムにおいて各固有モードチャネルについてSNRの高い順に対応したチャネル1から4のうち、各チャネルにパケット誤り率(Packet Error Rate、PER、以下PERと称す)特性に基づいて閾値を定め、12段階の変調方式の組み合わせから伝送に用いる変調方式の組み合わせを選択してデータ伝送を行うことを特徴としている。
【0011】
また本発明における第4の発明は、第2の発明に加えて、送受信アンテナが4×4本のMIMO固有モード伝送システムにおいて、各チャネルに設けた閾値によって64QAM変調と16QAM変調、16QAM変調とQPSK変調、QPSK変調と多チャネル並列伝送など、変調方式を切り替えてデータと伝送することを特徴としている。
【0012】
また本発明における第5の発明は、第2の発明に加えて、フレーム構成に誤り訂正符号を用いず、64QAM変調、16QAM変調及びQPSK変調の各変調方式ついて、受信機での軟判定値としてビット毎の対数尤度比 (log likelihood ratio, LLR、以下ビットLLRと称す)を導入し、一回もしくは複数回受信した同一データのLLR値を合成し、ビット判定を行い復号することを特徴としている。
【0013】
このように本発明は、送受信機ともにCSIを共有することにより、送受信アンテナ本数4×4本のMIMO固有モード伝送システムにおいて、各固有モードチャネルのSNRに応じて変調方式の切り替えを行いうことで、伝送効率を向上させることができる。
【0014】
またフレーム構成に誤り訂正符号を用いず誤り検出符号のみの冗長であるため、従来のARQ方式に比べてもスループットの低下がなく、またLLRパケット合成は誤り訂正符号の復号器に比べ構造が非常に簡易であるため、一般のType-2 HARQ方式の送受信機構成に比べ、非常に簡単な送受信機構成を実現するものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明では、送受信機でCSIを共有するシステムを用いることによって、より容易にスループットを向上させる適応変調アルゴリズムを構築することが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明では、多値変調を使い分けることにより、より伝送効率の良いシステムを実現することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明では、より容易な方法で適応変調アルゴリズムを構築することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明では、SNRの低い環境において、より簡単な受信構成でスループットの低下を防ぐことができる。
【0019】
請求項5に記載の発明では、受信器構成を簡略化できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、もとより本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
まず、本発明の概略を、図1を用いて説明し、続いて伝送特性についてシミュレーション結果を用いて説明する。図1は等価低域系のシステム構成を示すブロック図である。送信側ではまず、情報系列をパケット化し、誤り検出符号であるCRC-16符号を付加する。CSIにより得られる受信SNRより、注水定理に基づき各固有モードチャネルへ最適電力配分する。さらに適応変調のアルゴリズムによって、64QAM変調、16QAM変調またはQPSK変調を行い、ユニタリー行列演算をした後送信する。受信側では、ユニタリー行列の演算によって固有モードチャネルの分離を行い、それぞれの受信シンボルからビットLLRを算出する。必要に応じてビットLLRに基づくパケット合成を行い、誤り判定を行い、ACKまたはNAKを送信する。
【0022】
図2に4×4MIMO固有モード伝送システムにおける適応変調のアルゴリズムを示す。変調方式の組み合わせを、最小2bits/s/Hzから最大24bits/s/Hzの伝送速度を2bits/s/Hzごとの12段階にわけ、各伝送速度においてもっともPER特性がよくなる変調方式を選択し、伝送速度の大きいほうから順にステージIからXIIとする。適応変調の切り替え基準として、各チャネルの各変調方式のPER特性がPER=0.5となる各チャネルのSNRを閾値に定める。各チャネルの閾値をThijとし、チャネルiのj番目の閾値とする。この閾値によって適応変調ステージを、I.ch4のSNRがTh41以上である場合、II.ch4のSNRがTh41未満でch3のSNRがTh31以上である場合、III.ch3のSNRがTh31未満でch4のSNRがTh42以上である場合、IV.ch4のSNRがTh42未満Th43以上である場合、V.ch4のSNRがTh43未満でch2のSNRがTh21以上である場合、VI.ch2のSNRがTh21未満でch3のSNRがTh32以上である場合、VII.ch3のSNRがTh32未満でch1のSNRがTh11以上である場合、VIII.ch1のSNRがTh11未満でch2のSNRがTh22以上である場合、IX.ch2のSNRがTh22未満でch3のSNRがTH33である場合、X.ch3のSNRがTh33未満でch1のSNRがTh12以上である場合、XI.ch1のSNRがTh12未満でch2のSNRがTh23以上である場合、XII.ch2のSNRがTh23未満である場合の12段階の適応変調について、I.各チャネル64QAMで独立に伝送する、II.ch1〜3については64QAMで独立伝送し、ch4は16QAMで伝送する、III.ch1,2については64QAMで独立伝送し、ch3,4については16QAMで独立伝送する、IV.ch1,2については64QAMで独立伝送し、ch3は16QAMで伝送、ch4はQPSKで伝送する、V.ch1,2については独立伝送し、ch3,4については16QAMで並列伝送する、VI.ch1は64QAMで伝送し、ch2は16QAMで伝送、ch3,4は16QAMで並列伝送する、VII.ch1は64QAMで伝送し、ch2は16QAMで伝送、ch3,4はQPSKで並列伝送する、VIII.ch1,2は16QAMで独立伝送し、ch3,4はQPSKで並列伝送する、IX.ch1は16QAMで伝送し、ch2はQPSKで独立伝送、ch3,4はQPSKで並列伝送する、X.ch1は16QAMで伝送し、ch2〜4はQPSKで並列伝送する、XI.ch1はQPSKで独立伝送し、ch2〜4はQPSKで並列伝送する、XII.ch1〜4についてQPSKで並列伝送する12段階とする。
【0023】
図3に例としてステージVIIIの適応変調の場合におけるARQの再送アルゴリズムを示す。本発明では、同時刻に複数のパケットを送信し判定を行っているため、ACK/NAKを返信する際にもパケット番号の認識が重要となる。そこで、QPSK変調方式でのパケット送信時間Tpを基準に、送信時間Tp以内で送信するパケット数をNとし、ACK/NAKの信号をNビットで構成する。誤りが検出された場合パケット番号に相当するビットを1 (=NAK)とし、誤りがなければ0 (=ACK)として構成する。送信側ではNAKを受信したパケットに対して再送を行うが、このとき最もSNRの良いch1から順に図3のようにチャネルの割り当てを行う。
【0024】
図3のように、再送パケットとして初回に送信したパケットと同一パケットを16QAM変調又はQPSK変調で送信するが、再送時にLLRパケット合成を行うために、64QAM、16QAM、QPSK変調方式のビットLLRを次のように定義し算出している。16QAM変調の場合について、受信信号点から最も距離の小さい送信シンボルをSwxyzとし、1ビット反転したシンボルをSw’xyz、Swx’yz、Swxy’z、Swxyz’とする。またビッ
トLLR値を1ビット目から順にΛ1000、Λ0100、Λ0010、Λ0001とし、それぞれ次式で与える。
【0025】
【数1】



【0026】
但しw, x, y, z はデータビットを表し、w’, x’, y’, z'はデータビットを反転したビットを表す。またそれぞれw, x, y, z, w’, x’, y’, z'=0,1である。また、QPSK変調の場合も同様に、受信信号点から最も距離の小さい送信シンボルをSxyとし、1ビット反転したシンボルをSx’y、Sxy’とする。またビットLLR値を1ビット目から順にΛ10、Λ01とし、それぞれ次式で与える。
【0027】
【数2】



【0028】
但しx, yはデータビットを表し、x’, y’はデータビットを反転したビットを表す。またそれぞれx, y, x’, y’ =0,1である。
【0029】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施形態を図4〜6を用いて説明する。
【0030】
図4にシミュレーションで用いた等価低域系のブロック図を示す。通信路はパケット毎に独立な通信路行列Hとなるブロックレイリーフェージング通信路(Quasi-static Rayleigh fading channel)、受信機で白色ガウス雑音が加わると仮定し、帰還通信路に誤りはな
いものと仮定する。また、本発明はARQの中でもSR-ARQ(selective repeat ARQ)に基づいたHARQ方式であるが、受信バッファ長を無限大と仮定する。本発明の効果の評価値として、スループットを次のように定義した。
【0031】
【数3】

【0032】
図5,6にスループット特性と平均再送回数特性のシミュレーション結果を示す。横軸は、受信アンテナ1本あたりの平均受信SNRである。比較のため図5に、シャノンの通信容量限界の数値計算値を示した。12段階の適応変調を用いることで、階段状ではあるが、SNRが40dB以上で最大の24bits/s/Hzの特性が得られるとともに、SNRが小さくなるについて変調ステージが切り替わり再送回数の増加なく良好なスループット特性得られる。また平均再送回数は平均受信SNR が0dB以上では再送回数をほぼ1回以内に抑制されており、受信バッファ長を有限としても特性に影響を与えないとともに、伝送遅延時間を極小さく抑えられることが考えられる。
図7にOFDM変調のサブキャリアに本発明を適用した場合のスループット特性のシミュレーション結果を示す。横軸は受信アンテナ1本あたりの平均受信SNRである。なお通信路は12パス電力指数減衰Quasi-static Rayleigh fading通信路を仮定している。このようにシングルキャリア伝送だけでなくマルチキャリア伝送についても適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
ディジタル無線通信方式におけるデータ伝送方式に関するものである。特に、 MIMOシステムにおいて伝送速度を向上させる誤り制御方式を実現させる方法として利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】等価低域系のシステム構成を示すブロック図である。
【図2】4×4MIMO固有モード伝送システムにおける適応変調のアルゴリズムを示す図である。
【図3】適応変調ステージVIIIの場合におけるARQの再送アルゴリズムを示す図である。
【図4】シミュレーションで用いたシステム構成を示す図である。
【図5】計算機シミュレーションによるスループット特性を示す図である。
【図6】計算機シミュレーションによる平均再送回数特性を示す図である。
【図7】計算機シミュレーションによるMIMO-OFDMシステムへ応用した場合のスループット特性を示す図である。
【図8】M×M MIMO固有モード伝送のシステムモデルを示す図である.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信機ともに複数のアンテナを用いたMIMO(Multiple-input multiple-output)伝送のうち、固有モード伝送を用いて送信器の電力制御を行い、かつLLR(Log likelihood ratio)合成とHybrid ARQを用いることでスループット特性を向上させる手法において、受信側のSNRを送信側へフィードバックすることにより、送信側で変調方式を可変とする適応変調を採用することによって、伝送のスループットを向上させることのできるパケット伝送方法。
【請求項2】
請求項1記載のパケット伝送方法において、送信器の電力制御により最適電力配分を行い、SNRの高いチャネルに64QAM変調、16QAM変調、低いチャネルにQPSK変調を割り当て、スループットを向上させることができるパケット伝送方法。
【請求項3】
請求項2記載のパケット伝送方法において、送受信機のアンテナ数がそれぞれ4本のとき、各チャネルに設けた閾値によって12段階の変調方式の組み合わせから伝送に用いる変調方式の組み合わせを選択してデータを送信し、スループットを向上させるパケット伝送方法。
【請求項4】
請求項2記載のパケット伝送方法において、送受信機のアンテナ数がそれぞれ4本のとき、各チャネルに設けた閾値によって64QAM変調と16QAM変調、16QAM変調とQPSK変調、QPSK変調と他チャネル並列伝送など、変調方式を切り替えてデータを送信し、スループットを向上させるパケット伝送方法。
【請求項5】
請求項2記載のパケット伝送方法において、受信側においてビットLLRを導入し、一回もしくは複数回受信した同一データのLLR値を合成し、ビット判定を行い復号するパケット伝送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−186991(P2006−186991A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349121(P2005−349121)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】