説明

適応等化器

【課題】 正しい等化誤差と入力サンプリング値を選択することで、正確なタップ係数を算出する適応等化器を提供する。
【解決手段】 適応等化器の出力信号のサンプリング値の極性が反転したときの連続するサンプリング値のうち、絶対値の小さい方を等化誤差として選択し、選択したサンプリング値のサンプリング時点と合致する各タップの入力サンプリング値を選択する(12a)。さらに選択した等化誤差(S0)と各タップで選択された入力サンプリング値(X(k)又はX(k−1))とから各タップのタップ係数(TCa)を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された再生信号の波形を等化する適応等化器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の適応等化器は、縦続接続された単位遅延素子、乗算器、加算器からなるトランスバーサルフィルタを備え、トランスバーサルフィルタの出力信号の値と目標値との差を求め、その差が等化誤差として係数制御部へと送出される。ここで、目標値は適応等化器とその入力信号系とにおける総合の伝達特性を目標とする伝達特性に導くための値に設定される。
【0003】
係数制御部では等化誤差と入力信号および単位遅延素子の出力信号の値とを乗じ、その乗算出力を積分器により積分し、その結果を、更新されたタップ係数として乗算器に送っている(例えば、特許文献1第1図)。
【0004】
また、同じ特許文献1に記載された他の適応等化器では、等化誤差を求める手段として、目標値をゼロに設定してゼロクロス近傍のサンプリング値を用いている(例えば、特許文献1第5図)。
【0005】
【特許文献1】特開平09−321671号公報(第1、5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1の第1図に記載の適応等化器では、等化誤差はサンプリング毎に係数制御部へ送られ、係数制御部において乗算を行う入力再生信号は絶えず最新のサンプリング入力信号及び最新のサンプリング入力信号に対する単位遅延素子の出力を用いており、乗算の際にサンプリング時点のずれは発生していない。
【0007】
しかし、前記特許文献1の第5図に記載の適応等化器のように、等化誤差としてゼロクロス近傍のサンプリング値を用いる場合、ゼロクロス近傍のサンプリング値を抽出する方法として、適応等化器の出力サンプリング値の極性が反転したことを検出し、そのときの連続する極性の異なるサンプリング値のうち、絶対値の小さい方をゼロクロスデータとして選択するような方法がある。この方法を用いると、連続する極性の異なるサンプリング値のうち、どちらかを選択して等化誤差として用いる構成となるため、係数制御部にて等化誤差と入力信号および単位遅延素子の出力信号の値とを乗じると、連続する極性の異なるサンプリング値の選択の仕方によって、等化誤差と入力信号および単位遅延素子の出力信号の値とのサンプリング時点のずれが生じる。その結果、正しい係数制御が行われず、等化誤差が発散してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解消するためになされたもので、その目的は選択される等化誤差のサンプリング時点が一定ではない場合においても、等化誤差のサンプリング時点と合致した入力信号および単位遅延素子の出力信号の値を選択することでき、正確なタップ係数を算出する適応等化器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、記録媒体から読み出された入力再生信号の伝播を遅延させる単位遅延素子と、前記入力再生信号及び前記単位遅延素子により遅延された前記再生信号の各々に可変係数を乗じる乗算器と、前記乗算器からの出力を加算して出力信号を生成する加算器とを有する可変係数フィルタと、前記可変係数フィルタの出力信号から等化誤差を検出する誤差検出手段と、それぞれ前記乗算器に対応して設けられ、前記誤差検出手段によって検出された等化誤差に基づいて、対応する乗算器における乗算に用いられる前記可変係数を算出する可変係数生成手段とを備える適応等化器において、前記誤差検出手段は、前記可変係数フィルタの出力信号のサンプリング値の極性が反転したことを検出する極性反転検出手段と、極性の反転の直前と極性の反転の直後の前記出力信号のサンプリング値のうち、絶対値の小さいサンプリング値を前記等化誤差として選択する最小値選択手段とを有し、前記可変係数生成手段は、前記誤差検出手段で前記等化誤差としてどちらのサンプリング値を選択したかにより、前記等化誤差に乗じる前記再生信号のサンプリング値として、前記等化誤差と同じ時点の再生信号のサンプリング値を選択する再生信号選択手段を有することを特徴とする適応等化器を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、選択される等化誤差のサンプリング時点が一定ではない場合においても、等化誤差のサンプリング時点と合致した入力信号および単位遅延素子の出力信号の値を選択することでき、正確なタップ係数を算出する適応等化器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、実施の形態1における適応等化器を適用した情報再生装置の構成を示すブロック図である。なお、以下、当該情報再生装置として光ディスク1を再生する場合について説明する。
【0012】
図1において、光ピックアップ2は、光ディスク1にレーザを照射し、光ディスク1からの反射光を検出し、検出した光信号を電気信号に変換し、再生信号として出力する。フロントエンドプロセッサ3は、光ピックアップ2から入力された再生信号を増幅し、そのゲインを調整する。また、高域のノイズ成分を除去し、必要な信号帯域の強調処理を行う。フロントエンドプロセッサ4からの出力信号はADC(アナログ−デジタル変換器)4によりデジタル信号に変換され、適応等化器5へと入力される。
【0013】
適応等化器5は入力されるデジタル信号に適応処理を施し、波形等化を行う。適応等化器5により波形等化された信号は判定器6にて0、1のデータに2値化される。2値化されたデータは図示しない復号器で復調される。
【0014】
図2に適応等化器5の構成を示す。図2において、適応等化器5は入力再生信号Xaが入力される可変係数フィルタ7と、可変係数フィルタ7の出力信号から等化誤差を算出する等化誤差検出部8と、等化誤差検出部8で算出された等化誤差と可変係数フィルタ7の各タップの入力信号とから各タップのタップ係数TCa〜TCeを算出する可変係数生成部9a〜9eとを有する。
【0015】
図2に示された可変係数フィルタ7は5タップとしているため、4個の単位遅延素子71a〜71dと、5個の乗算器73a〜73e及び可変係数生成部9a〜9eと、1個の加算器75で構成される。
【0016】
より詳しく言うと、可変係数フィルタ7は、記録媒体から読み出された入力再生信号Xaの伝播を遅延させる4個の単位遅延素子71a〜71dと、入力再生信号Xa及び単位遅延素子71a〜71dにより遅延された再生信号Xb、Xc、Xd、Xeの各々に可変係数を乗じる乗算器73a〜73eと、乗算器73a〜73eからの出力を加算して出力信号を生成する加算器75とを有する。加算器75の出力信号が可変係数フィルタ7の出力信号である。
【0017】
誤差検出部8は、可変係数フィルタ7の出力信号Yから等化誤差を検出する。
可変係数生成部9a〜9eは、可変係数フィルタ7内の乗算器73a〜73eにそれぞれ対応して設けられ、誤差検出部8によって検出された等化誤差に基づいて、対応する乗算器(73a〜73e)における乗算に用いられる可変係数を算出する。
【0018】
ここで、図4に適応等化器5に入力される入力信号の特性を示す。図4において、この入力信号にノイズや符号間干渉等が含まれない理想的な波形の場合、チャネルクロックで入力信号をサンプリングすると、ゼロクロス点S(k)におけるサンプリング値は0となるような特性を持つものとする。
【0019】
上述のような特性を持つ入力信号を入力として加えた場合、可変係数フィルタ7の出力信号のサンプリング値は、ゼロクロス点で0となる。そのため、ゼロクロス点でのみ等化誤差を算出する場合の目標値は0となり、結果として、ゼロクロス点での出力信号のサンプリング値を等化誤差とすることができる。
【0020】
このような考え方で等化誤差検出部8は構成されており、極性反転検出部10と最小値選択部11とを有する。極性反転検出部10では出力信号の連続する(相前後する)サンプリング値の極性が反転する(互いに反対のものとなる)と、そのことを検出し、検出結果を最小値選択部11へと通知する。最小値選択部11は極性反転検出部10からの通知を受けると極性が反転した出力信号の連続するサンプリング値のうち、絶対値の小さいサンプリング値を等化誤差として選択する。
【0021】
例えば、図5に示される場合、出力信号のサンプリング値Y(k−1)とY(k)のうち、絶対値が小さいのはY(k)であるため、最小値選択部11は時点kにおける出力信号のサンプリング値Y(k)を選択し、等化誤差S0として出力する。また、図6に示される場合は、出力信号のサンプリング値Y(k−1)とY(k)のうち、絶対値が小さいのはY(k−1)であるため、最小値選択部11は時点k−1における出力信号のサンプリング値Y(k−1)を選択し、等化誤差S0として出力する。このようにして、最小値選択部11は、等化誤差S0と、出力信号の連続するサンプリング値のうち、どちらを選択したかを表す最小値選択信号S1とを可変係数生成部9a〜9eへと出力する。ここで、時点kにおいて、サンプリング値Y(k−1)を選択した場合は0を、サンプリング値Y(k)を選択した場合は1を、最小値選択信号S1として出力するようにする。
【0022】
図3に示すように、可変係数生成部9aは、再生信号選択部12aと、乗算器13aと、積分器14aと、単位遅延素子15aとを有する。他の可変係数生成部9b乃至9eも同様に構成されている。可変係数生成部9b乃至9eにおける、再生信号選択部12a、乗算器13a、積分器14a、及び単位遅延素子15aに対応する部材は、それぞれ、符号12b〜12e、13b〜13e、14b〜14e、15b〜15eを付されている(図示されていない)。
【0023】
単位遅延素子15aは、1サンプリング間隔に等しい遅延時間を有するものであり、例えば、その入力がX(k)であるとき、出力はX(k−1)である。
可変係数生成部9aの再生信号選択部12aは、誤差検出部8で等化誤差としてどちらのサンプリング値(出力信号のサンプリング値)を選択したかにより、等化誤差に乗じる再生信号のサンプリング値として、等化誤差と同じ時点のサンプリング値を選択する。
より具体的には、最小値選択部11で、極性反転の前のサンプリング値(出力信号のサンプリング値)を等化誤差として選択した場合、再生信号選択部12aでは、遅延素子15aの出力側の信号を選択し、最小値選択部11で、極性反転の後のサンプリング値(出力信号のサンプリング値)を等化誤差として選択した場合、再生信号選択部12aでは、遅延素子15aの入力側の信号を選択する。
【0024】
以下、可変係数生成部9aの動作を例にとって説明する。再生信号選択部12aは最小値選択信号S1によって入力サンプリング値X(k)と単位遅延素子15aの出力値X(k−1)とのいずれかを選択し、乗算器13aへ出力する。最小値選択信号S1が0の場合、最小値選択部11は等化誤差としてサンプリング値Y(k−1)を選択しているため、再生信号選択部12aはY(k−1)と同じサンプリング時点である単位遅延素子15aの出力値X(k−1)を選択し、最小値選択信号S1が1の場合、最小値選択部11は等化誤差としてサンプリング値Y(k)を選択しているので、再生信号選択部12aはY(k)と同じサンプリング時点である入力サンプリング値X(k)を選択して、乗算器13aへ出力する。このようにすることで、乗算器13aで乗算される再生信号選択部12aの出力値と等化誤差S0とのサンプリング時点を合致させることができる。
【0025】
乗算器13aは、再生信号選択部12aの出力値と最小値選択部11が選択した等化誤差S0とを乗じ、乗じた値を積分器14aへ出力し、積分器14aにて積分された値が可変係数生成部9aで生成されたタップ係数となる。なお、可変係数生成部9b〜9eも可変係数生成部9aと同様の動作を行う。
【0026】
このように図2に示される適応等化器5では、選択される等化誤差のサンプリング時点が一定ではない場合においても、再生信号選択部12a〜12eにて等化誤差のサンプリング時点と合致したサンプリング値に選択するため、サンプリング時点にずれが生じず、正確なタップ係数を算出することができる。
【0027】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2の適応等化器は、実施の形態1の適応等化器と概して同じ構成を有する。但し、可変係数生成部9a〜9eの構成が異なる。図7は、実施の形態2の可変係数生成部9aを示す。
図7に示す可変係数生成部9aは、図3の可変係数生成部9aと同様であるが、判別器16aを付加されている点で異なる。
【0028】
判別器16aは、等化誤差S0の絶対値が予め定められた所定値よりも大きい場合は、最小値選択信号S1によって選択された入力サンプリング値または単位遅延素子15aの出力値に、1以下の定数を乗じて重み付けを行い、乗算器13aに出力する。
【0029】
他の構成では、判別器16aは等化誤差S0の絶対値が予め定められた所定値よりも大きい場合は、最小値選択信号S1によって選択された入力サンプリング値または単位遅延素子15aの出力値に0を乗じることで係数の更新を行わないようにしてもよい。
【0030】
可変係数生成部9b〜9eは、可変係数生成部9aと同様の構成を有し、同様の動作を行う。
【0031】
このようにすることにより、ノイズ等により異常な等化誤差が入力された場合においても、係数の更新の要因となる信号に重み付けをする、或いは係数の更新を行わないようにできるため、正確なタップ係数を算出することができる。
【0032】
なお、実施の形態1においては、図の簡易化を図るため、可変係数フィルタ7として5タップのものを示したが、タップ数は図示の例に限定されない。
【0033】
また、実施の形態1では、最小値選択信号S1は、サンプリング値Y(k−1)を選択した場合は0を、サンプリング値Y(k)を選択した場合は1を出力するとしたが、選択したサンプリング値を区別できる信号であればよく、これに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】光ディスクにおける適応等化器を適用した情報再生装置の構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1の適応等化器を示すブロック図である。
【図3】図2に示した適応等化器の可変係数生成部の構成を示すブロック図である。
【図4】図2に示した適応等化器に入力する入力信号の特性を示す図である。
【図5】図2に示した適応等化器の最小値選択部が等化誤差としてY(k)を選択する場合の出力波形を示す図である。
【図6】図2に示した適応等化器の最小値選択部が等化誤差としてY(k−1)を選択する場合の出力波形を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2の適応等化器の可変係数生成部の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0035】
1 光ディスク、 2 光ピックアップ、 3 フロントエンドプロセッサ、 4 ADC、 5 適応等化器、 6 判定器、 7 可変係数フィルタ、 8 誤差検出部、 9a〜9e 可変係数生成部、 10 極性反転検出部、 11 最小値選択部、 12a〜12e 再生信号選択部、 13a〜13e 乗算器、 14a〜14e 積分器、 15a〜15e 単位遅延素子、 16a〜16e 判別器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体から読み出された入力再生信号の伝播を遅延させる単位遅延素子と、
前記入力再生信号及び前記単位遅延素子により遅延された前記再生信号の各々に可変係数を乗じる乗算器と、
前記乗算器からの出力を加算して出力信号を生成する加算器と
を有する可変係数フィルタと、
前記可変係数フィルタの出力信号から等化誤差を検出する誤差検出手段と、
それぞれ前記乗算器に対応して設けられ、前記誤差検出手段によって検出された等化誤差に基づいて、対応する乗算器における乗算に用いられる前記可変係数を算出する可変係数生成手段とを備える適応等化器において、
前記誤差検出手段は、
前記可変係数フィルタの出力信号のサンプリング値の極性が反転したことを検出する極性反転検出手段と、
極性の反転の直前と極性の反転の直後の前記出力信号のサンプリング値のうち、絶対値の小さいサンプリング値を前記等化誤差として選択する最小値選択手段と
を有し、
前記可変係数生成手段は、前記誤差検出手段で前記等化誤差としてどちらのサンプリング値を選択したかにより、前記等化誤差に乗じる前記再生信号のサンプリング値として、前記等化誤差と同じ時点の再生信号のサンプリング値を選択する再生信号選択手段を有する
ことを特徴とする適応等化器。
【請求項2】
前記可変係数生成手段の各々が、対応する乗算器の入力を入力とし、1サンプリング間隔に等しい遅延時間を有する単位遅延素子を有し、前記再生信号選択手段は、前記可変係数生成手段内の遅延素子の入力側の信号及び出力側の信号のいずれかを、前記等化誤差と同じ時点のサンプリング値として選択することを特徴とする請求項1に記載の適応等化器。
【請求項3】
前記再生信号選択手段は前記等化誤差の絶対値が所定値よりも大きいか否かを判別する判別手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の適応等化器。
【請求項4】
前記判別手段は前記等化誤差の絶対値が所定値よりも大きい場合、前記再生信号のサンプリング値に定数を乗じることで重み付けを行うことを特徴とする請求項3に記載の適応等化器。
【請求項5】
前記判別手段は前記等化誤差の絶対値が所定値よりも大きい場合、選択した前記再生信号のサンプリング値にゼロを乗じることを特徴とする請求項3に記載の適応等化器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−302440(P2006−302440A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124669(P2005−124669)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】