説明

遮水性植生基盤材

【課題】 本発明は法面,法肩,護岸部分などの一般土木、及び廃棄物処分場の底面及び法面を形成する遮水シート,埋立て完了後の雨水の浸透による有害物の移動を防止するための遮水性キャッピングシートなどの廃棄物処分場等に有用である遮水性植生基盤材を提供する。
【解決手段】 遮水性シート(9)と、その両表面に熱可塑性樹脂から成る直径0.1〜2mmの複数の連続糸条が不規則に重なり合って長さ方向に連続している立体網状体(3)が積層され、接合し一体化して成る立体網状体で覆われた、一方の立体網状体層が覆土のずれ止め機能(覆土保持層3a)を、他方の立体網状体層が滑落防止機能(滑落防止層3b)を具備した遮水性植生基盤材(12)を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面,法肩,護岸部分などの一般土木、及び廃棄物処分場の底面及び法面を形成する遮水シート,埋立て完了後の雨水の浸透による有害物の移動を防止するための遮水性キャッピングシートなどの廃棄物処分場等に有用である遮水性植生基盤材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、盛り土部分、シラス台地などの軟弱地盤地域の切通し部分における道路、鉄道の法肩や法面において、降水による土砂崩れを防止するため、雨水の浸透を防止する遮水性シートを法肩や法面の表面に張る遮水工事が行われている。これら遮水工事は、いずれも傾斜地で行われるため、単に遮水性シートを張っても、遮水性シートの自重でシート自体がずれ落ち易く、たとえ張れたとしても、シート上端に懸かる引っ張り力が大きく、シートの破断が起こり易い傾向にあった。そのため、シートの厚みを増やすと自重が増加して、さらにずり応力が高くなるとともに、厚いために傾斜地に沿わせることが困難であった。
【0003】
また上記遮水工事は、(産業)廃棄物処分場の底面でも重要な工事として数多く施工されている。この廃棄物処分場の底面遮水工事は、公害の認識が無かった時代には全くなされていなかったが、公害の認識が増すにつれ、地下水汚染の心配が有り、汚染の酷いものの埋立てから徐々に拡大して行われるようになった。当初は、コンクリート製であったが、埋立て量の増大とプラスチックスの普及で、安価なポリオレフィンシートの使用の要望が強くなり、二重施工などの新工法も考案されて、最近ではポリオレフィンシートによる遮水工事が一般的となっている。
【0004】
さらに、廃棄物処分場の遮水工事は、底面遮水工事だけでなく、最近では廃棄物処分場に降る雨水の浸透を防止して、廃棄物処分場から流出する汚水の量を減らすことで廃棄物処分場が満杯となった後のメンテナンス費用の低減をはかる目的で、満杯となった廃棄物処分場の上面を遮水する遮水性シートで表面を覆うキャッピング工法が提案されている。これら廃棄物処分場の遮水工事は平坦な部分だけでなく、かならず法面の遮水工事も含まれるため、上述した傾斜地への遮水性シートの施工と同様に、遮水性シートのずれ落ち、破断が起こり易いという問題があった。上記問題を解決するため、例えば、特開2001−314830号公報(特許文献1)では、遮水シートを保護するための滑り止め機能付き保護マットが提案されている。
【0005】
一方、一般的に遮水性シートは、耐候性を確保するためカーボンブラックで着色されている。カーボンブラックは黒色であるため、山間部の谷間に施工されることが多い廃棄物処分場では、目立ち易くて、新設した廃棄物処分場であっても、遮水性シート表面を緑化したいという要望が多い。また、法面に施工した遮水性シートが風に煽られて捲り上がることも多いため、固定用のアンカーを多数打ち込みたいが、遮水効果の問題があり、打ち込むアンカーを少なくしたいという基本的な技術的要素もあって、遮水性シートを施工する時は、施工工事の利便性から遮水性シートが軽量で、使用時は重い状態となる遮水工事の工法とそれができる遮水性シートが求められてきた。この理由もあって、現在法面緑化で普及している種を含んだ泥を高圧で噴出させて簡単に覆土できる吹き付け緑化工法によって遮水性シートを覆土することで、シートを重くして風によるはがれ防止を行うことが施工業者によって考案されている。シートに重みをつけるため覆土した土壌はこのままでは簡単に雨水で流出するため、結果として遮水性シートの表面緑化をせざるを得ないこととなり、前記した景観保全のための緑化要望と同じとなった。また、産業廃棄物処分場の底面遮水工事における法面勾配は大きく、従来の遮水性シート上に単に覆土して緑化を行おうとすると、土砂の安息角まで積み上げる必要があり、膨大な量の土が必要となって、埋立て量の大幅減少を生じていた。そのような問題を解決するため、特開平10−227033号公報(特許文献2)では、不透水性シートの一方の面に立体網状体が接合された遮水性植生基盤材が提案されている。
【特許文献1】特開2001−314830号公報
【特許文献2】特開平10−227033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の遮水性シートには、以下の問題があった。遮水性シートは、その使用目的からシート自身に貫通した孔を穿つことはできるだけ避ける必要がある。また、遮水性シートはシート間からの漏水を防ぐために、シート同士を1枚1枚接着してシールしており、大面積の1枚のシートとなっている。そのため、一部からの漏水があると、修理するのは大変な作業であり、また一部が捲れ上がると周辺に波及する可能性が高い。しかも平坦な場所に施工する場合と異なり、法面などの傾斜地での施工では、シートを固定するためアンカーを打つ必要が生じるため、漏水する場合があった。
【0007】
また、特許文献1の遮水シートを保護するための滑り止め機能付き保護マットでは、遮水シート保護用の不織布の滑落防止機能を有するものの、遮水シート自身の滑落を抑えることができず、結果としてアンカーを打つ必要があった。また、不織布では十分に覆土を保持することができないので、植物等の植生においても十分とはいえなかった。
【0008】
さらに、特許文献2の遮水性植生基盤材も同様に、景観改善のため緑化することは可能であるが、遮水性シート自身の滑落を抑えることは困難であった。
【0009】
したがって、法面などの傾斜地での施工において、漏水や捲れ上がることがなく、またシート自身が滑落することなく、且つ覆土のずれを防止して景観改善のための緑化が可能である遮水性シートが得られていなかったのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる実情を鑑みてなされたものであり、遮水性シートの両面に、滑落を防止する機能を有する網状体層と、覆土を保持する機能を有する網状体層とを接合することにより、上記課題を解決できることを知り、本発明に至った。すなわち、本発明の遮水性植生基盤材は、遮水性シートと、前記遮水性シートの両方の面に、熱可塑性樹脂から成る直径0.1〜2mmの複数の連続糸条が不規則に重なり合って長さ方向に連続している、平行光線透過率が50〜90%の立体網状体が積層され、接合し一体化して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の遮水性植生基盤材は、傾斜のある法面に遮水性シートを張り付けても、自重で法面の土壌に立体網状体が食い込み、滑落防止機能を発揮するため、滑落防止のためのアンカーの量を著しく低減することができ、ひいてはアンカーを打つことによる遮水性の低下を著しく低減させることができる。さらに、遮水性シートの他面にも立体網状体が接合されているため、遮水性シートの糊しろを溶着してシールする作業においても、立体網状体が遮水性シート表面に無い場合に比べて、作業活動の自由度が高くなり、作業の安全性が格段に高くなる。また、覆土して表面を緑化すると、覆土の重みで風による捲り上がる可能性が低下できると共に、直接の太陽光の暴露がなくなり、遮水性シートの劣化寿命も格段に向上できる。さらには、遮水性シートの上表面を緑化できるので、景観の向上にもつながる。
【0012】
加えて、覆土して遮水性シートの寿命を長くすることができるため、従来のように寿命確保のために厚みの大きいシートを用いる必要がなく、より薄い厚みの遮水性シートを使用でき、施工の利便性をも向上させることができる。この結果、絶対的な漏水防止を求められる産業廃棄物処分場の底面遮水工事以外にも、道路などの盛土部分の土砂崩壊防止や雨水浸透防止の用途にも手軽に施工できるようになるため、従来の遮水施工に比べ、経済性が高い施工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、まず、立体網状体を片面に接合した遮水性シートを用いて、遮水性シートの滑落防止について検討したところ、相手の傾斜地の土質や掘削の状況にもよるが、熱可塑性樹脂から成る直径が0.1〜2mmの複数の連続糸条が不規則に重なり合って長さ方向に連続している立体網状体が、傾斜地の地盤を保持してシート自体の滑落を防止するという滑落防止層として機能することを知った。
【0014】
また、遮水性シートの表面に覆土して緑化するには、熱可塑性樹脂から成る直径0.1〜2mmの複数の連続糸条が不規則に重なり合って長さ方向に連続している立体網状体が、傾斜地における覆土のずれを防止するという覆土保持層として機能することを知った。そして、これらを遮水性シートの両方の面に接合し一体化することにより、遮水性シートの滑落防止性と覆土のずれ止め性を具備した遮水性植生基盤材を得ることを知った。
【0015】
本発明の遮水性植生基盤材は、遮水性シートと、前記遮水性シートの両方の面に、熱可塑性樹脂から成る直径0.1〜2mmの複数の連続糸条が不規則に重なり合って長さ方向に連続している立体網状体が積層され、接合し一体化して成ることを特徴とする。さらに、一方の立体網状体が滑落防止層を形成し、他方の立体網状体が覆土保持層を形成して成ることが好ましい。具体的には、両表面を立体網状体で覆われている遮水性シートは、肉厚が0.5〜5mmの柔軟なプラスチックシートの両表面に厚さ5〜25mmで立体網状体が熱接着されて一体化しているもので、柔軟なプラスチックシートが遮水機能を、厚みの大きい立体網状体層が覆土のずれ止め機能を、そして厚みの小さい立体網状体層が、これらの複合されているシート自身の滑落防止機能を分担して、傾斜地における不透水性シート自身の滑落防止性と覆土のずれ止め性を具備した遮水性植生基盤材としていることが好ましい。
【0016】
本発明に使用する立体網状体は、その繊維径が0.1〜2mmである。より好ましくは0.5〜1.5mm、さらに好ましくは0.6〜1.2mmである。これらは溶融させてノズルから下方に吐出させると、複数の連続糸条が不規則に重なり合って長さ方向に連続して金型上に堆積される。
【0017】
本発明の使用する立体網状体は、例えば、深さが20mmほどの凹凸に付形した金属金型へ、繊維直径が0.1〜2mmの熱可塑性樹脂から成る複数の連続糸条を流下させて立体的に付形させると共に、周動現象を利用してそれぞれの連続糸条を不規則なループをなさしめ、糸条が重なる点で両糸条を融着接着させて立体網状体であって、厚み方向の断面が、平面的に重なって熱接着した連続糸条の平面板がプリーツ状になっており、プリーツの高さが立体網状体の厚みとして計測される様な立体網状体であることが好ましい。即ち、前記立体網状体は、乾燥したインスタントラーメン製品に類似の太い糸条である、直径が0.1〜2mmの熱可塑性樹脂の連続糸条の多数が不規則なループをなして、厚さ5〜25mmで長さ方向に連続しており、平行光線透過率が50〜90%でかつ空隙率の大きい嵩高な、立体網状体である。なお、前記平行光線透過率とは、立体網状体に平行光線を照射したときに、その平行光線が連続線条に邪魔されずに直接反対面(遮水性シート面)に達する面積の割合をいう。
【0018】
従来の片面に立体網状体を接着した遮水性シートは、夫々を構成している熱可塑性樹脂について何ら検討されておらず、遮水性シートを構成している樹脂の融点が高く、立体網状体を構成している樹脂の融点を低くすることで、立体網状体のシートへの熱接着時に、シートに孔が開くトラブルを回避していたため、夫々に用いている熱可塑性樹脂同士の相溶性については特には問題としていなかった。しかしながら、少ない押し圧で熱接着したいため、夫々に使用する樹脂の相溶性を考慮すると、両者を構成する樹脂を同じ種類(系統)とするのが1つの方法であることを知った。そこで、本発明者らは、融点が100〜150℃の熱可塑性樹脂からなる軟質で物理強度が高い遮水性シートであって、当該熱可塑性樹脂で、直径が0.1〜2mmの連続糸条の多数が不規則なループをなして、厚さ5〜25mmで長さ方向に連続しており、平行光線透過率が50〜90%でかつ空隙率の大きい嵩高な立体網状体が作れ、かつ、その立体網状体の腰が硬くて、アンカーとして十分機能する、熱可塑性樹脂とそれからなる遮水性シートを検討の結果、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂が最も好ましい1例として挙げられる。この樹脂は、立体網状体も作れ、かつ遮水性シートも入手可能な品種が夫々あることを突き止めた。
【0019】
本発明の1つの例として、夏の直射日光に耐えるため、融点が100℃を超え、冬の寒さでも脆くならないために、脆化温度が−50℃未満とし、耐薬品性に優れている樹脂で、かつ、製造において乾燥などの手間がかからず、かつ、安価に入手可能な樹脂として、ポリオレフィン樹脂である直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を立体網状体と遮水性シートに用いたものが挙げられる。当該樹脂は、熱接着加工を冬でも容易とするため、その融点が150℃を下回る、より好ましくは140℃を下回る樹脂より、さらに選定を加えた。
【0020】
本発明の1つの例は、前記立体網状体及び前記遮水性シートを構成する熱可塑性樹脂が共に、同系樹脂を少なくとも70mass%含む樹脂であり、前記同系樹脂の融点が100〜150℃である遮水性植生基盤材であり、より好ましくは、同系樹脂が低密度ポリエチレン樹脂、プロピレン主体(プロピレン成分が50mass%以上)のエチレン−プロピレン共重合体、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン樹脂から選ばれた1つまたは複数の種類の柔軟性がある樹脂であり、必要に応じて混合される熱可塑性樹脂が同系樹脂と相溶性のある熱可塑性樹脂とで構成されている遮水性植生基盤材である。更に好ましくは、前記熱可塑性樹脂が、同系樹脂として融点を110〜140℃とする直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を100〜70mass%含み、低密度ポリエチレン樹脂又はプロピレン系共重合樹脂0〜30mass%の範囲で含む樹脂である遮水性植生基盤材であることが好ましい。
【0021】
前記同系樹脂と混合される他の熱可塑性樹脂は、同系樹脂と馴染みが良い物が好ましいのは無論であり、他の熱可塑性樹脂は、立体網状体またはシートの一方により剛性が必要な場合や、より柔軟性が必要な場合に用いるのが好ましく、要求される前記した性質などがかけ離れている場合は、夫々に別々の熱可塑性樹脂を添加することも都合が良い。なお、同系樹脂とは、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、可塑剤添加の塩化ビニル系樹脂やウレタン系樹脂などの種類において、夫々の樹脂系統内で選択したものをいう。
【0022】
もう1つは、従来の片面が立体網状体とする遮水性シートの製法の考えである、遮水性シートの素材の方の融点が、立体網状体の素材より高いシートであり、立体網状体が融点を110〜140℃とする直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であり、遮水性シートが融点を130〜150℃とし、前記融点が前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂以上であるプロピレン主体のエチレン−プロピレン共重合樹脂またはプロピレン主体のエチレン−ブテン−プロピレン共重合樹脂等のプロピレン系共重合樹脂である、立体網状体と遮水性シートが共にポリオレフィン樹脂でなることが好ましい。
【0023】
さらにもう1つは、立体網状体と遮水性シートが非ポリオレフィン系樹脂であって、共に同じ種類の柔軟性があるポリエステル系またはポリアミド系の熱可塑性エラストマー樹脂を100〜70mass%とこれらと相溶性のある熱可塑性樹脂0〜30mass%からなる樹脂であり、ポリエステル系またはポリアミド系の熱可塑性エラストマー樹脂は、その融点Tm℃を130<Tm<180とする遮水性植生基盤材であることが好ましい。立体網状体と遮水性シートを構成する樹脂が非ポリオレフィン系樹脂であっても、遮水性シートの傾斜地におけるシート自身の滑落防止性と覆土のずれ止め性効果は全く変わらない。
【0024】
以下、本発明の内容についてさらに詳しく説明する。本発明では、全てを耐薬品性の良いポリオレフィン系樹脂とする場合は、遮水性シートの厚みと繰出し速度にもよるが、遮水性シートを加熱する都合上、その融点が低いほど作業性が良い。したがって、屋外に施工する実用上、その融点は100℃以上、より好ましくは110℃以上が良く、作業上および設備上、150℃以下、より好ましくは140℃以下が良い。融点が余り高いと冬場での生産において、加熱むらを生じ易くなる。
【0025】
上記融点の範囲にあり、シートでは柔軟性があり、立体網状体の繊維とすると腰のある熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂、プロピレン主体のエチレン−プロピレン共重合体、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂があり本発明に好ましく使用できる。より好ましくは、高度の強力と柔軟性がある直鎖状低密度ポリエチレン樹脂が良い。なお、非ポリオレフィン系樹脂も用いることができ、素材の融点としては少し高いが、融点Tm℃を130<Tm<180とするポリエステル系またはポリアミド系の熱可塑性エラストマー樹脂も用途によっては好ましく用いることができる。
【0026】
また、上記した同系樹脂が100mass%使用されている本発明の立体網状体が両面に熱接着している遮水性シートも好ましいが、これらを着色するために使用するマスターバッチは必ずしも欲する樹脂をベースとしたものでない場合が多いことと、立体網状体の腰を高めたい場合などの状況において、30mass%以下の範囲内で必要に応じて同系樹脂と異なる熱可塑性樹脂を混合使用しても、生産上と品質上問題を生じないので使用は差し支えない。なお、混合する他の熱可塑性樹脂は、主体となる熱可塑性樹脂と相溶性があることが好ましい。無論、シートと立体網状体の樹脂はその溶融物の流れ性(メルトフローレート(MFR);g/10分)は異なって良く、一般にシートの方が低い流れ性の組み合わせである。
【0027】
本発明の両表面に立体網状体が熱接着されて一体化している柔軟なプラスチックシートである遮水性シートは、立体網状体と遮水性シートを構成する熱可塑性樹脂(以下、併せて「熱可塑性樹脂A」という)が共に同じ種類の柔軟性がある熱可塑性樹脂(同系樹脂)を少なくとも70mass%含む樹脂であり、同系樹脂は、その融点Tm℃を100≦Tm≦150とすることが好ましく、必要に応じて同系樹脂と混合される他の熱可塑性樹脂は、同系樹脂と馴染みが良い物が好ましいのは無論である。他の熱可塑性樹脂は、立体網状体またはシートの一方により剛性が必要な場合や、より柔軟性が必要な場合に用いるのが好ましく、要求される前記した性質などがかけ離れている場合は、夫々に別々の熱可塑性樹脂を添加することも都合が良い。
【0028】
前記同系樹脂は、好ましい樹脂として具体的に挙げると低密度ポリエチレン樹脂、プロピレン主体のエチレン−プロピレン共重合樹脂、およびエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂から選ばれた1つまたは複数の種類の柔軟性がある樹脂であり、同系樹脂と混合使用する他の熱可塑性樹脂は、これらとある程度相溶性のある熱可塑性樹脂が良い。より好ましい熱可塑性樹脂Aは、融点を110〜140℃とする直鎖状低密度ポリエチレン樹脂100〜70mass%を含み、低密度ポリエチレン樹脂またはプロピレン主体のエチレン−プロピレン共重合樹脂0〜30mass%を含む樹脂でなることであり、最も好ましい1例は、前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂のみで構成されている両面に立体網状体が熱接着された遮水性シートである。
【0029】
遮水性シートの剛性が要求される場合は、立体網状体が融点を110〜140℃とする直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であり、遮水性シートが融点を130〜150℃とし、前記融点が前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の融点以上であるプロピレン主体のエチレン−プロピレン共重合樹脂またはプロピレン主体のエチレン−ブテン−プロピレン共重合樹脂である、ポリオレフィン系樹脂のみでなる組合せの両面に立体網状体が熱接着された遮水性シートが都合良い。
【0030】
また、同系樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合、その溶融流動性の指標としてメルトフローレート(MFR、ポリエチレン樹脂にあっては190℃測定のメルトインデックスMIとも呼称する。単位はg/10分、加重は2.169Kg、JIS−K−6760に準ず)で、フィルムは0.1〜10、太い糸条は0.5〜100が好ましく、ポリエステル系樹脂では同じくIV値が0.5〜0.7、ポリアミド系樹脂では数平均分子量が1万〜3万が好ましく用いられる。
【0031】
前記遮水性シートに用いられる軟質不透水性シートは、例えばゴムシートやポリオレフィン系樹脂や塩化ビニル系樹脂などの軟質合成樹脂シートを、またこれらを補強材で補強したシートが一般的で、現在は軟質塩化ビニル樹脂からなるシートに替わり、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂からなるシートが、突き刺し強力や引っ張り強力などの物理強度が強く、かつ、軟質であり、塩ビの様に可塑剤のブリードアウトの心配もないため普及しつつある。
【0032】
産業廃棄物処分場や酸性廃土処分場などにおいて、底面の遮水や雨水の浸透防止のための遮水性シートとして本発明のシートを用いる場合、硫化水素やメルカプタンなどの化学反応性の高いガスや雨水の浸透による強酸性やアルカリ性の廃水に本発明のシートが暴露されるため、その構成素材としては、ポリオレフィン系樹脂が望ましいが、がけ崩れ防止などの、一般的な場合の単なる遮水と緑化の工事においては、使用される樹脂の化学的な問題がないため、立体網状体及び/又は遮水性シートを構成する熱可塑性樹脂は、同系樹脂がポリオレフィン系樹脂以外に、同じ種類の柔軟性があるポリエステル系またはポリアミド系の熱可塑性エラストマー樹脂を100〜70mass%含み、これらと相溶性のある他の熱可塑性樹脂0〜30mass%を含む樹脂であり、同系樹脂は、その融点Tm℃を130<Tm<180とする遮水性植生基盤材として都合良く用いることができる。
【0033】
立体網状体の目付と厚みにもよるが、得られる立体網状体の平行光線透過率が50〜90%となる立体網状体が、滑落防止性と覆土保持性に優れており目的に対して都合が良い。また、立体網状体の厚みは、滑落防止性を発揮させるには、少なくとも5mm、より好ましくは10mm以上であり、さらに好ましくは15mm以上であるが、片面に立体網状体を接着した遮水性シートを整然と巻き上げるためと、巻き上げたロール1本当たりの長さを長くして生産性をより確保するために、立体網状体の厚みを薄くしたい課題があり、本発明では5〜25mmとする。もう1面の覆土保持のための立体網状体の厚みは、10mm以上、より好ましくは15mm以上、さらに好ましくは25mm以上あるのが良いことが判っているが、施工上、ロール巻きした本発明の製品の長さを長くしたい要望が強く、用途によっては5mm厚みでも良い場合もあり、本発明では5〜25mmとする。したがって、最も好ましい立体網状体の厚みは、滑落防止面を15mm、覆土保持面を25mmとするのが良いが、施工時の施工ミスを防止するため、両面を同じ厚みとした、それぞれを15〜25mmとしたものも好ましい。無論、覆土面を40mm以上の厚みとしても不都合はないが、長さを確保するためきつく巻くことが避けられず、立体網状体のへたりを誘発し易いことと、ロール状にして保管した場合、ロールの下部に位置する立体網状体がへたり易いため、立体網状体の厚みを増やした効果が出にくい場合がある。遮水性シートは強度上、その厚みを0.5〜3mmとするのが良く、施工の至便性からすると1〜1.5mmがさらに好ましい。3mmを超えると使用上で重さと柔軟性で問題があり、突き刺し性能などの遮水性能も過大で価格も高いため好ましくない。なお、厚みは、JIS L−1913−6.1.2A法により測定した。
【0034】
本発明の一形態である全てが直鎖状低密度ポリエチレン樹脂でなる立体網状体で両面を熱接着されている遮水性シートは、これらを構成する直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の融点が120〜125℃であり、その1mm厚シートは、季節を問わず赤外線加熱で十分安定してプレ加熱でその片側表面を軟化するほど加熱でき、かつ、全体が軟化してフィルムの形態を保持できない状態にはならない、連続して片面の表面のみ軟化できる生産条件を容易に設定できる。シートを構成する直鎖状低密度ポリエチレン樹脂は、立体網状体を構成するものより、その溶融流動性MFRが小さいもの、即ち、分子量の大きいものを選ぶと、熱接着して互いを貼り合せるのに製造条件の許容範囲を広くすることができ都合が良い。
【0035】
空隙率の大きい嵩高な立体網状体の度合いとして、本発明では、平行光線透過率で表示しており、立体網状体の上部から平行光線を照射して、その光線の透過率で嵩高さと空隙割合を規定した。本発明で用いる立体網状体は何れも平行光線透過率が50〜90%の範囲にあるものが都合良く、立体網状体の樹脂量は、目付として概ね各層300〜2000g/m2の範囲にあることが好ましい。無論、厚みと目付は関係しており、厚みが大きいほど高目付となる。
【0036】
また、滑落防止機能層の立体網状体は、太い糸条の剛性を高くするため、同じ厚みなら、覆土保持層より高目付とするのが好ましい。即ち、平行光線透過率を低くするのが好ましい。
【0037】
次に、本発明の遮水性植生基盤材の製造方法について説明する。本発明の遮水性植生基盤材は、遮水性シートの両面に立体網状体を接着した構造であるが、片面に立体網状体を接着した遮水性シートは、凸面の上端部が平面状に位置している金型に、溶融した糸条をノズルより流下させて金型に流し込み、前記糸条が十分には固化していない状態の時に金型の平面的に凸部が揃っている上端に遮水性シートを押し付け、さらに加重ローラーで凸部の先端に前記シートを押し付けることで、前記先端部で立体網状体を熱圧着したシートとして作られるため、仮に加重ローラー側に立体網状体が接着した複合化遮水性シートを用いた場合、加重ローラー側の立体網状体が平滑になってしまう基本的な問題があった。また、フィルムやシートは極めて接着し難い素材で、加重ローラーで強引に互いを圧迫させないと熱接着できない問題があった。さらに、遮水性シートは不織布の様に自在性が無く、片面に立体網状体を熱接着した複合化遮水性シートは、端面を揃えて巻き上げることが難しく、端面が揃っていない遮水性シートを繰出す場合でも、一回斜向すると自在性に欠けているために元に戻すことが極めて困難となる問題があり、仮に加重ローラーを使わなくても可能とした場合、片面に立体網状体を熱接着した複合化遮水性シート(以下、片面複合化遮水性シートともいう)を作り、これを巻き上げてもう片面に立体網状体を接着しようとすると、ガイドロールに最初に付けた立体網状体が接触するので、繰出している遮水性シートが右左に激しくランダムに蛇行し、不織布と異なりシートは両耳をニップローラーなどで把持して蛇行調整しようとしても、滑って把持するのが極めて困難で、また仮に、両耳まで立体網状体が接着されている場合は、当該ニップローラーに挟まってローラーが動かなくなるなどの問題が多発するので、この蛇行を制御することは不可能に近い。実際に手作業でこの蛇行を制御することを試みたが、蛇行応力が大きくて、手で引っ張ってもびくともせず、手作業での蛇行調整は全くできなかった。
【0038】
そこで、本発明の遮水性植生基盤材は、全てが直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の組合せである遮水性シートを例にして、以下のように製造することができる。まず、凹凸高さが15mmほどと低い、滑落防止を目的とする立体網状体を遮水性シートへ熱圧迫接着するのであるが、厚みが0.5〜3mmの遮水性シートの幅方向へ伸びた、多列のノズルから、上面が同一平面上にある、深さが20mmほどの凹凸に付形した金属金型へ、多数の、繊維直径が0.1〜2mmの熱可塑性樹脂の連続糸条を流下させて立体的に付形させると共に、周動現象を利用してそれぞれの連続糸条を不規則なループをなさしめ、糸条が重なる点で両糸条を融着接着させて立体網状体とする。前記糸条がまだ軟化している状態の時に、金型上面に遮水性シートを繰出して乗せ、さらに遮水性シート上面から圧迫ロールで押し圧をかけて、金型凸部に引っかかっている軟化連続糸条を圧迫し、熱接着させて片面に立体網状体が接着した遮水性シートを作る。前記シートへ接着している立体網状体は、直径が0.1〜2mmの熱可塑性樹脂の連続糸条の多数が不規則なループをなして、長さ方向に連続しており、平行光線透過率が50〜90%でかつ空隙率の大きい嵩高な立体網状体となっている。さらに、前記シートは、遮水熱接着シールをするために遮水性シートの両端5cm以上に立体網状体が形成されていない状態として立体網状体を遮水性シートに接着一体化している。この立体網状体が接着されていない遮水性シートの両端を、強力な斜向調整用のニップローラーで把持しながら、常に斜向調整を行って、片側に立体網状体を接着した遮水性シートを巻き上げて、巻き端面が揃った片面に立体網状体が熱接着された半製品の遮水性シートとする。
【0039】
次いで、覆土を保持するための嵩高な立体網状体をもう片面に熱接着形成させるのであるが、立体網状体を作る設備は前記した片面に立体網状体を作る設備と同じで、金型を深さ25mm以上としたものに置き換え、遮水性シートの替わりに前記半製品の遮水性シートを、金型側に立体網状体が接着していない遮水性シートとするようになして連続して繰出しながら、立体網状体が接着していない遮水性シートを赤外線ヒーターなどで加熱して、前記シート表面を強制的に軟化させ、すぐに、金型上の糸条がまだ軟化している状態の立体網状体に半製品遮水性シートの自重で圧着させて、立体網状体を両面に熱接着させた本発明の遮水性シートを得る。無論、2枚目の立体網状体を貼り付ける時、金型の反対側からスパイク状のローラーを用いて部分的に圧迫を加えて、より熱接着を強固にするのも良い。しかし、スパイクの形が反対面の立体網状体に生じ、見栄えが低下するが、ずり落ち効果には殆ど影響しないので実用上差し支えない。
【0040】
本発明の構成素材である立体網状体は、前記の様に凹凸に付形した金属金型へ、多数の、繊維直径が0.1〜2mmの熱可塑性樹脂の連続糸条を流下させて立体的に付形させると共に、周動現象を利用してそれぞれの連続糸条を不規則なループをなさしめ、糸条が重なる点で両糸条を融着接着させて立体網状体であって、厚み方向の断面が、平面的に重なって熱接着した連続糸条の平面板がプリーツ状になっており、プリーツの高さが立体網状体の厚みとして計測される様な立体網状体であることが好ましい。このプリーツ状に付形する金型の掘り込みh(mm)は、作ろうとする立体網状体の厚みをH(mm)とすると、概略H≦h≦1.2Hとするのが良く、溶融流動性が低い樹脂を用いる場合は、hをより深く、掘り込みの角度をより鈍角にするとよい。金型の底面に対し、掘り込み角度は75度以下が一般的であり、金型上面における掘り込み間隔は12mm以上であることが都合良く、これ以下であると、太い糸条が掘り込みに十分流れ込まなくなる場合がある。また、掘り込み角度は75度に限定はされないが、固化した太い糸条を型から抜出す時、多少斜め方向へ抜出したい場合など、直角でない方が抜き易く、かつ、金型を鋳物で作る場合や押し圧に対する強度などの点で角度を付けることが好ましい。
【0041】
また、掘り込み付形、逆に見れば上面の辺が極めて狭い、鋭角の台形錘を横に寝かした前記金型において、ロールで圧迫する場合があるため、金型下面と上面は平行であり、少なくとも幅方向のいずれかの一定高さの一番突起している突起の上端が連続して途切れなくロールに常に接触している様な構造に金型を作るとよい。即ち、金型において、ロール幅方向の少なくとも両端付近の同じ高さの少なくとも複数の突起頂点部が、前記突起頂点部が不連続であっても、途切れなく別の突起頂点部で同じ高さを維持できる構造の金型であることが好ましい。無論、覆土保持機能を発揮する立体網状体を作るために、上記条件を保有している金型において、前記突起高さの突起部より低い突起が存在している金型であっても良い。この場合は遮水性シートに接着していない突起が生じ、シートと突起頂点の間の空間があるため、当該空間に侵入した覆土は、シートと立体網状体に囲まれて、雨水による流出に対する残存性が極端に高くなり、極めて好ましいが、シートと立体網状体の接着強度の点で、シートに接着していない突起は50%以下が良い。勿論、全ての突起がシートに熱接着しているものも大変好ましい。
【0042】
本発明の遮水性植生基盤材の具体的な作り方の別の一例は、前記片面複合化遮水性シートを作製までは同じであるが、2枚目の立体網状体を接着するにおいて、押し圧ロールに代えて、粗い間隔の突起状スパイクロールを用いて突起の部分で強くシートを圧迫して金型上の半溶融立体網状体をシートに強固に接着する方法である。この時、シートの加熱がより好ましいが、非加熱でも不可能ではない。この方法では、先に接着した立体網状体の一部が、押しつぶされる。この押しつぶされる割合は、50%以下が好ましい。50%を超えると滑落防止機能に問題を生じ易くなる。
【0043】
本発明の遮水性植生基盤材の具体的な作り方の別の一例は、熱接着が少し劣る組合せの場合であって、立体網状体に熱接着し易い樹脂を予め遮水性シートの片面に共押出しした2層シートまたはラミネートシートとする、または、ホットメルト加工機で同じく片面に塗布しておきまたは塗布しながら、赤外線加熱機などで半溶融状態として、クリアランスを採った押し圧ロールに沿わせて立体網状体を接着させて、本発明の両面に立体網状体を接着した遮水性植生基盤材を得るものである。
【0044】
本発明の遮水性植生基盤材の具体的な作り方のさらに別の一例は、立体網状体の太い糸条を偏芯した鞘芯型複合繊維などの複合繊維とし、繊維表面の過半を覆う熱可塑性樹脂とシートの構成樹脂を同じ種類の熱可塑性樹脂(同系樹脂)とするもので、繊維内部を構成する樹脂でさらに剛性を高めた遮水性植生基盤材を得ることができる。
【0045】
本発明の何れの製造方法においても、片面複合化遮水性シートは蛇行調整しながら繰出す必要があり、前記片面複合化遮水性シートは、例えば簡単に蛇行調整できるニップ式の蛇行調整器を用いる場合などで、厚みが一定で、薄いほど調整が簡単なために、そして、遮水熱接着シールをするために遮水性シートの両端5cm以上に立体網状体が形成されていない状態として立体網状体を遮水性シートに接着一体化するのが特に好ましく、ニップ式の蛇行調整器を用いるにおいて、この立体網状体が接着されていない遮水性シートの両端を、強力な斜向調整用のニップローラーで把持しながら、容易に常に斜向調整を行うことができ都合が良い。
【0046】
以上、ポリオレフィン系樹脂を中心として製造方法について説明したが、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂においても同様に製造することができる。
【0047】
次に、本発明の遮水性植生基盤材を図面に基づき説明する。図1は、本発明の遮水性植生基盤材の製造方法に使用することができる製造装置の一例である。図2は、本発明の立体網状体が金型上で付形される断面図の一例である。図3は、遮水性シートの片面に立体網状体が配置された一例を示す斜視図である。図4は、遮水性シートの両面に立体網状体が配置された本発明の遮水性植生基盤材の一例を示す斜視図である。図5は、立体網状体の成型に用いる金型の一例である。
【0048】
図1は、溶融押出し機へと繋がっている3〜6列に整然とノズル孔が配列されて穿たれているノズル2と、前記ノズルから吐出された太い糸条1を受けるための、一定幅で分割された、金属製金型4を装着したキャタピラ式の金型コンベアが10〜50cm離れた下位のその直下を含む場所に配置されており、前記キャタピラ式の金型コンベアの上位で前記ノズルの直近に押し圧ロール6に沿わせて遮水性シート9を繰出せるシート繰出し機が配されており、前記コンベアの下手に巻き取り機が配されている立体網状体製造設備である。
【0049】
まず、図3に示す柔軟な遮水性シート9の片面に立体網状体3が熱接着されている片面複合化遮水性シート5を作製する。一般的には、滑落防止のための立体網状体層(滑落防止層)3bの方が、覆土保持のための立体網状体層(覆土保持層)3aよりも厚みが薄くて良いので、最初に作る当該シート5は滑落防止層付きのシートである。勿論、立体網状体の厚みが薄い方が沢山巻けるという経済的な面と、立体網状体が厚いほど、巻きつけると立体網状体の形状が崩れ易いという面から必然的なことであるが、別に逆でも問題とはならない。
【0050】
巻き上げた片面複合化遮水性シート5を、蛇行調整器10が付属しているシート繰出し機に、立体網状体を接着していない面が金型コンベア側になる様にセットする。また、シートを沿わせて金型コンベア上に乗せる押し圧ロール6を接着している立体網状体の概ね厚み分コンベア上に浮かせる処置をする。また、前記シート5の立体網状体を接着していない面を加熱するために、赤外線ランプ、赤外線加熱板等の加熱装置11を設置する。無論、前記片面複合化遮水性シート5を作製する時にも前記加熱装置11や蛇行調整器10を使用するのも好ましい。前記片面複合化遮水性シートの製造と同様にして、シート表面を加熱して軟化させながら、極めて弱いまたは弱い押し圧下で、もう片面に立体網状体を接着して、図4に一例を示す本発明の両面に立体網状体を接着した遮水性植生基盤材を得ることができる。当然のことながら、後者の立体網状体は、金型を交換することで厚みの異なった、より厚みの大きい立体網状体3aとすることもより好ましい。
【0051】
図4は、本発明の両面に立体網状体を接着した遮水性植生基盤材の好ましい一形態である。遮水性植生基盤材12は、基材である遮水性シート9、遮水性シート9に接着して一体化している立体網状体3であって、滑落防止機能を期待している立体網状体層(滑落防止層)3aと、立体網状体層(滑落防止層)3aより厚みを付けた保持機能を期待している立体網状体層(覆土保持層)3bである。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の効果を実施例と比較例で具体的に説明する。なお、本発明の実施の一形態である直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を原料に用いた遮水性シートと立体網状体でなる両面に立体網状体を接着した遮水性植生基盤材で、主に説明する。なお、他の製造方法や形態の遮水性植生基盤材も実施例を参考にすれば、同様に容易に作ることができることは、言うまでもない。
【0053】
(遮水性シートの片面に立体網状体が熱接着されている片面複合化遮水性シートの作製)
図1の製造装置を用いて、片面に立体網状体が熱接着されている遮水性シートをまず作製した。これらに用いた熱可塑性樹脂は、全て直鎖状低密度ポリエチレン樹脂である。使用した遮水性シートは、融点が124℃でMIが約1g/10分の樹脂を溶融させてTダイで押出して、厚さが1mm、1.5mm、3mm、および5mmの押出し成形シートを用いた。また、厚さが0.3と0.5mmのシートは立体網状体に用いた樹脂を用いインフレーション法で成形して得た。
【0054】
立体網状体に用いた熱可塑性樹脂は、融点が122℃でMIが約30g/10分及び20g/10分の樹脂を使用した。使用した金型は、厚み5mm、10mm及び15mmの立体網状体には、突起の最少間隔が10mmの金型を、厚みが25mmの立体網状体には、突起の最少間隔が10mmと20mmの金型をそれぞれ使用した。
【0055】
前記樹脂とシートを用いて、260℃に加熱したノズルより太い糸条1を吐出させて金型上に集積させると共に繊維間を熱接着させて立体網状体3を形成させ、直ちに、赤外線加熱して加温した前記シートを押し圧ロールに沿わせて金型上に圧迫しながら載せた。この時、金型の突起上に乗っている太い糸条1が押し潰されながらシートに熱接着した。
得られた片面複合化遮水性シートの結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1における「優」は全く問題なく使用できるもの、「優+」は特に優れた品質のもの、「良」は実用レベルで使用できるもの、「可」は使用する際に選別が必要なもの、「×」は使用に問題があるものを示す。
【0058】
片面品の出来栄えについては、「優」は使用できる外観のもの、「良」は繊維のない部分があるものを示す。
【0059】
接着部の状況は、「優」は熱接着部分の凹みが殆ど無く、シートと本来接着すべき立体網状体部分で未接着の部分が殆どない状態、「可」は凹みがあるが、穴が開いておらず遮水シートとして使用できるが、穴開きの可能性がゼロではないもの、「×」はシートに孔が開いている個所が容易に発見でき、遮水シートとして使用できないものを示す。
【0060】
片面品の耐圧性は、平らな床面にシートを上としてひき、土足で踏みつけた時に余り立体網状体が変形せず、かつ、足をのけた時に元の状態に戻るか否かで評価した。「優」と「優+」は殆ど変形せず、「良」は変形するが元に戻るものである。
【0061】
滑り落ち防止性及び覆土保持性は、黄土色の山土を盛り、45度の傾斜面を作って、各1m角(1m2)のサンプルをその上に乗せて評価した。
【0062】
滑り落ち防止性の評価は、立体網状体面を山土に接する様にひき、盛山の上からロープを支えに人がその上に乗って、サンプルの中央に行けるかどうかで判定した。「優」は中央まで行ってもシートが滑落しないもの、「良」は歩き始めると少しシートがずれるが中央まで行く間にシートのずれが止まるもの、「可」はシートの上部に20cmを等間隔で打てば、良と同じ状態となるもの、「×」はシートをひく時に滑落するものを言う。
【0063】
覆土保持性は、立体網状体面を上として盛山にひき、上部にアンカーを打って固定し、厚さ3cmの覆土を上部から行い、立体網状体を接着していないシートと同様に盛り土が滑落するものを×とした。「優」は3cmの覆土ができるもので、「良」と「可」はそれぞれ2cmと1cmの覆土が容易にできるものである。
【0064】
試料12は、立体網状体を接着する時、シートを加熱しなくても、シートが薄すぎて溶けたタングレットが接したときに接着部分で熱によりシートに孔が開き、シートを加熱するとシートに引きつりが生じ加熱ができなかった。試料13では、立体網状体が硬すぎて、柔軟性がなく、ひいた時に土壌表面を滑り、覆土においては、繊維密度が高すぎて、立体網状体内に土が入らず立体網状体の高さを超えた土は容易に滑落してしまう結果となった。また、試料14として、厚みが5mmの遮水性シートとの貼り合わせを試みたが、硬くて繰出しがうまくコントロールできず、立体網状体の貼り合わせを断念した。
【0065】
(両面に立体網状体が熱接着されている本発明の複合化遮水性シートの作製)
赤外線加熱器を稼働させた図1の製造装置を用いて、本発明の両面に立体網状体を熱接着した遮水性植生基盤材を作製した。前記した幅方向の蛇行をできるだけ少なく調整して巻き上げた片面に立体網状体を熱接着した片面複合化遮水性シート(試料1〜10)を、シートが赤外線加熱装置11に面する様に、図1の遮水性シート9の替わりに装着し、蛇行調整器10を使用して、蛇行をさらに調整しながら、遮水性シートの繰出しと同様にして繰出した。加熱されているシート面の軟化度合いを見ながら、シートの繰出し速度と電圧調整した赤外線加熱装置11の整合をとって調整して、貼り付けられている立体網状体の厚みのクリアランスを調整した押し圧ロール6に沿わせて金型4上に僅かの押し圧で押し付けながら、金型コンベアの速度に同調させて前記シートを繰出した。なお、金型は予めもう1面に付ける立体網状体の仕様に合せて金型交換しておき、シートの繰出しと同時に、金型4コンベア上に、ノズル2より太い糸条1を吐出して立体網状体の形成作業を行い、加熱して軟化させた遮水性シートに、まだ軟化している状態の立体網状体を押し付けて馴染ませて熱接着させた。金型コンベア上で固化させた後、巻き取って両面に立体網状体を熱接着した両面複合化遮水性シートを得た。
【0066】
[実施例1]
試料1の片面複合化遮水性シートを繰出し、試料1作製時に使用した金型を用い、試料1と同様の条件で厚み15mmの立体網状体をもう一方の面にも貼り付けて、両面に厚み15mmの立体網状体をしっかり貼り付けた両面複合化遮水性シートを得た。これを試料1と同様にして、滑り落ち防止性と覆土保持性を評価したところ、1枚のシートで試料1のシートの両特性を満足した同じ数値の結果を得た。また、耐圧性も試料1とほぼ同様の結果を得て、実用上全く問題のない、傾斜地における不透水性シート自身の滑落防止性と覆土のずれ止め性を具備した遮水性植生基盤材を得ることができた。
【0067】
[実施例2]
試料1の片面複合化遮水性シートを繰出し、試料3作製時に使用した金型を用い、試料3と同様の条件で厚み25mmの立体網状体をもう一方の面にも貼り付けて、片面が15mmで、もう片面が25mmの立体網状体を貼り付けた両面複合化遮水性シートを得た。15mm厚の立体網状体を滑落防止層とし、25mm厚の立体網状体を覆土保持層として実施例1と同様にして評価したところ、覆土保持性が試料11よりさらに良い遮水性植生基盤材を得ることができた。
【0068】
[実施例3]
実施例1と同様にして、試料2の片面複合化遮水性シートを用いて両面に厚み15mmの立体網状体を貼り付けた両面複合化遮水性シートを得た。評価結果は実施例1と同様であった。
【0069】
[実施例4]
実施例1より片面複合化遮水性シートの繰出し速度を上げて遮水性シートの軟化度合いを下げた条件で、試料7の片面複合化遮水性シートを繰出し、実施例1と同様にして、シートに孔が開かず、立体網状体が部分的に熱接着していないが実用上差し支えない両面複合化遮水性シートを作製することができ、得られたシートの評価結果は実施例1と同様であった。
【0070】
[実施例5]
試料6の片面複合化遮水性シートを繰出し、試料3作製時に使用した金型を用い、試料3と同様の条件で厚み25mmの立体網状体をもう一方の面にも貼り付けて、片面が10mmで、もう片面が25mmの立体網状体を貼り付けた両面複合化遮水性シートを得た。10mm厚の立体網状体を滑落防止層とし、25mm厚の立体網状体を覆土保持層として実施例1と同様にして評価したところ、滑落防止性は実施例1に若干劣るが、覆土保持性が実施例1より良い、覆土施工した時には実施例1と同等の滑落防止性と覆土保持性を持つ遮水性植生基盤材を得ることができた。
【0071】
[実施例6]
実施例5の片面複合化遮水性シートの代わりに、試料5のシートを用いて実施例5と同様にして、両面複合化遮水性シートを作製した。得られたシートは、実施例5と同様にして覆土施工した時には実施例1とほぼ同等の滑落防止性と同等の覆土保持性を持つ遮水性植生基盤材を得ることができた。
【0072】
[実施例7]
実施例1と同様にして、試料8のシートを用いて両面複合化遮水性シートを作製した。得られたシートは、施工時の剛軟性に欠ける傾向にあるが、実施例1と同様の評価結果であった。
【0073】
[比較例1]
試料11の片面複合化遮水性シートを用い、試料11と同様の条件で立体網状体をもう一方の面にも貼り付けて、両面複合化遮水性シートを作製した。得られたシートは、試料11と全く同様の結果となった。なお、試料13同士のものも同様であった。
【0074】
[比較例2]
試料11の片面複合化遮水性シートを用い、試料1と同様の条件で立体網状体をもう一方の面にも貼り付けて、両面複合化遮水性シートを作製した。得られたシートは、試料11の立体網状体層が試料11と全く同様の結果を示し、滑落防止性と覆土保持性を持つ遮水性植生基盤材としては、実用的ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の遮水性植生基盤材は、産業廃棄物処分場の底面遮水材や雨水の浸透を排除するキャッピング資材として有用なだけでなく、酸性廃土の処分場などの遮水資材としても極めて有用であり、雨水の浸透を排除してがけ崩れの防止のための復旧工事資材としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の遮水性植生基盤材における製造装置の一例である。
【図2】本発明の立体網状体が金型上で付形される断面図の一例である。
【図3】遮水性シートの片面に立体網状体が配置されたシート(片面複合化遮水性シート)の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の遮水性植生基盤材の一例を示す斜視図である。
【図5】立体網状体の成型に用いる金型の一例である。
【符号の説明】
【0077】
1 糸条
2 ノズル
3 立体網状体
3a 覆土保持用立体網状体(覆土保持層)
3b 滑落防止用立体網状体(滑落防止層)
4 金型
5 片面複合化遮水性シート
6 押し圧ロール
7 ガイドロール
8 ピックアップロール
9 遮水性シート
10 蛇行調整器
11 加熱装置
12 遮水性植生基盤材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮水性シートと、
前記遮水性シートの両方の面に、熱可塑性樹脂から成る直径0.1〜2mmの複数の連続糸条が不規則に重なり合って長さ方向に連続している、平行光線透過率が50〜90%の立体網状体が積層され、接合し一体化して成る、遮水性植生基盤材。
【請求項2】
一方の立体網状体が滑落防止層を形成し、他方の立体網状体が覆土保持層を形成して成る、請求項1に記載の遮水性植生基盤材。
【請求項3】
前記覆土保持層の厚さが5〜25mmであり、且つ前記滑落防止層の厚さが5〜25mmである、請求項2に記載の遮水性植生基盤材。
【請求項4】
前記立体網状体及び前記遮水性シートを構成する熱可塑性樹脂が共に、同系樹脂を少なくとも70mass%含む樹脂であり、前記同系樹脂の融点が100〜150℃である、請求項1に記載の遮水性植生基盤材。
【請求項5】
前記同系樹脂が、低密度ポリエチレン樹脂、プロピレン系共重合樹脂、及びエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂である、請求項4に記載の遮水性植生基盤材。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、同系樹脂として融点を110〜140℃とする直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を100〜70mass%含み、低密度ポリエチレン樹脂又はプロピレン系共重合樹脂0〜30mass%の範囲で含む樹脂である、請求項4に記載の遮水性植生基盤材。
【請求項7】
前記立体網状体を構成する熱可塑性樹脂が、融点を110〜140℃とする直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であり、前記遮水性シートを構成する熱可塑性樹脂が、融点を130〜150℃とし、且つ前記直鎖状低密度ポリエチレンの融点以上であるプロピレン系共重合樹脂である、請求項1に記載の遮水性植生基盤材。
【請求項8】
前記立体網状体及び前記遮水性シートを構成する熱可塑性樹脂が、同系樹脂を少なくとも70mass%含む樹脂であり、前記同系樹脂が融点を130〜180℃とするポリエステル系熱可塑性エラストマー樹脂またはポリアミド系熱可塑性エラストマー樹脂である、請求項1に記載の遮水性植生基盤材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−283278(P2006−283278A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100579(P2005−100579)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】