説明

選択的ケモカイン調節

本発明は、試料でケモカインIP‐10の量を減少させるおよび/または細胞でIP‐10の産生を減少させる能力を有した金属または金属酸化物の使用について開示する。金属は元素の周期表の4または5族の金属、好ましくはチタンである。これらの金属および金属酸化物はその表面へIP‐10を選択的に結合させて、それにより周囲媒体からIP‐10を除去しうる。加えて、金属‐細胞接触はIP‐10産生細胞からのIP‐10の産生で減少を誘導する。本発明の金属および金属酸化物は、したがって、有害IP‐10発現で特徴づけられる病状、例えば炎症反応を治療および/または予防するために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、一般的に、ケモカインIP‐10の選択的調節と、有害IP‐10発現とにより特徴づけられる疾患および病状の治療または予防に関する。
【0002】
背景技術
サイトカインは、細胞間連絡に広く用いられるタンパク質性シグナリング化合物の群である。これらの化合物は先天性および適応性免疫応答双方の機能化に重要である。免疫系の進行および機能化におけるそれらの重要性とは別に、サイトカインは様々な免疫、炎症、および感染疾患において大きな役割を果たす。
【0003】
サイトカインは様々な細胞種(造血系および非造血系双方)により産生され、他の化合物およびサイトカインの存在に時々強く依存して、近隣細胞または生物全体において効果を有しうる。
【0004】
各サイトカインは一般的に特異的細胞表面レセプターと結合する。それに続く細胞内シグナルのカスケードが次いで細胞機能を変化させる。これは幾つかの遺伝子およびそれらの転写因子の上方調節および/または下方調節を含むことがあり、ひいては他のサイトカインの産生、他分子に関する表面レセプター数の増加、またはフィードバック阻害によるそれら自身の効果の抑制に至る。
【0005】
ケモカインは、細胞間の化学誘引(走化性)を媒介する、特定クラスのサイトカインに関する。これらのケモカインは、8〜10kDaの分子質量を通常有する、炎症促進性活性化誘導サイトカインである。それらのレセプターは、Gタンパク質にカップリングされた、主に七つの膜貫通ヘリックスを含有する内在性膜タンパク質である。
【0006】
ケモカインは、身体的ダメージを引き起こす細菌感染、ウイルス、および媒介物に応答して様々な細胞から放出される。それらは、血液から感染またはダメージ部位への、白血球、動員単球、好中球、および他のエフェクター細胞の化学誘引物質として主に機能する。それらは多くの異なる細胞種により放出され、先天性免疫に関与する細胞と適応性免疫系のリンパ球も導くように働く。一部のケモカインは、リンパ球の成長、遊走、および血管新生においても役割を有する。
【0007】
サイトカインおよびケモカインは、多くの異なる疾患および発病または有害状態に関与することから、これら化合物の発現および/または放出をもたらすまたは調節することが一般的に必要とされている。さらに、このような放出/発現調節は、好ましくは、限定数の標的サイトカインまたはケモカインのみに影響しうるという点において選択的であるべきである。
【0008】
文献〔1〕には、炎症促進性サイトカインおよびケモカインのマクロファージ活性化および分泌に及ぼすチタン表面の効果について研究されている。粗いチタン表面へ付着した場合、リポ多糖(LPS)刺激マクロファージは、サイトカイン インターロイキン‐1β(IL‐1β)、IL‐6、および腫瘍壊死因子‐α(TNF‐α)と、ケモカイン 単球化学誘引性タンパク質‐1(MIP‐1)、およびマクロファージ炎症タンパク質‐1α(MCP‐1α)の分泌を増加させた。
【0009】
文献〔2〕には、チタン粒子がヒト骨芽細胞様骨肉腫細胞においてIL‐8およびMCP‐1ケモカインの選択的誘導を刺激することが開示されている。
【0010】
文献〔3〕には、マクロファージ様細胞(MLC)においてサイトカイン放出に及ぼすチタン粒子の効果について研究されている。チタン粒子は、IL‐1β、IL‐8、およびTNF‐αのMLC放出を有意に高めた。
【0011】
文献〔4〕には、修飾された物質表面とのマクロファージ相互作用の概要が示されている。該文献には、マクロファージがIL‐1β、IL‐6、IL‐10、およびTNF‐αの修飾表面放出と関連していたことが開示されている。
【発明の概要】
【0012】
本発明は従来法のこれらおよび他の欠点を克服する。
【0013】
ケモカイン10kDaインターフェロン‐γ誘導性タンパク質、IP‐10の選択的調節を提供することが、本発明の一般的な目的である。
【0014】
IP‐10から試料を精製するために用いられる組成物を提供することが、本発明の他の目的である。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、IP‐10発現を減らすために用いられる組成物を提供することである。
【0016】
これらおよび他の目的は、添付した特許請求の範囲において規定されている発明により実現できる。
【0017】
簡単に言えば、本発明は、IP‐10を当該表面へ選択的に結合させうる能力を有した金属または金属酸化物の使用に関する。金属表面とIP‐10産生細胞との接触が該細胞のIP‐10産生において減少を引き起こすという点で、金属(酸化物)はIP‐10下方調節効果を更に有する。
【0018】
本発明の金属または金属酸化物は元素の周期表の4または5族の金属である。好ましいこのような金属としては、チタン、バナジウム、およびタンタルとそれらの酸化物がある。更に好ましくは、金属はチタンの酸化物、例えば二酸化チタンである。
【0019】
本発明の金属および金属酸化物は、IP‐10の有害発現および/または放出で特徴付けられる疾患を治療または予防する薬剤を製造するために用いられる。このような疾患としては、有害炎症応答、感染疾患、自己免疫疾患、宿主対移植片疾患、および異物反応がある。これらすべての疾患において、IP‐10は該疾患の進行における主要な要因であり、IP‐10の減少が該疾患を治療および/または予防するために用いることができる。
【0020】
本方法は、対象者において有害IP‐10発現および/または放出で特徴づけられる疾患を治療する方法にも関する。第一方法においては、該疾患に罹患した対象者へ本発明の薬剤を投与する。第二方法におては、対象者から抽出された体液のエクスビボ処理に関する。この方法においては、IP‐10が本発明の金属または金属酸化物を用いたエクスビボフィルタリングにより除去され、精製された血液が次いで特定の対象者へ戻される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明は、その更なる目的および利点と共に、添付図面とともに以下の記載を参照することにより最も良く理解される:
【図1】図1は、ヒト全血においてIP‐10の放出に及ぼすグレーチタン顆粒(GG)の効果を表した図である。
【図2】図2は、ヒト全血においてIP‐10の放出に及ぼすグレーチタン顆粒(GG)での前処理(−1t)対後処理(+1t)の効果を表した図である。
【図3】図3は、全血をチタン顆粒とインキュベートした後における、全白血球および単球での相対的IP‐10遺伝子発現を表した図である。
【図4】図4は、全血をチタン顆粒とインキュベートした後における、単球でのIP‐10遺伝子発現に及ぼすグレーチタン顆粒(GG)の効果を表した図である。
【図5】図5は、グレーチタン顆粒(GG)と共におよびそれなしでインキュベート後における、全および個別WBC数を表した図である。
【図6】図6は、チタン顆粒の共存および非存在下における未処理および感染(LPS)血液の血液ループシステム中IP‐10の濃度を表した図である。
【図7】図7は、グレーチタン顆粒(GG)、篩分けグレーチタン顆粒(GP)、ホワイトチタン顆粒(WG)、および粉砕ホワイトチタン顆粒(WP)の使用で血液ループシステム中におけるIP‐10レベルを表した図である。
【図8】図8は、異なる量の添加粉砕ホワイトチタン顆粒(WP)を用いた血液ループシステム中におけるIP‐10レベルを表した図である。
【図9】図9は、リウマチ様関節炎の患者の滑液中IP‐10レベルに及ぼす粉砕ホワイトチタン顆粒(WP)の効果を表した図である。
【図10】図10は、リウマチ様関節炎の患者の滑液(SF)中IP‐10レベルに及ぼす異なる量の粉砕ホワイトチタン顆粒(WP)の効果を表した図である。
【図11】図11は、グレー(A,C,E)およびホワイト(B,D,F)チタン顆粒を示した走査型電子顕微鏡写真(250×、2000×、5000×倍率)を表す。
【図12】図12は、グレー(A)およびホワイト(B)チタン顆粒のlog微分水銀圧入容積対孔径曲線を表す。
【図13】図13は、IP‐10でスパイクされた血清中IP‐10に及ぼす異なるチタン形態および他の金属の効果を表した図である。
【図14】図14は、滑液(SF)中IP‐10に及ぼす異なるチタン形態および他の金属の効果を表した図である。
【図15】図15は、体液からIP‐10を除去する上で本発明に従い用いられるツールの概略図である。
【図16】図16は、体液からIP‐10を除去する上で本発明に従い用いられる他のツールの概略図である。
【発明の具体的説明】
【0022】
図面の全体を通して、同参照記号は対応または類似する要素に用いられる。
【0023】
本発明は、一般的に、特定サイトカインおよびケモカインの選択的調節に関する。本発明は、ある金属および金属酸化物が特定ケモカインの発現および放出を減少させて、ケモカインスカベンジャーとして作用しうることを開示している。これは全体として予想外であり、金属チタンが異なる細胞種によるサイトカインおよびケモカインの産生で上方調節を引き起こすことを、文献〔1〜4〕全てにおいて示されているような先行技術が示しているからである。
【0024】
したがって、本発明は、特定ケモカインの有害発現または放出により特徴づけられる疾患および病状を予防および/または治療するために用いられる。
【0025】
本発明に従い減少させうる関連ケモカインは、10kDa(10,000ダルトン)インターフェロン‐γ誘導性タンパク質、IP‐10である。IP‐10は、当業界においてC‐X‐Cモチーフリガンド10(CXCL10)またはCrg‐2とも称されるが、第一システインの直前にELR(1文字アミノ酸コード)の特定アミノ酸配列を有する、CDCケモカインファミリーに属する。これらのCXCケモカインは好中球の遊走を誘導する。しかしながら、IP‐10は、それが好中球および標的リンパ球で特に活性を有しないという点で、ほとんどのCXCケモカインと異なるようである。IP‐10は、レセプターCXCR3と、上皮および内皮細胞のIP‐10特異的レセプターにおいて作用する〔5〕。IP‐10はインターフェロン‐γ(IFN‐γ)に応答して幾つかの細胞種により分泌される。これらの細胞種としては、単球、内皮細胞、および線維芽細胞がある。
【0026】
IP‐10減少効果を有する本発明による金属および金属酸化物は、元素の周期表において4または5族から選択される金属および金属酸化物である。そのため、本発明には、金属チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタンタル(Ta)とこれら金属の異なる酸化物とを包含している。好ましい金属としては、チタン、タンタル、およびバナジウムとそれらの酸化物、特にチタンおよびチタン酸化物がある。
【0027】
チタンは、三つの酸化状態、Ti(II)、Ti(III)、およびTi(IV)を有する。本発明においてはチタンのこれら酸化物、即ちTi(II)酸化物、Ti(III)酸化物、およびTi(IV)酸化物のいずれも用いうる。Ti(IV)酸化物は、当業界において二酸化チタン(TiO)またはチタニアとも称される。この二酸化チタンが本発明によるチタンの好ましい酸化形態である。TiOは、ルチル、アナタース、およびブルカイトを含めた、異なる鉱物または結晶形で存在しうる。ルチルは通常プリズム相の正方晶鉱物であり、アナタースまたはオクタヘドライトは両錐相の正方晶鉱物であり、一方ブルカイトは斜方晶鉱物である。本発明による好ましい二酸化チタンは、好ましくは、ルチル形態またはルチルと、アナタース形態との混合物である。
【0028】
ジルコニウムの好ましい酸化物はZr(IV)酸化物であり、Hf(IV)酸化物が好ましい酸化ハフニウムである。バナジウムは、酸化状態V(II)、V(III)、V(IV)、およびV(V)において存在する。利用可能な酸化バナジウムには、V(IV)酸化物(二酸化バナジウムVO)およびV(V)酸化物(五酸化バナジウムV)がある。酸化ニオブはNi(V)酸化物またはNi(III)酸化物の形態で存在し、タンタルはTa(II)、Ta(IV)、およびTa(V)の酸化状態を有する。
【0029】
本発明によるIP‐10減少または除去金属剤は、少なくとも一種の4または5族の金属および/または少なくとも一種のまたは4族の金属酸化物を含んでなる。金属剤は実質的に純粋な形態の金属または金属酸化物、例えば少なくとも約95%金属または金属酸化物、好ましくは少なくとも約96、97、98、または99%金属または金属酸化物である。金属は必ずしも純粋な形態でなくてもよく、金属酸化物に加えて、該金属との異なる化学化合物または組成物であってもよい。本発明による少なくとも一種の金属および/または少なくとも一種の金属酸化物を含んでなる合金も用いられる。
【0030】
本発明の金属および金属酸化物は、異なる基本メカニズムに従い、IP‐10を減少させてもよい。
【0031】
第一に、金属および金属酸化物は、周囲媒体中のIP‐10が金属および金属酸化物の表面と特異的に結合するという点で、IP‐10スカベンジャーのように作用する。そのため、IP‐10は金属(酸化物)表面において豊富化されるようになり、したがって周囲媒体から枯渇される。IP‐10の範囲内において分子サイズを有した、ケモカインのCXCL群に属する構造的および化学的に密接に関連したインターロイキン‐8(IL‐8、CXCL8とも称される)および単球走化性タンパク質1(MCP‐1、CCL2とも称される)を含めて(二種のケモカインは98または99アミノ酸を含有する)、他のケモカインがIP‐10のレベルで該金属と結合しないことから、このIP‐10金属(酸化物)結合は高度に特異的である。BSAまたは牛胎児血清で金属(酸化物)表面を遮断しても、該表面へのIP‐10の結合性に影響を与えない。界面活性剤(Tween-20)添加により該表面から結合IP‐10を除去することが不可能であったことから、該結合性も高度に強い。
【0032】
本発明の金属および金属酸化物は、選択的IP‐10金属(酸化物)結合を介して、高度に特異的なIP‐10スカベンジャーのように作用する。結果として、金属および金属酸化物は、不所望IP‐10から媒体を精製し、それにより媒体中でIP‐10を除去するかまたは少なくともその濃度および量を減少させるために用いることができる。
【0033】
第二に、IP‐10産生細胞を本発明の金属または金属酸化物と接触させた場合、IP‐10 mRNA産生の減少からわかるように、細胞‐金属相互作用はIP‐10産生により下方調節を引き起こす。これは次いで新たに産生されるIP‐10のレベルを減少させる結果を有する。実験においては、本発明の金属が既知IP‐10産生細胞、例えば好中球および単球と確かに結合しうることも示した。
【0034】
このように、本発明の金属および金属酸化物は、IP‐10結合を介して媒体からIP‐10を除去し、IP‐10 mRNA産生の下方調節を引き起こしてIP‐10発現の量を減少させることにより、IP‐10を減少させうる。
【0035】
少なくとも一部はIP‐10分子をその金属(酸化物)表面へ結合させることにより、本発明の金属および金属酸化物がIP‐10減少を引き起こすことから、金属および金属酸化物は好ましくは高い比表面積、即ち表面積/重量単位を有する形態で存在する。
【0036】
第一の態様において、金属(酸化物)剤は、多孔質顆粒、小粒、または小顆粒の形態で存在しうる。顆粒は周知のHunter工程またはKroll工程により生産されうる。得られる顆粒は高度に多孔質であり、大きな比表面積を有する。多孔質金属顆粒のこの比表面積は、好ましくは少なくとも0.005m/g、例えば少なくとも約0.01m/g、更に好ましくは約0.02m/g以上、例えば約0.055m/gである。
【0037】
顆粒の好ましい孔隙率は、顆粒で連続するミクロおよび/またはマクロ孔を含めた多数孔と、多数孔の開口、および多数孔の少なくとも一部を連絡するダクトまたは通路を顆粒が含んでいることを意味する。金属(酸化物)剤の孔隙率は、好ましくは少なくとも25%、更に好ましくは少なくとも40%、例えば少なくとも約50%である。約70%以上の孔隙率を有する高多孔質金属顆粒が、本発明に従い製造および使用される。
【0038】
mmまたはサブmmサイズで高多孔質金属顆粒を提供する代わりに、100μm以下、例えば数μmまたはサブμm範囲でそれより小さな平均径を有する小さな金属(酸化物)粒子も本発明に従い用いられる。このように小さな金属粒子またはダクトは少量でも大きな表面積をもたらす。
【0039】
本発明の第一の態様は、対象者においてIP‐10の有害発現および/または放出により特徴づけられる疾患を治療または予防するための薬剤の製造のための、金属または金属酸化物の使用に関する。該金属は、元素の周期表で4または5族の少なくとも一種の金属、4または5族の少なくとも一種の金属酸化物、あるいは少なくとも一種の4または5族金属と4または5族の少なくとも一種の金属酸化物との混合物から選択される。
【0040】
本発明の金属(酸化物)剤は、有害IP‐10発現により特徴づけられる疾患に罹患する可能性のある、対象者、好ましくは哺乳類対象者、更に好ましくはヒト対象者へ投与されることにより疾患を予防するために、双方とも用いることができる。このような場合に、金属剤は、IP‐10 mRNA発現を減少させることにより、対象者におけるIP‐10の産生で減少を引き起こす。更に、IP‐10が対象者において高レベルで産生される場合/されるならば、既に供された金属剤はIP‐10をその表面と結合させ、それにより自由に循環しているIP‐10のレベルを減少させて、IP‐10により疾患のその有害作用を有しないように防ぐ。そのため、本発明の金属剤は、IP‐10依存性疾患の開始を妨げられるセーフガードとして機能することができる。
【0041】
金属剤が金属‐IP‐10結合を介して既産生IP‐10を除去できるため、IP‐10依存性疾患へ既に罹患した患者も本発明の薬剤から利益を得ることができる。加えて、IP‐10産生細胞はそれらのIP‐10産生を遮断または少なくとも減少させるように刺激される。
【0042】
本発明に従い治療および/または予防される疾患または病状としては、対象者において有害(高)レベルのIP‐10産生により特徴づけられるIP‐10依存性疾患がある。本発明は特に有害炎症反応を治療または予防するために有用であり、このような有害炎症反応は非常に様々な原因、例えば感染、炎症疾患、異物反応、および宿主対移植片疾患を有しうる。
【0043】
対象者が感染すると、細菌、ウイルス、寄生虫、真菌、プリオン、ウイロイド、または他の病原体に対する免疫防御の一部としてIP‐10が正常に作られる。しかしながら、正常な免疫系が変化した状況、例えば後天性免疫不全症候群(AIDS)においては、バランスがくずれた場合に正常な免疫応答が壊れることがある。即ち、免疫系が感染以上のダメージを組織/体に及ぼすようになる。クリプトスポリジウムに感染したAIDS患者において、IP‐10は有意に増加し、寄生虫負荷量と相関していた。IP‐10は感染部位の上皮細胞へ特に局在し、感染症が治療された場合に、IP‐10レベルが正常化された。これらの結果は、IP‐10が正常免疫防御で感染症の治癒に重要であることを示唆し、エフェクター細胞を欠くAIDS患者においてはIP‐10が免疫学的病因に関与しうる〔6〕。
【0044】
IP‐10は、直接的に〔7〕または活性化標的細胞の動員を介して〔8〕、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のようなレトロウイルス感染を促進することがある。脳脊髄液(CSF)中IP‐10のレベルはCSF中のHIVレベルと密接に関連し、このことはIP‐10が局所感染への応答およびその決定因子であることを示唆する〔9〕。
【0045】
ウイルス感染黄熱病(YF)の病因はサイトカインと大きく関わっており、IP‐10は非致死的YFより致死的YFで有意に高いことがわかった。これらの結果は、サイトカイン介入が感染患者の治療で可能な治療戦略であることを示唆する〔10〕。
【0046】
通常の感冒はウイルス感染、例えばライノウイルスで多くの場合に誘導される。ヒト上皮細胞のライノウイルス感染後、上皮細胞はインビトロおよびインビボ双方でIP‐10を産生することが示された。IP‐10のレベルは症状の程度と相関し、したがってIP‐10はウイルス誘導性感冒の病因で役割を果たすことが示唆される〔11〕。
【0047】
そのため、本発明は、有害IP‐10発現で特徴づけられる様々な感染疾患、特にAIDS、HIV、および黄熱病を含めたウイルス感染疾患を治療または予防するために用いられる。
【0048】
自己免疫疾患は、炎症疾患の特別な形態であり、体自身の細胞および組織に対して免疫応答を起こす。IP‐10は、免疫応答、特に遅延型過敏症(DTH)反応におけるキープレーヤーである。このようなDTH反応が自己免疫疾患にかかわっている。したがって、本発明の金属および金属酸化物で引き起こされるIP‐10の減少は、様々な自己免疫疾患において有効な治癒または予防処置となりうる。本発明の金属剤で治療または予防されうる自己免疫疾患の例としては、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、アジソン病、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群(APS)、再生不良性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎、セリアック病、クローン病、I型糖尿病、妊娠性類天疱瘡、グッドパスチャー症候群、グレイブズ病、ギラン‐バレー症候群(GBS)、橋本病、特発性血小板減少性紫斑病、川崎病、エリテマトーデス、多発性硬化症(MS)、重症筋無力症、オプソクローヌス‐ミオクローヌス症候群(OMS)、視神経炎、Ord甲状腺炎、天疱瘡、悪性貧血、原発性胆汁性肝硬変、リウマチ様関節炎(RA)、ライター症候群、シェーグレン症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎としても知られる)、温式自己免疫性溶血性貧血、およびウェゲナー肉芽腫症がある。
【0049】
MSは、脳および脊髄において神経を保護するミエリンに対する抗体を体が産生して、神経損傷を生じる自己免疫疾患である。MSの患者において、脊髄液は高レベルのIP‐10を含有し、中枢神経系中T細胞の蓄積は該疾患の病因で非常に重要である。したがって、IP‐10はMS療法の検査において可能な標的である〔12〕。IP‐10は損傷神経組織の病変部に集まることが示された〔13〜15〕。実験により、病状の程度が発現IP‐10の量と相関し〔16〕、IP‐10の遮断(抗体治療、DNAワクチン、アンチセンス療法、およびIP‐10結合免疫毒素)が異なるマウスモデルで臨床改善をもたらすことが示された〔17,18〕。したがって、他の公知IP‐10遮断剤がポジティブな効果を有していたことから、本発明による金属剤の使用はMSを治療または予防するために有効な薬剤となりうる。
【0050】
RAは、IP‐10が活性であることが示された自己免疫性疾患である。IP‐10濃度で百倍に達する増加がRA患者の滑液(SF)で検出されていた〔19〕。このIP‐10はT細胞をSFへ選択的に誘引し、RAの病因に関与している可能性がある〔20〕。IP‐10は特異的接着分子によりSFにおいて誘導され、これら分子に対する抗体の投与がIP‐10誘導を有意に阻害する〔21〕。IP‐10および他のケモカイン、レセプター発現のデータは、ケモカイン系がRAの破壊期に直接的役割を果たすことを示唆する〔22〕。本発明により引き起こされるIP‐10産生およびIP‐10レベルの減少は、RAの治療および防止に有益であろう。
【0051】
慢性肝炎および自己免疫性肝臓疾患において、IP‐10はIFN治療の成功後に上昇および減少する。IP‐10は慢性肝炎における肝細胞の蓄積および死において特別な役割を果たす〔23〕。同様の結果が自己免疫性肝臓疾患の患者において得られた〔24〕。
【0052】
IP‐10は慢性円板状エリテマトーデスの患者からの皮膚病変部において上方調節され〔25〕、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者は高IP‐10血清レベルを有しており、このIP‐10レベルは病活性のレベルと相関している〔26〕。したがって、本発明の金属(酸化物)含有薬剤はこれら種類の自己免疫疾患を治療および/または予防するためにも用いられる。
【0053】
本発明の薬剤により治療または予防される炎症応答は、対象者の胃腸管の炎症疾患に起因することがある。このような炎症疾患の例としては、炎症性腸疾患(IBD)、潰瘍性大腸炎(UC)、およびクローン病(CD、胃腸管に罹患する自己免疫疾患である)がある。これらの疾患は原因不明な胃腸管の重度慢性障害である。証拠の増加により、局所産生ケモカインが該疾患の進行で重要な役割を果たすことを示唆される〔27〕。IBD〔28〕、UC〔29〕、およびCD〔30〕は炎症した腸でIP‐10タンパク質発現の増加により特徴づけられ、IP‐10シグナリング経路を阻害することによる治療意義が論じられていた〔31〕。IP‐10に対する抗体の投与によるIP‐10シグナリングの遮断は、急性大腸炎〔32〕および慢性大腸炎〔33〕からの防御をもたらした。ブチレートはIP‐10放出を阻害し〔34〕、UC患者の治療に有効であることが示された〔35〕。IP‐10経路が失われるIFN‐γのマウス欠損は、正常野生型マウスであれば生じる硫酸デキストラン刺激に応答した大腸炎を起こすことができない〔28〕。IP‐10に対する抗体が炎症性腸疾患の治療のために開発されてきた〔59〕。これらの実験結果は、本発明のIP‐10阻害薬がIBD、UC、およびCDを含めた胃腸管の炎症疾患を治療および/または予防するために用いうることを示す。
【0054】
本発明の薬剤は、炎症疾患を治療および/または予防する上でも高度に有効である。例えば、IP‐10は、苔癬(強いIP‐10発現)、慢性円板状エリテマトーデス(強いIP‐10発現)、アレルギー性接触皮膚炎(強いIP‐10発現)、および乾癬(弱いIP‐10発現)の患者における皮膚病変部で上方調節されている〔25〕。これらの病変部には多量の浸潤活性T細胞が存在し、そのことは局所産生ケモカインとCXCR3発現T細胞との機能的相互作用を示唆する。このように、IP‐10経路は炎症性皮膚疾患におけるT細胞浸潤物の動員および維持で重要な役割を果たすようである。更に、本発明が治療および/または予防しうる有害炎症応答には、緑内障および緑内障に伴う炎症応答がある。
【0055】
IP‐10は脂肪細胞により産生および分泌されることが最近示され〔36〕、活性化T細胞と一緒にアテローム動脈硬化病変部で以前に見出された〔37〕。アテローム性動脈硬化症に罹患しやすいマウスでの実験研究により、IP‐10が免疫系の局所調節による病変形成で重要なキープレーヤーであることを示された。IP‐10欠損マウスにおけるこれらの結果は、IP‐10経路を阻害すれば、炎症促進性T細胞の量を減少させて、アテローム動脈硬化プロセスを阻害する防御T細胞群を増加させる傾向があることも示した〔38〕。動物モデルでこれらの最新の知見は、ケモカイン/ケモカインレセプター相互作用の遮断がアテローム性動脈硬化症を治療するために適したアプローチとして働きうることを示唆する。同様に、白血球動員を阻害するケモカイン拮抗剤は、アテローム性動脈硬化症の主な結末、心筋梗塞に応答した炎症を治療する上で特に興味深いものがある〔39〕。したがって、対象者においてIP‐10発現の減少とIP‐10レベルの減少とをもたらす本発明の薬剤は、アテローム性動脈硬化症を治療および/または予防するために有効であろう。
【0056】
有害IP‐10発現で特徴づけられる他の有害炎症応答は喘息である。喘息マウスモデルにおいて、IP‐10は気道で問題の過剰反応に関与することが示された。IP‐10欠損マウスは野生型動物と比較して反対の結果を呈し、このことはIP‐10経路が喘息療法の標的であることを示す〔40,41〕。ケモカインおよびIP‐10は、対象者の気道へネガティブに罹患する他の症状の影響も有する。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、小気道の狭小化および肺実質組織の破壊に起因する不可逆的気道閉塞により特徴づけられる症状である。該症状は好中球、顆粒球、マクロファージ、およびリンパ球に関連した気道炎症を引き起こす。IP‐10はCOPD患者の気道で上方調節される〔42〕。したがって、本発明の薬剤は、気道に罹患するCOPDおよび他の炎症症状を治療および/または予防するために用いられる。
【0057】
対象者の体へインプラントを移植すると、異物反応が誘発されるようになる。この反応は、対象者への外来物質、例えばインプラントの導入により引き起こされる、特殊な形態の有害炎症反応である。このような炎症反応はIP‐10分泌の増加により特徴づけられ、IP‐10が炎症反応におけるキーエフェクター分子の可能性がある。そのため、IP‐10レベルの減少は外来インプラントに対する炎症応答を減らし、それにより異物反応を阻害するであろう。
【0058】
本発明の金属および金属酸化物は、宿主対移植片疾患を予防または治療するためにも用いられる。そのため、移植片拒絶反応、特に急性期の移植片拒絶反応を防止するまたは少なくともその危険を減少させるために、本発明が移植片移植と関連して用いられる。器官、組織、または細胞の拒絶が治療上問題となることから、移植の結果は原則として宿主対移植片の反応に依存する。移植片の急性拒絶期にIP‐10が増加し、拒絶工程の診断マーカーとして用いられるが、IP‐10は拒絶の程度と相関しているためである〔43〜46〕。実験により、IP‐10に対する抗体の存在下における移植片またはIP‐10欠損マウスからの移植片の移植が移植片の長期生存と移植物へのT細胞浸潤減少をもたらすことが示された〔47,48〕。逆も示されたことがあり、即ちIP‐10に応答能のない動物において、移植片が長く生存するというものであった〔49〕。IP‐10シグナリング経路に対する拮抗剤が開発され、移植の結果を改善しうる療法として示唆された〔50〕。総合すると、これらの結果は、本発明のIP‐10除去および還元金属剤が移植された組織移植片、器官移植片、または細胞移植片、例えばランゲルハンス島の移植片拒絶反応を治療または予防する上で非常に有効な薬剤となりうることを示す。
【0059】
白血球浸潤が幾つかの癌種(新形成)に関与する。これらの浸潤白血球は、腫瘍細胞において成長因子および内皮細胞において血管新生因子の発生源となりうる。IP‐10はこのような癌に関与するサイトカインであることが示された。更に、ケモカインが白血球動員の重要な媒介物質であり、慢性炎症組織において発現および活性化の特徴変化を呈することから、それらは癌成長時に炎症および血管新生の重要な調節因子として関与していた。
【0060】
前悪性腫瘍増殖の部位における先天性免疫細胞の長期活性化は、腫瘍成長を高めることがある。多くの固形腫瘍でまたはその周囲で観察される初期および持続的炎症応答が、組織ホメオスタシスを変化される多様な因子を供することにより、新形成進行に適した環境を作る上で重要な役割を果たすことも、明らかになってきた〔51〜53〕。
【0061】
したがって、本発明の開示により、対象者において癌を治療または予防することができる。
【0062】
本発明の第二の態様は、対象者、好ましくは哺乳類対象者、更に好ましくはヒト対象者において、IP‐10の有害発現および/または放出により特徴づけられる疾患または障害を治療または予防する方法に関する。該方法は該疾患に罹患した対象者へ金属および/または金属酸化物を投与することを含んでなり、ここで該金属は元素の周期表の4または5族である。
【0063】
本発明によると、当業者に知られている処方法を用いて、薬学上許容可能な処方剤として金属または金属酸化物が提供される。これらの処方剤は標準経路により投与される。一般的に、コポリマーは、薬学上許容可能な剤形で活性成分を含んでなる医薬品の形態で、静脈内、腹腔内、皮下、口腔、直腸、皮膚、経鼻、経口、気管、気管支、局所で、いずれか他の非経口路または吸入により投与されてもよい。用いる具体的な投与経路は中でも治療される障害または症状に依存し、医師により決定される。例えば、皮膚投与は炎症性皮膚障害を治療するために有用であり、一方経口または直腸投与は胃腸管に炎症反応のある対象者において有益であろう。
【0064】
静脈内投与において、医薬組成物は選択溶媒の溶液中に本発明の金属または金属酸化物を含んでなる。特別な投与手段で、金属または金属酸化物含有溶液が治療の必要なヒトに一回または好ましくは複数回注入される。例えば医療ポンプまたは他の投与器具から薬剤の連続または半連続供給を用いることも可能である。いわゆる徐放による投与も可能であり、本発明の範囲内に属する。
【0065】
他の具体的手段においては、炎症部位におけるまたはそれと関連した局所投与が比較的高局所濃度の活性成分を供するために用いられる。この局所投与は1回以上の全身投与により行われる。
【0066】
一般的に、処方剤は、好ましくは液体担体または時には微細固体担体または双方と活性成分を均一かつ完全に混ぜ、次いで必要であれば製品を成形することにより製造される。
【0067】
非経口投与に適した処方剤としては、酸化防止剤、緩衝剤、殺菌剤、および所定レシピエントの血液と処方剤を等張化させる溶質を含有しうる水性および非水性無菌注射液と、懸濁剤および増粘剤を含有しうる水性および非水性無菌懸濁液とがある。処方剤は1回用または複数回用容器、例えば密封アンプルおよびバイアルで提供しても、使用直前に無菌液体担体、例えば注射用水の添加のみを要するフリーズドライ(凍結乾燥)条件下において貯蔵してもよい。水相は生理的リン酸緩衝液または他の生理塩溶液である。
【0068】
経口投与に適した処方剤は、既定量の活性成分を各々含有したカプセル、カシェ、または錠剤として、粉末または顆粒として、水性液体または非水性液体中の溶液、懸濁液または乳濁液として提供されてもよい。皮膚への局所投与に適した処方剤は、薬学上許容可能な担体で投与される成分を含んでなる、軟膏、クリーム、ゲル、およびペーストとして提供されてもよい。直腸投与用の処方剤は、例えばカカオ脂またはサリチレートを含んでなる適切な基剤での坐剤として提供されてもよい。膣投与に適した処方剤は、当業界で適切と知られているような担体を活性成分に加えて含有する、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、またはスプレー処方として提供されてもよい。
【0069】
1回用処方剤の例は、投与成分の、前記のような1日用量または単位、1日サブ用量、またはその適切なフラクションを含有したものである。
【0070】
本発明に従い用いられる最大許容投与量は、中でも、治療される具体的障害、具体的患者、炎症反応の程度、および投与経路に依存する。熱処理および粉砕チタン顆粒がIP‐10スパイクPBSで2000pg IP‐10/mgチタン粒子以上、IP‐10スパイク血清で約50pg IP‐10/mgチタン粒子、および滑液で3.5pg IP‐10/mgチタン粒子以上のIP‐10結合能を有することが、実験結果により示された。この数値は、投与する金属(酸化物)粒子の量を決める際に医師により用いられ、体液中に存在するIP‐10の量が幾つかの医学的障害において障害の程度に比例しているからである。
【0071】
本発明の金属剤は、好ましくは、局所IP‐10発現/放出制御または調節が望まれる患者の部位またはその付近に供与(移植、注入、またはそれ以外で投与)される。この投与は、標的部位へまたはその近くに顆粒または粒子を移植することにより行われる。一方、特に顆粒および粉末を利用する場合、本発明の金属(酸化物)剤は標的部位へ注入してもよい。ケモカインは患者の血液系で輸送されるため、本発明の金属剤は全身系輸送にも用いられ、血液系および血管、滑液、脳脊髄液、腹水、またはリンパ液における細胞からの選択標的ケモカインIP‐10の発現および放出になお影響を与えられる。
【0072】
有害IP‐10発現/放出により特徴づけられる疾患を治療または予防する別の方法は、該疾患に罹患した患者からの体液のエクスビボ治療である。該方法においては該疾患に罹患した患者から体液を抽出することになる。体液は有害な高レベルのIP‐10および/またはIP‐10産生細胞を含有する。体液は、具体的治療に応じて、血液、血漿、リンパ液、脳脊髄液、腹水、および/または滑液である。抽出された体液は、金属が4または5族金属である金属または金属酸化物とエクスビボにおいて接触させる。この金属‐液体接触において、体液中に存在するIP‐10は金属(酸化物)粒子の表面と結合し、それにより該液から除去される。加えて、抽出体液中に存在するIP‐10産生細胞は、細胞‐金属表面接触により、それらのIP‐10産生を遮断または少なくとも減少させる。精製された体液が次いで対象者へ戻される。該方法は、体へ戻される前に、ここではIP‐10からの、体液が抽出および精製される伝統的透析と類似する。
【0073】
本発明の金属粒子の表面へのIP‐10の結合により、液体‐金属接触は通常非常に短い。接触時間は数秒間〜数十分間である。
【0074】
体液が患者から抽出され、次いで体へ戻される他の治療法と、この形態の治療とは組み合わせうる。例えば、伝統的腎臓または肝臓透析が別の精製工程と組み合わされ、その際にIP‐10が体液、典型的には血液から除去される。心臓および/または肺装置、例えば体外膜酸素処理(ECMO)装置へ接続された患者も、本発明による追加IP‐10精製工程から利益を得られる。
【0075】
この形態の治療は、敗血症ショックに続いて感染症に罹患した患者において特に有利である。このような患者を助ける上で重要な工程は、それが引き起こす敗血症ショックおよび炎症応答とできるだけ早く戦わねばならないことである。このような患者は、本発明による継続的エクスビボIP‐10透析へ接続させうる。更なる薬物療法が敗血症ショック/感染症の原因を取り除くことに成功するまで、血中IP‐10のレベルが低レベルに保たれる。
【0076】
対象者の体へ金属(酸化物)剤を投与することと比較して、本治療法は幾つかの利点を有する。第一に、金属(酸化物)粒子は体に投与されず、それにより金属粒子投与に伴ういかなる副作用も生じない。第二に、対象者の体への直接投与と比較して多量の金属粒子、ひいては大きなIP‐10除去能が利用される。第三に、金属粒子は適切な処理後に再利用でき、その際には結合IP‐10(および他の分子)が粒子表面から除去される。
【0077】
図15および16は、抽出体液のエクスビボ精製と関連して用いられる二つの可能な器具またはツールを概略により示す。図15において、器具は本発明の金属(酸化物)粒子1で満たされたシリンジ10の形態を基本的にとり、金属粒子1をシリンジ10から出さないようにフィルター12を装備している。治療時に、滑液のような体液は対象者の体からシリンジ1へ抜き取られる。液体はフィルター12を通り、金属粒子1と接触するようになる。液体中に存在するIP‐10分子は粒子表面へ付着するようになり、それにより液体から除去される。インキュベート時間後、液体は(吸引部位と同一または異なる部位で)体へ押し戻される。フィルター孔の慎重な選択により、粒子1はシリンジ10に留まることになる。
【0078】
一般的に抽出体液中に存在する細胞がフィルター12を通り抜けて、金属粒子1と接触することが無いように、フィルター孔径が選択される。しかしながら、体液中に存在するIP‐10産生細胞が金属粒子1と接触して、それにより細胞‐粒子接触によりIP‐10産生減少に付されるならば、有利なこともある。このような場合に、フィルター孔径はこのようなIP‐10産生細胞、例えば単球、内皮細胞、および線維芽細胞を許容するように選択されるが、金属粒子1はフィルター12を通り抜けられない。
【0079】
図16は、独立した液体入口および独立した液体出口を有する器具20を表す。器具20は二枚のフィルター22および24で仕切られた精製チャンバーを形成する。この精製チャンバーは本発明の金属(酸化物)粒子1で満たされている。操作時、体液は第一フィルター22を通して患者から抜き取られる。そこで液体は金属粒子1と接触して、液体中に存在するIP‐10が粒子表面と結合するようになる。精製された液体は次いで、インキュベート後に、第二フィルター24を通して押し出され、次いで体へ戻される。
【0080】
図15および16の器具で用いられるフィルター12、22、24は、粒子1にフィルター12、22、24を損傷させることを防ぐ保護層で補強されていることが、本発明により期待される。
【0081】
上記の器具は、同対象者へ戻すことを意図しない抽出血液を処理するためにも用いられる。そのため、該器具は、血液バンクで取り扱われる、例えば血液または血漿中で、IP‐10レベルを減少させるために用いてもよい。このような方法においては、体の試料、例えば体液をインビトロで4または5族金属または4または5族金属酸化物と接触させ、それにより体の試料からIP‐10を除去し、好ましくは体の試料でIP‐10産生のレベルも減少させる。
【実施例】
【0082】
選択的サイトカインおよびケモカイン効果
感染すると、外因物質、例えばLPSの放出および内在媒介物質、例えばケモカインおよびサイトカインの誘導が、炎症組織への循環白血球の動員に関与する。LPSのような微生物産物は多くの細胞種を誘発してサイトカインを放出させるが、これはケモカインの強力な誘導物質である。一次サイトカインは免疫応答の内在アクチベーターとして作用し、一方誘導性ケモカインは白血球を誘引する二次媒介物質として作用する〔54〕。サイトカインおよびケモカイン間のこの複雑な相互作用のために、IP‐10の分泌のみならず、LPSとチタン顆粒での処理に応答してこれらの間で相乗的相互作用を示すことがある他のケモカインおよびサイトカインの放出にも及ぼす、金属(酸化物)顆粒の効果を評価することが重要である。
【0083】
エクスビボにおけるヒト全血とTi顆粒とのインキュベート
エクスビボヒト全血モデルを以前に記載されたように用いた〔55〕。簡単に言えば、健康ボランティア(n=7)からの静脈血をヘパリン(25U/mL血液、Leo,Ballerup,Denmark)で抗凝固処理し、次いでリポ多糖(LPS)(10ng/mL血液、LPSは大腸菌血清型B6:026に由来する、Sigma,St.Louis,MO)、および漸増量のグレーチタン顆粒(0.015g,0.075g,0.150g,0.300g、Hereford Metal Powder Co.Ltd,UK)の存在下においてスロー回転させながら微量遠心管中37℃においてインキュベートした。LPSまたは塩水のみとインキュベートされた血液をポジティブまたはネガティブコントロールとして各々用いた。
【0084】
Luminexアッセイ
異なる時点(3、6、および24h)において、血漿を7000gで3分間の遠心により得て、−20℃において貯蔵した。異なる25種サイトカインの血漿レベル(表1参照)を、製造業者のプロトコールに従い固相サンドイッチ・マルチプレックス・ビーズ・イムノアッセイ(ヒトサイトカイン25-plex;Biosource International Inc.,Camarillo,CA,USA)を用いて解析した。簡単に言えば、一次抗体被覆ビーズおよびインキュベート用緩衝液を96ウェルフィルタープレートへピペッティングした。標準および試料をオービタルシェーカーにおいて一次抗体ビーズの存在下、室温において2hインキュベートした。この後、ウェルを洗浄し、ビオチニル化検出抗体を加えた。室温において更に1hインキュベート後、ウェルを洗浄し、ストレプトアビジン‐フィコエリトリン溶液を各ウェルへ加え、室温において30分間インキュベートした。最後に、ウェルを徹底洗浄し、シース液を加え、Luminex xMAPシステム(Luminex Corporation,Austin,TX,USA)を用いて読み込んだ。
【0085】
【表1】

IL‐インターロイキン MCP‐単球走化性タンパク質
INF‐インターフェロン MIG‐INF‐γで誘導されるモノカイン
IP‐インターフェロン誘導性タンパク質 MIP‐マクロファージ炎症タンパク質
TNF‐腫瘍壊死因子
GM‐CSF‐顆粒球マクロファージコロニー刺激因子
RANTES‐regulated upon activation,normal T cell-expressed and secretedの略
【0086】
実験の注目結果は、チタン顆粒の存在が用量依存的にIP‐10の発現をほぼ完全に遮断することで顕著な効果を有していたことである。
【0087】
チタン顆粒は、その発現がLPSで誘導される他のサイトカインに、全くまたはほとんど効果を有しなかった。興味深いことに、IP‐10と同様のファミリー(CXCケモカイン)とは別のケモカイン、例えばIL‐8の分泌が、チタン顆粒で処理後にIP‐10と同様には影響されなかった。更に、IP‐10と類似したサイズを有するケモカイン、例えばMCP‐1も影響されなかった。
【0088】
ネガティブコントロール(塩水)およびポジティブコントロール(LPSのみ)は、塩水のみとインキュベートされた全試料では正常サイトカインレベルにおいて、および急性感染炎症応答の開始と似て、LPSとインキュベートされた試料では劇的に高いサイトカインレベルで、予想された効果を示した。LPSの非存在下でチタン顆粒とインキュベートされた試料においては、サイトカインレベルがネガティブコントロールで観察された範囲内に完全に属し、このことはチタン顆粒自体が炎症応答を発揮しなかったことを示す。
【0089】
ヒト全血におけるIP‐10分泌に及ぼすTi顆粒の効果
以前におよび〔55〕において記載されたエクスビボヒト全血モデルを用いた。簡単に言えば、健康ボランティア(n=7)の新鮮静脈血を異なる量のグレーチタン顆粒(GG)へ加え、LPS(10ng/mL)でスパイクした。3、6、および24h後、血漿を単離し、LuminexアッセイでIP‐10に関して解析した。他の実験セットにおいては、LPSの1h前、LPSと同時またはLPSの1h後にチタン顆粒を投与することにより、処理前または処理後のいずれかに血液を加えた。
【0090】
図1において示されるように、グレーチタン顆粒はLPSで刺激された健康ボランティアのヒト全血においてIP‐10の産生を用量依存的に減少させた。結果は試験されたすべての用量および時点で有意である。7ドナーの平均値±SEMが示され、*はLPS単独に対する有意差を示す(p<0.05)。
【0091】
グレーチタン顆粒が処理前または処理後に有効か否かを調べるために、LPSで刺激の1h前(−1t)、LPSと同時(0t)、またはLPSで刺激の1h後(+1t)にチタン顆粒を加えた(n=3)。LPS添加の6時間後、血漿を得て、IP‐10レベルをLuminexアッセイにより解析した。
【0092】
図2は、前処理または同時処理でも、およびLPS後であっても、血中においてIP‐10を減少させる上でチタン顆粒が同等に有効であったことを示す。チタン顆粒(GG)と異なるインキュベート時間後も、チタン顆粒入りLPS処理試料(GG+LPS)と同程度に、基本IP‐10レベル(LPSなし)が血中で同様に有意に減少された。3ドナーの平均値±SEMが示され、*は基本またはLPS単独に対するGGの有意差を各々示す(p<0.05)。
【0093】
ヒト血液とインキュベート後にIP‐10遺伝子発現へ及ぼすTi顆粒の効果
IP‐10分泌に及ぼすTi顆粒の効果が上記実験において開示された。そこではチタン顆粒がIP‐10遺伝子発現に効果を有するか否かが研究された。
【0094】
RNA単離
製造業者のプロトコールに従い、RNeasyミニキット(Qiagen,Valencia,CA,USA)を用いて、全血をチタン顆粒と2hインキュベート後に全白血球または単球から全RNAが単離された。単球を単離するために、抗CD14モノクローナル抗体(Invitrogen/Dynal,Carlsbad,CA,USA)で被覆されたDynabead CD14を用いて、全血から単球を分離する細胞溶解前の前処理工程を含めた。Nanodrop分光光度計(NanoDrop Technologies,Wilmington,DE,USA)を用いて260nmで全RNAを定量した。
【0095】
リアルタイムRT‐PCR解析
オリゴ(dT)およびランダムヘキサマー双方を含有するiScript cDNA Synthesisキット(BioRad,Hercules,CA,USA)を用いて、全白血球または単球から単離された全RNA(0.5μg)を42℃において60分間かけてcDNAへ逆転写した。PCR反応を行うまで、各cDNAを分割して、凍結した(−20℃)。
【0096】
SYBR green検出を用いて、iCycler(BioRad,Hercules,CA,USA)でリアルタイムPCRを行った。三つのハウスキーピング遺伝子:18SリボソームRNA(18S rRNA)、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、およびβ‐アクチンと、四つの標的遺伝子:IP‐10、IL‐6、IL‐10、およびTNF‐αに関してリアルタイムPCRを行った。表2は、用いられたプライマーとリアルタイムPCRのパラメーターが掲載されている。
【表2】

【0097】
各反応液は、25μLの最終容量中に、5μLのcDNA、0.5μMのセンスおよびアンチセンス特異的プライマー、12.5μLの2X IQ SYBR Green Supermix(BioRad,Hercules,CA,USA)を含有していた。増幅プログラムは、テンプレートcDNAの変性のためのプレインキュベート工程(3分間,95℃)、次いで変性工程(15s,95℃)、アニーリング工程(15s,60℃)、および伸長工程(30s,72℃)からなる40サイクルから構成されていた。各サイクル後、蛍光を72℃において測定した。cDNAテンプレートなしのネガティブコントロールを各アッセイでランさせた。試料を次いで二重にランさせた。
【0098】
連続希釈を用いてiCyclerソフトウェアで所定勾配からリアルタイム効率を計算したところ、異なる濃度が用いられた場合に高いリアルタイムPCR効率および高い直線性(κ>0.99)を全研究転写物で示した。増幅特異性、Tm、およびアンプリコンサイズを各々確認するために、PCR産物をiCyclerで融解曲線解析、その後で2%アガロース/TAEゲル電気泳動に付した。
【0099】
PCR後に相対定量を行うために、log cDNA希釈に対して、Ct値(サイクル閾値)、即ち蛍光シグナルがバックグラウンドを越えるサイクル数をプロットすることにより、各標的およびハウスキーピング遺伝子に関して標準反応から標準曲線を作成した。次いで標準と比較した標的またはハウスキーピングの量を計算するために、未知試料の各々に関するCt読取値を用いた。RNAに関して補正するために、三つのハウスキーピング遺伝子(18S rRNA、GAPDH、およびβ‐アクチン)間の平均に関する値と比較した標的遺伝子に関する相対濃度の比率として、相対mRNAレベルを計算した。100に定めたネガティブコントロール試料(塩水)のパーセンテージとして値を表示した。
【0100】
a)チタン顆粒とインキュベート後に懸濁液に留まる全白血球、b)インキュベート後にチタン顆粒へ付着した全白血球、およびc)抗CD14モノクローナル抗体で被覆されたビーズで単離された単球において、IP‐10遺伝子発現を測定した。
【0101】
図3は、全血をチタン顆粒と2hインキュベートした後における、全白血球および単球での相対的IP‐10遺伝子発現を表す。単球が最高のIP‐10遺伝子発現を有していたことが、図3に示される。顆粒に付着した白血球は、懸濁液に留まる白血球より高いIP‐10遺伝子発現(12倍)を示した。
【0102】
チタン顆粒でIP‐10遺伝子発現を測定するために、ヒト単球を単離した。図4において示されるように、IP‐10 mRNAレベルはチタン顆粒とインキュベート(2hインキュベート)後に単球で下方調節され、試験された2ドナーにおいてLPSで刺激された。
【0103】
全および個別白血球細胞数
ヒト全血とインキュベート後にチタン顆粒の表面と付着しうる能力を有する白血球の種類を調べるために、実験が行われた。
【0104】
前記のように血液をグレーチタン顆粒と2hインキュベートした後、全および個別白血球細胞(WBC)カウントをヘマトロジーアナライザー(Cell-Dyn 4000,Abbott Diagnostics Division,Santa Clara,CA,USA)により直ちに行った。
【0105】
図5は、グレーチタン顆粒(GG)と共におよびそれなしで2hインキュベート後における、全および個別WBC数(即ち、各々、好中球、リンパ球、単球、好酸球、および好塩基球)を表す。チタン顆粒は、IP‐10産生細胞であることが知られている、好中球および単球と結合しうる能力を示した。
【0106】
下記表3は、WBC数および個別白血球細胞に関する正常範囲が掲載されている。
【表3】

【0107】
統計
全データが平均値±SEMとして表示される。群間の差は、Windows、version 14.0のプログラムSPSSを用いて、スチューデントt検定により評価した。結果はP<0.05レベルで統計学的に有意とみなされた。
【0108】
TiのIP‐10結合能
物質
組換えヒトIP‐10はR&D Systemsから購入し、IP‐10は製造業者(R&D Systems)に従いサンドイッチELISA技術を用いて解析した。ケモカインレベルに及ぼす異なるチタン形態の効果を三つの異なるシステム:血液ループモデル、IP‐10スパイク血清/PBS、および滑液で研究した。表4は試験されたチタン形態が掲載されている。
【表4】

【0109】
血液ループシステム
IP‐10は(以前に記載された〔56,57〕)血液ループシステムで研究されたが、但し完全ヘパリン処理(20U/ml,Leo Pharma)血液を用いた。簡単に言えば、健康ボランティアからの新鮮ヒト血液を、表面ヘパリン処理シリコンチューブに接続されたカニューレ(18ゲージ,Microlance、Becton Dickinson)で、表面ヘパリン処理60mLシリンジに集めた。サンプリング中、シリンジを継続的に回転させた。血液(7〜8mL)を次いで〜4mLの空気容量を残す各ループ(PVCチューブ,直径6.3mm,長さ39cm)へ加えた。チューブを満たした後、ループをヘパリン処理ステンレススチールコネクターで閉じ、37℃において揺動装置に置いた。コネクターとの接触から血液を防ぐ振幅設定でループを揺らした。IP‐10産生を開始させるために、大腸菌からのLPS(10ng/mL,Sigma)を加えた。IP‐10レベルに及ぼす効果を研究するために、異なる量および異なる形態のチタンをループへ加えた。10、30、60、120、および180分間後に試料を集め、IP‐10解析まで血漿を−20℃において貯蔵した。
【0110】
スパイク血清/PBS
血清を標準実験プロトコールに従い、献血から調製した。プラスチック製品へのタンパク質付着を防ぐために、PBSを1%牛血清アルブミン(BSA)で補充した。組換えヒトIP‐10を血清/PBS(200〜2000pg/mL)へ加え、試料(500μL)をオービタルシェーカー(〜400rpm)にて室温において3時間にわたり異なる金属/酸化物(20〜200mg)とインキュベートした。インキュベート後、試料を短時間遠心し(10,000gで2分間)、上澄をIP‐10含有量に関して直ちに解析し、または解析まで凍結(−20℃)貯蔵した。
【0111】
滑液
滑液(SF)をKarolinska Hospital(Solna,Sweden)のリウマチ様関節炎の患者またはOslo Rikshospital(Norway)から得た。3時間にわたり、150μL SFを粉砕ホワイト顆粒(WP)と共に(10〜40mg/試料)またはそれなしでオービタルシェーカー(〜400rpm)にて室温でインキュベートした。異なる金属/酸化物の効果を研究した場合、500μL試料および20mg金属/酸化物を用いた。インキュベート後、試料を短時間遠心し(10,000gで2分間)、上澄をIP‐10含有量に関して直ちに解析し、または解析まで凍結(−20℃)貯蔵した。
【0112】
IP‐10産生で増加をもたらす血液ループへのLPS添加により血液感染が刺激された。2時間後、LPS処理血液中のIP‐10レベルは高まり、3時間後更に上昇した。未処理スポンジチタン顆粒(GG)を加えることにより、IP‐10レベルは感染血液で減少した(図6参照)。異なる量のGGを加えた場合、用量応答様反応があった。GGのみ添加後に正常IP‐10レベルが未感染血液で観察された。二種のネガティブコントロール、PBS、または200mgチタン顆粒含有PBSはIP‐10レベルで増加を示さなかった。
【0113】
IP‐10レベルに及ぼす異なる形態のチタン顆粒の効果を血液ループシステムにより解析した。全血において、グレー(GG)およびホワイト(WG)顆粒は双方ともIP‐10減少で同等に効率的であることを見出した。粉末形態の顆粒、GPおよびWPは全顆粒より効率的であり、ホワイト粉末(WP)は、図7において示されているように、最高IP‐10減少能を有していた。この図はLPS添加の180分間後における血中IP‐10レベルを表す。7mLの感染血液へ200mgのホワイト粉末(WP)の添加が、完全消失IP‐10応答を呈した。PBS処理血液をネガティブコントロールとして用いた。
【0114】
粉砕ホワイトチタン顆粒のIP‐10減少能を評価するために、異なる量のホワイト粉末(WP)を感染(LPS処理)血液へ加え、IP‐10レベルを添加の180分間後に解析した。WPを加えた場合、IP‐10は用量依存的に血中で調節されることを見出したが、これは図8で示される。7mLの感染血液へ66mgのホワイト粉末の添加が、IP‐10レベルの正常化をもたらした。
【0115】
PBS溶液中におけるホワイト粉末へのIP‐10の一時的結合を研究したところ、既に10分間後にはWPがIP‐10レベルをゼロに減少させた(3pg IP‐10/mg WP)。減少は不可逆的であり、研究中ずっと持続した(24時間)。この結合を5%BSAまたは10%牛胎児血清で阻止することは不可能であり、それは界面活性剤添加(0.05% Tween-20)後も減少しなかった。
【0116】
リウマチ様関節炎患者で炎症関節からの滑液は、疾患の病因に影響を与えうる高レベルのIP‐10を含有していることが以前に示されていた〔20,58〕。異なる患者5例からの滑液中におけるIP‐10レベルは、ホワイト顆粒粉末(WP)の添加後に強く減少した(図9参照)。滑液を室温において3時間にわたり10または40mgのWPと共にインキュベートした。
【0117】
漸増量のWPがSFへ加えられたシステムにおいて、滑液中粉砕ホワイト顆粒のIP‐10結合能が研究された(図10参照)。明らかな用量依存関係がこれらの研究において観察された。
【0118】
粉砕ホワイト顆粒(WP)のIP‐10減少の能力をここで研究された異なるシステムで計算した。スパイクPBSでは>2000pg IP‐10/mg WPが保持され、スパイク血清では約50pg IP‐10/mg WPが保持され、滑液では>3.5pg IP‐10/mg WPが保持された。
【0119】
Ti顆粒の物理的特徴
走査型電子顕微鏡
グレー(GG)およびホワイト(WG)チタン顆粒の表面を調べるために、走査型電子顕微鏡(SEM,Phillips XL30 ESEM,FEI Electron Optics,Eindhoven,Netherlands)を用いた。
【0120】
水銀圧入ポロシメトリー
水銀ポロシメトリー(Autopore IV 9500,Micromeritics,Norcross,GA,USA)を用いて、グレー(GG)およびホワイト(WG)チタン顆粒の孔径分布測定を行った。用いられた接触角は130°であった。試料を約50μmHgの排気圧力で10分間排気した。水銀充填圧力は約0.22psiaであった。
【0121】
図11は、250×、2000×、および5000×の倍率で、未処理チタン顆粒(グレー顆粒,GG)(A,C,およびE参照)および熱処理(900℃,3h)チタン顆粒(ホワイト顆粒,WG)(B,D,およびE参照)の表面を示す。熱処理はホワイト顆粒で孔の数を減少させたことが、顕微鏡写真からみられる。これは全孔隙率で得られた結果と一致し、グレーおよびホワイト顆粒で各々73%および57%であった。グレーおよびホワイトチタン顆粒の全圧入容積、全表面積、メジアン孔径、嵩密度、見掛け密度、および孔隙率が表5において示される。
【表5】

【0122】
図12は、グレー(A)およびホワイト(B)Ti顆粒のlog微分水銀圧入容積対孔径を表す。図で示されているように、グレー顆粒に存在するミクロ孔(〜40μm)はホワイト顆粒に存在せず、一方マクロ孔(〜400μm)は熱処理で影響されなかった。
【0123】
Tiおよび他の金属のIP‐10結合能
物質
異なる酸化チタンおよび他の金属のIP‐10結合能を研究するために、二つの異なるシステム:IP‐10スパイク血清および滑液を用いた。表6は、表6に掲載されたチタン形態に加えて研究された他の金属および酸化物が掲載された。
【表6】

【0124】
20mgの異なる金属をIP‐10(200pg/mL)でスパイクされた血清へ加えた。図13はこれら実験の結果を示す。異なるチタン形態の中では、ホワイトチタン(WP、Ti(IV)Ox(R)、TiO(80A/20R)、TiO(A))が血中でIP‐10レベルを低下させるために最も効率的な形であると結論づけられる。チタンと密接に関連したタンタルおよびバナジウムは双方ともIP‐10低下に効率的であった。一方、亜鉛、銅、マンガンもスパイク血清でいかなる程度にもIP‐10レベルへ影響を与えなかった。
【0125】
IP‐10レベルに及ぼすこれら異なる酸化物および金属の効果も滑液において研究された(図14参照)。これらの結果は、一部例外を除き、IP‐10スパイク血清からの結果を一般的に確証させるものであった。SFにおいて、Ti(II)酸化物(黒)および亜鉛は血清における研究において観察されたものより効率的であり、一方他の金属もIP‐10レベルへ同程度に影響を与えた。
【0126】
添付した請求項で規定される範囲から逸脱することなく様々な修正および変更が本発明に加えうることは、当業者により理解されるであろう。
【0127】
参考文献










【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者において10kDaインターフェロン‐γ誘導性タンパク質、IP‐10の有害発現および/または放出により特徴づけられる疾患を治療または予防するための薬剤の製造のための金属または金属酸化物の使用であって、該金属が元素の周期表の4または5族の金属から選択されるものである、使用。
【請求項2】
前記薬剤が、前記対象者においてIP‐10を除去することにより前記疾患を治療または予防するものである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記疾患が、前記対象者においてIP‐10の有害発現および/または放出により特徴づけられる、感染疾患、有害炎症応答、または宿主対移植片疾患の群から選択されるものである、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記感染疾患がウイルス感染疾患である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記有害炎症応答が自己免疫疾患である、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
前記有害炎症応答が前記対象者の胃腸管の炎症疾患である、請求項3に記載の使用。
【請求項7】
前記有害炎症応答が炎症性皮膚疾患である、請求項3に記載の使用。
【請求項8】
前記宿主対移植片疾患が急性移植片拒絶反応である、請求項3に記載の使用。
【請求項9】
前記疾患が異物反応である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項10】
前記金属がチタン、タンタル、またはバナジウムの群から選択されるものである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記金属酸化物が、チタンの酸化物、タンタルの酸化物、またはバナジウムの酸化物の群から選択されるものである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記チタン酸化物が二酸化チタンである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記二酸化チタンが、ルチル形態の二酸化チタンまたはルチルとアナタース形態との混合物である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記金属または金属酸化物が、少なくとも約50%の全孔隙率を有する顆粒または粒子の形態をとるものである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記金属または金属酸化物が、少なくとも約0.01m/gの全表面積を有する顆粒または粒子の形態をとるものである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記金属または金属酸化物が、100μm以下の平均粉末粒径を有する金属または金属酸化物粒子の形態をとるものである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
10kDaインターフェロン‐γ誘導性タンパク質、IP‐10の有害発現および/または放出により特徴づけられる疾患を治療または予防する方法であって、前記疾患に罹患した対象者へ金属または金属酸化物を投与することを含んでなり、前記金属が元素の周期表の4または5族の金属から選択されるものである、方法。
【請求項18】
10kDaインターフェロン‐γ誘導性タンパク質、IP‐10の有害発現および/または放出により特徴づけられる疾患を治療または予防する方法であって、
‐前記疾患に罹患した対象者から体液を抽出し、
‐前記体液をエクスビボにおいて金属または金属酸化物と接触させ、ここで前記金属は元素の周期表の4または5族の金属から選択され、そして
‐前記金属または金属酸化物との接触後に前記体液を前記対象者へ戻すこと
を含んでなる、方法。
【請求項19】
体の試料からインビトロにおいて10kDaインターフェロン‐γ誘導性タンパク質、IP‐10を除去する方法であって、前記体の試料を金属または金属酸化物と接触させることを含んでなり、前記金属が元素の周期表の4または5族の金属から選択されるものである、方法。
【請求項20】
前記体の試料が体液である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記体液が、血液、血漿、リンパ液、脳脊髄液、腹水、または滑液の群から選択されるものである、請求項18または20に記載の方法。
【請求項22】
10kDaインターフェロン‐γ誘導性タンパク質、IP‐10のスカベンジャーとしての金属または金属酸化物の使用であって、前記金属が元素の周期表の4または5族の金属から選択されるものである、使用。
【請求項23】
前記金属または金属酸化物が、IP‐10を含んでなる試料と接触される、請求項22に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図11C】
image rotate

【図11D】
image rotate

【図11E】
image rotate

【図11F】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公表番号】特表2010−503666(P2010−503666A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528196(P2009−528196)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【国際出願番号】PCT/SE2007/000785
【国際公開番号】WO2008/033069
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(505196680)プロフィメド アクテボラゲット (2)
【氏名又は名称原語表記】PROPHYMED AB
【住所又は居所原語表記】Box 81, S−260 40 Viken(SE)
【Fターム(参考)】