説明

選択装置

【課題】中性点補償率を改善するためのリアクトルを精度良く選択することが可能な選択装置を提供する。
【解決手段】選択装置は、電力系統に配設された電線の対地静電容量からの第1電流、電線に接続される複数の変圧器の中性点の夫々の接地側に設けられる複数のリアクトルからの第2電流、および、電線に接続される複数の変圧器の中性点の夫々の接地側に設けられる抵抗からの第3電流の合成電流の、第3電流に対する位相角を算出する算出部と、位相角が所定値より大きいか否かを判定する判定部と、位相角が所定値より大きい場合、位相角が所定値より小さくなるように、複数のリアクトルのうち遮断または投入するリアクトルを選択する選択部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統において地絡事故が発生した際の地絡電流の位相角は、送電線の対地静電容量の増加に応じて大きくなる。地絡電流の位相角が大きくなると、例えば故障区間を他の区間から切り離すための保護継電器が正常に動作しにくくなるため、一般には、対地静電容量を補償するためのリアクトルが電力系統の中性点に接続される。このようなリアクトルのインダクタンスが十分であるか否かは、例えば、中性点補償率に基づいて判定が可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−101624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術を用いた場合、リアクトルのインダクタンスが十分であるか否かの判定は可能であるが、リアクトルのインダクタンスが十分で無い場合には、例えばオペレータに別途リアクトルを投入させる必要がある。このような場合に、オペレータに投入するリアクトルを選択させると、人為的なミスが発生する可能性がある。したがって、中性点補償率を改善するためのリアクトルを精度良く選択できないという問題がある。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、中性点補償率を改善するためのリアクトルを精度良く選択することが可能な選択装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一つの側面に係る選択装置は、電力系統に配設された電線の対地静電容量からの第1電流、前記電線に接続される複数の変圧器の中性点の夫々の接地側に設けられる複数のリアクトルからの第2電流、および、前記電線に接続される複数の変圧器の中性点の夫々の接地側に設けられる抵抗からの第3電流の合成電流の、前記第3電流に対する位相角を算出する算出部と、前記位相角が所定値より大きいか否かを判定する判定部と、前記位相角が前記所定値より大きい場合、前記位相角が前記所定値より小さくなるように、前記複数のリアクトルのうち遮断または投入するリアクトルを選択する選択部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、中性点補償率を改善するためのリアクトルを精度良く選択することが可能な選択装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態である制御装置200が設けられた電力系統10を示す図である。
【図2】制御装置200の詳細を示す図である。
【図3】記憶装置211に記憶されるデータを示す図である。
【図4】操作履歴データ252の一例を示す図である。
【図5】マイコン212が実現する機能ブロックを示す図である。
【図6】位相角θを説明するための図である。
【図7】制御装置200の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態である制御装置200が設けられた電力系統10を示す図である。
電力系統10には、変電所A〜D、制御所E、電源20、及び送電線30〜35が設けられている。
【0011】
変電所Aと変電所Bとは送電線30,31で接続され、変電所Aと変電所Dとは送電線30〜33で接続される。また、変電所Bと変電所Cとは送電線34,35で接続される。また、電源20は、変電所A〜Dの夫々に対して電力を供給する電源であり、送電線30,31に接続される。また、送電線30〜35は例えば地中線であるため、送電線30〜35の夫々には、対地静電容量40〜45が発生する。
【0012】
変電所Aには、母線A、変圧器100,101、抵抗110,111、リアクトル120,121、及び開閉器130〜135が設けられている。
変圧器100は、電源20からの電圧を変圧するために、電源20の電源が供給される母線Aに開閉器130を介して接続される。
抵抗110は、いわゆる中性点接地抵抗であり、変圧器100の中性点(不図示)に開閉器131を介して接続される。なお、図1における開閉器131は、閉じている状態を示しているため、抵抗110は投入された状態となる。
リアクトル120は、いわゆる補償リアクトルであり、変圧器100の中性点に開閉器132を介して接続される。図1では、開閉器132は開いている状態を示しているため、リアクトル120は遮断された状態となる。
【0013】
変圧器101、抵抗111、リアクトル121の夫々は、変圧器100、抵抗110、リアクトル120と同様である。
変圧器101は、母線Aに開閉器133を介して接続され、抵抗111は、変圧器101の中性点に開閉器134を介して接続され、リアクトル121は、変圧器101の中性点に開閉器135を介して接続される。開閉器130〜135は、制御装置200からの指示に応じて開閉が制御される。
【0014】
変電所Bには、母線B、変圧器102,103、抵抗112,113、リアクトル122,123、及び開閉器140〜145が設けられている。変電所Bに設けられている変圧器103や抵抗112等は、変電所Aの変圧器100や抵抗110等と同様である。
【0015】
母線Bには、電源20からの電源が送電線30,31を介して供給される。変圧器102は、母線Bに開閉器140を介して接続され、抵抗112は、変圧器102の中性点に開閉器141を介して接続され、リアクトル122は、変圧器102の中性点に開閉器142を介して接続される。
【0016】
変圧器103は、母線Bに開閉器143を介して接続され、抵抗113は、変圧器103の中性点に開閉器144を介して接続され、リアクトル123は、変圧器103の中性点に開閉器145を介して接続される。
【0017】
変電所Cには、母線C、変圧器104、リアクトル124、及び開閉器150が設けられている。
母線Cには、電源20からの電源が送電線30,31、母線B、送電線34,35を介して供給される。変圧器104は、母線Cに開閉器150を介して接続され、リアクトル124は、変圧器104の中性点に接続される。
【0018】
変電所Dには、母線D、変圧器105、リアクトル125、及び開閉器151が設けられている。
母線Dには、電源20からの電源が送電線30〜33を介して供給される。変圧器105は、母線Dに開閉器151を介して接続され、リアクトル125は、変圧器105の中性点に接続される。なお、変電所C,Dに設けられている変圧器等も、変電所A等に設けられている変圧器等と同様である。
【0019】
制御所Eには、電力系統10の系統情報やオペレータからの指示に基づいて、変電所A〜Dに設置された開閉器の開閉を制御する制御装置200が設けられている。制御装置200(選択装置)は、電力系統10の事故を検出するために分散配置された保護リレー(不図示)の状態や、変電所A〜Dに設置された開閉器の開閉状態を系統情報として取得する。
【0020】
==制御装置200の詳細==
ここで、図2を参照しつつ、制御装置200の詳細を説明する。制御装置200は、通信装置210、記憶装置211、マイコン212、入力装置213、及び表示装置214を含んで構成される。
【0021】
通信装置210は、ネットワーク201を介して系統情報を取得するとともに、変電所A〜Dの開閉器の動作を制御する。また、通信装置210は、取得した系統情報をマイコン212に送信する。
【0022】
記憶装置211は、例えばハードディスク装置であり、図3に示すようにプログラムデータ250、系統データ251、及び操作履歴データ252を記憶する。プログラムデータ250は、マイコン212が実行するプログラムである。
【0023】
系統データ251は、例えば、変電所A〜Dに設けられた開閉器の開閉状況や、コンデンサ40〜45、抵抗110〜113、リアクトル120〜125の容量に応じて流れる電流値を示すデータである。なお、本実施形態では、コンデンサ40〜45に流れる電流を電流IC0〜IC5とし、抵抗110〜113に流れる電流を電流IR0〜IR3とし、リアクトル120〜125に流れる電流を電流IL0〜IL5とする。なお、電流IR0〜IR3、電流IL0〜IL5は、抵抗110〜113、リアクトル120〜125が投入されている際に、例えば電力系統10にそれぞれの容量に応じて流入する。
【0024】
操作履歴データ252は、例えば、図4に示すように、開閉器の開閉状況の履歴を示すデータである。前述した開閉器の開閉状況に関するデータや,操作履歴データ252は、例えばマイコン212が系統情報に基づいて生成し、記憶装置211に格納する。
【0025】
マイコン212は、プログラムデータ250を実行することにより各種機能ブロックを実現する。具体的には、マイコン212は、図5に示すような処理部260、事故検出部261、算出部262、判定部263、選択部264、及び制御部265を実現する。
【0026】
処理部260は、系統情報を取得すると開閉器の開閉状況に関するデータや,操作履歴データ252を生成し、記憶装置211に記憶された各データを更新する。
事故検出部261は、系統情報に基づいて、電力系統10における事故の発生を検出する。
【0027】
算出部262は、例えば、事故が検出された場合やオペレータからの指示がある場合、系統データ251に基づいて、コンデンサ電流の合計電流ΣI(ΣI=IC0〜IC5)を算出する。さらに、算出部262は、合計電流ΣI(第1電流)と同様に、抵抗110〜113のうち投入されている抵抗に流れる合計電流ΣI(第3電流)と、リアクトル120〜125のうち、投入されているリアクトルに流れる合計電流ΣI(第2電流)とを算出する。さらに算出部262は、図6に示すように、合計電流ΣI、ΣI、ΣIを合成した合成電流IAを計算し、合成電流IAと、合計電流ΣIとの位相角θを算出する。
【0028】
なお、合計電流ΣIは合計電流ΣIに対して位相が90度進む電流であり、合計電流ΣIは合計電流ΣIに対して位相が90度遅れる電流である。このため、対地静電容量が増加して合計電流ΣIも増加する場合、位相角θは大きくなる。一方、投入されるリアクトルのインダクタンスが増加して合計電流ΣIが増加する場合、位相角θは小さくなる。つまり、位相角θが大きくなるにつれて、地絡事故が発生した際の地絡電流の位相角は増加することになる。
【0029】
判定部263は、算出部で算出された位相角θが所定値よりも大きいか否かを判定する。
選択部264は、位相角θが所定値より大きい場合、位相角θが所定値より小さくなるように、図5に示した操作履歴データ252及び系統情報を用いて、リアクトル120〜125のうち投入するリアクトルを選択する。
【0030】
具体的には、例えば、開閉器151が入り状態(閉じられた状態)から、切り状態(開かれた状態)となると、位相角θが所定値より大きくなった場合、選択部264は、操作履歴データ252から開閉器151が切り状態となったタイミングを検索する。そして、切り状態となったタイミングの直後に投入されたリアクトルと同じリアクトルを選択する。つまり、この場合、選択部264は、開閉器132に接続されるリアクトル120を投入すべきリアクトルとして選択する。
【0031】
ところで、開閉器151が切り状態となると、リアクトル125が遮断され、中性点補償率が不足する。このため、開閉器151が切り状態となった後には、通常、中性点補償率を改善するための操作がなされる。本実施形態では、このような操作履歴に基づいて、リアクトルを選択している。
【0032】
また、選択部264は、位相角θが所定値より大きい場合、中性点補償率を改善する必要があることを示す警告を表示装置214に表示させる。
制御部265は、オペレータからの設定に応じて、選択部264で選択されたリアクトルを投入するか、選択されたリアクトルを表示装置214に表示させる。
【0033】
具体的には、オペレータが、選択部264で選択されたリアクトルが自動的に投入されるようなモード(以下、自動モード)を入力装置213で選択した場合、制御部265は、選択されたリアクトルを投入すべく開閉器を入り状態とする。
【0034】
一方、オペレータが、選択部264で選択されたリアクトルを表示装置214に表示させるようなモード(以下、表示モード)を入力装置213で選択した場合、制御部265は、選択部264で選択されたリアクトルを表示装置214に表示させる。
【0035】
なお、入力装置213は、キーボード、マウス、タッチパネル等である。表示装置214は、液晶ディスプレイ等であり、例えば、前述した警告、変電所A〜Dの開閉器の開閉状態、選択部264で選択されたリアクトル等を表示する。
【0036】
==制御装置200の動作==
ここで、図7を参照しつつ、制御装置200の動作について説明する。まず、事故が検出された場合やオペレータから指示があると、算出部262は位相角θを算出する(S100)。その後、判定部263は、位相角θが所定値よりも大きいかを否かを判定する(S101)。位相角θが所定値よりも小さい場合(S101:NO)、すなわち、例えば事故があった際であっても中性点の補償量に過不足が生じない場合、判定部263は処理を終了させる。
【0037】
一方、位相角θが所定値よりも大きい場合(S101:YES)、すなわち、例えば中性点補償率を改善する必要がある場合、選択部264は投入すべきリアクトルを選択する(S102)。さらに、選択部264は、中性点補償率を改善することが必要であることを示す警告を表示装置214に表示させる(S103)。
【0038】
そして、制御部265は、オペレータが選択したモードが自動モードである場合(S104:自動モード)、制御部265は、選択されたリアクトルが投入されるように開閉器を入り状態とする(S105)。一方、制御部265は、オペレータが選択したモードが表示モードである場合(S104:表示モード)、制御部265は、選択されたリアクトルを表示装置214に表示させる(S106)。
【0039】
==事故が発生した際の制御装置200の動作例==
ここで、図1に示した電力系統10において、変電所Dで事故が発生し、開閉器151が切り状態になった場合を例に制御装置200の動作を説明する。なお、ここでは、開閉器151が切り状態となると、位相角θは所定値よりも大きくなることとする。また、ここでは、オペレータは自動モードを選択していることとする。
【0040】
変電所Dで事故が発生すると、算出部262は位相角θを算出する(S100)。位相角θが所定値よりも大きいため(S101:YES)、選択部264は、図5に示したような操作履歴データ252を用い、開閉器132に接続されたリアクトル120を選択する(S102)。また、選択部264は、中性点補償率を改善することが必要であることを示す警告を表示装置214に表示させる(S103)。
【0041】
そして、制御部265は、選択されたリアクトル120が投入されるように開閉器132を入り状態とする(S105)。この結果、位相角θは小さくなるため、地絡事故が発生した場合であっても、確実に事故検出・除去が可能となる。
【0042】
==選択部264の他の実施形態==
選択部264の代わりに、例えば、算出部262の結果及び系統データを用いて、リアクトル120〜125のうち投入するリアクトルを選択する選択部270を用いても良い。
【0043】
具体的には、選択部270は、リアクトル120〜125のうち、遮断されているリアクトルが投入されたとして算出部262に位相角θを計算させる。そして、算出部262が算出する位相角θが所定値より小さくなる際のリアクトルを、投入すべきリアクトルとして選択する。このような選択部270を用いた場合であっても、本実施形態と同様に、投入すべきリアクトルを確実に選択できる。
【0044】
以上、本実施形態の制御装置200について説明した。本実施形態では、位相角θが所定値よりも大きい場合、すなわち中性点補償率を改善する必要がある場合、選択部264が中性点補償率を改善するために投入するリアクトルを選択している。つまり、本実施形態では、オペレータが投入するリアクトルを選択する必要がないため、人為的なミスの発生を抑制できる。したがって、制御装置200は、中性点補償率を改善するためのリアクトルを精度良く選択可能である。
【0045】
前述した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更、改良されるとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0046】
10 電力系統
20 電源
30〜35 送電線
40〜45 対地静電容量
100〜105 変圧器
110〜113 抵抗
120〜125 リアクトル
130〜135,140〜145,150,151 開閉器
200 制御装置
201 ネットワーク
210 通信装置
211 記憶装置
212 マイコン
213 入力装置
214 表示装置
250 プログラムデータ
251 系統データ
253 操作履歴データ
260 処理部
261 事故検出部
262 算出部
263 判定部
264,270 選択部
265 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に配設された電線の対地静電容量からの第1電流、前記電線に接続される複数の変圧器の中性点の夫々の接地側に設けられる複数のリアクトルからの第2電流、および、前記電線に接続される複数の変圧器の中性点の夫々の接地側に設けられる抵抗からの第3電流の合成電流の、前記第3電流に対する位相角を算出する算出部と、
前記位相角が所定値より大きいか否かを判定する判定部と、
前記位相角が前記所定値より大きい場合、前記位相角が前記所定値より小さくなるように、前記複数のリアクトルのうち投入するリアクトルを選択する選択部と、
を備えることを特徴とする選択装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−19597(P2012−19597A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155082(P2010−155082)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)