説明

遺伝子および/又は蛋白質のデータベースを用いた相互作用マップの作成方法、ならびに、それを実現するためのソフトウエアおよび装置

ポストゲノム機能解析において、蛋白質間および蛋白質-核酸間などの相互作用ネットワーク解析から公知の蛋白質の新たな機能やこれまで知られていなかった新規の蛋白質などの重要な生体高分子の発見による医薬品の創製などに応用可能な遺伝子ネットワーク・マップを提供する。遺伝子および/又は蛋白質の相互関係のデータに基づき遺伝子および/又は蛋白質の相互関係を示すマップの作成方法において、相互関係として遺伝子および/又は蛋白質の機能エレメントに基づく相互関係を用いる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質および遺伝子のデータベースを用いた複合体形成又は相互作用の関係性を表す図(ネットワーク・マップ)およびその図の作成方法、ならびにそれを実現するためのソフトウエアおよび装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多様な生物のゲノムの塩基配列が解読されようとしている。ゲノムシーケンスの研究では、第2幕のポストシーケンスの研究として、解読したゲノム情報からその意味を解析する研究、すなわち、遺伝子や蛋白質の構造や機能解析(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)、および蛋白質間、核酸-蛋白質間相互作用解析などが期待されている(非特許文献4、非特許文献5)。
【0003】
以上のような技術を駆使したポストゲノム機能解析によって、蛋白質間および蛋白質-核酸間などの相互作用ネットワーク解析から公知の蛋白質の新たな機能やこれまで知られていなかった新規の蛋白質などの重要な生体酵素の発見による医薬品の創製などが期待されている。
【0004】
蛋白質間相互作用の検出方法として、これまで免疫沈降(非特許文献6)、GST融合蛋白質によるプルダウン・アッセイ(非特許文献7)、TAP法 (非特許文献8)、酵母ツーハイブリッド法 (非特許文献9)などが知られている。一方、進化分子工学のツールとして誕生した「遺伝子(遺伝子型)と蛋白質(表現型)の対応付け」を応用して、ポストゲノム機能解析における蛋白質間相互作用を網羅的に解析する方法として、in vitroウイルス法 (非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12、特許文献1、特許文献2)、STABLE法 (非特許文献13)、ファージディスプレー法 (非特許文献14)、リボソーム・ディスプレイ法(非特許文献15、特許文献3)、mRNA-ペプチドヒュージョン(mRNAディスプレイ)法(非特許文献16)などが知られている。
【0005】
さらに、表面プラズモン共鳴法、蛍光共鳴エネルギー移動法、蛍光偏光解消法、エバネッセント場イメージング法、蛍光相関分光法、蛍光イメージング法、固相酵素免疫検定法などが知られている。また、ピューロマイシン等の核酸誘導体を用いて翻訳系中で蛋白質のC末端を修飾する方法(特許文献4、特許文献5)が知られている。
【0006】
以上のようなさまざまな方法によって、蛋白質や遺伝子の複合体や相互作用解析が進み、その結果として、網羅的な遺伝子ネットワーク・マッピングが行われ、そのネットワーク・マップから、生物学的に意味のある事柄を抽出してこようとする研究が盛んとなっている。
【0007】
現在、主に、TAP法、酵母ツーハイブリッド法などの網羅的解析結果をバイオインフォマティックスでデータ処理し、遺伝子間又は蛋白質間ネットワーク・マップを描き出し、いろいろな角度から解析検討が行われている(非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19)。従来の遺伝子間又は蛋白質間ネットワーク・マップ技術では、単純に相互作用のある遺伝子間又は蛋白質間を結合させるものである。
【非特許文献1】Saegusa A. Nature 401, 6751 (1999)
【非特許文献2】Dalton R, Abbott A. Nature 402, 6763 (1999)
【非特許文献3】宮本悦子、柳川弘志 (2000) シリーズ・ポストシークエンスのゲノム科学3: プロテオミクス, pp.136-145
【非特許文献4】宮本悦子、柳川弘志 (2001) 蛋白質・核酸・酵素、46(2), pp.138-147)
【非特許文献5】宮本悦子、柳川弘志 (2001) 蛋白質・核酸・酵素、48(11), pp.1474-1480)
【非特許文献6】Xiong et al. 1993 Nature 366, 701-704
【非特許文献7】Kaelin, et al. 1991 Cell 64, 521-532
【非特許文献8】Guillaume Rigaut, et al., Nature biotechnology 17, 1030 (1999)
【非特許文献9】Fields S, Song O. Nature 340, 245 (1989)
【非特許文献10】Miyamoto-Sato E, et al. Viva Origino 25, 35 (1997)
【非特許文献11】Nemoto N, et al. FEBS Lett. 414, 405 (1997)
【非特許文献12】Miyamoto-Sato, E. et al. Nucleic Acids Res. 31, e78 (2003)
【特許文献1】国際公開第WO98/16636号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO02/46395号パンフレット
【非特許文献13】Doi N, Yanagawa H. FEBS Lett. 457, 227 (1999)
【非特許文献14】Smith G.P. Science 228, 1315 (1985)
【非特許文献15】Mattheakis, L.C. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 9022-9026
【特許文献3】国際公開第WO95/11922号パンフレット
【非特許文献16】Roberts R.W, Szostak J.W. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 12297
【特許文献4】米国特許第6,228,994号明細書
【特許文献5】国際公開第WO02/48347号パンフレット
【非特許文献17】Schwikowski B., Uetz P. & Fields S. Nat. Biotechnol. 18, 1257-1261 (2000)
【非特許文献18】Bader, G.D. & Hogue Christopher, Nat. Biotechnol. 20, 991-997 (2002)
【非特許文献19】Legrain, P., Wojcik, J. & Gauthier, J-M. Trends in Genetics 17, 346-352 (2001)
【発明の開示】
【0008】
従来の遺伝子又は蛋白質のネットワーク・マップは、単純に相互作用のある遺伝子や蛋白質を結合することでネットワーク(図1A)を作図している。そのため、この方法では、マップからの複合体の予測、構造と機能とのリンクによる創薬への応用などが困難である。本発明の課題は、ポストゲノム機能解析において、蛋白質間および蛋白質-核酸間などの相互作用ネットワーク解析から公知の蛋白質の新たな機能やこれまで知られていなかった新規の蛋白質などの重要な生体高分子の発見による医薬品の創製などに応用可能な遺伝子ネットワーク・マップを提供することである。
【0009】
本発明者らは、蛋白質−蛋白質又は蛋白質−核酸の相互作用する領域で、アミノ酸配列又は核酸配列で表示される機能エレメントに着目し、延べの遺伝子間や蛋白質間の結合ではなくて、相互作用のある遺伝子や蛋白質の機能エレメント間の結合によるネットワーク(図1B)を作図すると、一層生物学的に意味のあるマップを提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
1. 遺伝子および/又は蛋白質の相互関係のデータに基づき遺伝子および/又は蛋白質の相互関係を示すマップの作成方法であって、相互関係が遺伝子および/又は蛋白質の機能エレメントに基づく相互関係であることを特徴とする方法。
【0012】
2. 機能エレメントが、遺伝子および/又は蛋白質の相互作用解析によりランダムライブラリーから抽出された配列に基づき決定されたものである1に記載の方法。
【0013】
3. ランダムライブラリーが核酸配列のランダムライブラリーである2記載の方法。
【0014】
4. ランダムライブラリーが対応付け分子のランダムライブラリーである2記載の方法。
【0015】
5. 相互作用解析が、in vitroウイルスを用いる相互作用解析である2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【0016】
6. 遺伝子および/又は蛋白質の間の相互関係のデータを記憶する記憶手段、ならびに、記憶手段から読み出された相互関係のデータに基づき遺伝子および/又は蛋白質の間の相互関係を示すマップを描画する手段としてコンピューターを機能させるためのプログラムであって、遺伝子および/又は蛋白質の相互関係が、遺伝子および/又は蛋白質の機能エレメントに基づく相互関係であることを特徴とするプログラム。
【0017】
7. 機能エレメントが、遺伝子および/又は蛋白質の相互作用解析によりランダムライブラリーから抽出された配列に基づき決定されたものである6に記載のプログラム。
【0018】
8. ランダムライブラリーが核酸配列のランダムライブラリーである7記載のプログラム。
【0019】
9. ランダムライブラリーが対応付け分子のランダムライブラリーである7記載のプログラム。
【0020】
10. 相互作用解析が、in vitroウイルスを用いる相互作用解析である7〜9のいずれか1項に記載のプログラム。
【0021】
11. 6〜10のいずれか1項に記載されたプログラムを記録したコンピューター読み取り可能な記録媒体。
【0022】
12. 遺伝子および/又は蛋白質の間の相互関係のデータを記憶する記憶手段、ならびに、記憶手段から読み出された相互関係のデータに基づき遺伝子および/又は蛋白質の間の相互関係を示すマップを描画する手段を備える、遺伝子および/又は蛋白質の相互関係を示すマップの作成装置であって、遺伝子および/又は蛋白質の相互関係が、遺伝子および/又は蛋白質の機能エレメントに基づく相互関係であることを特徴とする装置。
【0023】
13. 機能エレメントが、遺伝子および/又は蛋白質の相互作用解析によりランダムライブラリーから抽出された配列に基づき決定されたものである12に記載の装置。
【0024】
14. ランダムライブラリーが核酸配列のランダムライブラリーである12記載の装置。
【0025】
15. ランダムライブラリーが対応付け分子のランダムライブラリーである12記載の装置。
【0026】
16. 相互作用解析が、in vitroウイルスを用いる相互作用解析である13〜15のいずれか1項に記載の装置。
【0027】
17. in vitroウイルスを用いる相互作用解析により、相互作用する遺伝子又は蛋白質のライブラリーを得、そのライブラリーの遺伝子又は蛋白質の核酸配列又はアミノ酸配列から抽出された配列に基づき機能エレメントを決定することを含む、機能エレメントの決定方法。
【0028】
本発明は、延べの遺伝子や蛋白質のネットワーク・マップではなくて、遺伝子や蛋白質の機能エレメントを抽出し、それら機能エレメントを抽出した遺伝子や蛋白質のデータベースを用いた機能エレメント間の結合によるネットワーク・マップを提供する(図1)。そのことによって、遺伝子間や蛋白質間のネットワークの詳細な解析や複合体の予想が可能となり、構造解析と合わせて解析することにより、創薬支援システムへ応用可能なマップを提供することが可能になる。
【0029】
複合体の予測に関しては、図2に示すように、たとえば、三つの蛋白質の相互作用を従来のマップで書くと、三つの蛋白質の複合体について(I)の場合なのか(II)の場合なのかを予測することは不可能であったが、機能エレメントに基づくマップでは、蛋白質d, eが同じ機能ドメインで蛋白質Aと相互作用しているならば、複合体は(I)ではなくて(II)の場合であることが予測できる。
【0030】
構造解析と機能解析のリンクによる創薬への応用に関しては、図3に示すように、機能エレメントが決定された蛋白質について構造解析を行えば、構造解析と機能解析のリンクが可能となる。これまでの相互作用マップでは、相互作用している部位の配列までは知りようがなかったが、機能エレメントに基づくマップでは、相互作用している特定の配列とその部分の構造を比較することが可能となり、阻害剤などの創薬のためのミューテーション実験などに大変有利となる。
【0031】
図4のように、機能エレメントが抽出された蛋白質(遺伝子)の各機能エレメントを選択したときのネットワーク・パターンは、それぞれ異なってくる。一つの蛋白質(遺伝子)でもさまざまなネットワークに関係している可能性があり、これまでのような延べの結合のみを表示する方法では、生体のパスウエイを予想することは困難であった。
【0032】
また、図5のように、機能エレメントに基づく遺伝子ネットワーク・マップは、各機能エレメントに基づくネットワーク・パターンから複合体を予測可能であり、構造解析データと照らし合わせながら、注目している遺伝子のin vivoでのパスウエイを予想し、それを検証するための実験を組み立てる支援が可能となる。
【0033】
最終的には、機能エレメントに基づくネットワーク・マップを土台として、複合体の予想や構造解析データとの融合により、図6のような生体の遺伝子ネットワークのモデルを提案できる。
【0034】
また、IVV法(図7)による機能エレメント抽出によるマッピングでは、擬陽性が少ないため、酵母ツーハイブリッド法のように擬陽性をバイオインフォマティックのレベルで解決する必要が無く、大変有利となる(図8)。IVV法による機能エレメント決定法は、通常には、以下のように実施できる。図9に示すように、シーケンス配列を入力し、ベクター配列を除去し、cDNA配列を抽出し、データベース検索し、蛋白質フレームやIVVフレームを確認する。以上によって、IVVとして蛋白質を発現しているテンプレートのみ選択し、それらのテンプレートをアライメントとクラスタリングにかけ、各クラスターから蛋白質や遺伝子の共通配列を抽出比較し、機能エレメントを決定する。それら機能エレメントを抽出した遺伝子や蛋白質を集めてデータベースとし、そのデータベースを用いたネットワーク・マップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の機能エレメントに基づく遺伝子ネットワーク・マップの一例を示す。従来の遺伝子ネットワーク・マップと本発明の機能エレメントに基づいた遺伝子ネットワーク・マップを比較して示す。ここでは、A遺伝子(蛋白質)が3つの機能エレメントから構成されている。
【図2】本発明の機能エレメントに基づく遺伝子ネットワーク・マップにおける複合体予測の一例を示す。蛋白質eと蛋白質dが蛋白質Aの同じ機能エレメントで結合する場合は、Iのケースの複合体はあり得ないことが予想される。I: 3つの蛋白質からなる複合体、II:2つの蛋白質からなる複合体。
【図3】本発明で用いられる機能エレメントが抽出された蛋白質(遺伝子)の一例を示す。機能解析において機能エレメントが抽出された蛋白質は、構造解析結果と合わせることで、機能解析と構造解析の橋渡しが可能となり、創薬などに貢献可能となる。ここでは3つの機能エレメント(Element)が抽出された蛋白質を示している。
【図4】機能エレメントが抽出された蛋白質(遺伝子)と各機能エレメントを選択したときの本発明の機能エレメントに基づくネットワーク・パターンの例を示す。
【図5】遺伝子ネットワークの一例を示す。本発明の機能エレメントに基づく遺伝子ネットワーク・マップは、各機能エレメントに基づくネットワーク・パターンから複合体を予測可能であり、構造解析と照らし合わせながら、注目している遺伝子のin vivoでのパスウエイを予想し、それを検証するための実験を組み立てる支援が可能となる。
【図6】生体の遺伝子ネットワーク・モデルの一例を示す。本発明の機能エレメントに基づく遺伝子ネットワーク・マップを土台として、複合体の予想や構造解析との融合により、最終的に提供されると考えられる仮想的な例である。
【図7】遺伝子ネットワーク・マップおよび機能エレメントが抽出された蛋白質(遺伝子)を実現するためのIVVセレクション法による解析システムの一例を示す。IVVセレクション法による解析システムは、IVVセレクションによる一次スクリーニングとC末端ラベル化法などを利用した相互作用解析であるポストセレクションとしての二次スクリーニングからなる。一次スクリーニングで物質や蛋白質と相互作用を検出し、さらに、相互作用の詳細をFCCSやマイクロアレイなどの二次スクリーニングで解析することが可能である。また、本発明の蛋白質や核酸配列は、IVV又はC末端ラベル化蛋白質として、単独でFCCSやマイクロアレイなどにより物質や蛋白質との相互作用解析に利用することも可能である。また、本発明の蛋白質や核酸配列のIVVを用いた進化分子工学に応用し、一次スクリーニングにより機能性蛋白質の創出に利用することも可能であり、その際に、一次スクリーニングと二次スクリーニングを組み合わせて、創出した機能性蛋白質の相互作用の詳細を解析することも可能である。
【図8】遺伝子ネットワーク・マップおよび機能エレメントが抽出された蛋白質(遺伝子)を実現するためのIVVセレクション法による信頼性の高いデータベースの構築の一例を示す。従来法では、擬陽性の高いデータをバイオインフォマティックスによる後処理で解決を試みてきたが、IVVセレクション法では、擬陽性の低い実験データが最初から提供される。
【図9】遺伝子ネットワーク・マップおよび機能エレメントが抽出された蛋白質(遺伝子)を実現するためのIVVセレクション法の検出配列データ解析フローを示す。IVVセレクション法による解析システムで検出した配列のシーケンスを入力し、配列の前処理の後、データベース検索、アライメント解析してクラスタリングにより各機能エレメントの共通配列を抽出し、解析結果の一覧を遺伝子カタログとして表示する。さらに、それらの解析結果をデータベースとして蓄え、それらのデータをもとにして、遺伝子ネットワーク・マップ又は機能エレメントが抽出された蛋白質(遺伝子)を作図する。
【図10】機能エレメントに基づく遺伝子ネットワーク・マップおよび機能エレメントが抽出された蛋白質(遺伝子)を実現するために用いることのできるIVVのランダムプライミングライブラリーとその製法の概略を示す。RNAライブラリーを鋳型として、9塩基からなるランダム配列と特定配列(tag2 配列)を含むランダムプライマーを用いてランダムプライミング法により逆転写でmRNAに相補的な一本鎖cDNAライブラリー(ssDNAライブラリー)を合成する(I)。RNaseHによりcDNAとRNAの二本鎖からRNAのみを分解すると同時に、DNAポリメラーゼIによるcDNAに相補的なDNAを合成し、さらに、DNAリガーゼによりDNA ポリメラーゼIにより合成されたDNA間にあるニックを修正して二本鎖DNAライブラリー(dsDNA ライブラリー)を合成する(II)。合成された二本鎖cDNAはDNAポリメラーゼIにより合成された側のみ5'末端にリン酸基を持つのでこれを利用し、特定配列(5'UTR=プロモーター+エンハンサー)を持つアダプターをDNAリガーゼを用いて結合し、ライゲーテッドdsDNA ライブラリーを合成する(III)。アダプターとランダムプライマーの特定配列を利用してPCRを行い、5'側にプロモーターとエンハンサーの配列、3'側にA tailをもつ対応付け分子のcDNAライブラリー(IVV cDNAライブラリー)を作成する(IV)。次にIVV cDNAライブラリーを転写してIVV RNAライブラリーとし(V)、IVVとするためのスペーサーをライゲーションし(VI)、さらに、無細胞翻訳系などで翻訳すれば、対応付け分子のライブラリーとなる(VII)。
【図11】翻訳テンプレート(A)ならびにその構成要素であるコード分子(B)およびスペーサー分子(C)の構成を示す。翻訳テンプレートは、コード分子由来のコード部とスペーサー分子由来のスペーサー部からなる。F1およびF2は蛍光色素を示す。
【図12】C末端修飾された蛋白質(C末端ラベル化蛋白質)(A)、本発明の翻訳テンプレート(B)、および、修飾剤(C)の構成を示す。
【図13】無細胞共翻訳による複合体の形成の概略を示す。A: ベイトとプレイが無細胞翻訳系で共に翻訳され相互作用し、無細胞翻訳系において複合体を形成する。プレイは単数(I)であっても複数(II)であっても構わないし、また、無細胞翻訳系での翻訳で得られるポリペプチドそのものであっても、対応付け分子(結合体)であっても構わない。B: ベイトの共存下、プレイが無細胞翻訳系で翻訳され相互作用し、無細胞翻訳系において複合体を形成する。プレイは単数(I)であっても複数(II)であっても構わないし、また、無細胞翻訳系での翻訳で得られるポリペプチドそのものであっても、対応付け分子(結合体)であっても構わない。
【図14】複合ベイトを用いた場合の無細胞共翻訳による複合体の形成の概略を示す。 複合ベイトを構成する一部のベイトとプレイが無細胞翻訳系で共に翻訳され相互作用し、無細胞翻訳系において複合体を形成する。プレイは、単数(I)であっても複数(II)であっても構わないし、また、無細胞翻訳系での翻訳で得られるポリペプチドそのものであっても、対応付け分子(結合体)であっても構わない。また、複合ベイトは、図に示した無細胞翻訳系で翻訳されたポリペプチドとDNAベイトの組合せに限られず、無細胞翻訳系で翻訳された複数又は単独のポリペプチドと、無細胞翻訳系で共存する複数又は単独のベイト(たとえば、DNAベイトなど)の組み合わせが挙げられる。
【図15】無細胞共翻訳による複合体のスクリーニング方法の概略を示す。 図13および14で示したような無細胞共翻訳による複合体形成の工程(1)、その複合体のプレイをスクリーニングする工程(2)、および、プレイの解析の工程(3)により、無細胞共翻訳とスクリーニングをトータルにin vitroで実現することができる。プレイが対応付け分子でかつ複数であれば、RT-PCR又はPCRによってプレイをコードするmRNA又はDNAを再構成することにより再度(1)の工程からスクリーニングを繰り返すことができる。また、得られたプレイを解析後、ベイトとして(1)の工程からスクリーニングを新たに繰り返すことができる。
【図16】遺伝子ネットワーク・マップおよび機能エレメントが抽出された蛋白質(遺伝子)を実現するための手段である機能エレメント決定方法を示す。ランダム・ライブラリーなどからIVVセレクション法などにより検出された複数の遺伝子(蛋白質)配列、又は複数の核酸(DNA)配列が得られたものをアライメントし、クラスタリングによって機能エレメントを抽出する。ここでは、c-Jnuの複数の遺伝子(蛋白質)配列(模様で示す)が得られており、E2のみを持つグループとE2+E3のグループとE1+E2+E3のグループに分けることが出来る。各グループの共通配列を抽出して機能エレメントとした。3つの機能エレメント毎又はその組み合わせによる機能が存在する可能性が考えられる。
【図17】図16で抽出したc-Jun遺伝子の機能エレメントE1、E2、E3のアミノ酸配列および核酸配列を示す。
【図18】図16で機能エレメントE1、E2、E3を抽出したc-Jun遺伝子とその構造解析結果との照合を示す。
【図19】図16で抽出したc-Jun遺伝子の機能エレメントE1、E2、E3を用いたネットワーク・マップと機能エレメントの選択によるネットワーク・マップのパターンの違いを示す。
【図20】本発明のマップ作成装置の構成の一例を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
<1>本発明のネットワーク・マップの作成方法
本発明の作成方法は、相互関係が遺伝子および/又は蛋白質の機能エレメントに基づく相互関係であることの他は、通常の、遺伝子および/又は蛋白質の相互関係のデータに基づき遺伝子および/又は蛋白質の相互関係を示すマップ(ネットワーク・マップ)の作成方法と同様でよい。このようなマップはグラフとも呼ばれることがある。また、表示する相互関係の種類によっては、遺伝子ネットワーク・マップ、遺伝子発現制御ネットワークと呼ばれることもある。
【0037】
マップを作成する方法としては、ネットワークを、遺伝子および/又は蛋白質をノード、相互関係をエッジとするグラフとみなして、グラフ表示のアルゴリズムによりマップを作成する方法が挙げられる。代表的なものとしては、「スプリングモデル」と呼ばれるモデルにより作成する方法が挙げられる。
【0038】
相互関係には、ある遺伝子が他の遺伝子を制御する関係、蛋白質間で相互作用する関係、ある蛋白質が、他の蛋白質をコードする遺伝子の発現に影響する関係などの直接および間接に作用する関係が含まれる。
【0039】
本発明の作成方法で作成されるネットワーク・マップとは、遺伝子又は蛋白質の相互作用に寄与する特定の配列の結合関係をマッピングしたものである。遺伝子又は蛋白質の相互作用に寄与する特定の配列を機能エレメントと呼び、この配列は、一つの遺伝子又は蛋白質に0−複数存在することがある。機能エレメントがゼロのものは、孤立した遺伝子や蛋白質であり、機能エレメントが沢山あるものは、他のいろいろな遺伝子や蛋白質と相互作用があることを表している。図1(II)のように、たとえば、A遺伝子が3つの機能エレメントを持つ場合、A遺伝子の3つのサブ領域(機能エレメント)とそれぞれさまざまな蛋白質のサブ領域(機能エレメント)との相互作用関係を結合したマップが、本発明による遺伝子ネットワーク・マップである。
【0040】
ここで、機能エレメントとは、遺伝子又は蛋白質の相互作用に寄与する特定の配列であり、遺伝子の場合は核酸配列であり、蛋白質の場合はアミノ酸配列とそれをコードする核酸配列である。いわゆる機能モチーフ、機能ドメインなどと呼ばれている配列でもかまわない。すなわち、あらゆる相互作用解析によって得られた遺伝子間又は蛋白質間の相互作用に寄与する特定の配列であり、たとえば、ミューテーション実験やゲルシフト・アッセイなど配列の一部の改変や削除による相互作用に最低限必要な配列の決定、又は構造決定による相互作用領域の決定、又は、IVVや酵母ツーハイブリッド、ファージ・ディスプレイ法などによって得られた配列でもかまわない。
【0041】
遺伝子および/又は蛋白質の機能エレメントに基づく相互関係を示すマップにおいては、一の遺伝子および/又は蛋白質が有する機能エレメントが、その一の遺伝子および/又は蛋白質に存在することが分かるように表示することが好ましい。例えば、図1のように、機能エレメントの相互関係を示す表示(図1では実線)と、同一の遺伝子および/又は蛋白質に存在することを示す表示(図1では点線)に分けることにより区別して表示する方法が挙げられる。
【0042】
本発明によるマップによって、図2に示したように、複合体の予想が可能となる。たとえば、三つの蛋白質の相互作用を従来のマップで書くと、三つの蛋白質の複合体について(I)の場合なのか(II)の場合なのかを予測することは不可能であった。本発明によるマップでは、蛋白質d, eが同じ機能ドメインで蛋白質Aと相互作用しているならば、複合体は(I)ではなくて(II)の場合であることが予測できる。
【0043】
本発明で用いられる蛋白質や遺伝子は、相互作用解析において、ベイト又はプレイとして、ランダム・ライブラリーを利用している場合に、ライブラリーから複数のテンプレートが検出されることにより、相互作用に必要な共通配列を抽出できる方法で解析された蛋白質や遺伝子であることが好ましい。
【0044】
ここで、ランダム・ライブラリーとは、ライブラリーを構成する遺伝子や蛋白質が、ある一通りの配列ではなく、幾通りもの配列で構成されているものである。そのことによって、相互作用解析では、一つの遺伝子で複数のテンプレートを検出できるので、その中で相互作用に必要な共通配列を機能エレメントとして抽出できる。ランダム・ライブラリーは、核酸ライブラリー、ペプチド・ライブラリー、蛋白質ライブラリーなどが考えられ、核酸ライブラリーでは、蛋白質の結合するプロモーター領域などが機能エレメントとして抽出され、ペプチド・ライブラリー、蛋白質ライブラリーなどでは、蛋白質同士の結合領域や核酸のプロモーター領域と結合する領域などが機能エレメントとして抽出される。
【0045】
共通配列の抽出によって機能エレメントが決定された蛋白質や遺伝子を用いることによって、図3に示したように、構造解析された蛋白質のどのような構造に機能エレメントが当たるのかを解析可能となり、相互作用(機能)と構造のリンクが可能となる。このことによって、構造解析と機能解析のリンクによる創薬への応用などが現実的となる。たとえば、これまでの蛋白質による相互作用解析や酵母ツーハイブリッド法などでは、相互作用している部位の配列までは知りようがなかったが、本発明では、相互作用している特定の配列とその部分の構造を比較することが可能となり、阻害剤などの創薬のためのミューテーション実験などに大変有利となる。
【0046】
図4のように、機能エレメントが決定された蛋白質や遺伝子の各機能エレメントを選択したときのネットワーク・パターンは、それぞれ異なってくる。一つの蛋白質や遺伝子でもさまざまなネットワークに関係している可能性があり、これまでのような延べの結合のみを表示する方法では、生体のパスウエイを予想することは困難である。
【0047】
また、図5のように、機能エレメントに基づく遺伝子ネットワーク・マップは、各機能エレメントに基づくネットワーク・パターンから複合体を予測可能であり、構造解析データと照らし合わせながら、注目している遺伝子のin vivoでのパスウエイを予想し、それを検証するための実験を組み立てる支援が可能となる。たとえば、詳細に解析してパスウエイを明確にしたいある蛋白質がある場合、ある蛋白質をベイトとするのみならず、その蛋白質の遺伝子のプロモーター部分にも注目し、たとえばAP1サイトがあれば、AP1サイトと相互作用する蛋白質fos/Junなどの蛋白質もベイトとすることで並列的な解析を行えば、ある蛋白質の上流(up-regulation)から下流(down-regulation)へのパスウエイを推測可能となる。
【0048】
最終的には、本発明の機能エレメントに基づくネットワーク・マップを土台として、複合体の予想や構造解析データとの融合により、図6のような生体の遺伝子ネットワークのモデルを提案できる。
【0049】
ランダム・ライブラリーを用いた対応付け分子であるIVV法による機能エレメント決定方法を以下に詳しく説明する。図7に示すように、一次スクリーニング(IVVセレクション)として、cDNA、ランダム・ペプチド、ランダム・プロテインなどのランダム・ライブラリーを用いたIVV法でベイト(低分子化合物、核酸、蛋白質など)と相互作用のあるプレイ集団をライブラリーから検出し、C末端ラベル化法などを利用した二次スクリーニング(ポスト・セレクション)で検証するシステムである。
【0050】
IVV法(図7)により決定された機能エレメントによるマッピングでは、IVVセレクションでの擬陽性が少なく、かつポスト・セレクションで擬陽性の排除を行うために、酵母ツーハイブリッド法のように擬陽性をバイオインフォマティックスのレベルで解決する必要が無く、大変有利となる(図8)。したがって、本発明は、本発明の作成方法において使用するのに好ましい機能エレメントの決定方法、すなわち、in vitroウイルスを用いる相互作用解析により、相互作用する遺伝子又は蛋白質のライブラリーを得、そのライブラリーの遺伝子又は蛋白質の核酸配列又はアミノ酸配列から抽出された配列に基づき機能エレメントを決定することを含む、機能エレメントの決定方法も提供する。
【0051】
従来のTAP法、酵母ツーハイブリッド法(1:1のマトリックス型解析)などでは、蛋白質の相互作用する領域である機能エレメントを抽出することは困難である。しかしながら、in vitro virus(IVV)法、ファージディスプレイ法などでは、ランダムプライマーなどを用いたライブラリー(一つの遺伝子について幾通りもの部分配列を包含したライブラリー)を利用することにより、遺伝子や蛋白質の相互作用する領域である機能エレメントを抽出することが可能となる。酵母ツーハイブリッド法でもランダムプライマーなどを用いたライブラリー(一つの遺伝子について幾通りもの部分配列を包含したライブラリー)を利用することで機能エレメントの抽出は可能であるが、一般的にはマトリックス型が採用されており、かつ擬陽性が多いなどの問題がある。また、ファージディスプレイ法では、ペプチド・ライブラリーのため、機能エレメントの抽出にはライブラリーの平均長が短すぎるという問題点がある。一方、図4に示したように、我々が先に発明してきたIVVとそのライブラリー(特許文献:特願2002-360039)を用いる方法では、機能エレメントを抽出するのに、ライブラリーの平均長は十分に長く、酵母ツーハイブリッド法などと比較して擬陽性の少ないデータが得られる(図5)。このことによって、より正確なネットワーク・マッピングが可能となる。また、IVV法ではベイトは核酸でも蛋白質でもセレクションが可能なため、蛋白質−蛋白質相互作用のみならず、蛋白質−核酸相互作用についてもデータベースを構築することが可能となり、より網羅ネットワーク・マッピングが可能となる。そして、IVVの機能エレメント抽出法により得られる機能エレメントを用いることは、1)複合体の予測(図2);2)構造解析と機能解析とのリンクによる創薬への応用(図3)などにおいて有利である。
【0052】
IVV法による機能エレメント決定法の例について以下に説明する。図9に示すように、IVVセレクションで検出したシーケンス配列から、ベクター配列を除去し、cDNA配列を抽出し、必要によりデータベース検索し、蛋白質フレームを確認すると同時に、IVVフレームを確認する。さらに、それらのシーケンス配列をアライメントにかけ、各蛋白質(遺伝子)の共通配列を機能エレメントとして抽出する。
【0053】
IVVセレクションで検出したシーケンス配列とは、市販のシーケンサー(ABI,BECKMANなど)の波形データとその解析に基づく配列データである。
【0054】
ベクター配列の除去とは、シーケンスのためのクローニングに用いたベクター配列を除去し、余分な配列を除去してcDNAライブラリー配列のみとすることである。
【0055】
cDNA配列の抽出とは、データベース検索にかけるために、ライブラリーに共通の配列を除去し、ここでは、cDNA配列のみとすることである。
【0056】
データベース検索とは、核酸データベースとして、ntなどがあり、蛋白質データベースとして、nrなどがあり、その他、refseq, fantom2などのデータベース、ゲノム・データベースなどがある。
【0057】
蛋白質フレームの確認とは、無細胞翻訳系で翻訳されたフレームがデータベースに登録されている蛋白質のORFとフレームが一致するかどうかを確認することである。フレームが一致していない場合は、フレーム・シフトなのか、3'UTR, 5'UTRの配列なのか、などを明らかにする。
【0058】
IVVフレームの確認とは、無細胞翻訳系で翻訳されうる配列なのかどうかを確認することである。すなわち、ストップ・コドンが複数出てくるか、場所はN末端側か、などによって判断する。
【0059】
アライメントとクラスタリング解析による共通配列の抽出は、通常の方法によって行うことができる。このような抽出を行うためのソフトウェア(例えばClustalX)が入手可能である。以上のような処理を施した配列プールの中で類似の配列、ここでは、同じ遺伝子を抽出し、その配列間でクラスタリングし、クラスタリングにおける各共通配列を抽出比較し、機能エレメントとして抽出する。
【0060】
以下、本発明の具体的なマップや蛋白質を実現するための機能エレメント決定方法の例として、ベイトとプレイとの間の相互作用の検出においてIVV法を用いるものについて詳細に説明する。
【0061】
IVV法に使用されるRNA又はmRNAライブラリーは、原核、真核生物、ウイルスなどあらゆる種のいかなる組織から抽出したRNA又はmRNAライブラリーでも構わない。また、解読したゲノムやcDNAライブラリーを転写したRNAライブラリーやそれを再現した人工のRNAライブラリー、又は自然には存在しない配列を含む人工のcDNAライブラリーを転写したRNAライブラリーでも構わない。
【0062】
一本鎖(ss)DNAライブラリーは、上記のRNA又はmRNAライブラリーを特定配列を持つランダムプライマーで逆転写(図10、I)したライブラリーである。この際の逆転写酵素としては特に定めはなく、SuperScript II RT (SuperScript Double Strand cDNA Synthesis Kit; Invitrogen), Sensiscript Reverse Transcriptase(Qiagen)などで良い。また、ランダムプライマーのアダプター部分の特定配列については、最終的に対応付け分子のライブラリーを作成できるものあれば制限はないが、通常には、図10にあるように、3'tail又はTag 2と3'tailを含む配列となる。ここで、3'tailは、A配列としてポリAx8配列、又はXA配列としてXhoI配列や4塩基以上で(C又はG)NN(C又はG)の配列とA配列の組み合わせが挙げられる。Tag 2は、親和性タグ配列としてFlag-tag配列、HA-tag、IgGのプロテインA(zドメイン)などの抗原抗体反応を利用したもの、His-tagなど、蛋白質を検出又は精製できるいかなる手段を用いるための配列でもかまわない。ここで、翻訳効率に影響する範囲としては、C末端ラベル化蛋白質合成の際は、XA配列の組み合わせが好ましく、IVV形成の際は、A配列が好ましい。また、3'tailのXA配列又はA配列は、IVVのPEGスペーサーや翻訳をさらに促進するPEG(Boc)スペーサーとのライゲーションの際に必要な配列でもある。
【0063】
対応付け分子の構成は、例えば、WO 02/46395に記載されており、対応付け分子の形成に必要な配列、すなわち、特定配列は当業者であれば、このような公知の構成に基づき、適宜設定できる。
【0064】
dsDNAライブラリーは、上記のssDNAライブラリーを二本鎖DNAに合成(図10、II)したものである。この際、DNAポリメラーゼIによる相補鎖DNAの合成とRNase HによるRNA分解を同時に行い、さらに、DNAリガーゼで、DNAポリメラーゼIにより合成されたDNA間のニックをつなぐ。合成された二本鎖DNAライブラリーは、DNAポリメラーゼIにより合成された相補鎖のみ5'末端がリン酸化されており、3'末端に特定の配列を持つことが重要な特徴である。なお、dsDNAライブラリーは、この方法により形成されることが好ましいが、一本鎖DNAの相補鎖DNAの5'末端のみがリン酸化されているdsDNAライブラリーが形成される限り、他の酵素を用いてもよいし、他の原理によって形成してもよい。
【0065】
ライゲーテッドdsDNAライブラリーは、上記のdsDNAライブラリーに、特定配列を持つアダプターをDNAリガーゼによりライゲーション(図10、III)したものである。この際に、アダプター主鎖の5'末端はリン酸化されていないことでセルフライゲーションを回避することが特徴であり、ライゲーション効率の良いDNAリガーゼでライゲーションできるようにアダプターの3'末端に主鎖より短い副鎖をハイブリダイゼーションし二本鎖にしておくことが好ましい。ここで、アダプターの副鎖の5'末端もリン酸化されていないことが必要であり、理論的には主鎖より短ければよいが、ハイブリダイゼーションの有効性を考えると6bp以上であることが好ましい。ライゲーションをRNAリガーゼで行う場合は、アダプターは一本鎖とし、ここでもアダプターをリン酸化しない。ただし、IVVランダムライブラリー作成時では、テンプレートの3'末端がRNAリガーゼの良いアクセプターとなるための配列(A配列)を有しており、テンプレート同士のライゲーションが起こる確率は、DNAリガーゼを用いた作成方法より断然高くなる点が不利である。また、RNAリガーゼはDNAリガーゼに比較してライゲーション効率が落ちるので、総合的に見て、ライゲーションをDNAリガーゼで行うことが好ましい。また、アダプターの特定配列については、最終的に対応付け分子のライブラリーを作成できるものあれば制限はないが、通常には、図10にあるように、5'UTR又は5'UTR とTag 1を含む配列となる。5'UTRは、転写プロモーターと翻訳エンハンサーからなり、転写プロモーターはT7/T3又はSP6などが利用でき、特に制限はないが、小麦の無細胞翻訳系では、転写プロモーターとしてはSP6、翻訳のエンハンサー配列としてはオメガ配列やオメガ配列の一部を含む配列を利用することが好ましい。翻訳エンハンサーのオメガ配列の一部(O29)は、TMVのオメガ配列の一部を含んだものである(Gallie D.R., Walbot V. (1992) Nucleic Acids Res., vol. 20, 4631-4638、および、WO 02/48347の図3参照)。Tag 1については、先程のTag2と同様であるが、Tag 1とTag2の両方を配する場合は、異なるTag配列を配するようにする。ライゲーションされるアダプターには、これら5'UTR又は5'UTR とTag 1の一部又は全部の配列が含まれる場合がある。
【0066】
本発明のIVV cDNAライブラリーは、上記のライゲーテッドdsDNAライブラリーをテンプレートとして、特定の配列を有する5'および3'プライマーでPCR(図10、IV)を行い合成する。5'および3'プライマーは、5'UTR、Tag 1、Tag 2、3'tailの特定の配列でアニーリングし、かつ5'UTR、Tag 1、Tag 2、3'tailの一部をアダプター配列として含む場合がある。このPCRで5'UTR、Tag 1、Tag 2、3'tailなどの特定配列を持つcDNAライブラリーが完成する。
【0067】
本発明のIVV RNAライブラリーは、上記のIVV cDNAライブラリーを転写(図10、V)して得られる。この際、このIVV RNAライブラリーをこのまま翻訳することやC末端ラベル化剤存在化に翻訳することでC末端ラベル化蛋白質ライブラリーを合成することが可能である。転写の酵素は、特定配列に選択したT3, T7又はSP6などの酵素となる。
【0068】
本発明のIVVライゲーテッドRNAライブラリーは、上記のIVV RNAライブラリーをスペーサーとライゲーション(図10、VI)して得られる。スペーサーとしては、IVV形成の場合はIVVのPEGスペーサー、およびC末端ラベル化蛋白質合成のためのPEG(Boc)スペーサーなどが考えられる。ライゲーション酵素としては、RNAリガーゼを用いる方法が代表的だが、その他、DNAリガーゼを用いるものや光反応による連結など何でもよく、特に限定されるものではない。
【0069】
本発明のIVVランダムプライミングライブラリーは、上記のIVVライゲーテッドRNAライブラリーを無細胞翻訳系又は細胞内で翻訳(図10、VII)して得られる。
【0070】
IVVのPEGスペーサーおよびC末端ラベル化蛋白質合成のPEG(Boc)スペーサーは、CCA領域、PEG領域、ドナー領域からなる。最低限必要な構成は、ドナー領域である。翻訳効率に影響する範囲としては、ドナー領域のみならずPEG部を持つものが好ましく、さらにアミノ酸との結合能力のないピューロマイシンを持つことが好ましい。PEG領域のポリエチレングリコールの分子量の範囲は、400〜30,000で、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜6,000である。また、CCA領域にはピューロマイシンを含む構成と含まない構成が可能であり、ピューロマイシンについては、ピューロマイシン(Puromycin)、3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(3'-N-Aminoacylpuromycin aminonucleoside, PANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのPANS-Gly、バリンのPANS-Val、アラニンのPANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するPANS-全アミノ酸が利用できる。また、化学結合として3'-アミノアデノシンのアミノ基とアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合した結果形成されたアミド結合でつながった3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(3'-Aminoacyladenosine aminonucleoside, AANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのAANS-Gly、バリンのAANS-Val、アラニンのAANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するAANS-全アミノ酸が利用できる。また、ヌクレオシド又はヌクレオシドとアミノ酸のエステル結合したものなども利用できる。その他、ヌクレオシド又はヌクレオシドに類似した化学構造骨格を有する物質と、アミノ酸又はアミノ酸に類似した化学構造骨格を有する物質を化学的に結合可能な結合様式のものなら全て利用することができる。CCA領域は、5'側に1残基以上のDNAおよび/又はRNAからなる塩基配列を持つことが好ましい。塩基の種類としては、C>(U又はT)>G>Aの順で好ましい。配列としては、dC-ピューロマイシン, rC-ピューロマイシンなど、より好ましくはdCdC-ピューロマイシン, rCrC-ピューロマイシン, rCdC-ピューロマイシン, dCrC-ピューロマイシンなどの配列で、アミノアシル-tRNAの3'末端を模倣したCCA配列(Philipps G.R. (1969) Nature 223, 374-377)が適当である。C末端ラベル化蛋白質合成のためのPEG(Boc)スペーサーでは、以上のピューロマイシン誘導体のアミノ基がアミノ酸と結合する能力を欠いたあらゆる物質、およびピューロマイシンを欠いたCCA領域も考えられる。PEG部は修飾物質を有する構成が可能である。このことによって、翻訳テンプレートを回収、精製による再利用、又は固定化などのためのタグとして利用することが出来る。少なくとも1残基のDNAおよび/又はRNAの塩基に修飾物質として、蛍光物質、ビオチン、又はHis-tagなど各種分離タグなどを導入したものが可能である。
【0071】
C末端ラベル化剤は、蛋白質の翻訳系でのペプチド転移反応、すなわち、リボソーム上でのペプチド転移反応によって蛋白質と結合し得る基(残基を含む)をもつアクセプター部が、ヌクレオチドリンカーを介して修飾部と結合した構成をもつ。この修飾剤の存在下で蛋白質合成を行い、得られるC末端修飾蛋白質を精製し、分子間相互作用の検出系を用いることによって、蛋白質相互作用の検出が可能となる。修飾部には、PEG部と同様に修飾物質が含まれる。修飾物質として、非放射性修飾物質の具体例としては、蛍光性、非蛍光性修飾物質等が挙げられる。蛍光性物質としては、フルオレセイン系列、ローダミン系列、Cy3、Cy5、エオシン系列、NBD 系列等の蛍光色素や、緑色蛍光蛋白質(GFP)等の蛍光性蛋白質がある。また、非蛍光性物質としては、ビオチンのような補酵素、蛋白質、ペプチド、糖類、脂質類、色素、ポリエチレングリコール等、何らかの目印となり得る化合物であればいかなるものでもよい。アクセプター部は、蛋白質の翻訳系で、ペプチド転移反応によって蛋白質と結合し得る基をもち、好ましくはピューロマイシン又はその誘導体の残基をもつ。ピューロマイシンはアミノアシルtRNAと類似した構造をもち、蛋白質合成を阻害する抗生物質として知られているが、低濃度では蛋白質のC末端に結合することが知られている(Miyamoto-Sato, E. et al. (2000) Nucleic Acids Res. 28: 1176-1182)。本発明で用いることができるピューロマイシン誘導体は、ピューロマイシンと類似した構造を有し、蛋白質のC末端に結合することができる物質であればいかなるものでもよい。具体例としては、3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド、3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド等が挙げられる。修飾部とアクセプター部との間をつなぐヌクレオチドリンカーとは、具体的には、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドが1個ないし複数個つながった核酸又は核酸誘導体であり、特に好ましい例として、シトシン塩基を含むリボヌクレオチド(-rC-)又はデオキシリボヌクレオチド(-dC-)が1個ないし複数個つながった化合物が挙げられる。その他、修飾部とアクセプター部との間に挿入することによって修飾蛋白質の収量を上げることができる物質であればいかなるものでもよい。本発明修飾剤においては、ヌクレオチドリンカーが2'-デオキシシチジル酸、2'-デオキシシチジル-(3',5')-2'-デオキシチジル酸、リボシチジル酸、又は、リボシチジル-(3',5')-リボシチジル酸であることが好ましい。修飾剤は、上記修飾部とアクセプター部とを所望のヌクレオチドリンカーを介して、それ自体既知の化学結合方法によって結合させることにより製造することができる。具体的には、例えば、適当な保護基で保護された上記アクセプター部を固相担体上に結合させ、核酸合成機を用いてヌクレオチドリンカーとしてヌクレオチドホスホアミダイト、およびデオキシヌクレオチドホスホアミダイト、機能性修飾物質として蛍光物質やビオチンなどを結合したホスホアミダイトを順次結合させた後、脱保護を行うことによって作製することができる。上記各部の種類、又は結合の種類によっては液相合成法で結合させるか又は両者を併用することもできる。また、機能性修飾物質としてニッケル等の金属イオンを用いる場合には、金属イオンが配位しうるニトリロトリ酢酸やイミノジ酢酸等のキレート性の試薬を結合させ、次いで金属イオンを配位させることができる。
【0072】
無細胞蛋白質合成系の具体例としては、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、大腸菌S30抽出液等が挙げられる。これらの無細胞蛋白質合成系の中に、翻訳テンプレートであるライブラリーを加え、C末端ラベル化の場合は、同時に1〜100μMの修飾剤を加え、25〜37℃で1〜数時間保温することによってC末端修飾蛋白質が合成される。対応付けの場合は、翻訳テンプレートであるライブラリーを加えて、25〜37℃で1〜数時間保温するだけで対応付け分子が合成される。合成された両修飾蛋白質は、そのまま次の精製プロセス又は検出プロセス、又は直接細胞への導入に供することができる。細胞発現系の具体例としては、大腸菌、枯草菌、好熱菌、酵母等の細菌から、昆虫細胞、哺乳類等の培養細胞、さらに線虫、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウス等に至るまでいかなる細胞でもよい。これらの細胞の中に、上記C末端ラベル化又は対応付けされた両修飾蛋白質を直接導入することもできるし、あるいは、翻訳テンプレートであるライブラリーを導入し、C末端ラベル化の場合は、同時に1〜100μMの修飾剤を電気穿孔法、マイクロインジェクション法等により細胞の中に導入し、細胞の至適生育温度で数時間保温することによって修飾蛋白質が合成される。対応付けの場合は、対応付けテンプレートであるライブラリーを導入し、細胞の至適生育温度で数時間保温することによって対応付け分子が合成される。合成された両修飾蛋白質は、細胞を破砕することによって回収し次の精製プロセス又は検出プロセスに供することができる。また、そのまま細胞の中で検出プロセスに供することも可能である。
【0073】
対応付け分子のライブラリーは、進化分子工学として、ダーウイン進化機構を利用して、「変異(Mutation)」、「選択(Selection)」、「増幅(Amplification)」の3つの単位操作を繰り返すことで漸進的に進化させ、所望の機能を獲得した物質を創製することで工学的に応用することが可能であり、また、ゲノム機能解析への応用として、cDNAライブラリーから所望の物質や蛋白質と相互作用を持つ一群の遺伝子配列を網羅的に解析可能である(図7)。本発明のライブラリーとしてIVVのcDNAをもちいて、一次スクリーニングで物質や蛋白質と相互作用を検出し、さらに、相互作用の詳細をFCCSやマイクロアレイなどの二次スクリーニングで解析することが可能である。また、本発明のライブラリーは、IVV又はC末端ラベル化蛋白質のライブラリーとして、単独でFCCSやマイクロアレイなどにより物質や蛋白質との相互作用解析に利用することも可能である。また、もちろん本発明のライブラリーをIVVを用いた進化分子工学に応用し、一次スクリーニングにより機能性蛋白質の創出に利用することも可能であり、その際に、一次スクリーニングと二次スクリーニングを組み合わせて、創出した機能性蛋白質の相互作用の詳細を解析することも可能である。
【0074】
この場合に、対応付け分子の共翻訳スクリーニング/セレクションを用いた解析は非常に有効である。なぜなら、共翻訳スクリーニング/セレクション法によって、ベイト蛋白質と直接又は間接的に相互作用のある蛋白質を網羅的に検出することが可能となったからである。さらに、共翻訳スクリーニング/セレクション法などによる一次スクリーニング後に、二次スクリーニングとして、物質や蛋白質と相互作用の詳細をFCCSやマイクロアレイなどにより解析することが可能である。以上の解析は、in vitroにおける共翻訳や共翻訳スクリーニング法と組み合わせて利用することもできる。また、一次スクリーニングで対応付け分子を利用するときはA配列のコード部を利用し、二次スクリーニングでは、対応付け分子を利用するときはA配列のコード部、C末端ラベル化蛋白質を利用するときはXA配列のコード部をプライミングによって変更して使用することで、それぞれの効果を使い分けることが出来る。
【0075】
上記で得られたIVVライブラリー又はC末端ラベル化蛋白質のライブラリーと「標的分子」を、修飾物質の種類や反応系の種類などにより適宜組み合わせて接触せしめ、該修飾蛋白質又は該標的分子が発する信号において両分子間の相互作用に基づいて発生される上記信号の変化を測定することにより相互作用を解析することが出来る。相互作用の解析は、例えば、蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、又は、固相酵素免疫検定法により行われる。「標的分子」とは、IVV又はC末端ラベル化蛋白質と相互作用する分子を意味し、具体的には蛋白質、核酸、糖鎖、低分子化合物などが挙げられる。蛋白質としては、本発明修飾蛋白質と相互作用する能力を有する限り特に制限はなく、蛋白質の全長であっても結合活性部位を含む部分ペプチドでもよい。またアミノ酸配列、およびその機能が既知の蛋白質でも、未知の蛋白質でもよい。これらは、合成されたペプチド鎖、生体より精製された蛋白質、又は、cDNAライブラリー等から適当な翻訳系を用いて翻訳し、精製した蛋白質等でも標的分子として用いることができる。合成されたペプチド鎖はこれに糖鎖が結合した糖蛋白質であってもよい。これらのうち好ましくはアミノ酸配列が既知の精製された蛋白質か、又は、cDNAライブラリー等から適当な方法を用いて翻訳および精製された蛋白質を用いることができる。
【0076】
これら標的分子とIVV又はC末端ラベル化蛋白質との「相互作用」とは、通常は、蛋白質と標的分子間の共有結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、および静電力による結合のうち少なくとも1つから生じる分子間に働く力による作用を示すが、この用語は最も広義に解釈すべきであり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。共有結合としては、配位結合、双極子結合を含有する。また静電力による結合とは、静電結合の他、電気的反発も含有する。また、上記作用の結果生じる結合反応、合成反応、分解反応も相互作用に含有される。相互作用の具体例としては、抗原と抗体間の結合および解離、蛋白質レセプターとリガンドの間の結合および解離、接着分子と相手方分子の間の結合および解離、酵素と基質の間の結合および解離、核酸とそれに結合する蛋白質の間の結合および解離、情報伝達系における蛋白質同士の間の結合と解離、糖蛋白質と蛋白質との間の結合および解離、又は糖鎖と蛋白質との間の結合および解離が挙げられる。
【0077】
以下、共翻訳スクリーニング/セレクションを用いた解析方法の例について説明する。解析方法には、相互作用の検出方法および相互作用する蛋白質のスクリーニング方法が含まれる。
【0078】
本発明検出方法は、ベイトとプレイとの間の相互作用の検出において、プレイとして本発明のライブラリーを用いるものである。
【0079】
好ましくは、ベイトおよびプレイに特定の様式で分離用修飾および検出用標識を行い、そして、無細胞翻訳系においてベイトの存在下で、プレイを翻訳により生成させることによりベイトとプレイとを接触させることを主な特徴とするものである。本明細書においては、無細胞翻訳系においてベイトの存在下で、プレイを翻訳により生成させることによりベイトとプレイとを接触させることを「無細胞共翻訳」ともいう。
【0080】
本明細書において、ベイトおよびプレイの用語は、物質間の相互作用の解析の技術分野で通常に用いられる意味を有する。すなわち、既知の物質である蛋白質や核酸などをベイト(おとり)と呼び、それと相互作用する物質である蛋白質や核酸などをプレイ(獲物)と呼ぶ。本発明では、プレイは蛋白質であることが好ましい。
【0081】
ここで、ベイトとしては、あらゆる蛋白質(ペプチドを含む)、核酸、抗体、ホルモンなどのリガンド、金属などの任意のものから構成される複合体が挙げられ、天然のものでも人工のもののいずれでも構わない。ベイトとしての分子量の制限などは特にない。たとえば蛋白質であれば、機能ドメイン又は機能ドメインを含む完全長蛋白質などが挙げられる。プレイライブラリーを用いる場合は、完全長蛋白質とすることでより網羅的検出が可能となる。
【0082】
また、プレイとしては、好ましくは、蛋白質のライブラリーが用いられる。プレイとしての分子量の制限などは特にない。
【0083】
本発明検出方法は、好ましくは、上述のように、ベイトとプレイとの間の相互作用の検出において、ベイトおよびプレイに特定の様式で検出用標識および分離用修飾を行い、そして、無細胞共翻訳を行うことを主な特徴とするものである。従って、本発明検出方法の好ましい構成は、ベイトおよびプレイに特定の様式で検出用標識および分離用修飾を行い、そして、無細胞共翻訳を行うことを除いて、ベイトとプレイとを接触させ、接触により形成された複合体を検出することを含む、ベイトとプレイとの間の相互作用の通常の検出方法と同様でよい。
【0084】
ベイトおよびプレイの分離用修飾および検出用標識は、複合体の検出に適合したものが適宜選択されるが、無細胞共翻訳において、ベイトとプレイとが共に検出用標識で標識されたり、分離用修飾を受けたりしないように行われる必要がある。そのため、プレイは、検出用標識として使用できる蛋白質との融合蛋白質とされるか、又は、対応付け分子とされ、それに応じて、ベイトは分離用修飾を有するものとされる。
【0085】
プレイが融合蛋白質とされる場合には、ベイトは分離用修飾を有するようにする。ベイトが蛋白質である場合には、ベイトは、分離用修飾として使用できる蛋白質との融合蛋白質として、無細胞翻訳系において、ベイトを含む融合蛋白質をコードするmRNAの翻訳が行われることにより無細胞翻訳系に存在させることが好ましい。
【0086】
ベイトが蛋白質の場合の分離用修飾の例としては、蛋白質として、GST蛋白質やTAP法などに用いられているCBP(カルモジュリンビーズとの親和性により分離可能)やプロテインA(IgG-プロテインA親和性により分離可能)、親和性タグとして、各種の抗体タグなどとの融合蛋白質とすることが挙げられる。ベイト自体が分離用修飾として使用できる性質を有する場合には、ベイトをそのまま、分離用修飾を有するベイトとして使用できる。プレイの検出用修飾としては、GFP(green fluorescent protein)などの蛍光蛋白質との融合蛋白質とすることが挙げられる。
【0087】
上記の融合蛋白質をコードするmRNAの調製およびこのmRNAの無細胞翻訳系での翻訳は通常の方法に従って行うことができる。mRNAは、無細胞転写翻訳系において、DNAの転写により生成するものであってもよい。
【0088】
プレイが対応付け分子とされる場合には、ベイトには任意の分離用修飾を施すことができる。ベイトが蛋白質である場合には、上述の分離用修飾の例が挙げられる他、ベイトが核酸やドラッグなどの場合の分離用修飾の例としては、ストレプトアビジンやアビジンと相互作用のあるビオチンなどを利用することが挙げられる。ベイト自体が分離用修飾として使用できる性質を有する場合には、ベイトをそのまま、分離用修飾を有するベイトとして使用できる。
【0089】
対応付け分子とは、表現型と遺伝子型と対応付ける分子を意味する。対応付け分子は、通常には、遺伝子型を反映する塩基配列を有する核酸を含む遺伝子型分子と、表現形の発現に関与する蛋白質を含む表現型分子とが結合してなる分子である。この蛋白質としてプレイを用いることによりプレイを対応付け分子とすることができる。このような対応付け分子は、無細胞翻訳系において、プレイをコードするmRNAの翻訳を、翻訳されたプレイが該mRNAと会合するように行うこと、又は、無細胞転写翻訳系において、プレイをコードするDNAの転写および翻訳を、翻訳されたプレイが該DNAと会合するように行うことにより形成することができる。従って、この製造の際に、ベイトを存在させることにより、無細胞共翻訳を行うことができる。すなわち、下記(1)又は(2)により無細胞共翻訳を行うことができる。
【0090】
(1)無細胞翻訳系において、前記ベイトの存在下で、前記プレイをコードするmRNAの翻訳を、翻訳されたプレイが該mRNAと会合するように行うことにより、無細胞翻訳系にプレイを生成させて、ベイトとプレイとを接触させる。
【0091】
(2)無細胞転写翻訳系において、前記ベイトの存在下で、前記プレイをコードするDNAの転写および翻訳を、翻訳されたプレイが該DNAと会合するように行うことにより、無細胞転写翻訳系にプレイを生成させて、ベイトとプレイとを接触させる。
【0092】
以下、上記(1)および(2)の態様について説明する。
(1)の態様では、mRNAが、その3'末端に結合したスペーサー領域と、スペーサー領域に結合した、ペプチド転移反応によってペプチドと結合し得る基を含むペプチドアクセプター領域とを有することにより、翻訳されたプレイが該mRNAと会合することが好ましい。このような対応付け分子を用いる相互作用の検出方法としては、in vitroウイルス方法が挙げられる。
【0093】
mRNAは、好ましくは、転写プロモーターおよび翻訳エンハンサーを含む5'非翻訳領域と、5'非翻訳領域の3'側に結合した、プレイをコードするORF領域と、ORF領域の3'側に結合した、ポリA配列を含む3'末端領域を含む核酸である。好ましくは、ポリA配列の5'側に、SNNS(SはG又はC)配列を含む発現増幅配列(例えば制限酵素XhoIが認識する配列)が更に含まれる。5'末端にCap構造があってもなくても良い。
【0094】
ポリA配列は、少なくとも2残基以上のdAおよび/又はrAの混合又は単一のポリA連続鎖であり、好ましくは、3残基以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは8残基以上のポリA連続鎖である。
【0095】
翻訳効率に影響する要素としては、転写プロモーターと翻訳エンハンサーからなる5'UTR、および、ポリA配列を含む3'末端領域の組み合わせがある。3'末端領域のポリA配列の効果は通常には10残基以下で発揮される。5'UTRの転写プロモーターはT7/T3又はSP6などが利用でき、特に制限はない。好ましくはSP6であり、特に、翻訳のエンハンサー配列としてオメガ配列やオメガ配列の一部を含む配列を利用する場合はSP6を用いることが特に好ましい。翻訳エンハンサーは好ましくはオメガ配列の一部であり、オメガ配列の一部としては、TMVのオメガ配列の一部(O29; Gallie D.R., Walbot V. (1992) Nucleic Acids Res., vol. 20, 4631-4638、および、WO 02/48347の図3参照)を含んだものが好ましい。
【0096】
また、翻訳効率に関し、3'末端領域においては、XhoI配列とポリA配列の組み合わせが好ましい。さらに、ORF領域の下流部分、すなわちXhoI配列の上流に親和性タグがついたものとポリA配列の組み合わせが好ましい。親和性タグ配列としては、抗原抗体反応など、蛋白質を検出できるいかなる手段を用いるための配列であればよく、制限はない。好ましくは、抗原抗体反応によるアフィニティー分離分析用タグであるFlag-tag配列又はHis-tag配列である。ポリA配列効果としては、Flag-tag等の親和性タグにXhoI配列がついたものとそこへさらにポリA配列がついたものの翻訳効率が上昇する。ここで、His-tagについては、XhoI配列のない構成でも十分な翻訳効率を示し、有効である。
【0097】
上記の翻訳効率に関し効果のある構成は、対応付け効率にも有効である。
【0098】
5'UTRをSP6+O29とし、3'末端領域を、たとえば、Flag+XhoI+An(n=8)又はHis+ An(n=8)とすることで、各長さは、5'UTRで約49bp、3'末端領域で約38bp又は約26bpであり、PCRのプライマーにアダプター領域として組み込める長さである。このため、あらゆるベクターやプラスミドやcDNAライブラリーからPCRによって、5'UTRと3'末端領域をもったコード領域を簡単に作成できる。コード領域において、翻訳はORF領域を超えてされてもよい。すなわち、ORF領域の末端に終止コドンがなくてもよい。
【0099】
ペプチドアクセプター領域は、ペプチドのC末端に結合できるものであれば特に限定されないが、例えば、ピューロマイシン、3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(3'-N-Aminoacylpuromycin aminonucleoside, PANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのPANS-Gly、バリンのPANS-Val、アラニンのPANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するPANS-全アミノ酸が利用できる。また、化学結合として3'-アミノアデノシンのアミノ基とアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合した結果形成されたアミド結合でつながった3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(3'-Aminoacyladenosine aminonucleoside, AANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのAANS-Gly、バリンのAANS-Val、アラニンのAANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するAANS-全アミノ酸が利用できる。また、ヌクレオシド又はヌクレオシドとアミノ酸のエステル結合したものなども利用できる。その他、ヌクレオシド又はヌクレオシドに類似した化学構造骨格を有する物質と、アミノ酸又はアミノ酸に類似した化学構造骨格を有する物質を化学的に結合可能な結合様式のものなら全て利用することができる。
【0100】
ペプチドアクセプター領域は、好ましくは、ピューロマイシンもしくはその誘導体、又は、ピューロマイシンもしくはその誘導体と1残基もしくは2残基のデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドからなることが好ましい。ここで、誘導体とは蛋白質翻訳系においてペプチドのC末端に結合できる誘導体を意味する。ピューロマイシン誘導体は、ピューロマイシン構造を完全に有しているものに限られず、ピューロマイシン構造の一部が欠落しているものも包含する。ピューロマイシン誘導体の具体例としては、PANS-アミノ酸、AANS-アミノ酸などが挙げられる。
【0101】
ペプチドアクセプター領域は、ピューロマイシンのみの構成でもかまわないが、5'側に1残基以上のDNAおよび/又はRNAからなる塩基配列を持つことが好ましい。配列としては、dC-ピューロマイシン, rC-ピューロマイシンなど、より好ましくはdCdC-ピューロマイシン, rCrC-ピューロマイシン, rCdC-ピューロマイシン, dCrC-ピューロマイシンなどの配列で、アミノアシル-tRNAの3'末端を模倣したCCA配列(Philipps, G.R. (1969) Nature 223, 374-377)が適当である。塩基の種類としては、C>(U又はT)>G>Aの順で好ましい。
【0102】
スペーサー領域は、好ましくは、ポリエチレングリコールを主成分としたPEG領域である。スペーサー領域は、通常には、PEG領域の他に、核酸の3'末端に結合できるドナー領域を含む。
【0103】
核酸の3'末端に結合できるドナー領域は、通常、1以上のヌクレオチドからなる。ヌクレオチドの数は、通常には1〜15、好ましくは1〜2である。ヌクレオチドはリボヌクレオチドでもデオキシリボヌクレオチドでもよい。ドナー領域は修飾物質を有していてもよい。
【0104】
ドナー領域の5'末端の配列は、プレイをコードするコード領域とのライゲーション効率を左右する。コード領域とスペーサー領域をライゲーションさせるためには、少なくとも1残基以上を含むことが必要であり、ポリA配列をもつアクセプターに対しては、少なくとも1残基のdC(デオキシシチジル酸)又は2残基のdCdC(ジデオキシシチジル酸)が好ましい。塩基の種類としては、C>(U又はT)>G>Aの順で好ましい。
【0105】
PEG領域はポリエチレングリコールを主成分とするものである。ここで、主成分とするとは、PEG領域に含まれるヌクレオチドの数の合計が20 bp以下、又は、ポリエチレングリコールの平均分子量が400以上であることを意味する。好ましくは、ヌクレオチドの合計の数が10 bp以下、又は、ポリエチレングリコールの平均分子量が1000以上であることを意味する。
【0106】
PEG領域のポリエチレングリコールの平均分子量は、通常には、400〜30,000、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜8,000である。ここで、ポリエチレングリコールの分子量が約400より低いと、このスペーサー領域を含む遺伝子型分子を対応付け翻訳したときに、対応付け翻訳の後処理が必要となることがあるが(Liu, R., Barrick, E., Szostak, J.W., Roberts, R.W. (2000) Methods in Enzymology, vol. 318, 268-293)、分子量1000以上、より好ましくは2000以上のPEGを用いると、対応付け翻訳のみで高効率の対応付けができるため、翻訳の後処理が必要なくなる。また、ポリエチレングリコールの分子量が増えると、遺伝子型分子の安定性が増す傾向があり、特に分子量1000以上で良好であり、分子量400以下ではDNAスペーサーと性質がそれほどかわらず不安定となることがある。
【0107】
ポリエチレングリコールを主成分とするスペーサー領域を有することによって、対応付け分子がウサギ網状赤血球のみならず小麦胚芽の無細胞翻訳系でも形成可能となり、両翻訳系での遺伝子型分子の安定性が飛躍的に向上し、翻訳後の処理を施すことが不要となる。
【0108】
(2)の態様では、DNAが、蛋白質とストレプトアビジン又はアビジンとの融合蛋白質をコードし、DNAがビオチンにより標識され、DNA一分子がエマルジョンの一区画に含まれる状態で転写および翻訳が行われることにより、翻訳されたプレイが該DNAと会合することが好ましい。このような対応付け分子を用いる相互作用の検出方法としては、STABLE法が挙げられる。
【0109】
エマルジョンは、通常には、2種の界面活性剤およびミネラルオイルと、無細胞転写翻訳系の反応液を混合して形成されるW/O型のエマルジョンである。W/O型のエマルジョンを形成するには、通常には、界面活性剤のHLB(hydrophile-lipophile balance)値が3.5〜6である必要がある。2種の界面活性剤を混合した場合のHLB値は、個々の界面活性剤のHLB値から簡単な計算式で求められる。例えば、Span 85(HLB=1.8およびTween 80(HLB=15.0)を、それぞれ40.2μlおよび9.8μlの割合で混合することによりHLB=4.4となる。界面活性剤とミネラルオイルの割合は、通常1:18(容量比)である。また、反応液の割合はエマルジョン全体に対して1〜50%(容量比)であり、通常は5%である。界面活性剤とミネラルオイルの混合物に、撹拌しながら、低温で、反応液をいくつかに分けて添加し、混合することによりエマルジョンを形成することができる。転写および翻訳の反応は、エマルジョンの温度を上げることにより、開始させることができる。
【0110】
プレイをコードするDNAの調製およびこのDNAの無細胞転写翻訳系での転写および翻訳は通常の方法に従って行うことができる。
【0111】
上述のように、ベイトおよびプレイに特定の様式で検出用標識および分離用修飾を行うことにより、無細胞共翻訳により形成された複合体を特異的に検出することができる。
【0112】
ベイトとプレイの無細胞共翻訳において、無細胞共翻訳を行う無細胞翻訳系(無細胞転写翻訳系を含む)については、大腸菌E. coli、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽の系などいずれでも構わない。in vitroウイルス法では、対応付け分子の形成は、大腸菌E. coliではかなり不安定であるが、ウサギ網状赤血球の系(Nemoto N, Miyamoto-Sato E, Yanagawa H. (1997) FEBS Lett. 414, 405; Roberts R.W, Szostak J.W. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 12297)では安定であることが確認されており、さらに小麦胚芽の系(特開2002-176987)ではより安定であることが確認されている。STABLE法では、大腸菌E. coli、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽の系などいずれでも構わない。
【0113】
無細胞共翻訳における翻訳又は転写および翻訳の条件は、用いる無細胞翻訳系に応じて適宜選択される。
【0114】
無細胞翻訳系に添加するベイトとプレイのテンプレートは、無細胞翻訳系が転写も生じる無細胞転写翻訳系であれば、RNA又はDNAのどちらでも構わない。
【0115】
以下、ベイトとして用いるのに好ましい翻訳テンプレートの例について説明する。
【0116】
本態様の共翻訳スクリーニングにおけるベイトとして、図11に示すように、蛋白質に翻訳される情報を持つコード部とPEGスペーサー部からなることを特徴とする翻訳テンプレートを利用する。コード部は、蛋白質に翻訳される情報であり、どのような配列でも良いが、好ましくは、コード部の3'末端領域にアクセプター (A配列)を持つ、あるいは、コード部の3'末端領域にアクセプター(A配列)を持ち、かつA配列の5'上流に翻訳増幅配列(X配列)を持つことを特徴とする。コード部のA配列として、短いポリA配列を含む。短いポリA配列とは、通常には2〜10塩基のAからなる配列である。X配列として、(C又はG)NN(C又はG)配列を有する配列、たとえば、XhoI配列を有することを特徴とする。PEGスペーサー部は、ポリエチレングリコールを主成分としたPEG領域、コード部と連結するためのドナー領域、および3'末端にCCA領域を持つ。PEGスペーサー部は、ドナー領域のみ、CCA領域のみでもかまわないが、好ましくは、ポリエチレングリコールを主成分としたPEG領域を含む構成をとる。CCA領域は、該翻訳テンプレートによって翻訳された蛋白質と、ペプチド転移反応によって結合する機能を有しないことを特徴とする。PEG領域のポリエチレングリコールの分子量は、500以上であることを特徴とする。また、ドナー領域および/又はCCA領域において、少なくとも1つの機能付与ユニット(F)を含むことを特徴とする。機能付与ユニット(F1および/又はF2)が、該翻訳テンプレートおよび/又は該翻訳テンプレートから翻訳された蛋白質を固定化又は蛍光ラベル化することを特徴とする。固定化物質としてビオチンなどが考えられ、蛍光性物質として、フルオレセイン, Cy5, 又はローダミングリーン(RhG)などが考えられる。これらのコード部や翻訳テンプレート、およびそのライブラリー、さらに、リボソーム上で翻訳された蛋白質やそのライブラリーに関するものである。
【0117】
ベイトの翻訳テンプレート(図11のA)は、コード分子(図11のB)に由来するコード部とPEGスペーサー分子(図11のC)に由来するPEGスペーサー部からなる。本態様では、基本的にはコード部の配列によらず、コード部にPEGスペーサー部を連結(ライゲーション)することでその安定性が向上して翻訳効率を向上出来る。しかしながら、さらにコード部の構成やPEGスペーサー部の種類によって、その翻訳効率をより向上させることが可能である。以下にその詳細を記載する。
【0118】
本態様のコード部(図11のB)は、5'末端領域、ORF領域、3'末端領域からなり、5'末端にCap構造があってもなくても良い。また、コード部の配列には特に制限はなく、あらゆるベクターやプラスミドに組み込まれたものとしての利用が考えられる。また、コード部の3'末端領域は、A配列としてポリAx8配列、又はX配列としてXhoI配列や4塩基以上でSNNS(SはG又はC)の配列を持つもの、およびA配列とX配列の組み合わせとしてのXA配列がある。A配列、X配列、又はXA配列の上流に親和性タグ配列としてFlag-tag配列、からなる構成が考えられる。ここで、親和性タグ配列としてはHA-tagやIgGのプロテインA(zドメイン)などの抗原抗体反応を利用したものやHis-tagなど、蛋白質を検出又は精製できるいかなる手段を用いるための配列でもかまわない。ここで、翻訳効率に影響する範囲としては、XA配列の組み合わせが重要であり、X配列のなかで、最初の4塩基が重要であり、SNNSの配列を持つものが好ましい。また、5'末端領域は、転写プロモーターと翻訳エンハンサーからなり、転写プロモーターはT7/T3又はSP6などが利用でき、特に制限はないが、小麦の無細胞翻訳系では、翻訳のエンハンサー配列としてオメガ配列やオメガ配列の一部を含む配列を利用することが好ましく、プロモーターとしては、SP6を用いることが好ましい。翻訳エンハンサーのオメガ配列の一部(O29)は、TMVのオメガ配列の一部を含んだものである(Gallie D.R., Walbot V. (1992) Nucleic Acids Res., vol. 20, 4631-4638、および、WO 02/48347の図3参照)。コード部のORF領域については、DNAおよび/又はRNAからなるいかなる配列でもよい。遺伝子配列、エキソン配列、イントロン配列、ランダム配列、又は、いかなる自然界の配列、人為的配列が可能であり、配列の制限はない。
【0119】
本態様のPEGスペーサー分子(図11のC)は、CCA領域、PEG領域、ドナー領域からなる。最低限必要な構成は、ドナー領域である。翻訳効率に影響する範囲としては、ドナー領域のみならずPEG領域を持つものが好ましく、さらにアミノ酸との結合能力のないピューロマイシンを持つことが好ましい。PEG領域のポリエチレングリコールの分子量の範囲は、400〜30,000で、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜6,000である。また、CCA領域にはピューロマイシンを含む構成と含まない構成が可能であり、ピューロマイシンについては、ピューロマイシン(Puromycin)、3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(3'-N-Aminoacylpuromycin aminonucleoside, PANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのPANS-Gly、バリンのPANS-Val、アラニンのPANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するPANS-全アミノ酸が利用できる。また、化学結合として3'-アミノアデノシンのアミノ基とアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合した結果形成されたアミド結合でつながった3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(3'-Aminoacyladenosine aminonucleoside, AANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのAANS-Gly、バリンのAANS-Val、アラニンのAANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するAANS-全アミノ酸が利用できる。また、ヌクレオシド又はヌクレオシドとアミノ酸のエステル結合したものなども利用できる。その他、ヌクレオシド又はヌクレオシドに類似した化学構造骨格を有する物質と、アミノ酸又はアミノ酸に類似した化学構造骨格を有する物質を化学的に結合可能な結合様式のものなら全て利用することができる。本翻訳テンプレートでは、以上のピューロマイシン誘導体のアミノ基がアミノ酸と結合する能力を欠いたあらゆる物質、およびピューロマイシンを欠いたCCA領域も考えられるが、リボソーム上で蛋白質と結合不能なピューロマイシンを含むことで、より翻訳効率を高められる。その理由は定かではないが、蛋白質と結合不能なピューロマイシンがリボソームを刺激することでターンオーバーが促進される可能性がある。CCA領域(CCA)の 5'側に1残基以上のDNAおよび/又はRNAからなる塩基配列を持つことが好ましい。塩基の種類としては、C>(U又はT)>G>Aの順で好ましい。配列としては、dC-ピューロマイシン, rC-ピューロマイシンなど、より好ましくはdCdC-ピューロマイシン,rCrC-ピューロマイシン, rCdC-ピューロマイシン, dCrC-ピューロマイシンなどの配列で、アミノアシル-tRNAの3'末端を模倣したCCA配列(Philipps G.R. (1969) Nature 223, 374-377)が適当である。本発明の一態様では、これらのピューロマイシンが何らかの方法でアミノ酸と結合不可能となっている。
【0120】
本態様のPEGスペーサー部は修飾物質(F1および/又はF2)を有する構成が可能である。このことによって、翻訳テンプレートを回収、精製による再利用、あるいは固定化などのためのタグとして利用することが出来る。少なくとも1残基のDNAおよび/又はRNAの塩基に修飾物質として、蛍光物質、ビオチン、あるいはHis-tagなど各種分離タグなどを導入したものが可能である。また、コード部の5'末端領域をSP6+O29とし、3'末端領域を、たとえば、Flag+XhoI+An(n=8)とすることで、各長さは、5'末端領域で約60bp、3'末端領域で約40bpであり、PCRのプライマーにアダプター領域として設計可能な長さである。これによって新たな効果が生み出された。すなわち、あらゆるベクターやプラスミドやcDNAライブラリーからPCRによって、本態様の5'末端領域と3'末端領域をもったコード部を簡単に作成可能となり、このコード部に、3'UTRの代わりとして PEGスペーサー部をライゲーションすることで、翻訳効率の高い翻訳テンプレートを得られる。
【0121】
本態様のPEGスペーサー分子とコード分子のライゲーションは、その方法については、一般的なDNAリガーゼを用いるものや光反応による連結など何でもよく、特に限定されるものではない。RNAリガーゼを用いるライゲーションでは、コード部でライゲーション効率に影響を与える範囲としては3'末端領域のA配列が重要であり、少なくとも2残基以上のdAおよび/又はrAの混合又は単一のポリA連続鎖であり、好ましくは、3残基以上、より好ましくは6から8残基以上のポリA連続鎖である。PEGスペーサー部のドナー領域の5'末端のDNAおよび/又はRNA配列は、ライゲーション効率を左右する。コード部とPEGスペーサー部を、RNAリガーゼでライゲーションするためには、少なくとも1残基以上を含むことが必要であり、ポリA配列をもつアクセプターに対しては、少なくとも1残基のdC(デオキシシチジル酸)又は2残基のdCdC(ジデオキシシチジル酸)が好ましい。塩基の種類としては、C>(U又はT)>G>Aの順で好ましい。さらに、ライゲーション反応時に、PEG領域と同じ分子量のポリエチレングリコールを添加することが好ましい。
【0122】
次に、プレイとして用いるのに好ましい翻訳テンプレートの例について説明する。
【0123】
本態様の共翻訳スクリーニングにおけるプレイとして、図12に示すように、翻訳テンプレートによってC末端修飾された蛋白質(=対応付け分子)を利用する。翻訳テンプレートは、蛋白質に翻訳される情報を持つコード部とPEGスペーサー部からなる。コード部の3'末端にA配列を有し、A配列は、短いポリA配列を含む。PEGスペーサー部は、ポリエチレングリコールを主成分としたPEG領域において、ポリエチレングリコールの分子量が400以上であることを特徴とする、また、ドナー領域および/又はCCA領域において、少なくとも1つの修飾物質(F1および/又はF2)を含むことを特徴とする。また、CCA領域は、該翻訳テンプレートによって翻訳された蛋白質と、ペプチド転移反応によって結合する機能を有することを特徴とし、代表的にはCCA領域にピューロマイシンを有する。また、修飾物質(F1および/又はF2)が、該翻訳テンプレートおよび/又は該翻訳テンプレートから翻訳された蛋白質を固定化又は蛍光ラベル化することを特徴とする。固定化物質としてビオチンなどが考えられ、蛍光性物質として、フルオレセイン, Cy5, 又はローダミングリーン(RhG)などが考えられる。これら、コード部および翻訳テンプレート、およびそのライブラリーが、リボソーム上で翻訳されることにより合成される蛋白質(=対応付け分子)および蛋白質(=対応付け分子)のライブラリーに関するものである。
【0124】
プレイは、翻訳テンプレートを用いた翻訳によって合成された、翻訳テンプレートでC末端修飾された蛋白質(図12のA;対応付け分子)であり、翻訳テンプレート(図12のB)と、PEGによってC末端修飾された蛋白質(図12のC)の構成に特徴を持つ。以下詳細に記述する。
【0125】
翻訳テンプレート(図12のB)のPEGスペーサー部は、ピューロマイシンがアミノ酸と連結できることを特徴とする以外は上記のベイトとして用いるのに好ましい翻訳テンプレートと同様である。また、コード部も上記のベイトとして用いるのに好ましい翻訳テンプレートと同様であるが、特に、対応付けに適した構成としては、3'末端領域をA配列にすることが重要であり、トータル蛋白の対応付けの効率が著しく向上してフリー蛋白質の量が激減する。ここでも、コード部の5'末端領域をSP6+O29とし、3'末端領域を、たとえば、Flag+XhoI+An(n=8)とすることで、各長さは、5'末端領域で約60bp、3'末端領域で約40bpであり、PCRのプライマーにアダプター領域として設計できる長さである。これによって、あらゆるベクターやプラスミドやcDNAライブラリーからPCRによって、本態様の5'末端領域と3'末端領域をもったコード部を簡単に作成可能となり、PEGスペーサー部をライゲーションすることで、対応付け効率の高い翻訳テンプレートが得られる。
【0126】
本態様のPEGによってC末端修飾された蛋白質(図12のC)は、蛋白質の相互作用検出などにおいて、コード部を利用しない場合、たとえば、FCCS測定、蛍光リーダー、プロテインチップなどに応用する場合は、RNase Aなどで意図的に切断してもよい。切断することによって、コード部の妨害による蛋白質間相互作用の検出の困難性が解消出来る。また、単独の対応付け分子をプレートやビーズやスライドガラスに固定することも可能である。
【0127】
無細胞共翻訳を、図13を参照して説明する。図13に示すように、ベイトの存在下でプレイがin vitroで翻訳される。図13のAおよびBに示されるように、ベイトが蛋白質であって、無細胞翻訳系でプレイと同時に翻訳される場合と、ベイトが、核酸やホルモンなどであって、無細胞翻訳系に添加される場合がある。図13に示すように、プレイは融合蛋白質又は対応付け分子とされる。
【0128】
複合体は、ベイトと一つのプレイが結合して形成されること(I)の他に、ベイトに結合したプレイにさらに別のプレイが結合することにより形成されること(II)もある。
【0129】
本発明検出方法によれば、in vitroで複合体の形成を行うことができるので、一貫してin vitroで蛋白質間又は核酸-蛋白質間などの相互作用を検出できる。
【0130】
ベイトが蛋白質である場合は、ベイトとしては、目的蛋白質との相互作用のための機能ドメインのみの蛋白質、機能ドメインを含む蛋白質、又は完全長蛋白質などが挙げられる。ここで、完全長蛋白質を用いることは、複数の機能ドメインを有することが一般に予測されるため、さらに網羅的にプレイを検出可能となることから、好ましい。完全長蛋白質は、単独で完全長の蛋白質でもよいし、完全長の蛋白質を再構成する複数のベイトの集まりでもよい。
【0131】
ベイトは、図14に示したように、複合体であってもよく、これを「複合ベイト」と呼ぶ。複合体にすることによって、より非特異的な吸着を減らすことができ、かつ完全長蛋白質と同様の効果として、より網羅的にプレイを検出することが可能となる。
【0132】
以上のように、無細胞共翻訳で考えられる複合体としては、単独のベイトと単独のプレイの複合体、複合ベイトとプレイの複合体、ベイトと複数のプレイの複合体、および、複合ベイトと複数のプレイの複合体が可能である。従って、本発明検出法により検出可能な相互作用は、ベイトとプレイとの間の直接の相互作用だけでなく、複合体を形成するための間接的な相互作用をも包含するものである。
【0133】
本発明における無細胞共翻訳で最も重要なことは、蛋白質がネイティブな状態でフォールディングしており、翻訳されたての変性していない状態であり、相互作用するべきベイトとプレイ又はベイトとベイトやプレイとプレイが無細胞翻訳系に共存しており、速やかに相互作用できると言うことと考えられる。このことは、別々に翻訳して翻訳直後に混合して共存させるよりも、共に翻訳したものの方が優れた結果が得られたことにより支持される。すなわち、in vitroで翻訳された蛋白質がネイティブなフォールディング状態で、蛋白質又は核酸などと出会うことができるため、速やかに相互作用による複合体の形成が可能となったためと思われる。
【0134】
従来の相互作用の検出法では、ベイトを大腸菌で大量に発現精製する必要があった。例えば、TAP法などでベイトとプレイの相互作用を細胞で発現させる場合は、最低一ヶ月の準備が必要であった。また、GST融合蛋白によるプルダウン法を採用しているmRNAディスプレイ法では、ベイトを大腸菌などで大量に発現させて精製するため、最低2〜3週間かかり、大腸菌で発現しないものはベイトに出来ないなどの問題があり、さらに、プレイと相互作用させるにはプレイの50〜100倍の量のベイトを添加する必要があった。無細胞共翻訳では、無細胞翻訳系において、ほぼ同量のmRNA又はDNAテンプレートを添加すればよいだけとなり、ベイトを細胞で発現させる必要は全くなくなり作業時間の大幅な短縮が行える。さらに、複合ベイトや完全長蛋白質によって、ベイトとプレイの相互作用をより強化し特異的なものとし、非特異的な結合の検出を回避することができる。また、複合ベイトによって、その第二のベイトと相互作用するより多くのプレイを網羅的に解析できる。
【0135】
これまで、一貫してin vitroで相互作用による複合体形成とスクリーニングを実現するシステムは存在しなかったが、以上の本発明検出法によって、ベイトも含めて完全にin vitroで翻訳とスクリーニングを行って、蛋白質間又は蛋白質-核酸間の相互作用を非特異的な検出を回避しかつ網羅的に検出可能なシステムを構築できる。従って、本発明は、本発明検出方法を利用したスクリーニング方法も提供する。
【0136】
本発明スクリーニング法は、ベイトとプレイが無細胞共翻訳を通して相互作用して複合体を形成し、複合体のスクリーニングによってベイトと相互作用するプレイを解析することを特長とする。従って、本発明スクリーニング方法は、本発明検出方法により、ベイトとプレイとの間の相互作用を検出する検出工程を含む他は、ベイトとプレイとの間の相互作用を検出する検出工程、および、相互作用が検出されたプレイを選択する選択工程を含む、ベイトと相互作用するプレイの通常のスクリーニング方法と同様でよい。
【0137】
本発明スクリーニング方法は、選択工程で選択されたプレイを調製する調製工程をさらに含み、調製されたプレイを、検出工程で使用されたベイトの代わりに又はそのベイトと共に用いて、検出工程、選択工程および調製工程を繰り返すことが好ましい。この態様は、例えば、図15に示すように、1)プレイおよびベイトが相互作用を形成する無細胞翻訳系における無細胞共翻訳の工程、2)ベイトと相互作用しているプレイを検出するスクリーニングの工程、3)プレイを分析および解析する工程、および4) 3)で分析および解析されたプレイを新たな次のベイトとし、1)から繰り返す工程から構成される。1)および2)の工程が検出工程および選択工程に相当し、3)の工程が調製工程に相当する。すなわち、検出工程のうちの、ベイトとプレイを接触させる工程が無細胞共翻訳の工程に相当し、検出工程のうちの複合体の検出および選択工程がスクリーニングの工程に相当する。
【0138】
本発明スクリーニング法では、選択工程で選択されたプレイを再度検出工程に付してもよい。
【0139】
本発明スクリーニング法では、ベイトと複数のプレイの集団であるプレイ・ライブラリーとの無細胞共翻訳を行い、スクリーニングの工程において、2つ以上のプレイが検出されてもよい。
【0140】
図14に示すように、複合ベイトとプレイが共存し、相互作用によって複合ベイトとプレイの複合体を形成する場合がある。この無細胞共翻訳で、プレイ・ライブラリーの複数のプレイがベイトと共存し、相互作用によってベイトと複数のプレイの複合体を形成することによって、スクリーニングにおいて、一挙に網羅的な相互作用する複数のプレイを検出できる。また、ベイトが完全長蛋白質であることによって、完全長蛋白質は一般に相互作用の機能ドメインを複数含むので、より多くのプレイを網羅的に検出可能となる。
【0141】
さらに、図14に示すように、複合ベイトと相互作用する複数のプレイの複合体を形成することによって、複合ベイトと相互作用する複数のプレイを検出でき、また、第二のベイトがベイトとプレイの相互作用の補強剤となり、より特異的な相互作用が実現されることによって、網羅的検出における非特異的検出の回避が可能となる。in vitroウイルス法やSTABLE法など進化分子工学的手法では、プレイは対応付け分子(fusion)となる。プレイ・ライブラリーや複数のプレイを用いた場合の複合体の形成では、プレイは直接ベイトと相互作用する場合としない場合がある。
【0142】
複合体のスクリーニングにより得られた複合体が対応付け分子である場合には、図15に示すように、複合体を形成するプレイをRT-PCR又はPCRにより検出し、さらに、PCR産物をプレイとして再スクリーニングする(プレイの再構築)、あるいは、PCR産物から解析したプレイを新たな次のベイトとしてスクリーニングしてもよい。ここで、PCR産物から再スクリーニングする、あるいは、PCR産物から解析したプレイを新たな次のベイトとしてスクリーニングする方法は、in vitroウイルス法やSTABLE法など進化分子工学的手法においてのみ可能であり、プルダウン法、TAP法など蛋白質を直接解析する方法ではできない。
【0143】
対応付け分子を用いた場合には、スクリーニングの後、RT-PCR又はPCRによって蛋白質プレイの遺伝子配列を知ることが出来る。図13および14に示すように、ここでの蛋白質プレイとは、ベイトと相互作用しているプレイ又はそのプレイと相互作用しているプレイなどであり、ベイトと相互作用しているすべての複数のプレイが網羅的に解析できる。さらにプレイの再スクリーニングが必要な場合は、RT-PCR又はPCRの産物であるDNAテンプレートを転写し、同じサイクルを繰り返す。また、RT-PCR又はPCRとそれに続くシークエンスによってプレイが定まった場合は、その蛋白質プレイはベイトとして使えるようになる。はじめのベイトに対して相互作用するプレイが複数個見つかれば、複合ベイトを形成することが出来るようになり、さらにより多くのプレイを検出することが出来るようになる。
【0144】
無細胞共翻訳を用いると、プルダウン法やTAP法においても一貫してin vitroで蛋白質間相互作用を検出できることになるが、TAP法では対応付け分子を形成していないので、プレイの解析において直接的に蛋白質を解析しなければならない。そこで、プルダウン法やTAP法をスクリーニングの方法としてin vitroウイルス法やSTABLE法に応用すれば、対応付け分子を形成しているので、RT-PCR又はPCRによって、相互作用するプレイの解析においてその遺伝子配列を簡単に検出することが出来る。さらに、無細胞共翻訳を用いると、in vitroウイルス法やSTABLE法において、一貫してin vitroで蛋白質間相互作用を検出できることになる。また、プレイの数が莫大な場合は、サイクルを回すことで再スクリーニングによりプレイを絞り込むことが可能である。また、解析されたプレイは、次の解析では、ベイトとして使うことができ、ベイトの数が増えれば、ベイトの複合化が進み、さらなるプレイが検出されることにつながる。このように、プレイをベイトとして次のサイクルで使用することは、対応付け分子を用いるin vitroウイルス法やSTABLE法などでのみ簡単に実現できる。しかしながら、mRNAディスプレイなどの方法では、新しいベイトのGST融合蛋白を大腸菌で大量合成と精製が必要であり、ベイトの用意に時間がかかり困難である。無細胞共翻訳によれば、その必要もなく簡単にサイクルを回すことが出来る。
【0145】
無細胞共翻訳後の複合体のスクリーニングにおいて、無細胞共翻訳によって出来た複合体を壊すことなくプレイを網羅的にスクリーニングできることが好ましい。このために、親和性タグなどによってベイトに固定化の仕組みを持たせ、ベイトと相互作用するプレイを検出してもよい。その固定化の仕組みは、いかなるものでも構わない。たとえば、既存のTAP法などのように、IgG-プロテインA親和性やカルモジュリンビーズを用いた2段階のスクリーニングを行う方法、又はプルダウン法のように、ストレプトアビジン又はアビジン-ビオチン親和性、GST-tag、Flag-tag, T7-tag, His-tagなどを利用した一段階又は二段階のスクリーニングを行う方法が挙げられる。
【0146】
プレイ・ライブラリーとしては、cDNAライブラリー(ランダムプライミング・ライブラリー、dTプライミング・ライブラリー)、ランダム・ライブラリー、ペプチド・ライブラリー、ホルモン・ライブラリー、抗体・ライブラリー、リガンド・ライブラリー、医薬化合物ライブラリーなどが挙げられ、いかなるライブラリーでも構わない。たとえば、プレイ・ライブラリーとしてランダムプライミング・cDNAライブラリーを用いた場合、このライブラリーには完全長プレイは望めないが、機能ドメインを含むプレイは期待できる。このようなライブラリーは、特に、複合ベイトや完全長蛋白質との組み合わせによるスクリーニングに用いると、プレイの網羅的検出に有効となる。
【0147】
ランダムプライミングライブラリーの例としては、マルチクローニングサイト(MCS)の5'側に、転写プロモーターとしてSP6のRNAポリメラーゼのプロモーター(SP6)と、翻訳エンハンサーとしてタバコモザイクウイルスのTMVオメガ配列の一部(O29)とを含んだ5'非翻訳(UTR)領域を持ち、かつMCSの3'側に親和タグ配列として、抗原抗体反応によるアフィニティー分離分析用タグであるFlag-tag配列を、MCSに組み込まれた挿入配列から発現した蛋白質のC末端にFlag-tagが付加されるように含む3'末端を持つベクターのMCSに、ランダムプライミングで得られた cDNAが組み込まれたものが挙げられる。
【0148】
上記の本発明検出方法は、ベイトとプレイとを接触させ複合体を形成させる工程を含んでいる。従って、この工程に準じて、ベイトとそのベイトと相互作用するプレイとの複合体を形成させる方法が提供される。
【0149】
本発明形成方法は、ベイトとベイトと相互作用する蛋白質であるプレイとの複合体の形成において、プレイとして本発明のライブラリーを用いるものであり、好ましくは、さらに、ベイトおよびプレイに特定の様式で検出用標識および分離用修飾を行い、そして、無細胞共翻訳を行うことを主な特徴とするものである。従って、本発明形成方法の好ましい構成は、ベイトおよびプレイに特定の様式で検出用標識および分離用修飾を行い、そして、無細胞共翻訳を行うことを除いて、ベイトとそのベイトと相互作用するプレイとを接触させることを含む、ベイトとプレイとの複合体の通常の形成方法と同様でよい。ベイトおよびプレイの特定の様式での検出用標識および分離用修飾ならびに無細胞共翻訳については、本発明検出方法に関し説明した通りでよい。
【0150】
また、ポスト・セレクションの例として、以下のものも挙げられる。
蛋白質と標的分子との間の相互作用を解析する方法であって、該蛋白質を含む、修飾剤がC末端に結合したC末端修飾蛋白質を用いることを特徴とする方法。相互作用の解析は、蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、又は、固相酵素免疫検定法により行うことができる。C末端修飾蛋白質を固定化してもよい。標的分子が固定されたアレイ上にC末端修飾蛋白質を添加し、該標的分子と特異的に結合した該C末端修飾蛋白質を検出してもよい。
【0151】
本態様の解析方法においては、通常には、上記で得られた本発明修飾蛋白質と標的分子を、修飾物質の種類や反応系の種類などにより適宜組み合わせて接触せしめ、該本発明修飾蛋白質又は該標的分子が発する信号において両分子間の相互作用に基づいて発生される上記信号の変化を測定することにより相互作用を解析する。相互作用の解析は、例えば、蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、又は、固相酵素免疫検定法により行われる。これらの方法の詳細については下記で説明する。
【0152】
「標的分子」とは、本発明修飾蛋白質と相互作用する分子を意味し、具体的には蛋白質、核酸、糖鎖、低分子化合物などが挙げられ、好ましくは、蛋白質又はDNAである。
【0153】
蛋白質としては、本発明修飾蛋白質と相互作用する能力を有する限り特に制限はなく、蛋白質の全長であっても結合活性部位を含む部分ペプチドでもよい。またアミノ酸配列、およびその機能が既知の蛋白質でも、未知の蛋白質でもよい。これらは、合成されたペプチド鎖、生体より精製された蛋白質、又はcDNAライブラリー等から適当な翻訳系を用いて翻訳し、精製した蛋白質等でも標的分子として用いることができる。合成されたペプチド鎖はこれに糖鎖が結合した糖蛋白質であってもよい。これらのうち好ましくはアミノ酸配列が既知の精製された蛋白質か、又はcDNAライブラリー等から適当な方法を用いて翻訳および精製された蛋白質を用いることができる。
【0154】
核酸としては、本発明修飾蛋白質と相互作用する能力を有する限り、特に制限はなく、DNA又はRNAも用いることができる。また、塩基配列又は機能が既知の核酸でも、未知の核酸でもよい。好ましくは、蛋白質に結合能力を有する核酸としての機能、および塩基配列が既知のものか、あるいはゲノムライブラリー等から制限酵素等を用いて切断単離してきたものを用いることができる。
【0155】
糖鎖としては、本発明修飾蛋白質と相互作用する能力を有する限り、特に制限はなく、その糖配列又は機能が、既知の糖鎖でも未知の糖鎖でもよい。好ましくは、既に分離解析され、糖配列又は機能が既知の糖鎖が用いられる。
【0156】
低分子化合物としては、本発明修飾蛋白質と相互作用する能力を有する限り、特に制限はない。機能が未知のものでも、又は蛋白質に結合する能力が既に知られているものでも用いることができる。
【0157】
これら標的分子が本発明修飾蛋白質と行う「相互作用」とは、通常は、蛋白質と標的分子間の共有結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、および静電力による結合のうち少なくとも1つから生じる分子間に働く力による作用を示すが、この用語は最も広義に解釈すべきであり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。共有結合としては、配位結合、双極子結合を含有する。また静電力による結合とは、静電結合の他、電気的反発も含有する。また、上記作用の結果生じる結合反応、合成反応、分解反応も相互作用に含有される。
【0158】
相互作用の具体例としては、抗原と抗体間の結合および解離、蛋白質レセプターとリガンドの間の結合および解離、接着分子と相手方分子の間の結合および解離、酵素と基質の間の結合および解離、核酸とそれに結合する蛋白質の間の結合および解離、情報伝達系における蛋白質同士の間の結合と解離、糖蛋白質と蛋白質との間の結合および解離、又は糖鎖と蛋白質との間の結合および解離が挙げられる。
【0159】
用いられる標的分子は、態様に応じて修飾物質により修飾して用いることができる。修飾物質は、通常、蛍光性物質などの非放射性修飾物質から選択される。蛍光物質としては、フリーの官能基(例えばカルボキシル基、水酸基、アミノ基など)を持ち、蛋白質、核酸等の上記標的物質と連結可能な種々の蛍光色素、例えばフルオレセイン系列、ローダミン系列、Cy3、Cy5、エオシン系列、NBD系列などのいかなるものであってもよい。その他、色素など修飾可能な化合物であれば、その化合物の種類、大きさは問わない。
【0160】
これらの修飾物質は、標的分子と本発明修飾蛋白質との間の相互作用に基づいて発生される信号の変化の測定又は解析方法に適したものが適宜用いられる。
【0161】
上記修飾物質の標的分子への結合は、それ自体既知の適当な方法を用いて行うことができる。具体的には、例えば、標的分子が蛋白質の場合、WO 02/48347に記載されたC末端を修飾する方法等を用いることができる。また標的分子が核酸の場合は、予め修飾物質を共有結合などで結合させたオリゴDNAプライマーを用いたPCRを行う方法などによって簡便に修飾することができる。
【0162】
また、本発明修飾蛋白質又は本発明に用いられる標的分子は態様に応じて、固相に結合させる(即ち、固定化する)場合があるが、固相に結合させる方法としては、修飾物質を介して結合させるものと、それ以外の部分により結合させるものが挙げられる。
【0163】
修飾物質を介して結合させる場合に用いられる修飾物質は、通常には、特定のポリペプチドに特異的に結合する分子(以下、「リガンド」と称することがある。)であり、固相表面には該リガンドと結合する特定のポリペプチド(以下、「アダプター蛋白質」と称することがある)を結合させる。アダプター蛋白質には、結合蛋白質、受容体を構成する受容体蛋白質、抗体なども含まれる。
【0164】
アダプター蛋白質/リガンドの組み合わせとしては、例えば、アビジンおよびストレプトアビジン等のビオチンおよびイミノビオチン結合蛋白質/ビオチン又はイミノビオチン、マルトース結合蛋白質/マルトース、G蛋白質/グアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチド/ニッケル又はコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、DNA結合蛋白質/DNA、抗体/抗原分子(エピトープ)、カルモジュリン/カルモジュリン結合ペプチド、ATP結合蛋白質/ATP、又はエストラジオール受容体蛋白質/エストラジオールなどの各種受容体蛋白質/そのリガンドなどが挙げられる。
【0165】
これらの中で、アダプター蛋白質/リガンドの組み合わせとしては、アビジンおよびストレプトアビジンなどのビオチンおよびイミノビオチン結合蛋白質/ビオチン又はイミノビオチン、マルトース結合蛋白質/マルトース、ポリヒスチジンペプチド/ニッケル又はコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、抗体/抗原分子(エピトープ)、などが好ましく、特にストレプトアビジン/ビオチン又はイミノビオチンの組み合わせが最も好ましい。これらの結合蛋白質は、それ自体既知のものであり、該蛋白質をコードするDNAは既にクローニングされている。
【0166】
アダプター蛋白質の固相表面への結合は、それ自体既知の方法を用いることができるが、具体的には、例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン-2,4-ジイソシアネート、アミノ基、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、又はホスホアミダイドに変換可能な水酸基又はアミノ基などを利用する方法を用いることができる。
【0167】
修飾物質以外の部分により固相に結合させる場合は、通常蛋白質、核酸、糖鎖、低分子化合物を固相に結合させるのに用いられる既知の方法、具体的には例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン-2,4-ジイソシアネート、アミノ基、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、又はホスホアミダイドに変換可能な水酸基又はアミノ基などを利用する方法を用いることができる。
【0168】
固相は、通常、蛋白質や核酸等を固定化するのに用いられるものでよく、その材質および形状は特に限定されない。例えば、ガラス板やニトロセルロースメンブレンやナイロンメンブレンやポリビニリデンフロライド膜、又はプラスチック製のマイクロプレート等を用いることができる。
【0169】
「測定」とは解析のために用いられる信号の変化を収集するための手段であり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。用いられる測定法としては、例えば、蛍光相関分光法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、蛍光イメージングアナライズ法、表面プラズモン共鳴法、固相酵素免疫検定法など、分子間相互作用を検出できるあらゆる系が利用可能である。
【0170】
この測定法は、標的分子が固定されたアレイ上に本発明修飾蛋白質を添加し、該標的分子と特異的に結合した本発明修飾蛋白質を検出することを含む方法も含む。標的分子が固定されたアレイとは、標的分子がそれらの同定が可能な配置で固定化されている固相を意味する。該標的分子と特異的に結合した本発明修飾蛋白質の検出の方法は、該標的分子と特異的に結合した本発明修飾蛋白質が検出される限り、特に限定されず、通常には、本発明修飾蛋白質を添加したアレイから、標的分子に結合しない本発明修飾蛋白質を洗浄により除去し、残った本発明修飾蛋白質を検出する方法が挙げられる。
【0171】
以下、測定法の例について説明する。
【0172】
(1)蛍光相関分光法
蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy(FCS): Eigen, M., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 5740-5747(1994))は、共焦点レーザー顕微鏡等の下で、粒子の流動速度、又は拡散率、容積収縮等を測定する方法であり、本発明においては、本発明修飾蛋白質(C末端修飾蛋白質)と標的分子間の相互作用により元の修飾分子1分子の並進ブラウン運動の変化を測定することにより、相互作用する分子を測定することができる。
【0173】
具体的には試料粒子が励起光により励起されて、試料液容積の一部において蛍光を放射し、この放射光を測定し光子割合を得る。この値は、特定の時間に観測されている空間容積中に存在する粒子の数と共に変化する。上述した種々のパラメターは自己相関関数を使用してこの信号の変動から算出され得る。このFCSを行う為の装置もカールツァイス(Zeiss)社等から市販されており、本方法においてもこれらの装置を用いて解析を行うことができる。
【0174】
この方法を用いて蛋白質−標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾蛋白質又は標的分子のいずれも溶液として供することが必要である(液相法)。標的分子は修飾の必要はない。また相互作用を調べようとするC末端修飾蛋白質より非常に分子量の小さい分子は、C末端修飾蛋白質のブラウン運動に影響を及ぼさないため本方法においてはふさわしくない。
【0175】
しかし、2種類の蛍光色素を用いる蛍光相互相関分光法(FCCS)は、1種類の蛍光色素を用いるFCSでは困難であった同じくらいの分子量をもつ蛋白質間の相互作用も検出できる。2種類の蛍光色素を用いる他の方法としては蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法が知られているが、FRETが生じるためには2つの蛍光色素が40〜50Å以内に近接する必要があり、蛋白質の大きさや蛍光色素の付いている位置によっては、相互作用していてもFRETが観測されない危険性がある。FCCS法では相互相関の検出は蛍光色素間の距離に依存しないので、そのような問題がない。一方、他の検出系である蛍光偏光解消法と比較すると、FCCS法は必要なサンプル量が少なく、検出時間が短く、HTSのための自動化が容易等の長所がある。さらにFCCS法では蛍光標識された分子の大きさや数というきわめて基本的な情報が得られるので、表面プラズモン共鳴法のように汎用的な用途に利用できる可能性がある。両者の違いは、表面プラズモン共鳴法では蛋白質が固定化された状態で相互作用を検出するのに対して、FCCS法ではより天然の状態に近い溶液中の相互作用を見ることができる点にある。FCCS法では、蛋白質の固定化が必要ないかわりに、蛋白質を蛍光色素で標識する必要があるが、本発明により、この課題を克服することが可能となった。
【0176】
また、FCCS法では細胞内の環境に近い溶液状態で蛋白質・蛋白質相互作用や蛋白質・核酸相互作用を調べることができ、かつ解離定数(結合定数)を1回の測定で簡便に算出することができる。
【0177】
本方法においてC末端修飾蛋白質に標的分子を接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であれば如何なるものであってもよいが、好ましくは市販のFCS用装置の測定用ウェルに通常生化学的に用いられる緩衝液等に適当な濃度でC末端修飾蛋白質溶解した溶液を投入し、さらに同緩衝液に適当な濃度で標的分子を溶解した溶液を投入する方法によって行われる。
【0178】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記FCS用測定装置の各測定用ウェルにそれぞれ異なる複数のC末端修飾蛋白質を投入し、これに特定の標的分子溶液を投入するか、又は特定のC末端修飾蛋白質を投入し、各ウェルに互いに異なる複数種の標的分子溶液を投入する方法が用いられる。
【0179】
(2)蛍光イメージングアナライズ法
蛍光イメージングアナライズ法は、固定化された分子に、修飾分子を接触せしめ、両分子の相互作用により、固定化された分子上にとどまった修飾分子から発せられる蛍光を、市販の蛍光イメージングアナライザーを用いて測定又は解析する方法である。
【0180】
この方法を用いて蛋白質−標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾蛋白質又は標的分子のいずれか一方は上記した方法により固定化されていることが必要である。標的分子は固定化して用いる場合には修飾されているものと、されていないもののどちらも利用可能である。また、固定化しないで用いる場合には上記した修飾物質により修飾されていることが必要である。C末端修飾蛋白質は、修飾部を介して固定化されているものも、修飾部以外の部分で固定化されているものも用いることができる。
【0181】
C末端修飾蛋白質、又は標的分子を固定化するための基板(固相)としては、通常、蛋白質や核酸等を固定化するのに用いられるガラス板やニトロセルロースメンブレンやナイロンメンブレン、又はプラスチック製のマイクロプレート等も用いることができる。また、表面が種々の官能基(アミノ基、カルボキシル基、チオール基、水酸基等)や種々のリガンド(ビオチン、イミノビオチン、ニッケル又はコバルト等の金属イオン、グルタチオン、糖類、ヌクレオチド類、DNA、RNA、抗体、カルモジュリン、受容体蛋白質等)が結合した上記基板等も用いることができる。
【0182】
本方法において修飾標的分子又はC末端修飾蛋白質を固定化分子へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは修飾標的分子又はC末端修飾蛋白質を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液を作成し、これを固相表面に接触させる方法が好ましい。
【0183】
両分子を接触せしめた後、好ましくは過剰に存在する修飾標的分子又はC末端修飾蛋白質を同緩衝液等により洗浄する工程を行い、固相上にとどまった標的分子又はC末端修飾蛋白質の修飾物質から発せられる蛍光信号、又は固定化されている修飾分子から発せられる蛍光と固相上にとどまった修飾分子から発せられる蛍光が混ざり合った信号を、市販のイメージングアナライザーを用いて測定又は解析することにより、固定化された分子と相互作用する分子を同定することができる。
【0184】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記固相表面に、複数のC末端修飾蛋白質又は修飾もしくは非修飾標的分子を番地付けして固定化する方法、又は1種類のC末端修飾蛋白質又は修飾もしくは非修飾標的分子に固定化されていない複数種のC末端修飾蛋白質又は修飾標的分子を接触させる方法等が用いられる。複数種のC末端修飾蛋白質又は修飾標的分子を接触させる場合には、固相にとどまった該分子を緩衝液の濃度の差等により解離させて取得し、これを既知の方法により分析することにより同定できる。
【0185】
(3)蛍光共鳴エネルギー移動法
2種類の蛍光色素を用いる他の分子間相互作用検出法として、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法がよく知られている。FRET とは、2種類の蛍光色素の一方(エネルギー供与体)の蛍光スペクトルと、もう一方(エネルギー受容体)の吸収スペクトルに重なりがあるとき、2つの蛍光色素間の距離が十分小さいと、供与体からの発光が起こらないうちに、その励起エネルギーが受容体を励起してしまう確率が高くなる現象をいう。したがって、相互作用を検出したい2つの蛋白質を、それぞれ供与体および受容体となる蛍光色素で標識しておき、供与体を励起すれば、2つの蛋白質が相互作用しない場合は、蛍光色素間の距離が大きいため FRETは起こらず、供与体の蛍光スペクトルが観察されるが、2つの蛋白質が相互作用して蛍光色素間の距離が小さくなると、FRETにより受容体の蛍光スペクトルが観察されるので、蛍光スペクトルの波長の違いから蛋白質間相互作用の有無を判別することができる。蛍光色素としては、供与体がフルオレセイン、受容体がローダミンという組み合わせがよく用いられている。また最近では、蛍光緑色蛋白質(GFP)の波長の異なる変異体の組み合わせにより、細胞の中で FRETを観察し相互作用を検出する試みがなされている。この方法の欠点としては、FRETが生じるために2つの蛍光色素が 40〜50Å以内に近接する必要があるため、蛋白質の大きさや蛍光色素の付いている位置によっては、相互作用していてもFRETが観測されない危険性があるという点が挙げられる。
【0186】
(4)エバネッセント場分子イメージング法
エバネッセント場分子イメージング法とは、Funatsu, T., et al., Nature, 374, 555-559 (1995)等に記載されている方法で、ガラス等の透明体に固定化した分子に溶液として第2の分子を接触せしめ、これにエバネッセント場が発生する角度でレーザー光等の光源を照射し、発生したエバネッセント光を検出器によって測定又は解析する方法である。これらの操作は、それ自体既知のエバネッセント場蛍光顕微鏡装置を用いて行うことができる。
【0187】
この方法を用いて蛋白質−標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾蛋白質又は標的分子のいずれか一方は上記した方法により固定化されていることが必要である。標的分子は固定化する場合は修飾の必要はないが、固定化しないで用いる場合には上記した修飾物質により修飾されていることが必要である。
【0188】
C末端修飾蛋白質、又は標的分子を固定化するための基板としては、ガラス等の材質の基板が用いられ、好ましくは石英ガラスが用いられる。また、レーザー光の散乱等を防ぐために表面を超音波洗浄したものが好ましい。
【0189】
本方法において固定化していないC末端修飾蛋白質又は修飾標的分子を固定化分子へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは固定化していないC末端修飾蛋白質又は修飾標的分子を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液を作成し、これを固相表面に滴下する方法が好ましい。
【0190】
両分子を接触せしめた後、エバネッセント場照明により励起された蛍光をCCDカメラ等の検出器を用いて測定することにより、固定化された分子と相互作用する分子を同定することができる。
【0191】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記基板に、複数のC末端修飾蛋白質又は修飾標的分子を番地付けして固定化する方法等が用いられる。
【0192】
(5)蛍光偏光解消法
蛍光偏光法(Perran, J., et al., J. Phys. Rad., 1, 390-401(1926))は、蛍光偏光で励起された蛍光分子が、励起状態の間、定常状態を保っている場合には同一の偏光平面で蛍光を放射するが、励起された分子が励起状態中に回転ブラウン運動等を行った場合に、放射された蛍光は励起光とは異なった平面になることを利用する方法である。分子の運動はその大きさに影響を受け、蛍光分子が高分子である場合には、励起状態の間の分子の運動はほとんどなく、放射光は偏光を保ったままになっているのに対して、低分子の蛍光分子の場合は、運動速度が速いために放射光の偏光が解消される。そこで、平面偏光で励起された蛍光分子から放射される蛍光の強度を、元の平面とそれに垂直な平面とで測定し、両平面の蛍光強度の割合からこの分子の運動性およびその存在状態に関する情報が得られるものである。この方法によれば、夾雑物があってもこれに影響されることなく、蛍光修飾された分子と相互作用する標的分子の挙動を追跡できる。これは蛍光修飾された分子と標的分子が相互作用するときにのみ、偏光度の変化として測定されるからである。
【0193】
この方法を行うための装置としては例えばBECON(Panyera社製)等が市販されており、本方法もこれらの装置を用いることにより行うことができる。
【0194】
この方法を用いて蛋白質−標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾蛋白質又は標的分子のいずれも溶液として供する必要がある。標的分子は修飾の必要はない。また相互作用を調べようとするC末端修飾蛋白質より非常に分子量の小さい分子は、C末端修飾蛋白質のブラウン運動に影響を及ぼさないため本方法においてはふさわしくない。
【0195】
本方法においてC末端修飾蛋白質に標的分子を接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であれば如何なるものであってもよいが、好ましくは市販の蛍光偏光解消装置の測定用ウェルに通常生化学的に用いられる緩衝液等に適当な濃度でC末端修飾蛋白質溶解した溶液を投入し、さらに同緩衝液に適当な濃度で標的分子を溶解した溶液を投入する方法によって行われる。
【0196】
本方法において測定するC末端修飾蛋白質および標的分子との間の相互作用は、必ずしも抗原抗体反応ほど特異性は高くないことが考えられるため、最適の組み合わせを検出するためには、相互作用の程度を数値化することが有効である。相互作用の程度を示す指標としては、例えば一定濃度のC末端修飾蛋白質に対して、極大蛍光偏光度を与える最小標的物濃度の値等を用いることができる。
【0197】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記蛍光偏光解消法測定装置の各測定用ウェルにそれぞれ異なる複数のC末端修飾蛋白質を投入し、これに特定の標的分子溶液を投入するか、又は特定のC末端修飾蛋白質を投入し、各ウェルに互いに異なる複数種の標的分子溶液を投入する方法が用いられる。
【0198】
(6)表面プラズモン共鳴法
表面プラズモン共鳴法とは、金属/液体界面で相互作用する分子によって表面プラズモンが励起され、これを反射光の強度変化で測定する方法である(Cullen, D.C., et al., Biosensors, 3(4), 211-225(1987-88))。この方法を用いて蛋白質−標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾蛋白質は上記した方法により固定化されていることが必要であるが、標的分子の修飾は必要ない。
【0199】
C末端修飾蛋白質を固定化するための基板としては、ガラスの等の透明基板上に金、銀、白金等の金属薄膜が構成されたものが用いられる。透明基板としては、通常表面プラズモン共鳴装置用に用いられるものであればいかなるものであってもよく、レーザー光に対して透明な材料からなるものとして一般的にはガラス等からなるものであり、その厚さは0.1〜5mm程度のものが用いられる。また金属薄膜の膜厚は100〜2000Å程度が適当である。このような表面プラズモン共鳴装置用固基板として市販されているものも用いることができる。C末端修飾蛋白質の上記基板への固定化は前述した方法により行うことができる。
【0200】
本方法において標的分子をC末端修飾蛋白質へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは標的分子を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液に固定化されたC末端蛋白質を接触させる方法を用いることができる。
【0201】
これらの行程は市販の表面プラズモン共鳴装置、例えばBIAcore2000 (Pharmacia Biosensor社製)によってもよい。両分子を接触せしめた後、それ自体既知の表面プラズモン共鳴装置を用いて、それぞれの反射光の相対強度の時間的変化を測定することにより、固定化されたC末端修飾蛋白質と標的分子の相互作用が解析できる。
【0202】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記表面プラズモン共鳴装置に用いられる基板に、複数のC末端修飾蛋白質を番地付けして固定化するか、又は1種類の固定化されたC末端修飾蛋白質に複数種の標的分子を接触させる方法等が用いられる。
【0203】
(7)固相酵素免疫検定法
固相酵素免疫検定法(Enzyme Linked Immunosorbent Assay (ELISA): Crowther, J.R., Methods in Molecular Biology, 42 (1995))は、固相上に固定化した抗原に対し、抗体を含む溶液を接触せしめ、両分子の相互作用(抗原抗体反応)により、固定化された抗原上にとどまった抗体をこれと特異的に結合する修飾分子(IgG等)から発せられる蛍光、又は修飾分子を基質とする色素から発せられる信号を、市販の検出器(ELISAリーダー)を用いて測定又は解析する方法である。
【0204】
この方法を用いて蛋白質−標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、抗原となるC末端修飾蛋白質は上記した方法により固定化されていることが必要である。また抗体となる標的分子は上記した修飾物質により修飾されていることが必要である。
【0205】
抗原となるC末端修飾蛋白質を固定化するための基板としては、通常ELISAに用いられるプラスチック製のマイクロプレート等も用いることができる。
【0206】
本方法において抗体となる修飾標的分子を固相分子へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは修飾標的分子を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液を作成し、これをマイクロプレートに注入する方法が好ましい。
【0207】
両分子を接触せしめた後、好ましくは過剰に存在する固定化分子に結合していない修飾分子を同緩衝液等により洗浄する工程を行い、固相上にとどまった修飾分子から発せられる蛍光を、市販のELISAリーダー等を用いて測定又は解析することにより、固定化された抗原分子と相互作用する分子を同定することができる。
【0208】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記マイクロプレートの各穴にそれぞれ異なる複数の修飾標的分子を固定化する方法が用いられる。
【0209】
上記のそれぞれの方法により測定されC末端修飾蛋白質との間に相互作用が認められた標的分子は、該分子の一次構造が未知の場合、それ自体既知の適当な方法により、その一次構造を解析することができる。具体的には、相互作用を認められた標的分子が蛋白質の場合、アミノ酸分析装置等によりアミノ酸配列を解析し、一次構造を特定することができる。また、標的分子が核酸の場合には、塩基配列決定方法により、オートDNAシーケンサーなどを用いれば塩基配列を決定することができる。
【0210】
さらに、本発明のマップは、構造解析と機能解析のリンクによる創薬への応用が期待できる。図3に示したように、機能エレメントが抽出された蛋白質について構造解析を行えば、構造解析と機能解析のリンクが可能となる。これまでの相互作用マップでは、相互作用している部位の配列までは知りようがなかったが、機能エレメント抽出によるマップでは、相互作用している特定の配列とその部分の構造を比較することが可能となり、阻害剤などの創薬のためのミューテーション実験などが可能となる。
【0211】
<2>本発明の作成方法を実現するためのソフトウエアと装置
本発明の作成方法は、遺伝子および/又は蛋白質の機能エレメントに基づく相互関係のデータを記憶する記憶手段、ならびに、記憶手段から読み出された相互関係のデータに基づき遺伝子および/又は蛋白質の間の相互関係を示すマップを描画する手段を備える装置により実施することができる。
【0212】
本発明の装置の構成の例を図20に示す。記憶手段1は、機能エレメントに基づく相互関係のデータ2を記憶する。描画手段3は記憶手段1から相互関係のデータを読み出して、ネットワーク・マップを描画する。
【0213】
本発明の装置は、上記のような手段としてコンピューターを機能させるためのプログラムを実装したコンピューターにより構成することができる。
【0214】
本発明の装置は、さらに、相互関係のデータを入力又は修正するための入力手段や、描画されたマップを装置から出力する出力手段を備えていてもよい。
描画手段は、描画の様式を選択できる機能を有することが好ましい。例えば、ユーザーの選択により、選択した遺伝子および/又は蛋白質の機能エレメントに関連する相互関係あるいは選択した相互関係の種類のみを示す機能を有することが好ましい。これにより、また、多数の遺伝子および/又は蛋白質のマップでは、それらの相互関係を全て表示すると判別不能になってしまうことを防ぐことができる。
【0215】
本発明の装置は、必要により、機能エレメントの決定手段をさらに有していてもよい。このような装置およびそのためのソフトウエアの例としては、たとえば、図9のフローを実現するようなソフトウエアと装置などが考えられる。
【0216】
本発明のプログラムを記録したコンピューター読み取り可能な記録媒体も提供される。記録媒体としては、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROMなどが挙げられる。
【0217】
以下、本発明の相互作用のある遺伝子や蛋白質の機能エレメント抽出による機能エレメント間の結合によるネットワーク・マップとその作図方法、および機能エレメントが抽出された蛋白質とその抽出方法について具体的に記するが、下記の実施例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものでない。
【実施例1】
【0218】
ベイトをc-Fos蛋白質として、プレイをマウス脳のcDNAライブラリーとして、IVVの共翻訳セレクション/スクリーニングを行い(図7)、その結果、c-Fos蛋白質と複合体を形成しうるc-Jun蛋白質をコードする遺伝子の核酸配列(配列番号1〜15)およびアミノ酸配列(配列番号16〜31)を得た。また、それらの配列をアライメントすることで、c-Junの機能エレメントとして、核酸配列(配列番号31〜33)およびアミノ酸配列(配列番号34〜36)を得た。
【0219】
ベイトc-Fos蛋白質の作成方法は以下の通りであった。pCMV-FosCBPzzベクター(配列番号37)から、TaKaRa Ex Taq(宝酒造)を用いて、PCR(プライマー5'SP6(O29)T7-FosCBPzz(配列番号38)と3'FosCBPzz(配列番号39)、PCRプログラムCYCB1(表1参照))によってDNAテンプレートを準備した。DNAテンプレートをRiboMAXTM Large Scale RNA Production Systems(Promega)を用いて転写(37℃, 2h)し、ベイトc-Fos蛋白質のmRNAテンプレートを準備した。共存させるベイトDNAは、Fos/Junの結合配列を含むDNA-Fos/Jun(配列番号40)をテンプレートとし、PCR(プライマー5'DNA(配列番号41)と3'DNA(配列番号42)、PCRプログラムV-2(表1参照))によって準備した。
【0220】
プレイのマウス脳cDNAライブラリーの作成方法は以下の通りであった。図10に従ってIVVランダムライブラリーを作成した。RNAライブラリーとして、市販のマウス脳 (polyA+) RNAライブラリー(組織抽出RNAライブラリーをoligo dTカラムで精製したもの;clontech)を購入した。アダプター設計は、対応付け分子の形成に適した5'UTR配列(プロモーターSP6+エンハンサーO29又はO')をライブラリーに、IVV形成に必要な配列として付加するための設計を行った。マウス脳(polyA+) RNAライブラリーには、エンハンサーO29をもつアダプターを使用した。エンハンサーO29用のアダプターの主鎖(配列番号43又は44)と副鎖(gaattcgc又はggaattcg)は、各々TEバッファー(10 mM Tris-Cl, pH 8.0, 1 mM EDTA)に溶解して100μMとし、主鎖と副鎖をそれぞれ10μlずつ等モルで混合する。90℃で2分間加熱し、70℃で5分加熱し、60℃のウオーターバスにセットしてバスのヒーターを切ってゆっくりと60℃から室温まで下げた。5μlずつに分注して-20℃に保存した。次に、マウス脳(polyA+) RNAライブラリーを一本鎖DNAに逆転写した(図10, I)。マウス脳(polyA+) RNAライブラリー(1.4 pmole/0.5μg)を0.5μg、3'ランダムプライマー(配列番号45)を2 pmolとDEPC水とを加えて12.0μlとし、70℃で10 min加熱し、氷上で1分間冷却した。これを用いて、SuperScriptII RT (SuperScript Double Strand cDNA Synthesis Kit; Invitrogen)で45℃で1h逆転写反応を行った。次に、逆転写反応で合成した一本鎖DNAを全量用いて、E.coli DNAリガーゼ、E.coli ポリメラーゼI、およびE.coli RNase H (SuperScript Double Strand cDNA Synthesis Kit; Invitrogen)で16℃で 2h反応し、さらにT4 DNAポリメラーゼで16℃で5minで末端を平滑化し、二本鎖DNAを合成した(図10, II)。次に、この二本鎖DNAの5'末端がリン酸化されていることを利用して、先に準備したアダプターを用いてライゲーションした(図10, III)。合成した二本鎖DNAライブラリーをエタノール沈殿し、4μlのDEPC水に溶解した。これに、100μMの準備したアダプターを1.0μl添加し、50μl ligation high(TOYOBO)を加えて、16℃でオーバーナイトで反応させ、精製(DNA purification kit ; QIAGEN)した後50μlとした。次に、PCR(EX Taq Hot Start Version) TaKaRa)を行った(図10, IV)。50μlのライゲーションした二本鎖DNAライブラリーから2μlをテンプレートとして、IVVに必要な特定配列(029)を持つ5'PCRプライマー(配列番号41)と3'PCRプライマー(配列番号42)を用いて、IVV cDNAライブラリーを作成した。PCRの条件は、全量100μl、22サイクル(94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で90秒を1サイクルとし、最後の伸長反応は、72℃で180秒)とした。
【0221】
これらベイトc-Fos蛋白質のmRNAテンプレート、プレイのマウス脳cDNAライブラリー、そして共存させるベイトDNAを小麦の無細胞翻訳系(Wheat Germ Extract(Promega))を用いて50μlで共翻訳(26℃, 60 min)させた。50μlのサンプルに対し、IgG結合バッファー(10 mM Tris-Cl, pH 8.0, 150 mM NaCl, 0.1% NP40)50μlを添加し計100μl(共翻訳サンプル) とした。その後、IgGアガロース(Sigma)をIgG結合バッファーで2回洗浄し、これに共翻訳サンプル(100μl)を加え、4℃で2時間回転攪拌した。結合バッファーで3回、TEV切断バッファー(10 mM Tris-Cl, pH 8.0, 150 mM NaCl, 0.1% NP40, 0.5 mM EDTA, 1 mM DTT)で1回洗浄し、IgGアガロースに結合したベイト/プレイ複合体をTEVプロテアーゼ(GIBCO-BRL)で切断した(16℃、2時間)。さらに、上清90μlを300μl カルモジュリン結合バッファーと0.3μl 1 M CaCl2、さらに、500μlカルモジュリン結合バッファーで2回洗浄した50μl カルモジュリンビーズを加えて4℃で1時間回転攪拌した。遠心後、1000μl カルモジュリン結合バッファーで3回洗浄した。50μlカルモジュリン溶出バッファーを加えて、氷上で1〜2分放置し、遠心後、50μlを回収した。回収した溶液をテンプレートとして、RT-PCR(One step RT-PCR kit (QIAGEN)、プライマー;配列番号46と47、プログラム;RT-QH30'(表1参照))を行った。このスクリーニング/セレクション操作を3ラウンド繰り返した後のライブラリーをクローニングしてシーケンスすることで、c-Fos蛋白質と複合体を形成しうるc-Jun蛋白質をコードする遺伝子の核酸配列(配列番号1〜15)およびアミノ酸配列(配列番号16〜31)を得た。この結果は、エンハンサーO29用のアダプターの主鎖として配列番号43を用いて作成したライブラリーおよび配列番号44を用いて作成したライブラリーのいずれでも同様であった。また、それらの配列を、ClustalXを用いてアライメントしクラスタリングすることで、c-Junの機能エレメントとして、核酸配列(配列番号31〜33)およびアミノ酸配列(配列番号34〜36)を得た(図16)。
【0222】
図16のように、ライブラリーから得られたc-Jun遺伝子の核酸配列をアライメントしクラスタリングすると、Jun(E1+E2+E3)、Jun(E2)、Jun(E2+E3)に分けることが出来る。このことから、c-Junから3つの機能エレメント(E1-E3)を抽出し、核酸配列番号31〜33およびアミノ酸配列番号34〜36を得た。図17に機能エレメント(E1-E3)の核酸配列とアミノ酸配列を記した。
【0223】
3つの機能エレメントを抽出されたc-Jun(図18)は、c-Junの構造解析(Yurii Chinenov1 and Tom K Kerppola, Oncogene (2001) 20, 2438-2452)と付き合わせることで、E1はDNA結合領域の一部に当たり、E2はロイシンジッパー・モチーフとDNA結合領域の一部に当たり、E3はその先のC末端領域に当たることがわかる。このような情報が得られたことで、蛋白質結合領域やDNA結合領域を制御するためのミューテーション実験などを行うことが出来る。
さらに、これら抽出した3つの機能エレメントを用いてc-Jun遺伝子を中心にマッピングすることによって、これまで区別できなかったネットワークが3つに区別可能となり、3通りのネットワーク・パターン、すなわちc-Jun機能のパターンは少なくとも3つあることが読みとれる (図19)。
【0224】
【表1】

【産業上の利用の可能性】
【0225】
本発明は、遺伝子や蛋白質の機能エレメントを抽出し、それら機能エレメントを抽出した遺伝子や蛋白質のデータベースを用いた機能エレメント間の結合によるネットワーク・マップを提供する。そのことによって、遺伝子間や蛋白質間のネットワークの詳細な解析や複合体の予想が可能となり、構造解析と合わせて解析することにより、創薬支援システムへ応用可能なマップを提供することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子および/又は蛋白質の相互関係のデータに基づき遺伝子および/又は蛋白質の相互関係を示すマップの作成方法であって、相互関係が遺伝子および/又は蛋白質の機能エレメントに基づく相互関係であることを特徴とする方法。
【請求項2】
機能エレメントが、遺伝子および/又は蛋白質の相互作用解析によりランダムライブラリーから抽出された配列に基づき決定されたものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ランダムライブラリーが核酸配列のランダムライブラリーである請求項2記載の方法。
【請求項4】
ランダムライブラリーが対応付け分子のランダムライブラリーである請求項2記載の方法。
【請求項5】
相互作用解析が、in vitroウイルスを用いる相互作用解析である請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
遺伝子および/又は蛋白質の間の相互関係のデータを記憶する記憶手段、ならびに、記憶手段から読み出された相互関係のデータに基づき遺伝子および/又は蛋白質の間の相互関係を示すマップを描画する手段としてコンピューターを機能させるためのプログラムであって、遺伝子および/又は蛋白質の相互関係が、遺伝子および/又は蛋白質の機能エレメントに基づく相互関係であることを特徴とするプログラム。
【請求項7】
機能エレメントが、遺伝子および/又は蛋白質の相互作用解析によりランダムライブラリーから抽出された配列に基づき決定されたものである請求項6に記載のプログラム。
【請求項8】
ランダムライブラリーが核酸配列のランダムライブラリーである請求項7記載のプログラム。
【請求項9】
ランダムライブラリーが対応付け分子のランダムライブラリーである請求項7記載のプログラム。
【請求項10】
相互作用解析が、in vitroウイルスを用いる相互作用解析である請求項7〜9のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載されたプログラムを記録したコンピューター読み取り可能な記録媒体。
【請求項12】
遺伝子および/又は蛋白質の間の相互関係のデータを記憶する記憶手段、ならびに、記憶手段から読み出された相互関係のデータに基づき遺伝子および/又は蛋白質の間の相互関係を示すマップを描画する手段を備える、遺伝子および/又は蛋白質の相互関係を示すマップの作成装置であって、遺伝子および/又は蛋白質の相互関係が、遺伝子および/又は蛋白質の機能エレメントに基づく相互関係であることを特徴とする装置。
【請求項13】
機能エレメントが、遺伝子および/又は蛋白質の相互作用解析によりランダムライブラリーから抽出された配列に基づき決定されたものである請求項12に記載の装置。
【請求項14】
ランダムライブラリーが核酸配列のランダムライブラリーである請求項12記載の装置。
【請求項15】
ランダムライブラリーが対応付け分子のランダムライブラリーである請求項12記載の装置。
【請求項16】
相互作用解析が、in vitroウイルスを用いる相互作用解析である請求項13〜15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
in vitroウイルスを用いる相互作用解析により、相互作用する遺伝子又は蛋白質のライブラリーを得、そのライブラリーの遺伝子又は蛋白質の核酸配列又はアミノ酸配列から抽出された配列に基づき機能エレメントを決定することを含む、機能エレメントの決定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【国際公開番号】WO2005/050518
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515680(P2005−515680)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017362
【国際出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】