説明

遺伝子サブトラクション用の担体及びその利用

【課題】遺伝子サブトラクション法を簡便、迅速、高精度、かつ幅広い遺伝子に対して適用可能ならしめるためのツールを提供し、これを用いた簡便、迅速、高精度、かつ幅広い遺伝子に対して適用可能な遺伝子サブトラクション法を提供すること。
【解決手段】「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列を保持する核酸」が結合していることを特徴とする、遺伝子サブトラクション用の担体及びこれを用いることを特徴とする遺伝子サブトラクション方法。当該「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリー」は、タンパク質キナーゼ遺伝子ファミリーであることが好ましく、当該「タンパク質キナーゼ遺伝子ファミリー」は、チロシンキナーゼファミリー及びセリン/スレオニンキナーゼファミリーからなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な遺伝子サブトラクション用の担体及びこれを用いた新規な遺伝子サブトラクション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、本出願書類において用いた略号について説明する。
G3PDH:グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase)
OA:変形性関節症(osteoarthritis)
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)
PK:タンパク質キナーゼ(protein kinase)
RA:関節リウマチ(rheumatoid arthritis)
SDS:ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate)
また本出願書類においてヌクレオチド配列(塩基配列)を示す場合には、以下の略号を用いる。
A(又はa):アデニン
G(又はg):グアニン
C(又はc):シトシン
T(又はt):チミン
U(又はu):ウラシル
R(又はr):グアニン又はアデニン
Y(又はy):チミン又はシトシン
M(又はm):アデニン又はシトシン
S(又はs):グアニン又はシトシン
W(又はw):アデニン又はチミン
N(又はn):アデニン又はグアニン又はシトシン又はチミン
遺伝子サブトラクション法(差し引きハイブリッド法)は、異なる2種類の細胞や組織間において発現レベルの差がある目的遺伝子を、ハイブリダイゼーションによって差し引きすることにより単離する方法である。例えば、ある目的遺伝子のmRNAが細胞Aに較べ細胞Bにおいてより高レベルに発現している場合、細胞A及びBに由来するmRNA/cDNA/cRNA等の間でハイブリッドを形成させ、そのハイブリッド形成したもの以外のものを除去することによって、細胞Bにおいて高レベルに発現している遺伝子を単離することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2000−325080号公報 また、遺伝子サブトラクションのキットも多く市販されている。しかし、本発明者らが試しにJAK1(チロシンキナーゼの一種)が等量含まれているcDNAサンプルを、市販のキットを用いて遺伝子サブトラクションを実施した結果、本来、遺伝子サブトラクションにより除かれるべきJAK1のcDNAがほとんど除去されず、相当量が残存してしまうケースが発生した。このことは、確立され広く市販されているキットであっても、多種多様な遺伝子のサブトラクションに対して必ずしも万能ではない、という技術水準を物語るものであり、遺伝子サブトラクション法について改善の余地が十分にあることを示すものとなった。また、従来のサブトラクション法では発現している全ての遺伝子が対象となるため、機能未知の遺伝子を含め大量の遺伝子が検出されてしまう。そのため、検出された遺伝子の中から、意味のある遺伝子を選び出すことは非常に困難であり、効率的ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、遺伝子サブトラクション法をより簡便、迅速、高精度、かつ幅広い遺伝子に対して適用可能ならしめるためのツールを提供し、さらにこれを用いた簡便、迅速、高精度、かつ幅広い遺伝子に対して適用可能な遺伝子サブトラクション法を提供することを課題とする。また、機能が知られており意味のある遺伝子、すなわちある特定の遺伝子ファミリーのみを対象に解析を行うことで、遺伝子サブトラクションの効率化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列を保持する核酸」が結合している担体を作製し、これを遺伝子サブトラクションに用いることにより、簡便、迅速、高精度、かつ幅広い遺伝子に対して適用可能な遺伝子サブトラクションが可能であることを見い出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列を保持する核酸」が結合していることを特徴とする、遺伝子サブトラクション用の担体(以下、「本発明担体」という。)を提供する。
この「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリー」は、PK遺伝子ファミリーであることが好ましい。また、この「PK遺伝子ファミリー」は、チロシンキナーゼファミリー及びセリン/スレオニンキナーゼファミリーであることが好ましい。
また、「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリー」としてPK遺伝子ファミリーを選択した場合、当該ファミリーに共通なヌクレオチド配列は、配列番号1及び/又は配列番号2で示されるヌクレオチド配列であることが好ましい。
GTGCACMGNGAYYT (配列番号1)
GAYGTSTGGTCCTWTGG (配列番号2)
(配列番号中におけるTはUであってもよい。また、Y、W及びNにおけるTも、Uであってもよい。)
また、「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリー」としてPK遺伝子ファミリーを選択した場合、当該ファミリーに共通なヌクレオチド配列にアニーリングするヌクレオチド配列は、配列番号1及び/又は配列番号3で示されるヌクレオチド配列であることが好ましい。
GTGCACMGNGAYYT (配列番号1)
CCAWAGGACCASACRTC (配列番号3)
(配列番号中におけるTはUであってもよい。また、Y、W及びNにおけるTも、Uであってもよい。)
また、「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリー」としてPK遺伝子ファミリーを選択した場合、当該ファミリーに共通なヌクレオチド配列にアニーリングするヌクレオチド配列は、配列番号1及び/又は配列番号4で示されるヌクレオチド配列であることが好ましい。
GTGCACMGNGAYYT (配列番号1)
GCGAATTCCAWAGGACCASACRTC (配列番号4)
(配列番号中におけるTはUであってもよい。また、Y、W及びNにおけるTも、Uであってもよい。)
また「担体」は、磁性体ビーズであることが好ましい。また、前記核酸と担体との間の結合様式は、ビオチン−アビジン結合であることが好ましい。
また「核酸」は、DNAであることが好ましい。
【0007】
また本発明は、本発明担体を用いることを特徴とする、遺伝子サブトラクション方法(以下、「本発明方法」という。)を提供する。本発明方法は、「本発明担体に結合している核酸」と「検出対象となる核酸を含有する核酸画分」とを接触させてハイブリダイゼーション反応させ、その後、前記担体を除去するステップを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、遺伝子サブトラクション法をより簡便、迅速、高精度、かつ幅広い遺伝子に対して適用可能ならしめるためのツールが提供され、さらにこれを用いた簡便、迅速、高精度、かつ幅広い遺伝子に対して適用可能な遺伝子サブトラクション法が提供されることから、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を発明の実施の形態により詳説する。
<1>本発明担体
本発明担体は、「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列を保持する核酸」が結合していることを特徴とする、遺伝子サブトラクション用の担体である。
【0010】
ここで、「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリー」は、種々の遺伝子ファミリーのなかから、遺伝子サブトラクションのターゲット(標的)として所望するものを選択すればよい。例えば、PK遺伝子ファミリーについて遺伝子サブトラクションを行いたい場合には、PK遺伝子ファミリーが、遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーとなる。
【0011】
本発明においては、「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリー」として、PK遺伝子ファミリーを選択することが好ましい。また、この「PK遺伝子ファミリー」は、チロシンキナーゼファミリー及びセリン/スレオニンキナーゼファミリーであることが好ましい。
また、遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに「共通なヌクレオチド配列」とは、当該ファミリーに共通して存在するヌクレオチド配列である限りにおいて特に限定されない。ここで「共通して存在する」とは、必ずしも当該遺伝子ファミリーに属する全ての遺伝子において存在している必要はなく、当該遺伝子ファミリーに属する多くの遺伝子において存在するものであれば良い。また、「共通なヌクレオチド配列」自体も、必ずしもその遺伝子間において完全に一致している必要はなく、若干のヌクレオチドの差異があってもよい。
遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーにおいて、具体的にどのようなヌクレオチド配列を「共通なヌクレオチド配列」とするかについては、サブトラクションの目的・精度等に応じて当業者が適宜決定することができる。例えば、ある遺伝子ファミリーに関してある程度幅広く遺伝子サブトラクションを行いたいのであれば、その「遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列」として、当該遺伝子ファミリーに属する全ての遺伝子において存在するヌクレオチド配列ではなく、当該遺伝子ファミリーに属する多くの遺伝子において存在するヌクレオチド配列を用いればよい。逆に、ある遺伝子ファミリーに関して、当該遺伝子ファミリーに属する全ての遺伝子において存在する特定のヌクレオチド配列に厳密に着目して遺伝子サブトラクションを行いたいのであれば、「遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列」として、当該遺伝子ファミリーに属する全ての遺伝子において存在する当該特定のヌクレオチド配列を用いればよい。
「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリー」としてPK遺伝子ファミリーを選択した場合には、当該ファミリーに共通なヌクレオチド配列として、配列番号1及び/又は配列番号2で示されるヌクレオチド配列を採用することが好ましい。
GTGCACMGNGAYYT (配列番号1)
GAYGTSTGGTCCTWTGG (配列番号2)
(配列番号中におけるTはUであってもよい。また、Y、W及びNにおけるTも、Uであってもよい。)
そのなかでも、前記ファミリーに共通なヌクレオチド配列として、配列番号1と配列番号2の両方のヌクレオチド配列を採用することが好ましい。
また、「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列」とは、以上に説明した「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列」に対して、アニーリングする性質を有するヌクレオチド配列である限りにおいて特に限定されない。ここで「アニーリング」の条件は、相補的にハイブリッドを形成すべき核酸鎖間の水素結合が切断されている温度条件から温度を下げていったときに、当該核酸鎖間で水素結合が再構成され、両者が再結合するような条件である限りにおいて特に限定されない。具体的には、PCRにおける冷却のステップにおいて、前記核酸鎖間で再結合が形成されるような条件が挙げられる。より具体的には、ExTaq ポリメラーゼ(TaKaRa社:RR001A)に付属のバッファーを用いて、48℃(〜70℃)、1分間で前記核酸鎖間の再結合が形成されるものであることが好ましい。
「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリー」としてPK遺伝子ファミリーを選択した場合には、当該ファミリーに共通なヌクレオチド配列にアニーリングするヌクレオチド配列として、配列番号1及び/又は配列番号3で示されるヌクレオチド配列を採用することが好ましい。
GTGCACMGNGAYYT (配列番号1)
CCAWAGGACCASACRTC (配列番号3)
(配列番号中におけるTはUであってもよい。また、Y、W及びNにおけるTも、Uであってもよい。)
そのなかでも、配列番号1と配列番号3の両方のヌクレオチド配列を採用することが好ましい。
また「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリー」としてPK遺伝子ファミリーを選択した場合には、当該ファミリーに共通なヌクレオチド配列にアニーリングするヌクレオチド配列として、配列番号1及び/又は配列番号4で示されるヌクレオチド配列を採用することが好ましい。
GTGCACMGNGAYYT (配列番号1)
GCGAATTCCAWAGGACCASACRTC (配列番号4)
(配列番号中におけるTはUであってもよい。また、Y、W及びNにおけるTも、Uであってもよい。)
そのなかでも、配列番号1と配列番号4の両方のヌクレオチド配列を採用することが好ましい。
【0012】
このような、「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列」からなる核酸をもとに、担体に結合させるべき当該配列を保持する核酸を製造することができる。なお本出願書類において、あるヌクレオチド配列を「保持する」核酸とは、当該にヌクレオチド配列からなる核酸のみならず、当該ヌクレオチド配列を一部分に含んでいる核酸をも含む趣旨である。
【0013】
前記の通り、遺伝子サブトラクション法では、ある目的遺伝子のmRNAが細胞Aに較べ細胞Bにおいてより高レベルに発現している場合、細胞A及びBに由来するmRNA/cDNA/cRNA等の間でハイブリッドを形成させ、そのハイブリッド形成したもの以外のものを除去することで、細胞Bにおいて高レベルに発現している遺伝子を単離することができる。本出願書類では、この場合におけるハイブリッドを形成させる細胞A由来の核酸(対照試料)を「ドライバー」と、細胞B由来の核酸(目的試料)を「テスター」という。そして本発明における「ドライバー」としては、「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列を保持する核酸」であって細胞Aにおいて発現しているものを、「テスター」としては、「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列を保持する核酸」であって細胞Bにおいて発現しているものをそれぞれ用いることとなる。
そして、担体に結合させるべき「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列を保持する核酸」は、「ドライバー」として用いる核酸であることが好ましい。このような核酸は、前記の「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列」からなる核酸をプライマーとし、遺伝子サブトラクションにおける対照の細胞・組織等(前記でいう「細胞A」)に存在する核酸(mRNA等)を鋳型としたPCRによって製造し、増幅することができる。
例えば、「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリー」としてPK遺伝子ファミリーを選択し、OA患者の関節滑膜を遺伝子サブトラクションの対照(前記でいう「細胞A」)とする場合には、配列番号1及び/又は配列番号3で示される核酸をプライマーとし、OA患者の関節滑膜から抽出された核酸を鋳型としたPCRによって、担体に結合させるべき核酸を製造・増幅することができる。配列番号3に代えて、配列番号4で示される核酸を用いてもよい。
GTGCACMGNGAYYT (配列番号1)
CCAWAGGACCASACRTC (配列番号3)
GCGAATTCCAWAGGACCASACRTC (配列番号4)
(配列番号中におけるTはUであってもよい。また、Y、W及びNにおけるTも、Uであってもよい。)
このように、本発明担体に結合させるべき「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列を保持する核酸」は、遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーや、対照とする細胞や組織等(使用する「ドライバー」)等に応じて異なることとなるが、これらに応じて当業者が適宜設定・製造等することができる。
【0014】
本発明担体は、このような「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列を保持する核酸」が担体に結合していることを特徴とする。
【0015】
この「担体」は、核酸を結合させることができ、かつ、水や反応液等に不溶である限りにおいて特に限定されない。その形状も特に限定されず、ビーズ、プレート(例えばマイクロプレートのウェル等)、チューブ、メンブレン、ゲル等を例示することができる。なかでもビーズの形状が好ましい。
また担体の材質も特に限定されず、磁性体、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ニトロセルロース、ナイロン、ポリアクリルアミド、ポリアロマー、ポリエチレン、ガラス、アガロース等の材質が例示される。
【0016】
これらのなかでも、磁性体のビーズであることが、ハイブリダイゼーション後のドライバーの除去を簡便、迅速かつ確実に行いうることから好ましい。すなわち、担体として磁性体ビーズを用いれば、ハイブリダイゼーション後に、磁石によって当該ビーズ(これに結合している核酸及びこれにハイブリダイズした核酸)を簡便、迅速かつ確実に除去することができる。
【0017】
また、前記の核酸と担体との間の結合様式も、水や反応液等の中において両者が解離しない強度以上の強度を有するものである限りにおいて特に限定されない。また、核酸と担体とが直接結合しているものはもちろん、両者が別の物質を介して結合していてもよい。
両者間の結合としては、例えば、2個の原子がいくつかの電子を共有してつくる共有結合や、2個の分子間における親和性により形成されるアフィニティー結合等を例示することができる。アフィニティー結合としては、ビオチン−アビジン結合(ビオチンとアビジンとの間の結合)等を例示することができる。なお、本出願書類における「アビジン」の用語には、ストレプトアビジンも当然に包含される。
【0018】
両者間の結合様式としてビオチン−アビジン結合を採用する場合には、例えば、担体に結合させるべき核酸に公知の方法でビオチンを結合させ、担体(例えば、磁性体ビーズ)にはアビジンを結合させて、両者を接触させてアフィニティー結合させることにより、核酸と担体とがビオチン−アビジン結合によって結合した本発明担体とすることができる。また、アビジン等が結合している担体(例えば、磁性体ビーズ)等も市販されており、これらを用いることもできる。
【0019】
なお本発明担体における核酸と担体との結合は、遺伝子サブトラクションの過程で形成させてもよい。例えば、ドライバーとテスターとをハイブリダイズさせた後に、当該ドライバーを担体に結合させる態様であってもよい。例えば、予めドライバーにビオチンを結合させておき、これとテスターとをハイブリダイズさせた後に、ドライバーに結合しているビオチンを担体に結合しているアビジンに結合させることによって、本発明担体を製造してもよい。
【0020】
以上のような核酸が結合している担体を、遺伝子サブトラクション用途の担体とすることにより、本発明担体が提供される。
【0021】
なお、以上に示したヌクレオチド配列や核酸は、DNAであっても、RNAであってもよく、遺伝子サブトラクションの目的や方法等によって当業者が適宜選択することができる。例えば、ヌクレオチド配列や核酸としてRNAを採用する場合にはチミン(T)をウラシル(U)に変更すればよく、またmRNAを用いる場合には、DNAからの転写を考慮してそのヌクレオチド配列をデザインすればよい。
【0022】
本発明担体は、後述する「本発明方法」にそのまま利用することができる。その使用方法については、後述の「本発明方法」の説明を参照されたい。

<2>本発明方法
本発明方法は、本発明担体を用いることを特徴とする遺伝子サブトラクション方法である。本発明方法は、本発明担体を用いるステップを少なくとも含んでいる限りにおいて特に限定されない。
前記の通り、本発明担体は「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列を保持する核酸」が結合していることを特徴とする。そして前記の通り、当該核酸はドライバーとして用いる核酸であることが好ましい。したがって本発明方法は、遺伝子サブトラクション法において、ドライバーに代えて本発明担体を用いることにより実施することができる。
【0023】
具体的には、本発明は、「本発明担体に結合している核酸」と「検出対象となる核酸を含有する核酸画分(テスター)」とを接触させてハイブリダイゼーション反応させ、その後、前記担体を除去するステップを含むことが好ましい。
【0024】
ここにおけるハイブリダイゼーション反応の条件は、非特異的なハイブリダイゼーションが生じない程度のストリンジェントな条件で行われることが好ましい。このような条件としては、終濃度として0.5〜10xSSC(好ましくは1〜5xSSC、より好ましくは3xSSC)、0.5〜5xDenhardt溶液(好ましくは1〜4xDenhardt溶液、より好ましくは2.5xDenhardt溶液)
及び0.01〜0.1% SDS(好ましくは0.02〜0.08% SDS、より好ましくは0.05% SDS)を含有する溶液中で、55℃〜75℃(好ましくは60℃〜70℃、より好ましくは68℃)でインキュベートする条件が例示される。インキュベートの時間としては、例えば6時間〜24時間(好ましくは10時間〜20時間、より好ましくは15時間)程度を例示することができる。
ここで「本発明担体に結合している核酸」については前記の通りである。また「検出対象となる核酸を含有する核酸画分」は「テスター」であり、遺伝子サブトラクションの目的等に応じて、当業者が適宜選択・製造することができる。
例えば、OA患者の関節滑膜に比してRA患者の関節滑膜において発現レベルが高いPK遺伝子ファミリーについて遺伝子サブトラクションを行う場合には、OA患者の関節滑膜から抽出し増幅させたPK遺伝子に関する核酸群(ドライバー)が担体に結合した本発明担体を用い、当該担体に結合している核酸(ドライバー)と、RA患者の関節滑膜から抽出し増幅させたPK遺伝子に関する核酸画分(テスター)とを接触させてハイブリダイゼーション反応させ、その後、前記担体(これに結合している核酸及びこれにハイブリダイズした核酸)を除去すればよい。
特に、本発明担体における「担体」として磁性体ビーズを用いた場合には、担体の除去は、磁石を用いて簡便、迅速かつ確実に行うことができる。
例えば、以下ステップからなる方法を例示することができる。
(1)ヒトRA患者及びヒトOA患者の関節滑膜からRNAを抽出する。
(2)抽出したRNAを鋳型としてcDNAを合成する。
(3)RA患者由来のcDNAを鋳型とし、PK遺伝子ファミリーに特異的なプライマーを用いてPCRを行い、PK遺伝子ファミリーの断片を特異的に増幅する。これにより得られたDNAを「テスターDNA」という。
(4)OA患者由来のcDNAを鋳型とし、PK遺伝子ファミリーに特異的な配列の5'端にビオチンを付加したプライマーを用いてPCRを行い、両端にビオチンが修飾されたPK遺伝子ファミリーの断片を特異的に増幅する。これより得られたDNAを「ドライバーDNA」という。
(5)テスターDNAとドライバーDNAを混合し、水溶液中で加熱(好ましくは80℃〜100℃、より好ましくは90℃〜100℃、特に好ましくは100℃程度)することによって変性させる。次いで、終濃度として0.5〜10xSSC(好ましくは1〜5xSSC、より好ましくは3xSSC)、0.5〜5xDenhardt溶液(好ましくは1〜4xDenhardt溶液、より好ましくは2.5xDenhardt溶液)及び0.01〜0.1% SDS(好ましくは0.02〜0.08% SDS、より好ましくは0.05% SDS)を含有する溶液中、55℃〜75℃(好ましくは60℃〜70℃、より好ましくは68℃)で6時間〜24時間(好ましくは10時間〜20時間、より好ましくは15時間)インキュベートすることによりテスターDNAとドライバーDNAの間に二本鎖を形成させる。
(6)この反応液に磁気ビーズを添加し、ドライバーDNA中のビオチンと磁気ビーズに結合しているストレプトアビジンとを結合させる。
(7)ドライバーDNAと磁気ビーズとの複合体を磁石を用いて除去する。これによってドライバーDNAのみならず、テスターDNAとドライバーDNAに共通して存在する遺伝子断片も除去される。その結果、OA患者に比してRA患者において発現が増加しているDNAが溶液中に残ることになる。このDNAをPCRによって増幅し、諸解析に用いる。また遺伝子サブトラクションの感度及び精度をより高めるために、磁気ビーズ(担体)を除去した後の溶液について、上記ステップをさらに繰り返して実施してもよい。
他の細胞・組織等や、他の遺伝子ファミリーをターゲットとする場合も同様である。
【0025】
本発明方法により、簡便、迅速、高精度、かつ幅広い遺伝子に対して適用可能な遺伝子サブトラクション法を行うことができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
<実施例1> 本発明担体を用いた遺伝子サブトラクション
(1)ヒトRA患者(6例)及びヒトOA患者(3例)の手術時に膝関節滑膜を摘出し、この滑膜からISOGEN(NIPPON GENE社)法によってRNAを抽出した。
(2)抽出したRNAを鋳型にして、SuperSript III First-Strand Synthesis System(Invitrogen社)を用いてcDNAを合成した。操作方法は同製品のマニュアルに従って行った。
(3)RA患者由来のcDNAを鋳型として、PK遺伝子ファミリーに特異的なプライマー(TAGAACTAGTGGATCCGTGCACMGNGAYYT(配列番号5)及びGGTCGACGGTATCGATCCAWAGGACCASACRTC(配列番号6))を用いてPCR(反応条件:ExTaq ポリメラーゼ(TaKaRa社:RR001A)とそれに付属のバッファーを用いて、94℃(3分)-[94℃(1分)-48℃(1分)-72℃(1分)]x 30回 - 72℃(5分))を行い、PK遺伝子ファミリーの断片を特異的に増幅した。以下、この増幅により得られたDNAを「テスターDNA」という。
(4)OA患者由来のcDNAを鋳型として、PK遺伝子ファミリーに特異的な配列の5'端にビオチンを付加したプライマー(GTGCACMGNGAYYT(配列番号1)及びGCGAATTCCAWAGGACCASACRTC(配列番号4))を用いてPCR(反応条件:ExTaq ポリメラーゼ(TaKaRa社:RR001A)とそれに付属のバッファーを用いて、94℃(3分)-[94℃(1分)-48℃(1分)-72℃(1分)]x 30回 - 72℃(5分))を行い、両端にビオチンが修飾されたPK遺伝子ファミリーの断片を特異的に増幅した。以下、この増幅により得られたDNAを「ドライバーDNA」という。
(5)6患者分のテスターDNA 2μgと、3患者分のドライバーDNA 4μgを混合し、100℃で5分間処理して変性させた。この溶液に等量のハイブリダイゼーションバッファー(6xSSC、5xDenhardt溶液、0.1%SDS)を添加し、68℃で一晩保温することによってテスターDNAとドライバーDNAの間に二本鎖を形成させた。
(6)この反応液に500μgの磁気ビーズ(Dynal Biotech社; M-270 Streptavidin)を添加し、1時間攪拌することによって、ドライバーDNA中のビオチンと磁気ビーズに結合しているストレプトアビジンとを結合させた。
(7)ドライバーDNAと磁気ビーズとの複合体を、ビーズ分離用磁石(Dynal Biotech社; MPC-S)を用いて除去した。これによってドライバーDNAのみならず、テスターDNAとドライバーDNAに共通して存在する遺伝子断片も除去される。その結果、OA患者に比してRA患者において発現が増加している遺伝子が溶液中に残ることになる。
(8)前記(7)の操作後の溶液に、新たにドライバーDNAを添加し、前記(5)から(7)の操作を2回繰り返した。
(9)前記(8)の操作後の溶液に含まれるDNAを増幅するために、テスターDNA増幅用プライマー(TAGAACTAGTGGATCC(配列番号7)及びTCGACGGTATCGAT(配列番号8))を用いてPCR(反応条件:ExTaq ポリメラーゼ(TaKaRa社:RR001A)とそれに付属のバッファーを用いて、94℃(3分)-[94℃(1分)-62℃(1分)-72℃(1分)]x 10〜16回 - 72℃(5分))を行った。
(10)上記PCRの産物から、PK遺伝子ファミリーの断片サイズである約240bpの断片を切り出し、TOPO-TA Cloning Kit for Sequence(Invitrogen社)を用いて、断片をプラスミドベクターにサブクローニングした。
(11)サブクローニングしたプラスミドDNAの挿入配列を解析し、GeneBank等のデータベースで検索した。その結果、数種類のPK遺伝子が検出された。以下、検出されたPK遺伝子のうち特定の3種類について、キナーゼA、キナーゼB及びキナーゼCとそれぞれ記載する。

<実施例2> RA患者及びOA患者滑膜における発現解析
(1)前記のサブトラクション法によって同定されたPK遺伝子が、OA患者と比較してRA患者において発現が増加していることを確認するために、6例のRA患者及び3例のOA患者由来のcDNAを鋳型としてPCR(反応条件:ExTaq ポリメラーゼ(TaKaRa社:RR001A)とそれに付属のバッファーを用いて、94℃(3分)-[94℃(30秒)-60℃(30秒)-72℃(1分)]x 27回 - 72℃(5分))を行った。各PK遺伝子の増幅には、それぞれのPK遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCRを行った。
(2)RA及びOA患者由来のcDNAを鋳型として、サーマルサイクラー(TaKaRa社; TP3000)を用いてPCR(反応条件:ExTaq ポリメラーゼ(TaKaRa社:RR001A)とそれに付属のバッファーを用いて、94℃(3分)-[94℃(30秒)-60℃(30秒)-72℃(1分)]x 27回 - 72℃(5分))を行った後、PCR産物をアガロースゲル電気泳動し、対応するバンドの濃さをイメージアナライザ(Bio-Rad社; MOLECULAR IMAGER FX)を用いて定量した。
(3)各遺伝子のバンドの定量値は、内在性コントロールであるG3PDHの定量値に対する比として算出し、RA、OAそれぞれの平均値+標準偏差を求めた。キナーゼA遺伝子の定量値(発現量)を図1に、キナーゼB遺伝子の定量値(発現量)を図2に、キナーゼC遺伝子の定量値(発現量)を図3にそれぞれ示す。
【0027】
その結果、キナーゼA、キナーゼB及びキナーゼC遺伝子の発現量は、OA患者と比較してRA患者において高かった。このことから、前記サブトラクション法によって同定されたPK遺伝子は、OA患者に比してRA患者において発現が増加していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】キナーゼA遺伝子の発現量(RA、OA患者滑膜)を示す図である。
【図2】キナーゼB遺伝子の発現量(RA、OA患者滑膜)を示す図である。
【図3】キナーゼC遺伝子の発現量(RA、OA患者滑膜)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
「『遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列』にアニーリングするヌクレオチド配列を保持する核酸」が結合していることを特徴とする、遺伝子サブトラクション用の担体。
【請求項2】
遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーが、タンパク質キナーゼ遺伝子ファミリーであることを特徴とする、請求項1に記載の担体。
【請求項3】
タンパク質キナーゼ遺伝子ファミリーが、チロシンキナーゼファミリー及びセリン/スレオニンキナーゼファミリーからなることを特徴とする、請求項2に記載の担体。
【請求項4】
「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列」が、配列番号1及び/又は配列番号2で示されるヌクレオチド配列であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の担体。
GTGCACMGNGAYYT (配列番号1)
GAYGTSTGGTCCTWTGG (配列番号2)
(配列番号中、MはA又はC、YはT又はC、SはG又はC、WはA又はTであることを意味し、NはA、G、C及びTのいずれか1つであることを意味する。また配列番号中及び本説明文中において、TはUであってもよい。)
【請求項5】
「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列」にアニーリングするヌクレオチド配列が、配列番号1及び/又は配列番号3で示されるヌクレオチド配列であることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の担体。
GTGCACMGNGAYYT (配列番号1)
CCAWAGGACCASACRTC (配列番号3)
(配列番号中、MはA又はC、YはT又はC、WはA又はT、SはG又はC、RはG又はAであることを意味し、NはA、G、C及びTのいずれか1つであることを意味する。また配列番号中及び本説明文中において、TはUであってもよい。)
【請求項6】
「遺伝子サブトラクションのターゲットとする遺伝子ファミリーに共通なヌクレオチド配列」にアニーリングするヌクレオチド配列が、配列番号1及び/又は配列番号4で示されるヌクレオチド配列であることを特徴とする、請求項2〜5のいずれか1項に記載の担体。
GTGCACMGNGAYYT (配列番号1)
GCGAATTCCAWAGGACCASACRTC (配列番号4)
(配列番号中、MはA又はC、YはT又はC、WはA又はT、SはG又はC、RはG又はAであることを意味し、NはA、G、C及びTのいずれか1つであることを意味する。また配列番号中及び本説明文中において、TはUであってもよい。)
【請求項7】
担体が、磁性体ビーズであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の担体。
【請求項8】
前記核酸と担体との間の結合様式が、ビオチン−アビジン結合であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の担体。
【請求項9】
核酸が、DNAであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の担体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の担体を用いることを特徴とする、遺伝子サブトラクション方法。
【請求項11】
「請求項1〜9のいずれか1項に記載の担体に結合している核酸」と「検出対象となる核酸を含有する核酸画分」とを接触させてハイブリダイゼーション反応させ、その後、前記担体を除去するステップを含むことを特徴とする、請求項10に記載の遺伝子サブトラクション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−89696(P2009−89696A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266132(P2007−266132)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】