説明

遺伝子組換え植物工場

【課題】太陽光と人工光を併用し、遺伝子組換え植物の栽培に必要な光環境を的確に制御できる遺伝子組換え植物工場を提供する。
【解決手段】遺伝子組換え植物を栽培する遺伝子組換え植物工場において、栽培室11の上方の採光室に設けられ、太陽光を栽培室内に透過又は遮蔽すると共に遮蔽時に反射材で照明器具31からの人工光を反射する巻取式反射装置34と、太陽光の光合成有効光量子束密度を検出する太陽光測定光量子センサ37と、栽培室11に設けられ、遺伝子組換え植物に当たる光合成有効光量子束密度を検出する栽培用光量子センサ39と、これら光量子センサ37,39からの光合成有効光量子束密度の検出値が入力され、その検出値に基づいて遺伝子組換え植物の光環境を調整すべく巻取式反射装置34で太陽光の透過又は遮蔽を行うと共に、照明器具31からの人工光の光量を制御する光量制御装置40とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組換えしたイネ等を栽培するための遺伝子組換え植物工場に係り、特に、人工光と太陽光を併用できる遺伝子組換え植物工場に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、遺伝子組換え技術を応用して、植物本来の含有成分ではない高付加価値物質を植物で生産することが可能になってきた。そのため、タンパク質を基本とした医薬品等の生産系として、遺伝子組換え植物が注目され始めている。これらの植物を気象条件に左右されずに、目的の有用物質の含有量が一定でかつ効率的に生産するためには、栽培条件を適切に制御できる完全制御型植物工場の機能を持ち、かつ、遺伝子拡散防止機能も兼ね備えた遺伝子組換え植物工場が必要となる。
【0003】
高付加価値物質を生産するための遺伝子組換え植物由来の医薬品は、PMPs(Plant mode pharmaceuticals)と呼ばれ、インフルエンザやコレラ、アルツハイマー病の経口ワクチン、家畜用ワクチンなどを、イネやダイズ、イチゴ等で生産することになる。このような植物を利用した有用物質の生産は、動物や微生物を利用するのに比べて低コストである、精製工程が不要である、常温保存ができる収穫物ではコールドチェーンが不要である、安全性が高い等のメリットがある。
【0004】
健康維持や病気治療を目的とした有用物質を遺伝子組換え植物で生産するための技術としては、特許文献1に示されるように、遺伝子組換え植物の栽培エリア、収穫後の遺伝子組換え植物を不活化する不活化エリア、不活化後の遺伝子組換え植物を食品や薬品に調製する製造エリアを、それぞれエアロック機構を介して独立して形成し、遺伝子拡散を防止した完全閉鎖型の植物工場が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−161114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、栽培エリアでの植物の栽培は、養液栽培と人工光による栽培であるが、光要求量が大きい植物(イネ、ダイズ、コムギ、イチゴなどの果実)を人工光で栽培するには、電気エネルギーを大量に必要とする問題がある。
【0007】
このため、特許文献1では、太陽光利用型としたり、太陽光・人工光併用型とすることも提案されているものの、太陽光利用型では、天候に左右され、また併用型にするにしても、太陽光と人工光とでは、光の質(光の波長組成)が相違するため、植物を栽培する光環境が、時間的にも空間的にも大きく異なってしまい、品質の安定した植物の栽培が行えない問題がある。
【0008】
すなわち、照度の単位として用いられているlx(ルックス)は、人間の目が感じる明るさを示す尺度であり、植物が受けるエネルギー密度や光量子束密度を表すものではなく、単に照度を単位として太陽光と人工光を切り換えても植物が受けるエネルギー密度や光量子束密度を適正に制御することは困難である。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、太陽光と人工光を併用し、遺伝子組換え植物の栽培に必要な光環境を的確に制御できる遺伝子組換え植物工場を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、建屋に採光室を形成すると共に採光室内に、光要求量が大きい遺伝子組換え植物を栽培する栽培室を形成し、太陽光を採光室を通して栽培室内に取り入れると共に栽培室に人工光を照射する照明器具を設けた遺伝子組換え植物工場において、上記栽培室の上方の採光室に設けられ、太陽光を栽培室内に透過又は遮蔽すべく移動自在な反射材を有し、遮蔽時に反射材で照明器具からの人工光を反射するための巻取式反射装置と、太陽光の光合成有効光量子束密度を検出する太陽光測定光量子センサと、上記栽培室に設けられ、遺伝子組換え植物に当たる光合成有効光量子束密度を検出する栽培用光量子センサと、これら光量子センサからの光合成有効光量子束密度の検出値が入力され、その検出値に基づいて遺伝子組換え植物の光環境を調整すべく上記巻取式反射材による太陽光の透過又は遮蔽を行うと共に、上記照明器具からの人工光の光量を制御する光量制御装置とを備えたことを特徴とする遺伝子組換え植物工場である。
【0011】
請求項2の発明は、巻取式反射装置は、栽培室に太陽光を透過する透過部とその透過部に連結され栽培室内への太陽光を遮蔽すると共に上記照明装置からの人工光を反射する反射部とからなる反射材と、天井の両側に設けられ上記反射材を交互に巻き取って太陽光を透過又は遮蔽する巻取ロールからなる請求項1に記載の遺伝子組換え植物工場である。
【0012】
請求項3の発明は、上記照明器具は、インバータ装置で光量可変に制御され、上記光量制御装置は、上記インバータ装置を介して上記照明器具の光量を制御する請求項1に記載の遺伝子組換え植物工場である。
【0013】
請求項4の発明は、上記光量制御装置は、太陽光測定光量子センサで検出された光合成有効光量子束密度が基準光量子束密度値を超えるとき巻取式反射装置を駆動して栽培室内に太陽光を透過し、上記照明器具を消灯する請求項1記載の遺伝子組換え植物工場である。
【0014】
請求項5の発明は、上記光量制御装置は、太陽光測定光量子センサで検出された光合成有効光量子束密度が基準光量子束密度値以下で、かつ下限光量子束密度値以上のとき、栽培室に太陽光を透過したまま、栽培用光量子センサで検出される光合成有効光量子束密度が基準光量子束密度値を超えるように上記照明器具での補光量を制御する請求項4記載の遺伝子組換え植物工場である。
【0015】
請求項6の発明は、上記光量制御装置は、太陽光測定光量子センサで検出された光合成有効光量子束密度が下限光量子束密度値を下回るとき巻取式反射装置を駆動して栽培室内への太陽光を遮蔽し、栽培用光量子センサで検出される光合成有効光量子束密度が、基準光量子束密度値を超えるように上記照明器具での照明量を制御する請求項1記載の遺伝子組換え植物工場である。
【0016】
請求項7の発明は、上記光量制御装置に入力された太陽光測定光量子センサと栽培用光量子センサの検出値は、栽培管理装置に入力され、その栽培管理装置に、遺伝子組換え植物の生育に応じた光環境の光量子束密度値が記憶され、上記栽培管理装置は、遺伝子組換え植物の生育時期に応じて基準光量子束密度値と下限光量子束密度値を設定し、その設定値を上記光量制御装置に出力すると共にこれに基づいて光量制御装置が光環境を制御する請求項1〜6のいずれかに記載の遺伝子組換え植物工場である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、太陽光と照明器具による人工光を併用して遺伝子組換え植物を栽培するにおいて、太陽光測定光量子センサで太陽光の光合成光量子束密度を検出し、太陽光が不足する際に、栽培用光量子センサの検出値を基に不足分を人工光で補光することで、電気エネルギーの消費を抑えて栽培することができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の遺伝子組換え植物工場の一実施の形態を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図2の変形例を示す図である。
【図4】月別全天日射量とイネ栽培に必要な日射量の関係を示す図である。
【図5】図4における全天日射量の経時変化を示す図である。
【図6】図4において天空率50%としたときの月別全天日射量とイネ栽培に必要な日射量の関係を示す図である。
【図7】図6における全天日射量の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
図1は、本発明の遺伝子組換え植物工場の平面図を示し、東西に細長に形成した建屋10の南側に、内部に栽培室11が形成された採光室12が設けられ、北側に栽培以外の各種作業を行う作業室13が設けられる。
【0021】
作業室13は、育苗室14、制御室15、事務室16、製剤室17、不活化室18、籾すり・精米室19、脱穀・乾燥室20、イネ保管室21に区画形成される。
【0022】
採光室12の東西側にはエアロック室22E、22W、空調機械室23E、23Wが設けられ、その間に栽培準備室24を介して栽培室11が設けられる。
【0023】
図2は、図1のA−A線断面図を示したものである。
【0024】
先ず採光室12は、作業室13の南側にガラス張りで形成される。この場合、採光室12のガラス屋根25は、作業室13から南側に傾斜するよう形成され、側壁26は、採光が必要でない下部はコンクリート壁などで形成し、上部はガラスで形成されるとよい。
【0025】
採光室12内には、光要求量が大きい植物(イネ、ダイズ、コムギ、イチゴなどの果実)を栽培する栽培室11が設けられる。本実施の形態では、光要求量が大きい植物として、遺伝子組換えイネPを栽培する例を示し、栽培室11内には、遺伝子組換えイネPを養液栽培する栽培棚27が設けられる。
【0026】
栽培室11のガラス天井29上には、照明室28が形成され、照明室28のガラス天井30は、採光室12のガラス屋根25と同じく南面に傾斜するように形成される。照明室28の制御室15側の壁28wに照明器具31が設けられる。
【0027】
照明器具31は、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、LEDなどの光源と、光源からの光を反射する反射板とからなり、反射板としては、無影灯のように光源からの光がより広範囲に広がるように構成されるのが好ましい。照明器具31は、上下多段にかつ栽培室11に沿って多列に設けられ、各照明器具31毎、或いは上下多段毎や列毎に出力電圧可変のインバータ装置32により、光量可変に制御されるようになっている。
【0028】
照明室28のガラス天井30には、太陽光Sを栽培室11内に透過又は遮蔽する巻取式反射装置34が設けられる。巻取式反射装置34は、太陽光Sがガラス天井30を透過させるための紐やテープからなる透過部35sと、その透過部35sに連結され、ガラス天井30を覆って栽培室11内への太陽光Sを遮蔽すると共に照明器具31からの人工光を反射するアルミシートなどの反射部35rとからなる反射材35と、ガラス天井30の両側に設けられ、反射材35を両端から交互に巻き取って太陽光Sを透過又は遮蔽する巻取ロール36s、36rとで構成される。巻取式反射装置34は、栽培室11に太陽光Sを取り入れる際には、巻取ロール36rで反射材35を巻き取って、透過部35sがガラス天井30に位置するように、遮蔽する際には、巻取ロール36sで反射材35を逆に巻き取って、反射部35rがガラス天井30に位置するように反射材35をガラス天井30上で移動する。
【0029】
図3は、採光室12内の栽培室11を変形した変形例を示すものである。
【0030】
この図3の変形例は、図2のように栽培室11の上部に照明室28を形成する代わりに、栽培室11の南北側に照明室38を形成し、照明室38内に上下多段で多列に照明器具31を設け、栽培室11の天井のガラス天井29上に、太陽光Sを栽培室11内に透過又は遮蔽する巻取式反射装置34を設けたものであり、他の構成は図2と同じである。
【0031】
以下、図2と図3をまとめて説明すると、採光室12のガラス屋根25の下部には、太陽光Sの光合成有効光量子束密度を検出する太陽光測定光量子センサ37が設けられ、栽培室11内には太陽光Sと人工光の光合成有効光量子束密度を検出する栽培用光量子センサ39が設けられる。
【0032】
太陽光測定光量子センサ37と栽培用光量子センサ39の検出した光合成有効光量子束密度は、制御室15内等に設けた光量制御装置40に入力される。
【0033】
光量制御装置40は、太陽光測定光量子センサ37と栽培用光量子センサ39の検出値に基づいて遺伝子組換えイネPの光環境を調整すべく巻取式反射装置34を駆動して反射材35による太陽光Sの透過又は遮蔽を行うと共に、インバータ装置32で照明器具31からの人工光の光量を制御するようになっている。
【0034】
この光量制御装置40に入力された太陽光測定光量子センサ37と栽培用光量子センサ39の検出値は、栽培管理装置42に入力され、栽培管理装置42が、遺伝子組換えイネPの光環境を判断し、遺伝子組換えイネPの生育に合わせた最適な光環境となるように光量制御装置40を介して巻取式反射装置34を制御すると共にインバータ装置32を制御するようになっている。
【0035】
栽培管理装置42には、日時データ、天候データ(月別、日別の気温と全天日射量)が記憶されると共に、生育に応じた気温や日射データ、栽培中の遺伝子組換えイネPの生育状況などが入力されるようになっており、遺伝子組換えイネPの生育時期に応じて最適な基準光量子束密度値、下限光量子束密度値が設定できるようになっている。また栽培管理装置42は、光量制御装置40から入力された太陽光測定光量子センサ37と栽培用光量子センサ39の検出値を経時的に積算して、生育中の遺伝子組換えイネPが受ける太陽光と人工光の光量を積算できるようになっている。
【0036】
栽培管理装置42は、遺伝子組換えイネPの生育時期に応じて最適な基準光量子束密度値と下限光量子束密度値を設定し、光量制御装置40に入力された太陽光測定光量子センサ37と栽培用光量子センサ39の検出値に基づいて、巻取式反射装置34による反射材35の透過・遮蔽と照明器具31による光量(補光量)を制御するようになっている。
【0037】
以下に、栽培管理装置42と光量制御装置40による光環境の調整について説明する。
【0038】
先ず植物にとって光環境は最も重要な要素の一つであり、緑色植物は光環境下で光合成を行い、光エネルギーを使って炭素同化を行うことで成長している。光環境が植物に及ぼす影響は大きく分けて2つに分類され、1つは、光合成速度(成長)に影響する光量、もう一つは発芽や開花、発根などの形態形成に影響する波長範囲の光質である。
【0039】
一般に稲作(一期作)は、3〜4月に苗作りと育苗、5月前後に田植え、6〜7月に出穂と開花及び結実、9月に収穫というサイクルとなり、これには温度と日射量とが密接に関連する。
【0040】
太陽からの日射の波長範囲は、約300〜2500nmで、波長380nm以下が紫外線、380〜780nmが可視光、780nm以上が赤外線である。植物の生育との関連では、波長域400〜700nmは光合成有効放射で光合成に関与し、700〜780nmは遠赤外放射で植物の発芽、開花、発根など、形態形成に関与する。
【0041】
そこで、太陽光を利用した遺伝子組換えイネPを栽培する上で、栽培室11内で利用できる全天日射量の予測と、必要な補光量(全天日射量)の関係を検討した。
【0042】
月別全天日射量:
国内の月別全天日射量は、図4に示したように気象庁の統計資料の1972〜2000年の29年間の平均値を利用した。ここで全天日射量とは、単位面積の水平面に入射する波長約300〜2500nmの太陽放射量であり、単位は、[MJ/m2]で表される。
【0043】
イネ栽培に必要な日射量は、PF−PJ試験で実績のあるPPFD(Photosynthetic Photon Flux Density;光合成有効光量子束密度)で、1000[μmolm-2-1]で、明期12時間がよいとされており、全天日射量からPPFDを換算した。
【0044】
栽培条件:栽培ベット面における光合成有効光量子束密度PPFD=1,000μmolm-2-1の条件で明期12時間
PPFDから全天日射量(瞬間値)Igrobalへの換算式:
PPFD[μmolm-2-1]=1.8988×Igrobal[Wm-2
全天日射量の瞬間値と積算値の関係
1W=1J/s
計算:
全天日射量(日積算値)=1,000μmolm-2-1/1.8988×3,600s/h×12h
=22.8MJ/m2
全天日射量(時間積算値)=1.9MJ/m2
【0045】
月別全天日射量とイネ栽培時の日射量の関係を図4に示した。
【0046】
図4は、1972〜2000年の那覇、札幌、東京の全天日射量を月別に月平均値とし、その月別の変化を1日当たりの全天日射量で示したものである。
【0047】
この図4では、PPFD=1000で、12時間明期の場合のイネ栽培は、22.8MJ/m2であり、12時間暗期を考慮すれば、3〜10月は、那覇〜札幌まで、全天日射量は、基本的には足りている。図4では、札幌の全天日射量より、東京の全天日射量が低い結果となっている。
【0048】
そこで、2009年の東京での季節が異なる4日間の全天日射量の時間変化を図5に示した。
【0049】
図5は、2009年の東京での季節が異なる3月、8月、9月、12月の平均値を示した4日間の全天日射量の時間変化を示したものである。
【0050】
この図5より、PPFD=1000で、12時間明期の時間積算の日射量は、1.9MJ/m2であり、8時〜16時までは、PPFD=1000を超える全天日射量となっている。
【0051】
しかし、遺伝子組換え植物工場では、図2、図3で説明したように、遺伝子拡散防止のために栽培室11と採光室12という二重構造が必要である。ここでは、外側にガラス採光室12、内側に太陽光を透過するガラス天井を有する栽培室11の二室から構成され、栽培室11内で利用できる太陽からの日射量は天空率により減少するため、図4、図5の全天日射量に補正を加える必要がある。
【0052】
そこで、栽培室11内で天空率50%と仮定した場合の天空率50%時の月別全天日射量を図6に示した。
【0053】
図6では、天空率50%として、図4の全天日射量に0.5を乗じたものである。
【0054】
また図7に、図5の全天日射量に0.5を乗じた全天日射量(日積算)の経時変化を示した。
【0055】
この東京の天空率50%の全天日射量では、PPFD=1000を超える全天日射量となる時間はなく、太陽光以外に人工光による補光が必要となることがわかる。
【0056】
ここで、天空率は、栽培用光量子センサ39の検出値を、太陽光測定光量子センサ37の検出値で除することで求めることができ、また栽培室11と採光室12のガラスが汚れた際に、これらセンサ37,39で求めた天空率で、その汚れ具合もわかる。
【0057】
PPFD=1000は、イネを人工光で栽培するときの基準光量子束密度値であるが、この基準光量子束密度値は、イネが、苗から出穂と開花及び結実まで一定ではなく、苗のうちは少なく、生育に従って、PPFD=1000が必要で、開花、結実では、PPFD=600程度でよいとされる。
【0058】
そこで栽培管理装置42は、遺伝子組換えイネPの生育に応じて適正な基準光量子束密度値と下限光量子束密度値を設定し、太陽光測定光量子センサ37で検出された光量子束密度が下限光量子束密度値より下回るときには、光量制御装置40に遮蔽指示を出力し、巻取式反射装置34を駆動して反射材35の反射部35rでガラス天井30、29を遮蔽するように制御すると共に照明器具31を点灯し、栽培用光量子センサ39の検出値から、栽培室11内の光量子束密度値が基準光量子束密度値以上となるように光量制御装置40を介してインバータ装置32の出力電圧を調整する。
【0059】
また栽培管理装置42は、太陽光測定光量子センサ37で検出された光量子束密度が下限光量子束密度値以上のときには、反射材35の透過部35sを栽培室11のガラス天井30、29に位置させ、太陽光Sを栽培室11内に取り込むようにし、栽培用光量子センサ39の検出値から、栽培室11内の光量子束密度値が、基準光量子束密度値以上のときは照明器具31を消灯し、基準光量子束密度値以下、下限光量子束密度値以上のときは、太陽光Sの不足分を照明器具31で補光量を制御する。この際、インバータ装置32の出力電圧を調整したり、点灯する照明器具31の点灯本数制御を同時に行うようにする。
【0060】
なお、詳細は省略するが、栽培管理装置42は、図1に示した空調機械室23E、23Wの空調機を制御し、栽培室11の温度環境を制御し、また栽培棚27に供給する養液の循環量も制御するように構成される。
【0061】
このように、太陽光測定光量子センサ37と栽培用光量子センサ39で光量子束密度を検出し、遺伝子組換えイネPの生育中に太陽光Sを栽培室11内に極力取り入れるようにすると共に不足分を照明器具31で補光することで、その消費電力を略半分に低減できる。
【0062】
よって、通常人工光で栽培して収穫される玄米は、1kg当たり約8万円のコストがかかるが、太陽光を併用することで1kg当たり約4万円のコストとすることが可能となる。
【0063】
また、栽培管理装置42は、日時データ、天候データ(月別、日別の気温と全天日射量)を記憶していると共に、生育に応じた気温や日射データ、栽培中の遺伝子組換えイネPの生育状況が入力されており、これらから、基準光量子束密度値と下限光量子束密度値を設定すると共にこれを基に生育中の遺伝子組換えイネPの光環境を制御するが、太陽光測定光量子センサ37と栽培用光量子センサ39の検出値を経時的に積算することで、生育中の遺伝子組換えイネPが受ける太陽光と人工光の光量を積算することが可能であり、これら積算した光量と遺伝子組換えイネPから収穫された玄米の収穫量の関係を求めて設定した基準光量子束密度値の設定値を評価することで、更に消費電力を低減できる基準光量子束密度値と下限光量子束密度値を求めることも可能となる。
【0064】
上述したようにイネの生育との関連では、波長域400〜700nmは光合成有効放射で光合成に関与し、太陽光Sの波長範囲と分光強度は、光合成に関与する400〜700nm帯に高い分光強度分布をもっている。
【0065】
照明器具31として使用するメタルハライドランプは、封入するハロゲン金属により分光強度分布が相違するが、400〜700nm帯に分光強度のピークをもつ、沃化ナトリウム、沃化スカンジウムなどを封入したものが好ましい。また、イネの開花、発根など、形態形成に関与する光は、700〜780nmの遠赤外放射であり、イネの開花時期にあわせて、照明器具31の光源として、700〜780nmの波長を放射するナトリウムランプ、ハロゲンランプ、LEDなどを用いて照射することで、より効率的な照明が行える。
【0066】
よって、栽培管理装置42は、照明器具31で光環境を調整する際に、遺伝子組換えイネPの生育に合わせて、種々の出力放射波長をもつ光源の照明器具31を選択して点灯することで、より効率の良い照明が行える。
【0067】
このように、本発明は、遺伝子組換えイネPの栽培に応じて最適な光環境、温度環境を調整することで、短期間での遺伝子組換えイネPの栽培が可能となり、年間で、3乃至4期作が可能となる。
【符号の説明】
【0068】
10 建屋
11 栽培室
12 採光室
31 照明器具
34 巻取式反射装置
37 太陽光測定光量子センサ
39 栽培用光量子センサ
40 光量制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋に採光室を形成すると共に採光室内に、光要求量が大きい遺伝子組換え植物を栽培する栽培室を形成し、太陽光を採光室を通して栽培室内に取り入れると共に栽培室に人工光を照射する照明器具を設けた遺伝子組換え植物工場において、上記栽培室の上方の採光室に設けられ、太陽光を栽培室内に透過又は遮蔽すべく移動自在な反射材を有し、遮蔽時に反射材で照明器具からの人工光を反射するための巻取式反射装置と、太陽光の光合成有効光量子束密度を検出する太陽光測定光量子センサと、上記栽培室に設けられ、遺伝子組換え植物に当たる光合成有効光量子束密度を検出する栽培用光量子センサと、これら光量子センサからの光合成有効光量子束密度の検出値が入力され、その検出値に基づいて遺伝子組換え植物の光環境を調整すべく上記巻取式反射材による太陽光の透過又は遮蔽を行うと共に、上記照明器具からの人工光の光量を制御する光量制御装置とを備えたことを特徴とする遺伝子組換え植物工場。
【請求項2】
巻取式反射装置は、栽培室に太陽光を透過する透過部とその透過部に連結され栽培室内への太陽光を遮蔽すると共に上記照明装置からの人工光を反射する反射部とからなる反射材と、天井の両側に設けられ上記反射材を交互に巻き取って太陽光を透過又は遮蔽する巻取ロールからなる請求項1に記載の遺伝子組換え植物工場。
【請求項3】
上記照明器具は、インバータ装置で光量可変に制御され、上記光量制御装置は、上記インバータ装置を介して上記照明器具の光量を制御する請求項1に記載の遺伝子組換え植物工場。
【請求項4】
上記光量制御装置は、太陽光測定光量子センサで検出された光合成有効光量子束密度が基準光量子束密度値を超えるとき巻取式反射装置を駆動して栽培室内に太陽光を透過し、上記照明器具を消灯する請求項1記載の遺伝子組換え植物工場。
【請求項5】
上記光量制御装置は、太陽光測定光量子センサで検出された光合成有効光量子束密度が基準光量子束密度値以下で、かつ下限光量子束密度値以上のとき、栽培室に太陽光を透過したまま、栽培用光量子センサで検出される光合成有効光量子束密度が基準光量子束密度値を超えるように上記照明器具での補光量を制御する請求項4記載の遺伝子組換え植物工場。
【請求項6】
上記光量制御装置は、太陽光測定光量子センサで検出された光合成有効光量子束密度が下限光量子束密度値を下回るとき巻取式反射装置を駆動して栽培室内への太陽光を遮蔽し、栽培用光量子センサで検出される光合成有効光量子束密度が、基準光量子束密度値を超えるように上記照明器具での照明量を制御する請求項1記載の遺伝子組換え植物工場。
【請求項7】
上記光量制御装置に入力された太陽光測定光量子センサと栽培用光量子センサの検出値は、栽培管理装置に入力され、その栽培管理装置に、遺伝子組換え植物の生育に応じた光環境の光量子束密度値が記憶され、上記栽培管理装置は、遺伝子組換え植物の生育時期に応じて基準光量子束密度値と下限光量子束密度値を設定し、その設定値を上記光量制御装置に出力すると共にこれに基づいて光量制御装置が光環境を制御する請求項1〜6のいずれかに記載の遺伝子組換え植物工場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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