説明

遺伝子融合を標的とする治療

本発明は、これに限定されないが、癌マーカーの標的化阻害を含む、癌治療のための組成物および方法に関する。具体的には、本発明は、前立腺癌の臨床標的としての再発性遺伝子融合に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年2月19日に出願された特許仮出願第61/306,262号に対する優先権を主張するものであり、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与されたCA069568、CA129565、CA132874、およびCA111275、ならびに米国陸軍医学研究司令部によって授与されたW81XWH−08−0110に基づいて連邦政府の支援のもとに実施された。連邦政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0002】
本発明は、これに限定されないが、癌マーカーの標的化阻害を含む、癌治療のための組成物および方法に関する。具体的には、本発明は、前立腺癌の臨床標的としての再発性遺伝子融合に関する。
【背景技術】
【0003】
癌の研究において中心となる目的は、原因として発癌に関与する変化した遺伝子を同定することである。塩基置換、挿入、欠失、転座、ならびに染色体の増加および消失を含む数種類の体細胞変異が同定されており、それらは全て、発癌遺伝子または腫瘍抑制遺伝子の活性に変化をもたらす。1900年代初期に最初の仮説が立てられ、現在では、癌における染色体再配列の因果的役割に関する有力な証拠が存在する(Rowley,Nat Rev Cancer 1:245(2001))。再発性染色体異常は、主に、白血病、リンパ腫、および肉腫の特徴であると考えられていた。遙かに一般的であり、ヒトの癌に関連する罹患率および死亡率の相対的に大部分に寄与する上皮腫瘍(癌腫)は、既知の疾患特異的染色体再配列の1%未満を占める(Mitelman,Mutat Res 462:247(2000))。血液学的悪性疾患は、平衡のとれた疾患特異的染色体再配列によって特徴付けられることが多いのに対し、ほとんどの固形腫瘍は、過多の非特異的染色体異常を有する。固形腫瘍の核型の複雑性は、癌の発生または進行を通じて獲得される二次的な変化によるものであると考えられる。
【0004】
染色体再配列の2つの主要な機構が説明されている。1つの機構において、1つの遺伝子のプロモーター/エンハンサー要素が、癌原遺伝子に隣接して再配列され、それによって発癌タンパク質の発現の変化が引き起こされる。この種類の転座は、免疫グロブリン(IG)およびT細胞受容体(TCR)遺伝子のMYCへの並置によって例示され、それぞれ、B細胞およびT細胞の悪性腫瘍においてこの発癌遺伝子の活性化をもたらす(Rabbitts, Nature 372:143(1994))。第2の機構において、再配列は、2つの遺伝子の融合をもたらし、それが、新しい機能または変化した活性を有し得る融合タンパク質を生成する。この転座の典型例は、慢性骨髄性白血病(CML)におけるBCR−ABL遺伝子融合である(Rowley,Nature 243:290(1973);de Klein et al.,Nature 300:765(1982))。重要なのは、この知見が、BCR−ABLキナーゼを良好に標的とするイマチニブメシレート(Gleevec)の合理的な開発を導いたということである(Deininger et al., Blood 105:2640(2005))。したがって、一般的な上皮腫瘍における再発性遺伝子再配列を標的とする治療が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、これに限定されないが、癌マーカーの標的化阻害を含む、癌治療のための組成物および方法に関する。具体的には、本発明は、前立腺癌の臨床標的としての再発性遺伝子融合に関する。
【0006】
例えば、いくつかの実施形態において、本発明は、細胞におけるERG遺伝子の発現を阻害する方法であって、該遺伝子をERGに対するsiRNA(例えば、例えば配列番号30〜41から選択されるsiRNA)に接触させることを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、細胞は、癌細胞(例えば、前立腺癌細胞)である。いくつかの実施形態において、細胞は、インビボである。いくつかの実施形態において、細胞は、動物(例えば、ヒト)内にある。いくつかの実施形態において、細胞は、エクスビボである。いくつかの実施形態において、ERG遺伝子は、TMPRSS2に融合する。
【0007】
さらなる実施形態において、本発明は、細胞におけるERG遺伝子の発現を阻害する薬学的組成物を含むキットであって、該組成物は、ERGに対するsiRNA(例えば、例えば配列番号30〜41から選択される配列を有するsiRNA)を含む、キットを提供する。
【0008】
他の実施形態において、本発明は、アンチセンス、shRNA、miRNA、平滑末端を含むsiRNA、オーバーハング、およびmiRNA療法、ならびにそれらの使用のための方法を含む、細胞におけるERG遺伝子の発現を阻害する方法および組成物を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態において、本発明は、ETSファミリーメンバー遺伝子(例えば、ERG)のETSドメインに結合するペプチドを含む組成物を提供する。いくつかの実施形態において、ペプチドは、ペプチド配列RALRYYYDK(配列番号1)を含むETSドメインの領域に結合する。いくつかの実施形態において、ペプチドは、ERGのR367を含むETSドメインの領域(例えば、ERGのアミノ酸R367〜K375)に結合する。いくつかの実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列LSFGSLP(配列番号2)、FTFGTFP(配列番号44)、またはLPPYLFT(配列番号45)を含む。
【0010】
本発明の実施形態は、細胞においてETSファミリーメンバー遺伝子産物の少なくとも1つの生物学的活性(例えば、浸潤)を阻害するためにペプチドを使用する方法であって、該細胞をETSファミリーメンバーのETSドメインに結合するペプチドに接触させることを含む方法をさらに提供する。いくつかの実施形態において、細胞は、癌細胞(例えば、前立腺癌細胞)である。いくつかの実施形態において、細胞は、インビボ(例えば、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物等の動物内)である。他の実施形態において、細胞は、エクスビボまたはインビトロである。いくつかの実施形態において、ETSファミリーメンバー遺伝子(例えば、ERG)は、アンドロゲン制御遺伝子(例えば、TMPRSS2)に融合する。
【0011】
さらなる実施形態を本明細書に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】前立腺癌におけるAR結合のゲノムランドスケープを示す。(A)ChIP−Seqによる代表的な染色体上のAR結合ピーク(B)KLK3エンハンサー上のAR結合のChIP−Seq読み取り値を示すプロット。(C)LNCaPおよびVCaP細胞由来のAR結合ゲノム領域の重複を表すベン図(D)AR結合部位(ARBS)から最も近い遺伝子の転写開始部位(TSS)までの距離。(E)AR結合ピークの高さは、AREモチーフを含む配列の割合(%ARE)およびピーク領域当たりのAREの平均数(#ARE)と正に関連している。(F)AR結合ピークの高さは、アンドロゲン応答性と関連している(4時間:r=0.72および16時間:r=0.68)。(G)ChIP−Seqによって同定されたAR結合領域に存在するコンセンサスモチーフ
【図2】前立腺癌の5’融合パートナー上のAR結合と、そのアンドロゲン媒介性遺伝子発現との相関を示す。(A〜E)前立腺癌において以前に特徴付けられた5’融合パートナーの制御領域におけるAR結合ピーク。プロットは、図1Bに示される通りである。Y軸上は、VCaP(左)およびLNCaP(右)における各25bpスライドウィンドウにおける読み取りの数である。挿入図は、3日間ホルモンを枯渇させ、エタノール(E)またはR1881(R)で16時間処理したLNCaP細胞内の標的遺伝子に関する、従来のChIP−PCRによるAR結合の検証を表す(インプットの割合として測定)。(E)のプロットの下は、アンドロゲン非感受性ハウスキーピング遺伝子HNRPA2B1に対応する領域でPolIIおよびH3K4me3が濃縮されたChIP‐Seqピークである。(F)アンドロゲン制御遺伝子の発現とAR結合との相関。上のパネル:LNCaP前立腺癌細胞において、アンドロゲン刺激の4時間後および16時間後に0時間に対してt統計値によってランク付けされた、アンドロゲンによって誘導されるかまたは抑制される遺伝子。下のパネル:(4時間)および(16時間)の曲線は、その遺伝子内領域内またはそれらのTSSの50kb上流に少なくとも1つのChIP−SeqによるAR結合部位を有する差次的に発現される遺伝子の分画についての500個の遺伝子の移動平均を表す。(G)少なくとも1つのAR結合部位を含む、アンドロゲンによって誘導されるかまたは抑制される遺伝子の割合。
【図3】前立腺癌細胞におけるERG結合のゲノムランドスケープを示す。(A)VCaPのAR結合遺伝子が濃縮された分子概念のネットワーク図。各ノードは、分子概念または遺伝子セットを表し、ノードの大きさは、各概念内の遺伝子数に比例する。(B)VCaP細胞において以前に報告されたERG標的上のERG結合の例。(C)最も近いTSSに対するARまたはERG結合部位の分布。(D)VCaP細胞内で同定された内因性ERG結合部位と、安定したERG過剰発現を示すRWPE+ERG細胞に見られる異所性ERG結合部位との重複を示すベン図。
【図4】ERG媒介性経路とAR媒介性経路との分子クロストークを示す。(A)LNCaPのAR、VCaPのAR、VCaPのERG、VCaPのH3K4me3、およびVCaPのPolII結合領域の重複。超幾何学的テストによるP<0.05、**P<0.01、および***P<0.001。(B)VCaP細胞内でARおよびERGによって共占有される遺伝子の代表的な例。プロットは図1Bに示す通りであるが、Y軸は、AR結合(左)およびERG結合(右)のChIP−Seq読み取りの数を表す。(C)4Bに示される遺伝子のリスト上でのARおよびERGの共占有のChIP−PCRによる確認。左側のY軸は、3日間ホルモンを枯渇させたエタノール(E)処理済VCaP細胞と比較した、R1881(R)処理済VCaP細胞における標的遺伝子のARのChIPによる濃縮を表す。
【図5】TMPRSS2−ERG、野生型ERG、およびARを接続するフィードバックループを示す。(A)ChIP−Seq解析によりERGがARの制御領域に結合する。A、E、およびIのプロットは図1Bに示す通りであるが、Yスケールは、示されるように、VCaP細胞におけるARまたはERG結合のChIP−Seq読み取りの数である。(B)従来のChIP−PCRによるARの制御領域へのERG結合の確認。(C)VCaP細胞における異所性ERGの過剰発現は、AR mRNAを抑制する。(D)VCaP細胞における異所性ERGの過剰発現は、ARタンパク質レベルを阻害する。(E)ChIP−Seq解析によりARがARの制御領域に結合する。(F)従来のChIP−PCRによるARの制御領域へのAR結合の確認。(G)合成アンドロゲンR1881は、VCaP細胞におけるAR mRNAの発現を阻害する。(H)R1881は、VCaP細胞におけるARタンパク質の発現を阻害する。(I)ChIP−Seq解析によりERGが野生型ERGの制御領域に結合する。(J)従来のChIP−PCRによる野生型ERGの制御領域へのERG結合の確認。エラーバー:n=3、平均±SEM、P<0.01。(K)前立腺癌に頻繁に見られる融合産物である切断型ERG(エクソン2〜12)の異所性発現は、野生型ERGの発現を誘導するが、TMPRSS2−ERGおよび全ERGの発現は誘導しない。(L)TMPRSS2−ERGの特異的RNA干渉は、野生型ERGの抑制をもたらす。(M)野生型ERGは、ETS遺伝子融合を発現するヒト前立腺癌のサブセットにおいて誘導される。
【図6】ヒト前立腺癌組織におけるゲノムワイドなERGおよびARの共局在化の確認を示す。(A)代表的なヒト前立腺癌組織のERGおよびARのChIP−Seq解析。(B)ARまたはERG結合ゲノム領域と、活性クロマチンおよび遺伝子発現と関連するヒストンマークであるH3K4me3が濃縮された領域との重複を示すベン図。(C)前立腺癌組織においてARおよびERGによって共占有される遺伝子の代表的な例。プロットは図1Bに示す通りであるが、Y軸は、組織におけるARおよびERGの結合を示し、ChIP−Seqプロットの下に染色体の位置に対する縮尺で示された概略的遺伝子構造を示す。(D)ChIP−PCRによるTMPRSS2およびARのエンハンサー上のAR占有の確認。(E)ChIP−PCRによるARおよび野生型ERGの制御領域上のERG占有の確認。(F)転移性前立腺癌組織中のERG結合遺伝子(組織−ERG)が濃縮された分子概念のネットワーク図。
【図7】異所性ERGの発現が、アンドロゲンの非存在下でアンドロゲン感受性前立腺癌細胞の腫瘍特性を維持することを示す。(A)結合したDNAによって媒介される間接的なARおよびERGの相互作用。VCaP (B)異所性ERGの過剰発現は、アンドロゲンの非存在下においてVCaP細胞の増殖を誘導する。(C)異所性ERGの過剰発現は、ホルモンを枯渇させたVCaP細胞におけるアンドロゲン媒介性の細胞浸潤を一部補助する。(D)アンドロゲン誘導性およびERG媒介性の遺伝子発現パターンの著しい重複(P<0.001)。(E)前立腺癌細胞における異所性ERGの過剰発現は、細胞増殖を増大させる。(F)異所性ERGの過剰発現は、アンドロゲン非依存性細胞増殖をもたらす。(G)ヒト前立腺腫瘍における相互接続された転写制御回路の概念モデル。
【図8】ChIP−Seqの技術的および生物学的再現性を示す。(A)同じChIP−Seq試料の技術的複製間の再現性(黒い上向きのピーク対赤い下向きのピーク)(b)ChIP−Seq解析による別個のChIPおよび試料調製物に由来する2つの生物学的試料間の再現性。
【図9】FKBP5エンハンサー上のARのChIP−Seq結合ピークを示す。
【図10】ヒト、マウス、および別の15の脊椎動物のゲノム間の転写因子結合部位の保存を示す。
【図11】上位AR結合遺伝子の前立腺組織特異性を示す。
【図12】VCaPにおける差次的発現とAR結合との相関を示す。(A)上のパネル: LNCaP前立腺癌細胞株において、4時間後および16時間後に0時間に対してt統計値によってランク付けされた、アンドロゲンによって上方制御または下方制御された遺伝子。下のパネル: (4時間)および(16時間)の曲線は、VCaP細胞の転写開始部位の50kb上流内または遺伝子内領域内にAR結合部位を含む遺伝子の分画についての500個の遺伝子の移動平均を表す。(B)ChIPseqによって同定されるように、VCaP内に少なくとも1つのAR結合部位を含むLNCaPにおいて、0時間に対してアンドロゲン処理の4時間後または16時間後にアンドロゲンによって上方制御または下方制御された遺伝子の割合(右のパネルに示される)。
【図13】AR結合遺伝子のインビボ遺伝子発現との関連性を示す。AR結合遺伝子は、アンドロゲン応答性(A)、前立腺癌のグレード(B〜C)、およびERGの状態(C〜D)と関連する。
【図14】ERGによって誘導される差次的発現とERG結合との相関を示す。(A)上のパネル: RWPE良性前立腺上皮細胞においてt統計値によってランク付けされた、ERGの過剰発現によって上方制御または下方制御された遺伝子。下のパネル: 赤い線は、VCaP細胞の転写開始部位の50kb上流内または遺伝子内領域内にERG結合部位を含む遺伝子の分画についての500個の遺伝子の移動平均を表す。(B) ChIPseqによって同定されるように、VCaPに少なくとも1つのERG結合部位を含むRWPEにおけるERGの過剰発現によって上方制御または下方制御された遺伝子の割合。
【図15】VCaPのERG結合遺伝子が濃縮された分子概念のネットワーク図を示す。ChIP−SeqによりVCaP細胞内のERG結合遺伝子をピークの高さに基づいてランク付けし、上位3000個の遺伝子を分子シグネチャーまたはMCMに示される遺伝子セットにおける不均衡な濃縮について分析した。
【図16】ERGの発現が、ARの発現レベルを負に制御することを示す。(A)VCaP細胞をアデノウイルスERGまたはlacZ対照に感染させた。lacZまたはERGに感染させた細胞内におけるERGおよびARのレベルを測定するためにQRTPCRを行った。(B)VCaP細胞を、ERGに対するsiRNA2本鎖(siERG)または対照siRNAでトランスフェクトした。ERGおよびARのレベルを測定するためにQRT−PCRを行った。(C)RWPE良性前立腺上皮細胞をアデノウイルスERGまたはlacZ対照に感染させた。QRT−PCR。
【図17】合成アンドロゲンR1881の経時的処理後のAR転写物の抑制を示す。
【図18】一次融合ERG産物の過剰発現が、LNCaPおよびPREC細胞において野生型ERGの発現を上方制御することを示す。
【図19】アンドロゲン処理経過後のERG変異体の発現解析を示す。
【図20】種々のERG変異体のRNA干渉により浸潤が減少されたことを示す。各ERG変異体に特異的なRNA干渉をVCaP細胞において行った。(A)浸潤アッセイは、Modified Boyden Chamber Assayを用いて行った。(B)浸潤された細胞の写真を示す。
【図21】転移性前立腺癌組織のChIP−Seq解析によって、KLK3およびTMPRSS2遺伝子の以前に報告されたエンハンサーにおけるAR結合が明らかになったことを示す。
【図22】WST細胞増殖アッセイによって判定されるように、ERG過剰発現が、ホルモンを枯渇させた前立腺癌細胞の増殖を誘導することを示す。
【図23】ERG過剰発現が、ホルモンを枯渇させたLNCaPおよびVCaP前立腺癌細胞の細胞浸潤を補助することを示す。
【図24】ホルモンを枯渇させた(A)VCaPおよび(B)LNCaP前立腺癌細胞におけるERG過剰発現が、アンドロゲン誘導性の細胞浸潤を一部補助することを示す。
【図25】(A)〜(D)ERGおよびTMPRSS2−ERGのsiRNAによる阻害を示す。
【図26】DQ204772(TMPRSS2:ERG融合)の配列を示す。
【図27】a)ファージELISAによる代表的なファージクローンのERGタンパク質への特異的結合と、b)濃縮されたファージクローンのコンセンサスペプチド配列を示す。
【図28】a)HaloLink ArrayによるERGにおける結合ドメインのマッピングと、b)ERG上の相互作用する部位のマッピングを示す。
【図29】ETSドメインにおけるファージペプチド結合部位のマッピングを示す。
【図30】LSFGSLPペプチドによるAR−ETS相互作用の阻害を示す(ランダムペプチドは阻害しなかった)。
【図31】合成ペプチドが、ERGアデノウイルスでトランスフェクトしたRWPE細胞のERG媒介性浸潤を阻止したことを示す。
【図32】(A)エタノールまたはDHT(100nM)で60分間刺激した際にLNCaP細胞において誘導されたTMPRSS2とERGとの間の近接のFISHに基づく評価である。(B)TMPRSS2とERGとの間に誘導された近接は、DU145およびLNCaP細胞の共局在化シグナルを示す核の割合として定量化され、表される。
【図33】(A)キメラ領域および内因性ERGに及ぶ複数のプライマーを用いたTMPRSS2−ERG融合転写物のQRT−PCR解析(挿入図を参照)。(B)TMPRSS2の第1のエクソンおよびERGの第6のエクソンに及ぶプライマーを用いた、代表的なクローンのゲルベースのRT−PCR解析。(C)遺伝子再配列を評価するために、ERG座位の5’(RP11−95I21)および3’(RP11−476D17)領域に及ぶBACプローブを用いたFISHを示す。ERGの再配列を表すスプリットシグナルを矢印で強調する。(D)アンドロゲンによって誘導される染色体の近接および遺伝子融合の発生のモデル。
【図34】前立腺癌におけるAR結合のゲノムランドスケープを示す。(A)ChIP−Seqによる代表的な染色体上のAR結合ピーク。(B) KLK3エンハンサー上のAR結合のChIP−Seq読み取り値を示すプロット。
【図35】ChIA−PET法の概略図を示す。
【図36】LNCaP細胞の遺伝子工学のためのストラテジーを示す。(A)TMPRSS2−ERG遺伝子融合の概略図。(B)遺伝子融合を検出するためのルシフェラーゼ系の概略図。(C) 遺伝子融合を検出するためのスプリットルシフェラーゼ系の概略図。
【図37】ERG内の相互作用する残基を示す。
【図38】SPRにより、例示的ペプチドのERGに対する結合親和性を示す。
【図39】TATペプチドは、VCaPの浸潤を阻害するが、DU145およびPC3においては阻害しないことを示す。
【図40】本発明の実施形態のTATペプチドが、VCaP増殖を阻害することを示す。
【図41】遺伝子発現がERGによって制御されることを示す。
【図42】本発明の実施形態のTATペプチドがVCaPにおけるDNA損傷を阻害することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
本発明を理解しやすくするために、いくつかの用語および表現を以下の通り定義する。
【0014】
本明細書において使用される場合、「遺伝子融合の少なくとも1つの生物学的活性を阻害する」という用語は、遺伝子融合タンパク質に直接接触するか、遺伝子融合mRNAもしくはゲノムDNAに接触するか、遺伝子融合ポリペプチドの立体構造的変化を引き起こすか、遺伝子融合タンパク質レベルを低下させるか、またはシグナルパートナーとの遺伝子融合の相互作用に干渉して、遺伝子融合の標的遺伝子の発現に影響を及ぼすことによって、遺伝子融合のあらゆる活性(例えば、これに限定されないが、本明細書に記載される活性を含む)を低下させる任意の薬剤を指す。また、阻害剤は、上流シグナル分子を妨害することによって遺伝子融合の生物学的活性を間接的に制御する分子も含む。
いくつかの実施形態において、遺伝子融合は、ETSファミリーメンバー遺伝子を含む。
【0015】
本明細書において使用される場合、「ETSファミリーメンバー遺伝子の少なくとも1つの生物学的活性を阻害する」という用語は、ETSファミリーメンバーのタンパク質に直接接触するか、ETSファミリーメンバーのmRNAもしくはゲノムDNAに接触するか、ETSファミリーメンバーのポリペプチドの立体構造的変化を引き起こすか、ETSファミリーメンバーのタンパク質レベルを低下させるか、またはETSファミリーメンバーのシグナルパートナーとの相互作用に干渉して、ETSファミリーメンバーの標的遺伝子の発現に影響を及ぼすことによって、ETSファミリーメンバー遺伝子(例えばERG)のあらゆる活性(例えば、これらに限定されないが、ETSファミリーメンバー遺伝子を発現する細胞の浸潤、および本明細書に記載される他の活性を含む)を低下させる任意の薬剤を指す。また、阻害剤は、上流シグナル分子を妨害することによってETSファミリーメンバーの生物学的活性を間接的に制御する分子も含む。
【0016】
本明細書において使用される場合、「遺伝子融合」という用語は、第1の遺伝子の少なくとも一部の第2の遺伝子の少なくとも一部への融合から生じるキメラゲノムDNA、キメラメッセンジャーRNA、切断されたタンパク質、またはキメラタンパク質を指す。遺伝子融合は、遺伝子全体または遺伝子のエクソンを含む必要はない。
【0017】
本明細書において使用される場合、「検出する」、「検出している」、または「検出」という用語は、発見もしくは識別するという一般的な行動、または検出可能に標識された組成物の特定な観察のいずれかを説明し得る。
【0018】
本明細書において使用される場合、「アンドロゲン制御遺伝子」という用語は、その発現がアンドロゲン(例えば、テストステロン)によって誘導または抑制される遺伝子または遺伝子の一部を指す。アンドロゲン制御遺伝子のプロモーター領域は、アンドロゲンまたはアンドロゲンシグナル分子(例えば、下流シグナル分子)と相互作用する「アンドロゲン応答配列」を含み得る。
【0019】
本明細書において使用される場合、「siRNA」という用語は、低分子干渉RNAを指す。いくつかの実施形態において、siRNAは、約18〜25ヌクレオチド長の2本鎖または2本鎖領域を含む:siRNAは、各鎖の3´末端に約2〜4個の不対ヌクレオチドを含むことが多い。siRNAの2本鎖または2本鎖領域のうちの少なくとも1つの鎖は、標的RNA分子に実質的に相同であるか、または実質的に相補的である。標的RNA分子に相補的な鎖は「アンチセンス鎖」であり、標的RNA分子に相同な鎖は「センス」鎖であり、siRNAアンチセンス鎖に対しても相補的である。siRNAは、さらなる配列を含んでもよく、そのような配列の非限定的な例として、連結配列またはループ、ならびにステムおよび他の折り畳み構造が挙げられる。siRNAは、無脊椎動物および脊椎動物にRNA干渉を引き起こす際、および植物において転写後の遺伝子サイレンシングの間に配列特異的なRNAの分解を引き起こす際に、重要な中間体として機能すると考えられる。
【0020】
「RNA干渉」または「RNAi」という用語は、siRNAによる遺伝子発現のサイレンシングまたは減少を指す。これは、その2本鎖領域内で、サイレンシングされる遺伝子の配列に相同なsiRNAによって開始される、動物および植物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングのプロセスである。遺伝子は、その生物に内因性または外来性であり得、染色体に組み込まれて存在するか、またはゲノムに組み込まれていないトランスフェクションベクター中に存在してもよい。遺伝子の発現は、完全にまたは一部阻害される。また、RNAiは、標的RNAの機能を阻害するとも考えられ得、標的RNAの機能は、完全または部分的であり得る。
【0021】
本明細書において使用される場合、「癌の段階」という用語は、癌の進行のレベルの定性的または定量的な評価を指す。癌の段階を判定するために用いられる基準は、これらに限定されないが、腫瘍のサイズおよび転移の程度(例えば、局在または遠隔)を含む。
【0022】
本明細書において使用される場合、「遺伝子導入システム」という用語は、核酸配列を含む組成物を細胞または組織に送達する任意の手段を指す。例えば、遺伝子導入システムは、これらに限定されないが、ベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、および他の核酸ベースの送達システム)、裸の核酸の微量注入、ポリマーベースの送達システム(例えば、リポソームベースおよび金属粒子ベースのシステム)、バイオリスティック注入等を含む。本明細書において使用される場合、「ウイルス遺伝子導入システム」という用語は、所望の細胞または組織への試料の送達を促進するためのウイルス要素(例えば、無傷のウイルス、変化したウイルス、および核酸またはタンパク質等のウイルス成分)を含む遺伝子導入システムを指す。本明細書において使用される場合、「アデノウイルス遺伝子導入システム」という用語は、アデノウイルス科に属する無傷のウイルスまたは変化したウイルスを含む遺伝子導入システムを指す。
【0023】
本明細書において使用される場合、「核酸分子」という用語は、これに限定されないが、DNAまたはRNAを含む、任意の核酸含有分子を指す。この用語は、これらに限定されないが、4−アセチルシトシン、8−ヒドロキシ−N6−メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5−(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウラシル、5−カルボキシメチル‐アミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルアデニン、1−メチルシュードウラシル、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−メチルアデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルキューオシン、5´−メトキシカルボニルメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸、オキシブトキソシン、シュードウラシル、キューオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、N−ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸、シュードウラシル、キューオシン、2−チオシトシン、および2,6−ジアミノプリンを含む、DNAおよびRNAの既知の塩基類似体の全てを包含する。
【0024】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド、前駆体、またはRNA(例えば、rRNA、tRNA)の生成に必要なコード配列を含む核酸(例えば、DNA)配列を指す。全長または断片の所望の活性または機能特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達、免疫原性等)が保持される限り、ポリペプチドは、全長コード配列、またはコード配列の任意の部分によってコード化することができる。また、この用語は、構造遺伝子のコード領域、ならびに、遺伝子が全長mRNAの長さに対応するように、いずれかの末端に約1kb以上の距離で5´および3´末端の両方のコード領域に隣接して位置する配列も包含する。コード領域の5´に位置し、かつmRNA上に存在する配列は、5´非翻訳配列と称される。コード領域の3´または下流に位置し、かつmRNA上に存在する配列は、3´非翻訳配列と称される。「遺伝子」という用語は、遺伝子のcDNAおよびゲノム形態の両方を包含する。遺伝子のゲノム形態またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と称される非コード配列によって分断されるコード領域を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントであり、イントロンは、エンハンサー等の制御要素を含み得る。イントロンは、核転写物または一次転写物から除去されるか、または「スプライシングで切り出され」、したがって、メッセンジャーRNA(mRNA)転写物には含まれない。mRNAは、翻訳の間に、新生ポリペプチドにおけるアミノ酸の配列または順序を特定するよう機能する。
【0025】
本明細書において使用される場合、「異種遺伝子」という用語は、天然の環境には存在しない遺伝子を指す。例えば、異種遺伝子は、ある種から別の種に導入された遺伝子を含む。また、異種遺伝子は、なんらかの方法(例えば、変異、複数のコピーへの付加、変性制御配列への結合等)で変化した生物に生来存在する遺伝子も含む。異種遺伝子配列は、典型的には、染色体中の遺伝子配列とともに天然には見られないか、または天然には見られない染色体の一部とともにDNA配列に連結されている(例えば、通常は遺伝子が発現されない座位に発現される遺伝子)という点で、異種遺伝子は内因性遺伝子と区別される。
【0026】
本明細書において使用される場合、「オリゴヌクレオチド」という用語は、1本鎖ポリヌクレオチド鎖の長さの短いものを指す。オリゴヌクレオチドは、典型的には200残基長未満(例えば、15〜100)であるが、本明細書において使用される場合、この用語は、より長いポリヌクレオチド鎖を包含することも意図する。オリゴヌクレオチドは、その長さで称されることが多い。例えば、24残基のオリゴヌクレオチドは、「24塩基長」と称される。オリゴヌクレオチドは、自己ハイブリダイズすることによって、または他のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることによって、2次および3次構造を形成することができる。そのような構造は、これらに限定されないが、2本鎖、ヘアピン、十字型、屈曲型、および3本鎖を含むことができる。
【0027】
本明細書において使用される場合、「相補的」または「相補性」という用語は、塩基対合規則によって関連付けられるポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチドの配列)に言及して使用される。例えば、配列「5’−A−G−T−3’」は、配列「3’−T−C−A−5’」に相補的である。相補性は「部分的」であってもよく、その場合、核酸の塩基の一部のみが塩基対合規則に従ってマッチする。または、核酸間には「完全」または「全」相補性が存在してもよい。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に著しい影響を有する。このことは、増幅反応、および核酸間の結合に依存する検出方法において、特に重要である。
【0028】
「相同性」という用語は、相補性の程度を指す。部分相同性および完全相同性(すなわち同一性)が存在し得る。部分的に相補的な配列は、完全に相補的な核酸分子が「実質的に相同」である標的核酸にハイブリダイズするのを少なくとも一部阻害する核酸分子である。完全に相補的な配列の標的配列へのハイブリダイゼーションを阻害することは、低ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションアッセイ(サザンまたはノーザンブロット法、溶液ハイブリダイゼーション等)を用いて調べることができる。実質的に相同である配列またはプローブは、低ストリンジェンシー条件下における完全に相同な核酸分子の標的への結合(すなわち、ハイブリダイゼーション)と競合しかつそれを阻害する。これは、低ストリンジェンシー条件が非特異的結合を可能にするような条件であることを意味するものではない:低ストリンジェンシー条件は、2つの配列の互いへの結合が特定の(すなわち選択的な)相互作用であることを必要とする。非特異的結合が存在しないことは、実質的に非相補的(例えば、同一性が約30%未満)である第2の標的の使用によって検査することができ、非特異的結合が存在しない場合、プローブは、第2の非相補的な標的にハイブリダイズしない。
【0029】
cDNAまたはゲノムクローン等の2本鎖核酸配列に言及して使用される場合、「実質的に相同である」という用語は、上述のような低ストリンジェンシー条件下で2本鎖核酸配列の一方または両方の鎖にハイブリダイズできる任意のプローブを指す。
【0030】
遺伝子は、一次RNA転写物の差次的スプライシングによって生成される複数のRNA種を生成し得る。同じ遺伝子のスプライス変異体であるcDNAは、配列同一性または完全相同性の領域(同じエクソンまたは両cDNA上の同一エクソンの一部の存在を表す)および完全非同一性の領域(例えば、cDNA1上にエクソン「A」の存在を示し、代わりにcDNA2はエクソン「B」を含む)を有する。2つのcDNAが配列同一性の領域を含むため、これらはどちらも、遺伝子全体または両方のcDNAに見られる配列を含む遺伝子の一部に由来するプローブにハイブリダイズする:2つのスプライス変異体は、このようなプローブに対しておよび互いに実質的に相同である。
【0031】
1本鎖核酸配列に言及して使用される場合、「実質的に相同である」という用語は、上述のような低ストリンジェンシー条件下で1本鎖核酸配列とハイブリダイズできる(すなわち、その補体である)任意のプローブを指す。
【0032】
本明細書において使用される場合、「ハイブリダイゼーション」という用語は、相補的な核酸の対合に言及して用いられる。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強度(すなわち核酸間の会合の強度)は、核酸間の相補性の程度、関連条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドのTm、および核酸内のG:C比等の要因によって影響を受ける。その構造内に相補的な核酸の対を含む単一分子は、「自己ハイブリダイズ」していると言われる。
【0033】
本明細書において使用される場合、「ストリンジェンシー」という用語は、核酸ハイブリダイゼーションが行われる温度、イオン強度、および有機溶媒等の他の化合物の存在といった条件に言及して使用される。「低ストリンジェンシー条件」下において、対象とする核酸配列は、その完全な補体、単一の塩基ミスマッチを有する配列、密接に関連する配列(例えば、90%以上の相同性を有する配列)、および部分的な相同性のみを有する配列(例えば、50〜90%の相同性を有する配列)とハイブリダイズする。「中程度のストリンジェンシー条件」下において、対象とする核酸配列は、その完全な補体、単一の塩基ミスマッチを有する配列、および密接に関連する配列(例えば、90%以上の相同性)とのみハイブリダイズする。「高ストリンジェンシー条件」下において、対象とする核酸配列は、その完全な補体、および(温度等の条件に依存して)単一の塩基ミスマッチを有する配列とのみハイブリダイズする。換言すると、高ストリンジェンシーの条件下では、単一の塩基ミスマッチを有する配列とのハイブリダイゼーションを排除するために温度を上昇させることができる。
【0034】
核酸ハイブリダイゼーションに言及して使用される場合の「高ストリンジェンシー条件」は、5×SSPE(43.8g/LのNaCl、6.9g/LのNaHPOO、および1.85g/LのEDTA、NaOHを用いてpHを7.4に調整)、0.5%SDS、5×デンハート試薬、および100μg/mLの変性サケ精子DNAから構成される溶液中、42℃で結合またはハイブリダイズさせ、次いで、約500ヌクレオチド長のプローブを用いる場合は、42℃で0.1×SSPE、1.0%SDSを含む溶液中で洗浄するのと同等の条件を含む。
【0035】
核酸ハイブリダイゼーションに言及して使用される場合の「中程度のストリンジェンシー条件」は、5×SSPE(43.8g/LのNaCl、6.9g/LのNaHPOO、および1.85g/LのEDTA、NaOHを用いてpHを7.4に調整)、0.5%SDS、5×デンハート試薬、および100μg/mLの変性サケ精子DNAから構成される溶液中、42℃で結合またはハイブリダイズさせ、ついで、約500ヌクレオチド長のプローブを用いる場合は、42℃で1.0×SSPE、1.0%SDSを含む溶液中で洗浄するのと同等の条件を含む。
【0036】
「低ストリンジェンシー条件」は、5×SSPE(43.8g/LのNaCl、6.9g/LのNaHPOO、および1.85g/1EDTA、NaOHを用いてpHを7.4に調整)、0.1%SDS、5×デンハート試薬[50×デンハート液は、500mL当たり、5gのFicoll(400型;Pharamcia)、5gのBSA(Fraction V;Sigma)を含む]、および100μg/mLの変性サケ精子DNAから構成される溶液中、42℃で結合またはハイブリダイズさせ、次いで、約500ヌクレオチド長のプローブを用いる場合は、42℃で5×SSPE、0.1%SDSを含む溶液中で洗浄するのと同等の条件を含む。
【0037】
当該技術分野において、低ストリンジェンシー条件を含むように数多くの同等の条件が用いられてもよいことは周知であり、プローブの長さおよび性質(DNA、RNA、塩基組成)、標的の性質(溶液中に存在または固定化されたDNA、RNA、塩基組成等)、ならびに塩および他の成分の濃度(例えば、ホルムアミド、デキストラン硫酸、ポリエチレングリコールの存在または非存在)等の要因が考慮され、ハイブリダイゼーション溶液は、上述の条件とは異なるが同等である低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションの条件を作成するために異なってもよい。また、当該技術分野において、高ストリンジェンシー条件(例えば、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄ステップの温度を上昇させること、ハイブリダイゼーション溶液中でのホルムアミドの使用等)下でハイブリダイゼーションを促進する条件は既知である(「ストリンジェンシー」については上記定義を参照のこと)。
【0038】
「単離されたオリゴヌクレオチド」または「単離されたポリヌクレオチド」のように、核酸に関連して使用される場合の「単離された」という用語は、同定された、通常、その天然の源に関連する少なくとも1つの成分または混入物から分離された核酸配列を指す。単離された核酸は、天然に見られるものとは異なる形態または設定で存在する核酸である。対照的に、DNAおよびRNA等の核酸のように単離されていない核酸は、天然に存在する状態で見出される。例えば、所与のDNA配列(例えば、遺伝子)は、隣接する遺伝子に近接する宿主細胞染色体上に見られ、特定のタンパク質をコードする特定のmRNA配列等のRNA配列は、多くのタンパク質をコードする多数の他のmRNAとの混合物として細胞内に見られる。しかしながら、所与のタンパク質をコードする単離された核酸は、例として、核酸が天然の細胞とは異なる染色体の位置にある場合、または自然に見られるものとは異なる核酸配列が隣接する場合に所与のタンパク質を通常通り発現する細胞内の核酸を含む。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドは、1本鎖または2本鎖の形態で存在し得る。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドがタンパク質を発現させるために用いられる場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、最低でもセンス鎖またはコード鎖を有するが(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは1本鎖であってもよい)、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含んでもよい(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは2本鎖であってもよい)。
【0039】
本明細書において使用される場合、「精製された」または「精製する」という用語は、試料から成分(例えば、混入物)を除去することを指す。例えば、抗体は、混入する非免疫グロブリンタンパク質の除去によって精製され、また、それらは、標的分子に結合しない免疫グロブリンの除去によっても精製される。非免疫グロブリンタンパク質の除去および/または標的分子に結合しない免疫グロブリンの除去によって、試料中の標的反応性免疫グロブリンの増加がもたらされる。別の例において、組換えポリペプチドが細菌宿主細胞中に発現され、ポリペプチドは宿主細胞タンパク質の除去によって精製され、それによって、試料中の組換えポリペプチドの割合が増加する。
【0040】
本発明は、これに限定されないが、癌マーカーの標的化阻害を含む、癌治療のための組成物および方法に関する。具体的には、本発明は、前立腺癌の臨床標的としての再発性遺伝子融合に関する。
【0041】
いくつかの実施形態において、本発明は、遺伝子融合を標的とする治療薬(例えば、核酸ベースの治療薬または小分子治療薬)を提供する。遺伝子融合は、例えば、米国特許出願第11/825,552号および米国特許公開第2007−0212702号に記載され、それらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態において、治療薬は、TMPRSS2:ERG遺伝子融合を標的とする。本発明は、特定の機構に限定されるものではない。実際、機構を理解することは、本発明を実施するために必ずしも必要ではない。それにもかかわらず、癌細胞においてのみ見られる、未変性の遺伝子には見られない遺伝子融合の部分(例えば、融合接合部)を標的とすることは、全ての細胞に見られる遺伝子の領域を標的とすることに関連して副作用を低下させることが企図される。
【0042】
I.遺伝子融合
本明細書に記載されるように、本発明の実施形態は、癌(例えば前立腺癌)に関連する再発性遺伝子融合の活性を阻害するための組成物および方法を提供する。いくつかの実施形態において、遺伝子融合は、抗癌治療薬として標的とされる。いくつかの実施形態において、遺伝子融合は、アンドロゲン制御遺伝子またはハウスキーピング遺伝子とETSファミリーメンバー遺伝子との融合の結果である。
【0043】
A.アンドロゲン制御遺伝子
雄性ホルモンによって制御される遺伝子は、ヒト前立腺の正常な生理機能にとって非常に重要である。またこれらは、前立腺癌腫の発生および進行にも寄与している。認識されているARGは、これらに限定されないが、DDX5、TMPRSS2、PSA、PSMA、KLK2、SNRK、Seladin−1、およびFKBP51(Paoloni−Giacobino et al.,Genomics 44: 309(1997);Velasco et al.,Endocrinology 145(8):3913(2004))を含む。膜貫通プロテアーゼ、セリン2(TMPRSS2、NM_005656)は、他の正常なヒト組織と比較して前立腺上皮において高度に発現されることが示されている(Lin et al.,Cancer Research 59:4180(1999))。TMPRSS2遺伝子は、21番染色体上に位置する。この遺伝子は、pterから41,750,797〜41,801,948bpに位置する(51,151全bp、マイナス鎖配向)。ヒトTMPRSS2タンパク質配列は、GenBankアクセッション番号AAC51784 (Swiss Protein アクセッション番号O15393))およびGenBankアクセッション番号U75329の対応するcDNA に見ることができる(Paoloni−Giacobino, et al.,Genomics 44:309(1997)も参照のこと)。
【0044】
いくつかの実施形態において、遺伝子融合は、ARGの転写制御領域を含む。ARGの転写制御領域は、プロモーター領域を含む、ARGのコードまたは非コード領域を含み得る。ARGのプロモーター領域は、アンドロゲン応答配列(ARE)をさらに含み得る。具体的には、TMPRSS2のプロモーター領域は、GenBankアクセッション番号AJ276404によって提供される。
【0045】
B.ハウスキーピング遺伝子
ハウスキーピング遺伝子は、構成的に発現され、一般に全ての組織において遍在的に発現される。これらの遺伝子は、全ての細胞が生存するために必要とする基本的な必須機能を提供するタンパク質をコードする。ハウスキーピング遺伝子は、通常、全ての細胞および組織において同じレベルで発現されるが、特に細胞増殖の間および生物が発達する間には、いくらかの変動を伴う。ヒト細胞がいくつのハウスキーピング遺伝子を有するかは正確には分かっていないが、最も多くて300〜500個の範囲であると推定される。
【0046】
数百もあるハウスキーピング遺伝子の多くは同定されている。最も一般的に知られる遺伝子であるGAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)は、解糖経路にとって重要な酵素をコードする。別の重要なハウスキーピング遺伝子は、体中への化合物の輸送を補助するアルブミンである。いくつかのハウスキーピング遺伝子は、β−アクチンおよびチューブリン等の細胞骨格を構成する構造タンパク質をコードする。他は、リボソームの18Sまたは28SrRNAサブユニットをコードする。HNRPA2B1は、遍在的に発現されるヘテロ核リボ核タンパク質の1つである。そのプロモーターは、メチル化されておらず、導入遺伝子内のCMVプロモーターの転写サイレンシングを阻止することが分かっている(Williams et al.,BMC Biotechnol 5,17(2005))。ハウスキーピング遺伝子の例示的なリストは、例えば、Trends in Genetics,19,362−365(2003)に見出すことができる。
【0047】
C.ETSファミリーメンバー遺伝子
転写因子のE‐26(ETS)ファミリーは、遺伝子発現をコントロールする細胞内シグナル伝達経路を制御する。下流エフェクターとして、これらは特定の標的遺伝子を活性化または抑制する。上流エフェクターとして、これらは数々の増殖因子受容体の空間的および時間的発現に寄与する。このファミリーのほぼ30個のメンバーが同定されており、生理学的および病理学的プロセスの広い範囲に関与している。それらは、これらに限定されないが、ERG、ETV1(ER81)、FLI1、ETS1、ETS2、ELK1、ETV6(TEL1)、ETV7(TEL2)、GABPα、ELF1、ETV4(E1AF、PEA3)、ETV5(ERM)、ERF、PEA3/E1AF、PU.1、ESE1/ESX、SAP1(ELK4)、ETV3(METS)、EWS/FLI1、ESE1、ESE2(ELF5)、ESE3、PDEF、NET(ELK3、SAP2)、NERF(ELF2)、およびFEVを含む。例示的なETSファミリーメンバー遺伝子配列を図9に示す。
【0048】
ETS関連遺伝子(ERG;NM_004449)は、特に、他の正常なヒト組織と比較して前立腺上皮において高度に発現されることが示されている。ERG遺伝子は、21番染色体上に位置する。この遺伝子は、pterから38,675,671〜38,955,488塩基対に位置する。ERG遺伝子は、279,817全bp、マイナス鎖配向である。対応するERG cDNAおよびタンパク質配列は、それぞれ、GenBankアクセッション番号M17254およびGenBankアクセッション番号NP04440(Swiss Proteinアクセッション番号Pl1308)で特定される。
【0049】
ETS転座変位体1(ETV1)遺伝子は、7番染色体(GenBankアクセッション番号NC_000007.11、NC_086703.11、およびNT_007819.15)上に位置する。この遺伝子は、pterから13,708330〜13,803,555塩基対に位置する。ETV1遺伝子は、全長95,225bp、マイナス鎖配向である。対応するETV1 cDNAおよびタンパク質配列は、それぞれ、GenBankアクセッション番号NM_004956 およびGenBankアクセッション番号NP_004947 (Swiss proteinアクセッション番号P50549)で特定される。
【0050】
ヒトETV4遺伝子は、14番染色体(GenBankアクセッション番号 NC_000017.9、NT_010783.14、およびNT_086880.1)上に位置する。この遺伝子は、pterから38,960,740〜38,979,228塩基対である。ETV4遺伝子は、全長18,488bp、マイナス鎖配向である。対応するETV4cDNAおよびタンパク質配列は、それぞれ、GenBankアクセッション番号NM_001986およびGenBankアクセッション番号NP_01977 (Swiss proteinアクセッション番号P43268)で特定される。
【0051】
II.治療上の用途
いくつかの実施形態において、本発明は、癌(例えば、前立腺癌)の治療薬を提供する。いくつかの実施形態において、治療薬は、本発明の遺伝子融合を直接的または間接的に標的とする。
【0052】
A.RNA干渉およびアンチセンス療法
いくつかの実施形態において、本発明は、遺伝子融合の発現を標的とする。例えば、いくつかの実施形態において、本発明は、遺伝子融合をコードする核酸分子の機能を調節し、最終的には発現される遺伝子融合の量を調節する際に使用するために、オリゴマーアンチセンスまたはRNAi化合物、特に、オリゴヌクレオチド(例えば、本明細書に記載されるもの)を含む組成物を用いる。
【0053】
1.RNA干渉(RNAi)
いくつかの実施形態において、融合タンパク質の機能を阻害するためにRNAiが用いられる。RNAiは、ヒトを含むほとんどの真核生物における外来遺伝子の発現をコントロールするための進化する上で保存された細胞防御を表す。RNAiは、典型的には2本鎖RNA(dsRNA)によって誘導され、dsRNAに応じて相同な1本鎖標的RNAの配列特異的なmRNA分解を引き起こす。mRNA分解の介在物質は、通常、細胞中の酵素切断によって長鎖dsRNAから生成される低分子干渉RNA(siRNA)2本鎖である。siRNAは、一般に、約21ヌクレオチド長(例えば21〜23ヌクレオチド長)であり、2つのヌクレオチド3´−オーバーハングによって特徴付けられる塩基対構造を有する。低分子RNAまたはRNAiの細胞内への導入後、この配列は、RISC(RNA誘導型サイレンシング複合体)と称される酵素複合体に送達されると考えられる。RISCは、標的を認識し、エンドヌクレアーゼで切断する。より大きなRNA配列が細胞に送達される場合、RNaseIII酵素(Dicer)は、より長いdsRNAを21〜23ntのds−siRNA断片に変換することに留意されたい。いくつかの実施形態において、RNAiオリゴヌクレオチドは、融合タンパク質の接合領域を標的とするように設計される。
【0054】
化学的に合成されたsiRNAは、培養体細胞における哺乳類の遺伝子機能の全ゲノム的解析のための強力な試薬となっている。遺伝子機能を検証するためのそれらの価値以外にも、siRNAは、遺伝子特異的治療薬としての大きな可能性も有する(Tuschl and Borkhardt,Molecular Intervent.2002;2(3):158−67、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0055】
動物細胞へのsiRNAのトランスフェクションは、特定の遺伝子の強力で長期的な転写後サイレンシングをもたらす(Caplen et al,Proc Natl Acad Sci U.S.A.2001;98: 9742−7、Elbashir et al., Nature. 2001;411:494−8、Elbashir et al.,Genes Dev. 2001;15:188−200、およびElbashir et al.,EMBO J.2001;20: 6877−88、これらは全て、参照により本明細書に組み込まれる)。siRNAを用いてRNAiを行うための方法および組成物は、例えば米国特許第6,506,559号に記載され、参照により本明細書に組み込まれる。
【0056】
siRNAは、伸長タンパク質によって、多くの場合は検出不能なレベルまで、標的となるRNAの量を減少させる際に極めて効果的である。サイレンシング効果は、数ヶ月間持続し得、標的RNAとsiRNAの中心領域との間の1つのヌクレオチドミスマッチがサイレンシングを防ぐのに十分であることが多いため、極めて特異的である(Brummelkamp et al,Science 2002;296:550−3、およびHolen et al,Nucleic Acids Res. 2002;30:1757−66、これらは両方とも、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0057】
siRNAの設計における重要な要因は、siRNA結合のための到達可能な部位の存在である。Bahoia et al.,(J.Biol.Chem.,2003;278: 15991−15997、参照により本明細書に組み込まれる)は、効果的なsiRNAを設計するためにmRNA内の到達可能な部位を見つけるための、走査アレイと称される一種のDNAアレイの使用について記載している。これらのアレイは、物理的バリア(マスク)を使用して、配列に各塩基を段階的に加えることによって合成される、モノマーから特定の最大サイズにまで及ぶオリゴヌクレオチド、通常はコマー(comer)を含む。したがって、これらのアレイは、標的遺伝子の領域の完全なオリゴヌクレオチド補体を表す。これらのアレイとの標的mRNAのハイブリダイゼーションは、標的mRNAのこの領域に関する徹底した到達性プロファイルを提供する。そのようなデータは、有効性および標的特異性を保持するためにオリゴヌクレオチド長と結合親和性との間の妥協点に達することが重要であるアンチセンスオリゴヌクレオチド(7塩基長〜25塩基長の範囲)の設計に有用である(Sohail et al,Nucleic Acids Res.,2001;29(10): 2041− 2045)。siRNAsを選択するためのさらなる方法および検討事項は、例えば、第WO05054270号、第WO05038054A1号、第WO03070966A2号、J Mol Biol. 2005 May 13;348(4):883−93,J Mol Biol. 2005 May 13;348(4):871−81、およびNucleic Acids Res. 2003 Aug 1;31(15):4417−24に記載され、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。また、siRNAを選択する際に使用するためのソフトウェア(例えば、MWGオンラインsiMAX siRNAデザインツール)が市販されているかまたは一般に入手可能である。
【0058】
いくつかの実施形態において、本発明は、平滑末端(例えば、米国特許第20080200420号を参照のこと(参照により、その全体が本明細書に組み込まれる))、オーバーハング(例えば、米国特許第20080269147A1号を参照のこと(参照により、その全体が本明細書に組み込まれる))、固定核酸(例えば、第WO2008/006369号、第WO2008/043753号、および第WO2008/051306号を参照のこと(それらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))を含むsiRNAを用いる。いくつかの実施形態において、siRNAは、遺伝子発現を介して、または細菌を使用して送達される(例えば、Xiang et al.,Nature 24: 6(2006)および第WO06066048号を参照、それらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0059】
他の実施形態において、shRNA法(例えば、第20080025958号を参照、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)が用いられる。低分子ヘアピンRNAまたはショートヘアピンRNA(shRNA)は、RNA干渉を介して遺伝子発現をサイレンシングするために使用することができる急なヘアピンカーブを形成するRNAの配列である。shRNAは、細胞に導入されたベクターを使用し、shRNAが常に発現されていることを確実にするためにU6プロモーターを用いる。このベクターは、通常、娘細胞に継承され、遺伝子サイレンシングが受け継がれることを可能にする。shRNAヘアピン構造は、細胞機構によってsiRNAへと切断され、次いで、RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)と結合する。この複合体は、それに結合するsiRNAにマッチするmRNAに結合して切断する。shRNAは、RNAポリメラーゼIIIによって転写される。
【0060】
また、本発明は、後に記載されるような本発明のRNAi化合物を含む薬学的組成物および製剤を含む。
【0061】
2.アンチセンス
他の実施形態において、融合タンパク質の発現は、遺伝子融合をコードする1つ以上の核酸と特異的にハイブリダイズするアンチセンス化合物を使用して調節される。オリゴマー化合物のその標的核酸との特異的ハイブリダイゼーションは、核酸の正常な機能を妨げる。特異的にハイブリダイズする化合物によるこの標的核酸の機能の調節は、一般的に「アンチセンス」と称される。妨げられるDNAの機能は、複製および転写を含む。妨げられるRNAの機能は、例えば、タンパク質翻訳部位へのRNAの転座、RNAからのタンパク質の翻訳、1つ以上のmRNA種を生じるようなRNAのスプライシング、およびRNAに関与し得るまたはRNAによって促進され得る触媒活性等の全ての重要な機能を含む。標的核酸の機能に対するこのような干渉の全体的な影響は、遺伝子融合の発現の調節である。本発明の文脈において、「調節」とは、遺伝子の発現における増大(刺激)または減少(阻害)のいずれかを意味する。例えば、発現は、腫瘍増殖を防ぐために阻害され得る。
【0062】
アンチセンスに特異的な核酸を標的とすることが好ましい。本発明の文脈において、特定の核酸に対するアンチセンス化合物を「標的化する」ことは、多段階にわたるプロセスである。通常、このプロセスは、機能が調節される核酸配列の同定から始まる。これは、例えば、特定の疾患または病態に関連する細胞遺伝子(もしくは遺伝子から転写されたmRNA)、または感染病原体由来の核酸分子であってもよい。本発明において、標的は、本発明の遺伝子融合をコードする核酸分子である。また、標的化プロセスは、所望の効果、例えば、タンパク質の発現の検出または調節がもたらされるようにアンチセンスの相互作用を生じさせるための遺伝子内の1つの部位または複数の部位の特定も含む。本発明の文脈において、好ましい遺伝子内の部位は、遺伝子の翻訳領域(ORF)の翻訳開始コドンまたは終止コドンを包含する領域である。翻訳開始コドンは、典型的には5´−AUG(転写されたmRNA分子において; 対応するDNA分子においては5´−ATG)であるため、翻訳開始コドンは「AUGコドン」、「開始コドン」、または「AUG開始コドン」とも称される。少数の遺伝子は、RNA配列5´−GUG、5´−UUGまたは5´−CUG、および5´−AUAを有する翻訳開始コドンを有し、5´−ACGおよび5´−CUGは、インビボで機能することが分かっている。したがって、各場合において、開始アミノ酸が典型的にはメチオニン(真核生物において)またはホルミルメチオニン(原核生物において)であっても、「翻訳開始コドン」および「開始コドン」という用語は、多くのコドン配列を包含することができる。真核生物および原核生物の遺伝子は、2つ以上の代替の開始コドンを有し得、これらのうちのいずれか1つが、特定の細胞型もしくは組織において、または特定の条件下で、翻訳開始に優先的に用いることができる。本発明の文脈において、「開始コドン」および「翻訳開始コドン」とは、そのようなコドンの配列に関係なく、本発明の腫瘍抗原をコードする遺伝子から転写されたmRNAの翻訳を開始するためにインビボで使用される1つまたは複数のコドンを指す。
【0063】
遺伝子の翻訳終止コドン(または「停止コドン」)は、3つの配列(すなわち、5´−UAA、5´−UAG、および5´−UGA、対応するDNA配列は、それぞれ5´−TAA、5´−TAG、および5´−TGA)のうちの1つを有し得る。「開始コドン領域」および「翻訳開始コドン領域」という用語は、翻訳開始コドンからいずれかの方向(すなわち、5´または3´)に約25〜約50個の近接するヌクレオチドを包含するそのようなmRNAまたは遺伝子の一部分を指す。同様に、「停止コドン領域」および「翻訳終止コドン領域」という用語は、翻訳終止コドンからいずれかの方向(すなわち、5´または3´)に約25〜約50個の近接するヌクレオチドを包含するそのようなmRNAまたは遺伝子の一部分を指す。
【0064】
翻訳開始コドンと翻訳終止コドンとの間の領域を指す翻訳領域(ORF)または「コード領域」とは、効果的に標的とされ得る領域でもある。他の標的領域は、翻訳開始コドンから5´方向にあるmRNAの部分を意味し、したがって、5´キャップ部位とmRNAの翻訳開始コドンとの間のヌクレオチドまたは遺伝子上の対応するヌクレオチドを含む5´非翻訳領域(5´UTR)と、翻訳終止コドンから3´方向にあるmRNAの部分を意味し、したがって翻訳終止コドンとmRNAの3´末端との間のヌクレオチドまたはその遺伝子上の対応するヌクレオチドを含む3´非翻訳領域(3´UTR)とを含む。mRNAの5´キャップは、mRNAの最も5´側の残基に5´−5´トリホスフェート結合を介して結合するN7−メチル化グアノシン残基を含む。mRNAの5´キャップ領域は、5´キャップ構造自体、およびそのキャップに隣接する第1の50ヌクレオチドを含むと考えられる。キャップ領域も、好ましい標的領域であり得る。
【0065】
真核生物のmRNA転写物の中には直接的に翻訳されるものもあるが、その多くは、翻訳される前に転写物から切除される「イントロン」として知られる1つ以上の領域を含む。残りの(したがって翻訳された)領域は、「エクソン」として知られ、ともにスプライスされて連続的なmRNA配列を形成する。mRNAスプライス部位(すなわち、イントロン−エクソン接合部)も、好ましい標的領域であり得、異常なスプライシングが疾患と関連する状況、または特定のmRNAスプライス産物の過剰生成が疾患と関連している状況において、特に有用である。再配列または欠失による異常な融合接合部も、好ましい標的である。イントロンは、例えば、DNAまたはpre−mRNAを標的とするアンチセンス化合物の、効果的な、したがって好ましい標的領域であり得ることも分かっている。
【0066】
いくつかの実施形態において、アンチセンス阻害のための標的部位は、市販のソフトウェアプログラム(例えば、Biognostik、Gottingen(Germany)、SysArris Software、Bangalore(India)、Antisense Research Group、University of Liverpool(Liverpool,England)、GeneTrove(Carlsbad,CA))を使用して同定される。他の実施形態において、アンチセンス阻害のための標的部位は、PCT公開番号第WO0198537A2号に記載される到達可能部位法を用いて同定され、参照により、本明細書に組み込まれる。
【0067】
一旦、1つ以上の標的部位が同定されると、所望の効果を付与するように、標的に十分相補的な(すなわち、十分に、かつ十分な特異性を持って、ハイブリダイズする)オリゴヌクレオチドが選択される。例えば、本発明の好ましい実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、開始コドンまたその近くを標的とする。
【0068】
この発明の文脈において、アンチセンス組成物および方法に関する「ハイブリダイゼーション」とは、相補的なヌクレオシドまたはヌクレオチド塩基間でのワトソン−クリック、フーグスティーン、または逆フーグスティーン水素結合等の水素結合を意味する。例えば、アデニンおよびチミンは、水素結合の形成によって対合する相補的な核酸塩基である。標的核酸が特異的にハイブリダイズ可能な核酸であるために、アンチセンス化合物の配列がその標的核酸の配列に100%相補的である必要はないことを理解されたい。アンチセンス化合物は、標的DNAまたはRNA分子への化合物の結合が、標的DNAまたはRNAの正常な機能を妨げて有用性の損失を引き起こし、アンチセンス化合物の非標的配列への非特異的結合を回避するのに十分な程度の相補性がある場合に、特異的な結合が所望される条件下で(すなわち、インビボアッセイまたは治療処置の場合は生理学的条件下で、またインビトロアッセイの場合は、アッセイが実施される条件下で)、特異的にハイブリダイズ可能である。
【0069】
アンチセンス化合物は、研究試薬および診断薬として一般的に使用される。例えば、特異性を持って遺伝子発現を阻害することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、特定の遺伝子の機能を解明するために使用することができる。また、アンチセンス化合物は、例えば、種々の生物学的経路の機能を識別するためにも使用される。
【0070】
アンチセンスの特異性および感度は、治療上の用途にも適用される。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、動物およびヒトにおける病態の治療における治療部分として用いられてきた。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、安全かつ効果的にヒトに投与されてきており、現在、数多くの臨床試験が行われている。したがって、オリゴヌクレオチドは、細胞、組織、および動物、特にヒトの治療のための治療計画において有用であるように構成することができる、有用な治療様式であることが確立されている。
【0071】
アンチセンスオリゴヌクレオチドがアンチセンス化合物の好ましい形態である一方で、本発明は、これに限定されないが、後に記載するようなオリゴヌクレオチド模倣体を含む他のオリゴマーのアンチセンス化合物を包含する。より長い配列およびより短い配列のどちらも本発明とともに使用され得るが、この発明によるアンチセンス化合物は、好ましくは約8〜約30個の核酸塩基(すなわち、約8〜約30個の結合塩基)を含む。特に好ましいアンチセンス化合物は、アンチセンスオリゴヌクレオチドであり、さらにより好ましくは、約12〜約25の核酸塩基を含む化合物である。
【0072】
本発明を用いると有用である好ましいアンチセンス化合物の具体例として、修飾された主鎖または非天然ヌクレオシド間結合を含むオリゴヌクレオチドが挙げられる。本明細書において定義されるように、修飾された主鎖を有するオリゴヌクレオチドは、主鎖中にリン原子を保持するものおよび主鎖中にリン原子を有さないものを含む。本明細書の目的のために、それらのヌクレオシド主鎖中にリン原子を有さない修飾されたオリゴヌクレオチドも、オリゴヌクレオシドと見なすことができる。
【0073】
好ましい修飾されたオリゴヌクレオチド主鎖は、例えば、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチルおよび他のアルキルホスホネート(3´−アルキレンホスホネートおよびキラルのホスホネートを含む)、ホスフィネート、ホスホロアミデート(3´−アミノホスホロアミデートおよびアミノアルキルホスホロアミデート、チオノホスホロアミデートを含む)、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、および正常な3´−5´結合を有するボラノホスフェート、これらの2´−5´結合類似体、ならびにヌクレオシド単位の隣接する対が結合5´−3´に対しては3´−5´または5´−2´に対しては2´−5´である反転極性を有するものを含む。種々の塩、混合塩類、および遊離酸型も含まれる。
【0074】
その中にリン原子を含まない好ましい修飾されたオリゴヌクレオチド主鎖は、短鎖アルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合ヘテロ原子およびアルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間の結合、または1つ以上の短鎖ヘテロ原子もしくは複素環ヌクレオシド間結合によって形成される主鎖を有する。これらは、モルホリノ結合(ヌクレオシドの糖部分から一部形成される)、シロキサン主鎖、硫化物、スルホキシドおよびスルホン主鎖、ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル主鎖、メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル主鎖、アルケン含有主鎖、スルファメート主鎖、メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ主鎖、スルホネートおよびスルホンアミド主鎖、アミド主鎖、ならびにN、O、SおよびCH成分の部分を混合して有する他のものを有するものを含む。
【0075】
他の好ましいオリゴヌクレオチド模倣体において、ヌクレオチド単位の糖およびヌクレオシド間結合(すなわち、主鎖)の両方が、新規の基で置換される。塩基単位は、適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。このようなオリゴマー化合物の1つである、優れたハイブリダイゼーション特性を有することが分かっているオリゴヌクレオチド模倣体は、ペプチド核酸(PNA)と称される。PNA化合物において、オリゴヌクレオチドの糖−主鎖は、アミドを含む主鎖、特にアミノエチルグリシン主鎖で置換される。核酸塩基は、保持されて、主鎖のアミド部分のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合する。PNA化合物の調製を教示する代表的な米国特許として、これらに限定されないが、米国特許第5,539,082号、第5,714,331号、および第5,719,262号が挙げられ、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。PNA化合物のさらなる教示は、Nielsen et al.,Science 254:1497(1991)に見出すことができる。
【0076】
本発明の最も好ましい実施形態は、ホスホロチオエート主鎖を有するオリゴヌクレオチドおよびヘテロ原子主鎖を有するオリゴヌクレオシドであり、特に、−−CH、−−NH−−O−−CH−−、−−CH−−N(CH)−−O−−CH−−[メチレン(メチルイミノ)またはMMI主鎖として知られる]、−−CH−−O−−N(CH)−−CH−−、−−CH−−N(CH)−−N(CH)−−CH−−、上述の米国特許第5,489,677号記載の−−O−−N(CH)−−CH−−CH−−[式中、未変性のホスホジエステル主鎖は−−O−−P−−O−−CH−−で表される]、および上述の米国特許第5,602,240号記載のアミド主鎖を有するものである。また、上述の米国特許第5,034,506号記載のモルホリノ主鎖構造を有するオリゴヌクレオチドも好ましい。
【0077】
修飾されたオリゴヌクレオチドは、1つ以上の置換された糖部分を有してもよい。好ましいオリゴヌクレオチドは、以下のうちの1つを2´位に有する: OH;F;O−、S−、もしくはN−アルキル;O−、S−、もしくはN−アルケニル;O−、S−、もしくはN−アルキニル;またはO−アルキル−O−アルキル(アルキル、アルケニル、およびアルキニルは、置換または未置換のC10アルキルまたはC10アルケニルおよびアルキニルであってもよい)。特に好ましいものは、O[(CHO]CH、O(CHOCH、O(CHNH、O(CHCH、O(CHONH、およびO(CHON[(CHCH)]であり、式中、nおよびmは1〜約10である。他の好ましいオリゴヌクレオチドは、以下のうちの1つを2´位に有する:C1〜C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリル、アラルキル、O−アルカリルまたはO−アラルキル、SH、SCH、OCN、Cl、Br、CN、CF、OCF、SOCH、SOCH、ONO、NO、N、NH、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA切断基、レポーター基、インターカレーター、オリゴヌクレオチドの薬物動態学的特性を向上させるための基、またはオリゴヌクレオチドの薬力学的特性を向上させるための基、および同様の特性を有する他の置換基。好ましい修飾は、2´−メトキシエトキシ(2´−O−−CHCHOCHであり、2´−O−(2−メトキシエチル)または2´−MOEとしても知られている)(Martin et al.,Helv.Chim.Acta 78:486[1995])、すなわち、アルコキシアルコキシ基を含む。さらに好ましい修飾は、2´−ジメチルアミノオキシエトキシ(すなわち、O(CHON(CH基)、2´−DMAOE、および2´−ジメチルアミノエトキシエトキシとしても知られる(当該技術分野において2´−O−ジメチルアミノエトキシエチルまたは2´−DMAEOEとしても知られる)、すなわち、2´−O−−CH−−O−−CH−−N(CHを含む。
【0078】
他の好ましい修飾は、2´−メトキシ(2´−O−−CH)、2´−アミノプロポキシ(2´−OCHCHCHNH)、および2´−フルオロ(2´−F)を含む。同様の修飾は、オリゴヌクレオチド上の他の位置、特に3´末端ヌクレオチドまたは2´−5´結合オリゴヌクレオチド上の糖の3´位、および5´末端ヌクレオチドの5´位にも形成され得る。また、オリゴヌクレオチドは、ペントフラノシル糖の代わりにシクロブチル部分等の糖模倣体を有していてもよい。
【0079】
また、オリゴヌクレオチドは、核酸塩基(当該技術分野において、単純に「塩基」と称されることが多い)の修飾または置換を含んでもよい。本明細書において使用される場合、「未修飾の」または「天然の」核酸塩基は、プリン塩基アデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基チミン(T)、シトシン(C)、およびウラシル(U)を含む。修飾された核酸塩基は、5−メチルシトシン(5−me−C)、5−ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2−アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6−メチルおよび他のアルキル誘導体、アデニンおよびグアニンの2−プロピルおよび他のアルキル誘導体、2−チオウラシル、2−チオチミンおよび2−チオシトシン、5−ハロウラシルおよびシトシン、5−プロピニルウラシルおよびシトシン、6−アゾウラシル、シトシンおよびチミン、5−ウラシル(シュードウラシル)、4−チオウラシル、8−ハロ、8−アミノ、8−チオール、8−チオアルキル、8−ヒドロキシルおよび他の8−置換アデニンおよびグアニン、5−ハロ(特に5−ブロモ)、5−トリフルオロメチルおよび他の5−置換ウラシルおよびシトシン、7−メチルグアニンおよび7−メチルアデニン、8−アザグアニンおよび8−アザアデニン、7−デアザグアニンおよび7−デアザアデニンならびに3−デアザグアニンおよび3−デアザアデニン等の、他の合成および天然の核酸塩基を含む。さらなる核酸塩基は、米国特許第3,687,808号に開示されるものを含む。これらの核酸塩基のうちのいくつかは、本発明のオリゴマー化合物の結合親和性を高めるために特に有用である。それらは、2−アミノプロピルアデニン、5−プロピニルウラシルおよび5−プロピニルシトシンを含む、5−置換ピリミジン、6−アザピリミジン、ならびにN−2、N−6およびO−6置換プリンを含む。5−メチルシトシン置換は、0.6〜1.2℃で核酸2本鎖の安定性を増加させることが分かっており、現在のところ好ましい塩基置換であり、特に、2´−O−メトキシエチル糖修飾と組み合わせた場合により一層好ましい。
【0080】
本発明のオリゴヌクレオチドの別の修飾は、オリゴヌクレオチドの活性、細胞内分布、または細胞内取り込みを増強する1つ以上の部分またはコンジュゲートのオリゴヌクレオチドへの化学的結合に関与する。そのような部分は、これらに限定されないが、脂質部分、例えば、コレステロール部分、コール酸、チオエーテル、(例えば、ヘキシル−S−トリチルチオール)、チオコレステロール、脂肪族鎖、(例えば、ドデカンジオールもしくはウンデシル残基)、リン脂質、(例えば、ジヘキサデシル−rac‐グリセロールもしくはトリエチルアンモニウム1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac‐グリセロ−3−H−ホスホネート)、ポリアミンもしくはポリエチレングリコール鎖、またはアダマンタン酢酸、パルミチル部分、あるいはオクタデシルアミンまたはヘキシルアミノ−カルボニル−オキシコレステロール部分を含む。
【0081】
関連技術分野の当業者は、上記修飾を含むオリゴヌクレオチドの生成の仕方を十分に分かっている。本発明は、上述のアンチセンスオリゴヌクレオチドに限定されるものではない。任意の好適な修飾または置換が用いられ得る。
【0082】
所与の化合物におけるすべての位置が均一に修飾される必要はなく、実際、上記修飾のうちの1つ以上が、オリゴヌクレオチド内の単一化合物または単一ヌクレオシドにさえも組み込まれ得る。本発明は、キメラ化合物であるアンチセンス化合物も包含する。本発明の文脈において「キメラ」アンチセンス化合物または「キメラ」は、アンチセンス化合物であり、特に、各々が少なくとも1つのモノマー単位(すなわち、オリゴヌクレオチド化合物の場合はヌクレオチド)からなる、化学的に異なる2つ以上の領域を含むオリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、典型的には、ヌクレアーゼ分解に対する耐性の増加、細胞内取り込みの増加、および/または標的核酸に対する結合親和性の増大をヌクレオチドに付与するようにオリゴヌクレオチドが修飾された、少なくとも1つの領域を含む。オリゴヌクレオチドのさらなる領域は、RNA:DNAまたはRNA:RNAハイブリッドを切断することができる酵素の基質としての役割を果たし得る。例として、RNaseHは、RNA:DNA2本鎖のRNA鎖を切断する細胞内エンドヌクレアーゼである。したがって、RNaseHの活性化は、RNA標的の切断を生じ、それによって遺伝子発現のオリゴヌクレオチド阻害の効率を大幅に高める。その結果、同じ標的領域にハイブリッド形成するホスホロチオエートデオキシオリゴヌクレオチドと比べて、キメラオリゴヌクレオチドを用いた場合、より短い鎖のオリゴヌクレオチドで同程度の結果が得られることが多い。RNA標的の切断は、ゲル電気泳動によって、また必要に応じて、当該技術分野において既知である関連する核酸ハイブリダイゼーション技法によって、ルーチン的に検出することができる。
【0083】
本発明のキメラアンチセンス化合物は、2つ以上のオリゴヌクレオチド、修飾されたオリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオシドおよび/または上述のようなオリゴヌクレオチド模倣体の複合構造として形成され得る。
【0084】
本発明は、以下に記載する本発明のアンチセンス化合物を含む薬学的組成物および製剤も含む。
【0085】
B.遺伝子療法
本発明は、本発明の遺伝子融合の発現を調節する際に使用するための任意の遺伝子操作の使用を企図する。遺伝子操作の例として、これらに限定されないが、遺伝子ノックアウト(例えば、例えば組換えを用いて、染色体から融合遺伝子を除去する)、誘導性プロモーターを含む/含まないアンチセンスコンストラクトの発現等が挙げられる。インビトロまたはインビボでの核酸コンストラクトの細胞への送達は、任意の好適な方法を用いて実施され得る。好適な方法とは、所望の事象(例えば、アンチセンスコンストラクトの発現)が起こるように核酸コンストラクトを細胞に導入する方法である。また、遺伝子療法は、(例えば、誘導性プロモーター(例えば、アンドロゲン応答性プロモーター)による刺激の際に)インビボで発現されるsiRNAまたは他の干渉する分子を送達するためにも用いられ得る。
【0086】
遺伝子情報を保有する分子の細胞内への導入は、これらに限定されないが、裸のDNAコンストラクトの直接注入、該コンストラクトを添加した金粒子を用いた打ち込み、および例えば、リポソーム、生体高分子等を用いた、巨大分子の介在による遺伝子導入等を含む種々の方法のうちのいずれかによって達成される。好ましい方法は、これらに限定されないが、アデノウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、およびアデノ随伴ウイルス等の、ウイルス由来の遺伝子送達ビヒクルを用いる。レトロウイルスと比較すると効率がより高いため、アデノウイルス由来のベクターは、核酸分子をインビボで宿主細胞に導入するための好ましい遺伝子送達ビヒクルである。アデノウイルスベクターは、動物モデルにおける様々な固形腫瘍および免疫欠乏マウスにおけるヒト固形腫瘍異種移植片に、非常に効率的なインビボ遺伝子導入を提供することが分かっている。遺伝子導入のためのアデノウイルスベクターおよび方法の例は、PCT公開第WO 00/12738号およびWO 00/09675号、ならびに米国特許出願第 6,033,908号、6,019,978号、6,001,557号、5,994,132号、5,994,128号、5,994,106号、5,981,225号、5,885,808号、5,872,154号、5,830,730号、および5,824,544号に記載され、それらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0087】
ベクターは、様々な方法において対象に投与され得る。例えば、本発明のいくつかの実施形態において、ベクターは、直接注射を用いて、腫瘍または腫瘍を伴う組織に投与される。他の実施形態において、投与は、血液またはリンパ循環を介する(例えば、参照により、その全体が本明細書に組み込まれるPCT公開第99/02685号を参照)。アデノウイルスベクターの例示的な投与レベルは、好ましくは灌流液に添加された10〜1011のベクター粒子である。
【0088】
C.抗体療法
いくつかの実施形態において、本発明は、遺伝子融合を発現する前立腺腫瘍を標的とする抗体を提供する。任意の好適な抗体(例えば、モノクローナル、ポリクローナル、または合成)が、本明細書に開示される治療法に用いられ得る。好ましい実施形態において、癌治療に使用される抗体は、ヒト化抗体である。抗体をヒト化するための方法は、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第6,180,370号、第5,585,089号、第6,054,297号、および第5,565,332号を参照のこと、それらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0089】
いくつかの実施形態において、治療抗体は、本発明の遺伝子融合に対して生成された抗体を含み、該抗体は、細胞毒性薬物とコンジュゲートされる。そのような実施形態において、正常細胞を標的としない腫瘍特異的治療剤が生成され、したがって、従来の化学療法の有害な副作用の多くを軽減する。特定の用途の場合、治療剤は、抗体への付加に有用な薬剤としての役割を果たす薬理学的薬剤であり、特に、内皮細胞を死滅させるか増殖または細胞分割を抑制する能力を有する細胞毒性またはさもなければ抗細胞剤(anticellular agent)であることが構想される。本発明は、抗体にコンジュゲートし、活性型で送達される、任意の薬理学的薬剤の使用を企図する。例示的な抗細胞剤として、化学療法剤、放射性同位元素、および細胞毒が挙げられる。本発明の治療抗体は、これらに限定されないが、例えば放射性同位元素(例えば、ヨウ素−131、ヨウ素−123、テクニシウム−99m、インジウム−111、レニウム−188、レニウム−186、ガリウム−67、銅−67、イットリウム−90、ヨウ素−125、またはアスタチン−211)、ステロイド等のホルモン、シトシン等の代謝拮抗剤(例えば、アラビノシド、フルオロウラシル、メトトレキサート、またはアミノプテリン;アントラサイクリン;マイトマイシンC)、ビンカアルカロイド(例えば、デモコルチン、エトポシド、ミトラマイシン)、およびクロラムブシルまたはメルファラン等の抗腫瘍アルキル化剤を含む、様々な細胞毒性部分を含んでもよい。他の実施形態は、血液凝固剤、サイトカイン、増殖因子、細菌性内毒素、または細菌性内毒素の脂質A部分等の薬剤を含む。例えば、いくつかの実施形態において、数個の例を挙げると、治療薬剤として、A鎖毒素、リボソーム失活性タンパク質、αサルシン、アスペルギリン、レストリクトシン、リボヌクレアーゼ、ジフテリア毒素、またはシュードモナス外毒素等の、植物、真菌、または細菌由来の毒素が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態において、脱グリコシル化リシンA鎖が用いられる。
【0090】
いずれの場合においても、それらのような薬剤は、所望の場合、既知のコンジュゲーション技術を用いて、必要に応じて、標的とされる腫瘍細胞の部位での標的化、内部移行、血液成分に対する遊離または提示を可能にする様式で、抗体と良好にコンジュゲートさせることができることが提唱されている(例えば、Ghose et al.,Methods Enzymol.,93:280[1983]を参照)。
【0091】
例えば、いくつかの実施形態において、本発明は、遺伝子融合(例えば、ERG融合)を標的とする免疫毒素を提供する。免疫毒素は、典型的には腫瘍指向性の抗体または断片である特異的標的薬剤の毒素部分等の細胞毒性薬とのコンジュゲートである。標的化薬剤は、標的とされる抗原を保持する細胞に毒素を誘導し、それによって選択的に該細胞を死滅させる。いくつかの実施形態において、治療抗体は、高いインビボ安定性を提供する架橋剤を用いる(Thorpe et al.,Cancer Res.,48:6396[1988])。
【0092】
特に固形腫瘍の治療に関与する他の実施形態において、抗体は、血管内皮細胞の増殖または細胞分裂を抑制することによって、腫瘍脈管構造に対して細胞毒性またはさもなければ抗細胞効果を有するように設計される。この攻撃は、腫瘍細胞、特に脈管構造の遠位の腫瘍細胞から、酸素および栄養分を奪い、最終的には細胞死および腫瘍壊死をもたらす、腫瘍に局在化する血管崩壊を引き起こすことを意図する。
【0093】
好ましい実施形態において、抗体ベースの治療薬は、後に記載するように薬学的組成物として調剤される。好ましい実施形態において、本発明の抗体組成物の投与は、癌において測定可能な減少(例えば、腫瘍の軽減または排除)をもたらす。
【0094】
また本発明は、後に記載するような本発明の抗体化合物を含む薬学的組成物および製剤も含む。
【0095】
D.ペプチド模倣体
いくつかの実施形態において、本発明は、ペプチド模倣体に基づく治療薬を提供する。主要化合物としてのペプチドの使用、またその後の低分子量の非ペプチド分子(ペプチド模倣体)への変換は、細胞内標的の低分子拮抗薬の開発を導くことに成功した(Bottger et al.,J Mol Biol,1997.269(5): p.744−56;Bottger et al.,Oncogene,1996.13(10):p.2141−7)。したがって、ペプチド模倣体は、ペプチドの物理的特性に固有の限界を克服し、治療可能性を向上させるための強力な手段として登場した(Kieber−Emmons et al., Curr Opin Biotechnol,1997.8(4):p.435−41、Beeley,Trends Biotechnol,1994.12(6):p.213−6、Moore et al.,Trends Pharmacol Sci,1994.15(4):p.124−9)。いくつかの実施形態において、天然のペプチドと比較して、ペプチド模倣体は、良好な経口作用、長期間の作用、細胞膜を通るより良好な輸送、排泄率の低下、およびぺプチダーゼによる加水分解の低下を含む、天然のペプチドよりも優れた望ましい薬力学的特性を保有する。
【0096】
低分子ペプチド模倣体の開発は、一般に、標的とされる相互作用を阻害することができる最も小さい機能的ペプチド単位の同定を伴う。増え続ける文献によって、高親和性リガンドは、バクテリオファージ上に示されるペプチドライブラリーから選択することができることが示されており(Sulochana and Ge,Curr Pharm Des,2007.13(20):p.2074−86、Cwirla et al.,Proc Natl Acad Sci USA,1990.87(16):p.6378−82、Scott and Smith,Science,1990.249(4967):p.386−90、Devlin et al.,Science,1990.249(4967):p.404−6)、多くの用途が、タンパク質リガンドの機能を拮抗することを対象としてきている(Dower, Curr Opin Chem Biol,1998.2(3):p.328−34、Sidhu et al.,Methods Enzymol,2000.328:p.333−63)。ライブラリーは非常に大規模であり得るため(1011以上の個々のメンバー)、ライブラリーにどのようにバイアスをかけるかについての初期推定の必要はなく、また、生物学的な増幅および再スクリーニングによる稀な結合ファージの選択的濃縮も必要ではない。結合するこれらの配列は、それらのコードするDNAをシーケンスすることによって容易に同定することができる。
【0097】
いくつかの実施形態において、そのようにして同定されたペプチドリガンドは、さらに、新しい標的化治療剤の開発のための、コンビナトリアルケミストリーによるアプローチまたは医薬化学に基づくペプチド模倣アプローチのための始点としての役割を果たす。また、これらのペプチドのそれらの基質への高結合親和性のための構造的基盤を決定することは、治療剤の合理的な設計に寄与する。
【0098】
また、本発明は、後に記載するような本発明のペプチド模倣化合物を含む薬学的組成物および製剤も含む。
【0099】
E.薬学的組成物
本発明は、(例えば、本発明の遺伝子融合の発現または活性を調節する薬剤を含む)薬学的組成物をさらに提供する。本発明の薬学的組成物は、局所的または全身的な治療が望ましいかどうかおよび治療される領域に依存して、多くの方法で投与され得る。投与は、局所的(点眼、ならびに膣内および直腸送達を含む粘膜に対するものを含む)、肺(例えば、ネブライザーによる散剤またはエアロゾルの吸入またはガス注入、気管内、鼻腔内、上皮、および経皮)、経口または非経口であり得る。非経口投与は、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内もしくは筋肉内注射または点滴、あるいは頭蓋内、例えば、くも膜下腔内または脳室内投与を含む。
【0100】
局所的投与のための薬学的組成物および製剤は、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ、坐薬、スプレー、液体および散剤を含んでもよい。従来の薬学的担体、水性、粉末状または油状基剤、増粘剤等が、必要であるかまたは望ましいかもしれない。
【0101】
経口投与のための組成物および製剤は、散剤または顆粒、水または非水性媒体中の懸濁液または溶液、カプセル、サシェまたは錠剤を含む。増粘剤、香味剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤、または結合剤が望ましいかもしれない。
【0102】
非経口、くも膜下腔内、または脳室内投与のための組成物および製剤は、緩衝剤、希釈剤、および他の好適な添加物、例えば、これらに限定されないが、浸透促進剤、担体化合物、および他の薬学的に許容可能な担体、または賦形剤等を含み得る滅菌水溶液を含んでもよい。
【0103】
本発明の薬学的組成物は、これらに限定されないが、溶液、乳濁液、およびリポソーム含有製剤を含む。これらの組成物は、これらに限定されないが、予め作製された液体、自己乳化固体、および自己乳化半固体を含む様々な成分から生成され得る。
【0104】
単位剤形として簡便に提供され得る本発明の薬学的製剤は、製薬産業において周知の従来技法に従って調製され得る。このような技術は、有効成分を薬学的担体(複数可)または賦形剤(複数可)と会合させるステップを含む。一般に、製剤は、有効成分を液体担体もしくは微紛化した固形担体またはその両方と均一かつ密接に会合させ、次いで、必要に応じて生成物を成形することによって調製される。
【0105】
本発明の組成物は、これらに限定されないが、錠剤、カプセル、液体シロップ、ソフトゲル、坐薬、および浣腸等の多くの可能な剤型のうちのいずれかに調剤され得る。また、本発明の組成物は、水性、非水性、または混合媒体中の懸濁液として調剤されてもよい。水性懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/またはデキストランを含む、懸濁液の粘性を増加させる物質をさらに含んでもよい。また懸濁液は、安定化剤を含んでもよい。
【0106】
本発明の一実施形態において、薬学的組成物は、泡沫として調剤または使用されてもよい。薬学的泡沫は、これらに限定されないが、乳濁液、ミクロ乳濁液、クリーム、ゼリー、およびリポソーム等の製剤を含む。これらの製剤は、基本的に同様の性質であるが、組成および最終産物の粘稠度が異なる。
【0107】
また、細胞レベルでオリゴヌクレオチドの取り込みを増強する薬剤が、本発明の薬学的および他の組成物に添加されてもよい。例えば、リポフェクチン(米国特許第5,705,188号)等のカチオン性脂質、カチオン性グリセロール誘導体、およびポリリジン(第WO97/30731号)等のポリカチオン分子も、オリゴヌクレオチドの細胞内取り込みを増強する。
【0108】
本発明の組成物は、薬学的組成物に従来見られる他の補助的成分をさらに含んでもよい。したがって、例えば、組成物は、例えば、かゆみ止め剤、収斂剤、局所麻酔剤、または抗炎症剤等の、追加の、相溶性のある、薬学的に活性な材料を含んでもよいか、あるいは、染料、香味剤、保存料、抗酸化剤、乳白剤、増粘剤、および安定化剤等の、本発明の組成物の種々の剤形を物理的に調剤する際に有用なさらなる材料を含んでもよい。しかしながら、そのような材料は、添加された時に、本発明の組成物の成分の生物学的活性を過度に妨げるべきではない。製剤は、殺菌することができ、所望の場合、製剤の核酸(1種または複数種)と悪影響を与えるように相互作用しない、例えば、潤滑剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼす塩類、緩衝剤、着色剤、香味剤、および/または芳香性物質等の助剤と混合することができる。
【0109】
本発明の特定の実施形態は、(a)1つ以上のアンチセンス化合物と、(b)非アンチセンス機構によって機能する1つ以上の他の化学療法剤とを含む薬学的組成物を提供する。そのような化学療法剤の例として、これらに限定されないが、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、ナイトロジェンマスタード、クロラムブシル、メルファラン、シクロホスファミド、6−メルカプトプリン,6−チオグアニン、シタラビン(CA)、5−フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン(5−FUdR)、メトトレキサート(MTX)、コルヒチン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、テニポシド、シスプラチン、およびジエチルスチルベストロール(DES)等の抗癌剤が挙げられる。これらに限定されないが、非ステロイド系抗炎症剤および副腎皮質ステロイドを含む抗炎症剤、およびこれらに限定されないが、リビビリン、ビダラビン、アシクロビル、およびガンシクロビルを含む抗ウイルス剤も、本発明の組成物と組み合わされてもよい。他の非アンチセンス化学療法剤も、本発明の範囲内である。組み合わされた2つ以上の化合物は、一緒にまたは経時的に使用され得る。
【0110】
投薬は、治療される病態の重症度および応答性に依存し、数日間から数ヶ月にわたる、または、治癒がもたらされるまでもしくは病態の軽減が達成されるまで継続する治療過程を伴う。最適な投薬スケジュールは、患者の体内における薬物蓄積の測定値から計算することができる。投与医は、最適な投与量、投薬方法、および反復率を容易に決定することができる。最適な投与量は、個々のオリゴヌクレオチドの相対的な強度によって異なり、一般に、インビトロおよびインビボ動物モデルにおいて効果的であることが分かっているEC50に基づいて、または本明細書に記載される実施例に基づいて、推定することができる。一般に、投与量は、体重1kgあたり0.01μg〜100gであり、1日、1週間、1ヶ月、または1年に1回以上与えられてもよい。治療医は、体液または組織中の薬物の測定された滞留時間および濃度に基づいて、投与の反復率を推定することができる。治療成功後、対象に病態の再発を防ぐための維持療法を受けさせることが望ましい可能性があり、その場合、オリゴヌクレオチドが、体重1kgあたり0.01μg〜100gで、1日に1回以上〜20年ごとに1回の範囲の維持投与量で投与される。
【0111】
F.併用療法
いくつかの実施形態において、本発明は、追加の薬剤(例えば、化学療法剤)と組み合わせて、本明細書に記載される1つ以上の組成物を含む治療法を提供する。本発明は、特定の化学療法剤に限定されるものではない。
【0112】
種々のクラスの抗腫瘍性(例えば、抗癌性)薬剤が、特定の本発明の実施形態において使用するために企図される。本発明の実施形態とともに使用するのに好適な抗癌剤は、これらに限定されないが、アポトーシスを誘導する薬剤、,アデノシンデアミナーゼの機能を阻害する薬剤、ピリミジン生合成を阻害する、プリン環生合成を阻害する、ヌクレオチド相互変換を阻害する、リボヌクレオチドレダクターゼを阻害する、チミジンモノホスフェート(TMP)合成を阻害する、ジヒドロフォレート還元を阻害する、DNA合成を阻害する、DNAとの付加体を形成する、DNAを損傷する、DNA修復を阻害する、DNAとインターカレートする、アスパラギン類を脱アミノ化する、RNA合成を阻害する、タンパク質の合成または安定性を阻害する、微小管の合成または機能を阻害するもの等を含む。
【0113】
いくつかの実施形態において、本発明の実施形態の組成物および方法において使用するのに好適な例示的な抗癌剤として、これらに限定されないが、1)アルカロイド、例えば、微小管阻害剤(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびビンデシン等)、微小管安定剤(例えば、パクリタキセル(タキソール)、およびドセタキセル等)、およびクロマチン機能阻害剤、例えば、トポイソメラーゼ阻害剤、例えば、エピポドフィロトキシン(例えば、エトポシド(VP−16)、およびテニポシド(VM−26)等)、ならびにトポイソメラーゼIを標的とする薬剤(例えば、カンプトテシンおよびイリノテカン(CPT−11)等)、2)共有結合性DNA結合剤(アルキル化剤)、例えば、ナイトロジェンマスタード(例えば、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、およびブスルファン(マイレラン)等)、ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、ロムスチン、およびセムスチン等)、ならびに他のアルキル化剤(例えば、ダカルバジン、ヒドロキシメチルメラミン、チオテパ、およびマイトシシン等)、3)非共有結合性DNA結合剤(抗腫瘍抗生物質)、例えば、核酸阻害剤(例えば、ダクチノマイシン(アクチノマイシンD等)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(ダウノマイシン、およびセルビジン)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、およびイダルビシン(イダマイシン)等)、アントラセンジオン(例えば、アントラサイクリン類似体、例えば、ミトキサントロン等)、ブレオマイシン(ブレノキサン)等、ならびにプリカマイシン(ミトラマイシン)等、4)代謝拮抗物質、例えば、葉酸代謝拮抗薬(例えば、メトトレキサート、フォレックスおよびメキサート等)、プリン代謝拮抗薬(例えば、6−メルカプトプリン(6−MP、プリントール)、6−チオグアニン(6−TG)、アザチオプリン、アシクロビル、ガンシクロビル、クロロデオキシアデノシン、2−クロロデオキシアデノシン(CdA)、および2´−デオキシコホルマイシン(ペントスタチン)等)、ピリミジン拮抗薬(例えば、フルオロピリミジン(例えば、5−フルオロウラシル(アドルシル)、5−フルオロデオキシウリジン(FdUrd)(フロクスウリジン)等)、ならびにシトシンアラビノシド(例えば、シトサール(ara−C)およびフルダラビン等)、5)酵素、例えば、L−アスパラギナーゼ、およびヒドロキシ尿素等、6)ホルモン、例えば、グルココルチコイド、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン等)、非ステロイド性抗アンドロゲン(例えば、フルタミド等)、およびアロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール(アリミデックス)等)、7)白金化合物(例えば、シスプラチンおよびカルボプラチン等)、8)抗癌剤、毒素、および/または放射性核種等とコンジュゲートしたモノクローナル抗体、9)生物学的応答調節因子(例えば、インターフェロン(例えば、IFN−α)等]およびインターロイキン(例えば、IL−2等)等)、10)養子免疫療法、11)造血成長因子、12)腫瘍細胞分化を誘導する薬剤(例えば、オールトランスレチノイン酸等)、13)遺伝子療法の技法、14)アンチセンス療法の技法、15)腫瘍ワクチン、16)腫瘍転移に対する薬剤(例えば、バチマスタット等)、17)血管新生阻害剤、18)プロテオソーム阻害剤(例えば、VELCADE)、19)アセチル化および/またはメチル化の阻害剤(例えば、HDAC阻害剤)、20)NF‐κBの調節因子、21)細胞周期制御の阻害剤(例えば、CDK阻害剤)、22)p53タンパク質機能の調節因子、そして23)放射線が挙げられる。
【0114】
癌治療の状況においてルーチン的に使用される任意の腫瘍退縮剤を、本発明の実施形態の組成物および方法において使用することができる。例えば、米国食品医薬品局は、米国内での使用が認可された腫瘍退縮剤の処方集を維持する。U.S.F.D.Aと同等の国際機関が、同様の処方集を維持する。下の表は、米国内での使用が認可された例示的な抗腫瘍剤のリストを提供する。当業者は、米国で認可された全ての化学療法剤に必要とされる「製品ラベル」が、例示的な薬剤について認可された適応症、投与情報、毒性データ等を記載していることを認識するであろう。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
【表5】

【0120】
【表6】

【0121】
【表7】

【0122】
【表8】

【0123】
【表9】

【0124】
III.薬物スクリーニング用途
いくつかの実施形態において、本発明は、薬物スクリーニングアッセイ(例えば、抗癌剤のスクリーニング)を提供する。本発明のスクリーニング法は、本発明に記載される遺伝子融合を用いる。例えば、いくつかの実施形態において、本発明は、遺伝子融合の発現を変化させる(例えば減少させる)化合物のスクリーニング法を提供する。化合物または薬剤は、例えば、プロモーター領域との相互作用によって、転写を妨げることができる。化合物または薬剤は、融合によって生成されるmRNAを阻害することができる(例えば、RNA干渉、アンチセンス技術等)。化合物または薬剤は、融合の生物学的活性の上流または下流である経路を妨げることができる。いくつかの実施形態において、候補化合物は、遺伝子融合に対するアンチセンスまたは干渉RNA剤(例えば、オリゴヌクレオチド)である。他の実施形態において、候補化合物は、遺伝子融合制御因子または本発明の発現産物に特異的に結合し、その生物学的機能を阻害する抗体または小分子である。
【0125】
あるスクリーニング法において、候補化合物は、遺伝子融合を発現する細胞に化合物を接触させ、次いで、候補化合物が発現に与える影響を評価することによって、遺伝子融合の発現を変化させる能力について評価される。いくつかの実施形態において、候補化合物が遺伝子融合の発現に与える影響は、細胞によって発現される遺伝子融合のmRNAのレベルを検出することによって評価される。mRNAの発現は、任意の好適な方法によって検出することができる。
【0126】
他の実施形態において、候補化合物が遺伝子融合の発現に与える影響は、遺伝子融合によってコードされるポリペプチドのレベルを測定することによって評価される。発現されるポリペプチドのレベルは、これに限定されないが、本明細書に開示されるものを含む任意の好適な方法によって測定することができる。
【0127】
具体的には、本発明は、修飾物質、すなわち、遺伝子融合に結合し、例えば、遺伝子融合の発現または遺伝子融合の活性に対する阻害(または促進)効果を有するか、あるいは、例えば、遺伝子融合基質の発現または活性に対して促進または阻害効果を有する候補化合物もしくは試験化合物または薬剤(例えば、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣体、ペプトイド、小分子または他の薬剤)を同定するためのスクリーニング法を提供する。したがって、同定された化合物は、標的遺伝子産物の生物学的機能を生成するため、または正常な標的遺伝子の相互作用を妨げる化合物を同定するために、治療プロトコルにおいて標的遺伝子産物(例えば、遺伝子融合)の活性を直接的または間接的に調節するために使用することができる。遺伝子融合の活性または発現を阻害する化合物は、増殖性疾患、例えば癌、特に前立腺癌の治療において有用である。
【0128】
一実施形態において、本発明は、遺伝子融合タンパク質もしくはポリペプチドまたはその生物学的活性部分の基質である候補化合物または試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。別の実施形態において、本発明は、遺伝子融合タンパク質もしくはポリペプチドまたはその生物学的活性部分に結合するかまたはそれらの活性を調節する候補化合物または試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。
【0129】
本発明の試験化合物は、生物学的ライブラリー、ペプトイドライブラリー(ペプチドの機能性を有する分子のライブラリーであるが、酵素分解に耐性を示すにもかかわらず生物活性を保持する、新規の非ペプチド主鎖を有する、例えば、Zuckennann et al.,J.Med.Chem.37:2678−85[1994])を参照)、空間的に位置指定可能な平行固相または溶液相ライブラリー、逆重畳を必要とする合成ライブラリー法、「1ビーズ1化合物」ライブラリー法、およびアフィニティクロマトグラフィ選別を用いた合成ライブラリー法を含む、当該技術分野で既知のコンビナトリアルライブラリー法における数多くのアプローチのうちのいずれかを用いることによって得ることができる。生物学的ライブラリーおよびペプトイドライブラリーのアプローチは、ペプチドライブラリーとともに用いるのが好ましく、他の4つのアプローチは、化合物のペプチド、非ペプチドオリゴマー、または低分子化合物ライブラリーに適用される(Lam(1997)Anticancer Drug Des.12:145)。
【0130】
分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当該技術分野において、例えば、DeWitt et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6909[1993]、Erb et al.,Proc.Nad.Acad.Sci.USA 91:11422[1994]、Zuckermann et al.,J.Med.Chem.37:2678[1994]、Cho et al.,Science 261:1303[1993]、Carrell et al.,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33.2059[1994]、Carell et al.,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061[1994]、およびGallop et al.,J.Med.Chem.37:1233[1994]に見ることができる。
【0131】
化合物のライブラリーは、溶液中(例えば、Houghten、Biotechniques13:412−421[1992])、またはビーズ上(Lam、Nature 354:82−84[1991])、チップ(Fodor、Nature 364:555−556[1993])、細菌または胞子(米国特許第5,223,409号、参照により、本明細書に組み込まれる)、プラスミド(Cull et al.,Proc.Nad.Acad.Sci.USA 89:18651869[1992])、またはファージ上(Scott and Smith,Science 249:386−390[1990]、Devlin Science 249:404−406[1990]、Cwirla et al.,Proc.NatI.Acad.Sci.87:6378−6382[1990]、Felici,J.Mol.Biol.222:301[1991])に存在し得る。
【0132】
実験
以下の実施例は、本発明の特定の好ましい実施形態および態様を示し、またさらに例示するために提供されるものであって、本発明の範囲を限定するものであると見なされるべきではない。
【実施例】
【0133】
〔実施例1〕
A.実験手順
細胞株 前立腺癌細胞株LNCaPおよびVCaPをAmerican Type Culture Collectionから調達し、10%FBSを添加したRPMIおよびDMEM−GlutaMAX培地中でそれぞれ増殖させた。GUS(RWPE+GUS)対照およびERG(RWPE+ERG)の安定した過剰発現を示す不死化良性前立腺細胞株RWPE(Tomlins et al.,Neoplasia(New York,NY 10,177−188 2008)を、ウシ下垂体抽出物を添加したケラチノサイト無血清培地中で増殖させた。VCaP細胞をERGまたは対照(GUS)レンチウイルスに感染させ、さらなる分析のためにERG(VCaP+ERG)またはGUS(VCaP+GUS)を発現する安定したクローンを選択した。
【0134】
クロマチン免疫沈降(ChIP) ARに対する抗体(Millipore、06−680番)、ERG(Santa Cruz、sc354番)、およびウサギIgG(Santa Cruz、sc−2027番)を用いて、以前に記載されるように(Yu et al.,Cancer cell 12,419−431 2007)ChIPを実施した。ARのChIPアッセイでは、ホルモンを枯渇させるために活性炭処理した血清を含むフェノールレッド不含培地中でLNCaPおよびVCaP細胞を3日間増殖させた後、1%エタノールまたはエタノール中に溶解した10nMのメチルトリエノロン(R1881、NEN Life Science Products)で16時間処理した。ARのChIPは、対になったエタノール処理済試料およびR1881処理済試料において行った。ERGのChIPには、対応する通常の培地中で増殖させたLNCaP、VCaP、RWPE+ERG、およびRWPE+GUS細胞を用いた。
【0135】
ChIP−on−Chip解析 以前に記載されるように(Yu et al.,Cancer research 67,10657−10663 2007)、Agilentのプロモーターアレイ(−8kb上流〜2kb下流)を用いてChIP−on−Chip解析を行った。スライドウィンドウを横断するスコアリングスキームを用いて、ChIPで濃縮された領域を同定した。各プローブごとに、そのプローブを囲むウィンドウ内の全プローブのスケーリング済log−ratio値を平均化することによって(xDev、Agilentソフトウェアによるシングルアレイエラーモデルから算出)、このプローブを囲む400bpのウィンドウをスコアと見なして割り当てた。各スコアにP値を割り当てるために、スコアが正常に分布していると仮定し、スコアの上位5%および下位5%を排除した調整済みのスコアセットから分散および平均(ゼロに近い可能性が高い)を推定した。P値<0.01のウィンドウがChIPで濃縮された領域であると判定し、最も近い遺伝子を特定するためにさらにヒトゲノムにマッピングした。
【0136】
ChIP−Seq 製造者のプロトコルに従って、Genomic DNA Sample Prep Kit(Illumina)を用いてシーケンシングのためにChIP試料を調製した。標準的な製造者の手順に従って、Illumina Genome Analyzerを用いてChIPシーケンシングを行った。Illuminaの解析パイプラインによりシーケンス画像の原データを分析し、ELANDソフトウェア(Illumina)を用いてマスキングされていないヒト参照ゲノム(NCBI v36、hg18)にアライメントし、25〜32bpの配列読み取り値を産出した。
【0137】
ChIP−Seqデータの解析 最初に、各試料に一意的にマッピングされた読み取り値がいくつあるかをカウントし、2つのカウントの比を正規化係数として用いて、両方の試料で使用可能な読み取りの合計数を同レベルにした。次に、一意的にマッピングされた各読み取り値を一方向に伸長し、各試料において200bpの仮想DNA断片(HDF)を形成した。200が、試料調製(175〜225bp)の間にサイズ選択されたDNAピースの平均長さであると推定される。
【0138】
刺激試料対非刺激試料に濃縮が見られないという帰無仮説のもとでは、両方の試料からの読み取り値が、同じポアソン分布に従うゲノムに当てはまると推定される(非刺激試料における読み取りカウントに補正後)。全ゲノムにわたる平均シーケンシング深度をバックグラウンド比の推定値r0として用いた。各対象範囲領域において2つの試料間の読み取りの差が観察される確率を数値的に算出した。Bonferroni補正したP値0.001を用いて、どの対象範囲領域が有意に濃縮されているかを判定した。
【0139】
濃縮された領域がどこから始まって終わるのかを特定するために、HMMを適用した。具体的には、全ゲノムを25bpのビンに分割し、2つの試料の各ビンにおいて読み取り対象範囲をカウントした。2つの状態は、濃縮された領域およびバックグラウンドである。観察されたデータは、HDFの対象範囲差である。濃縮された領域において、刺激試料にはHDFの濃縮が見られるが、非刺激試料には見られないであろうと予想した。したがって、この差は、2つの異なるポアソン分布の結果であると推定される(比率r1およびr2、r1>r2)。バックグラウンドにおいて、差は2つの同一のポアソン分布(比率r0)に由来すると推定される。遷移確率は、経験的に予測される。HMMの出力から、濃縮された領域にあるという事後確率に基づいて領域を選択する。ビンにおけるその最大読み取りカウントが、Bonferroni補正したP値0.001に相当する閾値(バックグラウンド比r0で2つのポアソン分布の差を用いて算出)を超えない外部領域を除外する。
【0140】
結合部位モチーフ解析 MatInspectorパッケージを用いて既知の転写因子結合部位(TFBS)の探索を行った(Cartharius et al.,Bioinformatics(Oxford,England)21,2933−2942 2005)(Genomatix Software、GmbH、Munich,Germany)。過剰出現されるTFBSを同定するために、ChIPで濃縮された領域と、ChIPで濃縮された元の領域内の全塩基をランダムにシャッフルすることによって得られた対照配列の両方において、モチーフスキャンを行った。これらの2種類の領域における各TFBSの過剰出現の有意性を、フィッシャーの直接確率検定のP値によって測定した。モチーフ探索のためのMatInspectorにおける同じデフォルト閾値を、全ての配列および508個全ての個々の脊椎動物TFBSマトリクスに用いた。MEMEを用いて新規モチーフの検索を行った。LNCaPおよびVCaP細胞の両方に重複し、かつARの処理下で差次的発現を示した遺伝子の上流50kb以内の128配列を使用した。
【0141】
遺伝子発現プロファイル解析 2日間VCaP細胞のホルモンを除去し、1%エタノールもしくは10nMのR1881で処理するか、またはLacZ対照アデノウイルスもしくはERGアデノウイルスに感染させた。Trizol(Invitrogen)を用いて全RNAを単離した後、Qiagen RNeasyキット(Qiagen)を用いて精製した。製造者(Agilent)のプロトコルに従って、Agilent Whole Human Genome Oligo Microarraysを用いて発現プロファイリングを行った。
【0142】
Affymetrix GeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Arraysを用いた0時間、4時間、および16時間DHT処理に供した除去済LNCaP細胞をプロファイリングする経時的な遺伝子発現データセットを、NCBI GEOデータベース(GSE7868)からダウンロードした。最新のプローブマッピングを用いたRMAアルゴリズム(Irizarry et al.,Biostatistics(Oxford,England)4,249−264 2003)を使用してCELの原データを分析し、調整済みのベイズt統計値(Baldi and Long,Bioinformatics(Oxford,England)17,509−519 2001)を用いて0時間に対する各時点での差次的発現レベルを算出した。
【0143】
配列保存性解析 ARの濃縮された領域をChip−Seqにより同定し、それらの中心にアライメントした。phastConsスコア(Siepel et al.,Genome research 15,1034−1050 2005)を検索し、各位置で平均化した。
【0144】
遺伝子セット濃縮解析(GSEA) Agilentの全ヒトゲノムアレイにより、AR処理VCaP、ERGアデノウイルス感染VCaP、および対照細胞の発現プロファイリングデータを生成した。対照と比較した実験細胞における遺伝子発現の倍数変化を算出し、AR処理細胞において少なくとも4倍の変化を有する遺伝子をAR制御遺伝子セットとして定義した。対照と比較したERGアデノウイルス感染VCaP細胞における遺伝子発現の倍数変化を用いて遺伝子を予めランク付けし、GSEAプログラム(Subramanian et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 102,15545−15550 2005)にインポートし、そのデータにおいてAR制御遺伝子セットが濃縮されるかどうかを調べた。
【0145】
定量PCR 以前に記載されるように(Yu et al.,Cancer cell 12,419−431 2007a)、Applied Biosystems 7300 Real Time PCR機上でPower SYBR Green Mastermix(Applied Biosystems)を用いてQ−PCRを行った。全てのプライマーは、Primer3を用いて設計し、Integrated DNA Technologiesにより合成し、表8に列挙される。全てのPCR実験を3通り行った。
【0146】
共免疫沈降法およびウエスタンブロット法 10%FBSを添加したDMEM−GlutaMAX(Invitrogen、Carlsbad,CA)中で、VCaP細胞を80%コンフルエンスまで増殖させた。ホルムアルデヒドでクロスリンクを行うかまたは行わずに細胞を採取し、続いて核を単離した。TBSで2回洗浄した後、プロテアーゼ阻害剤(Roche Applied Science、Indianapolis,IN)を含むRIPA緩衝液中に核を溶解し、超音波分解した。溶解物を遠心分離し、抗体を用いた共免疫沈降に用いた。共免疫沈降に使用した抗体は、 抗AR(ポリクローナル(PG21)、Millipore)、抗ERG(ポリクローナル、Santa Cruz)、対照抗体(ウサギIgGポリクローナル、Millipore)であった。Labvision (Thermo scientific、Fremont,CA)のマウスモノクローナル抗AR抗体(AR441)をウエスタンブロット実験に用いた。
【0147】
RNA干渉 非標的siRNA(D−001210−01、Dharmacon)、ERGの両方のアイソマーに特異的なsiRNA(D−003886−01、Dharmacon)、TMPRSS2−ERG融合転写物、および野生型ERG(UGG UCA GAG AGA AGC AAU A;配列番号43)でVCaP細胞を処理した。
【0148】
細胞増殖およびWST細胞増殖アッセイ DMEM− GlutaMAX (Invitrogen、Carlsbad,CA)培地中の24ウェルプレート(5×10細胞/ウェル)でVCaP細胞を増殖させた。細胞は、アデノ−ERGウイルスまたはアデノ−LacZ対照ウイルス(Tomlins et al.,Neoplasia(New York,NY)10,177−188 2008)に感染させる前に、活性炭処理済10%FBSを含むフェノールレッド不含DMEM中で48時間アンドロゲンを枯渇させた。エタノールに溶解したR1881を最終濃度1nMで用いた。処理後48時間にアッセイを行った。細胞カウントアッセイでは、細胞をトリプシン処理し、Z2 Coulter粒子カウンターおよびサイズアナライザー(Beckman Coulter、Fullerton,CA)を使用してカウントした。製造者の指示(Roche applied science、Indianapolis,IN)に従って、WST−1試薬を用いた細胞増殖アッセイを行った。24ウェル培養プレート上で反応を行い、SpectraMax M5プレートリーダー(Molecular Devices、Sunnyvale,CA)を使用した読み取りのために溶液を96ウェルプレートに移した。
【0149】
細胞浸潤アッセイ 以前に記載されるように(Yu et al.,Cancer cell 12,419−431 2007a)、改良された基底膜チャンバーアッセイを用いて細胞浸潤を実施した。簡潔に述べると、24ウェル培養プレートのインサートに存在する基底膜マトリクス(EC matrix, Chemicon)上に等しい数の指定された細胞を播種し、化学誘引物質としてウシ胎仔血清を下のチャンバーに加えた。48時間後、非浸潤細胞およびECマトリクスを綿棒で除去した。浸潤細胞をクリスタルバイオレットで染色し、写真を撮影した。インサートを10%酢酸で処理し、560nmで吸光度を測定した。
【0150】
B. 結果
ARによる占有のゲノムランドスケープ 台頭するChIP−Seq技術(Barski et al.,Cell 129,823−837 2007、Johnson et al.,Science(New York,NY 316,1497−1502 2007、Mikkelsen et al.,Nature 448,553−560 2007、Robertson et al.,Nature methods 4,651−657 2007)を利用して、2つのアンドロゲン感受性前立腺癌細胞株においてARが結合したゲノム領域を特定した。これらは、最も一般的な前立腺癌の遺伝子融合であるTMPRSS2−ERGを内部に有するVCaP細胞(Tomlins et al.,Science 310,644−648 2005)と、ERG融合に対して陰性であるがETV1の潜在的転移に対して陽性であるLNCaP細胞(Tomlins et al.,Nature 448,595−599 2007)とを含んでいた。ChIP−Seq実験において濃縮されたゲノム領域を特定するために、ChIP−Seqピーク検索用のHidden Markov Modelベースのアルゴリズムを適用したプログラムであるHPeakを使用した。結果は、ChIPSeq実験の技術的複製と生物学的複製との間に高い再現性があることを示した(図8)。アンドロゲンの非存在下では、基本的AR結合活性のレベルは非常に低いが、アンドロゲン処理を行うと、ARは約10倍多くのゲノム領域に結合し、より強い濃縮を示した(図1A、表1)。HPeakを使用して対応するエタノール処理済対照試料に正規化した後、アンドロゲン処理したLNCaPおよびVCaP細胞において、それぞれ、合計37,439個および12,965個のAR結合ピークが検出された。
【0151】
以前に報告されたAR標的遺伝子が多数同定された。例えば、FKBP5は、遠位エンハンサーを介してARによって制御されることが知られており(Magee et al.,Endocrinology 147,590−598 2006)、以前にChIP−on−Chipによって上位のAR標的遺伝子として検出されている(Bolton et al.,Genes&development 21,2005−2017 2007)。FKBP5は、LNCaP細胞およびVCaP細胞の両方において最適な標的遺伝子として同定され、単一の25bpスライドウィンドウにマッピングされた最多読み取り数は、それぞれ1771および669であった(図9)。また、PSA遺伝子の十分に定義されたエンハンサーにChIP−Seqによって鋭いAR結合ピークが検出され、PSAプロモーターに小さな第2のピークが見られた(Jia and Coetzee, Cancer research 65,8003−8008 2005)(図1B)。さらに、LNCaP細胞とVCaP細胞とのAR結合領域の比較により著しい重複が明らかになった:HPeakによって規定される25bpウィンドウの解像度で、VCaP細胞のAR結合ゲノム領域の約61%も、LNCaP細胞でARをリクルートする(図1C)。総合すると、これらの結果は、AR結合部位の同定におけるChIP−Seqアッセイの正確性を立証するものである。
【0152】
限られた数の遺伝子についての以前の研究は、遠位エンハンサーを介したARによる標的遺伝子の制御を支持している(Bolton et al.,2007、上記参照)。ゲノムスケールでARによる占有のパターンを評価するために、AR結合領域の中間点から最も近い遺伝子の転写開始部位(TSS)までの距離を測定した。LNCaP細胞内で同定された全AR結合領域のわずか5%が、標的遺伝子のTSSに近接して位置する(表2)。いくつかの結合部位はTSSの100kb以上上流にある一方、結合部位の約50%は遺伝子内領域内にあり、プロモーター、エンハンサー、または遺伝子内要素によって媒介されるアンドロゲン制御機構の多様性を示唆している。LNCaP細胞とは対照的に、遥かに高い割合(14%)のAR結合部位がVCaP細胞のプロモーター領域内にあり(図1D)、TMPRSS2−ERG遺伝子融合を内部に有するVCaP細胞における細胞株特異的プロモーターの媒介による標的遺伝子の制御を示唆している。
【0153】
AR結合部位のモチーフ解析 ARの好ましいコンセンサス結合配列を特定するために、ChIP−Seqによって同定されたAR結合領域を、MatInspectorを使用して、Genomatixデータベース内の脊椎動物転写因子のうち全部で508個の予め定義されたコンセンサス配列マトリクスの発生について調べた。このスクリーニングにより、AR結合部位において最も有意に濃縮されたモチーフとして15bpの基準AREが発見された(表3):LNCaPからの最大36.1%のAR結合ピーク、およびVCaPからの33.2%が、少なくとも1つのARE部位を含む(表4)。ARE部位の発生は、AR結合ピークの高さによって示されるARの濃縮と確実に相関している(r=0.87、P<0.001):ピークの高さによって上位10%にランク付けされたAR結合部位の最大60%がAREを含む(図1E)。さらに、いくつかのAR結合ピークは、1つより多くのAREを含み、ピーク当たりのARE部位の平均数もピークの高さと確実に相関しており(r=0.93、P<0.001)、転写因子をリクルートする際のARE部位の重要性をさらに裏付けるものであった。遺伝子発現プロファイリングによって定義されたアンドロゲン制御遺伝子内のAR結合部位の分析(Wang et al.,Molecular cell 27,380−392 2007)により、ピークの高さとアンドロゲン応答性との確実な相関性(r=0.72、P<0.001)が明らかになった(図1F)。
【0154】
ARE部位以外にも、AR結合配列のモチーフスキャンによって、フォークヘッド転写因子(Heemers and Tindall,Endocrine reviews 28,778−808 2007)等の以前に特徴付けられたAR共因子を含む、他の転写因子の結合モチーフの有意な(フィッシャーの直接確率検定によるP<1×10−158)濃縮が同定された(表3)。ETSファミリー結合モチーフは、2番目に有意に(フィッシャーの直接確率検定によるP<1×10−300)濃縮されたモチーフであることが分かった:ARE部位の発生率33%および36%と比較して、それぞれ、VCaPのAR結合ピークの約29%およびLNCaPの27%がETS部位を含む(表4)。これらの結果は、ARとETS遺伝子の融合産物ERGとは、特に、VCaP細胞等の、TMPRSS2−ERGおよびARの両方を発現する細胞において、共通するセットの配列に結合し得ることを示唆している。ARおよびERG結合モチーフの共局在化をさらに裏付けるために、AREおよびETS部位の両方を含む1,422個のAR結合領域のサブセットを分析した。これらの配列の51%において、AREおよびETSモチーフは、互いの50bp以内にある。
【0155】
次に、対応する転写因子の未知のコンセンサスモチーフを予測するのにChIP−Seqデータが有用であり得るかどうかを調査した。最初に、種間のAR結合配列の分析により、ピークの中心に高い保存が示され、それは転写因子結合座位が系統発生的に保存されることが多いという考えと一致するものであった(図10)。次に、LNCaPとVCaPとの間で重複し、かつアンドロゲン応答遺伝子にマッピングする128AR結合ピークのサブセットにおいて、MEME(Multiple Em for Motif Elicitation)Programによる新規モチーフ探索により(Wang et al.,Molecular cell 27,380−392 2007)、基準ARE部位に対して著しい類似性を有する「memeARE」と名付けられた頻繁に発生するコンセンサスモチーフが同定された(図1G)。
【0156】
AR結合は遺伝子発現と相関する。AR結合と遺伝子発現のアンドロゲン制御との関連性を調査するために、上位のAR結合遺伝子を調べた。FKBP5の他に、LNCaP細胞内のさらなる上位5つの標的は、C6ORF81、TACC2、CUTL2、およびSLC43A1であり、それらは全て、VCaP細胞における上位10個のAR結合標的にも含まれる。特徴付けされていない転写物であるC6ORF81を除くこれらの遺伝子は全て、大規模な多腫瘍マイクロアレイデータセットにおいて他の腫瘍型と比較して前立腺癌における著しい過剰発現を示し(図11)、これらの遺伝子が比較的「前立腺特異的」であることが示唆された。
【0157】
再発性遺伝子融合と関連してAR結合を確認するために、前立腺癌において以前に報告されている5’遺伝子融合パートナー上のARによる占有を調べた。ARは、TMPRSS2、C15ORF21、HERV−K、およびSLC45A3を含む、アンドロゲン感受性5’融合パートナー遺伝子全ての制御要素に結合する(Tomlins et al.,Nature 448,595−599 2007)(図2A〜D)。さらに、各標的遺伝子に特異的なプライマーを用いた従来のChIP−PCRにより、ChIP−Seqアッセイによって検出されたAR結合が確認された(図2A〜Dの挿入図)。一方、アンドロゲン感受性ではないが遍在的に発現される5’融合パートナー(Tomlins et al.,Nature 448,595−599 2007)であるHNRPA2B1の制御領域内では、融合産物の上方制御をもたらし得る特徴であるARの占有は検出されなかった(図2E)。RNA PolIIおよびヒストンH3リシン4トリメチル化(H3K4me3)に対する抗体を用いたChIP−Seq解析によって、HNRPA2B1プロモーターの活性かつ解放的なクロマチン構造が確認された(図2E)。
【0158】
次に、ゲノムスケール上でAR結合をアンドロゲンによる発現制御と相関させるために、LNCaP前立腺癌細胞の発現マイクロアレイ試験(Wang et al.,2007、上記参照)によって特定されるアンドロゲン制御遺伝子上のAR結合の過剰出現を調べた。結果は、アンドロゲン応答遺伝子のゲノム領域において実質的により多くのAR結合を示した(図2F)。アンドロゲン処理の初期(4時間)と後期(16時間)の時点で、この濃縮に大きな違いは見られなかった。AR結合領域を含むアンドロゲンによって誘導される遺伝子が、アンドロゲンによって抑制される遺伝子よりも高い割合で観察され(図2G)、ARの転写活性因子としての主な役割を裏付けた。ARが結合したアンドロゲンによって誘導される遺伝子の割合は、アンドロゲン処理4時間後の85%から16時間後には77%まで減少したのに対し、アンドロゲンによって抑制される遺伝子の割合は、初期および後期の時点の両方とも約60%と実質的に同じままであった。VCaP細胞に、ARの占有とアンドロゲン応答性に同様の相関が観察された(図12)。
【0159】
AR結合遺伝子の機能的アノテーションを得るために、OncomineのMolecular Concepts Map(MCM)(Rhodes et al.,Neoplasia(New York,NY 9,443−454 2007)内の15,000個を超える分子概念または生物学的相関において、ARに占有された上位3000個の遺伝子の濃縮について分析した。結果は、VCaP内のAR結合遺伝子を、LNCaP細胞内のAR結合遺伝子、およびインビトロまたはインビボの両方の複数のアンドロゲン制御遺伝子セットと有意に(P<1.0×10−100)リンクする濃縮ネットワークを示した(P<1.0×10−10)(図3A、表5)。最も濃縮された(P<1.0×10−20)分子概念は、胚性幹細胞または転移性前立腺癌においてポリコーム群タンパク質によってサイレンシングされる遺伝子セットであり、アンドロゲンシグナル伝達と正常な細胞分化のプロセスとの関連性を裏付けるものである。アンドロゲン非依存性の転移性前立腺癌においてアンドロゲンシグナル伝達の減少が観察されたことと一致して(Tomlins et al., Nature genetics 39,41−51 2007)、「転移性または高悪性度の腫瘍における遺伝子の低発現」に相当する遺伝子発現の概念を伴うAR結合の高度に有意な濃縮(P<4.0×10−15)が観察された。MCM解析から、前立腺癌におけるAR結合遺伝子のERG過剰発現シグネチャーへの新規リンク(P<4.0×10−13)が明らかになり、ARとERG制御経路との潜在的な関連性が示唆された。要約すると、AR結合遺伝子は、アンドロゲン感受性前立腺腫瘍の亜型、病態、ERGの発現、および患者の生存率と有意に(P<2.0×10−10)関連している(表5)。AR結合遺伝子を用いた遺伝子発現データベースの階層的クラスタリングのヒートマップを図6に示す。
【0160】
前立腺癌細胞におけるゲノムワイドなERGによる占有 AR媒介性転写経路とERG媒介性転写経路との潜在的なリンクを調査するために、TMPRSS2−ERG遺伝子融合を含むVCaP細胞においてERGのChIP−Seqを行った。陰性対照実験として、ERG融合に陰性であり、そのため非常に低レベルのERGを発現するLNCaP細胞において、ERGのChIP−Seqも実施した。VCaP細胞に42,568個のERG結合ピークが同定されたのに対し、LNCaP細胞には、バックグラウンドレベルを表すわずか608個のERG結合領域があったのみであった(表1)。さらに、ChIP−Seqは、MMP3、MMP9、PLAT、およびPLAUを含む以前に報告されている標的遺伝子(Tomlins et al.,Neoplasia(New York,NY 10,177−188 2008)上でERG結合を検出することに成功した(図3B)。より大きな規模でERG結合を遺伝子発現と相関させるために、異所性ERGの過剰発現によって差次的に制御される遺伝子上のERG結合の過剰出現を調べた(Tomlins et al.,2008、上記参照)。結果は、ERG制御遺伝子のゲノム領域にERG結合の濃縮を示した(図14)。
【0161】
次に、RefSeqから最も近い遺伝子のTSSまでERG結合部位のゲノム距離を測定した。LNCaPのAR結合部位のわずか5%およびVCaPのAR結合部位の14%がプロモーター領域にマッピングし、ERG結合部位の約34%が標的遺伝子のTSSに近接して位置する(表2)。これは、プロモーター媒介性のERG制御ではなく(Tomlins et al.,2008、上記参照)、主としてエンハンサー媒介性であるAR制御(Wang et al.,2007、上記参照)の理解と一致する。さらに、VCaPにおけるAR結合部位の分布は、LNCaPにおけるエンハンサー優勢のAR結合パターンからVCaP細胞におけるよりプロモーター優勢のERG結合の分布への全体的なシフトを示しており(図3C)、後者においてこれらのプロモーターにARをリクルートする際のERGの潜在的役割を示すものであった。
【0162】
ERG結合活性をさらに調べるために、異所性ERG遺伝子の融合産物(RWPE+ERG)またはGUS(β−グルクロニダーゼ)対照(RWPE+GUS)の安定した過剰発現を示すRWPE良性前立腺上皮細胞においてERGのChIP−Seqを行った。RWPE+ERG細胞に10,765個のERG結合ピークが観察され、RWPE+GUS対照細胞に検出されたものよりも約10倍多かった。非特異的結合を除去するために、RWPE+ERG細胞におけるERG結合ピークを25bpの各スライドウィンドウでRWPE+GUS対照におけるピークと比較したところ、RWPE+ERG細胞に特異的なERG結合領域は6,685個となった。これらのゲノム領域の58%も、VCaP細胞において内因性ERGをリクルートした(図3D)。VCaPには、RWPE+ERG細胞の異所性ERGの結合ピークよりも約30,000個多い内因性ERGの結合ピークが存在し、内因性の環境においてERGがその標的遺伝子に完全にリクルートするための追加補因子の使用を示唆している。VCaPおよびRWPE+ERG細胞の両方におけるERG結合領域のモチーフ解析により、最も有意に濃縮されたモチーフとしてETSファミリー結合部位が明らかになり(表4)、一方、AREは、AR結合ピークにおいて最も濃縮されたモチーフであり、NRSF結合モチーフがNRSF結合部位に最適である(Johnson et al.,Science(New York,NY 316,1497−1502 2007)ことが分かり、そのためChIP−Seqデータの特異性を支持していた。
【0163】
ERG媒介性経路についての理解を深めるために、VCaP細胞内でERGに占有される遺伝子の濃縮MCM解析(図15および表6)を行った。最も有意な(P<1.0×10−100)濃縮ネットワークが、「VCaPにおけるERG結合」(索引表照会)、「RWPE+ERGにおけるERG結合」、および「ETS結合モチーフ」の分子概念を相互接続した。さらに、ERGに占有される遺伝子は、ETS陽性前立腺癌をETS陰性腫瘍と区別する遺伝子と有意に重複する。また、ERGに占有される遺伝子は、転移性前立腺癌、または膀胱癌、乳癌、退形成乏突起膠腫、およびメラノーマ等の他の固形腫瘍のより侵襲性の高い形態において過剰発現される遺伝子とも重複する。これは、TMPRSS2−ERG陽性前立腺癌が、より高い侵襲性の経過を有するという意見が増えていることと一致している(Clark et al.,Oncogene 27,1993−2003 2008、Demichelis et al.,Oncogene 26,4596−4599 2007、Furusato et al.,Mod Pathol 21,67−75 2008、Nam et al.,British journal of cancer 97,1690−1695 2007、Rajput et al.,Journal of clinical pathology 60,1238−1243 2007、Wang et al.,Cancer research 66,8347−8351 2006)。ERG結合遺伝子に関する最も強力な(P<1.0×10−100)濃縮ネットワークにあるのは、「LNCaPにおけるAR結合」および「VCaPにおけるAR結合」の概念であり、前立腺癌におけるこれら2つの転写因子間のリンクについて最初の証拠を提供する。
【0164】
ARおよびERGは、多くの標的遺伝子を共占有する。潜在的なARおよびERGによる標的遺伝子の共占有を調べるために、各転写因子が結合したゲノム領域を25bpスライドウィンドウごとに重複について比較した。LNCaPおよびVCaPのAR結合領域の61%が重複しており、AR結合領域の約44%が、VCaP細胞内でERGが結合した領域と重複する(図4A)。しかしながら、LNCaPのAR結合領域のわずか16.6%がVCaP細胞のERG結合部位と重複しており、細胞株間での違いが示されている。AR結合領域およびERG結合領域は、全ヒトゲノムの0.1%および0.7%未満を占めており、したがって、この低い割合が重複する可能性は極めて低いため、AR結合領域とERG結合領域との間に観察された重複には重要性がある。この可能性は、ARが主にエンハンサー要素に結合し、ERGが標的遺伝子のプロモーターに結合するという事実によってさらに減少する。ARとERGの重複がランダムな事象ではないことを統計的に裏付けるために、ARまたはERGのいずれとも関連性が示されていない神経特異的転写因子であるNRSFのChIP−Seq由来結合部位(Johnson et al.,Science(New York,NY 316,1497−1502 2007)を対照として用いた。ARまたはERGのいずれかとNRSFとの結合領域の重複は2%未満である。したがって、AR結合部位とERG結合部位の重複は、それらのNRSF結合領域との重複よりも有意に(カイ二乗検定によるP<0.0001)高いものである。
【0165】
単にARおよびERGの両方が活発に転写される遺伝子に結合するので、それらが標的領域を共占有する、という可能性を除外するために、主として活発に転写される遺伝子のTSSの近くに結合するH3K4me3およびRNA PolIIのChIP−Seq解析(Barski et al.,Cell 129,823−837 2007)を行った。LNCaPのAR、VCaPのAR、およびVCaPのERG結合領域のそれぞれ4.3%、14%、および31%が、RNAのPolII結合部位と重複することが観察された(図4A)。ARとPolIIの重複は、ERGとPolIIの重複よりも実質的に低かった。本発明は、特定の機構に限定されるものではない。実際、機構を理解することは、本発明を実施するために必ずしも必要ではない。それにもかかわらず、結果は、AR結合領域のわずか14%がRNA PolIIと重複するが、実質的により多くの(44%)AR結合領域がERG結合部位と重複することを示しており、そのため、発現遺伝子への結合以外の機構に起因するそれらの共占有が示唆される。したがって、PolIIとの重複の量は、特異的転写因子の活性なTSSへの結合を実際に反映するが、ARとERGの重複は、それらのPolIIとの重複よりもはるかに高く、そのため、それらの重複はPolII結合を有する発現遺伝子とのみ関連するという機構が除外される。このことは、ARおよびERGの、活性遺伝子のH3K4me3マークとの同様の重複パターンによってさらに裏付けられる(図4A)。さらに、LNCaPのAR(4.3%)結合部位よりも遥かに高い割合(14%)のVCaPのAR結合部位がPolIIまたはH3K4me3のいずれかと重複することから、VCaP細胞におけるプロモーター媒介性のAR制御の増強が示唆される(図3C)。
【0166】
標的遺伝子におけるARおよびERGの共占有を裏付けるために、異なる染色体上に位置するNDRG1、C60rf81、LOC400451、ZBTB16、およびCUTL2を含む、ARおよびERGの両方が結合した5つの遺伝子からなるセットをランダムに選択した。結果は、これらの標的遺伝子の近くでAR結合領域とERG結合領域の明らかな重複を示した(図4B)。これらの遺伝子の各々に特異的なプライマーを用いて、従来のChIP−PCRアッセイによりARとERGの結合を確認した(図4C)。合成アンドロゲンで処理したVCaP細胞においてAR結合の濃縮をビヒクル処理細胞と比較して評価した。ERG結合の濃縮は、ChIPに用いたIgG対照と比較して評価した。
【0167】
TMPRSS2−ERG、野生型ERG、およびARを接続するフィードバックループ。VCaP細胞においてERGが強力に結合した遺伝子の1つはARであった(図5A)。そのため、ERGによるARの制御は、その間のフィードバックループを示唆し得る。従来のChIP−PCRアッセイにより、VCaP細胞のAR座位上のERG結合を確認した(図5B)。また、異所性ERGの過剰発現アッセイおよびRNA干渉アッセイの両方によって、ARの転写レベルがERGによって負に制御されることが示された(図5C、図16)。さらに、VCaP細胞の免疫ブロット分析により、ERG過剰発現の際のARタンパク質の明らかな抑制が示された(図5D)。AR遺伝子におけるARおよびERGの共占有の調査により、ARが自身のゲノム制御領域に結合していることが明らかになった(図5E)。従来のChIP−PCRアッセイにより、アンドロゲン処理したVCaP細胞において、ビヒクル処理細胞と比較してAR自身における強い濃縮が示された(図5F)。さらに、合成アンドロゲンで処理したホルモンを枯渇させたVCaP細胞は、ビヒクル処理細胞と比較して有意に少ない量のARを発現し(図5G)、この抑制は、処理後24時間で10培以上に達した(図17)。免疫ブロット分析により、このARの負のフィードバックループがタンパク質レベルでさらに確認された(図5H)。ARとERGの相互制御、そしてARの自己制御が観察されたため、ERGが自身を制御し得るかどうかを調査した。ChIP−Seq解析により、ERG遺伝子のゲノム座位に複数のERG結合ピークが示された(図5I)。ERGゲノム領域内の最も高い結合ピークに隣接するプライマーを使用した従来のChIP−PCRにより、VCaP細胞に強力なERG結合が確認された(図 5J)。ERG発現の自己制御を調査するために、エクソン2から始まる報告されている停止コドンまでの切断型ERGをVCaP細胞で過剰発現させ、TMPRSS2−ERG、野生型ERG、およびその両方に特異的なプライマーを用いて対応する発現の変化を測定した(図5K)。結果は、前立腺癌に頻繁に見られる融合産物である切断型ERGは、野生型ERGの発現を誘導するが、TMPRSS2エンハンサーの制御下にあるTMPRSS2−ERGの発現は誘導しないことを示した。融合ERGを過剰発現させ、野生型ERGを評価することによって、良性前立腺上皮細胞(PREC)およびLNCaP前立腺癌細胞においてこの知見を確認した(図18)。それと一致して、アンドロゲン処理後に、TMPRSS2−ERGと比較して野生型ERGの上方制御の遅延が観察され、TMPRSS2−ERGに与える一次的影響を介してアンドロゲンが野生型ERGに与える二次的影響が示された(図19)。さらに、TMPRSS2−ERGの特異的RNA干渉は、野生型ERGの抑制をもたらしたが、野生型ERGの特異的RNA干渉は、TMPRSS2−ERGの発現に影響を与えなかった(図5L)。ERG変異体のRNA干渉も、VCaP前立腺癌細胞の浸潤の潜在性を大きく低下させた(図20)。さらには、良性前立腺組織、局在化前立腺癌および転移性前立腺癌のパネルにおける3つのERG変異体のqRT−PCR解析により、ETS遺伝子融合を発現するヒト前立腺癌のサブセットにおける野生型ERGの誘導が示された(図5M)。したがって、TMPRSS2−ERG融合を内部に有する前立腺癌のサブセットも、固有の分子亜型を定義する野生型ERGの発現を誘導し得る。総合すると、TMPRSS2−ERG、野生型ERG、およびARの相互制御および自己制御は、AR−ERG制御ネットワークおよび前立腺癌の進行のホメオスタシスに関与する相互接続された転写「スイッチ」を形成する。
【0168】
前立腺癌組織におけるERGおよびARの制御回路。インビトロ細胞株モデルを用いて、ARおよびERGの相互接続制御ネットワークを実証した。その関連性をインビボでさらに調査するために、TMPRSS2−ERG遺伝子融合を内部に有し、かつ高レベルのARを発現するヒト前立腺腫瘍のChIP−Seq解析によりARおよびERGの共占有を検証した。多くの技術的な課題のために、当業界において、(細胞株とは対照的に)ヒト腫瘍における転写因子のゲノムワイドなマップを開発することは困難であった。ヒト凍結組織検体に由来するDNAに最適化したChIP−Seqプロトコルを開発した。ERG+、AR+ヒト前立腺癌組織のChIP−Seq解析により、12,036個のAR結合領域および6,967個のERG結合領域を検出することができた(表1)。細胞株のデータによって示されるように、PSAおよびTMPRSS2遺伝子の以前に定義されたエンハンサー要素にAR結合ピークが同定された(図21)。
【0169】
組織のAR結合領域とERG結合領域の比較により著しいな重複が明らかになり(44%)、前立腺腫瘍におけるARおよびERGのゲノムワイドな共占有がインビボで立証された(図6A)。この重複の特異性をさらに検証するために、活性な転写のためのヒストンマークであるH3K4me3のChIP−Seq解析を同じ組織において行った。抗H3K4me3抗体が高品質であること、そしてこの活性ヒストンマークが豊富であることに起因して、31,836個の結合領域が観察された。しかしながら、H3K4me3マークがゲノム全体の広い範囲に及んでいたにもかかわらず、これらの領域のわずか5.5%および6.5%が、それぞれ、組織のARおよびERG結合部位と重複するのみであった(図6B)。組織のAR結合領域とERG結合領域との重複は、それらのH3K4me3との重複よりも有意に(カイ二乗検定によるP<0.0001)多かった。また、NDRG1、C6orf81、およびZBTB16を含む、ARおよびERGが共占有するた遺伝子セットをより詳細に調べることにより、組織のARおよびERG結合部位は、VCaPのERG結合部位と重複することが確認された(図6C)。
【0170】
TMPRSS2−ERG、野生型ERG、およびARを接続するVCaP細胞内で検出されたフィードバックループを組織において分析した。ChIP−Seq解析に用いられたのと同じ転移性前立腺癌組織内の個々の遺伝子に対して従来のChIP−PCRアッセイを実施した。抗AR抗体または抗ERG抗体による標的遺伝子の濃縮を、濃縮を有さない対照IgGと比較して評価し、KIAA0066非標的対照遺伝子の3’イントロン領域に正規化した。TMPRSS2エンハンサー上でARの強力な結合が確認された(図6D)。ChIPによる有意な(t検定によるP<0.05)濃縮がAR自身のゲノム領域上で観察された。同様に、ChIP−PCR解析により、前立腺腫瘍のERGおよびAR遺伝子の両方の制御領域上でERG結合が確認された(図6E)。
【0171】
転移性前立腺癌におけるERG結合遺伝子の潜在的機能を検討するために、TSSの近くにERG結合ピークを含む1,534個の遺伝子を選択した。この遺伝子のセットを、Oncomine MCMデータベース内の全ての分子概念または遺伝子セットにおける不均衡な濃縮について比較した(Rhodes et al.,2007、上記参照)。この分析により、高度に有意な重複(P<1.0×10−100)との生物学的相関からなる中核的な転写制御回路が明らかになった:これらは、腫瘍におけるERG結合およびAR結合、VCaP細胞におけるERG結合およびAR結合、ならびに安定したRWPE+ERG細胞におけるERG結合を含む(図6F)。AR+およびERG+組織ならびにVCaP細胞におけるAR結合部位とERG結合部位の重複が高度に有意なものである一方で、ERG陰性LNCaP細胞ではそれらの重複の有意性はかなり低かった(P<1.0×10−50)(表7)。また、組織のERG結合遺伝子とETSモチーフを含む遺伝子との間に著しい重複が観察され、ChIP−Seqによって同定されたERG結合領域におけるETSモチーフの関連する濃縮を支持するものであった。ERG結合遺伝子は、ETS+前立腺癌および転移性前立腺癌において差次的に制御される遺伝子と関連しており、そのうちの最大80%がTMPRSS2−ERG遺伝子融合を内部に有する。このように、組織におけるERG結合遺伝子のMCM解析により、前立腺癌における発現の脱制御と機能的に関連するARおよびERGの中核的な転写制御ネットワークが明らかになった。
【0172】
ERGの過剰発現は、アンドロゲンの非存在下でアンドロゲン感受性前立腺癌細胞の腫瘍特性を維持する。ChIP−Seq実験により、インビトロ細胞株およびインビボ組織の両方にゲノム領域におけるARおよびERGの共占有が示され、そのため、ARおよびERGタンパク質が、標的DNAにごく接近して相互作用するかまたは結合する可能性を示している。この相互作用を実験的に裏付けるために、VCaP細胞において共免疫沈降(co−IP)アッセイを実施した。結果は、ARおよびERGタンパク質は、タンパク質複合体を形成するために互いと直接的には協調しないことを示した(図7A)。しかしながら、タンパク質−DNAのクロスリンキングに続くco−IP分析により、AR沈殿物中にERGタンパク質が検出されたが、対照IgGプルダウンには検出されず、それらの両方が結合するDNAによって媒介されるARとERGタンパク質との間接的な相互作用が示された。
【0173】
ARおよびERGによる標的遺伝子の共占有の機能的結果を調査するために、ERG過剰発現の影響をアンドロゲン刺激の影響と比較した。仮説は、共有された標的遺伝子のセットを制御することにより、ERG過剰発現が何らかのアンドロゲン媒介性の影響を伝え得るというものであった。ホルモンを除去したVCaP細胞のアンドロゲン処理は、細胞カウントおよびWST細胞増殖アッセイによってモニタリングされるように細胞増殖を誘導した(図7Bおよび図22)。ERG遺伝子融合産物の過剰発現は、たとえアンドロゲンの非存在下であっても、実質的にVCaP細胞の増殖を誘導した。同様に、アンドロゲンの使用中止により、予想されたようにアンドロゲン感受性VCaPおよびLNCaP細胞の浸潤能力が減衰し、この阻害は、ERG過剰発現によって一部補助されている可能性がある(図7Cおよび図23〜24)。この共有された機能性の根底にある機構を評価するために、アンドロゲンおよび異所性ERGの過剰発現によって誘導された遺伝子発現の変化について調査した。GSEA(遺伝子セット濃縮解析)による分析により、ARおよびERGに共通の腫瘍特性を付与する可能性がある、ARおよびERG媒介性の遺伝子発現パターンの有意な重複(p<0.001)が明らかになった(図7D)。
【0174】
次に、AR媒介性経路とのクロストークを通して、ERGが、アンドロゲン非依存性の様式でアンドロゲン感受性細胞の増殖を促進することができるかもしれないという仮説を立てた。この仮説を検証するために、アンドロゲン感受性VCaP前立腺癌細胞をGUS対照レンチウイルスまたはERGレンチウイルスに感染させた。ERG(VCaP+ERG)またはGUS(VCaP+GUS)を発現する安定したクローンを選択し、細胞増殖を評価した。VCaP+ERG細胞がVCaP+GUS対照細胞よりも著しく急速に増殖することが観察された:その差は、アンドロゲンの非存在下において特に顕著である(図7E〜F)。VCaP+ERG細胞は、アンドロゲンの非存在下において連続的に増殖することが可能であったのに対し、VCaP+GUS細胞は増殖できなかった。したがって、アンドロゲン非依存性前立腺癌の進行を制御する際に、ERGが非常に重要な役割を果たしている可能性がある。
【0175】
【表10】

【0176】
【表11】

【0177】
【表12】

【0178】
【表13】

【0179】
【表14】

【0180】
【表15】

【0181】
【表16】

【0182】
【表17】

【0183】
【表18】

【0184】
【表19】

【0185】
【表20】

【0186】
【表21】

【0187】
【表22】

【0188】
【表23】

【0189】
【表24】

【0190】
【表25】

【0191】
【表26】

【0192】
【表27】

【0193】
【表28】

【0194】
【表29】

【0195】
【表30】

【0196】
【表31】

【0197】
〔実施例2〕
siRNAによる標的化
ERGまたはTMPRSS2−ERG融合を標的化するsiRNAを設計した。例示的なオリゴヌクレオチドを表9に示す。
【0198】
【表32】

【0199】
〔実施例3〕
ペプチド阻害剤
標的ETSファミリータンパク質(予備試験としてERGタンパク質)と相互作用させるための短鎖ペプチドを同定するために、ファージディスプレイランダムペプチドライブラリーを用いてERG結合パートナーを同定した。N末端のHisタグ融合タンパク質として全長ERGタンパク質がバキュロウイルス発現系に発現され、ニッケルビーズ上で細胞ライセートから精製した。溶出したHis−ERG融合タンパク質で予めコーティングしたイムノチューブ内でファージディスプレイライブラリーをインキュベートした。ERGタンパク質に特異的に結合するペプチドを選択するために、イムノチューブにコーティングしたHis−GUSタンパク質を用いてファージライブラリーを予め選択した。結合親和性および特異性を高めるために4ラウンドの濃縮を実施した。結合したファージを溶出し、ERGタンパク質への結合特異性の検証のために、ファージELISAを用いてコロニーをランダムに選択した(図27a)。
【0200】
相互作用性ファージコロニーのシーケンシングを行い、生物情報学的アプローチを用いて分析し、コンセンサスペプチド配列を同定した。57個のファージコロニーのシーケンシング解析によって、コンセンサスモチーフが明らかになった(図27b)。また、このモチーフを示すファージに濃縮が観察された(第2ラウンドでは20個中5個、第3ラウンドでは20個中16個)。これらの結果は、対象とするタンパク質の相互作用性パートナーを良好に同定するためにファージディスプレイライブラリーを使用することができることを示唆するものである。Haloタグ融合タンパク質として発現されたERG欠失変異体のパネルを用いて、単離されたファージクローンの結合を媒介するERG内のドメインをマッピングした。合計6つのドメイン、すなわち、N末端、ETS、CAE、PNT、CD、およびCTD(Carrere et al.,Oncogene,1998.16(25): p.3261−8)をクローン化し、TNT SP6コムギ胚芽系に発現させた。精製を行わずに、発現反応物をHaloLink Arrayシステムにコーティングし、個々のファージクローンでインキュベートした。ファージカプシドタンパク質を特異的に標的とするCy3標識抗M13抗体によって相互作用シグナルを検出した(図28)。ペプチドLSFGSLPをコードする1つのファージクローンは、全長ERGタンパク質およびETSドメインに強力に結合したが、他のドメインには結合しなかった。対照的に、挿入断片を有さない空のファージはシグナルを産生せず、標的タンパク質が組換えファージに非特異的には結合しなかったことが示唆された。ETSドメインの一連の重複する19個のアミノ酸セグメントを用いたさらなるマッピング試験により、ERGの残基Arg367〜Lys375に対応する9個のアミノ酸を保存するストレッチRALRYYYDKに対する結合部位を特異的に局在化した(図29)。次に、ペプチド結合に特異的に関与するアミノ酸の保存領域を特定した。R(ERG中の残基Arg367)→Kの単一アミノ酸置換により、ファージペプチドの結合が完全に無効となり、R367が、ファージペプチドLSFGSLPとERGとの相互作用にとって重要な残基であることが示唆された。また、この局在化によって、ファージペプチドが、必須転写因子の相互作用に関する立体的競合を介してERGの機能を阻害したことも示された。
【0201】
M13ファージ上に示されたペプチドが、他のファージ成分とは別個にERGと相互作用することをさらに確認するために、合成ペプチドを用いて実験を行った。ETSドメインは、アンドロゲン受容体(AR)に結合するために必要であり、かつ十分であることが示されたため、プルダウンアッセイを用いて、合成ペプチドがETSドメインへの結合に関してARと競合するかどうかを調べた。Halo−ETS融合タンパク質をHaloLink磁気ビーズ上に固定化し、種々の濃度の合成ペプチドLSFGSLPおよび陰性対照としてのランダムペプチドHSKINPTの存在下で、大腸菌系に発現された組換えGST−AR融合タンパク質を用いてインキュベートした。SDS添加緩衝液によりビーズを溶出し、GST−ARに対して特異的な抗GST mAbでブロッティングした(図30)。LSFGSLPを添加すると、ETSドメインへのARの結合が濃度依存性様式で阻害された。対照的に、ランダムペプチドは、ARのETSへの結合を阻止しなかった。これらのデータから、ペプチドLSFGSLPが、AR結合に関与する部位と重複するかまたは隣接するETSドメイン上の部位を占有することが示唆された。
【0202】
ERGに結合するペプチドがERG媒介性浸潤を阻止する能力を調査するために、ERGまたはLACZアデノウイルスで形質導入した前立腺細胞株RWPE−1をTATタグ化ペプチドでインキュベートした。48時間後、2μMの濃度でペプチドLSFGSLPを添加することによりERGによって促進された浸潤が著しく減少されたが、対照細胞と比較すると、ランダムペプチドHSKINPTには減少が見られなかった(図31)。浸潤された細胞の相対数も比色分析アッセイによって定量化した。
【0203】
これらの試験は、ファージライブラリーに由来するペプチドがERGの相互作用経路を特異的に妨げる能力を示している。本発明は、特定の機構に限定されるものではない。実際、機構を理解することは、本発明を実施するために必ずしも必要ではない。それにもかかわらず、ERGタンパク質中のETSドメインの結合を防ぐことによって拮抗性ペプチドが機能することが企図され、それは、下流シグナル伝達経路を活性化するために必要なステップである。
【0204】
図37〜42は、ペプチド阻害剤のさらなる特徴を示す。図37〜45は、ペプチド(例えば、TAT−LSFGSLP、TAT−FTFGTFP、またはTAT−LPPYLFT)が、ERGインタラクトームを阻止し(ETSドメインを介して)、ERGによって促進された細胞浸潤を減衰させ、ERG転写活性を阻止し、細胞増殖を阻害したことを示す。
【0205】
〔実施例4〕
ペプチドの同定
ETSタンパク質の発現および精製 ERG、ETV1、およびETV4等を含むETSファミリー遺伝子のcDNA断片をpDEST10ベクター(Invitrogen)にクローン化する。製造者の指示に従って、Bac−to−Bacシステムに基づいてバキュロウイルスを構築する。昆虫細胞内でタンパク質を誘導し、ニッケルビーズから精製した。
【0206】
ETS特異的ファージペプチドの濃縮 M13ファージディスプレイランダムペプチドライブラリー(New England Biolabs)を精製ETSタンパク質を用いた選択および増幅の5回の連続サイクルで濃縮した。非特異的ファージペプチドを除去するために、ランダムペプチドファージライブラリーを予め清浄するための陰性選択として精製GUSを使用した。
【0207】
逆ファージELISA Maxisorpプレートを精製ETSタンパク質でコーティングする。ブロッキング後、選択したファージおよび陰性対照のクローン(空のファージおよびランダムクローン)を添加し、室温で1時間インキュベートする。洗浄後、結合したファージをHRP標識抗M13抗体(GE Healthcare)で検出する。TMB(Sigma)を添加した後、波長450nmで光学密度(OD)を測定する。
【0208】
ペプチドの合成 ペプチドおよびそれらの誘導体を合成し、AnaSpec(San Jose,CA)の逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製する。
【0209】
インビトロタンパク質合成およびプルダウンアッセイ。製造者のプロトコルに従ってcDNAおよび断片をpFN19Aベクターにクローン化する。インビトロ転写タンパク質をコムギ胚芽発現系(Promega)により生成し、HaloLink磁気ビーズ上に固定化する。洗浄後、ペプチドの存在下または非存在下において、コンジュゲートしたビーズをGST−AR融合タンパク質でインキュベートする。結合したタンパク質をSDS−PAGEにより分析し、抗GST mAb(Sigma)でブロッティングする。
【0210】
表面プラズモン共鳴法。Biacoreシステム(GE Healthcare)を使用してペプチドとETSタンパク質との相互作用を調査する。昆虫細胞由来の精製ETSタンパク質を一級アミン残基を介してセンサチップに共有結合させる。共鳴単位における結合を検出するために、HBS緩衝液中の幅広い濃度の種々の合成ペプチドを注入する。実行後は毎回グリシンでチップ表面を再生する。非線形回帰分析を用いて、単一部位結合モデルに合う平衡結合定数を決定する。
【0211】
モデルおよびペプチド膜貫通効率のモニタリング VCaP細胞および組み込まれたERGまたはLACZウイルスを有するPrECまたはRWPE細胞でTATタグ化ペプチドをインキュベートする。ペプチドをFITCで標識し、蛍光顕微鏡法またはフローサイトメトリーのいずれかにより膜貫通効率をモニタリングする。
【0212】
細胞増殖、生存率、およびアポトーシスアッセイ 過剰発現シリーズおよび安定ノックダウンシリーズの両方を使用して、標準的な細胞増殖アッセイおよびアポトーシスアッセイ (Chinnaiyan et al.,Cell,1995.81(4):p.505−12;Chinnaiyan et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2000.97(4): p.1754−9;Varambally et al.,Nature,2002.419(6907): p.624−9)を用いてペプチドがTMPRSS2:ETS融合によって促進される前立腺細胞の増殖を阻害する役割を評価する。
【0213】
統計的分析 ETS遺伝子融合を過剰発現する細胞株においてペプチドを制御するERG結合ペプチドによって誘導される表現型を比較するために、基本の生物統計的アプローチを用いる。
【0214】
〔実施例5〕
阻害剤の同定
この実施例は、遺伝子融合の阻害剤をスクリーニングするための方法を説明する。
アンドロゲンシグナル伝達は、前立腺癌における5’および3’遺伝子融合パートナー遺伝子間の近接を誘導する。
【0215】
複数の証拠が、前立腺癌におけるETS遺伝子融合の形成にアンドロゲンシグナル伝達が関与していることを示唆している。(A)TMPRSS2−ETS遺伝子融合は前立腺癌に限定されており、アンドロゲンシグナル伝達は前立腺癌の特徴的な特色である。(B)最近の文献は、アンドロゲンシグナル伝達と本質的に同様であるエストロゲンシグナル伝達が、エストロゲン受容体α結合遺伝子のサブセット間で染色体間の相互作用に関与することを示している(Hu et al.,Proc Natl Acad Sci USA l2008;105:19199−204)。
【0216】
アンドロゲンシグナル伝達が、5’および3’遺伝子融合パートナー間の近接を誘導する染色体間/染色体内の動きをもたらすかどうかを調査した。(C)データは、DHT(ジヒドロテストステロン)によるLNCaP細胞(アンドロゲン感受性ヒト前立腺癌細胞)の処理が、TMPRSS2およびERG座位の間に近接を誘導したことを示した(図32)。LNCaP細胞はTMPRSS2−ERG遺伝子融合を内部に有さないため、TMPRSS2およびERGによる近接誘導実験に有用である。アンドロゲンによって誘導されるLNCaP細胞内のこれらの2つの座位の間の近接は、アンドロゲン受容体(AR)によって媒介される。アンドロゲンによって誘導されるTMPRSS2とERGとの間の近接は、DU145細胞(アンドロゲン非感受性前立腺癌細胞株)には観察されない。
アンドロゲンシグナル伝達とDNA2本鎖の破壊を引き起こす薬剤との組み合わせが、前立腺癌における発癌遺伝子融合の根底にある。
【0217】
アンドロゲン刺激をDNA2本鎖の破壊を引き起こす薬剤と組み合わせることによって、アンドロゲン(例えばDHT)による刺激が遺伝子融合を形成することができるかどうかを調査した。LNCaP細胞のホルモンを除去した後、DHTによる刺激(10nM、12時間)、放射線照射(1または3Gy)、およびフローソーティングを用いた96ウェルプレート内の単一細胞のクローン性増殖を行った。TMPRSS2−ERG融合転写物の存在は、キメラ領域に及ぶSYBRグリーン法およびTaqManアッセイの両方とともに定量的逆転写PCR(QRT−PCR)を用いて判定した。1Gyおよび3Gyを放射したクローンの2.3%(1/43)および25%(3/12)が、それぞれTMPRSS2−ERG融合転写物を内部に有することが観察された(図33A、33B)。陽性LNCaPクローンが、この遺伝子融合を内在的に有するVCaP細胞と同様のTMPRSS2−ERGのレベルを発現した。さらに、TMPRSS2−ERGを発現するLNCaP細胞が、ERG座位で染色体異常を示した(図2C)。
【0218】
前立腺癌におけるAR結合のゲノムランドスケープ
超並列シーケンシング(ChIP−Seq)と組み合わせたクロマチン免疫沈降を用いて(Milliporeからの抗体、06−680番)、LNCaPおよびVCaP前立腺癌細胞株におけるARのゲノムランドスケープを体系的にマッピングした。結果は、ChIP−Seq実験の技術的複製と生物学的複製との間に高い再現性があることを示した。アンドロゲンの非存在下では、基本的AR結合活性のレベルは非常に低いが、アンドロゲン処理を行うと、ARは約10倍多くのゲノム領域に結合し、より強い濃縮を示した(図34A)。以前に報告されたAR標的遺伝子が多数同定された。例えば、予想された通りに、PSA遺伝子の十分に定義されたエンハンサーにChIP−Seqによって鋭いAR結合ピークが検出され、PSAプロモーターに小さな第2のピークが見られた(図34B)。総合すると、これらの結果は、AR結合部位の同定におけるChIP−Seqアッセイの正確性を立証するものである。VCaP細胞のAR結合部位の約61%がLNCaPのAR結合部位と物理的に重複しており、共有されたおよび細胞型特異的なARのリクルートメントを示唆している。
【0219】
次に、AR結合部位におけるコンセンサス配列モチーフの存在を調べた。それらが完全な基準AREを含むか、または半AREを含むか、またはAREモチーフを含まないかに基づいて全てのAR結合部位を分類することにより、完全なAREモチーフを含む結合部位は、いずれのAREモチーフも有さないもの結合部位も高いピークを有していた半AREモチーフを有する結合部位と比べて、有意に(t検定によるp<0.001)高度な濃縮ピークを有していたことが明らかになり、AREがARをリクルートする役割を支持していた。AR結合遺伝子の機能的分類法を得るために、Oncomineデータベースの何千という予め定義された分子概念/遺伝子セットにおいて、AR結合遺伝子の濃縮に関するMolecular Concept Map(MCM)解析を行った。約20,000個の分子概念のうち、合計1462個(約7%)が有意な(P<0.001)濃縮を示した。当然ながら、VCaP細胞内のAR結合遺伝子は、LNCaP細胞内のAR結合遺伝子と有意に重複しており(P<1.0×10−100)、それらは両方ともインビトロまたはインビボでアンドロゲンによって制御される遺伝子と関連していた(P<1.0×10−10)。
【0220】
染色体の相互作用を媒介する際のアンドロゲンシグナル伝達の役割
ChIA−PETは、対象とする転写因子によって媒介される大域的クロマチン相互作用の新規検出のための方法である。図35は、ChIA−PETのストラテジーを説明している。このストラテジーを除去条件およびアンドロゲン刺激条件下でLNCaPおよびVCaP細胞に適用する。ホルムアルデヒドでクロスリンクすることにより、大範囲にわたるクロマチン相互作用を捕獲する。ARに対する抗体(Millipore、06−680番)を用いたChIPにより、超音波分解したDNA−AR複合体を濃縮する。クロマチン複合体の各々における連結したDNA断片を近接ライゲーションによりDNAリンカーと接続させ、Illumina Genome Analyzer IIを用いたシーケンシングのためにペアエンドタグ(PET)を抽出する。得られたChIA−PET配列を参照ゲノムにマッピングして、ARによって共に空間的に接近させられた遠隔クロマチン領域間の関係を明らかにする。ChIA−PET、ChIP−Seq、および遺伝子発現データセットを比較することによって同定された陽性相互作用を、QRTPCR(定量的逆転写PCR)によりさらに検証する。
【0221】
DNA損傷および遺伝子融合を検出することができる細胞デバイス
DNA損傷および遺伝子融合を感知することができる細胞デバイスを開発する。容易に同定可能な表現型またはタグを表示することによってTMPRSS2−ERG遺伝子融合の形成を明らかにするようにLNCaP細胞を遺伝子操作する。例えば、いくつかの実施形態において、ERG遺伝子の一部がルシフェラーゼカセットで置換される(図36)。LNCaP細胞はERG発現を有さないので、遺伝子操作された細胞は、ルシフェラーゼ活性をごく僅かに示すかまたは全く示さない。TMPSS2−ERGは、これまでに同定されている最も頻繁に見られる遺伝子融合であり、高レベルのERG活性をもたらす。染色体転座の形成を引き起こすいずれの処理も、TMPRSS2−ERG遺伝子融合の形成によって明らかにされるように、容易に検出可能なルシフェラーゼ活性をもたらす。細胞デバイスのための代替の設計は、スプリットルシフェラーゼ系を用いることを伴う。例えば、いくつかの実施形態において、それらがTMPRSS2−ERG遺伝子融合と最も一般的に関連するエクソンであるため、TMPRSS2のエクソン1が5’ルシフェラーゼカセットで置換され、ERGのエクソン4が3’ルシフェラーゼカセットで置換される。重要なのは、スプリットルシフェラーゼ系がアッセイに固有のノイズを減少させるということである。
【0222】
遺伝子操作したジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、哺乳動物の細胞におけるゲノム編集のための最適な方法としてますます採択されている(Santiago et al.,Proc Natl Acad Sci USA l2008;105:5809−14)。この方法は、LNCaP細胞を遺伝子操作するために用いられる。この技術は、エンドヌクレアーゼFokIの触媒ドメインに融合されたカスタム設計の異種ジンクフィンガータンパク質(ZFP)DNA結合ドメイン(指定された標的配列に特異的に結合する)を用いる。そのDNA結合依存性エンドヌクレアーゼ活性には、このFokIドメインの二量化が必要である。したがって、2つの個別のZFNは、二量化およびその後のDNA切断を促進するために、正確な配列特異性、空間、および配向で標的DNAストレッチに結合するための対として設計される。細胞内で一時的に発現されると、ZFNは、相同性アームによって隣接されるルシフェラーゼカセットとドナープラスミドを共トランスフェクションすることにより、相同的組換えを介して後に編集することができる内因性標的遺伝子において部位特異的DSBを生成する。アンドロゲンによる刺激および異なる線量の放射線の投与によって、遺伝子操作したルシフェラーゼLNCaPおよびスプリットルシフェラーゼLNCaP細胞がMPRSS2−ERG遺伝子融合を検出する能力を検査する。
【0223】
遺伝子融合/染色体転座を促進または防止する化合物を同定するための低分子化合物ライブラリーのスクリーニング
上述の遺伝子操作したLNCaP細胞を用いて低分子化合物ライブラリーをスクリーニングする。Center for Chemical Genomicsにあるハイスループットケミカルライブラリースクリーニング設備を利用する。最初に、2000個の小分子および天然産物のパイロットスクリーニングを実行し、その結果に基づいて、30,000個の化合物からなるより大規模な摘要をスクリーニングする。化合物添加の18時間前に細胞をトリプシン処理し、Multidrop機器を用いて培地60μl中の384ウェルプレートに分配する。ゼロ時に、化合物を1.5mMのDMSO原液から約5μMの最終濃度で細胞プレートに移す。48時間後、50μlの培地および10μlのSteady−Gloルシフェラーゼ試薬(Promega)を添加することにより発現されたルシフェラーゼ活性を測定する。Pherastarプレートリーダー(BMG Labtech)で試料プレートを読み取る。スクリーニングにおいて各プレートは、検査される320個の化合物と、プレートの各側の外側2カラムに配置された64個の対照ウェルとを含む。「陽性」対照は、遺伝毒性ストレスを引き起こし、エトポシドおよびドキソルビシン等の転座を誘導する薬剤である(Lin et al.,Cell 2009 139:1069)。
【0224】
上述の明細書に記載したすべての刊行物、特許、特許出願、およびアクセッション番号は、参照により、それらの全体が本明細書に組み込まれる。特定の実施形態と関連させて本発明を記載してきたが、請求されるような本発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、本発明に記載される組成物および方法の種々の変形例および変更例は、当業者に明らかであり、以下の特許請求の範囲の範囲内であることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ETSファミリーメンバー遺伝子のETSドメインに結合するペプチドを含む、組成物。
【請求項2】
前記ETSファミリーメンバー遺伝子は、ERGである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ペプチドは、ペプチド配列RALRYYYDK(配列番号1)を含む前記ETSドメインの領域に結合する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ペプチドは、ERGのR367を含む前記ETSドメインの領域に結合する、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記ペプチドは、ERGのアミノ酸R367〜K375に結合する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ペプチドは、アミノ酸配列LSFGSLP(配列番号2)、FTFGTFP(配列番号44)、およびLPPYLFT(配列番号45)を含むペプチドからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ペプチドは、LSFGSLP(配列番号2)からなるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
細胞におけるETSファミリーメンバー遺伝子の生物学的活性を阻害する方法であって、前記細胞を前記ETSファミリーメンバー遺伝子のETSドメインに結合するペプチドに接触させることを含む、方法。
【請求項9】
前記ETSファミリーメンバー遺伝子は、ERGである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ペプチドは、ペプチド配列RALRYYYDK(配列番号1)を含む前記ETSドメインの領域に結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ペプチドは、ERGのR367を含む前記ETSドメインの領域に結合する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ペプチドは、ERGのアミノ酸R367〜K375に結合する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ペプチドは、LSFGSLP(配列番号2)、FTFGTFP(配列番号44)、およびLPPYLFT(配列番号45)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチドは、LSFGSLP(配列番号2)からなるアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞は、癌細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記癌細胞は、前立腺癌細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞は、インビボである、請求項8に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞は、動物内にある、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記動物は、ヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞は、エクスビボである、請求項8に記載の方法。
【請求項21】
前記ETSファミリーメンバー遺伝子は、アンドロゲン制御遺伝子に融合する、請求項8に記載の方法。
【請求項22】
前記ETSファミリーメンバー遺伝子は、ERGであり、前記アンドロゲン制御遺伝子は、TMPRSS2である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記生物学的活性は、前記細胞の浸潤である、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【公表番号】特表2013−520419(P2013−520419A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553937(P2012−553937)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際出願番号】PCT/US2011/024284
【国際公開番号】WO2011/103011
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(506277410)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (19)
【Fターム(参考)】