説明

遺体の体液漏出防止剤注入用挿入管及び閉塞部材

【課題】遺体の体腔内に挿入管を挿入する際、挿入途中で挿入管の先端開口部が塞がれて体液漏出防止剤を注入し難くなるという問題や、先端部が体壁に引っ掛かって挿入し難くなるという問題もなく、遺体の口、鼻、耳などの体腔に熟練を要することなく簡単に挿入できる操作性に優れ、また体液漏出防止剤をスムーズに注入できる、遺体の体液漏出防止剤注入用挿入管及びその先端部に装着する閉塞部材を提供する。
【解決手段】後端部が体液漏出防止剤用注入器の先端の吐出筒部に接続され、先端から遺体の体腔内に挿入されて上記注入器内の体液漏出防止剤を遺体の体腔内に注入するために用いられる合成樹脂製挿入管1であって、その先端部に、先端から所定距離だけ軸線方向に複数の線状切断部(切れ目3又はスリット)が形成されていると共に、該線状切断部を覆うように、先端部外形が略半球状の閉塞部材5が脱着自在に装着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体の体液漏出防止剤注入用挿入管及び閉塞部材に関し、さらに詳しくは、体液漏出防止剤を遺体の体腔、特に口、鼻、耳などの体腔に装填して封止することにより、遺体からの体液漏出を防止するために、体液漏出防止剤用注入器の先端部に接続して用いられる遺体の体液漏出防止剤注入用挿入管及びその先端部に脱着自在に装着される閉塞部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヒトや動物の死亡後には体腔各部の筋肉が弛緩し、胃液、肺液、腹水、排泄物などの体液が漏出することが多く、悪臭や、病原菌による感染の原因ともなっている。このため、例えば病院では、死亡確認後、遺体の口、鼻、耳、肛門、女性の膣等の体腔に多量のガーゼ、脱脂綿等を装填し、体液の漏出を防ぐことが行なわれており、また、事故や手術後の遺体の開口部にも同様な処置がとられている。しかしながら、体腔へのガーゼ、脱脂綿等の装填作業の多くは、従業者や看護師等の手によって行われることが多く、その作業の煩雑さや不衛生さと同時に、ガーゼ、脱脂綿等は吸水能力が低いため、作業中もしくは作業後にしばしば体液が漏出してしまうという問題や、作業従事中にこの漏出物質による死後感染の可能性もあり、その解決が強く求められていた。
【0003】
このようなことから、ガーゼ、脱脂綿等に代えてゼリー状の体液漏出防止剤を口、鼻、耳、咽喉などに注入することが知られており、例えば、消臭剤入りの粉末ポリマーを適当量の水で溶かし適当に混合してゼリー状にしたものを用いる方法(特許文献1:特開平8−133901号公報参照)や、ジメチルアクリルアミドを主成分とする両親媒性ゲルを用いる方法(特許文献2:特開2001−288002号公報参照)、高吸水性ポリマー粉体を多数分散させたゼリー状体液漏出防止剤を用いる方法(特許文献3:特許第3586207号公報、特許文献4:特許第4029106号公報、特許文献5:特許第4081498号公報参照)が知られている。
【0004】
このようなゼリー状の体液漏出防止剤を、例えば鼻孔奥の咽喉部に充填する場合の充填方法について図1を参照しながら説明すると、特許文献4や特許文献5に記載のように、鼻孔や口等から挿入して咽喉部に前記体液漏出防止剤を注入・装填するための処置装置は、鼻孔等に挿入するための挿入管10と、ゼリー状の体液漏出防止剤Xが収容されている注入器20とからなる。注入器20は、先端に吐出筒部22を有する筒状本体21と、該筒状本体21内にその後端部から摺動自在に挿入されているピストン24とから構成されており、体液漏出防止剤Xは筒状本体21内に収容されている。なお、符号23は、筒状本体21の後端部に形成された指を引っ掛けるための半径方向外側に突出した一対の鍔部である。一方、挿入管10は、一端に注入器20先端の吐出筒部22に接続される接続部11を有し、先端に鼻孔等に挿入される開口部12を有する。挿入管10と注入器20の接続は、注入器20の先端部の吐出筒部22を挿入管10の後端の接続部11に嵌挿することにより行われる。符合13は、挿入管10の接続部もしくはその近傍に形成された環状のストッパ部である。
【0005】
次に、このようにして用意された遺体処置装置を使用する方法を説明する。図1において、Aは鼻孔、Bは咽喉部、Cは舌、Dは気管、Eは食道である。使用時には、フイルムパックから注入器20を取り出し、注入器20先端の吐出筒部22の保護キャップ(図示せず)を取り外し、挿入管10の接続部11を吐出筒部22に嵌め合わせて挿入管10を接続する。次いで、挿入管10の先端開口部12を鼻孔Aから咽喉部Bに向けて挿入し、挿入管10のストッパ部13が鼻先に当たった時点で挿入を停止する。そして、注入器20のピストン24を押圧し、注入器20内のゼリー状体液漏出防止剤Xを挿入管10を経由して咽喉部Bに注入する。注入器20内の体液漏出防止剤Xを押出し、充填した後は、注入器20と挿入管10を鼻孔Aから取り除く。
【0006】
前記したようなゼリー状の体液漏出防止剤は、押し出し流動性が高く、鼻孔、耳穴等の狭い体腔であっても充填され易く、注入器で圧入しても飛散することがないという利点を有する。特に、高吸水性ポリマー粉体を多数分散させたゼリー状の体液漏出防止剤の場合、吸水性能が高く、このポリマーが体腔から漏出する体液を吸収し、外部へ漏出することを防止することが可能となる。
しかしながら、従来の注入器と挿入管の組合せの場合、遺体の体腔内に挿入管を挿入する際、挿入途中で挿入管の先端開口部が塞がれて体液漏出防止剤を注入し難くなるという問題や、先端部が体壁に引っ掛かって挿入し難くなるという問題がある。また、挿入管の開口部は比較的小さいため、体液漏出防止剤をスムーズに注入し難く、短時間の処理で充分な量の体液漏出防止を注入するという観点において未だ充分に満足しえるものではなかった。
【特許文献1】特開平8−133901号公報
【特許文献2】特開2001−288002号公報
【特許文献3】特許第3586207号公報
【特許文献4】特許第4029106号公報
【特許文献5】特許第4081498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、遺体の体腔内に挿入管を挿入する際、挿入途中で挿入管の先端開口部が塞がれて体液漏出防止剤を注入し難くなるという問題や、先端部が体壁に引っ掛かって挿入し難くなるという問題もなく、遺体の口、鼻、耳などの体腔に熟練を要することなく簡単に挿入できる操作性に優れ、また体液漏出防止剤をスムーズに注入でき、比較的短時間の処理で充分な量の体液漏出防止を注入できる遺体の体液漏出防止剤注入用挿入管を提供することにある。
さらに本発明の目的は、体液漏出防止剤注入用挿入管の先端開口部への着脱性に優れると共に、遺体の体腔内への挿入管の挿入性にも優れ、体液漏出防止剤注入用挿入管の先端開口部を閉塞するのに好適に用いることができる閉塞部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明によれば、体液漏出防止剤を遺体の体腔内に注入するために用いられる合成樹脂製挿入管であって、その先端部に、先端から所定距離だけ軸線方向に複数の線状切断部が形成されていると共に、該線状切断部に沿って延在する筒状部を有する先端部外形が略半球状の閉塞部材が脱着自在に装着されており、且つ、上記閉塞部材又は挿入管先端近傍部に空気抜け部が形成されていることを特徴とする遺体の体液漏出防止剤注入用挿入管が提供される。
ここで、線状切断部は、挿入管の先端開口部近傍の環状周壁の連続性を切断する部分を意味し、好ましくは、先端から所定距離だけ軸線方向に形成された切れ目もしくはスリット又はこれらの組み合わせからなる。
【0009】
さらに本発明によれば、体液漏出防止剤を遺体の体腔内に注入するために用いられる合成樹脂製挿入管の先端部に脱着自在に装着されるのに特に好適な閉塞部材も提供される。即ち、装着される挿入管の先端部外径と略等しい直径を有し、先端部外形が略半球状の頭部と、挿入管の先端部内径よりも僅かに小さな外径の筒状部とからなり、該筒状部の外周面に軸線方向に複数本の突条が形成されていることを特徴とする閉塞部材も提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る遺体の体液漏出防止剤注入用挿入管は、その先端部に、先端から所定距離だけ軸線方向に複数の線状切断部が形成されていると共に、閉塞部材の筒状部が挿入管の先端部に形成された複数の線状切断部に沿って延在するように、好ましくは該線状切断部を覆うように、先端部外形が略半球状の閉塞部材が脱着自在に装着されている。そのため、先端開口部が体壁に引っ掛かって挿入し難くなるという問題を回避でき、遺体の体腔内にスムーズに挿入できると共に、咽頭部等の目的部位に到達するまでは体液漏出防止剤が体液に触れることがない。挿入管の先端部が目的部位に達したときにピストンを押すと、まず最初に挿入管内の空気が閉塞部材又は挿入管先端近傍部に形成された空気抜け部を通して挿入管内から押し出され、次いでピストンにより先端部まで押し出された体液漏出防止剤の押圧力によって、閉塞部材は挿入管の先端部から簡単に外れる。それと同時に、ピストンにより押し出される体液漏出防止剤の押圧力は環状周壁部にも作用するので、複数の線状切断部間に形成される舌片が側方に押されてラッパ状に拡開し、体腔内を押し広げるように作用する。そのため、挿入途中で挿入管の先端開口部が塞がれて体液漏出防止剤を注入し難くなるという問題を回避できると共に、スムーズに体液漏出防止剤を注入・装填することができ、比較的短時間の処理で充分な量の体液漏出防止を注入できる。また、体液漏出防止剤を遺体の体腔内に注入する際に同時に閉塞部材が体腔内に押し出され、遺体の体内に残っても、対象物が遺体のため、生体の場合のような拒絶反応やアレルギー反応はなんら問題となることはなく、無害である。
【0011】
さらに本発明の体液漏出防止剤注入用挿入管の先端部に装着されるのに特に好適な閉塞部材は、装着される挿入管の先端部外径と略等しい直径を有し、先端部外形が略半球状の頭部と、挿入管の先端部内径よりも僅かに小さな外径の筒状部とからなり、該筒状部の外周面に軸線方向に複数本の突条が形成されているため、閉塞部材の筒状部と挿入管先端部の内周面との間の摩擦力が軽減し、挿入管の先端開口部への着脱性に優れていると共に、筒状部の外周面と挿入管先端部の内周面との間に形成される空隙部(ギャップ)は空気抜け部として機能する。また、閉塞部材の頭部と挿入管の先端部の外径がほぼ等しいため、遺体の体腔内への挿入管の挿入性にも優れている。さらに、一旦挿入管を鼻腔に挿入した際に、後鼻孔の蝶篩陥凹等の窪みに挟まり、再度挿入操作をやり直そうとした時に、閉塞部材の頭部が挿入管の先端部外径よりも大きい場合には取り出す際に閉塞部材が抜け出ることがあるが、本発明の上記閉塞部材の場合、閉塞部材の頭部と挿入管の先端部の外径がほぼ等しいため、このような問題もなく、挿入操作を容易にやり直しすることができる。従って、前記した先端部に切れ目やスリット等の線状切断部が形成されている挿入管に好適に用いることができるだけでなく、このような線状切断部が形成されていない他の体液漏出防止剤注入用挿入管、例えば先端から所定距離の範囲の周壁に1個以上の体液漏出防止剤注入用の側孔が形成されて充分な注入用開口面積が形成された挿入管の先端開口部を閉塞するのにも好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
後端部が体液漏出防止剤用注入器の先端の吐出筒部に接続され、先端から遺体の体腔内に挿入されて上記注入器内の体液漏出防止剤を遺体の体腔内に注入するために用いられる合成樹脂製挿入管において、遺体の体腔内に挿入管を挿入する際、挿入途中で挿入管の先端開口部が塞がれて体液漏出防止剤を注入し難くなるという問題や、先端部が体壁に引っ掛かって挿入し難くなるという問題を回避し、簡単に挿入できるようにするためには、挿入管の先端部を丸くすればよいと考えられる。しかしながら、挿入管自体の先端部を丸くすれば、先端開口部の孔径は小さくなってしまい、体液漏出防止剤の注入が困難になる。そこで、挿入管とは別体の閉塞部材を用い、その先端部外形を略半球状(丸みを帯びた形状)にし、これを、体液漏出防止剤を遺体の体腔内に注入する際に同時に体腔内に押し出されるような係合力で挿入管の先端部に脱着自在に装着すれば、体液漏出防止剤の注入を阻害することなく、挿入途中で挿入管の先端開口部が塞がれて体液漏出防止剤を注入し難くなるという問題や、先端部が体壁に引っ掛かって挿入し難くなるという問題を回避できる。
【0013】
また、ピストンにより押し出される体液漏出防止剤の押圧力は、前進方向(軸線方向)と半径方向に作用するが、閉塞部材の筒状部が挿入管の先端部に形成された複数の線状切断部に沿って延在しているため、好ましくは挿入管の先端部に形成された複数の線状切断部は閉塞部材によって覆われているため、閉塞部材が先端部から外れない限り、複数の線状切断部間に形成される舌片が側方に押されてラッパ状に拡開することはない。すなわち、注入器内の体液漏出防止剤をピストンにより押し出すと、その前進方向(軸線方向)の押圧力により、まず最初に挿入管内の空気が閉塞部材又は挿入管先端近傍部に形成された空気抜け部を通して挿入管内から押し出され、次いでピストンにより先端部まで押し出された体液漏出防止剤の押圧力によって、閉塞部材が挿入管の先端部から外れる。閉塞部材が挿入管の先端部から外れると同時に、ピストンにより押し出される体液漏出防止剤の半径方向の押圧力は環状周壁部に作用し、複数の線状切断部間に形成される舌片が側方に押されてラッパ状に拡開し、体腔内を押し広げるように作用する。そのため、スムーズに体液漏出防止剤を注入・装填することができ、比較的短時間の処理で充分な量の体液漏出防止を注入できる。
【0014】
体液漏出防止剤注入用挿入管の先端部に脱着自在に装着される閉塞部材としては、先端部外形が略半球状の頭部(中空及び中実のいずれの半球状頭部でもよい)と、挿入管先端部に嵌め合わされる筒状部(中空及び中実のいずれの筒状部でもよい)を有する閉塞部材であれば全て用いることができるが、装着される挿入管の先端部外径と略等しい直径を有し、先端部外形が略半球状の頭部と、挿入管の先端部内径よりも僅かに小さな外径の筒状部とからなり、該筒状部の外周面に軸線方向に複数本の突条が形成されている閉塞部材が特に好ましい。このように筒状部の外周面に軸線方向に複数本の突条が形成されているため、閉塞部材の筒状部と挿入管先端部内周面との間の摩擦力が軽減し、挿入管の先端開口部への着脱性に優れている。また、閉塞部材の頭部と挿入管の先端部の外径がほぼ等しいため、遺体の体腔内への挿入管の挿入性にも優れており、また、一旦挿入管を鼻腔に挿入した際に、後鼻孔の蝶篩陥凹等の窪みに挟まり、再度挿入操作をやり直そうとした時に、閉塞部材の頭部が挿入管の先端部外径よりも大きい場合には取り出す際に閉塞部材が抜け出ることがあるが、閉塞部材の頭部と挿入管の先端部の外径がほぼ等しいため、このような問題もなく、挿入操作を容易にやり直しすることができる。
【実施例】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る挿入管及びそれを用いた好適な遺体の処置装置の各種態様の具体例について説明する。
【0016】
図2は、本発明の挿入管の一実施態様の先端部を示している。挿入管1は、鼻孔や口に挿入した際、鼻腔形状や口蓋形状に沿って撓む柔軟性を有するポリエステルエラストマー、軟質塩化ビニル樹脂、ゴム等の可撓性の合成樹脂から作製されており、好ましくは透明又は半透明である。図2に示されるように、挿入管1の先端部には、先端から所定距離だけ軸線方向に複数の切れ目3が形成されている。尚、図示の実施態様の場合、切れ目3の数は4個であるが、2個以上の任意の複数個とすることができ、好ましくは3個以上、特に好ましくは4個以上のすることにより、体液漏出防止剤の半径方向の押圧力が作用した時に、切れ目3間に形成される舌片4が側方に押されてラッパ状に拡開し易くすることが好ましい。また、挿入管1の先端開口部2には、鼻孔や口から挿入し易いように、先端部外形が略半球状のドーム状の閉塞部材5が脱着自在に被冠されている。閉塞部材5は、合成樹脂製の中空の半球状頭部6と円筒状部7とからなり、円筒状部7の内径は挿入管1の先端部の外径と略同一である。円筒状部7の長さは上記切れ目3を少なくとも部分的に覆う長さとする必要があるが、好ましくは上記切れ目3全体を覆うような長さとする。また、閉塞部材5の半球状頭部6の先端部には、空気抜け部として機能する微細な空気孔8が形成されている。このような空気孔8を形成することにより、ピストンにより押し出される体液漏出防止剤の押圧力によって押された挿入管1内の空気は空気孔8を通して外部に排出されるので、体液漏出防止剤注入開始時に閉塞部材5が挿入管1の先端部から外れることを回避できる。尚、挿入管1の先端部に嵌め合わされる閉塞部材5の係合力は、体液漏出防止剤を遺体の体腔内に注入する際に同時に閉塞部材5が体腔内に押し出されるような係合力であればよい。
【0017】
一方、図3は、図2に示す挿入管の変形例を示している。この実施態様の場合、挿入管1の先端部に被冠される閉塞部材5aは、空気孔8を有する中実の半球状頭部6aと円筒状部7とからなる点において、前記実施態様と異なるが、他の構成は前記実施態様と同じである。
【0018】
図4は、本発明の挿入管の他の実施態様の先端部を示している。この実施態様の挿入管1aの場合、前記図2に示す切れ目に代えて、挿入管1aの先端部には、先端から所定距離だけ軸線方向に複数のスリット3aが形成されている。尚、本実施態様の場合にも、スリット3aの数は4個であるが、2個以上の任意の複数個とすることができ、好ましくは3個以上、特に好ましくは4個以上のすることにより、体液漏出防止剤の半径方向の押圧力が作用した時に、スリット3a間に形成される舌片4が側方に押されてラッパ状に拡開し易くすることが好ましい。また、前記図2に示す実施態様と同様に、挿入管1の先端開口部2には、鼻孔や口から挿入し易いように、先端部外形が略半球状のドーム状の閉塞部材5が脱着自在に被冠されている。閉塞部材5の空気孔8を有する中空の半球状頭部6や円筒状部7の形状・寸法、挿入管1aの先端部に嵌め合わされる閉塞部材5の係合力等は、前記図2に示す実施態様と同様である。
尚、線状切断部として、前記図2に示す切れ目3と図4に示すスリット3aを組み合わせて形成してもよい。
【0019】
図5は、前記実施態様の閉塞部材の変形例を示している。この実施態様においては、閉塞部材5bは、挿入管1の外径とほぼ等しい直径を有する中実の半球状頭部6bと、挿入管1の先端部の内径と略同一の直径を有する丸棒部(中実の筒状部)9とが一体となったきのこ状の外形を有し、該閉塞部材5bの丸棒部9が挿入管1の先端開口部に脱着自在に嵌挿されている。この実施態様の閉塞部材5bにおいても、半球状頭部6bと丸棒部9に軸線方向に微細な空気孔8が形成されている。尚、この実施態様のように閉塞部材5bの丸棒部9が挿入管1の先端開口部に嵌挿される場合、閉塞部材5bが挿入管1の先端部から外れる前に複数の切れ目3(又はスリット3a)間に形成される舌片4が側方に押されてラッパ状に拡開するのを防止するために、丸棒部9の長さは切れ目3(又はスリット3a)の長さよりも長くすることが好ましい。この実施態様のように、閉塞部材5bの半球状頭部6bと挿入管1の先端部の外径がほぼ等しい場合、遺体の体腔内への挿入管の挿入性に優れていると共に、挿入操作のやり直し性にも優れている。
【0020】
尚、前記いずれの実施態様においても、空気孔8は、閉塞部材5,5a,5bの半球状頭部6,6a,6bのいずれの箇所に設けてもよく、また挿入管1,1aの先端近傍部(円筒状部7又は丸棒部9が延在する領域を外れた箇所)の周壁に設けてもよい。また、空気孔8の数は、1個以上の任意の数でよい。
【0021】
前記挿入管1(1a)の使用に際しては、まず、前記図1に示すような注入器20の吐出筒部22の保護キャップ(図示せず)を取り外し、挿入管1(1a)の接続部に吐出筒部22を嵌め合わせて挿入管1(1a)と注入器20を接続する。次いで、挿入管1(1a)及びその先端に装着されている閉塞部材5(5a,5b)を鼻孔A(図1参照)又は口から咽喉部Bに向けて挿入し、ストッパ部13(又は注入器20の筒状本体21の先端部)が鼻先又は口元に位置した時点で挿入を停止する。この際、挿入抵抗を軽減するために、閉塞部材5(5a,5b)及び挿入管1の表面にグリセリン等の潤滑剤を塗布してもよい。また、より少ない押圧力で閉塞部材が外れるようにするために、挿入管への閉塞部材の装着前に、閉塞部材の挿入管との接触面又は挿入管の先端部に潤滑剤を塗布しておくこともできる。そして、注入器20のピストン24を押圧し、注入器20内の体液漏出防止剤Xを挿入管1(1a)を経由して咽喉部Bに注入する。
【0022】
このように注入器20内の体液漏出防止剤Xをピストン24により押し出すと、その前進方向(軸線方向)の押圧力により、まず最初に挿入管1(1a)内の空気が閉塞部材5(5a,5b)に形成された空気孔(8)を通して挿入管内から押し出され、次いでピストン24により先端部まで押し出された体液漏出防止剤Xの押圧力によって、閉塞部材5(5a,5b)が挿入管1(1a)の先端部から外れる。閉塞部材5(5a,5b)が挿入管1(1a)の先端部から外れると同時に、ピストン24により押し出される体液漏出防止剤Xの半径方向の押圧力は環状周壁部に作用し、複数の切れ目3(又はスリット3a)間に形成される舌片4が側方に押されてラッパ状に拡開し、体腔内を押し広げるように作用する。そのため、スムーズに体液漏出防止剤を注入・装填することができ、比較的短時間の処理で充分な量の体液漏出防止を注入できる。閉塞部材5(5a,5b)及び注入器20内の体液漏出防止剤Xを押出し、充填した後は、注入器20と挿入管1(1a)を鼻孔A又は口から抜き出す。
【0023】
図6及び図7は、本発明の閉塞部材の好適な実施態様を示している。この実施態様においては、閉塞部材5cは、挿入管1の外径とほぼ等しい直径を有する中実の半球状頭部6cと、挿入管1の先端部の内径よりも僅かに小さな外径の円筒状部9aとからなり、該円筒状部9aの外周面には、図7に示されるように、軸線方向に複数本(3本)の突条9bが形成されている。突条9bの数は2本以上であればよいが、閉塞部材5cの円筒状部9aを挿入管1の先端開口部に安定して嵌挿するためには、3本以上とすることが好ましい。このように円筒状部9aの外周面に軸線方向に複数本の突条9bが形成されているため、閉塞部材5cの円筒状部9aと挿入管1の先端部内周面との間の摩擦力が軽減し、挿入管の先端開口部への着脱性に優れたものになると共に、円筒状部9aの外周面と挿入管1の先端部内周面との間に形成される空隙部S(ギャップ)は空気抜け部として機能する。また、閉塞部材の半球状頭部6cと挿入管1の先端部の外径がほぼ等しいため、遺体の体腔内への挿入管1の挿入性に優れていると共に、挿入操作のやり直し性にも優れている。
【0024】
前記実施態様の挿入管の使用に際して、図1に示すように、挿入管1の接続部に注入器20の吐出筒部22を嵌め合わせて挿入管1と注入器20を接続し、挿入管1の先端に装着されている閉塞部材5cを鼻孔A(図1参照)又は口から咽喉部Bに向けて挿入し、所定位置で挿入を停止した状態で注入器20内の体液漏出防止剤Xをピストン24により押し出すと、その前進方向(軸線方向)の押圧力により、まず最初に挿入管1内の空気が押されることによって閉塞部材5cが僅かに前進し、それによって閉塞部材5cの半球状頭部5cと挿入管1の先端面との間に隙間が生じる。そのため、挿入管1内の空気は、この隙間と、円筒状部9aの外周面と挿入管1の先端部内周面との間に形成された空隙部Sを通して挿入管内から押し出され、次いでピストン24により先端部まで押し出された体液漏出防止剤Xの押圧力によって、閉塞部材5cが挿入管1の先端部から外れる。閉塞部材5cが挿入管1の先端部から外れると同時に、ピストン24により押し出される体液漏出防止剤Xの半径方向の押圧力は環状周壁部に作用し、複数の切れ目3(又はスリット3a)間に形成される舌片4(図2〜4参照)が側方に押されてラッパ状に拡開し、体腔内を押し広げるように作用する。そのため、スムーズに体液漏出防止剤を注入・装填することができ、比較的短時間の処理で充分な量の体液漏出防止を注入できる。閉塞部材5c及び注入器20内の体液漏出防止剤Xを押出し、充填した後は、注入器20と挿入管1を鼻孔A又は口から抜き出す。
【0025】
尚、前記した挿入管1(1a)の後端部には、前記図1に示されるような注入器20の吐出筒部22に接続するための後側にやや拡開したテーパ状の接続部(図示せず)が設けられている。また、接続部もしくはその近傍に、前記図1に示される挿入管10のような環状のストッパ部13を形成してもよい。但し、注入器20の筒状本体21の外径は挿入管1(1a)の外径や鼻孔や口等の挿入部の開口径よりも大きいため、注入器20の筒状本体21の先端部を挿入のストッパ部として利用することができ、体腔内に常に一定長さだけ挿入できるので、必ずしもストッパ部13が形成されていなくてもよい。また、前記注入器20の少なくとも吐出筒部22が着色されていて、上記挿入管1(1a)が透明もしくは半透明である場合、注入操作時に、注入器20の吐出筒部22先端の位置を目で確認できるので、この吐出筒部先端の位置を挿入停止位置を示すマークとして利用できる。さらに、環状のストッパ部13に代えて、接続部もしくはその近傍に挿入停止位置を示す黒色又は着色の環状の指示線もしくは環状帯等を設けることもできる。さらに、鼻孔や口から咽頭部奥まで挿入する際、抵抗なくスムーズに挿入することができるように、挿入管1の略中間部に湾曲部を形成することもできる。尚、注入操作時に、注入器の先端から挿入管が抜け出ることを確実に防止するために、前記注入器20の吐出筒部22と挿入管1の接続部に、雄ねじと雌ねじの組合せ、円周方向の溝部と該溝部に嵌合される突条もしくは凸部との組合せなどの抜け止め防止手段を設けてもよい。
【0026】
前記図6及び図7に示した閉塞部材は、前記した先端部に切れ目やスリット等の線状切断部が形成されている挿入管に好適に用いることができるだけでなく、このような線状切断部が形成されていない他の体液漏出防止剤注入用挿入管の先端開口部を閉塞するのにも好適に用いることができる。その一つの実施態様を図8に示す。
【0027】
図8に示す実施態様においては、先端開口部に前記閉塞部材5cが嵌挿された挿入管1bは、その先端部近傍の周壁に側孔12a(図示の例では2個所の対向する位置にそれぞれ一対(合計4個)設けられているが、1個又は任意の複数個でよい)が形成されており、且つ、略中間部に湾曲部Yが形成されている。このような側孔12aを形成することにより、挿入管先端部に切れ目やスリット等の線状切断部が形成されていなくても、体液漏出防止剤注入用の充分な開口面積を確保できる。また、湾曲部Yを形成することにより、鼻孔や口から咽頭部奥まで挿入する際、抵抗なくスムーズに挿入することができる。湾曲部Yは、挿入管1bの先端から徐々になだらかに湾曲させてもよいが、好ましくは挿入管1bの先端から所定位置、例えば約22〜45mm、より好ましくは約20〜30mmの距離の任意の部分から徐々になだらかに湾曲させることが好ましい。また、湾曲部Yの曲率半径や角度は、鼻孔や口蓋の曲面形状に対応することが好ましい。
【0028】
尚、図8に示す実施態様の変形例として、挿入管1bの先端部近傍の周壁に側孔12aが形成され、湾曲部Yを有しない直線状とすることもできる。また、接続部11もしくはその近傍に、前記図1に示される挿入管10のような環状のストッパ部13を形成してもよい。さらに、環状のストッパ部に代えて、接続部11もしくはその近傍に挿入停止位置を示す黒色又は着色の環状の指示線もしくは環状帯等を設けることもできる。さらに、注入操作時に、注入器の先端から挿入管が抜け出ることを確実に防止するために、前記注入器20の吐出筒部22と挿入管1bの接続部11に、雄ねじと雌ねじの組合せ、円周方向の溝部と該溝部に嵌合される突条もしくは凸部との組合せなどの抜け止め防止手段を設けてもよい。
【0029】
前記閉塞部材5,5a,5b,5cの材質としては、耐薬品性があり、安価に成型できるプラスチック材料、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA、別名:ナイロン)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)等のプラスチックが好ましい。また、合成繊維や天然繊維の成型不織布、高吸水性樹脂繊維等の成型物や、牛脂、ヤシ油、パーム油などから作られた固形石鹸、ポリエチレングリコール(PEG、平均分子量として約1000以上の固体のもの)、ゴム、木材、コルクなども用いることができる。さらに、安価に成型できる金属、例えばアルミニウム、鉄、ブリキ等も用いることができるが、体液漏出防止剤と共に押し出された閉塞部材は体内に残留するため、遺体を火葬する慣習のある国においては好ましくない。
【0030】
尚、前記した本発明の遺体処置装置により遺体の口、鼻、耳等の体腔に注入・装填する体液漏出防止剤としては、遺体の体腔に注入器によりスムーズに注入できる押出し流動性を有し、体液漏出を防止できるものであれば全て使用できる。特に、前記特許文献4及び5に記載されているようなゼリー状体液漏出防止剤を好適に使用することができる。
【0031】
以上、本発明の好適な実施態様について説明したが、本発明は、前記した実施態様に限定されるものではなく、本発明の要旨と精神を逸脱しない限り種々の設計変更が可能である。例えば、注入器としては、前記図1に示すようなシリンジ形態の注入器以外にも、体液漏出防止剤を注入できる注入器であれば全て適用可能である。その場合、用いる注入器の吐出筒部又は吐出口部の形状に合わせて挿入管の接続部を修正すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来の遺体処置装置の使用状態を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る挿入管の一実施態様を示す部分断面側面図である。
【図3】図2に示す挿入管の変形例を示す部分断面側面図である。
【図4】本発明に係る挿入管の他の実施態様を示す部分断面側面図である。
【図5】本発明に係る挿入管のさらに他の実施態様を示す部分断面図である。
【図6】本発明に係る挿入管の別の実施態様を示す部分断面図である。
【図7】図6に示す挿入管のVII−VII線矢視断面図である。
【図8】本発明に係る挿入管のさらに別の実施態様を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0033】
1,1a,1b,10 挿入管
2,12 開口部
3 切れ目
3a スリット
4 舌片
5,5a,5b,5c 閉塞部材
6,6a,6b,6c 半球状頭部
7 円筒状部
8 空気孔
9 丸棒部
9a 円筒状部
9b 突条
11 接続部
12a 側孔
20 注入器
21 筒状本体
22 吐出筒部
23 鍔部
24 ピストン
X 体液漏出防止剤
Y 湾曲部
A 鼻孔
B 咽喉部
C 舌
D 気管
E 食道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液漏出防止剤を遺体の体腔内に注入するために用いられる合成樹脂製挿入管であって、その先端部に、先端から所定距離だけ軸線方向に複数の線状切断部が形成されていると共に、該線状切断部に沿って延在する筒状部を有する先端部外形が略半球状の閉塞部材が脱着自在に装着されており、且つ、上記閉塞部材又は挿入管先端近傍部に空気抜け部が形成されていることを特徴とする遺体の体液漏出防止剤注入用挿入管。
【請求項2】
前記線状切断部が、先端から所定距離だけ軸線方向に形成された切れ目もしくはスリット又はこれらの組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載の体液漏出防止剤注入用挿入管。
【請求項3】
体液漏出防止剤を遺体の体腔内に注入するために用いられる合成樹脂製挿入管の先端部に脱着自在に装着される閉塞部材であって、装着される挿入管の先端部外径と略等しい直径を有し、先端部外形が略半球状の頭部と、挿入管の先端部内径よりも僅かに小さな外径の筒状部とからなり、該筒状部の外周面に軸線方向に複数本の突条が形成されていることを特徴とする閉塞部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−13396(P2010−13396A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174894(P2008−174894)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(508032309)株式会社 モデルクリエイト (12)
【Fターム(参考)】