説明

遺体用整形剤及び遺体の皮下衰退部修復方法

【課題】羸痩等によって衰退した皮下組織を簡単に補うことができ、その人らしい表情を取り戻すことのできる遺体用整形剤及び遺体の皮下衰退部修復方法を提供する。
【解決手段】遺体の整形を主目的とし、皮下に注入されることにより体内の水分と反応して固化する溶液からなる遺体用整形剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体の皮下に注入して、遺体の整形を主目的とする遺体用整形剤及び遺体の皮下衰退部修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺体は、全身消耗性疾患により特定部位が衰退したり、事故や手術などにより欠損部位が生じたりしている場合がある。この遺体の衰退部や欠損部を補って健常時と同様な状態に修復する修復術としては、主に身体の欠損部に人工物を挿入又は注入するPROTHESE(プロテーゼ)法と、身体の欠損部を外部から補うEPITESE(エピテーゼ)法とが知られている。
【0003】
PROTHESE法とは、体内で失われた機能や、失われた物を補うために挿入・充填・交換することであり、例えば、義眼の挿入や綿花詰めが該当する。
【0004】
羸痩の遺体は、皮下組織(筋や脂肪織)が大きく減少(衰退)しており、そのために顔貌が健常時と比べると大きく変化している。この失われた皮下組織の代用品を皮下に注入し、形態を修復する処置もPROTHESE法の一処置として行われている。
【0005】
EPITESE法は、事故や疾病、火傷や手術により失われた欠損部位の修復に用いられ、癌による欠損・切除部位、切断部位等に対し、シリコン等で製作された補綴物を装着し、外表上の形容・容姿を修復している。
【0006】
このような中、本願出願人は、ゲル状の遺体保存安定剤を遺体に塗布したり充填したりすることによって、遺体の修復及び防腐を可能にするゲル状の遺体保存安定剤を提案した(特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2009−107937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のPROTHESE法やEPITESE法では、遺体の衰退部や欠損部に合わせて人工物を製作・加工するのは困難であるために、綿花詰めが行われる程度であった。
【0009】
長期入院患者や寝たきり状態が続いた遺体には、臀部や背部にじょくそう(床ずれ)が非常に多くみられるが、これらの部位から発生する臭気や液垂れに対する対策は行われることなく、遺体から悪臭が発生するという問題がある。
【0010】
また、特許文献1に開示されるゲル状の遺体保存安定剤は、遺体の表面に塗布したり、空洞部に充填したりして、遺体を修復し、防腐することは可能であるが、衰退した皮下組織を補うことが困難であるという問題がある。
【0011】
一方、液体状の遺体用製品は、液垂れ等による遺体周囲の汚染などの悪影響を及ぼすという問題がある。
【0012】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、その目的は、羸痩等によって衰退した皮下組織を簡単に補うことができ、その人らしい表情を取り戻すことのできる遺体用整形剤及び遺体の皮下衰退部修復方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上のような課題を解決するために、本発明は、以下のものを提供する。
【0014】
(1) 遺体の整形を主目的とする遺体用整形剤であって、皮下に注入されることにより体内の水分と反応して固化する溶液からなる遺体用整形剤。
【0015】
本発明によれば、溶液を皮下に注入することにより、この溶液が体内の水分と反応して固化(ゲル化を含む)するから、固化した遺体用整形剤が羸痩等によって衰退した顔の側頭部、頬部、口輪部、眼部(眼窩脂肪体、眼窩の筋)等の皮下組織を補い、尊顔を整容することができると共に、皮下衰退部を修復することができる。
【0016】
また、本発明の遺体用整形剤は、体内の水分と反応して固化することができるから、整容又は修復したい部位の皮下に本剤を注入するだけで、簡単かつ迅速に尊顔を整容したり、皮下衰退部を修復したりすることができる。
【0017】
(2) 前記溶液が溶媒にアルコール類を用いた(1)記載の遺体用整形剤。
【0018】
本発明によれば、溶液が溶媒にアルコール類を用いたことにより、溶液の保存時には固化を阻止することができると共に、溶液を皮下に注入することにより、体内の水分と反応して迅速に固化することができる。また、本発明の遺体用整形剤は、アルコール類の消毒効果及び蛋白質固定作用を有している。
【0019】
(3) (1)又は(2)記載の遺体用整形剤を皮下に注入して、遺体の皮下衰退部を修復する遺体の皮下衰退部修復方法。
【0020】
本発明によれば、溶液を皮下に注入することにより、この溶液が体内の水分と反応して固化するから、固化した遺体用整形剤が羸痩等によって衰退した顔の側頭部、頬部、口輪部、眼部(眼窩脂肪体、眼窩の筋)等の皮下組織を補い、短時間で尊顔を整容することができると共に、皮下衰退部を修復することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、溶液を皮下に注入するという簡単な手段により、注入された溶液が体内の水分と反応して固化して、尊顔を整容したり、皮下衰退部を修復したりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態を説明する。
本発明に係る遺体用整形剤は、遺体の整形を主目的とし、皮下に注入されることにより体内の水分と反応して固化する溶液からなる。
【0023】
本発明の遺体用整形剤は、溶液が水分を含まない溶媒を用いている。この溶媒は、消毒効果及び蛋白質固定作用を有しているアルコール類からなることが好ましい。溶媒がアルコール類からなることにより、溶液の保存時には固化を阻止することができると共に、溶液を皮下に注入することにより、体内の水分と反応して迅速に固化することができる。
【0024】
アルコール類には、低級アルカノールを用いることができる。低級アルカノールとしては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノールなどの炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルカノールが挙げられる。好ましいアルカノールはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールが挙げられ、特にエタノールが好ましい。
【0025】
本発明の遺体用整形剤は、アルコール類に対して溶解性を有するが、水分と結合することにより固化する固化剤を含有している。
【実施例1】
【0026】
本発明の皮下衰退部修復方法は、注射器を使用して遺体用整形剤を吸い出し、遺体の皮下衰退部に適量を注入する。皮下衰退部に注入された遺体用整形剤は、溶液が体内の水分と反応して固化し、短時間で尊顔を整容したり、皮下衰退部を修復したりすることができる。
【0027】
皮下で固化した遺体用整形剤は、皮下の筋類や脂肪織を補うことができるから、溶液がゲル化する短い時間で健常時の顔貌や容貌に近づけることができる。尊顔整容及び皮下衰退部の修復は、遺体用整形剤の注入部位と、注入量を調整して行う。
【0028】
本発明の皮下衰退部修復方法は、羸痩等によって衰退した顔の側頭部、頬部、口輪部、眼部(眼窩脂肪体、眼窩の筋)等の皮下に遺体用整形剤を注入することにより、水分と反応して固化した遺体用整形剤がその部位の皮下組織を補って、その人らしい表情を取り戻すことができる。
【0029】
また、本発明の遺体用整形剤は、手術等で陥没した部位などの形態修復にも使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る遺体用整形剤及び遺体の皮下衰退部修復方法は、溶液を皮下に注入するという簡単な手段により、注入された溶液が体内の水分と反応して固化して、尊顔を整容したり、皮下衰退部を修復したりすることが可能なものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺体の整形を主目的とする遺体用整形剤であって、
皮下に注入されることにより体内の水分と反応して固化する溶液からなる遺体用整形剤。
【請求項2】
前記溶液が溶媒にアルコール類を用いた請求項1記載の遺体用整形剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の遺体用整形剤を皮下に注入して、遺体の皮下衰退部を修復する遺体の皮下衰退部修復方法。

【公開番号】特開2011−241193(P2011−241193A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116194(P2010−116194)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(596041973)株式会社素敬 (5)
【Fターム(参考)】