説明

部位特異的セリンリコンビナーゼ及びそれらの使用方法

【課題】真核生物において部位特異的組み換えを得る方法の提供。
【解決手段】第1の組換え部位及び第2の組換え部位を含む細胞を準備すること、原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと共に第1及び第2の組換え部位を接触させ、組換え部位間で組換えを起こさせることを含み、前記リコンビナーゼポリペプチドが第1及び第2の組換え部位間での組換え反応を媒介でき、前記第1の組換え部位がファージゲノム組み換え付着部位(attP)または細菌ゲノム組み換え付着部位(attB)であり、前記第2の組換え部位がattBまたはattPであり、前記第1の組換え付着部位がattBであるときは、前記第2の組換え付着部位がattPであり、前記第1の組換え付着部位がattPであるときは、前記第2の組換え付着部位がattBである、前記方法。前記組成物、ベクター及び方法は、遺伝子療法の用途にも有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]
(連邦政府奨励金による研究の記載)
本発明は、米国標準技術局、先端技術計画により授与された認可番号第70NANB1H3062号の政府奨励金を用いて行われた。政府は本発明にかかる一定の権利を有する。
【0002】
[0002]
(技術分野)
本発明は、遺伝子工学の分野に関する。詳細には、本発明は、細胞のゲノムにポリヌクレオチドを部位特異的に組込み、欠失、反転、置換、及び転座させるための組成物、並びに方法に関する。本発明はまた、酵素、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、及びベクターコンストラクトにも関する。
【0003】
[背景技術]
[0003]
多くのバクテリオファージ及び組込みプラスミドは、それらのゲノムをそれらの宿主のものに安定に取り込ませて、宿主ゲノムからそのゲノムを切り出すことを可能とする、部位特異的組換え系をコードする。これらの系において、組換え反応に最低限必要とされるのは、組換え事象を媒介するリコンビナーゼ酵素と、2箇所の組換え部位である(Sadowski(1986)J.Bacteriol.165:341−347;Sadowski(1993)FASEB J.7:760−767)。ファージ組込み系の場合、これらは付着(att)部位と称され、ファージDNA由来のattPエレメントと、細菌ゲノムに存在するattBエレメントがある。2箇所の接着部位は、数塩基対で、ほとんど配列同一性を共有することができない。リコンビナーゼ蛋白質は、両方のatt部位に結合して、保存的且つ相互的なDNA鎖の置換を媒介し、その結果、宿主DNAへの環状ファージ又はプラスミドDNAの組込みが成し遂げられる。DNA屈曲蛋白質IHF、組込み宿主因子などの、さらなるファージ又は宿主因子が、効率的な反応に必要とされるかもしれない(Friedman(1988)Cell,55:545−554;Finkel及びJohnson(1992)Mol.Microbiol.6:3257−3265)。ファージインテグラーゼも、他の宿主及び/又はファージ因子と共同して、バクテリオファージの成長周期の溶菌相の間にファージゲノムを細菌ゲノムから切り出す。特定の対象遺伝子の関連性及び機能を解明するために、哺乳類ゲノムの操作を可能とする方法がいくつか開発されている。それらのうち、トランスジェニックマウス系の開発、及び遺伝子標的化技術が、特に有用であることが判明している(Brandon,E.P.、Idzerda,R.L.及びMcKnight,G.S.(1995)Curr Biol,5,625−34;Brandon,E.P.、Idzerda,R.L.及びMcKnight,G.S.(1995)Curr Biol,5,758−65)。これらの技術は、部位特異的リコンビナーゼの特徴付け及び適用に新しい進歩をもたらしている(Kilby,N.J.、Snaith,M.R.及びMurray,J.A.(1993)Trends Genet,9,413−21)。
【0004】
[0004]
部位特異的リコンビナーゼは、2つの主要なファミリーに分類することができる。第一のもの(Litファミリー、又はチロシンリコンビナーゼファミリー)には、同じDNA分子(分離、切り出し、若しくは反転を導く分子内組換え)、又は別異のDNA分子(組込みを導く分子間組換え)のいずれかに位置する部位間の組換えを媒介する酵素が含まれる(Sauer,B.(1993) Methods Enzymol,225,890−900;Dymecki,S.M.(1996)Proc Natl Acad Sci USA,93,6191−6;Abremski,K.and Hoess,R.(1984)J Biol Chan,259,1509−14;Nash,H.A.(1996) in Escherichia coli and Salmonella cellular and molecular biology .,ed.F.C.Neidhart,R.I.Curtis,J.L.Ingraham,E.C.C.Lin,K.B.Low,B.Magasanik,W.S.Rezaikoff,M.Riley,M.Schaechter and H.E.Umbager(A.S.M.Press,Washington D.C.),pp.2363−7)。後者の性質を活用して、特異的配列を正確な位置へ標的化して挿入することが可能になっている(Sauer,B.及びHenderson,N.(1990)The New Biologist,2,441−9;Fukushige,S.及びSauer,B.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci USA,89,7905−9)。哺乳類ゲノムを操作するために使用されているリコンビナーゼは、主にCre及びFlp蛋白質であり、これらはLitファミリーに属している(Kilby,N.J.、Snaith,M.R.及びMurray,J.A.(1993)Trends Genet,9,413−21)。これらの酵素に対する標的配列は、Cre酵素ではloxP部位、及びFlp酵素ではFRTと命名されており、蛋白質が結合する短い逆方向反復からなる。組換え法は、ゲノム内の長い距離(上限70kbまで)に亘って操作性がある。これらの酵素を用いて、多くの研究者が、マウスモデルにおける部位特異的及び組織特異的DNA組換え(DiSanto,J.P.、Muller,W.、Guy,G.D.、Fischer,A.及びRajewsky,K.(1995)Proc Natl Acad Sci USA,92,377−81;Gu,H.、Marth,J.D.、Orban,P.C、Mossmann,H.及びRajewsky,K.(1994)Science,265,103−6;Kuhn,R.、Schwenk,F.、Aguet,M.及びRajewsky,K.(1995)Science,269,1427−9;Orban,P.C、Chui,D.及びMarth,J.D.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,6861−5)、植物及び動物における染色体の転座(Deursen,J.v.、Fornerod,M.、Rees,B.v.及びGrosveld,G.(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,7376−80;Medberry,S.L.、Dale,E.、Qin,M.及びOw,D.W.(1995)Nucleic Acids Res,23,485−90;Osborne,B.L、Wirtz,U.及びBaker,B.(1995)Plant J,7,687−701)、並びに特異的遺伝子の標的化誘導(Pichel,J.G.、Lakso,M.及びWestphal,H.(1993)Oncogene,8,3333−42)を報告している。Cre−loxP系は、肝臓では高い効率で、且つ他の組織では低い効率で遺伝子アブレーションを惹起するのに使用された、インターフェロンガンマ誘導可能プロモーターなどの誘導可能なプロモーターと組み合わせても使用されている(Kuhn,R.、Schwenk,F.、Aguet,M.及びRajewsky,K.(1995)Science,269,1427−9)。しかしながら、この部位特異的組換え系では、回数が減った組換え事象の同じゲノムにおける誘導が許容されるにすぎない。各々の組換え反応によってリコンビナーゼに対する標的配列がゲノムの交差部位に残されるので、またリコンビナーゼ(例えば、Cre及びFlp)が分子間組換えを媒介することができることから、全プロセスとして望ましくない染色体再編成が引き起こされるかもしれない。
【0005】
[0005]
リコンビナーゼの第二のファミリーは、レソルバーゼ/インベルターゼファミリー、又はセリンファミリーと総称される(Grindley,N.D.F.(1994)Nucleic Acids and Molecular Biology、F.Eckstein及びD.M.J.Lilley編(Springer−Verlag,Berlin),236−67頁,(Smith,M.C.及びThorpe,H.M.(2000)Mol.Microbiol.,44,299−307))。これらの部位特異的リコンビナーゼは、分子内及び分子間反応を媒介する酵素を含み、リコンビナーゼのIntファミリーを凌ぐ利点を有する可能性がある。ファージ組込みを媒介するセリンリコンビナーゼ(インテグラーゼ)は、遺伝子工学手段として使用するのに特に良好に適応している。これまでに、3種のセリンリコンビナーゼ、φC31、R4及びTP901−1、が哺乳類細胞で調べられている(Groth,A.C.及びCalos,M.P.(2004)J.Mol.Biol.335,667−678)。これらのリコンビナーゼは、自律性であること、単純なatt配列を有し、且つ哺乳類細胞において機能する能力を備えていることが観察された。attP又はattB以外の部位の何れかの組合せ間での組換えは、ほとんど又は全く観察されていないので、組込みは一方向性であり、且つ組込み頻度は高い。セリンリコンビナーゼによって、リコンビナーゼのLitファミリーのメンバーの使用を採用した従来の組換え系を凌ぐ有意義な利点がもたらされる。これらの酵素には、数多くの用途がある。1つの方法では、ある生物のゲノムへatt部位を配置し、組換えの標的として使用する。
【0006】
[0006]
出願人は、様々な哺乳類細胞、及び植物細胞における強い活性と、さらには宿主細胞のゲノムへポリヌクレオチドを安定に組み込む能力、又は宿主細胞のゲノムからポリヌクレオチドを切り出す能力を示す、新規のセリンリコンビナーゼを同定している。
[発明の開示]
[発明が解決しようとする課題]
【0007】
[0007]
本発明は、真核細胞において安定な部位特異的組換えを行うための、組成物及び方法を提供する。部位特異的組換えのための前記の方法と異なり、本発明のリコンビナーゼ及びそれらの使用方法は、安定で、非可逆的な部位特異的組換えを提供する。
【0008】
[0008]
本発明の組成物は、第1組換え部位と第2組換え部位との間の部位特異的組換えを媒介するリコンビナーゼポリペプチドを提供する。いくつかの実施形態において、核酸はさらに、リコンビナーゼポリペプチドによって認識される組換え部位を含む。
[課題を解決するための手段]
【0009】
[0009]
本方法は、第1組換え部位及び第2組換え部位を含む真核細胞を準備することを含み、当該第2組換え部位は、前記第1組換え部位との組換えのための基質としての役割を果たすことができる。第一及び第2組換え部位は、原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと接触され、この結果、組換え部位間の組換えが引き起こされる。前記組換え部位の一方又は双方は、真核細胞の染色体に存在することができる。いくつかの実施形態において、前記組換え部位の一方は染色体に存在し、そしてもう一方は染色体に組み込まれることになる核酸内に入れられる。
【0010】
[0010]
本発明はまた、原核生物のリコンビナーゼポリペプチド、又は原核生物のリコンビナーゼをコードする核酸を含む真核細胞を提供する。これらの実施形態において、前記リコンビナーゼは、第1組換え部位と、当該第1組換え部位との組換えのための基質としての役割を果たすことができる第2組換え部位との間の部位特異的組換えを媒介することができる。好ましい実施形態において、前記リコンビナーゼは、リステリア・モノサイトゲネスファージ、化膿レンサ球菌ファージ、枯草菌ファージ、結核菌ファージ及び恥垢菌ファージからなる群より選択される。より好ましくは、前記リコンビナーゼは、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ、及びBxb1リコンビナーゼからなる群より選択される。
【0011】
[0011]
さらなる実施形態において、本発明は、安定に組み込まれたポリヌクレオチド配列を有する真核細胞を得るための方法を提供する。これらの方法は、第1組換え部位を含む真核細胞に核酸を導入することを含み、当該核酸は、対象の導入遺伝子と、当該第1組換え部位との組換えのための基質としての役割を果たすことができる第2組換え部位とを含む。前記第1及び第2組換え部位は、原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと接触される。前記リコンビナーゼポリペプチドは、第1組換え部位と第2組換え部位との間の組換えを媒介し、この結果、第1組換え部位での核酸の組込みが成し遂げられる。
【0012】
[0012]
ファージリコンビナーゼが有する、生細胞においてDNA配列間の組換えを特異的且つ効率よく行わせる能力により、これらの酵素は、様々な遺伝子工学用途において潜在的に有用なものになっている。このような用途として、ポリヌクレオチド配列の組込み、切り出し、反転、転座及びカセット置換が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施例に記載の通りに、標的又はアッセイプラスミドでのattP部位とattB部位間の組換えをリコンビナーゼが検出する能力をアッセイするのに使用される、一過性分子内組換えアッセイ(TIRA)を示す概略図である。
【図2】図2は、ヒト胎児腎(HEK293)細胞において実施される、様々なリコンビナーゼについてのTIRAの結果を示す図である。
【図3】図3は、マウスNIH3T3細胞において実施される、様々なリコンビナーゼについてのTIRAの結果を示す図である。
【図4】図4は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において実施される、様々なリコンビナーゼについてのTIRAの結果を示す図である。
【図5】図5は、ヒトHeLa細胞において実施される、様々なリコンビナーゼについてのTIRAの結果を示す図である。
【図6】図6は、ラット骨髄間質細胞において実施される、様々なリコンビナーゼについてのTIRAの結果を示す図である。
【図7】図7は、マウス神経幹細胞において実施される、様々なリコンビナーゼについてのTIRAの結果を示す図である。
【図8】図8は、タバコBY2細胞において実施される、A118リコンビナーゼについてのTIRAアッセイの結果を示す図である。
【図9】図9は、attB又はattP部位を含むHEK293染色体への、attP又はattB配列を含むプラスミドDNAの安定な組込みを示す概略図である。
【図10】図10は、attB又はattP部位を含むHEK293細胞染色体への、attP又はattB配列を含むプラスミドDNAの安定な組込み後の、attL及びattR部位のPCR増幅の結果を示す図である。
【図11】図11は、安定に組み込まれた停止配列の切り出し、及びリコンビナーゼに起因するルシフェラーゼ活性の活性化を示す概略図である。
【図12】図12は、安定に組み込まれた停止配列の切り出し、及びリコンビナーゼに起因するルシフェラーゼ活性の活性化の結果を示す図である。
【図13】図13は、HEK293細胞に存在する天然の偽attB又は偽attP部位での、attP又はattB組換え部位を含むプラスミドの挿入又は組込みを示す概略図である。
【図14】図14は、HEK293細胞において同定されたSF370.1及びSPβc2リコンビナーゼに対する天然の偽attB部位のヌクレオチド配列を示す図である。[発明を実施するための最良の形態]
【0014】
[0013]
この開示において、多くの語及び略語が用いられる。以下に定義がなされるが、本発明の範囲及び実施を理解するのに有効でなければならない。
【0015】
[0014]
特定の実施例において、「約」又は「およそ」の語は、一定値に対して20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内、更に好ましくは1%以内の値又は範囲を意味する。
【0016】
[0015]
本明細書における「リコンビナーゼ」とは、特定の部位との間で部位特異的組換えを生じさせる一群の酵素であって、該部位を単一のDNA分子に物理的に分離するか、又は該部位を別々のDNA分子に位置させるものを指す。特定の組換え部位のDNA配列が、同一である必要はない。組換えの開始はタンパク質−DNA相互作用に依存し、バクテリオファージの組み込み及び除去を媒介(例えばλインテグラーゼ、φC31)、環状プラスミドの分解(例えばTn3、γデルタ、Cre、Flp)、交互の遺伝子発現のためのDNAの反転(例えばHin、Gin、Pin)、分化の際の遺伝子組み込み(例えばAnabaena窒素固定遺伝子)及び転座(例えばIS607トランスポゾン)に関与する多数のタンパク質がある。大部分の部位特異的リコンビナーゼは、進化的及び機能的な相関性に基づいて、2つの系統のうちの1つに分類される。そこには、λインテグラーゼ系統又はチロシンリコンビナーゼ(例えばCre、FIp、Xer D)、及びresolvase/インテグラーゼ系統又はセリンリコンビナーゼ系統(例えばφC31、TP901−1、Tn3、γデルタ)が含まれる。
【0017】
[0016]
「組換え接着部位」とは、本願明細書に記載のリコンビナーゼ酵素によって認識される特異的なポリヌクレオチド配列である。通常、2つの異なる部位(「補完的な部位」と称される)が関与し、一つは標的核酸(例えば真核生物又は原核生物の染色体又はエピソーム)であり、もう一方は標的組換え部位で組み込みされる核酸上に存在する。用語「attB」及び「attP」は、元々細菌の標的及びバクテリオファージドナーの結合(又は組換え)部位をそれぞれ指し、本願明細書においては、特定の酵素に対応する組換え部位としてそれぞれ異なる名称で用いられうる。組換え部位は通常、核又はスペーサ領域によって分離される左右のアームを含む。すなわち、attB組換え部位は、BOB’からなり、B及びB’がそれぞれ左右のアームであり、Oがコア領域である。同様に、attPは、POP’であり、P及びP’がアームであり、Oが同様にコア領域である。attB及びattP部位間の組換え及びそれに付随する標的核酸の組み込みに応じて、組み込みされたDNAの側方に位置する組換え部位は、「attL」及び「attR」と呼ばれる。attL及びattR部位は、上記の用語に従えば、それぞれBOP’及びPOB’を指す。本願明細書の若干の表現において、「O」は省略され、attB及びattPは、例えば、それぞれBB’及びPP’と記される。
【0018】
[0017]
「実質的に含まない」の用語においては、組成物中の少なくとも約75重量%のタンパク質、DNA、ベクター(A及びBが属するカテゴリーによる)が「A」であるときに、「A」(「A」は単一タンパク質、DNA分子、ベクター、組換え宿主細胞その他)を含む組成物が「B」(「B」は一つ以上の混入タンパク質、DNA分子、ベクターその他を含む)を実質的に含まないという。好ましくは、「A」は組成物のA+B中に少なくとも約90重量%、最も好ましくは少なくとも約99重量%含まれる。更に、組成物が混入物を実質的に含まず、活性又は目的の種類の特徴を有する単一の分子量の種のみを含むのが好ましい。
【0019】
[0018]
本発明において「単離された」という用語は、その最初の環境(天然に存在する環境)から取り出された生体物質(核酸又はタンパク質)を意味する。例えば、植物又は動物中に天然に存在するときは、ポリヌクレオチドは単離されていないが、それが天然に存在する隣接する核酸から切り離されたときは、その同じポリヌクレオチドは「単離された」ものとする。「精製された」の用語は、その材料が絶対的に純粋な形で存在すること、他の化合物の存在を除外することを必ずしも意味しない。それはむしろ相対的な意味である。
【0020】
[0019]
ポリヌクレオチドは、出発原料又は天然材料の精製の後、少なくとも1桁、好ましくは2又は3桁、より好ましくは4又は5桁のオーダー増加したとき、「精製された」状態であるとする。
【0021】
[0020]
「核酸」とは、ヌクレオチドと呼ばれるサブユニットが共有結合により連結してなる高分子化合物である。核酸はポリリボ核酸(RNA)及びポリデオキシリボ核酸(DNA)を含み、その両方は一本鎖でも二本鎖でもよい。DNAは、cDNA、ゲノムDNA、プラスミドDNA、合成DNA及び半合成DNAを含むが、これらに限定されるものではない。DNAは、線形、環状又はスーパーコイル状でもよい。
【0022】
[0021]
「核酸分子」とは、一本鎖又は二重螺旋状の、リボヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、ウリジン又はシチジン;「RNA分子」)若しくはデオキシリボヌクレオシド(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミジン又はデオキシシチジン;「DNA分子」)のリン酸エステル、又はそのいかなるリン酸エステル類似体(例えばホスホロチオネート及びチオエステル)の重合体を指す。DNA−DNA、DNA−RNA及びRNA−RNAの二重螺旋鎖でもよい。「核酸分子」(特に「DNA又はRNA分子」)の用語は、分子の一次及び二次構造にのみ関連し、いかなる特定の三次構造に限定されるものではない。すなわち、この語はとりわけ、線形又は環状DNA分子(例えば制限断片)、プラスミド及び染色体の二本鎖DNAを含む。特定の二本鎖DNA分子の構造に言及するとき、配列は、本願明細書においては通常の慣例に従い、非転写DNA鎖(すなわちmRNAと相補的な配列を有する鎖)の5’から3’方向の配列のみで記載してもよい。「組換えDNA分子」とは、分子生物学的操作を施されたDNA分子である。
【0023】
[0022]
「断片」の用語は、共通の部分において参照核酸と同一のヌクレオチド配列を含む、参照核酸より長さの減少したヌクレオチド配列を意味すると解される。本発明のこの種の核酸断片は、必要に応じて、それを構成要素とするより大きいポリヌクレオチドに含めることができる。この種の断片は、本発明による核酸の少なくとも6、8、9、10、12、15、18、20、21、22、23、24、25、30、39、40、42、45、48、50、51、54、57、60、63、66、70、75、78、80、90、100、105、120、135、150、200、300、500、720、900、1000又は1500の連続するヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドを含んでなるか、又はそれらからなる。
【0024】
[0023]
本発明において、「単離された核酸断片」とは、一本鎖又は二本鎖の、任意に合成、非自然又は修飾ヌクレオチド塩基を含む、RNA又はDNAの重合体である。DNA重合体の形の単離された核酸断片は、cDNA、ゲノムDNA又は合成DNAの一つ以上の部分を含んでなることができる。
【0025】
[0024]
「遺伝子」とは、ポリペプチドをコードするヌクレオチドの集合体を指し、cDNA及びゲノムDNA核酸が含まれる。「遺伝子」とは、特異的なタンパク質又はポリペプチドを発現するための、コード配列の上流(5’非コード配列)又は下流(3’非コード配列)に制御配列を含む核酸断片を含むを指すこともある。「天然遺伝子」とは、それ自身の制御配列を有する、天然に存在する遺伝子をいう。「キメラ遺伝子」とは、天然においては一緒に存在しない制御及び/又はコード配列を含む、あらゆる非天然の遺伝子をいう。したがって、キメラ遺伝子は異なる給源に由来する制御配列及びコード配列を含んでもよく、又は同じ給源に由来する制御配列及びコード配列を含むときでも、天然とは異なる方法で構成されているものを含んでもよい。キメラ遺伝子は、異なる給源に由来するコード配列及び/又は異なる給源に由来する制御配列を含んでもよい。「内因性遺伝子」とは、生物のゲノムのその本来の場所に位置する天然の遺伝子をいう。「外来」遺伝子又は「ヘテロ」遺伝子とは、通常宿主生物に存在しない遺伝子を指すが、それは遺伝子導入によって宿主生物に導入される。外来遺伝子は、非天然の生物に導入される天然の遺伝子、又はキメラ遺伝子を含んでもよい。「導入遺伝子」は、形質転換の操作によってゲノムに導入される遺伝子をいう。
【0026】
[0025]
「ヘテロ」DNAとは、細胞又は細胞の染色体部位に天然に存在しないDNAをいう。好ましくは、ヘテロDNAは、細胞と関係のない遺伝子を含む。
【0027】
[0026]
「ゲノム」の用語は、染色体を指すが、同様にミトコンドリア、葉緑体及びウイルスのDNA又はRNAを指すこともある。
【0028】
[0027]
核酸分子は、一本鎖の核酸分子が他の核酸分子に溶液中の適切な温度及びイオン強度(Sambrookら、1989下記文献を参照)の条件下でアニールできるとき、他の核酸分子(例えばcDNA、ゲノムDNA又はRNA)に「ハイブリダイズ可能」という。ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は、例えばSambrook,J., Fritsch,E.F. and Maniatis,T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor(1989)(全内容が参照により本願明細書に援用される)の、特に第11章及びその中の表11.1において公知である。温度条件及びイオン強度は、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を決定する。
【0029】
[0028]
ストリンジェンシー条件は、高度に類似の断片(例えば近縁の生物から機能的な酵素を複製する遺伝子)を、中程度に類似の断片(例えば近縁でない生物からの相同配列)から選別できるように調整してもよい。相同核酸の事前スクリーニングは、Tm値55℃の低いストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件(例えば5×SSC、0.1% SDS、0.25% ミルク、ホルムアミドを含まない;又は30% ホルムアミド、5×SSC、0.5% SDS)を用いてもよい。中程度のストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、より高いTm(例えば5×又は6×SCCを有する40% ホルムアミド)に対応する。高度なストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、最も高いTm(例えば50% ホルムアミド、5×又は6×SCC)に対応する。
【0030】
[0029]
ハイブリダイゼーションは、2つの核酸が相補配列を含むことが必要であるが、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて、塩基間のミスマッチもありうる。「相補的」の用語は、互いにハイブリダイズできるヌクレオチド塩基の関係を記載するのに用いられる。例えば、DNAに関しては、アデノシンとチミンが相補的であり、またシトシンとグアニンが相補的である。したがって、本発明はまた、本願明細書において開示又は使用される完全な配列、並びにそれらの実質的に類似の核酸配列と相補的である単離された核酸断片を含む。
【0031】
[0030]
本発明の特定の実施態様において、ポリヌクレオチドは、55℃のTm値におけるハイブリダイゼーションステップを含むハイブリダイゼーション条件を採用することにより、また上記の条件を利用することにより、検出される。好ましい実施態様では、Tmは60℃であり、より好適な実施態様では、Tmは63℃であり、さらに好適な実施態様では、Tmは65℃である。
【0032】
[0031]
ハイブリダイゼーション後の洗浄も、ストリンジェンシー条件を決定する。好適な条件の一セットは、6×SSC、0.5% SDSによる15分間、室温における洗浄から始まり、2×SSC、0.5% SDSによる30分間、45℃における洗浄を繰り返し、0.2×SSC、0.5% SDSによる30分間、5O℃における洗浄を二度繰り返す、一連の洗浄を採用するものである。
ストリンジェント条件のより好適な一セットは、より高い温度において、最後の2度の0.2×SSC、0.5% SDSによる30分の洗浄の温度が、60℃と高いのを除き、上記のそれらと同一である洗浄条件である。非常にストリンジェントな条件の他の好適なセットは、0.1×SSC、0.1% SDSによる65℃における2度の最終洗浄を採用するものである。ハイブリダイゼーションは、2つの核酸が相補配列を含むことを必要とするが、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーによっては塩基間のミスマッチもありうる。
【0033】
[0032]
核酸のハイブリダイズのための適切なストリンジェンシーは、核酸の長さ及び相補性の程度、公知の変数に依存する。2つのヌクレオチド配列の類似性又は相同性の程度がより大きいほど、それらの配列を有する核酸ハイブリッドのTm値は大きくなる。核酸ハイブリダイゼーションの相対的な安定性(より高いTmに対応)は、RNA:RNA、DNA:RNA、DNA:DNAの順序で減少する。100を超えるヌクレオチド長のハイブリッドにおける、Tm値を算出するための方程式が開発されている(Sambrookら、前出、9.50−0.51を参照)。より短い核酸(すなわちオリゴヌクレオチド)によるハイブリダイゼーションにおいては、ミスマッチの位置はより重要となり、またオリゴヌクレオチドの長さはその特異性を決定する(Sambrookら、前出11.7−11.8を参照)。
【0034】
[0033]
本発明の特定の実施態様において、ポリヌクレオチドは、500mM未満の塩及び少なくとも37℃におけるハイブリダイゼーションステップ、及び2×SSPEにおける少なくとも63℃の洗浄ステップを含むハイブリダイゼーション条件を使用することによって検出される。好ましい実施態様において、ハイブリダイゼーション条件は200mM未満の塩、及び少なくとも37℃におけるハイブリダイゼーションステップを含む。より好ましい態様では、ハイブリダイゼーション条件は、2×SSPE及び63℃のハイブリダイゼーションステップ及び洗浄ステップを含む。
【0035】
[0034]
一実施態様において、ハイブリダイズな核酸の長さは、少なくとも約10ヌクレオチド長である。好ましくは、ハイブリダイズ可能な最小の核酸長は、少なくとも約15ヌクレオチド長、より好ましくは、少なくとも約20ヌクレオチド長、最も好ましくは、少なくとも30ヌクレオチド長である。更に、熟練した当業者であれば、温度及び洗浄溶液の塩濃度が必要に応じてプローブ長などの要因により調整できることを認識するであろう。
【0036】
[0035]
「プローブ」の用語は、一本鎖の相補的な標的核酸と塩基対を形成して二本鎖分子を形成できる、一本鎖の核酸分子をいう。
【0037】
[0036]
本発明において、「オリゴヌクレオチド」の用語は、ゲノムDNA分子、cDNA分子、プラスミドDNA又はmRNA分子にハイブリダイズ可能な、一般に少なくとも18ヌクレオチド長の核酸を指す。オリゴヌクレオチドは、例えば32P−ヌクレオチド、又はマーカー物質(例えばビオチン)が共有結合して複合体となったヌクレオチドによりマーカーできる。マーカーオリゴヌクレオチドは、核酸の存在を検出するためのプローブとして使用できる。オリゴヌクレオチド(それの一方又は両方をマーカーしてもよい)は、核酸の完全長又は断片をクローニングする目的、又は核酸の存在を検出する目的に用いるPCRプライマーとして使用できる。オリゴヌクレオチドは、DNA分子の三重螺旋を形成するために使用してもよい。通常、オリゴヌクレオチドは、好ましくは核酸合成装置により合成される。それを用いて、オリゴヌクレオチドを、非天然に存在するリン酸エステルに類似する結合(例えばチオエステル結合)によって調製できる。
【0038】
[0037]
「プライマー」は、適切な条件下で標的核酸配列にハイブリダイズして、DNA合成の開始位置として機能しうる核酸の二本鎖領域を形成する、オリゴヌクレオチドである。この種のプライマーは、ポリメラーゼ連鎖反応において使用できる。
【0039】
[0038]
「ポリメラーゼ連鎖反応」はPCRと略記され、酵素により特異的な核酸配列を増幅する、インビトロでの方法を意味する。PCRは、一連の温度サイクルの反復を含み、各サイクルは、鋳型核酸を変性して標的分子の鎖を遊離させるステージ、鋳型核酸に一本鎖PCRオリゴヌクレオチドプライマーがアニールするステージ、及びDNAポリメラーゼによってアニールされたプライマーが伸長するステージ、の3つのステージを含んでなる。PCRは、定量的であるか半定量的な条件下で標的分子の存在を検出し、核酸の開始プール中における標的分子の相対量を測定する手段を提供する。
【0040】
[0039]
「反転写−ポリメラーゼ連鎖反応」は、RT−PCRと略記されるが、酵素によりRNA分子から標的cDNA分子を調製し、それに続き、酵素により標的cDNA分子内での特異的な核酸配列の上記のような増幅を行う、インビトロでの方法を意味する。RT−PCRはまた、標的分子の存在を検出し、定量的又は半定量的な条件下で、核酸の開始プール中における標的分子の相対量を測定する手段を提供する。
【0041】
[0040]
DNAの「コード配列」は、適切な制御配列の制御下に配置されるときにインビトロ又はインビボで転写され、ポリペプチドに翻訳される、二本鎖DNA配列である。「適切な制御配列」とは、コード配列の上流(5’非コード配列)、内部、又は下流に(3’非コード配列)位置し、関連するコード配列の転写(RNAプロセシング若しくは安定化)又は翻訳に影響する、ヌクレオチド配列を指す。制御配列には、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセシング部位、エフェクター接着部位及びステムループ構造が含まれる。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドン、及びで3’(カルボキシル)末端の翻訳終止コドンにより規定される。コード配列は、原核生物の配列(cDNAからのmRNA、ゲノムDNA配列及び合成DNA配列でもよい)を含むが、これに限定されない。コード配列が真核細胞の発現を目的とする場合、通常ポリアデニル化シグナル及び転写終結配列を3’側コード配列に位置させる。
【0042】
[0041]
「オープンリーディングフレーム」は、ORFと略記され、ATG又はAUGのような翻訳開始シグナル若しくは開始コドン、並びに終止コドンを含み、ポリペプチド配列に翻訳されうる、一連の長さの核酸配列(DNA、cDNA又はRNAであってもよい)を意味する。
【0043】
[0042]
「ヘッド・ツー・ヘッド」の用語は、本願明細書において、2つのポリヌクレオチド配列の各々の方向を記載するのに用いられる。1つのポリヌクレオチドのコード鎖の5’末端が他のポリヌクレオチドのコード鎖の5’末端と隣接し、それにより各ポリヌクレオチドの転写の方向が、他のポリヌクレオチドの5’末端から遠ざかる方向であるとき、2つのポリヌクレオチドはヘッド・ツー・ヘッド方向において配置されているという。「ヘッド・ツー・ヘッド」の用語は、(5’)−to−(5’)と省略してもよく、また(←→)又は(3’←5’5’→3’)の記号によって示してもよい。
【0044】
[0043]
「テイル・ツー・テイル」の用語は、本願明細書において、2つのポリヌクレオチド配列の各々の方向を記載するのに用いられる。1つのポリヌクレオチドのコード鎖の3’末端が他のポリヌクレオチドのコード鎖の3’末端と隣接し、それにより各ポリヌクレオチドの転写の方向が、他のポリヌクレオチドに向かう方向であるとき、2つのポリヌクレオチドはテイル・ツー・テイル方向において配置されているという。「テイル・ツー・テイル」の用語は、(3’)−to−(3’)と省略してもよく、また(→←)又は(5’→3’3’←5’)の記号によって示してもよい。
【0045】
[0044]
「テイル・ツー・ヘッド」の用語は、本願明細書において、2つのポリヌクレオチド配列の各々の方向を記載するのに用いられる。1つのポリヌクレオチドのコード鎖の5’末端が他のポリヌクレオチドのコード鎖の3’末端と隣接し、それにより各ポリヌクレオチドの転写の方向が、他のポリヌクレオチドのものと同じ方向であるとき、2つのポリヌクレオチドはテイル・ツー・ヘッド方向において配置されているという。「テイル・ツー・ヘッド」の用語は、(5’)−to−(3’)と省略してもよく、また(→→)又は(5’→3’5’→3’)の記号によって示してもよい。
【0046】
[0045]
「下流」の用語は、参照ヌクレオチド配列の3’側に位置するヌクレオチド配列をいう。特に、下流のヌクレオチド配列は、一般に転写開始点に続く配列に関する。例えば、遺伝子の翻訳開始コドンは、転写開始部位の下流に位置する。
【0047】
[0046]
「上流」の用語は、参照ヌクレオチド配列の5’側に位置するヌクレオチド配列をいう。特に、上流のヌクレオチド配列は、一般にコード配列又は転写開始点の5’側に位置する配列に関する。例えば、大部分のプロモーターは、転写開始部位の上流に位置する。
【0048】
[0047]
「制限エンドヌクレアーゼ」及び「制限酵素」の用語は、二重鎖DNAの範囲内に結合し、特異的なヌクレオチド配列を切断する酵素を指す。
【0049】
[0048]
「相同組み換え」とは、外来DNA配列の他のDNA分子への挿入(例えばベクターの染色体への挿入)を指す。好ましくは、ベクターは、相同組み換えのための特異的な染色体上の部位を標的とする。特異的な相同組み換えのために、ベクターは染色体の配列と相同性のある十分に長い領域を含み、それにより染色体への相補的な結合及びベクターの組み込みが可能となる。長い相同性領域、及び配列類似性の増加により、相同組み換えの効率を向上させることができる。
【0050】
[0049]
公知技術のいくつかの方法は、本発明によるポリヌクレオチドの複製に使用できる。一旦適切な宿主システム及び増殖条件が決められると、組換え発現ベクターは複製され、大量調製できる。本願明細書に記載のように、使用可能な発現ベクターには、若干の例として、以下のベクター又はその誘導体が含まれるが、これに限定されない:ヒト又は動物ウイルス(例えばワクシニアウイルス又はアデノウイルス)、昆虫ウイルス(例えばバキュロウイルス)、酵母ベクター、バクテリオファージベクター(例えばλ)及びプラスミド及びコスミドDNAベクター。
【0051】
[0050]
「ベクター」は、宿主細胞への核酸のクローニング及び/又は転移のためのあらゆる手段を指す。ベクターは、他のDNA部分が連結され、その連結された部分の複製を可能にするレプリコンであってよい。「レプリコン」は、インビボにおける自律的なDNA複製単位として機能する、すなわちそれ自身の制御により複製できるいかなる遺伝因子(例えばプラスミド、バクテリオファージ、コスミド、染色体、ウイルス)であってよい。「ベクター」の用語は、インビトロ、生体外又はインビボで核酸を細胞に導入するためのウイルス及び非ウイルス由来の手段を含む。公知技術の多数のベクターを用いて核酸を操作したり、応答配列及びプロモーターを遺伝子へ導入したりしてもよい。使用可能なベクターにはプラスミド又は修飾されたウイルス(例えばλ誘導体のようなバクテリオファージ、又はpBR322、pUCプラスミド誘導体若しくはBluescriptベクターのようなプラスミド)が含まれる。例えば、適切なベクターへの応答配列及びプロモーターに対応するDNA断片の挿入は、相補的な結合力がある末端を有する適切なベクターに適切なDNA断片をライゲーションすることによって可能となる。あるいは、DNA分子の末端が酵素で修飾されていてもよく、またDNA末端にヌクレオチド配列(リンカー)をライゲーションしていかなる部位としてもよい。この種のベクターは、選択可能なマーカー遺伝子を含むように設計してもよく、そのマーカーが細胞ゲノムに組み込まれた細胞を選抜することが可能となる。この種のマーカーは、そのマーカーによってコードされるタンパク質が組み込まれ、発現している宿主細胞の同定及び/又は選抜を可能にする。
【0052】
[0051]
ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターが、生きている動物患者の場合と同様に、細胞の多種多様な遺伝子の送達用途に用いられる。使用可能なウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、痘瘡ウイルス、バキュロウイルス、種痘疹ウイルス、単純ヘルぺスウイルス、エプスタイン・バーウイルス、アデノウイルス、ジェミニウイルス及びカウリモウイルスのベクターが挙げられるが、これらに限定されない。非ウイルスベクターには、プラスミド、リポソーム、荷電脂質(サイトフェクチン)、DNA−タンパク質複合体及び生体高分子が含まれる。核酸に加え、ベクターは一つ以上の調節領域及び/又は選択マーカーを含んでもよく、核酸転送結果(どの組織に送達されたか、発現の期間、その他)を選択、測定、モニターするのに有用である。
【0053】
[0052]
「プラスミド」の用語は、染色体外の遺伝要素であって、しばしば細胞の主要な代謝系の一部を構成しない遺伝子を担持しており、通常環状の二本鎖DNA分子の形態をとるものをいう。この種の要素は、いかなる給源に由来する自己複製配列、ゲノム組み込み配列、ファージ又はヌクレオチド配列であり、環状、線形又はスーパーコイル状で、一本鎖又は二本鎖のDNA又はRNAであってもよく、多くのヌクレオチド配列が特有のコンストラクトに導入され又は組換えられており、それにより、適切な3’非翻訳配列とともにプロモーター断片及び選択された遺伝子産物のDNA配列を細胞に導入することが可能となる。
【0054】
[0053]
「クローニングベクター」とは、一定の長さの核酸(好ましくはDNA)からなり、順次複製を行い、例えばプラスミド、バクテリオファージ又はコスミドなどの複製開始点を含み、他の核酸部分が連結してその連結された部分の複製が行われる「レプリコン」を指す。クローニングベクターは、一方の細胞種にて複製でき、及びもう一方にて発現できるもの(「シャトルベクター」)であってもよい。
【0055】
[0054]
ベクターは、公知の方法(例えばトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、形質導入、細胞融合法、DEAEデキストラン法、リン酸カルシウム沈殿法、リポフェクション(リソソーム融合)法、遺伝子銃)又はDNAベクター輸送体(Wuら、1992、J.Biol.Chem.267:963−967;Wu及びWu、1988、J.Biol.Chem.263:14621−14624;Hartmutら、1990年3月15日に出願のカナダ特許出願番号第2,012,311号を参照)により所望の宿主細胞に導入できる。
【0056】
[0055]
本発明によるポリヌクレオチドは、インビボでリポフェクション法によっても導入できる。ここ10年の間、リポソームによりインビトロで核酸を封入し、トランスフェクションに使用する事例が増加している。リポソームによって媒介されるトランスフェクションによって生じる問題点及び危険性を最小限にするように設計された合成カチオン脂質を用いてリポソームを調製し、マーカーをコードする遺伝子のインビボでのトランスフェクションを行ってもよい(Feignerら、1987,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.84:7413;Mackeyら、1988,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:8027−8031;Ulmerら、1993, Science 259: 1745−1748)。カチオン脂質の使用は、負に荷電する核酸の封入を促進でき、更に負に荷電する細胞膜との融合を促進できる(Feigner及びRingold、1989,Science 337:387−388)。核酸の送達に特に有用な脂質化合物及び組成物は、国際公開第WO95/18863号及びWO96/17823号、並びに米国特許第5,459,127号に記載されている。リポフェクションの使用によりインビボで外因性の遺伝子を特定の器官に導入することは、ある種の有用な効果がある。特異的な細胞に対するリポソームの分子ターゲッティングは、有利性の一つの側面を表す。特定のタイプの細胞をトランスフェクションすることが、特に細胞異質性を有する組織(例えば膵臓、肝臓、腎臓及び脳)において好まれることは明らかである。脂質は、ターゲッティングのために他の分子と化学的にカップリングしてもよい(Mackeyら、1988、前出)。標的ペプチド(例えばホルモン類又は神経伝達物質及びタンパク質(例えば抗体))、又は非ペプチド分子を、化学的にリポソームにカップリングしてもよい。
【0057】
[0056]
他の分子もまた、核酸によるインビボトランスフェクションの簡便化に有用であり、例えばカチオンのオリゴペプチド(例えばWO95/21931)、DNA結合蛋白質に由来するペプチド(例えばWO96/25508)、又はカチオン重合体(例えばWO95/21931)が使用可能である。
【0058】
[0057]
インビボでベクターを裸のDNAプラスミド(U.S.の特許5,693,622、5,589,466及び5,580,859を参照)として導入してもよい。レセプタによって媒介されるDNA送達方法を用いてもよい(Curielその他、1992、Hum.Gene Ther.3:147−154;Wu及びWu、1987、J.Biol.Chem.262:4429−4432)。
【0059】
[0058]
「トランスフェクション」の用語は、外因性又は異種のRNA又はDNAの細胞による取り込みを意味する。この種のRNA又はDNAが細胞に導入されたときに、細胞は外因性又は異種のRNA又はDNAによって「トランスフェクション」されたという。トランスフェクションしたRNA又はDNAにより形質的な変化をもたらしたとき、細胞は外因性又は異種のRNA又はDNAによって「形質転換」されたという。形質転換をするRNA又はDNAは、細胞のゲノムを形成する染色体DNAに(共有結合により)導入される。
【0060】
[0059]
「形質転換」とは、宿主生物のゲノムに核酸断片が送達され、安定に遺伝することを指す。形質転換のための核酸断片を含む宿主生物は、「トランスジェニック」、「組換え」又は「形質転換」生物と呼ばれる。
【0061】
[0060]
「遺伝子領域」の用語は、ポリペプチドをコードする遺伝子を含む核酸分子の領域又はヌクレオチド配列を指す。
【0062】
[0061]
更に、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターは、細胞宿主における増幅又は発現が観察される、一つ以上の複製開始点、マーカー又は選択マーカーを含んでもよい。
【0063】
[0062]
「選択マーカー」の用語は、通常抗生物質又は化学耐性遺伝子などの確認要素を意味し、それはマーカー遺伝子の効果(すなわち抗生物質耐性、除草剤耐性、比色マーカー、酵素、蛍光マーカーなど)に基づく選抜を可能とし、それにより目的核酸の遺伝の追跡及び/又は目的核酸が遺伝した細胞又は生物を同定するために用いることができる。従来使用されている公知の選択マーカー遺伝子の例としては、アンピシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ビアラホス除草剤、スルホンアミドなどの耐性を提供する遺伝子、表現型マーカー遺伝子として用いられるアントシアニン調節遺伝子、イソペンタニルトランスフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。
【0064】
[0063]
「レポーター遺伝子」の用語は、そのレポーター遺伝子の効果に基づいて同定されうる確認要素をコードする核酸を指す。その効果は目的の核酸が遺伝しているか否かの確認に用いられ、それにより目的の核酸が遺伝している細胞又は生物を同定することや、及び/又は遺伝子発現誘導又は転写を測定することが可能となる。従来使用されている公知のレポーター遺伝子の例として、ルシフェラーゼ(Luc)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β−ガラクトシダーゼ(LacZ)、β−グルクロニダーゼ(Gus)などが挙げられる。選択マーカー遺伝子は、レポーター遺伝子と考えることもできる。
【0065】
[0064]
「プロモーター」とは、コード配列又は機能性RNAの発現を制御できるDNA配列を指す。一般に、コード配列はプロモーター配列の3’側に位置する。プロモーターは、それらの全部が天然の遺伝子に由来してもよく、天然に存在する異なるプロモーターに由来する異なる要素を含んでもよく、又は合成DNA部分を含んでもよい。当業者であれば、プロモーターの種類によっては、遺伝子の発現を誘導できる組織又は細胞タイプが異なり、又は、発生段階又は環境若しくは生理的条件への応答が異なることを十分理解している。大部分の細胞タイプにおいて大部分の時間に遺伝子を発現させるプロモーターは、一般に「構成的プロモーター」と呼ばれる。特異的な細胞種において遺伝子を発現させるプロモーターは、一般に「細胞特異的プロモーター」又は「組織特異的プロモーター」と呼ばれる。発生又は細胞分化の特異的な時期に遺伝子を発現させるプロモーターは、一般に「発生特異的プロモーター」又は「細胞分化特異的プロモーター」と呼ばれる。薬剤、生体分子、化学物質、リガンド、光等のプロモーター誘導物質により細胞を曝露又は処理した後に、遺伝子発現がなされるプロモーターは、一般に「誘導性プロモーター」又は「制御可能プロモーター」と呼ばれる。更に、ほとんどの場合、制御配列の正確な境界が完全に定義されないため、異なる長さのDNA断片でも同一のプロモーター活性を有しうることが理解される。
【0066】
[0065]
「プロモーター配列」とは、細胞のRNAポリメラーゼと結合して、下流(3’側)のコード配列の転写の開始を可能とするDNA調節領域である。本発明における定義において、プロモーター配列は、その3’末端で転写開始点と結合しており、そこから上流(5’側)に向かって、バックグラウンドに対して検出可能なレベルでの転写を開始するのに必要な最小限の塩基又は要素を含んでいる。転写開始点はプロモーター配列中に存在し(例えば、ヌクレアーゼS1を用いたマッピングによって簡便に定められる)、同様に、RNAポリメラーゼとの結合に用いられるタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)も存在する。
【0067】
[0066]
RNAポリメラーゼがコード配列からmRNAに転写するとき、コード配列は細胞内の転写及び翻訳制御配列の「制御下である」といい、その後、トランスRNAスプライシングを受け(コード配列がイントロンを含む場合)、コード配列によってコードされるタンパク質に翻訳される。
【0068】
[0067]
「転写及び翻訳制御配列」はDNA調節配列であり、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーター等が挙げられ、それらは宿主細胞においてコーディング配列を発現させる。真核細胞においては、ポリアデニル化シグナルが制御配列として存在する。
【0069】
[0068]
「応答配列」という用語は、第1のキメラの遺伝子のDNA−結合領域との相互作用を介して、プロモーターに反応性を与える、一つ以上のシス作用性DNAエレメントを意味する。このDNAエレメントは、その配列においてパリンドローム(完全であるか不完全な)構造でもよく、又は幾つかのヌクレオチドで区切られた配列モチーフ又はハーフサイトから構成されてもよい。ハーフサイトとは、類似又は同一でもよく、直接であるか逆向き繰り返し配列でもよく、又は、単一のハーフサイト若しくは複数の隣接するハーフサイトが直列に連結したものでもよい。応答配列とは、その応答配列が組み込まれる細胞又は生物の性質によって、異なる生物から単離された最小のプロモーターを含んでもよい。第1のハイブリッドタンパク質のDNA結合領域は、リガンドの有無により、応答配列のDNA配列と結合し、この応答配列の制御下で下流の遺伝子の転写を開始又は抑制する。天然のエクジソンレセプターの応答配列のDNA配列の例としては、RRGG/TTCANTGAC/ACYY(Cherbas L.ら、(1991),Genes Dev.5,120−131を参照);AGGTCAN(n)AGGTCA(N(n)は一つ以上のスペーサヌクレオチド)(DAvino PP.ら、(1995),Mol.Cell.Endocrinol,113,1−9を参照);及びGGGTTGAATGAATTT(Antoniewski C,ら、(1994).Mol.Cell Biol.14,4465−4474)。
【0070】
[0069]
「機能的に連結」とは、ある一つの核酸断片上の核酸配列が、その1つの機能がその他のものの影響を受ける関連にあることを指す。例えば、プロモーターは、そのコード配列の発現に影響を及ぼす(すなわちコード配列がプロモーターの転写調節の下にある)とき、コード配列に機能的に連結しているという。コード配列は、制御配列に対するセンス又はアンチセンスの方向にて、機能的に連結できる。
【0071】
[0070]
本発明において使用する「発現」の用語とは、核酸又はポリヌクレオチドに由来するセンス(mRNA)又はアンチセンスRNAの転写及び安定な蓄積を意味する。発現とはまた、mRNAのタンパク質又はポリペプチドへの翻訳を指すこともある。
【0072】
[0071]
「カセット」、「発現カセット」及び「遺伝子発現カセット」の用語は、特異的な制限酵素部位、又は、相同組み換えによって核酸又はポリヌクレオチドに挿入されるDNAの部分を指す。DNA部分は、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、カセット及び制限酵素部位は、そのカセットが転写及び翻訳に適切な読み枠となるように設計されている。「変換カセット」とは、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、ポリヌクレオチドに加えて特定の宿主細胞の形質転換を可能にする要素を有している特異的なベクターをいう。本発明のカセット、発現カセット、遺伝子発現カセット及び形質転換カセットは、宿主細胞における、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現強化を可能にする要素を含んでもよい。これらの要素は、プロモーター、最小プロモーター、エンハンサー、応答配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列など含むが、これらに限定されない。
【0073】
[0072]
「調節」の用語は、核酸又は遺伝子の発現を誘導、減少又は阻害することを指し、それにより対応するタンパク質又はポリペプチド産生の誘導、減少又は抑制がなされる。
【0074】
[0073]
本発明のプラスミド又はベクターは、宿主細胞の遺伝子の発現促進に適する少なくとも一つのプロモーターを更に含んでもよい。「発現ベクター」の用語は、宿主の形質転換後に、挿入された核酸配列の発現を可能にするように設計されたベクター、プラスミド又は担体を意味する。クローニングされた遺伝子(すなわち挿入された核酸配列)は、通常は調節要素(例えばプロモーター、最小プロモーター、エンハンサー等)の制御下となるよう配置される。所望の宿主細胞における核酸の発現促進に有用な開始制御領域又はプロモーターは多数存在し、当業者に公知である。実際、これらの遺伝子発現を促進できるあらゆるプロモーターが本発明に適用可能であり、例えば以下のものが含まれるがこれらに限定されない。ウイルスプロモーター、細菌プロモーター、動物プロモーター、哺乳類プロモーター、合成プロモーター、構成的プロモーター、組織特異性プロモーター、発生特異的プロモーター、誘導性プロモーター、光制御プロモーター、CYC1、HIS3、GAL1、GAL4、GAL10、ADH1、PGK、PHO5、GAPDH、ADC1、TRP1、URA3、LEU2、ENO、TP1、アルカリ性ホスファターゼプロモーター(サッカロミセス属での発現に有用);AOX1プロモーター(ピキア属の発現に有用);βラクタマーゼ、lac、ara、tet、trp、lPL lPR、T7、tac及びtrcプロモーター(大腸菌での発現に有用);光制御、種子特異的、花粉特異的、卵巣特異的、病原物質又は疾患関連、カリフラワーモザイクウイルス35S、CMV35S最小、カッサバ静脈モザイクウイルス(CsVMV)、クロロフィルa/b結合蛋白質、リブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ、芽特異的、根特異的、キチナーゼ、ストレス誘導性、イネツングロ病ウイルス、植物スーパープロモーター、ジャガイモロイシンアミノペプチダーゼ、硝酸レダクターゼ、マンノピンシンターゼ、ノパリンシンターゼ、ユビキチン、ゼインタンパク質及びアントシアニンプロモーター(植物細胞での発現に有用);公知の動物及び哺乳類のプロモーターには、SV40初期プロモーター領域(SV40e)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)の3’末端反復配列(LTR)に含まれるプロモーター、アデノウイルス(Ad)のElAプロモーター又は主要後期プロモーター(MLP)遺伝子、サイトメガロウイルス(CMV)初期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、バキュロウイルスIE1プロモーター、伸長因子1α(EF1)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、ユビキチン(Ubc)プロモーター、アルブミンプロモーター、マウスメタロチオネイン−Lプロモーターの制御配列及び転写調節領域、ユビキタスプロモーター(HPRT、ビメンチン、α−アクチン、チューブリンなど)、中間フィラメント(デスミン、神経細糸、ケラチン、GFAP、など)プロモーター、治療的な遺伝子(MDR、CFTR又はVIE型因子など)のプロモーター、病原物質又は疾患関連プロモーター、組織特異的プロモーターなどを含むが、これらに限定されず、またトランスジェニック動物において使用するエラスターゼI遺伝子制御領域は、膵臓腺房細胞において活性を示す;膵臓β細胞において活性を示すインシュリン遺伝子制御領域、リンパ球様細胞において活性を示す免疫グロブリン遺伝子制御領域、精巣、胸部、リンパ球及びマスト細胞において活性を示すマウス乳癌ウイルス制御領域;肝臓において活性を示すアルブミン遺伝子、Apo AI及びApo AU制御領域、肝臓において活性を示すアルファフェトプロテイン遺伝子制御領域、肝臓において活性を示すα1抗トリプシン遺伝子制御領域、骨髄性細胞において活性を示すβ−グロビン遺伝子制御領域、脳の乏突起神経膠細胞細胞において活性を示すミエリン塩基性蛋白質遺伝子制御領域、骨格筋において活性を示すミオシン軽鎖−2遺伝子制御領域、及び視床下部において活性を示す性腺刺激の放出ホルモン遺伝子制御領域、ピルビン酸キナーゼプロモーター、ヴィリンプロモーター、腸の脂肪酸結合タンパク質のプロモーター、平滑筋細胞α−アクチンのプロモーターなど。更に、これらの発現配列は、エンハンサー又は制御配列の付加などにより修飾されてもよい。
【0075】
[0074]
本発明の実施態様において使用できるエンハンサーには、SV40エンハンサー、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー、伸長因子1(EF1)エンハンサー、酵母エンハンサー、ウイルス遺伝子エンハンサーなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0076】
[0075]
末端制御領域(すなわちターミネーター又はポリアデニル化配列)は、好適な宿主に内在する様々な遺伝子に由来してよい。終結部位が不必要なこともあるが、含まれるのが最も好ましい。本発明の好ましい実施例において、終結制御領域は、合成配列、合成ポリアデニル化シグナル、ポリアデニル化シグナル遅くSV40、SV40ポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、ウイルスターミネーター配列等を含むか又はそれらに由来する。
【0077】
[0076]
「3’非コード配列」又は「3’非翻訳領域(UTR)」の用語は、コード配列の下流に(3’側)位置するDNA配列を指し、mRNA処理又は遺伝子発現に影響を及ぼしうる調節シグナルをコードするポリアデニル化[ポリ(A)]認識配列及び他の配列を含んでもよい。ポリアデニル化シグナルは通常、mRNA前駆体の3’末端へのポリアデニル酸の追加に影響を及ぼすのが特徴である。
【0078】
[0077]
「調節領域」とは、第2の核酸配列の発現を調節する核酸配列を意味する。調節領域は、本来特定の核酸(相同領域)を発現させる役割を果たす配列を含むことができ、又は異なるタンパク質又は合成タンパク質(ヘテロ領域)をも発現させる役割を果たす異種生物起源の配列を含むことができる。その配列は特に、原核生物、真核生物、ウイルス遺伝子の配列又はそこから派生する配列であって、特異的又は非特異的に、また誘導的又は非誘導的に遺伝子の転写を刺激又は抑制するものであってもよい。調節領域は、複製開始点、RNAスプライス部位、プロモーター、エンハンサー、転写終結配列及び標的細胞の分泌経路にポリペプチドを誘導するシグナル配列を含む。
【0079】
[0078]
「ヘテロ給源」由来の調節領域とは、発現される核酸と天然においては関係しない調節領域を指す。ヘテロ調節領域に含まれるものとして、異なる種からの調節領域、異なる遺伝子からの調節領域、複合型制御配列及び天然には生じない、当業者によって人為的に設計される制御配列が挙げられる。
【0080】
[0079]
「RNA転写物」とは、DNA配列からのRNAポリメラーゼの媒介による転写により生じた生成物をいう。RNA転写物が、DNA配列の完全な補完的複製物である場合、それは転写一次産物と呼ばれ、あるいは転写一次産物の転写後プロセシングされたRNA配列でもよく、それは成熟したRNAと呼ばれる。「メッセンジャーRNA(mRNA)」とは、イントロンを有さず、細胞にてタンパク質に翻訳されうるRNAをいう。「cDNA」とは、mRNAと相補的で、そこから由来する二本鎖DNAをいう。「センス」RNAとは、mRNAを含み、細胞にてタンパク質に翻訳されうるRNA転写物をいう。「アンチセンスRNA」とは、標的転写一次産物又はmRNAの全部又は一部と相補的で、標的遺伝子の発現を妨げるRNA転写物をいう。アンチセンスRNAの相補性は、特定の遺伝子転写物のいかなる部分において存在してもよく、すなわち5’非コード配列、3’非コード配列又はコード配列中でもよい。「機能的RNA」とは、アンチセンスRNA、リボザイムRNA又は翻訳されないが細胞方法に影響を及ぼす他のRNAをいう。
【0081】
[0080]
「ポリペプチド」は、アミノ酸残基が共有結合で連結してなる高分子化合物である。アミノ酸は、以下の一般の構造を有する:
【0082】
【化1】

【0083】
[0081]
アミノ酸は、側鎖Rに基づき7つの群に分類される:(1)脂肪族側鎖、(2)ヒドロキシルの(OH)基を含む側鎖、(3)硫黄原子を含む側鎖、(4)酸性の又はアミド基を含む側鎖、(5)塩基性基を含む側鎖、(6)芳香環を含む側鎖、及び(7)プロリン(側鎖がアミノ基と融合したイミノ酸)。本発明のポリペプチドは、好ましくは少なくとも約14個のアミノ酸を含む。
【0084】
[0082]
「タンパク質」は、生細胞での構造的又は機能的役割を果たすポリペプチドである。
【0085】
[0083]
「単離されたポリペプチド」又は「単離されたタンパク質」とは、その天然の状態では通常結合している化合物(例えば他のタンパク質又はポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質)を実質的に含まない、ポリペプチド又はタンパク質である。「単離された」とは、他の化合物との人工若しくは合成混合物や、又は生物的活性を妨げない異物の存在を除外することを意味せず、それは例えば不完全な精製、安定化剤の添加、又は薬学的に許容できる調製物の調製により存在することとなる。
【0086】
[0084]
ポリペプチド又はタンパク質の「変異型」は、あるポリペプチド又はタンパク質に由来し、ポリペプチド又はタンパク質の少なくとも一つの生物学的性質を維持するあらゆる類似体、断片、誘導体又は変異体であってもよい。ポリペプチド又はタンパク質の様々な変異型は、自然界に存在しうる。これらの変異型は、タンパク質をコードする構造遺伝子のヌクレオチド配列の違いを特徴とする対立遺伝子の変異でもよく、又は差動スプライシング又は翻訳後修飾を含んでもよい。熟練した当業者は、一つ又は複数のアミノ酸置換、欠失、付加又は置換を有する変異を生じさせることができる。これらの変異型にはとりわけ、(a)一つ以上のアミノ酸残基が保守的な又は非保守的なアミノ酸により置換されている変異型、(b)一つ以上のアミノ酸がポリペプチド又はタンパク質に付加されている変異型、(c)一つ以上のアミノ酸が置換基を含む変異型、及び(d)ポリペプチド又はタンパク質が血清アルブミンのような他のポリペプチドと融合している変異型が含まれる。これらの変異型を得るための当業者に公知の技術として、遺伝子的(抑制、欠失、突然変異その他)化学的及び酵素的手法が含まれる。
【0087】
[0085]
「異種タンパク質」とは、細胞において天然に生産されないタンパク質をいう。
【0088】
[0086]
「成熟したタンパク質」とは、翻訳後処理されたポリペプチドをいい、すなわち一次翻訳産物に存在するあらゆるプレペプチド又はプロペプチドが除去されているものをいう。「前駆体」タンパク質とは、mRNAの翻訳の一次生成物をいい、すなわちプレペプチド及びプロペプチドが未だ存在するものをいう。プレペプチド及びプロペプチドは、細胞内の局在化シグナルであってもよいが、それに限定されない。
【0089】
[0087]
「シグナルペプチド」の用語は、分泌型成熟タンパク質の前に存在する、アミノ末端のポリペプチドをいう。シグナルペプチドは除去されるため、成熟タンパク質には存在しない。シグナルペプチドは、分泌されるタンパク質を細胞膜から通過させ、転座させる機能を有する。シグナルペプチドは、シグナルタンパク質とも呼ばれる。
【0090】
[0088]
「シグナル配列」は、タンパク質のコード配列の始めに含まれ、細胞表面に発現される。この配列は、成熟ポリペプチドに対してN末端に位置するシグナルペプチドをコードし、宿主細胞からポリペプチドを転位させる。本願明細書において用いられる「転座シグナル配列」の用語は、この種のシグナル配列を指す。転座シグナル配列が、真核生物及び原核生物に内在する様々なタンパク質と結合して存在し、両方の生物のタイプにおいて機能的であることもある。
【0091】
[0089]
「相同性」の用語は、2つのポリヌクレオチド又は2つのポリペプチド部分間の同一性のパーセンテージをいう。一つの配列部分ともう一方の配列部分との間の対応関係については、当業者に公知の技術で測定できる。例えば、相同性は、2つのポリペプチド分子間で配列情報を整列配置し、簡便に利用できるコンピュータプログラムを使用した配列情報の直接比較により測定できる。あるいは、相同領域との間に安定デュプレックスを形成する条件の下でポリヌクレオチドをハイブリダイゼーションさせ、その後一本鎖特異的なヌクレアーゼにより消化し、消化された断片のサイズを測定することによっても、相同性を測定できる。
【0092】
[0090]
本発明において、すべての文法上の形及び綴り上の活用形における「相同な」の用語は、スーパーファミリー(例えば免疫グロブリンスーパーファミリー)に由来するタンパク質、及び異種由来の相同タンパク質(例えばミオシン軽鎖など)を含む「共通の祖先」を有するタンパク質間の関係を指す(Reeckら、1987,Cell 50:667.)。この種のタンパク質(またそれらのコード遺伝子)は配列相同性を有し、それは配列類似性の高さを反映する。しかしながら、一般的な使用及び直接的な意味において、例えば「高度に」の副詞で修飾された「相同性の」の用語は、配列類似性を通常指し、共通の祖先を指すものではない。
【0093】
[0091]
したがって、すべての活用形における「配列類似性」の用語は、核酸又はタンパク質のアミノ酸配列の同一性又は対応関係のことを指し、共通の祖先を有するか否かにはかかわりがない(Reeckら、1987, Cell 50:667を参照)。
【0094】
[0092]
特定の実施態様において、ヌクレオチドの少なくとも約50%、好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも約90%又は95%以上が特定の長さのDNA配列と一致するとき、2つのDNA配列は「実質的に相同」又は「実質的に類似」であるという。実質的に相同的な配列は、標準的なソフトウェアを使用して配列データバンクで得られる配列と比較することによって、あるいは例えば、特殊な系のために設定されているストリンジェントな条件下でサザンハイブリダイゼーションを行うことにより、同定できる。適切なハイブリダイゼーション条件の設定は、技術の技量の範囲内である。Sambrookら、(1989)前出、を参照。
【0095】
[0093]
本発明において「実質的に類似」の用語は、1つ以上のヌクレオチド塩基の変異が一つ以上のアミノ酸の置換をもたらすが、そのDNA配列によってコードされるタンパク質の機能特性には影響を及ぼさない、核酸断片のことを指す。また、「実質的に類似」の用語は、核酸断片上の一つ以上のヌクレオチド塩基の変異が、アンチセンス又は共抑制による遺伝子発現の変化をもたらす能力に影響を及ぼさない、核酸断片を指す。また、「実質的に類似」の用語は、例えば一つ以上のヌクレオチド塩基の欠失又は挿入がなされても、結果として生じる転写物の機能特性に実質的な影響を及ぼさない、本発明の核酸断片の修飾を指す。したがって、本発明においては、特定の典型的な配列以外にも多くのものが含まれると理解される。提唱された修飾の各々は従来技術のルーチンの範囲内であり、またコードされた生成物の生物的活性の保持も同様である。
【0096】
[0094]
さらに、熟練した当業者であれば、本発明に含まれる実質的に類似の配列を、本願明細書において例証される配列と、ストリンジェントな条件(0.1×SSC、0.1% SDS、65℃、その後2×SSC、0.1% SDS、更に0.1×SSC、0.1% SDSによって洗浄)下でハイブリダイズする能力によって定義することもできると認識する。本発明における実質的に類似の核酸断片とは、そのDNA配列が本願明細書において報告される核酸断片のDNA配列と少なくとも70%同一な核酸断片のことを指す。本発明におけるより好適な核酸の断片は、DNA配列が本願明細書において報告される核酸断片のDNA配列と少なくとも80%同一な核酸断片のことを指す。更に好適な核酸断片は、本願明細書において報告される核酸断片のDNA配列と、少なくとも90%同一である。最も好適な核酸断片は、本願明細書において報告される核酸断片のDNA配列と少なくとも95%同一である。
【0097】
[0095]
2つのアミノ酸配列順序は、アミノ酸の約40%超が同一、又は60%超が同一であるとき、「実質的に相同」又は「実質的に類似」(機能的に同一)という。好ましくは、類似又は相同な配列は、例えば、GCG(Genetics Computer Group, Program Manual for the GCG Package, Version 7, Madison, Wisconsin)多重衝突プログラムを使用したアラインメントによって同定される。
【0098】
[0096]
「対応する」の用語は、本願明細書において、類似又は相同な配列を指すために用いられ、その場合、ある特定の位置が、類似性又は相同性が測定される分子と異なる場合も同一である場合もある。核酸又はアミノ酸配列アラインメントには、スペースを含めてもよい。すなわち、「対応する」の用語は配列類似性を指し、アミノ酸残基又はヌクレオチド塩基の付番のことではない。
【0099】
[0097]
アミノ酸又はヌクレオチド配列の「実質部分」とは、そのポリペプチド又は遺伝子を推定的に確認するのに十分なポリペプチドのアミノ酸配列順序又は遺伝子のヌクレオチド配列を含み、それは当業者による配列のマニュアル評価、又は、アルゴリズム(例えばBLAST)を使用したコンピュータによる自動的な配列比較及び同定のいずれか(Basic Local Alignment Search Tool;Altschul, S. F.ら、(1993) J. Mol Biol. 215: 403−410; www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/を参照)によりなされる。一般に、ポリペプチド又は核酸配列を周知のタンパク質又は遺伝子と推定的に同定するためには、10以上の隣接するアミノ酸又は30以上のヌクレオチドの配列が必要である。さらに、ヌクレオチド配列に関しては、20−30の隣接するヌクレオチドを含む遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いて、配列に依存した遺伝子同定(例えばサザンブロット法)及び単離(例えば細菌コロニー又はバクテリオファージプラークのin situハイブリダイゼイション)を行うことができる。更に、12−15塩基の短いオリゴヌクレオチドをPCRの増幅プライマーとして用い、プライマーを含む特定の核酸断片を得ることもできる。以上より、ヌクレオチド配列の「実質部分」は、特定の配列を含む核酸断片を確認及び/又は分離するのに十分な量の配列を含む。
【0100】
[0098]
「パーセント同一性」の語は、周知のように、2つ以上のポリペプチド配列又は2つ以上のポリヌクレオチド配列の関係のことを指し、それらの配列の比較によって定められる。従来技術においては、「同一性」はまた、場合によっては、ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列との間に配列相関性の程度を意味し、それらの配列間での一致度により定められる。「同一性」及び「類似性」は、以下の周知の方法によって簡便に算出できるが、これらに限定されない。Computational Molecular Biology (Lesk,A.M.,ed.)Oxford University Press,New York(1988);
Biocomputing:Informatics and Genome Projects (Smith,D.W.,ed.)Academic Press,New York(1993);Computer Analysis of Sequence Data, Part I(Griffin,A.M.,及びGriffin,H.G.,eds.)Humana Press,New Jersey(1994);Sequence Analysis in Molecular Biology(von Heinje,G.,ed.)Academic Press(1987);and Sequence Analysis Primer(Gribskov,M.及びDevereux,J.,eds.)Stockton Press,New York(1991)。同一性を決定するために好適な方法が設計されており、試験される配列間の最高の一致がなされる。同一性及び類似性を決定するための方法は、一般公開されているコンピュータプログラムにより提供される。配列アラインメント及び同一性パーセントの算出は、Megalign program of the LASERGENE bioinformatics computing suite (DNASTAR Inc., Madison, WI)を使用して実行できる。配列の複数のアラインメントは、Clustal method of alignment (Higgins and Sharp (1989) CABIOS.5:151−153)(デフォルトパラメーター:GAP PENALTY=IO, GAP LENGTH PENALTY=IO)により実行できる。Clustal法を使用したペアのアラインメントのデフォルトパラメータは、KTUPLE 1、GAP PENALTY=3、WIND0W=5及びDIAGONALS SAVED=5として選択できる。
【0101】
[0099]
「配列分析ソフトウェア」の用語は、ヌクレオチド又はアミノ酸配列の分析に有用なあらゆるコンピュータアルゴリズム又はソフトウエアプログラムを指す。「配列分析ソフトウェア」は、市販のものでも独自に開発したものでもよい。典型的は配列分析ソフトウェアには、GCG suite of programs(Wisconsin Package Version 9.0, Genetics Computer Group (GCG),Madison,WI)、BLASTP、BLASTN、BLASTX(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403−410(1990)及びDNASTAR(DNASTAR,Inc.1228 S.Park St.Madison、WI 53715、USA)が含まれるが、これらに限定されない。本発明の範囲内において、配列分析ソフトウェアが分析に用いられる場合、特に明記しない限り、分析の結果は参照されるプログラムの「デフォルト値」に基づくものと理解される。本発明において、「デフォルト値」とは一群の数値又はパラメーターのいずれかを意味し、それは初期化の際に最初にソフトウェアによりロードされる。
【0102】
[0100]
「合成遺伝子」は、当業者に公知の方法を使用して化学的に合成されるオリゴヌクレオチド構成部分を組み合わせて得られる。これらの構成部分はライゲーションされ、アニールされて遺伝子部分が形成され、更にそれを酵素的に組み合わせて完全な遺伝子を形成する。DNAの配列に関して「化学的に合成された」とは、構成要素ヌクレオチドがインビトロで組み合わされていることを意味する。確立された手法を使用してDNAを手動で化学合成してもよく、又は多くの市販の装置のいずれかを使用して自動的に化学合成してもよい。したがって、宿主細胞のコドンバイアスを反映するようにヌクレオチド配列の最適化を行い、遺伝子をテーラーメードすることにより、遺伝子発現を最適化することもできる。熟練した当業者であれば、コドン使用頻度が宿主によって好まれるコドンに偏っている場合、遺伝子発現が好適に行われると予想するであろう。好適なコドンの決定は、配列情報が利用できる宿主細胞に由来する遺伝子の調査に基づき行うことができる。
(本発明)
【0103】
[0101]
本発明は、真核細胞の部位特異的組換え体を得るための組成物及び方法を提供する。より詳細には、本発明は原核生物のリコンビナーゼ(例えばバクテリオファージリコンビナーゼ)を使用する。それらは、2つの補完的な組換え部位間における組換え反応を媒介できるが、この組換えによって形成されるハイブリッド部位間においては組換え反応を媒介できない。発明者らは、細菌接着部位(attB)及びバクテリオファージ接着部位(attP)との間でのみ組換えを各々行う、新規なリコンビナーゼを同定した。上記リコンビナーゼは、attB及びattPとの間で組換えが形成された、attL及びattRハイブリッド部位との間において組換え反応を媒介できない。これらのようなリコンビナーゼは単独で逆反応を媒介できないため、attB及びattPによる組換えは安定である。この特性は、本発明の組成物及び方法が、真核細胞において現在使用されている他の組換え系(例えばCre−lox又はFLP−FRT系)(これらの組換え反応は可逆的である)と異なる所以である。本発明の組換え系の使用により、真核細胞における安定な遺伝子導入及び染色体換えのための新規な方法が提供される。
【0104】
[0102]
本発明の方法は、一対の組換え接着部位、attB及びattPを接触させることが必要であり、それらは対応するリコンビナーゼと共に真核細胞中に存在する。リコンビナーゼはその後、組換え接着部位間で組換え反応を媒介する。組換え接着部位の相対的な位置により、組換えの結果として、多くの現象のいずれか一つが起こりうる。例えば、組換え接着部位が異なる核酸分子に存在する場合、組換えにより1つの核酸分子が第2の分子に取り込まれることがありえる。すなわち、1つの組換え部位を含むプラスミドを、対応する組換え部位を含む真核細胞染色体に取り込ませることができる。本発明の方法で使用されるリコンビナーゼは、逆反応を媒介しないため、取り込みが安定に行われる。この種の方法は、例えばプラスミド上に存在する導入遺伝子の真核生物染色体への安定な取り込みに有用である。
【0105】
[0103]
組換え接着部位は、同じ核酸分子上に存在してもよい。そのような場合、結果として生じる生成物は通常接着部位の相対的な方向に依存する。例えば、平行又は直列の方向にある部位間の組換えの結果、通常、その組換え接着部位間に位置するあらゆるDNAの除去がなされる。一方、逆方向にある接着部位間の組換えの結果、介在するDNAの方向の反転がなされうる。同様に、結果として生じる再編成された核酸は安定であるが、それは、更なる因子がない場合には組換えが不可逆的である点、また特定のバクテリオファージ及び/又はリコンビナーゼを発現するバクテリオファージの宿主細胞にて通常コードされ、通常真核細胞中に存在しない点が理由として挙げられる。この方法が有用性を発揮する一つの用途例においては、組換え接着部位間にプロモーターが配置される。プロモーターが、そのプロモーターにより発現されるコード配列に対して最初に逆方向を向き、プロモーターの側方に位置する組換え部位が逆方向を向いている場合、組換え接着部位を接触させることにより、プロモーターが反転し、それによりプロモーターが正しい方向に配置され、コード配列の発現が行われる。同様に、プロモーターが最初に発現にとって正しい方向を向き、組換え接着部位が同じ方向を向いている場合、リコンビナーゼを用いて組換え接着部位を接触させることにより、プロモーター断片が結果として除去され、それによりコード配列の発現を停止することができる。
【0106】
[0104]
本発明の方法はまた、染色体の転座に有用である。例えば、これらの実施態様において、1つの組換え接着部位は1つの染色体に配置され、第1の組換え接着部位との組換え反応の基質として機能する第2の組換え接着部位が、第2の染色体に配置される。リコンビナーゼが組換え接着部位に接触すると組換えが起こり、2本の染色体のアームがスワッピングを起こす。例えば、第1の組換え接着部位を含む第一の菌株、及び第2の組換え接着部位を含む第2の菌株の、2つの菌株を造成できる。2つの菌株をその後交雑することで、両方の組換え接着部位を含む子孫菌株が得られる。リコンビナーゼと接着部位を接触させると、染色体アームのスワッピングが起こる。
(リコンビナーゼ)
【0107】
[0105]
本発明の実施に使用されるリコンビナーゼは、ターゲティングベクターの導入前に、同時に、又は後に標的細胞に導入してもよい。リコンビナーゼは、例えばリポソーム、被覆粒子又はマイクロインジェクションを使用してタンパク質として細胞に直接注入してもよい。あるいは、適切な発現ベクターを使用してリコンビナーゼをコードしているポリヌクレオチド(DNA又はメッセンジャーRNA)を細胞に導入してもよい。上記のターゲッティングベクター成分は、目的のリコンビナーゼをコードする配列を含む発現カセットの構築に有用である。しかしながら、リコンビナーゼの発現は他の方法でも調節でき、例えば制御可能なプロモーター(すなわち発現を選択的に誘導又は抑制できるプロモーター)の制御下でリコンビナーゼの発現を調整することによって可能となる。
【0108】
[0106]
本発明の実施に用いられるリコンビナーゼは、前述したように組換えにより生産、又は精製することができる。目的のリコンビナーゼ活性を有するポリペプチドは、任意の純度にて、公知技術の方法により、タンパク質の硫安塩析、サイズ分別、アフィニティークロマトグラフィ、HPLC、イオン交換クロマトグラフィ、ヘパリンアガロースアフィニティークロマトグラフィ(例えばThorpe & Smith,Proc.Nat.Acad.Sci.95:5505−5510,1998を参照)などの精製方法により精製できるが、これらに限定されない。
【0109】
[0107]
リコンビナーゼポリペプチド、及び本発明のリコンビナーゼポリペプチドをコードする核酸は、実施例1に記載されており、当業者に公知の手法を使用して得ることができる。好ましい実施例において、リコンビナーゼは、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7及び配列番号9からなる群から選択される核酸配列と少なくとも90%同一である核酸を含んでなる単離されたポリヌクレオチド配列であり、該核酸はリコンビナーゼ活性を有する。より好ましくは、リコンビナーゼは、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7及び配列番号9からなる群から選択される核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド配列である。更により好ましくは、リコンビナーゼは、SPβc2リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、Bxb1リコンビナーゼ、A118リコンビナーゼ及びφRv1リコンビナーゼからなる群から選択されるリコンビナーゼをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド配列である。
【0110】
[0108]
リコンビナーゼは、適切な任意の方法によって、組換えをしようとする、組換え接着部位を有する真核細胞に導入できる。例えば、マイクロインジェクション又はその他の方法により機能性蛋白質を細胞に導入する方法が公知である。精製されたリコンビナーゼタンパク質を導入して、タンパク質及びその機能をトランジェントに存在させることができ、それが好ましい実施態様となることもある。あるいは、リコンビナーゼをコードする遺伝子を、使用する発現ベクターに含めて細胞を形質転換してもよく、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドは真核細胞におけるポリヌクレオチドの発現を媒介するプロモーターに機能的に連結されている。リコンビナーゼポリペプチドはまた、リコンビナーゼポリペプチドをコードするメッセンジャーRNAを用いて真核細胞に導入してもよい。リコンビナーゼは通常、修飾されたゲノムへの核酸断片の挿入に必要な時間だけ存在するこが好ましい。すなわち、大部分の発現ベクターに関連するような永続性が欠如しているため、有害であるとは考えられない。リコンビナーゼ遺伝子は、目的の外因性のポリヌクレオチドを導入する前、後又は同時に細胞に導入できる。一実施態様において、リコンビナーゼ遺伝子は、挿入されるポリヌクレオチドを担持するベクター中に存在し、そのリコンビナーゼ遺伝子はまた、そのポリヌクレオチド中に含まれてもよい。他の実施態様において、リコンビナーゼ遺伝子はトランスジェニック真核生物(例えばトランスジェニック植物、動物、真菌等)に導入でき、その後対応する組換え部位を含む生物と交差反応を起こす。リコンビナーゼを構成的な、細胞特異的な、組織特異的な、分化特異的な、細胞器官特異的な、小分子により誘導又は抑制できるプロモーターの制御下で発現するトランスジェニック細胞又は動物を作製できる。リコンビナーゼは、他のペプチド、タンパク質、核局在シグナルペプチド、シグナルペプチド又は細胞器官特異的なシグナルペプチド(例えばミトコンドリア又は葉緑体での組換えを可能にするミトコンドリア又は葉緑体輸送ペプチド)との融合タンパク質として発現させてもよい。
【0111】
[0109]
本発明の実施態様において、組換え接着部位は、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20及び配列番号21からなる群から選択される核酸配列と少なくとも90%同一である核酸を含む、単離されたポリヌクレオチド配列を含む。好ましくは、接着部位は、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20及び配列番号21からなる群から選択される核酸配列の核酸を含む、単離されたポリヌクレオチド配列である。
(ベクター/コンストラクト)
【0112】
[0110]
本発明によって考察される目的のコンストラクトは、後述するような制御配列、マーカー配列、選択配列など、付加的な核酸断片を含んでもよい。
【0113】
[0111]
本発明はまた、例えば以下からなる、ゲノムに目的ポリヌクレオチド(または核酸配列)を任意の部位に挿入するための手段を提供する。
(i):第1の組換え部位及び第2の組換え部位との間の組換えができるリコンビナーゼを提供すること、
(ii):第1の組換え配列及び目的ポリヌクレオチドを有するターゲティングコンストラクトを提供すること、
(iii):リコンビナーゼ及びその核酸中に第2の組換え部位を含むターゲティングコンストラクトを細胞に導入すること(前記導入が、リコンビナーゼが第1及び第2の組換え部位との間の組換え現象を促進できる条件の下でおこなわれる)。
【0114】
[0112]
本発明はまた、単離された真核細胞のゲノムへのポリヌクレオチド配列の部位特異的な組み込み用のベクターに関する。該ベクターは目的ポリヌクレオチド及び第2の組換えattBまたはattP部位を含み、前記第2の組換えattBまたはattP部位には、前記単離された真核細胞のゲノムの第1の組換えattPまたはattB部位または擬似attPまたは擬似attB部位によって組み換えられるポリヌクレオチド配列が含まれ、前記組換えは、リステリア・モノサイトゲネスバクテリオファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌バクテリオファージリコンビナーゼ、枯草菌バクテリオファージリコンビナーゼ、結核菌バクテリオファージリコンビナーゼ及び恥垢菌バクテリオファージリコンビナーゼからなる群から選択される部位特異的リコンビナーゼの存在下で生じ、第1の組換え部位がattBまたは擬似attBであるときは第2の組換え部位はattPであり、第1の組換え部位がattPまたは擬似attPであるときは第2の組換え部位がattBである。
好ましくは、リコンビナーゼは、Al18リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される。
【0115】
[0113]
目的ポリヌクレオチドとしては、限定されないが、ポリペプチド生成物をコードする発現カセットが挙げられる。ターゲッティングコンストラクトは、環状、線形であってよく、また選択マーカー、複製開始点及び他の要素を含んでもよい。
【0116】
[0114]
原核生物での発現及び真核生物での発現に用いる様々な発現ベクターが、本発明の実施に使用可能である。一般に、ターゲッティングコンストラクトは、以下の特徴の一つ以上を有してもよい:プロモーター、プロモーターエンハンサー配列、選択マーカー配列、複製開始点、誘導可能な要素配列、エピトープタグ配列など。
【0117】
[0115]
プロモーター及びプロモーターエンハンサー配列は、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始するためのDNA配列である。プロモーターは、どの鎖が転写されるかを特定することによって、転写物の両極性を決定する。細菌プロモーターは転写開始点から起算して−35及び−10ヌクレオチド上流のコンセンサス配列からなり、それは特異的なシグマ因子及びRNAポリメラーゼと結合する。真核生物プロモーターは更に複雑である。発現ベクターにおいて利用される大部分のプロモーターは、RNAポリメラーゼIIによって転写される。一般の転写制御因子(GTFS)は、最初に開始点付近で特異的な配列と結合し、RNAポリメラーゼIIの結合を補助する。これらの最小プロモーター要素に加えて、小さい配列要素は、提供されたプロモーターの活性を調整するモジュラーDNA−結合/トランス活性化タンパク質(例えばAP−1、SP−1)によって特異的に認識される。ウイルスプロモーターは、細菌又は真核生物プロモーターと同じ機能を発揮し、トランスにて特異的なRNAポリメラーゼ(バクテリオファージT7)を提供し、又は細胞因子及びRNAポリメラーゼ(SV40、RSV、CMV)を補助する。ウイルスプロモーターは通常、非常に強力なプロモーターであるため、好ましい。
【0118】
[0116]
更に、プロモーターは構成的でも制御可能(すなわち誘導又は抑制可能)でもよい。誘導性要素は、プロモーターと関連して機能し、リプレッサー(例えば大腸菌のlacO/LAC Iqリプレッサー系)又はインデューサー(例えば酵母のGal1/GAL4インデューサー系)のいずれかと結合したDNA配列要素である。いずれの場合も、プロモーターが抑制又は誘導されるまで、転写は実質的に「オフ」にされた状態であり、それらにより転写が「オン」にされる。
【0119】
[0117]
構成的プロモーターの例としては、バクテリオファージλのintプロモーター、pBR322のβラクタマーゼ遺伝子配列のblaプロモーター、pPR325のクロラムフェニコールアセチル転移酵素遺伝子配列のCATプロモーター、などが挙げられる。原核生物の誘導性プロモーターの例として、バクテリオファージのプロモーター(PL及びPR)、大腸菌のtip、reca、lacZ、AraC及びgalプロモーター、B.subtilisのα−アミラーゼ(Ulmanenら、J.Bacterid.162:176−182,1985)及びシグマ−28−特異的プロモーター(Gilmanら、Gene sequence 32:11−20(1984))、Bacillus属のバクテリオファージ(Gryczan,In:The Molecular Biology of the Bacilli,Academic Press,Inc.,NY(1982))、Streptomyces属のプロモーター(Wardら、Mol.Gen.Genet.203:468−478,1986)などが挙げられる。典型的な原核生物のプロモーターは、(J.Ind.Microtiot.1:277−282,1987)、Cenatiempo(Biochimie 68:505−516,1986)及びGottesman(Ann.Rev.Genet.18:415−442,1984)を参照のこと。
【0120】
[0118]
好適な真核生物プロモーターとして、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない。マウスメタロチオネインI遺伝子配列中のプロモーター(Hamerら、J.Mol.Appl.Gen.1:273−288,1982);ヘルペスウイルスのTKプロモーター(McKnight,Cell 31:355−365,1982);SV40初期プロモーター(Benoistら、Nature (London)290:304−310,1981);イーストgal1遺伝子配列プロモーター(Johnstonら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)79:6971−6975,1982;Silverら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)81:5951−59SS,1984)、CMVプロモーター、EFIプロモーター、エクジソン応答性プロモーター、テトラサイクリン応答性プロモーター、など。本発明に用いられる典型的なプロモーターは、それらが導入される細胞(及び/又は動物又は植物)のタイプにて機能的であるものが適宜選択される。
【0121】
[0119]
選択マーカーは、ベクターを含む細胞のみが増殖することを利用して、選抜する手段を提供するため、発現ベクターにとり有効な要素である。この種のマーカーには、薬剤耐性及び栄養要求性2つのタイプがある。薬剤耐性マーカーにより、細胞が外因的に付加された薬剤の解毒(さもなければ細胞が死ぬ)ができるようになる。栄養要求性マーカーにより、細胞が必須栄養素(通常アミノ酸)を合成ができるできるようになり、その必須栄養素を欠損する培地で増殖できるようになる。
【0122】
[0120]
一般の選抜可能なマーカー遺伝子として、抗生物質耐性(例えばアンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、ブレオマイシン、ストレプトマイシン、ハイグロマイシン、ネオマイシン、ゼオシン(商標)など)への耐性遺伝子が挙げられる。選抜可能な栄養要求性遺伝子として、例えばhisD(ヒスチジノールが存在する場合にはヒスチジン欠損培地で増殖できる)を含む。
【0123】
[0121]
発現ベクターにとり有用な更なる要素は、複製開始点である。複製開始点とは、開始点結合性多量体タンパク質によって認識され、開始部位におけるDNA複製酵素の組立にとり鍵となる役割を果たす、複数の短い反復配列を含む特注のDNA部分である。好適な本願明細書において使用される発現ベクターに用いられる複製開始点には、大腸菌oriC、colE1プラスミド起源、2μ及びARS(両方ともイースト系に有用)、sfl、SV40、EBV oriP(哺乳類の系に有用)などが含まれる。
【0124】
[0122]
エピトープタグは、エピトープ特異的抗体によって認識される短いペプチド配列である。組換えタンパク質及びエピトープマーカーを含んでなる融合タンパク質は、クロマトグラフィ樹脂と結合した抗体を使用して、簡単かつ容易に精製できる。更に、エピトープマーカーの存在によって、次の解析(例えばウエスタンブロット)により組換えタンパク質を検出でき、ことでは組換えタンパク質自体に特異的な抗体を調製する必要がない。一般的に用いられるエピトープマーカーの例としては、V5、グルタチオン−S−転移酵素(GST)、ヘマグルチニン(HA)、ペプチドPhe−His−His−Thr−Thr、キチン結合ドメインなどが挙げられる。
【0125】
[0123]
発現ベクターにとり更に有用な要素は、マルチクローニング部位又はポリリンカーである。一連の制限エンドヌクレアーゼ認識部位をコードする合成DNAは、プラスミドベクターの、例えば、プロモーター配列の下流に挿入される。これらの部位は、ベクターの特異的な位置でDNAを簡便にクローニングするために設計される。
【0126】
[0124]
前述の要素は、本発明の方法の使用に適する発現ベクターを作製するために結合させてもよい。当業者であれば、本願明細書の教示を参照して、その特定の系の使用に適している要素を選択し、結合させることが可能である。好適な原核生物のベクターとしては、例えばpBR322、ColEl、pSClOl、PACYC 184、itVX、PRSET、pBAD(Invitrogen、Carlsbad、Calif.)などのように、大腸菌で複製可能なプラスミドが挙げられる。この種のプラスミドは、Sambrookの文献(”Molecular Cloning:A Laboratory Manual,”second edition,edited by Sambrook,Fritsch,&Maniatis,Cold Spring Harbor Laboratory,(1989))において開示される。バチルス属のプラスミドには、pC194、pC221、pT127などが存在し、Gryczanの文献(Bacilli、Academic Press、NY(1982)pp. 307−329のMolecular Biology)において開示される。適切なストレプトマイセス属プラスミドには、pli101(Kendallら、J.Bacteriol.169:4177−4183(1987))及びストレプトマイセス属バクテリオファージ(例えばφC31(Chaterら、In: Sixth International Symposium on Actinomycetales Biology, Akademiai Kaido,Budapest,Hungary (1986),p45−54)が挙げられる。シュードモナス属のプラスミドは、Johnらによる文献(Rev.Infect.Dis.8:693−704(1986))、及びIzakiによる文献(Jpn.J.Bacteriol.33:729−742(1978))を参照。
【0127】
[0125]
適切な真核生物プラスミドとしては、例えば、BPV、EBV、ワクシニア、SV40、2ミクロンサークル、pcDNA3.1、pcDNA3.1/GS、pDual、pYES2/GS、pMT、pIND、pIND(Sp1)pVgRXR(Invitrogen)など、又はそれらの誘導体が挙げられる。この種のプラスミドは、公知である(Botsteinら、Miami Wntr.SyTnp.19:265−274,1982;Broach,In:”The Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces: Life Cycle and Inheritance”,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.,p445−470,1981;Broach,Cell 28:203−204,1982;Dilonら、J.Clin.Hematol.Oncol.10:39−48,1980;Maniatis、In:Cell Biology:A Comprehensive Treatise, Vol.3,Gene Sequence Expression,Academic Press,NY,p563−608,1980)。本願明細書に記載するターゲッティングカセットは、明細書の教示に基づき、分子生物学において公知の方法(例えばAusubel又はManiatis参照)を用いて作製できる。上述の通り、ターゲッティングコンストラクトは、適切なベクターバックボーンに、組換え接着部位、機能的に目的のプロモーターに連結した目的の配列をコードしているポリヌクレオチドを挿入して、更に任意にポジティブな選択マーカーをコードする配列を挿入して構築される。
【0128】
[0126]
適切な制御配列(例えばプロモーター)を含むポリヌクレオチドを得る好適な方法は、PCRである。PCRの一般的な方法は、MacPhersonらにより教示の、PCR:A PRACTICAL APPROACH,(IRL Press at Oxford University Press,(1991))を参照。各アプリケーションにおけるPCR反応条件は、経験的に決定できる。多くのパラメータが、反応の適否に影響する。これらのパラメータとしては、アニーリング温度及び時間、伸長時間、Mg2+及びATP濃度、pH及びプライマー、鋳型及びデオキシリボヌクレオチドの相対濃度が挙げられる。増幅後、生じた生成断片をアガロースゲル電気泳動にかけ、その後エチジウムブロミド染色及び紫外照明により視覚的に検出できる。
【0129】
[0127]
本発明の発現カセット、ターゲッティングコンストラクト、ベクター、リコンビナーゼ及びリコンビナーゼコード配列をキットに組み込むことができる。この種のキットの構成要素としては、限定されないが、容器、指示、溶液、バッファー、消耗品及びハードウェアが挙げられる。
(方法)
【0130】
[0128]
本発明は、
第1の組換え部位及び第2の組換え部位を準備すること、原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと共に第1及び第2の組換え部位を接触させること、及び組換え部位間で組換えを起こさせること、含み、リコンビナーゼポリペプチドが第1及び第2の組換え部位間での組換え反応を媒介でき、第1の組換え部位がattPまたはattBであり、第2の組換え部位がattBまたはattPであり、リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、第1の組換え付着部位がattBであるときは第2の組換え付着部位がattPであり、第1の組換え付着部位がattPであるときは第2の組換え付着部位がattBである、部位特異的組換え方法に関する。
【0131】
[0129]
本発明の更なる方法では、そのゲノムが修飾されている細胞に、部位特異的リコンビナーゼの導入が提供される。本発明の好ましい実施態様は、真核細胞の部位特異的組換えを得るための方法であって、第1の組換え付着部位及び第2の組換え付着部位を含む真核細胞を準備し、原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと共に第1及び第2の組換え付着部位を接触させ、組換え付着部位間で組換えを起こさせることを含み、リコンビナーゼポリペプチドは第1及び第2の組換え付着部位間での組換えを媒介でき、第1の組換え付着部位がバクテリオファージゲノムの組換え付着部位(attP)または細菌ゲノムの組換え付着部位(attB)であり、第2の組換え付着部位がattBまたはattPであり、リコンビナーゼが、リステリア生菌バクテリオファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌バクテリオファージリコンビナーゼ、枯草菌バクテリオファージリコンビナーゼ、ヒト型結核菌バクテリオファージリコンビナーゼ及び恥垢菌バクテリオファージリコンビナーゼからなる群から選択され、第1の組換え付着部位がattBであるときは第2の組換え付着部位がattPであり、第1の組換え付着部位がattPであるときは第2の組換え付着部位はattBである、方法に関する。好ましい実施例において、リコンビナーゼは、Al18リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される。一実施態様において、組換えにより組み込みがなされる。導入遺伝子の所定の遺伝子の場所を標的とする組み込みは、多くの用途にとり望ましい最終目的である。第一に、部位特異的リコンビナーゼのための第1の組換え部位は、ゲノム中のランダムな、又は予定された部位に挿入される。その後目的の遺伝子又はDNA、第2の組換え部位、及びリコンビナーゼの給源(発現プラスミド、RNA、タンパク質又はウイルスで発現しているリコンビナーゼ)を担持しているプラスミドにより細胞をトランスフェクションする。第1及び第2の組換え部位間の組換えは、プラスミドDNAの組み込みをもたらす。
【0132】
[0130]
他の実施例において、部位特異的組換えにより欠失又は除去がなされる。哺乳動物の遺伝子工学において最も一般的な用途は、特定の分化段階における不活性化又は活性化である。染色体又はエピソームのDNAから欠失又は削除されるDNA又は遺伝子は、第1の組換え及び第2の組換え部位のタンデム(直接の)リピートに挟まれて存在する。リコンビナーゼ導入による部位間の組換えは、DNAの欠失及び遺伝子の不活性化をもたらす。他のタイプの用途において、リコンビナーゼはゲノムから転写ストップシグナル(プロモーター及び遺伝子との間)の除去を媒介でき、それによりプロモーター要素が導入遺伝子のオープンリーディングフレームに連結され、遺伝子発現が行われる。リコンビナーゼは、構成的又は誘導性のプロモーターを使用し、又はリコンビナーゼを発現するウイルスベクターの導入により発現させることができる。
【0133】
[0131]
更なる実施態様において、部位特異的組換えにより反転が行われる。同じDNA分子上に挿入された逆方向の第1及び第2の組換え部位間の組換え(分子内組換え)により、間に存在するDNAセグメント又は断片を反転させる。
【0134】
[0132]
更なる態様において、部位特異的組換えにより、DNAの置換がなされる。最初に、カセット受容体は、染色体中の目的の位置に作製される。カセット受容体は、目的DNA、及びしばしば第一の組換え部位(例えばattB)の両側に位置する選択可能なマーカー遺伝子を含む。第2に、両側に組換え部位(例えばattP)を有する交替DNAカセットを含む交換ベクターを、リコンビナーゼ発現プラスミド又はリコンビナーゼタンパク質と共に細胞に導入できる。同族の組換え認識部位間の二重交差により、それを有する第1の組換え部位と交換ベクターによってもたらされた部位との間でのDNAの置換がなされる。他の例において、第1の組換え部位がattPであり、第2の組換え部位がattBである。この手順は、しばしばリコンビナーゼ媒介カセット置換と呼ばれている。
【0135】
[0133]
更なる実施態様において、部位特異的組換えは、染色体の転座をもたらす。染色体転座の際、第1の組換え部位は第1の染色体に導入され、第2の組換え部位は第2の染色体に導入される。細胞にリコンビナーゼを供給することで、染色体の転座が行われる。組換え部位が非相同染色体に標的とされるときに転座が行われる。リコンビナーゼ部位の相対的な方向次第で、組換えにより転座又は二動原体染色体及び無動原体染色体の生成がなされる。組換え部位がそれぞれの動原体に対して正しい方向にて位置するとき、転座が行われる。組換え部位が逆方向に位置する場合は、組換えにより無動原体及び二動原体の染色体の生成がなされる。
【0136】
[0134]
本発明にはまた、ゲノムに存在する擬似組換え接着部位における、リコンビナーゼにより媒介されるDNA挿入が含まれる。特異的なリコンビナーゼの擬似組換えまたは付着部位は、染色体に存在する天然の配列であり、部位特異的リコンビナーゼにより、第1又は第2の組換え部位を含むプラスミドDNAの組み込みを行うために認識され、使用されうる。擬似組換え部位の組み込みはランダムな組み込みより頻度が高いことが多い。これは、第一段階として組換え部位をゲノムに導入する必要がないという点で、一段階プロセスといえる。偽部位の組み込みは、遺伝子治療及び細胞治療におけるアプリケーションとなる。擬似attBは、attP部位と組換えを起こす、ゲノム中に存在する内在性の組換え部位である。擬似attPは、attB部位と組換えを起こす、ゲノム中に存在する内在性の組換え部位である。以上より、本発明は、真核細胞の部位特異的組換えを得るための方法であって、第1の組換え部位と第2の組換え部位とを含む真核細胞を準備し、原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと共に第1及び第2の組換え部位を接触させ、組換え部位間での組換え反応を起こさせることを含み、リコンビナーゼポリペプチドが第1及び第2の組換え部位間での組換えを媒介でき、第1の組換え部位がattPまたはattBであり、第2の組換え部位が擬似付着部位であり、リコンビナーゼが、リステリア生菌バクテリオファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌バクテリオファージリコンビナーゼ、枯草菌バクテリオファージリコンビナーゼ、ヒト型結核菌バクテリオファージリコンビナーゼ及び恥垢菌バクテリオファージリコンビナーゼからなる群から選択される、方法を提供する。好ましくは、リコンビナーゼは、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される。
【0137】
[0135]
本発明は更に、安定に組み込まれたポリヌクレオチド配列を有する真核細胞を得る方法であって、
ポリヌクレオチド(ポリヌクレオチドは核酸配列及び第2の組換えattPまたはattB部位を含む)を第1の組換えattBまたはattP部位を含む真核細胞に導入し、原核生物のリコンビナーゼポリペプチド(リコンビナーゼポリペプチドは第1及び第2の組換え部位間での部位特異的組換えを媒介できる)と、第一及び第二の組換え部位とを接触させることを含んでなり、リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、第1の組換え部位がattBであるとき第2の組換え部位がattPであり、第1の組換え部位がattPであるとき第2の組換え部位がattBである、方法を含む。他の実施態様において、安定に組み込まれたポリヌクレオチド配列を含む真核細胞を得る方法は、ポリヌクレオチド(ポリヌクレオチドは、核酸配列及び第2の組換え部位attPまたはattBを含む)を第1の組換え擬似付着部位を含む真核細胞に導入し、第一及び第二の組換え部位を原核生物のリコンビナーゼポリペプチド(リコンビナーゼポリペプチドは、第1及び第2の組換え部位間で部位特異的組換えを媒介できる)と接触させることを含んでなり、リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択される。好ましい実施例において、リコンビナーゼは、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される。
【0138】
[0136]
本発明は更に、真核細胞において部位特異的組換えを得るための方法を含み、該方法は、第3の組換え部位及び第4の組換え部位が側方に並んでいるポリヌクレオチド配列と共に第1の組換え部位及び第2の組換え部位を含む真核細胞を提供し、原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと組換え部位を接触させ、組換え部位間で組換えを起こさせることを含んでなり、リコンビナーゼポリペプチドが、第1の及び第3の組換え部位、並びに第2の及び第4の組換え部位間の組換えを媒介でき、第1及び第2の組換え部位がattPまたはattBであり、第3及び第4の組換え部位がattBまたはattPであり、リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、第1及び第2の組換え付着部位がattBであるとき、第3及び第4の組換え付着部位がattPであり、第1及び第2の組換え付着部位がattPであるとき、第3及び第4の組換え付着部位がattBである。好ましくは、リコンビナーゼは、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される。
【0139】
[0137]
本発明の他の実施態様では、トランスジェニック患者のゲノム(ゲノムは、第1の組換えattB若しくはattP部位、または擬似attB若しくは擬似attP部位を含む)に、目的ポリヌクレオチドの部位特異的組込みを行う方法を提供する。該方法は、目的ポリヌクレオチド及び第2の組換えattPまたはattB部位を含む核酸を導入し、原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと第一及び第二の組換え部位を接触させることを含んでなり、リコンビナーゼポリペプチドは、第1及び第2の組換え部位間で部位特異的組換えを媒介でき、リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、第1の組換え部位がattBまたは擬似attBであるときが第2の組換え部位がattPであり、第1の組換え部位がattPまたは擬似attPであるときは第2の組換え部位がattBである。好ましくは、リコンビナーゼは、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される。
【0140】
[0138]
本発明の他の方法において、真核細胞において複数の部位特異的組換えを得る方法を提供する。該方法は、第1の組換え部位及び第2の組換え部位を、第3の組換え部位及び第4の組換え部位と共に含む真核細胞を準備し、第1の原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと第1及び第2の組換え部位とを接触させ、第2の原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと第3及び第4の組換え部位とを接触させ、第1及び第2の組換え部位との間の組換え、並びに第3及び第4の組換え部位との間の組換えを行わせることを含んでなり、第1のリコンビナーゼポリペプチドが第1及び第2の組換え部位との間で組換えを媒介でき、第2のリコンビナーゼポリペプチドが第3及び第4の組換え部位との間で組換えを媒介でき、第1及び第2のリコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、第1のリコンビナーゼポリペプチド及び第2のリコンビナーゼポリペプチドが異なる。該方法は第5の組換え部位、第6の組換え部位、及び第3のリコンビナーゼポリペプチドを含んでもよく、そこにおいて第3のリコンビナーゼポリペプチドが第5及び第6の組換え部位との間で組換えを媒介でき、第3のリコンビナーゼポリペプチドが第1及び第2のリコンビナーゼポリペプチドとは異なる。
【0141】
[0139]
本発明は、原核生物のリコンビナーゼポリペプチドまたは原核生物のリコンビナーゼをコードする核酸を含む真核細胞に更に関する。該リコンビナーゼは、第1の組換え部位および第2の組換え部位(第1の組換え部位との組換えのための基質として機能しうる)との間で部位特異的組換えを媒介でき、第1の組換え部位がattP若しくは擬似attP、又はattB若しくは擬似attBであり、第2の組換え部位がattB若しくは擬似attB又はattP若しくは擬似attPであり、リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、第1の組換え部位がattBであるときは第2の組換え部位がattPまたは擬似attPであり、第1の組換え部位が擬似attBであるときは第2の組換え部位がattPであり、第1の組換え部位がattPであるときは第2の組換え部位がattBまたは擬似attBであり、第1の組換え部位が擬似attPであるときは第2の組換え部位がattBである。好ましくは、リコンビナーゼは、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される。
(細胞)
【0142】
[0140]
本発明の方法を使用した修飾に適する細胞には、原核細胞及び真核細胞が含まれる。原核細胞は、確固とした核を有さない細胞である。好適な原核細胞の例としては、細菌細胞、マイコプラズマ細胞及び古細菌が挙げられる。特に好適な原核細胞は、様々な形の試験システム(後で更に詳細に述べられる)に有用なもの、または産業的な有用性を有するものであり、例えばKlebsiella oxytoca (エタノール生産)、Clostridium acetobutylicwn(ブタノール生産)、などが挙げられる(Green and Bennet,Biotech & Bioengineering 58:215−221,1998、Ingramら、Biotech&Bioengineering 58:204−206,1998を参照)。好適な真核細胞には、動物細胞(例えば昆虫、齧歯動物、ウシ、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、人間以外の霊長類、ヒトなど)及び植物細胞(例えば米、穀物、綿、タバコ、トマト、ジャガイモなど)が含まれる。特定の目的に適用できる細胞タイプは、後で更に詳細に述べる。
【0143】
[0141]
本発明の更なる一実施態様では、遺伝子操作された単離された細胞が含まれる。適切な細胞は、上記のように原核生物でも真核生物でもよい。本発明の遺伝子操作された細胞は、単細胞生物又は多細胞生物に由来してもよい。多細胞生物に由来する遺伝子操作された「単離された」細胞とは、細胞が生体(植物又は動物)の外側にあり、人工の環境に存在することを意味する。「単離された」の用語は、遺伝子操作された細胞が生きた細胞であることを意味しない。
【0144】
[0142]
一実施態様において、本発明の遺伝子操作された細胞は、本発明の核酸コンストラクトのいずれか一つを含む。第二の実施態様においては、特異的に組換え配列を認識するリコンビナーゼは、目的核酸配列がゲノムに挿入される条件下で、本発明の核酸コンストラクトのうちの1つを含む遺伝子操作された細胞に導入される。すなわち、遺伝子操作された細胞は、修飾されたゲノムを有する。この種のリコンビナーゼを導入する方法は上述の通り公知である。
【0145】
[0143]
本発明の遺伝子操作された細胞は、様々な方法に使用できる。単細胞生物は、商業的に有益な物質(例えば組換えタンパク質、工業溶剤、産業的に有用な酵素など)の生産のために改変できる。好適な単細胞生物には、酵母(例えばS.pombe、Pichiapastoris、S.cerevisiae (例えばINVScI)など)、Aspergillis属ような菌類、及びバクテリア(例えばKlebsiella属、Streptomyces属など)が含まれる。
【0146】
[0144]
多細胞生物から単離した細胞は同様に有用であり、例えば昆虫細胞、哺乳動物細胞及び植物細胞が含まれる。有用と思われる哺乳動物細胞には、齧歯動物、霊長類などに由来するものが含まれる。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、マウス神経幹細胞、ラット骨髄間質細胞、VERO、3T3又はCHOKlのような線維芽細胞由来の細胞、HEK293細胞又はリンパ球系由来の細胞(例えば32D細胞)、並びにそれらの派生細胞が挙げられる
【0147】
[0145]
更に、植物細胞、例えばタバコBY2細胞を宿主として使用でき、また植物細胞と互換性を持つ制御配列(カリフラワーモザイクウイルス35S及び19S、ノパリンシンターゼプロモーター及びポリアデニル化シグナル配列など)も使用できる。適切なトランスジェニック植物細胞を用いて、トランスジェニック植物を生産してもよい。
【0148】
[0146]
他の好適な宿主は、昆虫細胞であり、例えばショウジョウバエ幼虫由来のものである。宿主として昆虫細胞を使用し、ショウジョウバエアルコール脱水素酵素プロモーターを使用できる(Rubin、Science 240:1453−1459(1988))。あるいは、バキュロウイルスベクターを設計して、昆虫細胞にて所望の核酸配列によってコードされるペプチドを大量発現させてもよい(Jasny,Science 238:1653,1987、Millerら、In:Genetic Engineering(1986)、Setlow,J.K.ら編、Plenum,Vol.8,pp.277−297)。
【0149】
[0147]
本発明の遺伝子操作された細胞は更に目的の核酸断片によってコードされるタンパク質の活性を調整できる物質のスクリーニング用ツールとしても有効である。すなわち、本発明の付加的な実施態様は、スクリーニング方法を含み、該方法は、検体と本発明の遺伝子工学による細胞とを接触させ、検体と接触しない試験細胞と比較した、細胞の表現型、細胞増殖、細胞分化、タンパク質の酵素活性、またはタンパク質およびそのタンパク質の天然の結合パートナーとの相互作用の変化をモニターすることを含む。
【0150】
[0148]
本発明の遺伝子操作された細胞を使用して、例えばペプチド、タンパク質、抗体、低分子量の有機化合物、及び菌類又は植物細胞などに由来する天然物など、様々な検体を評価できる。「低分子量の有機化合物」の用語は、一般に分子量500−1000以下の化学種を意味する。検体の給源は、当業者に周知である。
【0151】
[0149]
細胞を使用しているさまざまな分析方法はまた、当業者に周知である。例えば、酵素活性(Hirthら、米国特許番号5,763,198(1998年6月9日に登録))の分析、遺伝子操作された細胞により発現されるタンパク質に対する検体の結合の分析、レポーター遺伝子の転写活性化の分析などが含まれる。
【0152】
[0150]
本発明の方法によって改変される細胞は例えば、(i)生存させるが成長を促進しない、(ii)細胞の成長を促進する及び/又は(iii)細胞を分化させるか又はさせない条件下で維持してもよい。通常の細胞培養条件は、細胞のリコンビナーゼ活性にとり望ましいものだが、リコンビナーゼ活性の調節を培養組織条件(例えば{細胞培養温度を上下)によって適宜調整してもよい。所与の細胞、細胞種、組織又は生物に適した培養組織条件は、従来技術において周知である。
(トランスジェニックされた植物及びヒト以外の動物)
【0153】
[0151]
他の実施態様では、本発明は、本発明の方法及び組成物を使用してゲノムが修飾されたトランスジェニック植物及びヒト以外のトランスジェニック動物を含む。本発明の方法を使用してトランスジェニック動物を作製でき、それは様々な障害の研究、またこの種の障害を治療する薬物のスクリーニングのモデル系として有用である。
【0154】
[0152]
「トランスジェニック」植物又は動物とは、遺伝子操作された植物若しくは動物、又は遺伝子操作された植物又は動物の子孫を意味する。トランスジェニック植物又は動物は、通常少なくとも一つの無関係な生物からの、例えばウイルスからの材料を含む。トランスジェニック生物において用いられる「動物」の用語は、ヒト以外のすべての種を意味する。そこにはまた、胚及び胎児のステージを含む全ての発達段階の個々の動物が含まれる。家畜(例えば鶏、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ウサギなど)、齧歯動物(例えばマウス)、及びペット(例えばネコ及びイヌ)も本発明の範囲内に含まれる。好ましい実施態様において、動物はマウス又はラットである。
【0155】
[0153]
「キメラ」植物又は動物の用語は、ヘテロ遺伝子が存在し、又はヘテロ遺伝子が植物又は動物の全てでない一部の細胞において発現される、植物又は動物を指すものとして用いられる。
【0156】
[0154]
トランスジェニック動物という用語にはまた、生殖細胞系列のトランスジェニック動物も含まれる。「生殖細胞系列トランスジェニック動物」は、本発明の方法によって提供される遺伝情報が取り込まれ、生殖細胞系細胞に組み込まれたトランスジェニック動物であり、それにより遺伝情報を子孫に伝達する能力を有する。この種の子孫が、実際にその情報の一部又は全てを有する場合、それらもまたトランスジェニック動物である。
【0157】
[0155]
トランスジェニック動植物を作製する方法は公知技術で、本出願の教示と組み合わせて使用できる。
【0158】
[0156]
一実施態様において、本発明の遺伝子移入動物が、細胞が由来する生物のゲノム内に存在する第2の組換え部位と組換えができる第1の組換え部位、及び目的核酸断片を含む核酸コンストラクトを単細胞胚に導入することによって作製される。その方法では、目的の核酸の断片は成熟した動物の生殖細胞系細胞のDNAに安定に組み込まれ、通常のメンデル型の遺伝がなされる。本実施例において、目的の核酸断片とは、上記の断片いずれか一つであってもよい。あるいは、目的の核酸配列は、内因的に生成された目的タンパク質の発現を破壊又は妨げるような外因性の生成物をコードしてもよく、目的タンパク質の発現が減少したトランスジェニック動物が得られる。
【0159】
[0157]
様々な方法が、トランスジェニック動物の産生に利用できる。本発明の核酸構造物は、雌雄の前核の融合の前に受精卵の前核または細胞質に注入でき、または細胞分裂の開始前の胚細胞の核(例えば2細胞胚の核)に注入できる(Brinsterら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 82:4438,1985)。胚を、attD組換え部位及び目的の核酸配列で修飾されたウイルス(特にレトロウイルス)でトランスフェクションしてもよい。細胞を、部位特異的リコンビナーゼによって上記の通りに更に処理し、ゲノムへの目的の核酸配列の組み込みを促進してもよい。
【0160】
[0158]
例えば、トランスジェニックマウスを調製するために、雌のマウスを過剰排卵させてもよい。受精の後、雌はCO窒息又は頚椎脱臼によって殺し、輸卵管を除去し、胚を回収する。周囲の卵丘細胞は、除去される。前核胚はその後注入の時間までに洗浄され、保存される。ランダムな周期の成熟した雌のマウスを、精管除去された雄と対にする。レシピエント雌をドナー雌と同時に交尾させる。胚をその後外科的に移植する。トランスジェニックラット作製方法は、マウスのそれと類似している(Hammerら、Cell 63:1099−1112,1990を参照)。トランスジェニック実験に適する齧歯動物は、市販のもの(Charles River (Wilmington,Mass.)、Taconic(Germantown,N.Y.)、Harlan Sprague Dawley(Indianapolis,Ind.)など)を入手できる。
【0161】
[0159]
齧歯目の胚操作、及び接合体の前核へのDNAマイクロインジェクション法は、当業者に周知である(Hoganら、上記)。魚、両生類の卵子及び鳥のマイクロインジェクション法は、Houdebine及びChourrout(Experientia 47:897−905(1991))において詳述されている。動物組織へのDNA導入のための他の方法は、米国特許第4,945,050号(Sandfordら、M.30、1990)に記載されている。
【0162】
[0160]
胚の内細胞塊に由来し、培養組織において安定する分化全能又は多分化能を有する幹細胞を培養中に操作し、本発明の方法を使用して核酸配列を組み込んでも良い。トランスジェニック動物は、この種の細胞を胚盤胞へ注入し、更に仮親に移植され、出産されることにより得られる。
【0163】
[0161]
幹細胞の培養方法、及びそれに続く幹細胞への(例えばエレクトロポレーション、リン酸カルシウム/DNA沈殿、マイクロインジェクション、リポソーム融合、レトロウイルスの感染症などを使用して)DNA導入してトランスジェニック動物を産生する方法もまた、当業者に周知である。例えば、Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells,A Practical Approach,E.J.Robertson,ed.,IRL Press,1987を参照。哺乳類(マウス、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ウシ)の受精卵へのヘテロDNAのマイクロインジェクションの標準的な実験手法には、Hoganら、Manipulating Mouse Embryo(Cold Spring Harbor Press 1986);Krimpenfortら、1991(Bio/Technology 9:86);Palmiterら、1985、Cell 41:343;Kraemerら、Genetic Manipulation of the Early Mammalian Embryo(Cold Spring Harbor Laboratory Press 1985);Hammerら、1985、Nature、315:680;Purcelら、1986、Science、244:1281;Wagnerら、米国特許第5,175,385号;Krimpenfortら、米国特許第5,175,384号が挙げられ、それぞれの開示内容が本発明に参照により援用される。
【0164】
[0162]
上記手法の最後の段階は、胚盤胞に目的のES細胞を注入し、胚盤胞を偽妊娠した雌のものに変化させることである。得られたキメラ動物を飼育し、その子孫をサザンブロッティングによって分析し、導入遺伝子を担持する個体を同定する。非齧歯目の哺乳類及び他の動物の産生のための手法は、他の文献(Houdebine and Chourrout,前出、Purselら、Science 244:1281−1288,1989、及びSimmsら、Bio/Technology 6:179−183, 1988を参照)に記載されている。導入遺伝子を担持している動物は、公知技術の方法、例えばドットブロッティング又はサザンブロッティングによって同定できる。
【0165】
[0163]
本明細書で用いられるトランスジェニックという用語には、更に、ゲノムが初期の胚又は受精卵のインビトロでの操作によって、又は特異的な遺伝子ノックアウトを誘導するためのあらゆるトランスジェニック技術によって改変されたいかなる生物をも包含される。本明細書で用いられる「遺伝子ノックアウト」の用語は、本発明のベクターを用いてインビボにおいてなされた、標的遺伝子の破壊による機能の損失を指す。一実施態様において、遺伝子がノックアウトされたトランスジェニック動物とは、標的遺伝子が機能しなくなったものを指し、それは、遺伝子配列中に位置する偽組換え部位を標的として、標的遺伝子中に挿入を行うことによりなされる。
(遺伝子治療及び障害)
【0166】
[0164]
本発明の他の実施態様において、この種の治療を必要とする患者の疾患を治療する方法が含まれる。方法の一実施例において、患者の少なくとも一つの細胞又は細胞種(又は組織、その他)は、組換え部位を有する。この細胞は、第2の組換え配列及び一つ以上の目的ポリヌクレオチド(概して治療的な遺伝子)を含む核酸コンストラクト(「ターゲッティングコンストラクト」)によって形質転換される。同じ細胞に、第1及び第2の組換え部位の間での組換え反応を経て目的の核酸配列がゲノムに挿入される条件下で特異的に組換え配列を認識するリコンビナーゼを導入する。本発明の方法を用いて治療可能な患者には、ヒト及びヒト以外の動物が含まれる。この種の方法では、本発明のターゲッティングコンストラクト及びリコンビナーゼを利用する。
【0167】
[0165]
単一遺伝子病、感染症、後天性疾患、癌などを含む様々な疾患を、本発明の方法を使用して治療できる。典型的な単一遺伝子病には、アデノシンデアミナーゼ欠損症、嚢胞性線維症、家族性高コレステロール血症、血友病、慢性肉芽腫性疾患、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、Fanconi貧血を含む、鎌型赤血球貧血症、ゴーシェ病、Hunter症候群、X連鎖SCDDなどが含まれる。
【0168】
[0166]
本発明の方法を使用することによって治療可能な感染症には、ヒトT細胞リンパ球好性ウイルス、インフルエンザウイルス、乳頭腫ウイルス属、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、エプルタイン・バーウイルス、免疫不全ウイルス(HIVなど)、サイトメガロウイルスなど、様々なウイルスへの感染による感染症が含まれる。また、結核菌、肺炎マイコプラズマなどのような他の病原菌、又は寄生虫(例えば熱帯熱マラリア原虫など)による感染症も含まれる。
【0169】
[0167]
本明細書で使用される「後天性疾患」の用語は、非先天性疾患を意味する。この種の疾患は、通常、単一遺伝子病より複雑であると考えられ、一つ以上の遺伝子の不適切又は不必要な活性から生じうる。この種の疾患の例としては、末梢血管疾患、慢性関節リウマチ、冠状動脈疾患、などが挙げられる。
【0170】
[0168]
本発明の方法を使用することによって治療可能な後天性疾患の特定の群には、さまざまな癌(固形癌及び血液生成癌(例えば白血病及びリンパ腫))が含まれる。本発明の方法を利用して治療可能な固形癌には、癌腫、肉腫、骨腫、線維肉腫、軟骨肉腫などが含まれる。特殊な癌として、乳癌、脳腫瘍、肺癌(非小細胞及び小細胞)、大腸癌、膵臓癌、前立腺癌、胃癌、膀胱癌、腎臓癌、頭頚部癌などが含まれる。
【0171】
[0169]
ゲノム中の特定の場所の適合性は、治療対象となる特定の疾患に一部依存している。例えば、疾患が単一遺伝子病であり、所望の治療方法が疾患の原因物質であると考えられる核酸の非変異形をコードしている治療用核酸の添加である場合、適切な場所は、いかなる周知のタンパク質もコードせず、添加する核酸の合理的な発現量を可能にするゲノムの領域であってよい。ゲノムの適切な場所を確認する方法は、従来技術において公知で、更に下記の実施例に記載されている。
【0172】
[0170]
この実施態様に有用な核酸コンストラクトは更に、一つ以上の目的の核酸断片を含んでなる。この実施態様に使用する目的の好適な核酸断片は、上記で定めるように、治療的な遺伝子及び/又は制御領域である。核酸配列の選択は、治療対象の疾患の性質に依存する。例えば、血友病B(凝固因子IXの不足によって生じる)を治療することを目的とする核酸コンストラクトは、機能性因子DCをコードする核酸断片を含んでもよい。目的とする核酸コンストラクトは、閉塞性末梢血管疾患を治療するため、新しい血管(例えば血管内皮生育因子、血小板由来成長因子、など)の成長を刺激するタンパク質をコードする核酸断片を含んでもよい。当業者であれば、目的の核酸断片がどの特定の疾患の治療に有用であるかを直ちに認識する。
【0173】
[0171]
核酸コンストラクトは、様々な方法を使用して治療を受ける患者に投与できる。投与は、インビボ又はエクスビボでも行うことができる。「インビボ」とは、動物の生きた個体においてという意味である。「エクスビボ」とは通常、細胞又は器官が身体の外側にて修飾され、その細胞又は器官が生きた個体に戻されることを意味する。
【0174】
[0172]
核酸コンストラクトの治療的な投与方法は、公知である。核酸コンストラクトは、カチオン性脂質(Goddardら、Gene Therapy,4:1231−1236,1997;Gormanら、Gene Therapy 4:983−992(1997);Chadwickら、Gene Therapy 4:937−942(1997);Gokhaleら、Gene Therapy 4:1289−1299(1997);Gao及びHuang(Gene Therapy 2):710−722、1995(これらの全開示内容が本願明細書に参照により援用される))、ウイルスベクター(Monahanら、Gene Therapy 4:40−49(1997);Onoderaら、Blood 91:30−36、1998(これらの全開示内容が本願明細書に参照により援用される))により、「裸のDNA」の取り込みにより送達できる。細胞(上記の考察を参照)のトランスフェクションのために公知技術の技術が、核酸コンストラクトのエクスビボ投与のために用いられることができる。適切な製剤、投与の経路及び投与量は、個々の医師によって患者の状態より選択できる(例えばFinglら、”The Pharmacological Basis of Therapeutics”,Ch.1 piを参照)。
【0175】
[0173]
主治医は、毒性、臓器機能不全などを考慮し、どのように及びいつ、投与を終了するか、中断するか、又は調整するかに留意する必要がある。逆にいえば、医師は、臨床効果が十分でない場合、治療方法を修正して、より高いレベルに調整する方法(毒性排除)を理解するだろう。治療対象の疾患の治療のために投与される投与量は、治療対象の症状の重度、投与経路などによって変化する。症状の重度は、例えば、標準的な予後の評価方法によって部分的に評価できる。更に、投与及びおそらく投与頻度はまた、個々の患者の年齢、体重及び反応に従って変化する。
【0176】
[0174]
一般に、ゲノム修飾のために標的とされる細胞の少なくとも1−10%が、疾患の治療において修飾されていなければならない。すなわち、投与の方法及び経路は、1投与につき少なくとも0.1−1%の標的細胞を修飾するために最適に選択される。このようにして、投与の回数は、治療の効率及び便宜を向上させるために最低限に維持できる。
【0177】
[0175]
特異的な処理条件に応じて、この種の薬剤は製剤化できて、全身的又は局所的に投与できる。製剤及び投与の技術は”Remington’s Pharmaceutical Sciences,”1990,18th ed.,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.に記載されている。適切な送達径路としては、少し例を挙げれば、経口、直腸、経真皮、膣、経粘膜、経腸投与;筋肉内、皮下、骨髄内を含む腸管外の注入;並びにクモ膜下、直接の心室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内、眼内注射が挙げられる。
【0178】
[0176]
治療中の患者は更に、使用において選択される第1及び第2の組換え配列を特異的に認識するリコンビナーゼを投与される。特定のリコンビナーゼは、それをコードしている核酸を含むことによって、核酸コンストラクトの一部として、又は、ゲノムが修飾された細胞に導入されるタンパク質として投与できる。組換え配列を含むターゲッティングコンストラクト及び目的の核酸配列の投与のための方法及び経路は、上記と同様である。リコンビナーゼタンパク質は、目的の核酸配列の組み込みの限られた時間だけ必要と考えられる。したがって、リコンビナーゼ遺伝子として導入される場合、リコンビナーゼ遺伝子を担持しているベクターは長期にわたる保持を可能にする配列を欠いている。例えば、従来のプラスミドDNAは、大部分の哺乳動物細胞において急速に減少する。リコンビナーゼ遺伝子は、その発現を制限する遺伝子発現配列を備えていてもよい。例えば、誘導性プロモーターを用いてもよく、それにより、リコンビナーゼの発現を誘導物質に暴露された時間のみに一時的に調節できる。プロモーターのそのような典型的な群は、エクジソン反応プロモーターであり、エクジステロイド又は他の非ステロイド性アゴニストを使用してその発現を調節できる。プロモーターの他の群は、テトラサイクリン反応プロモーターであり、その発現はテトラサイクリン又はドキシサイクリンを使用して調節できる。
[実施例]
一般の方法
【0179】
[0177]
本願明細書において用いられる標準的な組換えDNA及び分子クローン技術は公知で、Sambrook,J., Fritsch,E.F及びManiatis,T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press:Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)、T.J.Silhavy,M.L. Bennan及びL.W.Enquist,Experiments with Gene Fusions,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1984)、Ausubel,F.M.ら、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc,and Wiley−Interscience,New York,NY(1987)に記載されている。細菌培養組織の維持及び成長に適する材料及び方法は公知技術である。以下の実施例への使用に適している技術は、Phillipp, G.ら、Manual of Methods for General Bacteriology, American Society for Microbiology, Washington,DC.(1994)、又はBrock,T.D.Biotechnology: A Textbook of Industrial Microbiology , Second Edition, Sinauer Associates,Inc.,Sunderland,MA(1989)に記載が存在する。宿主細胞の成長及び維持に使用されるすべての試薬、制限酵素及び材料は、特に明記しない限りNew England Biolabs社(Beverly、MA)、invitrogen社(Carlsbad、CA)、Stratagene社(La Jolla、CA)、Promega社(Madison、WI)、DIFCO Laboratories社(Detroit、MI)、又はSigma/Aldrich Chemical社(St.Louis、MO)から得た。
【0180】
[0178]
遺伝子配列及びアラインメントの解析、及びポリヌクレオチド及びペプチド配列の比較は、Invitrogen社、Carlsbad,CA(Vector NTI software version 8.0)、DNASTAR社、Madison,WI(DNASTAR software version 6.0)又はGenetics Computer Group社、Madison,WI(Wisconsin Package Version 9.0)から入手可能なプログラムにより行うことができる。
【0181】
[0179]
略語の意味は以下の通りである:「h」は時間を意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「μM」はマイクロモル濃度を意味し、「mM」はミリモル濃度を意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「mg」ミリグラムを意味し、「A」はアデニン又はアデノシンを意味し、「T」はチミン又はチミジンを意味し、「G」はグアニン又はグアノシンを意味し、「C」はシチジン又はシトシンを意味し、「nt」はヌクレオチドを意味し、「aa」はアミノ酸を意味し、「bp」は塩基対を意味し、「kb」はキロベースを意味し、「k」はキロを意味し、「μ」はマイクロを意味し、「Φ」はファイを意味し、「β」はベータを意味し、「SE」は標準誤差を意味し、「Luc」はホタルルシフェラーゼを意味し、「RLuc」はウミシイタケルシフェラーゼを意味し、そして、「℃」は摂氏温度を意味する。
【0182】
[0180]
以下の実施例は、部位特異的リコンビナーゼ系(枯草菌バクテリオファージSPβc2、化膿レンサ球菌バクテリオファージSF370.1、恥垢菌バクテリオファージBxb1、リステリア生菌バクテリオファージA118及びヒト型結核菌バクテリオファージΦRv1由来)が真核細胞内で機能することを示すものである。これらの実施例は例示を目的として提供されるが、本発明を限定するものではない。
【0183】
(実施例1)
<リコンビナーゼ遺伝子の設計、合成、及びクローニング、並びに分子内組み換えアッセイ用プラスミド>
[0181]
Genbankにおいて利用可能な公知文献及び配列を分析した後、多数の部位特異的リコンビナーゼを、哺乳類の及び植物細胞のDNA組み込み、除去、反転及び置換の用途に選択し、アッセイした。セリンファミリー(Smith,M.C.及びH.M.Thorpe 2000 Diversity in the serine recombinases.Mol.Microbiol.,44:299−307)の大型の部位特異的リコンビナーゼのアミノ酸配列は、GenBankから得られ、DNAに逆翻訳される。リコンビナーゼの給源がバクテリア又は細菌ウイルスであるため、哺乳動物細胞のリコンビナーゼ発現DNAの配列を、コードされるアミノ酸配列を変えずに最適化した。遺伝子は、ヒト及びマウスでの高発現のためのコドンを使用し、クローニングに便利な制限酵素部位を利用し、全合成した。更に、可能な限り、GC含量が非常に高い(>80%)又は低い(<30%)領域を含めなかった。更に、最適化の間、RNA安定性及び翻訳を最適化するために以下のシス活性配列のモチーフを含めなかった。
−内部TATAボックス、カイ部位及びリボソーム結合部位
−ATリッチまたはGCリッチな長い配列
−繰り返し配列及びRNA二次構造
−(不可解な)スプライスドナー及びアクセプター部位(分枝部位)
−ポリ(A)部位。
コドン及びRNA最適化により、天然(すなわちGenbankで利用可能なDNA配列)及び合成遺伝子との間で20−30%の配列相違となった。リコンビナーゼをコードする合成遺伝子を、Stratagene社(La Jolla、CA、カタログ#214501)から得られる哺乳類及び大腸菌発現プラスミドpDualにクローニングした。pDual発現ベクターは、哺乳類及び原核生物の細胞においてヘテロ遺伝子を発現させる。哺乳動物細胞での構成的発現のため、ベクターは、ヒト−サイトメガロウイルス(CMV)初期遺伝子のプロモーター/エンハンサーを含む。リコンビナーゼ遺伝子は、CMVプロモーター及びSV40ターミネーター配列の間のユニークなEarn 1104 1制限酵素部位にクローニングした。遺伝子配列を合成する一方で、遺伝子の開始(開始コドンATGの前)及び終端(終止コドンTAGの後)にEarn 1104 1制限酵素認識部位を挿入し、Earn 1104 1酵素による消化及びpDualプラスミドの同じ部位でのクローニングを可能とした。標準的なDNAクローニング技術(Sambrook、J.、E. F. Fritsch、その他1989。Molecular Cloning:A laboratoiγManual。Cold Spring Harbor Press、コールドスプリングハーバー、NY)を使用して、合成遺伝子のクローニング、クローンのシークエンシングにより、pDualベクターへのクローニングの後の遺伝子配列の確認を行った。発現プラスミドの説明は、下記のとおりである。
<1.1:SPbc2リコンビナーゼ発現プラスミド:>
動物細胞での発現用にコドンを最適化され、枯草菌ファージSPβc2の部位特異的DNAリコンビナーゼのyokA(配列番号2,Genbank accession #T12765, Lazarevic, V., A. Dusterhoft, ら、1999, Nucleotide sequence of the Bacillus subtilis temperate bacteriophage SPβc2. Microbiology 145: 1055−67)をコードする合成DNA配列(配列番号:1)を、pDual発現ベクターのEarn 1104 1制限酵素部位に、Stratagene社(La Jolla,CA)推奨の方法に従い、クローニングした。
<1.2:SF370.1リコンビナーゼ発現プラスミド:>
動物細胞での発現用にコドンを最適化され、化膿レンサ球菌 バクテリオファージSF370.1 (配列番号:4, Genbank accession #T12765, Canchaya, C, F. Desiereら、2002, Genome analysis of an inducible prophage and prophage remnants integrated in the Streptococcus pyrogenes strain SF370. Virology 302:245−58)の推定上のリコンビナーゼをコードする合成DNA配列(配列番号:3)を、pDual発現ベクターのEarn 1104 1制限酵素部位に、Stratagene社(La Jolla, CA)推奨の方法に従い、クローニングした。
<1.3 Bxb1リコンビナーゼ発現プラスミド:>
動物細胞での発現用にコドンを最適化され、恥垢菌バクテリオファージBxb1 (配列番号6,Genbank accession # AAG59740,Mediavilla,J.,S.Jainら、2000, Genome organization and characterization of mycobacteriophage Bxb1.Mo1.Microbiol 38:955−70)の推定上のリコンビナーゼをコードする合成DNA配列(配列番号:5)を、pDual発現ベクターのEarn 1104 1制限酵素部位に、Stratagene社(La Jolla,CA)推奨の方法に従い、クローニングした。
<1.4 Al18リコンビナーゼ発現プラスミド:>
動物細胞での発現用にコドンを最適化され、リステリア・モノサイトゲネス バクテリオファージA118 (配列番号8, Genbank accession # CAB53817, Loessner, M. J., R. B. Inmanら、2000, Complete nucleotide sequence, molecular analysis and genome structure of bacteriophage A118 of Listeria monocytogenes: implications for phage evolution. Mol.Microbiol 35:324−40)の推定上のリコンビナーゼをコードする合成DNA配列(配列番号7)を、pDual発現ベクターのEarn 1104 1制限酵素部位に、Stratagene社(La Jolla,CA)推奨の方法に従い、クローニングした。
<1.5 ΦRylリコンビナーゼ発現プラスミド:>
動物細胞での発現用にコドンを最適化され、結核菌バクテリオファージΦRv1 (配列番号:10,Genbank accession #CAB09083,Bibb, L.A.and G.F.Hatfull 2002, Integration and excision of the Mycobacterium tuberculosis prophage−like element, phiRv1.Mol.Microbiol 45:1515−26)の推定上のリコンビナーゼをコードする合成DNA配列(配列番号:9)を、pDual発現ベクターのEarn 1104 1制限酵素部位に、Stratagene社(La Jolla,CA)推奨の方法に従い、クローニングした。
<1.6 Al18リコンビナーゼの植物発現プラスミド:>
動物細胞での発現用にコドンを最適化され、リステリア・モノサイトゲネスのバクテリオファージAl18の推定のリコンビナーゼをコードする合成DNA配列(配列番号:7)を、植物発現プラスミドpJXTAB358にcassava vein mosaicプロモーターとNOSターミネーター配列(Verdaguer,B.,A.Kochkoら、1998,Functional organization of the cassava vein mosaic virus (CsVMV) promoter.Plant MoL Biol.37:1055−67)との間にクローニングした。pILTABプラスミドDNAは、Donald Danforth Center for Plant Research,St.Louis,MOより得た。コンストラクトは、CMVプロモーター及びSV40ターミネーターがcassava vein mosaicプロモーター及び35Sのターミネーターと置換されていることを除いて、動物性細胞において使用したAl18発現プラスミドと類似している。
【0184】
<分子内組換えアッセイプラスミドの設計及び構築>
[0182]
分子内組換えアッセイプラスミドを、プラスミドgWiz(商標)Luc(Gene Therapy Systems社、San Diego、CA)を使用して構築した。このプラスミドは大腸菌にカナマイシン抵抗性を与え、哺乳動物細胞に導入されるとルシフェラーゼ遺伝子を構成的にCMVプロモーターにより発現させる。ベクターはまた、ルシフェラーゼ遺伝子のCMVプロモーター及び開始コドンとの間にユニークなSalI及びNotI制限部位を含む。制限酵素ApaI及びNheIの認識部位を、SalI及びNotI部位の間にオリゴヌクレオチド挿入して作製した。リコンビナーゼのattP部位を含み、SalI及びApaIの側面の制限酵素部位を有しているオリゴヌクレオチドを合成し、アニールさせ、SalI及びApaI部位間に挿入した。同様に、attB配列を含むオリゴヌクレオチドを、NheI及びNotI部位間に挿入した。1296bp転写終結又は停止配列を、プラスミドpBS302(Genbank 登録番号 U51223、ヌクレオチド193−1488)からPCR増幅し、attP及びattB部位との間のApaI及びNheI部位にクローニングした。最終的なコンストラクトは、CMVプロモーター及びルシフェラーゼ遺伝子の間に図1に示すように配置されるattP、STOP及びattB配列を有した。プラスミドは、attP及びattB部位との間の組換えにより停止配列が欠失した場合のみ、ルシフェラーゼ遺伝子を発現させる。分子内組換えアッセイプラスミドについて、以下に説明する。
<1.7 SPβc2分子内組換え分析プラスミド:>
SPβc2リコンビナーゼのattP部位を含む99bpの合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号11)、1296bpの停止配列(配列番号12)、及びSPβc2リコンビナーゼのattB部位を含む96bpの合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号13)を、gWiz(商標)Lucプラスミド中にCMVプロモーターとルシフェラーゼ遺伝子との間にクローニングした。
<1.8 SF370.1分子内組換え分析プラスミド:>
SF370.1リコンビナーゼのattP部位を含む99bpの合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号14)、1296bpの停止配列(配列番号12)、及びSF370.1リコンビナーゼのattB部位を含む96bpの合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号15)を、gWiz(商標)Lucプラスミド中にCMVプロモーターとルシフェラーゼ遺伝子との間にクローニングした。
<1.9 Bxb1分子内組換え分析プラスミド:>
Bxb1リコンビナーゼのattP部位を含む52bpの合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号16)、1296bpの停止配列(配列番号12)、及びBxb1リコンビナーゼのattB部位を含む46bpの合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号17)を、gWiz(商標)Lucプラスミド中にCMVプロモーターとルシフェラーゼ遺伝子との間にクローニングした。
<1.10 Al18分子内組換えアッセイプラスミド:>
Al18リコンビナーゼのattP部位を含む99bp合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号18)、1296bp停止配列(配列番号12)及びAl18リコンビナーゼのattB部位を含む96bp合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号19)を、gWiz(商標)Lucプラスミド中にCMVプロモーターとルシフェラーゼ遺伝子との間にクローニングした。
<1.11 ΦRyl分子内組換えアッセイプラスミド:>
ΦRv1リコンビナーゼのattP部位を含む99bp合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号20)、1296bp停止配列(配列番号12)及びΦRv1リコンビナーゼのattB部位を含む96bp合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号19)を、gWiz(商標)Lucプラスミド中にCMVプロモーターとルシフェラーゼ遺伝子との間にクローニングした。
<1.12 Al18分子内組換えアッセイ植物プラスミド:>
Al18リコンビナーゼのattP部位を含む99bp合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号18)、1296bp停止配列(配列番号12)、Al18リコンビナーゼのattB部位を含む96bp合成オリゴヌクレオチド配列(配列番号19)及びルシフェラーゼ遺伝子を、pILTAB358のcassava vein mosaicプロモーターとNOSターミネーター配列との間にクローニングした。
【0185】
(実施例2)
[0183]
<トランジェントな分子内組み換えアッセイ>
哺乳類及び植物細胞におけるリコンビナーゼの活性を測定するために、トランジェントアッセイを行った。大まかに、アッセイは以下からなる:リコンビナーゼ遺伝子の発現プラスミドへのクローニング、対応する分子内組換えアッセイプラスミドの構築、トランスフェクションによって両方のプラスミドDNAを細胞に導入、及びルシフェラーゼ酵素活性のアッセイ。リコンビナーゼ分析プラスミドは、CMV Promoter−attP:STOP:attB−ルシフェラーゼレポーター遺伝子−ターミネーター配列を含む。停止配列は、転写終止シグナル配列である。組換えの非存在下では、ルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現は、プロモーターとレポーター遺伝子との間にある停止配列によって抑制されている。導入されたリコンビナーゼによるattP及びattB部位間の組換えにより、停止配列の欠失及びレポーター遺伝子の活性化がなされる。このアッセイは、ON/OFF式であるため高感度かつ明瞭であり、またルシフェラーゼレポーターの定量は、ルシフェラーゼから発せられる光を蛍光光度計により簡便に検出できる。アッセイ方式は図1に図示される。
【0186】
<トランジェントなトランスフェクション及びルシフェラーゼアッセイ>
[0184]
細胞は、10%のウシ胎仔血清及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen社、Carlsbad、CA)を添加したDMEM培地、又は他の公知の培地中で、37℃、5% COにて培養した。トランスフェクションの日に、細胞を、使用する細胞種に応じて異なる密度でプレート上に播いた。細胞は、製造業者の指示(Invitrogen、Carlsbad、CA)に従ってLipofectamine 2000(商標)を使用して、分子内組換えアッセイプラスミド単独又はDNA量を変化させたリコンビナーゼ発現プラスミドと共にトランスフェクションした。構成的に発現されたウミシイタケルシフェラーゼレポータープラスミド(プロメガ、Madison、WIからpRL−CMV)をコトランスフェクション(2ng/ウェル)し、データの標準内部コントロール値とした。トランスフェクションの24時間又は48時間後(細胞株に応じて)に培地を除去し、細胞はPassive lysisバッファー(Promega社、Madison、WI)を用いて溶解した。その後、抽出物を、インジェクター(Dynex Technologies、Chantilly VA)を備えたプレートリーダー上で、デュアルルシフェラーゼアッセイキット(プロメガ、Madison、WI)を使用してアッセイした。示されるデータは、特に明記しない限りルシフェラーゼ(Luc)及びウミシイタケルシフェラーゼ(RLuc)の活性比率である。Luc活性(相対光量単位)を比較した場合にも同様の結果が観察された(データ示さず)。反復試験区及び実験の数がコンストラクト及び細胞株ごとに異なるため、標準誤差を用いて実験誤差を示した。
【0187】
[0185]
<2.1 ヒトHEK293細胞のトランジェント分子内組み換えアッセイ>
細胞(96穴プレートの1ウェルあたり20,000細胞)を、25ngの分子内組換え分析プラスミド及び0、10、25、又は75ngの対応するリコンビナーゼプラスミドによりトランスフェクションし、24時間インキュベートした。細胞をPassive lysisバッファー50μlによって溶解し、25μlの抽出物をアッセイした。6〜20回反復してアッセイし、Luc/RLuc(平均値)±SEの比率をプロットした。図2のバーより上に示される値は、誘導の倍数(リコンビナーゼプラスミドの非存在下での活性に対する、リコンビナーゼプラスミド存在下でのルシフェラーゼ活性の比率)を示す。
【0188】
[0186]
図2に示すように、分子内組換えアッセイプラスミド単独のトランスフェクションは、ルシフェラーゼ活性をほとんど示さなかった(Luc/RLucの比率として)。トランスフェクションにおいてAl18リコンビナーゼ発現プラスミドの量の増加(10、25又は75ng)により、Al18分子内組換え分析プラスミドによるルシフェラーゼ活性が増加した。類似の結果は、SF370.1、SPβc2、ΦRV1及びBxb1においても観察された。これらの結果は、リコンビナーゼがHEK293細胞において機能的であることを明示するものである。リコンビナーゼは、そのattP及びattB部位との間での組換えを媒介し、分子内組換え分析プラスミド上の停止配列を欠失させ、ルシフェラーゼ遺伝子発現を起動させた。
【0189】
[0187]
<2.2 マウスNIH3T3細胞のトランジェントな分子内組換えアッセイ>
細胞(96穴プレートの1ウェルあたり5,000細胞)は、25ngの分子内組換え分析プラスミド及び0、10、25、又は75ngの対応するリコンビナーゼプラスミドによりトランスフェクションし、24時間インキュベートした。細胞をPassive lysisバッファー50μlによって溶解し、25μlの抽出物をアッセイした。2〜14回反復してアッセイし、Luc/RLuc(平均値)±SEの比率をプロットした。図3のバーより上に示される値は、誘導の倍数を示す。
【0190】
[0188]
図3は、分子内組換え分析プラスミドを単独で、又は、異なる量(10、25又は75ng)のリコンビナーゼ発現プラスミドと共にトランスフェクションしたNIH3T3から得られたデータを示す。リコンビナーゼプラスミド及び分子内組換え分析プラスミドのコトランスフェクションにより、ルシフェラーゼ活性が大きく増加した。例えば、25ngのBxb1分子内組換え分析プラスミド及び75ngのBxb1リコンビナーゼ発現プラスミドによる細胞のトランスフェクションにより、ルシフェラーゼ活性が66倍増加した(25ngのBxb1分子内組換え分析プラスミドによる単独トランスフェクションと比較)。Bxb1と同様に、リコンビナーゼAl18、SF370.1、SPβc2及びΦRV1もルシフェラーゼ活性(図3)を増加させ、これらはすなわち、リコンビナーゼがマウスNIH3T3細胞において機能的であり、そのattP及びattB部位の組換えに効果的であることを示している。
【0191】
[0189]
<2.3 チャイニーズハムスター卵巣fCHO細胞におけるトランジェント分子内組み換えアッセイ>
細胞(96穴プレートの1ウェルにつき15,000細胞)は、25ngの分子内組換え分析プラスミド及び0、10、25、又は75ngの対応するリコンビナーゼプラスミドによりトランスフェクションし、24時間インキュベートした。細胞をPassive lysisバッファー50μlによって溶解し、25μlの抽出物をアッセイした。2〜8回反復してアッセイし、Luc/RLuc(平均値)±SEの比率をプロットした。図4のバーより上に示される値は、誘導の倍数を示す。
【0192】
[0190]
図4に示すように、Al18、SF370.1又はΦRV1の分子内組換え分析プラスミド単独でのトランスフェクションでは、ルシフェラーゼ活性をほとんど示さなかった。コトランスフェクションにおいて、対応するAl18、SF370.1又はΦRV1リコンビナーゼ発現プラスミド量の増加と共に、ルシフェラーゼ活性が増加した。これらの結果は、リコンビナーゼがCHO細胞において機能的であることを明示するものである。リコンビナーゼは、それらのattP及びattB部位との間の組換えを媒介し、分子内組換えアッセイプラスミド上の停止配列を欠失させ、ルシフェラーゼ遺伝子発現を起動させた。
【0193】
[0191]
<2.4 ヒトHeLa細胞の一時的な分子内組換え分析>
細胞(96穴プレートの1ウェルにつき15,000細胞)は、25ngの分子内組換え分析プラスミド及び0、10、25、又は75ngの対応するリコンビナーゼプラスミドによりトランスフェクションし、24時間インキュベートした。2〜8回反復してアッセイし、Luc/RLuc(平均値)±SEの比率をプロットした。図5のバーより上に示される値は、誘導の倍数を示す。
【0194】
[0192]
図5に示すように、Al18、SF370.1又はΦRV1の分子内組換え分析プラスミド単独でのトランスフェクションでは、ルシフェラーゼ活性をほとんど示さなかった。コトランスフェクションにおいて、対応するAl18、SF370.1又はΦRV1リコンビナーゼ発現プラスミド量の増加と共に、ルシフェラーゼ活性が増加した。これらの結果は、リコンビナーゼがHeLa細胞において機能的であることを明示するものである。
【0195】
[0193]
<2.5 ラット骨髄間質細胞における分子内組換えアッセイ>
ラットからの始原骨髄間質の細胞を、トランスフェクションの1日前に4000細胞/cmの密度にあらかじめ調整し、50%のMinimum Essential Medium Alpha Medium(αMEM)、50%のハムF12、10%のFBS、1%のPen/Strep(100のU/mlペニシリンG及び100mg/mlの硫酸ストレプトマイシン)を含む培地で培養した。細胞は、25ngの分子内組換え分析プラスミド及び0、50、100、又は200ngの対応するリコンビナーゼプラスミドによりトランスフェクションし、48時間インキュベートした。細胞をPassive lysisバッファー50μlによって溶解し、25μlの抽出物をアッセイした。
8回反復してアッセイし、Luc/RLuc(平均値)±SEの比率をプロットした。図6のバーより上に示される値は、誘導の倍数を示す。
【0196】
[0194]
図6は、ラット骨髄間質細胞を分子内組換えプラスミド単独で、又は、異なる量(50、100又は200ng)の対応するリコンビナーゼ発現プラスミドとトランスフェクションして得られたアッセイデータを示す。分子内組換え分析プラスミド及びリコンビナーゼ発現プラスミドのコトランスフェクションにより、ルシフェラーゼ活性が大きく増加した。例えば、25ngのBxb1分子内組換え分析プラスミド及び200ngのBxb1リコンビナーゼ発現プラスミドによる細胞のトランスフェクションにより、ルシフェラーゼ活性が501倍増加した(25ngのBxb1分子内組換え分析プラスミドによる単独トランスフェクションと比較し)。Bxb1と同様に、リコンビナーゼAl18、SF370.1、SPβc2及びΦRV1もルシフェラーゼ活性(図6)を増加させ、これらはすなわち、リコンビナーゼがマウスNIH3T3細胞において機能的であり、そのattP及びattB部位の組換えに効果的であることを示している。
【0197】
[0195]
<2.6 マウス神経幹細胞のトランジェント分子内組換えアッセイ>
マウス神経幹C17.2細胞(mNSCs)は、Burnham Research Institute(La Jolla)CAのEvan Snyder博士から分与を受け、推奨プロトコル(Ryder,E.F.,E.Y.Snyderら、1990.Establishment and characterization of multipotent neural cell lines using retrovirus vector−mediated oncogene transfer.J.Neurobiol.,21:356−75)用いて培養した。細胞は、トランスフェクションの前日に分けられ、48ウェルプレートにおいて120,000細胞/ウェルの密度で分注された。一晩培養後、培地を無血清培地と置換した。細胞は、製造業者の指示(Invitrogen、Carlsbad、CA)に従って、トランスフェクション試薬Lipofectamine 2000(商標)を使用して、50ngの分子内組換え分析プラスミド単独で、又は0、25、50、100、又は200ngのリコンビナーゼプラスミドDNAとともにトランスフェクションした。構成的に発現されたウミシイタケルシフェラーゼレポータープラスミド(プロメガ、Madison、WIからpRL−CMV)をコトランスフェクション(4ng/ウェル)し、データの標準内部コントロール値とした。トランスフェクションの2日後に培地を除去し、細胞はPassive lysisバッファー(Promega社、Madison、WI)75μlを用いて溶解した。その後、抽出物50μlを、インジェクター(Dynex Technologies、Chantilly VA)を備えたプレートリーダー上で、デュアルルシフェラーゼアッセイキット(プロメガ、Madison、WI)を使用してアッセイした。図7に示されるデータは、ルシフェラーゼ(Luc)及びウミシイタケルシフェラーゼ(RLuc)の活性比率、及び処理当たりの4回のトランスフェクションの平均である。エラーバーは、標準誤差を表す。
【0198】
[0196]
HEK293と同様の結果が、NIH3T3、CHO、HeLa及びラット骨髄間質細胞において観察され、リコンビナーゼAl18、SF370.1、SPβc2、ΦRV1及びBxb1は、mNSCsにおいて機能的であり、ルシフェラーゼ活性を増加させた(図7)。異なる量のリコンビナーゼ発現プラスミド(25、50、100、又は200ng)と、対応する分子内組換え分析プラスミド(50ng)とによるコトランスフェクションにより、高いルシフェラーゼ活性が得られ、72倍〜5349倍の誘導であった。
【0199】
[0197]
<2.7 タバコBY2細胞のトランジェント分子内組換えアッセイ>
Nicotiana tobacum BY2の細胞浮遊培養を、MS培地にて暗所で維持し、毎週二次培養した(Nagata,T.,T.Nemoto及びS.Hasezawa.1992.Tobacco BY−2 cell line as the HeIa cell in the cell biology of higher plants.Intl.Rev.Cytol.,132:1−30)。3日後の培養液から調製されるプロトプラストを0.4Mのマンニトール中に再懸濁し、1mL(〜5×10^5細胞)ずつ35mmペトリ皿に分注した。プロトプラストとプラスミドDNAを混合し、矩形波を用いて80μ秒、0.56K ボルトで、Petripulser電極(BTX、San Diego、CA、USA)を有するエレクトロポレーションシステムを用い、エレクトロポレーションした。細胞を、分子内組換え試験プラスミド10μg、並びにリコンビナーゼ発現プラスミド0又は10μgでトランスフェクションした。エレクトロポレーションの後、プロトプラストを2×プロトプラスト培地(Watanabe,Y.,T.Meshi及びY.Okada.1987.Infection of tobacco protoplasts with in vitro transcribed tobacco mosaic virus RNA using an improved electroporation method.Virology,192:264−272)1mLで希釈し、2つの1mLの培養液とし、17時間、27°Cでインキュベートした。プロトプラストに、凍結融解法及び250μL 5×受動溶解バッファーの添加により溶解した(Promega、Madison、WI、USA)。細胞抽出物20μLを用い、インジェクターを備えたプレートリーダー上で、デュアルルシフェラーゼアッセイキットを使用してルシフェラーゼ活性をアッセイした。図8に示されるデータは、ルシフェラーゼ活性による相対光量単位である。示される値は22回の反復試験区の平均であり、エラーバーは標準誤差である。
【0200】
[0198]
図8に示すように、Al18分子内組換え植物内アッセイプラスミド単独によるBY2細胞のトランスフェクションでは、ごくわずかなルシフェラーゼ活性しか示さなかった。データは、リコンビナーゼが植物細胞のattP及びattB部位にて組換えを行うことを明示している。
【0201】
[0199]
(実施例3)
<attB又はattP部位を含むHEK293細胞染色体への、attP又はattB配列を含むプラスミドDNAの安定的な組み込み>
attPのプラスミドDNA又は染色体上のattB部位の組み込みアッセイを、二段階式に行った。第1ステップにおいて、それぞれの酵素のattP又はattB部位の単一のコピーを含む安定な細胞系列が特定され生産された。第2ステップにおいて、attP又はattB部位を含むプラスミドをそれぞれ、染色体attB又はattPでリコンビナーゼ発現プラスミドの存在下にて組み込ませた。
【0202】
[0200]
<染色体のattP又はattB配列を有する安定なHEK293クローンの生成>
各リコンビナーゼのattP又はattB配列(配列番号11、13から21)の単一のコピーを、製造業者によって推奨される方法に従い、Invitrogen[[Carlsbad,CA(catalog #R750−07)]から得られるFlp−In(商標)−293細胞のFRT部位に導入した。これらの細胞は、ゼオシン抗生物質の存在下で増殖し、β−ガラクトシダーゼマーカー遺伝子を発現する。各酵素のattP又はattB配列は、pcDNA/FRTプラスミド(Invitrogen、Carlsbad、CAカタログ#V6010−20)に存在する、CMVプロモーター及びBGHターミネーター配列との間のマルチクローニングサイトにクローニングした。pcDNA/FRTクローニングプラスミドは、ハイグロマイシン遺伝子の前にFRT部位を有する。ハイグロマイシン遺伝子は、プロモーター及びATG開始コドンを欠失している。したがって、哺乳動物細胞へのattP又はattB部位を含むpcDNA/FRTプラスミドのトランスフェクションは、ハイグロマイシン耐性を与えない。pcDNA/FRTプラスミドの組み込みは、Flpリコンビナーゼ発現プラスミド(pCG44、Itivitrogen、Carlsbad、CA)とのコトランスフェクションの場合にのみ、Flp−In(商標)−293細胞のFRT部位にて発生する。組み込みにより、ハイグロマイシン耐性の獲得及びゼオシン耐性及びβ−ガラクトシダーゼ発現の損失をもたらす。図9に手順を図示する。
【0203】
[0201]
attP又はattBを含むpcDNA/FRTプラスミドDNAsはFlp−In(商標)−293細胞に組み込まれ、各attP又はattB部位におけるクローンを、ハイグロマイシンを含む培地により選抜した。FRT部位にattP又はattB配列を有するpcDNA/FRTプラスミドの存在は、PCRによっても確認された(図10)。PCR分析においては、ゲノム中のFRT部位で、attP又はattBと結合するプライマー及び隣接するFRT部位の配列と結合する他のプライマーを用いて、attP又はattB配列の組み込みを確認した。したがって、attP又はattB部位が染色体に組み込まれている場合にのみ、クローンはPCRで陽性である。予想通り、選抜された株は、attP又はattBにおいて陽性である。PCRにおいて、親のFlp−In(商標)−293細胞(レーンP、図10のパネルC)から分離されたゲノムDNAからは特異的なバンドは増幅されず、テストされる各リコンビナーゼにおいて、attP又はattBにより組み込まれてpcDNA/FRTプラスミドを含む細胞から分離されたDNAからはバンドが増幅された(レーンI、図10のパネルC)。attP又はattB部位を有する安定した293細胞を、attB又はattP部位を含むプラスミドを組み込むためにそれぞれ用いた。
【0204】
[0202]
<染色体attP又はattB部位におけるプラスミドDNAの組み込み>
各リコンビナーゼのattP又はattB配列をピューロマイシン抵抗性遺伝子の直前に位置させ、組み込みアッセイプラスミドを構築した。しかしながら、染色体上のattP及び組み込みアッセイプラスミドattB(又は染色体上のattB及びアッセイプラスミド上のattP)間の組換えにより、上記(図9)のFlp−In(商標)−293細胞のattP又はattB部位の直前にあるCMVプロモーターすぐ下流にピューロマイシン遺伝子を組み込む。組み込みは、ピューロマイシン抗生物質の存在下では、ピューロマイシン遺伝子の発現及びこの種の細胞の増殖をもたらす。アッセイプラスミドのランダムな組み込みでは、ピューロマイシン耐性が付与されるとは考えられない。attB部位を含んでいる、attP配列を含むFlp−In(商標)−293安定細胞株は、対応するリコンビナーゼ発現プラスミドの有無にかかわらず、標準的なプロトコルを使用して組み込みアッセイプラスミドによってトランスフェクションした。他の例において、安定に組み込まれたattB配列を有するFlp−In(商標)−293安定細胞株を作製し、attPを含む組み込みアッセイプラスミドの組み込みに使用された。染色体attP又はattB部位(150,000〜300,000細胞)を含むFlp−In(商標)−293細胞を、100ngの組み込みアッセイプラスミド及び400ngのリコンビナーゼ発現プラスミドによってトランスフェクションした。細胞は更に、ピューロマイシン抗生物質を含む培地にて選抜された。リコンビナーゼが機能的である場合、attB配列を含むプラスミドは、attPで染色体上の部位を組み込みすると思われる(又はその逆もありうる)。
【0205】
[0203]
Flp−In(商標)−293細胞を含む、attB又はattP部位から得られるピューロマイシン耐性コロニーの数(attP−又はattBを含む組み込みアッセイプラスミド、及び対応するリコンビナーゼ発現プラスミドによるコトランスフェクションの後)の、3回の独立した実験結果を下記の表1及び2に示す。これらの結果は、リコンビナーゼが染色体attP又はattB部位、及びプラスミドattB又はattP部位間の組換えを生じさせ、プラスミドDNAの染色体への組み込みがなされたことを明示する。また、ピューロマイシン耐性クローンからゲノムDNAを分離することによってプラスミド組込みを確認し、染色体上のattL及びattR部位の存在を認めた。attB及びattP間の組換えはattL及びattR部位の作製をもたらし、それはattB及びattP間のハイブリッド部位である。attL又はattR特異的なプライマーを使用したPCR増幅は、アッセイプラスミドの組み込みの後のピューロマイシン耐性クローンだけの予想される特異的なバンドを増幅し(レーンI、図10のパネルA及びB)、組み込みのために使われたattP又はattBを含む親細胞では増幅しなかった(図10のレーンP、パネルA及びB)。
<attB部位を有する染色体へのattPを含むプラスミドの組み込み>
【0206】
【表1】

<attP部位を有する染色体へのattBを含むプラスミドの組み込み>
【0207】
【表2】

【0208】
[0204]
(実施例4)
<attP及びattB部位を側部に有する染色体DNAの欠失>
染色体上のattP:STOP:attB配列の欠失アッセイを、二段階式に行った。第2段階において、リコンビナーゼ発現プラスミドを、CMVプロモーターattP:STOP:attB−ルスフェラーゼ遺伝子−ターミネーターを有する安定細胞にトランジェントにトランスフェクションし、その細胞のルシフェラーゼ活性をアッセイした。リコンビナーゼが哺乳動物細胞において活性である場合、染色体attP及びattB部位間の組換えは停止配列の欠失及びルシフェラーゼ発現の活性化をもたらす。アッセイの概要を、図11に図示する。
【0209】
[0205]
<染色体上にCMVプロモーターattP−STOP−attB−ルシフェラーゼ遺伝子コンストラクトを有する、安定なHEK293クローンの作製>
CMVプロモーターattP:STOP:attB−ルシフェラーゼ遺伝子−ターミネーターコンストラクトの単一のコピーを、Invitrogen、Carlsbad、CA(#R750−07のカタログ化する)から得たFlp−In(商標)−293細胞のFRT部位に、上記の通り導入した。CMVプロモーターattP:STOP:attB−ルシフェラーゼ遺伝子−ターミネーターを有する構築されたpcDNA/FRTプラスミドを、Flpリコンビナーゼを使用してFlp−In(商標)−293細胞のFRT部位に挿入した。このプラスミドの組み込みにより、ハイグロマイシン耐性の獲得及びゼオシン耐性及びβ−ガラクトシダーゼ発現の損失がもたらされる。
【0210】
[0206]
Flp−In(商標)−293細胞は、CMVプロモーターattP:STOP:attB−ルシフェラーゼ遺伝子−ターミネーターを含むpcDNA/FRTプラスミドと、Flp発現プラスミド(pCG44、Invitrogen、Carlsbad、CA)を共に用いてトランスフェクションした。ハイグロマイシン耐性クローンを選抜し、増殖した(図11)。pCDNA/FRTプラスミドの挿入も、選抜されたクローンをβ−ガラクトシダーゼ活性をアッセイすることにより確認した。選択されたクローンは、β−ガラクトシダーゼ活性を喪失していた。単離されたクローンを、リコンビナーゼ発現プラスミドによるトランスフェクションに用いた。
【0211】
[0207]
<染色体からの停止配列の欠失及び安定細胞株におけるルシフェラーゼの活性化>
第二段階において、各リコンビナーゼにおけるCMVプロモーターattP:STOP:attB−ルシフェラーゼ遺伝子−ターミネーターのコンストラクトを含むハイグロマイシン耐性細胞を、対応するリコンビナーゼ発現プラスミドと共にトランジェントにトランスフェクションした。細胞をPassive lysisバッファー50μlで溶解し、25μlの抽出物をアッセイした。アッセイを16回の反復して行い、ルシフェラーゼ活性(相対光量単位)±SEをプロットした。
【0212】
[0208]
図12に示すように、異なる量(0、25、50、100、又は200ng)の各リコンビナーゼ発現プラスミドの、その対応するattP:STOP:attBを含むFlp−In(商標)−293クローニングへのトランスフェクションにより、ルシフェラーゼ活性が増加した。これらの結果は、リコンビナーゼが、染色体に配置されたattP及びattB配列の組換を媒介できることを示す。組換えは、attP及びattB部位が側部に並んでいる配列の欠失及びルシフェラーゼ遺伝子の活性化をもたらした。
【0213】
[0209]
(実施例5)
<HEK293細胞中の擬似付着部位におけるDNAの組み込み>
HEK293細胞に存在する内生の擬似attB又は擬似attP部位のattP又はattB組換え部位を含むプラスミドの挿入又は組み込みのアッセイを、リコンビナーゼ発現プラスミド及びattP又はattB部位及びハイグロマイシン抵抗性遺伝子を含む対応するターゲッティングプラスミドによって細胞をコトランスフェクションし、ハイグロマイシン抗生物質を含む培地にて安定な細胞を選抜した。HEK293細胞を、10%のウシ胎仔血清及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen、Carlsbad CA)を添加したDMEMにて、37℃、5% CO条件において培養した。トランスフェクションの日に、細胞を750,000の細胞密度で35mmのペトリ皿に分注した。細胞を、attP又はattB部位及びユビキチンCプロモーターによって発現するハイグロマイシン抵抗性遺伝子を含む50ngのターゲッティングプラスミド(図13)単独で、又はリコンビナーゼ発現プラスミド4μgと共に、Lipofectamine 2000(商標)を使用し製造業者(Invitrogen、Carlsbad、CA)の指示に従いトランスフェクションした。プラスミドの染色体組み込みにより、ハイグロマイシン抗生物質の存在下でのハイグロマイシン遺伝子の発現及びこの種の細胞の増殖がなされる。ターゲッティングプラスミドのランダムな組み込み(すなわち非擬似部位における)により、ハイグロマイシン耐性クローンが作製されることもあうる点に留意する必要がある。しかしながら、標的プラスミドがリコンビナーゼ発現プラスミドと共に細胞に導入されると、ゲノムが擬似接着部位を含む場合にはハイグロマイシン耐性HEK293クローン数は増加すると思われる。また、例えば、組み込みがゲノム上の擬似attB部位及びターゲッティングプラスミド上のattP部位の間に組換えに起因する場合、ターゲッティングプラスミド上のattP部位が正確に切断され、及びプラスミドはゲノムの擬似attB部位に挿入され、それにより、擬似attL及び擬似attR部位が作成され、回収されたプラスミドのDNAシークエンシングによって確認できる。対照的に、ランダムな組み込みは一般に組み込みの後、完全なattP部位を保存する。
【0214】
[0210]
リコンビナーゼ発現プラスミドがある場合に得られたハイグロマイシン耐性HEK293クローンをプールし、ゲノムDNA調製物を調製して、組み込まれたプラスミドの外側(すなわちpUC ori及び細菌選択可能なマーカー遺伝子の領域の外側で)で切断する制限酵素によって処理し、切断されたDNAをセルフライゲーションし、ライゲーションしたDNAにより大腸菌を形質転換して、隣接するゲノムDNAを含む組み込まれたプラスミドを回収した(一般の手順Thyagarajan,B.ら、(2001)Site−specific genomic integration in mammalian cells mediated by phage ΦC31 integrase.Mol.Cell.Biol.21:3926−3934に従って行った)。ハイグロマイシン耐性クローン(10μg)から調製されるゲノムDNAを、制限酵素BglII、XbaI、Eco01091、BanII、StyI、BsoBI又はBtgIによって、各40μLの総体積で、3時間、37℃にて切断した。20μLの各切断後のサンプルを200μLの総体積で4℃で一晩ライゲーションし、更に精製した。ライゲーションされたDNAをエレクトロポレーションによって大腸菌に導入し、抗生物質を含むプレートによりアンピシリン耐性大腸菌のコロニーを選抜した。プラスミドDNAを細菌コロニーから調製し、回収されたプラスミドDNAの配列決定を行った。回復されたゲノムDNA配列を用い、BLASTプログラム(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)を使用し、回復されたゲノム配列とGenbank, NIH Library of Medicineによるヒトゲノム配列とのアラインメントをとることにより、その染色体部位を同定した。
【0215】
[0211]
SF370.1又はSPβc2リコンビナーゼのattP部位を含む擬似部位を標的とするプラスミドがHEK293細胞に導入した結果、9及び0のハイグロマイシン耐性クローンがそれぞれ得られた(表3)。これらの結果は、染色体の擬似attB部位におけるリコンビナーゼによって媒介される組み込みが非常に効率的であり、また擬似部位の組み込みがターゲッティングプラスミドのランダムな組み込み(すなわちリコンビナーゼ非存在下の組み込み)より顕著に高かったことを明示する。ゲノムDNAをSF370.1リコンビナーゼによって得られたプールされたハイグロマイシン−耐性HEK293クローンから分離し、プラスミドをゲノムから回収し、100のプラスミドDNAを用い、擬似attB配列を上記の通りシークエンシングにより確認した。配列決定された100の回収されたプラスミドのうち、異なる擬似attB部位が41存在し、若干の擬似部位では他の擬似部位より多くの組み込みが見られた。例えば、100の回収された組み込みのうち35は、単一の部位であった。この擬似attB部位のヌクレオチド配列を図14に図示する。これらの結果は、SF370.1リコンビナーゼがこの部位で他の部位よりも優先してプラスミドDNAを組み込んだことを示唆する。
<attPを含むプラスミドのHEK293染色体擬似attB部位への組み込み>
【0216】
【表3】

【0217】
[0212]
SPβc2リコンビナーゼを使用してプラスミドを含むSPβc2 attPのターゲッティングの後に得られたハイグロマイシン耐性HEK293クローンを用いて同様のアッセイを行い、109の回収されたプラスミドDNAの配列決定を行った。配列の解析により、107の組み込み中105が擬似attB部位にあり、2つの組み込みはランダム部位であったことが示された。回復された105の組み込み部位中、54の異なる擬似attB組み込み部位が存在した。組み込みのうちの15は、図14に示される1つの擬似部位配列で生じた。これらの結果は、ヒト及び真核生物の染色体が、発明者が発見した酵素を使用して擬似att部位で正確な部位特異的組み込みのための効果的な標的として機能することを示す。これらの部位は、多くの生命工学及び医療用途において使用できる組み込みの、天然の標的を形成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核生物において部位特異的組み換えを得る方法であって、第1の組換え部位及び第2の組換え部位を含む細胞を準備すること、及び原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと共に第1及び第2の組換え部位を接触させ、組換え部位間で組換えを起こさせることを含み、
前記リコンビナーゼポリペプチドが前記第1及び第2の組換え部位間での組換え反応を媒介でき、
前記第1の組換え部位がファージゲノム組み換え付着部位(attP)または細菌ゲノム組み換え付着部位(attB)であり、
前記第2の組換え部位がattBまたはattPであり、
前記リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、
前記第1の組換え付着部位がattBであるときは前記第2の組換え付着部位がattPであり、
前記第1の組換え付着部位がattPであるときは前記第2の組換え付着部位がattBである、前記方法。
【請求項2】
真核生物において部位特異的組み換えを得る方法であって、
第1の組換え部位及び第2の組換え部位を含む細胞を準備すること、及び原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと共に第1及び第2の組換え部位を接触させ、組換え部位間で組換えを起こさせることることを含み、
前記リコンビナーゼポリペプチドが前記第1及び第2の組換え部位間での組換え反応を媒介でき、
前記第1の組換え部位がattPまたはattBであり、
前記第2の組換え部位が擬似付着部位であり、
前記リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択される、前記方法。
【請求項3】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドが、真核細胞のポリヌクレオチドの発現を調節するプロモーターに機能的に連結している、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、リコンビナーゼポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現によって真核細胞に導入される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、ポリペプチドとして真核細胞に導入される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項7】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、リコンビナーゼポリペプチドをコードするメッセンジャーRNAによって真核細胞に導入される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
前記部位特異的組換えが、DNAの組み込み、欠失、反転、転座又は置換をもたらす、請求項1又は2記載の方法。
【請求項9】
安定に組み込まれたポリヌクレオチド配列を有する真核細胞を得る方法であって、
核酸配列及び第2の組換えattPまたはattB部位を含むポリヌクレオチドを第1の組換えattBまたはattP部位を含む真核細胞に導入し、
原核生物の、第1及び第2の組換え部位間での部位特異的組換えを媒介できるリコンビナーゼポリペプチドと、前記第1及び第2の組換え部位とを接触させることを含んでなり、
前記リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、
前記第1の組換え部位がattBであるときは前記第2の組換え部位がattPであり、
前記第1の組換え部位がattPであるときは前記第2の組換え部位がattBである、前記方法。
【請求項10】
安定に組み込まれたポリヌクレオチド配列を有する真核細胞を得る方法であって、
核酸配列及び第2の組換えattPまたはattB部位を含むポリヌクレオチドを第1の組換え擬似接着部位を含む真核細胞に導入し、
第1及び第2の組換え部位間での部位特異的組換えを媒介できる原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと、第1及び第2の組換え部位とを接触させることを含んでなり、
前記リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択される、前記方法。
【請求項11】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される、請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
前記リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドが、真核細胞のポリヌクレオチドの発現を調節するプロモーターに機能的に連結している、請求項9又は10記載の方法。
【請求項13】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、リコンビナーゼポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現によって真核細胞に導入される、請求項9又は10の方法。
【請求項14】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、ポリペプチドとして真核細胞に導入される、請求項9又は10記載の方法。
【請求項15】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、リコンビナーゼポリペプチドをコードするRNAの発現によって真核細胞に導入される、請求項9又は10記載の方法。
【請求項16】
真核細胞において部位特異的組換えを得る方法であって、
第3の組換え部位及び第4の組換え部位に挟まれたポリヌクレオチド配列と共に第1の組換え部位及び第2の組換え部位を含む真核細胞を提供し、
原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと組換え部位を接触させ、組換え部位間で組換えを起こさせることを含んでなり、
前記リコンビナーゼポリペプチドが、前記第1の及び前記第3の組換え部位、並びに前記第2の及び前記第4の組換え部位間の組換えを媒介でき、
前記第1及び前記第2の組換え部位がattPまたはattBであり、
前記第3及び前記第4の組換え部位がattBまたはattPであり、
前記リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、
前記第1及び前記第2の組換え付着部位がattBであるとき、前記第3及び前記第4の組換え付着部位がattPであり、
前記第1及び前記第2の組換え付着部位がattPであるとき、前記第3及び前記第4の組換え付着部位がattBである、前記方法。
【請求項17】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、リコンビナーゼポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現によって真核細胞に導入される、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、ポリペプチドとして真核細胞に導入される、請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、リコンビナーゼポリペプチドをコードするメッセンジャーRNAによって真核細胞に導入される、請求項16の方法。
【請求項21】
真核細胞において複数の部位特異的組換えを得る方法であって、
第1の組換え部位及び第2の組換え部位を、第3の組換え部位及び第4の組換え部位と共に含む真核細胞を準備し、
第1の原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと第1及び第2の組換え部位とを接触させ、
第2の原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと第3及び第4の組換え部位とを接触させ、
第1及び第2の組換え部位間の組換え、並びに第3及び第4の組換え部位間の組換えを行わせることを含んでなり、
第1のリコンビナーゼポリペプチドが第1及び第2の組換え部位間で組換えを媒介でき、
第2のリコンビナーゼポリペプチドが第3及び第4の組換え部位間で組換えを媒介でき、
前記第1及び第2のリコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、
前記第1のリコンビナーゼポリペプチド及び前記第2のリコンビナーゼポリペプチドが異なる、前記方法。
【請求項22】
第5の組換え部位、第6の組換え部位、及び第3のリコンビナーゼポリペプチドを含み、 前記第3のリコンビナーゼポリペプチドが前記第5及び第6の組換え部位間で組換えを媒介でき、前記第3のリコンビナーゼポリペプチドが前記第1及び第2のリコンビナーゼポリペプチドとは異なる、請求項21記載の方法。
【請求項23】
部位特異的組換え方法であって、
第1の組換え部位及び第2の組換え部位を含む細胞を準備すること;
原核生物のリコンビナーゼポリペプチドと共に第1及び第2の組換え部位を接触させ、組換え部位間で組換えを起こさせることを含み、
前記リコンビナーゼポリペプチドが第1及び第2の組換え部位間での組換え反応を媒介でき、
前記第1の組換え部位がattPまたはattBであり、
前記第2の組換え部位がattBまたはattPであり、
前記リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、
前記第1の組換え付着部位がattBであるときは前記第2の組換え付着部位がattPであり、
前記第1の組換え付着部位がattPであるときは前記第2の組換え付着部位がattBである、前記方法。
【請求項24】
単離された真核細胞のゲノムへのポリヌクレオチド配列の部位特異的な組み込み用のベクターであって、
目的ポリヌクレオチド及び第2の組換えattBまたはattP部位を含み、
前記第2の組換えattBまたはattP部位が、前記単離された真核細胞のゲノムの第1の組換えattPまたはattB部位または擬似attPまたは擬似attB部位によって組み換えられるポリヌクレオチド配列を含み、
前記組換えが、リステリア・モノサイトゲネスバクテリオファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌バクテリオファージリコンビナーゼ、枯草菌バクテリオファージリコンビナーゼ、結核菌バクテリオファージリコンビナーゼ及び恥垢菌バクテリオファージリコンビナーゼからなる群から選択される部位特異的リコンビナーゼの存在下で生じ、
前記第1の組換え部位がattBまたは擬似attBであるときは、前記第2の組換え部位はattPであり、
前記第1の組換え部位がattPまたは擬似attPであるときは、前記第2の組換え部位がattBである、前記ベクター。
【請求項25】
前記リコンビナーゼが、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される、請求項24記載のベクター。
【請求項26】
前記目的のポリヌクレオチドが、真核細胞のポリヌクレオチドの発現を調節するプロモーターに機能的に連結されている、請求項24記載のベクター。
【請求項27】
原核生物のリコンビナーゼポリペプチドまたは原核生物のリコンビナーゼをコードする核酸を含む真核細胞であって、
前記リコンビナーゼが、第1の組換え部位および前記第1の組換え部位との組換えのための基質として機能しうる第2の組換え部位との間で部位特異的組換えを媒介でき、
前記第1の組換え部位がattP若しくは擬似attP、又はattB若しくは擬似attBであり、
前記第2の組換え部位がattB若しくは擬似attB又はattP若しくは擬似attPであり、
前記リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、
前記第1の組換え部位がattBであるときは、前記第2の組換え部位がattPまたは擬似attPであり、
前記第1の組換え部位が擬似attBであるときは、前記第2の組換え部位がattPであり、
前記第1の組換え部位がattPであるときは、前記第2の組換え部位がattBまたは擬似attBであり、
前記第1の組換え部位が擬似attPであるときは、前記第2の組換え部位がattBである、前記真核細胞。
【請求項28】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群より選択される、請求項27記載の真核細胞。
【請求項29】
トランスジェニック患者のゲノムに目的のポリヌクレオチドを部位特異的に組み込む方法であって、
前記ゲノムが第1の組換えattB又はattP部位又は擬似attB又は擬似attP部位を含んでおり、
目的のポリヌクレオチド及び第2の組換えattP又はattB部位を含む核酸を導入し、
原核生物のリコンビナーゼポリペプチドを第1及び第2の組換え部位と接触させることを含み、
前記リコンビナーゼポリペプチドが第1及び第2の組換え部位との間に部位特異的組換えを媒介でき、
前記リコンビナーゼが、リステリア・モノサイトゲネスファージリコンビナーゼ、化膿レンサ球菌ファージリコンビナーゼ、枯草菌ファージリコンビナーゼ、結核菌ファージリコンビナーゼ及び恥垢菌ファージリコンビナーゼからなる群から選択され、
前記第1の組換え部位がattB又は擬似attBであるときは、前記第2の組換え部位がattPであり、
前記第1の組換え部位がattP又は擬似attPであるときは、前記第2の組換え部位はattBである、前記方法。
【請求項30】
前記リコンビナーゼポリペプチドが、A118リコンビナーゼ、SF370.1リコンビナーゼ、SPβc2リコンビナーゼ、φRv1リコンビナーゼ及びBxb1リコンビナーゼからなる群から選択される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7及び配列番号9からなる群から選択される核酸配列と少なくとも90%同1である核酸を含んでなる、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項32】
配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7及び配列番号9からなる群から選択される核酸配列を含んでなる、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項33】
配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20及び配列番号21からなる群から選択される核酸配列と少なくとも90%同1である核酸を含む、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項34】
配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20及び配列番号21からなる群から選択される核酸配列の核酸を含む、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項35】
a)SPβc2リコンビナーゼをコードする核酸配列、
b)SF370.1リコンビナーゼをコードする核酸配列、
c)Bxb1リコンビナーゼをコードする核酸配列、
d)A118リコンビナーゼをコードする核酸配列、及び
e)φRv1リコンビナーゼをコードする核酸配列、からなる群から選択される核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド配列。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2011−167195(P2011−167195A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−60940(P2011−60940)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【分割の表示】特願2007−554064(P2007−554064)の分割
【原出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(506387007)イントレクソン コーポレイション (7)
【Fターム(参考)】