説明

部分義歯の装着構造、その製造方法、および部分義歯

【課題】 鉤歯への負担を減らしながら、高度の熟達した技術を要さず、口腔内での調整回数、手直し回数および製造期間を大幅に少なくでき、噛み合わせ調整の段取りを簡単化できる、耐久性の高い部分義歯の装着構造等を提供する。
【解決手段】 本発明の部分義歯の装着構造は、人工歯16と、人工歯を保持する義歯床35と、義歯床に固定され、鉤歯Kに嵌め合わされる嵌合体とを備え、その嵌合体は高さ4mm未満の指輪状であり、該指輪状の嵌合体は鉤歯の根元部に嵌ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉤歯への負担を減らしながら、歯科医院においてそれほど高度の熟達した技術を要さず、口腔内での調整回数、技工所での手直し回数、および製造期間を大幅に少なくでき、その上、噛み合わせ調整の段取りを簡単化することができる、耐久性の高い部分義歯の装着構造、その製造方法、および部分義歯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
部分義歯は、欠損した歯の代わりをする人工歯、その人工歯を固定して顎堤に密着する義歯床、その義歯床に固定され、残存歯に着脱自由に係合されるクラスプ、そのクラスプと一体的に形成されるレスト等から構成されるのが普通である。これらレスト及びクラスプは、残存歯である鉤歯に嵌め合わされて部分義歯の位置および姿勢を安定に保つ作用を発揮する。しかし、このクラスプとレストは、鉤歯を強く拘束し、かつ横向きの力がかかったときテコの原理で歯根部へ大きなモーメントが働くため、使用者の不快感を増幅し、また鉤歯の健康性を損なうことがあった。さらに、大きな応力がかかるため破損しやすく耐久性に欠ける面もあった。
【0003】
このような難点を除くために、レストを使用しないでC字状のクラスプを鉤歯の豊隆部の下部、すなわち歯肉上縁部にほぼ接する歯牙根元にのみ、あてがうように嵌め合わせる部分義歯の提案がなされた(特許文献1,2)。鉤歯の歯牙根元部にのみ嵌合力を及ぼすことによって、鉤歯への負担は大きく軽減される。歯牙根元にかかる応力は、歯牙頂部にかかる応力に比べて、歯根部の周りに生じるモーメントの大きさを大きく軽減するからである。鉤歯への拘束感は解消し、また歯根部の周りに大きなモーメントが生じないために鉤歯の耐久性を高めることができる。
鉤歯の歯牙根元部にのみ嵌合力を及ぼす手法は、金属製のクラスプを用いないいわゆるノンメタルデンチャーにも適用されて、樹脂の嵌合部で鉤歯の根元部にのみ嵌合する構造が提案されている(特許文献3,4)。
【0004】
上記のクラスプの鉤歯への拘束力を軽減し、かつ鉤歯に対してなるべく手を加えない流れとは別の流れとして、鉤歯の固定機能を最大限発揮させるために、いわゆるコーヌス・テレスコープ部分義歯の潮流もある(非特許文献1)。このコーヌス・テレスコープ部分義歯では、大抵の場合、鉤歯の神経を除いた上でその鉤歯に内冠という金属の被せを固定する。この内冠は、帽子のように鉤歯を歯冠部からすっぽり覆うものである。その上で、部分義歯には、従来はクラスプがあった位置に、内冠をすっぽり覆う金属製の被せ(外冠)を設ける。この外冠を内冠に被せることで、部分義歯は、口腔内にしっかりと固定される。このコーヌス・テレスコープ部分義歯によれば、部分義歯は固定が安定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4270578号
【特許文献2】特許第4686541号
【特許文献3】特許第4309938号
【特許文献4】特開2010−201092号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】黒田正彦「コーヌスクローネ」医歯薬出版株式会社、2007年4月15日第1版第14刷
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
歯牙根元部にのみ嵌合する部分義歯については、当該嵌合部を形成するに当たり、多様な患者の口腔態様について熟達した見立てを必要とする。さらに高い精度の義歯製作技術と歯科技工所(以下、技工所)での多くの手直しを繰り返す必要がある。このため普通の歯科医師にも容易に製作できる、装着感に優れ、耐久性に富む部分義歯が要望されている。
また、コーヌス・テレスコープ部分義歯については、鉤歯に設けた内冠の上から外冠を被せて固定力を高めるため、テコの原理により鉤歯の歯根部には大きな荷重(モーメント)がかかり、その歯根部などに歯根破折などの損傷が生じる事例があった。また、鉤歯に二重の被せを被せるため、内冠の被せの段階からある程度の噛み合わせを考慮しながら調整し、外冠の段階で最終の噛み合わせの調整を行う必要がある。このため、噛み合わせの調整、気配りが煩雑となり、これについても多くの経験と熟達した技術が必要である。
歯牙根元部にのみ嵌合するタイプの部分義歯は患者の装着感を重視し、またコーヌス・テレスコープ部分義歯は装着状態の安定性を重視する、特別な部分義歯であるため、口腔内での調整回数および技工所での手直し回数が、多くなることは避けられない。しかし、患者の負担を減らすためには、調整や手直しの回数は少なく、かつ製造期間は短いことが望ましいのは言うまでもない。
【0008】
本発明は、鉤歯への負担を減らしながら、歯科医院においてそれほど高度の熟達した技術を要さず、口腔内での調整回数、技工所での手直し回数、および製造期間を大幅に少なくでき、その上、噛み合わせ調整の段取りを簡単化することができる、耐久性の高い部分義歯の装着構造、その製造方法、および部分義歯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の部分義歯の装着構造は、人工歯と、人工歯を保持する義歯床と、義歯床に固定され、鉤歯に嵌め合わされる嵌合体とを備える部分義歯の装着構造である。この装着構造では、嵌合体は高さ4mm未満の指輪状であり、該指輪状の嵌合体は鉤歯の根元部に嵌ることを特徴とする。
【0010】
一般に、鉤歯の頂部の縁の部分(頂部コーナー部)に外冠が被さる場合、テコの原理により歯根部に大きなモーメントがかかり歯根部の負担が大きくなる。従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯では、嵌合体に相当する部分が外冠(完全かぶせ物)であり、当然、鉤歯の頂部コーナー部に大きな応力がかかった。
本発明によれば、指輪状の嵌合体(以下、「指輪体」と記す)は、鉤歯に貫通されて、自ずとその根元部に嵌合する。鉤歯の頂部は、指輪体から突き出して露出状態となる。このため、指輪体から鉤歯の頂部および頂部コーナー部に応力は、全くかからず側周面下部にのみかかるので、鉤歯の歯根の周りのモーメントは、鉤歯の頂部に応力がかかる構造に比べて、大きく低減される。このため、鉤歯にかかる負担は小さく、高い耐久性を保つことができる。また、鉤歯が完全に被せ物(外冠)で覆われる構造に比べて、口腔内における違和感は非常に小さくなる。
また、指輪体から突き出ている鉤歯の頂部に対して、嵌合体と関係なく、たとえば製作の早期の段階で、咬合調整を行うことができる。このため、噛合調整を簡単に行うことができ、従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯のように技工所(ラボ)段階で外冠に噛合調整を施す必要がない。このため、咬合面を形成するための工程をとる機会が増え、かつ簡単化され、従来の場合のように内冠の頂部の厚みまで考慮する必要はなくなる。ただし、歯科医院での噛合調整において、微妙な調整が必要であることは従来と同様である。その微妙な調整という点においても、本発明の場合、鉤歯のみの咬合調整という限られた調整であり、あとは技工所サイドでの工程なので、歯科医院での咬合調整が容易であるという利点は確実に得られる。
さらに特筆すべきこととして、指輪体の場合、義歯床に埋め込み固定しやすい点をあげることができる。たとえば患者の口腔から印象採得に基づき、人工歯付き義歯床を形成し、かつ、鉤歯被覆体および指輪体を製造したあと、次回の診療において直ちに部分義歯の装着構造を仕上げることができる。詳細は製造方法の説明で行う。
上記より、主たる噛み合わせ調整を鉤歯に対して行うこと、及び、鉤歯に嵌合する嵌合体が指輪体であり、従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯よりも比較的簡単な構造であることなどから、上記の部分義歯の装着構造には微妙な形状の嵌合部を形成する必要がなく、熟達した歯学上の勘などを、それほど必要としない。このため、比較的経験の少ない歯科医にも、大きな困難を伴わずに患者に快適な部分義歯を提供することができる。さらに、指輪体は加熱重合レジンに埋め込み固定しやすく、その加熱重合レジンに対して独自の好適な取り扱い手法を用いることで(製造方法の箇所で詳細を説明する)、口腔内での調整回数、技工所での手直し回数、および製造期間を大幅に少なくすることができる。
また、嵌合体は指輪体なので、嵌め合わせのとき、鉤歯と指輪体の間の空気が抜けやすく装着が容易になる。従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯では、寸法が密に仕上がった場合、指輪体に相当する外冠(完全かぶせ物)と鉤歯との間の空気が抜けにくい場合(とくに内冠のテーパー角が小さい場合)もあったが、上記指輪体では頂部が開放されているのでそうしたことは一切考えられない。
【0011】
指輪状の嵌合体は、その断面において、外面が、外に凸状であるものを用いるのがよい。これによって、高い剛性を得ることで優れた耐久性を確保することができる。外面は外に凸状であれば、凸曲面でも、多角形状でもよく、多角形は矩形でも三角形でもよい。
【0012】
部分義歯の義歯床は、指輪体の外面側を覆いながら、該指輪体が嵌合した部分より頂部側の鉤歯の側周面を覆っている構造をとることができる。
これによって、指輪体を義歯床に確実に固定しながら義歯床にも指輪体の補助的機能を分担させることができる。
【0013】
指輪体の外周面に凸部が設けられ、義歯床に周囲を取り囲まれて該義歯床に固定されることができる。
上記の凸部は、義歯床の中にアンカー(錨)のように入り込み固定力を増大
させることができる。
【0014】
鉤歯は残存歯またはインプラント(人工歯根)上の人工歯牙に形成されており、該残存歯またはインプラント上の人工歯牙において、側面周囲のみ、または、頂部を含む全面、を覆う鉤歯被覆体、を設けることができる。
この場合、鉤歯は、残存歯または人工歯根(インプラント)上の人工歯牙に、大別して上記2種類の鉤歯被覆体を施す。このような鉤歯における鉤歯被覆体は、形状が比較的簡単であり、通常レベルのものはそれほど困難を伴わずに製造することができる。
当然ながら、咬合面は、残存歯またはインプラント上の人工歯牙の頂面に形成される。とくに、インプラント上の人工歯牙を鉤歯とする場合、人工歯根を植え込む上顎または下顎の適切な箇所を選んでインプラントを製作することができ、そのインプラント上の人工歯牙1本を鉤歯として部分義歯を製造することができる。このため、たとえば総入れ歯とすることなく、1本のインプラントを足がかりにして部分義歯を製造することができる。複数本のインプラント上の歯牙を鉤歯としても、もちろん、構わない。また、複数の鉤歯を用いる場合、残存歯だけでは満足できる部分義歯を製作できない場合、インプラントにより適切な位置に鉤歯を設け、主要の鉤歯とすることができる。インプラントを用いることで、部分義歯を製造する場合の鉤歯の選択肢が大きく拡大する。
さらに残存歯が1本だけ(13歯欠損)でも、その1本の残存歯を鉤歯として、残りの13本を人工歯とした部分義歯であってもよい。
【0015】
鉤歯が形成される残存歯は神経がない失活歯のとき、該失活歯の頂部を含む全面を覆う鉤歯被覆体を設けるか、または、該失活歯の側面周囲のみを覆う鉤歯被覆体を設けることができる。
これによって、失活歯の場合は、頂部を含んで鉤歯被覆体、または側周面のみを覆う鉤歯被覆体で覆われるので、強い補強を得て、指輪体は頂部に応力を及ぼさないので、鉤歯としての機能を十分長く保つことができる。
上記の側面周囲のみを覆う鉤歯被覆体は、残存歯の豊隆部以下、すなわち根元側、の側面周囲とする場合が多い。
【0016】
鉤歯が形成される残存歯が神経がある生活歯のとき、該生活歯の側面周囲のみを覆う鉤歯被覆体を設けるのがよい。
鉤歯被覆体と指輪体とは、技工所で同じ機会に、直接、相互の形状を決め合いながら作製することができる。印象採得などの工程を必要とすることなくしかも高精度を保つことができる。
上記によれば、生活歯の場合は、神経を残したまま鉤歯被覆体で側面周囲のみを覆われた状態で、指輪体を貫通しながら頂部を露出させる。鉤歯被覆体は、側面周囲を被覆することで補強物として作用する。この結果、神経を生かしたまま鉤歯の機能を十分に発揮できるので、より長く健全性を保ちやすい。また、その生活歯における違和感も小さくすることができる。
生活歯の場合も、上記の側面周囲のみを覆う鉤歯被覆体は、残存歯の豊隆部以下の側面周囲とする場合が多い。
【0017】
鉤歯がインプラント(人工歯根)上の人工歯牙が加工されたものの場合、鉤歯被覆体を有さず、指輪体は該インプラントの人工歯牙に嵌合させるのがよい。
これによって、金属による鉤歯被覆体を用いることなく、鉤歯を製作することができる。
【0018】
鉤歯における鉤歯被覆体またはインプラントの人工歯牙は、その外面の少なくとも上部から中部にわたって、下方ほど広がるように1°以上8°以下の範囲内のテーパー角が付されているのがよい。
テーパー角が1°未満の場合、装着状態の部分義歯を外すことが難しくなる場合が多く、また、8°を超えると維持力が低下して抜けやすくなる。とくに2°以上6°以下とすることで程よい外しやすさと維持力のバランスを得ることができる。これによって、より確実に、鉤歯の根元部に嵌合力がかかるようにできる。なお、指輪体についても、当然ながら鉤歯被覆体のテーパーに適合するように、その内面にテーパーが付される。
上記の鉤歯における鉤歯被覆体のテーパーは、残存歯または人工歯牙の豊隆部等を少し削合しておくと、技工所におけるテーパー等の作製が容易になる。コーヌス・テレスコープ部分義歯においては、内冠のテーパー製作用のミリングマシンがあり、技工所において、そのテーパー製作用のミリングマシンを用いて非常な高精度で簡単にテーパーを形成することができる。
【0019】
鉤歯被覆体のテーパー角は、鉤歯の根元部において、((1)上部のテーパー角のまま、(2)テーパー角が小さくなる、および(3)ストレート(テーパー角ゼロ)になる)のうちのいずれかとするのがよい。ここで、上記(2)および(3)の場合、鉤歯の根元部においてテーパー角が小さくなるかまたはストレートになる高さ(幅)は、歯頸部下端から1.5mm〜3mm程度の範囲とするのがよい。
上記のいずれの場合も、指輪体から鉤歯の頂部に応力はかからないので、鉤歯の負担は大きく軽減される。上記(2)〜(3)の場合は、さらに、鉤歯の根元部で鉤歯被覆体はその下広テーパー角は、そのまま延びないで、立ってくる傾斜をとる。すなわち下広テーパーの傾向が小さくなり、立ち姿勢(鉛直姿勢)の傾向が強くなる。この根元部におけるテーパーの鉛直姿勢への変化により、指輪体からの力は、鉤歯の根元に、より一層確実にかかるようになる。この結果、より一層、鉤歯の負担は軽減されて耐久性を保つことが可能になる。と同時に動揺歯の動揺は部分義歯の装着(嵌合体の嵌合)によってなくなり、その動揺歯は固定される。
【0020】
指輪体から露出した鉤歯の頂部に、噛み合わせ調整がなされているのがよい。
鉤歯の頂部は指輪体から露出するので、当然、咬合面を形成することになる。この噛み合わせ調整は、指輪体と無関係に、都合のよい製造過程(機会)において行うことができる。このため、従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯における外冠に噛み合わせ調整を行う場合に比べて、噛み合わせ調整それ自体は微妙な調整が必要なことは変わらないが、鉤歯の頂部にのみ集中すればよく、多くのことを考慮しながら製造しなくてよくなる。また、噛み合わせ調整の工程の入れ方も選択肢が増える。すなわち、従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯では、(患者の歯牙/内冠(本発明では鉤歯被覆体)/外冠(本発明では指輪体))を総合した高さをすべて考えながら、最終的な外冠での咬合調整を行わなければならなかったが、本発明では嵌合体は指輪体なので鉤歯の頂面にのみ咬合調整を行えばよく、あとの義歯部分での咬合調整は技工所で行われ、歯科医院ではその義歯の咬合に関する微調整だけを行えばよい。
【0021】
鉤歯の鉤歯被覆体において、少なくとも露出する部分にセラミックスまたは樹脂が配設されているようにできる。
上記のセラミックスまたは樹脂は、歯牙と同じ白色系とするのがよい。通常、前装と呼ばれるものである。これによって、人目に付く部分に金属光沢を露出せずに、審美性を高めることができる。
【0022】
鉤歯が1本のみであり、該1本の鉤歯に指輪体が嵌合することで装着ができる。
残存歯が1本の場合でも、本発明の部分義歯の装着構造を用いることで、装着感に優れ、装着安定性を向上することができる。
【0023】
本発明の部分義歯は、人工歯と、人工歯を保持する義歯床と、義歯床に固定された嵌合体とを備える。この部分義歯では、嵌合体は、高さ4mm未満の指輪状であり、鉤歯の根元部に嵌ることを特徴とする。
これによって、部分義歯における嵌合体である指輪体は鉤歯に貫通されて、鉤歯の頂部はその指輪体から突き出ることになる。指輪体から鉤歯の頂部には、当然、応力はかからず側周面にかかる。したがって鉤歯の歯根の周りに大きなモーメントは発生しないので鉤歯は負担が小さく耐久性を保つことができる。
指輪体は比較的簡単な構造であることなどから、上記の部分義歯については微妙な嵌合部を形成する必要がなく、熟達した歯学上の勘などを、それほど必要としない。このため、比較的経験の少ない歯科医にも、大きな困難を伴わずに製作することができる。
また、嵌合体が指輪体であることから、歯牙または口腔における違和感は軽減される。さらに装着の際に、鉤歯と指輪体との間の空気が抜けにくいことなどは全く起こらず、装着が容易になる。さらに口腔内での調整回数、技工所での手直し回数、および製造期間を大幅に少なくできる。
【0024】
部分義歯の義歯床は、指輪状の嵌合体の外面側を覆いながら、該指輪状の嵌合体が嵌合した部分より頂部側の鉤歯の側周面を覆うようにされるのがよい。
これによって、指輪体を義歯床に確実に固定しながら義歯床にも嵌合体の補助的機能を分担させることができる。
【0025】
指輪体の外周面に凸部が設けられ、義歯床に周囲を取り囲まれて該義歯床に固定されるのがよい。
指輪体の外周面の凸部は、義歯床内でアンカー(錨)として機能して固定力を増大させる。
【0026】
指輪状の嵌合体の内周面は、一段の下広のテーパー面、または、下段のテーパー面が上段よりも立っている二段の下広のテーパー面、からなるのがよい。
これによって、鉤歯被覆体の外面のテーパーに合わせることができる。
【0027】
本発明の部分義歯の装着構造の製造方法は、人工歯と、人工歯を保持する加熱重合レジンで形成された義歯床と、義歯床に固定され、鉤歯に嵌め合わされる嵌合体とを備える部分義歯の装着構造を製造する。この製造方法は、鉤歯を形成するために患者の鉤歯原体(残存歯(失活歯もしくは生活歯)またはインプラントの人工歯牙をさす)を被覆する鉤歯被覆体を形成する工程と、鉤歯に嵌め合わせるための、高さ4mm未満の指輪状の嵌合体を形成する工程と、歯科医院で患者の口腔内において、鉤歯被覆体を鉤歯原体に固定する工程と、鉤歯被覆体を被覆することで形成された鉤歯に指輪状の嵌合体を嵌め合わせる工程と、人工歯を保持する義歯床において嵌合体が固定される予定の孔箇所(この孔の箇所は、人工歯付き義歯床(デンチャー部)を技工所で作製する途上で、自ずと設けられる)にリベース材を塗布し、該塗布がなされた孔箇所を75℃以上の湯に湯通しする工程と、鉤歯が塗布がなされた孔箇所を貫通し、嵌合体が義歯床内に埋め込まれるように、人工歯付き義歯床を押し込んで、所定時間、静止する工程と、所定時間、静止した後、義歯床に指輪状の嵌合体を固定させたまま、鉤歯から該義歯床を離脱させる工程とを備えることを特徴とする。
【0028】
加熱重合レジンで形成された義歯床へのリベース材として用いる即時重合レジンまたは常温重合レジンは、85℃程度の湯に湯通しされると、程よい粘度を持った状態となり、しかも表面に比較的しっかりした皮膜を有する。すなわち即時重合レジンまたは常温重合レジンは、湯通しという処理と組み合わせると、歯科医院における実務において取り扱いが非常にしやすくなる。取り扱いがし易いとは、まず、湯通しすることでリベース処理により増肉し易く、また肉厚調整も容易となることをさす。これに加えて、湯通しすることで使いやすい軟性を保持するため、たとえば指輪体を入り込ませ易く、かつ不要な余剰部分またははみ出した部分は、不要部として簡単に除去することができることなどをさす。別の見方をすれば、上記リベース材は湯通し後に表面に皮膜をはるので適度な粘性を有し、かつ、液体のように流れることはなく、ひとまとまりの物体として扱うことができる。そして所定の時間が経過すれば、即時重合レジン等は固化して強度を急激に増すようになる。この急激な強度上昇によって、たとえば上記の指輪体を義歯床に取り込み強固に固定することができる。
なお上記のリベース材に用いる即時重合レジン等は、ノーマル型であり、オンサイトで患者の口腔内でのリベースが可能なタイプであることが望ましい。
患者の口腔から印象採得に基づき、人工歯付き義歯床を形成し、かつ、鉤歯被覆体および指輪体を製造したあと、次のような1回の調整のみで直ちに部分義歯の装着構造を仕上げることができる。
すなわち、まず、歯科医院において、患者の口腔内(オンサイト)で、鉤歯被覆体を鉤歯原体(残存歯またはインプラントの人工歯牙)に固定する。次いでその鉤歯被覆体に嵌合体である指輪体を嵌合しておく。人工歯付き加熱重合レジンによる義歯床には、鉤歯に対応する位置に、技工所において予め、孔(鉤歯/嵌合体の径よりも大きめの径)があけられている。その孔を含む周囲(孔箇所)にリベース材である即時重合レジンまたは常温重合レジンを塗布する。即時重合レジンおよび常温重合レジンは、各種、市販されている。次いで、その塗布がなされた孔箇所を75℃以上の湯に湯通しする。これによって即時重合レジンまたは常温重合レジンは、上述したように取り扱い易い状態になる。そこで、指輪体が嵌合している鉤歯をその孔箇所に合わせて、鉤歯がその孔箇所を貫通し、指輪体が義歯床内に埋め込まれるように、義歯床を押し込む。指輪体は湯通しで軟性を保っているリベース義歯床内に埋め込まれる。そのまま、静止状態で所定時間、数分間程度経過すれば、加熱重合レジンは冷えて固化して強度を増大させる。この結果、指輪体は義歯床に埋め込み固定される。義歯床を鉤歯から離脱させると、指輪体は義歯床に埋め込み固定されたまま嵌合していた鉤歯から引き抜かれる。これによって、部分義歯では、嵌合体である指輪体が埋め込み固定された状態になり、全体のリベース等を行うことにより仕上がり状態となる。
上記の製造工程では、印象採得により人工歯付き義歯床、鉤歯被覆体および指輪体を形成できれば、そのあとは歯科医院においてオンサイトで部分義歯、およびその装着構造が仕上げられる。これは、部分義歯およびその装着構造の製造において画期的に短縮化、簡単化されている。これによって、患者の負担ならびに歯科医院および技工所の負担を大きく軽減することができる。
なお、上記の製造方法の発明は、製造方法の中の特別の一つである。本発明の部分義歯およびその装着構造は、必ずしも上記の特別の一つの製造方法で製造したものでなくてもよい。上記の特別の一つの製造方法は、工程の短縮化、簡単化が非常に大きく得られる製造方法の一つを製造方法の発明としてあげたものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、鉤歯への負担を減らしながら、歯科医院においてそれほど高度の熟達した技術を要さず、口腔内での調整回数、技工所での手直し回数、および製造期間を大幅に少なくでき、その上、噛み合わせ調整の段取りを簡単化することができる、耐久性の高い部分義歯の装着構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1における部分義歯の装着構造を石膏模型において示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1に示す部分義歯の斜視図(おもて側)である。
【図4】図3の部分義歯の裏面から見た斜視図である。
【図5】嵌合体である指輪体であり、(a)は外周面に凸部がない場合、(b)は外周面に凸部がある場合、を示す図である。
【図6】図1に示す部分義歯の装着構造における鉤歯を示す石膏模型である。
【図7】実施の形態1の部分義歯の装着構造の製作工程を示すフローチャートである。
【図8】(a)は本発明の実施の形態の一例であり、実施の形態1の変形例1である部分義歯の装着構造を示す断面図、(b)はその寸法例、角度例である。
【図9】本発明の実施の形態の一例であり、実施の形態1の変形例2の部分義歯の装着構造を示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における部分義歯の装着構造を示す斜視図である。
【図11】図10の装着構造のXI−XI線に沿う断面図である。
【図12】本発明の実施の形態の一例であり、実施の形態2の変形例1の部分義歯の装着構造を示す断面図である。
【図13】本発明の実施の形態3における部分義歯の装着構造を示す断面図である。
【図14】図13における部分義歯の装着構造の変形例を示す断面図である。
【図15】本発明の実施の形態4における部分義歯の装着構造を示す斜視図である。
【図16】図15に示す部分義歯の装着構造における鉤歯を示す石膏模型である。
【図17】図15のXVII−XVII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における部分義歯の装着構造50を示す斜視図である。図1において、部分義歯10を装着した患者の上顎は石膏模型M上に示されている。石膏模型Mの口腔(歯牙)に部分義歯10が装着されて、装着構造50が形成されている。患者には、3本の鉤歯Kが形成され、その鉤歯Kに嵌合体(図1では義歯床35に取り囲まれて見えない)が貫通される形態で装着構造50が形成される。患者の鉤歯Kは、左7番(L)、右3番(R)および右5番(R)である。この3本の鉤歯Kはこのあと説明するように鉤歯被覆体31により被覆されている。鉤歯被覆体31の材料は何でもよいが、金属は製造が容易であり耐久性も高いので、金属製の被覆物31がよく用いられる。本実施の形態において、鉤歯Kは必ず鉤歯被覆体31で被覆されるので(頂部も含めて全てか、または側周面のみかの違いはあるが)、両者を合わせて鉤歯K(31)と表示する場合もある。また、「鉤歯被覆体」と、「金属製の被覆物」または「被覆物」とを同じ意味に用いる場合もある。図1に示す場合、部分義歯10は3本の鉤歯K(31)を主要な嵌合箇所として安定に保持される。
部分義歯10には、指輪状の嵌合体11が設けられており、この指輪状の嵌合体11を鉤歯K(31)が貫通して頂部31tが突き出して露出している。指輪状の嵌合体11に鉤歯Kが入って貫通する(嵌合が実現する)ことで、部分義歯10の鉤歯Kへの装着が実現する。
【0032】
図2は、図1における左7番(L)の鉤歯K(31)での断面図である。本実施の形態では、図2示すように、嵌合体11が指輪状(以下、「指輪体」と記す)であり、鉤歯Kの根元部に嵌合する点に特徴を有する。
義歯床35は、その裏面で顎堤粘膜8に密着するが、義歯床の裏面と嵌合体11の底部端11bは揃っている。患者の左7番の歯牙5は歯根5bを持つが、失活歯であり神経を抜かれている。さらに金属製の被覆物31で頂部から全体を被覆されている。金属製被覆物31の頂部31tには、噛み合わせの咬合面が形成されている。被覆物31の側周面には根元に広がるようにテーパー面31sが形成されて、金属光沢がある滑らかな円錐面(側周面)が形成されている。円錐面の鉛直方向に対する角度(テーパー角)は1°以上8°以下の範囲とする。テーパー角が1°未満の場合、装着状態の部分義歯を外すことが難しくなる場合が多く、また、8°を超えると維持力が低下して抜けやすくなる。とくに2°以上6°以下とすることで程よい外しやすさと維持力のバランスを得ることができる。
義歯床35は嵌合体11の周囲を覆い、勘合体11の固定に寄与している。広くは、嵌合体11はどのような方法で義歯床35に取り付けてもよく、周知の方法で義歯床35に固定することができる。
【0033】
次に、嵌合体を指輪体11としたことの利点について説明する。鉤歯Kの頂部の縁の部分(頂部コーナー部)に、従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯のように外冠が被さる場合、テコの原理により歯根部に大きなモーメントがかかり歯根部の負担が大きくなる。従来の場合、嵌合体に相当する部分が外冠(完全かぶせ物)であり、当然、鉤歯の頂部コーナー部に大きな応力がかかった。図2に示す指輪体11によれば、指輪体11は、鉤歯Kに貫通されて、自ずとその根元部に嵌合する。鉤歯Kの頂部は、当然、指輪体11から大きく突き出る。このため、指輪体11から鉤歯の頂部および頂部コーナー部に応力は、全くかからず側周面下部にのみかかるので、鉤歯Kの歯根の周りのモーメントは、鉤歯の頂部に応力がかかる場合に比べて、大きく低減される。このため、鉤歯Kにかかる負担は小さく、高い耐久性を保つことができる。また、鉤歯Kが完全に被せ物(外冠)で覆われる場合に比べて、口腔内における違和感は当然小さくなる。
また、指輪体11から突き出ている鉤歯Kの頂部31tに対して、指輪体11と関係なく、たとえば製作の早期の段階で、咬合調整を行うことができる。このため、噛合調整を簡単に行うことができ、従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯のように技工所(ラボ)段階で外冠に噛み合わせ調整を施す必要がない。この結果、咬合面を形成することができる工程をとる機会(咬合面形成が可能な機会)が増え、かつ簡単化され、従来の場合のように内冠の頂部の厚みまで考慮する必要はなくなる。ただし、歯科医院での噛み合わせ調整そのものにおいて、微妙な調整が必要であることは従来と同様である。その微妙な調整という点においても、本発明の場合、鉤歯のみの咬合調整という限られた調整なので、咬合調整が容易であるという利点は確実に得られる。
さらに特筆すべきこととして、指輪体11の場合、義歯床35の中に埋め込んで固定しやすい点をあげることができる。たとえば患者の口腔から印象採得に基づき、人工歯16付き義歯床35(デンチャー部と記す)を形成し、かつ、鉤歯被覆体31および指輪体11を製造したあと、1回の調整のみで直ちに部分義歯の装着構造を仕上げることができる。詳細は製造方法の説明で行う(図7参照)。
上記より、主たる噛み合わせ調整を鉤歯に対して行うこと、及び、鉤歯に嵌合する嵌合体が指輪体11であり、従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯よりも比較的簡単な構造である。このため上記の部分義歯の装着構造には微妙な形状の嵌合部を形成する必要がなく、熟達した歯学上の勘などを、それほど必要としない。比較的経験の少ない歯科医にも、大きな困難を伴わずに患者に快適な部分義歯を提供することができる。さらに、指輪体11は義歯床35に用いられる加熱重合レジンに埋め込んで固定しやすく、その加熱重合レジンに対して独自の好適な取り扱い手法を用いることで(製造方法の箇所で詳細を説明する)、口腔内での調整回数、技工所での手直し回数、および製造期間を大幅に少なくすることができる。
また、嵌合体は指輪体11なので、嵌め合わせのとき、鉤歯Kと指輪体11の間の空気が抜けやすく装着が容易になる。従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯では、寸法が密に仕上がった場合、指輪体11に相当する外冠(完全かぶせ物)と鉤歯Kとの間の空気が抜けにくい場合もあったが、指輪体11ではそうしたことは一切無い。
【0034】
金属製の被覆物31を形成する際、指輪体11を備えた装着構造50の形状、大きさなど口腔内での均衡を考慮して、歯牙5を歯科切削機械等で加工する。図2では歯牙5は被覆物31に対応して整った形状を有するが、実際は、歯根5bさえあれば形状が変形していたり、虫歯の治療がされていて掘削孔があったりしてもよい。そのような形状の崩れ等は金属製の被覆物31の内面側において吸収する。そのような変形した歯牙5の場合であっても、金属製の被覆物31によって被覆された外面では、頂部31tを除いて金属光沢のある人工的な円錐面の側面を持つ形状となる。したがって大まかな形状は、「頂部に噛み合わせ調整による凹凸(花びらと形容される場合もある)が付いた人工的な円錐台」ということができる(図6参照)。
当然であるが、指輪体11の内面11iにおいても、鉤歯31のテーパー面31sに適合するようにテーパーが付されている。
鉤歯被覆体31の材料には、上述の製造のし易さ、耐久性などから大抵の場合、金属がよく、その金属は通常の歯科用の鋳造合金であれば何でもよい。白金加金、金銀パラジウム合金、その他の合金等を用いることができる。中でも白金加金が最も望ましい。
【0035】
上記したように、金属製の被覆物31で被覆された鉤歯Kは、指輪体11を貫通して大きく突き出るような形態で、その指輪体11に嵌合される。なお、嵌合体と指輪体とに対して同じ番号11を用いる。この嵌合体11は、言うまでもなく、部分義歯10に設けられている(固定されている)。指輪体11は、金属製の被覆物31の側周面下部に接してその鉤歯Kの根元部を取り巻いている。このため指輪体11に関係なく、金属製の被覆物31の頂部31tを咬合面とすることができる。
指輪体11の材料についても、製造のし易さ、耐久性などから大抵の場合、金属がよく、その金属は通常の歯科用の鋳造合金であれば何でもよい。白金加金、金銀パラジウム合金、その他の合金等を用いることができる。中でも白金加金が望ましい。
【0036】
なお、図2では、指輪体11の底部11bは、顎堤粘膜8に接触するように描いてある。このような端が面を形成して面接触する構造であってもよい。また、顎堤粘膜8からたとえば0.5mm〜1mm程度離れて(浮いて)いてもよい。さらに上記の指輪体11の底部11bの端は、片刃を形成するように外側の面が端に向かって内側の面に近づくようなテーパーが付いていてもよい。その結果、指輪体11の底部11bが端面を形成しないで線状であってもよい。また、その外面のテーパー面は平面的でも、凸面状であってもよい。
上記の指輪体11の底部11b、および頬側の義歯床35についての説明は、この後の装着構造50についても適用される。
【0037】
図3は、図1における部分義歯10を示すおもて面側から見た斜視図である。図1において説明したように、鉤歯に対応する箇所L,R,Rに指輪体(図3では見えない)が配置されている。
図4は、図3に示す部分義歯10を裏面側から見た斜視図である。義歯床35は指輪体11を取り囲んでその指輪体11を固定している。すなわち義歯床35は頬側にも回っていて、指輪体11の義歯床35への固定を強固にしている。裏面側には人工歯がないため、筒状嵌合体11の底部端11bおよび内面11iが明瞭に見える。底部端11bは、義歯床35の裏面35bと揃って位置している。指輪体11が義歯床35の裏面35bまで延在することで、指輪体11からの力を鉤歯31の根元部に確実にかけることができる。その結果、歯牙5の歯根5bのまわりのモーメントを、従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯において鉤歯31の頂部を含めて全体にかかる場合に比べて、小さくすることができ、鉤歯31の歯牙5およびその歯根5bの負担を大きく軽減することができる。これによって耐久性を向上させることができる。また、嵌合体が指輪体11であり、下広のテーパー形状と協働して鉤歯下部に応力がかかるので、歯根部の負担がさらに軽減され、かつ歯牙における違和感も大きく軽減される。さらに装着の際に、嵌合体が指輪体11なので鉤歯との間の空気が装着の障害になることはない。
これに比べて、従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯では、嵌合体は完全かぶせ物の外冠であったので、大きな力が鉤歯の頂部に付加され、歯根に破損等を生じる場合があった。また、装着の際、外冠と鉤歯との間の空気が抜けにくい場合があった。
【0038】
図5は、指輪体11を示す図である。図5(a)は、通常の指輪体11であり、内面11iに、図2に示した金属製の被覆物31の外面のテーパーに対応して下広のテーパーが付いている。図5(a)に示す指輪体11の形状でもよいが、図5(b)に示すように外周面に凸部11gを設けることで、リベース材または義歯床35の中に入り込み、固化した後、アンカーとして機能する。すなわち義歯床35と一体化するリベース材が固化したときに、埋め込まれた指輪体11が容易に義歯床35から抜けることはなくなる。この結果、指輪体11の義歯床35への強固な固定に寄与することができる。
【0039】
図6は、患者の、石膏模型Mにおける鉤歯K(31)を示す図である。鉤歯K(31)内には残存する歯牙5が歯根5bを伴って位置している。鉤歯K(31)は、上述のように、金属製の被覆物31に被覆されている。そして、金属製の被覆物31の頂部31tは咬合面となるように噛み合わせ調整がなされている。この金属製の被覆物31の頂部31tが、図3に示す部分義歯10の指輪体が固定されている部分(孔)を貫通して、その指輪体11から上に突き出して、咬合面となる。鉤歯Kは、金属製の被覆物31で覆われているので、歯牙5を補強して全体的に高い強度を保持することができる。このため、指輪体11と合わせて、少ない本数で、部分義歯を強固に安定して保持することができる。かつ、鉤歯については、上述のように歯根部への負担が大きく軽減されるので、鉤歯自身も保護される。
鉤歯Kにおける金属製の被覆物31、および指輪体11は、噛み合わせ面31tを除いて、幾何学的であり、微妙な形状の調整をそれほど必要としない。また、このあと説明するように、噛み合わせは、指輪体11とは無関係に、金属製の被覆物31を作製するときに調整することができる。このため、部分義歯10は、それほど熟達した歯科上の勘やセンスは必要なく、比較的、容易に作製することができる。とくに、金属製の被覆物31を固定した後、上下の咬合関係が決まっていて鉤歯Kのみに集中すればよいので、歯科医院での咬合採得が容易である。
なお、失活歯において鉤歯を形成する場合、図6に示すように失活歯の上から全体を金属製の被覆物31で覆ってもよいし、または、失活歯の側周面のみを取り囲むように金属製の被覆物31で覆ってもよい。
【0040】
図7は、本実施の形態における部分義歯10およびその装着構造50を作製する方法を説明するためのフローチャートである。まず、患者の口腔において鉤歯K(31)を形成するために歯牙5を加工する。このあと印象採得を行って、歯牙5の型をとり、鋳型を作製する。金属製の被覆物31の鋳型には、外面に高精度のテーパー面が形成されるように、内冠のテーパー製作用のミリングマシンなどの製造装置を用いて形成するのがよい。このとき、出来た鋳型を用いて金属製の被覆物31および指輪体11の両方を作製する。金属製の被覆物31および指輪体11はともに、金属にはたとえば白金加金を用い、側面や頂部の厚みは、従来のクラウン等の場合と同等にするのがよい。また、上記したように金属製の被覆物31の外面にはテーパー角1°以上8°以下のテーパーを付ける。指輪体11の内面11iにはそれに対応したテーパーを付ける。
鋳造して作製した金属製の被覆物31を、歯科用切削機械等で加工して歯牙5を被覆する形態にしたあと、セメントなどの接着剤を用いて歯牙5に固定する。そして金属製の被覆物31に指輪体11を嵌合する。この時点で、金属製の被覆物31は鉤歯Kを構成するように歯牙に固定され、指輪体11は、その鉤歯Kに嵌合されている。
一方、採得した印象に基づき、義歯床35とその義歯床35に固定された人工歯16とを備えたデンチャー部を製作しておく。すなわち義歯床35には、嵌合体または指輪体11はまだ取り付けていない。指輪体11は、患者の口腔内で鉤歯Kに嵌合している。義歯床35では、その嵌合体(指輪体)11が取り付けられる予定の箇所は、義歯床35が延在している。
ここで、義歯床35において、指輪体11が取り付けられる予定の箇所には、技工所で孔を設けておく。この孔はワックスパターン(蝋義歯)作製のときに自ずと設けられる。歯科医院では、このような孔が設けられたデンチャー部を用いて患者の口腔状態に合わせながら、部分義歯を製作する。
すなわち歯科医院において、この孔箇所に即時重合レジンなどのリベース材を塗布し、次いでそのリベース材塗布箇所含む義歯床の部分を、85℃程度の湯に湯通しする。義歯床35は加熱重合レジンで作製されていることを前提とする。義歯床のタイプとしてはメタルプレートを含むタイプでもレジン床タイプでもよい。85℃の湯に湯通しされることで、程よい粘度をもって軟化して、しかも表面に操作性に好都合な皮膜を有するので、歯科医院における実務において、リベース処理により増肉し易く、また肉厚調整も容易となる。これに加えて、湯通しすることで適度な軟化を得ることができるため、たとえば指輪体11を、リベース材を介在させて孔の周囲の義歯床内に入り込ませ易い。かつ不要な余剰部分またははみ出した部分は、完全に固化する前に簡単に除去できる状態となる。別の見方をすれば、湯通し後に適度な軟化、および適度な粘性を得るため、かつ表面に皮膜をはるので、液体のように流れることはなく、ひとまとまりの物体として扱うことができる。そして即時重合レジンまたは常温重合レジンは、時間の経過とともに、固化が生じて強度を急激に増すようになる。この急激な強度上昇によって、たとえば上記の指輪体11を義歯床35に埋め込んだ状態で強固に固定することができる。この指輪体11に、図5(b)に示すように凸部11gが設けられていれば、凸部11gは義歯床35の中でアンカーとして機能して強固な埋め込み固定に寄与する。
リベース材が固化した後、義歯床35を鉤歯Kから離脱させると、指輪体11は義歯床35に埋め込み固定されているので、鉤歯K(31)への嵌合から引き抜かれて義歯床35に付いてゆく。このあと鉤歯Kの金属製の被覆物31に対して、指輪体11に関係なく咬合調整を行うことができる。これによって、部分義歯10および部分義歯の装着構造50は完成する。
上記の製造方法は、製造方法の中の特別の一つである。本発明の部分義歯およびその装着構造は、必ずしも上記の特別の一つの製造方法で製造したものでなくてもよい。上記の特別の一つの製造方法は、工程の短縮化、簡単化が非常に大きく得られる製造方法の一つを製造方法の発明としてあげたものである。
【0041】
上記の部分義歯10およびその装着構造50の製造方法は、画期的に短縮化、簡単化されており、かつ分かりやすい。印象採得をした後、患者は何度も歯科医院で調整をする必要はなく1回の調整で部分義歯10およびその装着構造50を完成することができる。しかもオンサイトで、口腔内で調整するので、正確であり、ずれが少ないものができる。
この製造方法の画期的な短縮化、簡単化は重要なポイントなので、要約しながら再度説明する。まず患者の口腔から印象採得に基づき、人工歯付き義歯床(デンチャー部)を形成し、かつ、鉤歯被覆体31、指輪体11を作製後、その鉤歯被覆体31および指輪体11を装着した模型上で義歯床を作製する。その後、次のような1回の調整のみで直ちに部分義歯の装着構造を、オンサイトで仕上げることができる。まず、歯科医院において、患者の口腔内(オンサイト)で、鉤歯被覆体31を鉤歯原体(残存歯またはインプラントの人工歯牙)に固定する。次いでその鉤歯被覆体31に嵌合体である指輪体11を嵌合しておく。加熱重合レジンによる義歯床35には鉤歯Kに対応する箇所に大きめの孔をあけ、次いで、リベース材を孔を含む周囲に塗布しておく。その後、このリベース材を塗布された孔箇所を含む義歯床35の部分を、75℃以上たとえば85℃程度の湯に湯通しする。これによってリベース材は、上述したように取り扱い易い状態になる。そこで、指輪体11が嵌合している鉤歯Kをその孔に合わせて、鉤歯Kがその孔を貫通し、指輪体11が義歯床内に埋め込まれるように、義歯床35を押し込む。そのまま、静止状態で所定時間、数分間程度経過すれば、リベース材は固化して強度を急激に増大させる。この結果、指輪体11は義歯床35に強固に埋め込み固定される。義歯床35を鉤歯Kから離脱させると、指輪体11は義歯床35に固定されたまま鉤歯Kから引き抜かれる。指輪体11が、図5(b)に示すように凸部11gがあるタイプであれば凸部11gがアンカー効果を発揮してより強固な埋め込み固定が実現する。これによって、部分義歯10では、嵌合体である指輪体11がしっかり埋め込み固定された状態になり、ほぼ仕上がる。その後、全体のリベース処理(軟らかめのリベース材を用い、かつ湯通しする)を施して最終調整に至る。
上記の製造工程では、印象採得により人工歯16付き義歯床35、鉤歯被覆体31および指輪体11を形成できれば、そのあとは歯科医院においてオンサイトで部分義歯10、およびその装着構造50が仕上げられる。これは、部分義歯およびその装着構造の製造において画期的に短縮化、かつ簡単化されている。これによって、患者の負担ならびに歯科医院および技工所の負担を大きく軽減することができる。
【0042】
上記の部分義歯は、つぎの特徴<F1>〜<F5>を有する。
<F1>:部分義歯10およびその装着構造の製造方法50を、画期的に短縮化、かつ簡単化することができる。これによって、患者、歯科医院および技工所の負担が画期的に軽減される。この製造方法の短縮化かつ簡単化は、次の技術的内容に基づく。
(i)嵌合体を指輪体11としたこと
(ii)義歯床35を加熱重合レジンで形成し、リベース材に常温重合レジンまたは即時重合レジンを用いて、そのリベース材に対して湯通しという独特の手法を適用したこと
<F2>:鉤歯Kの負担を軽減することができる。これは、鉤歯Kに嵌合する嵌合体を指輪体11として、鉤歯Kの根元部にのみ応力がかかるようにしたために、歯根5b周りのモーメントが大きく低減したためである。指輪体11とすることで、鉤歯Kの頂部に応力がかかるおそれがまったくなくなった。これによって鉤歯およびその中の歯牙の耐久性を向上させ、その上、鉤歯K自身についても、上述のように、歯根部の負担を軽減されるので耐久性を得ることができる。
<F3>:熟達した歯科上の勘を必要としないで、比較的、経験の浅い歯科医にも作製可能である。それは次の理由(i)および(ii)による。
(i)嵌合体を指輪体11とすることで、鉤歯Kの頂部に応力がかかるおそれがまったくなくなり、指輪体11を鉤歯Kの根元部に嵌合させる上で、微妙な調整はほとんど不要になった。
また、鉤歯Kを被覆する被覆物31の形状は、おおよそ図6に示すように円錐台であり、外面は幾何学的な緩いテーパー角の円錐面である。また指輪体11の内面11iもこれに合わせて幾何学的な緩いテーパー角の円錐面である。このため、従来のC字状のクラスプのように、微妙な形状の調整は必要なくなる。
鉤歯Kの金属製の被覆物31またはインプラントの歯牙の外側面のテーパーなどは、従来から用いられている内冠のテーパー形成用のミリングマシンがあるので、技工所においてこれを用いて、高精度のテーパー面を形成することができる。
(ii)噛み合わせの調整を、嵌合体11に無関係に行うことができる。従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯では、頂部を含めて内冠を完全に被覆する外冠を嵌合体に用いていたので、噛み合わせの咬合面を外冠(嵌合体)に形成していた。このため噛み合わせ調整のことを考え合わせながら、内嵌および外冠を作製しなければならなかった。すなわち、従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯では、(患者の歯牙/内冠/外冠)を総合した高さをすべて考えながら、最終的な外冠での咬合調整を行わなければならなかった。このため、従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯の製作には高い熟練度が必要であった。しかし本発明においては、嵌合体は指輪体なので、嵌合体と関係なく噛み合わせ調整は鉤歯Kの頂面だけ、つまり限定された狭い範囲についての咬合面に集中して行えばよい。このため、嵌合体に無関係に噛み合わせ調整ができるので、噛み合わせ調整を含めて製造全体を明確に分かりやすくできる。なお、噛み合わせ調整それ自体は微妙な調整が必要なことは変わらない。
上記の理由(i)および(ii)によって、それほど多くの経験がない歯科医により容易に作製することができる。
<F4>:部分義歯の耐久性が高い。これは、従来のクラスプのように細い金属に大きい応力が集中する部分がないようにできるので、部分義歯の耐久性を向上させることができる。
<F5>:その他
装着時の歯牙または口腔の違和感の減少、および、装着の容易化が促進される。従来のコーヌス・テレスコープ部分義歯では、装着時、鉤歯と嵌合体の間の空気が抜けにくい場合があった。
【0043】
(実施の形態1の変形例1)
図8(a)は、実施の形態1の変形例1における部分義歯の装着構造50の断面図、また図8(b)は寸法例または角度例であり、本発明の実施例の一つである。図8によれば、金属製の被覆物31には、上記のように上部から1°以上8°以下のテーパー角のテーパー面31sが形成されているが、根元部ではそのままのテーパー角で延長されず、テーパー角がより小さくなるか、またはストレート状のテーパー角のテーパー面31kが形成されている。嵌合体である指輪体11の内面11iは、これに対応して二段のテーパー面が付されている。すなわち下段のテーパー面が上段よりも立っている二段の下広のテーパー面、が付されている。
このような、上部のテーパー面31sがそのまま延長されず、小さいテーパー角またはストレート状の底部テーパー面31kを設けることで、より一層、確実に鉤歯31の根元部に応力を集中させることができるようになる。この結果、より一層、鉤歯Kまたは歯牙5の負担を軽減することが可能になる。
【0044】
(実施の形態1の変形例2)
図9は、実施の形態1の変形例2における部分義歯の装着構造50の断面図であり、本発明の実施例の一つである。図9によれば、金属製の被覆物31の頂部31tに、白色の被覆物31fが貼着されている。被覆物31fは、白色の樹脂またはセラミックスとするのがよい。白色の被覆物31fを用いることで、金属製の被覆物31の頂部31tは、見た目に白色が映り、審美性を向上させることができる。
【0045】
(実施の形態2)
図10は本発明の実施の形態2における部分義歯の装着構造50を示す斜視図である。実施の形態1では、鉤歯Kには頂面を含めて全てを覆う金属製の被覆物31が残存歯5を被覆していた。しかし、本実施の形態では、図11に示すように、鉤歯Kにおける頂面は残存歯5の頂部5tが、筒状の嵌合体から露出している。このため、鉤歯の頂部5tは金属で覆われていない。
図11は、図10のXI−XI線に沿う断面図であり、実施の形態1の図2に相当する断面図である。実施の形態1との相違は、上述のように、鉤歯Kにおける金属製の被覆物31が、患者の歯牙5の頂部5tを覆わずに、側面部5sのみを被覆している点にある。これによって、鉤歯Kになる残存歯が生活歯の場合、神経を除くことなく鉤歯に用いることが可能となる。神経を生かした生活歯は、失活歯に比べて健全性が高く、正常な状態を長期にわたって保つことができる。この結果、鉤歯31およびその主柱の歯牙5の耐久性を大きく向上させることができる。
生活歯の場合、側面部の被覆物を作製することを容易にするため、歯牙側面部の少量の削合も考えられる。それによって、その後の技工所サイドでの作製は非常に容易化され、技工所での作製に対して大きな貢献をもたらす。
実施の形態1における特徴<F1>〜<F5>はそのまま確保することができる。その上で、<F3>(ii)における噛み合わせは、生活歯5においては既に咬合調整がなされており、異常な場合での微量の咬合調整がなされる程度なので、咬合の調整はほとんど行う必要がなくなり、従来の部分義歯程度での調整が求められる程度である。
【0046】
(実施の形態2の変形例1)
図12は、実施の形態2の変形例1における部分義歯の装着構造の断面図であり、やはり本発明の実施例の一つである。図12によれば、金属製の被覆物31には、上記のように上部から1°以上8°以下のテーパー角のテーパー31sが付されているが、根元部ではそのままのテーパー角で延長されず、根元ではストレートの底部テーパー31kが形成されている。嵌合体である指輪体11の内面11iは、これに対応して二段のテーパー面が付されている。すなわち下段のテーパー面が上段よりも立っている二段の下広のテーパー面、が付されている。
このような、上部のテーパーがそのまま延長されず、ストレートの底部テーパー31kを設けることで、より一層、確実に鉤歯31の根元部に応力を集中させることができるようになる。この結果、より一層、鉤歯31または歯牙5の負担を軽減することが可能になる。
【0047】
(実施の形態3)
図13は本発明の実施の形態3における部分義歯の装着構造50を示す断面図である。本実施の形態では、鉤歯Kにインプラント上の人工歯牙21を用いる点に特徴を有する。インプラントは人工歯根であり、骨(顎骨または頬骨)23に、チタン合金等の金属製のフィクスチャ22により固定されている。フィクスチャ22は、鋭利なドリル状であり、骨にねじ込まれることで、固定される。フィクスチャ22には、人工歯牙21を保持するアバットメント25が固定されている。人工歯牙21は、骨23/フィクスチャ22/アバットメント25によって、患者の口腔内に強固に固定される。人工歯牙21の頂部21tには、咬合面が形成されている。
【0048】
本実施の形態では、鉤歯Kは、インプラントの人工歯牙21に形成される。そして、鉤歯Kを構成する人工歯牙21に金属製の被覆物を設けていない。すなわち、嵌合体である指輪体11は、直接、人工歯牙21に嵌合していて、人工歯牙21が指輪体11を貫通している。人工歯牙21は、残存歯に比べて制約を受けずに成形することができる。とくに人工歯牙21の側周面に下広のテーパー21sを付けやすい。また、根元部に底部テーパー面21kを付けることも容易である。
人工歯牙21の根元部には、指輪体11が嵌合されている。人工歯牙21には頂部から下方に下広がりのテーパー面21sが形成されている。そのテーパー面21sは、1°以上8°以下のテーパー角が付されているが、底部ではそのままのテーパー角で延長されず、根元ではストレートの底部テーパー21kが形成されている。指輪体11の内面11iは、それに対応したテーパーが付されている。
このような、上部のテーパーがそのまま延長されず、ストレートの底部テーパー21kを設けることで、指輪体11としたことと協働して、より一層、確実に鉤歯Kの根元部に応力を集中させることができるようになる。底部のテーパーについては、上部のテーパー面21sのテーパー角より小さければ(立つようなテーパー)、ストレート(傾斜角度0°)でなくてもよい。
インプラントでは、歯周病になるおそれが高く、根元部に大きなモーメントがかかると、そのような疾患を促進させる。図13に示すように、人工歯牙21の側周面のテーパー面の傾斜を底部において立てることで人工歯根25,22,23におけるモーメントを小さく制限することができる。この結果、インプラントにおける人工歯牙21を鉤歯Kに用いながら、歯周病等の疾患を防ぐことができる。
【0049】
何よりも、インプラントは、口腔内における鉤歯の配置の自由度を高めることができる。たとえば、全歯欠損(14歯欠損)の場合であっても、総入れ歯にすることなく、1本のインプラント人工歯牙を設けて、それを鉤歯Kとして、部分義歯の装着構造を形成することができる。この場合、部分義歯は、当然であるが、形式上、13歯欠損の部分義歯となる。このような1本だけのインプラントの人工歯牙21を鉤歯Kに用いることで、総入れ歯に不随する欠点に悩まされることなく、装着感に優れ、安定した咬合を行って食物の味覚を楽しめる部分義歯を得ることができる。
【0050】
(実施の形態3の変形例)
図14は、実施の形態3の変形例における部分義歯の装着構造50の断面図であり、本発明の実施例の一つである。図14によれば、インプラントを鉤歯Kに用いる点は、図13に示す例と同じであるが、鉤歯Kを構成する人工歯牙21に金属製の被覆物31を設けている点で相違する。すなわち、人工歯牙21の側周面は、金属製の被覆物31によって被覆されていて、その鉤歯に筒状の嵌合体11が嵌合されている。鉤歯を構成する金属製の被覆物31は、頂部から下方に下広がりのテーパー面31sが形成されている。そのテーパー面31sは、1°以上8°以下のテーパー角が付されているが、根元部ではそのままのテーパー角で延長されず、根元ではストレートの底部テーパー31kが形成されている。このような、上部のテーパーがそのまま延長されず、ストレートの底部テーパー31kを設けることで、より一層、確実に鉤歯Kの根元部に応力を集中させることができるようになる。
この結果、人工歯根25,22,23におけるモーメントを小さく制限することができる。この結果、インプラントにおける人工歯牙21を鉤歯Kに用いながら、歯周病等の疾患を防ぐことができる。
【0051】
(実施の形態4)
図15は、本発明の実施の形態4における部分義歯の装着構造50の斜視図である。図15では、部分義歯10を装着した患者の上顎が石膏模型M上に示されている。本実施の形態の特徴は、1本の残存歯を鉤歯Kとしている点に特徴を有する。図16は、その1本の残存歯に金属製の被覆物31を被せて鉤歯Kとした状態を示す図である。図15では、その1本の鉤歯Kに指輪体11を嵌合させている。
図17の断面図に示すように、金属製の被覆物31には、上記のように上部から1°以上8°以下のテーパー角のテーパー面31sが形成されているが、根元部ではそのままのテーパー角で延長されず、テーパー角がより小さくなるか、またはストレート状のテーパー角のテーパー面31kが形成されている。このような、上部のテーパー面31sがそのまま延長されず、小さいテーパー角またはストレート状の底部テーパー面31kを設けることで、嵌合体を指輪体11としたことと協働してより一層、確実に鉤歯31の根元部に応力を集中させることができるようになる。この結果、より一層、鉤歯Kまたは歯牙5の負担を軽減することが可能になる。なお図17では、鉤歯被覆体である金属製の被覆物31は、その頂部31tが白色のセラミックス31fで形成されている。しかし、このような白色のセラミックスは無くて、金属製の被覆物31だけであってもよいことは言うまでもない。
【0052】
1本の残存歯の場合、ともすると部分義歯が動きがちであり、鉤歯Kの上部にそのような動きに不随して応力が横方向にかかると、歯根におけるモーメントが大きくなり鉤歯Kの負担が大きくなる傾向がある。しかし、残存歯または鉤歯Kの上部には応力が懸かりにくく、根元部に応力が懸かりやすくなる指輪体およびテーパー構成(二段で下段が立つテーパー)にすることで、1本の残存歯または鉤歯の負担は軽減され、優れた耐久性を持つ部分義歯の装着構造とすることができる。
【0053】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、鉤歯への負担を軽減しながら、耐久性が高く、噛み合わせ調整を簡単にでき、製作にそれほど特別な歯学上の勘や熟練性を要しない、部分義歯の装着構造等を得ることができる。とくにコーヌス・テレスコープ部分義歯において外冠に相当する部分を高さ4mm未満の指輪体とすることで、鉤歯の根元部に限定して応力をかける。このため歯根の周りのモーメントを低減でき、歯牙の負担を大きく軽減することができる。また鉤歯や筒体(外冠に相当する)の形状は幾何学的であり、微妙な調整をそれほど要しない。鉤歯の外側面のテーパーは、専用のテーパー形成装置(ミリングマシン)を用いて、技工所において高精度で形成することができる。さらに、噛み合わせ調整を、嵌合体(外冠に相当する)に無関係に鉤歯に対して行うことができるので、噛み合わせ調整を簡単に行うことができる。このため、噛み合わせ調整を含めて、製造全体を明確に分かりやすくできる。また特別な場合、鉤歯となる歯牙に生活歯の神経を除くことなく用いることができ、耐久性の向上に貢献することができる。
特筆すべき点は一つの製造方法にある。この製造方法では、(1)嵌合体に高さが低い指輪体を用い、(2)義歯床を加熱重合レジンで形成し、さらに湯通しという独自の取り扱い方法を用いることで、短縮化および簡単化が、画期的にできる製造方法を獲得することができる。この製造方法によれば、患者、歯科医師および技工所のいずれにおいても、大きな負担軽減を得ることができる。
また、とくに残存歯が1本の場合(13歯欠損)、その難解さを本発明の部分義歯によって解決することができる。さらに総入れ歯をするようなケースでも、1本のインプラントを足がかりに、その1本のインプラントを鉤歯に用いて装着感に優れた部分義歯を提供することができる。
これらより、部分義歯の分野に大きな貢献をすることが期待される。
【符号の説明】
【0055】
5 鉤歯となる歯牙、5b 歯根、5s 歯牙側面、5t 歯牙の頂部、8 顎堤、11 嵌合体(指輪体)、11b 指輪体の底部端、16 人工歯、21 インプラントの人工歯牙、22 インプラントのフィクスチャ、23 骨(上顎または下顎)、25 アバットメント、31 鉤歯または金属製の被覆物、31s (上部)テーパー面、31k 下部面、31t 鉤歯の頂部(頂面)、35 義歯床、35b 義歯床の裏面、50 部分義歯の装着構造、K 鉤歯。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工歯と、前記人工歯を保持する義歯床と、前記義歯床に固定され、鉤歯に嵌め合わされる嵌合体とを備える部分義歯の装着構造であって、
前記嵌合体は高さ4mm未満の指輪状であり、該指輪状の嵌合体は前記鉤歯の根元部に嵌ることを特徴とする、部分義歯の装着構造。
【請求項2】
前記部分義歯の義歯床は、前記指輪状の嵌合体の外面側を覆いながら、該指輪状の嵌合体が嵌合した部分より頂部側の前記鉤歯の側周面を覆っていることを特徴とする、請求項1に記載の部分義歯の装着構造。
【請求項3】
前記指輪状の嵌合体の外周面に凸部が設けられ、前記義歯床に周囲を取り囲まれて該義歯床に固定されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の部分義歯の装着構造。
【請求項4】
前記鉤歯は残存歯またはインプラント(人工歯根)上の人工歯牙に形成されており、該残存歯またはインプラント上の人工歯牙において、側面周囲のみ、または、頂部を含む全面、を覆う鉤歯被覆体、が設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の部分義歯の装着構造。
【請求項5】
前記鉤歯が形成される残存歯は神経がない失活歯であり、該失活歯の頂部を含む全面を覆う鉤歯被覆体が設けられているか、または、該失活歯の側面周囲のみを覆う鉤歯被覆体が設けられている、ことを特徴とする、請求項4に記載の部分義歯の装着構造。
【請求項6】
前記鉤歯が形成される残存歯は神経がある生活歯であり、該生活歯の側面周囲のみを覆う鉤歯被覆体が設けられていることを特徴とする、請求項4に記載の部分義歯の装着構造。
【請求項7】
前記鉤歯はインプラント(人工歯根)上の人工歯牙が加工されたものであり、鉤歯被覆体を有さず、前記嵌合体は該インプラントの人工歯牙に嵌合していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の部分義歯の装着構造。
【請求項8】
前記鉤歯における鉤歯被覆体またはインプラントの人工歯牙は、その外面の少なくとも上部から中部にわたって、下方ほど広がるように1°以上8°以下の範囲内のテーパー角が付されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の部分義歯の装着構造。
【請求項9】
前記鉤歯被覆体の前記テーパー角は、前記鉤歯の根元部において、((1)上部のテーパー角のまま、(2)前記テーパー角が小さくなる、および(3)ストレート(テーパー角ゼロ)になる)のうちのいずれかであることを特徴とする、請求項8に記載の部分義歯の装着構造。
【請求項10】
前記指輪状の嵌合体から露出した鉤歯の頂部は、噛み合わせ調整がなされていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の部分義歯の装着構造。
【請求項11】
前記鉤歯の鉤歯被覆体において、少なくとも露出する部分にセラミックスまたは樹脂が配設されていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の部分義歯の装着構造。
【請求項12】
前記鉤歯が1本のみであり、該1本の鉤歯に前記指輪状の嵌合体が嵌合することで装着されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の部分義歯の装着構造。
【請求項13】
人工歯と、前記人工歯を保持する義歯床と、前記義歯床に固定された嵌合体とを備える部分義歯であって、
前記嵌合体は、高さ4mm未満の指輪状であり、鉤歯の根元部に嵌ることを特徴とする、部分義歯。
【請求項14】
前記部分義歯の義歯床は、前記指輪状の嵌合体の外面側を覆いながら、該指輪状の嵌合体が嵌合した部分より頂部側の前記鉤歯の側周面を覆うようにされていることを特徴とする、請求項13に記載の部分義歯。
【請求項15】
前記指輪状の嵌合体の外周面に凸部が設けられ、前記義歯床に周囲を取り囲まれて該義歯床に固定されていることを特徴とする、請求項13または14に記載の部分義歯。
【請求項16】
前記指輪状の嵌合体の内周面は、一段の下広のテーパー面、または、下段のテーパー面が上段よりも立っている二段の下広のテーパー面、からなることを特徴とする、請求項13〜15のいずれか1項に記載の部分義歯。
【請求項17】
人工歯と、前記人工歯を保持する加熱重合レジンで形成された義歯床と、前記義歯床に固定され、鉤歯に嵌め合わされる嵌合体とを備える部分義歯の装着構造の製造方法であって、
前記鉤歯を形成するために患者の鉤歯原体を被覆する鉤歯被覆体を形成する工程と、
前記鉤歯に嵌め合わせるための、高さ4mm未満の指輪状の嵌合体を形成する工程と、
患者の口腔内において、前記鉤歯被覆体を前記鉤歯原体に固定する工程と、
前記鉤歯被覆体を被覆することで形成された鉤歯に前記指輪状の嵌合体を嵌め合わせる工程と、
前記人工歯を保持する義歯床において前記嵌合体が固定される予定の孔箇所にリベース材を塗布し、該塗布がなされた孔箇所を75℃以上の湯に湯通しする工程と、
前記鉤歯が前記塗布がなされた孔箇所を貫通し、前記嵌合体が前記義歯床内に埋め込まれるように、前記人工歯付き義歯床を押し込んで、所定時間、静止する工程と、
前記所定時間、静止した後、前記義歯床に前記指輪状の嵌合体を固定させたまま、前記鉤歯から該義歯床を離脱させる工程とを備えることを特徴とする、部分義歯の装着構造の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2013−324(P2013−324A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134157(P2011−134157)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(303069151)