説明

部品の加熱方法

例えばガスタービン部品などの部品の加工領域に加工を施す際に、その加工に先立って及び/またはその加工中に及び/またはその加工後に、当該部品の当該加工領域を加熱するための部品の加熱方法である。
本発明においては、加熱を行うために複数のレーザ源により前記加工領域(13)にビームを照射し、その際に、前記複数のレーザ源の各々が個別のエネルギービームを前記加工領域(13)に照射して、前記複数のレーザ源の各々が個別のエネルギースポット(15)を前記加工領域(13)に形成し、それら複数のエネルギースポット(15)の集合体によって前記加工領域が加熱されるようにし、更に、前記加工領域(13)におけるそれらエネルギースポットの形成位置が静的または準静的であるように、前記加工領域に前記複数のレーザ源の各々が個別に形成する前記エネルギースポット(15)を、静的または準静的エネルギースポットとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品に加工を施す際に、その加工に先立って及び/またはその加工中に及び/またはその加工後に、当該部品を加熱するための部品の加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガスタービンのタービン翼などの部品には、その製造ないし補修に際して様々な加工が施され、それら加工のうちには、その加工に際して部品を加熱することを必要とするものがある。そのような加熱は、予熱と呼ばれている。更に、ガスタービンの部品などの加工後に、熱処理を施すためにその部品を加熱するということも広く行われている。
【0003】
例えばガスタービンのタービン翼の補修などに際しては、いわゆる肉盛り溶接が実施される。通常、肉盛り溶接を行う際には、その肉盛り溶接による加工を施そうとするタービン翼の加工領域即ち溶接領域を予熱して、所望のプロセス温度にまで昇温させた上で、その肉盛り溶接を行う必要がある。なぜなら、肉盛り溶接を施そうとするタービン翼は、少なくともその加工領域を、所望のプロセス温度にまで加熱し、そして更に、肉盛り溶接を行っている間その所望のプロセス温度に維持するのでなければ、信頼性の高い肉盛り溶接を行えないからである。
【0004】
従来、部品の加熱ないし予熱には、いわゆる電磁誘導加熱システムが用いられていた。この用途に用いられる電磁誘導加熱システムは、例えばコイルなどを使用して、電磁誘導によるエネルギ注入を行うことによって、部品を加熱するようにしたものである。しかしながら、電磁誘導加熱システムにより部品の加熱ないし予熱を行うことには、加熱した部品の温度誤差が50℃もの大きな誤差になり得るという短所が付随していた。このように、加熱した部品の温度分布の精度がよくないということは、非常に不都合である。更に、この種の電磁誘導加熱システムは、そのエネルギ消費量も大きかった。また、この種の電磁誘導加熱システムに付随する更なる短所として、部品を加熱ないし予熱した際に、その部品の内部がその表面上よりも高温になってしまうことがあり得るということがあった。部品の内部が表面以上の高温になってしまうと、それによって部品が劣化する恐れがあるのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる事情に鑑み成されたものであり、本発明の課題は、部品を加熱するための新規な加熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は請求項1に記載した特徴を備えた方法により達成される。本発明によれば、加熱を行うために複数のレーザ源により前記加工領域にビームを照射し、その際に、前記複数のレーザ源の各々が個別のエネルギービームを前記加工領域に照射して、前記複数のレーザ源の各々が個別のエネルギースポットを前記加工領域に形成し、それら複数のエネルギースポットの集合体によって前記加工領域が加熱されるようにし、更に、前記加工領域におけるそれらエネルギースポットの形成位置が静的または準静的であるように、前記加工領域に前記複数のレーザ源の各々が個別に形成する前記エネルギースポットを、静的または準静的エネルギースポットとしている。これによって、電磁誘導加熱を行う場合に発生する様々な問題を回避することができる。更には、レーザ源を運動させてエネルギースポットを移動させる場合に発生する様々な困難も回避することができる。
【0007】
本発明の特に有利な実施の形態においては、前記複数のレーザ源の各々に個別の温度測定装置を装備し、それら温度測定装置の各々が、対応するレーザ源によって、即ち、対応するレーザ源のエネルギースポットによって引き起こされた、前記加工領域における温度上昇を測定するようにし、そして、前記複数の温度測定装置の各々が測定した温度実測値を、対応するレーザ源の対応する温度目標値と比較し、その比較結果に応じて、前記複数のレーザ源の各々について、そのエネルギービームの照射パワーを個別に定めるようにしている。これによって、部品ないし加工領域の加熱状態を、その部品の断面の大きさの変化に適合させるための、最適条件を達成することができる。
【0008】
また更に、前記加工領域に前記複数のレーザ源の各々が個別に形成する前記エネルギースポットを、前記加工領域におけるそれらエネルギースポットの形成位置が最大では両隣のエネルギースポットの間で移動可能な、準静的エネルギースポットとし、それによって、隣り合う2つのエネルギースポットの間の中間領域が加熱されるようにすることが好ましい。これによって、使用時に運動させるようにした加熱装置に付随する様々な問題を回避しつつ、加工領域をより均一に加熱することができる。
【0009】
本発明の特に好適な更なる特徴として、従属請求項に記載した様々な特徴があり、それらについては以下の説明の中で明らかにして行く。これより添付図面を参照しつつ、本発明の幾つかの実施の形態について更に詳細に説明して行くが、ただし本発明は、それら実施の形態に限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に図1〜図3を参照しつつ、部品の加熱ないし予熱を行うための本発明に係る方法について、ガスタービンのタービン翼の予熱を行う場合を例に取って、更に詳細に説明して行く。
【0011】
図1は、航空機用エンジンの高圧タービンのタービン翼10を概略化して示した模式図であり、タービン翼10の翼体部11の横断面を示したものである。図2は、タービン翼10の側面図であり、参照符号12で示したのは翼体部11に接続している植込部である。図2には、この高圧タービンのタービン翼11の加工領域13が示されており、この加工領域13に加工を施す際に、その加工に先立って及び/またはその加工中に及び/またはその加工後に、本発明に従ってタービン翼10を加熱する。
【0012】
本発明によれば、加工領域13の加熱を行うために、複数のレーザ源によりタービン翼10にビームを照射するようにしており、図1及び図2に示した具体例では、タービン翼10の一方の側からビームを照射している。更に、このビームの照射に際して、それら複数のレーザ源(不図示)の各々が、個別のエネルギービーム14を、タービン翼10の加工領域13に照射するようにしている。図1に示した具体例では、合計7本のエネルギービーム14が照射されている。それら複数のエネルギービーム14の各々により、タービン翼10上に、即ちこのタービン翼10の加工領域13に、個別のエネルギースポット15が形成される。そして、それら複数のエネルギースポット15の集合体によって、タービン翼10の加工領域13が加熱される。エネルギースポット15は、点状スポットとしてもよく、円形スポットとしてもよい。
【0013】
本発明においては更に、複数のレーザ源(不図示)がタービン翼10の加工領域13に形成する複数のエネルギースポット15を、静的または準静的エネルギースポットとする。ここでいう静定エネルギースポットとは、加工領域13におけるそのエネルギースポットの形成位置が静的な、即ち不動であるものをいう。これに対して、準静的エネルギースポットとは、加工領域13におけるそのエネルギースポットの形成位置の微小移動が可能なものをいう。
【0014】
本発明の第1の実施の形態では、複数のレーザ源が個別に形成するエネルギースポットを、静的エネルギースポットとするようにしており、即ち、加工領域13におけるそれらエネルギースポット15の形成位置を不動にしている。この場合、複数の静的エネルギースポットの間隔を十分に小さな距離にすることによって、加工領域13の全体を均一に加熱することができる。
【0015】
本発明の別の実施の形態では、複数のレーザ源が加工領域13に個別に形成するエネルギースポット15を、準静的エネルギースポットとするようにしている。それら準静的エネルギースポット15は、加工領域13内において微小移動させることができ、各々のエネルギースポット15の形成位置が最大では両隣のエネルギースポット15との間で移動可能なものである。これによって、加工領域13をよりいっそう均一に加熱することができ、即ち、隣り合う2つのエネルギースポット15の間の中間領域18が好適に加熱される。
【0016】
複数のレーザ装置(不図示)には、その各々に、個別の温度測定装置(不図示)を装備しておく。それら温度測定装置は、対応するレーザ源によって引き起こされた、即ち、対応するエネルギースポット15によって引き起こされたタービン翼10の加工領域13における温度上昇を測定し、即ち把握するためのものである。それら複数の温度測定装置の各々が測定した温度実測値を、制御装置(不図示)において、夫々に対応した温度目標値と比較する。また、温度目標値は、複数のレーザ装置の各々に対応させて、即ち、それらレーザ装置によって形成される複数のエネルギースポットの各々に対応させて、個別の温度目標値を設定しておく。
【0017】
そして、個別に設定したそれら温度目標値に基づいて、複数のレーザ装置の各々について、そのエネルギービーム14の照射パワーを、即ち、そのエネルギースポット15のパワーを、個別に調節するようにしている。これによって、加工領域13の温度分布を、予め設定した温度分布に正確に合わせるような調節を行うことができる。更に、これによって、細長い加工領域13の、その長手方向において、タービン翼10の断面の大きさが変化している場合にも、その変化に対応することができる。図1に示したように、タービン翼10の断面形状は、一方の端縁16から他方の端縁17へかけて、断面の大きさが顕著に変化するような断面形状となっている。このような場合に、本発明を用いることによって、加工領域13の一端から他端にかけて変化しているタービン翼10の断面の大きさの変化に、容易に且つ確実に、照射パワーを適合させることができる。
【0018】
図1及び図2に示した実施の形態では、タービン翼10の加工領域13を一方の側から複数のレーザ源(不図示)により加熱している。これに対して、図3の実施の形態に示したように、加工領域13を2方向から加熱するようにすることも可能である。従って、図3の実施の形態では、複数のエネルギービーム14が、タービン翼10の両側から、このタービン翼10の加工領域13へ照射されている。これによって、加熱状態をよりいっそう高品位のものとすることができる。
【0019】
本発明に用いるレーザ源は、ダイオードレーザとすることが好ましい。また、特に好ましいのは、線形制御を行うことによって、照射出力を線形的に変化させることができるようなダイオードレーザを用いることである。ダイオードレーザを用いることによって、特定の狭い波長領域を有する放射エネルギーを、加熱しようとするタービン翼10ないし加工領域13に注入することができる。そして、ダイオードレーザの波長領域を正確に定めることによって、エネルギービームの発散・収束状態を良好且つ明確に設定することができ、ひいては、タービン翼10ないし加工領域13を高精度で加熱することができる。ただし、その他のレーザ源を用いて加熱を行うようにしてもよく、その具体例を挙げるならば、例えば、炭酸ガスレーザ、Ndレーザ、それにYAGレーザなども使用することができる。
【0020】
また、タービン翼10の加熱は、温度測定と同様に非接触方式で行うようにしている。温度測定を非接触方式で行うためには、パイロメータを装備するようにしている。既述のごとく、複数のレーザ源の各々に、個別のパイロメータを装備して、各々のパイロメータが、対応するレーザ源によって引き起こされた温度上昇を把握するようにしている。
【0021】
本発明は、例えば、タービン翼10の補修作業に関連して行うタービン翼の加熱に特に好適に用いることができる。するという用途がある。タービン翼を加熱することが必要とされる加工には、例えば、いわゆる肉盛り溶接がある。ただし、本発明の方法の適用対象は、タービン翼の補修作業に限定されない。本発明の方法は、ガスタービンのその他の部品に対しても適用可能であり、例えばハウジングの補修などにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る方法の第1の実施の形態を説明するための図であり、断面図で示した加熱対象の部品を含む概略図である。
【図2】本発明に係る方法の前記第1の実施の形態を更に詳細に説明するための図であり、側面図で示した加熱対象の前記部品を含む概略図である。
【図3】本発明に係る方法の第2の実施の形態を説明するための図であり、断面図で示した加熱対象の部品を含む概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービン部品などの部品(10)の加工領域(13)に加工を施す際に、その加工に先立って及び/またはその加工中に及び/またはその加工後に、当該部品の当該加工領域を加熱するための部品の加熱方法において、
加熱を行うために複数のレーザ源により前記加工領域(13)にビームを照射し、その際に、前記複数のレーザ源の各々が個別のエネルギービーム(14)を前記加工領域(13)に照射して、前記複数のレーザ源の各々が個別のエネルギースポット(15)を前記加工領域(13)に形成し、それら複数のエネルギースポット(15)の集合体によって前記加工領域が加熱されるようにし、更に、前記加工領域(13)におけるそれらエネルギースポットの形成位置が静的または準静的であるように、前記加工領域に前記複数のレーザ源の各々が個別に形成する前記エネルギースポット(15)を静的または準静的エネルギースポットとする、
ことを特徴とする部品の加熱方法。
【請求項2】
前記複数のレーザ源の各々に個別の温度測定装置を装備し、それら温度測定装置の各々が、対応するレーザ源によって、即ち、対応するレーザ源のエネルギースポット(15)によって引き起こされた、前記加工領域(13)における温度上昇を測定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記複数の温度測定装置の各々が測定した温度実測値を、対応するレーザ源の対応する温度目標値と比較し、その比較結果に応じて、前記複数のレーザ源の各々について、そのエネルギービーム(14)の照射パワーを個別に定めるようにすることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
加熱と温度測定とを非接触方式で行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の方法。
【請求項5】
前記加工領域に前記複数のレーザ源の各々が個別に形成する前記エネルギースポット(15)を、前記加工領域(13)におけるそれらエネルギースポット(15)の形成位置が静的な、即ち不動の、静的エネルギースポットとすることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の方法。
【請求項6】
前記加工領域に前記複数のレーザ源の各々が個別に形成する前記エネルギースポット(15)を、前記加工領域(13)におけるそれらエネルギースポット(15)の形成位置が最大では両隣のエネルギースポットの間で移動可能な、準静的エネルギースポットとし、それによって、隣り合う2つのエネルギースポット(15)の間の中間領域(18)が加熱されるようにすることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の方法。
【請求項7】
前記複数のレーザ源としてダイオードレーザを使用することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−523285(P2007−523285A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548095(P2006−548095)
【出願日】平成16年12月11日(2004.12.11)
【国際出願番号】PCT/DE2004/002717
【国際公開番号】WO2005/067350
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(391028384)エムテーウー・アエロ・エンジンズ・ゲーエムベーハー (26)
【住所又は居所原語表記】DACHAUER STRASSE 665,80995 MUENCHEN,GERMANY