説明

部材の保管維持装置

【課題】クリーニング処理した部材を長時間に亘り錆発生を起こさせず保管維持することができる部材の保管維持装置を提供する。
【解決手段】表面を清浄した部材または表面仕上げした部材を、外部環境の温度より2℃より高く100℃より低い範囲で、且つ、通常大気中または不活性ガス雰囲気で保管維持する部材の保管維持装置1に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面をクリーニングした部材を長期間に亘り初期の表面状態に保管維持できる部材の保管維持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から時計、電卓などの精密部材や家電製品の部材は、機能品質や外観品質を長期に亘り維持するため、部材表面にメッキ処理や塗装処理等が施されている。部材とメッキ被膜または塗装被膜との密着性や部材の腐食を防止するため、メッキ処理や塗装処理前には必ず部材表面を脱脂、洗浄などの処理により汚れ、不純物等を除去するクリーニング処理を施している。また、クリーニング処理した部材は、汚れや不純物等の付着や部材表面の酸化による錆などの発生を防ぐためただちにメッキ処理や塗装処理が行われている。このため、部材をクリーニングするための装置とメッキ装置または塗装装置は近接した位置に配置されているのが一般的であった。
【0003】
また、特許文献1に開示されていように、製品または部品の運搬または保管で酸化作用による錆の発生または進行を防止する運搬または保管を簡単に行い得る梱包がある。これは、図4に示されている梱包保管部の斜視図のように、梱包保管部21の内部のガス圧力を制御し、梱包内の酸素を取り除くため、半密閉容器とし酸素を含まない気化性物質を封入したボンベ20を梱包保管部21の下隅に設置する。そして、ボンベ20は時間の経過と共に徐々に気体を放出し、梱包保管部21内を酸素を含まない気化性物質にて満たす梱包となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−76664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術にあっては、クリーニング処理した部材は短時間のうちにメッキ処理や塗装処理等を施さねばならず、作業性が悪いものになっていた。また、クリーニング処理した部材を長時間メッキ処理室や塗装処理室に保管した後、メッキ処理や塗装処理をすると、部材表面の錆(酸化膜)やごみ等の付着により部材とメッキ被膜や塗装被膜との密着が悪くなり、被膜の剥がれや被膜の耐久性に問題が発生した。
【0006】
また、特開2006−76664号公報に開示されているような製品または部品の保管方法を取ると、常に梱包保管部内に酸素を含まない気化性物質を封入したボンベを設置し、ボンベ内の気体を放出し、梱包保管部内を酸素を含まない気化性物質にて満す必要がある。よって、長時間の保管になるとボンベ内の気体がなくなりボンベの交換が必要となり、作業性が大変悪いものとなっていた。その上、ボンベの交換の度に費用が発生し長時間または長期間の保管となると高額な費用が必要となった。
【0007】
また、この梱包保管部を有する半密閉容器で手で持ち運び可能な形状にしたい場合、ボンベを大きくすることができず、製品または部品を長時間保管できないものとなった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するため、簡単構造からなる部材の保管維持装置でありながら、クリーニング処理した部材を長時間に亘り錆発生を起こさせず保管維持することができると共に、表面処理した部材も長期間に亘り保管維持することのできる部材の保管維持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明に係わる部材の保管維持装置は、表面を清浄した部材または表面仕上げした部材の保管維持装置において、前記部材を保管維持する環境が、外部環境の温度より高く、且つ、通常大気中または不活性ガス雰囲気であることを特徴とする。
【0010】
かかる構成により、表面を清浄した部材または表面仕上げした部材をこの保管維持装置で保管することで部材は、外部環境より温度が高い装置内で維持されるので表面に気化している水分等の再付着(結露)を防ぎ、クリーニング処理した部材表面に錆(酸化膜)の発生が極めて起きにくく、長時間に亘りクリーニングした状態を維持することができる。更に、長時間に亘り保管維持した部材表面にメッキ処理や塗装処理をしても部材と被膜との密着性が悪くなることがない。
【0011】
また、この保管維持装置で長期間に亘って保管したメッキ処理や塗装処理した部材は、外部環境より温度が高い装置内で維持されるので表面に気化している水分等の再付着(結露)を防ぎ、部材表面に錆(酸化膜)の発生が極めて起きにくく、初期のメッキ処理や塗装処理した外観品質を保つことができる。
【0012】
また、この保管維持装置で保管維持した部材は、表面にごみ等が付着しても、エアーブロー等の方法で簡単にごみ等の付着を取り除くことができ、よって、部材表面にメッキ処理や塗装処理をすることができる。更に、保管維持装置内をアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気にして、その雰囲気中でクリーニング処理した部材、メッキ処理や塗装処理した部材を保管維持することで、より一層安全に部材表面に錆(酸化膜)発生を起こさせずクリーニング処理、メッキ処理や塗装処理した初期の外観品質を保つことができる。
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項2の発明に係わる部材の保管維持装置は、前記部材を保管維持する環境の温度が、外部環境の温度に比べ2℃から100℃高い範囲の温度で維持していることを特徴とする。
【0014】
かかる構成により、表面を清浄した部材または表面仕上げした部材をこの保管維持装置で保管することで部材は、外部環境の温度に比べ常に2℃から100℃高い範囲の温度で維持されているので、表面に結露が起こらず、クリーニング処理した部材表面に錆(酸化膜)の発生が極めて起きにくく、長時間に亘りクリーニングした状態を維持することができる。また、長時間に亘りメッキ処理や塗装処理した部材は、初期のメッキ処理や塗装処理した外観品質を保つことができる。また、保管維持装置内を外部環境に比べ2℃より高い温度にしないと、部材表面に結露が発生し、錆(酸化膜)発生の原因となる。また、保管維持装置内を外部環境の温度より100℃より高い温度にすると、部材の種類により表面に焼け等の変色が発生し、メッキ処理や塗装処理をしても綺麗な外観品質を得ることができなくなる。
【0015】
上記の目的を達成するために、請求項3の発明に係わる部材の保管維持装置は、前記部材を保管維持する環境の圧力が、外部環境の圧力より高く維持されていることを特徴とする。
【0016】
かかる構成により、表面を清浄した部材または表面仕上げした部材をこの保管維持装置で保管することで部材は、保管維持装置内の圧力が外部環境の圧力より高く維持されているので、保管維持装置内に外部環境の大気が入らず、よって、ごみ等の入り込みがなくごみ等の付着が起こらない。
【0017】
上記の目的を達成するために、請求項4の発明に係わる部材の保管維持装置は、外部温度より十分に高い温度に維持できる構造であることを特徴とする。
【0018】
かかる構成により、表面を清浄した部材または表面仕上げした部材をこの保管維持装置で保管することで部材は、表面に結露が起こらず、クリーニング処理した部材表面に錆(酸化膜)の発生が極めて起きにくく、長時間に亘りクリーニングした状態を維持することができる。また、長時間に亘りメッキ処理や塗装処理した部材は、初期のメッキ処理や塗装処理した外観品質を保つことができる。
【0019】
上記の目的を達成するために、請求項5の発明に係わる部材の保管維持装置は、外部環境の温度を検知し、それに基き内部温度をコントロールできる熱発生装置を内蔵し、且つ、外部環境を遮断できる構造であることを特徴とする。
【0020】
かかる構成により、表面を清浄した部材または表面仕上げした部材をこの保管維持装置で保管することで部材は、外部環境の温度に比べ高く安定した温度で保管維持できるので、結露が起こらず、クリーニング処理した部材表面に錆(酸化膜)の発生が極めて起きにくく、長時間に亘りクリーニングした状態を維持することができる。また、長時間に亘りメッキ処理や塗装処理をした部材は、初期のメッキ処理や塗装処理した外観品質を保つことができる。また、保管維持装置は、外部温度検知器、コントロール装置、熱発生装置、気体導入口および排気口からなるので、簡単構造で比較的小さなものにすることができる。
【0021】
上記の目的を達成するために、請求項6の発明に係わる部材の保管維持装置は、洗浄装置、メッキ装置、塗装装置または印刷装置の近傍に設置されていることを特徴とする。
【0022】
かかる構成により、表面を清浄した部材または表面仕上げした部材をこの保管維持装置で保管することで部材は、各種装置の近傍にあるので、作業性が極めて良好で錆の発生やごみ等の付着も極めて起こりにくい。
【0023】
上記の目的を達成するために、請求項7の発明に係わる部材の保管維持装置は、部屋全体または手で持ち運び可能な形状であることを特徴とする。
【0024】
かかる構成により、表面を清浄した部材または表面仕上げした部材を部屋全体からなる保管維持装置で保管することで部材は、長時間に亘り大量に安定して錆発生やごみ等の付着を起こすことなく保管維持することができる。また、表面を清浄した部材または表面仕上げした部材を手で持ち運び可能な形状の保管維持装置で保管することで部材は、離れた場所にあるメッキ処理室や塗装処理室に錆発生やごみ等の付着を起こすことなく運ぶことができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、表面を清浄した部材または表面仕上げした部材をこの保管維持装置で保管することで部材は、外部環境より温度が高い装置内で維持されるので表面に気化している水分等の再付着(結露)を防ぎ、クリーニング処理した部材表面に錆(酸化膜)の発生が極めて起きにくく、長時間に亘りクリーニングした状態を維持することができる。更に、長時間に亘り保管維持した部材表面にメッキ処理や塗装処理をしても部材と被膜との密着性が悪くなることがない。また、部材表面にメッキ処理や塗装処理をして長期間保管維持しても初期のメッキ処理や塗装処理した外観品質を保つことができる。
【0026】
また、この保管維持装置で保管維持した部材は、表面にごみ等が付着しても、エアーブロー等の方法で簡単にごみ等の付着を取り除くことができ、ごみ等を除去した後、極簡単なメッキ前処理をして部材表面にメッキ処理や塗装処理をすることができる。更に、保管維持装置内をアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気にして、その雰囲気中でクリーニング処理した部材、メッキ処理や塗装処理した部材を保管維持することで、より一層安全に部材表面に錆(酸化膜)発生を起こさせずクリーニング処理、メッキ処理や塗装処理した初期の外観品質を保つことができる。
【0027】
また、保管維持装置内の圧力を外部環境の圧力より高く維持することで、保管維持装置内に外部環境の空気が入らず、よって、ごみ等の入り込みがなく保管維持装置内及び部材にごみ等の付着が起こらない。
【0028】
また、部屋全体からなる保管維持装置は、外部温度検知器、コントロール装置、熱発生装置、気体導入口および排気口からなるので、簡単構造で比較的小さなものにすることができる。また、この保管維持装置で保管することで部材は、長時間に亘り大量に安定して錆発生やごみ等の付着を起こすことなく保管維持することができる。
【0029】
また、保管維持装置は、簡単構造であるので手で持ち運び可能な形状にすることが可能で、手で持ち運び可能な形状の保管維持装置にすることで離れた場所にあるメッキ処理室や塗装処理室に錆発生やごみ等の付着を起こすことなく運ぶことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る部材の保管維持装置の概要を示す模式図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るもので小型化した部材の保管維持装置の概要を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例で使用する文字板ブランクの断面図である。
【図4】従来の梱包保管部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態(実施例)について図面を参照して詳述する。尚、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0032】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るもので部材の保管維持装置の概要を示す模式図で、保管維持装置1は、一つの部屋となっており、クリーニングした部材や、メッキ処理や塗装処理を施した部材を長時間に亘り保持維持するための保管室5と、この保管室5の外側に熱発生装置7と、この熱発生装置7の外側に気体導入口8と、この気体導入口8の略反対側に排気口3がそれぞれ設けられている。また、保管室5は、外側に、外気温度等を測定するための外部環境測定器2と、保管室5内の温度等をコントロールするためのコントロール装置4と、部材を出し入れするための部材出し入れ口6がそれぞれ設けられている。
【0033】
次に、保管維持装置1に設けられている部品の役割について説明する。
保管維持装置1の保管室5は、外部からのごみ、ほこり及び大気中の空気等の極力入らないような構造になっていると共に、壁の中に断熱材が配設され、外部温度の影響を受けにくい構造となっている。また、保管室5の外側には、保管室5の内部を外部環境より温度を高くするための熱発生装置7と、この熱発生装置7の外側に大気またはアルゴンガス等の不活性ガスを導入するための気体導入口8(図示しないがファン等による吸気)がそれぞれ設けられている。この気体導入口8には、大気中または不活性ガス中のごみ、ほこり、水分及び有害ガス等を除去するための各種フィルターが設けられている。また、気体導入口8の略反対側には、保管室5内の温度が設定温度(外部温度より常に高い温度となるようになっている。)より高くなった場合や、不活性ガスを除去するときに使用する強制排気用の排気口3がある。(図示しないがファン等による排気)
【0034】
また、保管室5の外側には、外気温等を測定するための外部環境測定器2と、外気温度と保管室5内の温度差の設定や、保管室5内の温度設定や、保管室5内を常に設定した温度に維持管理するためのコントロール装置4とが設けられている。また保管室5には、メッキ処理前や塗装処理前のクリーニング処理した部材や、メッキ処理や塗装処理をした部材を出し入れするための部材出し入れ口6が設けられている。
【0035】
この保管維持装置1の内部で保管した部材は、外部環境より温度が高い装置内で維持されるので、クリーニング処理した部材表面に錆(酸化膜)の発生が極めて起きにくく、長時間に亘りクリーニングした状態を維持することができる。更に、長時間に亘り保管維持した部材表面にメッキ処理や塗装処理をしても部材と被膜との密着性が悪くなることがない。また、部材は、長期間保管維持しても初期のメッキ処理や塗装処理した外観品質を保つことができ、その上、ごみ、ほこり等の付着も殆ど起こらない。
【0036】
次に、図2は、本発明の第2の実施形態に係るもので部材の保管維持装置を小型化したもので、手で持ち運び可能な形状にした部材の保管維持装置の概要を示す断面図である。この保管維持装置16は、クリーニング処理した部材を遠く離れた場所にあるメッキ処理装置や塗装処理装置に運ぶ時に使用するもので、上部に取っ手11が取り付けられた上部箱体9と、内部に熱発生装置7、バッテリー12及び外側から温度設定ができるコントロール装置4と外気温を測定するための外部環境測定器2を設けた下部箱体10の2体とからなる構造でできている。
【0037】
この保管維持装置16の使用方法は、非常にシンプルなもので外気温より高い温度にコントロール装置4で設定または自動設定し、上部箱体9を開け、その中にクリーニング処理した部材を入れ、前記上部箱体9を閉め下部箱体10と一体とする。その後、取っ手11を持って目的地まで容易に運ぶことができる。
【0038】
この保管維持装置16で目的地まで運ばれた部材は、表面に錆(酸化膜)の発生が無く、ごみ等の付着も無くクリーニング処理した状態を維持している。
【0039】
次に、クリーニング処理した部材や、メッキ処理または塗装処理をした部材を本発明の保管維持装置に保管した実施例について図面を使用し説明する。
【実施例1】
【0040】
図3は、腕時計に使用する文字板ブランクの断面図を示し、この文字板ブランクを本発明の保管維持装置に保管した実施例で説明する。
【0041】
黄銅材からなる板材(厚さ:400μm)をプレス機に取り付けた金型で円形の外径(φ28.5mm)と円形の中心穴(φ1.8mm)を抜き、文字板基板14を製作する。
【0042】
次に、文字板基板14の裏面にモジュール(図示せず。)に固定するための足15(銅材からなる丸棒)をスポット溶接またはロー付けで固定し文字板ブランク13を作る。次に、この文字板ブランク13を洗浄液の入った超音波洗浄装置で洗浄し、水洗及び乾燥を行いクリーニング処理が完了する。
【0043】
次に、クリーニング処理した文字板ブランク13を保管維持装置1に入れ保管維持を行った。この時の保管維持装置1内は、外気温度より20℃高く設定し、大気中のごみ、ほこり、水分及び有害ガス等を除去するための各種フィルターが設けられた気体導入口8より大気を取り込むと共に、保管室5内の温度を一定に保ちクリーニングした大気を循環させるため排気口3より大気の排気も行っている。また、保管室5内の温度を外気温度より20℃高く保つため、保管維持装置1の外側に設置されている外部環境測定器2により外気温を常に測定し、コントロール装置4により、熱発生装置7、気体導入口8及び排気口3をコントロールしている。
【0044】
次に、メッキ処理するため保管維持装置1内で保管維持した文字板ブランク13を24時間後に取り出したところ、錆の発生やごみ等の付着も無く、そのままメッキ処理することができた。
【実施例2】
【0045】
実施例1と同様に、黄銅材からなる文字板ブランク13を洗浄液の入った超音波洗浄装置で洗浄し、水洗、脱脂、水洗、酸洗い水洗とクリーニング処理後、ニッケルメッキを文字板ブランク13に施した。この後、実施例1と同様に、保管維持装置1内は、外気温度より20℃高く設定し、大気中雰囲気中で文字板ブランク13を保管維持した。
【0046】
次に、塗装処理するため保管維持装置1内で保管維持した文字板ブランク13を1週間後に取り出したところ、錆の発生やごみ等の付着も無く、そのまま塗装処理することができた。
【実施例3】
【0047】
実施例1と同様に、黄銅材からなる文字板ブランク13を洗浄液の入った超音波洗浄装置で洗浄し、水洗及び乾燥を行いクリーニング処理を行った。
【0048】
次に、クリーニング処理した文字板ブランク13を保管維持装置1に入れ保管維持を行った。この時の保管維持装置1内は、外気温度より30℃高く設定し、大気中のごみ、ほこり、水分及び有害ガス等を除去するための各種フィルターが設けられた気体導入口8より不活性ガスであるアルゴンガスを入れ、アルゴンガス雰囲気とした。この時の保管室5内のアルゴンガスの流量は、箱の大きさが1mあたり5ml/分とした。
【0049】
次に、メッキ処理するため保管維持装置1内で保管維持した文字板ブランク13を20日後に取り出したところ、すべての文字板ブランク13は、錆の発生やごみ等の付着も無く、そのままメッキ処理することができた。尚、上記実施例で不活性ガスとしてアルゴンガスを使用したが、その他の不活性ガスとして、ヘリウム、窒素等がありこれらのガスを使用しても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【実施例4】
【0050】
実施例1と同様に、純銅材からなる文字板ブランク13を製作し、この文字板ブランク13を洗浄液の入った超音波洗浄装置で洗浄し、水洗及び乾燥を行いクリーニング処理を行った。
【0051】
次に、クリーニング処理した文字板ブランク13を手で持ち運び可能な小型化した保管維持装置16に入れ保管維持を行った。この時の保管維持装置16内は、大気中雰囲気で外気温度より30℃高く設定した。この保管維持装置16を手で運び、2時間後、塗装装置のある工場で保管維持装置16より文字板ブランク13を取り出したところ、文字板ブランク13は、錆の発生やごみ等の付着も無く、そのまま塗装処理することができた。
【実施例5】
【0052】
実施例1と同様に、黄銅材からなる文字板ブランク13を洗浄液の入った超音波洗浄装置で洗浄し、水洗、脱脂、水洗、酸洗い水洗とクリーニング処理後、ニッケルメッキとその表面に銀メッキを施した。乾燥後、メッキ処理した文字板ブランク13は、表面にアクリル樹脂からなるクリヤー塗料をエアースプレー塗装法で約10μm厚にコーティングし、約80℃で30分間乾燥し文字板ブランク13を完成させた。
【0053】
次に、実施例1と同様に、保管維持装置1内は、外気温度より20℃高く設定し、大気中雰囲気中でこの文字板ブランク13を保管維持した。
【0054】
次に、60日後、文字板ブランク13表面に印刷等の処理を行うため保管維持装置1内から文字板ブランク13を取り出したところ、すべての文字板ブランク13は、錆の発生やごみ等の付着も無く、そのまま印刷処理等をすることができた。
【0055】
尚、本発明の部材を保管維持する環境の温度が、外部環境の温度に比べ2℃から100℃高い範囲の温度で維持することとした理由は、保管維持装置1内を外部環境の温度に比べ2℃より高い温度にしないと、部材表面に結露が発生し、錆(酸化膜)発生の原因となる。また、保管維持装置1内を外部環境の温度より100℃より高い温度にすると、部材の種類により表面に焼け等の変色が発生し、メッキ処理や塗装処理をしても綺麗な外観品質を得ることができなくなるためである。
【0056】
また、上記実施例において、部材の保管維持装置1内の圧力を外部環境の圧力より高くするには、排気口3を閉じ気体導入口8より大気を取り込むか、または、排気口3から大気を排気する量より気体導入口8より大気を取り込む量を多くすれば良い。
【0057】
また、上記実施例において、保管維持装置1に保管した部材のメッキ処理について湿式メッキで説明したが、この保管維持装置1は、蒸着処理、IP処理またはスパッタリング処理等の乾式メッキ前または乾式メッキ後の部材の錆発生等を起こさせないための保管維持にも同様に使用ができる。
【0058】
また、部材を銅及び銅合金の金属材料で説明したが、本発明の保管維持装置1を使用すれば鉄、ステンレススチール、チタン、チタン合金等の各種金属材料にも同様効果が得られる。更に、クリーニング処理や塗装処理したアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂等の各種樹脂の保管維持にも効果が得られる。
(耐食テスト結果)
【0059】
次に、第1実施例で使用した文字板ブランク13をクリーニング処理し、この文字板ブランク13を3つの方法で保管し、経時変化と経日変化による錆の発生状況の比較を行った。表1は、その耐食テスト結果をあらわした一覧で、発明サンプルは、本発明の保管維持装置1内で保管維持した文字板ブランク13の錆発生の状況を示し、比較サンプル1は、乾燥剤(シリカケル)の入ったデシケーター内で保管維持した文字板ブランク13の錆発生の状況を示し、比較サンプル2は、室内の大気中で保管維持した文字板ブランク13の錆発生の状況を示している。尚、各サンプルとも10の文字板ブランク13を使用した。
【表1】

【0060】
発明サンプルの保管維持した保管維持装置1内の条件は、外気温度より20℃高く設定し、大気中のごみ、ほこり、水分及び有害ガス等を除去するための各種フィルターが設けられた気体導入口8より大気を取り込むと共に、保管室5内の温度を一定に保ちクリーニングした大気を循環させるため排気口3より大気の排気を行っている。また、比較サンプル1の条件は、室内温度を23℃に保った部屋にデシケーターを置いた状態で行った。また、比較サンプル2の条件は、室内温度を23℃に保った部屋に文字板ブランク13を置いた状態で行った。尚、テスト期間は、30日間(約1ヶ月)で、錆発生状況をチェックする時間及び日にちは、1日目は3時間毎で2日目からは一日1回定時刻に行った。
【0061】
次に、耐食テスト結果について説明する。表1に示す様に、本発明の保管維持装置1で保管維持した発明サンプルの文字板ブランク13は、1日目の3時間後から30日目まで全ての文字板ブランク13(10枚)に錆発生はなかった。また、デシケーター内で保管維持した比較サンプル1の文字板ブランク13は、1日目の3時間後から3日目まで全ての文字板ブランク13(10枚)に錆発生はなかった。しかしながら、4日目から6日目までに数枚の文字板ブランク13に細かな点となる錆が発生した。更に、7日目以降からは全ての文字板ブランク13に錆が発生し、30日目には文字板ブランク13に錆が大きな面積に成長していた。また、部屋で保管維持した比較サンプル2の文字板ブランク13(10枚)は、1日目の3時間後までは全ての文字板ブランク13(10枚)に錆発生はなかった。しかしながら、1日目の6時間後から12時間後までに数枚の文字板ブランク13に細かな点となる錆が発生した。更に、1日目の15時間後からは全ての文字板ブランク13に錆が発生し、30日目には文字板ブランク13に錆が略全面積に成長していた。
【0062】
以上の様に、本発明の保管維持装置1内で保管した文字板サンプル13は、30日間保管しても文字板サンプル13の表面には錆(酸化膜)の発生が起こらず多大な効果を有することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、表面を清浄した部材または表面仕上げした部材の保管維持装置で、部材を長期間に亘り初期の表面状態に保管維持でき、錆の発生やごみの付着等を起こさせず部材の保管または運搬のできる部材の保管維持装置に関する。
【符号の説明】
【0064】
1・16 保管維持装置
2 外部環境測定器
3 排気口
4 コントロール装置
5 保管室
6 部材出し入れ口
7 熱発生装置
8 気体導入口
9 上部箱体
10 下部箱体
11 取っ手
12 バッテリー
13 文字板ブランク
14 文字板基板
15 足

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を清浄した部材または表面仕上げした部材の保管維持装置において、前記部材を保管維持する環境が、外部環境の温度より高く、且つ、通常大気中または不活性ガス雰囲気であることを特徴とする部材の保管維持装置。
【請求項2】
前記部材を保管維持する環境の温度が、外部環境の温度に比べ2℃から100℃高い範囲の温度で維持していることを特徴とする請求項1記載の部材の保管維持装置。
【請求項3】
前記部材を保管維持する環境の圧力が、外部環境の圧力より高く維持されていることを特徴とする請求項1記載の部材の保管維持装置。
【請求項4】
前記部材の保管維持装置が、外部温度より十分に高い温度に維持できる構造であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の部材の保管維持装置。
【請求項5】
前記部材の保管維持装置が外部環境の温度を検知し、それに基き内部温度をコントロールできる熱発生装置を内臓し、且つ、外部環境を遮断できる構造であることを特徴とする請求項1記載の部材の保管維持装置。
【請求項6】
前記部材の保管維持装置が洗浄装置、メッキ装置、塗装装置または印刷装置の近傍に設置されていることを特徴とする請求項1記載の部材の保管維持装置。
【請求項7】
前記部材の保管維持装置は、部屋全体または手で持ち運び可能な形状であることを特徴とする請求項1記載の部材の保管維持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−30962(P2012−30962A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182597(P2010−182597)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(596003535)
【Fターム(参考)】