説明

配向制御材料

【課題】目的物質を固定化する固定化要素を含む固相材料との直接的な相互作用を回避又は抑制して目的物質を固相材料に固定化するための配向制御材料を提供する。
【解決手段】配向制御材料として、以下の特徴;
(a)鎖状構造を有する有機分子を含む、
(b)前記鎖状構造の少なくとも一つの端部に目的物質と相互作用可能な第1の要素を有する、及び
(c)前記鎖状構造の少なくとも他の一つの端部に前記固相材料と相互作用可能な第2の要素を有する、
を備える物質を利用して、目的物質を固相材料に固定化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の向きを制御するための配向制御材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリペプチドなどの機能性物質を固相材料に固定して用いて、診断用途、分析用途、反応リアクター用途及びセンサ用途に適用することが試みられてきている。ここで、ポリペプチド等が機能を発揮するために、触媒部位などが露出された状態で固定化されていないと実質的な触媒効率は低下してしまう。そこで、ポリペプチドなどを、一定の方向性を付与して、すなわち、配向して固相材料表面に固定化することが試みられている。
【0003】
例えば、物理的吸着を利用して配向固定する技術として、配向対象としてのポリペプチドのC末端側に遺伝子組換えによりカルボキシル基を含む複数個のアミノ酸を導入する一方、固相材料表面にはポリリジン等で処理してポリペプチドを配向固定する方法がある(特許文献1)。また、遺伝子組換えにより配向対象のポリペプチドのN末端又はC末端に疎水性ペプチド鎖を導入し、こうしたポリペプチドを基板表面に固定化する方法もある(特許文献2)。さらに、固相材料表面との化学結合によるものとしては、目的物質であるポリペプチドに非天然アミノ酸を導入し、この非天然アミノ酸と反応する反応基を固相材料に導入してポリペプチドを配向して固定化する方法がある(特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−347317号公報
【特許文献2】特開平2−79975号公報
【特許文献3】特表2006−511797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献に開示されるいずれの方法においても、物質を配向しつつ固定化するための、官能基や化合物等の固定化要素の一部は固相材料に含まれている。すなわち、上記特許文献に開示されるいずれの方法も、物質を固相材料に対して配向しかつ固定化するために、固相材料との間で物質を配向と固定化とを同時に実現する結合を用いている。このため、配向と固定化とをそれぞれ良好に実現することは困難であった。
【0006】
また、上記特許文献1〜3に示されるように、物質を配向して固定するためにその一部に特定のアミノ酸等を導入するのには、遺伝子組換え等の手法を用いるのが合理的である。しかしながら、本来の機能が確保されしかも配向固定が可能な改変ポリペプチドを得るには、ポリペプチドの遺伝子の取得、遺伝子導入操作、得られたポリペプチドの活性化等、多くの技術的課題を解決する必要があり、多大な労力を伴うものの必ずしも成功するわけではなかった。
【0007】
以上のように、現状において、物質を固相材料に配向固定する場合に、固相材料への固定化に伴って配向するという試みしかなく、物質を固相材料との間の相互作用によらずに配向しようとする試みは一部特殊な場合に限定され、かつ操作も煩雑であり実用上一般的ではなかった。また、物質の配向を実現する特別の要素を物質側にも固相材料側にも導入することなく、物質を配向して固定する試みもなされていない。
【0008】
そこで、本発明は、物質を固相材料に配向して固定するのに際して、固相材料に対する物質の配向制御を実現する配向制御材料及びその用途を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、物質を固相材料に対して配向固定しようとする場合に、固相材料に対して物質を配向するという機能と物質を固相材料に対して固定するという機能とを分離させることに着目した。そして、物質を固相材料に対して配向させる機能を実現する配向制御材料として所定のN末端アミノ酸残基を備えるポリペプチド鎖を含む材料を用いることで、目的物質を固相材料に対して配向して吸着させ、かつその配向状態を維持して他の固定化原理により目的物質を固相材料に固定化できるという知見を得た。本発明者らは、こうした知見に基づき発明を完成した。本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0010】
本発明によれば、ポリペプチド鎖を含み、そのN末端のアミノ酸残基が、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン、プロリン及びグルタミンからなる群から選択されるいずれかである、目的物質の配向を制御する配向制御材料が提供される。このポリペプチド鎖の前記N末端アミノ酸残基は、アラニン及びイソロイシンのいずれかとすることができる。また、前記ポリペプチド鎖のN末端アミノ酸配列が表1から選択されるいずれかとすることができる。
【0011】
また、前記ポリペプチド鎖の前記N末端アミノ酸から2個目又は3個目のアミノ酸残基が水酸基を有していることが好ましく、好ましくは前記2個目又は3個目のアミノ酸残基は、セリン及びトレオニンのいずれかである。
【0012】
また、本発明の配向制御材料は、前記ポリペプチド鎖を2個以上備えることもできる。さらに、本発明の配向制御材料は、前記ポリペプチド鎖が連結したポリマー鎖を有することもできる。この態様において、前記ポリペプチド鎖を前記ポリマー鎖に対して多数個備えていてもよい。
【0013】
本発明の配向制御材料は、親水性領域又は疎水性領域を有することができる。また、本発明の配向制御材料は、前記目的物質を配向固定しようとする固相材料と相互作用する要素を備えることもできる。さらに、本発明の配向制御材料は、前記目的物質を、前記目的物質を配向固定しようとする固相材料に固定化する固定化要素を備えることもできる。
【0014】
本発明の配向制御材料において、前記目的物質は生体分子材料を含むことができ、好ましくは、ポリペプチド鎖を含み、より好ましくは抗体である。
【0015】
本発明によれば、目的物質の固定化用固相担体であって、固相材料と、前記固相材料の表面において保持される上記いずれかの配向制御材料と、を備える、固相担体が提供される。前記固相材料は、前記配向制御材料の少なくとも一部を含んで成形された成形体であってもよい。また、前記配向制御材料は、前記固相材料の前記表面に対して固定されていてもよい。
【0016】
本発明によれば、上記いずれかの固相担体を準備する工程と、前記固相材料の前記配向制御材料が保持された表面に目的物質を供給し、前記固相材料に対して前記目的物質を固定化する固定化工程と、を備える、目的物質が配向固定化された固相体の製造方法が提供される。
【0017】
本発明によれば、固相材料と、前記固相材料の表面に保持される上記いずれかの配向制御材料と、前記配向制御材料によって配向固定された目的物質と、を備える、固相体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、ポリペプチド鎖を含み、そのN末端のアミノ酸残基が、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン、プロリン及びグルタミンからなる群から選択されるいずれかである、目的物質の配向を制御する配向制御材料に関する。本発明の配向制御材料によれば、配向制御材料が表面に保持された固相材料の表面に目的物質を配向吸着させるとともに、固相材料に固定化可能な状態とすることができる。本発明の配向制御材料は、目的物質を固相材料に対する配向を固定化とは別個に実現できる。このため、配向と固定とを一つの相互作用や結合で実現するよりも配向のために採用しうる手段の自由度が高まっている。また、本発明の配向制御材料は、目的物質を固相材料に対して配向できるため、配向のための要素を目的物質や固相材料に導入する必要がなく、配向のために目的物質や固相材料を改変することを回避できる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。まず、本発明の配向制御材料について説明し、次いで、図1〜図5を適宜参照しながら本発明の固相担体、配向制御材料を用いた目的物質の固相材料への配向及び固定化並びに本発明の固相体について説明する。図1には、本発明の配向制御材料を保持する固相担体の一例を示し、図2には、本発明の固相担体の他の例を示し、図3には、配向制御材料が備えることのできるα−へリックス構造のWheel modelを示し、図4には、目的物質の配向及び固定化の工程(固相体の製造工程)を例示し、図5には、本発明の固相体を例示する。
【0020】
(配向制御材料)
本発明の配向制御材料は、固相材料に対して固定化しようとする目的物質を配向させる材料である。ここで目的物質は、特に限定されない。目的物質は、例えば、(1)金属、金属酸化物、半導体、セラミックス、ガラスなどの無機材料、(2)いわゆるプラスチックなどの有機材料、(3)タンパク質、核酸、糖類、脂質などの生体分子材料、(4)上記した(1)〜(3)の各種材料から選択される2種以上の材料を複合化した複合材料などから選ばれる1種又は2種以上の材料を用いることができる。目的物質は、好ましくは、生体分子材料である。
【0021】
本発明の対象とする生体分子材料は、一分子のみを意味するものではなく、二分子以上からなる同種分子の集合体であってもよいし、異種分子との複合体であってもよい。さらに、多数の同種又は異種の分子から構成される、例えば自己組織体などの組織体であってもよい。
【0022】
生体分子材料としては、特に限定しないで、動物、植物、微生物、ウイルス等生物体に存在する、生物体が生産する又は生物体が代謝する天然由来の分子、これらを人工的に改変した分子であってもよいし、天然分子に依存しないで人工的に設計した分子であってもよい。また、生物から採取した分子のみならず、人工的に本来的にその分子が存在する生物体以外の生物において生産させた分子であってもよいし、生物体外で人工的に化学合成又は酵素等によって合成した分子であってもよい。
【0023】
生体分子材料としては、典型的には、ポリペプチド、核酸、糖類、脂質、骨形成材料などの生体材料、各種の生物細胞及びその一部、組織及び生物体自体などの生物材料が挙げられる。また、生体分子材料は、固相に固定化されるのに際して、他の有機材料及び/又は無機材料等と複合化されていてもよい。これらのうち、本固相材料に固定化する生体分子材料はポリペプチド鎖を含むことが好ましい。
【0024】
本明細書において、ポリペプチドとは、任意のサイズ、構造又は機能のポリペプチドを意味している。したがって、アミノ酸残基が30程度以下のオリゴペプチドも含まれる。ポリペプチド鎖を含む目的物質としては、例えば、各種タンパク質、酵素、抗原、抗体、レクチン又は細胞膜レセプターが挙げられる。なかでも、抗体を好ましく用いることができる。なお、抗体は、天然の又は全体的若しくは部分的に合成的に産生された免疫グロブリンを意味する。特異的結合能を保持するその全ての誘導体も包含される。
【0025】
なお、核酸は、1本鎖であっても、2本鎖であってもよい。人工及び天然を問わず、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、DNA−RNAキメラ及び塩基やその他の修飾体を含んでいてもよい。さらに、その鎖長も特に限定しない。
【0026】
(ポリペプチド鎖)
本配向制御材料は、ポリペプチド鎖を含んでいる。ポリペプチド鎖はL−アミノ酸などの天然アミノ酸のほか、修飾されたアミノ酸やD−アミノ酸などの非天然アミノ酸を構成アミノ酸とすることができる。ポリペプチド鎖は、N末端がフリーの状態であることが好ましい。フリーのN末端のアミノ基が本配向制御材料において目的物質の配向吸着に寄与すると考えられる。
【0027】
ポリペプチド鎖のN末端のアミノ酸残基は、過剰なカルボキシル基を有する酸性のアミノ酸残基でないことが好ましい。また、疎水性アミノ酸残基であることが好ましい。具体的には、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン、プロリン及びグルタミンからなる群から選択されるいずれかであることが好ましい。これらのアミノ酸残基であると、良好な配向効率が得られる。特に、抗体などのタンパク質において抗原認識部位を露出した状態で配向することができる。N末端アミノ酸残基は、好ましくは、アラニン及びイソロイシンのいずれかである。これらのアミノ酸残基であると、より効率的に抗体などのタンパク質を効率よく配向することができる。
【0028】
ポリペプチド鎖のN末端アミノ酸残基から2個目又は3個目のアミノ酸残基が水酸基を有することが好ましい。本発明者らの検討によれば、このようなN末端アミノ酸配列を有することで、良好な配向効率が得られる。このようなアミノ酸残基としては、セリン及びトレオニンのいずれかとすることができる。より好ましくはトレオニンである。
【0029】
ポリペプチド鎖のN末端のアミノ酸配列は表2上欄に示す配列から選択されるいずれかとすることができる。これらのアミノ酸配列は、特に、ポリペプチド、典型的には抗体の抗原認識部位を露出させるように固相材料に配向固定するのに好ましく用いることができる。なかでも高い配向性、すなわち、抗原認識部位を露出させるように配向させることができるアミノ酸配列は表2中欄に示す配列から選択することができる。さらに、高い吸着量が得られるアミノ酸配列は表2下欄に示す配列から選択することができる。
【表2】



【0030】
配向制御材料のポリペプチド鎖は、ポリペプチド鎖によるα-ヘリックス構造やβ−シート構造などの二次構造を有していてもよい。こうした剛直な二次構造により、ポリペプチド鎖のN末端を安定して一定部位に保持することができる。また、当該二次構造に基づき双極子相互作用等を発現して、目的物質や固相材料との間で配向固定のための相互作用が発現可能となって目的物質の固定量や配向性を高めることが期待できる。こうした二次構造は、ポリペプチド鎖の全体により形成されていてもよいし、一部分において形成されていてもよい。
【0031】
ポリペプチド鎖が有するα−ヘリックス構造は、疎水性アミノ酸残基(イソロイシン、バリン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、アラニン、トリプトファン)の個数が、構成アミノ酸残基組成において優位であるアミノ酸配列とすることができる。すなわち、α−ヘリックス構造は、構成アミノ酸残基総数の50%以上が上記疎水性アミノ酸残基であるアミノ酸配列を有していることが好ましい。より好ましくは、疎水性アミノ酸残基比率が60%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、一層好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。α−へリックス構造の形成を考慮すると、疎水性アミノ酸残基として、アラニン、ロイシン、及びイソロイシンをより多く含むことが好ましい。より好ましくは、疎水性アミノ酸残基はアラニン及びイソロイシンから選択される。
【0032】
また、疎水性アミノ酸残基以外のアミノ酸残基としては、システイン、トレオニン、セリン、チロシン、グルタミン及びアスパラギンなどの中性アミノ酸残基から選択されるアミノ酸残基がより多く含まれていることが好ましい。
【0033】
α−ヘリックス構造の安定性を考慮すると、アミノ酸残基数で9残基又は9残基以上であることが好ましい。また、構成アミノ酸残基をアミノ酸として換算したとき合計分子量(アミノ酸換算合計分子量)が700程度又はそれ以上であることが好ましい。α−へリックス構造を構成するアミノ酸残基数は特に限定しないが、分子量を考慮すると20個以下程度であることが好ましい。
【0034】
α−へリックス構造における疎水性アミノ酸残基は、その片面側において富んでいることが好ましい。α−へリックス構造の片面側に疎水性アミノ酸残基が優位に配位されていることで、安定した疎水性相互作用が発揮され、配向制御材料20の固相材料10に対する配向性を高めることができる。
【0035】
ここで、α−へリックス構造においては、α−へリックス2回転分を一つのwheelとみなしたとき、図3に示すWheel modelを構築することができる。例えば、このモデルにおいて、α−へリックスの片面、図においては下側にあるa,b,e,fの位置又は上側にあるc,d,gに配位されるアミノ酸残基組成において疎水性アミノ酸残基(イソロイシン、バリン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、アラニン、トリプトファン)が80%以上であること、より好ましくは90%以上であるアミノ酸配列を有することが好ましい。疎水性アミノ酸残基は、既に説明したのと同様のアミノ酸残基から選択することができる、アラニン、ロイシン及びイソロイシンを優位に用いられていることがより好ましい。さらに好ましくは、アラニン及びイソロイシンを優位に用い、もっとも好ましくはアラニン及びイソロイシンのみを用いる。
【0036】
α−へリックス構造としては、好ましくは、連続して7個以上、好ましくは8個以上、さらに好ましくは9個あるいは9個以上のアラニン残基及びイソロイシン残基のみから構成されるへリックス構造を備える。配向制御材料20がポリペプチド鎖を有する場合の好ましい疎水性領域としては、アミノ酸8個又は9個からなる以下の表に示すアミノ酸配列が挙げられる。最も好ましくは、AIAAIAAAIである。

【表3】

【0037】
配向制御材料は、このようなポリペプチド鎖を1本備えていてもよいし、2本以上備えていてもよい。
【0038】
配向制御材料は、ポリペプチド鎖以外に、有機分子や無機分子を備えることができる。有機分子としては、例えば、DNA、RNA等の核酸及び修飾塩基等を含む各種核酸誘導体、脂質、多糖類、界面活性剤、有機ポリマーのほか各種の有機化合物が挙げられる。また、無機分子としては、金属単体、金属クラスター、金属化合物等が挙げられる。
【0039】
配向制御材料は、鎖状の有機分子に1本又は2本以上のポリペプチド鎖が連結されていることが好ましい。また、ポリペプチド鎖が多数連結されていてもよい。連結される箇所は特に限定されない。有機分子にポリペプチド鎖を連結して得られる構造が全体として直鎖状であってもよいし、ポリペプチド鎖が分岐鎖となるような分岐鎖状であってもよい。配向制御材料は、ポリペプチド鎖がポリペプチド鎖よりも長い鎖状の有機分子、例えば、有機ポリマー鎖の側鎖や端末等としてポリペプチド鎖が連結された形態を採ることもできる。このような配向制御材料は、有機ポリマー鎖の一部の官能基にポリペプチド鎖を導入することによって得ることができる。ポリマー鎖へのポリペプチド鎖の導入にあたっては、ポリペプチド鎖にあるカルボキシル基やアミノ基などを利用することができる。ポリマー鎖に対しては結合形態や反応形態を選択することでポリペプチド鎖の導入量を調節することができる。
【0040】
配向制御材料は、ポリマー鎖に多数のポリペプチド鎖を備える形態を採ることができる。こうした形態であると、目的物質の吸着性を高めることができ、結果として配向の効率を高めたり、配向固定化量を増大させることができる。
【0041】
ポリマー鎖が熱可塑性又は熱硬化性の樹脂のポリマーであってそれ自体成形用材料であるとき、この成形用材料を構成するポリマー鎖にポリペプチド鎖を導入して成形可能な成形用の配向制御材料とすることもできる。また、同様にポリマー鎖が熱可塑性又は熱硬化性の樹脂ポリマーであって既に目的物質を固定化するための担体として所定の三次元形状に成形されているとき、この成形体を構成するポリマー鎖にポリペプチド鎖を導入し、成形体表面にポリペプチド鎖を有する担体形態を採る配向制御材料とすることもできる。
【0042】
有機ポリマー鎖を構成するモノマーの種類は特に限定しない。後述する固相材料として好ましい樹脂材料を構成するものと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0043】
配向制御材料は親水性領域を備えることができる。親水性領域を備えることで、目的物質がポリペプチド鎖を有する場合などにおいて目的物質表面が親水性のとき、目的物質を安定化することができる。また、親水性相互作用により、目的物質の配向吸着に寄与することができる場合がある。親水性領域は、ポリペプチド鎖の一部であってもよいし、既述したポリペプチド鎖以外の部分、例えば、有機分子等にあってもよい。ポリペプチド鎖が親水性領域を備える場合には、追加のアミノ基やカルボキシル基等を備える極性アミノ酸残基を含むアミノ酸配列を有することができる。また、有機分子が親水性領域を備える場合には、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等の親水性官能基を備えるポリマー鎖や有機官能基を有することができる。
【0044】
配向制御材料は疎水性領域を備えることができる。疎水性領域を備えることで、目的物質表面が疎水性であるときなど、目的物質を安定化できるほか、疎水性相互作用により目的物質の配向吸着に寄与することができる場合がある。疎水性領域は、ポリペプチド鎖の一部であってもよいし、既述したポリペプチド鎖以外の部分、例えば、有機分子等にあってもよい。ポリペプチド鎖が疎水性領域を備える場合には、追加のアルキル基などを備える既述の疎水性アミノ酸残基を含むアミノ酸配列を有することができる。疎水性領域は、既に説明したα−へリックス構造を形成していてもよい。また、有機分子が親水性領域を備える場合には、有機分子はアルキル基等の炭化水素基等を備えることができる。
【0045】
(固相材料相互作用要素)
配向制御材料は、目的物質を配向固定しようとする固相材料と相互作用する要素(固相材料相互作用要素)を備えることができる。固相材料相互作用要素を備えることで、配向制御材料は固相材料に対して固定化されやすくなり、また、固相材料に対して配向制御材料自体を配向することが可能となって、ポリペプチド鎖のN末端を露出させやすくすることができる。この結果、目的物質を固相材料に対する固定化量や配向性を高めることができる。特に、配向制御材料20を固相材料10に固定化するための原理が、光固定やコーティング等であって、特定の部位において固相材料10と固定させるものではない場合には、このような第2の要素を備えることで固相材料10の表面において配向制御材料20を配向固定しやすくなる。
【0046】
固相材料相互作用要素が固相材料との間で発現可能な相互作用は、特に限定しない。例えば、静電的相互作用、イオン性結合、水素結合、双極子相互作用、疎水性相互作用、親水性相互作用等の非共有結合性の相互作用であることが好ましい。配向制御材料は、このような固相材料相互作用要素を1個又は2個以上備えることができる。例えば、静電的相互作用は、正電荷に基づく作用であってもよいし、負電荷に基づく作用ものであってもよい。負電荷を発生する酸性の官能基としては、特に限定しないが、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基等が挙げられる。好ましくは、カルボキシル基である。また、正電荷を発生する塩基性の官能基としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基などのアミノ基や第4級アンモニウム基が挙げられる。好ましくは、第1級アミノ基などのアミノ基である。
【0047】
(固定化要素)
配向制御材料は、目的物質を固相材料に固定化する固定化要素を備えることもできる。目的物質と固相材料とを固定化する固定化原理としては特に限定しない。固定化原理としては、水素結合、疎水性相互作用、親水性相互作用、静電的相互作用等の非共有結合性相互作用、共有結合及び光照射による光変形に基づく光固定が挙げられる。
【0048】
固定化原理として静電的相互作用を用いる場合には、配向制御材料は、固相材料表面が備える電荷と対となる電荷を発現可能な要素(正又は負の電荷を発現可能な官能基等)を備えることができる。また、固定化原理として、共有結合を用いる場合には、配向制御材料固相材料は、固相材料の表面又は固相材料表面に結合可能な化合物と共有結合可能な有機官能基を備えることができる。こした有機官能基は、固相材料の種類、例えば、固相材料の樹脂の種類や構成樹脂が備える官能基の種類によって当業者であれば適宜選択することができる。
【0049】
なお、配向制御材料は、このような固定化要素を必ずしも備える必要はない。固相材料への固定化を実現するには、固相材料側に適用な官能基を備えていればよいし、また、固相材料に対して多価架橋性化合物を供給して適当な官能基を付与してもよい。例えば、ポリペプチド鎖や有機分子等が備えるアミノ基やカルボキシル基等の官能基は、固相材料の表面に備える架橋可能な官能基と一定条件下共有結合が可能であるし、別途多価架橋性官能基を供給すれば、容易に固相材料と共有結合させることができる。
【0050】
(分子量)
配向制御材料の分子量は、5000以下であることが好ましい。分子量が5000以下であると、固相材料と目的物質との固定化を妨げることなく、目的物質を固相材料の表面において配向吸着させることができる。より好ましくは3000以下である。なお、配向制御材料が樹脂材料である場合には、常にこの限定を適用できるわけではない。
【0051】
また、目的物質の分子量との関係においては、配向制御材料の分子量は、目的物質の分子量の10分の1以下であることが好ましい。配向制御材料の分子量が目的物質の分子量の10分の1を大きく超えると、目的物質の固相材料への固定化が妨げられやすくなるからである。目的物質の分子量にもよるが、配向制御材料の分子量は、目的物質の分子量の20分の1以下であることがより好ましい。なお、配向制御材料が樹脂材料である場合には、常にこの限定を適用できるわけではない。
【0052】
配向制御材料がポリペプチド鎖からなる場合、全体としてアミノ酸残基数が12残基数又はそれ以上であることが好ましい。また、上限は特に限定しないが、化学合成の場合の合成効率の観点及び光固定をする場合立体障害を抑制するため分子量5000以下とすることが好適であるとの観点から、20残基以下であることが好ましい。このような配向制御材料20としては以下のアミノ酸配列からなるポリペプチドを好ましく用いることができる。
【表4】

【0053】
(固相材料)
本発明の配向制御材料を用いて目的物質を配向固定する固相材料について説明する。固相材料は、目的物質を、配向制御材料を用いかつ既述の固定化原理のいずれかで固定化できるものであればよく、その材質や形態は特に限定されない。
【0054】
固相材料は、目的物質を固相材料に固定化する固定化原理に利用する要素(固定化要素)を備えることができる。固定化原理として静電的相互作用を用いる場合には、例えば、固相材料の表面にポリリジンやリジンなどのアミノ酸由来の正電荷を固相材料の表面に備えることができる。
【0055】
固定化原理は、目的物質と配向制御材料との非共有結合性の配向吸着と干渉しないものであることが好ましい。例えば、固定化原理としては、共有結合又は光固定化を好ましく用いることができる。固定化原理として、共有結合を用いる場合には、固相材料は、その表面に目的物質が有する官能基と共有結合可能な官能基を備えることができる。例えば、固相材料は、目的物質の備える官能基と架橋反応可能な架橋性官能基を備えていてもよい。架橋性官能基の種類は、固定化しようとする目的物質の備える官能基や用いる手法によって選択することができる。例えば、目的物質がアミノ基を備える場合には、NHS基、アルデヒド基、エポキシ基等の各種の架橋性官能基が挙げられる。また、目的物質がチオール基を有する場合には、マレイミド基等の架橋性官能基が挙げられる。さらにまた、目的物質が芳香族基を備える場合には、ジアゾニウム基等が挙げられる。
【0056】
なお、目的物質を固相材料に固定化する固定化原理として共有結合を用いる場合であっても、上述のように固相材料自身が目的物質と共有結合可能な官能基を必ずしも備えている必要はない。目的物質と固相材料との間を架橋する多価架橋性のポリマーなどの多価架橋性化合物と反応する官能基を備えていれば、こうした化合物を介して目的物質4の備える官能基と共有結合が可能である。このような多価架橋性化合物が備える架橋性官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基及びエポキシ基が挙げられ、これらの架橋サイトに対応する多価架橋性化合物としては、マルチアームPEG(日本油脂製)、EMCS、SPDP(以上、同仁科学製)、BS3、DMS、SMCC(以上、ピアス社製)が挙げられる。
【0057】
目的物質への影響を考慮する観点、特に、目的物質が生体分子材料である場合の活性確保の観点からは、目的物質の固定化原理として光固定化を用いることが好ましい。光固定を固定化原理とすることは、配向制御材料に固定化要素を付与する必要がない点においても好ましい。
【0058】
ここで、光固定とは、光照射により変形する光応答性成分を含有する光応答性材料を固相材料10として用い、目的物質を固相材料の表面又はその近傍に配した状態で光照射することにより固相材料に固定化するものである。光固定における光照射と光応答性成分と目的物質の固定との関係は、必ずしも明らかになっているわけではないが、光固定は、少なくとも、光照射することにより、目的物質の固相材料への吸着量を増大可能な固定手法であると定義できる。
【0059】
光固定を利用するための固相材料は、固相材料を構成するマトリックスに光応答性成分を有している。固相材料のマトリックス(母相)は、光固定化可能に光応答性成分を保持できる限り、その材料は特に限定しない。例えば、低分子材料又は高分子材料を含む各種の有機材料、ガラスなどの無機材料、有機−無機複合材料等を用いることができる。光応答性成分のマトリックス中における分散性や保持能力等を考慮すると、高分子材料又は高分子材料を含む複合材料であることが好ましい。
【0060】
マトリックスを構成する高分子材料としては、特に限定しないで各種の熱可塑性又は熱硬化性ポリマーを用いることができる。例えば、(1)オレフィン系ポリマー、ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ジエン系ポリマーなどの炭素多重結合系モノマーの重合体、(2)環状エーテル系ポリマーなどの環状モノマーの重合体、(3)エステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ウレア系ポリマーなどの2官能性モノマーの重合体などが挙げられる。これらのうち、共重合の簡便性を考慮すると、オレフィン系ポリマー、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマーなどといった二重結合を有するモノマー(以下、二重結合性モノマーともいう)の重合体や、ウレタン系ポリマーが好ましい。より好ましくは、二重結合性モノマーである。特に、アクリル系ポリマーやメタクリル系ポリマー、アクリル−メタクリルコポリマーは、抗体等のタンパク質を固定化する際の非特異吸着が少ないため、抗体チップやマイクロリアクターなどにおいてバックグラウンドシグナルを効果的に抑制することができる。また、ウレタン系ポリマーやウレタン−(メタ)アクリル系ポリマーは、光変形量を増大させることができる点で本発明に好ましく用いることができるほか、アクリル系ポリマーより極性に富む表面が必要な場合にも好ましく用いることができる。
【0061】
マトリックスは、光応答性成分の分子構造変化等によって結果として形状変形(以下、光変形ともいう)を生じるように構成されていることが好ましい。本明細書において光変形とは、通常のマクロな意味での形状変化のほか、分子レベルでの運動による目的物質と固相材料表面との絡み合いなどによる変形も含む。このような変形の中には、変形量や変形形態の問題から通常の観察手段によっては明瞭に観察できないものもある。光変形は、光応答性成分がマトリックス材料中に存在することにより、光照射時に、例えば、マトリックス材料又は光応答性成分の体積、密度、自由体積などが変化することにより誘起されることにより生じると考えられる。
【0062】
(光応答性成分)
光応答性成分は、光により分子構造の変化又は分子配列の変化を生じる成分である。光により分子構造の変化が生じる現象は、フォトクロミズムと一般にいわれている。本発明で用いる光応答性成分としては、一般にフォトクロミック化合物といわれる化合物を用いることができるが、なかでも、光異性化を生じる化合物を用いることが好ましい。なお、光異性化等の分子構造変化を伴って又は光異性化等の分子構造変化を伴わないで光誘起配向、光会合等の分子配列の変化(特に異方的な変化)を生じる化合物も、固相材料表面での光固定化が可能である限り、本発明の光応答性成分として用いることができる。
【0063】
光応答性成分としては、こうした光固定にこれまで用いられてきている各種成分を用いることができる。光応答性成分としては、例えば、トランス−シス光異性化を生じる成分等の光異性化化合物等があり、例えば、アゾ化合物、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物、ジアリールエテン化合物などの有機化合物、カルコゲナイトガラスと総称される無機材料などが挙げられる。
【0064】
光応答性成分としては、アゾ基(−N=N−)を有する色素構造を有する化合物(アゾ化合物)であることが好ましい。アゾ化合物は、光照射等によりシス−トランス異性化を起こし、この異性化による分子レベルの運動がマトリックス材料を可塑化させて変形を容易にする。なかでも、アミノアゾベンゼンやその誘導体の構造を持つアミノ型アゾベンゼン化合物が好ましい。アミノ型アゾベンゼン化合物は、典型的には、式(1)で表すことができる。
【化1】

【0065】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を表し、Xは、水素原子、電子吸引性置換基又は電子供与性置換基を表す。
【0066】
1及びRにおける置換基としては、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、アリール基、アリル基、アルキルエステル基、アルキルエーテル基、アルキルアミノ基、アルキルアミド基、イソシアネート基、エポキシ基等を例示することができる。特に、R1及びRにおける前記置換基の一方が、末端に重合性の二重結合等を有するアクリル酸や(メタ)アクリル酸等のアクリル系化合物及びその他の二重結合性成分であるときには、式(1)は、二重結合性モノマーを表すことができるほか、前記二重結合性成分に由来する重合基を備える光応答性ポリマーを表す。また、R1及びRにおける前記置換基の一方が、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等の重縮合又は重付加性の重合性成分であるときには、式(1)は、重合性モノマーを表すほか、前記重合性成分に由来する重合基を備える光応答性ポリマー(アゾ色素含有ユニットを有するポリマー)を表す。光応答性材料の変形性を考慮すると、光応答性材料のポリマー骨格が(メタ)アクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー又はウレタン-アクリル系ポリマーであることが好ましいことから、本発明の光応答性成分としては、(メタ)アクリル系モノマーやウレタン系モノマー又はこれらを含むポリマー((メタ)アクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー又はウレタン−アクリル系ポリマー)であることが好ましい。
【0067】
また、Xにおける電子吸引性置換基としては、例えば、シアノ基、ニトロ基、スルホ基等が挙げられる。また、電子供与性置換基としては、例えば、アミノ基、ジメチルアミノ基、アルキル基等が挙げられる。こうした置換基が結合したものは、光照射中にシス−トランスの異性化を繰り返すことによりマトリックス材料が大きな可塑化作用を有するものと考えられるため好ましい。なお、アゾ化合物である光応答性成分は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
このような光応答性成分は、マトリックス材料とは別個の成分としてマトリックス中に添加されていてもよいが、マトリックス材料の一部(主鎖又は側鎖)に化学的な結合を介して存在することが好ましい。また、光応答性成分は、マトリックスに均一に存在することが好ましい。こうすることで、固相材料の表面の所望の部位に目的物質を光固定化することができる。
【0069】
なお、目的物質の固定化原理として、水素結合、疎水性相互作用、親水性相互作用等を利用する場合には、それぞれ適当な官能基や処理を固相材料10に施すことができる。このための手法は当業者において周知である。また、固相材料における固定化要素は、固相材料の少なくとも表層側にあればよい。こうした固定化のための層は適当な担体上に担持されていてもよい。
【0070】
固相材料は、目的物質を固定化するための固定化要素のほか、配向制御材料を固相材料に固定化するための要素を備えていてもよい。こうした要素は、既に説明した目的物質を固相材料に固定化するための固定化要素として採用できる要素から適宜選択することができる。配向制御材料を固定するための要素は、配向制御材料の種類によっても異なるが、目的物質を固定化するための固有の固定化原理のそれと同一であっても異なっていてもよい。
【0071】
したがって、固相材料は、目的物質を固定化するための固定化要素と、配向制御材料を固定化するための要素との2種類の異なる要素を備えることができる。例えば、固相材料は、目的物質を固定化するためのある種の架橋性官能基と配向制御材料を固定化するための他の種類の架橋性官能基とを備えることができる。目的物質と配向制御材料とを、異なる固定化原理で固定化できると、配向制御材料で目的物質を配向吸着させた後、目的物質を固相材料に固定化するとき、目的物質の固定化操作が配向制御材料の固定状態に影響を及ぼしにくく、目的物質の意図した配向状態を容易にまた確実に得ることができる。
【0072】
また、固相材料は、目的物質と同一の固定化原理で配向制御材料を固定する要素を備えることもできる。例えば、目的物質も配向制御材料も光固定により固相材料に固定化するとき、固相材料はこれらの固定化要素のために単一種類の光応答性成分を備えていればよい。なお、2種類以上の光応答性成分を固相材料に含ませることにより、異なる波長域の光照射で目的物質と配向制御材料とを固定化することもできる。
【0073】
固相材料は、配向制御材料を固定化するための要素を必ずしも備えていなくてもよい。例えば、固相材料に対して単なるコーティング等で配向制御材料を固定化することもできるし、熱や圧力等を用いることで配向制御材料を固相材料に固定化することもできる。
【0074】
固相材料の三次元形態は特に限定しない。フィルム状体、シート状体、板状体のほか、球状体、不定形状体、針状体、棒状体、薄片状体などの各種の形状を採ることができる。また、大きさも特に限定されない。固相材料は自立していてもよいし、別の担体の表面に膜状に付与されていてもよい。固相材料を担体の表面に付与するには、スピンコート、ディップコート、インクジェットなどの既知の方法により行うことができる。
【0075】
(配向制御材料を表面に備える固相担体)
本発明の固相担体は、固相材料と、この固相材料の表面において保持される配向制御材料と、を備えることができる。本発明の固相担体の好ましい実施形態において、特に固相材料が、各種デバイスや診断・分析用材料としてそのまま利用可能な基板状あるいは粒子状など、所定の三次元形状を有している。
【0076】
本発明の固相担体の第1の実施形態を図1に示す。図1(a)及び図1(b)に示すように、配向制御材料20とは別個に準備した固相材料10の表面に配向制御材料20を固定化した形態が挙げられる。この形態の固相担体32は、固相材料10の表面に対して配向制御材料20を供給して、配向制御材料20を予め選択した固定化原理で固定化することにより得ることができる。なお、図1(a)に示す固相担体32は、分散してドット状に配向制御材料20を固相材料10の表面に備えており、図1(b)に示す固相担体32は、固相材料10の表面のおおよそ全体に膜状に配向制御材料20が備えられている。
【0077】
本発明の固相担体の第2の実施形態を図2に示す。図2に示すように、固相材料10が、配向制御材料20の少なくとも一部から形成されている形態が挙げられる。例えば、配向制御材料20の一部を構成する有機分子や無機分子が高分子材料であって、成形加工等によりこれらの高分子材料を含む材料が所定の三次元形状を有する固相材料10を形成している形態が挙げられる。
【0078】
第2の実施形態の固相担体32の一態様を図2(a)に示す。図2(a)に示すように、配向制御材料20の一部である有機ポリマー又は無機ポリマーを含む材料を用いて形成された所定の三次元形状を有する固相材料10の表面に、固相材料10の外部から固相材料10の表面にあるポリマー鎖にポリペプチド鎖が導入された結果、固相材料10の表面に配向制御材料20を有する固相担体32の形態が挙げられる。
【0079】
他の一態様を図2(b)に示す。図2(b)に示すように、有機ポリマー鎖等に連結された1又は2以上のポリペプチド鎖を有する配向制御材料20を含む材料を可塑化し成形した結果、固相材料10の表面に配向制御材料20を有する固相担体32の形態が挙げられる。この態様では、固相材料10の表面のほか、固相材料10の内部にも配向制御材料20を保持することができる。
【0080】
(目的物質が配向固定された固相体の製造方法)
次に、目的物質の固相材料又は固相担体への固定化工程について説明する。なお、以下の説明においては、これらの一連の工程を、固相材料の準備工程、固相材料への配向制御材料の固定化工程、目的物質の固定化工程に分けて説明する。
【0081】
(固相材料の準備工程)
配向制御材料を用いて目的物質を固相材料に固定化するには、まず固相材料を準備する。例えば、図4(a)に示すように、固相材料は、基板状の担体の表層に層状の固定化層として形成することができる。
【0082】
(配向制御材料の固定化工程)
次いで、図4(b)に示すように、固相材料の表面に配向制御材料を供給し、固相材料の表面に配向制御材料を固定化する。配向制御材料を、固相材料の表面に分散して固定化してもよいし、固相材料の表面の非特定領域、換言すれば固相材料の表面全体に固定化してもよい。あるいは、特定のパターンに従って固定化してもよい。配向制御材料を固相材料の表面に供給する手法としては、従来公知の各種のコーティング法や印刷法(インクジェットも含む)を用いることができる。また、配向制御材料をパターニングするにも、従来公知の手法を採用できる。パターニングの一例としては、配向制御材料の液滴のスポットをアレイ状に供給することができる。
【0083】
配向制御材料を固相材料の表面に固定化するには、固相材料の種類や配向制御材料が備えることのある固相材料への固定化のための要素の種類に応じて適切な手法を選択することができる。単に、乾燥や溶媒の留去に伴う固着であってもよいし、圧力を伴っていてもよい。また、配向制御材料及び/又は固相材料が備えるこれらの固定化ための要素を用いてもよい。さらに、別途適当なバインダ成分を用いるものであってもよい。
【0084】
配向制御材料が固相材料相互作用要素と相互作用可能な要素を備える場合には、配向制御材料は、固相材料に対して固定化されやすくなっている。また、こうした相互作用要素を備えることで、容易に配向制御材料そのものを配向させて固定化することができる。
【0085】
配向制御材料を、目的物質を固相材料に固定化するのと同一の固定化原理で固相材料に固定化してもよい。こうすることで配向固定化工程を簡素化することができるとともに固相材料が備えるべき配向制御材料の固定化のための要素を省略できる。このような固定化原理としては、光固定が好ましい。光固定であると、配向制御材料及び目的物質のそれぞれの固定化時において光照射をするだけで固定化できるとともに配向制御材料及び目的物質への固定化の際に生じる悪影響が低減できる。
【0086】
(光固定による配向制御材料の固定化工程)
固相材料として光応答性材料を用いる場合には、配向制御材料を光固定化することが好ましい。光固定化では、光応答性材料である固相材料の表面又はその近傍に配向制御材料を供給し、光照射により配向制御材料を固相材料の表面に固定化する。
【0087】
なお、配向制御材料の光固定に際し、配向制御材料の固相材料の表面への供給に際しては、特に限定されないが、液状媒体を介して液状媒体に溶解又は懸濁させた状態で適用することが好ましい。液状媒体を利用すると、固相材料の表面に配向制御材料を容易に展開させることができ、かつ、配向制御材料をその構造(例えば、配向制御材料2ポリペプチドの場合など、その二次構造等)を維持して固定化することが可能であるからである。
【0088】
なお、液状媒体としては、水又は水を主媒体とする組成液が特に好ましい。水を主媒体とする組成液としては、配向制御材料の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、水、緩衝液、pHを調整した緩衝液等が挙げられる。また、液状媒体は、配向制御材料と固相材料との相互作用を高めるようなものを選択することもできる。例えば、液状媒体のpH、電解質濃度、極性などを調整することにより相互作用を高めることができる。こうした液状媒体としては、水、水と相溶性のある有機溶媒である水性溶媒、非水性溶媒を単独であるいは組み合わせるなどしてもよい。また、固相材料10と配向制御材料との相互作用を高めるための上記液性を付与するのに必要な成分を添加してもよい。さらに、例えば、界面活性剤が液状媒体に添加されていてもよい。
【0089】
固相材料に対して配向制御材料を供給後、固相材料の表面上の配向制御材料に光照射することで配向制御材料を固相材料の表面に固定化できる。光固定のための光照射の方法は特に限定しない。各種の伝播光、近接場光又はエバネッセント光などの任意の光が固相材料の表面又はその近傍に到達するように照射すればよい。さらに、光照射は公知の手法を用いて固相材料上の一部に対して選択的に行うこともできる。
【0090】
光固定に用いる波長域は、光応答性成分において分子構造又は分子配列の変化を生じさせる波長域であればよい。こうした波長域に関する情報は、各種の入手可能な光応答性成分について容易に取得できるか又は使用に際して確認することができる。
【0091】
なお、光固定のための光照射については、特開2003−329682号公報、特開2004−93996号公報及び特開2004−251801号公報に既に記載される照射光や光照射方法を採用することができる。光固定化については、特開2003−329682号公報、特開2004−93996号公報及び特開2004−251801号公報において本出願人が開示しており、これらの方法を本発明における光固定化についても適用することができる。
【0092】
なお、配向制御材料の光固定化後、固相材料の表面を洗浄して、固定化されない配向制御材料等を除去しておくことが好ましい。
【0093】
なお、以上の説明においては、固相担体として、固相材料の表面に配向制御材料が固定化された形態のもの(本発明の固相担体の第1の実施形態)を用いる場合について説明したが、こうした固相担体を準備するのに替えて、第2の実施形態による固相担体を準備し、利用することもできる。
【0094】
(目的物質の固定化工程)
次に、図4(c)に示すように、固相材料の表面の配向制御材料が配置された領域に目的物質を供給して、目的物質と固相材料との固定化原理に基づいて目的物質4を固相材料に固定化する。このとき、配向制御材料が所定のポリペプチド鎖を有するため、目的物質を配向吸着することができる。すなわち、目的物質は配向制御材料に接近しやすくなっている。また、目的物質は、配向制御材料のポリペプチド鎖との相互作用により固相材料に対して一定の配向性を有した状態となっている。こうした状態で目的物質と固相材料との間の固定化原理、例えば、共有結合、静電的相互作用、光固定等により目的物質を固相材料の表面に固定化する。こうすることで、図4(d)に示すように、目的物質は、配向制御材料によって配向性が制御された状態で固相材料に固定化される。すなわち、固相材料に配向制御材料を介して目的物質が固定化された固相体2を得ることができる。
【0095】
また、配向制御材料が固相材料相互作用要素を備える場合には、配向制御材料が一定の配向性で固相材料に配向吸着され固定化されて固相担体(第1の実施形態の固相担体)を形成することができる。この結果、目的物質の固相材料に対する配向性をより高めることができる。
【0096】
また、本発明方法によれば、配向制御材料を用いているため、配向を制御するための要素を目的物質にも固相材料にも追加することが回避されている。このため、目的物質4を容易に配向でき、また、目的物質の活性や安定性にこうした追加の要素が影響することが低減されている。
【0097】
なお、配向制御材料は、固相担体において、目的物質と固相材料の固定化を妨げない程度に固相材料の表面に保持されている。これは配向制御材料自体の分子量や目的物質の分子量との関係で実現されるほか、配向制御材料の固相材料への固定化量、例えば、固定化される際の層厚を目的物質の差し渡し径よりも十分に小さくすることでも実現することができる。配向制御材料の固定化層の厚みが目的物質の直径など差し渡し径よりも十分に小さければ、配向制御材料により目的物質と固相材料との直接の接触を回避又は抑制しても、固有の固定化原理により固定化を確保することができる。例えば、固定化された配向制御材料の層厚が目的物質の直径の1/2以下であることが好ましい。より好ましくは、配向制御材料の層厚は約1nm以下である。
【0098】
この固定化工程において、固相材料10が光応答性材料であり、固有の固定化原理が光固定の場合、配向制御材料20を光固定し、さらに配向制御材料20とこれと相互作用している目的物質4とを併せて固相材料10に光固定化することができる。特に、このような2段階で光固定を利用する場合、配向制御材料20の存在によって、配向制御材料20を使用しない場合に比較して目的物質4の配向性を高めることができる。また、光固定によれば、本来的に目的物質4側に特別な固定化のための要素を必要としないし、固定化条件も穏やかであるため、簡易に目的物質4の配向が可能となるとともに、配向のための要素を目的物質4に導入することによる目的物質4の活性低下や安定性低下などの不都合を排除できる。
【0099】
目的物質4の光固定は、配向制御材料20の光固定の場合と同様に実施することができる。すなわち、目的物質4を配向制御材料20又はその近傍に対して供給し、その後光照射すればよい。なお、配向制御材料20を光固定したときでも、この配向制御材料20を利用して目的物質4を光固定することができる。このことは、光応答性材料の表面に配向制御材料20を存在させたときにも、当該配向制御材料20を介して及び/又は配向制御材料20とともに重ねて目的物質4を光固定することができることを意味している。このような光照射の繰り返しによって、2以上の目的物質(ここでは配向制御材料20と目的物質4に相当する)を2段階以上に光固定化できることは、従来全く知られておらず、予想されていなかった。
【0100】
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、目的物質4を固相材料10に配向して固定化するのに際して、固相材料10の表面に保持させた配向制御材料20が所定のポリペプチド鎖を有するため、目的物質4に配向のための要素を別途導入することなく目的物質4を容易にかつ目的物質4の活性を維持して固相材料4に配向し、そして固定することができる。また、目的物質4と固相材料10との間の配向のための直接的な相互作用を回避又は抑制して目的物質4を固相材料10に配向固定化することができる。以上のことから、目的物質4を固相材料10に対して配向させることによる目的物質4に対する悪影響を低減することができる。さらに、配向制御材料20により目的物質4の固定化量を増大することができる。
【0101】
また、目的物質4を、配向制御材料20を介して固定化することで、目的物質4は、固相材料10との間の配向のための相互作用に影響されることがない。このため、固相材料10によってその活性や保存安定性等が低下することが抑制又は回避される。すなわち、目的物質の活性部分周辺が固定化による悪影響(固定化による活性部位の消滅や固定化による機能実現のために必要な立体構造変化の妨害)を受けることなく目的物質を固定化することが固定化される。
【0102】
さらに、目的物質4を光固定化により固定化する場合には、固相材料10の光変形によって目的物質4が固定化されるため、目的物質4は固相材料10の影響を大きく受ける可能性があったが、配向制御材料20を介在させること及びそれによる配向固定によって、一層、目的物質4の安定性や活性を向上させた状態で固相材料10に固定化することができる。
【0103】
(目的物質が固定化された固相体)
本発明の固相体は、固相材料と、前記固相材料の表面に保持される配向制御材料と、前記配向制御材料によって配向固定された目的物質と、を備えることができる。本発明の固相体によれば、目的物質が配向制御材料により配向制御され、かつ、固相材料に固定化されているため、目的物質の活性や安定性等が確保されつつ配向されている。
【0104】
本発明の固相体を、図5を参照して説明する。固相体2は、例えば、図5(a)に示すように、固相材料10の表面にドット状に配向制御材料20を備え、さらに、こうした個々の配向制御材料20に対して個別に目的物質4が固定化されていてもよいし、図5(b)に示すように、固相材料10の表面に全体に固定化された配向制御材料20の表面に、異なる目的物質4が固定化されていてもよい。さらに、図5(c)に示すように、固相体2は、固相材料10が配向制御材料20の少なくとも一部を含み、固相材料10の表面に配向制御材料20のポリペプチド鎖を有する形態が挙げられる。
【0105】
本発明の固相体は、図5に示す形態に限定するものではなく、本発明の固相体における固相材料、配向制御材料及びその固定化、目的物質については、既に説明した配向制御材料、固相材料及び目的物質並びに固定化に適用できる形態及び好ましい形態を全て適用することができる。
【0106】
このような固相体においては、目的物質がポリペプチドであることが好ましい。ポリペプチドは、活性発現のために活性部位の露出及び活性発現のための立体構造変化が重要であり、これらは、配向制御により始めて確保されるからである。また、ポリペプチドは、固相材料によっても活性や安定性が大きく影響を受けるからである。
【0107】
固相体は、目的物質に関しその活性や安定性等に有利な状態で固定されているため、分析や診断用途に適している。また、光固定は、抗体を含むタンパク質、糖鎖、核酸及び細胞等の生体材料及び生物材料の固定化に適している。したがって、本発明の固相体2は、タンパク質、酵素、抗体チップ、糖鎖チップ、DNA等の核酸チップ、細胞チップ等の分析ないし診断用デバイスに好適である。また、酵素、細胞などを固相体2に固定化したバイオリアクターにも好適である。光学的検出特性が優れるために、リアクターの設計や制御が容易であり、また、生体分子材料などの目的物質4の保持安定性に優れるからである。したがって、高効率なバイオリアクター、特にマイクロリアクターを作製することができる。
【0108】
(目的物質と他の成分との相互作用の検出方法)
本発明の目的物質と他の成分との相互作用の検出方法は、本発明の固相体に固定化された目的物質に対して他の成分を供給して相互作用を発揮させる工程と、前記他の成分と前記目的物質との相互作用を検出する工程と、を備えることができる。本発明の検出方法によれば、相互作用などの活性や安定性確保のために有利な状態で目的物質が固定化されているため、精度、感度等の良好な相互作用の検出が可能である。ここでいう相互作用とは、静電的結合性相互作用、イオン結合性相互作用、水素結合性相互作用、疎水性相互作用、親水性相互作用等が挙げられる。また、例えば、リガンドと該リガンドに対するレセプター間における相互作用、特定のアミノ酸配列や構造を有するタンパク質とこのタンパク質と親和性を有するタンパク質などの物質との間の相互作用、酵素と該酵素に対する基質との相互作用、抗原と該抗原に対する抗体との相互作用、特定塩基配列を有する核酸又は修飾核酸と、該核酸又は修飾核酸の特定塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する核酸又は修飾核酸との相互作用等をあげることができる。本検出方法においては、目的物質は生体材料や生物材料等の生体分子材料であることが好ましく、また、こうした相互作用を光学的シグナルで検出することが好ましい。
【0109】
以下、本発明につき実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲において各種態様で実施することができる。
【実施例1】
【0110】
本実施例及び以下の実施例で用いたアゾフィルムは、以下の式に示すアゾポリマー(m:n=15:85)を用いたものである。アゾフィルムは、このアゾポリマー200mgをピリジン溶液16mlで溶解後、0.22μmのフィルタでろ過し、アセトン含浸コットンで拭いたスライドガラスを乾燥した後、スピンキャスト機にて80μlのポリマ溶液を滴下し、4000rpmで10秒間回転させた後、60℃で2時間乾燥後、遮光下真空乾燥して作製した。

【化2】



【0111】
(N末端認識型ペプチドを用いた場合の固定化抗体能と配向性)
100μg/mLの各種のアミノ酸配列からなる合成ペプチド(図6)をアゾフィルムに0.1μL滴下し、真空乾燥した後、0.5時間、25℃で光照射(20 mW/cm2)した。その後、TPBSにて5分間、3回の洗浄を行い、合成ペプチドを固定化した。ペプチドを滴下し固定した各位置に対し0-400ng/mLのRabbit anti goat IgG / TPBS溶液1μL 滴下した。これを17時間、25℃で光照射(20 mW/cm2)しつつインキュベートした。その後、TPBSにて1分間、3回の洗浄を行った。
【0112】
(固定化能の評価)
ペプチドを固定化したアゾフィルム上に1μg/mLのCy5-標識 Mouse anti Rabbit IgG (AP188S) / TPBS 溶液を滴下して、25℃にて30分間反応させ、その後、TPBSにて1分間、3回の洗浄を行った。このスライドグラスをアレイスキャナーにて設置しCy5の蛍光量を測定し、ペプチドを滴下したスポットの蛍光量を定量した。
【0113】
(固定化抗体能の評価)
また、ペプチドを固定化したアゾフィルム上のペプチド上に1μg/mLのCy5-標識 Mouse anti Goat IgG (AP127S)/ TPBS 溶液を滴下し、25℃にて30分間反応させ、その後、TPBSにて1分間、3回の洗浄を行った。このスライドグラスをアレイスキャナーにて設置しCy5の蛍光量を測定し、ペプチドを滴下したスポットの蛍光量を定量した。
【0114】
なお、従来法は、合成ペプチドを滴下する工程に合成ペプチドに替えて0-400ng/mLのRabbit anti goat IgG / TPBS溶液0.1μL 滴下し、光固定した。
【0115】
配向性は、固定化能あたりの固定化抗体活性を指標とし、従来法を1として各ペプチドを固定化した場合の値を算出した。その結果を図6に示す。
【0116】
図6に示すように、ペプチドを二段階で光固定することにより、従来法と比較して、2.3倍から5倍の高い値が得られた。このことは、二段階固定化法が固定化抗体の配向性を制御することができる可能性があることを支持している。また、ペプチドを介することにより抗体に対する保護作用が働いていることも支持している。
【実施例2】
【0117】
(疎水性へリックス構造の評価)
(ペプチド固定量の評価)
図7に示す各種合成ペプチドの100μg/mLの水溶液1μLをアゾフィルムに滴下し、真空乾燥した後、0.5時間、25℃で光照射(20 mW/cm2)した。その後、さらにTPBSにて5分間、3回の洗浄を行い、合成ペプチドを光固定化した。固定化後、1μg/mLのCy5 mono-reactive-dye (GEヘルスケアバイオサイエンス社 PA25001)/ PBS溶液50μLを滴下し30分間室温で反応させた。その後、TPBSにて1分間、3回の洗浄を行い、このスライドグラスをアレイスキャナーにて設置しペプチドを滴下したスポットの蛍光量を測定した。
【0118】
(固定化能の評価)
合成ペプチドをコーティングした後のスライドグラスに対し、1μg/mLのCy5-標識 Goat anti mouse IgG / TPBS溶液50μLを滴下し、これを17時間、25℃で光照射(20 mW/cm2)した[抗体の固定化]。その後、TPBSにて1分間、3回の洗浄を行った。このスライドグラスをアレイスキャナーにて設置しペプチドを滴下したスポットの蛍光量を測定した。
【0119】
これらのペプチドを評価した結果を図8に示す。図8に示すように、ペプチドIAT, IAT(A9), IAT(G)では、ペプチドがアゾフィルム上に固定化されていることが分かった。一方でペプチドIAT(A7), IAT(A5), IAT(I>G)は、アゾフィルム上に固定化されていないことが分かった。ペプチドIAT, IAT(A9), IAT(G)では、CDスペクトル測定によりほぼ100%ヘリックス構造を形成していることが確認されている。図8には、ペプチド名称の左側に模式的にペプチド構造を示している。図8に示すペプチド構造のジグザグはα−へリックス構造を示しており、IAT(G)及びIATのペプチド表示のジグザグ構造から下方を指向して付加された楕円状体はイソロイシンの疎水性基を表している。以上のことから配向制御材料としてのペプチドの固定化には疎水性領域、特に疎水性アミノ酸残基に富むα−へリックス構造が重要であることがわかった。また、固定化能の結果は、ペプチド固定量に依存していることから、Cy5 mono-reactive-dyeによるペプチドの固定化量の評価は、実際の固定化量を反映していることをよく支持していると考えられる。
【実施例3】
【0120】
(1)合成ペプチドの抗体固定化能の評価
図9に示す、100μ/mLの合成ペプチドをアゾフィルムに1μL滴下し、真空乾燥した後、2時間、25℃で光照射(20 mW/cm2)した。その後、TPBSにて5分間、3回の洗浄を行い、合成ペプチドを光固定化した。これに1μg/mLのCy5-標識 Goat anti mouse IgG / TPBS溶液を滴下し、これを17時間、25℃で光照射(20 mW/cm2)しつつインキュベートした。その後、TPBSにて1分間、3回の洗浄を行い、抗体を光固定化した。このスライドグラスをアレイスキャナーにて設置しCy5の蛍光量を測定し、ペプチドを滴下したスポットの蛍光量を定量した。結果を図9に示す。
【0121】
(2)固定化抗体活性の評価
(1)合成ペプチドの抗体固定化能の評価と同様に図9に示す各種合成ペプチドを光固定した。これに1μg/mLのRabbit anti goat IgG / TPBS溶液を滴下し、これを17時間、25℃で光照射(20 mW/cm2)しつつインキュベートした。その後、TPBSにて1分間、3回の洗浄を行い、抗体を固定化した。1μg/mLのCy5-標識 Goat anti mouse IgG / TPBS溶液を滴下し、25℃にて30分間反応させ、その後、TPBSにて1分間、3回の洗浄を行った。このスライドグラスをアレイスキャナーにて設置しCy5の蛍光量を測定し、ペプチドを滴下したスポットの蛍光量を定量した。結果を図9に示す。
【0122】
なお、比較例1として、(1)において合成ペプチド溶液の代わりに水のみを滴下し、比較例2として、(2)において合成ペプチド溶液の代わりに10μg/mLのRabbit anti goat IgG / TPBS溶液を滴下し、比較例3として、(1)及び(2)において合成ペプチドとして配列EATAIAAIAAAIを用い、比較例4として、(1)及び(2)において合成ペプチドとして配列EAAAIAAIAAAIを用いた。
【0123】
また、各合成ペプチドの配向性は、(1)で得られた固定化能に対する(2)で得られた固定化抗体活性の比を用い、比較例2における10μg/mLのRabbit anti goat IgGを乾燥光固定した場合の固定化能に対する固定化抗体活性の比を1として算出した。結果を図9に併せて示す。
【0124】
図9に示すように、合成ペプチド1〜33の固定化能は、比較例1の場合に比べ10倍以上に増加した。これは、図9に挙げたペプチドが抗体の吸着性を飛躍的に高めたと考えられる。一方で、比較例3及び4において、固定化能は著しく減少した。これはN末端のアミノ基が抗体の分子表面と相互作用していることを示しており、この現象はN末端に位置したグルタミン酸(E)のカルボキシル基がN末端のアミノ基と抗体分子の相互作用を阻害しているためと考えられた。
【0125】
合成ペプチドを介して担体に吸着した抗体の活性(固定化抗体活性)は、直接光固定化された抗体(比較例2)の場合に比べ3-20倍増加した。固定化された抗体あたりの活性を示す値(配向性)は直接光固定化された抗体(比較例2)の場合に比べ3-6倍となった。これは、(1)固定化された抗体の抗原認識部位が担体(もしくはペプチド)と相互作用しておらず、水溶液側に配向した状態であること、(2)直接固定化された場合に比べ抗体が本来の立体構造を保った状態になっていることを支持している。
【0126】
固定化能や配向性を指標にスクリーニングした合成ペプチド1〜33のN末端側3残基のアミノ酸配列から、N末端のアミノ基が修飾されていないことが重要であり、N末端側3残基内にスレオニンまたはセリンが含まれていることが好ましいことがわかった。
【0127】
また、固定化抗体能が高くかつ配向性が3倍以上のN末端3残基は、 IAA, VAA, FAA, PAA, AAA, LAA, QAA, IAT, ATA, FAT, WAT, VAT, LAT, AAT, PAT, IHT, IPT, IIT, IMT, IST, ITT, IQT, IAS, IGS, IVS, ISS, ITS, IQS, INS, IAY, IAE, IAIであることがわかった。なかでも、配向性が5倍以上のN末端3残基は、IAT, ITT, ITS, IASであり、固定化抗体能が特に高く配向性が3倍以上のN末端3残基は、IPT, IMT, IST, IQT, IQS, INSであることがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0128】
配列番号1〜45:目的物質の固定化のためのポリペプチド
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の固相担体の一例を示す図である。
【図2】本発明の固相担体の他の例を示す図である。
【図3】α−へリックス構造におけるwheel modelを示す図である。
【図4】本発明の固相体の製造工程の一例を示す図である。
【図5】本発明の固相体の例を示す図である。
【図6】実施例1で用いる合成ペプチドのアミノ酸配列及び配向性の評価結果を示す図である。
【図7】実施例2で用いる合成ペプチドのアミノ酸配列を示す図である。
【図8】実施例2における合成ペプチドの評価結果を示す図であり、上段の図はペプチド固定量を示す図であり、下段の図は抗体固定化能を示す図である。上段の図のペプチド名称の左側にはペプチドの立体構造を模式的に表示する。
【図9】実施例3で用いる合成ペプチドのアミノ酸配列を示すとともに、これらの各合成ペプチドの固定化能、固定化抗体活性及び配向性の評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0130】
2 固相体、4 目的物質、10 固相材料、12 担体、20 配向制御材料、32 固相担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチド鎖を含み、そのN末端のアミノ酸残基が、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン、プロリン及びグルタミンからなる群から選択されるいずれかである、目的物質の配向を制御する配向制御材料。
【請求項2】
前記N末端アミノ酸残基は、アラニン及びイソロイシンのいずれかである、請求項1に記載の配向制御材料。
【請求項3】
前記ポリペプチド鎖のN末端アミノ酸配列が以下の表から選択されるいずれかである、請求項1又は2に記載の配向制御材料。
【表1】



【請求項4】
前記ポリペプチド鎖の前記N末端アミノ酸から2個目又は3個目のアミノ酸残基が水酸基を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の配向制御材料。
【請求項5】
前記2個目又は3個目のアミノ酸残基は、セリン及びトレオニンのいずれかである、請求項4に記載の配向制御材料。
【請求項6】
前記ポリペプチド鎖を2個以上備える、請求項1〜5のいずれかに記載の配向制御材料。
【請求項7】
前記ポリペプチド鎖が連結したポリマー鎖を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の配向制御材料。
【請求項8】
前記ポリペプチド鎖を前記ポリマー鎖に対して多数個備える、請求項7に記載の配向制御材料。
【請求項9】
前記目的物質を配向固定しようとする固相材料と相互作用する要素を備える、請求項1〜8のいずれかに記載の配向制御材料。
【請求項10】
前記目的物質を、前記目的物質を配向固定しようとする固相材料に固定化する固定化要素を備える、請求項1〜9のいずれかに記載の配向制御材料。
【請求項11】
前記目的物質は、生体分子材料を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の配向制御材料。
【請求項12】
前記生体分子材料は、ポリペプチド鎖を含む、請求項11に記載の配向制御材料。
【請求項13】
前記生体分子材料は、抗体である、請求項12に記載の配向制御材料。
【請求項14】
目的物質の固定化用固相担体であって、
固相材料と、
前記固相材料の表面において保持される請求項1〜13のいずれかに記載の配向制御材料と、
を備える、固相担体。
【請求項15】
前記固相材料は、前記配向制御材料の少なくとも一部を含んで成形された成形体である、請求項14に記載の固相担体。
【請求項16】
前記配向制御材料は、前記固相材料の前記表面に対して固定されている、請求項14に記載の固相担体。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれかに記載の固相担体を準備する工程と、
前記固相材料の前記配向制御材料が保持された表面に目的物質を供給し、前記固相材料に対して前記目的物質を固定化する固定化工程と、
を備える、目的物質が配向固定化された固相体の製造方法。
【請求項18】
固相材料と、
前記固相材料の表面に保持される請求項1〜13のいずれかに記載の配向制御材料と、
前記配向制御材料によって配向固定された目的物質と、
を備える、固相体。

【図7】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−109452(P2009−109452A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284782(P2007−284782)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】