説明

配向性の制御装置

【課題】生体内組織の配向性を制御し、ひいては生体内組織の再生、分析等に有益な配向性の制御を行うことが可能な装置を提供する。
【解決手段】配向性の制御装置は、患部へ磁場を供給し、生体内組織の配向性を制御する装置であって、患部へ磁場を供給する磁場供給手段1と、前記磁場を制御する制御手段と、を備え、生体内組織が、骨、軟骨、平滑筋、心筋、骨格筋、皮膚、脂肪、靭帯、腱、血管、細胞からなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向性の制御装置に関し、特に、磁場を利用した配向性の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、再生医療技術を用いることで、自然治癒不可能な巨大な骨欠損部等の再生が可能となっている。また、従来においては、関節等が高度に破壊されると、関節固定や脚切断などを行う手術が多かったが、人工関節に置き換えることが普及し始めている。
【0003】
この他、破壊された硬組織などの生体組織の再生を図って機能を回復させる治療方法も試みられており、当該治療方法は、自然治癒を目的としたものであり、患者の社会復帰を助ける観点からも大変有意義なものである。
【0004】
自然治癒を図るために、例えば、超音波を用いる非侵襲的治療装置が知られている。最近では、治療中に超音波が患部へ照射されているかどうかを検出することが可能であり、患者に対して安全かつ効果的な治療装置が知られている(特開平10−085288号)。
【0005】
また、特に、骨の成長用に刺激を付与するために、パルス状の電磁場を用いて生体組織や生体細胞等に治療を施す非侵襲性電磁治療装置が知られている(特開平6−233825号)
【0006】
このように、超音波や、磁気を利用した各種装置が医療分野において利用されている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−085288号
【特許文献2】特開平6−233825号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記超音波を利用したものは、主として、骨折と骨挫傷の自然治癒のために用いられるものである。すなわち、適当なパラメータ(例えば、超音波周波数、パルス繰り返し周期とパルス振幅)を有する超音波パルスを、適当な期間、患部に近接した適当な位置で当てることにより、自然治癒を行うものであり、生体内組織の配向性を制御するものではない。
【0009】
また、上記電磁場を利用したものは、主として骨成長の刺激付与のために用いられるものであり、生体内組織又は細胞の配向性を制御するものではない。
【0010】
ところで、正常な生体内組織における規則的な配向性を把握できれば、当該正常な生体内組織の情報を元に、種々の解析を行うことも可能である。しかしながら、従来の電磁場を用いる方法は、単に、刺激を付与するものであって、配向性を制御するという観点から電磁場を用いるものではない。
【0011】
また、骨再生時には、骨量の増加が先行し、欠損部を充填し、その際、外部からの応力情報が伝達されないことから、再生部の骨微細構造は修復されないことが知られている。これまで、磁場を用いることで、骨再生が早まる例が報告されたことがあるが、これは磁場による血流を高めたことが原因と考えられ、実際には骨量の改善にはつながる可能性があっても、骨微細構造(骨質)の改善にはつながらないのが現状である。骨微細構造が実際の骨の力学機能を支配することを考えると、骨再生と同時に、骨微細構造を改善する必要性がある。なぜなら、一度再生により骨で満たされた部分の骨微細構造の健全化には、きわめて時間がかかるためである。しかしながら、これまで骨微細構造(骨質)の観点から、骨再生を行った例はない。
【0012】
また、生体内組織を含め高分子物質等は、結晶磁気異方性を有しており、当該異方性がなんらかの性質、機能に影響を及ぼすことも有り得る。例えば、硬組織のほか、腱、心筋には、コラーゲン繊維が存在し、当該コラーゲン繊維は配向性を有する。このような配向性を自由に制御することが可能であれば、再生医学等の分野において有意義である。しかし、このような配向性を制御する装置はこれまで存在しない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、生体内組織の配向性を制御し、ひいては生体内組織の再生、分析等に有益な配向性の制御を行うことが可能な装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、発明者らは、生体内組織の配向性に着目し、生体内組織の評価について鋭意研究した結果、本発明の配向性の制御装置を見出すに至った。
【0015】
本発明の配向性の制御装置は、患部へ磁場を供給し、生体内組織又は細胞の配向性を制御する装置であって、患部へ磁場を供給する磁場供給手段と、前記磁場を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、生体内組織が、骨、軟骨、平滑筋、心筋、骨格筋、皮膚、脂肪、靭帯、腱、血管、細胞からなる群から選択されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、患部への磁場を、結晶の配向方位に対して、結晶磁気異方性エネルギーを最小にするような方向へ与えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、患部への磁場を、コラーゲン線維の走行方向に対して、90度±45度の方向へ与えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、前記結晶の配向方位が、生体アパタイトのc軸方向であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、患部への磁場を、血管走行方向に対して、90度±45度の方向へ与えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、患部への磁場を、硬組織の応力負荷方向に対して、90度±45度の方向へ与えることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、患部への磁場を、硬組織の骨近遠心方向に対して、90度±45度の方向へ与えることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、患部への磁場の強度が、1〜20(T)の範囲であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、患部への磁場を、1〜24時間の間与えることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、さらに、正常な硬組織の結晶の配向性を評価する評価手段を備えることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、 前記評価手段が、X線回折法、SEM-EBSP(Scanning Electron
Microscope-Electron Backscattering Pattern)法による各結晶粒の電子後方散乱像の解析によるもの、TEM-DP(Transmission Electron
Microscope-Diffraction Pattern)法による電子線回折図形の解析によるものからなる群から選択される少なくとも1種により提供されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の配向性の制御装置によれば、生体内組織の配向性を非侵襲的に制御することが可能であり、ひいては非侵襲的な治療を可能とするという有利な効果を奏する。
【0028】
また、本発明の配向性の制御装置を、硬組織に適用した場合、骨の充填、骨密度の上昇と、骨配向性の回復を同時に行なうことを可能とするという有利な効果を奏する。また、非侵襲な磁場の利用により、骨微細構造が正常部に近い状態を早期に実現可能になる。骨折の場合では、リハビリ期間の短縮が期待され骨疾患部に対しては、骨質改善・力学機能改善効果が期待される。また、硬組織の場合を例にとれば、本装置内で配向性を制御しつつ、骨の再生を行うことが可能である。すなわち、生体の本来有する再生能力を生かしつつ、配向性を制御できるので、再生された硬組織は、正常な硬組織と同様の骨密度、骨質を有し非常に優れている。本発明によれば、このような高精度な再生を提供し得る。
【0029】
また、本発明の配向性の制御装置によれば、硬組織の再生過程や疾患形成の評価を行ないながら、生体内組織へ確実に配向性を付与することができるので、硬組織疾患の治療や再生医歯学分野(特に、整形外科学、脳外科学、歯学)や基礎医学の分野への貢献が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の配向性の制御装置は、患部へ磁場を供給し、生体内組織の配向性を制御する装置であって、患部へ磁場を供給する磁場供給手段と、前記磁場を制御する制御手段と、を備える。このような装置によれば、正常な生体内組織の結晶磁気異方性にしたがった配向性を欠損した生体内組織や細胞の配列等に対して付与し、再生等を行うことが可能である。磁場は、特定方向、もしくは特定面方向へと発生させ、患部へ照射するとともに、適切な磁場の大きさや磁場照射方向、磁場照射時間を変化させることで制御する。
【0031】
本発明において、生体内組織とは、結晶磁気異方性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、骨、軟骨、平滑筋、心筋、骨格筋、皮膚、脂肪、靭帯、腱、血管、細胞等を例示することができる。すなわち、硬組織、腱、心筋には、コラーゲン繊維又は生体アパタイトが存在し、当該コラーゲン繊維又は生体アパタイトは、磁気異方性を有する。当該コラーゲン繊維の走行方向が当該コラーゲン繊維を含有する生体内組織の性質を左右する重要な因子の1つであることが判明し、当該異方性を制御することで組織の再生において重要な役割を演じることが判明した。
【0032】
生体内組織のコラーゲン/アパタイトの配向は、硬組織の力学機能と密接に関係していることから重要である。しかし、たとえば骨再生を行なったりする場合には、欠損部が充填され、骨密度が正常に戻るまでの間、再生部での正常な応力伝達が行なわれず、その結果、配向性の回復が大きく遅れるという問題がある。特に、再生部が一度充填された後の骨の置換速度は低下することから、配向性の回復には長時間を必要とする。そこで、骨の充填、骨密度の上昇と、骨配向性の回復を同時に行うことを可能とする技術が必要となるが、本発明の配向性の制御装置を利用すれば、このような再生が可能である。
【0033】
また、生体内組織のうち、結晶磁気異方性を有するものは磁場によって異方性を付与することができる。本発明の配向性の制御装置を利用すれば、非侵襲的な配向性付与を実現できる。
【0034】
また、好適な態様において、患部への磁場を、結晶配向方位に対して、結晶磁気異方性エネルギーを最小にするような方向へ与える。特に、生体アパタイトの場合、結晶磁気異方性エネルギーを最小にするような方向は、結晶の配向方位に対して、90度±45度であることが好ましい。
【0035】
他の物質について代表的なものを例示すれば、以下の通りである。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、物質によって結晶磁気異方性のエネルギーを最小にするような方向が異なり、例えば、HApであればc軸が磁場に垂直となる一方、フィブリンなどは磁場に平行になるので、物質に応じて或いは所望により配向性を自在に制御することが可能である。本発明においては、上記のような配向性の情報に基づき、所望の配向性を付与することが可能である。その他、ポリアミノ酸、DNA,ウイルス、各種タンパク質結晶なども磁場配向することが知られている。
【0038】
特に、生体内組織として、硬組織をサンプルとした場合について本発明の原理について説明すると以下の通りである。
【0039】
図1に磁場による配向化の原理についての概略を示す。図1中、Colはコラーゲン繊維を、BApは生体アパタイトを示す。骨は、部位に応じて最適なコラーゲン/アパタイトの配向性を持つ。生体外で、配向性を付与でき、それを生体内に投入できれば良いが、現状の技術では不可能である。例えば、アパタイトのc軸に配向性を付与する技術は、熱処理によるもの、強磁場を加えるものがあるが、これらはいずれも熱処理を加えて、アパタイトの焼結を行なう必要があるため、実際の生体内のアパタイトとは大きく異なる特性をもち、その結果生体吸収性がほとんどない。本発明は、骨基質(アパタイト+コラーゲンが量的には主たる成分)は、骨系細胞(特に骨を産生する骨芽細胞)により生体内で作り出し、産生されたコラーゲンとアパタイトを非接触、非侵襲的な方法である強磁場の印加によって、生成させ、両者の持つ結晶磁気異方性を利用して、磁場により配向性を与えることを利用したものである。配向性は一方向だけではなく、磁場を印加する方向・時間を制御(一方向の磁場を配向させたい度合いや方向に応じて、時間や方向を変化させる)することで、制御することが可能である。結晶磁気異方性により、磁場印加に対して、コラーゲンの走行方向(伸長方向)が垂直、アパタイト結晶のc軸方向が垂直となる方がエネルギーが低くなることから、コラーゲンの伸長/アパタイトのc軸に垂直となるように印加することができる。例えば、骨の長手方向に一軸配向性を持つ長管骨では、長軸に垂直となるように、磁場を印加すればよく、3次元的に異方的な配向性を持つようにするためには、時間を変えて、3次元的に、磁場を印加すればよい。
【0040】
すなわち、本発明の装置によれば、結晶磁気異方性と磁場との関係さえ明確であれば、事実上どのような物質であっても配向性を制御することが可能となる。
【0041】
図2は、生体アパタイト(以下、BApともいう。)配向性と骨力学機能との関係を示す。図2は、生体内硬組織を例にして、コラーゲン線維にそって、アパタイトのc軸(結晶構造は六方晶)がほぼ整列する様子を示している。生体内硬組織はタイプIコラーゲンとアパタイト結晶子によって、ほとんどが構成されている。このコラーゲン/アパタイトの配列は硬組織部位に強く依存し、例えば大腿骨のような長管骨であれば、コラーゲン/アパタイトのc軸方向は骨長手方向に優先的に配列する。これは、応力を感知する細胞により命令が送られた結果現れる組織であり、この配列によって、部位に最適な力学機能を発揮する。骨再生部などの応力が負荷されない部分や疾患部位ではこの配列ができず、最適な力学機能を発揮できない。このコラーゲンとアパタイトのc軸は、結晶磁気異方性を持つことから、比較的強い磁場を照射することで、そのエネルギーの低減を目的として、磁場方向に垂直に回転し、再配列する。このことを利用して、骨再生過程や骨質の乱れた疾患部に対し、磁場を照射することで、部位に応じた適切な骨質(配向性、微細構造の異方性)を与える。その結果、磁場照射によって、早い段階での力学機能の回復が見込まれる。
【0042】
このように、本発明の装置によれば、疾患部、欠損部などにおいて、応力付与の変わりに磁場を利用することにより、部位に十分な力学機能を発揮させることを可能とする。
【0043】
図1及び図2から分かるように、アパタイトのc軸、コラーゲン線維の線維方向は、結晶磁気異方性(磁化率の異方性)により、磁場方向に対し、垂直に配列する性質がある。コラーゲン線維に対し、生体アパタイトのc軸は、平行に生体内で晶出する性質があることから、配向させたい方向に垂直方向に配向させたい時間、磁場を照射することが望ましい。磁場は高い方が効果が高いが、現状で容易に得られる磁場レベルは10Tである。生体への磁場の悪影響も懸念されるが、現状6T前後での医療装置(MRI)も存在し、また、磁場に対する骨への悪影響は低いことが考えられているので、問題は低い。しかも磁場は、生体に接触することなく作用させることができるために、皮膚等を傷つける必要が無く、非侵襲的な方法として有利である。
【0044】
以下、本発明の好適な実施の一形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の一実施形態は、図3に示されるように、磁場供給手段1と、ユニット2とを備える。
【0045】
患部へ磁場を供給する磁場供給手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、永久磁石、電磁石、超伝導マグネット、水冷銅マグネット、それらの組み合わせ等を挙げることができる。すなわち、磁場供給手段としては、磁場を供給することができ、その磁場Bの方向が特定可能であれば、特に限定されるものではない。なぜなら、コラーゲン走行方向や生体アパタイトのc軸方向は、磁場に対してほぼ垂直に配向することが判明しており、そのほか、結晶磁気異方性を有する生体内組織においても同様に磁場に対して特定の配向性を有することを本発明において利用しており、磁場供給手段として磁場Bの方向が特定できれば、生体内組織の配向性を制御可能だからである。磁場供給手段として、特定方向へ磁場を発生させることが容易であるという観点から、永久磁石、電磁石、超伝導マグネット、水冷銅マグネット、または両者のハイブリッドが好ましい。
【0046】
説明を簡略化するために、例えば、生体内組織が一方向の異方性(配向性)を有する場合について説明すると、本発明の一実施形態においては、図3に示されるような磁場(B)方向3を付与することができる。図3は、配向性を与えるための磁場印加装置の一例を示す。
【0047】
図3においては、ラットの脛骨長手方向に対して垂直、及び平行な方向へ磁場(B)を付与する場合を示している。すなわち、図3中、4は、ラット脛骨長手方向と磁場とを垂直とした場合、図3中、5は、ラット脛骨長手方向と磁場とを平行とした場合、をそれぞれ示している。
【0048】
ラットの脛骨長手方向と平行方向に、生体アパタイトc軸の方向、及びコラーゲン繊維の走行方向が向いている。したがって、当該生体アパタイトc軸の方向又はコラーゲン繊維の走行方向を、脛骨長手方向と同様の方向へ配向させるには、本発明の装置を利用して、脛骨長手方向とほぼ垂直な方向へ磁場を与えてやればよい。磁場を脛骨とほぼ垂直な方向とすることにより、生体組織内の生体アパタイトの結晶、コラーゲン繊維等は、正常な組織のものと近い状態で配向し、組織は異方性を有することとなる。
【0049】
なお、図3は、一方向に磁場を与える例であるが、照射部の方向制御(この場合、ラット脛骨)とともに、印加方向(硬組織の特定方向に対する相対的な方位)を3次元的に変化させ、照射時間を変えることで任意の配向性を与える装置とすることができる。
【0050】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、患部への磁場を、結晶の配向方位に対して、90度±45度の方向へ与える。正確に垂直に設定することは事実上不可能であることに加えて、インプラント材料を挿入した場合等には、正常な組織の応力方向、配向方向も異なってくる場合もあるので、上記90度±45度の範囲としたものであるが、欠損の度合い等によって、この範囲に限定されるものではなく、上述した本来の力学機能を発揮し得るように適宜範囲を設定できるものである。したがって、場合によっては、上記90度±45度の範囲外の場合に良好とする場合も有り得る。
【0051】
また、好ましい実施態様において、患部への磁場を、コラーゲン線維の走行方向に対して、90度±45度の方向へ与える。正確に垂直に設定することは事実上不可能であることに加えて、インプラント材料を挿入した場合等には、正常な組織の応力方向、配向方向も異なってくる場合もあるので、上記90度±45度の範囲としたものであるが、欠損の度合い等によって、この範囲に限定されるものではなく、上述した本来の力学機能を発揮し得るように適宜範囲を設定できるものである。したがって、場合によっては、上記90度±45度の範囲外の場合に良好とする場合も有り得る。
【0052】
また、好ましい実施態様において、患部への磁場を、血管走行方向に対して、90度±45度の方向へ与える。正確に垂直に設定することは事実上不可能であることに加えて、インプラント材料を挿入した場合等には、正常な組織の応力方向、配向方向も異なってくる場合もあるので、上記90度±45度の範囲としたものであるが、欠損の度合い等によって、この範囲に限定されるものではなく、上述した本来の力学機能を発揮し得るように適宜範囲を設定できるものである。したがって、場合によっては、上記90度±45度の範囲外の場合に良好とする場合も有り得る。
【0053】
また、本発明の配向性の制御装置の好ましい実施態様において、患部への磁場を、硬組織の応力負荷方向に対して、90度±45度の方向へ与える。正確に垂直に設定することは事実上不可能であることに加えて、インプラント材料を挿入した場合等には、正常な組織の応力方向、配向方向も異なってくる場合もあるので、上記90度±45度の範囲としたものであるが、欠損の度合い等によって、この範囲に限定されるものではなく、上述した本来の力学機能を発揮し得るように適宜範囲を設定できるものである。したがって、場合によっては、上記90度±45度の範囲外の場合に良好とする場合も有り得る。
【0054】
また、好ましい実施態様において、患部への磁場を、硬組織の骨近遠心方向に対して、90度±45度の方向へ与える。上述したものと同様に、正確に垂直に設定することは事実上不可能であることに加えて、インプラント材料を挿入した場合等には、正常な組織の応力方向、配向方向も異なってくることも起こり得るので、上記90度±45度の範囲としたものであるが、欠損の度合い等によって、この範囲に限定されるものではなく、上述した本来の力学機能を発揮し得るように適宜範囲を設定できるものである。したがって、場合によっては、上記90度±45度の範囲外の場合に良好とする場合も有り得る。
【0055】
また、本発明の配向性の制御装置において、実験室レベルで比較的容易に発生可能であるという観点から、患部への磁場の強度としては、1〜20(T)の範囲であることが好ましい。
【0056】
また、好ましい実施態様において、患部への磁場効果を、効率良く、生活に支障を与える時間が少なくなるようにという観点から、1〜12時間の間与える。短時間でも、目的の配向性が得られる場合には、短時間で磁場付与をやめても良い。
【0057】
さらに、本発明の配向性の制御装置においては、正常な硬組織の結晶の配向性を評価する評価手段を備えてもよい。正常な硬組織の結晶の配向性を評価することが可能であれば、当該評価結果に応じた配向性のデータに基づいて、本装置での磁場を利用して、配向性を制御することができる。
【0058】
前記評価手段としては、X線回折法、SEM-EBSP(Scanning Electron
Microscope-Electron Backscattering Pattern)法による各結晶粒の電子後方散乱像の解析によるもの、TEM-DP(Transmission Electron
Microscope-Diffraction Pattern)法による電子線回折図形の解析によるものからなる群から選択される少なくとも1種を例示することができるが、配向性を評価することができれば、特に限定されるものではない。
【0059】
生体内組織を非破壊的に測定可能であり、試料の作製、準備が容易であり、定量的に配向性を判断できるという観点から、好ましくは、X線回折法を挙げることができる。配向性を小さな部位からより確実に把握するという観点から、X線回折法による分析が、微小領域において行なわれることが好ましい。一般に、微小領域の範囲を特定するよりは、入射X線の径を定義した方が正確である。すなわち、X線と試料表面との角度はある程度変化するので、測定領域を厳密に艇具する事は難しい。一方、測定範囲(微小領域の範囲)は、入射X線径の約3〜5倍といわれている。そこで、入射X線径を用いて好ましい範囲を定めることができる。精度よく小さい部位の配向性を評価するという観点から、入射X線径は10μm〜1mmであり、好ましくは10μm〜100μmである。
【0060】
結晶の配向方位としては、正常な生体内組織と比較することができる程度に特定できれば、特に限定されるものではない。したがって、たとえば、X線回折法、SEM-EBSP法、TEM-DP法などにより配向性を調べた場合に、最大のピークのものを用いてもよく、2番目、3番目にピークのもの又はそれら以外のものを用いてもよい。これらは、生体内組織の性状、骨量、病気の重篤度、長骨、短骨、扁平骨等の生体内組織の種類、種々の部位などにより適宜変更修正を加えて、配向方位を特定して比較分析することができる。
【0061】
したがって、配向方位について特に限定されるものではないが、正常な生体内組織と比較して機能を発揮していることを判定するという観点から、配向方位としては、前記生体内組織における結晶の配向度のうち最大値もしくは極大値の配向方位であることが好ましい。
【0062】
また、好ましい実施態様において、前記生体内組織が、骨切片である。骨切片としては、特に限定されるものではないが、骨生検針、ボーンソー、骨のみ、デューエル、鋭匙、切断機等の骨片採取可能な道具からなる群から選択される1種により得ることができる。骨生検針は、従来から広く硬組織の分析に用いられており、当該骨生検針を用いて採取された骨切片を本発明に組み込むことは、迅速かつ精密な評価を行う上で好ましい態様である。
【0063】
なお、本発明においては、特に、測定する軸方向がはっきりしない場合に、評価方法の威力を発揮することができる。したがって、骨生検の場合のほか、測定する軸方向が不明確な骨切片であっても、本評価手段を適用することにより、迅速かつ精密に生体内組織の評価を実施することが可能である。
【0064】
もっとも、より精密に解析を行うことが目的であれば、複数の上記配向方位を決定しそれぞれ比較分析することが望ましいが、手術など迅速性を求められる場合には、いずれか少なくとも1つの配向方位が特定できれば、当該配向方位を分析するのみで、生体内組織の迅速な評価を行うことができるので、この点有利である。
【0065】
また、生体内組織の評価手段の好ましい実施態様において、前記配向方位の決定を、前記生体内組織の面内異方性を分析することにより行うことが可能である。これは、試料を回転等させて面内での配向性を連続的に計測することにより、迅速に配向方位を特定しようとするものである。
【0066】
通常、特定軸、例えば、骨軸方向に平行に配向する度合いが高い。そこで、例えば、上記のように骨生検針を用いて骨切片を採取した場合には、骨軸が骨生検方向と垂直であることから、採取試料の取り出し軸方向を中心軸とした360度回転可能な冶具の上に設置し、X線回折法などにより、回折情報の連続的なプロファイルを解析することができる。検出器が2次元で、同時検出可能であれば、その解析時間は早まる。ただし、0次元、1次元でも解析時間は必要であるが解析は可能である。また、X線回折法を用いた場合について説明すると、入射X線に対して試料の回転軸を一致させるためには、回転冶具を移動可能なステージ上に固定し、軸合わせを行うことができる。その後180度の回転を行いつつ、最大の配向方位を決定し、その位置での配向度の精密測定を行い、疾患進行度合いを示すデータベース(配向性)と比較することで、疾患程度や、疾患部分を判定することも可能である。2次元PSPC(検出器)を用いると1時間以内での解析も可能となり、手術前の定量的な配向度解析が可能となる。
【0067】
また、評価手段の好ましい実施態様において、前記面内異方性の分析が、前記生体内組織の骨軸方向と平行な面、又は前記骨軸方向±90度の範囲内の面における面内異方性を分析することにより行う。まず面内についての配向性を分析することにより、迅速に配向方位を特定できるので、かかる観点から好ましい。また、試料の形状が不定形な場合(円柱状でない場合)には、軸を決めて、当該軸を回転させて、回転面内に配向性が高い方位を検出することができる。
【0068】
また、好ましい実施態様において、X線回折法による結晶の回折強度を求めることにより分析することができる。例えば、回折強度を、a軸、c軸及び/又はそれら以外の方位に対する配向性に基づき求めることができる。分析の条件としては、Bragg角度(回折条件を満足するための回折面に対する入射X線と回折X線とのなす角度をいう。)がa軸、c軸の配向性を判断できるように、X線の入射方向と試料表面との角度を設定し、さらに試料揺動を行なう等をあげることができる。
【0069】
すなわち、正常な生体内組織の結晶の回折強度と、再生組織等の結晶の回折強度とを比較することにより、再生組織や疾患組織の状態を評価することが可能となる。これは、本発明の評価方法においては、生体内組織、例えば、硬組織の結晶の配向性が、長骨、短骨、扁平骨等の骨の種類、種々の部位等により大きく異なることを利用したものである。
【0070】
また、本発明の好ましい実施態様において、前記分析を、c軸/a軸、c軸/(a軸及び/又はc軸以外の方位)、c軸/(a軸、及び/又はc軸を含む様々な方位)からなる群から選択される少なくとも1種の回折強度又は回折積分強度比を求めることにより行う。すなわち、分子がc軸であれば、分母がどのようであってもよい。具体的に列記すれば、c軸/(a軸+c軸)、c軸/{a軸+(a軸及びc軸以外の他の方位)}、c軸/{c軸+(a軸及びc軸以外の他の方位)}、c軸/(a軸及び/又はc軸以外の他の方位)、c軸/(a軸、c軸、及びそれら以外の他の方位)、などを挙げることができる。生体内組織の評価をより迅速に行いたい場合には、回折強度比を求めることなく、例えば、a軸、c軸及び/又はそれら以外の方位に対する配向性に基づき回折強度のみをもとめて評価を行ってもよい。X線回折法を用いた場合について、例示すると、(002)/(310)の回折強度比以外に、(002)/{(211)+(112)+(300)}をとる場合、さらに、(002)の回折のみを同じ場所で3次元的に測定し、マッピングする方法(この場合には、3次元全体の回折強度平均を1に規格化し、その最大強度や半値幅をとる)で配向方位を決定してもよい。特に、生体内組織の迅速な評価を行う場合には、(002)の回折のみを行ってもよい。この場合には、極めて簡略されているにもかかわらず、概ね良好な評価を得ることができるからである。
【0071】
回折強度と配向性の関係について補足説明すると、例えば、同条件で得られたX線プロファイルのうち、(002)と(310)面からの回折強度又は回折積分強度は、それぞれa軸、c軸の配向の強さを示すため、その比を取ることで、相対的な配向性が解析可能である。また、他の回折線の強度と比較することで、a軸、c軸及び/又はそれら以外の方向に対する配向性の評価も可能となる。これらの回折強度と配向性を利用して、生体内組織の評価を行なうことができる。
【0072】
X線回折法を生体組織、再生組織、疾患組織に適用することで、(1)ヒドロキシアパタイトなどの結晶子の配向性、(2)結晶構造の決定と構成結晶成分の同定、(3)結晶性の評価、(4)結晶子の3 次元的集合組織の評価を併せて行なうことができる。(1)に関しては、 上述のX線プロファイルから、特定の回折面の強度を測定し、その比を取ることで配向性を解析することにより行なう事ができる。(2)に関しては、 回折線の現れる角度(Bragg角)とそれぞれの強度を比較することにより、結晶構造の決定と構成結晶成分の同定を行なう事ができる。(3)に関しては、 各回折線の半価幅を測定することで結晶性の評価が可能である。半価幅は強度が半分となる位置の回折ピークの幅であり、角度の単位である。この幅が大きくなると結晶性が低いことを意味する。なお結晶性は結晶子の大きさと格子歪によって決定され、結晶子が小さく、格子歪が大きい場合に結晶性は低下する(半価幅は大きくなる)。(4)に関しては、 3次元的に評価したい試料方位とX線の入射角度を変化し、多方位から特定回折線の回折強度を測定することによって行うことができる。c軸の配向性を知りたい場合には、Bragg角(2シーター)が、Cu-Kα特性X線を入射X線に用いた場合、26°前後の回折線を用いればよい。
【0073】
結晶の配向とは、通常、高分子固体を構成する単位組織(微結晶)が一定方向に配列することをいう。配向には、ポリエチレンフィルムに見られる面配向(例えば、c軸がフィルム面内にあって、それ以外には配向性がないもの。)、一軸配向(c軸が繊維方向に配向するもの。)、木綿、麻に見られるらせん配向(c軸が繊維配向と一定の傾きを持つもの。)、さらに二重配向(ある結晶面が繊維軸を含む一定の面に平行なもの。)などがある。したがって、正常な生体内組織の配向性並びに再生及び/又は疾患組織の配向性を調べて、両者を比較することにより生体内組織の評価を行なうことができる。
【0074】
例えば、硬組織の代表的な成分であるヒドロキシアパタイトの配向性を調べ、正常なものと再生中、疾患のものとを比較することにより、硬組織を評価することができる。
【0075】
また、硬組織の評価において、さらに、骨量、組織標本の観察、組成分析、赤外線吸光(IR)分析、硬さ・破壊応力、弾性率等の力学特性測定等の評価を併用して行なうことができる。骨量、組織標本の観察など従来の評価手段と、上記評価方法と併用することによって、より高精度で、緻密な硬組織の評価を行なうことが可能となる。
【実施例】
【0076】
ここで、本発明の一実施例を説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であることは言うまでもない。
実施例1
実施例では、長管骨の一種であるラット脛骨を用いて、磁場印加を実施した。まず、ラット脛骨(長管骨)に骨欠損を与え、骨長軸方向に垂直及び平行方向の磁場(10T)を与えた。具体的には、10週齢のSDラットメスの脛骨(骨軸に平行に1軸配向性)2mmφの皮質骨欠損を与え、10Tの(単位:テスラー)磁場を脛骨に垂直と平行に印加した。1日2時間のみの照射を行い、骨梁の形成を組織観察した。一般に骨梁の伸展方向にコラーゲン/アパタイトの配向性を示すことから、骨梁の伸展方向を調べた。
【0077】
磁場照射の様子を図4に示す。その結果、骨再生初期の骨微細構造は異方性を示し、骨梁方向は磁場に垂直となった。このことは、骨再生早期段階より、正常骨に類似の骨微細構造の異方性を与えることができることを示している。
【0078】
また、再生2週後の新生骨骨梁の形成の様子を図5に示す。その結果、強磁場を骨軸(骨長手方向)に対して垂直、平行いずれに印加した場合でも、磁場方向に垂直に骨梁の伸展(コラーゲン・アパタイトの配向)が認められた。したがって、磁場の方向、印加時間を制御することで、目的とする配向性を与えることが可能となる。骨が、骨内に存在する応力センサー(オステオサイトと呼ばれる細胞)で配向を制御するのに対し、本装置は、磁場を用いることでそれを可能とする画期的な装置であることが判明した。
【0079】
以上述べたように、骨再生時、もしくは骨疾患に対し、比較的高い磁場を用いて、磁場方向を考慮しつつ照射することで、正常部に近い骨微細構造の異方性を有する、骨再生部の獲得、もしくは、疾患部の微細構造の回復を行うことが可能となった。磁場はMRIで用いられるように、人体への影響が少なく、さらに非侵襲、非接触で骨微細構造に働きかけることができる。骨細胞外基質は生体内の骨系細胞に産生させ、この配列を磁場によって制御することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、硬組織をはじめとする生体内組織の疾患の治療や再生医歯学分野(特に、整形外科学、脳外科学、歯学)や基礎医学の分野への貢献が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、磁場による配向化原理の概略を示す図である。
【図2】図2は、生体アパタイト配向性と骨力学機能との関係を示す図である。
【図3】図3は、配向性を与えるための磁場印加装置の一例を示す図である。
【図4】図4は、動物モデルを用いて磁場照射を行った様子を示す図である。
【図5】図5は、欠損部再生に対する強磁場照射の影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患部へ磁場を供給し、生体内組織、又は細胞の配向性を制御する装置であって、患部へ磁場を供給する磁場供給手段と、前記磁場を制御する制御手段と、を備える配向性の制御装置。
【請求項2】
生体内組織が、骨、軟骨、平滑筋、心筋、骨格筋、皮膚、血管、脂肪、靭帯、腱、血管、細胞からなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
患部への磁場を、結晶の配向方位に対して、結晶磁気異方性エネルギーを最小にするような方向へ与える請求項1又は2項に記載の装置。
【請求項4】
患部への磁場を、コラーゲン線維の走行方向に対して、90度±45度の方向へ与える請求項1〜3項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記結晶の配向方位が、生体アパタイトのc軸方向である請求項1〜4項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
患部への磁場を、主な血管走行方向に対して、90度±45度の方向へ与える請求項1〜5項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
患部への磁場を、硬組織の応力負荷方向に対して、90度±45度の方向へ与える請求項1〜6項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
患部への磁場を、硬組織の骨近遠心方向に対して、90度±45度の方向へ与える請求項1〜7項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
患部への磁場の強度が、1〜20(T)の範囲である請求項1〜8項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
患部への磁場を、1〜10時間の間与える請求項1〜9項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
さらに、正常な硬組織の結晶の配向性を評価する評価手段を備える請求項1〜10項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記評価手段が、X線回折法、SEM-EBSP(Scanning Electron Microscope-
Electron
Backscattering Pattern)法による各結晶粒の電子後方散乱像の解析によるもの、TEM-DP(Transmission Electron
Microscope-Diffraction Pattern)法による電子線回折図形の解析によるものからなる群から選択される少なくとも1種により提供される請求項11記載の装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−6128(P2008−6128A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180675(P2006−180675)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】