説明

配向膜の製造方法、及び光学フィルムの製造方法

【課題】ディスコティック液晶に対する直交配向規制力を高温度においても維持する配向膜の製造方法の提供。
【解決手段】ディスコティックネマチック液晶の遅相軸をラビング方向に対して直交配向させる規制力を有する配向膜の製造方法であって、移動するラビングステージ上に配置された高分子膜の表面を、表面にラビング布を有するラビングローラーにより、R=L*(1+π*D*n/V)(Rはラビング密度、Lはラビング布と配向膜が接する長さ(接触長)、Dはラビングローラー直径、nはラビングローラー回転数、Vはラビングステージ移動速度)で定義されるラビング密度Rが4900以下でラビング処理するラビング処理工程を含み、製造される配向膜が、ディスコティックネマチック液晶の遅相軸をラビング方向に対して直交配向させる規制力を、110℃以上の温度T℃まで維持することを特徴とする配向膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスコティック液晶を安定的に直交配向させる規制力を有する配向膜の製造方法、及びそれを利用した光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置の光学補償フィルム等に、所定の配向状態に固定されたディスコティック液晶を含有する光学異方性層を利用することが種々提案されている(例えば、特許文献1〜2)。液晶を安定的に所望の配向状態にするために、ラビング配向膜が汎用されている。ラビング配向膜上でディスコティック液晶を配向させると、ラビング処理により形成された膜表面の微細な窪みに沿って、円盤面をはめ込んで配向する傾向がある。即ち、通常、ディスコティック液晶は、その遅相軸をラビング処理方向に対して平行にして配向する傾向がある。
【0003】
ところで、上記光学異方性層を連続的に長尺状のフィルム上に形成する場合は、長尺フィルムの長手方向に沿ってフィルムを移動させつつ、該方向にラビング処理するのが一般的である。この連続生産において、上記した、ディスコティック液晶に対して、その遅相軸をラビング方向に対して平行にして配向させる規制力を有する配向膜を用いると、ディスコティック液晶は、その遅相軸をフィルムの長手方向に対して平行にして配向することになる。しかし、光学フィルムの用途によっては、例えば、長尺状の直線偏光膜と貼合等する際に、ディスコティック液晶の遅相軸が長手方向に対して直交配向しているほうが、生産性を格段に向上させることができる場合もあり、かかる場合には、ディスコティック液晶を、その遅相軸をラビング方向に対して直交配向させる技術が必要になる。従前の一般的な配向膜材料を用いて、直交配向状態を形成できれば、実用上の有用性は非常に高い。
【0004】
しかし、ディスコティック液晶を、その遅相軸をラビング方向に対して平行配向させる一般的な配向膜材料を用いて、広い温度範囲で安定的に、ディスコティック液晶を直交配向させるのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−257205号公報
【特許文献2】特開2010−244038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決することを課題とする。
具体的には、本発明は、ディスコティック液晶を、広い温度範囲で(具体的には高温においても)、その遅相軸をラビング方向に対して直交にして配向させる規制力を有する配向膜の製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、ディスコティック液晶がその遅相軸をラビング方向に対して直交配向した状態に固定されてなる光学異方性層を有する光学フィルムの、安定的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1]ディスコティックネマチック液晶の遅相軸をラビング方向に対して直交配向させる規制力を有する配向膜の製造方法であって、
移動するラビングステージ上に配置された高分子膜の表面を、表面にラビング布を有するラビングローラーにより、下記式(1)で定義されるラビング密度Rが4900以下でラビング処理するラビング処理工程を含み、
R=L * (1+π*D*n/V) ・・・・式(1)
式(1)中、Rはラビング密度(mm)、Lはラビング布と配向膜が接する長さ(接触長(mm))、Dはラビングローラー直径(mm)、nはラビングローラー回転数(rpm)、Vはラビングステージ移動速度(mm/分)であり;
製造される配向膜が、ディスコティックネマチック液晶の遅相軸をラビング方向に対して直交配向させる規制力を、110℃以上の温度T℃まで維持することを特徴とする配向膜の製造方法。
[2]前記ラビング処理工程において、ラビング密度Rが4500以下で、複数回ラビング処理することを特徴とする[1]の方法。
[3]前記ラビング処理工程において、ラビング密度Rが1000以下で、複数回ラビング処理することを特徴とする[1]又は[2]の方法。
[4]製造される配向膜が、ディスコティックネマチック液晶の遅相軸をラビング方向に対して直交配向させるとともに、配向膜界面のチルト角を60°以上80°以下で配向させる規制力を有する配向膜である[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5]前記高分子膜が、未変性又は変性ポリビニルアルコールを主成分として含む高分子膜である[1]〜[4]のいずれかの方法。
[6][1]〜[5]のいずれかの方法により配向膜を製造すること、
配向膜の表面上でディスコティック液晶を、その遅相軸を配向膜のラビング方向に対して直交配向させること、及び
該直交配向状態を固定すること、
を少なくとも含む光学フィルムの製造方法。
[7]ディスコティック液晶の配向膜界面のチルト角が60°以上80°以下である[6]の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、広い温度範囲で(具体的には高温においても)、その遅相軸をラビング方向に対して直交にして配向させる規制力を有する配向膜の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、ディスコティック液晶がその遅相軸をラビング方向に対して直交配向した状態に固定されてなる光学異方性層を有する光学フィルムの、安定的な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の方法の一実施形態の模式図である。
【図2】本発明の方法により製造される配向膜のディスコティック液晶に対する配向規制力を説明するために用いた模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲や数値については、本発明の属する技術分野で許容される誤差を含む数値範囲及び数値として解釈されるべきである。
【0011】
1.配向膜の製造方法
本発明は、ディスコティックネマチック液晶の遅相軸をラビング方向に対して直交配向させる規制力を有する配向膜の製造方法に関する。本発明の製造方法により製造される配向膜は、上記規制力を、広い温度範囲で、具体的には高温度においても維持するという特徴がある。具体的には、製造される配向膜が、ディスコティックネマチック液晶の遅相軸をラビング方向に対して直交配向させる規制力を、110℃以上の温度T℃まで維持することが可能である。前記配向膜は、高温度まで前記規制力を有するので、実際にディスコティックネマチック液晶を配向させる際に、溶媒の乾燥等の加熱処理が必要な態様では、高温での加熱処理の実施が可能になり、生産性を向上することができる。また、配向速度や配向均一性の点でも有利である。
なお、上記温度T℃とは、雰囲気の温度をいい、該温度は温度センサーにより測定することができる。
【0012】
特に、本発明は、ディスコティックネマチック液晶の遅相軸をラビング方向に対して直交配向させるとともに、配向膜界面のチルト角を60°以上80°以下で配向させる規制力を有する配向膜の製造方法として有用である。例えば、TNモード液晶表示装置の光学補償には、ディスコティック液晶をハイブリッド配向状態に固定した光学異方性層が有用であることが知られている。当該用途では、ディスコティック液晶のチルト角が、配向膜界面から空気界面へ向かって減少する態様を利用することができる。当該態様において、配向膜界面におけるチルト角は、90°程度になるが、配向膜界面チルト角が90°未満(特に60°以上80°以下)である上記ハイブリッド配向状態を固定した光学異方性層のほうが、光学補償作用に優れることが知られている(例えば特開2011−133549号公報参照のこと)。従って、本発明は、TNモード液晶表示装置の光学補償に用いられる光学フィルムの製造に利用される配向膜の製造方法として特に適する。
【0013】
本発明者が検討した結果、ディスコティック液晶を、高温においても、その遅相軸をラビング方向に対して安定的に直交にして配向させるためには、ラビング密度を低下させる必要があることがわかった。一方、ラビング密度を低下させると、直交配向は安定化するものの、ディスコティック液晶の配向膜界面チルト角も高くなり、配向膜界面における所望の傾斜配向状態を形成できない。本発明では、下記式で定義されるラビング密度Rを所定の範囲にすることで、安定的な直交配向、及び90°未満の配向膜界面チルト角を可能にしている。
【0014】
具体的には、本発明の製造方法では、移動するラビングステージ上に配置された高分子膜の表面を、表面にラビング布を有するラビングローラーにより、下記式(1)で定義されるラビング密度Rが4900以下でラビング処理を実施する。
R=L * (1+π*D*n/V) ・・・・式(1)
式(1)中、Rはラビング密度(mm)、Lはラビング布と配向膜が接する長さ(接触長(mm))、Dはラビングローラー直径(mm)、nはラビングローラー回転数(rpm)、Vはラビングステージ移動速度(mm/分)である。
【0015】
図1に、前記ラビング処理工程の一実施形態を模式的に示す。図1は、高分子フィルム等の基板上に形成された高分子膜の表面をラビング処理して配向膜を製造している状態を模式的に示した図である。移動速度V(mm/分)で移動するラビングステージ上に配置された高分子膜は、直径D(mm)のラビングローラーが、その表面のラビング布を高分子膜の表面に、接触長L(mm)で接触して回転することにより、ラビング処理される。L、D、n及びVはそれぞれ、ラビング密度Rが前記範囲である限り、特に制限されないが、生産性を極端に低下させないためには、一般的には、Lは6〜12mm(より好ましくは8〜10mm)であり、Dは60〜300mm(より好ましくは65〜150mm)であり、nは100〜2000rpm(より好ましくは300〜1500rpm)であり、Vは300〜4000mm/分(より好ましくは2500〜3500mm/分)である。
【0016】
ラビング密度Rは、4500以下であるのがより好ましく、3000以下であるのがより好ましく、1000以下であるのがさらに好ましい。ラビング密度Rが低いほど、直交配向の安定性及びチルト角の低下の観点では好ましいが、ラビング密度Rが低く過ぎると、配向欠陥が発生しやすい傾向がある。これらの観点から、前記ラビング密度Rは、200以上であるのが好ましく、300以上であるのがより好ましい。
【0017】
また、例えば、ラビングローラーを、ラビングステージの移動方向に沿って複数個配置し、又はラビングステージを往復移動させてラビングローラーの下を複数回通過させることでラビング処理を複数回実施してもよい。ラビング処理を複数回実施する場合は、1回のラビング処理時のラビング密度Rは、4500以下であるのが好ましく、1000以下であるのがより好ましく、500以下であるのがさらに好ましい。また、1回のラビング処理で実施されるラビング密度Rが低く過ぎると、配向欠陥が発生しやすくなる傾向がある。これらの観点から、ラビング工程を複数回行う態様におけるラビング密度Rは、200以上であるのが好ましく、300以上であるのがより好ましい。
【0018】
ラビング工程を実施する回数については特に制限はないが、生産性や製造設備コストの観点では、ラビング処理工程を実施する回数は少ないほうが好ましく、一般的には、2〜5回が好ましく、2〜3回がより好ましい。
【0019】
前記ラビング処理工程を複数回行う態様では、各工程のラビング密度は同一であっても、異なっていてもよいが、同一であるほうがラビング処理の均一性の点で好ましい。また、各工程は、L、D、n及びVについてもそれぞれ同一であるのが同観点で好ましい。
【0020】
本発明では、配向膜の材料については特に制限はないが、未変性又は変性ポリビニルアルコールを主成分として用いるのが好ましい。使用可能なポリビニルアルコールの例には、鹸化度が70〜100%、重合度が100〜5000の未変性ポリビニルアルコール(PVA)が含まれる。
【0021】
前記高分子膜は、前記主成分及び所望により架橋剤等の添加剤を含む塗布液を調製し、該塗布液を、高分子フィルムやガラス板等の基板上に塗布して、乾燥することで形成することができる。塗布液の調製に用いられる溶媒については特に制限はなく、材料の溶解性に応じて選択される。PVAを主成分として用いる場合は、親水性材料であるので、水、又は水と親水性有機溶媒(例えば、低級アルコール)との混合溶媒が好ましく用いられる。乾燥温度は、溶媒の沸点温度に応じて、決定される。
【0022】
塗布方法についても特に制限はなく、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法又はロールコーティング法等、種々の塗布方法を採用することができる。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、例えば、20℃〜110℃で行なうことができる。
【0023】
配向膜は、基板の表面に形成してもよい。基板は、後述する光学異方性層とともに、種々の用途に用いてもよいし、又は光学異方性層を形成した後、剥離して、除去してもよい。画像表示装置の光学補償フィルム等として用いられる用途に、光学異方性層とともに用いられる場合には、基板は、透明であるのが好ましく、具体的には、光透過率が80%以上の透明な基板を用いるのが好ましい。ポリマーフィルムやガラス板が好ましい。ポリマーの具体例として、セルロースアシレート類(例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート)、ノルボルネン系ポリマー、ポリ(メタ)アクリレートエステル類のフィルムなどを挙げることができ、多くの市販のポリマーを好適に用いることが可能である。このうち、光学性能の観点からセルロースアシレート類が好ましく、セルロースの低級脂肪酸エステルがさらに好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下脂肪酸で、炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)または4(セルロースブチレート)であることが好ましい。セルローストリアセテートが特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。なお、セルロースアシレートフィルムは、ソルベントキャスト法で作製することが好ましい。また、従来知られているポリカーボネートやポリスルホンのような複屈折の発現しやすいポリマーであっても国際公開WO00/26705号パンフレットに記載の分子の修飾により該発現性を低下させたものも使用できる。また、使用するポリマーフィルムは、光学的に等方性であっても異方性であってもよい。用途に応じて、種々の特性のポリマーフィルムから選択することができる。
【0024】
2.光学フィルムの製造方法
本発明は、前記製造方法により製造される配向膜を利用する光学フィルムの製造にも関する。具体的には、本発明は、
前記本発明の方法により配向膜を製造すること、
前記配向膜の表面上でディスコティック液晶を、その遅相軸を配向膜のラビング方向に対して直交配向させること、及び
該直交配向状態を固定すること、
を少なくとも含む光学フィルムの製造方法にも関する。
【0025】
本発明によれば、ディスコティック液晶を直交配向状態に固定した光学異方性層を有する光学フィルムを安定的に製造することができる。図2に、本発明の方法によって形成可能なディスコティック液晶の配向状態の一例を、模式的に示す。図2に示す通り、本発明の方法によれば、ディスコティック液晶を、その遅相軸を配向膜面に施されたラビング方向に対して直交にして配向させることができる。さらに、配向膜界面におけるチルト角を、90°未満(好ましくは60〜80°、より好ましくは70〜75°)で傾斜配向させることができる。
【0026】
さらに、所望により、空気界面水平配向剤等の空気界面においてディスコティック液晶の水平配向を促進する添加剤を添加することにより、配向膜界面において、ディスコティック液晶がチルト角60〜80°で配向し、且つ空気界面で水平配向したハイブリッド配向状態、即ち、チルト角が配向膜界面から空気界面に向かって減少するハイブリッド配向状態を安定的に形成することができる。
【0027】
以下、前記方法の各工程について詳細に説明する。
まず、上記方法により配向膜を形成する。配向膜の形成方法については、上記の通りであり、好ましいラビング密度の範囲も上記の通りである。
【0028】
次に、配向膜の表面上で、ディスコティック液晶を配向させる。一例では、ディスコティック液晶、及び所望により1種以上の配向促進剤を、溶媒に溶解した塗布液を調製し、該塗布液を配向膜のラビング処理面に塗布し、塗布層を形成し、塗布層を乾燥して溶媒を蒸発させることで、ディスコティック液晶を配向させる。塗布液の調製に使用する溶剤としては、汎用の有機溶剤が好ましく用いられる。汎用の有機溶剤の例には、アミド系溶剤(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド系溶剤(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環系溶剤(例、ピリジン)、炭化水素系溶剤(例、トルエン、ヘキサン)、アルキルハライド系溶剤(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル系溶剤(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン系溶剤(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、エーテル系溶剤(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。エステル系溶剤及びケトン系溶剤が好ましく、特にケトン系溶剤が好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0029】
塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により行うことができる。
【0030】
乾燥温度は、溶媒の沸点、及び用いるディスコティック液晶の相転移温度等に応じて決定することができる。乾燥温度は、溶媒の沸点以上の温度であって、且つディスコティック液晶のディスコティックネマチック液晶相転移温度TNを基準として、TN+20℃〜TN+60℃であるのが好ましい。本発明の製造方法により形成される配向膜は、110℃を超える温度で初めて、上記配向規制力を消失するので、110℃を超える高温にしても、安定な直交配向状態を形成できる。従って、塗布液の調製に用いる溶媒種類の選択の幅も広がり、また高温乾燥が可能なことから、生産性の向上も期待できる。
【0031】
次に、形成された直交配向状態を固定する。該配向状態は、配向膜界面において、遅相軸がラビング方向に対して直交配向していれば、特に制限されない。一例は、ディスコティック液晶が、その遅相軸をラビング軸に対して直交にして配向し、配向膜界面におけるチルト角が60〜80°で、該チルト角が空気界面方向に向かって減少しているハイブリッド配向状態である。配向膜界面チルト角が上記範囲であると、配向膜界面チルト角が80°を超える同ハイブリッド配向状態と比較して、光学補償の点で優れ、また、配向膜界面チルト角が60°未満の同ハイブリッド配向状態と比較して、コントラストの点で優れている。
【0032】
配向状態の固定は、重合反応等の硬化反応により実施されるのが好ましい。例えば、液晶が重合性基等の反応性基を有していると、及び/又は添加剤として重合性基等の反応性基を有する反応性成分を含有していると、重合反応等の反応の進行により上記配向状態を固定できる。例えば、前記組成物中に光重合開始剤を含有させ、光照射により重合を開始するのが好ましい。光照射には、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、10mJ/cm2〜50J/cm2であることが好ましく、50mJ/cm2〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。また、雰囲気の酸素濃度は重合度に関与するため、空気中で所望の重合度に達しない場合には、窒素置換等の方法により酸素濃度を低下させることが好ましい。好ましい酸素濃度としては、10%以下が好ましく、7%以下がさらに好ましく、3%以下がよりさらに好ましい。
【0033】
この様にして、ディスコティック液晶の配向状態を固定してなる光学異方性層を有する光学フィルムを製造することができる。光学異方性層の厚さについては特に制限はなく、用途に応じて、最適な光学特性が決定され、それに応じて、好ましい範囲が変動する。一般的には、0.1〜10μmであることが好ましく、0.5〜5μmであることがさらに好ましい。
【0034】
以下、光学異方性層の材料について例を挙げて説明する。
ディスコティック液晶:
本発明に利用可能なディスコティック液晶の好ましい例には、下記式(1)で表される化合物が含まれる。
【0035】
【化1】

【0036】
式(1)中、Y11、Y12及びY13は、それぞれ独立にメチン又は窒素原子を表す。Y11、Y12及びY13がメチンの場合、メチンの水素原子は置換基で置き換わってもよい。メチンが有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ハロゲン原子及びシアノ基を好ましい例として挙げることができる。これらの置換基の中では、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子及びシアノ基がさらに好ましく、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数2〜12のアシルオキシ基、ハロゲン原子及びシアノ基がより好ましい。
化合物の合成の容易さ及びコストの観点から、Y11、Y12及びY13は、いずれもメチンであることがより好ましく、メチンは無置換であることがさらに好ましい。即ち、上記式(1)で表される化合物の好ましい例には、Y11、Y12及びY13が無置換のメチンである、下記式(1a)で表される化合物が含まれる。
【0037】
【化2】

【0038】
式(1)及び(1a)中、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、又は下記一般式(A)、下記一般式(B)もしくは下記一般式(C)を表すが、ただし、R11、R12及びR13のうち、少なくとも2つは下記一般式(A)、下記一般式(B)、又は下記一般式(C)である。合成や光学性能の観点では、一般式(A)又は(C)が好ましく、一般式(A)がより好ましい。また、R11、R12及びR13は、R11=R12=R13であることが好ましい。
また、R11、R12及びR13の全てが、下記一般式(A)、下記一般式(B)、又は下記一般式(C)であると、液晶相を示す温度範囲が広くなる傾向があるので好ましい。
【0039】
【化3】

【0040】
一般式(A)中、A11及びA12は、それぞれ独立に窒素原子又はメチンを表し;A13、A14、A15及びA16は、それぞれ独立に窒素原子又はメチン(但しメチンの水素原子は置換基−L11−L12−Q11で置換されていてもよい)を表す。
【0041】
11及びA12は、少なくとも一方が窒素原子であることが好ましく、両方が窒素原子であることがより好ましい。
13、A14、A15及びA16は、それらのうち、少なくとも3つがメチンであることが好ましく、すべてメチンであることがより好ましい。但し、メチンの水素原子は置換基−L11−L12−Q11で置換されていてもよい。Δnが高いという観点では、A13、A14、A15及びA16が全て無置換のメチンである(即ち、置換基−L11−L12−Q11はm位に結合している)、又はA13、A14及びA16が無置換のメチンであり、且つA15が置換基−L11−L12−Q11が結合した炭素原子であるのが好ましく(即ち、置換基−L11−L12−Q11はp位に結合している)、さらにΔnの波長分散性の観点では、A13、A14、A15及びA16が全て無置換のメチンである(即ち、置換基−L11−L12−Q11はm位に結合している)のが好ましい。
【0042】
11〜A16がそれぞれメチンを表す場合には、メチンの水素原子は上記以外の置換基で置換されていてもよく、該置換基の例には、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜16のアルキル基、炭素原子数2〜16のアルケニル基、炭素原子数2〜16のアルキニル基、炭素原子数1〜16のハロゲンで置換されたアルキル基、炭素原子数1〜16のアルコキシ基、炭素原子数2〜16のアシル基、炭素原子数1〜16のアルキルチオ基、炭素原子数2〜16のアシルオキシ基、炭素原子数2〜16のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜16のアルキル置換カルバモイル基及び炭素原子数2〜16のアシルアミノ基が含まれる。これらの中でも、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲンで置換されたアルキル基が好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のハロゲンで置換されたアルキル基がより好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数が1〜3のアルキル基、トリフルオロメチル基がさらに好ましい。
【0043】
一般式(A)中、X1は、酸素原子、硫黄原子、メチレン又はイミノを表し、酸素原子が好ましい。
【0044】
【化4】

【0045】
一般式(B)中、A21及びA22は、それぞれ独立に窒素原子又はメチンを表し;A23、A24、A25及びA26は、それぞれ独立に窒素原子又はメチン(但しメチンの水素原子は置換基−L21−L22−Q21で置換されていてもよい)を表す。
【0046】
21及びA22は、少なくとも一方が窒素原子であることが好ましく、両方が窒素原子であることがより好ましい。
23、A24、A25及びA26は、それらのうち、少なくとも3つがメチンであることが好ましく、すべてメチンであることがより好ましい。但し、メチンの水素原子は置換基−L11−L12−Q11で置換されていてもよい。Δnが高いという観点では、A23、A24、A25及びA26が全て無置換のメチンである(即ち、置換基−L21−L22−Q21はm位に結合している)、又はA23、A24及びA26が無置換のメチンであり、且つA25が置換基−L21−L22−Q21が結合した炭素原子である(即ち、置換基−L21−L22−Q21はp位に結合している)のが好ましく;さらにΔnの波長分散性の観点では、A23、A24、A25及びA26が全て無置換のメチンである(即ち、置換基−L21−L22−Q21はm位に結合している)のが好ましい。
【0047】
21〜A26がそれぞれメチンを表す場合には、メチンの水素原子は上記以外の置換基で置換されていてもよく、該置換基の例としては、一般式(A)中のA11〜A16のメチンの水素原子を置換可能な置換基の例と同様である。
【0048】
一般式(B)中、X2は、酸素原子、硫黄原子、メチレン又はイミノを表し、酸素原子が好ましい。
【0049】
【化5】

【0050】
一般式(C)中、A31及びA32は、それぞれ独立に窒素原子又はメチンを表し、A33、A34、A35及びA36は、それぞれ独立に窒素原子又はメチン(但しメチンの水素原子は置換基−L31−L32−Q31で置換されていてもよい)を表す。
【0051】
31及びA32は、少なくとも一方が窒素原子であることが好ましく、両方が窒素原子であることがより好ましい。
33、A34、A35及びA36は、それらのうち、少なくとも3つがメチンであることが好ましく、すべてメチンであることがより好ましい。但し、メチンの水素原子は置換基−L31−L32−Q31で置換されていてもよい。Δnが高いという観点では、A33、A34、A35及びA36が全て無置換のメチンである(即ち、置換基−L31−L32−Q31はm位に結合している)、又はA33、A34及びA36が無置換のメチンであり、且つA35が置換基−L31−L32−Q31が結合した炭素原子である(即ち、置換基−L31−L32−Q31はp位に結合している)のが好ましく;さらにΔnの波長分散性の観点では、A33、A34、A35及びA36が全て無置換のメチンである(即ち、置換基−L31−L32−Q31はm位に結合している)のが好ましい。
【0052】
31〜A36がそれぞれメチンを表す場合には、メチンの水素原子は上記以外の置換基で置換されていてもよく、該置換基の例としては、一般式(A)中のA11〜A16のメチンの水素原子を置換可能な置換基の例と同様である。
【0053】
一般式(C)中、X3は、酸素原子、硫黄原子、メチレン又はイミノを表し、酸素原子が好ましい。
【0054】
一般式(A)中のL11、一般式(B)中のL21、一般式(C)中のL31はそれぞれ独立して、ヘテロ5員環の基を表す。前記ヘテロ5員環は、環構成原子として、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子等のヘテロ原子を1以上含む5員環であり、芳香族環であっても非芳香族環であってもよい。中でも、下記のいずれかで表される基であるのが好ましい。
【0055】
【化6】

【0056】
式中、*は6員環に結合する部位及び**はL12、L22及びL32にそれぞれ結合する部位を示し;A41及びA42はそれぞれ独立にメチン又は窒素原子を表し;X4は、酸素原子、硫黄原子、メチレン又はイミノを表す。
41及びA42は、少なくとも一方が窒素原子であることが好ましく、両方が窒素原子であることがより好ましい。また、X4は酸素原子であるのが好ましい。
11、L21、及びL31の具体例には、以下のものが含まれる。
【0057】
【化7】

【0058】
一般式(A)中のL12、一般式(B)中のL22、一般式(C)中のL32はそれぞれ独立して、アルキレン基又はアルケニレン基を表し、これらアルキレン基またはアルケニレン基の基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基はそれぞれ−O−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−CO−、−S−、−SO2−、−NR−、−NRSO2−、又は−SO2NR−(Rは水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を表す)に置換されていてもよく、また、これらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子は、ハロゲン原子に置換されてもよい。
【0059】
前記アルキレン基は、炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、さらに好ましくは1〜12のアルキレン基であるのが好ましい。前記アルケニレン基は、炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、さらに好ましくは2〜12のアルケニレン基であるのが好ましい。
【0060】
前記アルキレン基又はアルケニレン基の基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基はそれぞれ−O−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−CO−、−S−、−SO2−、−NR−、−NRSO2−、及び−SO2NR−(Rは水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を表す)からなる2価基の群から選択された1以上によって置換されていてもよい。勿論、前記2価基の群から選択される2以上の基によって置換されていてもよい。前記アルキレン基の例には、−(CH2)m−L−(CH2n−が含まれる。但し、m及びnは1以上の数であって、その和は20以下が好ましく、16以下がより好ましく、12以下がさらに好ましく、またその和は2以上が好ましく、4以上がより好ましい。またLは、前記2価基の群から選ばれるいずれかの基を表す。
【0061】
またアルキレン基及びアルケニレン基中の1個又は2個以上の水素原子は、1個又は2個以上のハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子)によって置換されていてもよい。
【0062】
一般式(A)中のQ11、一般式(B)中のQ21、一般式(C)中のQ31はそれぞれ独立して、重合性基、水素原子、OH、COOH、又はハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子)を表す。本発明の方法により製造される光学フィルムの光学特性が、温度等の環境に応じて変化しないためには、Q11、Q21、Q31がそれぞれ重合性基であることが好ましい(但し、前記式(1)の化合物が重合性基を有していなくても、併用される化合物が重合性であれば、当該他の化合物の重合反応を進行させることで、式(1)の化合物の配向を固定することができる)。重合反応は、付加重合(開環重合を含む)又は縮合重合であることが好ましい。すなわち、重合性基は、付加重合反応又は縮合重合反応が可能な官能基であることが好ましい。重合性基の例を以下に示す。
【0063】
【化8】

【0064】
さらに、重合性基は付加重合反応が可能な官能基であることが特に好ましい。そのような重合性基としては、重合性エチレン性不飽和基又は開環重合性基が好ましい。
【0065】
前記付加重合反応が可能な重合性基の例には、下記式で表される重合性基が含まれる。
【0066】
【化9】

【0067】
式中、R10、R11及びR12はそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。より具体的には、以下の基が例示される。前記アルキル基は、炭素原子数1〜5であるのが好ましく、炭素原子数が1のメチル基が最も好ましい。前記式で表される重合性基の例には、下記式(M−1)で表されるアクリレート基、及び下記式(M−2)で表されるメタクリレート基が含まれる。
【0068】
【化10】

【0069】
また、前記付加重合反応可能な重合性基の他の例としては、下記式(M−3)〜(M−6)で表される基も含まれる。
【0070】
【化11】

【0071】
式(M−3)、(M−4)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、水素原子又はメチル基が好ましい。
上記式(M−1)〜(M−6)の中、(M−1)又は(M−2)が好ましく、(M−1)がより好ましい。
【0072】
開環重合性基は、環状エーテル基が好ましく、エポキシ基又はオキセタニル基がより好ましく、エポキシ基が最も好ましい。
【0073】
前記式(1)で表される化合物の例には、以下の化合物が含まれる。但し、これらに限定されるものではない。
【0074】
【化12】

【0075】
【化13】

【0076】
【化14】

【0077】
【化15】

【0078】
【化16】

【0079】
【化17】

【0080】
【化18】

【0081】
【化19】

【0082】
【化20】

【0083】
【化21】

【0084】
【化22】

【0085】
【化23】

【0086】
【化24】

【0087】
【化25】

【0088】
【化26】

【0089】
【化27】

【0090】
【化28】

【0091】
【化29】

【0092】
【化30】

【0093】
【化31】

【0094】
【化32】

【0095】
【化33】

【0096】
【化34】

【0097】
【化35】

【0098】
【化36】

【0099】
【化37】

【0100】
前記式(1)で表される化合物の例には、ディスコティックネマチック液晶相等の液晶相を示す液晶性化合物が含まれる。当該液晶性化合物は、高いΔnを示すとともに、液晶相を示す温度範囲が高く且つ広いという特徴がある。例えば、前記式(1)及び(1a)の化合物の例には、式(1)及び(1a)中のL11、L21及びL31で表されるヘテロ5員環の基が存在しない液晶性化合物と比較して、Δnがより高く、しかも液晶相を示す温度範囲がより高く且つ広い液晶性化合物が存在する。よって、前記式(1)及び(1a)の化合物を用いることにより、その高いΔnに基づく光学特性を示す光学フィルムを、広い製造ラチチュードで、安定的に作製することができる。
前記式(1)及び(1a)の化合物の好ましい例には、ディスコティックネマチック液晶相を0℃〜300℃の範囲で発現するディスコティック液晶性化合物が含まれる。さらに好ましくは20℃〜250℃である。但し、この範囲に限定されるものではない。
【0101】
(1)−2 式(1)の化合物の合成方法
前記式(1)及び(1a)で表される化合物は、種々の有機合成の工程を組み合わせることで合成することができる。具体的には、特開2006−76992号公報、及び特開2007−2220号公報に記載の合成方法を参照して合成することができる。また、特開2010−244038号公報の[0080]〜[0108]に記載の試薬を用いて合成することができる。
【0102】
添加剤:
前記光学異方性層形成材料として1種以上の添加剤を用いてもよい。添加剤の例には、配向膜界面の配向制御剤、及び空気界面の配向制御剤が含まれる。これらの配向制御剤は、配向膜界面及び空気界面のそれぞれにおいて、ディスコティック液晶が、所定の配向状態になるのを促進する作用がある。但し、所望の配向状態を形成するために配向制御剤の割合を高めると、光学異方性層と配向膜との密着性が低下する等の問題が生じる場合がある。本発明の方法では、主には配向膜の規制力によりディスコティック液晶の配向を制御するのが好ましく、この観点では、光学異方性層形成材料における主成分であるディスコティック液晶の質量に対して、1種以上の配向制御剤の合計の割合は、2.0質量%以下であるのが好ましく、0.5〜1.5質量%であるのがより好ましく、0.7〜1.2質量%であるのがさらに好ましい。
【0103】
配向膜界面配向制御剤:
使用可能な配向膜界面制御剤としては、下記一般式(4)で表されるピリジニウム塩が好ましい。この配向膜界面制御剤を用いることによって、ラビング密度を下げた場合であっても、配向膜側のディスコティック液晶のプレチルト角が小さくなる傾向がある
【0104】
【化38】

【0105】
一般式(4)中、L1およびL2はそれぞれ独立に、2価の連結基もしくは単結合を表す。2価の連結基としては、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、1,4−ブチレン基等)、−O−、−C(=O)−、−C(=O)O−、―OC(=O)O−、−S−、―NR'−、−C(=O)NR”−、−S(=O)2−又はこれらを更に2つ以上連結した2価の連結基を表し、R'およびR”は水素原子又は置換もしくは無置換のアルキル基を表す。尚、これら2価の連結基が左右非対称の場合(例えば−C(=O)O−等)は、どちらの向きで連結していてもよい。
【0106】
Yは、フェニル基に置換可能な水素原子以外の置換基を表す。Yで表される置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、スルファモイルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、が例として挙げられる。
【0107】
11およびR12は水素原子、アルキル基、アリール基、アシル基、カルバモイル基、水酸基、もしくは、アミノ基を表す。また、R11およびR12は連結して環を形成してもよい。
Zは水素原子、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基(例えば、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基等)、又は置換もしくは無置換のアリール基(例えば、炭素数6〜30のフェニル基等)を表し、nおよびpは1〜10の整数を表し、qは0〜4の整数を表す。ただし、pが2以上の場合、それぞれの繰り返し単位に含まれるL2、Y、およびqは、同じであっても異なっていてもよい。
【0108】
一般式(4)中、L1で表される2価の連結基としては、―O−もしくは、単結合が好ましく、L2で表される2価の連結基としては、―O−、−C(=O)O−、―OC(=O)O−又は単結合が好ましい。
一般式(4)中、Yで表される好ましい置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)、アルキル基〔直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基を表し、より好ましくは、アルキル基(好ましくは炭素数1から30のアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、2−クロロエチル、2−シアノエチル、2―エチルヘキシル)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、シアノ基を表す。
一般式(4)中、R11およびR12として好ましくは、置換もしくは無置換のアルキル基であり、最も好ましくはメチル基である。
一般式(4)中の、pは1〜5が好ましく、2〜4がより好ましく、nは1〜4が好ましく、1もしくは2がより好ましく、qは0もしくは1が好ましい。ただし、pが2以上の場合は、少なくとも一つの構成単位においてqが1以上であることがより好ましい。
【0109】
-で表されるアニオンは無機陰イオンあるいは有機陰イオンのいずれであってもよく、ハロゲン陰イオン(例え、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなど)、スルホネートイオン(例えば、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、メチル硫酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、p−クロロベンゼンスルホン酸イオン、1,3−ベンゼンジスルホン酸イオン、1,5−ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6−ナフタレンジスルホン酸イオンなど)、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロほう酸イオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、リン酸イオン(例えば、ヘキサフルオロリン酸イオン)、水酸イオンなどが挙げられる。X-は、好ましくは、ハロゲン陰イオン、スルホネートイオン、水酸イオンである。なおX-は1価のアニオンである必要はなく、2価以上のアニオンであってもよく、かかる場合は、前記化合物中のカチオンとアニオンとの比率も1:1である必要はなく、適宜決定される。
【0110】
本発明に使用可能な配向膜界面配向制御剤の具体例を以下に示すが、以下の具体例に限定されるものではない。
【0111】
【化39】

【0112】
【化40】

【0113】
【化41】

【0114】
【化42】

【0115】
【化43】

【0116】
【化44】

【0117】
【化45】

【0118】
【化46】

【0119】
【化47】

【0120】
空気界面配向制御剤:
本発明では、空気界面においてディスコティック液晶の配向を制御する、空気界面配向制御剤の1種以上を使用してもよい。チルト角が配向膜界面から空気界面に向かって減少するハイブリッド配向状態を達成するためには、空気界面においてディスコティック液晶の水平配向(ディスコティック液晶の円盤面が層面に対して平行な配向状態)を促進する空気界面水平配向剤の1種以上を用いるのが好ましい。
【0121】
本発明に使用可能な空気界面水平配向剤の例には、特開2008−257205号公報の[0023]〜[0063]に記載の下記一般式(A)で表される構成単位、及びフルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位を含むポリマーが含まれる。
【0122】
【化48】

【0123】
一般式(A)中、Mpはポリマー主鎖の一部又は全部を構成する3価の基を表し、Lは単結合又は2価の連結基を表し、Xは置換もしくは無置換の芳香族縮合環官能基を表す。
【0124】
一般式(A)で表される構成単位の具体例としては、以下の具体例が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0125】
【化49】

【0126】
【化50】

【0127】
【化51】

【0128】
前記フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位は、下記一般式(B)で表される構成単位であるのが好ましい。
【0129】
【化52】

【0130】
一般式(B)中、Mp'はポリマーの主鎖の一部を構成する3価の基を表し、L'は単結合又は2価の連結基を表し、Rfは少なくとも一つのフッ素原子を含有する置換基を表す。
【0131】
フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0132】
【化53】

【0133】
【化54】

【0134】
重合開始剤:
前記光学異方性層の形成に利用される組成物は、重合開始剤の1種以上を含有していてもよい。前記硬化反応に利用される重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応と電子線照射による重合反応が含まれるが、熱により支持体等が変形、変質するのを防ぐためにも、光重合反応又は電子線照射による重合反応が好ましい。
【0135】
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)等が挙げられる。
光重合開始剤の使用量は、前記組成物の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0136】
また、感度を高める目的で重合開始剤に加えて、増感剤を用いてもよい。増感剤の例には、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、及びチオキサントン等が含まれる。
【0137】
重合性モノマー:
前記組成物には、重合性のモノマーを添加してもよい。本発明で使用できる重合性モノマーとしては、例えば、併用されるディスコティック液晶と相溶性を有し、液晶性組成物の配向阻害を著しく引き起こさない限り、特に限定はない。これらの中では重合活性なエチレン性不飽和基、例えばビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基などを有する化合物が好ましく用いられる。また反応性官能基数が2以上のモノマーを用いると、配向膜との密着性を高める効果が期待できる。上記重合性モノマーの添加量は、前記ディスコティック液晶に対して一般に0.5〜50質量%の範囲にあり、1〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0138】
3.光学フィルムの用途
本発明の方法により製造される光学フィルムは、種々の用途に利用することができる。例えば、液晶表示装置の光学補償フィルム、偏光膜の保護フィルム等として利用することができる。特に、上記した、ディスコティック液晶が、その遅相軸をラビング方向に対して直交配向し、且つチルト角が配向膜界面から空気界面に向かって低下しているハイブリッド配向状態に固定された光学異方性層を有する光学フィルムは、TNモード液晶表示装置の視野角補償に有用である。但し、この用途に限定されるものではない。
【0139】
4.測定方法
本発明に係わるチルト角の測定方法は、以下の通りである。
(チルト角の測定)
ディスコティック液晶性化合物を配向させた光学異方性層において、光学異方性層の一方の面におけるチルト角(ディスコティック液晶性化合物における物理的な対称軸が光学異方性層の界面となす角度をチルト角とする)θ1及び他方の面のチルト角θ2を、直接的にかつ正確に測定することは困難である。そこで本明細書においては、θ1及びθ2は、以下の手法で算出する。本手法は本発明の実際の配向状態を正確に表現していないが、光学フィルムのもつ一部の光学特性の相対関係を表す手段として有効である。
本手法では算出を容易にすべく、下記の2点を仮定し、光学異方性層の2つの界面におけるチルト角とする。
1.光学異方性層はディスコティック液晶性化合物を含む層で構成された多層体と仮定する。さらに、それを構成する最小単位の層(ディスコティック液晶性化合物のチルト角は該層内において一様と仮定)は光学的に一軸と仮定する。
2.各層のチルト角は光学異方性層の厚み方向に沿って一次関数で単調に変化すると仮定する。
具体的な算出法は下記のとおりである。
(1)各層のチルト角が光学異方性層の厚み方向に沿って一次関数で単調に変化する面内で、光学異方性層への測定光の入射角を変化させ、3つ以上の測定角でレターデーション値を測定する。測定及び計算を簡便にするためには、光学異方性層に対する法線方向を0°とし、−40°、0°、+40°の3つの測定角でレターデーション値を測定することが好ましい。このような測定は、KOBRA−21ADH及びKOBRA−WR(王子計測器(株)製)、透過型のエリプソメーターAEP−100((株)島津製作所製)、M150及びM520(日本分光(株)製)、ABR10A(ユニオプト(株)製)で行うことができる。
(2)上記のモデルにおいて、各層の常光の屈折率をno、異常光の屈折率をne(neは各々すべての層において同じ値、noも同様とする)、及び多層体全体の厚みをdとする。さらに各層におけるチルト方向とその層の一軸の光軸方向とは一致するとの仮定の元に、光学異方性層のレターデーション値の角度依存性の計算が測定値に一致するように、光学異方性層の一方の面におけるチルト角θ1及び他方の面のチルト角θ2を変数としてフィッティングを行い、θ1及びθ2を算出する。
ここで、no及びneは文献値、カタログ値等の既知の値を用いることができる。値が未知の場合はアッベ屈折計を用いて測定することもできる。光学異方性層の厚みは、光学干渉膜厚計、走査型電子顕微鏡の断面写真等により測定することができる。
【実施例】
【0140】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0141】
1.配向膜の製造
ケン化度99%のポリビニルアルコール(PVA)を、水/メタノール(混合比=3/1)の混合溶媒に、固形分濃度4質量%で溶解して、塗布液を調製した。この塗布液を、親水処理したガラス基板上に均一塗布した後、100℃で乾燥させ、PVA膜を形成した。該PVA膜の表面に、以下の条件を下記表に記載の通りに種々変更して、ラビング処理して、配向膜を製造した。
<ラビング条件>
(1)接触長(mm):配向膜とラビング布が接触する幅
(2)回転数(rpm):ラビングローラー回転数
(3)移動速度(mm/分):ラビングローラーが配向膜上を移動する速度
(4)回数(回):ラビング回数
(5)ラビングローラー直径:65mm(一定)
【0142】
2.光学異方性層の形成
下記組成の光学異方性層形成用塗布液を調製した。具体的には、以下の成分を、メチルエチルケトン(MEK)に溶解し、固形分濃度22%MEK溶液を調製し、塗布液として用いた。
光学異方性層形成用塗布液の組成:
ディスコティックネマチック液晶化合物A 100質量%
配向制御剤B 1.0質量%
重合開始剤C 3.0質量%
増感色素D 1.0質量%
空気界面側水平配向剤E 0.6質量%
【0143】
上記調製した塗布液を、上記で製造した各PVA配向膜のラビング処理面に、スピンコート塗布(2500rpm、10秒)し、均一塗布膜を得た。得られた塗布膜を100℃で加熱して配向熟成させた後に、500mJ/cm2のUV照射にて液晶配向状態を固定し、ガラス基板上に光学異方性層を形成した。
【0144】
【化55】

【0145】
【化56】

【0146】
3.配向評価
(直交配向安定性)
得られた各光学異方性層中の遅相軸の方向を、鋭敏色板を挿入した偏光顕微鏡により測定したところ、いずれのサンプルも、ラビング方向に対して直交している、即ち、光学異方性層中においてディスコティック液晶が直交配向状態に固定されていることを確認できた。
但し、下記表の比較例2は、ディスコティック液晶の遅相軸がラビング方向に対して平行配向であった。
【0147】
上記サンプルとは別に、各配向膜のラビング処理面に、上記光学異方性層形成用塗布液をそれぞれ塗布して塗布膜を形成し、温度Tを上昇させていき、配向状態の変化を偏光顕微鏡観察により追跡し、直交配向の安定性が乱れる温度を、各サンプルの配向膜の直交配向規制力が消失する温度として特定した。以下の基準で評価した。結果を下記表に示す。
○:直交配向規制力が消失する温度が110℃以上
×:直交配向規制力が消失する温度が110℃未満
【0148】
(配向膜界面チルト角)
得られた各光学異方性層中のディスコティック液晶の配向状態を、上記方法で分析したところいずれも、配向膜界面から空気界面へチルト角が減少するハイブリッド配向状態に固定されていることが確認できた。また、上記方法により、各光学異方性層について、配向膜界面のチルト角を算出し、以下の基準で評価した。なお、以下の評価基準は、TNモード液晶表示装置の視野角補償に利用した場合の、視野角補償能の指標となり、△→○→◎の順に、視野角補償能が高くなると理解される評価基準である。結果を下記表に示す。
◎: 配向膜界面チルト角が60°以上80°以下
○: 配向膜界面チルト角が60°未満
△: 配向膜界面チルト角が80°超え
【0149】
【表1】

【0150】
上記表に示す結果から、本発明の製造方法によれば、ディスコティック液晶に対して、高温においても直交配向規制力を有する配向膜を製造できることが理解できる。また、配向膜界面のチルト角を、90°未満にすることができ、特に、実施例1〜4では最適範囲(60〜80°)の配向膜界面チルト角を達成できることが理解できる。
また、移動速度が、3000mm/分であっても、所望の配向状態を形成でき、即ち、本発明(特に実施例1〜4)によれば、移動速度を損なうことなく、直交配向安定性が改善され、且つ配向膜界面チルト角を60〜80°まで下げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスコティックネマチック液晶の遅相軸をラビング方向に対して直交配向させる規制力を有する配向膜の製造方法であって、
移動するラビングステージ上に配置された高分子膜の表面を、表面にラビング布を有するラビングローラーにより、下記式(1)で定義されるラビング密度Rが4900以下でラビング処理するラビング処理工程を含み、
R=L * (1+π*D*n/V) ・・・・式(1)
式(1)中、Rはラビング密度(mm)、Lはラビング布と配向膜が接する長さ(接触長(mm))、Dはラビングローラー直径(mm)、nはラビングローラー回転数(rpm)、Vはラビングステージ移動速度(mm/分)であり;
製造される配向膜が、ディスコティックネマチック液晶の遅相軸をラビング方向に対して直交配向させる規制力を、110℃以上の温度T℃まで維持することを特徴とする配向膜の製造方法。
【請求項2】
前記ラビング処理工程において、ラビング密度Rが4500以下で、複数回ラビング処理することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ラビング処理工程において、ラビング密度Rが1000以下で、複数回ラビング処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
製造される配向膜が、ディスコティックネマチック液晶の遅相軸をラビング方向に対して直交配向させるとともに、配向膜界面のチルト角を60°以上80°以下で配向させる規制力を有する配向膜である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記高分子膜が、未変性又は変性ポリビニルアルコールを主成分として含む高分子膜である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により配向膜を製造すること、
配向膜の表面上でディスコティック液晶を、その遅相軸を配向膜のラビング方向に対して直交配向させること、及び
該直交配向状態を固定すること、
を少なくとも含む光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
ディスコティック液晶の配向膜界面のチルト角が60°以上80°以下である請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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